説明

大豆β−コングリシニン溶液の粘度低下方法

【課題】高濃度のβ-コングリシニンの粘度を低下させ、また高濃度にβ-コングリシニンを含んだ飲料を提供する。
【解決手段】グルコース,ガラクトース等のアルドースの単糖または、マルトース,ラクトース,マルチトール等のアルドースと、糖類若しくは糖アルコール類の2級アルコール基との低分子グリコシドを添加することで、β-コングリシニン溶液の粘度を効果的に低下させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大豆β-コングリシニンを含有する溶液の粘度低下方法および、その方法により得られた溶液を用いた飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
大豆蛋白質は、植物性蛋白質の中で栄養性が優れているだけでなく、近年では様々な生理効果が見出され、生理機能剤としても注目される食品素材である。またその中の構成成分であるβ-コングリシニンは血中の中性脂肪の低下効果(非特許文献1)、体脂肪の増加抑制効果を持つことが報告されている(特許文献1)。できるだけ少量の摂取でこれらの効果を出すためには、精製されたβ-コングリシニンの高い含有量を持った飲食品が望ましい。しかしβ-コングリシニン溶液は高い粘性を持つために、数%の濃度では取り扱えるが、これを越える溶液は高濃度化が難しく、蛋白質粉体調製のための乾燥工程の効率が悪い。また、β-コングリシニンを大量に含む飲料や食品も、その調製時に粘度が上昇してしまうために、低濃度にせざるを得ない。調製した飲料は高い粘度のために喉越し、食感が悪く、飲みにくいという欠点もある。
【0003】
特許文献2には、3%のβ-コングリシニン溶液に7%のショ糖を添加した飲料が開示されているが、これは低濃度のβ-コングリシニン溶液に甘味剤としてショ糖を添加している例であり、β-コングリシニンの濃度が低いために粘度が低く、本願の効果を得るには至っていない。
【0004】
【特許文献1】WO2004/009107A
【特許文献2】特開平2002−262838号公報
【非特許文献1】J.Nutr., 126,380,1996
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、高濃度のβ-コングリシニンの粘度を低下させることおよび、高濃度にβ-コングリシニンを含んだ飲料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題に対して鋭意研究を重ねた結果、アルドースの単糖またはアルドースを構成成分とする低分子グリコシドを添加することにより、β-コングリシニン溶液の粘度が低下することを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
即ち、本発明は
(1)アルドースの単糖または、アルドースと糖類若しくは糖アルコール類の2級アルコール基との低分子グリコシドを添加する事を特徴とする、大豆β-コングリシニン溶液の粘度低下方法。
(2)アルドースの単糖が、グルコースまたはガラクトースである、(1)の粘度低下方法。
(3)アルドースがグルコースであり、2級アルコール基がグルコース,ガラクトースまたはソルビトールに由来する、(1)の粘度低下方法。
(4)溶液中のβ-コングリシニン濃度が9重量%以上である事を特徴とする(1)記載の方法。
(5)アルドースの単糖または低分子グリコシドの添加濃度が0.1重量%以上、10重量%以下である(1)記載の方法。
(6)(1)乃至(5)の粘度低下方法により得られた溶液を用いた、大豆β-コングリシニン含有飲料。
である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高濃度且つ低粘度のβ-コングリシニン溶液を調製することができ、効率的なβ-コングリシニンやこれを用いる製品の製造を行なうことができる。また、粘度の低い口当たりの良いβ-コングリシニン飲料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を具体的に説明する。尚、以下用いる%は全て重量%を意味する。本明細書において、β-コングリシニンとは、一般に可溶性の球状蛋白質の総称であるグロブリンの中で、分子量の超遠心沈降係数が7Sに相当するものを言う。グロブリンにはその分子量分布で2S,7S,11S,15Sが存在し、そのうち、7S(β-コングリシニン)と11S(グリシニン)が大豆の様な豆科植物の貯蔵蛋白質には多量に含まれていることが知られている。
【0010】
本発明に適用されるβ-コングリシニン溶液とは、蛋白質全量に対するβ-コングリシニンの比率が50重量%以上、好ましくは60重量%以上、更に好ましくは70重量%以上のβ-コングリシニン蛋白質を用いた、β-コングリシニンを大量に含む高β-コングリシニン大豆蛋白質の水溶液である。そして、このβ-コングリシニンの比率が高いほど本発明の効果は高まる。
【0011】
高β-コングリシニン大豆蛋白質は、公知のどのような方法によっても得ることができ、例えば大豆蛋白質からβ-コングリシニンの含量の高い画分を分画する、タン・シバサキの方法(Thahn, V.H., and Shibasaki, K., J. Agric.Food Chem., 24, 117, 1976)や、WO02/28198公報の方法を例示することができ、あるいは不二製油製の「リポフ」として市販品を入手できる。また、蛋白質中のβ-コングリシニンの存在量は、通常行なわれるSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動等の方法により、測定することができる。
【0012】
さらにフィチン酸を除去することで、風味を向上し、またフィチン酸による金属の吸収抑制を防止することが出来る。このフィチン酸が低減化された低フィチン酸β-コングリシニンを分画する方法として、大豆蛋白質に直接、フィチン酸分解活性を有するフィターゼやホスファターゼのような酵素または酵素剤を作用させることで、大豆中のβ-コングリシニンとグリシニンの分離と同時に、フィチン酸の低減を行うことも可能である。
【0013】
本発明のβ-コングリシニン溶液中のβ-コングリシニンの濃度は、9重量%以上で顕著な効果が得られる。9重量%より低いとβ-コングリシニン溶液は粘度が上昇せず、本願の効果を用いるに及ばない場合がある。上限は特に設けないが、20重量%以上ではβ-コングリシニンのスラリーの流動性が極端に低下する為に、本発明の効果を発揮には好ましくない。また酸性付近では特定の濃度でゲル化してしまうため、通常pHは中性付近がふさわしく、具体的にはpH5.5〜7.5程度が好ましい。但し、目的の生理的効果がpHを低下させることにより生じる場合は、これに限らない。また、β-コングリシニン溶液に、他の蛋白質,糖質,脂質,塩類等を加える事を妨げない。
【0014】
本発明で用いるアルドースとは、1位の炭素原子がアルデヒドである単糖類の総称で、グルコース,ガラクトース,マンノース,アロース,アルトロース,グロース,イドース,タロース,キシロース,アラビノース,リボース,リキソース等が例示できる。
【0015】
アルドースの単糖とは、上記アルドースが単糖として存在している状態で、粘度低下機能や糖の入手のし易さ等から、特にグルコース,ガラクトースが好ましい。
【0016】
アルドースと低分子グリコシドを形成する糖類若しくは糖アルコール類とは、その2級のアルコール基が、アルドースの還元末端とアセタールを形成する、通常の糖類,糖アルコール類を挙げることができる。例えば、グルコース,ガラクトース,マンノース,キシロース,フラクトース,リボース,アラビノース等の糖類や、グリセロール,エリスリトール,ソルビトール等の糖アルコール類を例示することができる。
【0017】
そして、本発明のアルドースと糖類若しくは糖アルコール類の2級アルコール基との低分子グリコシドとは、当該のグリコシドのうち、低分子のグリコシドで、好ましくは分子量が1000以下のグリコシドが使用できる。
【0018】
特に、アルドースがグルコースであり、2級アルコール基がグルコース,ガラクトースまたはソルビトールに由来するグリコシドであることが望ましく、具体的には、マルトース,マルトトリオース,マルトテトラオース,ラクトース,シュークロース,デキストリン等の少糖類やオリゴ糖類、マルチトール,ラクチトール等の糖アルコール類を挙げることができる。粘度低下機能や糖の入手のし易さ等から、マルトース,マルトトリオース,ラクトース,マルチトールが好ましく、マルチトールが特に好ましい。
【0019】
本発明のアルドースまたはアルドースを含む低分子グリコシドの濃度は、β-コングリシニン溶液中に0.1重量%以上が好ましく、0.2重量%以上が更に好ましく、0.5重量%以上が最も好ましい。0.1重量%未満の低濃度では粘度低下効果が発揮できない。また上限は特に設けないが、通常は10%重量以下で用いる場合が多い。10%重量を超える高濃度では低分子グリコシドを更に添加しても粘度の低下は望めないし、添加した低分子グリコシドに由来する増粘が起きる場合もある。
【0020】
本発明により、β-コングリシニン溶液の粘度を低下することができ、より高濃度のβ-コングリシニン溶液を調製することができる。例えば、等電点沈澱により分離したβ-コングリシニンへの加水量を減らし、高濃度のβ-コングリシニン溶液とした上で、高濃度のまま殺菌乾燥し、製造コストを大きく減らすことができる。
【0021】
また、β-コングリシニンのゲルを調製する際にも、粘度を低下させることができる為に、調製時のβ-コングリシニン濃度を上げ、強固なゲルとすることが可能となる。同様に、ガンモドキや油揚等の大豆蛋白調製品を作製する際も、加水を増やすことなく粘度を下げることができ、製品品質や作業性を改善することができる。
【0022】
更に、β-コングリシニン飲料を調製する際も、調製作業の作業性が改善されると共に、低粘度の飲料とすることができるために、飲み口がすっきりとした、高濃度β-コングリシニン飲料を調製することが可能となる。β-コングリシニン溶液を飲料とする際は、β-コングリシニン大豆蛋白質とともに、他の蛋白質素材を含むことができる他、油脂,糖類,水,香料,調味料等の公知の原料を用いることができる。これらを必要な配合で混合し、均質化、殺菌等公知の方法で製造できることができる。
【0023】
以下に実施例を記載するが、この発明の技術思想がこれらの例示によって限定されるものではない。
【実施例1】
【0024】
○各濃度のβ-コングリシニン溶液での効果
不二製油製「リポフ700」(蛋白質中のβ-コングリシニン含量は80重量%以上)を溶解し、β-コングリシニンの8および10重量%の溶液を調製し、グルコースを3重量%添加した。3時間室温にて静置した後、BM形粘度計で粘度を測定した(8重量%溶液はローターNo.2,60rpm、10重量%溶液はローターNo.3,30rpm)。測定結果を表1に示した(単位はすべてmPa・s)。8重量%では元々の粘度が低く、本発明の効果を認める事ができなかった。また、10重量%溶液では糖の添加量が3重量%においても顕著な粘度低下効果が認められた。10重量%付近の高濃度のβ-コングリシニン溶液でも、飲料として問題なく摂取できることが判った。
【0025】
表1 グルコース添加したβ-コングリシニン溶液の濃度と粘度

【実施例2】
【0026】
○各種の糖質での効果
「リポフ700」を溶解して、10重量%のβ-コングリシニン溶液を調製し、3重量%の糖類(グルコース,フルクトース,ガラクトース,マルトース,スクロース,ラクトース、トレハロース、イソマルトース、オリゴトース、ソルビトール、マルチトール)を添加した。3時間室温にて静置した後、BM形粘度計で粘度を測定した(ローターNo.3、30rpm)。測定結果を表2に示した(単位はすべてmPa・s)。
【0027】
表2 各種糖および糖アルコール添加時のβ-コングリシニン溶液粘度

【0028】
表2に示すように、グルコース,ガラクトースといったアルドース単糖は、無添加のコントロールや、ケトースであるフラクトース、糖アルコールであるソルビトールに比較し、明らかに低い粘度を示しており、アルドース単糖にβ-コングリシニン溶液の粘度低下効果があることが判った。
【0029】
また、ラクトース,マルトース,スクロース,オリゴトース(マルトトリオース),マルチトール等の、アルドースの還元末端と2級アルコール基とのグリコシドも、イソマルトース,トレハロースといったアルドースの還元末端と1級アルコール基とのグリコシドに比較し、β-コングリシニン溶液の粘度低下効果があることが判った。
【実施例3】
【0030】
○グルコース添加量
実施例1と同様の系にて、さらに少ないグルコースの添加量における粘度をBM形粘度計で測定した(ローターNo.3、30rpm)。測定結果を図1に示した(単位はすべてmPa・s)。グルコースの添加量が0.2重量%でも明らかに粘度低下が認められ、0.5重量%においては顕著な粘度低下効果が認められた。
【実施例4】
【0031】
○ゲルの調製
実施例1にて調製したグルコースを添加した10重量%のβ-コングリシニン溶液に、2.5重量%のNaClを添加した。その後34mmケーシングチューブに詰め、80℃にて30分間湯煎した後、水中で30分間冷却した。形成されたゲルの最大荷重をレオメーターで測定した。尚、プランジャーはφ8mm球、速度は1mm/secで行なった。測定結果を表3に示した(単位はgf)。グルコース無添加に比べグルコースを3重量%添加すると、粘度は約1/3と大きく低下したが、調製したゲルの最大荷重はやや低いだけに留まり、ゲル強度に大きな低下を与えずに粘度が低下する事を示した。
【0032】
表3 グルコース添加による、β-コングリシニン溶液粘度とゲル強度の変化

【実施例5】
【0033】
○油揚げの調製
β-コングリシニン( 不二製油製「リポフ700」)100部、マルチトール10部、ナタネ油30部、水400部、コーンスターチ5部、食塩1部をサイレントカッターを用いて3分間混合乳化した。この生地を45mm角、厚み7mmに成型し、170℃ でフライし、油揚げを得た。同様にグルコースを加えない系にて調製を試みたが、粘度が高く撹拌・調製ができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明により、β-コングリシニンの製造や、β-コングリシニンを用いた飲食物の製造が効率良く行なえる。またβ-コングリシニンを高濃度に含んだ飲料も調製できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】各濃度のグルコースを加えた際の、β-コングリシニン溶液の粘度低下を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルドースの単糖または、アルドースと糖類若しくは糖アルコール類の2級アルコール基との低分子グリコシドを添加する事を特徴とする、大豆β-コングリシニン溶液の粘度低下方法。
【請求項2】
アルドースの単糖が、グルコースまたはガラクトースである、請求項1の粘度低下方法。
【請求項3】
アルドースがグルコースであり、2級アルコール基がグルコース,ガラクトースまたはソルビトールに由来する、請求項1の粘度低下方法。
【請求項4】
溶液中のβ-コングリシニン濃度が9重量%以上である事を特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項5】
アルドースの単糖または低分子グリコシドの添加濃度が0.1重量%以上、10重量%以下である請求項1記載の方法。
【請求項6】
請求項1乃至5の粘度低下方法により得られた溶液を用いた、大豆β-コングリシニン含有飲料。

【図1】
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