説明

大容量泡放射システム用泡消火薬剤

【課題】1容量%まで希釈しても十分な消火性能を有するとともに、海水によって希釈しても十分な消火性能を発揮し、利用空間が非常に限定される船又は油田プラットフォームにおける火災の消火に特に有用な大容量泡放射システム用泡消火薬剤を提供する。
【解決手段】フッ素系界面活性剤(A)、炭素原子数7〜12のアルキル鎖を有する両性界面活性剤(B)、多糖類(C)、水溶性高分子化合物(D)及びグリコールエーテル系溶剤(E)の各成分を含有する大容量泡放射システム用泡消火薬剤であって、前記成分(A)〜(E)の合計量を100質量%とした場合、成分(A)を25〜45質量%、成分(B)を6〜25質量%、成分(C)を1.5〜8質量%、成分(D)を0.1〜1.5質量%及び成分(E)を30〜50質量%の割合で含有することを特徴とする大容量泡放射システム用泡消火薬剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大容量泡放射システム用泡消火薬剤に関し、詳しくは、一般建物火災、都市や市街地火災、各種液状危険物火災、危険物設備火災、自動車火災、トンネル火災、航空機火災、地下駐車場火災、地下街火災等の各種火災の消火に用いられる大容量泡放射システム用泡消火薬剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水に希釈して適用する消火薬剤としては、噴霧やミストの形態で用いられる「強化液」と称される消火薬剤や、泡の形態で用いる「泡消火薬剤」と称される消火剤が広く使用されている。
強化液は、防炎剤、酸化防止剤、合成界面活性剤、付着剤等を主成分とし、一般建物火災や、一部の液体危険物火災に使用されている。
【0003】
一方、泡消火薬剤としては、合成界面活性剤を主成分とする「合成界面活性剤泡消火薬剤」、牛のヒズメや血液等の動物性蛋白質を加水分解した物を主成分とする「蛋白泡消火薬剤」、フッ素系合成界面活性剤を主成分とする「水成膜泡消火薬剤」などが開発されている。
さらに、近年、フッ素系界面活性剤を主成分とする泡消火薬剤に、水溶性又は水分散性の高分子を添加した「水溶性高分子添加型フッ素系泡消火薬剤」や「フッ素系合成界面活性剤添加型蛋白泡消火薬剤」が開発されている。これらの泡消火薬剤は、対象となる危険物の種類、泡消火薬剤の製品寿命、高発泡や低発泡等のアプリケーションシステムの種類、火災リスクに対する経済的な効果等、又は、各種泡消火薬剤の特質に応じて使い分けられてきた。
【0004】
ところが、近年、続けて発生した浮き屋根式タンクの全面火災や大型化学品製造工場の全面火災にあっては、消火が困難を極め、実質的に危険物が燃え尽きる段階の寸前で、ようやく消火できた状況である。このような状況は、社会的にも大きな波紋を及ぼしている。
このような状況の中、消火用資機材、消火戦術や消火訓練、消火体制等の見直しが叫ばれる一方、各種消火薬剤の用途において、それぞれの消火薬剤の消火性能をより一層向上させることが急務であることが叫ばれるに至った。特に消火薬剤の消火性能の向上は、危険物施設を有する企業、公設消防組織、地方自治体等から強く望まれている。
【0005】
また、実際の火災の状況をより忠実に再現することを目指して、国際標準化機構(ISO)−7203や消防庁告示第二号などの大容量泡放水砲用消火薬剤の基準に定められているように、ノズルから消火薬剤の泡を空中に放射して、1m前後の高さからオイルパンの中央部に突入するフォースフルと呼ばれる、より厳しい評価方法が開示され、この評価方法が主流となっている。
しかしながら、この評価方法では、空中に放射された消火薬剤の泡が液状危険物に突入して、液状危険物と激しく混じり合うことにより、この泡が液状危険物を包囲する。その結果、この液状危険物を含んだ泡によって、イ)消火の迅速性、ロ)耐焔性、ハ)液状危険物の汚染に関する耐久性、ニ)再着火防止性等の消火性能が低下するという問題があった。
【0006】
また、泡消火薬剤は、通常、濃縮された状態で提供され、使用時に上水や海水で希釈されて、一般に3容量%(97容量の水に対して3容量の泡消火薬剤)又は6容量%(94容量の水に対して6容量の泡消火薬剤)の濃度で使用される。いずれの希釈度であっても、要求される消火性能を満足させるのに必要な有効成分の量は同一であるため、3容量%に希釈できる泡消火薬剤は、6容量%に希釈できる泡消火薬剤と比べ、濃度は2倍で泡消火薬剤の容量は半分となる。したがって、貯蔵する場所の容積も半分ですむため、貯蔵コストを削減することができる。また、利用空間が非常に限定される船や油田プラットフォームで用いる泡消火薬剤においても、濃縮度の高い製品、特に1容量%まで希釈しても十分な消火性能を有する泡消火薬剤が求められている。
【0007】
この泡消火薬剤を水等で希釈して得られた混合物に空気を取り込み、消火ホースノズル又は他の任意の起泡器を介して機械的エネルギーを導入すると、水性泡が発生する。この水性泡は可燃性液体火災上に供給されて、完全に鎮火するまで空気を遮断する機能及び冷却機能を果たす。
【0008】
上記のような泡消火薬剤としては、ナフタレン骨格等の炭素原子数9〜14の芳香族縮合多環炭化水素を含有する界面活性剤を必須成分とする泡消火薬剤等が開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−246012号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、上記の要求される消火性能を満たし、1容量%まで希釈しても十分な消火性能を発揮するとともに、海水によって希釈しても十分な消火性能を発揮し、利用空間が非常に限定される船又は油田プラットフォームにおける火災の消火に特に有用な大容量泡放射システム用泡消火薬剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、フッ素系界面活性剤(A)、炭素原子数7〜12のアルキル鎖を有する両性界面活性剤(B)、多糖類(C)、水溶性高分子化合物(D)及びグリコールエーテル系溶剤(E)を特定の割合で含有する泡消火薬剤が上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、フッ素系界面活性剤(A)、炭素原子数7〜12のアルキル鎖を有する両性界面活性剤(B)、多糖類(C)、水溶性高分子化合物(D)及びグリコールエーテル系溶剤(E)の各成分を含有する大容量泡放射システム用泡消火薬剤であって、前記成分(A)〜(E)の合計量を100質量%とした場合、成分(A)を25〜45質量%、成分(B)を6〜25質量%、成分(C)を1.5〜8質量%、成分(D)を0.1〜1.5質量%及び成分(E)を30〜50質量%の割合で含有する大容量泡放射システム用泡消火薬剤を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の大容量泡放射システム用泡消火薬剤によれば、ISO−7203や消防庁告示第二号などの大容量泡放水砲用消火薬剤の基準に定められているような消火性能を満たすことができる。特に、日本国内では十分な希釈水を確保するために海水を用いることが多く、海水で希釈しても十分な泡消火薬剤性能を発現する必要がある。従来、泡消火薬剤を海水で希釈して用いると、泡消火薬剤の有効成分である界面活性剤が十分に機能せず、上記の基準に定められた消火性能を満たすことが難しかったが、本発明の大容量泡放射システム用泡消火薬剤は、海水で希釈しても、上記の基準で定められた消火性能を十分に発揮できる。また、本発明の大容量泡放射システム用泡消火薬剤は、1容量%という高い希釈倍率まで希釈しても、希釈水が海水であるか上水であるかを問わず、上記の基準で定められた消火性能を発揮できる。
【0013】
また、本発明の大容量泡放射システム用泡消火薬剤は、種々の放射方法に適用することができるので、従来の泡消火薬剤に比べて広範囲の用途に用いることができる。具体的な用途としては、公設消防機関が保有する化学消防車、原液搬送車などへの配備、原油タンクや危険物施設を所有する石油基地や工場関係、空港施設、危険物が積載される港湾施設及び船舶、ガソリンスタンド、地下駐車場、ビル、トンネル、橋梁等への配備が挙げられる。
【0014】
さらに、本発明の大容量泡放射システム用泡消火薬剤は、従来の消火薬剤に比べて浸透力が高いので、危険物火災以外の一般火災、例えば、家屋等の木材火災、タイヤ等のゴムやプラスチック等の合成樹脂火災に対しても好適に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の大容量泡放射システム用泡消火薬剤の最良の形態について説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0016】
本発明の大容量泡放射システム用泡消火薬剤は、フッ素系界面活性剤(A)、炭素原子数7〜12のアルキル鎖を有する両性界面活性剤(B)、多糖類(C)、水溶性高分子化合物(D)及びグリコールエーテル系溶剤(E)の各成分の合計量を100質量%とした場合、成分(A)を25〜45質量%、成分(B)を6〜25質量%、成分(C)を1.5〜8質量%、成分(D)を0.1〜1.5質量%及び成分(E)を30〜50質量%の割合で含有する。
【0017】
前記フッ素系界面活性剤(A)としては、例えば、下記の一般式(A−1)〜(A−8)で表される化合物等が挙げられる。
【0018】
【化1】

【0019】
上記の一般式(A−1)〜(A−8)中、Rは少なくとも6つ以上の炭素原子を有する線状又は分枝状のペルフルオロアルキル基を表し、uは0〜6の整数を表し、Rは水素原子、メチル基又はエチル基を表し、vは1〜5の整数を表し、wは1〜5の整数を表し、Rはメチル基又はエチル基を表し、Rはメチル基又はエチル基を表し、Rはメチル基又はエチル基を表す。
【0020】
さらに、下記の一般式(A−9)で表されるベタインの混合物、下記の一般式(A−10)で表されるスルホベタインの混合物を挙げることができる。
【0021】
【化2】

【0022】
上記の一般式(A−9)、(A−10)中、kは6〜16の偶数を表す。
【0023】
上記の一般式(A−1)〜(A−10)で表される化合物の中でも、下記の一般式(A−11)〜(A−19)で表される化合物が好ましい。これらの中でも、一般式(A−12)で表される、2−{N,N−ジメチル−N−[3−(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロオクチルスルホニルアミノ)プロピル]アンモニオ}アセテートが特に好ましい。
【0024】
【化3】

【0025】
フッ素系界面活性剤(A)の配合比率は、前記成分(A)〜(E)の合計量を100質量%とした場合、25〜45質量%であり、より好ましくは30〜40質量%であり、さらに好ましくは34〜39質量%である。
フッ素系界面活性剤(A)の配合比率が45質量%を超える場合、大容量泡放射システム用泡消火薬剤の安定性が悪くなって沈殿を生じ、泡消火薬剤として使用できない。一方、フッ素系界面活性剤(A)の配合比率が25質量%未満の場合、大容量泡放射システム用泡消火薬剤には十分な消火性能が得られない。
【0026】
前記炭素原子数7〜12のアルキル鎖を有する両性界面活性剤(B)としては、例えば、下記の一般式(B−1)〜(B−20)で表される化合物等が挙げられる。
これらの化合物の中でも、両性界面活性剤のものが好ましく、8〜12個の炭素原子を有する線状ベタインが特に好ましい。線状ベタインとしては、オクチルプロピルベタイン、ラウリルプロピルベタインが好ましく、消火時間を短縮でき、耐火性能に優れることから、オクチルプロピルベタインが特に好ましい。
【0027】
【化4】

【0028】
上記の一般式(B−1)〜(B−20)中、Rは7〜12個の炭素原子を含む線状又は分枝状のアルキル基を表し、Mは1当量のアルカリ又はアルカリ土類金属又は第四級アンモニウムイオンを表し、sは1〜6の整数(好ましくは1又は2)を表し、tは6〜20(好ましくは8〜16)の整数を表す。
【0029】
両性界面活性剤(B)の配合比率は、前記成分(A)〜(E)の合計量を100質量%とした場合、6〜25質量%であり、より好ましくは7〜23質量%であり、さらに好ましくは7.5〜20.5質量%である。
両性界面活性剤(B)の配合比率が25質量%を超える場合、大容量泡放射システム用泡消火薬剤は耐火性能に劣る。一方、両性界面活性剤(B)の配合比率が6質量%未満の場合、大容量泡放射システム用泡消火薬剤には十分な発泡性能が得られない。
【0030】
前記多糖類(C)としては、例えば、アルギン酸、アルギン酸塩等のアルギン酸誘導体、キサンタンガム、ウェランガム、ジェランガム、ランザガム、市販のアラビアゴム糊等の水溶性天然高分子等が挙げられる。これらの多糖類は、単独で用いても2種以上を併用しても良い。また、これらの多糖類の中でも、特にキサンタンガムが好ましい。また、これらの多糖類は、粘度調整作用を有するので、大容量泡放射システム用泡消火薬剤に粘性を付与し、発泡性を向上するとともに、消火薬剤の泡を燃焼液面に長時間留めることができるので、消火性能を向上する。
【0031】
多糖類(C)の配合比率は、前記成分(A)〜(E)の合計量を100質量%とした場合、1.5〜8質量%であり、より好ましくは2〜5質量%であり、さらに好ましくは2.8〜3.6質量%である。
多糖類(C)の配合比率が8質量%を超える場合、大容量泡放射システム用泡消火薬剤の粘度が高くなりすぎて、取り扱いが難しく、水又は海水で希釈できなくなる。一方、多糖類(C)の配合比率が1.5質量%未満の場合、大容量泡放射システム用泡消火薬剤に十分な発泡性能が得られず、耐火性能も劣る。
【0032】
前記水溶性高分子化合物(D)としては、例えば、ポリアクリル酸又はポリアクリル酸誘導体、ポリメタクリル酸又はポリメタクリル酸誘導体、ポリ塩化ビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等が挙げられる。これらの中でも、水又は海水による希釈の面から、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸が特に好ましい。
【0033】
水溶性高分子化合物(D)の配合比率は、前記成分(A)〜(E)の合計量を100質量%とした場合、0.1〜1.5質量%であり、より好ましくは0.15〜1.3質量%であり、さらに好ましくは0.2〜1.2質量%である。
水溶性高分子化合物(D)の配合比率が1.5質量%を超える場合、大容量泡放射システム用泡消火薬剤の消火性能が不十分となる。一方、水溶性高分子化合物(D)の配合比率が0.1質量%未満の場合、大容量泡放射システム用泡消火薬剤には十分な発泡性能が得られず、耐火性能も劣る。
【0034】
前記グリコールエーテル系溶剤(E)としては、例えば、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等のセロソルブ類、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、ヘキシルカルビトール、オクチルカルビトール等のカルビトール類等が挙げられる。これらの中でも、多糖類を分散混合する面から、ブチルカビトールが特に好ましい。
【0035】
グリコールエーテル系溶剤(E)の配合比率は、前記成分(A)〜(E)の合計量を100質量%とした場合、30〜50質量%であり、より好ましくは35〜50質量%であり、さらに好ましくは38〜50質量%である。
グリコールエーテル系溶剤(E)の配合比率が50質量%を超える場合、大容量泡放射システム用泡消火薬剤は耐火性能に劣る。一方、グリコールエーテル系溶剤(E)の配合比率が30質量%未満の場合、大容量泡放射システム用泡消火薬剤には十分な発泡性能が得られない。
【0036】
本発明の大容量泡放射システム用泡消火薬剤は、弱酸性〜弱塩基性の領域で用いることが好ましい。また、生体への安全性、各種金属製またはプラスチック製タンク等の貯蔵容器の耐腐食性の観点から、中性〜弱塩基性の領域が特に好ましい。
【0037】
また、本発明の大容量泡放射システム用泡消火薬剤には、必要に応じて各種添加剤を加えることができる。添加剤としては、例えば、付加的泡安定剤、凝固点降下剤、防錆剤、緩衝剤、水溶性有機溶剤等が挙げられる。
【0038】
前記付加的泡安定剤は、主に発泡倍率あるいは泡の還元時間(ドレネージ)を調節するために添加されるもので、例えば、ポリエチレンイミン、天然タンパク質やこれを加水分解した加水分解タンパク質、ポリアクリルアミド等が挙げられる。
【0039】
前記凝固点降下剤としては、例えば、イソプロピルアルコール、ブタノール、オクタノール等の低級アルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類、ポリアクリルアミド、ポリエチレンイミン、尿素、あるいは各種無機塩類等が挙げられる。
【0040】
前記防錆剤や前記緩衝剤としては、既存のものを使用することができ、特に限定されるものではない。
【0041】
前記水溶性有機溶剤としては、例えば、エステル類、エーテル類、ケトン類、アルコール類、グリコール類、アミン等の含窒素有機化合物、含硫黄有機化合物等が挙げられる。
【0042】
本発明の大容量泡放射システム用泡消火薬剤は、希釈液中の前記水溶性有機溶剤の濃度が、1質量%以下である場合、さらには0.5質量%以下である場合において、フォースフル法(ISO−7203)によって新たに求められる消火性能である泡の「耐焔性」が著しく向上する。
泡の耐焔性とは、消火後一定時間放置し、耐火性試験のために泡の中央部にポットによる火源を設けた場合の、火炎の広がり具合(フレームアップ又はバーンアップと呼ばれる。)で評価される性能である。
【0043】
さらに、本発明の大容量泡放射システム用泡消火薬剤には、発泡性能の補助的な目的から、アニオン系、カチオン系、ノニオン系又は両性の炭化水素系界面活性剤を加えることができる。
この炭化水素系界面活性剤としては、例えば、アルキルスルホン酸系、アルキルアミノ系、アルキル−ポリオキシエチレン及び又はポリオキシプロピレン系、アルキルベタイン系、特開2000−325493号公報記載のポリオキシエチレンアルキルフェノール系等の炭化水素系界面活性が挙げられる。
【0044】
本発明の大容量泡放射システム用泡消火薬剤は、上記の成分(A)〜(E)を含有し、必要に応じて添加剤を加えたものであるが、実際に貯蔵等する際には、これらの成分及び添加剤を含む合計量10〜40質量%に対して、水を60〜90質量%を加えて希釈した形態とされる。また、本発明における希釈倍率は、この水を加えて希釈した泡消火薬剤の容量を基準としている。
【0045】
また、本発明の大容量泡放射システム用泡消火薬剤は、種々の方法、例えば、(1)空気、窒素、炭酸ガス、ジフロロジクロロメタン等の低沸点フロロカーボン類又は適当な不燃性気体を吹き込むか、あるいは、これらの気体を混ぜることによって泡を形成する方法、(2)ノンアスピレートノズルで適用濃度に希釈した希釈液のみを空中に放出し、その後空中で空気と混合し泡を形成する方法(毎分1万リットル以上の大容量の泡希釈液を放射する消火システム(大容量泡放射システム)等)、(3)水面下泡注入(SSI)システムで4倍程度の低発泡で泡を形成する方法、(4)噴霧又はミスト放射システム、モニターノズル放射システム等により液滴やミストを形成する方法等に適用することができる。
【0046】
また、本発明の大容量泡放射システム用泡消火薬剤は、濃縮溶液として貯蔵し、使用時に通常の方法、例えば、濃縮溶液を消火装置又は放射ノズルに至る途中から水流中に流し込むことにより希釈度を調節し、火面の上方又は表面下より放射又は送り込む方法によって使用できる。さらには、あらかじめ水を加えて使用濃度に希釈した希釈液を調製し、この希釈液を、消火器、駐車場消火設備、危険物固定消火設備、パッケージ型消火設備等に充填して使用することもできる。
【0047】
本発明の大容量泡放射システム用泡消火薬剤は、種々の消火薬剤用途に使用される放射ノズルであれば、如何なるノズルを用いて放射しても、所望の性能を発揮することができる。
本発明の大容量泡放射システム用泡消火薬剤の放射に用いられるノズルとしては、例えば、石油タンク等に最も汎用に用いられるフォームチャンバーやISO規格に則したノズル、UN規格に則したノズル、化学消防車等に装備・付属されている泡ノズル、ハンドノズル、エアフォームハンドノズル、SSI用ノズル、日本舶用品協会規定のHKノズルや、駐車場消火設備に用いられるフォームヘッド等が挙げられる。
【0048】
また、本発明の大容量泡放射システム用泡消火薬剤は、閉鎖型スプリンクラーヘッドや、開放型スプリンクラーヘッドのような噴霧ヘッドやミストヘッドにおいても好適に用いることができる。さらに、本発明の大容量泡放射システム用泡消火薬剤は、適用濃度に希釈した希釈液のみを空中に放出し、その後空中で空気と混合し泡を形成するノンアスピレートノズルにおいても好適に用いることができる。
【0049】
また、本発明の大容量泡放射システム用泡消火薬剤は、重炭酸ナトリウム、重炭酸カリウム、重炭酸マグネシウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸カルシウム等を成分とする粉末消火剤、蛋白泡消火薬剤、合成界面泡消火薬剤などと併用することができる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0051】
「実施例1」
2−{N,N−ジメチル−N−[3−(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロオクチルスルホニルアミノ)プロピル]アンモニオ}アセテート6質量部、オクチルプロピルベタイン3.2質量部、キサンタンガム0.5質量部、ポリアクリル酸0.1質量部、ブチルカルビトール7質量部、エチレングリコール7質量部及び水76.2質量部を分散混合機にて均一に混合して、泡消火薬剤を得た。
【0052】
「実施例2」
2−{N,N−ジメチル−N−[3−(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロオクチルスルホニルアミノ)プロピル]アンモニオ}アセテート5.5質量部、オクチルプロピルベタイン3質量部、キサンタンガム0.5質量部、ポリアクリル酸0.1質量部、ブチルカルビトール7質量部、エチレングリコール7質量部及び水76.9質量部を分散混合機にて均一に混合して、泡消火薬剤を得た。
【0053】
「実施例3」
2−{N,N−ジメチル−N−[3−(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロオクチルスルホニルアミノ)プロピル]アンモニオ}アセテート5.5質量部、ラウリルプロピルベタイン1.1質量部、キサンタンガム0.5質量部、ポリアクリル酸0.15質量部、ブチルカルビトール7質量部、エチレングリコール7質量部及び水78.75質量部を分散混合機にて均一に混合して、泡消火薬剤を得た。
【0054】
「実施例4」
2−{N,N−ジメチル−N−[3−(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロオクチルスルホニルアミノ)プロピル]アンモニオ}アセテート6質量部、オクチルプロピルベタイン3.2質量部、キサンタンガム0.5質量部、ポリアクリル酸0.05質量部、ブチルカルビトール6質量部、エチレングリコール9質量部及び水75.25質量部を分散混合機にて均一に混合して、泡消火薬剤を得た。
【0055】
「比較例1」
フルオロプロピルアミノカルボン酸ナトリウム7.8質量部、ラウリルジメチルアミノ酢酸ナトリウム23.6質量部、キサンタンガム5.5質量部、エチレングリコール15.8質量部及び水47.3質量部を分散混合機にて均一に混合して、泡消火薬剤を得た。
【0056】
「比較例2」
2−{N,N−ジメチル−N−[3−(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロオクチルスルホニルアミノ)プロピル]アンモニオ}アセテート10質量部、オクチルプロピルベタイン3.2質量部、キサンタンガム0.5質量部、ポリアクリル酸0.1質量部、ブチルカルビトール7質量部、エチレングリコール7質量部及び水72.2質量部を分散混合機にて均一に混合して、泡消火薬剤を得た。
【0057】
「比較例3」
2−{N,N−ジメチル−N−[3−(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロオクチルスルホニルアミノ)プロピル]アンモニオ}アセテート3質量部、オクチルプロピルベタイン3.2質量部、キサンタンガム0.5質量部、ポリアクリル酸0.1質量部、ブチルカルビトール7質量部、エチレングリコール7質量部及び水79.2質量部を分散混合機にて均一に混合して、泡消火薬剤を得た。
【0058】
「比較例4」
2−{N,N−ジメチル−N−[3−(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロオクチルスルホニルアミノ)プロピル]アンモニオ}アセテート6質量部、オクチルプロピルベタイン0.8質量部、キサンタンガム0.5質量部、ポリアクリル酸0.1質量部、ブチルカルビトール7質量部、エチレングリコール7質量部及び水78.6質量部を分散混合機にて均一に混合して、泡消火薬剤を得た。
【0059】
「比較例5」
2−{N,N−ジメチル−N−[3−(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロオクチルスルホニルアミノ)プロピル]アンモニオ}アセテート6質量部、オクチルプロピルベタイン5質量部、キサンタンガム0.5質量部、ポリアクリル酸0.1質量部、ブチルカルビトール7質量部、エチレングリコール7質量部及び水74.4質量部を分散混合機にて均一に混合して、泡消火薬剤を得た。
【0060】
「比較例6」
2−{N,N−ジメチル−N−[3−(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロオクチルスルホニルアミノ)プロピル]アンモニオ}アセテート5.5質量部、ラウリルプロピルベタイン1.1質量部、ポリアクリル酸0.15質量部、ブチルカルビトール7質量部、エチレングリコール7質量部及び水79.25質量部を分散混合機にて均一に混合して、泡消火薬剤を得た。
【0061】
「比較例7」
2−{N,N−ジメチル−N−[3−(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロオクチルスルホニルアミノ)プロピル]アンモニオ}アセテート5.5質量部、ラウリルプロピルベタイン1.1質量部、キサンタンガム1.5質量部、ポリアクリル酸0.15質量部、ブチルカルビトール7質量部、エチレングリコール7質量部及び水77.75質量部を分散混合機にて均一に混合して、泡消火薬剤を得た。
【0062】
「比較例8」
2−{N,N−ジメチル−N−[3−(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロオクチルスルホニルアミノ)プロピル]アンモニオ}アセテート5.5質量部、ラウリルプロピルベタイン1.1質量部、キサンタンガム0.5質量部、ポリアクリル酸0.24質量部、ブチルカルビトール7質量部、エチレングリコール7質量部及び水78.66質量部を分散混合機にて均一に混合して、泡消火薬剤を得た。
【0063】
「比較例9」
2−{N,N−ジメチル−N−[3−(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロオクチルスルホニルアミノ)プロピル]アンモニオ}アセテート6質量部、オクチルプロピルベタイン3.2質量部、キサンタンガム0.5質量部、ブチルカルビトール7質量部、エチレングリコール7質量部及び水76.3質量部を分散混合機にて均一に混合して、泡消火薬剤を得た。
【0064】
「比較例10」
2−{N,N−ジメチル−N−[3−(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロオクチルスルホニルアミノ)プロピル]アンモニオ}アセテート6質量部、オクチルプロピルベタイン3.2質量部、キサンタンガム0.5質量部、ポリアクリル酸0.1質量部、ブチルカルビトール4質量部、エチレングリコール7質量部及び水79.2質量部を分散混合機にて均一に混合して、泡消火薬剤を得た。
【0065】
「比較例11」
2−{N,N−ジメチル−N−[3−(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロオクチルスルホニルアミノ)プロピル]アンモニオ}アセテート6質量部、オクチルプロピルベタイン3.2質量部、キサンタンガム0.5質量部、ポリアクリル酸0.1質量部、ブチルカルビトール10質量部、エチレングリコール7質量部及び水73.2質量部を分散混合機にて均一に混合して、泡消火薬剤を得た。
【0066】
上記の実施例1〜4及び比較例1〜11で得られた泡消火薬剤1容量部を、人工海水又は水99容量部で希釈し、以下の試験評価を行った。
なお、人工海水は、水1916.8質量部に、塩化マグネシウム六水和物22.0質量部、塩化カルシウム二水和物3.2質量部、塩化ナトリウム50.0質量部及び硫酸ナトリウム8.0質量部を加え、均一に溶解混合して調製したものである。また、水は蒸留水を用いた。
【0067】
(発泡倍率の測定及び判定)
消防庁告示第二号「大容量泡放水砲用消火薬剤の基準」第二条「泡消火薬剤の発泡性能」に基づき試験を行い、発泡倍率を測定した。得られた発泡倍率から、以下の基準に従って発泡性能を判定した。
泡消火薬剤の発泡性能の判定基準を以下の通りとした。
発泡倍率が5倍以上であったものを「合格」、発泡倍率が5倍未満であったものを「不合格」と判定した。
【0068】
(消火時間の測定及び判定)
ISO−7203(I−A)による評価(評価基準1)により、消火時間を計測した。
また、計測した消火時間から、以下の基準に従って、消火性能を判定した。
なお、ISO−7203(I−A)による評価(評価基準1)は、表1に示した評価用機材を用いて、表1中の操作・手順にしたがって行った。
泡消火薬剤の発泡性能の判定基準を以下の通りとした。
消火時間が3分10秒未満であったものを「合格」、消火時間が3分10秒以上、又は消火不能であったものを「不合格」と判定した。
【0069】
(耐火性試験及び判定)
ISO−7203(I−A)による評価(評価基準1)により、耐火性試験を行い、耐火性試験時の炎のフレームアップの高さを測定した。
なお、フレームアップとは、耐火性試験時に耐火性能試験用ポット内の定常燃焼時の炎が、泡面に着火した際の炎の高さ示す。
泡消火薬剤の耐火性の判定基準を以下の通りとした。
フレームアップの高さが60cm以下であったものを「合格」、フレームアップの高さが60cmより高かったものを「不合格」と判定した。
【0070】
【表1】

【0071】
実施例1〜4及び比較例1〜11で用いた泡消火薬剤の組成及び評価結果を、表2及び3に示した。
また、実施例1〜4及び比較例1〜11で用いた泡消火薬剤中の前記成分(A)〜(E)の合計量を100質量%とした場合における成分(A)〜(E)の配合比率(質量%)を表4及び5に示した。
【0072】
【表2】

【0073】
【表3】

【0074】
【表4】

【0075】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素系界面活性剤(A)、炭素原子数7〜12のアルキル鎖を有する両性界面活性剤(B)、多糖類(C)、水溶性高分子化合物(D)及びグリコールエーテル系溶剤(E)の各成分を含有する大容量泡放射システム用泡消火薬剤であって、
前記成分(A)〜(E)の合計量を100質量%とした場合、成分(A)を25〜45質量%、成分(B)を6〜25質量%、成分(C)を1.5〜8質量%、成分(D)を0.1〜1.5質量%及び成分(E)を30〜50質量%の割合で含有することを特徴とする大容量泡放射システム用泡消火薬剤。
【請求項2】
前記フッ素系界面活性剤(A)が両性界面活性剤である請求項1記載の大容量泡放射システム用泡消火薬剤。
【請求項3】
前記多糖類(C)がキサンタンガムである請求項1又は2記載の大容量泡放射システム用泡消火薬剤。
【請求項4】
前記水溶性高分子化合物(D)がポリ(メタ)アクリル酸である請求項1〜3のいずれか1項記載の大容量泡放射システム用泡消火薬剤。
【請求項5】
前記グリコールエーテル系溶剤(E)がブチルカルビトールである請求項1〜4のいずれか1項記載の大容量泡放射システム用泡消火薬剤。


【公開番号】特開2009−285350(P2009−285350A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−143722(P2008−143722)
【出願日】平成20年5月30日(2008.5.30)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【出願人】(000161437)宮田工業株式会社 (36)
【Fターム(参考)】