説明

太陽電池モジュール用基材とその製造方法、太陽電池モジュール

【課題】加熱時に太陽電池セルが割れたりすることがない。
【解決手段】PETフィルム26の一方の面に、網目状の繊維を含まない可撓性のある絶縁樹脂27を被着する。絶縁樹脂27からなる絶縁層2は、エポキシ樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ポリイミド樹脂またはウレタン樹脂のいずれかである。絶縁層2のPETフィルム26とは反対側の面に銅からなる導電層28を設ける。その後、PETフィルム26を剥離して、絶縁層2のPETフィルム26を剥離した面にバリア層4を設けることで太陽電池モジュール用基材を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、裏面にプラス電極(P型半導体電極)、マイナス電極(N型半導体電極)の両電極を備える太陽電池セルを固定するための太陽電池モジュール用基材とその製造方法、そして太陽電池セルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自然エネルギーを利用する発電システムである太陽光発電の普及が急速に進められている。太陽光発電をするための太陽電池モジュールは、図7に示すように、受光側に配置された透光性基板120と、裏面側に配置された太陽電池モジュール用基材(バックシート)110と、透光性基板120および太陽電池モジュール用基材110の間に封止された多数の太陽電池セル130とを有している。また、太陽電池セル130は、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)フィルム等の封止用フィルム140a,140bに挟まれて封止されている。
従来、太陽電池モジュールにおいては、多数の太陽電池セル130,130,…が、幅1〜3mmの配線材150で電気的に直列に接続されていた。太陽電池セル130は、太陽の受光面130aである表面側にマイナス電極(N型半導体電極)131、裏面側にプラス電極(P型半導体電極)132が設けられているため、配線材150で接続すると、太陽電池セル130の受光面130aの上に配線材150が重なり、光電変換の面積効率が低下する傾向にあった。
【0003】
上述した電極131,132の配置では、配線材150が太陽電池セル130の表側から裏側に回り込む構造になるため、各部材の熱膨張率の差が原因で配線材150が断線することがあった。
そこで、特許文献1,2ではプラス電極とマイナス電極の両電極がセルの裏面に設置されたバックコンタクト方式の太陽電池セルが提案されている。この方式の太陽電池セルではセル裏面で直列に接続することが可能であり、セル表面の受光面積が犠牲にならず光電変換の面積効率の低下を防止できる。また、配線材を表側から裏側に回り込む構造にしなくてもよいため、各部材の熱膨張の差による配線材の断線も防止できる。
このバックコンタクト方式の太陽電池セルを用いて太陽電池モジュールを製造する際には、多数の太陽電池セルを、配線材を用いて電気的に直列に接続した後、EVAフィルムにより挟んで封止し、透光性基板と太陽電池モジュール用基材とで挟持していた。
【0004】
従来、特許文献2等では、太陽電池モジュールの太陽電池セル裏面の絶縁層としてPET(ポリエチレンテレフタレート)やPEN(ポリエチレンナフタレート)が用いられている。PETやPENは柔らかくて湾曲し易く耐熱性と耐候性を有している。このようなPETやPEN等を、上述したバックコンタクト方式の太陽電池モジュールの絶縁層として用いた場合、太陽電池セルの裏面である絶縁層に隣接して太陽電池セルを直列に接続する回路層が設けられるため、上述したPETやPEN等の絶縁層では耐熱性と絶縁性が必ずしも十分ではなく、より一層の耐熱性と絶縁信頼性を有する絶縁層が求められている。
【0005】
これに対し、太陽電池モジュールの絶縁層としてPETやPENに代えてプリプレグを用いた太陽電池モジュール用基材が提案されている。プリプレグは網目状に配設されたガラスクロス等のガラス繊維にエポキシ樹脂等を含浸させて構成したものである。
プリプレグはPETやPENと比較して耐熱性と絶縁性がより高く耐候性も良好なため、バックコンタクト方式の太陽電池モジュールにおける太陽電池セルを支持する絶縁層としてより好ましい。しかも、プリプレグはガラスクロスを内蔵しているために剛性が高く、加熱加圧によっても湾曲し難いために太陽電池セルを実装した状態で取り扱いが容易であり、製造段階における後工程が良好に行われる利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−111122号公報
【特許文献2】特開2009−224597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、プリプレグは太陽電池セルと比較して線膨張係数が百倍から数百倍程度大きいため、太陽電池モジュールの製作時や使用時等で加熱されると、プリプレグが熱膨張で伸びた際に太陽電池セルとの線膨張の差により太陽電池セルが応力を受けて割れたり亀裂が入ったりするおそれがあるという不具合があった。
また、プリプレグはガラスクロスを含むために取り扱い時に端面等からガラスクロスの粉体等が分離して落下し、ゴミとなったり異物として製品や備品等に付着したりするおそれがあった。しかも、プリプレグは比較的剛性が高いために材料段階でロールにして運搬することが困難であり、運搬や保管が不便でコストがかかるという不具合もある。
【0008】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、絶縁層の耐熱性と絶縁性が高く加熱時に太陽電池セルが割れたりすることがない太陽電池モジュール用基材及びその製造方法、そして太陽電池モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による太陽電池モジュール用基材は、網目状の繊維を含まない可撓性の
ある絶縁樹脂からなる絶縁層と、絶縁層の一方の面に設けられていて太陽電池セルに電気的に接続される回路層と、絶縁層の他方の面に設けられていて水蒸気バリア性、酸素バリア性及び絶縁性を有するバリア層とを設けたことを特徴とする。
本発明によれば、絶縁層は網目状の繊維がないため剛性が小さく可撓性が大きいから、絶縁層とこれに積層した太陽電池セルとの線膨張係数が大きく相違していても、加熱時等に、線膨張係数の比較的大きい絶縁層の熱膨張によって線膨張係数の比較的小さい太陽電池セルが応力で割れたりすることを防止できる。しかも、この絶縁層は絶縁性と耐候性がプリプレグに近似する程度に高くて環境信頼性に優れ、従来の太陽電池モジュールにおけるPETやPEN等の絶縁層よりも絶縁性と耐候性が優れている。しかも、プリプレグのようにガラス繊維の粉等が落下、飛散しない特性を有していて異物の付着を防止できる。
【0010】
また、絶縁樹脂は、エポキシ樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ポリイミド樹脂またはウレタン樹脂のいずれかであることが好ましい。
絶縁樹脂がこれらの樹脂のいずれかであれば、上述したプリプレグに近似した耐熱性と絶縁性を有するために環境信頼性が高く、例えばバックコンタクト方式の太陽電池モジュールに好適である。しかも、可撓性が高いから、加熱時に撓んだり曲がったりすることで、線膨張係数の差によって太陽電池セルに割れや亀裂が入るのを防止できる。
また、太陽電池モジュール用基材に積層する前段階の絶縁層は、製造段階で支持体を剥離することで、ロール状にして独立して保管や運搬することができてスペースを取らずに取り扱いが容易である。
【0011】
また、絶縁層にはフィラーが含有されていてもよい。
絶縁層にフィラーを分散して含有させれば可撓性を有しながら適度な硬さを確保することができて、強度と耐久性を向上できてより長寿命が得られる。
【0012】
本発明による太陽電池モジュール用基材の製造方法は、支持体の一方の面に網目状の繊維を含まない可撓性のある絶縁樹脂からなる絶縁層を被着し、絶縁層の支持体とは反対側の面に電気導通性を有する導電層を設け、その後、支持体を剥離して、絶縁層の支持体を剥離した面に水蒸気バリア性、酸素バリア性と絶縁性を備えたバリア層を設けるようにしたことを特徴とする。
或いは、本発明による太陽電池モジュール用基材の製造方法は、支持体の一方の面に網目状の繊維を含まない可撓性のある絶縁樹脂からなる絶縁層を被着し、絶縁層の支持体とは反対側の面に水蒸気バリア性、酸素バリア性と絶縁性を備えたバリア層を設け、その後、支持体を剥離して、電気導通性を有する導電層を設けるようにしたことを特徴とする。
本発明によれば、太陽電池モジュール用基材を製造する際、支持体を設けてその一方の面に網目状の繊維を含まない可撓性の大きい絶縁樹脂を被着して絶縁層を積層して形成し、支持体を剥離した後、絶縁層の支持体とは反対側の面に導電層またはバリア層を設け、次いで支持体を剥離させることで導電層またはバリア層を別の支持体とし、更にバリア層または導電層を積層する。これによって、絶縁層が腰がない程度に柔らかく可撓性が大きくても、支持体をベースにして絶縁樹脂の両側に導電層とバリア層を順次積層することで、効率的に太陽電池モジュールの太陽電池モジュール用基材となる積層体を製造できる。
【0013】
なお、支持体はPETフィルムであってもよい。
また、導電層に、太陽電池セルを直列に接続するための回路パターンを形成するようにすることが好ましく、これによって太陽電池モジュール用基材を製造できる。
【0014】
本発明による太陽電池モジュール用基材は、上述した太陽電池モジュール用基材の製造方法によって製造することができる。
また、本発明による太陽電池モジュールは、上述した太陽電池モジュール用基材と、受光面である透光性基板との間に太陽電池セルを直列に配設して封止層で封止してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明による太陽電池モジュール用基材及び太陽電池モジュールは、加熱時や太陽電池の使用時等に、絶縁層とこれに積層した太陽電池セルとの線膨張係数が大きく相違していても、熱膨張時に、線膨張係数の比較的大きい絶縁層は柔らかくて可撓性が大きいから比較的線膨張係数の小さい太陽電池セルが応力で割れたりすることを防止できる。しかも、この絶縁層は、絶縁性と耐熱性と耐候性がプリプレグに近似する特性を有していて、従来の太陽電池モジュールにおけるPETやPEN等よりも優れており、プリプレグのようにガラス繊維の粉等が飛散しないため、ゴミや異物を生じないから、環境信頼性が高い。
また、本発明による太陽電池モジュール用基材の製造方法は、仮の支持体を設けて絶縁層を設置すると共に絶縁層の両側に導電層とバリア層を順次形成できるから、絶縁層が腰がない程度に柔らかく可撓性が大きくても、仮の支持体をベースにして絶縁層の両面に導電層とバリア層を順次積層すると共に、支持体を剥離した後、先に被着した導電層またはバリア層の一方を支持体として絶縁層を支持することができるから、十分な絶縁性と耐候性を有すると共に可撓性の大きい絶縁層を用いて効率的に太陽電池モジュールの太陽電池モジュール用基材となる積層体を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態による絶縁層を含む太陽電池モジュール用基材を示す断面模式図である。
【図2】図1に示す太陽電池モジュール用基材を含む太陽電池モジュールの断面模式図である。
【図3】バリア層の変形例を示すものであり、(a)はセラミック蒸着フィルムの要部断面模式図、(b)はガスバリア性積層フィルムの断面模式図である。
【図4】本実施形態による絶縁層を備えた太陽電池モジュール用基材の積層体の製造工程を示す断面模式図である。
【図5】図4に示す積層体に基づく太陽電池モジュール用基材の製造工程を示す断面模式図である。
【図6】実施形態による太陽電池モジュール用基材を用いた太陽電池モジュールの製造方法を示す断面模式図である。
【図7】従来の太陽電池モジュールの一例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態による絶縁層を用いた太陽電池モジュール用基材とその製造方法について説明する。
図1に示す本実施形態による太陽電池モジュール用基材1は、絶縁層2と、絶縁層2の一方の面即ち図示しない太陽電池セル側に設けられた回路層3と、絶縁層2の他方の面に設けられたバリア層4とを有する。そして、回路層3の太陽電池セルに接続する電極部3aにはスタッドバンプ5が設けられ、回路層3の電極部3a以外の部分である非電極部3bはオーバーコート層6で被覆されている。
太陽電池モジュール用基材1は後述する太陽電池セル12を挟んで受光面となる透光性基板11と接合されて一体化され、図2に示す太陽電池モジュール10を形成する。
【0018】
本実施形態による太陽電池モジュール用基材1を使用した太陽電池モジュール10を図2に示す。図2に示す太陽電池モジュール10は、光の入射面側である受光面側に配置された透光性基板11と、その裏面側に配置された太陽電池モジュール用基材1と、これら透光性基板11および太陽電池モジュール用基材1の間に配置された多数の太陽電池セル12,12、…と、太陽電池セル12,12、…を封止する封止層13とを具備する。
太陽電池モジュール用基材1はオーバーコート層6側で太陽電池セル12、12、…及び封止層13を挟んで透光性基板11と接合されている。
【0019】
次に図1の太陽電池モジュール用基材1を構成する各部材について説明する。
絶縁層2の太陽電池セル12側に設けた回路層3は、バックコンタクト方式により太陽電池セル12の裏面(太陽電池モジュール用基材1側の面)に電気的に接続される層である。回路層3は太陽電池モジュール用基材1に積層される多数の太陽電池セル12を電気的に直列に接続するパターンを有している。
回路層3を構成する材料として、電気抵抗が低い材料、例えば銅、アルミニウム、鉄−ニッケル合金などの金属が使用される。また、導電性高分子を使用することもできる。
回路層3の表面は、スタッドバンプ5およびオーバーコート層6との密着性を向上させるために、ギ酸、硫酸、硝酸などの腐食性薬液によって粗面化処理が施されていることが好ましい。
【0020】
スタッドバンプ5は、回路層3と太陽電池セル12との電気的接続を補助する部材であり、太陽電池セル12の電極12aに対応して配設されている。本実施形態におけるスタッドバンプ5は例えば切頭円錐形になっており、先端がオーバーコート層6の表面から突出している。
スタッドバンプ5の材料として電気抵抗が低い材料が使用される。中でも回路層3との電気抵抗が低くなることから、銀、銅、錫、鉛、ニッケル、金よりなる群から選ばれる1種以上の金属を含有することが好ましい。特に、スタッドバンプ5は粘度が高く容易に切頭円錐形等の所望の形状に形成するために、銀、銅、錫、半田(銅と鉛が主成分である)よりなる群から選ばれる1種以上の金属を含有する導電性ペーストにより形成されていることが好ましい。
【0021】
また、導電性ペーストは低温硬化タイプであることが好ましい。導電性ペーストが低温硬化タイプであれば、120〜160℃という低温で太陽電池セル12の電極12aと回路層3とをスタッドバンプ5によって電気的に接続できる。120〜160℃は、封止層13を構成する封止用フィルムとして使用可能なEVAフィルムの軟化、溶融、架橋が生じる温度であるから、封止用フィルムとしてEVAフィルムを用いる場合には、容易に加工できるため、太陽電池セル12の電極12aと導電性ペーストから形成されるスタッドバンプ5とをより容易に電気的に接続させることができる。
低温硬化タイプの導電性ペーストとしては、ポリマーと導電性フィラーを含有し、ポリマーの硬化による導電性フィラーの物理的接触によって導電性を発現するもの、有機物に銀もしくは銅を配位、還元させたナノ粒子を含有し、低温焼結(120〜160℃)させることにより導電性を発現するものが挙げられる。電気抵抗がより低くなる点では、後者の材料が好ましい。
【0022】
オーバーコート層6は絶縁性材料からなっている。オーバーコート層6を構成する絶縁性材料としては、例えばエポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂などが挙げられる。これら樹脂は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
また、上記の樹脂に、シリカ(SiO)、マイカ、アルミナ、硫酸バリウムからなる群から選ばれる1種以上の無機粉末を含有してもよい。
オーバーコート層6は封止層13と同一材質でもよい。
【0023】
次に、本発明の実施形態による絶縁層2について説明する。
絶縁層2は、プリプレグの例えばガラスクロス、ガラス不織布、紙などの繊維を含まない樹脂からなる絶縁樹脂で構成されている。絶縁層2の絶縁樹脂は、例えばエポキシ樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ポリイミド樹脂またはウレタン樹脂等である。
この絶縁層2を構成する絶縁フィルムはプリプレグと比較してガラスクロス等の網目状の繊維を含まないために柔軟性と可撓性が非常に大きく腰がないので、PETフィルム26から剥離した状態で、ロールに巻いて運搬や保管等をし易い特性、いわゆるロールツーロールし易い特性を有している。そのため、スペースを取らずに取り扱いが容易になる。また、絶縁層2の絶縁フィルムはガラスクロス等の繊維を含まないためにその表面からガラスクロス等の繊維の粉体が落ちることがない。
【0024】
しかも、絶縁層2の絶縁樹脂は耐熱性と絶縁性がプリプレグに近似する程度に高く電気信頼性が高い。しかも、絶縁層2はプリプレグに近い水蒸気バリア性や酸素バリア性を含む耐候性を備えており、太陽電池モジュール10の絶縁層2として好ましい特性を有している。また、絶縁樹脂の線膨張係数は太陽電池セル12の線膨張係数よりも大きい特性を有していて、大きな可撓性と屈曲耐性を備えている。絶縁層2の耐熱性と絶縁性は従来の太陽電池モジュールに絶縁層として用いられているPETやPENと比較して非常に優れている。
一方で、この絶縁樹脂は硬さが小さく強度がもろくて引張り強度が小さいため、破れやすい。そのため、製造プロセスにおいては例えばPET等の支持部材を必要とする。
絶縁層2は上述の特性を有するため、太陽電池モジュール10の製造工程で太陽電池セル12と積層されて加熱下に置かれても、絶縁層2と太陽電池セル12との熱膨張差によって樹脂の線膨張係数は太陽電池セル12よりかなり大きい。そのため、絶縁層2の熱膨張によって太陽電池セル12に対して絶縁層2が伸張して湾曲可能であるため、太陽電池セル12が熱膨張差による応力で割れたり亀裂が入る等のおそれはない。
【0025】
なお、絶縁層2の絶縁樹脂にはフィラーが分散して含有されていてもよい。フィラーとしてシリカ、アルミナ、エアロゾル等が用いられる。フィラーを絶縁層2に分散して含有させることで、柔らかく可撓性の大きい絶縁層2にロール可能な程度に適度な硬さを付与することができる。これによって絶縁層2が過度に柔らかく腰のない状態にならないから、絶縁層2の耐久性と寿命が長くなる。
【0026】
次に、バリア層4について説明する。
バリア層4は空気透過を調整する層であり、水蒸気バリア性、酸素バリア性等の耐候性
や絶縁性を有する例えばフッ化ビニル樹脂(PVF)フィルム(商品名「テドラー」;登録商標)が用いられている。
或いは、バリア層4として、フッ化ビニル樹脂と同様な特性を有する、他の樹脂フィルムを用いても良い。即ち、図3(a)に示すように、ポリエステル系フィルム(またはポリアミド系フィルム)14の片面にガスバリア層としてガスバリア性の高い酸化アルミナ15(またはシリカ)を設けた構成を有するセラミック蒸着フィルム16を用いてもよい。特に酸化アルミナは透明度が高い特性を有していて好ましい。酸化アルミナフィルムとシリカフィルムを含むセラミック蒸着フィルム16は、GLフィルム(凸版印刷株式会社の商品名)として知られている。
【0027】
また、バリア層4として、ガスバリア性積層フィルム18を用いてもよい。ガスバリア性積層フィルム18は特許第4013604号公報に詳しく開示されており、ここでは簡単に説明する。なお、ガスバリア性積層フィルム18は、凸版印刷株式会社製の商品名「GXフィルム」として知られている。
ガスバリア性積層フィルム18は、図3(b)にポリアミド系フィルム19の片面に、アンカーコート層20を介して厚さが1〜400nmの範囲の例えば酸化ケイ素等の無機酸化物蒸着層からなる第一ガスバリア層(A層)21、例えばポリビニルアルコール等の水溶性高分子を含む溶液を塗布、乾燥することにより形成された厚さが0.05〜50μmの範囲のガスバリア性被覆層22、厚さが1〜400nmの範囲の例えば酸化ケイ素等の無機酸化物蒸着層からなる第二ガスバリア層(B層)23を順次積層してなる積層フィルムである。更にヒートシール層24を積層しているが、省略してもよい。
そして、ガスバリア性被覆層22と、第一及び第二ガスバリア層(A、B)21,23との厚さの比率が、1/0.005〜1/1の範囲を満たしている。ガスバリア性積層フィルム18は透明であるが、透明でなくてもよい。
なお、バリア層4の外側である絶縁層2とは反対側の面にPETフィルムを被着して積層してもよい。PETフィルムを積層することで耐スクラッチ性が向上する。
【0028】
次に、太陽電池モジュール10の太陽電池モジュール用基材1以外の構成について説明する。
図2において、透光性基板11としては、例えばガラス基板、透明樹脂基板などが挙げられる。透明樹脂基板を構成する透明樹脂としては、例えばアクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレートなどが挙げられる。
本実施形態に使用される太陽電池セル12は、例えば裏面にプラス電極およびマイナス電極を備えるバックコンタクト方式のものである。太陽電池セル12として、単結晶シリコン型、多結晶シリコン型、アモルファスシリコン型、化合物型、色素増感型などが挙げられる。これらの中でも、発電効率に優れる点では単結晶シリコン型が好ましい。
封止層13は封止用フィルムにより形成される。封止用フィルムとして、例えばEVAフィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体フィルム、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素樹脂フィルムなどが使用される。通常、封止用フィルムは、太陽電池セル12を挟み込むように2枚以上で使用される。
【0029】
次に、本実施形態による絶縁層2を含む太陽電池モジュール用基材1の製造方法について、図4及び図5に基づいて説明する。
図4(a)において、支持体としてシート状のPETフィルム26を設置する。PETフィルム26は柔らかいが膜厚が例えば4.5μm程度以上あるとハンドリングし易い。次に、PETフィルム26の一方の面に絶縁層2を構成する絶縁樹脂27として例えばエポキシ樹脂を塗工する(図4(b)参照)。絶縁樹脂27は上述のように薄層で柔らかいため反りに対応できる。また、絶縁層2の製造プロセスのために支持体は必要である。
そして、絶縁樹脂27のPETフィルム26とは反対側の面に回路層3を形成するためのパターニング用の導電層28として例えば銅Cuを被着して設置する(図4(c)参照)。次に、PETフィルム26を剥離し(図4(d)参照)、反転して絶縁樹脂27の表面にバリア層4としてフッ化ビニル樹脂(PVF)フィルム29(商品名「テドラー」;登録商標)を積層する(図4(e)、(f)参照)。
【0030】
このようにして、導電層28と絶縁樹脂27とフッ化ビニル樹脂(PVF)フィルム29とが積層されてなる積層体31が得られる。絶縁樹脂27は、耐熱性と絶縁信頼性が高い上に可撓性が大きく屈曲耐性があるという特性を有しており、太陽電池モジュール用基材1の絶縁層2として好ましい。
なお、支持体であるPETフィルム26の剥離に際して、容易に剥離できない場合には、PETフィルム26に剥離剤を塗布した上で絶縁樹脂27を塗工するとよい。また、バリア層4として、フッ化ビニル樹脂(PVF)フィルム29に代えてセラミック蒸着フィルム16(GLフィルム)またはガスバリア性積層フィルム18(GXフィルム)を用いて絶縁樹脂27に被着してもよい。
【0031】
次に、図5により、この積層体31に基づく太陽電池モジュール用基材1の製造方法を説明する。
図5(a)に示す積層体31を加熱加圧処理することで、エポキシ樹脂等からなる絶縁樹脂27は絶縁層2になる。
ここで、導電層28としては、銅以外にアルミニウム、鉄−ニッケル合金などの金属箔を使用することができる。また、導電性高分子を含有する層であってもよい。
【0032】
次いで、図5(b)に示すように導電層29の上にレジストパターン33を設け、エッチング処理する。そして、図5(c)に示すような回路層3を形成する。この回路層3の形成では、フォトリソグラフィを適用する。
フォトリソグラフィでは、まず、導電層29の表面の全面にレジスト層を設ける。その際、レジスト層としてドライフィルムレジストを用いてもよいしウェットレジストを導電層29に塗工して形成したものでもよい。
次いで、レジスト層の上にフォトマスクを配置し、露光し、現像してレジストパターン33を設ける。次に、レジストパターン33で被覆されていない導電層29をエッチング処理して除去する。エッチングとしては、ドライエッチング、ウェットエッチングのいずれであってもよいが、通常はウェットエッチングが適用される。
その後、レジストパターン33を剥離する。このように、導電層29をパターン加工して回路層3を得る。得られた回路層3の表面には粗面化処理を施してもよい。回路層3の表面に粗面化処理を施すと、スタッドバンプ5の密着性を向上させることができる。粗面化処理は、例えば腐食性薬液を回路層3の表面に接触させる方法を適用することができる。
【0033】
次いで、図5(d)に示すように、絶縁性のオーバーコート材を回路層3の非電極部3bに塗工してオーバーコート層6を形成する。
オーバーコート材としては、例えば熱可塑性樹脂を含有する塗工液、熱硬化性成分を含有する塗工液、光硬化性成分を含有する塗工液などを使用できる。熱可塑性樹脂を含有する塗工液を使用した場合には、塗工後、乾燥処理を行う。熱硬化性成分を含有する塗工液を使用した場合には、塗工後に熱硬化処理を行う。光硬化性成分を含有する塗工液を用いる場合には光硬化処理を行う。
【0034】
次いで、回路層3の電極部3aにスタッドバンプ5を形成する。スタッドバンプ5の形成方法としては、例えばめっき、スクリーン印刷、ディスペンス、転写などの方法を適用することができる。その際、容易に所望の形状にできることから、銀、銅、錫、半田よりなる群から選ばれる1種以上の金属を含有する導電性ペーストを用いることが好ましい。さらに、太陽電池セル12の電極12aとスタッドバンプ5とをより容易に電気的に接続させることができる点では、低温硬化タイプの導電性ペーストがより好ましい。
以上の製造方法により、図1に示す太陽電池モジュール用基材1を製造できる。
上記製造方法によれば、絶縁層2と回路層3との密着性を高くできる。
【0035】
なお、上述の説明において、絶縁層2を構成する絶縁樹脂27を製造する際、太陽電池モジュール用基材1の製造工程の一環として連続して積層体31を製造するようにしたが、絶縁樹脂27を別工程で製造してもよい。この場合、図4(b)に示すように、PETフィルム26上に絶縁樹脂27を塗工して形成した後、PETフィルム26を剥離し、絶縁樹脂27をロール状に巻回して保管し、太陽電池モジュール用基材1の製造時にロールから繰り出してバリア層4または導電層28に積層するようにしてもよい。
【0036】
つぎに、本実施形態による太陽電池モジュール用基材1を用いた太陽電池モジュール10の製造方法について、図6により説明する。
図6において、太陽電池モジュール用基材1のオーバーコート層6上に、封止用フィルム13A、太陽電池セル12、封止用フィルム13B、透光性基板11を順次積層する。その際、太陽電池セル12の電極12aに太陽電池モジュール用基材1のスタッドバンプ5が対向するように配置する。
次いで、太陽電池モジュール用基材1、封止用フィルム13A、太陽電池セル12、封止用フィルム13B、透光性基板11の積層体を加熱加圧する。この加熱加圧により、スタッドバンプ5を封止用フィルム13Aに貫通させて太陽電池セル12の電極12aに接触させ、さらにスタッドバンプ5の先端を押し潰して充分な接続面積を確保する。
このようにして、太陽電池モジュール用基材1、封止用フィルム13A、太陽電池セル12、封止用フィルム13B、透光性基板11を密着させると同時に、太陽電池セル12を回路層3により電気的に直列に接続することができ、図2に示す太陽電池モジュール10が得られる。
【0037】
上述した本実施形態による太陽電池モジュール用基材1によれば、次の作用効果を奏する。
本実施形態による太陽電池モジュール用基材1において、絶縁層2として網目状のガラスクロス等の繊維のない絶縁樹脂27を設けたから、絶縁層2としてプリプレグに近似する高い耐熱性と絶縁性を有しており、PETやPENを用いた場合より高い耐熱性と絶縁信頼性を得られる。
しかも、絶縁層2(絶縁樹脂27)はプリプレグより遙かに柔らかくて可撓性が大きいため、積層された太陽電池セル12と線膨張係数の差が大きくても、太陽電池モジュール10の製造時や使用時等において加熱加圧時に熱膨張する絶縁層2が撓んで応力を吸収することで太陽電池セル12の割れや亀裂を防止できる。
また、絶縁層2を構成する絶縁樹脂27はプリプレグと比較して柔らかくて腰がないために材料段階ではロール状態にして保管、運搬等することができ、剛性の高いプリプレグよりも取り扱いが便利である。しかも、プリプレグのようにガラス繊維の粉等が落下、飛散しないので取り扱いが便利である。
【0038】
また、本実施形態による太陽電池モジュール用基材1を用いた太陽電池モジュール10によれば、絶縁層2の一方の面に設けられた回路層3にスタッドバンプ5を介して太陽電池セル12を積層することよって、多数の太陽電池セル12を電気的に直列に接続できる。しかも、太陽電池セル12の太陽電池モジュール用基材1への積層と太陽電池セル12同士の接続とを同時に行うことができるため、太陽電池モジュール12を容易に製造でき、その生産性を高くできる。
本実施形態による太陽電池モジュール10は、スタッドバンプ5が封止用フィルム13Aを貫通するため、太陽電池セル12の電極12aに電気的により容易に接続させることができる。スタッドバンプ5を用いることで確実にかつ充分な面積で接続させることができるため、電気的接続の信頼性を向上させる。
また、太陽電池モジュール用基材1は、オーバーコート層6を有しているため、互いに隣接する回路層3の短絡を防止できる上、封止用フィルム13A,13BとしてEVAフィルムを用いた場合には、EVAフィルムから放出される酢酸ガスによる回路層3の腐食を防止できる。
【0039】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜の構成や材料等の変更が可能であり、これらも本発明に含まれる。
例えば、上述の実施形態による太陽電池用太陽電池モジュール用基材の製造方法では、支持体であるPETフィルム26の一方の面に被着した絶縁樹脂27の他方の面に銅等の導電層28を積層し、次にPETフィルム26を剥離した面にバリア層4を積層するようにしたが、これに代えて、絶縁樹脂27に対してPETフィルム26とは反対側の面にまずバリア層4を積層させ、次にPETフィルム26を剥離させた絶縁樹脂27の面に導電層28を積層するようにしてもよい。
また、上述の実施形態等では、太陽電池モジュール用基材1にスタッドバンプ5およびオーバーコート層6を有しているが、これらは任意である。しかし、より簡便に太陽電池モジュール10を製造できる点では、スタッドバンプ5を有することが好ましい。また、互いに隣接する回路層3の短絡を防止できる上、EVAフィルムから放出される酢酸ガスによる回路層3の腐食を防止できる点で、オーバーコート層6を有することが好ましい。
スタッドバンプ5の形状は、切頭円錐形に限らず、円錐形、円筒形、三角錐形、半球状などであってもよい。本発明はバックコンタクト方式の太陽電池モジュールでなくてもよく、適宜方式の太陽電池モジュールに適用できる。例えば上述の従来技術の方式のものにも適用できる。
【符号の説明】
【0040】
1 太陽電池モジュール用基材
2 絶縁層
3 回路層
3a 電極部
3b 非電極部
4 バリア層
5 スタッドバンプ
6 オーバーコート層
11 透光性基板
12 太陽電池セル
12a 電極
13 封止層
26 PETフィルム
27 絶縁樹脂
28 導電層
29 バリア層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
網目状の繊維を含まない可撓性のある絶縁樹脂からなる絶縁層と、
該絶縁層の一方の面に設けられていて太陽電池セルに電気的に接続される回路層と、
前記絶縁層の他方の面に設けられていて水蒸気バリア性、酸素バリア性及び絶縁性を有するバリア層と、
を設けたことを特徴とする太陽電池モジュール用基材。
【請求項2】
前記絶縁樹脂は、エポキシ樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ポリイミド樹脂またはウレタン樹脂のいずれかである請求項1に記載された太陽電池モジュール用基材。
【請求項3】
前記絶縁層にはフィラーが含有されている請求項1または2に記載された太陽電池モジュール用基材。
【請求項4】
支持体の一方の面に網目状の繊維を含まない可撓性のある絶縁樹脂からなる絶縁層を被着し、
該絶縁層の支持体とは反対側の面に導電層、または水蒸気バリア性、酸素バリア性及び絶縁性を有するバリア層を設け、
その後、前記支持体を剥離して、前記絶縁層の支持体を剥離した面にバリア層または導電層を設けるようにしたことを特徴とする太陽電池モジュール用基材の製造方法。
【請求項5】
前記支持体はPETフィルムである請求項4に記載された太陽電池モジュール用基材の製造方法。
【請求項6】
更に、前記導電層に、太陽電池セルを直列に接続するための回路パターンを形成するようにした請求項4または5に記載された太陽電池モジュール用基材の製造方法。
【請求項7】
請求項4乃至6のいずれかに記載された太陽電池モジュール用基材の製造方法によって製造してなる太陽電池モジュール用基材。
【請求項8】
請求項1乃至3のいずれかに記載された太陽電池モジュール用基材と、受光面である透光性基板との間に太陽電池セルを直列に配設して封止層で封止してなることを特徴とする太陽電池モジュール。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−159725(P2011−159725A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−18974(P2010−18974)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】