説明

大豆を主原料とするスナック菓子の製造方法

【課題】大豆を主原料として使用し、成形性に優れ、短時間で焼成することができると共に焼き上がったときの見た目も良く、食感も軽く良好で、割れにくく破損しにくいスナック菓子の製造方法を提供する。
【解決手段】大豆を微粉砕して得られた大豆粉砕物を煮る工程、得られた大豆懸濁液に凝固剤を加えて凝固させる工程、得られた凝固物を破砕して又は潰してスラリー状物又はペースト状物にする工程、得られたスラリー状物又はペースト状物を所要形状の薄いシート状に成形する工程、成形したものを焼成する工程を含む、大豆を主原料とするスナック菓子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大豆を主原料とするスナック菓子の製造方法に関するものである。さらに詳しくは、大豆を主原料として使用し、成形性に優れ、短時間で焼成することができると共に焼き上がったときの見た目も良く、食感も良好で、強度的にも割れたり破損しにくいスナック菓子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大豆は、タンパク質を多く含むなど栄養価が高く、コレステロールの調節効果、ダイエット効果、肥満予防効果などを有することが知られている。また、大豆成分のイソフラボンは、ガンや心臓病の予防効果、特に女性では骨粗鬆症や更年期障害の改善効果があるといわれている。
このような栄養価の高い大豆を主原料としてスナック菓子を製造することはすでに行われている。しかし、大豆だけを主原料とすると、成形性が悪く、食感も硬い。これを改善するために、小麦粉やトウモロコシなどの澱粉質を多く配合したもの(特許文献1参照)、あるいは大豆をペレット状にして膨化させたもの(特許文献2参照)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−236501
【特許文献2】特開2007−166904
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記従来の大豆を主原料とする菓子には、次のような課題があった。
まず、特許文献1に記載の菓子は、澱粉質が多く配合されている分だけ大豆含有量が減少するために、大豆の栄養的な効果が十分に発揮されない問題があった。
また、特許文献2に記載の菓子は、大豆の栄養的な効果については期待できるが、例えばポテトチップのようなパリッとした良好な食感は望めなかった。
そこで、本願発明者は、大豆に様々に手を加えて形態を変えたものをつくり、これらを焼成する実験及び試行を重ねた。
【0005】
まず、大豆を微粉砕し水に混入し煮沸して得られた大豆懸濁液(大豆繊維分、つまりオカラを含む豆乳)を鉄板上で煮詰めるように加熱して焼成したところ、焼成物は見た目がプラスチック板のようになり、硬く食べにくかった(図3参照)。また、焼成中は表面にタンパク質の厚い膜が形成されて、内部の水分の蒸発が妨げられ、焼成に長時間を要した。また、この焼成物は強度が劣りもろいために、製造や運搬中に割れたり破損したりすることが考えられる。
【0006】
次に、大豆懸濁液に苦汁を入れ凝固させ、それを薄くスライスして焼成を試みた。この焼成物はもろくはなかったが、この場合も非常に硬く食べにくかった。また、水分の蒸発が悪く、焼成に長時間を要した。さらには、表面に気泡の残痕や破裂痕が生じるため見た目が悪く、食欲をそそるものではなかった(図4参照)。
【0007】
本願発明者は、前記様々な試行を繰り返す中で、煮沸した大豆懸濁液を凝固させ、それを破砕して又は潰してスラリー状又はペースト状として、薄いシート状に成型して焼成したところ、成形性に優れ、短時間で焼成することができると共に焼き上がったときの見た目も良く、食感も軽く良好で、割れにくく破損しにくいチップ状のスナック菓子が得られることを知見した。本発明は、このような知見に基づき完成されたものである。
【0008】
(本発明の目的)
本発明は、大豆を主原料として使用し、成形性に優れ、短時間で焼成することができると共に焼き上がったときの見た目も良く、食感も軽く良好で、割れにくく破損しにくいスナック菓子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために本発明が講じた手段は次のとおりである。
本発明は、
水と微粉砕した大豆を混合し加熱して大豆繊維を含む大豆懸濁液をつくり、この大豆懸濁液に凝固剤を加えて凝固させた後、破砕して又は潰してスラリー状物又はペースト状物をつくり、このスラリー状物又はペースト状物を所要形状の薄いシート状に成形して焼成する、
大豆を主原料とするスナック菓子の製造方法である。
【0010】
本発明は、
大豆を微粉砕して得られた大豆粉砕物を煮る工程、
得られた大豆懸濁液に凝固剤を加えて凝固させる工程、
得られた凝固物を破砕して又は潰してスラリー状物又はペースト状物にする工程、
得られたスラリー状物又はペースト状物を所要形状の薄いシート状に成形する工程、
成形したものを焼成する工程、
を含む、
大豆を主原料とするスナック菓子の製造方法である。
【0011】
本発明は、
スラリー状物又はペースト状物を所要形状の薄いシート状に成形した焼成種の厚さが1〜3mmである、
前記大豆を主原料とするスナック菓子の製造方法である。
【0012】
大豆は、粉砕機により、乾式もしくは湿式で微粉砕をする。粒径を細かくすると製品の食感が良くなるため、望ましくは300メッシュより小さくなるまで微粉砕するのがよいが、これに限定するものではなく、粒径は適宜調節することができる。なお、特許請求の範囲にいう「大豆」の用語は、大豆(丸大豆)の他に、脱皮した大豆又は大豆油を採油した残りの脱脂大豆を含む意味で使用している。
【0013】
大豆粉砕物と水の配合は特に限定はしないが、例えば水100重量部に対して、大豆粉砕物を10〜30重量部に調整するのが好ましい。なお、特許請求の範囲にいう「大豆粉砕物」の用語は、大豆粉末または大豆微粉末を含む意味で使用している。
また、この混合物を加熱する際の温度は特に限定しないが、例えば釜内温度を90〜120℃に設定し、5〜20分程度加熱するのが好ましい。これにより、大豆煮汁である大豆懸濁液を得ることができる。
【0014】
大豆懸濁液を凝固させるには、苦汁などの豆腐用凝固剤を適量入れるが、この際、大豆懸濁液を、例えば65〜85℃程度に冷却しておくのが好ましい。
得られた凝固物をスラリー状物又はペースト状物となるように破砕又は潰すには、ミキサーなどの破砕機を用いてもよいし、専用の機械または器具を用いて潰すようにしてもよい。
【0015】
得られたスラリー状物又はペースト状物は、成形機を用いて薄いシート状に成形される。このときの厚さは、例えば1.0〜3.0mmであるのが好ましいが、これに限定するものではない。
成形した焼成種は、例えば150〜200℃程度で焼上げられ、適宜味付けされることによって、大豆を主原料とした薄いチップ状のスナック菓子が出来上がる。
【0016】
なお、焼成種の厚さが1.0〜3.0mmである場合、焼き上がりの厚さは0.5〜1.5mm程度であり、この厚さであれば、食感がサクサクとして軽く、焼成時間も比較的短くすることができる。なお、焼成物の厚さが0.5mmに満たないと、サクサク感がやや物足りなくなり、強度も劣るため破損しやすくなる傾向がある。また、厚さが1.5mmを超えると、強度が増して破損しにくくはなるが、食感の軽さが失われ、平均的な消費者の嗜好から外れてしまう傾向がある。
【0017】
(本発明の作用)
まず、商品価値の高いチップ状のスナック菓子の条件として、製造効率が良いこと、食感が良いこと、見た目が良く食欲をそそること、製造や運搬中に割れにくく破損しにくいこと、成形性が良く食べ易い形状であることがあげられる。
【0018】
大豆を微粉砕し、煮ることで大豆のタンパク質の成分が水に溶け出す。この煮沸した大豆懸濁液をそのまま焼成すると表面に厚いタンパク質の膜を形成して水分の蒸発を妨げ、焼成に長時間を要する。また、この焼成物は見た目がプラスチック板のようになり、食感も非常に硬い。
次に前記大豆煮汁に豆腐用凝固剤を加えると、タンパク質同士がジスルフィド結合(S-S結合ともいう)し、網目が数μm〜十数μmの微細な網目構造をつくり、ゲル化して固まる。この大豆凝固物は、やわらかく脆いため、薄く成形することは難しい。また、保水性に富むため、成形して焼成したとしても、細かい網目構造のために水分の蒸発が難しく、焼成に長時間を要する。さらには、これを焼成した焼成物の食感は非常に硬く、また表面に気泡の破裂痕が見られ、見た目も悪い。
【0019】
本発明においては、これらの問題を解決するために、凝固させた大豆懸濁液をミキサーなどでスラリー状物又はペースト状物に破砕又は潰し、薄いシート状にすることで、前記タンパク質の微細な網目構造が切られ、保水性が弱まり、焼成時における水分蒸発が効率よく行われ、焼成時間を短縮することができる。
【0020】
また、この焼成物は食感が非常に軽く、表面は気泡の破裂痕が目立たず見た目がよい。これは、大豆凝固物をスラリー状又はペースト状にしたことで、水分が蒸発する際に内部に気泡が生じやすくなり、その気泡が内部に無数の細孔を形成したことで、食感が軽くなったと考えられる。また、表面は流動性の高いスラリー状又はペースト状なので、気泡が破裂しても表面の破裂痕をある程度塞ぐことができたためと考えられる。
【0021】
本発明では、焼成種の中には、大豆の繊維分(おから)を含むため、それらがいわば連結骨材のように機能して、焼成物に十分な強度を付与し、製造や運搬中に割れたり破損することを防止するとともに、独特の食感を持たせることができる。しかも、前記スラリー状物又はペースト状物を成形するので、成形がしやすく、例えばデポジッタのような成形機で、焼成種を薄く食べやすい形状に整えることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、短時間で焼成でき製造効率が高い、大豆を主原料としたスナック菓子を製造することができる。また、焼き上がったときの食感も軽く良好であり、見た目も良く、強度的にも破損しにくく、さらには焼成種の成形性に優れているので、食べやすい形状に成形できる大豆を主原料としたスナック菓子を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る製造方法で得られたスナック菓子の外観を示す説明図。
【図2】本発明に係る製造方法で得られたスナック菓子の断面説明図。
【図3】大豆を微粉砕し水を混入して煮沸して得られた大豆懸濁液を鉄板上で煮詰めるように加熱して焼成して得られた焼成物の外観を示す説明図。
【図4】大豆懸濁液に凝固剤を入れて凝固させ、それを薄くスライスし焼成して得られた焼成物の外観を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明に係るスナック菓子の製造方法を実施例に基づき、さらに詳細に説明する。
【実施例】
【0025】
なお、使用する主原料としては、前記したように、大豆(丸大豆)の他に、脱皮した大豆又は大豆油を採油した残りの脱脂大豆をあげることができる。脱脂大豆を原料とした場合は、大豆に比べて油の含有量が少ないために、大豆を原料とした場合と比較して、製造後の大豆油の劣化による風味の低下を抑制することができる。また、大豆や脱皮大豆又は脱脂大豆を主原料として、他の豆類、例えばインゲン豆やエンドウ豆等をブレンドすることもできる。これにより、製造するスナック菓子に味や食感が異なる色々な特徴を付与することも可能になる。
【0026】
(1)乾式粉砕機で300メッシュより小さく微粉砕した大豆粉末8kgを水50kgと混合してミキサーに入れ、ダマがなくなるまで撹拌し、混合液をつくった。
(2)この混合液を煮釜に入れ、100℃で12分間、攪拌しながら煮込み、大豆懸濁液をつくった。
【0027】
(3)大豆懸濁液を70℃程度に冷却し、これに豆腐用凝固剤である塩化マグネシウム300g(約0.5重量%)を添加し、適宜混ぜ合わせて凝固させた。
(4)得られた凝固物を、ミキサーを用いてスラリー状物又はペースト状物となるように破砕した。
【0028】
(5)得られたスラリー状物又はペースト状物を成形機を用いて、長径60mm×短径40mm×厚さ2.5mmの楕円形状のシートに成形し、焼成種をつくった。
(6)焼成種を180℃に設定されたオーブンで30分間焼き上げることにより、長径50mm×短径33mm×厚さ1mmの図1に示すような楕円形状の焼成物ができた。
そして、この焼成物にシーズニングなどの適当な味付けを施すことで、ポテトチップのような軽い食感を持つスナック菓子をつくることができた。なお、前記工程において、例えばトレハロース等、食感や日持ちを調整するための各種添加物を添加することは、一般の菓子と同様に行うことができる。
【0029】
前記製造方法によって得られたスナック菓子1は、 製造においてスラリー状物又はペースト状物を成形するので、成形がしやすく、焼成種を薄く食べやすい形状に整えることができるので、商品としての見た目が良い(図1参照)。
また、大豆の繊維分(おから)を含むため、それらがいわば連結骨材のように機能して十分な強度が付与され、製造や運搬中に割れたり破損することを防止できると共に、独特の食感を持たせることができた。
さらには、このスナック菓子1は、図2に示すように内部に細かな穴10が無数に形成されており、ポテトチップのように食感が非常に軽く食べやすかった。
【0030】
表1を参照する。
本実施例の製造方法における焼成時間の短縮効果を確認するために、本実施例の焼成種と、前記工程(2)〜(3)で得られた凝固物を2.5mmの厚さに切断した焼成種(縦横の長さも本実施例の焼成種と同じ)について、それぞれ三つのサンプルを容易して焼成に要した時間を比較した。
【0031】
【表1】

【0032】
表1に示すように、大豆凝固物を破砕せずそのまま切断したもの、並びに大豆懸濁液を煮たものの各サンプルの焼成時間は、平均でそれぞれ約40分、約51分であるのに対し、凝固物をスラリー状物となるように破砕して成形した本実施例の焼成種の各サンプルの焼成時間は平均で26分であり、本実施例の焼成種は、焼成時間を大幅に短縮できることが分かった。
【0033】
なお、本明細書で使用している用語と表現は、あくまでも説明上のものであって、なんら限定的なものではなく、本明細書に記述された特徴およびその一部と等価の用語や表現を除外する意図はない。また、本発明の技術思想の範囲内で、種々の変形態様が可能であるということは言うまでもない。
【符号の説明】
【0034】
1 スナック菓子
10 穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と微粉砕した大豆を混合し加熱して大豆繊維を含む大豆懸濁液をつくり、この大豆懸濁液に凝固剤を加えて凝固させた後、破砕して又は潰してスラリー状物又はペースト状物をつくり、このスラリー状物又はペースト状物を所要形状の薄いシート状に成形して焼成する、
大豆を主原料とするスナック菓子の製造方法。
【請求項2】
大豆を微粉砕して得られた大豆粉砕物を煮る工程、
得られた大豆懸濁液に凝固剤を加えて凝固させる工程、
得られた凝固物を破砕して又は潰してスラリー状物又はペースト状物にする工程、
得られたスラリー状物又はペースト状物を所要形状の薄いシート状に成形する工程、
成形したものを焼成する工程、
を含む、
大豆を主原料とするスナック菓子の製造方法。
【請求項3】
スラリー状物又はペースト状物を所要形状の薄いシート状に成形した焼成種の厚さが1〜3mmである、
請求項1又は2記載の大豆を主原料とするスナック菓子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−147376(P2011−147376A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−10277(P2010−10277)
【出願日】平成22年1月20日(2010.1.20)
【特許番号】特許第4625875号(P4625875)
【特許公報発行日】平成23年2月2日(2011.2.2)
【出願人】(510019222)
【Fターム(参考)】