説明

太陽電池モジュールの架台の基礎用金具及びその固定方法

【課題】簡便で迅速に、軽量かつ防水性に優れた太陽電池モジュール架台の基礎を構築する施工技術である、太陽電池モジュール架台の基礎用金具及びその固定方法を提供する。
【解決手段】太陽電池モジュール6を、陸屋根や折板屋根等の基盤面上に設置・固定するための太陽電池モジュール架台5の基礎部にあり、太陽電池モジュール架台5に取り付け自在な固定部材と、基盤面上に固定可能な設置底部基礎プレート部材とを一体的に備えた基礎用金具2を、接着剤3を用いて基盤面上に密着固定した後、密着固定した基礎用金具2の固定部材に太陽電池モジュール架台5を取付け、その架台5に太陽電池モジュール6を設置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビルやマンション、工場等構造物の屋根部分に太陽電池モジュールを設置する場合において、過重な基礎用コンクリート塊やコンクリートアンカーなどを用いることなく、簡便で迅速に、軽量かつ防水性に優れた架台基礎を設置する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ビルやマンション等構造物の陸屋根部分に太陽電池モジュールを設置する場合、太陽電池モジュールの形状・寸法等に基づいた安定計算上から求められる必要重量の基礎用コンクリート塊を配置し、該基礎用コンクリート塊上面に太陽電池モジュール架台基礎をアンカーボルトで固定する方法が一般的に行われている。
【0003】
従来のビルやマンション等構造物の陸屋根部分への設置方法によれば、基礎用コンクリート塊の重量が過重であり人力における作業は不可能なため、設置工事に際してはトラッククレーン等の起重機が必要となりコストアップとなることが大きな問題である。
【0004】
また、進入経路が狭隘であるなど現場へのアクセスの条件が厳しい場合はトラッククレーンが使用できず、設置工事自体が出来ない場合も発生する。
【0005】
また更には、基礎用コンクリート塊の重量が過重であるため、陸屋根表面の防水層の毀損による漏水事故の発生や、陸屋根コンクリートスラブの梁部の変形やひび割れの発生、ひいては構造物自体の耐久性への悪影響も懸念される。そのため、強度耐性のある陸屋根面の位置決めを容易にする太陽電池モジュール設置用支持装置(特許文献1参照)や、陸屋根上に簡単に構造物を設置することが可能なシート防水床(特許文献2参照)等が提案されている。
【0006】
一方、工場や倉庫、ガソリンスタンド、アパート等の折板屋根部分に太陽電池モジュールを設置する場合、タイトフレーム位置のボルトを利用し、該太陽電池モジュール架台基礎を固定する方法が一般的に行われている。
【0007】
工場や倉庫、ガソリンスタンド、アパート等の折板屋根部分への設置方法においては、太陽電池モジュール架台の基礎配置が既設の折板屋根タイトフレームボルト間隔により制限されるために基礎間隔が広くなり、風荷重による安定計算上及び架台部材の構造計算上から基礎及び架台構造部材断面を大きくする必要が生じ、コストアップの要因のひとつになっている。
【0008】
また、既設の折板屋根タイトフレームボルトを一旦撤去し、再度架台基礎固定用の専用ボルトを設置することになるため、漏水の原因になることが問題となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−274591号公報
【特許文献2】特開2010−236177号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の問題点を解消し、簡便で迅速に、軽量かつ防水性に優れた太陽電池モジュールの架台の基礎を構築する施工技術、即ち、太陽電池モジュールの架台の基礎用金具及びその固定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明者等は鋭意検討を行い、従来の過重な基礎用コンクリート塊を用いて陸屋根上に太陽電池モジュール架台基礎を構築する方法や、既設のタイトフレームボルトを用いて折板屋根上に太陽電池モジュール架台基礎を構築する方法に対して、太陽電池システムの安定計算上から求められる最適な形状寸法の軽量な基礎用金具を提案するに至った。そして、この基礎用金具を陸屋根上及び折板屋根上に最適配置で、接着剤にて迅速かつ確実に接着・固定することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
【0012】
即ち、本発明は、太陽電池モジュールを基盤面上に設置・固定するための太陽電池モジュール架台の基礎部にあり、該太陽電池モジュール架台に取り付け自在な固定部材と、該基盤面上に固定可能な設置底部基礎プレート部材とを一体的に備えたことを特徴とする基礎用金具を提供する。
上記の基礎用金具においては、固定部材が設置底部基礎プレート部材の略中心位置に設置されてなり、該設置底部基礎プレート部材には接着剤の充填を確認するための貫通孔が設けられ、該貫通孔は固定部材と設置底部基礎プレート部材の辺の中心とを結ぶ線で分割して規定される4つの象限のそれぞれに配置されていることが好ましく、貫通孔を通して脱泡・脱気できるため基盤面と接着剤との密着性が良好になり接着不良を防止できる。
また基礎用金具は、固定部材が長ボルトとナットから構成されてなり、設置底部基礎プレート部材にナットが溶接され、この溶接されたナットに長ボルトが螺着した構造であることにより、プレート部材を基盤面に接着した後、固定部材を介して太陽電池モジュール架台を簡単かつ迅速に取り付けることができる。
【0013】
また本発明は、上記の基礎用金具と、基盤面との固定手段として接着剤を用い、該基礎用金具の設置底部基礎プレート部材の裏面を、基盤面上に密着させて固定することを特徴とする太陽電池モジュール架台の基礎用金具の固定方法を提供する。好ましい基盤面は、陸屋根面または折板屋根面である。
【0014】
また更に本発明は、上記の基礎用金具を、固定手段として接着剤を用いて、基盤面上に固定し、該基礎用金具の固定部材を介して太陽電池モジュール架台を取り付け、取り付けた太陽電池モジュール架台上に太陽電池モジュールを設置することを特徴とする太陽電池モジュールの設置方法を提供する。
【0015】
本発明においては、使用する接着剤として、−10℃〜+35℃程度の常温下で30分から60分程度の養生で硬化反応が終了し、下地との強固な接着強度を発現する弾性接着剤を用いることにより、冬期や寒冷地施工などの低温時においても、簡便で迅速、軽量かつ防水性に優れた太陽電池モジュール架台基礎を構築することが可能であることも大きな特徴である。
【発明の効果】
【0016】
本発明による太陽電池モジュールの架台基礎設置作業は、使用する材料が基礎用金具及び接着剤でかつ少量であり、重量としても基礎1箇所分当たり2kg程度かそれ以下であり人力のみでの運搬が可能となる。したがって、トラッククレーン等の起重機が不要で従来の如く過重な基礎用コンクリート塊を用いる方法に比べて大幅にコスト低減が可能である。
【0017】
また人力のみでの運搬が可能であることにより、進入経路が狭隘であるなど現場へのアクセスの条件が厳しい場所での太陽電池モジュールの設置が可能となり、市場拡大が見込まれる。
【0018】
更に本発明においては、接着剤の硬化反応に要する時間が−10℃〜+35℃の常温条件下で約30分〜60分程度と短く、太陽電池モジュールの架台基礎設置作業を短時間かつ低コストで行うことが可能となる。
【0019】
本発明において接着剤として用いるラジカル重合硬化型の樹脂系接着剤は、本来用途である接着剤への適用のほか、高速道路や新幹線など鉄道高架橋のコンクリート床板や陸屋根・ベランダなど建築構造物の防水剤として使用されている材料であるため、太陽電池モジュールの架台基礎設置などの陸屋根上の同様工事において従来懸案となっている防水性の確保に関しても確実に行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る基礎用金具の一例を示す図面であり、(a)は平面図、(b)は側面図。
【図2】本発明に係る基礎用金具の一例を示す図面であり、(a)は平面図、(b)は側面図。
【図3】本発明に係る太陽電池モジュール架台の基礎用金具の固定方法により、架台を取り付けた一例を示す図面であり、(a)は正面図、(b)は側面図、(c)はA部の拡大図、(d)はB部の拡大図。
【図4】本発明に係る太陽電池モジュール架台の基礎用金具の固定方法により、陸屋根に設置した太陽光発電システムの全体構成の一例を示す図面であり、(a)は該太陽光発電システムの平面図、(b)及び(c)はその側面図。
【図5】本発明に係る基礎用金具の詳細図であり、(a)は側面から見た状態を示す図、(b)は上方から見た状態を示す図。
【図6】本発明に係る基礎用金具が、コンクリート製陸屋根に接着・固定された状態を示す断面図。
【図7】本発明に係る太陽電池モジュール架台の基礎用金具の固定方法により、折板屋根に設置した太陽電池モジュールの架台基礎の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の基礎用金具は、太陽電池モジュールを基盤面上に設置・固定するための太陽電池モジュール架台の基礎部にあり、該太陽電池モジュール架台に取り付け自在な固定部材(以下、「固定部材」と称する。)と、該基盤面に固定可能な設置底部基礎プレート部材(以下、「プレート部材」と称する。)と、を一体的に備えている。
【0022】
基礎用金具の素材としては、鉄、アルミ、ステンレスなどが可能であるが、強度とコスト的な面から、メッキ加工した鉄が好ましい。
【0023】
固定部材及びプレート部材の大きさは、特に制限されるものではなく、風による安定計算により必要な接着面積を計算し、設計を行い、決定することが望ましい。また、プレート部材の形状は、基盤面上に密着させて固定可能な形状であればよいため、特に限定されるものではない。
例えば、基盤面が陸屋根面である場合には、4辺形の平面状のプレート部材(後述の図6参照)とすれば、簡素な構造であるため経済性や作業性が良く、基盤面との接着性や施工後の耐久性にも優れたものとなる。
また、基盤面が折板屋根面である場合には、折板屋根の形状に合わせて、四辺形のプレート部材を頂部とその両側に形成した平面形状の脚体とから構成する(後述の図7参照)ことで、基盤面との接着性を向上させることができる。
【0024】
図1は、1段置きタイプの太陽電池モジュール用の基礎用金具の一例を示す平面図と側面図であり、基礎用金具2は、□150mm×150mm、厚さ3.2mmのプレート部材2aと、長ボルト(φ12mm×L100mm)とナットを組み合せた固定部材2bとを、金属溶接により一体的に構成したものである(2cは溶接部)。プレート部材2aの中心位置には、全ネジ長ボルトが下向きに溶接固定されている。溶接はボルト全周溶接とするのが好ましい。これらに溶融亜鉛メッキを施し、耐腐食性を向上させたものを用いる。
【0025】
図2は、複数段タイプの太陽電池モジュール用の基礎用金具の一例を示す平面図と側面図であり、基礎用金具2´は、□250mm×250mm、厚さ4.5mmのプレート部材2a´と、長ボルト(φ16mm×L100mm)とナットを組み合せた固定部材2b´とを、上記の1段置きタイプの太陽電池モジュール用の基礎用金具と同様の方法にて作製したものである。
【0026】
図1及び図2に示すように、本発明の基礎用金具2(2´)では、プレート部材2a(2a´)の略中心位置に固定部材2b(2b´)が設置されてなり、該プレート部材2a(2a´)には、固定部材2b(2b´)を挟んで対称の位置に、接着剤の充填を確認するための大小の貫通孔21,22(21´,22´)が計4個設けられ、比較的小さい貫通孔(φ10mm)21(21´)と比較的大きい貫通孔(φ14mm)22(22´)が、固定部材2b(2b´)とプレート部材2a(2a´)の辺の中心を結ぶ線で分割して規定される4つの象限のそれぞれに配置されている。比較的小さい貫通孔は第1及び第3象限に、比較的大きい貫通孔は第2及び第4象限に設けられている。
【0027】
この貫通孔(以下、「接着剤充填確認孔」という。)は、下地となる基盤面と基礎用金具の底面との間に気泡などが絡み充填不良が発生するのを防止し、接着剤を基盤面に完全に密着させると共に、一液型の湿気硬化型接着剤を用いる場合などにおいて、空気と触れる部分を出来るだけ確保し、硬化遅延や接着不良を防止するためのものである。
【0028】
さらに、比較的大きい接着剤充填確認孔は、基礎用金具を設置するのに十分な接着強度を有していない下地(たとえは、セメント分の少ない(貧配合)シンダーコンクリート等)の場合に、基礎用金具を補完するためのアンカーボルト挿入孔として使用するためのものである。あるいは、基盤面が傾斜屋根で、接着剤の硬化までに基礎用金具を仮に固定する必要がある場合にも、アンカーボルト挿入孔として使用することができる。
【0029】
図3は、本発明の固定方法により、基盤面上に太陽電池モジュール架台5を設置した状態を示す正面図と側面図である。通常のコンクリートブロック基礎では耐震性の低下や耐荷力上の低下が懸念され、また、アンカー基礎の場合には、構造物本体にアンカー孔を穿孔することによる耐荷耐久性の低下などの課題があるが、本発明の固定方法では、軽量かつ簡便なプレート部材を使用するため、構造物の耐震性や耐荷力を損なうことなく、また構造物に影響を与えることなく短時間に太陽電池モジュールの基礎を構築できる。
【0030】
次に、本発明の固定方法で用いる接着剤を説明する。
本発明では、基礎用金具の設置作業、引いては太陽電池モジュールの架台基礎設置作業を短時間で行うことができるよう、接着剤の硬化反応に要する時間が−10℃〜+35℃の常温条件下で約30分〜60分程度と短い接着剤が好適に用いられる。常温での硬化時間が60分を越えると、次工程の開始時間が遅れることとなり、したがって作業完了に要する全体時間が長くなり、ひいては一日の作業時間内に工事が完了しないことととなり、コストアップの大きな要因となる。特に好ましい接着剤は、弾性接着剤である。弾性接着剤は、基盤面が温度や圧力によって変形した場合でも、基盤面への追随性に優れているため、接着耐久性にも優れている。
ここで、「弾性接着剤」とは、−10℃から+35℃の温度範囲において、接着剤の硬化物の弾性率がゴム状領域にある接着剤のことを言う。
【0031】
好ましい接着剤の具体例としては、(i)メタクリレート樹脂又は/及びアクリレート樹脂の未硬化物と硬化剤とを主剤とする液状又はペースト状の接着剤、又は、(ii)メタクリレート樹脂又は/及びアクリレート樹脂の未硬化物と硬化剤とフィラー、補強材繊維、着色顔料のすべて又はそのいずれか1種以上とを主剤とする液状又はペースト状の接着剤を挙げることができる。かかる接着剤は、例えば特開平5−255910号公報や特開平5−222705号公報等に記載された配合物等を用いることができる。この接着剤は、硬化時間が30分程度と短く、低温硬化性に優れるという特性を有しているため、冬期の施工や工期に余裕に無いセメント系下地への施工に好適である。市販品としては、株式会社菱晃製の「ドーロガード」等がある。前記(i)の接着剤はプライマーとして用いることもでき、市販品としては、株式会社菱晃製の「パーミタイト」等がある。
【0032】
好ましい接着剤の他の具体例として、エポキシ(メタ)アクリレート樹脂、ポリエステル(メタ)アクリレート樹脂、ウレタン(メタ)アクリレート樹脂から選択される少なくとも1種以上のビニルエステル樹脂と、アクリル酸エステルやメタクリル酸エステル等のアクリル系の重合性不飽和単量体を主剤とし、それにフィラー、補強材繊維、着色顔料のすべて又はそのいずれか1種以上を添加した、液状又はペースト状のラジカル重合硬化型の接着剤を挙げることができる。この接着剤は、上記メタクリレート樹脂又は/及びアクリレート樹脂の持つ特性に加えて、弾性性能と靭性に優れた特性を有しているため、スレートなど薄板構造の撓みやすいフレキシブルなセメント系下地での施工に好適である。市販品としては、DIC株式会社製の「ディオバー」等がある。
【0033】
好ましい接着剤の他の具体例として、ジメチルポリシロキサン等のオルガノポリシロキサンを主成分とするシリコーン樹脂系の接着剤や、アクリル変成シリコーン樹脂、エポキシ変成シリコーン樹脂等を主成分とする変成シリコーン樹脂系の接着剤を挙げることができる。当該接着剤は、特に接着性に優れると共に、疲労度が小さく疲労耐久性に優れているため、セメント系や金属系の下地での施工に好適である。
変成シリコーン樹脂系の接着剤は、(メタ)アクリル系ポリマー、ポリエーテル系ポリマーあるいはポリイソブチレンなどを主鎖とする接着剤である。(メタ)アクリル系ポリマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート;ベンジル(メタ)アクリレートなどのアラルキル(メタ)アクリレート;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートや3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートなどの単独もしくは2種以上の共重合体、あるいは(メタ)アクリル系以外のビニルモノマーとの共重合体が挙げられる。ポリエーテル系ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリイソブチレンオキサイドやこれらの共重合体が挙げられる。
【0034】
上記の接着剤のなかでもより好ましい接着剤は、作業性及び疲労耐久性に優れている点より、加水分解性のケイ素基を有する、一液型のシリコーン樹脂系の接着剤や変成シリコーン樹脂系の接着剤に、シリカ等の増粘剤、酸化チタン等の着色顔料、シランカップリング剤等の接着向上剤のすべて又はそのいずれか1種以上を添加した、シリコーン樹脂系の弾性接着剤である。これらの添加剤を添加することで、接着剤の流動性や接着力を調整したり、基盤面に合った色を選択したりすることができる。
加水分解性のケイ素基としては、アルコキシシリル基、オキシムシリル基、ハロゲン化シリル基、アルケニルオキシシリル基、アシロキシシリル基、アミノオキシシリル基などが挙げられる。
上記の接着剤のなかで最も好ましいのは、一液型の非変成の100%シリコーン樹脂系の弾性接着剤である。この弾性接着剤は、経済性が良好で、劣化し難く耐久性に優れ、かつ耐油性や耐酸性、耐アルカリ性、耐水性などに特に優れているため、セメント系や金属系などのほか木材系の下地での施工に好適である。なかでも、オキシムシリル基を含有する一液型の非変成の100%シリコーン樹脂系の弾性接着剤は、硬化時に酸を放出しないため金属を腐食させることがない。市販品としては、株式会社エムテック製の「GP CS−100」等がある。
【0035】
以下に、接着剤としてラジカル重合硬化型の弾性接着剤を用いた場合における、本発明の具体的な施工手順を説明する。
本発明の基礎用金具を固定する基盤面としては、陸屋根面、折板屋根面、傾斜屋根面があるが、以下に説明する施工手順は全ての基盤面に共通である。
【0036】
まず下地調整工程として、該下地上に付着しているごみやほこりを除去し清浄で乾燥した基礎接着下地面を作製する。下地表層部に浮きやひび割れなどの脆弱部がある場合は、ディスクサンダー等の工具にて研磨・除去を行い、強固な下地面とする。
【0037】
次に、接着剤塗布工程として、下地面と基礎用金具との接着性を向上させるために、下地表面及び基礎用金具下面(即ちプレート部材下面)に、プライマー(例えば、常温硬化型のメタクリル樹脂プライマー「パーミタイト」(株)菱晃製等)を塗布する。プライマーの塗布が完了しプライマーの硬化完了を確認した後、下地面と基礎用金具の接着を行う。
【0038】
下地面と基礎用金具の接着は、まず樹脂の未硬化物に硬化剤を添加・混合したものを、前記下地調整及びプライマー塗布済み下地面に、厚さ1mm〜2mm程度で均一に塗覆する。その後直ちに、プライマー塗布済みの基礎用金具を、接着剤を塗覆した下地面に仮置きし、両手で基礎用金具上部の固定を保持しながら、押し付けるようにして慎重に所定位置に固定させる。基礎用金具の固定位置は、事前に決定された太陽電池モジュールの配列設計に基づき行われた、当該基礎設置位置の十字状の墨位置に合わせて行う。
【0039】
接着剤は、−10℃〜+35℃での常温条件下で約30分〜60分程度で硬化し、作業完了となる。以上で本発明による太陽電池モジュールの架台基礎の設置が完了する。
【0040】
そして、設置完了後の太陽電池モジュール架台上に太陽電池パネル等を設置することにより、太陽電池モジュールの設置が可能となる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例および比較例を用いて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例にのみ限定されるものではない。
【0042】
[実施例1]
実際の現場施工に先立ち、本工法に用いる接着剤の疲労耐久性に関して、確認試験を行った事例について、以下に詳述する。
【0043】
試験は、(1)常温硬化型メタクリル(MMA)樹脂系接着剤、(2)一液型の非変成の100%シリコーン樹脂系弾性接着剤の2種類について、自然風による繰り返し荷重に対して、長期間(25年間)の疲労耐久性を確認することを目的に行った。
【0044】
試験用供試体としては、JIS A5371に規定する舗装用コンクリート平板上に、常温硬化型のメタクリル(MMA)樹脂プライマー(パーミタイト:(株)菱晃製)を塗布し、当該プライマーの硬化完了後、上記2種類の接着剤により試験用冶具(□100mm×100mm、t=4.5mm)を固定した。
【0045】
パネル段数2段、設置角度20度の太陽光発電モジュールを想定し、東京都区内での台風時の風荷重条件に基づく計算より、疲労耐久性試験の荷重条件として、接着基礎1箇所あたり2,000Nの引っ張り荷重と押し込み荷重を繰り返し負荷する設定とした。負荷の繰り返し速度としては3Hzと設定し、想定期間(25年間)での負荷の繰り返しの回数としては、年6回台風に遭遇し、各8時間強風状態が持続し、10分に1回の突風が発生するとして14,400回と設定した。
【0046】
試験装置としては、INSTRON社製のElectroPlus E10000(容量:10KN、荷重制御方式:片振り正弦波、引張・圧縮荷重)を使用した。
【0047】
疲労耐久性試験結果は以下の通りである(表1参照)。試験結果より、MMA樹脂系接着剤及び一液型の非変成の100%シリコーン樹脂系弾性接着剤ともに、25年間の風荷重を想定した繰り返し荷重に対して、十分耐久性のあることが確認された。
【0048】
【表1】

【0049】
[実施例2]
本接着基礎の最終的な破壊荷重を確認するため、上記疲労耐久性試験後の供試体を用いて引っ張り破壊試験を行った。
【0050】
試験機としては、(株)東京衡機製造所製のアムスラー式油圧万能試験機(容量300KN)を使用し、荷重速度50mm/分にて破壊試験を行った。
【0051】
引っ張り破壊試験結果は以下の通りである(表2参照)。試験結果より、いずれの接着剤においても、風荷重の計算上より想定される引っ張り荷重あるいは押し込み荷重2,000Nに対して、3.5倍から6倍程度の十分な接着耐力を有していることが確認された。
【0052】
【表2】

【0053】
[実施例3]
以下に、本発明の実施例として、3階建てオフィスビル屋上に太陽電池モジュールを設置した事例について、図面に基づいて説明する。なお、説明文本文中の各番号は、図面中の番号と対応する。当該オフィスビル屋上は非歩行型で、積載制限荷重は1m当り30kgで設計されており、過重な基礎用コンクリート塊による従来方式の基礎設置は不可能であった。接着剤は、一液型の非変成の100%シリコーン樹脂系の弾性接着剤を使用した。
【0054】
図4は、該オフィスビル陸屋根のコンクリート下地に設置された太陽電池モジュールの全体構成の概略図、図5は、本発明に関わる太陽電池モジュール架台の固定に用いる基礎用金具及びその固定方法の詳細図である。
【0055】
図4の如く、太陽電池モジュール6は、陸屋根下地コンクリート1に対して所定の傾斜角20°で架台5にボルトで取り付けられている。なお、太陽電池モジュール6及び架台5は、当該地域に応じた風速や積雪、地震等の荷重条件により各部材断面や構造が決定されている。
【0056】
さらに、架台5は基礎用金具2を介して接着剤3により陸屋根下地コンクリート1に接着・固定されている。
【0057】
次に、本発明に係る基礎用金具2及びその構造について、図4及び図5を用いて説明を行う。図5は基礎用金具本体の詳細図であり、本基礎用金具2は、架台に固定するためのねじ切り加工が施された固定部材2bと、陸屋根下地コンクリート1に接着剤3にて固定されるプレート部材2aとから構成される。
【0058】
プレート部材2aの略中心に固定部材2bが設けられ、該固定部材2bは、そのナット部分がプレート部材2aに溶接されることによって、両者が一体になっている。
【0059】
プレート部材2aは、4箇所に接着剤充填確認孔7(21、22)が設けられているので、基礎用金具2のプレート部材2aの下面と、陸屋根下地コンクリート1表面に塗布した接着剤3の硬化状況を確認しながら、接着することが可能であり、接着剤が硬化した後は、接着剤充填確認孔22にアンカーボルト4を打ち込み設置作業を終了する。
【0060】
基礎用金具2を陸屋根下地コンクリート1に接着・固定した状態を図6に示すように、プレート部材2aは、接着剤3により陸屋根下地コンクリート1に接着・固定されている。プレート部材2aの接着は、現場調査を経て決定された太陽光発電システムの据付配置に従って決定した墨位置に正確に接着・固定される。
【0061】
上記の弾性接着剤により接着・固定した基礎用金具は、下地コンクリートに対して高い接着性を示し、繰り返し荷重に対して耐久性を有していた。
【0062】
[実施例4]
図7は、工場の折板屋根8の亜鉛鉄板下地に対する、太陽電池モジュール架台の固定に用いる、折板屋根用の基礎用金具9の固定方法を示す詳細図である。接着剤は、一液型の非変成の100%シリコーン樹脂系の弾性接着剤を使用した。
【0063】
本基礎用金具9は、架台5に固定するためのねじ切り加工が施された固定部材9bと、折板屋根8上に接着剤にて固定されるプレート部材9aとから構成され、溶接によって、両者が一体的に構成されている。プレート部材9aは、頂部91とその両側に形成した脚体92とからなり、折板屋根8の台形形状に合わせて設計されている。なお、図7では図示を省略しているが、脚体92には、図5に示したプレート部材2a同様、各脚体の各面のそれぞれ4箇所に接着剤充填確認孔が設けられている。
【0064】
折板屋根用の基礎用金具9は、折板屋根8の台形形状の適宜な位置に設置できるので、折板屋根のタイトフレームボルトの位置に関係なく、現場調査を経て決定された太陽光発電システムの据付配置に従って決定した墨だし線を基準にして、墨位置に正確に接着・固定することができる。
【0065】
各プレート部材9aの内面の接着剤施工部10、及び折板屋根8の下地に接着剤を塗布し、塗布した接着剤を介して、折板屋根8の下地に折板屋根用の基礎用金具9を接着・固定する。
【0066】
上記の弾性接着剤により接着・固定した基礎用金具についても、下地亜鉛鉄板に対して高い接着性を示し、繰り返し荷重に対して耐久性を有していた。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、ビルやマンション、工場等構造物の屋根部分に、簡便で迅速に、軽量かつ防水性に優れた架台基礎を構築する施工技術を提供するものであり、その利用価値は極めて大きい。
【符号の説明】
【0068】
1 陸屋根下地コンクリート
2 陸屋根用の基礎用金具
2a 設置底部基礎プレート部材
2b 固定部材
2c 溶接部
21、22、21´、22´ 接着剤充填確認孔
3 接着剤
4 アンカーボルト
5 架台
6 太陽電池モジュール
7 接着剤充填確認孔
8 折板屋根
9 折板屋根用の基礎用金具
9a 設置底部基礎プレート部材
9b 固定部材
91 頂部
92 脚体
10 接着剤施工部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽電池モジュールを基盤面上に設置・固定するための太陽電池モジュール架台の基礎部にあり、該太陽電池モジュール架台に取り付け自在な固定部材と、該基盤面上に固定可能な設置底部基礎プレート部材とを一体的に備えたことを特徴とする基礎用金具。
【請求項2】
固定部材が設置底部基礎プレート部材の略中心位置に設置されてなり、該設置底部基礎プレート部材には接着剤の充填を確認するための貫通孔が設けられ、該貫通孔は固定部材と設置底部基礎プレート部材の辺の中心とを結ぶ線で分割して規定される4つの象限のそれぞれに配置されていることを特徴とする請求項1に記載の基礎用金具。
【請求項3】
固定部材が長ボルトとナットから構成されてなり、設置底部基礎プレート部材にナットが溶接され、この溶接されたナットに長ボルトが螺着した構造であることを特徴とする請求項1または2に記載の基礎用金具。
【請求項4】
基盤面が陸屋根面であり、設置底部基礎プレート部材が平面状に形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の基礎用金具。
【請求項5】
基盤面が折板屋根面であり、設置底部基礎プレート部材が頂部とその両側に形成した平面形状の脚体とから構成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の基礎用金具。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の基礎用金具と、基盤面との固定手段として接着剤を用い、該基礎用金具の設置底部基礎プレート部材の裏面を、基盤面上に密着させて固定することを特徴とする太陽電池モジュール架台の基礎用金具の固定方法。
【請求項7】
接着剤が、弾性接着剤であることを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載の太陽電池モジュール架台の基礎用金具の固定方法。
【請求項8】
接着剤が、(i)メタクリレート樹脂又は/及びアクリレート樹脂の未硬化物と硬化剤とを主剤とする、あるいは、(ii)メタクリレート樹脂又は/及びアクリレート樹脂の未硬化物と硬化剤とフィラー、補強材繊維、着色顔料のすべて又はそのいずれか1種以上とを主剤とする、液状又はペースト状の接着剤であることを特徴とする請求項6又は7に記載の太陽電池モジュール架台の基礎用金具の固定方法。
【請求項9】
接着剤が、エポキシ(メタ)アクリレート樹脂、ポリエステル(メタ)アクリレート樹脂、ウレタン(メタ)アクリレート樹脂から選択される少なくとも1種以上のビニルエステル樹脂と、重合性不飽和単量体を主剤とし、それにフィラー、補強材繊維、着色顔料のすべて又はそのいずれか1種以上を添加した、液状又はペースト状のラジカル重合硬化型の接着剤であることを特徴とする請求項6又は7に記載の太陽電池モジュール架台の基礎用金具の固定方法。
【請求項10】
接着剤が、シリコーン樹脂系の弾性接着剤であることを特徴とする請求項6又は7に記載の太陽電池モジュール架台の基礎用金具の固定方法。
【請求項11】
接着剤が、加水分解性のケイ素基を含有するポリアルキルシロキサンを主成分とし、それに増粘剤、着色顔料、接着向上剤のすべて又はそのいずれか1種以上を添加した、非変成のシリコーン樹脂系の弾性接着剤であることを特徴とする請求項6、7、10のいずれかに記載の太陽電池モジュール架台の基礎用金具の固定方法。
【請求項12】
請求項1〜5のいずれかに記載の基礎用金具を、固定手段として接着剤を用いて、基盤面上に固定し、該基礎用金具の固定部材を介して太陽電池モジュール架台を取り付け、取り付けた太陽電池モジュール架台上に太陽電池モジュールを設置することを特徴とする太陽電池モジュールの設置方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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