説明

大気圧イオン化質量分析装置

【課題】メンテナンス性を改善し稼働率を高めた大気圧イオン化MSを提供する。
【解決手段】大気圧イオン化室15と中間排気室21とを画する隔壁16に細管11の内径相当の直径を有する小孔17を設けると共に、細管11の後端部が小孔17に接し、且つ細管11の内部流路18が小孔17と連通するように細管11を隔壁16上に着脱可能に装着して大気圧イオン化MSを構成した。このような構成により、細管11を取り外した後も、小孔17を通して大気圧イオン化室15と中間排気室21とが連通することになり、後段の真空ポンプの負担を殆ど増すことなく所要の真空度を維持することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体クロマトグラフと組み合わせて液体クロマトグラフ質量分析装置として用いて好適な、大気圧イオン化インタフェイスを備えた質量分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析装置(以下、MSと記す)は液体クロマトグラフと組み合わせて液体クロマトグラフ質量分析装置(以下、LC/MSと記す)として用いられることがある。即ち、LC/MSは、液体クロマトグラフィーによって分離された成分をMSに導いてさらに質量分析を行うものであるが、質量分析を行うために分離成分をイオン化するインタフェイスが必要である。LC/MSに一般的に用いられるインタフェイスとしては、近年、エレクトロスプレーインタフェイスや大気圧化学イオン化インタフェイス等の大気圧下でイオン化を行う方式が用いられるようになっている。
【0003】
これらのインタフェイスの後段に設けられる質量分析計は一般に高真空状態下で用いられる。したがって、大気圧イオン化法によるLC/MSでは通常、液体クロマトグラフ部から導入される液体を大気圧下でイオン化するための大気圧イオン化室と、質量分析計を内蔵する質量分析室との間に中間排気室を設けた構成とし、中間排気室とその後段の高真空排気室とに真空排気系を設けて、前段側から後段側になるにつれて段階的に高真空状態になるようにしてある。
【0004】
図3はこのようなLC/MSの概略構成の一例を示したものである。
同図において、1は液体クロマトグラフ部、20は質量分析部、10はこの両者を連結するためのインタフェイス部である。
液体クロマトグラフ部1から溶出する液体は、インタフェイス部10においてノズル14から大気圧イオン化室15内に噴霧され、溶出液に含まれる試料成分分子はイオン化される。生成したイオンは細管11を通して粗く真空排気された中間排気室21に導かれ、収束レンズ24で集められてより高真空の第2中間排気室22に送り込まれ、ここでイオンレンズ25によりビーム化されてさらに高真空に維持される質量分析室23に導入され、4本のロッド電極から成る四重極フィルタ26の中央の空間に送られる。四重極フィルタ26には交流電圧と直流電圧とが重畳された電圧が印加され、この電圧に応じた特定の質量数(正確には質量電荷比)を有するイオンのみが四重極フィルタ26を通り抜けてイオン検出器27に到達する。イオン検出器27では、到達したイオン数に応じた電流が出力信号として取り出される。
【0005】
大気圧イオン化室15と中間排気室21との間を画する隔壁16には細管11が貫設され、大気圧イオン化室15と中間排気室21とはこの細管11を介してのみ連通するように構成されている。したがって、真空排気されている中間排気室21には細管11を通って大気圧イオン化室15内の気体の一部が流入することになる。
この細管11はこれに外嵌された加熱ブロック12aと共に脱溶媒部12を構成する。脱溶媒部12は、大気圧イオン化室15で生成された荷電液滴中の溶媒成分を除去するための脱溶媒化手段として機能する。すなわち、ノズル14から噴霧された荷電液滴の一部が大気圧イオン化室15と中間排気室21との差圧により細管11に流入され加熱ブロック12aにより加熱されることにより、脱溶媒化が促進されつつ中間排気室21内に導入される。
【0006】
細管11の内部には試料中の不揮発性成分、或いは移動相溶媒から析出する無機塩類などが付着蓄積するので、定期的に取り外して洗浄・交換等のメンテナンスを行う必要がある。このメンテナンスに際して装置のダウンタイムを短縮するために、真空を落とさずに細管11を挿脱できるように、隔壁16上に点線で示すようにアイソレーションゲート13を設けたものがある。アイソレーションゲート13は、一般に真空隔壁を通して物体を出し入れするための口であるが、ここでは細管11がこのアイソレーションゲート13に挿脱可能に挿通されており、細管11を抜き取れば自動的に口が閉じるように構成されたものである。
【0007】
このような自閉式のアイソレーションゲート13の従来の一例を図4に示す。これはアイソレーションゲート13と加熱ブロック12aを一体に構成したもので、図4において、隔壁16の左側が大気圧、右側は粗真空に保たれており、細管11が加熱ブロック12aに挿通されている。この状態では、ボール33は細管11により押し上げられているが、細管11を図の左方に抜き取ると、ボール33がスプリング34の力で落下して細管11抜去後に生じる穴を塞ぐように構成されている(例えば、特許文献1参照)。
なお、35は大気圧イオン化室15内に噴霧される液滴による汚染を防ぐためのカバーである。
【0008】
【特許文献1】特開2002−198006号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
アイソレーションゲート13は、図4に一例を示したように、一種のバルブ機構であって複雑な構造を有するから、種々のトラブルの元になる可能性があり、また、イオンが複雑なバルブ部分で拡散するためイオンの搬送効率が低下する欠点がある。さらに、図3において、アイソレーションゲート13が設けられる中間排気室21には収束レンズ24が置かれることが多いが、この収束レンズ24の配置に制約を与えることにもなる。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、アイソレーションゲートを省き、しかも、真空を破らずに細管の装脱着が可能な構造を工夫し、以て、メンテナンス性を改善し稼働率を高めた大気圧イオン化MSを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するために、大気圧イオン化室と中間排気室とを画する隔壁に細管の内径相当の直径を有する小孔を設けると共に、細管の後端部が前記小孔に接し、且つ前記細管の内部流路が前記小孔と連通するように前記細管を前記隔壁上に着脱可能に装着して大気圧イオン化MSを構成した。このような構成により、細管を取り外した後も、小孔を通して大気圧イオン化室と中間排気室とが連通することになり、後段の真空ポンプの負担を殆ど増すことなく所要の真空度を維持することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明は構造が簡単でスペースを取らないから、トラブルが起こりにくく、収束レンズ配置の障害とならない。しかも、極めてシンプルな構造でありながら、真空を落とさずに脱溶媒部を装脱着できるので、コスト上昇を極力抑えながらメンテナンス性に優れた稼働率の高い大気圧イオン化MSを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1に本発明の一実施形態を示す。同図は、図3における脱溶媒部12に相当する部分とその周辺のみを示したもので、MSとしての全体構成は図3とほぼ同様(ただし、図3中のアイソレーションゲート13を除く)である。
図1において、大気圧イオン化室15と中間排気室21との間を画する隔壁16には小孔17が穿設されており、細管11の後端部がこの小孔17に接し、且つ、細管11の内部流路18が小孔17に連通している。小孔17の直径は細管11の内径、即ち内部流路18の径にほぼ等しく設定されているので、細管11から隔壁16を貫通する一連の流路が形成され、この流路により大気圧イオン化室15と中間排気室21とが連通する。つまり、細管11は隔壁16を貫通して設けられたのと同等であり、細管11は従来構成と同様に脱溶媒化の機能を果たすことができる。
メンテナンスのために細管11を取り外したときは、大気圧イオン化室15と中間排気室21とは小孔17のみを通して連通することになる。小孔17のみの流路抵抗は細管11を装着した場合に比べて大差はないから、中間排気室21を排気する油回転ポンプ(図示しない)の負担もさほど増加することなく、中間排気室21に所要の真空度が維持できる。
【実施例1】
【0013】
図1に示す実施形態は、本発明の基本的構成を示したもので、細部に関してなお改良の余地がある。図2に実用的に改良を加えた本発明の他のいくつかの実施例を示す。
図2(A)は、細管11と小孔17との接合部を拡大して断面図で示したもので、細管11の後端部を薄肉化して小孔17に嵌入するように構成した例である。この場合、小孔17の径は細管11の内径よりも若干大きくする必要があるが、小孔17の内壁が覆われるので、内壁の汚染が防止できる。
【実施例2】
【0014】
図2(B)は、同じく細管11と小孔17との接合部を示したもので、細管11の後端部を雄型テーパ状とし、一方、小孔17に大気圧イオン化室15側に向けて開く雌型テーパを設け、両者を嵌合させるように構成した例である。この場合、小孔17の直径を細管11の内径とほぼ同じに抑えながら、しかも小孔17の内壁を覆うことで内壁の汚染も防止できる。なお、図2(A)及び(B)においては、加熱ブロック12aは省略されているが、図1と同様に加熱ブロック12aが細管11に外嵌されているものとする。
【実施例3】
【0015】
図2(C)は、細管11と加熱ブロック12aを一体化して円錐形の脱溶媒部12を構成した例を示す。即ち、ステンレス等の材料で円錐形のブロックを形成し、円錐の頂点から円錐の中心軸に沿って円錐の底面まで貫通する流路を穿設し内部流路18とする。このような構造は、細管11と加熱ブロック12aとを組み合わせて成る既述の脱溶媒部12と機能的に同等である。内部流路18の後端部は円錐の底面から隔壁16の厚み相当分だけ突出して突出部18aを形成し、この突出部18aが、図2(A)と同様に小孔17に嵌入され、小孔17の内壁が覆われる。
なお、突出部18aを雄型テーパ状にして同図(B)と同様に小孔17の雌型テーパと嵌合させてもよい。
また、特に図示しないが、上記の脱溶媒部12を隔壁16に装着する際に、Oリング等のパッキン材を介在させて気密性を確保することは設計的事項として当然考慮されるべきことである。
【0016】
上記は、小孔17が隔壁16に直接穿設される場合であるが、設計上の理由から、小孔17を有する当て板を隔壁16上に設け、この当て板に脱溶媒部12を装着するように構成する場合がある。このような場合も、当該当て板は隔壁16の一部と見なすことができるから、本発明に包含される。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明になるMSはLC/MSばかりでなく、例えば、ICP(イオン結合プラズマ発光分光分析法)と組み合わせてICP/MSとしても利用できる可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態を示す図である。
【図2】本発明の他の実施形態を示す図である。
【図3】従来のLC/MSの概略構成を示す図である。
【図4】従来のアイソレーションゲートの一例を示す図である。
【符号の説明】
【0019】
1 液体クロマトグラフ部
10 インタフェイス部
11 細管
12 脱溶媒部
12a 加熱ブロック
13 アイソレーションゲート
14 ノズル
15 大気圧イオン化室
16 隔壁
17 小孔
18 内部流路
18a 突出部
20 質量分析部
21 中間排気室
22 第2中間排気室
23 質量分析室
24 収束レンズ
25 イオンレンズ
26 四重極フィルタ
27 イオン検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を大気圧イオン化室でイオン化し生成されたイオンを細管を通して真空排気された中間排気室に導入しさらに後段の真空室に導き質量分離を行うように構成された大気圧イオン化質量分析装置において、前記大気圧イオン化室と前記中間排気室とを画する隔壁に前記細管の内径相当の直径を有する小孔を備えると共に、前記細管の端部が前記小孔に接し、且つ前記細管の内部流路が前記小孔と連通するように前記細管が前記隔壁上に着脱可能に装着されて成ることを特徴とする大気圧イオン化質量分析装置。
【請求項2】
細管の薄肉化された後端部が小孔に嵌入されていることを特徴とする請求項1に記載の大気圧イオン化質量分析装置。
【請求項3】
細管の雄型テーパ状の後端部が雌型テーパ状の小孔と嵌合していることを特徴とする請求項1に記載の大気圧イオン化質量分析装置。
【請求項4】
細管を、内部に貫通流路を穿設された金属ブロックで置き換えて成る請求項1、請求項2、または請求項3に記載の大気圧イオン化質量分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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