説明

天然物を用いる食品害虫忌避剤

【課題】天然物を有効成分とする新たな食品害虫忌避剤の提供。
【解決手段】カネルシナモン、タマリンド、およびブラックベルガモットの1種類以上を有効成分として含む食品害虫忌避剤。これらは持続性のある忌避活性を示し、ワックス、ゲル、ニス、ペンキまたは印刷用インクの形態で使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然物、より詳しくはカネルシナモン、タマリンド、およびブラックベルガモットの1種類以上を有効成分として含む食品害虫忌避剤および忌避方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品害虫は食品を食べて生活する害虫であって、ゴキブリ類、ハエ類、メイガ類、イガ類、コクヌスト類、コクゾウムシ類、チャタテムシ類、シバンムシ類等がいる。特にゴキブリは、約3億年の昔からほとんど姿を変えずに、その並外れた生命力で現在に至るまで生き残っている為「生きた化石」と言われるほどである。その大部分の種は森の中で生息している為、人間の生活領域で見かけることはない。しかし、旺盛な適応力を兼ね備えた一部の種は、人間の生活領域にまで進出して我々の前に姿を現す。さらに、現在では暖房設備が整っている為、本来ならば熱帯に生息しているものも温帯で繁殖できるようになってきている。また最近では、医療等で使用される高カロリー食品のパックやケースにダニが発生するケースが報告されている。しかし、このように益々身近に生息するようになった食品害虫を完全に駆除する方法は未だない。
【0003】
ゴキブリなど食品害虫はその名称の通り食品につく。そして、食品のたくさんある台所を好む。したがって、有毒な薬剤を用いての駆除は人体への影響を考えると避けなければならない。これらの事を考慮すると、忌避剤を用いて害虫を忌避させる方法が最も効果的である。この観点から、実際、様々な忌避剤が提案されてきた。例えば、松、桧、樟脳などの植物精油が食品害虫に対する忌避活性を有する天然物質として挙げられる。これらには、忌避活性成分であるテルペン類が含まれており、その中でも、とりわけセスキテルペン類のElemol、β-Eudesmol、β-Vetivonなどの食品害虫類に対する忌避活性が報告されている。(特許文献1参照)。また、香料として用いられている天然精油のコパイバオイルおよび/またはカリオフィレンの食品害虫忌避活性も開示されている。(特許文献2参照)
【特許文献1】特開平8−81306号
【特許文献2】特開2004−348304号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、天然物質を有効成分とする新たな食品害虫忌避剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、カネルシナモン、タマリンド、およびブラックベルガモットに強い食品害虫忌避活性があり、期待する効果の持続を確認して、本発明を完成した。
【発明の効果】
【0006】
本発明の忌避剤の効果を以下の方法に従って試験した。
1.食品害虫忌避活性試験(ビーカー比較法)
(1)試験虫 :チャバネゴキブリおよびコクゾウムシ
(2)試験環境:常温
【0007】
(3)試験方法:直径30cm×深さ15cmのプラスチック水槽を用意し、食品害虫逃避防止のための容器の壁面の上部にワセリンを塗っておいた。その中に20mmの出入り口を開けた直径12cm×深さ5cmのアルミ皿を2個、底を上にして設置した。ワックスを試験する場合は、直径9cmのシャーレに被検体を10ml/m2の膜厚にて直接塗布(ブランクは無塗布)し、自然乾燥した後にアルミ容器の中に置いた。ニスとペンキを試験する場合は、縦約4.5cm×横約4.5cm×高さ約6mmの木製板に被検体を160ml/m2の膜厚にて塗布(ブランクは無塗布)し、自然乾燥した後アルミ容器の中に置いた。また、印刷用インキを試験する場合は、被検体を6g/m2(湿状態)にて塗布した上質紙の円形シート(ブランクは無塗布の円形シート)をプラスチック水槽に直接貼り付け、アルミ容器を被せた。(図1参照)。ゲルを試験する場合は、シャーレ内にゲルを直接入れた。その後、チャバネゴキブリのオスの成虫を10匹、メスの成虫を10匹、幼虫を10匹投入した。コクゾウムシの場合は雌雄を区別することなく成虫15匹を投入した。いずれの場合も、共食い防止のため、水と餌を与えた。
【0008】
(4)測定時:試験開始48時間後(促進試験の場合は試験開始24時間後)
(5)忌避率の算出方法
忌避率(%)={(A−B)/A}×100
A:対照側容器内の食品害虫侵入数
B:被検体容器内の食品害虫侵入数
【0009】
2.食品害虫忌避活性試験(シェルター法)
(1)試験虫:チャタテムシ、コナナガシンクイおよびコクヌストモドキ
(2)試験環境: 常温
(3)試験方法:縦13cm×横22cm×深さ8cmのプラスチック容器の底面の一方の端(底面の半分)に被検体を塗布処理(上質紙に6g/m2の膜厚にて塗布)した縦約13cm×横約11cmの上質紙を敷いて処理区(A)とし、その上に、10cm×10cmの加工処理紙を蛇腹状に折って作った10cm×5cmのシェルターを加工処理面を上にしておいた。(図2、シェルター(1))。もう一方の端(あと半分)に(A)に重ならないように縦約13cm×横約11cmの無処理の上質紙を敷いて対照区(B)とし、その上に、10cm×10cmの無処理紙を蛇腹状に折って作った10cm×5cmシェルターを置いた。(図2、シェルター(2))。それぞれのシェルターの中央上面に誘引餌として粉末試(乾燥酵母)0.5gを置いた後、チャタテムシ、コナナガシンクイまたはコクヌストモドキをプラスチック容器の中央に放つ。このプラスチック容器を25℃、湿度60%の空調した全暗室にて、開放状態で48時間(促進試験の場合は24時間)静置した後、それぞれのシェルター(1)および(2)への移動個体数を計測した。
【0010】
(4)測定時:開始時より48時間後(促進試験の場合は開始時より24時間後)。
(5)忌避率の算出法
忌避率(%)={(A−B)/A}×100
A:対照側シェルター内の食品害虫侵入数
B:被検体シェルター内の食品害虫侵入数
【0011】
3.食品害虫忌避活性試験(侵入阻止法)
(1)試験虫:ダニ
(2)試験環境: 恒温恒湿器内25±5℃
(3)試験方法:直径φ3.5cmx高さ1cm位のシャーレ(3.5cmシャーレ)に、被検体を6g/m2(湿状態)にて塗布した円形シート(上質紙)を加工面を上にして敷き、この上に、誘引用餌として、ダニを含まない培地0.05gをシャーレの中央に置いた。この3.5cmシャーレを、直径φ8.5cmx高さ2cm位のシャーレ(8.5cmシャーレ)の中央に置き、3.5cmシャーレ(内側)と8.5cmシャーレ(外側)との間に、ダニを含む培地を約0.01g置いた。この二重のシャーレよりなるセットを処理組とし、他方、検体を含まない(無処理の円形シート(上質紙)を3.5cmシャーレに敷いた)セットを対照組とした。これら処理組、対照組のセットを縦36cm×横約26cm×深さ5.5cmのプラスチック製食品保存容器等に入れ、飽和食塩水を用いて、湿度を75士2%に保った。これを、25士5℃の恒温恒湿器に全暗状態で静置し、24時間後、それぞれの組の内側シャーレに侵入してきたダニ数と外側シャーレ内に残っているダニ数を計測し、効果判定を行なった。
【0012】
(4)測定時 :開始時より24時間後
(5)忌避率の算出法
忌避率(%)={(A−B)/A}×100
A:対照組の内側シャーレ内のダニ数×処理組の全体のダニ数
B:処理組の内側シャーレ内のダニ数×対照組の全体のダニ数
以下に試験結果をまとめて示す。表1には、ワックス、ゲル、ニスおよびペンキの形態におけるカネルシナモン、タマリンドおよびブラックベルガモットの忌避率を示した。すべて試験虫はチャバネゴキブリ、試験方法はビーカー比較法に依った。
【0013】
【表1】

いずれも、当初の忌避効果が長期間持続することを表している。
表2には印刷用インクの形態におけるカネルシナモンの忌避率を示した。試験虫および試験方法はそれぞれ表中に記した。
【0014】
【表2】

印刷用インクの形態においても同様に、害虫忌避効果が認められることが明らかである。
尚、いずれの試験においても被検体は後記実施例の記載に従って若しくはこれに準じて調製したものを使用した。忌避剤成分の濃度は精油の濃度を表す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
カネルシナモン(cannelle Ecorces Ceylon)は、クスノキ科常緑樹で、原産地はセイロン島。一説によると、10−20mまたは8m程度に成長し、その葉に特徴的な3本のはっきりした葉脈を持っている。樹皮を剥ぎ、乾燥させたものは、独特の甘味と刺激を持つ香りがする。
【0016】
タマリンド(Tamarindus L.)はマメ科の植物で、高さ20〜25mに達する常緑樹である。葉は偶数羽状複葉で小葉は7〜20対、薄緑色で酸味がある。花は小さく葉の間に群生する。花びらは黄色で赤紫色の稿があり、3枚は正常、2枚は縮んで小さな鱗片状となる。3本の雄しべと1本の雌しべが花の外まで伸びて、可憐で愛らしい花である。原産地は熱帯アフリカで太古にインドに渡来したというのが定説である。現在では、世界中の熱帯地域で広く栽培されている。
【0017】
ブラックベルガモット(Citrus Bergamia)はミカン科で、樹高3m弱くらいの低木である。オイルは、果皮を抽出して得られる緑がかった液体で柑橘系の芳香を持つ。その主成分は、リモネンと酢酸リナリル、リナロールである。
本発明の忌避剤の製造にあたっては、これら植物の抽出油または精油を好適に使用することができる。
本発明の忌避剤は、ワックス、ゲル、ニス、ペンキまたは印刷用インクなどの形態で用いることができる。ゲルの形態で用いる場合は溶剤を用いることができるが、溶剤として、ジエチレングリコールモノエチルエーテルを用いることができる。
【0018】
ワックス状忌避剤の調製方法
通常用いられる床用ワックスを撹拌機で常温にて撹拌しながら、カネルシナモン、タマリンド、およびブラックベルガモットの精油1種類以上を加えて撹拌しワックス状忌避剤を得る。
【0019】
ゲル状忌避剤の調製方法
カネルシナモン、タマリンド、およびブラックベルガモットの精油1種類以上と溶剤を撹拌し、溶解液を得る。ここで溶剤としては、例えばジエチレングリコールモノエチルエーテル等を使用することができる。一方、蒸留水をホモディスパーで撹拌しながら、通常用いられる酸化防止剤、防カビ剤、ゲル化剤を順番に添加し、分散液を得る。分散液を撹拌しながら90℃まで加熱し、その後、時々撹拌しながら、70℃まで冷却する。冷却後に上記の溶解液を添加し、撹拌後得られた溶液を容器に入れ、静置して常温まで冷却し、ゲル状忌避剤を得る。
【0020】
ニス状忌避剤の調製方法
通常用いられているニスを撹拌機で常温にて撹拌しながら、カネルシナモン、タマリンド、およびブラックベルガモットの精油1種類以上を、必要に応じて、通常用いられている界面活性剤を加えて撹拌し、ニス状忌避剤を得る。
【0021】
ペンキ状忌避剤の調製方法
通常用いられているペンキを撹拌機で常温にて撹拌しながら、カネルシナモン、タマリンド、およびブラックベルガモットの精油1種類以上を加えて撹拌しペンキ状忌避剤を得る。
【実施例1】
【0022】
弾性アクリル樹脂床用ワックス((株)リンレイ製「パーモスター」)999.5gをホモディスパー(特殊機化工業(株)製)で常温下にて撹拌しながら、カネルシナモンの抽出油を0.5g加えて10分間撹拌し、カネルシナモンを0.05%含有する合計1000gのワックス生成物を得た。
このワックスにつき、チャバネゴキブリに対する忌避効果をビーカー比較法で試験したところ、忌避率は100%であった(前記表1参照)。
【実施例2】
【0023】
ジエチレングリコールモノエチルエーテル4.8gにカネルシナモンの抽出油を全体量の0.3重量%に値する0.36g加え、常温にて撹拌した溶液5.16gに、酸化防止剤としてグレープフルーツ種子抽出物(「Desfan-100」)を0.12g、界面活性剤としてソルゲン90(第一工業製薬(株)製)を1.2gを順番に加えて得られた香料をCとした。蒸留水110.16gをホモミキサーで常温下にて撹拌しながら、防カビ剤として防カビ剤製剤(日本化薬フードテクノ(株)製)1.2gを加え、ゲル化剤としてカラギーナン(三昌(株)製「GENUGEL Carrageenan Type EW-78」)を1.8gまた精製ローカストビーンガム(三昌(株)「GENUGUM Type RL-200 J」)0.36gを少量ずつ加え、溶解させて得られた分散液をDとした。Dをホモディスパー(特殊機化工業(株)製)で撹拌しながらホットスターラーにて90℃まで加熱し、その後、時々撹拌しながら70℃まで冷却した。冷却後香料Cを加え、さらにホモディスパーにて撹拌して得られた溶液を芳香容器に入れ、静置して常温までさらに冷却して合計120gのゲル化生成物を得た。
このゲルにつき、チャバネゴキブリに対する忌避効果をビーカー比較法で試験したところ、忌避率は85.6%であった(前記表1参照)。
【実施例3】
【0024】
カネルシナモンの精油0.5gに界面活性剤としてソルゲン90(第一工業製薬(株)製)を5g加えたものを香料Aとする。合成アクリル樹脂塗料(和信ペイント(株)製「水性ニス木工作用」)994.5gをホモディスパー(特殊機化工業(株)製)で常温にて撹拌しながら香料Aを加えて、10分間撹拌し、カネルシナモンの抽出油を0.05重量%含有する、合計1000gの合成アクリル樹脂塗料(水性ニス)を得た。
このニスにつき、チャバネゴキブリに対する忌避効果をビーカー比較法で試験したところ、忌避率は96.5%であった(前記表1参照)。
【実施例4】
【0025】
合成アクリル樹脂塗料((株)アサヒペン製「多用途」)999.5gをホモディスパー(特殊機化工業(株)製)で常温にて撹拌しながら、カネルシナモンの抽出油を0.5g加えて、10分間撹拌し、カネルシナモンの精油を0.05重量%含有する、合計1000gの合成アクリル樹脂塗料(水性ペンキ)を得た。
このペンキにつき、チャバネゴキブリに対する忌避効果をビーカー比較法で試験したところ、忌避率は96.3%であった(前記表1参照)。
【実施例5】
【0026】
印刷用アクリル酸樹脂クリアインキ(大阪印刷インキ製造(株)製「ツインコートF」)100gにカネルシナモンの抽出油5%を含有するバイオプリント(登録商標、明宝アート製)液を100g加え、さらに蒸留水を800g加えて、ホモディスパー(特殊機化工業(株)製)で常温下にて10分間撹拌し、カネルシナモン精油を0.5重量%含有する、合計1000gの分散液(印刷用インキ)を得た。
この印刷用インキにつき、チャバネゴキブリに対する忌避効果をビーカー比較法で試験したところ、忌避率は81.6%であった(前記表2参照)。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の食品害虫忌避剤は床用ワックスなどの樹脂製品、またゲル、アクリル樹脂、ペンキ印刷用インキ等の形態で、広く食品害虫の忌避に用いることができる。忌避の対象となる食品害虫としてはゴキブリ類、ハエ類、メイガ類、イガ類、コクヌスト類、コクゾウムシ類、チャタテムシ類、シバンムシ類の他、ダニ等も含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】食品害虫忌避活性試験(ビーカー比較法)を示す。
【図2】食品害虫忌避活性試験(シェルター法)を示す。
【図3】食品害虫忌避活性試験(侵入阻止法)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カネルシナモン、タマリンド、およびブラックベルガモットの1種類以上を有効成分として含む食品害虫忌避剤。
【請求項2】
ゲルの形態である、請求項1に記載の食品害虫忌避剤。
【請求項3】
溶剤としてジエチレングリコールモノエチルエーテルを用いる、請求項2に記載の食品害虫忌避剤。
【請求項4】
ワックスの形態である、請求項1に記載の食品害虫忌避剤。
【請求項5】
ニスの形態である、請求項1に記載の食品害虫忌避剤。
【請求項6】
ペンキの形態である、請求項1に記載の食品害虫忌避剤。
【請求項7】
印刷用インキの形態である、請求項1に記載の食品害虫忌避剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−151896(P2006−151896A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−346669(P2004−346669)
【出願日】平成16年11月30日(2004.11.30)
【出願人】(501056245)
【出願人】(594006220)
【Fターム(参考)】