説明

天然大理石様結晶化ガラス、天然大理石様結晶化ガラス物品及びその製造方法

【課題】ZnO原料を削減して費用低減を図り、熱処理温度を抑制し、従来同様の天然大理石様結晶化ガラス、その結晶化ガラス物品及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本結晶化ガラスは、LiO及びBaOを必須成分とし、質量比でZnO/(BaO+MgO+SrO)が0.6以下、CaO/SiOが0.1〜0.5、(BaO+MgO+SrO)/CaOが0.3〜2.0、(LiO+NaO+KO)/CaOが0.1〜0.8の組成を含有し、軟化点より高温の熱処理によりβ−ウォラストナイトを析出し、結晶量が5〜50質量%である。また、本結晶化ガラス物品は、上記組成の結晶性ガラス小体が、熱処理されて表面から内部に向けて針状結晶が析出し、互いに融着されてなる。さらに本製造方法は、耐火性容器内に上記結晶性ガラス小体を収容し、熱処理により自由表面を平滑面にして結晶化ガラス物品を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶化ガラスに関し、特に、建築物の内外装材に使用される天然大理石様結晶化ガラス、天然大理石様結晶化ガラス物品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天然大理石模様を呈する結晶化ガラスは、化学的耐久性、機械的強度の特性に優れており、当初は主に天然石の代わりとして使用されていたが、色調と肌理の自由度が高く、自然には存在しない美しい外観を呈することから、現在ではデザイン性を追求する多くの建築物の内装材や外装材に使用されている。
【0003】
この種の結晶化ガラスとして、特許文献1〜4には結晶性ガラスを熱処理することにより、主結晶としてβ−ウォラストナイト(CaO・SiO)を析出してなる天然大理石様結晶化ガラスが開示されている。
【0004】
特許文献1には、質量%で、SiO 50〜75%、Al 1〜15%、CaO 6〜16%、LiO 0.1〜5%、B 0〜1.5%、CaO+LiO+B 10〜17.5%、ZnO 2.5〜12%、BaO 0〜12%、NaO+KO 0.1〜15%の組成を含有し、主結晶としてβ−ウォオラストナイトを析出してなる天然大理石様結晶化ガラスが開示されている。この天然大理石様結晶化ガラスは、生産性の向上を目的として色調安定性に優れたものになっている。
【0005】
また、特許文献2には、質量%で、SiO 45〜77%、Al 1〜25%、CaO 2〜25%、ZnO 0〜18%、BaO 0〜20%、NaO 1〜15%、KO 0〜7%、LiO 0〜5%、B 0〜1.5%、CeO 0.01〜0.5%、SO 0.01〜0.5%の組成を含有し、主結晶としてβ−ウォラストナイトを析出してなる天然大理石様結晶化ガラスが開示されている。この天然大理石様結晶化ガラスは、AsやSbを含有することなく、従来品と同等以上の白色度を有するものになっている。
【0006】
さらに、特許文献3には、質量%で本質的にSiO 48〜68%、CaO 6〜22%、RO 5〜22%、Al 0.5〜17%、MgO 0.2〜8%、B 0〜6%、ZnO 0〜9%、BaO 0〜8%、但しZnO+BaO<15%、着色酸化物0〜10%からなるガラスを熱処理し、主結晶としてβ−ウォラストナイトを析出してなる結晶化ガラスの製造方法が開示されている。この結晶化ガラスは、熱処理後の結晶化ガラスの曲げ加工性を容易にしたものとなっている。
【0007】
また、特許文献4には、結晶化ガラス表面のL*a*b*表色系色度における色座標a*及びb*が±1.0以下であって、かつL*が93.5以上であることを特徴とする天然大理石様結晶化ガラスが開示されている。この結晶化ガラスはFeの含有量を200ppm以下に制御して、結晶化ガラス表面の白色度を向上させたものである。
【0008】
また、特許文献5には、模様付き結晶化ガラス物品及びその製造方法が開示されている。この結晶化ガラス物品は結晶性ガラス板を任意の形状に切り取り、その切り取り面であるガラスの外周端面同士を密着させて様々な模様を付けた模様付き結晶化ガラスとなっている。
【0009】
また、特許文献6には、一般廃棄物の焼却灰等に含有する化学組成を利用し、重量%でSiO 39〜58%、CaO 8〜24% (NaO+KO+LiO) 8〜17% (F+B+BaO+ZnO等) 3〜9%を含有したガラスに調整して熔融・熱処理する着色結晶化ガラスの製造方法が開示されている。この着色結晶化ガラスは一般廃棄物の焼却灰等を有効利用して比較的低温で熔融・熱処理で製造できることを特徴としている。
【特許文献1】特開平6−247744号公報
【特許文献2】特開平9−295831号公報
【特許文献3】特開平3−164446号公報
【特許文献4】特開2007−77001号公報
【特許文献5】特開2007−91575号公報
【特許文献6】特開平8−310834号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
近年、建築の多様化に伴って種々の外観を呈する建築材料が開発され、結晶化ガラスからなる建築材料においても、上記に示したような従来からある色調で天然大理石模様を呈するだけではなく、低価格化も要求されている。ところがガラス原料である特定の鉱物価格が急激に上昇してきており、製造費を押し上げる要因となっている。そのため、製造費の低減を目的とした原料バッチの費用低減化が課題の一つとなっている。従来の結晶化ガラスの原料には、結晶化工程における熱処理温度の上昇を抑制する目的でZnO原料が使用されているが、ZnO原料はバッチ費用の約半分を占める高価な原料であるため、ガラス製品の原価に大きな影響を与えている。
【0011】
特許文献2、4、5に開示された天然大理石様結晶化ガラスはいずれもZnOを比較的多量に含有しているため、ガラス原価は高くなる。また、ZnO原料を削減すると、結晶化工程の熱処理温度が高くなるため、燃料費の増大と、熱処理設備の短命化を引き起こし、その結果、運転費用や設備費用が増加するという問題が生じる。
【0012】
また、特許文献1、3及び6にはZnOを含有しないか、比較的含有量が少ない結晶化ガラスの開示はあるが、特許文献3に記載のZnOを含有しないものはNaOを20%含有し、析出結晶もβ−ウォラストナイトではなくデビトライトであるので耐候性の点で建材として不適である。また、ZnOの含有量が比較的少ないβ−ウォラストナイトを析出するものは屈伏点が700°を超える高温であるので、結晶化工程の熱処理温度が高くなり、かつ得られた結晶化ガラスの板状体は加熱により曲げ加工を施すことが困難であるという問題がある。また、特許文献1及び6に記載の天然大理石様結晶化ガラスはZnOの含有量に対してBaO、MgO、SrO等のアルカリ土類金属酸化物の含有量が少ないので、非晶質ガラス相の粘性が上がる傾向になり、結晶化工程により得られる天然大理石様結晶化ガラス物品の意匠面に所定の平滑性を得難くなる問題がある。
【0013】
本発明の課題は、上記の事情に着目し、従来の天然大理石様結晶化ガラスよりも原料バッチ費用の低減を図りつつ、ZnO原料の添加量を削減することによる熱処理温度の上昇を抑制し、従来品と同様の色調及び特性を有する天然大理石様結晶化ガラス、この結晶化ガラスを使用した天然大理石様結晶化ガラス物品及びその効率よい製造を可能にする製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は、LiO及びBaOを必須成分とし、成分の質量比でZnO/(BaO+MgO+SrO)が0.6以下、CaO/SiOが0.1〜0.5、(BaO+MgO+SrO)/CaOが0.3〜2.0、(LiO+NaO+KO)/CaOが0.1〜0.8の組成を含有すると、成分としてZnOを多く含有させなくても、結晶化工程の熱処理温度の上昇を抑制し、従来品と同様の色調及び特性を有する天然大理石様結晶化ガラス物品が得られることを見出した。
【0015】
すなわち、本発明の天然大理石様結晶化ガラスは、軟化点よりも高い温度の熱処理により主結晶としてβ−ウォラストナイトを析出する天然大理石様結晶化ガラスであって、LiO及びBaOを必須成分とし、成分の質量比でZnO/(BaO+MgO+SrO)が0.6以下、CaO/SiOが0.1〜0.5、(BaO+MgO+SrO)/CaOが0.3〜2.0、(LiO+NaO+KO)/CaOが0.1〜0.8の組成を含有し、結晶量が5質量%以上50質量%以下であることを特徴とする。
【0016】
本発明においては、LiO及びBaOを必須成分するため、従来よりもZnO原料の添加量を削減することにより原料バッチ費用の低減を図り、かつ結晶化工程の熱処理温度の上昇を抑制することが可能である。
【0017】
また、成分の質量比でZnO/(BaO+MgO+SrO)が0.6以下であると、BaO、MgO、SrOの何れかを一定量含有するため、結晶化工程により得られる天然大理石様結晶化ガラス物品の意匠面に所定の平滑性を確保することが可能となる。BaO+MgO+SrOの含有量に対してZnOの含有量が0.6以下であると、従来のようにZnOを多く含有させなくても、結晶化工程の熱処理温度の上昇を抑制することができる。
【0018】
また、成分の質量比でCaO/SiOが0.1〜0.5の組成を含有するため、天然大理石様結晶化ガラス物品に適切なβ−ウォラストナイトの析出量を得ることが可能となる。すなわち、CaO/SiOが0.1未満であると結晶の析出量が不足して、建築材料に要求される機械的強度が不足して実用に耐えなくなる。一方、CaO/SiOが0.5を超えると結晶が過剰に析出して、結晶化工程において所定の平滑性を得ることができなくなる。熱処理温度の最適化と結晶化ガラスの機械的強度及び結晶化工程における結晶化ガラスの平滑性とのバランスを考慮すると、CaO/SiOが0.15〜0.3であることが好ましい。
【0019】
さらに、成分の質量比で(BaO+MgO+SrO)/CaOが0.3〜2.0の組成を含有するため、天然大理石様結晶化ガラス物品の結晶量とガラス相の粘性とのバランスをとることが可能となる。すなわち、(BaO+MgO+SrO)/CaOが0.3未満であると非晶質ガラス相の粘性が上がるため、結晶化工程において天然大理石様結晶化ガラス物品の意匠面に所定の平滑性を得ることができなくなる。一方、質量比が2.0を超えるとガラス相の粘性が下がるため、結晶化工程において発泡して、表面に無数の発泡が現れる。また、熱処理温度の最適化と結晶化工程における天然大理石様結晶化ガラス物品の平滑性及び泡などの表面欠陥ない状況とのバランスを考慮すると、(BaO+MgO+SrO)/CaOが0.4〜1.6であることが好ましい。
【0020】
また、成分の質量比で(LiO+NaO+KO)/CaOが0.1〜0.8の組成を含有するため、析出する結晶量と非晶質ガラス相の粘性とのバランスをとることが可能となる。(LiO+NaO+KO)/CaOが0.1未満であると、ガラス相の粘性が上がるため、結晶化工程において天然大理石様結晶化ガラス物品の意匠面に所定の平滑性を得ることができなくなる。一方、0.8を超えると結晶物の熱膨張係数が大きくなり、天然大理石様結晶化ガラス物品が建築材料として実用に耐えなくなる。天然大理石様結晶化ガラス物品の意匠面の平滑性と熱膨張係数のバランスを考慮すると、(LiO+NaO+KO)/CaOが0.3〜0.6であることが好ましい。
【0021】
また、本発明においては、結晶量が5質量%以上50質量%以下であるため、結晶化工程の熱処理温度の適正化と、建築材料として天然大理石様結晶化ガラス物品に要求される性能を満足する。主結晶として析出する針状のβ−ウォラストナイト他の結晶量が5質量%未満であると、結晶量が不足するため、建築材料の壁材として要求される反射率、すなわち光学特性としての白色度の低下と機械的強度を満足できなくなる。一方、結晶量が50質量%を超えると、結晶量が多すぎるために結晶化工程の熱処理における非晶質ガラス相の流動が阻害される。そのため、天然大理石様結晶化ガラス物品の意匠面に所定の表面平滑性を得ようとする場合には、熱処理温度を上昇させる必要が生じる。結晶化工程の熱処理温度の最適化と天然大理石様結晶化ガラス物品の機械的強度及び結晶化工程における天然大理石様結晶化ガラス物品の意匠面の平滑性とのバランスを考慮すると、結晶量としては5質量%以上45質量%以下であることが好ましい。
【0022】
また、本発明の天然大理石様結晶化ガラスは、質量百分率表示でSiO 45〜75%、Al 1〜25%、CaO 5〜25%、ZnO 0〜4%、BaO 2〜20%、MgO 0〜3%、SrO 0〜5%、NaO 1〜15%、KO 0〜7%、B 0〜5%、CeO 0〜0.5%、SO 0〜0.5%、Sb 0〜1% As 0〜1%、LiO 0.05〜3%の組成を含有することを特徴とする。
【0023】
本発明の天然大理石様結晶化ガラスにおいて、各成分の含有量を限定した理由を以下に述べる。
【0024】
SiOはβ−ウォラストナイトの成分であり、その含有量は45〜75%、好ましくは50〜70%である。SiOが75%より高いと結晶性ガラスの熔融温度が高くなるとともに、粘度が増大して熱処理時の流動性が悪くなる。一方、45%より少ないと成型時の失透性が強くなる。
【0025】
Alは失透を抑制する成分であり、その含有量は1〜25%、好ましくは3〜15%である。Alが25%より多いと結晶性ガラスの熔解性が悪くなるとともに異種結晶(アノーサイト)が析出し熱処理時の流動性が悪くなり、1%より少ないと失透性が強くなり化学的耐久性も低下する。
【0026】
CaOはβ−ウォラストナイトの成分であり、その含有量は5〜25%、好ましくは8〜20%である。CaOが25%よりも多いと失透性が強くなり成形が困難となり、又β−ウォラストナイトの析出量が多くなり過ぎて所望の表面平滑性が得難くなる。一方、5%より少ないとβ−ウォラストナイトの析出量が少なくなり過ぎて機械的強度が低下し、建材として実用に耐えられなくなる。
【0027】
ZnOは、結晶性ガラスの流動性を促進するために添加する成分であるが、ガラス原料費を抑えるためには含有量は4%以下であることが重要であり、好ましくは1.8%以下、さらに好ましくは本質的に含有しないこと(ただし製造工程等から不純物として混入する1000ppm以下のZnOの含有は許容する)である。
【0028】
BaOは天然大理石様結晶化ガラス物品を得る結晶化工程時の結晶性ガラスの流動性を促進するために添加する成分であり、含有量は2〜20%であり、好ましくは4〜15%であり、さらに好ましくは6〜14%である。BaOは、結晶性ガラスの熔解性や流動性を促進させる成分であり2%未満であると、結晶性ガラスの粘性が増大して熱処理時の表面平滑性が得難くなる。一方、BaOも20%より多いとβ−ウォラストナイトの析出量が少なくなる。このBaOは、ZnOの減少分を補足する成分でもある。
【0029】
MgOは結晶性ガラスの熔解性や流動性を促進させる成分であり、その含有量は0〜3%である。MgOが3%より多くなるとMg系の異種結晶を析出するため、流動性を阻害し、特性上も好ましくない。
【0030】
SrOは結晶性ガラスの熔解性や流動性を促進させる成分であり、その含有量は0〜5%である。SrOが5%より多くなるとSr系の異種結晶を析出するため、流動性を阻害し、特性上も好ましくない。
【0031】
NaOは結晶性ガラスの粘性を低下させるアルカリ成分であり、その含有量は1〜15%、好ましくは1〜10%である。NaOが15%よりも多いと化学的耐久性が悪くなり、膨張係数が高くなるために建材として好ましくない。1%より少ないと結晶性ガラスの粘性が増大して熔解性や流動性が悪くなる。
【0032】
Oは結晶性ガラスの粘性を低下させるアルカリ成分であり、その含有量は0〜7%、好ましくは0〜5%である。KOが7%より多いと化学的耐久性が低下する。
【0033】
LiOは結晶化工程時の結晶化速度を速める効果と結晶性ガラスの流動性を促進する効果がある成分であり、その含有量は0.05〜3%である。これらの効果を安定させる上で、好ましくは0.1〜3%であり、さらに好ましくは0.2〜1%である。LiOが3%より多いと、熱膨張係数が大きくなり、化学的耐久性が低下し、粘性も低下する。粘性の低下は流動性の改善に寄与するが、熱処理工程において泡の残留を引き起こす。このLiOは、ZnOに代替する成分でもある。
【0034】
は結晶化ガラスの熱膨張係数を変化させずに結晶性ガラスの粘性を低下させる成分であり、その含有量は0〜5%、好ましくは0〜3%である。Bが5%より多いと天然大理石様結晶化ガラス物品に硼酸系の異種結晶が析出し、流動性を阻害し、特性上も好ましくない。
【0035】
SOは清澄剤として機能する成分であり、その含有量は0〜0.5%、好ましくは0.02〜0.3%である。SOが0.5%より多いと熔融ガラス中の発泡が多すぎ、結晶化ガラスに気泡が残留し、天然大理石様結晶化ガラス物品に硫化物系の異種結晶が析出し、流動性を阻害し、特性上も好ましくない。
【0036】
CeOは清澄剤としてのAs又はSbの添加が環境上好ましくないことから、As又はSbの何れかあるいはそれらの合量としての含有量が0.1%以下の場合における天然大理石様結晶化ガラス物品の白色度の急減を抑制するために使用する成分であり、CeOの含有量は0〜0.5%、好ましくは0.05〜0.3%である。さらにCeOは、還元雰囲気熔融において不純物として含有するFeによるFe2+の発色を抑制し、特にSO(芒硝)と共存する場合には発色抑制効果が顕著に現れる。CeOが0.5%より多いとCe4+による褐色着色が強く現れるようになる。
【0037】
As又はSbは清澄剤として機能する成分であるが、0.1%以下では清澄効果が低下するので、0.1〜0.5%が適量ではあるが、0.5%を超える使用は環境上好ましくない。
【0038】
また、本発明の天然大理石様結晶化ガラスは、LiOとBaOの合量が4.1〜18%の組成を含有することを特徴とする。
【0039】
本発明では、LiOとBaOの合量が4.1〜18%であることが、ZnOを4%以下としたときに天然大理石様結晶化ガラスの屈伏温度Tfの上昇を抑制することができるため好ましい。LiOとBaOの合量が4.1%未満であると、屈伏温度Tfが上昇するので、それにともない結晶化工程の熱処理温度も上昇する。一方、18%を超えるとβ−ウォラストナイトの析出量が少なくなる。安定した意匠面の平滑性及び針状β−ウォラストナイトの好適な析出量を実現する上で、LiOとBaOの合量のより好ましい範囲は、7%を超え、14%以下である。
【0040】
さらに、本発明の天然大理石様結晶化ガラスは、屈伏温度Tfが680℃以下であることを特徴とする。
【0041】
天然大理石様結晶化ガラスの屈伏温度Tfが680℃を超えると、熱処理による天然大理石様結晶化ガラス板の曲げ加工において曲率半径Rを300mm以下に加工する場合に得られる曲げ加工品の曲率精度が低下する。また、加熱処理による曲げ加工において、通常よりも高温下で金属型材を使用すると、金属型材の劣化及び変形を促進することになり、結果的に加工コストが上昇するので好ましくない。
【0042】
本発明に係る天然大理石様結晶化ガラス物品は、LiO及びBaOを必須成分とし、成分の質量比でZnO/(BaO+MgO+SrO)が0.6以下、CaO/SiOが0.1〜0.5、(BaO+MgO+SrO)/CaOが0.3〜2.0、(LiO+NaO+KO)/CaOが0.1〜0.8の組成を含有する結晶性ガラス小体の複数個が、軟化点より高い温度で熱処理されて、表面から内部に向けて主結晶として針状のβ−ウォラストナイトが析出しており、結晶量が5質量%以上50質量%以下であり、かつ軟化変形により互いに融着していることを特徴とする。
【0043】
本発明の天然大理石様結晶化ガラス物品では、上記本発明の天然大理石様結晶化ガラスの組成を含有する結晶性ガラス小体の多数個が、軟化点より高い温度で熱処理されて軟化変形しながら互いに融着し、それらの各結晶性ガラス小体の表面から内部に向かって針状のβ−ウォラストナイトを析出してなり、その結晶量が5質量%以上50質量%以下である。そのため、熱処理の際の自由表面は、平滑面になっている。
【0044】
次に本発明の天然大理石様結晶化ガラス物品の製造方法について説明する。
【0045】
本発明に係る天然大理石様結晶化ガラス物品の製造方法は、耐火性容器内に、LiO及びBaOを必須成分とし、成分の質量比でZnO/(BaO+MgO+SrO)が0.6以下、CaO/SiOが0.1〜0.5、(BaO+MgO+SrO)/CaOが0.3〜2.0、(LiO+NaO+KO)/CaOが0.1〜0.8の組成を含有する多数の結晶性ガラス小体を収容し、該結晶性ガラス小体を軟化点よりも高い温度で熱処理することにより、結晶性ガラス小体の表面から主結晶として針状のβ‐ウォラストナイトを析出させながら、該結晶性ガラス小体を軟化変形させて互いに融着させ、且つ自由表面を平滑面にすることにより、結晶化ガラス焼成体を形成することを特徴とするものである。
【0046】
本発明の天然大理石様結晶化ガラス物品の製造方法では、上記に示した組成範囲を有する結晶性ガラスを得るようにガラス原料を調合し、熔融して、得られた結晶性ガラス小体を、軟化点よりも高い温度の熱処理により主結晶としてβ−ウォラストナイトを析出してなるため、結晶化工程における熱処理温度の適正化と、建築材料として天然大理石様結晶化ガラス物品に要求される性能を満足することが可能となる。ガラス原料としては、珪砂や長石、スポジュメンを原料選択することが原料費用を低減する上で好ましい。そして、先記した組成になるように調合したガラスバッチを熔融し、ガラス化した後に水砕等により結晶性ガラス小体を作製する。次いで耐火性の型枠内に結晶性ガラス小体を集積し、軟化点より高い温度で熱処理すると、各結晶性ガラス小体が融着一体化するとともに、各結晶性ガラス小体の表面から内部に向かって針状のβ‐ウォラストナイトが析出し、結晶化が終了する。その結晶物は従来品と同様の色調その他の光学特性、耐光性等の化学的特性及び機械的特性を有する天然大理石様結晶化ガラス物品を実現することができる。
【発明の効果】
【0047】
本発明の天然大理石様結晶化ガラスは、軟化点よりも高い温度の熱処理により主結晶としてβ−ウォラストナイトを析出する天然大理石様結晶化ガラスであって、LiO及びBaOを必須成分とし、成分の質量比でZnO/(BaO+MgO+SrO)が0.6以下、CaO/SiOが0.1〜0.5、(BaO+MgO+SrO)/CaOが0.3〜2.0、(LiO+NaO+KO)/CaOが0.1〜0.8の組成を含有し、結晶量が5質量%以上50質量%以下であるので、ZnO原料の添加量を削減することによる熱処理温度の上昇を、LiO及びBaOを上記範囲で添加することにより抑制し、従来品と同様の特性と高級感のある色調を得ることができるため、厨房・テーブルトップの内装材や外装材として好適である。また、本発明の天然大理石様結晶化ガラスは、680℃以下の屈伏温度Tfを実現することで、従来と同様の加熱温度条件による曲げ加工も可能となる。さらに、ZnO原料の添加量を削減することにより、大幅な原料費用の低減を図ることができる。
【0048】
本発明の天然大理石様結晶化ガラス物品は、LiO及びBaOを必須成分とし、成分の質量比でZnO/(BaO+MgO+SrO)が0.6以下、CaO/SiOが0.1〜0.5、(BaO+MgO+SrO)/CaOが0.3〜2.0、(LiO+NaO+KO)/CaOが0.1〜0.8の組成を含有するガラス小体の複数個が、軟化点より高い温度で熱処理されて、表面から内部に向けて主結晶として針状のβ−ウォラストナイトが析出しており、結晶量が5質量%以上50質量%以下であり、かつ軟化変形により互いに融着しているので、従来品と同様の特性と高級感のある色調を有し、安価な厨房・テーブルトップの内装材や外装材を実現することができる。
【0049】
また、本発明の天然大理石様結晶化ガラス物品の製造方法は、耐火性容器内に、耐火性容器内に、LiO及びBaOを必須成分とし、成分の質量比でZnO/(BaO+MgO+SrO)が0.6以下、CaO/SiOが0.1〜0.5、(BaO+MgO+SrO)/CaOが0.3〜2.0、(LiO+NaO+KO)/CaOが0.1〜0.8の組成を含有する複数の結晶性ガラス小体を収容し、該結晶性ガラス小体を軟化点よりも高い温度で熱処理をすることにより、結晶性ガラス小体の表面から主結晶として針状のβ−ウォラストナイトを析出させながら、該結晶性ガラス小体を軟化変形させて互いに融着させ、且つ50〜95%の非晶質ガラス成分を十分に流動させることにより自由表面を平滑面に仕上げ、結晶化ガラス焼成体を形成するので、上記本発明の主結晶として析出する針状のβ−ウォラストナイト他の結晶量が5質量%以上50質量%以下で且つ高級感の有る天然大理石様結晶化ガラス物品を効率よく製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
以下、本発明に係る実施例及び比較例に基づいて、本発明を説明する。
【実施例】
【0051】
表1に、成分としてZnOを含まない本発明の実施例1〜7と、少量のZnOを含有する実施例8及び9を示す。実施例1は基本組成である。実施例2は実施例1のBaOの2%をMgOに置換している。実施例3は実施例1のBaOの2%をSrOに置換している。実施例4は実施例1に対してSiOとCaOをそれぞれ1%置換している。実施例5及び6は実施例2のMgO成分を0%にして、主としてLiO成分を0.5%からそれぞれ−0.2%、+0.3%としたものである。実施例7は実施例1〜6よりもCaOを少なくして、結晶析出量を抑制して透光性を向上させたものである。実施例8及び9は、実施例1のBaOをそれぞれ1.8%及び4%のZnOに置換したものである。また表中の原料費用比は表2の比較例1の原料費用を100とした場合に対して比較換算した比率を示すものである。
【0052】
各試料は次のようにして調製した。まず、表1の組成になるように珪砂、長石、酸化アルミ又は水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、ソーダ灰、炭酸カリウム、スポジュメン又は炭酸リチウム、硝酸ソーダ、酸化アンチモンを調合し、1550℃の温度で12時間熔融した。次いで熔融ガラスを水砕し、乾燥、分級して粒径1〜5mmの結晶性ガラス小体を得た。続いてこの結晶性ガラス小体を、内壁にアルミナ粉が塗布された耐火性の型枠内に集積して電気炉内に入れ、120℃/Hrの速度で昇温し、1050〜1150℃で1時間保持することによって、各結晶性ガラス小体を互いに融着一体化させるとともに結晶化させた。その後この天然大理石様結晶化ガラス試料を用いて、30〜380℃の温度範囲における膨張係数、ガラス転移温度及び屈伏温度をDILATO法により評価した。またこの天然大理石様結晶化ガラス試料を曲率半径が300mmのR形状の金属製型枠に設置して800℃の温度で再加熱して曲げ加工性を評価した。結晶量についてはX線回折にて、ハロー法または、多重分離法により評価した。その結果を表1に示した。
【0053】
【表1】

【0054】
表2に比較例1〜6を示す。成分のZnO及びLiOに着目すると、比較例1、3、4及び6の試料はLiOを含有せず、4%を超えるZnOを含有しており、本件発明の範囲外である。比較例2の試料は4%を超えるZnOとLiOの両方を含有しており、本件発明の範囲外である。また、比較例の1〜4及び6の各試料はZnO/(BaO+MgO+SrO)が0.61〜1.61であり、この点においても本件発明の範囲外である。比較例5の試料はZnO/(BaO+MgO+SrO)が0ではあるが、LiOを含有せず、本件発明の範囲外であり、ZnOも含有していないため屈伏温度Tfが730℃と高温になっている。
【0055】
比較例1〜6の各試料は、実施例と同様の手順により特性の調査を行った。
【0056】
【表2】

【0057】
表1から明らかなように、実施例1〜9の各試料はZnOの添加量を0〜4%にすることにより、比較例1の試料に比べて原料費用が実施例1〜7の試料では70%程度であり、実施例8の試料では80%、実施例9の試料では92%に低減している。一方、ZnO/(BaO+MgO+SrO)は、0〜0.60であり、結晶量及び熱処理温度は比較例と同等であり、屈伏温度が680℃以下であるため、曲げ加工が可能である。
【0058】
一方、表2から明らかなように、比較例1、3及び5の各試料は、屈伏温度Tfが680℃を超えているため、加熱により天然大理石様結晶化ガラスの板状試料の曲げ加工を行うことができなかった。また比較例2、4及び6の各試料は曲げ加工性は有するものの、ZnOを含まない実施例1〜7の試料に対して原料費用比が約1.5倍と劣るものであった。
【0059】
本発明の天然大理石様結晶化ガラス物品の一例は、実施例1の組成を含有するガラス小体の多数個が、軟化点より高い温度で熱処理されて軟化融着すると共に、表面から内部に向かって針状のβ−ウォラストナイトが析出して、結晶量が約33質量%になっており、900mm×1200mm×厚さ15mmの寸法を有する壁面用の化粧板(図示省略)であり、意匠面に従来品と同様の光学特性と高級感のある天然大理石様の白色の色調を実現している。また、本天然大理石様結晶化ガラスの化粧板は、屈伏温度Tfが640℃であるため、加熱により容易に曲げ加工を施すことが可能である。
【0060】
本発明の天然大理石様結晶化ガラス物品の他の一例は、実施例6の組成を含有し、屈伏温度Tfが640℃であり、結晶量が約33質量%で、加熱により曲げ加工が施されて平面形状は曲率半径Rが300mmで歪みのない1/4の円形に仕上げられており、高さが900mm、厚さが15mmの寸法を有する円柱状壁面用の化粧板(図示省略)である。本化粧板は、着色により色調がライトグレーで、意匠面に従来品と同様の光学特性と高級感のある天然大理石模様を実現している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟化点よりも高い温度の熱処理により主結晶としてβ−ウォラストナイトを析出する天然大理石様結晶化ガラスであって、
LiO及びBaOを必須成分とし、成分の質量比でZnO/(BaO+MgO+SrO)が0.6以下、CaO/SiOが0.1〜0.5、(BaO+MgO+SrO)/CaOが0.3〜2.0、(LiO+NaO+KO)/CaOが0.1〜0.8の組成を含有し、結晶量が5質量%以上50質量%以下であることを特徴とする天然大理石様結晶化ガラス。
【請求項2】
ZnOの含有量が質量百分率表示で4%以下であることを特徴とする請求項1に記載の天然大理石様結晶化ガラス。
【請求項3】
ZnOを本質的に含有しないことを特徴とする請求項1に記載の天然大理石様結晶化ガラス。
【請求項4】
質量百分率表示でSiO 45〜75%、Al 1〜25%、CaO 5〜25%、ZnO 0〜4%、BaO 2〜20%、MgO 0〜3%、SrO 0〜5%、NaO 1〜15%、KO 0〜7%、B 0〜5%、CeO 0〜0.5%、SO 0〜0.5%、Sb 0〜1% As 0〜1%、LiO 0.05〜3%の組成を含有することを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載の天然大理石様結晶化ガラス。
【請求項5】
LiOとBaOの合量が4.1〜18%の組成を含有することを特徴とする請求項1から請求項4の何れかに記載の天然大理石様結晶化ガラス。
【請求項6】
屈伏温度Tfが680℃以下であることを特徴とする請求項1から請求項5の何れかに記載の天然大理石様結晶化ガラス。
【請求項7】
LiO及びBaOを必須成分とし、成分の質量比でZnO/(BaO+MgO+SrO)が0.6以下、CaO/SiOが0.1〜0.5、(BaO+MgO+SrO)/CaOが0.3〜2.0、(LiO+NaO+KO)/CaOが0.1〜0.8の組成を含有する結晶性ガラス小体の複数個が、軟化点より高い温度で熱処理されて、表面から内部に向けて主結晶として針状のβ−ウォラストナイトが析出しており、結晶量が5質量%以上50質量%以下であり、かつ軟化変形により互いに融着していることを特徴とする天然大理石様結晶化ガラス物品。
【請求項8】
ZnOの含有量が質量百分率表示で4%以下であることを特徴とする請求項7に記載の天然大理石様結晶化ガラス物品。
【請求項9】
ZnOを本質的に含有しないことを特徴とする請求項7に記載の天然大理石様結晶化ガラス物品。
【請求項10】
耐火性容器内に、LiO及びBaOを必須成分とし、成分の質量比でZnO/(BaO+MgO+SrO)が0.6以下、CaO/SiOが0.1〜0.5、(BaO+MgO+SrO)/CaOが0.3〜2.0、(LiO+NaO+KO)/CaOが0.1〜0.8の組成を含有する複数の結晶性ガラス小体を収容し、該結晶性ガラス小体を軟化点よりも高い温度で熱処理をすることにより、結晶性ガラス小体の表面から主結晶として針状のβ−ウォラストナイトを析出させながら、該結晶性ガラス小体を軟化変形させて互いに融着させ、且つ自由表面を平滑面にすることにより、結晶化ガラス焼成体を形成することを特徴とする天然大理石様結晶化ガラス物品の製造方法。
【請求項11】
結晶性ガラス小体におけるZnOの含有量が質量百分率表示で4%以下であることを特徴とする請求項10に記載の天然大理石様結晶化ガラス物品。
【請求項12】
結晶性ガラス小体がZnOを本質的に含有しないことを特徴とする請求項10に記載の天然大理石様結晶化ガラス物品。

【公開番号】特開2009−73726(P2009−73726A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−216063(P2008−216063)
【出願日】平成20年8月26日(2008.8.26)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】