説明

好塩基球の分類計数方法

【課題】
本発明は、正確な好塩基球の計数が可能な測定方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
(1)血液試料を、第1の蛍光標識で標識された抗CD45抗体、第2の蛍光標識で標識された抗CD123抗体および第3の蛍光標識で標識された抗CD294抗体と混合し反応させ、次いで、溶血剤で処理して前記血液試料中の赤血球を溶解して測定用試料を調製し、
(2)前記測定用試料をフローサイトメータのフローセルに導入し、フローセル内を流れる前記測定用試料中の細胞に光を照射し、
(3)前記細胞から発せられる、第1の蛍光標識、第2の蛍光標識及び第3の蛍光標識からの蛍光と、少なくとも1つの散乱光を検出し、
(4)検出された第1の蛍光標識、第2の蛍光標識及び第3の蛍光標識からの蛍光と、少なくとも1つの散乱光に基づいて好塩基球を識別し、
(5)識別された好塩基球を計数する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フローサイトメトリーによる好塩基球の分類計数方法に関する。
【背景技術】
【0002】
好塩基球は白血球における割合が人全血中で0〜2%と少なく、目視法によるカウントは感度、特異性はあるものの、再現性に問題があり、正確な好塩基球の算定が困難である。近年、白血球膜表面に発現する表面抗原(表面マーカー)と反応するモノクローナル抗体を用い、フローサイトメトリーによる細胞分析が行われている。フローサイトメトリーによる好塩基球測定法としては、例えば、CD123抗体及びHLA-DR抗体を用い、CD123(Anti-IL-3Rα)陽性かつHLA-DR陰性の細胞を好塩基球として分画する方法、CD123抗体及びCD303抗体を用い、CD123陽性かつCD303陰性の細胞を好塩基球として分画する方法がある。これらの方法は、CD123のみで好塩基球を特定しており、特異性に乏しい。また、他の方法として、CD123抗体及びCD203c抗体を用い、CD123陽性かつCD203c陽性の細胞を活性化好塩基球として分画する方法、CD294抗体、CD203c抗体及びCD3抗体を用い、CD294陽性かつCD203c陽性の細胞を好塩基球として分画する方法がある。しかし、これらで検出されるCD203cは好塩基球が活性化していない場合は発現強度が低いため、活性化レベルに関係なく好塩基球を定量したい場合には不向きである。
【0003】
一方、好塩基球測定のみに特化してはいないが、フローサイトメトリーにより好塩基球を測定している例として、特許文献1、特許文献2及び特許文献3がある。特許文献1では、CD45抗体、CD71抗体及びチアゾールオレンジで血液試料を処理後、3つの蛍光及び2つの散乱光を検出して血液細胞を分析する。特許文献2では、IL-5受容体抗体、CD3抗体、CD16抗体及びCD19抗体の組み合わせで好酸球及び好塩基球を定量する。また、特許文献3では、CD4抗体及びCD45抗体の組み合わせで、白血球を5分類する。
【特許文献1】特公平8-1434
【特許文献2】特表2002-525580
【特許文献3】特表2004-533855
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、正確な好塩基球の計数が可能な測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の工程からなる好塩基球の分類計数方法を提供する。
1.(1)血液試料を、第1の蛍光標識で標識された抗CD45抗体、第2の蛍光標識で標識された抗CD123抗体および第3の蛍光標識で標識された抗CD294抗体と混合し反応させ、次いで、溶血剤で処理して前記血液試料中の赤血球を溶解して測定用試料を調製し、
(2)前記測定用試料をフローサイトメータのフローセルに導入し、フローセル内を流れる前記測定用試料中の細胞に光を照射し、
(3)前記細胞から発せられる、第1の蛍光標識、第2の蛍光標識及び第3の蛍光標識からの蛍光と、少なくとも1つの散乱光を検出し、
(4)検出された第1の蛍光標識、第2の蛍光標識及び第3の蛍光標識からの蛍光と、少なくとも1つの散乱光に基づいて好塩基球を識別し、
(5)識別された好塩基球を計数する、
ことからなる好塩基球の計数方法。
【0006】
2.前記(4)工程が、前方散乱光及び側方散乱光に基づいて、リンパ球、単球及び好塩基球を含む第1の細胞集団を特定し、第1の蛍光標識からの蛍光と側方散乱光に基づいて、リンパ球、単球及び好塩基球を含む第2の細胞集団を特定し、さらに第1の細胞集団と第2の細胞集団の両方に含まれる細胞について、第2の蛍光標識からの蛍光と第3の蛍光標識からの蛍光に基づいて好塩基球を識別する前項記載の好塩基球の計数方法。
【0007】
3.前記(4)工程が、第1の蛍光標識からの蛍光と側方散乱光に基づいて、リンパ球、単球及び好塩基球を含む細胞集団を特定し、さらに前記細胞集団に含まれる細胞について、第2の蛍光標識からの蛍光と第3の蛍光標識からの蛍光に基づいて好塩基球を識別する前項1記載の好塩基球の計数方法。
【0008】
4.(1)血液試料を、第1の蛍光標識で標識された抗CD123抗体および第2の蛍光標識で標識された抗CD294抗体と混合し反応させて測定用試料を調製し、
(2)前記測定用試料をフローサイトメータのフローセルに導入し、フローセル内を流れる前記測定用試料中の細胞に光を照射し、
(3)前記細胞から発せられる、第1の蛍光標識、第2の蛍光標識からの蛍光と、前方散乱光及び側方散乱光を検出し、
(4)検出された第1の蛍光標識、第2の蛍光標識からの蛍光と、前方散乱光及び側方散乱光に基づいて好塩基球を識別し、
(5)識別された好塩基球を計数する、
ことからなる好塩基球の計数方法。
【0009】
5.前記(4)工程が、前方散乱光及び側方散乱光に基づいて、リンパ球、単球及び好塩基球を含む細胞集団を特定し、さらに前記細胞集団に含まれる細胞について、第1の蛍光標識からの蛍光と第2の蛍光標識からの蛍光に基づいて好塩基球を識別する前項4記載の好塩基球の計数方法。
【発明の効果】
【0010】

【0011】
本発明によれば、好塩基球を他の白血球細胞から明確に分画することができ、正確な好塩基球を計数することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明において使用される抗CD45抗体は、全ての白血球と反応する。白血球の種類によって発現量の違いはあるものの、すべての白血球の膜表面上には、CD45抗原が発現しており、この抗体を用いれば、白血球の分画・定量に用いることができる。
【0013】
本発明において使用される抗CD123抗体は、末梢血樹状細胞、前駆細胞、単球、好酸球及び好塩基球上に発現しているインターロイキンレセプター3 α鎖と反応する。
【0014】
本発明において使用される抗CD294抗体はプロスタグランジンD2レセプターとして知られるCRTH2に結合する。CRTH2は好塩基球をはじめとする炎症細胞マーカーであり、健常人全血中では、免疫応答及びアレルギー反応に関与するT ヘルパー 2 細胞、細傷害性T細胞、好酸球及び好塩基球上に発現している。
【0015】
本発明で使用される抗体は、それぞれ互いに区別可能な蛍光色素で標識されている。標識として使用される蛍光色素の例としては、ぺリジニンクロロフィルコンプレックス(PerCP)、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、フィコエリスリン(PE)、アロフィコシアニン(APC)、テキサスレッド(TR)、CY5等が挙げられる。これらのうち、互いに識別可能なものを適宜選択して標識として用いることができる。本発明で使用される抗体は市販品を利用することができる。なお、本発明で使用される抗体は、後で述べる溶血剤と組み合わせて、「好塩基球測定キット」とすることができる。一例を図13に示す。図13において、Aは溶血剤、BはCD123抗体試薬、CはCD294抗体試薬、DはCD45抗体試薬である。図13においては、A〜D全てを含んでいるが、A〜Cのみ、B〜Dのみ、あるいは、B及びCのみを「好塩基球測定キット」としてもよい。
【0016】
本発明で使用されるフローサイトメータの光学系の一例を図1に示す。光源(本発明の実施例ではアルゴンレーザー)1から出射された光はシースフローセル2のオリフィス部を照射する。
【0017】
ノズル(図示せず)から吐出されオリフィス部を通過する細胞から発せられる前方散乱光は、前方散乱光検出器(FSC)3に入射する。
【0018】
一方、オリフィス部を通過する細胞から発せられる側方散乱光は、集光レンズ4とダイクロイックミラー5とビームスプリッター6を介して側方散乱光検出器(SSC)7に入射する。オリフィス部を通過する細胞から発せられる側方蛍光のうち、最も蛍光波長の短いもの(本発明の実施例ではFITC蛍光)は、集光レンズ4とダイクロイックミラー5とビームスプリッター6とフィルタ8を介して側方蛍光検出器(FL1)(フォトマルチプライアチューブ)9に入射する。次に蛍光波長の短いもの(本発明の実施例ではPE蛍光)は、集光レンズ4とダイクロイックミラー5とダイクロイックミラー10とフィルタ11を介して側方蛍光検出器(FL2)(フォトマルチプライアチューブ)12に入射する。最も蛍光波長の長いもの(本発明の実施例ではPerCP蛍光)は、集光レンズ4とダイクロイックミラー5とダイクロイックミラー10とフィルタ13を介して側方蛍光検出器(FL3)(フォトマルチプライアチューブ)14に入射する。
【0019】
前方散乱光検出器3から出力される前方散乱光信号と、側方散乱光検出器7から出力される側方散乱光信号と、側方蛍光検出器(FL1)9、側方蛍光検出器(FL2)12及び側方蛍光検出器(FL3)14から出力される各側方蛍光信号とは、それぞれアンプ(図示せず)により増幅され、解析部(図示せず)に入力される。
【0020】
ここで、解析部は、所定の解析を行い、所望の演算を行い計数結果や演算結果を表示部(図示せず)に表示させる。
【0021】
本発明の好塩基球分類計数方法は、まず、血液試料を各蛍光標識抗体と反応させて測定用試料を調製する。必要に応じて、溶血剤を添加して前記血液試料中の赤血球を溶解し、遠心処理して上清を除去し、緩衝液で再懸濁して測定用試料を調製することもできる。
【0022】
ここで、血液試料としては、末梢血、骨髄血試料を使用することができる。
【0023】
また、溶血剤としては、市販の溶血剤を使用することができ、例えば、塩化アンモニウム塩を主成分とする溶血剤が好適に用いられる。
【0024】
次に、上記で調製した測定用試料をフローサイトメータのフローセルに導入し、フローセル内を流れる前記測定用試料中の細胞に光を照射し、前記細胞から発せられる、各々の蛍光標識からの蛍光と散乱光を検出し、検出された各々の蛍光標識からの蛍光と散乱光に基づいて好塩基球を識別する。
【0025】
好塩基球の識別方法は、(1)前方散乱光強度/側方散乱光強度のスキャッタグラムとCD45蛍光強度/側方散乱光強度のスキャッタグラムから解析する方法、(2)CD45蛍光強度/側方散乱光強度のスキャッタグラムから解析する方法、及び(3)前方散乱光強度/側方散乱光強度のスキャッタグラムから解析する方法がある。
【0026】
まず、(1)前方散乱光強度/側方散乱光強度のスキャッタグラムとCD45蛍光強度/側方散乱光強度のスキャッタグラムから解析する方法について説明する。
測定により検出された各々の信号に基づいて、前方散乱光強度と側方散乱光強度を二軸とするスキャッタグラム(前方散乱光強度/側方散乱光強度スキャッタグラム)と、CD45蛍光強度(細胞と結合した抗CD45蛍光標識抗体からの蛍光強度)と側方散乱光強度を二軸とするスキャッタグラム(CD45蛍光強度/側方散乱光強度スキャッタグラム)を作成する。CD45蛍光強度/側方散乱光強度スキャッタグラム上で、リンパ球、単球及び好塩基球を含む単核球領域(P2エリア)を特定する。また、前方散乱光強度/側方散乱光強度スキャッタグラム上で、リンパ球、単球及び好塩基球を含む単核球領域(P3エリア)を特定する。
次に、P2エリア及びP3エリアの両方に出現する細胞について、CD123蛍光強度(細胞と結合した抗CD123蛍光標識抗体からの蛍光強度)とCD294蛍光強度(細胞と結合した抗CD294蛍光標識抗体からの蛍光強度)を二軸とするスキャッタグラム(CD123蛍光強度/CD294蛍光強度スキャッタグラム)を作成する。CD123蛍光強度/CD294蛍光強度スキャッタグラム上で、CD294陽性かつCD123陽性細胞を含む領域を特定し(BASOエリア)、BASOエリア内の細胞を計数して好塩基球数とする。また、CD45蛍光強度/側方散乱光強度スキャッタグラム上で、全白血球を含む領域を特定し(WBCエリア)、WBCエリア内の細胞を計数して白血球数を算出して好塩基球比率を算出することができる。
【0027】
次に、(2)CD45蛍光強度/側方散乱光強度のスキャッタグラムから解析する方法について説明する。
測定により検出された各々の信号に基づいて、CD45蛍光強度(細胞と結合した抗CD45蛍光標識抗体からの蛍光強度)と側方散乱光強度を二軸とするスキャッタグラム(CD45蛍光強度/側方散乱光強度スキャッタグラム)を作成する。CD45蛍光強度/側方散乱光強度スキャッタグラム上で、リンパ球、単球及び好塩基球を含む単核球領域(P2エリア)を特定する。
次に、P2エリアに出現する細胞について、CD123蛍光強度(細胞と結合した抗CD123蛍光標識抗体からの蛍光強度)とCD294蛍光強度(細胞と結合した抗CD294蛍光標識抗体からの蛍光強度)を二軸とするスキャッタグラム(CD123蛍光強度/CD294蛍光強度スキャッタグラム)を作成する。CD123蛍光強度/CD294蛍光強度スキャッタグラム上で、CD294陽性かつCD123陽性細胞を含む領域を特定し(P2-BASOエリア)、P2-BASOエリア内の細胞を計数して好塩基球数とする。また、CD45蛍光強度/側方散乱光強度スキャッタグラム上で、全白血球を含む領域を特定し(WBCエリア)、WBCエリア内の細胞を計数して白血球数を算出して好塩基球比率を算出することができる。
【0028】
次に、(3)前方散乱光強度/側方散乱光強度のスキャッタグラムから解析する方法について説明する。
測定により検出された各々の信号に基づいて、前方散乱光強度/側方散乱光強度スキャッタグラムを作成する。前方散乱光強度/側方散乱光強度スキャッタグラム上で、リンパ球、単球及び好塩基球を含む単核球領域(P3エリア)を特定する。
次に、P3エリアに出現する細胞について、CD123蛍光強度/CD294蛍光強度スキャッタグラムを作成する。CD123蛍光強度/CD294蛍光強度スキャッタグラム上で、CD294陽性かつCD123陽性細胞を含む領域を特定し(P3-BASOエリア)、P3-BASOエリア内の細胞を計数して好塩基球数とする。また、前方散乱光強度/側方散乱光強度のスキャッタグラム上で、全白血球を含む領域を特定し(WBC2エリア)、WBC2エリア内の細胞を計数して白血球数を算出して好塩基球比率を算出することができる。
【0029】
なお、上記(3)の方法で解析する場合は、抗CD45標識抗体は必ずしも必要でないが、全白血球数を求める場合は使用することができる。
【0030】
本発明では、CD123とCD294という2種の抗体を使用することによって、活性化レベルに関係なく好塩基球を検出する。また、CD123とCD294によって好塩基球を検出するため、CD123陽性である樹状細胞の除去に特定の抗体を必要としない。さらに、前方散乱光強度/側方散乱光強度スキャッタグラム及び/またはCD45/側方散乱光強度スキャッタグラムから単核球エリアをゲートし、単核球エリアに含まれる細胞からCD123陽性かつCD294陽性の細胞を好塩基球とするゲーティング方法により、特定の抗体を使用せずに好酸球等の偽陽性の除去が可能である。
【実施例】
【0031】
実施例1
抗凝固剤加末梢血サンプル50μlに抗CD45-PerCP標識抗体、CD123-FITC標識抗体及びCD294-PE標識抗体各々5μlを加えて室温暗所にて15分インキュベーションして染色し、塩化アンモニウムを主成分とする溶血剤2mlを加えて室温暗所にて15分程度インキュベーションする。
溶血処理後、1000rpmで5分遠心して上清を除去し、ペレットをPBS1mlに再懸濁して、フローサイトメータ(FACS Canto;ベクトンディッキンソン社製)で測定する。1サンプルあたり、30,000カウントを測定する。
(1)前方散乱光強度/側方散乱光強度のスキャッタグラムとCD45蛍光強度/側方散乱光強度のスキャッタグラムからの解析
全細胞を前方散乱光強度(FSC)/側方散乱光強度(SSC)スキャッタグラム(図3)とCD45-PerCP/SSCスキャッタグラム(図2)に表示する。
両方のスキャッタグラムにおいて、好中球、好酸球及び赤血球ゴーストを除く単核球エリアをゲートする。(P2及びP3エリア)
2つの単核球エリア両方に含まれる細胞をCD294-PE/CD123-FITCスキャッタグラム(図4)に表示する。
このスキャッタグラムにおけるCD294陽性かつCD123陽性(BASOエリア)の細胞を計数して好塩基球数とする。また、図2のスキャッタグラム上で、全白血球を含む領域を特定し(WBCエリア)、WBCエリア内の細胞を計数して白血球数を算出して好塩基球比率を算出する。
好塩基球が明瞭に識別できることがわかった。
【0032】
(2)CD45蛍光強度/側方散乱光強度のスキャッタグラムからの解析
図2のスキャッタグラムにおいて、好中球、好酸球及び赤血球ゴーストを除く単核球エリアをゲートする。(P2エリア)
P2エリアに含まれる細胞をCD294-PE/CD123-FITCスキャッタグラム(図5)に表示する。
このスキャッタグラムにおけるCD294陽性かつCD123陽性(P2-BASOエリア)の細胞を計数して好塩基球数とする。また、図2のスキャッタグラムから白血球数を求めて好塩基球比率を算出する。
前方散乱光強度/側方散乱光強度のスキャッタグラムを使用しなくても、好塩基球の識別は可能であった。
【0033】
(3)前方散乱光強度/側方散乱光強度のスキャッタグラムからの解析
図3のスキャッタグラムにおいて、好中球、好酸球及び赤血球ゴーストを除く単核球エリアをゲートする。(P3エリア)
P3エリアに含まれる細胞をCD294-PE/CD123-FITCスキャッタグラム(図6)に表示する。
このスキャッタグラムにおけるCD294陽性かつCD123陽性(P3-BASOエリア)の細胞を計数して好塩基球数とする。また、図3のスキャッタグラム上で、全白血球を含む領域を特定し(WBC2エリア)、WBC2エリア内の細胞を計数して白血球数を算出して好塩基球比率を算出する。
CD45蛍光強度/側方散乱光強度のスキャッタグラムを使用しなくても、好塩基球の識別は可能であった。
【0034】
実施例2
分画不良検体での好塩基球の測定
白血球の分画が不良の検体について、実施例1と同様に測定を行った。
(1)前方散乱光強度/側方散乱光強度のスキャッタグラムとCD45蛍光強度/側方散乱光強度のスキャッタグラムからの解析
実施例1と同様に解析を行った。CD45蛍光強度/側方散乱光強度のスキャッタグラムを図7、前方散乱光強度/側方散乱光強度のスキャッタグラムを図8、CD294-PE/CD123-FITCスキャッタグラムを図9に示す。白血球の分画が不良の検体でも、好塩基球を明瞭に識別できることがわかった。
(2)CD45蛍光強度/側方散乱光強度のスキャッタグラムからの解析
実施例1と同様に解析を行った。CD294-PE/CD123-FITCスキャッタグラムを図10に示す。
白血球の分画が不良の検体でも、前方散乱光強度/側方散乱光強度のスキャッタグラムを使わずに好塩基球を明確に識別することが可能である。
(3)前方散乱光強度/側方散乱光強度のスキャッタグラムからの解析
実施例1と同様に解析を行った。CD294-PE/CD123-FITCスキャッタグラムを図11に示す。
白血球の分画が不良の検体でも、前方散乱光強度/側方散乱光強度のスキャッタグラムを使わずに好塩基球を明確に識別することが可能である。
【0035】
実施例3
目視法との相関
臨床検体30検体について、実施例1と同様の測定を行い、実施例1の(1)と同様の解析を行い、目視法(100カウント)との相関を調べた。結果を表1、相関図を図12に示す。
目視法(目視法BASO%)と本発明の方法(FCM法BASO%)とで、ほぼ同等の結果が得られ、目視法との相関は良好であった。

【0036】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、臨床検査において、好塩基球数を正確に計数する場合に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明で使用されるフローサイトメータの光学系の一例である。
【図2】実施例1における、CD45蛍光強度/側方散乱光強度のスキャッタグラムである。
【図3】実施例1における、前方散乱光強度/側方散乱光強度のスキャッタグラムである。
【図4】実施例1における、2つの単核球エリア両方に含まれる細胞についてのCD294-PE/CD123-FITCスキャッタグラムである。
【図5】実施例1における、P2エリアに含まれる細胞についてのCD294-PE/CD123-FITCスキャッタグラムである。
【図6】実施例1における、P3エリアに含まれる細胞についてのCD294-PE/CD123-FITCスキャッタグラムである。
【図7】実施例2における、CD45蛍光強度/側方散乱光強度のスキャッタグラムである。
【図8】実施例2における、前方散乱光強度/側方散乱光強度のスキャッタグラムである。
【図9】実施例2における、2つの単核球エリア両方に含まれる細胞についてのCD294-PE/CD123-FITCスキャッタグラムである。
【図10】実施例2における、P2エリアに含まれる細胞についてのCD294-PE/CD123-FITCスキャッタグラムである。
【図11】実施例2における、P3エリアに含まれる細胞についてのCD294-PE/CD123-FITCスキャッタグラムである。
【図12】実施例3における、目視法との相関図である。
【図13】本発明の好塩基球測定キットの一例を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)血液試料を、第1の蛍光標識で標識された抗CD45抗体、第2の蛍光標識で標識された抗CD123抗体および第3の蛍光標識で標識された抗CD294抗体と混合し反応させ、次いで、溶血剤で処理して前記血液試料中の赤血球を溶解して測定用試料を調製し、
(2)前記測定用試料をフローサイトメータのフローセルに導入し、フローセル内を流れる前記測定用試料中の細胞に光を照射し、
(3)前記細胞から発せられる、第1の蛍光標識、第2の蛍光標識及び第3の蛍光標識からの蛍光と、少なくとも1つの散乱光を検出し、
(4)検出された第1の蛍光標識、第2の蛍光標識及び第3の蛍光標識からの蛍光と、少なくとも1つの散乱光に基づいて好塩基球を識別し、
(5)識別された好塩基球を計数する、
ことからなる好塩基球の計数方法。
【請求項2】
前記(4)工程が、前方散乱光及び側方散乱光に基づいて、リンパ球、単球及び好塩基球を含む第1の細胞集団を特定し、第1の蛍光標識からの蛍光と側方散乱光に基づいて、リンパ球、単球及び好塩基球を含む第2の細胞集団を特定し、さらに第1の細胞集団と第2の細胞集団の両方に含まれる細胞について、第2の蛍光標識からの蛍光と第3の蛍光標識からの蛍光に基づいて好塩基球を識別する請求項1記載の好塩基球の計数方法。
【請求項3】
前記(4)工程が、第1の蛍光標識からの蛍光と側方散乱光に基づいて、リンパ球、単球及び好塩基球を含む細胞集団を特定し、さらに前記細胞集団に含まれる細胞について、第2の蛍光標識からの蛍光と第3の蛍光標識からの蛍光に基づいて好塩基球を識別する請求項1記載の好塩基球の計数方法。
【請求項4】
(1)血液試料を、第1の蛍光標識で標識された抗CD123抗体および第2の蛍光標識で標識された抗CD294抗体と混合し反応させて測定用試料を調製し、
(2)前記測定用試料をフローサイトメータのフローセルに導入し、フローセル内を流れる前記測定用試料中の細胞に光を照射し、
(3)前記細胞から発せられる、第1の蛍光標識、第2の蛍光標識からの蛍光と、前方散乱光及び側方散乱光を検出し、
(4)検出された第1の蛍光標識、第2の蛍光標識からの蛍光と、前方散乱光及び側方散乱光に基づいて好塩基球を識別し、
(5)識別された好塩基球を計数する、
ことからなる好塩基球の計数方法。
【請求項5】
前記(4)工程が、前方散乱光及び側方散乱光に基づいて、リンパ球、単球及び好塩基球を含む細胞集団を特定し、さらに前記細胞集団に含まれる細胞について、第1の蛍光標識からの蛍光と第2の蛍光標識からの蛍光に基づいて好塩基球を識別する請求項4記載の好塩基球の計数方法。
【請求項6】
(1)赤血球を溶解するための溶血剤
(2)第1の蛍光標識で標識されたCD45抗体試薬
(3)第2の蛍光標識で標識されたCD123抗体試薬
(4)第3の蛍光標識で標識されたCD294抗体試薬
を含む、好塩基球測定キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−236798(P2009−236798A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−85231(P2008−85231)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)
【Fターム(参考)】