太陽電池システム、電子機器および建築物
【課題】太陽電池の出力特性の変化に対する追随制御が速く、太陽電池の電気応答速度によらず太陽電池を常に最大効率で発電が可能な新規な発電制御システムを有する太陽電池システムを提供する。
【解決手段】太陽電池システム10は、太陽電池1から負荷制御装置2を介して外部の電力系統や二次電池、キャパシタなどに電力を供給し、負荷制御装置2は制御装置3で制御する。制御装置3は、出力測定装置4と、出力予測装置5と、MPPT制御装置6と、発電電圧安定化装置7とを有し、出力測定装置4で計測した太陽電池の発電出力の過渡特性をもとに出力予測装置5によって到達出力値を予測し、得られた予測出力値を太陽電池の出力値とみなしてMPPT制御装置6で制御する。
【解決手段】太陽電池システム10は、太陽電池1から負荷制御装置2を介して外部の電力系統や二次電池、キャパシタなどに電力を供給し、負荷制御装置2は制御装置3で制御する。制御装置3は、出力測定装置4と、出力予測装置5と、MPPT制御装置6と、発電電圧安定化装置7とを有し、出力測定装置4で計測した太陽電池の発電出力の過渡特性をもとに出力予測装置5によって到達出力値を予測し、得られた予測出力値を太陽電池の出力値とみなしてMPPT制御装置6で制御する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、太陽電池システム、電子機器および建築物に関し、例えば色素増感太陽電池に用いて好適な、太陽電池システムおよびこの太陽電池システムを有する電子機器および建築物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
太陽光を電気エネルギーに変換する光電変換素子である太陽電池は太陽光をエネルギー源としているため、地球環境に対する影響が極めて少なく、より一層の普及が期待されている。従来の太陽電池としては、単結晶または多結晶のシリコンを用いた結晶シリコン系太陽電池および非晶質(アモルファス)シリコン系太陽電池が主に用いられている。
【0003】
一方、1991年にグレッツェルらが提案した色素増感太陽電池は、高い光電変換効率を得ることができ、しかも従来のシリコン系太陽電池とは異なり製造の際に大掛かりな装置を必要とせず、低コストで製造することができることなどにより注目されている(例えば、非特許文献1参照。)。
【0004】
この色素増感太陽電池は、一般的に、光増感色素を結合させた酸化チタン(TiO2)などからなる多孔質電極と、それらの間に電解液からなる電解質層が充填された構造を有する。電解液としては、ヨウ素(I2)やヨウ化物イオン(I-)などの酸化・還元種を含む電解質を溶媒に溶解したものが多く用いられる。
【0005】
ところで、太陽電池は、接続した負荷の電圧値によって取り出せる電流値が決まる電流電圧出力特性(I−V出力特性)を有している。太陽電池の発電出力Pは、その発電電圧Vと発電電流Iの積によって表わされるので、例えば、太陽電池が開放状態であれば発電電流Iが流れずI=0となるため、発電出力PはP=0である。一方、太陽電池が短絡状態にある場合、発電電流Iの値は非常に大きくなるが、発電電圧VがV=0となるため、やはり発電出力PはP=0となる。すなわち、太陽電池を効率よく発電するために太陽電池に接続する負荷は、開放状態のような無負荷であっても、短絡状態のような過負荷であってもだめであり、適度な負荷であることが非常に重要である。
【0006】
図21は、ある一定の光源の下における太陽電池のI−V出力特性および電力電圧出力特性(P−V出力特性)の一例を示した図である。
図21に示すように、横軸は太陽電池に発生する発電電圧Vであり、縦軸は太陽電池の発電電流Iと発生する発電出力Pを示している。ここで、P−V出力特性に注目すると、太陽電池からの出力電力が最大となる動作点はP−V出力特性の頂点であり、一般に、最大電力点(MPP:Maximum Power Point)と呼ばれている。つまり、太陽電池は、常にこのMPPにおいて発電をしていれば最も発電効率が良いといえる。
【0007】
しかしながら、太陽電池のP−V出力特性は日射強度、温度、負荷条件などによって大きく変動し、それに伴いMPPも大きく変動する。このことから、常に高い効率で太陽電池を発電させるためには、最大電力点追跡(MPPT:Maximum Power Point Tracking)制御が必要となる。つまり、MPPT制御は、発電出力Pが最大となる発電電圧Vと発電電流Iの組み合わせであるMPPを見出し、常にその状態が維持されるように太陽電池に適度な負荷をかけ続け、太陽電池を常に最大効率で動作させる制御である。言い換えれば、太陽エネルギーを無駄なく電気エネルギーに変換するための制御であり、事実上、太陽電池を駆動させるのになくてはならない制御の一つである。
【0008】
MPPT制御回路に用いられる電子回路は、大きく分けて、次の二種類の方式が考えられる。一方は、発電電圧を制御変数として発電電圧の値が設定値となるようにフィードバック制御する回路、他方は、発電電流を制御変数として発電電流の値が設定値となるようにフィードバックする回路である。これらの制御方法は電気化学分野においては、それぞれ、電位規制制御(Potentiostatic Control)、電流規制制御(Galvanostatic Control)と呼ばれている。
【0009】
実際にMPPT制御回路を設計する場合においては、圧倒的に前者の電位規制制御が用いられる。その理由は、発電電圧と発電電流の照度依存性から説明される。通常、太陽電池は、照度が0.5W/m2程度のオフィス内から、照度1000W/m2程度の真夏の直射日光下まで、数桁に渡る照度範囲での安定な動作が求められる。太陽電池の特性上、MPPにおける発電電流Imaxは照度にほぼ比例する。一方、MPPにおける発電電圧Vmaxは照度の対数にほぼ比例する。すなわち、発電電流は照度変化に伴い数桁に渡って激しく変動するが、発電電圧は対数圧縮されることで変動の範囲は小さくなる。このことから、発電電圧は制御変数として扱いやすく、発電電圧を制御した方が制御回路も簡便となる。
【0010】
MPPT制御の中で従来から知られているものとしては、山登り法という制御方法がある。山登り法とは、一定時間間隔で発電電圧Vまたは発電電流Iの設定値を上げるか下げるかして変化させ、その変化によって発電出力Pが上昇したか下降したかを調べ、その結果に応じて次の回に発電電圧を上げるか下げるかを決める制御法である。この山登り法によるMPPT制御法は、太陽電池の発電制御に多く用いられ、その技術についてはこれまでにも多数報告されている。(例えば、特許文献1〜4。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平7−234733号公報
【特許文献2】特開平8−76865号公報
【特許文献3】特開2002−48704号公報
【特許文献4】特開2004−280220号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Nature,353,p.737-740,1991
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
太陽電池の発電制御を山登り法によってMPPT制御する場合において、MPPを高い精度で検出するためには、発電電圧Vまたは発電電流Iの設定値の変化の幅を狭くして分解能を高めればよい。しかしながら、いずれの設定値も、変化の幅を狭くしすぎるとMPPを捉えるまでに時間が掛かってしまう。そうすると、MPPを捉えるまでの時間における発電は最大効率ではなくなるため、その間の太陽エネルギーを取りこぼし、無駄にしてしまっていることになる。
【0014】
また、山登り法によるMPPT制御は、発電電圧Vまたは発電電流Iの設定値を変化させてから、次の発電電圧の設定値を変化させるまでの待ち時間が存在する。この待ち時間は、短ければ短いほど素早くMPPを捉えることが可能となる。例えば、電気応答速度の速い太陽電池であれば、待ち時間は数ミリ秒〜数十ミリ秒といった短時間でも問題ないので、素早くMPPを捉えることが可能となる。しかしながら、電気応答速度の遅い太陽電池であると、待ち時間は数秒単位で必要となる。そうすると、MPPを捉えるまでに時間が掛かってしまうため、この場合においても、同様に上述したような太陽エネルギーの取りこぼしが発生してしまう。
【0015】
このように、山登り法によるMPPT制御は太陽電池の発電効率が最大となる条件を精度良く見出すという点では優れた方法である。しかしながら、電気応答速度の遅い太陽電池を山登り法によるMPPT制御で発電制御すると、MPPを捉えるまでに時間が掛かる。これは、発電電圧Vまたは発電電流Iの設定値が変化するごとに発生する数秒単位の待ち時間が発生するからである。このため、照度条件の変化などによる太陽電池の出力特性の変化などに適切な速度で追随して制御することができない。特に、分解能を高めてMPPを精度良く見出そうとすると、出力の測定数が増加することで上述した待ち時間も増加し、この問題は更に深刻となる。
【0016】
一方、電気応答速度に依存しない制御法としては、例えば、電圧追従法が挙げられる。電圧追従法は、太陽電池を開放状態にした時の電圧である開放電圧Vocにある定数(典型的な値としては0.7〜0.8)を乗じた値を太陽電池の発電電圧とし、電位規制制御を行う方法である。この方法を適用すると、太陽電池の動作点はMPPの近傍に留まり続け、おおよそ実力の80%以上での安定発電が可能となる。
【0017】
このように、電圧追従法は、太陽電池の電気応答速度と関係のない制御方法であるため、特に、電気応答速度の遅い太陽電池においては、山登り法よりも有効な方法であると言える。しかしながら、この方法は、そもそもMPP自体を捉えることをしないため、太陽電池を常に最大効率で発電をすることはできない。
【0018】
そこで、本開示が解決しようとする課題は、従来よりも、太陽電池の出力特性の変化に対する追随制御が速く、太陽電池の電気応答速度によらず太陽電池を常に最大効率で発電が可能であって、低消費電力で低コストの新規な太陽電池システムを提供することである。
【0019】
本開示が解決しようとする他の課題は、上述したような優れた太陽電池システムを太陽電池に用いた高性能の電子機器を提供することである。
【0020】
本開示が解決しようとするさらに他の課題は、上述したような優れた太陽電池システムを太陽電池に用いた建築物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
前記課題を解決するために、本開示は、
太陽電池と、
前記太陽電池に接続され、前記太陽電池にかかる負荷を制御することが可能な負荷制御装置と、
前記太陽電池の発電出力を測定する出力測定装置と、
前記出力測定装置によって測定した出力の過渡応答を基にして出力の到達値を予測する出力予測装置とを有し、
前記到達値が最大となるように前記負荷制御装置を制御する機能を有する太陽電池システムである。
【0022】
また、本開示は、
少なくとも1つの太陽電池システムを有し、
前記太陽電池システムが、
太陽電池と、
前記太陽電池に接続され、前記太陽電池にかかる負荷を制御することが可能な負荷制御装置と、
前記太陽電池の発電出力を測定する出力測定装置と、
前記出力測定装置によって測定した出力の過渡応答を基にして出力の到達値を予測する出力予測装置とを有し、
前記到達値が最大となるように前記負荷制御装置を制御する機能を有する太陽電池システムである電子機器である。
【0023】
また、本開示は、
少なくとも1つの太陽電池システムを有し、
前記太陽電池システムが、
太陽電池と、
前記太陽電池に接続され、前記太陽電池にかかる負荷を制御することが可能な負荷制御装置と、
前記太陽電池の発電出力を測定する出力測定装置と、
前記出力測定装置によって測定した出力の過渡応答を基にして出力の到達値を予測する出力予測装置とを有し、
前記到達値が最大となるように前記負荷制御装置を制御する機能を有する太陽電池システムである建築物である。
【0024】
本開示において、n分探索法は、一定範囲をn個に分割し、分割の幅を狭めていくことによって所望の地点を検出するものである。具体的な処理方法としては、例えば、負荷制御装置を最小負荷条件から最大負荷条件までの負荷領域をn分割し、n個の負荷条件をそれぞれ出力予測装置で出力予測を行う。次に、得られたn個の予測出力値から最も大きな出力値となる負荷条件を出力する処理を行う。次に、出力された負荷条件を含む負荷領域をn分割して、それぞれ出力予測を行う。次に、得られたn個の予測出力値から最も大きな出力値となる負荷条件を出力する処理を行い、この処理を、前記出力された負荷条件を含む負荷領域の幅を段階的に狭めて反復することにより、MPPを検出するものであるが、n分探索法の処理方法は、これらのものには限定されるものではない。また、n分探索法はnが3以上の自然数であることが必須である。具体的には、例えば、n=3である三分探索法、n=4である四分探索法が挙げられ、特に、三分探索法においては、分割に黄金比を用いた探索法を用いることが好適であるが、n分探索法は、これらのものに限定されるものではなく、nが5以上の自然数であってもよい。
【0025】
太陽電池とは、光エネルギーを電気エネルギーに変換する素子であれば基本的にはどのようなものであってもよく、具体的には、例えば、シリコン系太陽電池、色素増感太陽電池、有機薄膜太陽電池などが挙げられるが、太陽電池は、これらのものに限定されるものではない。
【0026】
太陽電池および太陽電池システムは、およそ電力が必要なもの全てに用いることができ、大きさも問わないが、例えば、電子機器、建築物、移動体、建設機械、産業機械、農業機械、工作機械、発電システム、動力装置などに用いることができ、用途などによって出力、大きさ、形状などが決められる。
【0027】
電子機器は、基本的にはどのようなものであってもよく、携帯型のものと据え置き型のものとの双方を含むが、具体例を挙げると、携帯電話、モバイル機器、ロボット、パーソナルコンピュータ、アンテナ、車載機器、時計、各種家庭電気製品などである。
【0028】
建築物は、典型的にはビルディング、特に、商業ビルディング、マンションなどの大型建築物であるが、これらには限定されず、外壁面を有する建築された構造物であれば、基本的にはどのようなものであってもよい。建築物は、具体的には、例えば、戸建住宅、アパート、駅舎、校舎、庁舎、遊歩道、競技場、球場、病院、教会、工場、倉庫、小屋、車庫、橋、固定遊具などが挙げられ、特に、少なくとも1つの窓部(例えばガラス窓)あるいは採光部を有する建築された構造物であることが好ましい。また、可動部を有する建築物であってもよく、具体的には、例えば、可動橋、天文台、観覧車、パラボラアンテナ、可動部を有する看板などが挙げられるが、建築物は、前記に挙げたものに限定されるものではない。
【0029】
建築物に設けられる光電変換素子および/または複数の光電変換素子が電気的に接続されている光電変換素子モジュールのうち、窓部あるいは採光部などに設けられるものは、2枚の透明板の間に挟持し、必要に応じて固定して構成することが好適であって、典型的には、光電変換素子および/または光電変換素子モジュールを2枚のガラス板の間に組み込み必要に応じて固定することによって構成される。
【0030】
移動体は、基本的にはどのようなものであってもよく、具体例を挙げると、自動車、トラック、バス、二輪車、三輪車、エレベーター、そり、ショッピングカート、鉄道、ケーブルカー、ロープウェイ、モノレール、リニアモーターカー、船舶、ホバークラフト、航空機、ヘリコプター、グライダー、気球、飛行船、ロケット、人工衛星、宇宙船、宇宙ステーションなどである。また、建設機械は、基本的にはどのようなものであってもよく、具体例を挙げると、ショベルカー、ブルドーザー、クレーン車、ロードローラー、掘削機などである。また、農業機械は、基本的にはどのようなものであってもよく、具体例を挙げると、耕耘機、トラクター、コンバイン、田植え機などであるが、移動体は、前記に挙げたものに限定されるものではない。
【発明の効果】
【0031】
本技術によれば、従来の発電制御システムよりも、低消費電力で低コストに構成でき、従来よりも高速で、太陽電池の電気応答速度によらず常に最大効率で太陽電池を発電することができる発電制御システムを備えた太陽電池システムを得ることができる。そして、この優れた太陽電池システムを用いることにより、高性能の電子機器などを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】第1の実施の形態による太陽電池システムを示したブロック図である。
【図2】太陽電池を定電圧発電状態とするための発電電圧制御の流れを示したフローチャートである。
【図3】発電出力の到達値の近似値を得るための制御の一例を示したフローチャートである。
【図4】太陽電池の各条件における出力実測値Pnの値を算出した結果を表す略線図である
【図5】太陽電池の各条件における予測出力値Pestimate,nの値を算出した結果を表す略線図である。
【図6】四分探索法でMPPを探索し発電電圧値を設定する処理を示したフローチャートである。
【図7】太陽電池の発電制御おいて、発電効率が最大となる発電電圧の設定値を求める過程を示した略線図である。
【図8】第2の実施の形態による太陽電池システムを示したブロック図である。
【図9】黄金比を用いた三分探索法でMPPを探索し発電電圧値を設定する処理を示したフローチャートである。
【図10】太陽電池の発電制御において、発電効率が最大となる発電電圧値の設定をする過程を示した略線図である。
【図11】第3の実施の形態による太陽電池システムを示したブロック図である。
【図12】色素増感太陽電池の電気応答特性を示した略線図である。
【図13】発電電流の到達値の近似値を得るための制御の一例を示したフローチャートである。
【図14】発電電流の到達値の近似値を得るための制御の一例を示したフローチャートである。
【図15】色素増感太陽電池において最大出力点を探索した過程を示す略線図である。
【図16】図15における測定1〜2回目の部分に拡大した拡大図である。
【図17】第3の実施の形態におけるアルゴリズムによって求められた色素増感太陽電池のI−V出力特性とP−V出力特性とを示した略線図である。
【図18】第4の実施の形態による太陽電池システムを示したブロック図である。
【図19】山登り法とn分探索法とを組み合わせてMPPを探索し発電電圧値を設定する処理を示したフローチャートである。
【図20】第5の実施の形態による太陽電池システムを示したブロック図である。
【図21】ある一定の光源の下における太陽電池のI−V出力特性および電力電圧出力特性(P−V出力特性)の一例を示した略線図である。
【図22】太陽電池の電気応答特性の測定結果を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
近年、太陽電池は携帯電話、電卓、腕時計などの携帯機器の駆動電源として一般的に装備され多数商品化されている。その中でも、特に、色素増感太陽電池は、室内照明で発電できることや、低コストで生産できることなどから、携帯機器などに装備する駆動電源としての需要が特に高まっている。
【0034】
携帯機器に装備された太陽電池は、携帯機器の使用に伴い発電出力特性も目まぐるしく変化する。その理由は、太陽電池はエネルギーソースが太陽光であり、携帯機器であるがゆえに、ユーザーの使用などにより、その位置や姿勢が変えられることに伴い、太陽電池の光入射面の位置や角度などが変化し、照度条件が目まぐるしく変わるからである。また、太陽電池を建築物などに設置する場合においては、太陽光が時刻、季節、天候などにより光量や入射角度が変化するため、発電出力特性はいつも一定ではない。そのため、この発電出力の変動に伴って変動するMPPをMPPT制御によって素早く捉えることが、携帯機器などに装備された太陽電池を効率よく発電する場合において特に重要である。
【0035】
図22AおよびBは、太陽電池の電気応答特性の測定結果を示す写真である。図22Aはシリコン系太陽電池の測定結果、図22Bは色素増感太陽電池のステップ応答の測定結果を示す。
図22AおよびBに示すように、色素増感太陽電池の電気応答速度は、シリコン系太陽電池の電気応答速度と比較して160分の1と電気応答速度が格段に遅いことがわかる。その理由として、色素増感太陽電池の電解質層を構成する電解液中に溶けているヨウ化物イオン(I-)および三ヨウ化物イオン(I3-)が電荷のキャリアになっていることが挙げられる。色素増感太陽電池は、多孔質電極と、対極と、多孔質電極との間に設けられた電解質層を有する構成であり、対極を正極、多孔質電極が設けられている透明電極などを負極とする電池として動作する。ヨウ化物イオンと三ヨウ化物イオンは、電解質層中の電解液などに含まれ、このヨウ化物イオンと三ヨウ化物イオンとは、色素増感太陽電池の充電中に激しく運動する。さらに、前記イオンは、自身の安定化のため周りの溶媒分子を纏って、大きなクラスターを形成する。これは溶媒和という現象であるが、このような溶媒和をした大きな塊が液体の中を突き進むことで、そこには大きな慣性が発生し、このことは、太陽電池全体で見たときの電気特性に大きな過渡応答が発生してしまう原因となる。
【0036】
このように、色素増感太陽電池は、大きな電気過渡応答特性を有するため電気応答速度は非常に遅い。この遅い電気応答速度は、上述したように、従来の山登り法によるMPPT制御で発電制御したときの長い待機時間となり、発電効率は著しく低下する。一方で、素子の電気応答速度に制御速度が依存しない電圧追従法などで色素増感太陽電池を発電制御する方法もあるが、上述したように、最大効率で発電が行われているわけではなく、また、動作点が定点であるため、MPPの変動に追随することはない。
【0037】
このように、電気応答速度の遅い色素増感太陽電池であっても、常に最大効率で発電制御するためには、MPPの変動を常に捉えるMPPT制御は必須である。しかしながら、色素増感太陽電池をMPPT制御で発電制御する場合は、上述したような電気応答速度が遅いことによる発電効率の低下を解決しなければ常に最大効率で発電することはできない。
【0038】
さらに、太陽電池の発電を制御する回路で消費される電力は、多くの場合、太陽電池の発電電力から賄われる。このため、回路の電力消費が大きいと全体で見たときの発電電力量が目減りしてしまう。すなわち、消費電力が小さく処理能力の低い制御用マイコンによる制御でも十分に成り立つ制御方法および制御装置の提供が非常に重要になる。
【0039】
本開示者は、上記の問題を解決するために鋭意研究を行った。そこで、まず、山登り法における発電電圧Vの設定値の変化を比較的大きくし、探索回数を減らすことで、素子の電気応答速度の影響を小さくすることを試みた。そうすると、確かに探索回数が減ることにより高速化が可能となったが、今度はMPPを精度良く捉えることができない。山登り法ではMPPの検出精度を高めれば検出速度が犠牲となり、MPPの検出速度を高めれば検出精度が犠牲となるため、別の制御方法を用いるか、または組み合わせる必要がある。
【0040】
そこで、本開示者はさらに研究を進め、山登り法よりも少ない探索回数で精度良くMPPを捉える方法として、n分探索法を新たにMPPT制御に用いた。さらに、本開示者は、色素増感太陽電池の電気過渡応答特性にも注目し、発電電圧の設定値の変更によって生じる発電出力の過渡応答を測定することによって、定常状態に達するのを待たずに、その定常値(すなわち到達値)を予測することを見出し、本技術を案出するに至った。
【0041】
以下、発明を実施するための形態(以下「実施の形態」という)について説明する。説明は以下の順序で行う。
1.第1の実施の形態(色素増感太陽電池システムおよび色素増感太陽電池システムの動作。)
2.第2の実施の形態(太陽電池システムおよび太陽電池システムの動作)
3.第3の実施の形態(太陽電池システムおよび太陽電池システムの動作)
4.第4の実施の形態(太陽電池システムおよび太陽電池システムの動作)
5.第5の実施の形態(太陽電池システム)
【0042】
<1.第1の実施の形態>
[太陽電池システム]
図1は第1の実施の形態による太陽電池システムを示したブロック図である。
図1に示すように、第1の実施の形態による太陽電池システム10は、太陽電池1から負荷制御装置2を介して外部の電力系統や二次電池、キャパシタなどに電力を供給する。負荷制御装置2は昇圧回路や降圧回路などの調整可能な負荷装置である。負荷制御装置2は制御装置3で制御される。制御装置3は、出力測定装置4と、出力予測装置5と、MPPT制御装置6と、発電電圧安定化装置7とを有し、出力測定装置4は発電電圧測定装置8と発電電流測定装置9とを有する。制御装置3の動作は、太陽電池1の出力値を出力測定装置4で測定した後に、測定した出力値からMPPT制御装置6で太陽電池の発電電圧の設定値を決定し、発電電圧安定化装置7において太陽電池の発電電圧を前記設定値と一致するようフィードバック制御する。制御装置3が、前記の動作をすることで、太陽電池は定電圧発電状態となる。
【0043】
出力測定装置4は、発電電圧測定装置8と、発電電流測定装置9とを有し、発電出力は、それぞれで測定された発電電圧と発電電流とを、乗算することによって算出される。発電電圧測定装置8は、具体的には、例えば、太陽電池に並列接続された抵抗分圧回路とADコンバータとの組み合わせたもの、増幅回路とADコンバータとの組み合わせたものなどによって構成されるが、発電電圧測定装置8は、これらのものに限定されるものではない。一方、発電電流測定装置9は、具体的には、例えば、太陽電池のローサイド、又はハイサイドに直列接続された数十mΩ以上数Ω以下のシャント抵抗と、増幅回路と、ADコンバータとを組み合わせたものなどによって構成される。また、電流が特に大きい場合は、トランスを用いた電流プローブや磁気光学効果を用いた電流プローブと、増幅回路と、ADコンバータとを組み合わせたものも可能であるが、発電電流測定装置9は、これらのものに限定されるものではない。
【0044】
制御装置3は、制御用マイコンなどとすることもでき、その場合にあっては、出力測定装置4は出力測定手段、出力予測装置5は出力予測手段、MPPT制御装置6はMPPT制御手段、発電電圧安定化装置7は発電電圧安定化手段、発電電圧測定装置8は発電電圧測定手段、発電電流測定装置9は発電電流測定手段となる。また、負荷制御装置2も制御回路やマイコンなどとすることもでき、その場合も負荷制御装置2は負荷制御手段となる。
【0045】
[太陽電池システムの動作]
図2は太陽電池を定電圧発電状態とするための発電電圧制御の流れを示したフローチャートである。
図2に示すように、この発電電圧制御アルゴリズムは、発電電圧を一定時間毎に測定して測定電圧との誤差を修正して、常に一定の電圧で発電するようにしたものである。
【0046】
この発電電圧制御アルゴリズムを、図2を用いて詳しく説明する。
【0047】
まず、発電電圧測定装置8で発電電圧を測定する(ステップS1)。
【0048】
次に、ステップS2において、ステップS1で測定された発電電圧値が予め設定されている発電電圧の設定値よりも小さければ、負荷制御装置2による負荷を小さくし(ステップS3)、逆に大きければ、負荷制御装置2による負荷を大きくする(ステップS4)。この制御により、太陽電池の発電電圧と発電電圧の設定値とが一致するようフィードバック制御され、定電圧発電状態となるように制御され、処理は終了する(ステップS5)。
【0049】
定電圧発電状態は、制御装置3が持つタイマー機能によって、発電電圧制御アルゴリズムが定期的に実行されることによって実現されている。なお、太陽電池の電気過渡応答が大きいことで電気応答速度が遅くなり、発電電圧制御アルゴリズムでハンチング現象が発生する場合は、発電電圧の設定値と実測値の差分を計算し、PID制御によって発電電圧制御を行う。
【0050】
また、本回路において、発電電圧値を設定することと負荷を調節することとは、本質的に等価である。発電電圧がほぼ0Vになるように負荷をかければ、それは太陽電池に非常に大きな負荷をかけていることになり、また発電電圧がほぼ開放電圧と等しくなるようにすれば、それは太陽電池にほとんど負荷がかかっていないということになる。
【0051】
発電電圧の設定値は、太陽電池の出力特性の変動などの理由から適宜変更する必要がある。発電電圧の設定値を変更すると、上述したように太陽電池の電気過渡応答特性によっては、出力値が到達値となるまでに時間が掛かり、待機時間の増大から発電効率低下の原因となる。
【0052】
そこで、太陽電池の発電制御において発電電圧の設定値を変更する場合に、出力予測装置5によって出力値を予測し、得られた予測出力値を太陽電池の発電出力値とみなし、MPPT制御装置6で発電制御をすることとした。
【0053】
出力予測装置5は、発電電圧の設定値の変更によって生じる発電出力の過渡応答を測定し、発電出力が定常状態に達するのを待たずに、その到達値を予測する装置である。出力予測装置5は、典型的には、発電電圧の設定値が更新されたときに常に呼び出されるように設定されるが、この方法には限定されず、一定時間毎に呼び出すように設定してもよい。
発電電圧の設定値を変更した後の発電出力の過渡応答は、例えば、式(1)のような指数関数の式で表せる場合が多い。
【数1】
【0054】
ここで、式(1)において、Pnはループn回目に測定によって実測された出力値Pfinalは出力の到達値である。また、aとbとはそれぞれ任意の定数であって、定数aは発電電圧の設定値を大きく変化させることに伴い大きくなる定数、定数bは電気応答速度の遅さと正の相関のある定数である。
【0055】
太陽電池の中でも、特に色素増感太陽電池の出力特性における定数bは、シリコン系太陽電池における定数bと比べて遥かに大きい。また、色素増感太陽電池の出力特性における定数bは、経時劣化に応じて大きくなっていく傾向がある。
【0056】
発電出力の到達値を予測出力値とする場合には、例えば、出力測定装置4で3回測定し、ループ回数nと出力実測値Pnとの組を式(1)に代入し、expを含む連立方程式を解くことによって得られるが、出力の到達値Pfinalを近似的に求めることで、より簡易に予測出力値を求めることができる。具体的には、出力測定装置4によって測定された少なくとも4つの実測値と、少なくとも3つの定数とを用い、四則演算の組み合わせのみによって処理することで出力の到達値Pfinalを近似的に求めることができる。
【0057】
図3は発電出力の到達値の近似値を得るための制御の一例を示したフローチャートである。
図3に示すように、このアルゴリズムは発電出力の到達値を、前後のループにおける予測出力値の差分の絶対値の値によって判定する。
【0058】
この発電出力の到達値の近似値を得るためのアルゴリズムを、図3を用いて詳しく説明する。
【0059】
まず、ループ回数nの値に0を代入し初期化する(ステップS6)。
【0060】
次に、太陽電池の出力実測値Pnを測定し式(2)におけるPnに格納する(ステップS7)。
【0061】
ステップS8では、ループ回数nが3未満の場合にはtミリ秒待機し(ステップS13)、ループ回数nをインクリメント(ステップS14)した後に、ステップS7の処理に戻る。ループ回数nが3以上の場合には、ステップS9に進む。
【0062】
ステップS9では、測定された4つの出力実測値Pn-3、Pn-2、Pn-1、Pnを式(2)に代入する。式(2)において、A1、A2およびA3はPestimate,nのnが無限大に向かう場合(n→∞)の極限値がPfinalとほぼ一致するようにあらかじめ求められた任意の定数である。ステップS9においては、予測出力値Pestimate,nを得る。
【数2】
【0063】
次に、ステップS10で、ループ回数nが4未満の場合には、tミリ秒待機し(ステップS13)、ループ回数nをインクリメント(ステップS14)した後に、再びステップS7の処理に戻る。ループ回数nが4以上の場合には、ステップS11に進み、得られた連続する2つの予測出力値Pestimate,nとPestimate,n-1とを式(3)に代入し両者の差分の絶対値Pestimate,diffを計算する。
【数3】
【0064】
次に、ステップS12で、ステップS11で求めた予測出力値の差分の絶対値と、あらかじめ設定した規定値との大小を判定する。予測出力値の差分の絶対値が、規定値よりも大きければtミリ秒待機し(ステップS13)、ループ回数nをインクリメント(ステップS14)した後に、再びステップS7の処理を行う。一方、予測出力値の差分の絶対値が、規定値よりも小さければ、その時点での予測出力値Pestimate,nが最終的な予測出力値、すなわち、発電出力の到達値の近似値となり、アルゴリズムは終了する(ステップS15)。得られた予測出力値Pestimate,nの値は必要に応じて呼び出された外部装置などへ返される。
【0065】
予測出力値Pestimate,nを算出する式は、式(2)に限定されず、例えば、測定されたm個(mは4以上の自然数)の出力実測値Pn-m、Pn-m+1、Pn-m+2・・・Pn-1、Pnを式(4)に代入し、連続する2つの予測出力値の差分の絶対値を比較することで、より精度の高い予測出力値を得ることができる。式(4)においてA1、A2、・・・、Amは任意の定数であり、式(4)の項数はm+1個である。
【数4】
【0066】
上述したように、この到達値の近似値を得るためのアルゴリズムは、指数関数などが一切含まれておらず、簡易な四則演算のみを用いているのみであるため、複雑な処理をする必要が無く、出力予測装置5を有する制御装置3を消費電力が小さく処理能力の低い制御用マイコンとしたい場合において特に有効である。
【0067】
また、予測出力値の差分の絶対値の変化から、電気応答速度を求めることもできる。求めた電気応答速度からは式(1)の定数bが導かれ、例えば、色素増感太陽電池などの劣化の度合いを定数bによって判定することもできる。
【0068】
<実施例1−1>
図4は、式(1)において、定数aの値の範囲が4以上20以下、定数bの値の範囲が8以上12以下である特性を有する太陽電池の各条件における出力実測値Pnの値を式(1)で算出した結果を表す略線図である。図の縦軸は出力実測値Pn[mW]、横軸はループ回数n[回]である。
【0069】
図5は、前記の特性を有する太陽電池の各条件における予測出力値Pestimate,nの値を式(2)によって算出した結果を表す略線図である。図の縦軸は予測出力値Pn[mW]、横軸はループ回数n[回]である。式(2)における定数は、A1=530、A2=−1298、A3=801とした。
【0070】
図4に示すように、出力実測値Pnはループ回数nが15回を超えたあたりから定常となり、出力の到達値Pfinal(≒Pestimate,∞)は、およそ20mWである。一方で、図5に示すように、予測出力値Pestimate,nは、ループ回数n=7で1mW以内の誤差で、ループ回数n=15では0.5mW以内の誤差で出力の到達値Pfinalを予測可能であることがわかる。
【0071】
次に、制御装置3において、最大発電効率となる発電電圧の設定値を決定する方法について詳しく説明する。
【0072】
最大発電効率となる発電電圧の設定値は、MPPT制御装置6において四分探索法アルゴリズムを用いてMPPを探索することにより決定する。四分探索法はn分探索法の一種であり、n分探索法は山登り法の様に発電条件を少しずつ変えながら測定をするのではなく、条件を大きく変えながら、徐々にその変化量を狭めていくことによって発電が最高効率となる発電電圧を見つけ出すアルゴリズムである。
【0073】
MPPT制御装置6は、例えば、太陽電池への照度条件が急激に変化した場合、発電量が大きく変化した場合などに呼び出されるが、これらの場合に限定されず、例えば、一定時間間隔毎もしくは、太陽電池の姿勢変化量などに応じて行ってもよい。
【0074】
図6は、四分探索法でMPPを探索し発電電圧値を設定する処理を示したフローチャートである。四分探索法とは、n分探索法の一種であり、無負荷状態と最大負荷状態との間の負荷領域を1:1:1:1の比率で4分割したものである。
図6に示すように、このアルゴリズムは四分探索法でMPPを探索し発電電圧の設定値を決定する。
【0075】
四分探索法でMPPを探索し発電電圧の設定値を決定するアルゴリズムについて、図6を参照して詳しく説明する。
【0076】
まず、負荷制御装置2による発電電圧制御を一時停止し、太陽電池にかける負荷をゼロにする(ステップS16)。
【0077】
次に、太陽電池の出力電圧を定常にするためにtミリ秒〜t秒待つ(ステップS17)。
【0078】
次に、太陽電池の開放電圧Vocを測定する(ステップS18)。
【0079】
次に、測定された開放電圧Vocに1/2を乗じ、これを、ループ回数m=0における初期電圧V0、
【数5】
とする(ステップS19)。
【0080】
次に、発電電圧の設定値を、Vm=V0として、負荷制御装置2による発電電圧制御を再開する(ステップS20)。
【0081】
次に、出力予測装置5を呼び出し、発電電圧の設定値を、Vm=V0として、返ってきた予測出力値をPm,2に格納する(ステップS21)。
【0082】
次に、発電電圧の設定値Vm,1を、
【数6】
として、出力予測装置5を呼び出し、返ってきた値を予測出力値Pm,1に格納する(ステップS22)。
【0083】
次に、発電電圧の設定値Vm,3を、
【数7】
として、出力予測装置5を呼び出し、返ってきた値を予測出力値Pm,3に格納する(ステップS23)。
【0084】
次に、Pm,1とPm,2とPm,3とを比較し、最も大きい予測出力値における電圧値と出力値を、それぞれVm+1、Pm+1,2とする(ステップS24)。
【0085】
次に、ステップS25で、ループ回数mがある規定値より小さければ、ループ回数mをインクリメント(ステップS26)し、再びステップS22の処理へ戻る。ループ回数mがある規定値よりも大きければ、Vm+1が最終的な発電電圧の設定値、すなわち、最大発電効率となる発電電圧の設定値Vmppとなり(ステップS27)、アルゴリズムは終了する(ステップS28)。得られた発電電圧の設定値Vmppの値は必要に応じて呼び出された外部装置などへ返される。
【0086】
<実施例1−2>
図7A〜Eは、太陽電池の発電制御おいて、図6に示した四分探索法アルゴリズムを用いてMPPを探索し、発電効率が最大となる発電電圧の設定値を求める過程を示した略線図である。図の縦軸は発電電流[mA]および発電電力[mW]、横軸は発電電圧[V]である。
【0087】
ここで、図7Aは、ステップS19における処理、図7Bは、ループ回数m=0におけるステップS21からS25へ至る処理、図7Cは、ループ回数m=1におけるステップS21からS25へ至る処理、図7Dは、ループ回数m=2におけるステップS21からS25へ至る処理、また、図7Eは、ループ回数m=3におけるステップS21からS25へ至る処理をそれぞれ示している。
【0088】
図7に示すように、このアルゴリズムを用いると、僅か9回の出力測定を行うだけで、ほぼ最高効率で発電できる発電電圧Vmを求めることができる。なお、このとき発電電圧Vmの分解能はVoc /32であるが、さらに測定回数を増やせば分解能は劇的に向上する。例えば、出力測定を11回行えば分解能はVoc /64に、13回行えば分解能はVoc /128となり指数関数的に上昇する。山登り法で分解能Voc /128の精度を出そうとすると、最大で128回の出力測定が必要であり、たった13回で、最高効率で発電できる発電電圧を得ることはほぼ不可能である。
【0089】
また、制御装置3には、太陽電池セルが劣化したときの、自己補正機能を備えていることが望ましい。具体的には、式(1)、式(2)および式(4)における定数はパラメータとみなせるので、これらの各定数の最適値を自己補正できる自己補正機能を備えていることが望ましい。自己補正機能は、自動で定期的に検証測定を行うことで、パラメータを自己補正できるようにするのが良い。ここで、検証測定とは、具体的には、例えば、発電電流の過渡応答を長時間測定し、発電電流の到達値の予測結果と実測の到達値とが一致したかを確認するような測定が挙げられるが、自己補正機能および検証測定はこれらのものに限定されるものではない。
【0090】
また、周囲の温度によっても、前記パラメータの最適値は変化する。これに対応させるには、周囲の温度を別途サーミスタなどで測定し、得られた温度データを元にパラメータに補正を加えるのが良い。特に、温度が低いと電解液の粘度が高くなりイオンの移動速度が落ちることで電気応答速度が更に遅くなるので、一定の測定精度を維持して探索する場合においては、出力の予測に用いる出力実測値Pnのデータ数を増やしたり、探索回数を増やしたりすることが望ましい。反対に、温度が高い場合は、電解液の粘度が下がり電気応答速度が速くなるので、出力の予測に用いる出力実測値Pnのデータ数を減らしたり、探索回数を減らしたりすることができる。一方、一定の時間内に限定して探索をする場合においては、一定の測定精度を維持して探索する場合とは逆の補正をすればよい。
【0091】
また、携帯機器などにおける実際の使用においては、照度条件のめまぐるしい変化などから、制御装置3によって発電電圧の設定が何度も繰り返されることになるため、これによる太陽電池セルに与える負荷についても考慮する。特に、色素増感太陽電池においては、発電電圧の設定値が低すぎたり高すぎたりする状況を極力減らすことが好ましい。発電電圧の設定値が高すぎると、酸化チタン電極に吸着した色素の還元脱離反応が進み易くなり、一方で、発電電圧の設定値が低すぎると、集電配線などに用いている銀の溶出が進み易くなるからである。これらを防ぐため、発電が最高効率で行われている場合における発電電圧Vmaxを探索する際、発電電圧の設定値が0.1・Voc 未満および0.9・Voc 以上にならないように範囲を狭めるのが良い。
【0092】
また、携帯機器で使用する場合など、発電制御に高速動作が求められる場合にあっては、最高効率状態における発電電圧Vmaxの探索を0〜Vocの全範囲の中から行うのではなく、意図的に無負荷条件(V=0)および/または最大負荷条件(I=0)には負荷条件を設定しないようにしたり、MPPがVoc /2〜Vocにあると決め打ちしたり、Vmaxは大きく変わることが少ないことからMPPが前回測定されたVmaxの近傍にあると決め打ちしたりして、探索回数を適宜減らしながら適用するのが効果的である。
【0093】
以上のように、この第1の実施の形態による太陽電池システムによれば、負荷制御装置を出力予測装置とMPPT制御装置とを組み合わせる構成としたので、太陽電池の電気応答速度によらず常に最大効率で発電することができる。さらに、出力予測装置を予測出力値の差分によって出力の過渡応答の到達値を予測し、MPPT制御装置において四分探索法でMPPを探索することで太陽電池の発電制御をしたので、照度条件が目まぐるしく変わる環境下で太陽電池が使用されていても、MPPの変動に素早く追随して発電制御をすることが出来る。具体的には、出力予測装置が素早く出力の到達値を予測することで、太陽電池の電気過渡応答特性の影響を受けず、MPPT制御装置が最小試行回数にて最高効率となる条件を見つけ出すことよって、MPPの変動に素早く追随して発電制御をすることが出来る。すなわち、太陽電池の出力特性が変動しても常に最大効率で発電することができる太陽電池システムとすることができる。
【0094】
また、予測出力値の差分の絶対値の変化から、電気応答速度の遅さと正の相関のある定数であるbを求めることもできる。この定数bによって、例えば、色素増感太陽電池などの劣化の度合いを判定することもできる。また、色素増感太陽電池の経時劣化による直流抵抗性分Rsの増加に伴ってMPPにおける電圧Vmaxの低下も同時に確認されるため、この現象を用いて色素増感太陽電池の劣化の度合いを定量化することもできる。
【0095】
また、MPPT制御装置において設定された全ての発電電圧値から、近似曲線を求めることで、太陽電池のI−V出力特性やP−V出力特性を知ることができる。
また、出力予測装置による出力予測や、MPPT制御装置におけるMPP探索に用いるアルゴリズムを、簡易な四則演算のみで構成することで、太陽電池の発電制御を消費電力が小さく処理能力の低い制御用マイコンによって実現することができる。これにより、トータルでの発電効率を高い太陽電池システムとすることができる。
【0096】
<2.第2の実施の形態>
[太陽電池システム]
図8は第2の実施の形態による太陽電池システムを示したブロック図である。
図8に示すように、この第2の実施の形態による太陽電池システム10は、第1の実施の形態による太陽電池システム10のMPPT制御装置6において、四分探索法に代えて、黄金比を用いた三分探索法でMPPを探索し発電電圧の設定値を決定するものである。黄金比を用いた三分探索法とは、n分探索法の一種であり、無負荷状態と最大負荷状態との間の負荷領域を黄金比で3分割したものである。
【0097】
[太陽電池システムの動作]
図9は、黄金比を用いた三分探索法でMPPを探索し発電電圧値を設定する処理を示したフローチャートである。
黄金比は、下記式によって表される比である。
【数8】
【0098】
図9に示すように、このアルゴリズムは黄金比を用いた三分探索法でMPPを探索し発電電圧の設定値を決定する。
【0099】
黄金比を用いた三分探索法でMPPを探索し発電電圧の設定値を決定するアルゴリズムについて、図9を参照して詳しく説明する。
【0100】
まず、負荷制御装置2による発電電圧制御を一時停止し、太陽電池にかける負荷をゼロにする(ステップS29)。
【0101】
次に、太陽電池の出力電圧を定常にするためにtミリ秒〜t秒待つ(ステップS30)。
【0102】
次に、太陽電池の開放電圧Vocを測定する(ステップS31)。
【0103】
次に、ループ回数m=0における初期電圧V0,1とV0,2をそれぞれ
【数9】
【数10】
とする(ステップS32)。
【0104】
次に、発電電圧の設定値を、Vm,2=V0,2として、負荷制御装置2による発電制御を再開する(ステップS33)。
【0105】
次に、出力予測装置5を呼び出し、発電電圧の設定値を、Vm=V0として、返ってきた予測出力値をPm,2に格納する(ステップS34)。
【0106】
次に、発電電圧の設定値をVm,1として、出力予測装置5を呼び出し、返ってきた予測出力値をPm,1に格納する(ステップS35)。
【0107】
次に、Pm,1とPm,2とに格納された予測出力値の大小を比較し、Pm,1がPm,2よりも大きければステップS37に進む。一方、Pm,1がPm,2よりも大きくなければステップS40に進む(ステップS36)。
【0108】
ステップS36からステップS37に進む場合においては、発電電圧の設定値Vm+1,1、Vm+1,2および予測出力値Pm+1,2の値を、それぞれ
【数11】
【数12】
【数13】
とする(ステップS37)。
【0109】
次に、ステップS38で、ループ回数mがある規定値よりも小さければ、ループ回数mをインクリメント(ステップS39)し、再びステップS35の処理へと戻る。ループ回数mがある規定値よりも大きければ、Vm+1,1が最終的な発電電圧の設定値、すなわち、最大発電効率となる発電電圧の設定値Vmppとなり(ステップS44)、アルゴリズムは終了する(ステップS45)。得られた発電電圧の設定値Vmppの値は必要に応じて、呼び出された外部装置などへ返される。
【0110】
一方、ステップS36からステップS40に進む場合においては、発電電圧の設定値Vm+1,1、Vm+1,2および予測出力値Pm+1,2の値を、それぞれ
【数14】
【数15】
【数16】
とする(ステップS40)。
【0111】
次に、ステップS41で、ループ回数mがある規定値よりも小さければ、ループ回数mをインクリメント(ステップS42)し、ステップS43に進む(ステップS41)。ステップS43では、発電電圧の設定値をVm,2として、出力予測装置5を呼び出し、返ってきた予測出力値をPm,2に格納し(ステップS43)、ステップS36の処理へ戻る。一方、ループ回数mがある規定値よりも大きければ、Vm+1,1が最終的な発電電圧の設定値、すなわち、最大発電効率となる発電電圧の設定値Vmppとなり(ステップS44)、アルゴリズムは終了する(ステップS45)。得られた発電電圧の設定値Vmppの値は必要に応じて、呼び出された外部装置などへ返される。
【0112】
<実施例2−1>
図10A〜Fは、太陽電池の発電制御において、図9に示した黄金比を用いた三分探索法アルゴリズムを用いてMPPを探索し、発電効率が最大となる発電電圧の設定値を求める過程を示した略線図である。図の縦軸は発電電流[mA]および発電電力[mW]、横軸は発電電圧[V]である。
【0113】
ここで、図10AはステップS29〜ステップS34へ至る処理、図10Bはループ回数m=0におけるステップS35〜ステップS43へ至る処理、図10Cはループ回数m=1におけるステップS35〜ステップS39へ至る処理、図10Dはループ回数m=2におけるステップS35〜ステップS43へ至る処理、図10Eはループ回数m=3におけるステップS35〜ステップS43へ至る処理、図10Fはループ回数m=4におけるステップS35〜ステップS45へ至る処理をそれぞれ示している。
【0114】
図10に示すように、このアルゴリズムを用いると、僅か6回の出力測定を行うだけで、ほぼ最高効率状態となる発電電圧Vmを求めることができ、四分探索法よりも高速にMPPを捉えることができる。その理由は、領域の分割を黄金比によって再帰的に行うため、直前のループで算出された予測出力値を再利用することで、1回のループにおいて1回の出力測定のみで済むからである。なお、このとき発電電圧Vmの分解能はVoc /32であるが、四分探索法と同様に、さらに測定回数を増やせば分解能は劇的に向上する。例えば、出力測定を7回行えば分解能はVoc /64に、8回行えば分解能はVoc /128となり指数関数的に上昇する。
【0115】
このように、黄金比を用いた三分探索法は、n分探索法の中でも最も測定回数を減らすことができるため、特にMPPの捕捉を高速に行いたい時に有効である。制御装置3を、例えば、制御用マイコンとするときの計算処理速度は、前記の処理をするに十分であることが望ましい。その他のことは第1の実施の形態による太陽電池システムと同様である。
【0116】
以上のように、この第2の実施の形態による太陽電池システムによれば、第1の実施の形態による太陽電池システムと同様な利点に加えて、MPPT制御装置6において、四分探索法に代えて、黄金比を用いた三分探索法でMPPを探索し発電電圧の設定値を決定したので、より短い時間で精度良く最高効率状態となる発電電圧を得ることができる。
【0117】
<3.第3の実施の形態>
[太陽電池システム]
図11は第3の実施の形態による太陽電池システムを示したブロック図である。
図11に示すように、この第3の実施の形態による太陽電池システム10は、第1または第2の実施の形態による太陽電池システムの出力予測装置5において、発電電流の値を逆関数または指数関数の値とフィッティングすることによって発電電流の到達値を予測し、この値を予測電流値としたものである。
【0118】
[太陽電池システムの動作]
図12は、色素増感太陽電池の端子間電圧Vbtを開放状態から0.8Vとしたときに発生する電流の電気過渡応答特性に、任意の逆関数および任意の指数関数をフィッティングさせたものを示した略線図である。図の縦軸は電流[A]、横軸は経過時間[s]である。また、Vbt <0.8Vである。
図12に示すように、色素増感太陽電池に一定の電圧を印加すると電流が生じ、電流は過渡応答特性を示す。このような電流の過渡応答による、電流の到達値への漸近は逆関数または指数関数を用いてフィッティングすることで最終的な電流の到達値が予測できる。しかしながら、色素増感太陽電池に発生する発電電流の過渡応答に対しては、電圧を印加した直後における突入電流の影響から全ての値を逆関数または指数関数を用いてフィッティングすることはできない。
【0119】
そこで、第3の実施の形態による出力予測装置5では、発電電流測定装置9によって特定の時間内において測定された電流値のみを、逆関数または指数関数をフィッティングすることで、突入電流の影響を除去し、電流の到達値を予測した。
【0120】
図13および図14は電流の到達値を得るためのアルゴリズムを表すブロック図である。
図13および図14に示すように、このアルゴリズムは電流の到達値を電流値の漸近と指数関数の値または逆関数の値とをフィッティングすることで求めることができる。このアルゴリズムは、大きく4つのステップで記述される。各ステップは、具体的には、第1に、端子間に電圧を印加したときに生じる電流応答を測定および取得するステップ、第2に、取得した電流応答データから突入電流成分およびノイズ成分を除去するステップ、第3に、電流応答データの漸近成分と関数とをフィッティングさせるステップ、そして第4に、黄金比分割法を用いて出力が最大となる電圧を追い込んでいくステップであり、この4つの処理を経て電流の到達値が求められる。
【0121】
電流の到達値を得るためのアルゴリズムについて、図13を参照して詳しく説明する。
【0122】
まず、端子間に電圧Vbtを印加し、その直後から時々刻々変わる電流値を測定し、得られた電流値をIraw,iに格納する。電流値の測定および取得は、具体的には、例えば、等時間間隔で、規定回数ループ処理が行われ、電流実測値の個数が規定値に達した場合に電流実測値の取得を終了する。(ステップS46)。
【0123】
次に、得られたn個の電流測定値Iraw,0 〜Iraw,n-1のうち、Iraw,0 〜Iraw,n-mは破棄し(m<n)、残った電流測定値Iraw,m 〜Iraw,n-1は平滑化し、Ifiltered,m 〜Ifiltered,n-1に格納する(ステップS47)。電流測定値Iraw,0 〜Iraw,n-mを破棄する理由は、電圧を変更した直後の突入電流の影響を取り除く必要があるからである。また、電流測定値Iraw,m 〜Iraw,n-1を平滑化することで電流測定値に乗ったノイズが除去される。ノイズ除去は、具体的には、例えば、指数移動平均フィルターなどを用いる。指数移動平均フィルターは、例えば、式(5)に示したものを用いることができる。式(5)において、αは任意の定数であって、Iraw,iには電流実測値Inが逐次代入される。例えば、突入電流の影響の除去のためにm個(n>m)の電流実測値Inが除去されたとすると、Iraw,iには、i=0において電流実測値データImが代入され、Inまで逐次代入することで、平滑化電流値Ifiltered,iを逐次取得する。iは自然数であり、i≧mの関係を有している。
【数17】
【0124】
次に、得られた平滑化電流値Ifiltered,iと逆関数とをフィッティングする(ステップS48)。逆関数とフィッティングする平滑化電流値Ifiltered,iは、最後に得られた、平滑化電流値Ifiltered,iから、規定の数だけ遡った分の平滑化電流値Ifiltered,iを取得したものを用いることが好ましく、具体的には、例えば、p個の平滑化電流値Ifiltered,iを逆関数とのフィッティングに用いる場合には、ステップS47で得られた平滑化電流値Ifiltered,iのうち、最後の値からp個遡って平滑化電流値Ifiltered,iを取得してもよいし、ステップS46で、i=0において電流実測値データInを代入し、iをインクリメント、nをデクリメントして、iの値がpと等しくなるまで電流値の取得の処理を繰り返し、iの値がpと等しくなったらステップS47に進む処理をしてもよいが、平滑化電流値Ifiltered,iの取得は、これらの方法に限定されるものではない。また、電圧の印加から一定時間経過後において、発電電流測定装置9によって連続して測定されたn個の電流値を平滑化し、n個の平滑化電流を逆関数にフィッティングしてもよい。また、pは自然数であって、p>n―mの関係を有している。
【0125】
フィッティングに用いる逆関数I(t)は式(6)で表される。
【数18】
【0126】
式(6)において、A、BおよびCは定数、tは時間である。式(6)でtを無限大とすると、その値はCとなり求めるべき電流の到達値となるため、実際にはCのみを求めればよい。これにより、式(6)とのフィッティングによって求められたCの値が電流の最終的な到達値である到達電流値Iestimate,∞となる。
【0127】
ここで、平滑化電流値Ifiltered,iを逆関数の値とフィッティングさせて電流の到達値を予測するアルゴリズムについて、さらに詳しく説明する。
【0128】
Cの値を求めるために、フィッティング関数である式(6)を変形すると
【数19】
となり、式(7)は一次関数として扱うことができる。式(7)においては、I(t)の値がCの値に近くなるほど相関係数Rは大きくなるので、Rの値が最大となるようなCの値を求める。
【0129】
ここで、Rの値が最大となるようなCの値を求める一例について以下に説明する。
相関係数Rは、具体的には、例えば、式(8)で表される。
【数20】
式(8)中のxave、yaveは、それぞれxi、yiの平均値であるので、
【数21】
と表すことができる。ここで、式(9)中のnおよびmは、図13において示したアルゴリズム内で定義した変数である。
ここで、xi、yiは、
【数22】
であるので、Rの値が最も1に近くなるCの値を探索し、得られたCの値が到達電流値Iestimate,∞となる。
【0130】
また、Cの値を式(7)に代入することで相関係数Rを求めることもできる。この場合にあっては、求めるべき到達電流値Iestimate,∞は取得した電流値の平滑化電流値によって決まるCの探索範囲内にあるので、探索を素早くするためにはCの探索範囲を設定する必要がある。
Cの探索範囲は、次の2式で表すことができる。
【数23】
【数24】
【0131】
ここで、CminはCの探索範囲の下限値、CmaxはCの探索範囲の上限値である。また、Ifirstは、逆関数とのフィッティングに用いる電流値のうち、最初に取得された電流値の平滑化電流値、Ilastは最後に取得された電流値の平滑化電流値である。また、r(r>0)は探索範囲の広さを示すパラメータである。rの値が大きいほどCの探索範囲は広くなるが、収束には時間が掛かるので、rの値はCの探索に必要な最小限の大きさにしておくことが望ましい。
【0132】
このように、前記の設定された範囲内のCの値を式(7)に代入することで相関係数Rが求まり、相関係数Rを最大とするCが求める到達電流値Iestimate,∞となる。
【0133】
これらの方法などを用いて得られた到達電流値Iestimate,∞が求めるべき予測電流値となり(ステップS49)、処理は終了する(ステップS50)。得られた予測電流値の値は必要に応じて発電電圧の設定値と乗算され、予測出力値として呼び出された外部装置などへ返される。
【0134】
また、図14に示すように、フィッティング関数を式(6)に代えて、例えば、指数関数を用いた式(12)を用いて到達電流値Iestimate,∞を求めることもできる。
【数25】
【0135】
式(12)において、A、BおよびCは定数、tは時間である。式(12)でtを無限大とすると、その値はCとなり求めるべき到達電流値Iestimate,∞となるため、式(6)を用いてフィッティングを行った時と同様にCのみを求めればよい。
【0136】
式(12)は式(6)と同様に変形することで、
【数26】
となり、一次関数として扱うことができる。式(13)においては、I(t)の値がCの値に近くなるほど相関係数Rは大きくなるので、フィッティング関数が式(7)の場合であるときと同様にRの値が最大となるようなCの値を求める。
【0137】
上述した、Rの値が最大となるようなCの値を求める一例においては、電流値の取得(ステップS51)、取得した電流値から過渡成分のみを抽出(ステップS52)する処理は、ステップS47およびステップS48と同様に処理し、関数を式(12)としてフィッティングを行う(ステップS53)。この場合、式(8)および式(9)におけるxi、yiを、
【数27】
とする。その他のことは、フィッティング関数に式(6)を用いた時と同様にしてRの値が最も1に近くなるCの値を探索し、得られたCの値が到達電流値Iestimate,∞となり(ステップS54)、処理は終了する(ステップS55)。
【0138】
また、この電流の到達値を得るためのアルゴリズムにおいて、電流の過渡応答の波形から電流の到達値を精度良く予測するには、データの取得数、指数移動平均フィルターのα値、指数移動平均フィルターを施さない電圧実測値のデータ数、フィッティングに用いる平滑化電圧値のデータ数、フィッティングさせる関数(指数関数か逆関数か)などを、予め適切に設定しておく必要がある。この場合、以下に述べることを考慮に入れて設定することが好ましい。
【0139】
測定する色素増感太陽電池セルが大きい場合にあっては、突入電流も大きく、時定数も大きくなるため、測定するセルの面積が大きい時ほど、指数移動平均フィルターを施さない電圧実測値のデータ数も大きな値を設定することが好ましい。
【0140】
また、電流の過渡応答を精度良く予測を行うには、測定時間そのものを長くするのが好ましいが、逆に測定時間も長くなってしまうので、測定時間と予測精度のバランスを見ながら、取得データ数をなるべく少なく設定することが好ましい。しかしながら、電気応答速度が遅い大きな過渡応答を、少ないデータを元に指数関数でフィッティングしようとしても、上手くフィッティングできない場合が多い。そのような場合は、フィッティングに指数関数ではなく逆関数を用いるように設定することが好ましい。
【0141】
また、セルの劣化による出力特性の変化は、直流抵抗性分RSの増加が挙げられる。この場合、抵抗成分が増えて過渡応答の時定数が大きくなるため、それに応じてデータの取得数を増やしたり、フィッティングに用いるデータ数を増やしたりすることが好ましい。
その他のことは第1または第2の実施の形態による太陽電池システムと同様である。
【0142】
<実施例3−1>
図15は、図13に示すアルゴリズムをもとに色素増感太陽電池においてMPPを探索した過程を示す略線図である。
図16は、図15における測定1〜2回目の部分に拡大した拡大図である。
ここで、色素増感太陽電池においてMPPを探索する過程について、図13、図15および図16を参照して詳しく説明する。
【0143】
図16に示すように、まず、1回目の処理において、セルを短絡状態(V=0)とし、短絡電流Iscを所定の時間間隔で複数回測定し、測定間隔4ms毎で50個の電流値I0〜I49を取得する。また、測定間隔および取得データ数は、測定を行う色素増感太陽電池の面積、電解液の種類などを考慮し、適宜適切な値を設定する(ステップS46)。
【0144】
次に、セルを短絡してから数十ミリ秒の間は突入電流が流れるので、測定開始時から数十ミリ秒経過後に取得された電流値として、I15〜I49を抽出する。さらに、これら電流値に指数移動平均フィルターをかけてノイズを除去する。移動平均フィルターは式(5)に電流値In=Iraw,iを代入する(ステップS47)。
【0145】
ここで、αは任意の定数、iは15〜49である。また、式(5)におけるαは、測定を行う色素増感太陽電池の面積、電解液の種類などを考慮し、適宜適切な値を設定する。
【0146】
次に、直近の30個の電流値(I19 〜I49)を取得し、式(6)をフィッティング関数として、式(7)におけるCの探索範囲を設定する。Cの探索範囲は、式(10)および式(11)より、Cの探索範囲の下限値Cminおよび上限値Cmaxは
【数28】
【数29】
となる(ステップS48)。
【0147】
電流値の測定は、電流の到達値の予測値Irch1を得る(ステップS49)ことで終了する(ステップS50)。一回の測定は200ミリ秒で終わらせる。測定の終了と同時にデータロガーなどに測定データを転送および解析し、次の測定に移る。2回目以降の発電電圧の設定値は黄金比を用いた三分探索法によって逐次決定される。
【0148】
2回目の処理においては、セルの両端にV=463mVの電圧を印加する。その後の処理は1回目の処理と同様にして、電流の到達値の予測値Irch2を得る。
【0149】
そして、図15に示すように、発電電圧の設定値を0V〜開放電圧Vocの範囲で黄金比を用いた三分探索法によって逐次決定し、これを12回行い、出力が最大となる予測出力値Pmaxと、その時の電圧値Vmaxをそれぞれ求めた。予測出力値Pmaxと、その時の電圧値Vmaxが12回分全て求まるまでの時間はトータルで約3.9秒であった。
【0150】
図17は、実施例3−1で求められた、I−V出力特性と、P−V出力特性を示す略線図である。
図17に示すように、出力が最大となる電圧Vmaxは462mVで、その時の予測出力値Pmaxは495mWであった。
【0151】
以上のように、この第3の実施の形態による太陽電池システムによれば、第1および第2の実施の形態による太陽電池システムと同様な利点に加えて、太陽電池システムの出力予測装置において、過渡応答特性を有する発電電流の電流値を逆関数または指数関数とフィッティングすることによって電流の到達値を予測し、この値を予測電流値としたので、高速に精度良く予測電流値を得ることができる。また、関数のフィッティングによって予測電流値を求める際に、予測電流値のみならず太陽電池の出力特性をも同時に得ることができる。
【0152】
<4.第4の実施の形態>
[太陽電池システム]
図18は第4の実施の形態による太陽電池システムを示したブロック図である。
図18に示すように、この第4の実施の形態による太陽電池システム10は、第1〜第3の実施の形態のいずれか、もしくは組み合わせた構成を有する太陽電池システムにおいて、MPPT制御装置6を山登り法とn分探索法とを組み合わせてMPPを探索し発電制御するものである。
【0153】
[太陽電池システムの動作]
図19は、MPPT制御装置6において、山登り法とn分探索法とを組み合わせてMPPを探索し発電電圧値を設定する処理を示したフローチャートである。ここで、n分探索法は、例えば、四分探索法、黄金比分割を用いた三分探索法などであるが、n分探索法はこれらのものに限定されるものではない。その他のことは、第1〜第3の実施の形態のいずれか、もしくは組み合わせた構成を有する。
【0154】
以下このアルゴリズムについて図19を参照して説明する。
【0155】
まず、発電電圧の増分ΔVを定義する(ステップS56)。
【0156】
次に、発電電圧の設定値にΔVを足す(ステップS57)。
次に、出力予測装置5を呼び出し、返ってきた予測出力値を前回のループにおける予測出力値と比較する(ステップS58)。
【0157】
次に、ステップS58で予測出力値が前回のループにおける予測出力値と同じ値であれば、処理は終了する。同じ値でなければ、ステップS59に進む。
【0158】
ステップS59では、予測出力値が前回のループにおける予測出力値よりも大きければ、ステップS61に進む。逆に、小さければ、ΔVを−ΔV(ステップS60)としてステップS57の処理に戻る(方向転換する。)。
【0159】
ステップS61では、ステップS59において予測出力値が前回のループにおける予測出力値を上回る場合が規定回数以上連続した場合にステップS62に進む。規定回数以上連続しない場合は、ステップS57の処理に戻る。
【0160】
ステップS62では、n分探索法、例えば、四分探索法でMPPを探索し発電電圧の設定値を決定するアルゴリズムが呼び出され、発電電圧の設定値を返した後にステップS59の処理に戻る。
【0161】
以上のように、この第4の実施の形態による太陽電池システムによれば、第1〜第3の実施の形態による太陽電池システムと同様な利点に加えて、制御のベースは山登り法にして、山登り法にて最高効率状態を探索し、n回(例えばn=3)以上同じ方向に歩いたことをトリガーにn分探索動作を行うので、n分探索法でMPPの近傍まで高速に探索し、MPPの近傍からMPPまでは山登り法で精密に探索することで、高速かつ精密にMPPを得ることができ、P−V出力特性の変化により高速に精密に追随することができる太陽電池システムとすることができる。
【0162】
<5.第5の実施の形態>
[太陽電池システム]
図20は第5の実施の形態による太陽電池システムを示したブロック図である。
図20に示すように、この第5の実施の形態による太陽電池システム10は、負荷制御装置2の後段に、二次電池や電力系統など、比較的電圧が安定である回路が接続されている場合において、負荷制御装置2の後段にシャント抵抗を直列接続し、その電圧ドロップを増幅回路とADコンバータとの組み合わせた電流検出装置である出力測定装置4によって測定したものである。その他のことは、第1〜第4の実施の形態のいずれか、もしくは組み合わせた構成を有する。
【0163】
前記の測定方法を用いると、その測定値を太陽電池の発電出力とみなすことができる。その理由は、太陽電池の発電電流ICELLと、発電電圧VCELL 、負荷制御装置2でのエネルギー変換効率η、負荷制御装置2の後段の電流IOUTと電圧VOUTとの間に、以下の関係が成り立つためである。
【数30】
【0164】
以上のように、この第5の実施の形態による太陽電池システムによれば、第1〜第4の実施の形態による太陽電池システムと同様な利点に加えて、負荷制御装置2の後段に、二次電池や電力系統など、比較的電圧が安定である回路が接続されている場合において、負荷制御装置2の後段にシャント抵抗を直列接続し、その電圧ドロップを増幅回路とADコンバータとの組み合わせによって測定する出力測定装置4を設けたので、簡易に太陽電池の発電出力を測定することができる。これにより、太陽電池そのものの発電電流を測定する必要はなくなるため、太陽電池のローサイドにもハイサイドにもシャント抵抗を直列接続する必要はなくなり、低コストおよび低消費電力の太陽電池システムを実現することができる。
【0165】
以上、実施の形態および実施例について具体的に説明したが、本開示は、上述の実施の形態および実施例に限定されるものではなく、本開示の技術思想に基づく各種の変形が可能である。
例えば、上述の実施の形態および実施例において挙げた数値、構造、構成、形状、材料などはあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれらと異なる数値、構造、構成、形状、材料などを用いても良い。
【0166】
なお、本技術は以下のような構成も取ることができる。
(1)太陽電池と、
前記太陽電池に接続され、前記太陽電池にかかる負荷を制御することが可能な負荷制御装置と、
前記太陽電池の発電出力を測定する出力測定装置と、
前記出力測定装置によって測定した出力の過渡応答を基にして出力の到達値を予測する出力予測装置とを有し、
前記到達値が最大となるように前記負荷制御装置を制御する機能を有する太陽電池システム。
(2)前記負荷制御装置を最小負荷条件から最大負荷条件までの負荷領域をn分割(n≧3)し、n個の負荷条件をそれぞれ出力予測装置で出力予測を行い、得られたn個の予測出力値から最も大きな出力値となる負荷条件を出力する処理を行い、
さらに、前記出力された負荷条件を含む負荷領域をn分割して、それぞれ出力予測を行い、得られたn個の予測出力値から最も大きな出力値となる負荷条件を出力する処理を行い、
前記処理を、前記出力された負荷条件を含む負荷領域の幅を段階的に狭めて反復することにより、出力値が最大となる負荷条件を検出し出力する発電制御システムを有する(1)に記載の太陽電池システム。
(3)前記負荷条件は、
【数31】
の比率で前記負荷領域を3分割したものである(1)または(2)に記載の太陽電池システム。
(4)前記出力予測装置は、前記出力測定装置によって測定された少なくとも4つの実測値と、少なくとも3つの定数とを用い、四則演算の組み合わせのみによって処理することで、予測出力値を出力する(1)〜(3)のいずれかに記載の太陽電池システム。
(5)前記出力予測装置は、前記出力測定装置によって一定時間間隔で測定されたm個(mは4以上の自然数)の出力値Pn-m、Pn-m+1、Pn-m+2・・・Pn-1、Pnと、m個の任意の定数A1、A2、A3、A4・・・Am-1、Amから、式
【数32】
によって求められた予測出力値Pestimate,nを出力する(1)〜(4)のいずれかに記載の太陽電池システム。
(6)前記出力予測装置における予測出力値Pestimate,nの出力は少なくとも2回行われ、出力された連続する2つの予測出力値Pestimate,nの差分の絶対値|Pestimate,n−Pestimate,n-1|が、所定の値以下になるまで、前記出力が繰り返し行われる(1)〜(5)のいずれかに記載の太陽電池システム。
(7)前記負荷制御装置の負荷条件の測定を電流値が0となる負荷条件および/または電圧値が0となる負荷条件では行わない(1)〜(6)のいずれかに記載の太陽電池システム。
(8)前記負荷制御装置は、昇圧回路または降圧回路であって、前記太陽電池の発電電圧が一定となるようにフィードバック制御されており、
前記出力測定装置は、前記負荷制御装置の後段に備えられた電流検出装置であり、前記電流検出装置で検出された電流値を出力値とする(1)〜(7)のいずれかに記載の太陽電池システム。
(9)前記太陽電池は色素増感太陽電池である(1)〜(8)のいずれかに記載の太陽電池システム。
(10)前記出力予測装置は、前記太陽電池への電圧を印加し、
前記電圧の印加から一定時間経過後において、発電電流測定装置によって連続して測定されたn個の電流値を平滑化し、
前記n個の平滑化電流を逆関数
【数33】
にフィッティングすることで予測電流値を求め、前記予測電流値と前記電圧値とを乗算した値を予測出力値として出力する(2)または(3)に記載の太陽電池システム。
(11)前記n個の平滑化電流を指数関数
【数34】
にフィッティングすることで予測電流値を求め、前記予測電流値と前記電圧値とを乗算した値を予測出力値として出力する(10)に記載の太陽電池システム。
(12)前記負荷制御装置によって一定時間毎に発電電圧の設定値を変化させ、その変化によって出力値が上昇したか下降したかを前記出力測定装置で複数回計測し、出力値の変化の値が規定回数以上連続して正または負となると、
前記負荷制御装置を最小負荷条件から最大負荷条件までの負荷領域をn分割(n≧3)し、n個の負荷条件をそれぞれ出力予測装置で出力予測を行い、得られたn個の予測出力値から最も大きな出力値となる負荷条件を出力する処理を行い、
さらに、前記出力された負荷条件を含む負荷領域をn分割して、それぞれ出力予測を行い、得られたn個の予測出力値から最も大きな出力値となる負荷条件を出力する処理を行い、
前記処理を、前記出力された負荷条件を含む負荷領域の幅を段階的に狭めて反復することにより、出力値が最大となる負荷条件を検出し出力する発電制御システムを有する(1)に記載の太陽電池システム。
(13)前記負荷条件は、
【数35】
の比率で前記負荷領域を3分割したものである(12)に記載の太陽電池システム。
(14)前記出力予測装置は、前記出力測定装置によって測定された少なくとも4つの実測値と、少なくとも3つの定数とを用い、四則演算の組み合わせのみによって処理することで、出力の予測値を出力する(12)または(13)に記載の太陽電池システム。
(15)前記出力予測装置は、前記出力測定装置によって一定時間間隔で測定されたm個(mは4以上の自然数)の出力値Pn-m、Pn-m+1、Pn-m+2・・・Pn-1、Pnと、m個の任意の定数A1、A2、・・・、Amから、式
【数36】
によって求められた予測出力値Pestimate,nを出力する(13)〜(14)のいずれかに記載の太陽電池システム。
(16)前記出力予測装置における主力予測値Pestimate,nの出力は少なくとも2回行われ、
出力された連続する2つの予測出力値Pestimate,nの差分の絶対値|Pestimate,n−Pestimate,n-1|が、所定の値以下になるまで、前記出力が繰り返し行われる(12)〜(15)のいずれかに記載の太陽電池システム。
(17)前記出力予測装置は、前記太陽電池への電圧を印加し、
前記電圧の印加から一定時間経過後において、発電電流測定装置によって連続して測定されたn個の電流値を平滑化し、
前記n個の平滑化電流を逆関数
【数37】
にフィッティングすることで予測電流値を求め、前記予測電流値と前記電圧値とを乗算した値を予測出力値として出力する(12)または(13)に記載の太陽電池システム。
(18)少なくとも1つの太陽電池システムを有し、
前記太陽電池システムが、
太陽電池と、
発電制御システムとを有し、
前記発電制御システムは、前記太陽電池に接続され前記太陽電池にかかる負荷を調節することが可能な負荷制御装置と、制御装置とからなり、
前記制御装置は、前記太陽電池の発電出力を測定する出力測定装置と、前記出力測定装置によって測定した出力の過渡応答から出力の到達値を予測する出力予測装置とを有し、前記出力の到達値が最大となるように前記負荷制御装置を調節する太陽電池システムである電子機器。
(19)少なくとも1つの太陽電池システムを有し、
前記太陽電池システムが、
太陽電池と、
前記太陽電池に接続され、前記太陽電池にかかる負荷を制御することが可能な負荷制御装置と、
前記太陽電池の発電出力を測定する出力測定装置と、
前記出力測定装置によって測定した出力の過渡応答を基にして出力の到達値を予測する出力予測装置とを有し、
前記到達値が最大となるように前記負荷制御装置を制御する機能を有する太陽電池システムである建築物。
(20)前記光電変換素子および/または前記光電変換素子モジュールのうち、少なくとも1つは2枚の透明板の間に挟持されている(19)に記載の建築物。
【符号の説明】
【0167】
1・太陽電池、2・負荷制御装置、3・制御装置、4・出力測定装置、5・出力予測装置、6・MPPT制御装置、7・発電電圧安定化装置、8・発電電圧測定装置、9・発電電流測定装置、10・太陽電池システム。
【技術分野】
【0001】
本開示は、太陽電池システム、電子機器および建築物に関し、例えば色素増感太陽電池に用いて好適な、太陽電池システムおよびこの太陽電池システムを有する電子機器および建築物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
太陽光を電気エネルギーに変換する光電変換素子である太陽電池は太陽光をエネルギー源としているため、地球環境に対する影響が極めて少なく、より一層の普及が期待されている。従来の太陽電池としては、単結晶または多結晶のシリコンを用いた結晶シリコン系太陽電池および非晶質(アモルファス)シリコン系太陽電池が主に用いられている。
【0003】
一方、1991年にグレッツェルらが提案した色素増感太陽電池は、高い光電変換効率を得ることができ、しかも従来のシリコン系太陽電池とは異なり製造の際に大掛かりな装置を必要とせず、低コストで製造することができることなどにより注目されている(例えば、非特許文献1参照。)。
【0004】
この色素増感太陽電池は、一般的に、光増感色素を結合させた酸化チタン(TiO2)などからなる多孔質電極と、それらの間に電解液からなる電解質層が充填された構造を有する。電解液としては、ヨウ素(I2)やヨウ化物イオン(I-)などの酸化・還元種を含む電解質を溶媒に溶解したものが多く用いられる。
【0005】
ところで、太陽電池は、接続した負荷の電圧値によって取り出せる電流値が決まる電流電圧出力特性(I−V出力特性)を有している。太陽電池の発電出力Pは、その発電電圧Vと発電電流Iの積によって表わされるので、例えば、太陽電池が開放状態であれば発電電流Iが流れずI=0となるため、発電出力PはP=0である。一方、太陽電池が短絡状態にある場合、発電電流Iの値は非常に大きくなるが、発電電圧VがV=0となるため、やはり発電出力PはP=0となる。すなわち、太陽電池を効率よく発電するために太陽電池に接続する負荷は、開放状態のような無負荷であっても、短絡状態のような過負荷であってもだめであり、適度な負荷であることが非常に重要である。
【0006】
図21は、ある一定の光源の下における太陽電池のI−V出力特性および電力電圧出力特性(P−V出力特性)の一例を示した図である。
図21に示すように、横軸は太陽電池に発生する発電電圧Vであり、縦軸は太陽電池の発電電流Iと発生する発電出力Pを示している。ここで、P−V出力特性に注目すると、太陽電池からの出力電力が最大となる動作点はP−V出力特性の頂点であり、一般に、最大電力点(MPP:Maximum Power Point)と呼ばれている。つまり、太陽電池は、常にこのMPPにおいて発電をしていれば最も発電効率が良いといえる。
【0007】
しかしながら、太陽電池のP−V出力特性は日射強度、温度、負荷条件などによって大きく変動し、それに伴いMPPも大きく変動する。このことから、常に高い効率で太陽電池を発電させるためには、最大電力点追跡(MPPT:Maximum Power Point Tracking)制御が必要となる。つまり、MPPT制御は、発電出力Pが最大となる発電電圧Vと発電電流Iの組み合わせであるMPPを見出し、常にその状態が維持されるように太陽電池に適度な負荷をかけ続け、太陽電池を常に最大効率で動作させる制御である。言い換えれば、太陽エネルギーを無駄なく電気エネルギーに変換するための制御であり、事実上、太陽電池を駆動させるのになくてはならない制御の一つである。
【0008】
MPPT制御回路に用いられる電子回路は、大きく分けて、次の二種類の方式が考えられる。一方は、発電電圧を制御変数として発電電圧の値が設定値となるようにフィードバック制御する回路、他方は、発電電流を制御変数として発電電流の値が設定値となるようにフィードバックする回路である。これらの制御方法は電気化学分野においては、それぞれ、電位規制制御(Potentiostatic Control)、電流規制制御(Galvanostatic Control)と呼ばれている。
【0009】
実際にMPPT制御回路を設計する場合においては、圧倒的に前者の電位規制制御が用いられる。その理由は、発電電圧と発電電流の照度依存性から説明される。通常、太陽電池は、照度が0.5W/m2程度のオフィス内から、照度1000W/m2程度の真夏の直射日光下まで、数桁に渡る照度範囲での安定な動作が求められる。太陽電池の特性上、MPPにおける発電電流Imaxは照度にほぼ比例する。一方、MPPにおける発電電圧Vmaxは照度の対数にほぼ比例する。すなわち、発電電流は照度変化に伴い数桁に渡って激しく変動するが、発電電圧は対数圧縮されることで変動の範囲は小さくなる。このことから、発電電圧は制御変数として扱いやすく、発電電圧を制御した方が制御回路も簡便となる。
【0010】
MPPT制御の中で従来から知られているものとしては、山登り法という制御方法がある。山登り法とは、一定時間間隔で発電電圧Vまたは発電電流Iの設定値を上げるか下げるかして変化させ、その変化によって発電出力Pが上昇したか下降したかを調べ、その結果に応じて次の回に発電電圧を上げるか下げるかを決める制御法である。この山登り法によるMPPT制御法は、太陽電池の発電制御に多く用いられ、その技術についてはこれまでにも多数報告されている。(例えば、特許文献1〜4。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平7−234733号公報
【特許文献2】特開平8−76865号公報
【特許文献3】特開2002−48704号公報
【特許文献4】特開2004−280220号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Nature,353,p.737-740,1991
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
太陽電池の発電制御を山登り法によってMPPT制御する場合において、MPPを高い精度で検出するためには、発電電圧Vまたは発電電流Iの設定値の変化の幅を狭くして分解能を高めればよい。しかしながら、いずれの設定値も、変化の幅を狭くしすぎるとMPPを捉えるまでに時間が掛かってしまう。そうすると、MPPを捉えるまでの時間における発電は最大効率ではなくなるため、その間の太陽エネルギーを取りこぼし、無駄にしてしまっていることになる。
【0014】
また、山登り法によるMPPT制御は、発電電圧Vまたは発電電流Iの設定値を変化させてから、次の発電電圧の設定値を変化させるまでの待ち時間が存在する。この待ち時間は、短ければ短いほど素早くMPPを捉えることが可能となる。例えば、電気応答速度の速い太陽電池であれば、待ち時間は数ミリ秒〜数十ミリ秒といった短時間でも問題ないので、素早くMPPを捉えることが可能となる。しかしながら、電気応答速度の遅い太陽電池であると、待ち時間は数秒単位で必要となる。そうすると、MPPを捉えるまでに時間が掛かってしまうため、この場合においても、同様に上述したような太陽エネルギーの取りこぼしが発生してしまう。
【0015】
このように、山登り法によるMPPT制御は太陽電池の発電効率が最大となる条件を精度良く見出すという点では優れた方法である。しかしながら、電気応答速度の遅い太陽電池を山登り法によるMPPT制御で発電制御すると、MPPを捉えるまでに時間が掛かる。これは、発電電圧Vまたは発電電流Iの設定値が変化するごとに発生する数秒単位の待ち時間が発生するからである。このため、照度条件の変化などによる太陽電池の出力特性の変化などに適切な速度で追随して制御することができない。特に、分解能を高めてMPPを精度良く見出そうとすると、出力の測定数が増加することで上述した待ち時間も増加し、この問題は更に深刻となる。
【0016】
一方、電気応答速度に依存しない制御法としては、例えば、電圧追従法が挙げられる。電圧追従法は、太陽電池を開放状態にした時の電圧である開放電圧Vocにある定数(典型的な値としては0.7〜0.8)を乗じた値を太陽電池の発電電圧とし、電位規制制御を行う方法である。この方法を適用すると、太陽電池の動作点はMPPの近傍に留まり続け、おおよそ実力の80%以上での安定発電が可能となる。
【0017】
このように、電圧追従法は、太陽電池の電気応答速度と関係のない制御方法であるため、特に、電気応答速度の遅い太陽電池においては、山登り法よりも有効な方法であると言える。しかしながら、この方法は、そもそもMPP自体を捉えることをしないため、太陽電池を常に最大効率で発電をすることはできない。
【0018】
そこで、本開示が解決しようとする課題は、従来よりも、太陽電池の出力特性の変化に対する追随制御が速く、太陽電池の電気応答速度によらず太陽電池を常に最大効率で発電が可能であって、低消費電力で低コストの新規な太陽電池システムを提供することである。
【0019】
本開示が解決しようとする他の課題は、上述したような優れた太陽電池システムを太陽電池に用いた高性能の電子機器を提供することである。
【0020】
本開示が解決しようとするさらに他の課題は、上述したような優れた太陽電池システムを太陽電池に用いた建築物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
前記課題を解決するために、本開示は、
太陽電池と、
前記太陽電池に接続され、前記太陽電池にかかる負荷を制御することが可能な負荷制御装置と、
前記太陽電池の発電出力を測定する出力測定装置と、
前記出力測定装置によって測定した出力の過渡応答を基にして出力の到達値を予測する出力予測装置とを有し、
前記到達値が最大となるように前記負荷制御装置を制御する機能を有する太陽電池システムである。
【0022】
また、本開示は、
少なくとも1つの太陽電池システムを有し、
前記太陽電池システムが、
太陽電池と、
前記太陽電池に接続され、前記太陽電池にかかる負荷を制御することが可能な負荷制御装置と、
前記太陽電池の発電出力を測定する出力測定装置と、
前記出力測定装置によって測定した出力の過渡応答を基にして出力の到達値を予測する出力予測装置とを有し、
前記到達値が最大となるように前記負荷制御装置を制御する機能を有する太陽電池システムである電子機器である。
【0023】
また、本開示は、
少なくとも1つの太陽電池システムを有し、
前記太陽電池システムが、
太陽電池と、
前記太陽電池に接続され、前記太陽電池にかかる負荷を制御することが可能な負荷制御装置と、
前記太陽電池の発電出力を測定する出力測定装置と、
前記出力測定装置によって測定した出力の過渡応答を基にして出力の到達値を予測する出力予測装置とを有し、
前記到達値が最大となるように前記負荷制御装置を制御する機能を有する太陽電池システムである建築物である。
【0024】
本開示において、n分探索法は、一定範囲をn個に分割し、分割の幅を狭めていくことによって所望の地点を検出するものである。具体的な処理方法としては、例えば、負荷制御装置を最小負荷条件から最大負荷条件までの負荷領域をn分割し、n個の負荷条件をそれぞれ出力予測装置で出力予測を行う。次に、得られたn個の予測出力値から最も大きな出力値となる負荷条件を出力する処理を行う。次に、出力された負荷条件を含む負荷領域をn分割して、それぞれ出力予測を行う。次に、得られたn個の予測出力値から最も大きな出力値となる負荷条件を出力する処理を行い、この処理を、前記出力された負荷条件を含む負荷領域の幅を段階的に狭めて反復することにより、MPPを検出するものであるが、n分探索法の処理方法は、これらのものには限定されるものではない。また、n分探索法はnが3以上の自然数であることが必須である。具体的には、例えば、n=3である三分探索法、n=4である四分探索法が挙げられ、特に、三分探索法においては、分割に黄金比を用いた探索法を用いることが好適であるが、n分探索法は、これらのものに限定されるものではなく、nが5以上の自然数であってもよい。
【0025】
太陽電池とは、光エネルギーを電気エネルギーに変換する素子であれば基本的にはどのようなものであってもよく、具体的には、例えば、シリコン系太陽電池、色素増感太陽電池、有機薄膜太陽電池などが挙げられるが、太陽電池は、これらのものに限定されるものではない。
【0026】
太陽電池および太陽電池システムは、およそ電力が必要なもの全てに用いることができ、大きさも問わないが、例えば、電子機器、建築物、移動体、建設機械、産業機械、農業機械、工作機械、発電システム、動力装置などに用いることができ、用途などによって出力、大きさ、形状などが決められる。
【0027】
電子機器は、基本的にはどのようなものであってもよく、携帯型のものと据え置き型のものとの双方を含むが、具体例を挙げると、携帯電話、モバイル機器、ロボット、パーソナルコンピュータ、アンテナ、車載機器、時計、各種家庭電気製品などである。
【0028】
建築物は、典型的にはビルディング、特に、商業ビルディング、マンションなどの大型建築物であるが、これらには限定されず、外壁面を有する建築された構造物であれば、基本的にはどのようなものであってもよい。建築物は、具体的には、例えば、戸建住宅、アパート、駅舎、校舎、庁舎、遊歩道、競技場、球場、病院、教会、工場、倉庫、小屋、車庫、橋、固定遊具などが挙げられ、特に、少なくとも1つの窓部(例えばガラス窓)あるいは採光部を有する建築された構造物であることが好ましい。また、可動部を有する建築物であってもよく、具体的には、例えば、可動橋、天文台、観覧車、パラボラアンテナ、可動部を有する看板などが挙げられるが、建築物は、前記に挙げたものに限定されるものではない。
【0029】
建築物に設けられる光電変換素子および/または複数の光電変換素子が電気的に接続されている光電変換素子モジュールのうち、窓部あるいは採光部などに設けられるものは、2枚の透明板の間に挟持し、必要に応じて固定して構成することが好適であって、典型的には、光電変換素子および/または光電変換素子モジュールを2枚のガラス板の間に組み込み必要に応じて固定することによって構成される。
【0030】
移動体は、基本的にはどのようなものであってもよく、具体例を挙げると、自動車、トラック、バス、二輪車、三輪車、エレベーター、そり、ショッピングカート、鉄道、ケーブルカー、ロープウェイ、モノレール、リニアモーターカー、船舶、ホバークラフト、航空機、ヘリコプター、グライダー、気球、飛行船、ロケット、人工衛星、宇宙船、宇宙ステーションなどである。また、建設機械は、基本的にはどのようなものであってもよく、具体例を挙げると、ショベルカー、ブルドーザー、クレーン車、ロードローラー、掘削機などである。また、農業機械は、基本的にはどのようなものであってもよく、具体例を挙げると、耕耘機、トラクター、コンバイン、田植え機などであるが、移動体は、前記に挙げたものに限定されるものではない。
【発明の効果】
【0031】
本技術によれば、従来の発電制御システムよりも、低消費電力で低コストに構成でき、従来よりも高速で、太陽電池の電気応答速度によらず常に最大効率で太陽電池を発電することができる発電制御システムを備えた太陽電池システムを得ることができる。そして、この優れた太陽電池システムを用いることにより、高性能の電子機器などを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】第1の実施の形態による太陽電池システムを示したブロック図である。
【図2】太陽電池を定電圧発電状態とするための発電電圧制御の流れを示したフローチャートである。
【図3】発電出力の到達値の近似値を得るための制御の一例を示したフローチャートである。
【図4】太陽電池の各条件における出力実測値Pnの値を算出した結果を表す略線図である
【図5】太陽電池の各条件における予測出力値Pestimate,nの値を算出した結果を表す略線図である。
【図6】四分探索法でMPPを探索し発電電圧値を設定する処理を示したフローチャートである。
【図7】太陽電池の発電制御おいて、発電効率が最大となる発電電圧の設定値を求める過程を示した略線図である。
【図8】第2の実施の形態による太陽電池システムを示したブロック図である。
【図9】黄金比を用いた三分探索法でMPPを探索し発電電圧値を設定する処理を示したフローチャートである。
【図10】太陽電池の発電制御において、発電効率が最大となる発電電圧値の設定をする過程を示した略線図である。
【図11】第3の実施の形態による太陽電池システムを示したブロック図である。
【図12】色素増感太陽電池の電気応答特性を示した略線図である。
【図13】発電電流の到達値の近似値を得るための制御の一例を示したフローチャートである。
【図14】発電電流の到達値の近似値を得るための制御の一例を示したフローチャートである。
【図15】色素増感太陽電池において最大出力点を探索した過程を示す略線図である。
【図16】図15における測定1〜2回目の部分に拡大した拡大図である。
【図17】第3の実施の形態におけるアルゴリズムによって求められた色素増感太陽電池のI−V出力特性とP−V出力特性とを示した略線図である。
【図18】第4の実施の形態による太陽電池システムを示したブロック図である。
【図19】山登り法とn分探索法とを組み合わせてMPPを探索し発電電圧値を設定する処理を示したフローチャートである。
【図20】第5の実施の形態による太陽電池システムを示したブロック図である。
【図21】ある一定の光源の下における太陽電池のI−V出力特性および電力電圧出力特性(P−V出力特性)の一例を示した略線図である。
【図22】太陽電池の電気応答特性の測定結果を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
近年、太陽電池は携帯電話、電卓、腕時計などの携帯機器の駆動電源として一般的に装備され多数商品化されている。その中でも、特に、色素増感太陽電池は、室内照明で発電できることや、低コストで生産できることなどから、携帯機器などに装備する駆動電源としての需要が特に高まっている。
【0034】
携帯機器に装備された太陽電池は、携帯機器の使用に伴い発電出力特性も目まぐるしく変化する。その理由は、太陽電池はエネルギーソースが太陽光であり、携帯機器であるがゆえに、ユーザーの使用などにより、その位置や姿勢が変えられることに伴い、太陽電池の光入射面の位置や角度などが変化し、照度条件が目まぐるしく変わるからである。また、太陽電池を建築物などに設置する場合においては、太陽光が時刻、季節、天候などにより光量や入射角度が変化するため、発電出力特性はいつも一定ではない。そのため、この発電出力の変動に伴って変動するMPPをMPPT制御によって素早く捉えることが、携帯機器などに装備された太陽電池を効率よく発電する場合において特に重要である。
【0035】
図22AおよびBは、太陽電池の電気応答特性の測定結果を示す写真である。図22Aはシリコン系太陽電池の測定結果、図22Bは色素増感太陽電池のステップ応答の測定結果を示す。
図22AおよびBに示すように、色素増感太陽電池の電気応答速度は、シリコン系太陽電池の電気応答速度と比較して160分の1と電気応答速度が格段に遅いことがわかる。その理由として、色素増感太陽電池の電解質層を構成する電解液中に溶けているヨウ化物イオン(I-)および三ヨウ化物イオン(I3-)が電荷のキャリアになっていることが挙げられる。色素増感太陽電池は、多孔質電極と、対極と、多孔質電極との間に設けられた電解質層を有する構成であり、対極を正極、多孔質電極が設けられている透明電極などを負極とする電池として動作する。ヨウ化物イオンと三ヨウ化物イオンは、電解質層中の電解液などに含まれ、このヨウ化物イオンと三ヨウ化物イオンとは、色素増感太陽電池の充電中に激しく運動する。さらに、前記イオンは、自身の安定化のため周りの溶媒分子を纏って、大きなクラスターを形成する。これは溶媒和という現象であるが、このような溶媒和をした大きな塊が液体の中を突き進むことで、そこには大きな慣性が発生し、このことは、太陽電池全体で見たときの電気特性に大きな過渡応答が発生してしまう原因となる。
【0036】
このように、色素増感太陽電池は、大きな電気過渡応答特性を有するため電気応答速度は非常に遅い。この遅い電気応答速度は、上述したように、従来の山登り法によるMPPT制御で発電制御したときの長い待機時間となり、発電効率は著しく低下する。一方で、素子の電気応答速度に制御速度が依存しない電圧追従法などで色素増感太陽電池を発電制御する方法もあるが、上述したように、最大効率で発電が行われているわけではなく、また、動作点が定点であるため、MPPの変動に追随することはない。
【0037】
このように、電気応答速度の遅い色素増感太陽電池であっても、常に最大効率で発電制御するためには、MPPの変動を常に捉えるMPPT制御は必須である。しかしながら、色素増感太陽電池をMPPT制御で発電制御する場合は、上述したような電気応答速度が遅いことによる発電効率の低下を解決しなければ常に最大効率で発電することはできない。
【0038】
さらに、太陽電池の発電を制御する回路で消費される電力は、多くの場合、太陽電池の発電電力から賄われる。このため、回路の電力消費が大きいと全体で見たときの発電電力量が目減りしてしまう。すなわち、消費電力が小さく処理能力の低い制御用マイコンによる制御でも十分に成り立つ制御方法および制御装置の提供が非常に重要になる。
【0039】
本開示者は、上記の問題を解決するために鋭意研究を行った。そこで、まず、山登り法における発電電圧Vの設定値の変化を比較的大きくし、探索回数を減らすことで、素子の電気応答速度の影響を小さくすることを試みた。そうすると、確かに探索回数が減ることにより高速化が可能となったが、今度はMPPを精度良く捉えることができない。山登り法ではMPPの検出精度を高めれば検出速度が犠牲となり、MPPの検出速度を高めれば検出精度が犠牲となるため、別の制御方法を用いるか、または組み合わせる必要がある。
【0040】
そこで、本開示者はさらに研究を進め、山登り法よりも少ない探索回数で精度良くMPPを捉える方法として、n分探索法を新たにMPPT制御に用いた。さらに、本開示者は、色素増感太陽電池の電気過渡応答特性にも注目し、発電電圧の設定値の変更によって生じる発電出力の過渡応答を測定することによって、定常状態に達するのを待たずに、その定常値(すなわち到達値)を予測することを見出し、本技術を案出するに至った。
【0041】
以下、発明を実施するための形態(以下「実施の形態」という)について説明する。説明は以下の順序で行う。
1.第1の実施の形態(色素増感太陽電池システムおよび色素増感太陽電池システムの動作。)
2.第2の実施の形態(太陽電池システムおよび太陽電池システムの動作)
3.第3の実施の形態(太陽電池システムおよび太陽電池システムの動作)
4.第4の実施の形態(太陽電池システムおよび太陽電池システムの動作)
5.第5の実施の形態(太陽電池システム)
【0042】
<1.第1の実施の形態>
[太陽電池システム]
図1は第1の実施の形態による太陽電池システムを示したブロック図である。
図1に示すように、第1の実施の形態による太陽電池システム10は、太陽電池1から負荷制御装置2を介して外部の電力系統や二次電池、キャパシタなどに電力を供給する。負荷制御装置2は昇圧回路や降圧回路などの調整可能な負荷装置である。負荷制御装置2は制御装置3で制御される。制御装置3は、出力測定装置4と、出力予測装置5と、MPPT制御装置6と、発電電圧安定化装置7とを有し、出力測定装置4は発電電圧測定装置8と発電電流測定装置9とを有する。制御装置3の動作は、太陽電池1の出力値を出力測定装置4で測定した後に、測定した出力値からMPPT制御装置6で太陽電池の発電電圧の設定値を決定し、発電電圧安定化装置7において太陽電池の発電電圧を前記設定値と一致するようフィードバック制御する。制御装置3が、前記の動作をすることで、太陽電池は定電圧発電状態となる。
【0043】
出力測定装置4は、発電電圧測定装置8と、発電電流測定装置9とを有し、発電出力は、それぞれで測定された発電電圧と発電電流とを、乗算することによって算出される。発電電圧測定装置8は、具体的には、例えば、太陽電池に並列接続された抵抗分圧回路とADコンバータとの組み合わせたもの、増幅回路とADコンバータとの組み合わせたものなどによって構成されるが、発電電圧測定装置8は、これらのものに限定されるものではない。一方、発電電流測定装置9は、具体的には、例えば、太陽電池のローサイド、又はハイサイドに直列接続された数十mΩ以上数Ω以下のシャント抵抗と、増幅回路と、ADコンバータとを組み合わせたものなどによって構成される。また、電流が特に大きい場合は、トランスを用いた電流プローブや磁気光学効果を用いた電流プローブと、増幅回路と、ADコンバータとを組み合わせたものも可能であるが、発電電流測定装置9は、これらのものに限定されるものではない。
【0044】
制御装置3は、制御用マイコンなどとすることもでき、その場合にあっては、出力測定装置4は出力測定手段、出力予測装置5は出力予測手段、MPPT制御装置6はMPPT制御手段、発電電圧安定化装置7は発電電圧安定化手段、発電電圧測定装置8は発電電圧測定手段、発電電流測定装置9は発電電流測定手段となる。また、負荷制御装置2も制御回路やマイコンなどとすることもでき、その場合も負荷制御装置2は負荷制御手段となる。
【0045】
[太陽電池システムの動作]
図2は太陽電池を定電圧発電状態とするための発電電圧制御の流れを示したフローチャートである。
図2に示すように、この発電電圧制御アルゴリズムは、発電電圧を一定時間毎に測定して測定電圧との誤差を修正して、常に一定の電圧で発電するようにしたものである。
【0046】
この発電電圧制御アルゴリズムを、図2を用いて詳しく説明する。
【0047】
まず、発電電圧測定装置8で発電電圧を測定する(ステップS1)。
【0048】
次に、ステップS2において、ステップS1で測定された発電電圧値が予め設定されている発電電圧の設定値よりも小さければ、負荷制御装置2による負荷を小さくし(ステップS3)、逆に大きければ、負荷制御装置2による負荷を大きくする(ステップS4)。この制御により、太陽電池の発電電圧と発電電圧の設定値とが一致するようフィードバック制御され、定電圧発電状態となるように制御され、処理は終了する(ステップS5)。
【0049】
定電圧発電状態は、制御装置3が持つタイマー機能によって、発電電圧制御アルゴリズムが定期的に実行されることによって実現されている。なお、太陽電池の電気過渡応答が大きいことで電気応答速度が遅くなり、発電電圧制御アルゴリズムでハンチング現象が発生する場合は、発電電圧の設定値と実測値の差分を計算し、PID制御によって発電電圧制御を行う。
【0050】
また、本回路において、発電電圧値を設定することと負荷を調節することとは、本質的に等価である。発電電圧がほぼ0Vになるように負荷をかければ、それは太陽電池に非常に大きな負荷をかけていることになり、また発電電圧がほぼ開放電圧と等しくなるようにすれば、それは太陽電池にほとんど負荷がかかっていないということになる。
【0051】
発電電圧の設定値は、太陽電池の出力特性の変動などの理由から適宜変更する必要がある。発電電圧の設定値を変更すると、上述したように太陽電池の電気過渡応答特性によっては、出力値が到達値となるまでに時間が掛かり、待機時間の増大から発電効率低下の原因となる。
【0052】
そこで、太陽電池の発電制御において発電電圧の設定値を変更する場合に、出力予測装置5によって出力値を予測し、得られた予測出力値を太陽電池の発電出力値とみなし、MPPT制御装置6で発電制御をすることとした。
【0053】
出力予測装置5は、発電電圧の設定値の変更によって生じる発電出力の過渡応答を測定し、発電出力が定常状態に達するのを待たずに、その到達値を予測する装置である。出力予測装置5は、典型的には、発電電圧の設定値が更新されたときに常に呼び出されるように設定されるが、この方法には限定されず、一定時間毎に呼び出すように設定してもよい。
発電電圧の設定値を変更した後の発電出力の過渡応答は、例えば、式(1)のような指数関数の式で表せる場合が多い。
【数1】
【0054】
ここで、式(1)において、Pnはループn回目に測定によって実測された出力値Pfinalは出力の到達値である。また、aとbとはそれぞれ任意の定数であって、定数aは発電電圧の設定値を大きく変化させることに伴い大きくなる定数、定数bは電気応答速度の遅さと正の相関のある定数である。
【0055】
太陽電池の中でも、特に色素増感太陽電池の出力特性における定数bは、シリコン系太陽電池における定数bと比べて遥かに大きい。また、色素増感太陽電池の出力特性における定数bは、経時劣化に応じて大きくなっていく傾向がある。
【0056】
発電出力の到達値を予測出力値とする場合には、例えば、出力測定装置4で3回測定し、ループ回数nと出力実測値Pnとの組を式(1)に代入し、expを含む連立方程式を解くことによって得られるが、出力の到達値Pfinalを近似的に求めることで、より簡易に予測出力値を求めることができる。具体的には、出力測定装置4によって測定された少なくとも4つの実測値と、少なくとも3つの定数とを用い、四則演算の組み合わせのみによって処理することで出力の到達値Pfinalを近似的に求めることができる。
【0057】
図3は発電出力の到達値の近似値を得るための制御の一例を示したフローチャートである。
図3に示すように、このアルゴリズムは発電出力の到達値を、前後のループにおける予測出力値の差分の絶対値の値によって判定する。
【0058】
この発電出力の到達値の近似値を得るためのアルゴリズムを、図3を用いて詳しく説明する。
【0059】
まず、ループ回数nの値に0を代入し初期化する(ステップS6)。
【0060】
次に、太陽電池の出力実測値Pnを測定し式(2)におけるPnに格納する(ステップS7)。
【0061】
ステップS8では、ループ回数nが3未満の場合にはtミリ秒待機し(ステップS13)、ループ回数nをインクリメント(ステップS14)した後に、ステップS7の処理に戻る。ループ回数nが3以上の場合には、ステップS9に進む。
【0062】
ステップS9では、測定された4つの出力実測値Pn-3、Pn-2、Pn-1、Pnを式(2)に代入する。式(2)において、A1、A2およびA3はPestimate,nのnが無限大に向かう場合(n→∞)の極限値がPfinalとほぼ一致するようにあらかじめ求められた任意の定数である。ステップS9においては、予測出力値Pestimate,nを得る。
【数2】
【0063】
次に、ステップS10で、ループ回数nが4未満の場合には、tミリ秒待機し(ステップS13)、ループ回数nをインクリメント(ステップS14)した後に、再びステップS7の処理に戻る。ループ回数nが4以上の場合には、ステップS11に進み、得られた連続する2つの予測出力値Pestimate,nとPestimate,n-1とを式(3)に代入し両者の差分の絶対値Pestimate,diffを計算する。
【数3】
【0064】
次に、ステップS12で、ステップS11で求めた予測出力値の差分の絶対値と、あらかじめ設定した規定値との大小を判定する。予測出力値の差分の絶対値が、規定値よりも大きければtミリ秒待機し(ステップS13)、ループ回数nをインクリメント(ステップS14)した後に、再びステップS7の処理を行う。一方、予測出力値の差分の絶対値が、規定値よりも小さければ、その時点での予測出力値Pestimate,nが最終的な予測出力値、すなわち、発電出力の到達値の近似値となり、アルゴリズムは終了する(ステップS15)。得られた予測出力値Pestimate,nの値は必要に応じて呼び出された外部装置などへ返される。
【0065】
予測出力値Pestimate,nを算出する式は、式(2)に限定されず、例えば、測定されたm個(mは4以上の自然数)の出力実測値Pn-m、Pn-m+1、Pn-m+2・・・Pn-1、Pnを式(4)に代入し、連続する2つの予測出力値の差分の絶対値を比較することで、より精度の高い予測出力値を得ることができる。式(4)においてA1、A2、・・・、Amは任意の定数であり、式(4)の項数はm+1個である。
【数4】
【0066】
上述したように、この到達値の近似値を得るためのアルゴリズムは、指数関数などが一切含まれておらず、簡易な四則演算のみを用いているのみであるため、複雑な処理をする必要が無く、出力予測装置5を有する制御装置3を消費電力が小さく処理能力の低い制御用マイコンとしたい場合において特に有効である。
【0067】
また、予測出力値の差分の絶対値の変化から、電気応答速度を求めることもできる。求めた電気応答速度からは式(1)の定数bが導かれ、例えば、色素増感太陽電池などの劣化の度合いを定数bによって判定することもできる。
【0068】
<実施例1−1>
図4は、式(1)において、定数aの値の範囲が4以上20以下、定数bの値の範囲が8以上12以下である特性を有する太陽電池の各条件における出力実測値Pnの値を式(1)で算出した結果を表す略線図である。図の縦軸は出力実測値Pn[mW]、横軸はループ回数n[回]である。
【0069】
図5は、前記の特性を有する太陽電池の各条件における予測出力値Pestimate,nの値を式(2)によって算出した結果を表す略線図である。図の縦軸は予測出力値Pn[mW]、横軸はループ回数n[回]である。式(2)における定数は、A1=530、A2=−1298、A3=801とした。
【0070】
図4に示すように、出力実測値Pnはループ回数nが15回を超えたあたりから定常となり、出力の到達値Pfinal(≒Pestimate,∞)は、およそ20mWである。一方で、図5に示すように、予測出力値Pestimate,nは、ループ回数n=7で1mW以内の誤差で、ループ回数n=15では0.5mW以内の誤差で出力の到達値Pfinalを予測可能であることがわかる。
【0071】
次に、制御装置3において、最大発電効率となる発電電圧の設定値を決定する方法について詳しく説明する。
【0072】
最大発電効率となる発電電圧の設定値は、MPPT制御装置6において四分探索法アルゴリズムを用いてMPPを探索することにより決定する。四分探索法はn分探索法の一種であり、n分探索法は山登り法の様に発電条件を少しずつ変えながら測定をするのではなく、条件を大きく変えながら、徐々にその変化量を狭めていくことによって発電が最高効率となる発電電圧を見つけ出すアルゴリズムである。
【0073】
MPPT制御装置6は、例えば、太陽電池への照度条件が急激に変化した場合、発電量が大きく変化した場合などに呼び出されるが、これらの場合に限定されず、例えば、一定時間間隔毎もしくは、太陽電池の姿勢変化量などに応じて行ってもよい。
【0074】
図6は、四分探索法でMPPを探索し発電電圧値を設定する処理を示したフローチャートである。四分探索法とは、n分探索法の一種であり、無負荷状態と最大負荷状態との間の負荷領域を1:1:1:1の比率で4分割したものである。
図6に示すように、このアルゴリズムは四分探索法でMPPを探索し発電電圧の設定値を決定する。
【0075】
四分探索法でMPPを探索し発電電圧の設定値を決定するアルゴリズムについて、図6を参照して詳しく説明する。
【0076】
まず、負荷制御装置2による発電電圧制御を一時停止し、太陽電池にかける負荷をゼロにする(ステップS16)。
【0077】
次に、太陽電池の出力電圧を定常にするためにtミリ秒〜t秒待つ(ステップS17)。
【0078】
次に、太陽電池の開放電圧Vocを測定する(ステップS18)。
【0079】
次に、測定された開放電圧Vocに1/2を乗じ、これを、ループ回数m=0における初期電圧V0、
【数5】
とする(ステップS19)。
【0080】
次に、発電電圧の設定値を、Vm=V0として、負荷制御装置2による発電電圧制御を再開する(ステップS20)。
【0081】
次に、出力予測装置5を呼び出し、発電電圧の設定値を、Vm=V0として、返ってきた予測出力値をPm,2に格納する(ステップS21)。
【0082】
次に、発電電圧の設定値Vm,1を、
【数6】
として、出力予測装置5を呼び出し、返ってきた値を予測出力値Pm,1に格納する(ステップS22)。
【0083】
次に、発電電圧の設定値Vm,3を、
【数7】
として、出力予測装置5を呼び出し、返ってきた値を予測出力値Pm,3に格納する(ステップS23)。
【0084】
次に、Pm,1とPm,2とPm,3とを比較し、最も大きい予測出力値における電圧値と出力値を、それぞれVm+1、Pm+1,2とする(ステップS24)。
【0085】
次に、ステップS25で、ループ回数mがある規定値より小さければ、ループ回数mをインクリメント(ステップS26)し、再びステップS22の処理へ戻る。ループ回数mがある規定値よりも大きければ、Vm+1が最終的な発電電圧の設定値、すなわち、最大発電効率となる発電電圧の設定値Vmppとなり(ステップS27)、アルゴリズムは終了する(ステップS28)。得られた発電電圧の設定値Vmppの値は必要に応じて呼び出された外部装置などへ返される。
【0086】
<実施例1−2>
図7A〜Eは、太陽電池の発電制御おいて、図6に示した四分探索法アルゴリズムを用いてMPPを探索し、発電効率が最大となる発電電圧の設定値を求める過程を示した略線図である。図の縦軸は発電電流[mA]および発電電力[mW]、横軸は発電電圧[V]である。
【0087】
ここで、図7Aは、ステップS19における処理、図7Bは、ループ回数m=0におけるステップS21からS25へ至る処理、図7Cは、ループ回数m=1におけるステップS21からS25へ至る処理、図7Dは、ループ回数m=2におけるステップS21からS25へ至る処理、また、図7Eは、ループ回数m=3におけるステップS21からS25へ至る処理をそれぞれ示している。
【0088】
図7に示すように、このアルゴリズムを用いると、僅か9回の出力測定を行うだけで、ほぼ最高効率で発電できる発電電圧Vmを求めることができる。なお、このとき発電電圧Vmの分解能はVoc /32であるが、さらに測定回数を増やせば分解能は劇的に向上する。例えば、出力測定を11回行えば分解能はVoc /64に、13回行えば分解能はVoc /128となり指数関数的に上昇する。山登り法で分解能Voc /128の精度を出そうとすると、最大で128回の出力測定が必要であり、たった13回で、最高効率で発電できる発電電圧を得ることはほぼ不可能である。
【0089】
また、制御装置3には、太陽電池セルが劣化したときの、自己補正機能を備えていることが望ましい。具体的には、式(1)、式(2)および式(4)における定数はパラメータとみなせるので、これらの各定数の最適値を自己補正できる自己補正機能を備えていることが望ましい。自己補正機能は、自動で定期的に検証測定を行うことで、パラメータを自己補正できるようにするのが良い。ここで、検証測定とは、具体的には、例えば、発電電流の過渡応答を長時間測定し、発電電流の到達値の予測結果と実測の到達値とが一致したかを確認するような測定が挙げられるが、自己補正機能および検証測定はこれらのものに限定されるものではない。
【0090】
また、周囲の温度によっても、前記パラメータの最適値は変化する。これに対応させるには、周囲の温度を別途サーミスタなどで測定し、得られた温度データを元にパラメータに補正を加えるのが良い。特に、温度が低いと電解液の粘度が高くなりイオンの移動速度が落ちることで電気応答速度が更に遅くなるので、一定の測定精度を維持して探索する場合においては、出力の予測に用いる出力実測値Pnのデータ数を増やしたり、探索回数を増やしたりすることが望ましい。反対に、温度が高い場合は、電解液の粘度が下がり電気応答速度が速くなるので、出力の予測に用いる出力実測値Pnのデータ数を減らしたり、探索回数を減らしたりすることができる。一方、一定の時間内に限定して探索をする場合においては、一定の測定精度を維持して探索する場合とは逆の補正をすればよい。
【0091】
また、携帯機器などにおける実際の使用においては、照度条件のめまぐるしい変化などから、制御装置3によって発電電圧の設定が何度も繰り返されることになるため、これによる太陽電池セルに与える負荷についても考慮する。特に、色素増感太陽電池においては、発電電圧の設定値が低すぎたり高すぎたりする状況を極力減らすことが好ましい。発電電圧の設定値が高すぎると、酸化チタン電極に吸着した色素の還元脱離反応が進み易くなり、一方で、発電電圧の設定値が低すぎると、集電配線などに用いている銀の溶出が進み易くなるからである。これらを防ぐため、発電が最高効率で行われている場合における発電電圧Vmaxを探索する際、発電電圧の設定値が0.1・Voc 未満および0.9・Voc 以上にならないように範囲を狭めるのが良い。
【0092】
また、携帯機器で使用する場合など、発電制御に高速動作が求められる場合にあっては、最高効率状態における発電電圧Vmaxの探索を0〜Vocの全範囲の中から行うのではなく、意図的に無負荷条件(V=0)および/または最大負荷条件(I=0)には負荷条件を設定しないようにしたり、MPPがVoc /2〜Vocにあると決め打ちしたり、Vmaxは大きく変わることが少ないことからMPPが前回測定されたVmaxの近傍にあると決め打ちしたりして、探索回数を適宜減らしながら適用するのが効果的である。
【0093】
以上のように、この第1の実施の形態による太陽電池システムによれば、負荷制御装置を出力予測装置とMPPT制御装置とを組み合わせる構成としたので、太陽電池の電気応答速度によらず常に最大効率で発電することができる。さらに、出力予測装置を予測出力値の差分によって出力の過渡応答の到達値を予測し、MPPT制御装置において四分探索法でMPPを探索することで太陽電池の発電制御をしたので、照度条件が目まぐるしく変わる環境下で太陽電池が使用されていても、MPPの変動に素早く追随して発電制御をすることが出来る。具体的には、出力予測装置が素早く出力の到達値を予測することで、太陽電池の電気過渡応答特性の影響を受けず、MPPT制御装置が最小試行回数にて最高効率となる条件を見つけ出すことよって、MPPの変動に素早く追随して発電制御をすることが出来る。すなわち、太陽電池の出力特性が変動しても常に最大効率で発電することができる太陽電池システムとすることができる。
【0094】
また、予測出力値の差分の絶対値の変化から、電気応答速度の遅さと正の相関のある定数であるbを求めることもできる。この定数bによって、例えば、色素増感太陽電池などの劣化の度合いを判定することもできる。また、色素増感太陽電池の経時劣化による直流抵抗性分Rsの増加に伴ってMPPにおける電圧Vmaxの低下も同時に確認されるため、この現象を用いて色素増感太陽電池の劣化の度合いを定量化することもできる。
【0095】
また、MPPT制御装置において設定された全ての発電電圧値から、近似曲線を求めることで、太陽電池のI−V出力特性やP−V出力特性を知ることができる。
また、出力予測装置による出力予測や、MPPT制御装置におけるMPP探索に用いるアルゴリズムを、簡易な四則演算のみで構成することで、太陽電池の発電制御を消費電力が小さく処理能力の低い制御用マイコンによって実現することができる。これにより、トータルでの発電効率を高い太陽電池システムとすることができる。
【0096】
<2.第2の実施の形態>
[太陽電池システム]
図8は第2の実施の形態による太陽電池システムを示したブロック図である。
図8に示すように、この第2の実施の形態による太陽電池システム10は、第1の実施の形態による太陽電池システム10のMPPT制御装置6において、四分探索法に代えて、黄金比を用いた三分探索法でMPPを探索し発電電圧の設定値を決定するものである。黄金比を用いた三分探索法とは、n分探索法の一種であり、無負荷状態と最大負荷状態との間の負荷領域を黄金比で3分割したものである。
【0097】
[太陽電池システムの動作]
図9は、黄金比を用いた三分探索法でMPPを探索し発電電圧値を設定する処理を示したフローチャートである。
黄金比は、下記式によって表される比である。
【数8】
【0098】
図9に示すように、このアルゴリズムは黄金比を用いた三分探索法でMPPを探索し発電電圧の設定値を決定する。
【0099】
黄金比を用いた三分探索法でMPPを探索し発電電圧の設定値を決定するアルゴリズムについて、図9を参照して詳しく説明する。
【0100】
まず、負荷制御装置2による発電電圧制御を一時停止し、太陽電池にかける負荷をゼロにする(ステップS29)。
【0101】
次に、太陽電池の出力電圧を定常にするためにtミリ秒〜t秒待つ(ステップS30)。
【0102】
次に、太陽電池の開放電圧Vocを測定する(ステップS31)。
【0103】
次に、ループ回数m=0における初期電圧V0,1とV0,2をそれぞれ
【数9】
【数10】
とする(ステップS32)。
【0104】
次に、発電電圧の設定値を、Vm,2=V0,2として、負荷制御装置2による発電制御を再開する(ステップS33)。
【0105】
次に、出力予測装置5を呼び出し、発電電圧の設定値を、Vm=V0として、返ってきた予測出力値をPm,2に格納する(ステップS34)。
【0106】
次に、発電電圧の設定値をVm,1として、出力予測装置5を呼び出し、返ってきた予測出力値をPm,1に格納する(ステップS35)。
【0107】
次に、Pm,1とPm,2とに格納された予測出力値の大小を比較し、Pm,1がPm,2よりも大きければステップS37に進む。一方、Pm,1がPm,2よりも大きくなければステップS40に進む(ステップS36)。
【0108】
ステップS36からステップS37に進む場合においては、発電電圧の設定値Vm+1,1、Vm+1,2および予測出力値Pm+1,2の値を、それぞれ
【数11】
【数12】
【数13】
とする(ステップS37)。
【0109】
次に、ステップS38で、ループ回数mがある規定値よりも小さければ、ループ回数mをインクリメント(ステップS39)し、再びステップS35の処理へと戻る。ループ回数mがある規定値よりも大きければ、Vm+1,1が最終的な発電電圧の設定値、すなわち、最大発電効率となる発電電圧の設定値Vmppとなり(ステップS44)、アルゴリズムは終了する(ステップS45)。得られた発電電圧の設定値Vmppの値は必要に応じて、呼び出された外部装置などへ返される。
【0110】
一方、ステップS36からステップS40に進む場合においては、発電電圧の設定値Vm+1,1、Vm+1,2および予測出力値Pm+1,2の値を、それぞれ
【数14】
【数15】
【数16】
とする(ステップS40)。
【0111】
次に、ステップS41で、ループ回数mがある規定値よりも小さければ、ループ回数mをインクリメント(ステップS42)し、ステップS43に進む(ステップS41)。ステップS43では、発電電圧の設定値をVm,2として、出力予測装置5を呼び出し、返ってきた予測出力値をPm,2に格納し(ステップS43)、ステップS36の処理へ戻る。一方、ループ回数mがある規定値よりも大きければ、Vm+1,1が最終的な発電電圧の設定値、すなわち、最大発電効率となる発電電圧の設定値Vmppとなり(ステップS44)、アルゴリズムは終了する(ステップS45)。得られた発電電圧の設定値Vmppの値は必要に応じて、呼び出された外部装置などへ返される。
【0112】
<実施例2−1>
図10A〜Fは、太陽電池の発電制御において、図9に示した黄金比を用いた三分探索法アルゴリズムを用いてMPPを探索し、発電効率が最大となる発電電圧の設定値を求める過程を示した略線図である。図の縦軸は発電電流[mA]および発電電力[mW]、横軸は発電電圧[V]である。
【0113】
ここで、図10AはステップS29〜ステップS34へ至る処理、図10Bはループ回数m=0におけるステップS35〜ステップS43へ至る処理、図10Cはループ回数m=1におけるステップS35〜ステップS39へ至る処理、図10Dはループ回数m=2におけるステップS35〜ステップS43へ至る処理、図10Eはループ回数m=3におけるステップS35〜ステップS43へ至る処理、図10Fはループ回数m=4におけるステップS35〜ステップS45へ至る処理をそれぞれ示している。
【0114】
図10に示すように、このアルゴリズムを用いると、僅か6回の出力測定を行うだけで、ほぼ最高効率状態となる発電電圧Vmを求めることができ、四分探索法よりも高速にMPPを捉えることができる。その理由は、領域の分割を黄金比によって再帰的に行うため、直前のループで算出された予測出力値を再利用することで、1回のループにおいて1回の出力測定のみで済むからである。なお、このとき発電電圧Vmの分解能はVoc /32であるが、四分探索法と同様に、さらに測定回数を増やせば分解能は劇的に向上する。例えば、出力測定を7回行えば分解能はVoc /64に、8回行えば分解能はVoc /128となり指数関数的に上昇する。
【0115】
このように、黄金比を用いた三分探索法は、n分探索法の中でも最も測定回数を減らすことができるため、特にMPPの捕捉を高速に行いたい時に有効である。制御装置3を、例えば、制御用マイコンとするときの計算処理速度は、前記の処理をするに十分であることが望ましい。その他のことは第1の実施の形態による太陽電池システムと同様である。
【0116】
以上のように、この第2の実施の形態による太陽電池システムによれば、第1の実施の形態による太陽電池システムと同様な利点に加えて、MPPT制御装置6において、四分探索法に代えて、黄金比を用いた三分探索法でMPPを探索し発電電圧の設定値を決定したので、より短い時間で精度良く最高効率状態となる発電電圧を得ることができる。
【0117】
<3.第3の実施の形態>
[太陽電池システム]
図11は第3の実施の形態による太陽電池システムを示したブロック図である。
図11に示すように、この第3の実施の形態による太陽電池システム10は、第1または第2の実施の形態による太陽電池システムの出力予測装置5において、発電電流の値を逆関数または指数関数の値とフィッティングすることによって発電電流の到達値を予測し、この値を予測電流値としたものである。
【0118】
[太陽電池システムの動作]
図12は、色素増感太陽電池の端子間電圧Vbtを開放状態から0.8Vとしたときに発生する電流の電気過渡応答特性に、任意の逆関数および任意の指数関数をフィッティングさせたものを示した略線図である。図の縦軸は電流[A]、横軸は経過時間[s]である。また、Vbt <0.8Vである。
図12に示すように、色素増感太陽電池に一定の電圧を印加すると電流が生じ、電流は過渡応答特性を示す。このような電流の過渡応答による、電流の到達値への漸近は逆関数または指数関数を用いてフィッティングすることで最終的な電流の到達値が予測できる。しかしながら、色素増感太陽電池に発生する発電電流の過渡応答に対しては、電圧を印加した直後における突入電流の影響から全ての値を逆関数または指数関数を用いてフィッティングすることはできない。
【0119】
そこで、第3の実施の形態による出力予測装置5では、発電電流測定装置9によって特定の時間内において測定された電流値のみを、逆関数または指数関数をフィッティングすることで、突入電流の影響を除去し、電流の到達値を予測した。
【0120】
図13および図14は電流の到達値を得るためのアルゴリズムを表すブロック図である。
図13および図14に示すように、このアルゴリズムは電流の到達値を電流値の漸近と指数関数の値または逆関数の値とをフィッティングすることで求めることができる。このアルゴリズムは、大きく4つのステップで記述される。各ステップは、具体的には、第1に、端子間に電圧を印加したときに生じる電流応答を測定および取得するステップ、第2に、取得した電流応答データから突入電流成分およびノイズ成分を除去するステップ、第3に、電流応答データの漸近成分と関数とをフィッティングさせるステップ、そして第4に、黄金比分割法を用いて出力が最大となる電圧を追い込んでいくステップであり、この4つの処理を経て電流の到達値が求められる。
【0121】
電流の到達値を得るためのアルゴリズムについて、図13を参照して詳しく説明する。
【0122】
まず、端子間に電圧Vbtを印加し、その直後から時々刻々変わる電流値を測定し、得られた電流値をIraw,iに格納する。電流値の測定および取得は、具体的には、例えば、等時間間隔で、規定回数ループ処理が行われ、電流実測値の個数が規定値に達した場合に電流実測値の取得を終了する。(ステップS46)。
【0123】
次に、得られたn個の電流測定値Iraw,0 〜Iraw,n-1のうち、Iraw,0 〜Iraw,n-mは破棄し(m<n)、残った電流測定値Iraw,m 〜Iraw,n-1は平滑化し、Ifiltered,m 〜Ifiltered,n-1に格納する(ステップS47)。電流測定値Iraw,0 〜Iraw,n-mを破棄する理由は、電圧を変更した直後の突入電流の影響を取り除く必要があるからである。また、電流測定値Iraw,m 〜Iraw,n-1を平滑化することで電流測定値に乗ったノイズが除去される。ノイズ除去は、具体的には、例えば、指数移動平均フィルターなどを用いる。指数移動平均フィルターは、例えば、式(5)に示したものを用いることができる。式(5)において、αは任意の定数であって、Iraw,iには電流実測値Inが逐次代入される。例えば、突入電流の影響の除去のためにm個(n>m)の電流実測値Inが除去されたとすると、Iraw,iには、i=0において電流実測値データImが代入され、Inまで逐次代入することで、平滑化電流値Ifiltered,iを逐次取得する。iは自然数であり、i≧mの関係を有している。
【数17】
【0124】
次に、得られた平滑化電流値Ifiltered,iと逆関数とをフィッティングする(ステップS48)。逆関数とフィッティングする平滑化電流値Ifiltered,iは、最後に得られた、平滑化電流値Ifiltered,iから、規定の数だけ遡った分の平滑化電流値Ifiltered,iを取得したものを用いることが好ましく、具体的には、例えば、p個の平滑化電流値Ifiltered,iを逆関数とのフィッティングに用いる場合には、ステップS47で得られた平滑化電流値Ifiltered,iのうち、最後の値からp個遡って平滑化電流値Ifiltered,iを取得してもよいし、ステップS46で、i=0において電流実測値データInを代入し、iをインクリメント、nをデクリメントして、iの値がpと等しくなるまで電流値の取得の処理を繰り返し、iの値がpと等しくなったらステップS47に進む処理をしてもよいが、平滑化電流値Ifiltered,iの取得は、これらの方法に限定されるものではない。また、電圧の印加から一定時間経過後において、発電電流測定装置9によって連続して測定されたn個の電流値を平滑化し、n個の平滑化電流を逆関数にフィッティングしてもよい。また、pは自然数であって、p>n―mの関係を有している。
【0125】
フィッティングに用いる逆関数I(t)は式(6)で表される。
【数18】
【0126】
式(6)において、A、BおよびCは定数、tは時間である。式(6)でtを無限大とすると、その値はCとなり求めるべき電流の到達値となるため、実際にはCのみを求めればよい。これにより、式(6)とのフィッティングによって求められたCの値が電流の最終的な到達値である到達電流値Iestimate,∞となる。
【0127】
ここで、平滑化電流値Ifiltered,iを逆関数の値とフィッティングさせて電流の到達値を予測するアルゴリズムについて、さらに詳しく説明する。
【0128】
Cの値を求めるために、フィッティング関数である式(6)を変形すると
【数19】
となり、式(7)は一次関数として扱うことができる。式(7)においては、I(t)の値がCの値に近くなるほど相関係数Rは大きくなるので、Rの値が最大となるようなCの値を求める。
【0129】
ここで、Rの値が最大となるようなCの値を求める一例について以下に説明する。
相関係数Rは、具体的には、例えば、式(8)で表される。
【数20】
式(8)中のxave、yaveは、それぞれxi、yiの平均値であるので、
【数21】
と表すことができる。ここで、式(9)中のnおよびmは、図13において示したアルゴリズム内で定義した変数である。
ここで、xi、yiは、
【数22】
であるので、Rの値が最も1に近くなるCの値を探索し、得られたCの値が到達電流値Iestimate,∞となる。
【0130】
また、Cの値を式(7)に代入することで相関係数Rを求めることもできる。この場合にあっては、求めるべき到達電流値Iestimate,∞は取得した電流値の平滑化電流値によって決まるCの探索範囲内にあるので、探索を素早くするためにはCの探索範囲を設定する必要がある。
Cの探索範囲は、次の2式で表すことができる。
【数23】
【数24】
【0131】
ここで、CminはCの探索範囲の下限値、CmaxはCの探索範囲の上限値である。また、Ifirstは、逆関数とのフィッティングに用いる電流値のうち、最初に取得された電流値の平滑化電流値、Ilastは最後に取得された電流値の平滑化電流値である。また、r(r>0)は探索範囲の広さを示すパラメータである。rの値が大きいほどCの探索範囲は広くなるが、収束には時間が掛かるので、rの値はCの探索に必要な最小限の大きさにしておくことが望ましい。
【0132】
このように、前記の設定された範囲内のCの値を式(7)に代入することで相関係数Rが求まり、相関係数Rを最大とするCが求める到達電流値Iestimate,∞となる。
【0133】
これらの方法などを用いて得られた到達電流値Iestimate,∞が求めるべき予測電流値となり(ステップS49)、処理は終了する(ステップS50)。得られた予測電流値の値は必要に応じて発電電圧の設定値と乗算され、予測出力値として呼び出された外部装置などへ返される。
【0134】
また、図14に示すように、フィッティング関数を式(6)に代えて、例えば、指数関数を用いた式(12)を用いて到達電流値Iestimate,∞を求めることもできる。
【数25】
【0135】
式(12)において、A、BおよびCは定数、tは時間である。式(12)でtを無限大とすると、その値はCとなり求めるべき到達電流値Iestimate,∞となるため、式(6)を用いてフィッティングを行った時と同様にCのみを求めればよい。
【0136】
式(12)は式(6)と同様に変形することで、
【数26】
となり、一次関数として扱うことができる。式(13)においては、I(t)の値がCの値に近くなるほど相関係数Rは大きくなるので、フィッティング関数が式(7)の場合であるときと同様にRの値が最大となるようなCの値を求める。
【0137】
上述した、Rの値が最大となるようなCの値を求める一例においては、電流値の取得(ステップS51)、取得した電流値から過渡成分のみを抽出(ステップS52)する処理は、ステップS47およびステップS48と同様に処理し、関数を式(12)としてフィッティングを行う(ステップS53)。この場合、式(8)および式(9)におけるxi、yiを、
【数27】
とする。その他のことは、フィッティング関数に式(6)を用いた時と同様にしてRの値が最も1に近くなるCの値を探索し、得られたCの値が到達電流値Iestimate,∞となり(ステップS54)、処理は終了する(ステップS55)。
【0138】
また、この電流の到達値を得るためのアルゴリズムにおいて、電流の過渡応答の波形から電流の到達値を精度良く予測するには、データの取得数、指数移動平均フィルターのα値、指数移動平均フィルターを施さない電圧実測値のデータ数、フィッティングに用いる平滑化電圧値のデータ数、フィッティングさせる関数(指数関数か逆関数か)などを、予め適切に設定しておく必要がある。この場合、以下に述べることを考慮に入れて設定することが好ましい。
【0139】
測定する色素増感太陽電池セルが大きい場合にあっては、突入電流も大きく、時定数も大きくなるため、測定するセルの面積が大きい時ほど、指数移動平均フィルターを施さない電圧実測値のデータ数も大きな値を設定することが好ましい。
【0140】
また、電流の過渡応答を精度良く予測を行うには、測定時間そのものを長くするのが好ましいが、逆に測定時間も長くなってしまうので、測定時間と予測精度のバランスを見ながら、取得データ数をなるべく少なく設定することが好ましい。しかしながら、電気応答速度が遅い大きな過渡応答を、少ないデータを元に指数関数でフィッティングしようとしても、上手くフィッティングできない場合が多い。そのような場合は、フィッティングに指数関数ではなく逆関数を用いるように設定することが好ましい。
【0141】
また、セルの劣化による出力特性の変化は、直流抵抗性分RSの増加が挙げられる。この場合、抵抗成分が増えて過渡応答の時定数が大きくなるため、それに応じてデータの取得数を増やしたり、フィッティングに用いるデータ数を増やしたりすることが好ましい。
その他のことは第1または第2の実施の形態による太陽電池システムと同様である。
【0142】
<実施例3−1>
図15は、図13に示すアルゴリズムをもとに色素増感太陽電池においてMPPを探索した過程を示す略線図である。
図16は、図15における測定1〜2回目の部分に拡大した拡大図である。
ここで、色素増感太陽電池においてMPPを探索する過程について、図13、図15および図16を参照して詳しく説明する。
【0143】
図16に示すように、まず、1回目の処理において、セルを短絡状態(V=0)とし、短絡電流Iscを所定の時間間隔で複数回測定し、測定間隔4ms毎で50個の電流値I0〜I49を取得する。また、測定間隔および取得データ数は、測定を行う色素増感太陽電池の面積、電解液の種類などを考慮し、適宜適切な値を設定する(ステップS46)。
【0144】
次に、セルを短絡してから数十ミリ秒の間は突入電流が流れるので、測定開始時から数十ミリ秒経過後に取得された電流値として、I15〜I49を抽出する。さらに、これら電流値に指数移動平均フィルターをかけてノイズを除去する。移動平均フィルターは式(5)に電流値In=Iraw,iを代入する(ステップS47)。
【0145】
ここで、αは任意の定数、iは15〜49である。また、式(5)におけるαは、測定を行う色素増感太陽電池の面積、電解液の種類などを考慮し、適宜適切な値を設定する。
【0146】
次に、直近の30個の電流値(I19 〜I49)を取得し、式(6)をフィッティング関数として、式(7)におけるCの探索範囲を設定する。Cの探索範囲は、式(10)および式(11)より、Cの探索範囲の下限値Cminおよび上限値Cmaxは
【数28】
【数29】
となる(ステップS48)。
【0147】
電流値の測定は、電流の到達値の予測値Irch1を得る(ステップS49)ことで終了する(ステップS50)。一回の測定は200ミリ秒で終わらせる。測定の終了と同時にデータロガーなどに測定データを転送および解析し、次の測定に移る。2回目以降の発電電圧の設定値は黄金比を用いた三分探索法によって逐次決定される。
【0148】
2回目の処理においては、セルの両端にV=463mVの電圧を印加する。その後の処理は1回目の処理と同様にして、電流の到達値の予測値Irch2を得る。
【0149】
そして、図15に示すように、発電電圧の設定値を0V〜開放電圧Vocの範囲で黄金比を用いた三分探索法によって逐次決定し、これを12回行い、出力が最大となる予測出力値Pmaxと、その時の電圧値Vmaxをそれぞれ求めた。予測出力値Pmaxと、その時の電圧値Vmaxが12回分全て求まるまでの時間はトータルで約3.9秒であった。
【0150】
図17は、実施例3−1で求められた、I−V出力特性と、P−V出力特性を示す略線図である。
図17に示すように、出力が最大となる電圧Vmaxは462mVで、その時の予測出力値Pmaxは495mWであった。
【0151】
以上のように、この第3の実施の形態による太陽電池システムによれば、第1および第2の実施の形態による太陽電池システムと同様な利点に加えて、太陽電池システムの出力予測装置において、過渡応答特性を有する発電電流の電流値を逆関数または指数関数とフィッティングすることによって電流の到達値を予測し、この値を予測電流値としたので、高速に精度良く予測電流値を得ることができる。また、関数のフィッティングによって予測電流値を求める際に、予測電流値のみならず太陽電池の出力特性をも同時に得ることができる。
【0152】
<4.第4の実施の形態>
[太陽電池システム]
図18は第4の実施の形態による太陽電池システムを示したブロック図である。
図18に示すように、この第4の実施の形態による太陽電池システム10は、第1〜第3の実施の形態のいずれか、もしくは組み合わせた構成を有する太陽電池システムにおいて、MPPT制御装置6を山登り法とn分探索法とを組み合わせてMPPを探索し発電制御するものである。
【0153】
[太陽電池システムの動作]
図19は、MPPT制御装置6において、山登り法とn分探索法とを組み合わせてMPPを探索し発電電圧値を設定する処理を示したフローチャートである。ここで、n分探索法は、例えば、四分探索法、黄金比分割を用いた三分探索法などであるが、n分探索法はこれらのものに限定されるものではない。その他のことは、第1〜第3の実施の形態のいずれか、もしくは組み合わせた構成を有する。
【0154】
以下このアルゴリズムについて図19を参照して説明する。
【0155】
まず、発電電圧の増分ΔVを定義する(ステップS56)。
【0156】
次に、発電電圧の設定値にΔVを足す(ステップS57)。
次に、出力予測装置5を呼び出し、返ってきた予測出力値を前回のループにおける予測出力値と比較する(ステップS58)。
【0157】
次に、ステップS58で予測出力値が前回のループにおける予測出力値と同じ値であれば、処理は終了する。同じ値でなければ、ステップS59に進む。
【0158】
ステップS59では、予測出力値が前回のループにおける予測出力値よりも大きければ、ステップS61に進む。逆に、小さければ、ΔVを−ΔV(ステップS60)としてステップS57の処理に戻る(方向転換する。)。
【0159】
ステップS61では、ステップS59において予測出力値が前回のループにおける予測出力値を上回る場合が規定回数以上連続した場合にステップS62に進む。規定回数以上連続しない場合は、ステップS57の処理に戻る。
【0160】
ステップS62では、n分探索法、例えば、四分探索法でMPPを探索し発電電圧の設定値を決定するアルゴリズムが呼び出され、発電電圧の設定値を返した後にステップS59の処理に戻る。
【0161】
以上のように、この第4の実施の形態による太陽電池システムによれば、第1〜第3の実施の形態による太陽電池システムと同様な利点に加えて、制御のベースは山登り法にして、山登り法にて最高効率状態を探索し、n回(例えばn=3)以上同じ方向に歩いたことをトリガーにn分探索動作を行うので、n分探索法でMPPの近傍まで高速に探索し、MPPの近傍からMPPまでは山登り法で精密に探索することで、高速かつ精密にMPPを得ることができ、P−V出力特性の変化により高速に精密に追随することができる太陽電池システムとすることができる。
【0162】
<5.第5の実施の形態>
[太陽電池システム]
図20は第5の実施の形態による太陽電池システムを示したブロック図である。
図20に示すように、この第5の実施の形態による太陽電池システム10は、負荷制御装置2の後段に、二次電池や電力系統など、比較的電圧が安定である回路が接続されている場合において、負荷制御装置2の後段にシャント抵抗を直列接続し、その電圧ドロップを増幅回路とADコンバータとの組み合わせた電流検出装置である出力測定装置4によって測定したものである。その他のことは、第1〜第4の実施の形態のいずれか、もしくは組み合わせた構成を有する。
【0163】
前記の測定方法を用いると、その測定値を太陽電池の発電出力とみなすことができる。その理由は、太陽電池の発電電流ICELLと、発電電圧VCELL 、負荷制御装置2でのエネルギー変換効率η、負荷制御装置2の後段の電流IOUTと電圧VOUTとの間に、以下の関係が成り立つためである。
【数30】
【0164】
以上のように、この第5の実施の形態による太陽電池システムによれば、第1〜第4の実施の形態による太陽電池システムと同様な利点に加えて、負荷制御装置2の後段に、二次電池や電力系統など、比較的電圧が安定である回路が接続されている場合において、負荷制御装置2の後段にシャント抵抗を直列接続し、その電圧ドロップを増幅回路とADコンバータとの組み合わせによって測定する出力測定装置4を設けたので、簡易に太陽電池の発電出力を測定することができる。これにより、太陽電池そのものの発電電流を測定する必要はなくなるため、太陽電池のローサイドにもハイサイドにもシャント抵抗を直列接続する必要はなくなり、低コストおよび低消費電力の太陽電池システムを実現することができる。
【0165】
以上、実施の形態および実施例について具体的に説明したが、本開示は、上述の実施の形態および実施例に限定されるものではなく、本開示の技術思想に基づく各種の変形が可能である。
例えば、上述の実施の形態および実施例において挙げた数値、構造、構成、形状、材料などはあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれらと異なる数値、構造、構成、形状、材料などを用いても良い。
【0166】
なお、本技術は以下のような構成も取ることができる。
(1)太陽電池と、
前記太陽電池に接続され、前記太陽電池にかかる負荷を制御することが可能な負荷制御装置と、
前記太陽電池の発電出力を測定する出力測定装置と、
前記出力測定装置によって測定した出力の過渡応答を基にして出力の到達値を予測する出力予測装置とを有し、
前記到達値が最大となるように前記負荷制御装置を制御する機能を有する太陽電池システム。
(2)前記負荷制御装置を最小負荷条件から最大負荷条件までの負荷領域をn分割(n≧3)し、n個の負荷条件をそれぞれ出力予測装置で出力予測を行い、得られたn個の予測出力値から最も大きな出力値となる負荷条件を出力する処理を行い、
さらに、前記出力された負荷条件を含む負荷領域をn分割して、それぞれ出力予測を行い、得られたn個の予測出力値から最も大きな出力値となる負荷条件を出力する処理を行い、
前記処理を、前記出力された負荷条件を含む負荷領域の幅を段階的に狭めて反復することにより、出力値が最大となる負荷条件を検出し出力する発電制御システムを有する(1)に記載の太陽電池システム。
(3)前記負荷条件は、
【数31】
の比率で前記負荷領域を3分割したものである(1)または(2)に記載の太陽電池システム。
(4)前記出力予測装置は、前記出力測定装置によって測定された少なくとも4つの実測値と、少なくとも3つの定数とを用い、四則演算の組み合わせのみによって処理することで、予測出力値を出力する(1)〜(3)のいずれかに記載の太陽電池システム。
(5)前記出力予測装置は、前記出力測定装置によって一定時間間隔で測定されたm個(mは4以上の自然数)の出力値Pn-m、Pn-m+1、Pn-m+2・・・Pn-1、Pnと、m個の任意の定数A1、A2、A3、A4・・・Am-1、Amから、式
【数32】
によって求められた予測出力値Pestimate,nを出力する(1)〜(4)のいずれかに記載の太陽電池システム。
(6)前記出力予測装置における予測出力値Pestimate,nの出力は少なくとも2回行われ、出力された連続する2つの予測出力値Pestimate,nの差分の絶対値|Pestimate,n−Pestimate,n-1|が、所定の値以下になるまで、前記出力が繰り返し行われる(1)〜(5)のいずれかに記載の太陽電池システム。
(7)前記負荷制御装置の負荷条件の測定を電流値が0となる負荷条件および/または電圧値が0となる負荷条件では行わない(1)〜(6)のいずれかに記載の太陽電池システム。
(8)前記負荷制御装置は、昇圧回路または降圧回路であって、前記太陽電池の発電電圧が一定となるようにフィードバック制御されており、
前記出力測定装置は、前記負荷制御装置の後段に備えられた電流検出装置であり、前記電流検出装置で検出された電流値を出力値とする(1)〜(7)のいずれかに記載の太陽電池システム。
(9)前記太陽電池は色素増感太陽電池である(1)〜(8)のいずれかに記載の太陽電池システム。
(10)前記出力予測装置は、前記太陽電池への電圧を印加し、
前記電圧の印加から一定時間経過後において、発電電流測定装置によって連続して測定されたn個の電流値を平滑化し、
前記n個の平滑化電流を逆関数
【数33】
にフィッティングすることで予測電流値を求め、前記予測電流値と前記電圧値とを乗算した値を予測出力値として出力する(2)または(3)に記載の太陽電池システム。
(11)前記n個の平滑化電流を指数関数
【数34】
にフィッティングすることで予測電流値を求め、前記予測電流値と前記電圧値とを乗算した値を予測出力値として出力する(10)に記載の太陽電池システム。
(12)前記負荷制御装置によって一定時間毎に発電電圧の設定値を変化させ、その変化によって出力値が上昇したか下降したかを前記出力測定装置で複数回計測し、出力値の変化の値が規定回数以上連続して正または負となると、
前記負荷制御装置を最小負荷条件から最大負荷条件までの負荷領域をn分割(n≧3)し、n個の負荷条件をそれぞれ出力予測装置で出力予測を行い、得られたn個の予測出力値から最も大きな出力値となる負荷条件を出力する処理を行い、
さらに、前記出力された負荷条件を含む負荷領域をn分割して、それぞれ出力予測を行い、得られたn個の予測出力値から最も大きな出力値となる負荷条件を出力する処理を行い、
前記処理を、前記出力された負荷条件を含む負荷領域の幅を段階的に狭めて反復することにより、出力値が最大となる負荷条件を検出し出力する発電制御システムを有する(1)に記載の太陽電池システム。
(13)前記負荷条件は、
【数35】
の比率で前記負荷領域を3分割したものである(12)に記載の太陽電池システム。
(14)前記出力予測装置は、前記出力測定装置によって測定された少なくとも4つの実測値と、少なくとも3つの定数とを用い、四則演算の組み合わせのみによって処理することで、出力の予測値を出力する(12)または(13)に記載の太陽電池システム。
(15)前記出力予測装置は、前記出力測定装置によって一定時間間隔で測定されたm個(mは4以上の自然数)の出力値Pn-m、Pn-m+1、Pn-m+2・・・Pn-1、Pnと、m個の任意の定数A1、A2、・・・、Amから、式
【数36】
によって求められた予測出力値Pestimate,nを出力する(13)〜(14)のいずれかに記載の太陽電池システム。
(16)前記出力予測装置における主力予測値Pestimate,nの出力は少なくとも2回行われ、
出力された連続する2つの予測出力値Pestimate,nの差分の絶対値|Pestimate,n−Pestimate,n-1|が、所定の値以下になるまで、前記出力が繰り返し行われる(12)〜(15)のいずれかに記載の太陽電池システム。
(17)前記出力予測装置は、前記太陽電池への電圧を印加し、
前記電圧の印加から一定時間経過後において、発電電流測定装置によって連続して測定されたn個の電流値を平滑化し、
前記n個の平滑化電流を逆関数
【数37】
にフィッティングすることで予測電流値を求め、前記予測電流値と前記電圧値とを乗算した値を予測出力値として出力する(12)または(13)に記載の太陽電池システム。
(18)少なくとも1つの太陽電池システムを有し、
前記太陽電池システムが、
太陽電池と、
発電制御システムとを有し、
前記発電制御システムは、前記太陽電池に接続され前記太陽電池にかかる負荷を調節することが可能な負荷制御装置と、制御装置とからなり、
前記制御装置は、前記太陽電池の発電出力を測定する出力測定装置と、前記出力測定装置によって測定した出力の過渡応答から出力の到達値を予測する出力予測装置とを有し、前記出力の到達値が最大となるように前記負荷制御装置を調節する太陽電池システムである電子機器。
(19)少なくとも1つの太陽電池システムを有し、
前記太陽電池システムが、
太陽電池と、
前記太陽電池に接続され、前記太陽電池にかかる負荷を制御することが可能な負荷制御装置と、
前記太陽電池の発電出力を測定する出力測定装置と、
前記出力測定装置によって測定した出力の過渡応答を基にして出力の到達値を予測する出力予測装置とを有し、
前記到達値が最大となるように前記負荷制御装置を制御する機能を有する太陽電池システムである建築物。
(20)前記光電変換素子および/または前記光電変換素子モジュールのうち、少なくとも1つは2枚の透明板の間に挟持されている(19)に記載の建築物。
【符号の説明】
【0167】
1・太陽電池、2・負荷制御装置、3・制御装置、4・出力測定装置、5・出力予測装置、6・MPPT制御装置、7・発電電圧安定化装置、8・発電電圧測定装置、9・発電電流測定装置、10・太陽電池システム。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽電池と、
前記太陽電池に接続され、前記太陽電池にかかる負荷を制御することが可能な負荷制御装置と、
前記太陽電池の発電出力を測定する出力測定装置と、
前記出力測定装置によって測定した出力の過渡応答を基にして出力の到達値を予測する出力予測装置とを有し、
前記到達値が最大となるように前記負荷制御装置を制御する機能を有する太陽電池システム。
【請求項2】
前記負荷制御装置を最小負荷条件から最大負荷条件までの負荷領域をn分割(n≧3)し、n個の負荷条件をそれぞれ出力予測装置で出力予測を行い、得られたn個の予測出力値から最も大きな出力値となる負荷条件を出力する処理を行い、
さらに、前記出力された負荷条件を含む負荷領域をn分割して、それぞれ出力予測を行い、得られたn個の予測出力値から最も大きな出力値となる負荷条件を出力する処理を行い、
前記処理を、前記出力された負荷条件を含む負荷領域の幅を段階的に狭めて反復することにより、出力値が最大となる負荷条件を検出し出力する発電制御システムを有する請求項1に記載の太陽電池システム。
【請求項3】
前記負荷条件は、
【数38】
の比率で前記負荷領域を3分割したものである請求項2に記載の太陽電池システム。
【請求項4】
前記出力予測装置は、前記出力測定装置によって測定された少なくとも4つの実測値と、少なくとも3つの定数とを用い、四則演算の組み合わせのみによって処理することで、出力の予測値を出力する請求項3に記載の太陽電池システム。
【請求項5】
前記出力予測装置は、前記出力測定装置によって一定時間間隔で測定されたm個(mは4以上の自然数)の出力値Pn-m、Pn-m+1、Pn-m+2・・・Pn-1、Pnと、m個の任意の定数A1、A2、A3、A4・・・Am-1、Amから、式
【数39】
によって求められた予測出力値Pestimate,nを出力する請求項4に記載の太陽電池システム。
【請求項6】
前記出力予測装置における予測出力値Pestimate,nの出力は少なくとも2回行われ、出力された連続する2つの予測出力値Pestimate,nの差分の絶対値|Pestimate,n−Pestimate,n-1|が、所定の値以下になるまで、前記出力が繰り返し行われる請求項5に記載の太陽電池システム。
【請求項7】
前記負荷制御装置の負荷条件の測定を電流値が0となる負荷条件および/または電圧値が0となる負荷条件では行わない請求項6に記載の太陽電池システム。
【請求項8】
前記負荷制御装置は、昇圧回路または降圧回路であって、前記太陽電池の発電電圧が一定となるようにフィードバック制御されており、
前記出力測定装置は、前記負荷制御装置の後段に備えられた電流検出装置であり、前記電流検出装置で検出された電流値を出力値とする請求項7に記載の太陽電池システム。
【請求項9】
前記太陽電池は色素増感太陽電池である請求項8に記載の太陽電池システム。
【請求項10】
前記出力予測装置は、前記太陽電池への電圧を印加し、
前記電圧の印加から一定時間経過後において、発電電流測定装置によって連続して測定されたn個の電流値を平滑化し、
前記n個の平滑化電流を逆関数
【数40】
にフィッティングすることで予測電流値を求め、前記予測電流値と前記電圧値とを乗算した値を予測出力値として出力する請求項2に記載の太陽電池システム。
【請求項11】
前記n個の平滑化電流を指数関数
【数41】
にフィッティングすることで予測電流値を求め、前記予測電流値と前記電圧値とを乗算した値を予測出力値として出力する請求項10に記載の太陽電池システム。
【請求項12】
前記負荷制御装置によって一定時間毎に発電電圧の設定値を変化させ、その変化によって出力値が上昇したか下降したかを前記出力測定装置で複数回計測し、出力値の変化の値が規定回数以上連続して正または負となると、
前記負荷制御装置を最小負荷条件から最大負荷条件までの負荷領域をn分割(n≧3)し、n個の負荷条件をそれぞれ出力予測装置で出力予測を行い、得られたn個の予測出力値から最も大きな出力値となる負荷条件を出力する処理を行い、
さらに、前記出力された負荷条件を含む負荷領域をn分割して、それぞれ出力予測を行い、得られたn個の予測出力値から最も大きな出力値となる負荷条件を出力する処理を行い、
前記処理を、前記出力された負荷条件を含む負荷領域の幅を段階的に狭めて反復することにより、出力値が最大となる負荷条件を検出し出力する発電制御システムを有する請求項1に記載の太陽電池システム。
【請求項13】
前記負荷条件は、
【数42】
の比率で前記負荷領域を3分割したものである請求項12に記載の太陽電池システム。
【請求項14】
前記出力予測装置は、前記出力測定装置によって測定された少なくとも4つの実測値と、少なくとも3つの定数とを用い、四則演算の組み合わせのみによって処理することで、出力の予測値を出力する請求項13に記載の太陽電池システム。
【請求項15】
前記出力予測装置は、前記出力測定装置によって一定時間間隔で測定されたm個(mは4以上の自然数)の出力値Pn-m、Pn-m+1、Pn-m+2・・・Pn-1、Pnと、m個の任意の定数A1、A2、・・・、Amから、式
【数43】
によって求められた予測出力値Pestimate,nを出力する請求項14に記載の太陽電池システム。
【請求項16】
前記出力予測装置における主力予測値Pestimate,nの出力は少なくとも2回行われ、
出力された連続する2つの予測出力値Pestimate,nの差分の絶対値|Pestimate,n−Pestimate,n-1|が、所定の値以下になるまで、前記出力が繰り返し行われる請求項15に記載の太陽電池システム。
【請求項17】
前記出力予測装置は、前記太陽電池への電圧を印加し、
前記電圧の印加から一定時間経過後において、発電電流測定装置によって連続して測定されたn個の電流値を平滑化し、
前記n個の平滑化電流を逆関数
【数44】
にフィッティングすることで予測電流値を求め、前記予測電流値と前記電圧値とを乗算した値を予測出力値として出力する請求項13に記載の太陽電池システム。
【請求項18】
少なくとも1つの太陽電池システムを有し、
前記太陽電池システムが、
太陽電池と、
前記太陽電池に接続され、前記太陽電池にかかる負荷を制御することが可能な負荷制御装置と、
前記太陽電池の発電出力を測定する出力測定装置と、
前記出力測定装置によって測定した出力の過渡応答を基にして出力の到達値を予測する出力予測装置とを有し、
前記到達値が最大となるように前記負荷制御装置を制御する機能を有する太陽電池システムである電子機器。
【請求項19】
少なくとも1つの太陽電池システムを有し、
前記太陽電池システムが、
太陽電池と、
前記太陽電池に接続され、前記太陽電池にかかる負荷を制御することが可能な負荷制御装置と、
前記太陽電池の発電出力を測定する出力測定装置と、
前記出力測定装置によって測定した出力の過渡応答を基にして出力の到達値を予測する出力予測装置とを有し、
前記到達値が最大となるように前記負荷制御装置を制御する機能を有する太陽電池システムである建築物。
【請求項20】
前記光電変換素子および/または前記光電変換素子モジュールのうち、少なくとも1つは2枚の透明板の間に挟持されている請求項19に記載の建築物。
【請求項1】
太陽電池と、
前記太陽電池に接続され、前記太陽電池にかかる負荷を制御することが可能な負荷制御装置と、
前記太陽電池の発電出力を測定する出力測定装置と、
前記出力測定装置によって測定した出力の過渡応答を基にして出力の到達値を予測する出力予測装置とを有し、
前記到達値が最大となるように前記負荷制御装置を制御する機能を有する太陽電池システム。
【請求項2】
前記負荷制御装置を最小負荷条件から最大負荷条件までの負荷領域をn分割(n≧3)し、n個の負荷条件をそれぞれ出力予測装置で出力予測を行い、得られたn個の予測出力値から最も大きな出力値となる負荷条件を出力する処理を行い、
さらに、前記出力された負荷条件を含む負荷領域をn分割して、それぞれ出力予測を行い、得られたn個の予測出力値から最も大きな出力値となる負荷条件を出力する処理を行い、
前記処理を、前記出力された負荷条件を含む負荷領域の幅を段階的に狭めて反復することにより、出力値が最大となる負荷条件を検出し出力する発電制御システムを有する請求項1に記載の太陽電池システム。
【請求項3】
前記負荷条件は、
【数38】
の比率で前記負荷領域を3分割したものである請求項2に記載の太陽電池システム。
【請求項4】
前記出力予測装置は、前記出力測定装置によって測定された少なくとも4つの実測値と、少なくとも3つの定数とを用い、四則演算の組み合わせのみによって処理することで、出力の予測値を出力する請求項3に記載の太陽電池システム。
【請求項5】
前記出力予測装置は、前記出力測定装置によって一定時間間隔で測定されたm個(mは4以上の自然数)の出力値Pn-m、Pn-m+1、Pn-m+2・・・Pn-1、Pnと、m個の任意の定数A1、A2、A3、A4・・・Am-1、Amから、式
【数39】
によって求められた予測出力値Pestimate,nを出力する請求項4に記載の太陽電池システム。
【請求項6】
前記出力予測装置における予測出力値Pestimate,nの出力は少なくとも2回行われ、出力された連続する2つの予測出力値Pestimate,nの差分の絶対値|Pestimate,n−Pestimate,n-1|が、所定の値以下になるまで、前記出力が繰り返し行われる請求項5に記載の太陽電池システム。
【請求項7】
前記負荷制御装置の負荷条件の測定を電流値が0となる負荷条件および/または電圧値が0となる負荷条件では行わない請求項6に記載の太陽電池システム。
【請求項8】
前記負荷制御装置は、昇圧回路または降圧回路であって、前記太陽電池の発電電圧が一定となるようにフィードバック制御されており、
前記出力測定装置は、前記負荷制御装置の後段に備えられた電流検出装置であり、前記電流検出装置で検出された電流値を出力値とする請求項7に記載の太陽電池システム。
【請求項9】
前記太陽電池は色素増感太陽電池である請求項8に記載の太陽電池システム。
【請求項10】
前記出力予測装置は、前記太陽電池への電圧を印加し、
前記電圧の印加から一定時間経過後において、発電電流測定装置によって連続して測定されたn個の電流値を平滑化し、
前記n個の平滑化電流を逆関数
【数40】
にフィッティングすることで予測電流値を求め、前記予測電流値と前記電圧値とを乗算した値を予測出力値として出力する請求項2に記載の太陽電池システム。
【請求項11】
前記n個の平滑化電流を指数関数
【数41】
にフィッティングすることで予測電流値を求め、前記予測電流値と前記電圧値とを乗算した値を予測出力値として出力する請求項10に記載の太陽電池システム。
【請求項12】
前記負荷制御装置によって一定時間毎に発電電圧の設定値を変化させ、その変化によって出力値が上昇したか下降したかを前記出力測定装置で複数回計測し、出力値の変化の値が規定回数以上連続して正または負となると、
前記負荷制御装置を最小負荷条件から最大負荷条件までの負荷領域をn分割(n≧3)し、n個の負荷条件をそれぞれ出力予測装置で出力予測を行い、得られたn個の予測出力値から最も大きな出力値となる負荷条件を出力する処理を行い、
さらに、前記出力された負荷条件を含む負荷領域をn分割して、それぞれ出力予測を行い、得られたn個の予測出力値から最も大きな出力値となる負荷条件を出力する処理を行い、
前記処理を、前記出力された負荷条件を含む負荷領域の幅を段階的に狭めて反復することにより、出力値が最大となる負荷条件を検出し出力する発電制御システムを有する請求項1に記載の太陽電池システム。
【請求項13】
前記負荷条件は、
【数42】
の比率で前記負荷領域を3分割したものである請求項12に記載の太陽電池システム。
【請求項14】
前記出力予測装置は、前記出力測定装置によって測定された少なくとも4つの実測値と、少なくとも3つの定数とを用い、四則演算の組み合わせのみによって処理することで、出力の予測値を出力する請求項13に記載の太陽電池システム。
【請求項15】
前記出力予測装置は、前記出力測定装置によって一定時間間隔で測定されたm個(mは4以上の自然数)の出力値Pn-m、Pn-m+1、Pn-m+2・・・Pn-1、Pnと、m個の任意の定数A1、A2、・・・、Amから、式
【数43】
によって求められた予測出力値Pestimate,nを出力する請求項14に記載の太陽電池システム。
【請求項16】
前記出力予測装置における主力予測値Pestimate,nの出力は少なくとも2回行われ、
出力された連続する2つの予測出力値Pestimate,nの差分の絶対値|Pestimate,n−Pestimate,n-1|が、所定の値以下になるまで、前記出力が繰り返し行われる請求項15に記載の太陽電池システム。
【請求項17】
前記出力予測装置は、前記太陽電池への電圧を印加し、
前記電圧の印加から一定時間経過後において、発電電流測定装置によって連続して測定されたn個の電流値を平滑化し、
前記n個の平滑化電流を逆関数
【数44】
にフィッティングすることで予測電流値を求め、前記予測電流値と前記電圧値とを乗算した値を予測出力値として出力する請求項13に記載の太陽電池システム。
【請求項18】
少なくとも1つの太陽電池システムを有し、
前記太陽電池システムが、
太陽電池と、
前記太陽電池に接続され、前記太陽電池にかかる負荷を制御することが可能な負荷制御装置と、
前記太陽電池の発電出力を測定する出力測定装置と、
前記出力測定装置によって測定した出力の過渡応答を基にして出力の到達値を予測する出力予測装置とを有し、
前記到達値が最大となるように前記負荷制御装置を制御する機能を有する太陽電池システムである電子機器。
【請求項19】
少なくとも1つの太陽電池システムを有し、
前記太陽電池システムが、
太陽電池と、
前記太陽電池に接続され、前記太陽電池にかかる負荷を制御することが可能な負荷制御装置と、
前記太陽電池の発電出力を測定する出力測定装置と、
前記出力測定装置によって測定した出力の過渡応答を基にして出力の到達値を予測する出力予測装置とを有し、
前記到達値が最大となるように前記負荷制御装置を制御する機能を有する太陽電池システムである建築物。
【請求項20】
前記光電変換素子および/または前記光電変換素子モジュールのうち、少なくとも1つは2枚の透明板の間に挟持されている請求項19に記載の建築物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2013−97596(P2013−97596A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−240248(P2011−240248)
【出願日】平成23年11月1日(2011.11.1)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月1日(2011.11.1)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
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