説明

太陽電池用導体及び太陽電池用導体の製造方法

【課題】太陽電池セルの割れを抑え、かつ、屈曲疲労特性に優れる太陽電池用導体及び太陽電池用導体の製造方法を提供する。
【解決手段】太陽電池用導体は、Mg、Zr、Nb、Ca、V、Ni、Mn、Ti、Crの少なくとも一種を含む添加元素と、2massppmを超える量の酸素と、不可避的不純物を含む純銅と、を含み、0.2%耐力値が55MPa以下であり、かつ、伸び率が25%以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池用導体及び太陽電池用導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の技術として、平角状に形成された導体の表面の一部又は全部にはんだめっきが被覆され、導体の引張り試験における0.2%耐力値が90MPa以下であり、かつ導体の結晶粒径が20μm以上300μm以下である太陽電池用はんだめっき線が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
この太陽電池用はんだめっき線によれば、導体のはんだ接合時における加熱プロセスや、太陽電池使用時における温度変化による太陽電池セルの割れが生じにくく、導体のクラックの発生の問題についても優れた効果を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2005/114751号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、更なる太陽電池の低コスト化を考慮すると、コスト高の要因となっている現状300μm厚さの太陽電池セルを更に薄型化する傾向が顕著になると共に、太陽電池セルの割れの問題がさらに顕在化すると考えられる。太陽電池用導体は、現状でははんだを被覆した状態で60MPa程度の低耐力のものが開発されているが、太陽電池セルの薄型化により、さらに低耐力化していくことが求められる。一方で、太陽電池用導体は、低耐力が進むことで、熱処理条件を高温長時間にする必要があるが、結晶粒の粗大化が進み、導体の脱化が進み、屈曲疲労特性の面で劣る問題がある。
【0006】
したがって、本発明の目的は、太陽電池セルの割れを抑え、かつ、屈曲疲労特性に優れる太陽電池用導体及び太陽電池用導体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するため、Mg、Zr、Nb、Ca、V、Ni、Mn、Ti、Crの少なくとも一種を含む添加元素と、2mass ppmを超える量の酸素と、不可避的不純物を含む純銅と、を含み、0.2%耐力値が55MPa以下であり、かつ、伸び率が25%以上である太陽電池用導体を提供する。
【0008】
また、上記太陽電池用導体は、4〜25mass ppmのTiと、3〜12mass ppmの硫黄と、を含むことが好ましい。
【0009】
本発明は、上記目的を達成するため、2mass ppmを超える量の酸素を含有し、添加元素を含む希薄銅合金材料を1100℃以上1320℃以下の溶銅温度で溶湯にする溶湯製造工程と、溶湯からワイヤロッドを作製するワイヤロッド作製工程と、ワイヤロッドに880℃以下550℃以上の温度で熱間圧延を施す熱間圧延工程と、熱間圧延工程を経たワイヤロッドに伸線加工を施して導体を作製する導体作製工程と、を備える太陽電池用導体の製造方法を提供する。
【0010】
上記太陽電池用導体の製造方法において、添加元素が、Mg、Zr、Nb、Ca、V、
Ni、Mn、Ti、Crの少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0011】
上記太陽電池用導体の製造方法において、添加元素が、4〜25mass ppmのTiと、3〜12mass ppmの硫黄とを含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、太陽電池セルの割れを抑え、かつ、屈曲疲労特性に優れる太陽電池用導体及び太陽電池用導体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、TiS粒子のSEM象を示す図である。
【図2】図2は、図1の分析結果を示す図である。
【図3】図3は、TiO2粒子のSEM像を示す図である。
【図4】図4は、図3の分析結果を示す図である。
【図5】図5は、Ti―O―S粒子のSEM像を示す図である。
【図6】図6は、図5の分析結果を示す図である。
【図7】図7は、屈曲疲労試験の概略を示す図である。
【図8】図8は、400℃で1時間の焼鈍処理を施した後の、無酸素銅線を用いた比較材13と低酸素銅にTiを添加した軟質希薄銅合金線を用いた実施材7における屈曲寿命を測定したグラフである。
【図9】図9は、600℃で1時間の焼鈍処理を施した後の、無酸素銅線を用いた比較材14と低酸素銅にTiを添加した軟質希薄銅合金線を用いた実施材8における屈曲寿命を測定したグラフである。
【図10】図10は、実施材8の幅方向の断面組織の写真を表したものである。
【図11】図11は、比較材14の試料の幅方向の断面組織の写真を表したものである。
【図12】図12は、試料の表層における平均結晶粒サイズの測定方法について説明するための図面である。
【図13】図13は、実施例2に係る太陽電池用導体を用いた太陽電池モジュールの概略図である。
【図14】図14は、実施材9の幅方向の断面組織の写真を表したものである。
【図15】図15は、比較材15の試料の幅方向の断面組織の写真を表したものである。
【図16】図16は、焼鈍温度(℃、1h)と伸び(%)の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(太陽電池用導体の製造方法の概要)
本実施の形態に係る太陽電池用導体の製造方法の概要は以下のとおりである。まず、2mass ppmを超える量の酸素を含有し、添加元素を含む希薄銅合金材料を準備する(原料準備工程)。次に、この希薄銅合金材料を1100℃以上1320℃以下の鋳造温度で溶湯にする(溶湯製造工程)。次に、溶湯からワイヤロッドを作製する(ワイヤロッド作製工程)。次に、ワイヤロッドに880℃以下550℃以上の温度で熱間圧延を施す(熱間圧延工程)。次に、熱間圧延工程を経たワイヤロッドに伸線加工を施して導体を作製する(導体作製工程)。これにより、本実施の形態に係る太陽電池用導体として、0.2%耐力値が55MPa以下であり、かつ、伸び率が25%以上である導体が製造される。
【0015】
以下、本発明の好適な一実施の形態を詳述する。
【0016】
図1は、TiS粒子のSEM象を示す図である。図2は、図1の分析結果を示す図である。図3は、TiO2粒子のSEM像を示す図である。図4は、図3の分析結果を示す図である。図5は、Ti―O―S粒子のSEM像を示す図である。図6は、図5の分析結果を示す図である。
【0017】
先ず、本実施の形態に係る太陽電池用導体は、導電率98%IACS(万国標準軟銅(InternationalAnneldCopperStandard)抵抗率1.7241×10-8Ωmを100%とした導電率)、100%IACS、さらには102%IACSを満足する軟質型銅材としての軟質希薄銅合金材料を用いて構成される。SCR連続鋳造設備を用い、表面傷が少なく、製造範囲が広く、安定生産が可能である。また、ワイヤロッドに対する加工度90%(例えばφ8mm→φ2.6mm)での軟化温度が148℃以下の材料の開発にある。
【0018】
以下、本実施の形態に係る太陽電池用導体の実現において、本発明者が検討した内容を説明する。まず、高純度銅(6N、純度99.9999%)に関しては、加工度90%での軟化温度は130℃である。したがって安定生産が可能な130℃以上で148℃以下の軟化温度で軟質材の導電率が98%IACS以上、100%IACS以上、さらに導電率が102%IACS以上である軟質銅を安定して製造できる軟質希薄銅合金材料としての素材とその製造条件を求めることを検討した。
【0019】
ここで、酸素濃度1〜2mass ppmの高純度銅(4N)を用い、実験室にて小型連続鋳造機(小型連鋳機)を用いて、溶湯にチタンを数mass ppm添加した溶湯から製造したφ8mmのワイヤロッドをφ2・6mm(加工度90%)にして軟化温度を測ると160〜168℃であり、これ以上低い軟化温度にはならない。また、導電率は、101.7%IACS程度である。よって、酸素濃度を低くして、Tiを添加しても、軟化温度を下げることができず、また高純度銅(6N)の導電率102.8%IACSよりも悪くなることがわかった。
【0020】
この原因は、溶湯の製造中に不可避的不純物として、硫黄を数mass ppm以上含み、この硫黄とチタンとでTiS等の硫化物が十分形成されないために、軟化温度が下がらないものと推測される。
【0021】
そこで、本実施の形態では、軟化温度を下げることと、導電率を向上させるために、2つの方策を検討し、2つの効果を合わせることで目標を達成した。
【0022】
(a)素材の酸素濃度を2mass ppmを超える量に増やしてチタンを添加する。これにより、先ず溶銅中ではTiSとチタン酸化物(TiO2)やTi−O−S粒子が形成されると考えられる(図1、図3のSEM像と図2、図4の分析結果参照)。なお、図2、図4、図6において、白金(Pt)及びパラジウム(Pd)は観察のための蒸着元素である。
【0023】
(b)次に熟間圧延温度を、通常の銅の製造条件(950〜600℃)よりも低く設定(880〜550℃)することで、銅中に転位を導入し、Sが析出し易いようにする。これによって転位上へのSの析出又はチタンの酸化物(TiO2)を核としてSを析出させ、その一例としてTi−O−S粒子等を形成させる(図5のSEM像と、図6の分析結果参照)。図1〜図6は、表1の実施例1の上から三段目に示す酸素濃度、硫黄濃度、Ti濃度をもつφ8mmの銅線(ワイヤロッド)の横断面をSEM観察及びEDX分析にて評価したものである。観察条件は、加速電圧15KeV、エミッション電流10μAとした。
【0024】
(a)と(b)により、銅中の硫黄が晶出と析出を行い、冷間伸線加工後に軟化温度と導電率を満足する銅ワイヤロッドができる。
【0025】
次に、本発明では、SCR連続鋳造設備で製造条件の制限として(1)〜(4)を制限した。
【0026】
(1)組成について
本実施の形態に係る太陽電池用導体は、Mg、Zr、Nb、Ca、V、Ni、Mn、Ti、Crの少なくとも一種を含む添加元素と、2mass ppmを超える量の酸素と、不可避的不純物を含む純銅と、を含み、0.2%耐力値が55MPa以下であり、かつ、伸び率が25%以上である。また、添加元素として、Mg、Zr、Nb、Ca、V、Ni、Mn、Ti及びCrからなる群から選択されたものを選んだ理由は、これらの元素は他の元素と結合しやすい活性元素であり、Sと結合しやすいためSをトラップすることができ、銅母材(マトリクス)を高純度化することができるためである。添加元素は1種類以上含まれていてもよい。また、合金の性質に悪影響を及ぼすことのないその他の元素および不純物を合金に含有させることもできる。
【0027】
また、以下に説明する好適な実施の形態においては、酸素含有量が2を超え30mass ppm以下が良好であることを説明しているが、添加元素の添加量およびSの含有量によっては、合金の性質を備える範囲において、2mass ppmを超え400mass ppm以下を含むことができる。
【0028】
導電率が98%IACS以上の軟質銅材を得る場合、不可避的不純物を含む純銅(べ一ス素材)が、3〜12mass ppmの硫黄と、2を超えて30mass ppm以下の酸素と、Tiを4〜55mass ppm含む軟質希薄銅合金材料でワイヤロッド(荒引き線)を製造するものである。2mass ppmを超え30mass ppm以下の酸素を含有していることから、この実施の形態では、いわゆる低酸素銅(LOC)を対象としている。
【0029】
ここで、導電率が100%IACS以上の軟質銅材を得る場合には、不可避的不純物を含む純銅に2〜12mass ppmの硫黄と、2を超えて30mass ppm以下の酸素とTiを4〜37mass ppm含む軟質希薄銅合金材料でワイヤロッドとするのがよい。
【0030】
さらに、導電率が102%IACS以上の軟質銅材を得る場合、不可避的不純物を含む純銅に3〜12mass ppmの硫黄と、2を超えて30mass ppm以下の酸素と、Tiを4〜25mass ppm含む軟質希薄銅合金材料でワイヤロッドとするのがよい。
【0031】
通常、純銅の工業的製造において、電気銅を製造する際に、硫黄が銅中に取り込まれてしまうため、硫黄を3mass ppm以下とするのは難しい。汎用電気銅の硫黄濃度上限は12mass ppmである。
【0032】
制御する酸素は、上述したように、少ないと軟化温度が下がり難いので2mass ppmを超える量とする。また酸素が多すぎると、熱間圧延工程で、表面傷が出やすくなるので30mass ppm以下とする。
【0033】
(2)分散している物質について
分散粒子のサイズは小さく沢山分布することが望ましい。その理由は、硫黄の析出サイトとして働くためサイズが小さく数が多いことが要求される。
【0034】
硫黄及びチタンは、TiO、TiO2、TiS、Ti−O−Sの形で化合物または、凝集物を形成し、残りのTiとSが固溶体の形で存在している。TiOのサイズが200nm以下、TiO2は1000nm以下、TiSは200nm以下、Ti−O−Sは300nm以下で結晶粒内に分布している軟質希薄銅合金材料とする。
【0035】
但し、鋳造時の溶銅の保持時間や冷却状況により、形成される粒子サイズが変わるので鋳造条件の設定も必要である。
【0036】
(3)鋳造条件について
SCR連読鋳造圧延により、鋳造ロッドの加工度が90%(30mm)〜99.8%(5mm)でワイヤロッドを造る、一例として、加工度99.3%でφ8mmワイヤロッドを造る方法を用いる。
【0037】
(a)溶解炉内での溶銅温度は、1100℃以上1320℃以下とする。溶銅の温度が高いとブローホールが多くなり、傷が発生するとともに粒子サイズが大きくなる傾向にあるので1320℃以下とする。1100℃以上としたのは、銅が固まりやすく製造が安定しないためであるが、溶銅温度は、出来るだけ低い温度が望ましい。
【0038】
(b)熱間圧延温度は、最初の圧延ロールでの温度が880℃以下、最終圧延ロールでの温度が550℃以上とする。
【0039】
通常の純銅製造条件と異なり、溶銅中での硫黄の晶出と熱間圧延中の硫黄の析出が課題であるので、その駆動力である固溶限をより小さくするためには、溶銅温度と熱間圧延温度を(a)、(b)とするのがよい。
【0040】
通常の熱間圧延温度は、最初の圧延ロールでの温度が950℃以下、最終圧延ロールでの温度が600℃以上であるが、固溶限をより小さくするためには、本実施の形態では、最初の圧延ロールでの温度が880℃以下、最終圧延ロールでの温度が550℃以上に設定する。
【0041】
直径φ8mmサイズのワイヤロッドの導電率が98%IACS以上、100%IACS、さらに102%IACS以上であり、冷間伸線加工後の線材(例えば、φ2.6mm)の軟化温度が130℃〜148℃である軟質希薄銅合金線または板状材料を得ることができる。
【0042】
工業的に使うためには、電解銅から製造した工業的に利用される純度の軟質銅線にて98%IACS以上必要であり、軟化温度はその工業的価値から見て148℃以下である。Tiを添加しない場合は、160〜165℃である。Cu(6N)の軟化温度は127〜130℃であったので、得られたデータから限界値を130℃とする。このわずかな違いは、Cu(6N)にない不可避的不純物にある。
【0043】
導電率は、無酸素銅のレベルで101.7%IACS程度であり、Cu(6N)で102.8%IACSであるため、出来るだけCu(6N)に近い導電率であることが望ましい。
【0044】
ベース材の銅はシャフト炉で溶解の後、還元状態の樋になるように制御した、すなわち還元ガス(CO)雰囲気下で、希薄銅合金の構成元素の硫黄濃度、Ti濃度、酸素濃度を制御して鋳造し、圧延するワイヤロッドを安定して製造する方法がよい。銅酸化物の混入や粒子サイズが大きいので品質を低下させる。
【0045】
なお、純銅に添加される添加元素は、Mg、Zr、Nb、Ca、V、Ni、Mn、Ti、Crの少なくとも一種を含んでもよい。
【0046】
ここで、添加元素としてTiを選択した理由は次の通りである。
【0047】
(a)Tiは溶融銅の中で硫黄と結合し化合物を造りやすいためである。
【0048】
(b)Zrなど他の添加元素に比べて加工でき扱いやすい。
【0049】
(c)Nbなどに比べて安価である。
【0050】
(d)酸化物を核として析出しやすいからである。
【0051】
以上により、生産性が高く、導電率、軟化温度、表面品質に優れた実用的な軟質希薄銅合金材料を得ることが可能となる。
【0052】
また、本実施の形態の軟質希薄銅合金線の表面にめっき層を形成してもよい。めっき層としては、例えば、錫、ニッケル、銀を主成分とするものを適用可能であり、いわゆるPbフリーめっきを用いてもよい。
【0053】
また、上述の実施の形態では、SCR連続鋳造圧延法によりワイヤロッドを作製し、熱間圧延にて軟質材を作製する例で説明したが、本発明は、双ロール式連続鋳造圧延法またはプロペルチ式連続鋳造圧延法により製造するようにしても良い。以下に、上記の実施の形態に係る実施例1について説明する。
【0054】
(実施例1)
表1は実験条件と結果に関するものである。
【0055】
【表1】

【0056】
先ず、実験材として、表1に示した酸素濃度、硫黄濃度、Ti濃度で、φ8mmの銅線(ワイヤロッド):加工度99.3%をそれぞれ作製した。φ8mmの銅線は、SCR連続鋳造圧延により、熱間圧延加工を施したものである。Tiは、シャフト炉で溶解された銅溶湯を還元ガス雰囲気で樋に流し、樋に流した銅溶湯を同じ還元ガス雰囲気の鋳造ポットに導き、この鋳造ポットにて、Tiを添加した後、これをノズルを通して鋳造輪と無端ベルトとの間に形成される鋳型にて鋳塊ロッドを作成した。この鋳塊ロッドを熱間圧延加工してφ8mmの銅線を作成したものである。その実験材を冷間伸線して、φ2.6mmのサイズにおける半軟化温度と導電率を測定し、またφ8mmの銅線における分散粒子サイズを評価した。
【0057】
酸素濃度は、酸素分析器(レコ(Leco;商標)酸素分析器)で測定した。硫黄、Tiの各濃度はICP発光分光分析器で分析した結果である。
【0058】
φ2.6mmのサイズにおける半軟化温度の測定は、400℃以下で各温度1時間の保持後、水中急冷し、引張試験を実施しその結果から求めた。室温での引張試験の結果と400℃で1時間のオイルバス熱処理した軟質銅線の引張試験の結果を用いて求め、この2つの引張試験の引張強さを足して2で割った値を示す強度に対応する温度を半軟化温度と定義し求めた。
【0059】
分散粒子のサイズは小さく沢山分布することが望ましい。その理由は、硫黄の析出サイトとして働くためサイズが小さく数が多いことが要求される。すなわち直径500nm以下の分散粒子が90%以上である場合を合格とした。ここに「サイズ」とは化合物のサイズであり、化合物の形状の直径と短径のうちの長径のサイズを意味する。また、「粒子」とは、前記TiO、TiO2、TiS、Ti−O−Sのことを示す。また、「90%」とは、全体の粒子数に対しての該当粒子数の割合を示すものである。
【0060】
表1において、比較材1は、実験室でAr雰囲気において直径φ8mmの銅線を試作した結果であり、銅溶湯にTiを、0〜18mass ppm添加したものである。
【0061】
このTi添加で、Ti添加量ゼロの半軟化温度215℃に対して、13mass ppmは160℃まで低下して最小となり、15mass ppm及び18mass ppmの添加量では高くなっており、要望の軟化温度148℃以下にはならなかった。しかし工業的に要望がある導電率は98%IACS以上であり満足していたが、総合評価は×であった。
【0062】
そこで、次にSCR連続鋳造圧延法にて、酸素濃度を7〜8mass ppmに調整してφ8mm銅線(ワイヤロッド)の試作を行った。
【0063】
比較材2は、SCR連続鋳造圧延法で試作した中でTi濃度の少ないもの(0.2mass ppm)であり、導電率は102%IACS以上であるが、半軟化温度が164℃及び157℃であり、要求の148℃以下を満足しないので、総合評価で、×となった。
【0064】
実施材1については、酸素濃度と硫黄が、ほぼ一定(7〜8mass ppm、5mass ppm)、Ti濃度の異なる(4〜55massppm)試作材の結果である。
【0065】
このTi濃度4〜55mass ppmの範囲では、軟化温度148℃以下であり、導電率も98%IACS以上、102%IACS以上であり、分散粒子サイズも500μm以下の粒子が90%以上であり良好である。そしてワイヤロッドの表面もきれいであり、いずれも製品性能として満足している(総合評価○)。
【0066】
ここで、導電率100%IACS以上を満たすものは、Ti濃度が4〜37mass ppmのときであり、102%IACS以上を満たすものは、Ti濃度が4〜25mass ppmのときである。Ti濃度が13mass ppmのとき導電率が最大値である102.4%IACSを示し、この濃度の周辺では、導電率は、僅かに低い値であった。これは、Tiが13mass ppmのときに、銅中の硫黄分を化合物として捕捉することで、高純度銅(6N)に近い導電率を示したためである。
【0067】
よって、酸素濃度を高くし、添加元素としてTiを添加することで、半軟化温度と導電率の双方を満足させることができる。
【0068】
比較材3は、Ti濃度を60mass ppmと高くした試作材である。この比較材3は、導電率は要望を満足しているが、半軟化温度は148℃以上であり、製品性能を満足していない。さらにワイヤロッドの表面傷も多い結果であり、製品にすることは難しかった。よって、Tiの添加量は60mass ppm未満がよい。
【0069】
次に実施材2については、硫黄濃度を5mass ppmとし、Ti濃度を13〜10mass ppmとし、酸素濃度を変えて、酸素濃度の影響を検討した試作材である。
【0070】
酸素濃度に関しては、2を超え30mass ppm以下まで、大きく濃度が異なる試作材とした。但し、酸素が2mass ppm以下は、生産が難しく安定した製造できないため、総合評価は△とした。また酸素濃度を30mass ppmと高くしても半軟化温度と導電率の双方を満足することがわかった。
【0071】
また比較材4に示すように、酸素が40mass ppmの場合には、ワイヤロッド表面の傷が多く、製品にならない状況であった。
【0072】
よって、酸素濃度が2を超え30mass ppm以下の範囲とすることで、半軟化温度、導電率102%IACS以上、分散粒子サイズいずれの特性も満足させることができ、またワイヤロッドの表面もきれいであり、いずれも製品性能を満足させることができる。
【0073】
次に実施材3は、それぞれ酸素濃度とTi濃度とを比較的同じ近い濃度とし、硫黄濃度を4〜20mass ppmと変えた試作材の例である。この実施材3においては、硫黄が2mass ppmより少ない試作材は、その原料面から実現できなかったが、Tiと硫黄の濃度を制御することで、半軟化温度と導電率の双方を満足させることができる。
【0074】
比較材5の硫黄濃度が18mass ppmで、Ti濃度が13mass ppmの場合には、半軟化温度が162℃で高く、必要特性を満足できなかった。また、特にワイヤロッドの表面品質が悪いので、製品化は難しかった。
【0075】
以上より、硫黄濃度が2〜12mass ppmの場合には、半軟化温度、導電率102%IACS以上、分散粒子サイズいずれの特性も満足しており、ワイヤロッドの表面もきれいですべての製品性能を満足することがわかった。
【0076】
また比較材6としてCu(6N)を用いた検討結果を示したが、半軟化温度127〜130℃であり、導電率も102.8%IACSであり、分散粒子サイズも、500μm以下の粒子はまったく認められなかった。
【0077】
【表2】

【0078】
表2は、製造条件としての、溶融銅の温度と圧延温度を示したものである。
【0079】
比較材7は、溶銅温度が高めの1330〜1350℃で、かつ圧延温度が950〜600℃でφ8mmのワイヤロッドを試作した結果を示したものである。
【0080】
この比較材7は、半軟化温度と導電率は満足するものの、分散粒子のサイズに関しては、1000μm程度のものもあり500μm以上の粒子も10%を超えていた。よってこれは不適とした。
【0081】
実施材4は、溶銅温度が1200〜1320℃で、かつ圧延温度が低めの880〜550℃でφ8mmのワイヤロッドを試作した結果を示したものである。この実施材4については、ワイヤ表面品質、分散粒子サイズも良好で、総合評価は○であった。
【0082】
比較材8は、溶銅温度が1100℃で、かつ圧延温度が低めの880〜550℃でφ8mmのワイヤロッドを試作した結果を示したものである。この比較材8は、溶銅温度が低いため、ワイヤロッドの表面傷が多く製品には適さなかった。これは、溶銅温度が低いため、圧延時に傷が発生しやすいためである。
【0083】
比較材9は、溶銅温度が1300℃で、かつ圧延温度が高めの950〜600℃でφ8mmのワイヤロッドを試作した結果を示したものである。この比較材9は、熱間圧延温度が高いため、ワイヤロッドの表面品質が良いが、分散粒子サイズも大きなものがあり、総合評価は×となった。
【0084】
比較材10は、溶銅温度が1350℃で、かつ圧延温度が低めの880〜550℃でφ8mmのワイヤロッドを試作した結果を示したものである。この比較材10は、溶銅温度が高いため、分散粒子サイズが大きなものがあり、総合評価は×となった。
【0085】
(軟質希薄銅合金線の軟質特性)
表3は、無酸素銅線を用いた比較材11と低酸素銅に13mass ppmのTiを含有した軟質希薄銅合金線を用いた実施材5とを試料とし、異なる焼鈍温度で1時間の焼鈍を施したもののビッカース硬さ(Hv)を検証した表である。
【0086】
実施材5は、表1の実施材1に記載した合金組成と同じものを使用した。なお、試料としては、2.6mm径の試料を用いた。この表によると、焼鈍温度が400℃のときに比較材11と実施材5とのビッカース硬さ(Hv)は同等レベルとなり、焼鈍温度が600℃でも同等のビッカース硬さ(Hv)を示している。このことから、本実施例の軟質希薄銅合金線は十分な軟質特性を有するとともに、無酸素銅線と比較しても、特に焼鈍温度が400℃を超える領域においては優れた軟質特性を備えていることがわかる。
【0087】
【表3】

【0088】
(軟質希薄銅合金線の耐力及び屈曲寿命についての検討)
表4は、無酸素銅線を用いた比較材12と低酸素銅に13mass ppmのTiを含有した軟質希薄銅合金線を用いた実施材6を試料とし、異なる焼鈍温度で1時間の焼鈍を施したものの0.2%耐力値の推移を検証した表である。なお、試料としては、2.6mm径の試料を用いた。
【0089】
この表によると、焼鈍温度が400℃のときに比較材12と実施材6の0.2%耐力値が同等レベルであり、焼鈍温度600℃では実施材6も比較材12もほぼ同等の0.2%耐力値となっていることがわかる。
【0090】
【表4】

【0091】
次に、本実施例に係る軟質希薄銅合金線は、屈曲寿命の高さが要求されるが、無酸素銅線を用いた比較材13と低酸素銅にTiを添加した軟質希薄銅合金線を用いた実施材7における屈曲寿命を測定した結果を図8に表す。ここでは試料としては、0.26mm径の線材に対して焼鈍温度400℃で1時間の焼鈍を施したものを用い、比較材13は比較材11と同様の成分組成であり、実施材7も実施材5と同様の成分組成のものを使用した。
【0092】
図7は、屈曲疲労試験の概略を示す図である。ここに、屈曲寿命の測定方法は、屈曲疲労試験により行った。屈曲疲労試験は、荷重を負荷し、試料表面に引張と圧縮の繰返し曲げひずみを与える試験である。屈曲疲労試験は、図7に示す屈曲試験装置を用いて行った。試料は、(A)のように曲げ治具(図中リングと記載)の間にセットし荷重を負荷したまま、(B)のように治具が90度回転し曲げを与える。この操作で、曲げ治具に接している線材表面には、圧縮ひずみが、これに対応して反対側の表面には、引張ひずみが負荷される。その後、再び(A)の状態に戻る。次に(B)に示した向きと反対方向に90度回転し曲げを与える。この場合も、曲げ治具に接している線材表面には、圧縮ひずみが、これに対応して反対側の表面には、引張ひずみが負荷され(C)の状態になる。そして(C)から最初の状態(A)に戻る。この屈曲疲労1サイクル(A)(B)(A)(C)(A)に要する時間は4秒である。表面曲げ歪は以下の式(1)により求めることができる。
表面曲げ歪(%)=r/(R+r)×100(%)・・・(1)
R:素線曲げ半径(30mm)、r=素線半径
【0093】
図8は、400℃で1時間の焼鈍処理を施した後の、無酸素銅線を用いた比較材13と低酸素銅にTiを添加した軟質希薄銅合金線を用いた実施材7における屈曲寿命を測定したグラフである。
【0094】
図8に示す実験データによると、本実施例に係る実施材7は比較材13に比して高い屈曲寿命を示した。
【0095】
図9は、600℃で1時間の焼鈍処理を施した後の、無酸素銅線を用いた比較材14と低酸素銅にTiを添加した軟質希薄銅合金線を用いた実施材8における屈曲寿命を測定したグラフである。
【0096】
図9は、無酸素銅線を用いた比較材14と低酸素銅にTiを添加した軟質希薄銅合金線を用いた実施材8における屈曲寿命を測定した結果である。ここでは試料としては、0.26mm径の線材に対して焼鈍温度600℃で1時間の焼鈍を施したものを用い、比較材14は比較材11と同様の成分組成であり、実施材8も実施材5と同様の成分組成のものを使用した。屈曲寿命の測定方法は、図8の測定方法と同様の条件により行った。この場合も、本実施例に係る実施材8は比較材14に比して高い屈曲寿命を示した。この結果は、いずれの焼鈍条件下においても実施材7、8の方が比較材13、14に比して0.2%耐力値が大きい値を示していたことに起因するものであると理解される。
【0097】
(軟質希薄銅合金線の結晶構造についての検討)
また、図10は、実施材8の試料の幅方向の断面組織の写真を表したものである。図11は、比較材14の幅方向の断面組織の写真を表したものである。図12は、試料の表層における平均結晶粒サイズの測定方法について説明するための図面である。図11は、比較材14の結晶構造を示し、図10は実施材8の結晶構造を示す。
【0098】
図11に示すように、比較材14の結晶構造は、表面部から中央部にかけて全体的に大きさの等しい結晶粒が均一に並んでいることがわかる。これに対し、図10に示すように、実施材8の結晶構造は、全体的に結晶粒の大きさがまばらであり、特筆すべきは、試料の断面方向の表面付近に薄く形成されている層における結晶粒サイズが内部の結晶粒サイズに比べて極めて小さくなっていることである。
【0099】
発明者らは、比較材14には形成されていない、表層に現れた微細結晶粒層が実施材8の屈曲特性の向上に寄与しているものと考えている。このことは、通常であれば、焼鈍温度600℃で1時間の焼鈍処理を行えば、比較材14のように再結晶により均一に粗大化した結晶粒が形成されるものであると理解されるが、本実施例の場合には、焼鈍温度600℃で1時間の焼鈍処理を行ってもなお、その表層には微細結晶粒層が残存していることから、軟質銅材でありながら、屈曲特性の良好な軟質希薄銅合金材料が得られたものであると考えられる。
【0100】
そして、図10及び図11に示す結晶構造の断面写真をもとに、実施材8及び比較材14の試料の表層における平均結晶粒サイズを測定した。ここに、表層における平均結晶粒サイズの測定方法は、図12に示すように、0.26mm径の幅方向断面の表面から深さ方向に10μm間隔で50μmの深さまでのところの長さ1mmの線上の範囲での結晶粒サイズを測定した夫々の実測値を平均した値を表層における平均結晶粒サイズとした。
【0101】
測定の結果、比較材14の表層における平均結晶粒サイズは、50μmであったのに対し、実施材8の表層における平均結晶粒サイズは、10μmである点で大きく異なっていた。表層の平均結晶粒サイズが細かいことによって、屈曲疲労試験による亀裂の進展が抑制され、屈曲疲労寿命が延びたと考えられる(結晶粒サイズが大きいと結晶粒界に沿って亀裂が進展してしまうが、結晶粒サイズが小さいと亀裂の進展の方向が変わるため、進展が抑制される)。このことが、上述のとおり、比較材と実施材との屈曲特性の面で大きな相違を生じたものと考えられる。
【0102】
また、2.6mm径である実施例6、比較例12の表層における平均結晶粒サイズは、2.6mm径の幅方向断面の表面から深さ方向に50μmの深さのところの長さ10mmの範囲での結晶粒サイズを測定した。
【0103】
測定の結果、比較材12の表層における平均結晶粒サイズは、100μmであったのに対し、実施材6の表層における平均結晶粒サイズは、20μmであった。
【0104】
従って、本実施の形態に係る導体として、表層の平均結晶粒サイズの上限値としては、20μm以下のものが好ましく、製造上の限界値から5μm以上のものが好ましい。以下に、実施の形態に係る導体を太陽電池用導体に適用した実施例2について説明する。
【0105】
(実施例2)
図13は、実施例2に係る太陽電池用導体を用いた太陽電池モジュールの概略図である。実施例2は、実施の形態に係る製造方法により作製された導体を太陽電池用導体として使用するものである。
【0106】
(太陽電池モジュール1の構成の概略)
この太陽電池モジュール1は、図13に示すように、複数のストリング2を、太陽電池用導体としての平角線4を用いて電気的に接続することでモジュール化して概略構成されている。
【0107】
ストリング2は、例えば、隣接する結晶シリコンを用いて作製される太陽電池セル3の負集電電極と正集電電極とは、平角線4により接続される。
【0108】
平角線4は、例えば、断面を概略矩形状に加工した銅からなる導体の周囲にはんだ材料をコートしたものである。平角線4は、例えば、周囲にコートされたはんだ材料を利用して太陽電池セル3の負集電電極と正集電電極とに接合される。
【0109】
平角線4を構成する導体の断面サイズは、一例として、幅が1〜3mm程度、厚さが0.15〜0.3mm程度である。平角線4は、はんだ材料の固相線温度において負集電電極と正集電電極とに接合される。
【0110】
この平角線4は、例えば、太陽電池セル3を直列に接続してモジュール化するために、一の平角線4は、並設した太陽電池セル3の幅とほぼ同じ幅になるように構成されている。平角線4は、一方の太陽電池セル3の表面に接続され、途中がシリコンセル間で折り曲げられて、他方の太陽電池セル3の裏面に接続される。
【0111】
(実施例2の試料1〜試料3について)
実施例2の試料1〜試料3は、表1に示す実施材1の上から3番目の素材を使用して作成した素線にSnめっきを施し、これを幅2.0mm、厚さ0.16mmに圧延して平角導体とし、この導体の熱処理条件を変えてそれぞれ作製されている。
【0112】
試料1は、850℃で40分の熱処理を施して作製される。試料2は、750℃で40分の熱処理を施して作製される。試料3は、650℃で60分の熱処理を施して作製される。
【0113】
試料1〜試料3は、熱処理後の導体の0.2%耐力値を調べた。また、熱処理後の導体の周囲に錫(Sn)が3%、銀(Ag)が0.5%のCu系の鉛フリーはんだで被覆してはんだめっき膜を設け、はんだ被覆Cu平角線の0.2%耐力値を調べた。
【0114】
試料1〜試料3の製造方法は、溶銅温度1320℃で、かつ圧延温度が880℃〜550℃でφ8mmのワイヤロッドを作成し、さらにこれを伸線加工して直径32μmの素線を得たものである。
【0115】
(比較例の試料4〜試料6について)
比較例の試料4〜試料6は、導体として、無酸素銅(OFC)を用いたこと以外は、実施例2と同様の条件で作製されている。
【0116】
(評価について)
導体(銅箔)の疲労寿命は、屈曲寿命試験により評価した。屈曲寿命試験は、太陽電池用配線部品と同じ熟履歴を受けた銅箔サンプルについて実施した。銅箔サンプルのサイズは、幅10mm、長さ約500mmとした。
【0117】
屈曲寿命試験は、図7に示す屈曲試験機に銅箔サンプルをセットし錘を取付けた後、曲げ治具を左右90度で反復回転させることにより実施した。
【0118】
周期1回分の治具の動作は、初期位置→90度右回転→90度左回転(初期位置)→90度左回転→90度右回転(初期位置)とした。銅箔サンプルが破断した時の回数を屈曲寿命とし、20000回以上の屈曲寿命が得られることを目標として試験を実施した。
【0119】
曲げ治具の曲げ半径Rは、次式(2)に示す曲げひずみが0.25%になるようにした。
曲げひずみ={d/(2R十d)}×100(%)・・・(2)
ここで、dは、銅箔サンプルの厚さである。
【0120】
屈曲試験の評価において、表5及び表6に示す丸記号は、比較例の各試料を基準に対応する実施例2の試料の屈曲寿命が、対応する比較例の試料を超えていた場合を指す。三角記号は、比較例と同等のものとした。
【0121】
なお、太陽電池セルのシリコン基板のクラック発生の評価においては、丸記号は、クラック発生なしの場合とした。以下に示す表5は、実施例2の評価結果を示すものであり、表6は、比較例の評価結果を示すものである。
【0122】
【表5】

【表6】

【0123】
表5及び表6に示すように、実施例2の0.2%耐力値は、はんだ被覆なしの場合、試料1が29MPaであり、試料2が31MPaであり、試料3が35MPaであった。また、はんだ被覆有りの場合、試料1が47MPaであり、試料2が51MPaであり、試料3が55MPaであった。
【0124】
一方、比較例の0.2%耐力値は、はんだ被覆なしの場合、試料4が17MPaであり、試料5が20MPaであり、試料6が30MPaであった。また、はんだ被覆有りの場合、試料4が35MPaであり、試料5が40MPaであり、試料6が50MPaであった。従って、同じ条件化では、実施例2の試料の方が、比較例の試料と比べて、高い0.2%耐力値を示した。
【0125】
表5及び表6に示すように、実施例2の試料1〜試料3、及び比較例の試料4〜試料6は、シリコン基板のクラックが発生しなかった。しかし、実施例2の試料1〜試料3は、同じ熱処理条件となる比較例の試料4〜試料6と比べて、屈曲回数が多い結果となった。
【0126】
ここで、実施例2の各試料のCuの伸びは、試料1が25%であり、試料2が26%であり、試料3が28%であった。また、比較例の各試料のCuの伸びは、試料4が7%であり、試料5が10%であり、試料6が20%であった。
【0127】
つまり、実施例2の各試料は、比較例の無酸素銅(OFC)試料に対して実施例2の試料が低耐力の領域において伸びの高い素材であることから、比較例の試料に比べ、屈曲寿命の面で優れている。従って、実施例2に係る試料は、熱処理条件が低い650℃において、0.2%耐力値が55MPa以下であり、かつ、伸び率が25%以上であり、比較例の試料と比べて優れている。
【0128】
図14は、実施材9の試料の幅方向の断面組織の写真を表したものであり、図15は、比較材15の幅方向の断面組織の写真を表したものである。図14は実施材9の結晶構造を示し、図15は、比較材15の結晶構造を示す。
【0129】
実施材9は、表1に示す実施材1の上から3番目の最も軟質材導電率が高い2.6mm径の線材である。この実施材9は、焼鈍温度400℃で1時間の焼鈍処理を経て作製される。
【0130】
比較材15は、無酸素銅(OFC)からなる2.6mm径の線材である。この比較材15は、焼鈍温度400℃で1時間の焼鈍処理を経て作製される。
【0131】
図14及び図15に示すように、比較材15の結晶構造は、表面部から中央部にかけて全体的に大きさの等しい結晶粒が均一に並んでいることがわかる。これに対し、実施材9の結晶構造は、全体的に結晶粒の大きさがまばらであり、特筆すべきは、試料の断面方向の表面付近に薄く形成されている層における結晶粒サイズが内部の結晶粒サイズに比べて極めて小さくなっていることである。
【0132】
実施材9は、例えば、φ2.6mm、φ0.26mmとなるように加工した導体の銅中の硫黄(S)をTi−S、Ti−O−Sの形で補足している。また、銅中に含まれる酸素(O)は、例えば、TiOのように、TixOyの形で存在しており、結晶粒内、結晶粒界に析出している。
【0133】
このため、銅を焼鈍して結晶組織を再結晶させたときには、実施材9は、再結晶化が進み易く結晶粒界が大きく成長する。このため、実施材9は、比較材15と比べて、電流を流したときに、電子の流れが妨げられることが少なく進むこととなり、電気抵抗が小さくなる。従って、実施材9は、比較材15と比べて導電率(%IACS)が大きくなる。
【0134】
以上の結果により、実施材9を用いた太陽電池用導体は、軟らかく、導電率が向上し、かつ屈曲特性を向上させることができる。従来の導体では、結晶組織を実施材9のような大きさに再結晶させるためには、高温の焼鈍処理が必要となる。また、従来の導体では、再結晶させると、軟らかくなり、屈曲特性は低下する問題があった。上記に記載の実施材9では、焼鈍したときに双晶とならずに再結晶できるため、結晶が大きくなり、軟らかくなるが、表層は、微細結晶が残っているため、屈曲特性が低下しない特徴がある。
【0135】
図16は、焼鈍温度(℃、1h)と伸び(%)の関係を示すグラフである。このグラフは、φ2.6mm径の実施例2の試料と比較例(OFC)の試料との焼鈍条件と素材の伸びとの関係を示した図である。図16に示す四角記号は、比較例の試料を示し、丸記号は実施例2の試料を示している。
【0136】
この実施例2は、上記の実施材7と同様の導体を用いている。図16に示すように、本実施例に係る焼鈍温度領域である600℃以上の部分において、比較例(OFC)よりも伸び(%)が高いことが分かり、実施材7の方が比較例の試料よりも優れていることが分かる。
【0137】
以上の結果より、太陽電池用導体は、添加元素を含み残部が不可避的不純物からなる導体とすることで、高純度銅(6N)に相当する導電率を有しながら、高純度銅(6N)より優れた屈曲性を有し、さらに高純度銅(6N)よりコストを掛けずに作製される。すなわち、太陽電池用導体は、650℃×1hの熱処理においても、導体の表面から50μm深さまでの表層における平均結晶粒サイズが20μm以下である表面の結晶粒径が小さい状態を維持し、かつ、無酸素銅(OFC)試料に比べて、伸び特性に優れた材料を使用していることから、低耐力の領域においても耐屈曲特性に優れる。
【0138】
これに対して、比較例の試料(OFC)は、表面の結晶粒径が、微細結晶の層が形成されていないことがわかる。また、伸び特性は、実施例2及び比較例(OFC)のいずれもが、熱処理条件を高温域に変化させるにつれて伸びが低下する傾向を示すが、実施例2は比較例(OFC)に比して伸びが低下する割合が小さい。よって実施例2は、熱処理条件の高温域においても、伸びを高く維持できる性質を備えていることから、太陽電池用導体の更なる低耐力化の問題、太陽電池セルの更なる薄型化に伴うセル割れの問題に対処することができる。従って、実施例2の平角線4は、太陽電池セルの反りを抑え、かつ、屈曲疲労特性に優れる。
【0139】
以上、本発明の実施の形態及びその変形例を説明したが、上記に記載した実施の形態及び変形例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び変形例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0140】
1…太陽電池モジュール
2…ストリング
3…太陽電池セル
4…平角線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mg、Zr、Nb、Ca、V、Ni、Mn、Ti、Crの少なくとも一種を含む添加元素と、2mass ppmを超える量の酸素と、不可避的不純物を含む純銅と、を含み、0.2%耐力値が55MPa以下であり、かつ、伸び率が25%以上である太陽電池用導体。
【請求項2】
4〜25mass ppmのTiと、3〜12mass ppmの硫黄と、を含む請求項1に記載の太陽電施用導体。
【請求項3】
2mass ppmを超える量の酸素を含有し、添加元素を含む希薄銅合金材料を1100℃以上1320℃以下の溶銅温度で溶湯にする溶湯製造工程と、
前記溶湯から
ワイヤロッドを作製するワイヤロッド作製工程と、
前記ワイヤロッドに880℃以下550℃以上の温度で熱間圧延を施す熱間圧延工程と、
前記熱間圧延工程を経た前記ワイヤロッドに伸線加工を施して導体を作製する導体作製工程と、
を備える太陽電池用導体の製造方法。
【請求項4】
前記添加元素が、Mg、Zr、Nb、Ca、V、Ni、Mn、Ti、Crの少なくとも一種を含む請求項3に記載の太陽電池用導体の製造方法。
【請求項5】
前記添加元素が、4〜25mass ppmのTiと、3〜12mass ppmの硫黄とを含む請求項3又は4に記載の太陽電池用導体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−109548(P2012−109548A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229126(P2011−229126)
【出願日】平成23年10月18日(2011.10.18)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】