説明

天然ポリマーの粘弾性組成物

3種の天然ポリマーの粘弾性組成物が開示される。硫酸グルコサミン(GS)、ヒアルロン酸ナトリウム(HA)、及びコンドロイチン硫酸(CS)を混合することにより、本発明の3種の天然ポリマーの粘弾性組成物は、眼組織にたして保護剤として役立つばかりでなく、眼科手術に付随する疼痛及び炎症を軽減するための薬剤としても作用することができる。本発明の実施態様は、現存するHA/CS粘弾性薬と混合されたGSを含むことができる。本発明の実施態様は、注入溶液と組み合わされたGS及びCSを含むことができる。さらに、本発明の実施態様の関節内適用の部位において保持時間を高めるために、以下の生分解性ポリマーを本発明の組成物の実施態様に含めてもよい:セルロース誘導体(例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなど)、カーボポール、キトサン、及びコラーゲン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規の粘弾性組成物、並びに粘性手術(viscosurgery)としても知られている粘性及び/又は粘弾性物質を利用する手術の分野におけるその使用に関する。とりわけ、本発明は、特に特定の周囲において粘性手術物質の性能を高めるための水溶液中におけるポリマー物質の組み合わせに関する。本発明は、全ての慣用目的のために機能強化された粘弾性物質及び同様に機能強化された注入溶液(irrigation solution)を用いる方法に関し、そして特に粘弾性物質の保持が所望される方法、例えば、関節内への使用及び特定の眼科外科手術に関する。
【0002】
本出願は、米国特許法合衆国法典35巻(35 U.S.C.)第119条のもと2004年11月23日に出願された米国仮特許出願第60/630,584号の優先権を主張する。当該出願の内容の全ては、本明細書に援用される。
【背景技術】
【0003】
外科手術において使用される粘性又は粘弾性物質は、非限定的に軟組織の維持及び支持、組織マニピュレーション(tissue manipulation)、潤滑作用、組織保護、及び接着予防を含む多数の異なる機能を発揮しうる。これらの物質の様々な流動性質は、その機能を発揮する能力、並びに、結果として、特定の外科手術への適合性に対し必然的に影響を与えるということが認められている。例えば、米国特許第5,273,056号を参照のこと。当該特許の内容は本明細書に援用される。
【0004】
多くの粘性又は粘弾性物質(以後、「物質」又は「粘弾物質」とする)は、眼科外科用途について知られており:Viscoat(登録商標)(Alcon Laboratories, Inc.)は、ヒアルロン酸ナトリウム及びコンドロイチン硫酸を含み;Provisc(登録商標)(Alcon)、Healon(登録商標)、Healon(登録商標)GV、及びHealon(登録商標)5(Pharmacia Corporation)、Amvisc(登録商標)及びAmvisc(登録商標)Plus(Bausch & Lomb, Inc.)、及びVitrax(登録商標)(Allergan Inc.)、これら全てはヒアルロン酸ナトリウムを含み;そしてCellugel(登録商標)(Alcon)はヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)を含む。粘弾物質の上記例の全ては、白内障手術において使用されうる。これらは、手術中における眼の前房の維持及び眼組織、特に角膜内皮細胞の保護、並びに眼組織を手術する際の補助を含む幾つかの目的のために眼科医により使用される。
【0005】
眼科手術において粘弾性組成物を使用することは広く行われている。上記の薬剤の全てが、白内障又は他の眼科手術の際に使用されうる一方、その各々は特定の認められた利点と欠点を有する。例えば、従来技術の粘弾性組成物は、眼科手術の際の有利な効果のために使用することを主に意図されている。しかしながら、眼科手術の術後の合併症がよく記録され、そして主に炎症及び疼痛を含む。眼科手術に伴う炎症は、現在、術前及び術後に局所用ステロイドを使用することを通して外科医により治療されている。この従来の慣行の幾つかの欠点として、患者の薬剤服用順守が低いこと、追加費用がかかること、及び不所望なステロイドの副作用が挙げられる。同様に、術後疼痛は、同様の欠点を有する慣用様式、例えば経口投薬、により治療される。
【0006】
関節治療における粘弾性物質の使用も、当該技術分野に知られている。粘弾性関節治療は、HYLAN G-F 20、SYNVISC、HYALGAN、ARTZなどの市販のヒアルロン酸ナトリウム粘弾性物質の関節内適用を含む。これらの製品は、様々な分子量のヒアルロン酸ナトリウム(HA)から構成される。HAは滑液の流動性に影響を与えると考えられており、軟骨軟化症及び/又は関節炎、及び特に骨関節炎を患う患者においてほぼ即座に自由な動作についての知覚及び疼痛の著しい減少をもたらす。しかしながら、これらの製品の主な欠点は、HAがヒト(及び他の動物)の体において見られ、そして関節組織及び滑液において比較的高い量で存在するが、HAは関節軟骨中では主要な物質ではなく、そうして軟骨の菲薄化及び関節炎の進行を必ずしも停止することができないということである。HAは、関節において潤滑剤及びショック吸収剤として作用する。
【0007】
しかしながら硫酸グルコサミン(GS)は、軟骨において広く見られ、そしてその健康及び弾力において重要な役割を果たす。体年齢に伴い、軟骨におけるGS及び他の物質のいくらかが失われる。このことは、最終的に軟骨の菲薄化並びに関節炎の開始及び進行を招く。GSはかなり素早く多くの組織及び器官に拡散し、そしてGSは関節組織(articulate tissue)(例えば、軟骨)及び骨に対して特に集められる。幾つかの臨床試験において、経口投与形態中のGSは、骨関節炎症状及びその進行を有意に軽減するということが示された。GSが抗酸化能力を有し、そしてGSがプロスタグランジン合成についての阻害効果を有しうるとも考えられている。
【0008】
コンドロイチン硫酸(CS)も、疾患関節又は外傷関節の治療において有用であることが知られている。米国特許5,498,606号を参照のこと。CSはさらに、被覆剤として作用することにより軟骨及び周囲の関節を保護する。関節内疾病を治療するためにGSとCSとを混合する場合、利得が増加することが研究により示された。GS及びCSは両方とも、軟骨の形成を助け、そして軟骨を破壊する酵素の放出遅延を助けることができる。現在、経口マルチビタミン又は栄養素として、GS及びCS(又はGS及びCSのみ)から構成される製品が市場に存在している。これらの製品は、臨床的に有効であり、そして骨関節炎症状を軽減するのに有効でありかつ安全であると臨床的に示され、そして非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)の優れた代替となりうる。しかしながら、GS及びCSの経口投与形態は、吸収が低く、作用開始が遅く、そして作用期間が短いという欠点を有する。
【発明の開示】
【0009】
HA、GS、及びCSの組み合わせの(関節内)注射投与形態は、従来技術のポリマーの組み合わせ並びに経口投与形態を超える優れた利得を有し、特に迅速な作用開始、長期間の作用、そしてより重要なことに3種全てのポリマーを罹患関節にデリバリーすることを含む。HA、GS、及びCSは天然ポリマーであり、そして十分に市販されている。
【0010】
その結果、従来技術の粘弾性組成物を用いた手術の際に、保護的機能を提供するだけではなく、手術に付随する疼痛及び炎症の軽減並びに関節疾病の軽減を提供することができる、ポリマーの粘弾性組成物を含むポリマーの組成物に対する必要性が存在する。
【0011】
本発明の3種の天然ポリマーの粘弾性組成物の実施態様は、実質的にこれら及びその他の必要性に実質的に合致する。本発明は、改善された鎮痛性及び抗炎症性性質を提供することにより、手術、特に眼科手術、を行うための、そして治療、特に粘弾性関節治療、を行うための改善された粘弾性組成物に関する。本発明の組成物の実施態様は、眼内薬及び/又は関節内薬として使用することができる粘性及び弾性のある滅菌溶液を形成するために、天然及び生体適合性のポリマーであるHA、GS、及びCSの組み合わせを含むことができる。
【0012】
本発明の3種の天然ポリマーの粘弾性組成物の実施態様は、幾つかの機能を発揮することができる。眼科手術に用いられる場合、当該実施態様は、従来の粘弾性物質が提供したであろう保護を、その粘弾性特性に基づいて内皮細胞に与えることができる。本発明の目的にさらに重要なことに、当該実施態様は、眼科外科に関する疼痛及び炎症の制御に対する抗炎症性及び鎮痛性の作用を提供することができる。関節薬として使用される場合、本発明の実施態様では、骨関節炎の症状の軽減の改善を提供することができる。
【0013】
眼科手術の術後合併症はよく記録され、炎症及び疼痛を含む。粘弾性物質を使用して眼科手術の間に眼の内部に保護を与えることは広く行われている。GS、HA、及びCSを混合することにより、本発明の3種の天然ポリマーの粘弾性組成物の実施態様は、眼組織に対する保護物質として役に立つばかりでなく、眼科手術に付随する疼痛及び炎症を軽減する物質として作用することができる粘弾性物質を外科部位に提供することができる。本発明の組成物の実施態様は、抗炎症性効果を提供するために、既存の注入溶液と組み合わせてGS及びCSを含んでもよい。関節内物質として、本発明の実施態様は、骨関節炎の進行を予防するために、関節組織のヒアルロナンの減少及びを軟骨のグルコサミンの減少を元に戻すことにより、患者に利得を提供することができる。
【0014】
本発明の実施態様は、既存のHA/CS粘弾性物質、例えばFort Worth, TexasのAlcon Laboratories, Inc.(Alcon)により製造されるDiscovisc(登録商標)及びViscoat(登録商標)粘弾性製品と混合されたGSを含みうる。本発明の実施態様は、BSS(登録商標)、BSS-Plus(登録商標)、及びStabIEyz(商標)などの注入溶液、これら全てはAlconにより製造される、と組み合わせたGS及びCSを含んでもよい。本発明の実施態様の関節内適用の部位で保持時間を高めるために、以下の生分解性ポリマーは、本発明の組成物の実施態様に含められてもよい:セルロース誘導体(例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなど)、カーボポール、キトサン(citosan)、及びコラーゲン。
【0015】
本発明の3種の天然ポリマーの粘弾性組成物の実施態様は、眼科手術(白内障又はガラス体網膜手術)に付随する疼痛及び炎症を軽減する利点を提供することができる。さらに、当該組成物の実施態様は、眼科手術の間又は手術後におけるステロイド抗炎症性産物の局所適用の必要性を低減するか又は排除することができ、このことは優れた患者の服薬順守及び副作用の低下をもたらしうる。関節内適用では、本発明の利得は、3種の天然ポリマーHA、GS、及びCSの利得を、軟骨形成を促進しそして骨関節炎の症状を修復及び軽減することができる単回用注射製剤に混合することを含む。さらに、そのような注射製剤は、作用開始及び作用期間の改善を伴い、当該物質の局部へのデリバリー(on-site delivery)を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
眼科手術、及び特に白内障手術おいて特に重要である一方で、本発明の方法及び組成物は、ヒアルロン酸塩に基づく粘弾物質を用いたいずれかの粘性手術(viscosurgical)法において利用されてもよい。白内障手術において、眼の前房、つまり虹彩と角膜内皮細胞との間の空間、は粘弾物質で満たされる。粘弾物質は、2つの目的:(1)角膜のドームを維持して、外科医に内部の手術部位を遮る物のない視界を与え、そして(2)デリケートな角膜内皮細胞を被膜により保護することのために役に立つ。上に記載されるように、従来技術である粘弾性物質は、鎮痛性又は抗炎症性効果を提供することはなく、その結果、術前及び術後において疼痛及び炎症を制御するために局所薬を使用しなければならなかった。それゆえ、従来の粘弾性機能と鎮痛性及び抗炎症性機能が、一回の粘弾性物質により提供されるならば、好ましいことである。本発明の方法及び組成物を用いることで当該目的は達成される。本発明の粘弾性組成物の様々な実施態様は、例えば、硝子体網膜手術において硝子体の置換物として使用するのによく適しており、そしてその様な使用は、本発明の範囲内であると考えられる。
【0017】
体内に注射された際の長い保持時間を達成する能力のため、本発明の粘弾性組成物は、関節内注射を介した関節治療によく適している。慣用されるヒアルロン酸塩の効果は、本発明の教示に従ってGS及びCSを添加することにより高められる。米国特許第5,498,606号は、ウマの関節にコンドロイチン硫酸を関節内注射した際に観察された抗炎症性効果と細胞保護効果を開示する。当該特許の内容の全てを本明細書に援用する。さらに最近、ヒアルロン酸ナトリウム及びコンドロイチン硫酸の混合物を含むVISCOATを関節内注射することが、グレードI及びグレードIIの骨関節炎を患う患者の関節に、軟骨再生を引き起こし得ることが示唆された。この点で、同一出願人による米国特許出願第10/082,743号は、本明細書に援用される。本発明の3種の天然ポリマーの粘弾性組成物が、継続中の米国特許出願10/882,901号に開示される希釈抵抗粘弾性組成物の希釈抵抗性の性質を利用するように設計され得る。当該出願の内容は、本明細書に完全に援用される。
【0018】
本明細書に使用される「ヒアルロン酸塩に基づく粘弾物質」という用語は、ヒアルロン酸又は生理学的に許容されるその塩の任意の水溶液を意味し、当該水溶液は、全ての低分子量の非HAポリマーの有意量を含まない。Viscoat(登録商標)を除いて、上記市販HA製品の全ては、ヒアルロン酸塩に基づく粘弾物質と考えられる。本発明の教示に従ってGS及びCSと組み合わせるのに適したヒアルロン酸塩に基づく粘弾物質は、500,000ダルトン、好ましくは約1,000,000〜約5,000,000ダルトンの平均分子量、そして約1.0〜約3.0重量%の濃度を有するヒアルロン酸ナトリウム(又は他の生理学的に許容されるヒアルロン酸塩)を含むものとして一般的に特徴付けすることができる粘弾物質を含む。
【0019】
本発明の教示に従ってポリマー性注入溶液の実施態様を産生するためのGSとCSとを混合するために適した注入溶液は、外科手術に適した任意の滅菌水性注入溶液を含む。BSS(登録商標)又はBSS PLUS(登録商標)(Alcon Laboratories, Inc., Fort Worth, Texas)などの平衡塩類溶液が好ましい。注入溶液へポリマーを添加することは、本明細書に完全に援用される米国特許第5,409,904号において記載される様式で行われ得る。本発明の目的に適した比較的低分子量のCSは、約100,000ダルトン未満の平均分子量、好ましくは約20,000〜約80,000ダルトン、そして最も好ましくは約30,000〜約50,000ダルトンを有する物質を含む。本発明のポリマー注入組成物の実施態様におけるポリマー成分(GS及びCS)の濃度範囲は、選択されるポリマー成分の分子量に依存して変化するであろうが、注入溶液に所望される流動性を維持するために十分低いレベルで維持されるべきである。CSについては、注入溶液の濃度は、0.1〜10重量%、好ましくは0.5〜約7重量%、そして最も好ましくは約2〜約5重量%であり得る。GSについては、注入溶液の濃度は、1%〜5%でありうる。関節内用途では、本発明のポリマー組成物は、注入溶液を伴わずに混合される。ポリマーは、以下に記載される様にヒアルロン酸に基づく粘弾物質と混合することができ、本明細書に記載される性質を達成することができる。
【0020】
以下の例は、本発明の3種の天然ポリマーの粘弾性組成物の実施態様の様々な特徴をさらに示すために提供される。
【実施例】
【0021】
以下の表1に記載される製剤を調製し、そして流動性及びCDI(粘着性/分散性指数)について試験し、そして粘弾物質VISCOAT(登録商標)と比較した。表1は、試験した各製剤の組成を示す。
【0022】
【表1】

【0023】
表1に記載された各製剤についてのpH及び浸透圧を計測し、そして以下の表2に示す。
【0024】
【表2】

【0025】
表1の各製剤の流動性評価は、VISCOAT(登録商標)に比較して行われた。図1は、表1の各製剤の流動性プロファイル、並びにVISCOAT(登録商標)の流動性プロファイルを示すグラフである。様々なせん断速度で表1の各製剤についての粘性データーを以下の表3に示す。
【0026】
【表3】

【0027】
サンプル調製及び粘性の測定
表1に記載される製剤を以下のように調製した。プランジャーを10mlの滅菌プラスチックシリンジ(A1)から外し、そしてもう一方を滅菌チップキャップで封じた。シリンジA1をビーカー中でバランスをとりながら垂直に置いた。適切な量の滅菌HAポリマーを計量し、そしてシリンジA1に移した。同様にして、適切な量の滅菌GS及びCSを計量し、シリンジB1に移した。この記載にわたって、「適切な量」及び「十分な量」は、表1に記載の組成物のうちの一つを提供するために必要な物質、ポリマー、又は溶液の量を意味する。他のシリンジサイズを適宜使用してもよいことに留意すべきである。
【0028】
製剤緩衝溶液を調製し、そして0.2ミクロンフィルター(他のフィルターサイズを適宜使用してもよい)を通して滅菌ろ過した。上で記載されるのと同様の様式で、十分な量の滅菌緩衝溶液を2個の他のシリンジA2及びB2に加えた。次にプランジャーを注意して各個別のシリンジに戻した。チップキャップをシリンジA1及びA2から外し、そして2個のシリンジをLuer-Lockコネクターを介して互いにつないだ。次に均一な混合物が得られるまで、繋がれたシリンジのプランジャーを交互に押し出すことにより、シリンジA1及びA2の内容物を完全に混合した。混合溶液の最終的な内容物をシリンジの一方、例えばシリンジA1に集めた。
【0029】
同様の様式において、シリンジB1及びB2からチップキャップを取り外し、そして2個のシリンジをLuer-Lockコネクターを介して互いに繋いだ。次に、均一な混合物が得られるまで、繋がれたシリンジのプランジャーを交互に押し出すことにより、シリンジB1及びB2の内容物を完全に混合した。混合された溶液の最終的な内容物をシリンジの一方、例えばシリンジB1に集めた。
【0030】
次にシリンジA1及びB1を、Luer-Lockコネクターを介して繋ぎ、そして次に均一な混合物が得られるまで、繋がれたシリンジのプランジャーを交互に押し出すことにより、内容物を完全に混合した。次に得られた組成物を一晩冷蔵庫内で貯蔵して、完全な水和物を得た。この最終的な製剤は滅菌、均一、透明なポリマー混合溶液である。次に、そのような各製剤のサンプルの流動性プロファイルを翌日測定した。
【0031】
流動性プロファイルの測定(せん断なし(zero shear)の粘性)
Bohlin CSレオメータを用いることにより、流動性プロファイルを測定した。ギャップ幅0.15mmで4°のコーン及び40mm直径のプレート(CP4/40)を使用した。粘性を25℃で測定した。適用したせん断ストレスは、0.06〜139Paであった。対応するせん断速度及び粘性を、200秒のインテグレーションの後又は当該システムが承認する定常状態が達成された際に、Bohlinソフトウェアにより計算した。
【0032】
粘性結果
適用されたせん断ストレスに基づいて、Bohlin CSレオメータは、せん断速度及び当該せん断速度での見かけ上の粘性を計算する。パスカル秒(Pas)における粘性の対数を、X軸における秒の逆数(1/s)の対応するせん断速度に対して、Y軸にプロットした。プラトーの程度は、異なる粘弾物質で異なった。Y軸におけるプラトーの切片をせん断無し(zero shear)粘性とみなす。せん断速度がさらに増加した場合、粘性は指数関数的に低下する。表1の各製剤についての粘性プロファイルを図1にプロットする。
【0033】
表1に記載される様に、GSを各製剤を加えることにより、3種の天然ポリマーの粘弾性組成物の粘弾性(粘性及び弾性)性質が維持され、そしてVISCOAT(登録商標)の粘弾性性質に類似するということが、本発明の製剤の流動性評価により明らかに示される。1〜4%w/vのGSの添加は、VISOCAT(登録商標)などの粘弾性の流動性質においてマイナスの影響を有さない。眼内及び関節内適用のための本発明の3種の天然ポリマーの粘弾性組成物の好ましい製剤は、以下の:
ヒアルロン酸ナトリウム(HA) 3%w/v
コンドロイチン硫酸(CS) 4%w/v
硫酸グルコサミン(GS) 1〜4%w/v
リン酸二水素ナトリウム 0.045w/v
リン酸水素ナトリウム 0.2%w/v
NaCl 0.43%w/v
注射用の水 QS100%
を含み得る。
【0034】
表1に記載される本発明の各製剤の粘着性及び分散性を評価した。これらの数値は、適用部位での製剤の保持に関する。以下の表4は、VISCOAT(登録商標)に比べた各製剤のCDIを記載する。GSの添加は、VISCOAT(登録商標)製剤の分散性を高めるようであり、そうして本発明の3種の天然ポリマー製剤の実施態様は、VISCOAT(登録商標)より長い保持時間を有するようである。このことは、関節内適用に好ましいものとする。眼内適用では、高濃度のGS(例えば、4%=CDI12.1)が、高い粘着性及び除去の容易さのため好ましい。
【0035】
【表4】

【0036】
本発明の実施態様は、関節内治療を行うため又は眼科手術を行うため、本発明の3種の天然ポリマーの粘弾性組成物の実施態様及び/又は本発明のポリマー注入溶液の実施態様を治療部位(例えば関節又は眼)に導入し又は染み込ませる(instilling)方法を含み得る。
【0037】
本発明は、特定の好ましい実施態様を参照することにより記載されたが、その本質又は本質的特質から逸脱することなく他の特定の形態又はバリエーションに包含され得ると理解すべきである。上で記載された実施態様は、その結果、全ての点について例示的であり、そして制限するものでないと認められ、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲により示される。
【0038】
本発明及びその利点のより完全な理解は、添付の図面と併せて以下の記載を参照することにより得ることができる。ここで、参照番号は、対応する図を指す。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】図1は、試験溶液の粘性プロファイルに対してプロットされた本発明の様々な組成物の粘性プロファイルを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の:
ヒアルロン酸塩に基づく粘弾性物質;
硫酸グルコサミン;及び
コンドロイチン硫酸
を含む、3種の天然ポリマーの粘弾性組成物。
【請求項2】
前記ヒアルロン酸塩に基づく粘弾物質が、750,000ダルトンを超える平均分子量及び1%〜3%の重量濃度を有するヒアルロン酸ナトリウム水溶液である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記コンドロイチン硫酸が、約0.1〜約7%の重量濃度で存在する、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記コンドロイチン硫酸の濃度が、約2重量%であり、そして当該コンドロイチン硫酸が、約20,000〜約80,000ダルトンの平均分子量を有する、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記コンドロイチン硫酸の濃度が、約4重量%であり、そして当該コンドロイチン硫酸が、約20,000〜約80,000ダルトンの平均分子量を有する、請求項3に記載の組成物。
【請求項6】
前記硫酸グルコサミンが、約1%〜約5.0%の重量濃度で存在する、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記硫酸グルコサミンが、約4%の重量濃度で存在する、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記コンドロイチン硫酸が、約4%の重量濃度で存在し、前記硫酸グルコサミンが約1〜約4%の重量濃度で存在し、そしてヒアルロン酸塩に基づく粘弾物質が約3%の重量濃度を有するヒアルロン酸ナトリウム水溶液である、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記組成物が、硝子体網膜手術において硝子体置換物として使用される、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物が、関節内治療のための関節内注射をとおして投与される、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
関節内治療を行う方法であって、3種の天然ポリマーの粘弾性組成物を治療部位に導入し、ここで、当該3種の天然ポリマーの粘弾性組成物が以下の:
ヒアルロン酸塩に基づく粘弾性物質;
硫酸グルコサミン;及び
コンドロイチン硫酸
を含む、前記方法。
【請求項12】
前記ヒアルロン酸塩に基づく粘弾物質が、750,000ダルトンを超える平均分子量を有し、かつ1%〜3%の重量濃度を有するヒアルロン酸ナトリウム水溶液である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記コンドロイチン硫酸が、約0.1〜約7%の重量濃度で存在する、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記コンドロイチン硫酸の濃度が、約2重量%であり、そして当該コンドロイチン硫酸が、約20,000〜約80,000ダルトンの平均分子量を有する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記コンドロイチン硫酸の濃度が、約4重量%であり、そして当該コンドロイチン硫酸が、約20,000〜約80,000ダルトンの平均分子量を有する、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記硫酸グルコサミンが、約1%〜約5.0%の重量濃度で存在する、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
前記硫酸グルコサミンが、約4%の重量濃度で存在する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記コンドロイチン硫酸が、約4%の重量濃度で存在し、前記硫酸グルコサミンが約1〜約4%の重量濃度で存在し、そしてヒアルロン酸塩に基づく粘弾物質が約3%の重量濃度を有するヒアルロン酸ナトリウム水溶液である、請求項11に記載の方法。
【請求項19】
前記組成物が、関節内注射により治療部位に導入される、請求項11に記載の方法。
【請求項20】
以下の:
水性注入溶液;
硫酸グルコサミン;及び
コンドロイチン硫酸
を含む、ポリマー注入組成物。
【請求項21】
前記水性注入溶液が、BSS及びBSS Plusからなる群から選ばれる滅菌水性注入溶液である、請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
前記コンドロイチン硫酸が、約0.1〜約7%の重量濃度で存在する、請求項20に記載の組成物。
【請求項23】
前記コンドロイチン硫酸の濃度が、約2重量%〜約5重量%であり、そして当該コンドロイチン硫酸が、約20,000〜約80,000ダルトンの平均分子量を有する、請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
前記硫酸グルコサミンが、約1%〜約5.0%の重量濃度で存在する、請求項20に記載の組成物。
【請求項25】
前記組成物が、眼科手術において注入溶液として使用される、請求項20に記載の組成物。
【請求項26】
眼科手術を行う方法であって、眼にポリマー注入組成物を染み込ませることを含み、ここで当該ポリマー注入溶液が以下の:
水性注入溶液;
硫酸グルコサミン;及び
コンドロイチン硫酸
を含む、前記方法。
【請求項27】
前記水性注入溶液が、BSS及びBSS Plusからなる群から選ばれる滅菌水性注入溶液である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記コンドロイチン硫酸が、約0.1〜約7%の重量濃度で存在する、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
前記コンドロイチン硫酸の濃度が、約2重量%〜約5重量%であり、そして当該コンドロイチン硫酸が、約20,000〜約80,000ダルトンの平均分子量を有する、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記硫酸グルコサミンが、約1%〜約5.0%の重量濃度で存在する、請求項26に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2008−520392(P2008−520392A)
【公表日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−543461(P2007−543461)
【出願日】平成17年11月22日(2005.11.22)
【国際出願番号】PCT/US2005/042523
【国際公開番号】WO2006/058109
【国際公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【出願人】(501449322)アルコン,インコーポレイティド (140)
【Fターム(参考)】