説明

大気圧プラズマ処理装置

【課題】有毒な薬品を用いることなく簡易な構成でプラズマによる表面処理を安定かつ連続して行うことができ、また環境への悪影響を防止できるとともに、さらには製造コスト及びランニングコストを低減することができる大気圧プラズマ処理装置を得る。
【解決手段】センサ52からの出力信号に基づいて流路40Bのエタノールの水面位置が任意の位置よりも低いと判断された場合には、電磁バルブ48を開放する制御信号を電磁バルブ48に出力する。これにより、電磁バルブ48が開放し、流路40Bにエタノールが供給される。流路40Bに供給されたエタノールは、気化器本体部40Aの内部に浸入する。一方、流路40B内部のエタノールの水面位置が任意の位置よりも高いと判断された場合には、電磁バルブ48を閉塞する制御信号を電磁バルブ48に出力する。これにより、電磁バルブ48が閉塞し、流路40Bへのエタノールの供給が停止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素樹脂成形物などの被処理物の表面を改質(処理)させるための表面処理装置及び表面処理方法に係り、特に被処理物を大気圧又はその近傍の圧力下においてプラズマ(グロー放電)による表面処理を行うための大気圧プラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、フッ素樹脂は、耐薬品性、耐熱性、電気絶縁性、防汚性、耐候性、耐紫外線劣化性、撥水撥油性、低摩擦係数など、他の樹脂に見られない優れた性質を備えている。一方、その反面、フッ素樹脂の特性である難接着性のため、他の材料との複合化が困難である。フッ素樹脂が他の材料と複合化するときには、接着剤を用いる方法もあるが、フッ素樹脂と接着剤との密着性も悪く、接着も困難である。そのため、フッ素樹脂の表面を改質し、接着性を高める表面改質方法が従来から試みられている。
【0003】
ここで、フッ素樹脂の表面改質方法として、火炎処理、金属ナトリウム処理に代表される化学処理、エキシマレーザ(下記特許文献1及び特許文献2を参照)や、プラズマによる放電処理(下記特許文献3及び特許文献4を参照)、スパッタエッチング(下記特許文献5を参照)が知られている。
【0004】
ところが、金属ナトリウム処理では、引火の危険性や溶剤の大量使用による環境への悪影響の問題があり、また、改質された部分が紫外線、熱に弱い等の特性上の問題がある。また、プラズマによる放電処理では、液体を用いる方法や混合ガスを用いる方法などが提案されているが、処理面積が小さくなり、またランニングコストが大きくなり、さらに処理面の安定性の低下などの様々な問題がある。さらに、スパッタエッチングにおいても、表面処理装置自体が複雑かつ大きくなり、また、処理面の安定性が低下するなどの様々な問題がある。
【特許文献1】特開平6−228343号公報
【特許文献2】特開平6−240026号公報
【特許文献3】特開平5−92530号公報
【特許文献4】特開平6−107818号公報
【特許文献5】特開昭51−125455号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
また、上記各問題を解決するため、いわゆる薬液処理(ウエット処理)という方法が知られているが、この方法では、アンモニア等の有毒の薬液を多量に使用しなければならず、また表面処理方法も大変煩雑になる。この結果、環境への悪影響が懸念されるとともに、廃液の処理についての設備やノウハウが必要となり設備の製造コスト及びランニングコストが増大するという別の問題が生じている。
【0006】
また、低圧プラズマ処理という方法も知られているが、低圧にするために真空排気システムが別途必要となり、また装置自体も真空に耐え得る構造にする必要があることから、装置が複雑化して設備の製造コスト及びランニングコストが増大するという問題がある。さらに、この方法では、反応性ガスを用いるため、取り扱いが困難であるとともに、排気系に反応ガスによる害を取り除く設備が必要となり、設備の製造コスト及びランニングコストが増大するという問題がある。
【0007】
さらに、低級アルコールを気化させて不活性ガスと混合し、処理ガスを生成させるとともに、この処理ガスを印加電極と接地電極との間に供給してプラズマを発生させ、このプラズマを被処理物の表面に照射することにより、被処理物の表面処理(表面改質)を行うプラズマ処理方法についても、従来から知られている。しかしながら、この方法では、気化させる低級アルコールあるいは気化させた低級アルコールの供給量を一定にすることができないため、プラズマを安定に励起させることができず、プラズマ処理効果にバラツキが生じる結果になっていた。
【0008】
そこで、本発明は、上記事情を考慮し、有毒な薬品を用いることなく簡易な構成でプラズマによる表面処理を安定かつ連続して行うことができ、また環境への悪影響を防止できるとともに、さらには製造コスト及びランニングコストを低減することができる大気圧プラズマ処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、表面がフッ素樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、メタクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテル・エーテル・ケトン(PEEK)樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリイミドアミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリエチレン(HDPE、LDPE)樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂のいずれか1つで構成された被処理物の表面を大気圧又はその近傍の圧力下でプラズマにより処理する大気圧プラズマ処理装置であって、炭素数4以下の第1級アルコール又は第2級アルコールである低級アルコールを気化するアルコール気化手段と、前記アルコール気化手段における前記低級アルコールの液量を一定にする液量調整手段と、前記アルコール気化手段により気化された前記低級アルコールと不活性ガスとを混合して処理ガスを生成する処理ガス生成手段と、接地された接地電極と、前記接地電極に対向して配置された印加電極と、前記印加電極と前記接地電極との間に高周波電圧を印加させる高周波電圧印加手段と、前記処理ガスを前記印加電極と前記接地電極との間に供給する処理ガス供給手段と、を有することを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の大気圧プラズマ処理装置において、前記アルコール気化手段に、前記低級アルコールが溶け込み前記低級アルコールとともに前記処理ガス生成手段に供給される不活性ガスを、供給する不活性ガス供給手段を設け、前記アルコール気化手段に供給される前記不活性ガスの温度を一定にする不活性ガス温度調整手段を備えたことを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の大気圧プラズマ処理装置において、前記アルコール気化手段に供給される前記低級アルコールの温度を一定にするアルコール温度調整手段を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の発明によれば、アルコール気化手段により炭素数4以下の第1級アルコール又は第2級アルコールである低級アルコールが気化され、その気化された低級アルコールと不活性ガスとが処理ガス生成手段により混合されて処理ガスが生成される。生成された処理ガスは、処理ガス供給手段により、印加電極と接地電極との間に供給される。また、高周波電圧印加手段により、印加電極と接地電極との間に高周波電圧が印加される。これにより、印加電極と接地電極との間の処理ガスが電離してプラズマが発生し、処理ガスが電離した励起状態となって活性化される。そして、印加電極と接地電極との間に発生したプラズマを被処理物の表面に照射することにより、被処理物の表面処理(表面改質)が行われる。
【0013】
より具体的には、炭素数4以下の第1級アルコール又は第2級アルコールである低級アルコールがプラズマ中で励起されると、−H、−OH、または−O−等が解離される。表面がフッ素樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、メタクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテル・エーテル・ケトン(PEEK)樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリイミドアミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリエチレン(HDPE、LDPE)樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂のいずれか1つで構成された被処理物の表面のC−F結合またはC−H結合は、その結合エネルギの関係から、アルコールから解離した−Hあるいは−Oによって切断される。FまたはHが切断されたCの未結合手(ダングリングボンド)に、−OHまたは−O−が付き、表面のフッ素樹脂などに親水性を与えることになる。これにより、被処理物の表面を改質させることができる。
【0014】
なお、炭素数が比較的多い高級アルコールを用いると、アルコールがプラズマ中で励起させる際、粘性が高くなり過ぎて気化させることができないか、あるいはクラスター状になるため、励起が極めて困難になる。また、多価アルコールを用いた場合も、粘性が高くなるため、励起が困難になる。さらに、第3級アルコールを用いると、第3級アルコールが酸化されないため、親水性の官能基を解離させることはできない。これらのように、炭素数4以下の第1級アルコール又は第2級アルコールである低級アルコールを用いることにより、被処理物の表面を都合良く改質させることができる。
【0015】
特に、アルコール気化手段における低級アルコールの液量が液量調整手段により一定量に制御される。これにより、気化される低級アルコールの量が常に一定になり、処理ガス生成手段に供給される低級アルコールの量を一定にすることができる。この結果、印加電極と接地電極との間の処理ガスの励起状態が安定し、安定したプラズマで表面改質を実行することができるため、プラズマ処理の精度を高め、かつ安定させることができる。
【0016】
以上のように、処理ガスの生成には上記低級アルコールを用いることにより、ほとんど有害性がないため、環境に悪影響を及ぼすことを防止できる。また、低級アルコールにはほとんど有害性がないため、低級アルコールを取り扱うために、有害性を考慮した特別な設備が不要となる。また、低級アルコールにはほとんど有害性がないため、低級アルコールを廃液処理するための特別な設備が不要となる。このように、本発明では、環境に悪影響を及ぼすことを防止できるとともに、設備を製造するための製造コストや設備を作動させるためのランニングコストを大幅に低減させることができる。
【0017】
請求項2に記載の発明によれば、アルコール気化手段には、不活性ガス供給手段から不活性ガスが供給される。アルコール気化手段に供給された不活性ガスは、溶け込んだ低級アルコールとともに処理ガス生成手段に供給される。
【0018】
ここで、アルコール気化手段に供給される不活性ガスの温度が不活性ガス温度調整手段により一定となるように制御されるため、不活性ガスに溶け込む低級アルコールの量を一定にすることができる。この結果、印加電極と接地電極との間の処理ガスの励起状態が安定し、安定したプラズマで表面改質を実行することができるため、プラズマ処理の精度を高め、かつ安定させることができる。
【0019】
逆に、アルコール気化手段に供給される不活性ガスの温度が変化すると、不活性ガスの温度が高い場合には、溶け込む低級アルコールの量が多くなり、処理ガスの励起状態が不安定になって、プラズマ処理の精度が安定しない不具合がある。また、不活性ガスの温度が低い場合にも、溶け込む低級アルコールの量が少なくなり、処理ガスの励起状態が不安定になって、プラズマ処理の精度が安定しない不具合がある。
【0020】
請求項3に記載の発明によれば、アルコール気化手段に供給される低級アルコールの温度は、アルコール温度調整手段により一定となるように制御される。これにより、アルコール気化手段において、不活性ガスに溶け込む低級アルコールの量や処理ガス生成手段に供給される低級アルコールの量を一定にすることができる。この結果、印加電極と接地電極との間の処理ガスの励起状態が安定し、安定したプラズマで表面改質を実行することができるため、プラズマ処理の精度を高め、かつ安定させることができる。
【0021】
逆に、アルコール気化手段に供給される低級アルコールの温度が変化すると、アルコール気化手段における蒸気圧が変化するため、不活性ガスに溶け込む低級アルコールの量や処理ガス生成手段に供給される低級アルコールの量を一定にすることができなくなり、処理ガスの励起状態が不安定になって、プラズマ処理の精度が安定しない不具合がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
次に、本発明の一実施形態に係る大気圧プラズマ処理装置及び大気圧プラズマ処理方法について、図面を参照して説明する。
【0023】
図1に示すように、大気圧プラズマ処理装置10は、印加電極12を備えている。この印加電極12と対向する位置には接地電極14が配置されている。なお、印加電極12と接地電極14の一方または両方の電極は、誘電体で覆われている。接地電極14は地面にアース接続されている。また、接地電極14の一方の端部側には、フッ素樹脂シート(被処理物)Sを印加電極12と接地電極14との間に送り出すロール状の送出装置16が配置されている。また、接地電極14の他方の端部側には、表面処理されたフッ素樹脂シートSを巻き取るロール状の巻取装置18が配置されている。また、接地電極14の両端部近傍には、フッ素樹脂シートSに皺が発生しないように下方からフッ素樹脂シートSを支持する支持ロール20、22がそれぞれ配置されている。これにより、フッ素樹脂シートSの表面処理部は平面状になる。なお、送出装置16は、図示しないモータなどの駆動源に接続されている。これにより、送出装置16は、駆動源からの駆動力により回転駆動できるようになっている。
【0024】
ここで、フッ素樹脂シートSは、フィルム状又はシート状に形成されていることが好ましいが、これに限られるものではなく、例えば、板状、チューブ状、バルク状など、処理表面が平面となるものであれば、種々の形状のものを用いることができる。また、フッ素樹脂シートSは、分子内にフッ素原子を含むものであれば、特に限定されるものではない。具体的には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)などが挙げられる。
【0025】
なお、被処理体は、フッ素樹脂シートSに限定されるものではなく、表面がフッ素樹脂以外のもの、例えば、ポリイミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、メタクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテル・エーテル・ケトン(PEEK)樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリイミドアミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリエチレン(HDPE、LDPE)樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂のいずれか1つで構成されているものでもよい。
【0026】
また、印加電極12には、マッチング回路24を介して高周波電源26が電気的に接続されている。この高周波電源26により印加電極12と接地電極14との間に高周波電圧が印加される。また、印加電極12には、導管28により混合器30が接続されている。
【0027】
混合器30には、導管32によりガス流量計測装置34を介して第1の処理ガス源36が接続されている。また、混合器30には、導管38A、38B、38Cによって気化器40及びガス流量計測装置42を介した状態で第2の処理ガス源44が接続されている。この気化器40には、導管46によって電磁バルブ48を介した状態でエタノール供給源50が接続されている。
【0028】
ここで、気化器40について詳細に説明する。
図2に示すように、気化器40は、タンク状の気化器本体部40Aを備えている。この気化器本体部40Aの内部には、エタノール供給源50に充填されたエタノールや、第2の処理ガス源44に充填された不活性ガスが供給される。そして、この気化器本体部40Aの内部で、エタノールが不活性ガスによりバブリングされて気化し、気体となったエタノールが不活性ガスに溶け込み、気化器本体部40Aの内部の蒸気圧により、混合器30に供給されるようになっている。また、気化器本体部40Aの側壁には、流路40Bが形成されている。この流路40Bの一方の端部と気化器本体部40Aは連通している。このため、流路40Bには気化器本体部40Aに貯溜されたエタノールの一部が浸入した状態になっており、かつ両方の水面には大気圧が作用しているため、両方の水面の高さは略同じになっている。
【0029】
また、流路40Bの他方の端部には、上述の導管46が接続されている。この導管46には、上述した電磁バルブ48が取り付けられている。この電磁バルブ48は、ガス流量計測装置42又は後述の制御部54からの制御信号に基づいて開閉動作が実行され、流路40B(導管46)を開放又は閉塞することができるようになっている。流路40B(導管46)が開放されると、エタノール供給源50から流路40Bにエタノールが供給され、流路40B(導管46)が閉塞されると、エタノール供給源50のエタノールが流路40B、ひいては気化器40に供給されることがない。
【0030】
また、流路40Bの近傍には、光学式のセンサ52が配置されている。このセンサ52は、流路40B内部のエタノールの水面の位置を特定するものである。具体的には、センサ52の発光部から光が出射され、流路40B内部のエタノールで反射した光を受光部で受光するか否かで、水面の位置を特定する。また、光学式のセンサ52の替りに、CCDカメラなどを使用して水面の位置を画像データとして後述の制御部54に出力するようにしてもよい。
【0031】
また、電磁バルブ48及びセンサ52は、制御部54とそれぞれ電気的に接続されている。制御部54は、センサ52からの出力信号を受信して、電磁バルブ48の開閉動作を制御するものである。例えば、制御部54には、センサ52からの出力信号と電磁バルブ48の開閉動作との対応関係を示したテーブルが格納されているRAM(図示省略)を内蔵しており、このRAMに格納されたテーブルに基づいて電磁バルブ48に対して制御信号を出力する。具体的には、センサ52からの出力信号に基づいて流路40B内部のエタノールの水面の位置が任意の位置よりも低いと制御部54により判断された場合には、電磁バルブ48を開放する制御信号を電磁バルブ48に出力する。これにより、電磁バルブ48が開放し、流路40Bにエタノールが供給される。流路40Bに供給されたエタノールは、気化器本体部40Aの内部に浸入する。この結果、気化器本体部40Aの内部に貯溜されるエタノールの液量を増加させることができる。一方、センサ52からの出力信号に基づいて流路40B内部のエタノールの水面の位置が任意の位置よりも高いと制御部54により判断された場合には、電磁バルブ48を閉塞する制御信号を電磁バルブ48に出力する。これにより、電磁バルブ48が閉塞し、流路40Bへのエタノールの供給が停止される。このように、気化器本体部40Aの内部に貯溜されるエタノールの液量を常に一定にすることができ、エタノールの液面管理を徹底させることができる。
【0032】
また、図1及び図3に示すように、導管38B、38Cの少なくとも一方には、第1温度センサ56(図1では図示省略)が内蔵されている。この第1温度センサ56により、導管38B、38Cの内部を流動する第2の処理ガス源44からの不活性ガスの温度が計測される。導管38B、38Cの少なくとも一方の外周面には、第1冷却機構58としての管が巻き付けられている。この管の内部には、水(冷水)が流動するように構成されている。また、管の内部に水(冷水)を流すための第1冷却機構58としての圧力源が接続されており、圧力源が駆動することにより、管の内部に水(冷水)が流動するようになっている。管の内部に水(冷水)が流動すると、導管38B、38C内部を流動する不活性ガスの温度が低下する。また、導管38B、38Cの少なくとも一方の外周面には、第1ヒータ60が取り付けられている。第1ヒータ60が駆動することにより、導管38B、38C内部を流動する不活性ガスの温度が上昇する。
【0033】
第1温度センサ56、第1冷却機構58及び第1ヒータ60は、制御部54と電気的に接続されている。この制御部54は、電磁バルブ48を駆動制御する制御部と同一のものである。この制御部54のRAMには、第1温度センサ56の測定結果に基づいて第1冷却機構58及び第1ヒータ60を駆動させるプログラムが内蔵されている。このため、第1温度センサ56による温度の測定結果が制御部54に出力され、制御部54が不活性ガスの温度が低いと判断した場合には、第1ヒータ60に制御信号を出力して第1ヒータ60を駆動させて導管38B、38C内部を流動する不活性ガスの温度を上昇させる。一方、制御部54が不活性ガスの温度が高いと判断した場合には、第1冷却機構58を構成する圧力源に制御信号を出力して管の内部に水(冷水)を流動させる。これにより、導管38B、38C内部を流動する不活性ガスの温度が低下する。
【0034】
また、図1及び図4に示すように、導管46には、第2温度センサ62(図1では図示省略)が内蔵されている。この第2温度センサ62により、導管46の内部を流動するエタノールの温度が計測される。導管46の外周面には、第2冷却機構64としての管が巻き付けられている。この管の内部には、水(冷水)が流動するように構成されている。また、管の内部に水(冷水)を流すための第2冷却機構64としての圧力源が接続されており、圧力源が駆動することにより、管の内部に水(冷水)が流動するようになっている。管の内部に水(冷水)が流動すると、導管46内部を流動するエタノールの温度が低下する。また、導管46の外周面には、第2ヒータ66が取り付けられている。第2ヒータ66が駆動することにより、導管46内部を流動するエタノールの温度が上昇する。
【0035】
第2温度センサ62、第2冷却機構64及び第2ヒータ66は、制御部54と電気的に接続されている。この制御部54は、電磁バルブ48を駆動制御する制御部と同一のものである。この制御部54のRAMには、第2温度センサ62の測定結果に基づいて第2冷却機構64及び第2ヒータ66を駆動させるプログラムが内蔵されている。このため、第2温度センサ62による温度の測定結果が制御部54に出力され、制御部54がエタノールの温度が低いと判断した場合には、第2ヒータ66に制御信号を出力して第2ヒータ66を駆動させて導管46内部を流動するエタノールの温度を上昇させる。一方、制御部54がエタノールの温度が高いと判断した場合には、第2冷却機構64を構成する圧力源に制御信号を出力して管の内部に水(冷水)あるいはエチレングリコールやフロン等の冷媒を流動させる。これにより、導管46内部を流動するエタノールの温度が低下する。
【0036】
なお、上記各温度センサ、各ヒータ及び各冷却機構を気化器40やエタノール供給源50に設けることにより、気化器40内部のエタノールや不活性ガス、エタノール供給源50内部のエタノールの温度を一定に制御することもできる。
【0037】
また、上記各温度センサ、各ヒータ及び各冷却機構を混合器30、導管28、32に設け、各部内部を流動する流体の温度を一定に制御することもできる。このように、エタノールや不活性ガスの温度を一定に制御することにより、プラズマ処理の効果及び精度を高めることができる。
【0038】
ここで、第1の処理ガス源36及び第2の処理ガス源44の内部には、ヘリウム(He)、アルゴン(Ar)、ネオン(Ne)などの希ガスや、窒素(N)などの不活性ガスが充填されている。第1の処理ガス源36及び第2の処理ガス源44の内部には、これら単体の不活性ガスが充填されていてもよく、また数種類の不活性ガスが混合したガスが充填されていてもよいが、プラズマ励起効果が高いヘリウム(He)ガスが充填されていることが特に好ましい。
【0039】
また、エタノール供給源50にはエタノール(COH)が充填されているが、エタノール(COH)に限られるものではなく、例えば、メタノール(CHOH)やイソプロピルアルコール((CH)CHOH)など、炭素数4以下の第1級アルコール又は第2級アルコールである低級アルコールであればよい。
【0040】
次に、本実施形態の大気圧プラズマ処理装置10を用いた大気圧プラズマ処理方法について説明する。
【0041】
図1に示すように、駆動源からの駆動により送出装置16及び巻取装置18が回転駆動されて、フッ素樹脂シートSが印加電極12と接地電極14との間に送り出される。このとき、印加電極12と接地電極14との間に位置するフッ素樹脂シートSの表面処理部は、フッ素樹脂シートSの表面処理部の近傍が各支持ロール20、22により下方から支持されているので、平面状となり、かつ皺がない状態となっている。
【0042】
また、エタノール供給源50から液体のエタノールが導管46を通って気化器40に供給される。この気化器40によりエタノールが気化される。また、第2の処理ガス供給源44から不活性ガスが所定の流量だけ導管38C、38Bを通って気化器40に供給される。気化器40で気体にされたエタノールは、第2の処理ガス供給源44から供給された不活性ガスによりバブリングされ、このバブリングされたガスが混合器30に供給される。このとき、第2の処理ガス供給源44から気化器40に供給される不活性ガスの流量がガス流量計測装置42により計測され、その計測値に基づいて電磁バルブ48が制御されることにより、エタノール供給源50から気化器40に供給されるエタノールの流量が制御される。このように、気化器40では、エタノールが気化されるとともに、第2の処理ガス源44から供給された不活性ガスと気化されたエタノールとが混合されて混合ガスとなる。
【0043】
ここで、図2に示すように、気化器本体部40Aの内部に貯溜されるエタノールの液量は、光学式のセンサ52などで管理されており、上述した方法で電磁バルブ48及び制御部54により常に一定量となるように制御されている。これにより、気化されるエタノールの量が常に一定になり、混合器30に供給されるエタノールの量を一定にすることができる。この結果、印加電極12と接地電極14との間の処理ガスの励起状態が安定し、安定したプラズマで表面改質を実行することができるため、プラズマ処理の精度を高め、かつ安定させることができる。
【0044】
また、図4に示すように、気化器40に供給されるエタノールの温度は、上述した方法で第2温度センサ62、第2冷却機構64及び第2ヒータ66により一定となるように制御されるため、気化器40において不活性ガスに溶け込むエタノールの量や、気化器40から混合器30に供給されるエタノールの量を一定にすることができる。この結果、印加電極12と接地電極14との間の処理ガスの励起状態が安定し、安定したプラズマで表面改質を実行することができるため、プラズマ処理の精度を高め、かつ安定させることができる。
【0045】
また、図3に示すように、第2の処理ガス供給源44から気化器40に供給される不活性ガスの温度は、上述した方法で第1温度センサ56、第1冷却機構58及び第1ヒータ60により一定となるように制御されるため、不活性ガスに溶け込むエタノールの量を一定にすることができる。この結果、印加電極12と接地電極14との間の処理ガスの励起状態が安定し、安定したプラズマで表面改質を実行することができるため、プラズマ処理の精度を高め、かつ安定させることができる。
【0046】
また、第1の処理ガス源36からは所定の流量の不活性ガスが導管32を通って混合器30に供給される。この第1の処理ガス源36から供給される不活性ガスは、キャリアガスとして作用する。混合器30では、第2の処理ガス源44から供給された不活性ガスと気化されたエタノールとが混合された混合ガスと、第1の処理ガス源36から供給された不活性ガスとが混合される。これにより、混合器30では、希釈ガス(処理ガス)が生成される。混合器30で生成された希釈ガス(処理ガス)が導管28を通って印加電極12と接地電極14との間に供給される。
【0047】
一方、印加電極12と接地電極14との間には、高周波電源26から高周波電圧が印加される。このときの周波数は、高周波(数百kHzから数十MHz)が用いられるが、特に、工業用周波数である13.56MHzとすることが好ましい。また、印加電極12と接地電極14との間は、大気圧(1013hPa)の近傍の圧力(900hPa以上1013hPa以下)となっている。
【0048】
なお、印加電極12と接地電極14との間に作用する圧力を900hPaよりも小さくすると、真空ポンプや真空容器が必要となり、設備の製造コスト及び設備のランニングコストが増大するため、不具合となる。また、印加電極12と接地電極14との間に作用する圧力を1013hPaよりも大きくすると、処理ガスが外部に漏れてしまうことを防止するために耐圧容器あるいはより高い気密性が必要となり好ましくない。
【0049】
印加電極12と接地電極14との間に希釈ガス(処理ガス)が供給されるとともに高周波電圧が印加されると、印加電極12と接地電極14との間の放電空間内の希釈ガス(処理ガス)が電離してプラズマが発生し、希釈ガス(処理ガス)が電離した励起状態となって活性化される。そして、放電空間内に発生したプラズマがフッ素樹脂シートSの表面に接することにより、フッ素樹脂シートSの表面処理(表面改質)が行われる。
【0050】
より具体的には、エタノールがプラズマ中で励起されると、−H、−OH、または−O−等が解離される。フッ素樹脂シートSのフッ素樹脂表面のC−F結合は、その結合エネルギの関係から、アルコールから解離した−Hによって切断される。Fが切断されたCの未結合手(ダングリングボンド)に、−OHまたは−O−が付き、表面のフッ素樹脂に親水性を与えることになる。これにより、フッ素樹脂シートSのフッ素樹脂表面を改質させることができる。
【0051】
また、被処理体は、フッ素樹脂シートS以外として、表面がポリイミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、メタクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテル・エーテル・ケトン(PEEK)樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリイミドアミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリエチレン(HDPE、LDPE)樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂のいずれか1つで構成されているものについても、フッ素樹脂シートSを用いた場合と同様の表面改質を行うことができる。
【0052】
なお、炭素数が比較的多い高級アルコールを用いると、アルコールがプラズマ中で励起させる際、粘性が高くなり過ぎて気化させることができないか、あるいはクラスター状になるため、励起が極めて困難になる。また、多価アルコールを用いた場合も、粘性が高くなるため、励起が困難になる。さらに、第3級アルコールを用いると、第3級アルコールが酸化されないため、親水性の官能基を解離させることはできない。これらのように、エタノールを用いることにより、フッ素樹脂シートSのフッ素樹脂表面を都合良く改質させることができる。
【0053】
以上のように、処理ガスの生成にはエタノールを用いることにより、有害性がないため、環境に悪影響を及ぼすことを防止できる。また、エタノールには有害性がないため、エタノールを取り扱うために、有害性を考慮した特別な設備が不要となる。また、エタノールには有害性がないため、エタノールを廃液処理するための特別な設備が不要となる。このように、本発明では、環境に悪影響を及ぼすことを防止できるとともに、設備を製造するための製造コストや設備を作動させるためのランニングコストを大幅に低減させることができる。特に、アルコールとしてエタノールを用いることにより、最も安全性を向上させることができる。
【0054】
さらに、各支持ロール20、22によりフッ素樹脂シートSが支持されるため、フッ素樹脂シートSの表面処理部が平面状になる。フッ素樹脂シートSの表面処理部を平面状とすることにより、プラズマを斑なくフッ素樹脂シートSの表面処理部に照射させることができ、表面処理の品質を大幅に向上させることができる。
【0055】
特に、気化器40内部のエタノールの液面管理や、エタノール及び不活性ガスの温度管理を徹底することで、上述した通り、印加電極12と接地電極14との間の処理ガスの励起状態が安定し、安定したプラズマで表面改質を実行することができるため、プラズマ処理の精度を高め、かつ安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の一実施形態に係る大気圧プラズマ処理装置の概略構成図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る大気圧プラズマ処理装置のアルコール気化手段及び液量調整手段の構成を示した図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る大気圧プラズマ処理装置の不活性ガス温度調整手段の構成を示したブロック図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る大気圧プラズマ処理装置のアルコール温度調整手段の構成を示したブロック図である。
【符号の説明】
【0057】
10 大気圧プラズマ処理装置
12 印加電極
14 接地電極
20 支持ロール(被処理物支持手段)
22 支持ロール(被処理物支持手段)
26 高周波電源(高周波電圧印加手段)
28 導管(処理ガス供給手段)
30 混合器(処理ガス生成手段)
40 気化器(アルコール気化手段)
44 第2の処理ガス源(不活性ガス供給手段)
48 電磁バルブ(液量調整手段)
52 センサ(液量調整手段)
54 制御部(液量調整手段、不活性ガス温度調整手段、アルコール温度調整手段)
56 第1温度センサ(不活性ガス温度調整手段)
58 第1冷却機構(不活性ガス温度調整手段)
60 第1ヒータ(不活性ガス温度調整手段)
62 第2温度センサ(アルコール温度調整手段)
64 第2冷却機構(アルコール温度調整手段)
66 第2ヒータ(アルコール温度調整手段)
S フッ素樹脂シート(被処理物)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面がフッ素樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、メタクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテル・エーテル・ケトン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリイミドアミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂のいずれか1つで構成された被処理物の表面を大気圧又はその近傍の圧力下でプラズマにより処理する大気圧プラズマ処理装置であって、
炭素数4以下の第1級アルコール又は第2級アルコールである低級アルコールを気化するアルコール気化手段と、
前記アルコール気化手段における前記低級アルコールの液量を一定にする液量調整手段と、
前記アルコール気化手段により気化された前記低級アルコールと不活性ガスとを混合して処理ガスを生成する処理ガス生成手段と、
接地された接地電極と、
前記接地電極に対向して配置された印加電極と、
前記印加電極と前記接地電極との間に高周波電圧を印加させる高周波電圧印加手段と、
前記処理ガスを前記印加電極と前記接地電極との間に供給する処理ガス供給手段と、
を有することを特徴とする大気圧プラズマ処理装置。
【請求項2】
前記アルコール気化手段に、前記低級アルコールが溶け込み前記低級アルコールとともに前記処理ガス生成手段に供給される不活性ガスを、供給する不活性ガス供給手段を設け、
前記アルコール気化手段に供給される前記不活性ガスの温度を一定にする不活性ガス温度調整手段を備えたことを特徴とする請求項1に記載の大気圧プラズマ処理装置。
【請求項3】
前記アルコール気化手段に供給される前記低級アルコールの温度を一定にするアルコール温度調整手段を備えたことを特徴とする請求項2に記載の大気圧プラズマ処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−293679(P2008−293679A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−135304(P2007−135304)
【出願日】平成19年5月22日(2007.5.22)
【出願人】(501114693)株式会社ウインズ (23)
【Fターム(参考)】