説明

大豆食品用風味改良剤

【課題】 大豆食品に含有させることで、大豆食品の風味を改善することができる風味改良剤を提供すること。
【解決手段】 大豆蛋白質をプロテアーゼ処理して得られるプロテアーゼ処理物を失活処理し、該失活処理物を固液分離せずに得られる分解物を有効成分とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大豆食品に含有させることで、大豆食品の風味を改善することができる風味改良剤に関する。
【背景技術】
【0002】
豆乳には良質な植物性蛋白質やイソフラボン等、有用な成分が含まれており、近年の健康志向の向上により、豆乳、大豆粉などの大豆加工品と他の食品成分とを配合したものを調理または加工して得られる食品(以下、「大豆食品」という)の商品化が進められている。
【0003】
その一方で、大豆食品には青臭みをはじめとする大豆独特の風味があり、これを敬遠する消費者が多いことも事実である。そこで、例えば、大豆食品の青臭みを抑制するため、豆乳に含まれるリポキシゲナーゼを加熱処理して失活させる方法や、スクラロースを大豆食品に含有させる方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2000−157193号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、青臭みの抑制に加えて、おいしさ、収斂味、コク味等、他の風味要素も同時に改善することができれば大豆食品の需要は現状よりさらに拡大することが見込まれる。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、大豆食品に含有させることで、大豆食品の風味を改善することができる風味改良剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、大豆蛋白質をプロテアーゼ処理して得られるプロテアーゼ処理物を失活処理し、該失活処理物を固液分離せずに得られる分解物に着目し、該分解物を大豆食品に含有させることにより、大豆食品の風味が向上することを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
〔1〕 大豆蛋白質をプロテアーゼ処理して得られるプロテアーゼ処理物を失活処理し、該失活処理物を固液分離せずに得られる分解物を有効成分とすることを特徴とする、大豆食品用風味改良剤、
〔2〕 大豆蛋白質が、豆乳、大豆粉および分離大豆蛋白質からなる群より選ばれる少なくとも1種である、前記〔1〕記載の風味改良剤、
〔3〕 大豆食品が、豆乳飲料、大豆飲料、豆乳菓子、豆乳乳製品、豆乳調味料、豆乳めん類または大豆惣菜類である、前記〔2〕記載の風味改良剤、
〔4〕 前記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の風味改良剤を含有する大豆食品。
【発明の効果】
【0009】
本発明の風味改良剤を大豆食品に含有させることにより、大豆食品の風味を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の風味改良剤は、大豆蛋白質をプロテアーゼ処理し、次いで該プロテアーゼ処理物を失活処理し、該失活処理物を固液分離せずに得られる分解物を有効成分とする。
【0011】
出発原料となる大豆蛋白質とは、大豆に含まれる蛋白質をいう。該大豆蛋白質としては、大豆種子から抽出・分離された大豆蛋白質そのものの他、大豆蛋白質を含む食品素材も含まれる。大豆蛋白質を含む食品素材は特に限定されないが、例えば、豆乳、大豆粉、分離大豆蛋白質等を挙げることができ、これらは単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0012】
プロテアーゼは特に限定されず、植物性プロテーゼ、動物性プロテアーゼ、微生物生産プロテアーゼのうち、いずれのプロテアーゼを用いてもよい。植物性プロテアーゼとしては、例えば、ブロメライン、フィシン、パパイン等が挙げられ、動物性プロテアーゼとしては、例えば、ペプシン、トリプシン、レンネット等が挙げられ、微生物生産プロテアーゼとしては、例えば、放線菌プロテアーゼ、麹菌プロテアーゼ、酵母プロテアーゼ等が挙げられる。プロテアーゼの処理条件は、用いるプロテアーゼの性質(例えば、至適温度,至適pH等)に応じて適宜設定することができる。
【0013】
大豆蛋白質をプロテアーゼ処理して得られるプロテアーゼ処理物は失活処理に供される。失活処理条件は任意であるが、通常はプロテアーゼ処理物を高温にて1時間以内で処理することが好ましい。例えば、植物性プロテアーゼとしてブロメラインを用いた場合、90℃で10分間失活処理を行うようにする。
【0014】
プロテアーゼ処理物を失活処理して得られる失活処理物は、固液分離操作(例えば、ろ過、遠心分離等)することなく風味改良剤として使用される。風味改良剤は、失活処理物そのもの(液体)であってもよいし、目的に応じて濃縮液または粉末の状態で使用することもできる。
【0015】
上記の工程を経て製造された風味改良剤は種々の大豆食品に含有される。大豆食品は特に限定されず、例えば、豆乳飲料(例えば、乳飲料、コーヒー飲料等)、大豆飲料(例えば、大豆粉飲料等)、豆乳菓子(例えば、プリン、アイスクリーム、焼き菓子等)、豆乳乳製品(例えば、ヨーグルト等)、豆乳調味料(例えば、味噌等)、豆乳めん類、大豆惣菜類等(例えば、豆腐、白和え等)を例示することができる。
【0016】
本発明の風味改良剤を含有した大豆食品は、該風味改良剤を含有しない大豆食品に比べて風味が有意に向上する。具体的には、例えば、コーヒー飲料に風味改良剤を含有させた場合、該風味改良剤を含有させないコーヒー飲料に比べて、豆乳特有の青臭みが顕著に軽減するとともに、おいしさと飲みやすさが向上し、収斂味が軽減する。また、豆乳プリンに風味改良剤を含有させた場合、該風味改良剤を含有させない豆乳プリンに比べて、おいしさが顕著に向上するとともに、収斂味が顕著に軽減され、青臭みが軽減するとともにコク味が向上する。さらに、豆乳ヨーグルトに風味改良剤を含有させた場合も上述した豆乳プリンの場合と同じ評価が得られる。
【実施例】
【0017】
以下、試験例などにより本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらによりなんら限定されるものではない。
【0018】
1.風味改良剤の製造例
1−1.風味改良剤の製造例1
豆乳500gにブロメライン(天野エンザイム株式会社製)を0.01重量%添加し、50℃で2時間反応させた。次いで、得られたブロメライン処理物を90℃で10分間加熱してブロメラインを失活させた。得られた失活処理物を風味改良剤1とした。
【0019】
1−2.風味改良剤の製造例2
全脂大豆粉100gを水400gに溶解して得られた大豆粉懸濁液に、プロテアーゼM(天野エンザイム株式会社製)を0.01重量%添加し、55℃で3時間反応させた。次いで、得られたプロテアーゼM処理物を90℃で10分間加熱してプロテアーゼMを失活させた。得られた失活処理物を凍結乾燥したものを風味改良剤2とした。
【0020】
2.青臭み軽減効果の評価
2−1.青臭み軽減効果の評価1
豆乳の青臭み成分とされるn−ヘキサナールとn−ヘキサノールの各濃度の水溶液に風味改良剤1を0.1重量%添加し、風味改良剤1の青臭み軽減効果を表1に示す4段階で評価した。対照として、酵素処理をしていない豆乳を使用した。表1に10名のパネルによる平均値を示す。
【0021】
【表1】

【0022】
n−ヘキサナールへの添加効果については、対照試験区ではn−ヘキサナール1ppmに添加した場合に青臭みがかなり感じられたのに対し、風味改良剤1ではn−ヘキサナール5ppmに添加した場合でも青臭みが感じられなかった。また、n−ヘキサノールへの添加効果については、対照試験区ではn−ヘキサノール5ppmに添加した場合に青臭みがかなり感じられたのに対し、風味改良剤1ではn−ヘキサナール50ppmに添加した場合でも青臭みが感じられなかった。
【0023】
2−2.青臭み軽減効果の評価2
風味改良剤2を用いた以外は前記「2−1.青臭み軽減効果の評価1」と同様に評価した。表2に10名のパネルによる平均値を示す。
【0024】
【表2】

【0025】
n−ヘキサナールへの添加効果については、風味改良剤1とほぼ同様の結果を示した。また、n−ヘキサノールへの添加効果については、対照試験区ではn−ヘキサノール10ppmに添加した場合に青臭みがかなり感じられたのに対し、風味改良剤2ではn−ヘキサノール50ppmに添加した場合でも青臭みが感じられなかった。
【0026】
3.豆乳含有コーヒー飲料に含有させた場合の風味改良効果
表3に示す配合割合で各原料を混合して豆乳含有コーヒー飲料を調製した。風味改良剤1を含有させた本発明品と、風味改良剤1を含有させない比較品について、おいしさ、青臭みの軽減、収斂味の軽減、コク味、飲みやすさの5項目について表4に示す評価基準により官能評価を行った。表4に10名のパネルによる平均値を示す。
【0027】
【表3】

【0028】
【表4】

【0029】
表4より、本発明品は上記の5項目すべてについて4.0点以上の評価を示すとともに、5項目すべてについて比較品に比べて有意に優れた評価結果を示した。また、本発明品は、上記の評価項目のうち、2.0以上の点差を示した4項目(おいしさ、青臭みの軽減、収斂味の軽減、飲みやすさ)に優れていることが分かった。
【0030】
4.豆乳プリンに含有させた場合の風味改良効果
表5に示す配合割合で常法により豆乳プリンを調製した。風味改良剤1を含有させた本発明品と、風味改良剤1を含有させない比較品について、おいしさ、青臭みの軽減、収斂味の軽減、コク味の4項目について表6に示す評価基準により官能評価を行った。表6に10名のパネルによる平均値を示す。
【0031】
【表5】

【0032】
【表6】

【0033】
表6より、本発明品は上記の4項目すべてについて4.5点以上の評価を示すとともに、4項目すべてについて比較品に比べて有意に優れた評価結果を示した。また、本発明品は、上記の評価項目のうち、3.0以上の点差を示した、おいしさと収斂味の軽減に特に優れるとともに、2.0以上の点差を示した、青臭みの軽減とコク味に優れていることが分かった。
【0034】
5.豆乳ヨーグルトに含有させた場合の風味改良効果
表7に示す配合割合で常法により豆乳ヨーグルトを調製した。風味改良剤1を含有させた本発明品と、風味改良剤1を含有させない比較品について、おいしさ、青臭みの軽減、収斂味の軽減、コク味の4項目について表8に示す評価基準により官能評価を行った。表8に10名のパネルによる平均値を示す。
【0035】
【表7】

【0036】
【表8】

【0037】
表8より、本発明品は上記の4項目すべてについて4.0点以上の評価を示すとともに、4項目すべてについて比較品に比べて有意に優れた評価結果を示した。また、本発明品は、上記の評価項目のうち、3.0点以上の点差を示した、おいしさと収斂味の軽減に特に優れるとともに、2.0点以上の点差を示した、青臭みの軽減とコク味に優れていることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、大豆食品の風味改良剤として広く利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大豆蛋白質をプロテアーゼ処理して得られるプロテアーゼ処理物を失活処理し、該失活処理物を固液分離せずに得られる分解物を有効成分とすることを特徴とする、大豆食品用風味改良剤。
【請求項2】
大豆蛋白質が、豆乳、大豆粉および分離大豆蛋白質からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1記載の風味改良剤。
【請求項3】
大豆食品が、豆乳飲料、大豆飲料、豆乳菓子、豆乳乳製品、豆乳調味料、豆乳めん類または大豆惣菜類である、請求項2記載の風味改良剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の風味改良剤を含有する大豆食品。

【公開番号】特開2007−312626(P2007−312626A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−143498(P2006−143498)
【出願日】平成18年5月24日(2006.5.24)
【出願人】(000208086)大洋香料株式会社 (34)
【Fターム(参考)】