説明

太陽電池モジュール封止材及びその製造方法

【課題】ポリエチレン系の架橋済封止材を提供する。
【解決手段】密度が0.900以下の低密度ポリエチレンと、架橋剤と、多官能ビニル系モノマー及び/又は多官能エポキシ系モノマーからなる架橋助剤とを含有する組成物を成形し、その後に所定の架橋処理を行なうことでゲル分率を2%以上80%以下にする。オレフィン系の封止材でありながら既に架橋しているので、太陽電池モジュール化の際に別途の架橋工程が不要であるとともに、モジュール化の際の流動も抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は太陽電池モジュール用封止材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題に対する意識の高まりから、クリーンなエネルギー源としての太陽電池が注目されている。現在、種々の形態からなる太陽電池モジュールが開発され、提案されている。一般に太陽電池モジュールは、透明前面基板と太陽電池素子と裏面保護シートとが、封止材を介して積層された構成である。
【0003】
太陽電池モジュール等を構成する各部材は、常時、強い紫外線、熱線、風雨等といった過酷な環境に曝されることになる。このため、太陽電池モジュールを構成する各部材は、これらの条件において、長期間に亘る耐久性を備える必要がある。
【0004】
太陽電池モジュール用封止材に、そのような耐久性を備えさせるための封止材組成物の構成として、EVA(エチレン−酢酸ビニル共重合体)をベース樹脂とし、架橋剤と、架橋助剤とを含有する構成が知られている(特許文献1参照)。この場合、上記の組成物は、押し出し成形時に架橋反応が進むと、成形時の負荷が過大となり生産性が低下、或いは成形不能となってしまうため、一般的に50℃〜90℃の低温加熱による押し出しで未架橋のまま成形される。そして、通常は成形後に応力緩和のためのアニール処理を経て、真空加熱ラミネートによるモジュール化工程又はその後の加熱工程によって架橋される。
【0005】
一方、EVAの欠点である水蒸気バリア性の低下という問題を解決するため、アルコキシシランを共重合成分として含有する変性エチレン系樹脂による封止材も知られている。また、このような変性エチレン系樹脂に架橋剤を配合して、モジュール化工程又はその後の加熱工程によって架橋した封止材も知られている(特許文献2、3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−135200号公報
【特許文献2】特開2002−235048号公報
【特許文献3】特開2009−10277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1のようなEVAベースの封止材は架橋が必須であるが、この架橋は一般的にはモジュール化と同時、或いは、その後の架橋工程で行う。このためモジュール化前の封止材単独の状態では架橋されていない(以下、「未架橋封止材」ともいう)。モジュール化前の封止材単独の状態で架橋させてしまうと、その時点で流動性を失うためにモジュールの凹凸にうまく埋まらず封止材としての使用ができなくなるためである。したがって、EVA系封止材においては、モジュール化前の封止材単独の状態で架橋済の封止材(以下、「架橋済封止材」ともいう)というものが存在しない。この点、特許文献3のポリエチレン系封止材においても同様である。
【0008】
このように、従来、架橋済封止材は、EVA系、ポリエチレン系のいずれにおいても存在していない。モジュール化工程又はその後の加熱工程による架橋工程がなければ、架橋条件を考慮する必要がなくなる分、モジュール化工程における真空加熱ラミネートの条件の自由度が高くなり、また、モジュール化工程の時間も短縮でき生産性も大幅に向上する。特にポリエチレン系はEVA系に比べて架橋速度が遅いので、架橋済封止材が使用できればモジュール化工程の短縮に大幅に寄与することになる。
【0009】
更に、ポリエチレン系の場合にはベース樹脂のMFRの幅が広く選択できるため、生産性の観点からは高い流動性、即ち高いMFRのものが好ましい一方、未架橋封止材を真空加熱ラミネートすると流動してしまい封止材が流れ出して膜厚を一定に保つのが困難になる。このため従来はMFRを低くせざるを得ないという問題があるが、架橋済封止材があれば、架橋によって流動抑止できるのでこの問題も解消できる。
【0010】
このように、架橋済封止材、なかでもポリエチレン系の架橋済封止材には種々の長所があるものの、そのような封止材は存在しないのが現実であった。本発明は以上の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、ポリエチレン系の架橋済封止材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、低密度ポリエチレンをベース樹脂とし、これに架橋剤と架橋助剤とを含有させて低温で溶融成形させた後、モジュール化前に、あらかじめ架橋処理を行い、これによって、所定範囲のゲル分率とすることにより、ポリエチレン系の架橋済封止材を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0012】
(1) 密度0.900g/cm以下の低密度ポリエチレンと、炭素−炭素二重結合及び/又はエポキシ基を有する多官能モノマーである架橋助剤と、を含有し、ゲル分率が2%以上80%以下である太陽電池モジュール用封止材。
【0013】
(2) (1)に記載の太陽電池モジュール用封止材を備える太陽電池モジュール。
【0014】
(3) 密度0.900g/cm以下、低密度ポリエチレンと、架橋剤と、架橋助剤と、を含有する封止材組成物を溶融成形して未架橋の封止材シートを得るシート化工程と、前記未架橋の封止材シートを、ゲル分率が2%以上80%以下となるように架橋処理する架橋工程と、を備える太陽電池モジュール用封止材の製造方法。
【0015】
(4) 前記低密度ポリエチレンは、JIS K6922−2により測定した190℃、荷重2.16kgにおけるMFRが0.5g/10min以上40.0g/10min以下である(3)に記載の太陽電池モジュール用封止材の製造方法。
【0016】
(5) 前記架橋処理が加熱処理である(3)から(4)のいずれかに記載の太陽電池モジュール用封止材の製造方法。
【0017】
(6) 前記架橋剤の1分間半減期温度が185℃以上230℃以下である(5)に記載の太陽電池モジュール用封止材の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明の太陽電池モジュール用封止材及びその製造方法によれば、太陽電池モジュール化の際に別途の架橋工程が不要であるとともに、モジュール化の際の流動も抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の封止材を用いた太陽電池モジュールについて、その層構成の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る太陽電池モジュール用封止材組成物(以下、単に封止材組成物ともいう)、太陽電池モジュール用封止材(以下、単に封止材ともいう)及び太陽電池モジュールの順に詳細に説明する。
【0021】
<封止材組成物>
本発明に用いられる封止材組成物は、密度が0.900以下の低密度ポリエチレンと、架橋剤と、架橋助剤と、を必須成分として含有する。以下、上記必須成分について説明した後、その他の樹脂、その他の成分について説明する。
【0022】
[低密度ポリエチレン]
本発明においては密度が0.900以下の低密度ポリエチレン(LDPE)、好ましくは直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)を用いる。直鎖低密度ポリエチレンはエチレンとα−オレフィンとの共重合体であり、本発明においては、その密度が0.900g/cm以下の範囲内、好ましくは0.890g/cm以下の範囲内、より好ましくは0.870〜0.885g/cmの範囲である。この範囲であれば、シート加工性を維持しつつ良好な柔軟性と透明性を付与することができる。
【0023】
本発明においてはメタロセン系直鎖低密度ポリエチレンを用いることが好ましい。メタロセン系直鎖低密度ポリエチレンは、シングルサイト触媒であるメタロセン触媒を用いて合成されるものである。このようなポリエチレンは、側鎖の分岐が少なく、コモノマーの分布が均一である。このため、分子量分布が狭く、上記のような超低密度にすることが可能であり封止材に対して柔軟性を付与できる。柔軟性が付与される結果、封止材と透明前面基板との密着性、封止材と裏面保護シートとの密着性等の封止材と基材との密着性が高まる。
【0024】
また、結晶性分布が狭く、結晶サイズが揃っているので、結晶サイズの大きいものが存在しないばかりでなく、低密度であるために結晶性自体が低い。このため、シート状に加工した際の透明性に優れる。したがって、本発明の封止材組成物からなる封止材が透明前面基板と太陽電池素子との間に配置されても発電効率はほとんど低下しない。
【0025】
直鎖低密度ポリエチレンのα−オレフィンとしては、好ましくは分枝を有しないα−オレフィンが好ましく使用され、これらの中でも、炭素数が6〜8のα−オレフィンである1−ヘキセン、1−ヘプテン又は1−オクテンが特に好ましく使用される。α−オレフィンの炭素数が6以上8以下であることにより、封止材に良好な柔軟性を付与することができるとともに良好な強度を付与することができる。その結果、封止材と基材との密着性が更に高まる。
【0026】
低密度ポリエチレンのメルトマスフローレート(MFR)は、JIS−K6922−2により測定した190℃、荷重2.16kgにおけるMFR(本明細書においては、以下、この測定条件による測定値をMFRという。)が0.5g/10分以上40g/10分以下であることが好ましく、6g/10分以上40g/10分以下であることがより好ましい。
【0027】
本発明の封止材は架橋済封止材である。このため、ベースとなる低密度ポリエチレンのMFRが高くても、後の架橋工程で流動性を抑制できる。このため、上記範囲のような高いMFRであっても好適に使用することができる。
【0028】
本発明の封止材組成物には、更に、シラン変性ポリエチレン系樹脂を含有させてもよい。シラン変性ポリエチレン系樹脂は、主鎖となる直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)等に、エチレン性不飽和シラン化合物を側鎖としてグラフト重合してなるものである。このようなグラフト共重合体は、接着力に寄与するシラノール基の自由度が高くなるため、太陽電池モジュールにおける他の部材への封止材の接着性を向上することができる。
【0029】
シラン変性ポリエチレン系樹脂は、例えば、特開2003−46105号公報に記載されている方法で製造でき、当該樹脂を太陽電池モジュールの封止材組成物の成分として使用することにより、強度、耐久性等に優れ、かつ、耐候性、耐熱性、耐水性、耐光性、耐風圧性、耐降雹性、その他の諸特性に優れ、更に、太陽電池モジュールを製造する加熱圧着等の製造条件に影響を受けることなく極めて優れた熱融着性を有し、安定的に、低コストで、種々の用途に適する太陽電池モジュールを製造し得る。
【0030】
直鎖低密度ポリエチレンとグラフト重合させるエチレン性不飽和シラン化合物として、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリプロポキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルトリペンチロキシシラン、ビニルトリフェノキシシラン、ビニルトリベンジルオキシシラン、ビニルトリメチレンジオキシシラン、ビニルトリエチレンジオキシシラン、ビニルプロピオニルオキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリカルボキシシランより選択される1種以上を使用することができる。
【0031】
エチレン性不飽和シラン化合物の含量であるグラフト量は、後述するその他のポリエチレン系樹脂を含む封止材組成物中の全樹脂成分の合計100質量部に対して、例えば、0.001〜15質量%位、好ましくは、0.01〜5質量%位、特に好ましくは、0.05〜2質量%位となるように適宜調整すればよい。本発明において、エチレン性不飽和シラン化合物の含量が多い場合には、機械的強度及び耐熱性等に優れるが、含量が過度になると、引っ張り伸び及び熱融着性等に劣る傾向にある。
【0032】
封止材組成物に含まれる上記の密度が0.900g/cm以下のポリエチレンの含有量は、組成物中で好ましくは10質量%以上99質量%以下、より好ましくは50質量%以上99%質量以下であり、更に好ましくは90質量%以上99%質量以下である。封止材組成物の融点が80℃未満となる範囲内であれば他の樹脂を含んでいてもよい。これらは、例えば添加用樹脂として用いてもよく、後述のその他の成分をマスターバッチ化するために使用してもよい。
【0033】
[架橋剤]
架橋剤は公知のものが使用でき特に限定されず、例えば公知のラジカル重合開始剤を用いることができる。ラジカル重合開始剤としては、例えば、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキサイド、2,5‐ジメチル‐2,5‐ジ(ヒドロパーオキシ)ヘキサン等のヒドロパーオキサイド類;ジ‐t‐ブチルパーオキサイド、t‐ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,5‐ジメチル‐2,5‐ジ(t‐ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5‐ジメチル‐2,5‐ジ(t‐パーオキシ)ヘキシン‐3等のジアルキルパーオキサイド類;ビス‐3,5,5‐トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、o‐メチルベンゾイルパーオキサイド、2,4‐ジクロロベンゾイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類;t‐ブチルパーオキシアセテート、t‐ブチルパーオキシ‐2‐エチルヘキサノエート、t‐ブチルパーオキシピバレート、t‐ブチルパーオキシオクトエート、t‐ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t‐ブチルパーオキシベンゾエート、ジ‐t‐ブチルパーオキシフタレート、2,5‐ジメチル‐2,5‐ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,5‐ジメチル‐2,5‐ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキシン‐3、t‐ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルカーボネート等のパーオキシエステル類;メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド類等の有機過酸化物、又は、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス(2,4‐ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジオクテート、ジオクチル錫ジラウレート、ジクミルパーオキサイド、といったシラノール縮合触媒等を挙げることができる。
【0034】
ここで、一般的に、従来の未架橋封止材はモジュール化の工程内で、架橋処理を行うことが求められている。このため、未架橋封止材の架橋処理に用いる架橋剤の半減期温度は、モジュール化工程での加熱温度及び加熱時間の条件に制約されて、1分間半減期温度が概ね185℃未満のものに事実上限定されていた。しかし、本発明の架橋済封止材を製造する場合には、上記の制約を受けずに架橋剤を選択することができる。一般的に架橋剤の上限温度は、樹脂酸化劣化の観点から230℃程度であるが、本発明の架橋済封止材の製造においては、この範囲であれば、1分間半減期温度が185℃以上の架橋剤も自由に選択することが可能である。又、このように選択範囲が広がることにより、未架橋で成形可能な温度が向上し、生産性が向上するというメリットもある。
【0035】
架橋剤の含有量としては、封止材の全樹脂成分の合計100質量部に対して0.3質量部以上2.0質量部以下の含有量であることが好ましく、より好ましくは0.3質量部以上1.5質量部以下の範囲である。0.3質量部以上の架橋剤を添加することにより、本発明の封止材に用いる低密度のポリエチレン系樹脂にも十分な耐久性を付与することができる。一方、架橋剤の添加量が1.5質量部を超えると、架橋工程における架橋の進行が過剰となり、モジュール化の際の他部材の凹凸への追従性が不十分となり好ましくない。
【0036】
[架橋助剤]
本発明においては炭素−炭素二重結合及び/又はエポキシ基を有する多官能モノマーが架橋助剤として用いられる。又、より好ましくは、多官能モノマーの官能基がアリル基、(メタ)アクリレート基、ビニル基であるものが用いられる。これによって適度な架橋反応を促進させてゲル分率を80%以下とするとともに、本発明においてはこの架橋助剤が直鎖低密度ポリエチレンの結晶性を低下させ透明性を維持する。これによってより透明性と低温柔軟性に優れる封止材を得ることができ、具体的にはEVAと同程度の透明性や低温柔軟性を得ることができる。
【0037】
具体的には、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリアリルシアヌレート、ジアリルフタレート、ジアリルフマレート、ジアリルマレエート等のポリアリル化合物、トリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPT)、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート等のポリ(メタ)アクリロキシ化合物、二重結合とエポキシ基を含むグリシジルメタクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル及びエポキシ基を2つ以上含有する1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル等のエポキシ系化合物を挙げることができる。これらは単独でもよく、2種以上を組み合わせてもよい。
【0038】
上記のなかでも、低密度ポリエチレンに対する相溶性が良好で、架橋によって結晶性を低下させ透明性を維持し、低温での柔軟性を付与する観点からTAICが好ましく使用できる。また、シランカップリング剤との反応性の観点から1,6−ヘキサンジオールジアクリレートも好ましく使用することができる。
【0039】
架橋助剤の含有量としては、組成物中に0.01質量%〜3質量%含まれることが好ましく、より好ましくは0.05質量部〜2.0質量部の範囲である。この範囲内であれば適度な架橋反応を促進させて架橋済封止材のゲル分率を2%以上80%以下とすることができる。ゲル分率を2%以上とすることにより、モジュール化前の架橋による流動抑制の効果を奏し得るので好ましい。また、ゲル分率を80%以下にすることによって、従来のEVAと同程度の透明性を有しつつ、−50℃から0℃付近の低温領域でEVA以上の柔軟性を得ることができるので好ましい。
【0040】
[ラジカル吸収剤]
本発明においては、ラジカル重合開始剤となる上記の架橋助剤と、それをクエンチするラジカル吸収剤とを併用することにより、架橋の程度を調整してゲル分率を更に細かく調整することができる。このようなラジカル吸収剤としては、ヒンダードフェノール系等の酸化防止剤や、ヒンダードアミン系の耐候安定化等が例示できる。架橋温度付近でのラジカル吸収能力が高い、ヒンダードフェノール系のラジカル吸収剤が好ましい。ラジカル吸収剤の使用量は、組成物中に0.01質量%〜3質量%含まれることが好ましく、より好ましくは0.05質量部〜2.0質量部の範囲である。この範囲内であれば適度に架橋反応を抑制してゲル分率を80%以下とすることができる。
【0041】
[その他の成分]
封止材組成物には、更にその他の成分を含有させることができる。例えば、本発明の封止材組成物から作製された封止材に耐候性を付与するための耐候性マスターバッチ、各種フィラー、光安定化剤、紫外線吸収剤、熱安定剤等の成分が例示される。これらの含有量は、その粒子形状、密度等により異なるものではあるが、それぞれ封止材組成物中に0.001〜5質量%の範囲内であることが好ましい。これらの添加剤を含むことにより、封止材組成物に対して、長期に亘って安定した機械強度や、黄変やひび割れ等の防止効果等を付与することができる。
【0042】
耐候性マスターバッチとは、光安定化剤、紫外線吸収剤、熱安定剤及び上記の酸化防止剤等をポリエチレン等の樹脂に分散させたものであり、これを封止材組成物に添加することにより、封止材に良好な耐候性を付与することができる。耐候性マスターバッチは、適宜作製して使用してもよいし、市販品を使用してもよい。耐候性マスターバッチに使用される樹脂としては、本発明に用いる直鎖低密度ポリエチレンでもよく、上記のその他の樹脂であってもよい。
【0043】
なお、これらの光安定化剤、紫外線吸収剤、熱安定剤及び酸化防止剤は、それぞれ1種単独でも2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0044】
更に、本発明の封止材組成物に用いられる他の成分としては上記以外に、シランカップリング剤等の接着性向上剤、核剤、分散剤、レベリング剤、可塑剤、消泡剤、難燃剤等を挙げることができる。
【0045】
<封止材>
本発明の封止材は、上記の封止材組成物を、その融点を超える温度で溶融成形するシート化工程によって未架橋封止材を得て、その後、架橋処理工程を経て、シート状又はフィルム状の本発明の太陽電池モジュール用の封止材となる。なお、本発明におけるシート状とはフィルム状も含む意味であり両者に差はない。
【0046】
[シート化工程]
上記封止材組成物の溶融成形は、通常の熱可塑性樹脂において通常用いられる成形法、即ち、射出成形、押出成形、中空成形、圧縮成形、回転成形等の各種成形法により行われる。その際、成形温度の下限は封止材組成物の融点を超える温度であればよく、上限は使用する架橋剤の1分間半減期温度に応じて、押し出し製膜中に架橋が開始しない温度であればよく、それらの範囲内であれば特に限定されない。本発明の太陽電池モジュール用封止材の製造方法においては、先に説明した通り、従来よりも1分間半減期温度の高い架橋剤を使用することができるため、成形温度を従来よりも高温に設定することにより、押出機にかかる負荷を低減し、封止材組成物の押出量を増やして、生産性を高めることが可能である。
【0047】
[架橋工程]
上記のシート化工程後の未架橋封止材を架橋処理を施す架橋処理工程を、シート化工程の終了後、かつ、封止材を他の部材と一体化する太陽電池モジュール一体化工程の開始前に行う。この架橋工程によってゲル分率が2%以上80%以下となる封止材とすることが本発明の特徴である。架橋処理はシート化工程に続いて連続的にインラインで行われてもよく、オフラインで行われてもよい。
【0048】
架橋工程は、加熱処理が好ましいが、それに限らずUV(紫外線)やEB(電子線)等の電磁波による架橋処理であってもよい。加熱処理の場合、個別の架橋条件は特に限定されず、一般的な架橋処理条件の範囲内で、トータルな処理結果として、上記のゲル分率となるように適宜設定すればよい。なお、架橋処理が加熱処理である場合には、アニール処理を兼ねてもよい。
【0049】
上記の架橋工程を経ることによって、封止材のゲル分率が2%以上80%以下となり、架橋済封止材となる。ゲル分率は2%以上80%以下であることが好ましく、30%以上80%以下であることが更に好ましい。ゲル分率が2%未満ではモジュール化工程前の架橋工程による流動抑制の効果が発現せず、真空加熱ラミネートにおいて封止材組成物が流動してしまい膜厚を一定に保つのが困難になる。ゲル分率が80%を超えると封止材組成物の流動性が低くなりすぎてモジュールの凹凸にうまく埋まらず封止材としての使用が困難になる。即ち、ゲル分率が上記範囲であれば、過度の流動を抑制しつつ、凹凸への封止性を良好に維持できる。尚、ゲル分率を30%以上とすることで、成形時の寸法安定性を極めて高いものとすることができる。
【0050】
なお、ゲル分率(%)とは、封止材0.1gを樹脂メッシュに入れ、60℃トルエンにて4時間抽出したのち、樹脂メッシュごと取出し乾燥処理後秤量し、抽出前後の質量比較を行い残留不溶分の質量%を測定しこれをゲル分率としたものである。
【0051】
<太陽電池モジュール>
図1は、本発明の封止材を用いた太陽電池モジュールについて、その層構成の一例を示す断面図である。本発明の太陽電池モジュール1は、入射光の受光面側から、透明前面基板2、前面封止材層3、太陽電池素子4、背面封止材層5、及び裏面保護シート6が順に積層されている。本発明の太陽電池モジュール1は、前面封止材層3及び背面封止材層5の少なくとも一方に上記の封止材を使用する。
【0052】
[太陽電池モジュールの製造方法]
太陽電池モジュール1は、例えば、上記の透明前面基板2、前面封止材層3、太陽電池素子4、背面封止材層5、及び裏面保護シート6からなる部材を順次積層してから真空吸引等により一体化し、その後、ラミネーション法等の成形法により、上記の部材を一体成形体として加熱圧着成形して製造することができる。
【0053】
なお、本発明の太陽電池モジュール1において、前面封止材層3及び背面封止材層5以外の部材である透明前面基板2、太陽電池素子4及び裏面保護シート6は、従来公知の材料を特に制限なく使用することができる。また、本発明の太陽電池モジュール1は、上記部材以外の部材を含んでもよい。なお、本発明の封止材は単結晶型に限らず、薄膜型その他の全ての太陽電池モジュールに適用できる。
【0054】
そして、本発明の封止材によれば、モジュール化前に既に架橋している架橋済封止材を用いることで、モジュール化における封止材の流動を抑制できる。また、モジュール化工程又はその後の加熱工程による架橋工程がないので、架橋条件を考慮する必要がなくなる分、モジュール化工程における真空加熱ラミネートの条件の自由度が高くなり、また、モジュール化工程の時間も短縮でき生産性も大幅に向上する。特にEVA系に比べて架橋速度が遅いというポリエチレン系封止材の問題点も解消でき、モジュール化の時間を大幅に短縮することができる。
【実施例】
【0055】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
<封止材の製造>
下記表1の組成の組成物を質量部単位で混合して溶融し、常法Tダイ法により厚さ400から480μmとなるように成膜して未架橋の封止材シートを得た。成膜温度は90℃以上100℃未満とした。
LLDPE1(ベース樹脂M1):エチレンと1−ヘキセンとの共重合体であり、密度0.88g/cm3、MFR8g/10分であるメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレン。
LLDPE2(ベース樹脂M2):ポリエチレン系樹脂(LLDPE):エチレンと1−ヘキセンとの共重合体であり、密度0.88g/cm、MFR30g/10分であるメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレン。
シラン変性ポリエチレン系樹脂(ベース樹脂S):上記ベース樹脂M1、98質量部に対して、ビニルトリメトキシシラン2質量部と、ラジカル発生剤(反応触媒)としてのジクミルパーオキサイド0.1質量部とを混合し、200℃で溶融、混練し、密度0.884g/cm、MFR6g/10分であるシラン変性ポリエチレン系樹脂。
架橋剤(架橋):t‐ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルカーボネート(アルケマ吉富株式会社製、商品名ルペロックスTBEC)
架橋助剤(架橋助):トリアリルイソシアヌレート(Statomer社製、商品名SR533)
UV吸収剤(UV):ケミプロ化成株式会社製、商品名KEMISORB12
耐候安定剤(耐候):チバ・ジャパン株式会社製、商品名Tinuvin770
酸化防止剤(酸化):チバ・ジャパン株式会社製、商品名Irganox1076
シランカップリング剤(SiC):ビニルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、商品名KBM1003)
【0056】
【表1】

【0057】
表1に示す通り、実施例1〜5と比較例1〜5において、同番号の封止材組成物は同組成である。実施例1〜5及び比較例6については、表1に示す架橋条件(温度、時間)で更にオーブンによる架橋処理を施して架橋済封止材シートを得た。比較例1〜5については架橋処理を行わずに未架橋封止材シートを得た。
【0058】
実施例1〜5の架橋済封止材シート、及び比較例1〜6の未架橋封止材シートのゲル分率を測定した結果は表1の通りとなった。
【0059】
<評価例1>
次に、5.0×5.0cmにカットした実施例1〜5及び比較例1〜6の封止材シートを、それぞれガラス基板(青板ガラス 150mm×150mm×3.0mm)に上に積層し、更にその上に、同ガラス基板を積層した状態で、真空加熱ラミネータ処理を行い、処理後のそれぞれの封止材シートの拡大率を測定した。
[拡大率(%)の試験方法]
正方形の封止材の中央に十字型に引いた線分の長さ(十字型を含む最も小さい円の直径によって示される値とする。)を、ラミネート処理前後で比較した場合の長さの比を測定し、この値を拡大率とした。ラミネート処理条件は、真空引き:5分、加圧:(0kPa〜100kPa:1.5分)、圧力保持(100kPa):7.0分、温度150℃とした。それぞれの実施例及び比較例について結果を表2に示す。
【0060】
<評価例2>
又、15mm幅にカットした実施例1〜5及び比較例1〜6の封止材シートを、それぞれガラス基板(白板フロート半強化ガラス JPT3.2 75mm×50mm×3.2mm)上に密着させて150℃、18分で、真空加熱ラミネータで処理を行い、それぞれの実施例及び比較例について太陽電池モジュール評価用サンプルを得た。これらの太陽電池モジュール評価用サンプルについて、下記の試験条件におけるガラス密着維持率を評価した。結果を表2に示す。
[ガラス密着維持率(%)の試験方法]
剥離試験方法:上記太陽電池モジュール評価用サンプルにおいて、ガラス基板上に密着している封止材シートを、剥離試験機(テンシロン万能試験機 RTF−1150−H)にて垂直剥離(50mm/min)試験を行いガラス密着強度を測定した。
【0061】
【表2】

【0062】
表2から、本発明の封止材は、比較例に比べて、モジュール化工程前の架橋によって適度に流動が抑制されていることが理解できる。MFRの低い樹脂を用いた実施例1、4、5の架橋済封止材については、拡大率の絶対値が低く維持されており、同組成の未架橋封止材と比較して顕著に流動が抑制されている。又、MFRのやや高い樹脂を用いた実施例2、3についても、それぞれ同組成の未架橋封止材、と比較して、モジュール化工程前の架橋工程の効果として流動は有意に抑制されている。このことから、本発明の封止材は、太陽電池モジュール用封止材の製造において、従来よりも高MFRの封止材組成物の選択を可能とするものであり、生産性の観点からも好ましいものであることが分かる。
【0063】
又、表2から、本発明の封止材は、ガラス密着性も充分に有していることが分かる。尚、ゲル分率が80%を超える比較例6の架橋済封止材については、流動は低く抑えられているものの、架橋が過剰に進行した結果、ガラス密着性がなく、架橋済封止材とすると凹凸への追従性がなくなってしまい封止材としての使用には適さないものとなった。
【符号の説明】
【0064】
1 太陽電池モジュール
2 透明前面基板
3 前面封止材層
4 太陽電池素子
5 背面封止材層
6 裏面保護シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
密度0.900g/cm以下の低密度ポリエチレンと、炭素−炭素二重結合及び/又はエポキシ基を有する多官能モノマーである架橋助剤と、を含有し、
ゲル分率が2%以上80%以下である太陽電池モジュール用封止材。
【請求項2】
請求項1に記載の太陽電池モジュール用封止材を備える太陽電池モジュール。
【請求項3】
密度0.900g/cm以下、低密度ポリエチレンと、架橋剤と、架橋助剤と、を含有する封止材組成物を溶融成形して未架橋の封止材シートを得るシート化工程と、
前記未架橋の封止材シートを、ゲル分率が2%以上80%以下となるように架橋処理する架橋工程と、を備える太陽電池モジュール用封止材の製造方法。
【請求項4】
前記低密度ポリエチレンは、JIS K6922−2により測定した190℃、荷重2.16kgにおけるMFRが0.5g/10min以上40.0g/10min以下である請求項3に記載の太陽電池モジュール用封止材の製造方法。
【請求項5】
前記架橋処理が加熱処理である請求項3から4のいずれかに記載の太陽電池モジュール用封止材の製造方法。
【請求項6】
前記架橋剤の1分間半減期温度が185℃以上230℃以下である請求項5に記載の太陽電池モジュール用封止材の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−248605(P2012−248605A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−117829(P2011−117829)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】