説明

太陽電池モジュール

【課題】封止材の紫外線吸収剤の量を過度に増減することなく、また、特殊な原料を用いることなく、太陽光の入射スペクトル域を紫外線スペクトル域まで拡大することにより、発電効率を向上させた、太陽電池モジュールを提供する。
【解決手段】保護透明板と基板との間に、エチレン−酢酸ビニル共重合体からなる封止材層を設けた、この中に太陽電池セルを配置した構造を有し、入射光が太陽電池セルに達するまでの波長360nmにおける光線透過率が40%以上70%以下である太陽電池モジュールとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入射光線波長を紫外線領域まで拡大することにより、発電効率を向上させた太陽電池モジュールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
太陽電池モジュールは、通常、太陽受光側の保護ガラスとその反対側の耐侯性フィルムとの間に封止材層を有し、その中に太陽電池セル、例えば結晶シリコンセルを配置した積層構造構成されている。
【0003】
そして、この太陽電池モジュールの光エネルギーを電気エネルギーに変換する発電効率は、一般に太陽電池セルを構成する半導体固有の分光感度特性と入射光スペクトル範囲に依存するが、太陽光は波長300nmから2000nm又はそれ以上にわたる広いスペクトル域を有しているにもかかわらず、通常は封止材の劣化を防ぐために、保護透明板、例えば保護ガラスに酸化セリウムなどの紫外線抑制剤を加え、波長400nm以下の光をカットして利用しているのが実状である(特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、最近、太陽電池の発電効率を向上させるために、紫外線スペクトル域の波長の光線を積極的に利用する傾向があり、そのための方法もいくつか提案されている。
ところで、紫外線スペクトル域の波長の光線を受光するには、封止材の劣化を防ぐために、紫外線吸収剤を封止材に添加する必要があるが、紫外線吸収剤の抑制効果には限界があり、ある量以上増量しても所望の効果が得られなくなる。また、一般に紫外線吸収剤は低融点のため、成形に際し、サージングやロールに対する巻き付きなどのトラブルを生じる欠点がある。
【0005】
このような欠点がない紫外線スペクトル域の光線を利用する方法として、これまで光電変換層に光が入射する光路の途中に、テルビウムを含有するガラス層を設け、低波長の光線を高波長に変換する方法が提案されているが(特許文献2参照)、この方法は、特殊な原料を用いなければならないため、コスト高になるのを免れず、実用的な面で必ずしも満足できるものではない。
【0006】
【特許文献1】特開2006−186233号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献2】特開平9−298306号公報(特許請求の範囲その他)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、特に封止材の紫外線吸収剤の量を過度に増減することなく、また、特殊な原料を用いることなく、太陽光の入射スペクトル域を紫外線スペクトル域まで拡大することにより、発電効率を向上させた、太陽電池モジュールを提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、紫外線スペクトル域までの光エネルギーを有効に利用しうる太陽電池モジュールを開発するために、鋭意研究を重ねた結果、所定の波長において特定の光線透過率範囲を有するように太陽電池モジュールを構成することにより、その目的を達成しうることを見出し、その知見に基づいて本発明をなすに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、保護透明板と基板との間に、エチレン−酢酸ビニル共重合体からなる封止材層を設けた、この中に太陽電池セルを配置した構造を有し、入射光が太陽電池セルに達するまでの波長360nmにおける光線透過率が40%以上70%以下であることを特徴とする太陽電池モジュールを提供するものである。
【0010】
本発明においては、入射側に設ける保護透明板の材料としては、ガラスでもプラスチックでもよいが、通常、その中に含まれている紫外線吸収効果を有する物質を含まないか、含んでいてもその量が少ないものを用いることが必要である。
【0011】
このように、紫外線吸収効果を有する物質を含有しない透明材料を用いることにより、紫外線透過率を著しく増大させることができる。
例えば、紫外線吸収効果を有するセリウムを含むガラスは380nmの紫外線透過率は38%であるのに対し、セリウムを含まないガラスは77%であり、著しく増大する。
上記のガラスとしては、光線透過率の高いものが好ましいが、通常ケイ酸塩ガラス、ホウ酸塩ガラス、リン酸塩ガラスなどが用いられているが、特に紫外線透過ガラスとして調製されたもの、例えばメタリン酸カルシウムを主体としたものが好ましい。
また、プラスチックとしては、透明性がよく、紫外線劣化の少ないアクリル系プラスチックス、例えばポリアクリル樹脂、ABS樹脂が用いられる。
【0012】
次に、本発明における封止材としては、エチレン−酢酸ビニル共重合体(以下EVAと略記する)が用いられるが、このEVAとしては、エチレン単位50〜85質量%及び酢酸ビニル単位50〜15質量%にエチレン単位60〜75質量%及び酢酸ビニル単位40〜25質量%からなるものが好ましい。
【0013】
この封止材には、EVA100質量部当り1質量部、好ましくは0.5質量部を越えない割合で、他のエチレン系共重合体、例えばエチレンと他のα‐オレフィン系単量体との共重合体やエチレンとアクリル酸若しくはメタクリル酸アルキルとの共重合体を含有させることができる。
【0014】
上記のエチレンと他のα‐オレフィン系単量体との共重合体としては、例えばエチレンとプロピレン、1‐ブテン、1‐ペンテン、1‐ヘキセン、1‐ヘプテン、1‐オクテンなどの炭素数1〜8のアルケンとの共重合体を挙げることができるし、エチレンとアクリル酸若しくはメタクリル酸アルキルとの共重合体としては、例えばエチレンと(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n‐プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n‐ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチルなどのエチレンとアクリル酸又はメタクリル酸の炭素数4以下のアルキルエステルとの共重合体を挙げることができる。
【0015】
この封止材としては、成形性、機械的強度などの物性の面からみて、JIS K210−1999基準による190℃、2160g荷重でのメルトフローレートが1〜100g/10分、特に5〜80g/10分のものが好ましい。
【0016】
本発明においては、この封止材に紫外線吸収剤を添加することにより、光線透過率を所定の数値範囲内に調整することが必要である。
この紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系化合物、サルチレート系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物及びアクリロニトリル系化合物が知られているが、窒素原子を含む化合物は、可視光線を吸収するという欠点があるため、本発明においては、窒素原葉を含まないサルチレート系化合物、特にベンゾフェノン系化合物を用いるのが好ましい。
【0017】
このベンゾフェノン系化合物としては、例えば、2‐ヒドロキシベンゾフェノン、2‐ヒドロキシ‐4‐メトキシベンゾフェノン、2,2´‐ジヒドロキシ‐4‐メトキシベンゾフェノン、2‐ヒドロキシ‐4‐ブトキシベンゾフェノン、2‐ヒドロキシ‐4‐オクチルオキシベンゾフェノンなどがある。
【0018】
この紫外線吸収剤は、EVA100質量部当り0.01〜2質量部、好ましくは0.05〜1質量部の範囲で用いられる。
通常、地球上の太陽光線の組成は表1に示すようになっている。
【0019】
【表1】

【0020】
そして、一般に用いられる封止材では、360nm以下の紫外線は、ほとんどシャットアウトされ、太陽電池素子で利用されていないので、この波長スペクトルの光線を利用可能にすれば、理論的には発電効率は少なくとも2〜3%向上することになる。
本発明においては、波長360nmにおける光線透過率を40%以上にしたことにより、従来のものよりも発電効率を高めることができ、かつ360nmにおける光線透過率を70%以下にしたことにより、封止材その他の材料の劣化を防止することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によると、過剰の紫外線吸収剤を使用することなく、太陽光の紫外線波長スペクトルまで利用可能な太陽電池モジュールの光−電気変換効率を著しく高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
次に、本発明を実施するための最良の形態を示すが、本発明は、これによりなんら限定されるものではない。
【実施例1】
【0023】
厚さ3mmのフロートガラス(40×90mm)の間に、エチレン72質量%と酢酸ビニル28質量%との共重合体100質量部と2‐ヒドロキシ‐4‐オクチルオキシベンゾフェノン0.1質量部とからなる厚さ0.45mmの封止材層を間挿し積層させた。
この積層体の一方から太陽光を照射し、各波長ごとの透過率を測定し、その結果をグラフAとして図1に示す。
次に、比較のために、これまでの太陽電池モジュールに用いられていたガラスと封止材との積層体2種についても同様の試験を行い、それぞれグラフB、グラフCとして図1に示した。グラフBはEVAに紫外線吸収機能を付与していないもの、グラフCは従来品で360nm以下の紫外線を80%以上カットしたものである。
【0024】
次に、これらと同じ太陽電池用カバーガラス及び封止材を用い、かつ太陽電池セルとして同じ発電効率を持つ結晶シリコンセルを複数枚用いて、それぞれの発電量を測定したところ、Aは172W、Bは174W、Cは170Wであった。Bは発電効率は最も大きいが、JIS C−8917に従って行う光照射試験後に封止材が着色し、使用不可能となった。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明の太陽電池モジュールは、高変換効率の太陽電池として、有用である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に用いるガラスと封止材との積層体及び従来の太陽電池に用いられているガラスと封止材との積層体についての入射線波長と透過率との関係を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
保護透明板と基板との間に、エチレン−酢酸ビニル共重合体からなる封止材層を設けた、この中に太陽電池セルを配置した構造を有し、入射光が太陽電池セルに達するまでの波長360nmにおける光線透過率が40%以上70%以下であることを特徴とする太陽電池モジュール。
【請求項2】
エチレン−酢酸ビニル共重合体がエチレン単位50〜85質量%である請求項1記載の太陽電池モジュール。

【図1】
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【公開番号】特開2008−235610(P2008−235610A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−73667(P2007−73667)
【出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(593140255)サンビック株式会社 (12)
【Fターム(参考)】