説明

大豆エキス入り醸造酒の製造方法。

【課題】本発明は、大豆が含有する栄養素を発酵反応により、人体に容易に摂取可能な大豆エキスに転化して醸造酒に付加することで、大豆エキス入り醸造酒を得る製造方法を提供する
【解決手段】 精米歩合90〜50%の白米を使用して、白米の麹原料に種麹を添加して製麹し、次いで白米からなる主原料に前記麹と酵母と水とを仕込んで発酵させて清酒もろみを得る第1工程と、大豆からなる麹原料に種麹を添加して製麹し、次いで前記麹と酵母と水とを仕込んで発酵させて大豆発酵もろみを得る第2工程と、前記清酒もろみに前記大豆発酵もろみを混合して、更に発酵熟成した後、この混合もろみのろ過を行って大豆エキス入り醸造酒を得る第3工程と、からなることを特徴とする大豆エキス入り醸造酒の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、健康食品である大豆の有する栄養素を発酵加工して付加した醸造酒の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
大豆には、主な成分として、たんぱく質35%前後、脂質20%前後、炭水化物28%前後を含み、カルシウムも多く、ビタミンB,B,Eが含まれている。このように、たんぱく質を多く含むのが特徴で、人体に不可欠な8種類の必須アミノ酸をも含む。また、脂質は、20%前後を占め、大部分が不飽和脂肪酸であって、血中コレステロールを下げるリノール酸が多い。また、肝臓への脂肪蓄積を抑制するレシチンなどのリン脂質も含む。また、ビタミンEは,抗酸化作用を有し、老化防止、動脈硬化防止に貢献する。また、大豆サポニンは、配糖体の一種で煮たときに出る泡に含まれる苦味や渋味であり、強い抗酸化作用があり、また、大豆イソフラボンは、ポリフェノールの一種で、更年期障害や骨粗鬆症に効くといわれる。このように大豆は機能性成分が多く含まれている。
【0003】
上述のように、人体にとって、有効なたんぱく質成分を多く含むことから、動物性食品を補完し得るので「畑の肉」と言われている。このように大豆は栄養価が高いが、かたくて消化が悪いので、大豆の栄養素を容易に摂取するための加工食品として、黄な粉、豆腐、油揚げ、凍り豆腐、納豆、味噌、醤油などがあって、多くの料理に用いられており、動物性たんぱく質の過剰摂取が心配される現代人のよい植物性たんぱく質源となっている。
【0004】
他方、嗜好飲料であるアルコール飲料は、一般に食欲の増進や疲労回復や精神的ストレスの解消に役立つ作用がある。アルコール飲料としての清酒は、白米の種類や精米度及びその発酵プロセスの違いから、純米酒、吟醸酒、大吟醸酒等の質の異なる清酒があり、夫々の清酒には原料や製法に由来する独特の香気や風味があって、多くの人々に嗜好されている。清酒の製造は、通常、原料である白米に多く含まれるデンプンを糖化酵素により分解してグルコースを生成した後、このグルコースを酒母により発酵させてアルコールに転化し、このアルコールを含んだもろみをろ過することにより清酒を得ることができる。また、ろ過しないにごり酒もある。
【0005】
また、健康食品である大豆の豆乳を添加したアルコール飲料であって、酸性の豆乳をアルコールの存在下で蛋白の沈殿を防止することを可能にしたアルコール飲料が開発されている。(特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−139442公報(〔0004〕)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述の先行技術は、アルコール飲料に大豆蛋白である豆乳を付加することにより健康飲料としてのアルコール飲料を製造する際に、蛋白が沈殿しない製品が得られた点において優れている。しかし、この栄養素である蛋白は必ずしも人体に容易に摂取される形態であるとは言えない。これに対して、本発明は、従来では考えられなかった、嗜好も兼ねた健康増進成分又は健康維持成分を付加した醸造酒を得ることを目的とするもので、特に大豆が含有するたんぱく質や脂質などの特有な栄養素を、発酵反応により人体に容易に摂取可能な大豆エキスに転化して醸造酒に付加することを目的とし、大豆と白米を原料として発酵反応を利用して大豆エキス分と清酒アルコール分を生成させることにより大豆エキス入り醸造酒が得られる製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明の請求項1に係る大豆エキス入り醸造酒の製造方法は、精米歩合90〜50%の白米を使用して、白米の麹原料に種麹を添加して製麹し、次いで白米からなる主原料に前記麹と酵母と水とを仕込んで発酵させて清酒もろみを得る第1工程と、大豆からなる麹原料に種麹を添加して製麹し、次いで前記麹と酵母と水とを仕込んで発酵させて大豆発酵もろみを得る第2工程と、前記清酒もろみに前記大豆発酵もろみを混合して、更に発酵熟成した後、この混合もろみのろ過を行って大豆エキス入り醸造酒を得る第3工程と、からなることを特徴とする。
【0009】
また、請求項2に係る大豆エキス入り醸造酒の製造方法は、前記第3工程において、前記清酒もろみに前記大豆発酵もろみを混合した後、さらに1〜10日間にわたり発酵熟成した後、ろ過して大豆エキス入り醸造酒を得ることを特徴とする。
【0010】
また、請求項3に係る大豆エキス入り醸造酒の製造方法は、請求項1又は2に記載の大豆エキス入り醸造酒の製造方法において、前記第1工程の種麹がアミラーゼ活性に富んだ黄麹菌であり、また、前記第2工程の種麹がプロテアーゼ活性とグルタミナーゼ活性に富んだ黄麹菌であることを特徴とする。
【0011】
また、請求項4に係る大豆エキス入り醸造酒の製造方法は、請求項1から3のいずれかに記載の大豆エキス入り醸造酒の製造方法において、前記第1工程の酵母が清酒酵母であり、また、前記第2工程の酵母が醤油又は味噌酵母であることを特徴とする。
【0012】
本発明の製造方法に係る第1工程では、用いる麹は、アミラーゼ活性を有した黄麹菌を用いて、蒸した白米(総白米量の約20%)の麹原料に種付けし、製麹して得る。次いで、主原料である白米(総白米量の約80%)を蒸煮したものに前記麹と酵母と水とを加えて仕込み、発酵させて清酒もろみを作る。また、原料米は酒造好適米(山田錦、五百万石等)に限らず、一般米(コシヒカリ、日本晴等)でもよい。また、精米歩合も飯米(90%)から大吟醸(50%前後)まで酒質によって広く適用できる。
【0013】
第1工程の麹は、蒸し白米粒に黄麹菌(Aspergillus oryzae)を純粋培養させたものであって、後の仕込み工程において、蒸し米の溶解とでんぷんの糖化を行う一連の酵素を生産し、また酵母に栄養分を与えて増殖と発酵を促進させる。この麹の酵素は主としてでんぷんを分解してグルコースを生成するα―アミラーゼやグルコアミラーゼである。仕込み工程は、酒母仕込みともろみ仕込みに分かれ、酒母仕込みでは、前記麹と水と清酒酵母(Saccharomyces cervisiae属である)から酵母を増殖して酒母を作り、この酒母が、次のもろみ仕込みにおいて、発酵させるための必要十分量の清酒酵母を含有するスターターとなる。もろみ工程は、前記酒母に水を加えながら、3分割した蒸し白米、麹を数日間掛けて仕込んだ後、15〜30日間掛けて発酵させ、清酒らしい風味とアルコールを作り出すための主発酵工程である。すなわち、米でんぷんはα―アミラーゼやグルコアミラーゼの酵素作用によりグルコースを生成し、生成されたグルコースは順次酵母によって発酵されアルコールになる。このように糖化とアルコール発酵が並行して進行する並行複発酵により、清酒もろみが作られる。
【0014】
また、第2工程では、蒸煮した大豆からなる原料にプロテアーゼ活性とグルタミナーゼ活性に富んだ黄麹菌である種麹を添加して、麹菌を増殖させて仕込み発酵に必要な酵素群を生産するための製麹を行う。次いで、仕込み工程で前記麹と酵母と水とを仕込んで、大豆たんぱく質の分解と酵母の増殖と酵母による発酵を行って大豆発酵もろみを得る。すなわち、大豆たんぱく質は麹菌由来のプロテアーゼの作用によりアミノ酸や低級ペプチドに分解され、また麹菌由来のグルタミナーゼの作用によりグルタミン酸を生成する。このように、発酵作用により、大豆たんぱく質は、麹のプロテアーゼとグルタミナーゼ等によりたんぱく質を低分子のペプチドやグルタミン酸を含むアミノ酸類に転化して可溶化する。また、でんぷん質は麹菌に含まれるアミラーゼでグルコースが生成し、酵母によるアルコール発酵でアルコールと少量のグリセリンを生成する。また、麹菌の生産するリパーゼは、大豆の脂質を分解してグリセリンを生成し、一部は脂肪酸類に転化する。この脂肪酸類は一部アルコール類と結合してエステル化して脂肪酸エステルを生ずる。
【0015】
前記酵母は、Zygosaccharomyces rouxii属に分類され、醤油や味噌の製造に用いられるものと同属であるが、無塩下でPH3〜7で生育可能なものである。このPHを下げるために、前記発酵に合わせて乳酸発酵を行って乳酸菌を増殖させるのが好ましい。このように仕込み発酵の過程で、酵素によって大豆たんぱく質の50〜60%が可溶化し、20〜25%がアミノ酸になり、人体に容易に摂取可能な成分に転化することができる。また、本発明に係る大豆エキスとは、大豆由来のものであって、主としてアルコールと水に可溶化するアミノ酸類、脂肪酸類、脂肪酸エステル類とビタミンE、サボニン、イソフラボン、レシチン等をいう。
【0016】
また、第三工程では、大豆エキス分を含む大豆発酵もろみを、前記第1工程で作った清酒もろみに混合して、濃度の高いアルコールの下で大豆エキス分を混合もろみ中に更に生成、抽出した後、ろ過して大豆エキス入り醸造酒を製造することができる。この場合において、清酒もろみと、大豆発酵もろみとを混合した後、1〜10日間にわたり発酵熟成することにより、清酒もろみに含まれる濃度の高いアルコール類により清酒酵母と大豆発酵酵母の存在の下で大豆発酵もろみから大豆エキスとしての有効成分を更に生成させて混合もろみ中に抽出する。例えば、もろみ中の不溶の脂肪酸と反応させることにより可溶な脂肪酸エステルとして抽出することが可能となる。また、混合もろみをろ過して大豆エキス入り醸造酒を製造する代わりに、ろ過せずに、にごり酒の形態で大豆エキス入り醸造酒を製造することも可能であって、この場合には液中に抽出されずに糟に残った大豆エキス分も摂取することが可能となる。
【0017】
また、請求項5に係る大豆エキス入り醸造酒の製造方法は、請求項1から4のいずれかに記載の大豆エキス入り醸造酒の製造方法において、前記第2工程の大豆の占める割合が白米と大豆からなる全体原料の5〜30wt%の範囲であることを特徴とする。
【0018】
これらの構成によると、大豆発酵もろみが5wt%以下であれば、大豆エキス入り醸造酒に対する大豆エキス分が少なく、また30wt%を超えると大豆エキス分の含有は多くなるが、大豆エキス入り醸造酒としての風味が変わりすぎるので好ましくない。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る請求項1から5まで記載の大豆エキス入り醸造酒の製造方法によれば、清酒もろみと大豆発酵もろみとを夫々製造する工程と、最終工程で清酒もろみと大豆発酵もろみを混合して発酵熟成して最終的に醸造する工程と、から成るので、各もろみの製造管理や品質管理が確実にでき、特に大豆エキスの生成については、大豆のみを対象にして発酵作業を行うので作り込みがし易く、ひいては、最終の大豆エキス入り醸造酒の品質の作り込みがし易い。また、前述のように原料の大豆及び白米の夫々に適した麹菌と酵母の採用により、酵素による分解を確実に効率的に行うことができるので、醸造アルコールや大豆エキスの生成歩留をあげることが可能となる。また、最終工程で大豆エキス入り醸造酒の混合、熟成の作り込み管理ができるので、品質的に良いものが製造できる。こうして得られた大豆エキス入り醸造酒は、食欲の増進や疲労回復や精神的ストレスの解消に役立つ嗜好品であると共に、大豆に含有される人体の活力維持に必須な大豆エキス分を含有するものである。
【0020】
また、請求項2に記載の大豆エキス入り醸造酒の製造方法によれば、清酒もろみと大豆発酵もろみとの混合熟成期間を取ることで、大豆発酵もろみから大豆エキスとして有効な成分を更に生成させ、かつ、抽出することが可能となる。また、請求項3及び4に記載の大豆エキス入り醸造酒の製造方法によれば、原料の大豆及び白米の夫々に適した麹菌と酵母の採用により、酵素による分解を確実に効率的に行うことができるので、大豆及び白米の夫々の仕込み発酵後のもろみ中に、好適な醸造アルコールや大豆エキスの生成を確実に効率よく行うことができ、醸造アルコールや大豆エキスの生成歩留をあげることが可能となる。また、請求項5に記載の大豆エキス入り醸造酒の製造方法によれば、大豆エキス入り醸造酒の風味と大豆エキス分のバランスを好適にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本発明に係わる大豆エキス入り醸造酒の製造方法を実施するための概略工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明に係わる大豆エキス入り醸造酒の製造方法を実施するための形態について図1を用いて説明する。図1は、本発明の方法の工程を表わす図であって、精米歩合90〜70%超白米の麹原料9に種麹11−1を添加して製麹12し、次いで蒸し白米14−1に前記麹13と酵母14−2と水14−3とを仕込んで発酵させて清酒もろみ16を得る第1工程と、大豆からなる麹原料1に種麹3−1を添加して製麹4し、次いで前記麹5と酵母6−1と水6−2とを仕込んで発酵させて大豆発酵もろみ8を得る第2工程と、前記清酒もろみ16に前記大豆発酵もろみ8を混合して、更に発酵熟成17した後、この混合もろみ18をろ過19して大豆エキス入り醸造酒20を得る第3工程に大別される。また、第3工程は、前記混合もろみ18をろ過せずににごり酒の形態で大豆エキス入り醸造酒を得る工程とすることができる。この場合には、糟に残存する大豆エキス分も摂取することができる。
【0023】
本発明の製造方法に係る第1工程では、蒸した白米(総白米量の約20%)の麹原料9に、アミラーゼ活性を有した黄麹菌11−1を種付けし、麹13を製麹する。製麹工程では、白米9は麹菌である種麹11−1を種付け11して繁殖し易くするために白米9に蒸きょう10を施す。この蒸きょう10により、白米のでんぷん質をアルファ化して、麹13の酵素による糖化され易い状況を作るのと麹菌11−1の繁殖を容易にする。この麹13は、蒸し白米粒に黄麹菌(Aspergillus oryzae)を純粋培養させたものであって、仕込み工程14において、蒸し白米14−1の溶解とでんぷんの糖化を行う一連の酵素を生産し、また酵母14−2に栄養分を与えて増殖と発酵を促進させる。この麹13の酵素は主としてでんぷんを分解してグルコースを生成するα―アミラーゼやグルコアミラーゼである。
【0024】
次いで、主原料である白米(総白米量の約80%)14−1を蒸煮したものに前記麹13と酵母14−2と水14−3とを加えて仕込み、発酵させて清酒もろみ16を作る。 仕込み工程14は、酒母仕込みともろみ仕込みに分かれ、酒母仕込みでは、前記麹13と水14−3と清酒酵母(Saccharomyces cervisiae属である)14−2から酵母を増殖して酒母を作り、この酒母が、次のもろみ仕込みにおいて、発酵させるための必要十分量の清酒酵母を含有するスターターとなる。もろみ工程は、代表的なものとして、前記酒母に水14−3を加えながら、3分割した蒸し白米14−1、麹13を数日間掛けて仕込んだ後、15〜30日間掛けて発酵させ、清酒らしい風味とアルコールを作り出すための主発酵工程である。すなわち、米でんぷんはα―アミラーゼやグルコアミラーゼの酵素作用によりグルコースを生成し、生成されたグルコースは順次酵母14−2によって発酵されアルコールになる。このように糖化とアルコール発酵が並行して進行する並行複発酵により、10〜20vol%濃度のアルコールを含んだ清酒もろみ16が作られる。
【0025】
また、原料の白米9、14−1は酒造好適米(山田錦、五百万石等)に限らず、一般米(コシヒカリ、日本晴等)でもよい。また、精米歩合も飯米(90%)から大吟醸(50%前後)まで酒質によって広く使用できる。精米歩合が90%と高いと白米に含まれるたんぱく質がアミノ酸に転化して清酒に含まれるのに対し、精米歩合が50%前後の場合は、白米のたんぱく質が除去されているので、酒質がより淡麗になり香味が増える傾向にある。よって、大豆エキス入り醸造酒の成分や風味を設定することで、白米の精米歩合を適宜変えることができる。
【0026】
第2工程である大豆発酵もろみ8の製造工程について説明すると、蒸煮した大豆1からなる原料にプロテアーゼ活性とグルタミナーゼ活性に富んだ黄麹菌である種麹3−1を添加して、麹菌を増殖させて仕込み発酵6,7に必要な酵素群を生産するための製麹4を行う。この製麹工程4では、大豆1を用い、麹菌である種麹3−1を種付け3して繁殖し易くするために大豆1を蒸す又は煮るための蒸煮2を施す。この蒸煮2により、大豆1は、大豆たんぱく質の主体を成す大豆グロブリンの分子そのままでは麹菌のプロテアーゼ等の作用を受けにくいので、蒸煮2により変性させて酵素作用を受け易くし、また、大豆細胞壁の破壊をも行う。麹菌としては、大豆たんぱく質を分解するプロテアーゼ活性とグルタミナーゼ活性に富んだ黄麹菌(Aspergillus oryzae)を用いる。また、黄麹菌にはアミラーゼ活性も含んでいる。この麹菌を麹原料である大豆1に種付けして、40〜25℃の培養温度範囲で、麹菌が繁殖し易い条件で製麹4を行う。製麹温度は、黄麹菌の場合、30℃以下の低温ではプロテアーゼ活性が高くなり、40〜35℃の高温ではアミラーゼ活性が高くなるから、通常は初めは高温(38〜35℃)で、終わりに低温(30〜25℃)で42〜45hr掛けて製麹を行う。
【0027】
次いで、仕込み発酵工程6.7においては、前記製麹工程で製造した麹5と、酵母6−1と、水6−2とを仕込んで、大豆たんぱく質の分解と酵母6−1の増殖と発酵7を行って大豆発酵もろみ8を得る。すなわち、大豆たんぱく質は麹菌由来のプロテアーゼの作用によりアミノ酸や低級ペプチドに分解され、また麹菌由来のグルタミナーゼの作用によりグルタミン酸を生成する。このように、発酵により、大豆たんぱく質は、麹5のプロテアーゼとグルタミナーゼ等によりたんぱく質を低分子のペプチドやグルタミン酸を含むアミノ酸類に転化して可溶化する。
【0028】
また、大豆脂質(トリグリセリド)は麹菌由来のリパーゼの作用で遊離脂肪酸とグリセリンに分解し、遊離脂肪酸の一部は脂肪酸エチルにエステル化される。この脂肪酸エチルは香気成分だけでなく、コレステロール制御、抗腫瘍性、抗変位原性、抗酸化性など機能性成分であるサポニン、イソフラボン、レシチン、ビタミンE等にも関与する。また、でんぷん質は麹菌に含まれるアミラーゼによりグルコースに転化し、このグルコースは酵母6−1による発酵作用で発酵してエタノール、グリセリンなどのアルコール類を生じる。一部のエタノールは有機酸や脂肪酸とエチルエステルを生成する。このように酵素によって、たんぱく質の約60%が可溶化され、約25%がアミノ酸である。また、生成したエタノールは有害微生物の活動を阻害する抗菌作用があるので、醤油や味噌の製造時に必要とする食塩濃度を高くすることについて、余り考慮しなくてもよい。また、アルコール濃度が高過ぎると酵母も死滅させるので、発酵に当たっては、エタノール濃度と酵母数の管理が必要となる。なお、前述した仕込み発酵工程6,7の仕込み温度は25〜30℃の範囲であり、仕込み期間は50〜90日間の範囲である。
【0029】
前記酵母6−1は、Zygosaccharomyces rouxii属に分類され、醤油や味噌の製造に用いられるものと同属であるが、無塩下でPH3〜7で生育可能なものである。このPHを下げるために、前記発酵7に合わせて乳酸発酵を行って乳酸菌を増殖させるのが好ましい。このように仕込み発酵6.7の過程で、酵素によって大豆たんぱく質の50〜60%が可溶化し、20〜25%がアミノ酸になり、人体に容易に摂取可能で、かつ有益な成分である大豆エキス分に転化することができる。また、本発明に係る大豆エキスとは、大豆由来であって、主としてアルコールと水に可溶化するアミノ酸類、脂肪酸類、脂肪酸エステル類とビタミンE、サボニン、イソフラボン、レシチン等をいう。
【0030】
また、第三工程では、大豆エキス分を含む大豆発酵もろみ8を、前記第1工程で作った清酒もろみ16に混合して、大豆エキス分を混合もろみ18中に更に生成、抽出した後、ろ過19して大豆エキス入り醸造酒20を製造することができる。この場合において、清酒もろみ16と、大豆発酵もろみ8とを混合した後、1〜10日間にわたり更に発酵熟成17することにより、清酒もろみ16に含まれる10〜20vol%濃度の濃いアルコール類により大豆発酵もろみ8から大豆エキスとしての有効成分を更に生成させて混合もろみ18中に抽出する。例えば、大豆発酵もろみ8中の抽出されていない脂肪酸等の成分と反応させることにより可溶な脂肪酸エステル等として抽出することが可能となる。すなわち、清酒もろみ16と大豆発酵もろみ8との混合熟成期間17を取ることで、大豆発酵もろみ8から大豆エキスとして有効な成分を更に生成させて抽出することにある。また、混合もろみ18をろ過19して大豆エキス入り醸造酒20を製造する代わりに、ろ過せずに、にごり酒の形態で大豆エキス入り醸造酒20を製造することも可能であって、この場合には液中に抽出されずに糟に残った大豆エキス分も摂取することが可能となる。
【0031】
また、本発明に係る大豆エキス入り醸造酒20の製造方法において、第2工程の大豆1の占める割合が白米9,14−1と大豆1からなる全体原料の5〜30wt%の範囲であることが好ましい。すなわち、大豆1の割合が5wt%以下であれば、大豆エキス入り醸造酒20に対する大豆エキス分が少なく、また30wt%を超えると大豆エキス分の含有は多くなるが、大豆エキス入り醸造酒20としての風味が変わりすぎるので好ましくない。
【産業上の利用可能性】
【0032】
アルコール飲料の発酵による製造において、大豆等の穀類から人体に必要な栄養素等を発酵生成を利用して前記アルコール飲料に付加する分野に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
精米歩合90〜50%の白米を使用して、白米の麹原料に種麹を添加して製麹し、次いで白米からなる主原料に前記麹と酵母と水とを仕込んで発酵させて清酒もろみを得る第1工程と、大豆からなる麹原料に種麹を添加して製麹し、次いで前記麹と酵母と水とを仕込んで発酵させて大豆発酵もろみを得る第2工程と、前記清酒もろみに前記大豆発酵もろみを混合して、更に発酵熟成した後、この混合もろみのろ過を行って大豆エキス入り醸造酒を得る第3工程と、からなることを特徴とする大豆エキス入り醸造酒の製造方法。
【請求項2】
前記第3工程において、前記清酒もろみに前記大豆発酵もろみを混合した後、さらに1〜10日間にわたり発酵熟成した後、ろ過して大豆エキス入り醸造酒を得ることを特徴とする請求項1に記載の大豆エキス入り醸造酒の製造方法。
【請求項3】
前記第1工程の種麹がアミラーゼ活性に富んだ黄麹菌であり、また、前記第2工程の種麹がプロテアーゼ活性とグルタミナーゼ活性に富んだ黄麹菌であることを特徴とする請求項1又は2に記載の大豆エキス入り醸造酒の製造方法。
【請求項4】
前記第1工程の酵母が清酒酵母であり、また、前記第2工程の酵母が醤油又は味噌酵母であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の大豆エキス入り醸造酒の製造方法。
【請求項5】
前記第2工程の大豆の占める割合が白米と大豆からなる全体原料の5〜30wt%の範囲であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の大豆エキス入り醸造酒の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−200643(P2010−200643A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−47782(P2009−47782)
【出願日】平成21年3月2日(2009.3.2)
【出願人】(500136810)株式会社 大通 (26)
【Fターム(参考)】