説明

太陽光発電システムの出力電力平準化装置

【課題】 太陽光発電システムにおいて、日射量変動を考慮して電力系統の周波数変動を抑制する出力電力平準化装置を提供することであり、特に離島などで使用する小規模な電力系統に適用する太陽光発電システムを含む電力供給設備に適合する出力電力平準化装置を提供する。
【解決手段】 電力系統23に電力を供給する太陽電池システム20と電力系統の不足電力を補填する補充用発電装置10を備えた電力供給設備において、太陽電池21の日射量Siと電力系統の周波数偏差値Δfを入力して、太陽電池の日射量が大きいときに太陽電池システムの出力電力を増加させ、周波数偏差値が大きいときに太陽電池システム出力電力を減少させる指令値を算出して、太陽電池システムのインバータ制御器に出力電力指令として供給する出力電力指令装置を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力系統に太陽電池システムと補充用発電機を並列接続した電力供給設備の出力電力平準化装置に関し、特に、離島などでも使用できる小規模で独立した電力系統において太陽電池システムを使い電力系統の周波数変動を抑制して良質な電力供給を可能にする電力供給設備の出力電力平準化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
離島では、主としてディーゼル発電による電力供給が行われている。重油を燃料とするディーゼル発電は、発電電力単価が高い上、硫黄酸化物や二酸化炭素を発生するため環境に悪影響を及ぼす。このため、離島においても、クリーンな太陽光発電システムの導入が図られている。
しかし、原動機発電装置に風力発電装置や太陽光発電装置を組み合わせたハイブリッドシステムでは、風力や日射量の急激な変動に対して電動機発電装置の応答遅れがあるため、系統周波数が一時的に変動する問題がある。
【0003】
太陽光発電システムでは、日射量の変動に応じて動作点を最適に維持して最大出力を得るようにする最大電力点追従制御(MPPT)が多用されている。小規模で独立した電力系統にMPPT制御を適用した太陽光発電システムが使用されるときは、日射量の変動に伴う太陽光発電システムの出力電力変動が電力系統の周波数に悪影響を及ぼすことになる。
【0004】
太陽光発電システムの出力電力平準化を行うために蓄電池などの電力貯蔵装置を用いた方法がある。
特許文献1には、風力発電機や太陽光発電機に原動機で駆動される発電装置と二次電池を組み合わせたハイブリッド発電システムで、離島などに適用できるものが開示されている。
開示のハイブリッド発電システムでは、可逆変換器を介して二次電池を接続し、電力系統の周波数を検出して二次電池の充放電を制御し、充放電を検出して原動機を制御する。電力の需要供給のバランスが崩れるとまず二次電池が系統に対して放電し、あるいは系統からの充電を行って周波数変動を抑制し、次いで原動機発電装置が二次電池の放電量を減じるように負荷を調整するので、系統の周波数変動を許容値以下に抑制することができる。
開示のシステムは、二次電池を備え、可逆変換器を使って系統の周波数変動を抑制するので、設備コストを節減することが難しい。
【0005】
これに対して、たとえば非特許文献1は、電力貯蔵装置を用いずMPPT制御特性を調整することによって太陽電池システムの出力電力を平準化する方法を開示している。非特許文献1は、太陽電池システムにパルス的に発生する急激な出力変動を緩和させて系統に供給するようにする技術を開示したものである。太陽電池システムを併設した電力系統では、日射量の急変に伴う出力電力変動を吸収するため、適当な容量の負荷周波数制御発電機を必要とする。本文献には、系統容量に対して太陽電池システムで数%の容量を補填する場合を想定し、日射量の変動と電力需要の変動についての観測結果を適用して、開示方法により、負荷周波数制御発電機容量が50%近くも増加することが示されている。
しかし、特に、離島などで、需要電力に対して大きな割合を太陽光発電システムで賄うようにした電力系統を採用する場合は、日射量の減少による急激な出力変動が電力系統周波数を変動させる結果をもたらすことになるので、電力系統周波数を安定させるさらに簡便な方策が求められる。
【0006】
さらに、特許文献2には、風力や太陽光など自然エネルギを利用する発電装置に対して、可変周波数変換器を備えた原動機発電機で構成される二重給電同期発電機を付加した電源設備を用いて、自然エネルギ利用発電装置における短い周期の出力変動に対しては原動機と発電機とが有する慣性エネルギーを利用した励磁制御により、また比較的ゆっくりした変動に対しては原動機制御により、出力変動分を吸収する運転を行って、電力系統に供給する電力の平準化を行う技術が開示されている。
開示の発明は、自然エネルギを利用する発電装置に発生する出力変動を、可変周波数変換器を付属し応答性能に優れた二重給電同期発電機で吸収して、平準化するもので、特殊な発電機の性能を利用する方法である。
【特許文献1】特開平11-69893号公報
【特許文献2】特開2006−320080号公報
【非特許文献1】伊奈信彦他:「PVシステムのMPPT制御特性の調整による出力電力平準化」,電学論B,124, No.3, pp.455-461 (2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、太陽光発電システムにおいて、日射量変動を考慮して電力系統の周波数変動を抑制する出力電力平準化装置を提供することであり、特に離島などで使用する小規模な電力系統に適用する太陽光発電システムを含む電力供給設備における出力電力平準化装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の電力供給設備の出力電力平準化装置は、太陽電池とインバータとインバータ制御器を備えて電力系統に電力を供給する太陽電池システムと電力系統における不足電力を補填する補充用発電装置を備えた電力供給設備の出力電力平準化装置であって、所定の出力電力指令装置を備えることを特徴とする。この出力電力指令装置は、太陽電池の日射量と電力系統における周波数偏差値を入力して、太陽電池の日射量が大きいときに太陽電池システムから電力系統への電力供給を増加させると共に、周波数偏差値が大きいときには太陽電池システム出力電力が小さくなるように調整する指令値を算出して、得られた指令値をインバータ制御器に出力電力指令として供給するものである。
【0009】
本発明の出力電力平準化装置によると、太陽電池に照射する日射量が電力系統に接続した負荷に対して不足したときに、これを補填する電力をディーゼル発電機などを使った補充用発電装置から供給できるばかりでなく、日射量が変動したときに電力系統の周波数が変動する可能性があるところ、系統周波数の目標値からの偏差が過大になると太陽電池システムの電力出力が小さくなるように制御することにより、周波数の変動を抑制することができる。したがって、本発明の出力電力平準化装置を用いることにより、太陽電池システムと補充用発電装置を備えた電力供給設備の出力電力が十分平準化して、電力系統に対して良質な電力を供給することができる。
このように、本発明では、出力平準化装置を用いて太陽光発電装置の電力出力を調整することによっても、電力系統の周波数が調整されるようになっている。
【0010】
また、本発明第2の出力電力平準化装置は、さらに、出力電力指令装置が2式のファジー推論装置とこのファジー推論装置の出力を加算する加算器を備えるものである。
第1のファジー推論装置は、日射量の移動平均値と周波数偏差の絶対移動平均値に基づいて、日射量が大きいときに太陽電池システムの電力供給を増加させると共に、周波数偏差が大きいときには太陽電池システム出力電力が小さくなるように調整する第1の指令値をファジー推論に基づいて算出する。
【0011】
また、第2のファジー推論装置は、日射量の移動分散値と周波数偏差の絶対移動平均値に基づいて、日射量の分散値が大きいときに太陽電池システムの電力供給を減少させると共に、周波数偏差が大きいときには太陽電池システム出力電力が小さくなるように調整する第2の指令値をファジー推論に基づいて算出する。
加算器は、第1指令値と第2指令値を加算してインバータ制御器に出力電力指令として供給することを特徴とする。
【0012】
本発明第2の出力電力平準化装置によると、太陽電池の日射量と電力供給設備出力電力の周波数偏差に基づいて第1指令値と第2指令値を求めて加算してインバータ制御器に出力電力指令値として供給する。
このため、第1のファジー推論ブロックは、日射量が大きいときに太陽電池システムの出力電力を増加させると共に、周波数偏差が大きいときには太陽電池システム出力電力が小さくなるように調整する第1のファジールールを内蔵して、日射量の移動平均値と周波数偏差の絶対値の移動平均値を入れて第1指令値を求める。
【0013】
また、第2のファジー推論ブロックは日射量が大きいときに太陽電池システムの電力供給を減少させると共に、周波数偏差が大きいときには太陽電池システム出力電力が小さくなるように調整する第2のファジールールを内蔵して、日射量の移動分散値と周波数偏差の絶対移動平均値をルールに当て嵌めて第2指令値を求める。
このように、ファジー推論の入力として電力系統周波数変動の絶対移動平均値および日射量の移動平均値と日射量の分散の移動平均値を用いる。太陽電池出力電力は日射量に対応するので、本発明の出力電力平準化装置は、時々刻々と変化する電力系統周波数変動と日射量変動に対応した太陽光発電システムの出力電力指令値を決定することが可能である。
【0014】
本発明第2の出力電力平準化装置は、さらに、零次ホールド回路と遅延回路と連続出力化回路を備え、加算器の出力を連続する出力信号に変成する出力円滑器を設けることが好ましい。
ファジー推論ブロックから出力される第1指令値と第2指令値の和は、零次ホールド回路により離散値化し、遅延回路を使って現時点における出力電力指令値にファジー推論ブロックからの指令値を加えて1サンプリング時間先の出力電力指令値を得る。
こうして得られた出力電力指令値はステップ状に変化するためそのまま使用すると円滑な制御ができないが、たとえば、サンプリング期間を挟んだ指令値をサンプリング期間にわたって比例配分することによって連続化した出力電力指令値とすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の出力電力平準化装置は、太陽光発電システムに適用することにより、時々刻々と変化する日射量変動の影響を考慮して電力系統の周波数変動を抑制することができる。特に、離島などで使用される太陽電池システムを使った小規模で独立した電力系統において電力系統の周波数変動を抑制して良質な電力供給を可能にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。
図1は本実施例に係る出力電力平準化装置を適用した電力系統制御系のブロック線図、図2は太陽光発電システムのブロック図、図3は太陽光発電モジュールの等価回路、図4は太陽光発電モジュールの電圧電流特性図、図5は太陽光発電モジュールの電力電圧特性図、図6は本実施例の出力電力平準化装置のブロック線図、図7は本実施例のファジー推論Iにおけるファジールールを表す表、図8はファジー推論Iにおけるメンバシップ関数を示すグラフ、図9は本実施例のファジー推論IIにおけるファジールールを表す表、図10はファジー推論IIにおけるメンバシップ関数を表すグラフ、図11はシミュレーションで用いたパラメータを示す表、図12は太陽光発電システムにMPPT制御を用いた場合のシミュレーション結果を示す図面、図13と図14は本実施例の手法を用いて太陽光発電システムの出力電力制御を行った場合のシミュレーション結果を示す図面である。
【0017】
本実施例の出力電力平準化装置は小規模な電力系統に適用するものである。電力系統内に、太陽光発電システムと補充用の原動機発電装置があり、これらの発電設備により接続された機器に電力を供給する。
本実施例の適用先は、マイクログリッドのように一般電気事業者の大規模電力系統と連携されていない、離島などに設けられ、常時独立して運用される小規模電力系統である。
【0018】
図1は、本実施例の電力系統制御系のブロック線図である。
図中、上の段はディーゼル発電機など原動機発電装置における周波数制御系、下の段は太陽光発電システムの制御系を示すブロック図である。
電力系統の周波数制御は、系統周波数を許容値以内に保持するように、系統の周波数変化に応じて発電機の有効出力を制御する定周波数制御方式である。
電力系統の周波数変動は±0.5Hzを許容限度とするが、実質的には0.1Hz以内に保持することが要求される。さらに、電気時計などが使われる関係から、周波数偏差の積分値がゼロとなる制御も必要となる。
【0019】
補充用原動機発電装置10の周波数制御系では、スピードチェンジャーもしくは調速機が設定値偏差ΔPsを入力すると、それぞれ1次遅れ特性で近似できる調速機系11、原動機系12、発電機系13が直列接続した発電装置で信号伝達処理を受けて出力電力ΔPdとして信号出力する。
補充用発電装置の出力電力ΔPdには、太陽光発電システムの出力電力ΔPaが加算され、負荷電力変動ΔPlの影響が加えられる。この出力電力が実需電力と偏差を有すれば、1次遅れで近似できる電力系統モデル14を介して電力系列周波数偏差Δfとなって現れる。
周波数偏差Δfは、並列接続された比例回路15と積分回路16を介して、調速機設定値偏差ΔPsにフィードバックされる。
【0020】
太陽光発電システム20は、日射量Siと出力電力平準化装置30の出力電力指令値P*invを入力して、出力電力ΔPaを出力する。
出力電力平準化装置30は、日射量Siと電力系統周波数偏差Δfを入力して出力電力指令値P*invを算出する。
図2は、太陽光発電システムのブロック図である。
太陽光発電システム20は、太陽電池アレイ21、PWM(パルス幅変調)インバータ22、PI(比例積分)制御装置を含む。PI制御装置は、3相2相変換・演算器24,PI制御器25、PWM制御器26で構成される。
【0021】
太陽電池アレイ21は、太陽光発電モジュールを多数配設したパネルである。図3は太陽光発電モジュールを電流源モデルとして表した等価回路を示す。太陽光発電モジュールはシリコンなどの半導体のpn接合で構成され、pn接合に光を照射すると光起電力効果によりn形からp形の方向に電流が流れる。したがって、太陽電池は日射量に対応した電流を生成する定電流源GとダイオードDを並列に接続した回路で表すことができる。現実には電極における損失や接合に並列な漏れ電流を考慮しなければならないので、内部直列抵抗Rsや内部並列抵抗Rshを導入して、図3のように表示するのが適当である。
【0022】
太陽光発電モジュールの電流対電圧特性は、内部直列抵抗を無視した場合、次式で表される。
Io=Np Ig−Np Isat{exp(q Vo/A K T)−1}−Irsh (1)
ここで、Io,Voは太陽光発電モジュールの出力電流、出力電圧、Igは得られる日射量に対応して出力される電流、Isatは飽和電流、qは電荷、Kはボルツマン定数、Aは理想係数、Tは温度、Npは並列セル数、Irshは内部抵抗を流れる電流である。
【0023】
飽和電流Isatは、次式にしたがって、温度Tの変化に伴い変化する。
Isat=Ior (T/Tr)3exp{(q Eg/ K T)(1/Tr−1/T)} (2)
Ig =Isc Si/1000+It(T −Tr) (3)
ここで、Iorは温度がTrの時の飽和電流、Tは太陽電池アレイの温度、Trは基準温度、Egはバンドギャップエネルギー、Itは短絡電流温度係数、Iscは太陽光発電モジュールの短絡電流である。
また、太陽光発電モジュールの内部並列抵抗の電流Irshは次式で表される。
Irsh=Vo/(Ns Rsh) (4)
ここで、Nsは直列セル数である。
【0024】
図4と図5はそれぞれ、これらの式で表されるモデルにしたがって、太陽光発電モジュールの電流対電圧特性と出力電力対電圧特性を表した図面である。日射量をパラメータとして図示している。
日射量に対応した一定の電流出力が得られるが、出力電圧に限度があって、電圧がある水準を超えると出力電流が低下する。電力は電圧と電流の積であるから、一定の日射量の下で電圧を調整することにより、出力電力を制御することができる。また、日射量にしたがって最大出力電力が決まる。
【0025】
図2に示すように、太陽電池21の直流出力は、LC回路を介してPWMインバータ22に入力され(電流Ia:電圧Va)、交流電力系統23で使用できる3相の交流電力に変換された上で交流電力系統23に供給される。交流電力系統23は、補充用の交流発電系10から電力供給を受けている。
PWMインバータ22から3相交流電力として出力される電気出力の各相における電流値Isと電圧値Vsは、電線に設けられた電流計と電圧計で測定され、3相2相変換・演算器24に入力される。3相2相変換・演算器24は、出力電力平準化装置30から出力される出力電力指令値P*invをさらに入力し、PWMインバータ22の出力電流の測定値と指令値の差の絶対値|I*inv − Iinv|を算出して、PI制御器25の偏差入力として入力する。
【0026】
PI制御器25は、比例積分制御の論理にしたがって、出力電流の実測値と指令値の差の絶対値をゼロにするような制御指令値を形成して、制御変数としてPWM制御器26に供給する。
PWM制御器26は、PWMインバータ22のスイッチ回路を操作するタイミング信号を算定してPWMインバータ22に提供する。
PWMインバータ22は、スイッチ回路を備えて、PWM制御器26の制御に従い、入力した直流電力を3相交流配線に分配し、所定のプログラムにしたがってパルス状に成形し、実質上互いに同期した正弦波に変化させることにより、3相交流電力出力に変換して、電力系統23に供給する。
【0027】
図6は、本実施例の出力電力平準化装置の構成を表すブロック線図である。
出力電力平準化装置30は、2個のファジー推論回路32,35と、絶対平均算出回路31、移動平均算出回路33、分散算出回路34、零次ホールド回路36,遅延回路37、平滑化回路38を備え、日射量Siと系統周波数偏差Δfを入力し、ファジー推論を用いて適切な出力電力指令値P*invを算出して、太陽光発電システム20に供給する。
本実施例の出力電力平準化装置30は、2個のファジー推論回路32,35を備えており、これらのファジー推論により太陽光発電システムの定格出力電力の割合が決定される。
【0028】
第1ファジー推論回路32で実行されるファジー推論Iは、周波数変動の絶対値の移動平均値Δfsと日射量の移動平均値Simを入力する。
周波数変動絶対移動平均値Δfsは、電力系統の状態を判断するための指標となり、絶対平均算出回路31により、周波数偏倚Δfを用いて次式で求められる。
Δfs=∫(t=t〜t-T)(|Δf|)dt/T (5)
ここで、tは現在の時間、Tは積分区間である。周波数偏倚の絶対値を用いるため、電力系統の周波数変動量の増減に伴ってこの絶対移動平均値が増減する。この絶対移動平均値Δfsを使うことにより、ある時間帯における周波数変動状態を定量的に評価することができる。
【0029】
日射量の移動平均値Simは、次式で表される。
Sim=∫(t=t〜t-T)Sidt/T (6)
ここで、Siは時々刻々における日射量である。移動平均算出回路33は、(6)式にしたがって日射量移動平均値Simを求める回路である。
【0030】
ファジー推論Iの入力として、周波数変動の絶対移動平均値Δfsを用いるので、電力系統の状態を反映した太陽光発電システムの出力電力制御を行うことができる。
しかし、日射量の状況を反映させないと日射量が大きいときに大きな電力出力が得られないことがあるので、日射量の移動平均値Simもファジー推論の入力とすることにより、出力電力指令値P*invに日射状況も反映させる必要がある。
【0031】
図7は、ファジー推論Iにおけるファジールールを表す表である。
本ファジー推論ではif-thenルールが使用され、ファジールールは次のように表される。
(ルール)
if:ΔfsがLxで、SimがMyであるときは、
then:γIはZjになる。 (7)
ただし、x=1,2,・・,7、y=1,2,・・,7、k=1,2,・・,7である。
ここで、Lx,Myは前件部関数のファジー集合、Zjは後件部関数のファジー集合を示す。
【0032】
最終的な推論結果は、次式に従った重み付き平均値により決定する。
γI=Σ(i=1〜49)ωiZj/Σ(i=1〜49)ωi (8)
ここで、ωiはi番目のルールの前件部適合度である。i番目の前件部適合度ωiは、各メンバシップ関数の積として、次式で表される。
ωi=ωfsiωSii (9)
ここで、ωfsiとωSii は、それぞれ(7)式の前件部関数ΔfsとSimの適合度である。
【0033】
ファジー推論のメンバーシップは、それぞれNB(大きな負値),NM(中間の負値),NS(小さな負値),ZO(ゼロ値),PS(小さな正値),PM(中間の正値),PB(大きな正値)の7個の水準に分類される。
また、図8は、本実施例において採用した各変数の値それぞれの範囲を表すメンバシップ関数を示したものである。
【0034】
ファジー推論Iでは、太陽光発電システムから得られる出力電力を増大させる一方、周波数変動Δfが±0.3Hzを超えないようにすることが要求されている。したがって、電力系統周波数偏差が増加するときには、太陽光発電システムの出力電力指令値P*invが減少するようにルールを決める必要がある。
±0.2Hzを超える周波数変動Δfが頻繁に発生するときに、出力電力指令値P*invが最も減少するなるように、試行錯誤によりファジールールとメンバシップ関数を決定した。
【0035】
ファジー推論Iのファジールールは、周波数変動の絶対平均値Δfsが小さいときに推論出力γIは大きくなり、また日射量の平均値Simが小さいときに推論出力γIは小さくなるようにしてある。なお、周波数変動の絶対平均値Δfsが最も小さく日射量の平均値Simが最も小さいときに推論出力γIはほぼ中間の値(ゼロ値)をとり、Δfsが最も大きくSimが最も大きいときも推論出力γIはゼロ値をとるようになっている。
【0036】
ファジー推論Iに基づいて、たとえば、日射量の移動平均値Simが大きいときに出力電力指令値P*invを増加させるだけでは、日射量が短時間内に急激に減少する場合などに補充用発電装置の出力電力が追従できず、大きな周波数変動を来す可能性がある。したがって、日射量の変動が大きい時間帯では、日射量の変化量を検知して出力電力指令値を限定することが望ましい。
そこで、偏差の大きさに対応する分散を使うファジー推論IIを導入して併用することにした。
【0037】
第2ファジー推論回路35で実行されるファジー推論IIは、電力系統周波数変動絶対値の移動平均Δfsと日射量の分散σ2を入力し、ファジー推論を用いて第2の出力電力指令値γIIを算出するものである。
日射量の分散値σ2は、分散算出回路34により、移動平均算出回路33の入力と出力に当たる日射量Siと日射量移動平均値Simを使って、次式にしたがって算出される。
σ2=∫(t=t〜t-T)(Si−Sim)2dt/T (10)
【0038】
図9はファジー推論IIにおけるファジールールを表す表、図10はファジー推論IIにおけるメンバシップ関数を表すグラフである。
ファジー推論IIでは、周波数変動絶対移動平均値Δfsおよび日射量の分散σ2が増加するときは、太陽光発電システム20の出力電力指令値P*invを減少させるようにする。ファジールールとメンバシップ関数は、試行錯誤により決定した。
【0039】
ファジールールは、ファジー推論IIと同様に、次のように表される。
(ルール)
if:ΔfsがHxで、σ2がIyであるときは、
then:γIIはQjになる。
ただし、x=1,2,・・,7、y=1,2,・・,7、k=1,2,・・,7である。
【0040】
ファジー推論IIのファジールールは、周波数変動の絶対平均値Δfsが小さいときに推論出力γIIは大きくなり、また日射量の分散σ2が小さいときに推論出力γIIは大きくなるようにしてある。なお、周波数変動の絶対平均値Δfsが最も小さく日射量の分散σ2が最も大きいときに推論出力γIIはほぼ中間の値(ゼロ値)をとり、Δfsが最も大きくσ2が最も小さいときも推論出力γIIはゼロ値をとるようになっている。
ファジー推論IIにおける最終的な推論結果γIIは、ファジー推論Iの最終的な推論結果γIと同様に決定される。
【0041】
第1ファジー推論回路32の推論結果γIと第2ファジー推論回路35の推論結果γIIは加算され、出力電力指令値として太陽光発電システム20の制御部に供給される。
図6に示すように、推論結果γIと推論結果γIIは加算器で加算し、零次ホールド回路36により1サンプリング時間先の時点まで同じ値を維持するステップ状信号とし、操作出力u(k+1)とする。次式に示すように、現時点kにおける太陽光発電システムの出力電力指令値γ(k)を遅延回路37を介して操作出力に加算することで、次のサンプリング時における出力電力指令値γ(k+1)が得られる。出力電力指令値γ(k)は、定格出力電力に対する割合を指令値として使用したものである。
γ(k+1)=γ(k)+u(k+1) (11)
【0042】
(11)式により得られる出力電力指令値γ(k+1)は、ステップ状に変化するため、連続的な信号に変換する必要がある。そこで、円滑化回路38において、次式で表される関数を用いて、サンプリングの間の期間中においても連続的な出力電力指令値P*invに変換する。
*inv=Prated{γ(k)+(γ(k+1)−γ(k))f(t)/Ts} (12)
ここで、Pratedは太陽光発電システムの定格出力電力、Tsはサンプリング時間、f(t)は、f(t)=t(0<t<Ts)で表される周期Tsの周期関数である。
なお、本実施例のファジー推論では、ファジー推論Iとファジー推論IIの両方に周波数変動の絶対平均値Δfsを入力するので、出力電力指令値P*invは日射量の状況より電力系統状態により大きく依存する関数になっている。
【0043】
本実施例の出力電力平準化装置を適用した太陽光発電システムと従来のMPPTを用いて出力指令値を決定する太陽光発電システムについて、シミュレーションにより制御性能の比較を行った。
図11は、シミュレーションで用いた電力系統、太陽光発電アレイ、電力変換器、PI制御器のパラメータを示す表である。
なお、シミュレーションにおける積分区間Tは100s、出力電力指令値を決定するサンプリング時間Ts は10s、PI制御器のサンプリング時間は1msとした。
【0044】
図12は、太陽光発電システムの出力電力制御法としてMPPT制御を用いた場合のシミュレーション結果を示す図面である。補充用原動機発電装置にはディーゼル発電機を用いている。
図12の(a)図は、シミュレーション対象とした日射量 iの変化状態、(b)図は負荷ΔPlの変化を示す。また、(c)図は太陽電池アレイの出力ΔPaの変化、(d)図は補助用原動機発電機の出力ΔPdの変化、(e)図は系統周波数偏差Δfの変動を示す。
【0045】
MPPT制御を用いた太陽光発電システムでは、図12(c)に示されるように、太陽電池アレイの出力ΔPaは、日射量Siの変化に連動して変化する。
ディーゼル発電機の出力電圧ΔPdは、(d)図に示されるように、太陽光発電システムの出力電力ΔPdと負荷ΔPlの変動を直接的に相殺するため、大きく変動している。このため、(e)図に示されたように、電力系統周波数変動Δfも大きく、頻繁に±0.3Hzを超える変動が出現している。
したがって、特に電力系統容量に対して太陽光発電システム容量が大きい場合、MPPT制御を用いた太陽光発電システムの出力電力制御では電力系統周波数の変動が大きくなるおそれがある。
【0046】
図13および図14は、本実施例の手法を用いて太陽光発電システムの出力電力制御を行った場合のシミュレーション結果を示す図面である。
本シミュレーションは、MPPT制御を用いた場合と同じ日射量パターンと負荷変動パターンを使って行った。
図13の(a)図は、シミュレーション対象とした日射量Siの変化状態、(b)図は負荷ΔPlの変化で、いずれも図12におけるMPPT制御を用いた太陽光発電システムの場合と同一である。なお、(a)図には、日射量Siの移動平均値Simを併記している。
【0047】
また、図13の(c)図は太陽電池アレイの出力電力ΔPaの変化、(d)図は補助用原動機発電機の出力ΔPdの変化、(e)図は系統周波数偏差Δfの変動を示す。
さらに、図14の(f)図は系統周波数の絶対平均値Δfs、(g)図はファジー論理Iの出力γI、(h)図はファジー論理IIの出力γII、(i)図は日射量の分散σ2の変化を示す。
【0048】
なお、図13の(c)図には、図12の(c)図と同じグラフになる太陽電池アレイの可能な最大出力電力と、出力電力指令値P*invと、太陽電池アレイの実際の出力電力ΔPaが記載されている。太陽電池アレイの出力電力ΔPaは、本実施例の制御方法により、指令値に良く追従して指令値P*invと重なったグラフになっており、出力電力平準化が達成されることが分かる。
また、太陽光発電システムの出力電力ΔPaが(c)図に表されたように滑らかであるため、(d)図に表された補助用原動機発電装置であるディーゼル発電機の出力電力ΔPdは、主に負荷ΔPlの変動分に対応して制御されていることが分かる。したがって、図12の(d)図と比較すると、本実施例の手法がディーゼル発電機出力電力ΔPdの変動を滑らかにしている。
【0049】
さらに、図13の(e)図に示されたように、本実施例の手法に従った系統周波数制御が、図12(e)の従来の系統周波数制御と比較して周波数偏倚をより小さくして、変動幅を±0.3Hz以内に維持させている。
これは、負荷ΔPlの影響により周波数が大きく変動するt=600〜1000sの時間帯において、日射量の急激な減少により太陽光発電システムの出力電力に大きな変動が生じないように、出力電力指令値P*invを抑制するためである。
また、負荷変動が小さいt=1400〜1800sの時間帯においては、出力電力指令値P*invが増加している。
【0050】
なお、ファジー推論Iの出力γIは、入力変数である周波数変動の絶対平均値Δfsと日射量の平均値Simに応じて、またファジー推論IIの出力γIIは周波数変動の絶対平均値Δfsと日射量の分散σ2に応じて、変化していることが確認できる。
【0051】
本発明にかかる太陽光発電システムの出力電力制御手法では、太陽光発電システムの出力電力指令値は、系統周波数変動の絶対平均値、日射量の平均値、日射量の分散を入力とするファジー推論によって決定される。日射状況ばかりでなく系統周波数の状況を反映して出力電力指令値を算定するので、系統周波数の偏倚を抑制し、出力電力の平準化が可能である。
また、本発明にかかる太陽光発電システムの出力電力制御手法は、特に離島などで使用する小規模な独立した電力系統を維持する太陽光発電システムを含む電力供給設備における出力電力平準化に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の1実施例に係る出力電力平準化装置を適用した電力系統制御系のブロック線図である。
【図2】本実施例に使用する太陽光発電システムのブロック図である。
【図3】本実施例に使用する太陽光発電モジュールの等価回路である。
【図4】太陽光発電モジュールの電圧電流特性図である。
【図5】太陽光発電モジュールの電力電圧特性図である。
【図6】本実施例の出力電力平準化装置のブロック線図である。
【図7】本実施例のファジー推論Iにおけるファジールールを表す表である。
【図8】本実施例のファジー推論Iにおけるメンバシップ関数を示すグラフである。
【図9】本実施例のファジー推論IIにおけるファジールールを表す表である。
【図10】本実施例のファジー推論IIにおけるメンバシップ関数を表すグラフである。
【図11】シミュレーションで用いたパラメータを示す表である。
【図12】太陽光発電システムにMPPT制御を用いた場合のシミュレーション結果を示す図面である。
【図13】本実施例の手法を用いて太陽光発電システムの出力電力制御を行った場合のシミュレーション結果を示す図面である。
【図14】本実施例の手法を用いて太陽光発電システムの出力電力制御を行った場合のシミュレーション結果を示す別の図面である。
【符号の説明】
【0053】
10 補充用原動機発電装置
11 調速機系
12 原動機系
13 発電機系
14 電力系統モデル
15 比例回路
16 積分回路
20 太陽光発電システム
21 太陽電池アレイ
22 PWMインバータ
23 交流電力系統
24 3相2相変換・演算器
25 PI制御器
26 PWM制御器
30 出力電力平準化装置
31 絶対平均算出回路
32 第1ファジー推論回路
33 移動平均算出回路
34 分散算出回路
35 第2ファジー推論回路
36 零次ホールド回路
37 遅延回路
38 平滑化回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽電池とインバータとインバータ制御器を備えて電力系統に電力を供給する太陽電池システムと電力系統における不足電力を補充する補充用発電装置を備えた電力供給設備の出力電力平準化装置であって、出力電力指令装置を備え、該出力電力指令装置が、前記太陽電池の日射量と前記電力系統における周波数偏差信号を入力して、前記太陽電池の日射量が大きいときに前記太陽電池システムから前記電力系統への電力供給を増加させると共に、該周波数偏差が大きいときには該太陽電池システム出力電力が小さくなるように調整する指令値を演算して、該指令値を前記インバータ制御器に出力電力指令として供給することを特徴とする出力電力平準化装置。
【請求項2】
前記出力電力指令装置は、2式のファジー推論装置と該ファジー推論装置の出力を加算する加算器を備え、第1のファジー推論装置は前記太陽電池に照射される日射量の移動平均値と前記電力供給設備出力電力における周波数偏差の絶対移動平均値に基づいて日射量が大きいときに前記太陽電池システムの電力供給を増加させると共に、該周波数偏差が大きいときには該太陽電池システム出力電力が小さくなるように調整する第1の指令値をファジー推論に基づいて算出し、第2のファジー推論装置は前記太陽電池に照射される日射量の移動分散値と前記周波数偏差の絶対移動平均値に基づいて該日射量が大きいときに前記太陽電池システムの電力供給を減少させると共に、該周波数偏差が大きいときには該太陽電池システム出力電力が小さくなるように調整する第2の指令値をファジー推論に基づいて算出し、前記加算器は該第1指令値と第2指令値を加算して前記インバータ制御器に出力電力指令として供給することを特徴とする請求項1記載の出力電力平準化装置。
【請求項3】
前記出力電力指令装置は、さらに零次ホールド回路と遅延回路と連続出力化回路からなり、前記加算器の出力を連続する出力信号に変成する出力円滑器を備えることを特徴とする請求項2記載の出力電力平準化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−33862(P2009−33862A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−194890(P2007−194890)
【出願日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【出願人】(504145308)国立大学法人 琉球大学 (100)
【Fターム(参考)】