説明

太陽電池裏面保護膜用フィルム

【課題】紫外線による劣化が抑制され、特に紫外線による着色を抑制する。
【解決手段】二軸配向ポリエステルフィルムからなる太陽電池裏面保護膜用フィルムであって、該二軸配向ポリエステルフィルムは、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を0.1〜5重量%含有するポリエステル組成物からなることを特徴とする太陽電池裏面保護膜用フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は太陽電池裏面保護膜用フィルムおよびそれを用いた太陽電池裏面保護膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽光発電システムはクリーンエネルギーを利用する発電手段の一つとして普及が進んでいる。太陽光発電システムに用いられる太陽電池パネルは、例えば実開平6−38264号公報に記載があるように、受光側のガラス基板と裏面側の保護膜との間に複数の板状太陽電池素子を挟み、内部の隙間に封止樹脂を充填した構造をとることが一般的である。
【0003】
裏面側の保護膜、すなわち裏面保護膜には、優れた機械的性質、耐熱性および耐湿性が必要であり、ポリエステルフィルムが広く用いられている。例えば、特開2007−70430号公報や特開2006−270025号公報には、ポリエチレンテレフタレートフィルムを用いた太陽電池裏面保護膜が提案されている。
【0004】
従来の太陽電池市場は、国内の一般家庭の住宅屋根に搭載される民生需要が中心であり、この場合、太陽電池パネルの背面から入射する紫外線量は少なく、かつ背面は人目に触れないことから、背面に位置する裏面保護膜には紫外線劣化を抑制する要求は高くなかった。
【0005】
しかし、太陽電池市場は近年急激に拡大し、広大な土地に太陽電池パネルを多数並べて設置して用いる、産業用途の需要が世界的に広まっており、こうした設置方法においては、並べて設置された他の太陽電池パネルから反射された光が太陽電池パネルの裏面に入射し、また、太陽電池の裏面も人目に晒されることが多いことから、太陽電池裏面保護膜にも、紫外線劣化を抑制する要求、特に紫外線による変色を抑制する要求が高まっている。
【0006】
しかし、従来の太陽電池パネルは、産業用途の太陽電池に裏面保護膜として使用した際の耐候性が乏しく、特に紫外線劣化による着色が著しいので、太陽電池裏面保護膜の最外層としては使用できないものであった。
【0007】
このように、太陽電池裏面保護膜は、従来のポリエステルフィルのみで構成したのでは紫外線による劣化を防止することができない。このため、他の基材、例えば高価なフッ素系シートと貼り合せて使用せねばならず、生産工程が非常に煩雑になったり、コストが非常に高価なものとなっていた。
【0008】
【特許文献1】特開2007−70430号公報
【特許文献2】特開2006−270025号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来技術の問題点を解消し、紫外線による劣化が抑制され、特に紫外線による着色が抑制された、太陽電池裏面保護膜用フィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち本発明は、二軸配向ポリエステルフィルムからなる太陽電池裏面保護膜用フィルムであって、該二軸配向ポリエステルフィルムは、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を0.1〜5重量%含有するポリエステル組成物からなることを特徴とする太陽電池裏面保護膜用フィルムである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、紫外線による劣化が抑制され、特に紫外線による着色が抑制された、太陽電池裏面保護膜用フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
[ポリエステル]
本発明の太陽電池裏面保護膜用フィルムを構成するポリエステル組成物のポリエステルとしては、芳香族ジカルボン酸成分とジオール成分とからなるポリエステルを用いる。
芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6―ナフタレンジカルボン酸、4,4′―ジフェニルジカルボン酸を例示することができる。ジオール成分としては、エチレングリコール、1,4―ブタンジオール、1,4―シクロヘキサンジメタノール、1,6―ヘキサンジオールを例示することができる。
【0013】
ポリエステルとして、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン―2,6―ナフタレンジカルボキシレートが好ましい。なお、ポリエステルは、ホモポリマーであってもよく、コポリマーであってもよく、これらのブレンドであってもよい。
【0014】
[紫外線吸収剤]
本発明の太陽電池裏面保護膜用フィルムを構成するポリエステル組成物は、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を0.1〜5重量%、好ましくは0.5〜4重量%含有する。0.1重量%未満であると紫外線による劣化を防止する効果が劣り、ポリエステルの変色が大きくなり易い。他方、5重量%を超えるとフィルムの機械的特性が悪化する。
【0015】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、2,2’−メチレンビス(4−第三オクチル−6−ベンゾトリアゾリル)フェノール、2,2’−メチレンビス(4−クミルフェニル−6−ベンゾトリアゾリル)フェノール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ第三ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−第三ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−第三オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジクミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−第三ブチル−5’−カルボキシフェニル)ベンゾトリアゾール等の2−(2’−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾールを例示することができる。中でも2,2’−メチレンビス(4−第三オクチル−6−ベンゾトリアゾリル)フェノール、2,2’−メチレンビス(4−クミルフェニル−6−ベンゾトリアゾリル)フェノールが好ましい。
【0016】
本発明におけるベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の分子量は、好ましくは500〜1000である。この範囲の分子量のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を用いることで、フィルムの生産時に紫外線吸収剤が熱分解したり、揮散したりする量を低く押させることができ、またフィルム表面にブリードアウトする量を少なく抑えることができ、紫外線による劣化を防止する効果を十分に得ることができ、同時に、紫外線吸収剤が均一に分散してヘーズの低い透明なフィルムを得ることができる。
【0017】
本発明におけるベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の融点は、好ましくは150〜300℃である。融点が150℃未満であると耐熱性に劣り、ポリエステル組成物の溶融混錬時に熱分解し易く好ましくない。他方、300℃を超えるとポリエステルに対する溶解性が不足し易く、分散不良を起こし易く好ましくない。
【0018】
[フィルム]
本発明の太陽電池裏面保護膜用フィルムは、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を含有するポリエステル組成物から構成される二軸配向ポリエステルフィルムからなる。二軸配向ポリエステルフィルムであることによって、太陽電池裏面保護膜用フィルムとして必要な十分な機械的強度を得ることができる。未延伸フィルムであったり、一軸配向フィルムであると、機械的強度が不足することがあり、太陽電池裏面保護膜用フィルムとしてふさわしくない。
【0019】
[耐候性]
本発明の太陽電池裏面保護膜用フィルムは、紫外線照度100mW/cmのアイスーパー試験器で15日間紫外線照射後のΔYI値が、好ましくは0〜30、さらに好ましくは0〜10である。ΔI値が30を超えると、フィルムが黄色に変色して、太陽電池の外観を著しく損なうことになり、好ましくない。他方、ポリエステルにベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を配合せずにフィルムとして太陽電池裏面保護膜用フィルムとした場合、大きく黄変劣化し、ΔYI値は50を超える。
【0020】
なお、紫外線照度100mW/cmの15日間のアイスーパー試験器による15日間の紫外線照射は、屋外使用での直射日光による紫外線劣化の約15年分に相当するが、太陽電池裏面保護膜には、直射日光はあたらず、周囲からの反射光があたるのみなので、直射光の1/2の紫外線量と仮定すると約30年に相当する。
【0021】
[添加剤]
本発明における、ポリエスエル組成物には、フィルムに滑り性を持たせハンドリングを良好にするために滑剤を添加することが好ましい。
【0022】
本発明においては、得られるフィルムの物性を損なわない限り、他の添加剤、例えば顔料、染料、強化剤、充填剤、耐熱性向上剤、酸化防止剤、可塑剤、耐候性向上剤、滑剤、離型剤、結晶核剤、流動性改良剤、帯電防止剤、安定剤、架橋剤、末端封止剤、分子鎖長延長剤を添加してもよい。酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤やリン系酸化防止剤が好ましく、これらを併用することが好ましい。安定剤としては、ヒンダードアミン系安定剤が好ましい。
【0023】
[製造方法]
フィルムを構成するポリエステル組成物は、ポリエステルが溶融する温度で、ポリエステルとベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤とを溶融混練して得ることが好ましい。この溶融混練の温度は、例えば200〜300℃である。溶融混練に際して、例えば、各成分をターンブルミキサーやヘンシェルミキサーで混合した後、押出機やロールで各成分を混練する方法を用いることができる。なお、ポリエステルの重合の最終段階で、溶融したポリエステルにベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を添加してポリエステル組成物を得てもよい。
【0024】
本発明の太陽電池裏面保護膜用フィルムは、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を含有するポリエステル組成物をフィルム状に溶融押出し、キャスティングドラムで冷却固化させて未延伸フィルムとし、この未延伸フィルムをTg〜(Tg+60)℃で長手方向に1回もしくは2回以上に分けて合計の延伸倍率が3倍〜6倍になるよう延伸し、その後Tg〜(Tg+60)℃で幅方向に延伸倍率が3〜5倍になるように延伸し、必要に応じてさらに180℃〜255℃で1〜60秒間熱処理を行うことによって得ることができる。
【0025】
長手方向と横方向の延伸は、逐次二軸延伸で行なってもよく、同時二軸延伸で行ってもよい。加熱時の寸法安定性を高めるために、例えば特開平57−57628号公報に示される熱処理工程で縦方向に収縮せしめる方法や、例えば特開平1−275031号公報に示されるフィルムを懸垂状態で弛緩熱処理する方法を用いることができる。得られる二軸延伸フィルムの厚みは、好ましくは25〜300μm、さらに好ましくは50〜250μmである。
【0026】
本発明の太陽電池裏面保護膜用フィルムには、易接着性塗膜を設けてもよい。易接着性塗膜は、延伸可能なポリエステルフィルムに、架橋成分を含有するアクリル樹脂やポリエステル樹脂の皮膜を形成する成分を含む水性液を塗布した後、乾燥、延伸し、熱処理することにより設けることができる。塗膜を設ける場合、塗膜の厚さは好ましくは0.01〜1μmである。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により本発明をさらに説明する。
各特性値は以下の方法で測定した。
【0028】
(1)固有粘度
オルソクロロフェノール溶媒による溶液の粘度を35℃にて測定して求めた。
【0029】
(2)耐紫外線性
紫外線劣化促進試験機(アイスーパーUVテスター SUV−W131岩崎電気(株)製)を用いて、下記の条件で実施した。紫外線照度は100mW/cmとした。
60℃×50%RHにて15日間UV照射し、色差計(日本電色工業社製 Σ−90型)を用いて照射前後のYI(イエローインデックス)値を測定した。照射前後のYIの差(ΔYI)を求め、下記の基準で判定した。ここでX、Y、Zは国際CIE規格に定められる光の3刺激値である。
YI=100/Y×(1.28×X−1.06×Z)
◎: 0 ≦ ΔY ≦ 10
○: 10 < ΔY ≦ 30
×: 30 < ΔY
【0030】
[実施例1]
紫外線吸収剤として2,2’−メチレンビス(4−第三オクチル−6−ベンゾトリアゾリル)フェノール(旭電化工業製 アデカスタブ LA−31、分子量659、融点195℃)を4重量%、および滑剤として平均粒径2.5μmの塊状酸化珪素粒子を800ppm含有するポリエチレンテレフタレート(固有粘度:0.65)組成物を20℃に維持した回転冷却ドラム上に溶融押出しして未延伸フィルムとした。次いで縦方向に100℃で3.5倍に延伸した後、横方向に110℃で3.8倍に延伸し、225℃で幅方向に2.5%収縮させながら熱固定し、厚さ50μmの太陽電池裏面保護膜用フィルムを得た。評価結果を表1に示す。
【0031】
[実施例2]
紫外線吸収剤の量を表1のとおり変更した以外は実施例1と同様にして、厚さ50μmの太陽電池裏面保護膜用フィルムを得た。評価結果を表1に示す。
【0032】
[実施例3]
紫外線吸収剤をベンゾトリアゾール系の、2,2’−メチレンビス(4−クミルフェニル−6−ベンゾトリアゾリル)フェノール(旭電化工業製 アデカスタブ LA−46、分子量659、融点210℃)に変更した以外は実施例1と同様にして、厚さ50μmの太陽電池裏面保護膜用フィルムを得た。評価結果を表1に示す。
【0033】
[実施例4]
紫外線吸収剤をベンゾトリアゾール系の、2−(2’−ヒドロキシ−3’−第三ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール(旭電化工業製 アデカスタブ LA−36、分子量315、融点139℃)に変更した以外は実施例1と同様にして厚さ50μmの太陽電池裏面保護膜用フィルムを得た。分子量、融点が低いことから、熱安定性がやや悪いことから効果が弱かった。評価結果を表1に示す。
【0034】
[比較例1]
紫外線吸収剤を含有させない以外は、実施例1と同様にして厚さ50μmの太陽電池裏面保護膜用フィルムを得た。評価結果を表1に示す。
【0035】
[比較例2]
含有させる紫外線吸収剤の量を表1のように変更した以外は実施例1と同様にして厚さ50μmの太陽電池裏面保護膜用フィルムを得た。得られたフィルムは機械特性の低下が著しく、生産時に切断が多発し、安定製膜性に大きく劣るものであった。評価結果を表1に示す。
【0036】
[比較例3]
紫外線吸収剤をベンゾフェノン系紫外線吸収剤である、ビス(5−ベンゾイル−4−ヒドロキシ−2−メトキシフェニル)メタン(旭電化工業製 アデカスタブ LA−51、分子量469、融点225℃)に変更した以外は実施例1と同様にして、厚さ50μmの太陽電池裏面保護膜用フィルムを得た。評価結果を表1に示す。
【0037】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の太陽電池裏面保護膜用フィルムは紫外線による劣化が抑制されており太陽電池裏面保護膜として好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二軸配向ポリエステルフィルムからなる太陽電池裏面保護膜用フィルムであって、該二軸配向ポリエステルフィルムは、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を0.1〜5重量%含有するポリエステル組成物からなることを特徴とする太陽電池裏面保護膜用フィルム。
【請求項2】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の分子量が500〜1000である、請求項1記載の太陽電池裏面保護膜用フィルム。
【請求項3】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が、2,2’−メチレンビス(4−第三オクチル−6−ベンゾトリアゾリル)フェノールおよび/または2,2’−メチレンビス(4−クミルフェニル−6−ベンゾトリアゾリル)フェノールである、請求項1記載の太陽電池裏面保護膜用フィルム。
【請求項4】
紫外線照度100mW/cmのアイスーパー試験器で15日間紫外線照射後のΔYI値が0〜30である、請求項1記載の太陽電池裏面保護膜用フィルム。

【公開番号】特開2009−188105(P2009−188105A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−25262(P2008−25262)
【出願日】平成20年2月5日(2008.2.5)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】