説明

天然起源のタンパク質およびそれから作られる材料

本発明は、天然起源のタンパク質およびそれから作られる材料、特にそれから得られる糸、線維およびゲルを対象とする。本発明はさらに、これらのタンパク質/糸および材料の、技術、バイオテクノロジーおよび/または医療の分野、特に創縫合システムまたは創傷被覆システム、縫合材料の製造ならびに代用材料、好ましくは人工の軟骨または腱の製造、加えて他の商業的用途における使用を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然起源のタンパク質およびそれから作られる材料、特にそれから得られる糸、繊維、発泡体およびゲルを対象とする。本発明はさらに、これらのタンパク質/糸および材料の、バイオテクノロジーおよび/または医療の分野における使用、特に創縫合システムまたは創傷被覆システム、縫合材料の製造および代用材料、好ましくは人工軟骨材料または人工腱材料の製造における使用、ならびに他の商業用途における使用を提供する。
【背景技術】
【0002】
クモのしおり糸は、非晶質マトリックス中に埋め込まれた結晶領域を含有する、半結晶性ポリマー(2)としての組成に由来する並外れた性質(1)を有する。X線回折およびNMRは、結晶領域が伸びたポリアラニンの折り返しβシートからなることを示しており、これが糸に強度を与え(3、4)、一方、非晶質マトリックスの主な二次構造はグリシンに富む3へリックスであり、弾性を与える(5)。分泌された直後のシルクタンパク質は高濃度で(6)液晶ドープ(7、8)として蓄えられ、紡糸管を通過する間にイオン組成、pHの変化(pH6.9から6.3へ)(9、10)および水の抜き出しによって変えられ(10、11)、最終的に伸長流によって誘起されて固形の糸に転換される(12)。
【0003】
これまでに研究されたすべてのしおり糸は、数百kDaまでの分子質量を有する少なくとも2つの異なるタンパク質からなる(13)。ニワオニグモ(Araneus diadematus)の2つの主要なしおり糸タンパク質、ADF−3およびADF−4の、しおり糸の集合体および構造への個々の寄与はこれまで決定されていない。一次構造の解析は、ADF−3およびADF−4(14、15)は同様のプロリン含有量およびポリアラニン・モチーフを有するが、グルタミンおよびセリンの含有量に加えてグリシンに富む領域の長さも異なることを明らかにした。重要なことに、シルク糸の性質を、基礎をなすタンパク質配列から推測することはできない。しかし、シルク糸の品質は関与するタンパク質の一次構造に基づくが、さらにシルク組立ての過程にも依存し(8)、そのことが構造および組立体の諸性質の実験的解析を必要とする。
【0004】
科学的および商業的関心が、スパイダーシルクの工業的規模での製造の研究を開始させた。天然のスパイダーシルク生成はクモの共食いのために実用的ではなく、人工的な生成は十分なタンパク質の収量および糸集合体の品質のいずれを達成する上でも問題に遭遇してきた。細菌による発現は、おそらく細菌とクモとでは異なるコドン利用に起因して、低いレベルのタンパク質しか産生しなかった(16)。発現ホストに適合されたコドン利用を有する合成遺伝子は、より高い収量に導いたが(13、17)、それから合成されたタンパク質は天然のスパイダーシルクと比べて異なる特徴を示した。しおり糸シルクの部分的cDNAの哺乳類細胞株における発現は、まだ品質は劣るものではあるが、人工的に「シルクのような」糸に紡ぐことができたシルクタンパク質(たとえばADF−3)を産生した(18)。
【0005】
国際公開公報第03060099号パンフレットは、生体フィラメントタンパク質を繊維に紡糸する方法および装置に関する。この発明は、組換えシルクタンパク質を溶液から繊維化することおよび繊維の強度および製造の実用性を、このような繊維の商業的な製造および使用を実用的なものにするように高めることに特に有用である。この公報では、哺乳類細胞、たとえば遺伝子組換えヤギの乳腺細胞中で、スパイダーシルクタンパク質を発現させることが開示されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、スパイダーシルクの糸、繊維および他の材料を高い収量および優れた品質で製造するための、改良された出発材料すなわちタンパク質を提供することが本発明の1つの目的である。さらなる目的は、バイオテクノロジー、医療および他の商業目的で使用するための、新規なタンパク質/糸およびスパイダーシルクタンパク質に基づくさらなる材料および/またはその他の天然由来の材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
これらの目的は独立請求項の主題によって解決される。好ましい実施形態は従属請求項において示される。
スパイダーシルクタンパク質およびそれから得られる糸の製造に関する先行技術の方法の欠点に関して、本物のスパイダーシルクタンパク質を合成するための別のより効率的な経路を使用することができる。
【0008】
並外れた強度と強靭性とを示すクモのしおり糸は、主に2つの関連タンパク質から構成されるが、それらの糸集合体における役割およびそれらのしおり糸の力学的性質への寄与は、ほとんど解っていない。
【0009】
この役割を明らかにする目的で、ニワオニグモ(Araneus diadematus)の2つの主要なしおり糸タンパク質ADF−3およびADF−4の組換え体を作成するために、バキュロウイルス発現系が本発明者らによってホスト昆虫細胞中で使用された。ADF−4は細胞質中ですぐに自己集合化してフィラメントになるが、ADF−3はそうならないことが示された。これらのADF−4フィラメントは、本物のクモのしおり糸の典型的な並外れた科学的安定性を示す。その結果、ADF−4の性質は、しおり糸における構造上の中心的存在としてのADF−4の役割を示す。
【0010】
これまで、クモのしおり糸の2つの主要なタンパク質成分の間の構造、機能および可能な相互作用についてはわずかしか解っていない。本発明者らは、一次構造の類似性にもかかわらず、ADF−3およびADF−4は意外なほど異なる性質を示すことに気付いた。ADF−3は本質的に可溶性のタンパク質であるが、ADF−4は、使用した実験条件下では事実上不溶性であり、Sf9細胞の細胞質中で天然のしおり糸と同等の化学的安定性を有するフィラメント状の集合体を形成する。ADF−4フィラメントおよび天然のしおり糸の間の類似性は、ADF−4が、しおり糸における構造上の「中心的存在」であり、その化学的および物理的な強度をもたらすことを示唆している。糸の形成は速くなければならない(天然の巻き取り速度で1〜10cm/s)ので(19)、シルク形成のためにはADF−4などの容易に集合する化合物が不可欠である。しかし、ADF−4の会合しやすさは、分泌腺中における早すぎる重合を避けるためには、紡糸ドープ内において他の因子が必要となる可能性が高いことを暗示している。これらの因子は、リン酸化およびグリコシル化などの翻訳後修飾である可能性が高い。加えて、ADF−4の溶解性は、共分泌されて同じくドープ中に蓄えられているタンパク質によって影響されることもありうる。ADF−3は、昆虫細胞の細胞質内ではADF−4の溶解性に影響を与えなかったが、それでもクモの分泌腺からの分泌中または分泌後には、ADF−4の溶解性の調節において重要な役割を果たす可能性がある。クモの分泌腺細胞の分泌経路において、および分泌腺の内腔において存在する特定の条件が、しおり糸の集合体を制御するADF−3とADF−4との間の相互作用に導く可能性がある。
【0011】
スパイダーシルクを将来のポリマー設計のためのベンチマークとみなすことができるが、それは、スパイダーシルクの素晴らしい性質のためだけではなく、好ましくは、経済的にかつ環境にやさしい方法で、水性の溶媒から周囲温度および圧力下で製造される可能性があるからである。しかし、主要な障害は、天然のシルク繊維生成過程に合致させるわれわれの能力にある。本願において提供される結果は、クモのしおり糸タンパク質、たとえばAraneusのしおり糸の2つの主要成分、ADF−3およびADF−4の機能および相互作用を解明するための必須の基礎を構成する。このような知識は、組換えタンパク質から糸を紡糸するために、および新世代の繊維状材料を製造するために不可欠である。
【0012】
本発明との関連では、主要瓶状腺(major ampullate gland)から得られるクモのしおり糸タンパク質を生成する、以下の段階を含む方法を使用することができる。
【0013】
a)1つまたは複数のクモのしおり糸タンパク質をコードしている核酸配列を準備する工程、
b)a)において準備された核酸配列を昆虫の細胞中に導入する工程、
c)ドラグラインタンパク質(dragline protein)を発現させる工程、および
d)前記ドラグラインタンパク質を取り出す工程。
【0014】
こうして、前述したように、本方法によって提供される主な有利性は、クモのしおり糸タンパク質のための発現系、すなわち昆虫細胞中での発現を準備することにある。意外にも、前記で説明したように、昆虫細胞におけるこれらのタンパク質の発現が、他の細胞たとえば細菌細胞や哺乳類細胞のような他の細胞における発現よりも優れていることが分かった。この改良は性質、すなわち力学的性質および類似のもの、ならびにクモのしおり糸タンパク質の収量に等しく影響する。
【0015】
例として、参考文献16の方法によれば4mg/L細胞が得られたが、これは糸に紡ぐことができなかった。参考文献18においては、25mg/L細胞が得られた(糸は得られたが、品質は悪かった)。本方法によれば、>30mg/L細胞(自己集合性の安定な糸)を得ることができた。
【0016】
前記方法の段階a)において得られた核酸配列によってコードされるドラグラインタンパク質は、好ましくは球形網のクモ(Araneidae)のドラグラインタンパク質から選択される。
【0017】
そのようなドラグラインタンパク質は、以下のクモの1つまたは複数から得ることができる。Arachnura higginsi、Araneus circulissparsus、Araneus diadematus、Argiope picta、Banded Garden Spider(Argiope trifasciata)、Batik Golden Web Spider(Nephila antipodiana)、Beccari’s Tent Spider(Cyrtophora beccarii)、Bird−dropping Spider(Celaenia excavata)、Black−and−Wite Spiny Spider(Gasteracantha kuhlii)、Black−and−yellow Garden Spider(Argiope aurantia)、Bolas Spider(Ordgarius furcatus)、Bolas Spiders−Magnificent Spider(Ordgarius magnificus)、Brown Sailor Spider(Neoscona nautica)、Brown−Legged Spider(Neoscona rufofemorata)、Capped Black −Headed Spider(Zygiella calyptrata)、Common Garden Spider(Parawixia dehaani)、Common Orb Weaver(Neoscona oxancensis)、Crab−like Spiny Orb Weaver(Gasteracantha cancriformis(elipsoides))、Curved Spiny Spider(Gasteracantha arcuata)、Cyrtophora moluccensis、Cyrtophora parnasia、Dolophones conifera、Dolophones turrigera、Doria’s Spiny Spider(Gasteracantha doriae)、Double−Spotted Spiny Spider(Casteracantha mammosa)、Double−Tailed Tent Spider(Cyrtophora exanthematica)、Aculeperia ceropegia、Eriophora pustulosa、Flat Anepsion(Anepsion depressium)、Four−spined Jewel Spider(Gasteracantha quadrispinosa)、Garden Orb Web Spider(Eriophora transmarina)、Giant Lichen Orbweaver(Araneus bicentenarius)、Golden Web Spider(Nephila maculata)、Hasselt’s Spiny Spider(Gasteracantha hasseltii)、Tegenaria atrica、Heurodes turrita、Island Cyclosa Spider(Cyclosa insulana)、Jewel or Spiny Spider(Astracantha minax)、Kidney Garden Spider(Araneus mitificus)、Laglaise’s Garden Spider(Eriovixia laglaisei)、Long−Bellied Cyclosa Spider(Cyclosa bifida)、Malabar Spider(Nephilengys malabarensis)、Multi−Coloured St Andrew’s Cross Spider(Argiope versicolor)、Ornamental Tree−Trunk Spider(Herennia ornatissima)、Oval St.Andrew’s Cross Spider(Argiope aemula)、Red Tent Spider(Cyrtophora unicolor)、Russian Tent Spider(Cyrtophora hirta)、Saint Andrew’s Cross Spider(Argiope keyserlingi)、Scarlet Acusilas(Acusilas coccineus)、Silver Argiope(Argiope argentata)、Spinybacked Orbweaver(Gasteracantha cancriformis)、Spotted Orbweaver(Neoscona domiciliorum)、St.Andrew’s Cross(Argiope aetheria)、St.Andrew’s Cross Spider(Argiope Keyserlingi)、Tree−Stump Spider(Poltys illepidus)、Triangular Spider Arkys clavatus)、Triangular Spider(Arkys lancearius)、Two−spined Spider(Poecilopachys australasia)、Nephila種、たとえば、Nephila clavipes Nephila senegalensis、Nephila madagascariensisおよびさらに多くのもの(他のクモ種については下記も参照のこと)。Araneus diamatusが最も好ましい。
【0018】
好ましくは、この方法によって生成されるドラグラインタンパク質は、野生型ドラグラインタンパク質ADF−3、ADF−4、MaSp I、および/またはMaSp IIである。用語ADF−3/−4は、Araneus diadematusによって生成されるMaSpタンパク質(Araneus diadamatusフィブロイン−3/−4)との関連で使用される。ADF−3およびADF−4の両方のタンパク質は、MaSp IIタンパク質(主要な瓶状スピドロインII(ampullate spidroin II))の部類に入る。
【0019】
これによって(すなわち、単独または他のタンパク質と共に)生成することができる他のスパイダーシルクタンパク質およびそのデータベース・アクセス番号を以下に挙げる。
スピドロイン2[Araneus bicentenarius]gi|2911272
主要な瓶状腺しおり糸タンパク質−1[オニグモ(Araneus vetricosus)]gi│27228957
主要な瓶状腺しおり糸タンパク質−2[オニグモ(Araneus ventricosus)]gi│27228959
瓶状スピドロイン1[マダガスカルジョロウグモ(Nephila madagascariensis)]gi│13562006
主要な瓶状スピドロイン1[Nephila senegalensis]gi│13562010
主要な瓶状スピドロイン1[ハイイロゴケグモ(Latrodectus geometricus)]gi│13561998
主要な瓶状スピドロイン1[Argiope trifasciata]gi│13561984
主要な瓶状スピドロイン1[キマダラコガネグモ(Argiope aurantia)]gi│13561976
しおり糸タンパク質スピドロイン2[ジョロウグモ(Nephila clavata)]gi│16974791
主要な瓶状スピドロイン2[Nephila senegalensis]gi│13562012
主要な瓶状スピドロイン2[マダガスカルジョロウグモ(Nephila madagascariensis)]gi│13562008
主要な瓶状スピドロイン2[ハイイロゴケグモ(Latrodectus geometricus)]gi│13562002
本発明は、特に以下の態様および実施形態を対象とする。
【0020】
第1の態様によれば、本発明は、配列番号1または2の核酸配列あるいはこれらの核酸配列の変異体によってコードされるクモのドラグラインタンパク質を対象とし、中程度に厳しい条件下において変異体が配列番号1または2の配列を含む核酸とハイブリッド形成するか、あるいは遺伝子コードの縮退に起因する核酸の変更であって、配列番号1または2として前記アミノ酸と同じ、もしくは機能的に等価なアミノ酸をコードする核酸の変更を変異体が含むならば、変異体は、配列番号1または2の配列と比較して1つまたは複数の置換、挿入および/または欠失を有するものと定義される。
【0021】
用語「核酸配列」は、ヌクレオチドのヘテロポリマーまたはこれらのヌクレオチドの配列のことをいう。用語「核酸」および「ポリヌクレオチド」は、本願においてはヌクレオチドのヘテロポリマーのことをいうために相互交換可能に使用される。
【0022】
本願で使用されるハイブリッド形成の厳密性は、ハイブリッド形成下ではポリヌクレオチドの2本鎖が安定である条件のことをいう。当業者には知られているように、2本鎖の安定性は、ナトリウムイオン濃度と温度との関数である(たとえば、サンブルックら(Sambrook et al.)Molecular Cloning:A Laboratory Manual 2nd Ed.(Cold Spring Harbor Laboratory,(1989年)、参照)。当業者は、ハイブリッド形成させるために使用される厳密性のレベルを容易に変更することができる。
【0023】
本願において使用する「中程度に厳しい条件」は、DNAが、このDNAと約60%の同一性、好ましくは約75%の同一性、より好ましくは約85%の同一性を有する相補的な核酸と結合することを可能にする条件のことをいう。DNAと約90%を超える同一性を有する相補的な核酸が特に好ましい。好ましくは、中程度に厳しい条件は、ホルムアミド50%、5×Denhart溶液、5×SSPE、0.2%SDS中で42℃におけるハイブリッド形成に続いて0.2×SSPE、0.2%SDSによる65℃における洗浄と等価な条件である。
【0024】
本発明においては、2つの異なる種類、ADF−3およびADF−4のコード配列が検討されていることに注意する。第1に、すでに公表されているADF−3およびADF−4の配列(本願では、「野生型」配列)および、第2に、配列番号1(ADF−3)および2(ADF−4)によってコードされるこれらの変異体である。野生型配列はすでに公表されており、アクセッション番号U47855およびU47856(配列番号3および4)によって入手可能である。
【0025】
前記で説明したように、シルク繊維は、液晶ポリマーに似た無定形の弾性セグメントによって間隔を空けられたβシートの結晶領域を有する。これらの2つのセグメントは、異なる遺伝子によってコードされる2つの異なるタンパク質、MaSp I(主要な瓶状スピドロインI)およびMaSp II(主要な瓶状スピドロインII)によって表される。
【0026】
本発明の核酸配列は、好ましくはADF−3、ADF−4(配列番号1および2)またはこれらの変異体である。配列番号3および4は、対応する野生型配列のアミノ酸配列を示す。
【0027】
好ましい実施形態によれば、本発明の方法は、構成要素が前記で定義されたタンパク質の1つまたは複数あるいは該タンパク質の変異体の1つとして定義されるポリマーからなるスパイダーシルクタンパク質を提供する。本発明のタンパク質のアミノ酸配列は、アミノ酸の挿入、欠失および置換によって、本願において開示される配列とは異なるすべての配列をも包含する。
【0028】
好ましくは、アミノ酸の「置換」は、1つのアミノ酸を類似の構造および/または化学的性質を有する他の1つのアミノ酸によって置き換えることの結果、すなわち保守的なアミノ酸置換である。アミノ酸置換は、関与する残基の極性、電荷、溶解性、疎水性、親水性、および/または両親媒性における類似性に基づいて行われてもよい。たとえば、無極性(疎水性)アミノ酸としてはアラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン、およびメチオニンが挙げられ、極性天然アミノ酸としてはグリシン、セリン、スレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、およびグルタミンが挙げられ、正に荷電した(塩基性)アミノ酸としてはアルギニン、リジン、およびヒスチジンが挙げられ、負に荷電した(酸性)アミノ酸としてはアスパラギン酸およびグルタミン酸が挙げられる。
【0029】
「挿入」または「欠失」は、通常約1〜5個のアミノ酸の範囲、好ましくは約1、2、または3個のアミノ酸である。アミノ酸の追加は、通常100個以下であり、好ましくは80個以下であり、より好ましくは50個以下であり、最も好ましくは20個以下であり、本発明のタンパク質上に延長/または中に挿入される。本発明においては、本願で開示されるタンパク質の力学的および他の特性にマイナスの影響を与えないアミノ酸の追加だけが検討されることに注意する。
【0030】
許される変異は、タンパク質へのアミノ酸の挿入、欠失、または置換を、組換えDNA技法を使用して体系的に行い、得られた組換え変異体の活性を分析することによって実験的に決定されてもよい。これは、当業者に対して、日常的実験を超えるものを要求しない。
【0031】
好ましい一実施形態によれば、前記で定義された核酸配列の1つまたは複数がベクターに収容される。好ましくは、このベクターは、上記で定義された1つまたは複数のドラグラインタンパク質および1つまたは複数の調節配列をコードする核酸配列を含む発現ベクターである。そのような調節配列は、好ましくはプロモーターp10および/またはポリヘドリンを含んでもよいが、他の後期および極めて後期のバキュロウイルス・プロモーターも同様に使用することができる。
【0032】
ベクターは、より好ましくはウイルスベクター、最も好ましくはバキュロウイルスベクター系またはワクシニアウイルスベクター系である。他のウイルスベクター系が本発明において使用されてもよい。場合によっては、ベクターの改変が必要なこともある。他のウイルスベクターの例は、アデノウイルスおよびすべてのマイナス鎖RNAウイルス、たとえば狂犬病、麻疹、RSV等である。
【0033】
昆虫細胞としては、鱗翅目昆虫細胞が好ましくは使用され、より好ましくはツマジロクサヨトウ(Spodoptera frugiperda)からの細胞およびイラクサギンウワバ(Trichoplusia ni)からの細胞が使用される。最も好ましくは、昆虫細胞はSf9、Sf21またはhigh five細胞である。
【0034】
昆虫細胞の発現系の一つの利点は、たとえばバクテリア系に関しては、生成されたタンパク質がグリコシル化されており、したがって微生物による分解の標的であるという事実にある。この特徴は、たとえば医療分野において、シルクタンパク質のインビボ使用が意図されるときは常に重要である。インビボ使用では生物分解が望ましい。この特徴は、特に縫合材料ならびに創縫合システムおよび創傷被覆システムにおいて用途を見出す可能性がある。
【0035】
他の好ましい一実施形態によれば、発現されるドラグラインタンパク質は、野生型のADF−4または配列番号2によってコードされたADF−4だけである。
一つの代替物として、発現されたドラグラインタンパク質は、野生型ADF−3または配列番号1の核酸によってドラグラインタンパク質としてコードされたアミノ酸だけである。
【0036】
本発明者らは、意外にも先行技術の信念とは対照的に、2つの周知の主要なドラグラインタンパク質の1つだけ(好ましくはADF−4)が、しおり糸の作成および集合のために必要であることを見出した。したがって、しおり糸の作成のすでに知られている方法は、当業において周知の2つではなく、しおり糸の調製のための1つだけの成分を使用することによって大幅に簡単化することができる。このように、ADF−3だけ、好ましくはADF−4だけからなるしおり糸が本発明の好ましい一実施形態である。
【0037】
MaSp I類は、アミノ酸プロリンの含有量によってMasp IIと区別することができる。MaSp II類の中には、他には正式の部分範囲は存在しない。しかし、ADF−3およびADF−4は、アミノ酸グルタミンの含有量およびポリアラニン領域の間隔と長さとによって互いに異なっている。したがって、当業者は、MaSp II中のADF−3およびADF−4に相当する領域をそれぞれ容易に判定することができる。
【0038】
好ましくは、前記ドラグラインタンパク質の発現は分泌発現によって起こる。詳細については実施例を参照されたい。あるいは、発現は細胞質における生成によって起こる。実施例に示すように、発現のために使用した昆虫細胞中に存在する条件は、前記で述べたように、スパイダーシルクタンパク質が高濃度および高品質で発現され、さらにそれらのタンパク質の糸への自己集合が、すでに細胞質中で、なんらそれ以上の生成段階なしに起こるという驚くべき結果に導いた。
【0039】
本発明の状況においては、以下の段階を含むクモのドラグラインタンパク質の糸の製造方法を使用することができる。
a)前記で定義されたクモのドラグラインタンパク質を発現させる工程、
b)該タンパク質を取り出す工程、および
c)該タンパク質を適当な方法によって糸に紡糸する工程。
【0040】
段階c)においては、当業に周知の紡糸方法が使用されてもよい。たとえば、スパイダーシルクタンパク質のドープ溶液は、糸疣(出糸突起)を通して押し出されてバイオフィラメントを形成する。得られたバイオフィラメントは、引き出されたり、延伸されたりすることができる。バイオフィラメント中に結晶性および無定形の両方の分子配列が存在するときはいつでも、引き出しまたは延伸は、分子を配向させるのに十分なせん断応力を与えて分子をフィラメントの壁に対してより並行にし、バイオフィラメントの引張り強度および靭性を高める。
【0041】
ドープ溶液は、1つまたは複数のクモ種からのシルクタンパク質、またはさまざまなシルク生成属からのシルクタンパク質の混合物、たとえばクモおよびカイコガ(B.mori)からのシルクタンパク質の混合物を含有してもよい。最も好ましい実施形態においては、シルクタンパク質は、N.clavipesまたはA.diadematusからのしおり糸、特にタンパク質MaSpI、MaSpII、ADF−3、およびADF−4である。代替実施形態においては、ドープ溶液は、シルクタンパク質と、1つまたは複数の合成ポリマーあるいは天然または合成バイオフィラメントタンパク質との混合物を含有する。
【0042】
好ましくは、ドープ溶液は、少なくとも1、5、10、15重量/容積(w/v)%シルクタンパク質である。より好ましくは、ドープ溶液は、約20w/v%、25w/v%、30w/v%、35w/v%、40w/v%、45w/v%、または50w/v%シルクタンパク質である。好ましい実施形態においては、ドープ溶液は、実質的に純粋なスパイダーシルクタンパク質を含有する。好ましい実施形態においては、ドープのpHは約6.9である。
【0043】
「ドープ溶液」は任意の液体混合物を意味しており、この液体混合物はシルクタンパク質を含有しており、かつバイオフィラメントの形成またはフィルムのキャスティングのために押し出され易い。ドープ溶液はまた、タンパク質モノマーに加えて、たとえばダイマー、トリマー、およびテトラマーを含む、より高い秩序の集合体を含有してもよい。通常、ドープ溶液はpH4.0〜12.0の水性溶液であり、40w/v%未満の有機物またはカオトロピック剤を有する。好ましくは、ドープ溶液は有機溶媒またはカオトロピック剤を何も含有しないが、溶液の保存性、安定性、または作業性を高めるための添加物を含有してもよい。
【0044】
「フィラメント」は、顕微鏡的な長さから1マイルあるいはそれ以上の長さにわたる、不定の長さの繊維を意味する。シルクは天然のフィラメントであり、例としてナイロンおよびポリエステルは合成フィラメントである。
【0045】
「バイオフィラメント」は、組換え技術によって作られたスパイダーシルクタンパク質を含むタンパク質から作られた(たとえば、紡糸された)フィラメントを意味する。
スパイダーシルクタンパク質繊維を紡糸する方法に関するより詳細な情報は、2003年7月24日発行の国際公開第03060099号パンフレット(カラツァスら(Karatzas et al.))で見出すことができ、これを参照により本願に援用する。
【0046】
本発明はさらに、配列番号1および/または2の核酸もしくは変異体によってコードされるアミノ酸配列を含む、クモのドラグラインタンパク質またはしおり糸を包含する。
好ましい実施形態においては、クモのドラグラインタンパク質/しおり糸は、ドラグラインタンパク質として、野生型ADF−4または配列番号2の核酸によってコードされるアミノ酸だけを含む。
【0047】
あるいは、クモのドラグラインタンパク質/しおり糸は、ドラグラインタンパク質として、野生型ADF−3または配列番号1の核酸によってコードされるアミノ酸だけを含む。
【0048】
他の態様によれば、本発明は、本願において前記で定義されたタンパク質を含む、またはタンパク質からなるゲルまたはフォームを提供する。そのようなフォームおよびゲルの作り方は、実施例において見出すことができ、後記の「スパイダーシルク由来のタンパク質の集合体」の項を参照されたい。
【0049】
さらに本発明は、前記で定義された本発明のタンパク質を含む、またはそれからなる、インプラントおよびステントのための被覆を対象とする。この被覆は、それぞれの用途に応じて可溶性タンパク質、フィルム、ゲル、フォーム、ナノ線維、および糸で作ることができる。一般に、セラミック、金属、プラスチック、その他の非生物材料に対するタンパク質被覆は非生物表面を「隠蔽し」、身体の炎症反応または拒絶反応を防ぐ。タンパク質の被覆は、非生物材料を取り囲む細胞の結合を可能にする。さらに、これまでステントグラフト器具において使用されてきたものよりも、本質的にさらに生体適合性であるこれらのグラフト材料を選択することによって、インプラント関連炎症の軽減を達成することができる。PETポリエステルおよびナイロンなどの従来のグラフト材料は、その材料に生体血管内でのより速い可溶化の傾向があることを示す高い可溶化因子を有し、したがってより炎症反応を起こし易い。
【0050】
本発明の材料は、ステントグラフト用途において使用される従来の他のポリマー材料について観察される炎症反応を抑制するという望ましい特徴を示す。
本発明はさらに、前記で規定されたタンパク質、糸または繊維および、クモ起源ではなく好ましくは植物由来の材料または繊維である他の材料または繊維を含む、糸または繊維を提供する。たとえば、スパイダーシルクタンパク質および綿の混合繊維は有利であるかもしれない。
【0051】
その他の使用される繊維としては、1つまたは複数のナイロン、aramide、ケブラー、ウール、炭素繊維、コラーゲン繊維、セルロース、ケラチン繊維、エラスチン繊維、ガムなどが挙げられる。
【0052】
野生型ADF−4を唯一のドラグラインタンパク質としてコードしている核酸を含むベクター、または配列番号1および/または配列番号2の核酸を含むベクターが、本発明において更なる態様として提供される。
【0053】
更なる態様においては、1つまたは複数のドラグラインタンパク質、好ましくはドラグラインタンパク質ADF−3、ADF−4(野生型)、ADF−3(配列番号1)および/またはADF−4(配列番号2)をコードする核酸を含むバキュロウイルスベクターが提供される。
【0054】
すでに前記で説明したように、本願において定義されるタンパク質/糸は、バイオテクノロジー、および/または医療分野において、好ましくは創縫合システムまたは創傷被覆システム、神経外科または眼科手術において使用される縫合材料の製造のために使用されることができる。
【0055】
意外にも、本発明のタンパク質ならびに繊維、糸およびこれらから作られる他の材料は、抗微生物性、特に抗菌性を示す。これらの固有の生物分解性を念頭に置くと、これらは、ヒトまたは動物におけるインビボ用途に対して最適の特徴を有する。このように、本発明のタンパク質およびそれらから得られる材料を使用することによって、手術中の身体に対する有害な影響を最小限にすることができ、追加の手術を避けることができ、かつ手術後の回復の加速が可能である。
【0056】
さらに、タンパク質/糸は、好ましくは代用材料、好ましくは人工軟骨材料または人工腱材料の製造に使用されてもよい。
他の使用は、人工代用品、好ましくは人工代用肺の安定化のための使用である。
【0057】
加えて、本発明の糸/繊維は、医療用接着テープ、植皮、代用靭帯、外科用網などの医療用品の製造において、および衣料用織物、防弾ベストの内張り、容器用織物、バッグまたは財布用ストラップ、ケーブル、ロープ、接着性結束材、非接着性結束材、紐用材料、乗り物カバーおよび部品、建設材料、コンクリート、塗料、ポリシロキサン、耐候性材料、フレキシブル・パーティション材料、スポーツ器具などの広い範囲の工業製品および商業製品において、また、高い引張り強さおよび弾力性が望まれる特徴である繊維または織物の、事実上ほとんどあらゆる用途において使用可能である。他の形態の安定な繊維製品の適合性および用途、たとえばドライスプレー塗料、ビーズ様粒子、または他の組成物との混合物における用途も本発明において意図されている。
【0058】
別途に定義しない限り、本願において使用されるすべての技術および科学用語は、本発明に関する当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。本願において言及するすべての刊行物、特許出願、特許、および他の参考文献は、その全体を参照により援用する。紛争の場合は、定義を含む本願が統御する。加えて、材料、方法、および実施例は単なる例示であり、限定的であることを意図するものではない。
【0059】
ここで、本発明を以下の実施例および添付の図面によって例示する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0060】
実施例
本願において提供される改良は、ニワオニグモ(araneus diadematus)のしおり糸の2つの主要な成分を同時に発現させて研究するという着想に基づいていた。昆虫はクモと同じ門に属することから、本発明者らは、昆虫細胞株Sf9(ツマジロクサヨトウ(spodoptera frugiperda)由来)を、ベクターとしてバキュロウイルスを使用するadf−3およびadf−4の発現のために選択した。adf−3およびadf−4の部分的cDNAを含有している組換えバキュロウイルスを生成した(14)。合成をモニターするために、両方のタンパク質をHis−Tagと共に準備した。tagに起因する人為的な影響を排除するために、His−Tagを伴わない変形も使用した。
【0061】
組換えウイルスを、細胞質中でスパイダーシルクタンパク質を生成するためのSf9細胞を感染させるために使用した。3日間培養後、感染細胞を超音波処理によって溶解し、不溶の細胞内容物を沈降によって可溶物質から分離した。免疫ブロットによる分析前に、沈降物をグアニジウムチオシアネート(GdmSCN)に溶解した。
【0062】
ADF−3の大部分は可溶であることが見出され、ADF−4は、使用した条件下で感染の3日後には、ほとんど完全に不溶であり(図1A)、His−Tagの存在とは無関係であった(図4A)。意外にも、adf−4(配列番号2)発現細胞内の集合体を詳しく調べると、細胞質全体に輪になったフィラメントが見られたが、大部分の細胞はただ1つまたは少数の均一な幅のフィラメントを含有していた(図1B)。これと対比して、対照ウイルスまたはadf−3(配列番号1)をコードしているウイルスで感染させた細胞は、決してそのようなフィラメントを生成しなかった(図4C、D)。抗His抗体を使用して感染させた細胞について行った免疫蛍光法はフィラメントの特有の着色を示し、したがって、フィラメントはADF−4からなることを裏付けた(図1B)。
【0063】
次に、本発明者らは、ADF−3とADF−4とが一緒に集合してフィラメントになることができるかどうかを詳細に調べた。本発明者らは、pFastbacDUALドナープラスミドを使用して、異なる独立のプロモーター下でadf−3(配列番号1)およびadf−4(配列番号2)の両方を含有している組換えバキュロウイルスを生成した。このウイルスでSf9細胞を感染させた結果、両方のタンパク質が合成され、ADF−4単独の合成によって形成されるフィラメントと比較して類似の外観を示すタンパク質フィラメントが形成された(図4B)。興味深いことに、二重発現系において集合したフィラメントは完全にADF−4によって形成されており、組み込まれたり安定に会合したりしているADF−3はなかった(図1C、データは示していない)。
【0064】
この見かけ上の自己集合が、ADF−4の性質だけによるものか、あるいはその他の因子または修飾が関与しているかを調べるために、本発明者らはHis−ADF−4の分泌形態をコードする組換えバキュロウイルスを創出した。細胞をこのウイルスで感染させると、細胞の培地中でのADF−4の蓄積に至った(図1D)。免疫蛍光法は、分泌された小胞を含有しているADF−4が感染細胞の表面に多量にあること明らかにした(図1E)。特に印象的なことは、本発明者らは、ホスト細胞室内にも培地中にもADF−4フィラメントの形成をまったく観察しなかったことである。
【0065】
シルク糸の形成は、一般にはタンパク質の濃度に加えてその他の因子にも依存する。興味深いことには、Sf9細胞の細胞内のpH6.3は、シルク糸の集合前の紡糸ドープ中のpHに相当する(19)。ADF−4フィラメント集合形成に必要な、細胞質環境中の他の因子はまだよく分かっていない。ADF−4のインビトロ自己集合性の詳しい調査は、その他の因子の重要性を強調した。フィラメントを6M GdmSCN中に溶解させることによって可溶性のADF−4を容易に得た。溶解したADF−4は、GdmSCNを透析または希釈によって取り除くと、急速に集合体となった。しかし、インビトロで形成されたADF−4集合体は線維状の構造を示さず、またSf9細胞内部で形成されるADF−4フィラメントの化学的安定性も示さなかった(下記および図4E、F参照)。前記の知見は詳細な細胞質環境の重要性を示唆しており、これには他の、まだ解明されていない、自己集合の制御のために重要な細胞質因子が含まれていると思われる。
【0066】
本発明者らは次に、ADF−4フィラメントの形態を特徴付けた。フィラメントの直径は200nm〜1μmの範囲であるが、それぞれの単一フィラメントについては、直径は一定であることを見出した。さらに、フィラメントは100μmまでの長さを示し、しばしば末端が結び目、枝分かれであるかまたは閉じた円を形成していた(図2A、D、E)。フィラメントは滑らかな表面を示し、しばしばナノファイバー(直径〜5nm)および他のタンパク質集合体を伴っていた(図2)。免疫ブロッティング法および免疫電子顕微鏡は、フィラメントおよび会合した集合体形態がADF−4で構成されていることを示した(図2C、3A)。SDS−PAGE分析に続く銀着色によって視覚化されたフィラメント中には、ADF−4以外には他の豊富なタンパク質を検出することができなかった(図3A)。細胞当たりのフィラメントの数が少ないこと、およびほとんど全部の細胞内ADF−4が集合体中に動員されることは、Sf9細胞中のADF−4の自己集合が核から始まる過程である可能性が高いことを示唆しており、これは以前にカイコ(Bombyx mori)のシルクの紡糸過程についても提案されている(20)。
【0067】
Sf9細胞中で形成されるフィラメントの寸法は細胞の容積によって制約されるようであり、これらのフィラメントは通常、シルク糸について行われる力学的な力の測定のためには短すぎるものとなる(21)。しかし、本発明者らは、濡れた、または乾燥したADF−4フィラメントの化学的な安定性を、ニワオニグモ(A.diadematus)の天然しおり糸と比較して解析することができた。しおり糸は、多くの変性剤中に不溶であると報告されてきた(22)。2%のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)および8Mの尿素の適用は、30秒の暴露後にADF−4フィラメントおよびしおり糸の構造に対して明らかに影響しない(図3、データは示していない)。フィラメントの、6Mの塩化グアニジウム(GdmCl)中への浸漬は、ADF−4フィラメントおよびしおり糸のいずれの可溶化にも至らなかったが、しおり糸の膨潤には至った。このような膨潤は、以前に水性溶液中に浸漬されたスパイダーシルクについて記載されている繊維の超収縮(21)に起因すると考えられ、これは非晶質マトリックス中の水素結合の再形成(組換え)の結果である(21)。前記で言及した変性剤とは対照的に、6MのGdmSCNの1つの小滴が、数秒間以内にADF−4フィラメントもしおり糸も同様に完全に溶解させた(図3)。その結果、本発明者らは、両方の構造が特定の変性剤に対する化学的抵抗性の原因となる同じ分子相互作用を持つと結論している。
【0068】
方法
プラスミド構築
配列番号1および2のcDNAを、インビトロジェン社(Invitrogen)からのpFastBac(商標)ドナープラスミド中にクローン化した。ペプチドタグをコードする配列を遺伝子断片の5’末端に設けた。Hisタグ付きタンパク質については、遺伝子をホストベクターからSpeI/XhoIを使用して切除し、同程度に消化したpFastBac(商標)HTaでライゲートした。T7−タグ付き(23)タンパク質については、遺伝子をまずノバジェン社(Novagen)からのpET21中に、XhoIおよびEcoRIを使用してクローン化した。次に、T7−Tagをコードしている領域を含む挿入部分をBglIIおよびXhoIで切除し、BamHI/XhoIで消化したpFastBac(商標)1でライゲートした。adf−3(配列番号1)およびadf−4(配列番号2)を共発現させるために、両方の遺伝子をpFasBac(商標)DUAL中にクローン化し、T7−TagおよびS−Tagをコードしている配列を設けた(24)。adf−4(配列番号2)遺伝子をpET21−adf−4(配列番号2)からBg1II/XhoIで切除し、NheI/BamHIで開裂されたpFasBac(商標)DUALでライゲートした。2つの合成オリゴヌクレオチド(MWG Biotech)を、S−Tagをコードしている配列を設けるようにアニールし、これが結果的にNheI/BamHI適合性の2本の1本鎖を有する2本鎖DNAをもたらす。
5’−CTAGCCCGGGATGAAAGAAACCGCTGCTGCTAAATTCGAACGCCAGCACATGGACAGCGGTCGG−3’(配列番号5)
5’−GATCCCGACCGCTGTCCATGTGCTGGCGTTCGAATTTAGCAGCAGCGGTTTCTTTCATCCCGGG−3’(配列番号6)
T7−Tagをコードしている領域を除去するために、pET21−adf−3(配列番号1)をNheI/BamHIで消化した。次いで、S−tagをコードしているDNAでベクターをライゲートした。XhoI/XmaIを使用して、S−タグ付きadf−3(配列番号1)をpFasBac(商標)DUAL−adf−4(配列番号:2)中にクローン化した。この二重構造において、adf−3およびadf−4は、独立のp10(25)プロモーターおよびポリヘドリン(26)プロモーターの制御下にあった。ミツバチ・メリチンの分泌シグナルをコードしている配列を、テンプレートとしてのpMIB/V5−HisAベクターおよびCpol制限サイトを含有している下記のプライマーを使用するPCRによって増幅した。
5’−CCTTCCCGGTCCGCCATGAAATTCTTAGTCAAC(配列番号7)
5’−CCTTCCCGGACCGGGCATAGATGTAAGAAAT(配列番号8)
得られたPCR生成物をCpo1で切断し、同様に消化されたpFastBac(商標)HTa−adf−4(配列番号2)中にライゲートした。ポジティブクローンの配向および正確性をシークエンシングによって調べた。
【0069】
細胞培養
Sf9(ツマジロクサヨトウ(Spodoptera frugiperda):ATCC#:CRL−1711)細胞を、BIOINSECT−1無血清昆虫細胞培地(バイオロジカル・インダストリー社(Biological industries)中に27℃で繁殖させた。Sf9細胞を、6ウエルプレート中のカバースリップ上の単層で、または80rpmで撹拌されているシェーカーフラスコ中でのいずれかで培養した。
【0070】
バキュロウイルス含有組換えadf−3(配列番号1)およびadf−4(配列番号2)の生成
組換えバクミドを生成するために、バクミド(バキュロウイルス・シャトルベクター・プラスミド)およびヘルパープラスミドを含有している大腸菌(E.coli)DH10BACのコンピテント細胞を製造者の指示(インビトロジュン社(Invitrogen))に従って使用した。バクミドへの遺伝子の挿入をPCRによって検証した。ESCORT導入試薬(シグマ−アルドリッチ社(Sigma−Aldrich))を使用して、Sf9細胞に組換えバクミドDNAを6ウエルプレート中で導入した。細胞を27℃で5時間培養し、リンスしてからさらに72時間培養した。培地を集めて遠心分離し、ウイルスを含有している上澄みをプラーク測定法によって滴定した。
【0071】
adf−3およびadf−4の発現
0.1〜10の範囲のさまざまな感染多重度(MOI)でSf9細胞(3×10細胞/mL)を組換えウイルスに感染させた。感染(PI)3日後、500×gで5分間の遠心分離によって細胞を集めた。
【0072】
ADF−3およびADF−4の検出および溶解性
細胞を1.2×10細胞/mLでpH7.5の100mMのNaCl、20mMのN−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン−N’−(2−エタンスルホン酸)(HEPES)中に再懸濁し、超音波処理によって溶解した。125,000×gで30分間遠心分離することによって、可溶成分と不溶成分とを分離した。その後の分析のために、ペレットを6MのGdmSCNに再懸濁し、8Mの尿素に対して透析した。細胞1.5×10個からの上澄み液およびペレットを、還元性条件下でトリス−グリシンポリアクリルアミド10%のゲル上に載せてPVDF膜(ミリポア社(Millipore))へブロットした。マウス抗Hisモノクロナール抗体(シグマ−アルドリッチ社(Sigma−Aldrich)、1:10,000)またはマウス抗T7モノクロナール抗体(ノバジェン社(Novagen)、1:10,000)および抗マウスIgGパーオキシダーゼ共役体(シグマ−アルドリッチ社(Sigma−Aldrich)、1:5,000)を二次抗体として使用して、スパイダーシルクタンパク質を検出した。Sタグ付きADF−3を直接検出するために、Sタンパク質パーオキシダーゼ共役体(ノバジェン社(Novagen)、1:5,000)を使用した。
【0073】
免疫細胞化学
カバースリップ上で50%コンフルエントになるまで培養した細胞を、組換えウイルスをMOI=10で含有しているadf−3(配列番号1)またはadf−4(配列番号2)で感染させた。3日間培養後、PI細胞を−20℃のメタノールで固定した。カバースリップを、1:300で希釈したマウス抗Hisモノクロナール抗体(ロッシュ社(Roche)、続いて1:500で希釈したTexas Red共役抗マウス二次IgGとともに培養した。細胞をBX51蛍光顕微鏡で観察し、画像をMagnafire SPカメラで撮影するか、または共焦点顕微鏡によって解析した。
【0074】
ADF−4糸の精製
細胞を、1.2×10細胞/mLでpH7.5の100mMのNaCl、20mMHEPESに再懸濁し、ドデシル硫酸ナトリウム2w/v%を加え、続いて95℃で5分間のインキュベーションによって溶解させた。糸を5,000×gで沈降させ、続いて8Mの尿素および2回蒸留した水で洗浄した。
【0075】
原子間力顕微鏡(AFM)、走査型電子顕微鏡(SEM)および透過型電子顕微鏡(TEM)
精製されたフィラメントを2回蒸留した水に再懸濁し、分割したてのマイカ上で3分間インキュベートするか(AFM)、またはThermanox(登録商標)プラスチックのカバースリップ(ナルジェン ヌンク社(Nalgen Nunc))上に載せた(SEM)。AFMのために、Multimode SPM(ビーコ社(Veeco))を使用する接触方式の画像化の前に、試料を2回蒸留した水で4回リンスして風乾した。SEMのために、溶液を除去した後に試料を風乾し、金層で真空被覆してからJSM−5900LV(ジェール社(JEOL Ltd.))によって20kVで解析した。TEM(ジェール社(JEOL Ltd.))解析のために、フォルムバール(formvar)で被覆したグリッド上にフィラメントを吸着させてから酢酸ウラニルで負染色した。免疫染色のために、繊維をマウス抗His抗体でインキュベートし、続いて18nmの金共役ヤギ抗マウスIgGで標識した。
【0076】
His−tagを含まない糸の形成
His−tagのフィラメント形成に対する起こりえる影響を排除するために、T7−タグ付きADF−4をSf9細胞中で合成した。T7タグ付きADF−4フィラメント形成は、明らかにHisタグ付きADF−4のそれと区別できなかった(図4A)。
【0077】
adf−3(配列番号1)およびadf−4(配列番号2)共発現細胞における糸の形成
adf−3およびadf−4を共発現するSf9細胞においては、ADF−4だけを生成する細胞において形成されるフィラメントと比較して明らかに区別のつかない形態を示すフィラメントを検出することができた(図4B)。
【0078】
Sf9細胞におけるadf−3(配列番号1)の発現
免疫細胞化学は、adf−3(配列番号1)発現細胞中に複数の蛍光焦点を示したが、フィラメント様の構造は観察できなかった(図4C、D)。重要なことに、Sf9細胞中で合成されたADF−3の大部分が可溶性であった。したがって、焦点の形成は、タンパク質の集合というよりも細胞成分(sub−cellular)の蓄積を表していた。
【0079】
ADF−4のインビトロ集合
ADF−4は、変性剤の透析による除去直後または水性緩衝液中への希釈後に集合した。得られた集合体は線維状の形態を示さなかった(図4E)。化学的安定性の試験は、細胞質ゾル中に形成されるADF−4フィラメントと比較して、インビトロ形成された集合体は2%SDSまたは8Mの尿素中に可溶であることを示した(図4F)。
【0080】
スパイダーシルク由来のタンパク質の集合
以下の実験を実施して、スパイダーシルク配列ADF−3(配列番号1)またはADF−4(配列番号2)由来のタンパク質を形態学的に異なる形態に集合させることができることを実証した。ADF−3およびADF−4に基づくタンパク質を、Biochemistry 2004年、43巻、13604〜11362頁(27)に記載されているように、水溶液中で構成、製造および調製した。別途に言及しない限り、タンパク質溶液は、10mMのトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(トリス)pH8.0を含有していた。
【0081】
1.球
直径が0.5〜2μmの範囲の直径を示すタンパク質球(図5a)を、ADF−4に基づくタンパク質の0.2w/v%溶液に0.8Mの硫酸アンモニウムを加えることによって生成した。
【0082】
2.ナノ線維
直径が0.7〜4nmのナノ線維(図5b)を、ADF−4に基づくタンパク質の1w/v%溶液を室温で2週間インキュベートすることによって形成した。
【0083】
3.微細線維
微細線維を形成するために、ADF−3に基づくタンパク質の25w/v%溶液5〜10μLを、pH8.0の0.5Mリン酸カリウムにゆっくり安定な1滴を形成させながら注入した。1分間インキュベーションした後、タンパク質の滴をピンセットで溶液から取り出した。空気中でさらに1分間インキュベーションした後、第2のピンセットを使用してタンパク質の滴からタンパク質の線維を約2cm/sの速度で引き出すことができた。この線維は、直径4μmの円形断面を示した(図5c、d)。
【0084】
4.泡
2.5mMのアンモニウムパーオキソジサルフェート(APS)、100μMのトリス(2,2’−ビピリジル)ジクロロルテニウム(II)(Rubpy)およびADF−3に基づくタンパク質10w/v%またはADF−4に基づくタンパク質2w/v%を含有している溶液からタンパク質の泡(図5e、f)を生成した。このタンパク質溶液を空気で泡立てた。得られた泡構造を安定させるために、タンパク質をタングステン・ランプからの可視光に1分間露光させた(28)。次に泡を95℃で乾燥した。
【0085】
5.ゲル
濃度1w/v%のADF−4に基づくナノ線維(第2項参照)はゲル様の外観を示したが、これは撹拌またはせん断によって容易に崩壊させることができた。ゲルの力学的性質を改善するために、APSおよびRubpyを拡散によってゲル中に入れて最終濃度が10mMのAPSおよび100μMのRubpyとなるようにした。光誘起架橋(第4項参照)後、寸法安定性のゲルを得ることができた(図5g)。
【0086】
6.フィルム
ADF−3由来のタンパク質を、1,1,1,3,3,3、−ヘキサフルオル−2−プロパノール中に20mg/mLの濃度で溶解させた。200μLの溶液をポリスチレンの表面(約20cm)に展開させた。溶媒の蒸発後、透明なタンパク質フィルムを引き剥がすことができた(図6参照)。
【0087】
参考文献
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【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】Sf9細胞におけるadf−3(配列番号1)およびadf−4(配列番号2)の発現。(A)合成後のADF−3およびADF−4の溶解性。細胞溶解物の可溶性(S)成分および不溶性(P)成分は沈降により分離した。抗His抗体を用いる免疫ブロット法でタンパク質を検出した。(B)adf−4発現細胞中のフィラメントの光学顕微鏡観察(上段パネル)および免疫細胞化学後の蛍光顕微鏡観察(中段パネル)。さらに、別の細胞の免疫細胞化学後の共焦点蛍光画像を下段のパネルに示している。スケールバー:10μm。(C)共合成ADF−3およびADF−4の溶解性。可溶性(S)細胞成分は、不溶性(P)細胞成分から沈降により分離した。ウエスタンブロット後にSタンパク質−パーオキシダーゼ共役体を用いてADF−3を検出し、抗T7タグ抗体を用いてADF−4を検出した。(D)懸濁液中のSf9細胞をmel−His−adf−4ウイルスに感染させた。表示された時間(感染後の日数)に、細胞数が6×10相当のアリコートを培地から取り出して細胞を取り除き、ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)に掛け、続いて免疫ブロットした。(E)mel−his−adf−4ウイルスに3日間感染させた細胞を免疫蛍光測定に掛けた。細胞表面の分泌小胞を明瞭に検出することができた。スケールバー:10μm。
【図2】ADF−4フィラメントおよび集合体の形態。(A)精製フィラメントの走査型電子顕微鏡観察。スケールバー:5μm。(B)精製フィラメントの透過型電子顕微鏡観察。スケールバー:500nm。(C)精製フィラメントのマウス抗His抗体に続いて抗マウス抗体結合金を使用した免疫電子顕微鏡観察。スケールバー:500nm。(D、E)原子間力顕微鏡観察(AMF):(D)高さ画像(height image)(E)偏差画像。フィラメントの高さは0.7μm。スケールバー:5μm。
【図3】ADF−4フィラメントおよびしおり糸の化学的安定性。(A)ADF−4フィラメントは、示されているように変性された。未溶解のフィラメントおよび集合体はゲルに入らなかった。溶解したADF−4を、抗His抗体を使用する免疫ブロットによって検出された。6M GdmSCNで処理した試料をまた銀着色した(GdmSCN/S)。(B)マイカ上の風乾ADF−4フィラメントおよびポリプロピレン上のしおり糸を、示されている各溶液約0.1μLを用いて30秒間インキュベートした。水でリンス後、試料を光学顕微鏡によって観察した。スケールバー:25μm。
【図4】(A)Sf9細胞内で形成されるHis−tagを含まないADF−4フィラメントを光学顕微鏡によって視覚化した。(B)adf−3(配列番号1)およびadf−4(配列番号2)の二重発現後に得られたフィラメントの形態を走査型電子顕微鏡によって詳細に調べた。(C)adf−3(配列番号1)を発現するSf9細胞を光学顕微鏡によって画像化した。(D)ADF−3の細胞内位置決定。adf−3(配列番号1)ウイルスで3日間感染させた細胞を免疫蛍光分析に掛けた。(E)走査型電子顕微鏡によって視覚化された、インビトロ再生後に形成されたADF−4集合体。(F)インビトロで形成されたADF−4集合体の化学的安定性。示されている変性剤による処理後、可溶化されたADF−3を免疫ブロットによって検出した。スケールバー:5μm(B、E)および10μm(A、C、D)。
【図5】スパイダーシルクタンパク質の集合形態。(A)走査型電子顕微鏡(SEM)によって視覚化された、ADF−4に基づくタンパク質によって形成された球。(B)原子間力顕微鏡によって視覚化された、ADF−4に基づくタンパク質によって形成されたナノ線維(高さ情報(height information))。(C、D)SEMによって観察された、ADM−3に基づくタンパク質によって形成された微細線維(C)。線維の切断およびその後の断面の視覚化のためにはGaイオンビームを使用した(D)。(E)ADF−3に基づくタンパク質溶液から発生した泡。(F)ADF−4に基づく溶液から発生した泡。(G)ADF−4ナノ線維によって形成された架橋ゲル。ADF−3およびADF−4は、それぞれ配列番号1および2に相当する。
【図6】本発明のスパイダーシルクタンパク質から作成されたフィルム。ADF−3由来のタンパク質を、1,1,1,3,3,3、−ヘキサフルオル−2−プロパノール中に20mg/mLの濃度で溶解させた。この溶液200μLをポリスチレンの表面(約20cm)上に展開した。溶媒の蒸発後、透明のタンパク質フィルムを引き剥がすことができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1または2の核酸配列によって、あるいはこれらの核酸配列の変異体によってコードされるアミノ酸を含むクモのドラグラインタンパク質であって、中程度に厳しい条件下において変異体が配列番号1または2の配列を含む核酸とハイブリッド形成するか、あるいは遺伝子コードの縮退に起因する核酸の変更であって、配列番号1または2として前記アミノ酸と同じ、もしくは機能的に等価なアミノ酸をコードする核酸の変更を変異体が含むならば、変異体は、配列番号1または2の配列と比較して1つまたは複数の置換、挿入および/または欠失を有するものと定義されるクモのドラグラインタンパク質。
【請求項2】
請求項1に記載のクモのドラグラインタンパク質を含む、クモのドラグラインタンパク質またはクモのしおり糸。
【請求項3】
ドラグラインタンパク質として、野生型ADF−4、配列番号2の核酸によってコードされるアミノ酸、または配列番号4のアミノ酸だけを含む請求項1または請求項2に記載のクモのドラグラインタンパク質またはクモのしおり糸。
【請求項4】
ドラグラインタンパク質として、野生型ADF−3、配列番号1の核酸によってコードされるアミノ酸、または配列番号3のアミノ酸だけを含む請求項1または請求項2に記載のクモのドラグラインタンパク質またはクモのしおり糸。
【請求項5】
請求項1から請求項4の一項または複数項に記載のタンパク質を含む、または請求項1から請求項4の一項または複数項に記載のタンパク質からなるゲルまたはフォーム。
【請求項6】
請求項1から請求項4の一項または複数項に記載のタンパク質を含む、または請求項1から請求項4の一項または複数項に記載のタンパク質からなる、インプラントおよびステントの被覆。
【請求項7】
請求項1から請求項4の一項または複数項に記載のタンパク質/糸および他の繊維を含み、該繊維はクモ起源のものではなく、好ましくは植物起源の繊維または合成繊維である糸または繊維。
【請求項8】
請求項1から請求項4の一項または複数項に記載のタンパク質を含む、または請求項1から請求項4の一項または複数項に記載のタンパク質からなるフィルム。
【請求項9】
請求項1から請求項4の一項または複数項に記載の糸/タンパク質を使用して得られる創縫合システム、創傷被覆システム、縫合材料、代用材料、好ましくは人工の軟骨または腱の材料。
【請求項10】
野生型のADF−3および/またはADF−4を唯一のドラグラインタンパク質としてコードする核酸、または配列番号1および/または配列番号2の核酸を含むベクター。
【請求項11】
1つまたは複数のドラグラインタンパク質、好ましくはドラグラインタンパク質ADF−3、ADF−4(野生型)、ADF−3(配列番号1)および/またはADF−4(配列番号2)をコードする核酸を含むバキュロウイルスベクター。
【請求項12】
技術、バイオテクノロジー、および/または医療の分野における請求項1から請求項4の一項または複数項に記載のタンパク質/糸の使用方法。
【請求項13】
創縫合システムまたは創傷被覆システムの製造、好ましくは縫合材料の製造、より好ましくは神経外科または眼科手術における使用を意図する縫合材料の製造のための請求項1から請求項4の一項または複数項に記載のタンパク質/糸の使用方法。
【請求項14】
代用材料、好ましくは人工の軟骨または腱の材料の製造のための請求項1から請求項4の一項または複数項に記載のタンパク質/糸の使用方法。
【請求項15】
人工代用物、好ましくは人工代用肺の安定化のための請求項1から請求項4の一項または複数項に記載のタンパク質/糸の使用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2008−507260(P2008−507260A)
【公表日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−517202(P2007−517202)
【出願日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【国際出願番号】PCT/EP2005/006799
【国際公開番号】WO2006/002827
【国際公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【出願人】(506426030)
【氏名又は名称原語表記】TECHNISCHE UNIVERSITAET MUENCHEN
【Fターム(参考)】