説明

媒体搬送装置

【課題】固定式のガイド板を要することなく、媒体の折れやカール状の変形を矯正して、搬送ローラにより正しく搬送することができる媒体搬送装置を提供する。
【解決手段】印字対象の媒体11が、搬送用ローラ13に挟み込まれる直前において、その搬送方向と直交する幅方向両端部が矯正部材19または31により抑え込まれるので、媒体11の搬送方向先端部に折れやカール状の変形15が生じていても、これらが矯正された状態で搬送用ローラ13に挟みこまれるので、搬送ジャムが生じたりすることはない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、シリアル印字装置を搭載し、印字対象の媒体を所定方向に搬送する媒体搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、各種の印字装置を有する装置では、印字対象となる媒体(帳票など)を、印字位置や、その他の位置に搬送する搬送装置が設けられている。このような搬送装置では、上下一対のローラからなる搬送ローラを複数対、搬送方向に沿って配列し、これら各搬送ローラの各ローラ間に媒体を挟み、その回転により媒体を所定方向に送出する構造が採用されている。
【0003】
このような搬送装置では、媒体の先端部分が折れたり、カール状に変形すると、いわゆる搬送ジャムが生じたり、印字が正規に行われなくなるなどの不具合が生じる。
【0004】
従来、印字媒体となる用紙を多数積み上げた状態から1枚ずつ給紙する場合、その給紙対象用紙の上面部に分離給紙ローラを設け、その回転により用紙を1枚ずつ分離して所定方向に給紙する機構が用いられる。このような給紙機構では、分離給紙ローラだけでは、用紙が変形したり、しわが生じたりするため、分離給紙ローラの両側方に、このローラと同軸に円盤を設け、或いは、この円盤に対して給紙方向後方にさらに円盤を設けて、これらにより用紙の変形やしわの発生を防止する構造が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
しかし、給紙された用紙等の媒体の搬送途中における変形や折れなどについては特に考慮されていず、そのままでは媒体のカール状の変形や折れなどを防止することは困難であった。そこで、搬送途中におけるこのような媒体の折れやカール状の変形を防止するため、搬送路の上下に固定式のガイド板を設置することが行われていた。
【特許文献1】特開2002−120945号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような固定式のガイド板を搬送路の全域にわたって設置することは、構造的な制約が多く、実際的ではない。例えば、シリアルインパクトヘッドが媒体の搬送方向と直交する幅方向に往復移動する印字範囲は、固定式のガイド板を設けると、シリアルインパクトヘッドが往復移動できなくなるため、固定式ガイド板を設置することができない。
【0007】
このような場合、シリアルインパクトヘッドを印字範囲の側方に退避させた状態で、シャッター状に構成された可動式のガイド板をスライドさせて印刷範囲内を覆うように位置させ、媒体をこの印字範囲内に案内する。そして、この媒体の先端が、次の搬送ローラに挟まれた状態になると、前記可動式ガイド板を印字範囲から退避方向にスライドさせ、印字範囲内に案内された媒体に対してインパクトヘッドを往復動作させて印字を行うようにしている。
【0008】
しかし、この構成では可動式のガイド板を移動させるための駆動機構が必要となり、構造が複雑化すると共に、製品コストが上昇する。また、可動式のガイド板を媒体の移動に対応して駆動しなければならず、複雑な制御を必要とする。
【0009】
本発明の目的は、固定式のガイド板を要することなく、媒体の折れやカール状の変形を矯正して、搬送ローラにより正しく搬送することができる媒体搬送装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の媒体搬送装置は、搬送路の上流側から送られてくる印字対象の媒体を捕らえ、この媒体を下流側に送出する搬送用ローラを有する媒体搬送装置であって、前記搬送用ローラの近くの搬送方向上流側において、前記媒体の搬送方向に直交する幅方向両端部との対向位置に設けられ、前記搬送用ローラと同方向に回転して、上流側から送られてくる前記媒体の両端部の反り返り部を抑える矯正部材を備えたことを特徴とする。
【0011】
また、本発明の媒体搬送装置は、搬送用ローラの回転軸の、前記媒体の搬送方向に直交する幅方向両端部との対向位置に、前記搬送用ローラと同心状に取付けられ、前記回転軸の半径方向に向かい先端が前記搬送用ローラの外周より外側に延出した弾性材料よりなる羽根体を、前記回転軸の円周方向に対して間隔を保って複数個設けた矯正部材を備えたことを特徴とする。
【0012】
本発明では、矯正部材は、長さが異なる羽根体を、前記回転軸の円周方向に対して交互に設けた構成でもよい。
【0013】
また、本発明では、搬送される媒体は、搬送方向と直交する幅方向の寸法が異なる複数種であり、前記矯正部材は、これら複数種の媒体の各両端部と対向する位置にそれぞれ配置された構成でもよい。
【0014】
さらに、本発明では、矯正部材を搬送方向と直交する方向に対して移動可能に構成し、使用される媒体の種類に関する情報に応じて、前記矯正部材を、対応する媒体の両端部と対向する位置に移動させる矯正部材移動機構を設けた構成としてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、印字対象の媒体が、搬送用ローラに挟み込まれる直前において、その搬送方向と直交する幅方向両端部が矯正部材により抑え込まれるので、媒体の搬送方向先端部に折れやカール状の変形が生じていても、これらが矯正された状態で搬送用ローラに挟みこまれるので、搬送ジャムが生じたりすることはない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明による媒体搬送装置の一実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0017】
図1はこの実施の形態による媒体搬送装置を側方から見た図、図2は、図1の平面図である。これらの図において、11は印刷対象となる媒体で、冊子状通帳、単票、複写用紙など、全ての媒体が対象となる。12,13はそれぞれ搬送用のローラで、上部の駆動ローラ12a,13aと下部のピンチローラ12b、13bとからなる上下一対の構成であり、 これら各対は媒体11の搬送方向に沿って所定の間隔を保って順次配設される。
【0018】
これら搬送用ローラ12,13の各駆動ローラ12a,13aは、図示しない駆動機構により、図1の反時計回りに回転駆動され、対応するピンチローラ12b,13bとの間に挟みこまれた媒体11を図1の右方(図2の上方)に搬送する。各搬送用ローラ12,13の回転軸15,16は、図2に示すように、搬送方向に沿って並設された一対の側枠17,17により回転自在に軸支されている。なお、図1中の18は搬送方向に沿って設けられた下側ガイド板である。
【0019】
19は矯正部材で、搬送用ローラ13とほぼ同径の円盤状のもので、搬送用ローラ13の近くの搬送方向上流側において、搬送用ローラ13と同方向に回転して、搬送方向上流側(図1の左方、図2の下方)から送られてくる媒体11の先端部分に生じた反り返り部(折り曲げやカール状の変形を含む)11aを抑えて、平面状に矯正する。この矯正部材19は、図2で示すように、媒体11の搬送方向に直交する幅方向両端部との対向位置に配置されている。そして、その回転軸20は前記一対の側枠17により回転自在に軸支されており、かつ、前記搬送用ローラ13の回転軸16と連動チェーン21などで連結し、搬送用ローラ13とともに同方向に回転する。
【0020】
上記構成において、搬送用ローラ12,13は、それらの回転により、上下一対の駆動ローラ12a,13aとピンチローラ12b,13bとの間に挟み込まれた媒体11を、所定方向に搬送する。この搬送途中において、媒体11の先端部には図示のように反り返り部(折り曲げやカール状の変形を含む)11aが生じることがしばしば見られる。このように反り返り部11aが生じた状態で搬送を続けると、後段の搬送ローラ(図の場合13)に到達した時点で媒体のクランプ不良が生じ、媒体搬送ジャムになる可能性が大きい。
【0021】
この場合、上記実施の形態では、後段の搬送ローラ13に到達する前に、搬送方向上流側に配置された矯正部材19が、その回転により、搬送方向に直交する媒体11の幅方向両端部を下方に抑え込む。この作用により、媒体11の進行方向先端部に生じていた反り返り部11aは平坦状に矯正され、後段の搬送ローラ13にクランプされ、下流方向に送出される。
【0022】
このように、後段の搬送ローラ13に到達する前に、媒体11の幅方向両端部が矯正部材19により下方に抑え込まれるため、媒体11の進行方向先端部に生じていた反り返り部11aは平坦状に矯正される。したがって、搬送ローラ13へのクランプ時、先端部の反り返り部11aによりクランプ不良が生じたりすることなく媒体搬送ジャムを予防してスムースな搬送を維持することができる。
【0023】
次に、図3及び図4で示す実施の形態を説明する。この実施の形態の媒体搬送装置も、印刷対象となる媒体11を、その搬送方向に沿って所定の間隔を保って順次配設された搬送用のローラ12,13により所定の搬送方向(図3の右方、図4の上方)に搬送するものである。各搬送用ローラ12,13は、上部の駆動ローラ12a,13aと下部のピンチローラ12b,13bとからなる上下一対のものである。駆動ローラ12a,13aは、図示しない駆動機構により、図3の反時計回りに回転駆動され、対応するピンチローラ12b,13bとの間に挟みこまれた媒体11を前記所定の搬送方向に搬送する。各搬送用ローラ12,13の回転軸15,16は、図4に示すように、搬送方向に沿って並設された一対の側枠17,17により回転自在に軸支されている。
【0024】
この実施の形態では、搬送用ローラ13の回転軸16を同軸に設けられた矯正部材31を用いており、この構成が図1及び図2で説明した前記実施の形態と大きく異なる。
【0025】
矯正部材31は、図4で示すように、搬送用ローラ13の回転軸16の両端近く、すなわち、媒体11の搬送方向に直交する幅方向両端部との対向位置に、搬送用ローラ13と同心状に取付けられている。この矯正部材31は、放射状に設けられた複数の羽根体31aを有する。これら羽根体31aは、回転軸16の半径方向に沿い、かつ、その先端が搬送用ローラ13の外周より外側に延出した棒状のもので、弾性材料よりなる。そして、これら羽根体31aは、回転軸16の円周方向に対して間隔を保って複数個、放射状に取り付けられており、全体として、いわゆる羽根車を形成している。
【0026】
この羽根車状の矯正部材31の材質としては、柔軟性、耐摩擦性に優れ、塑性変形の発生し難い弾性材、例えば、クロロプレンゴムやポリウレタンゴムなどのゴム材が推奨される。
【0027】
上記構成において、搬送用ローラ12,13は、それらの回転により、上下一対の駆動ローラ12a,13aとピンチローラ12b,13bとの間に挟み込まれた媒体11を、所定方向に搬送する。この搬送途中において、媒体11の先端部に図示のように反り返り部(折り曲げやカール状の変形を含む)11aが生じた場合、このままの状態で搬送を続けると、後段の搬送ローラ13に到達した時点で媒体のクランプ不良が生じ、媒体搬送ジャムになる可能性が大きい。
【0028】
この場合、この実施の形態では、搬送ローラ13と同心状に設けられた羽根車状の矯正部材31により、媒体11の先端部に生じた反り返り部11aは、搬送用のローラ13に到達する直前に平坦状に矯正される。すなわち、搬送方向上流側から送られてきた媒体11の搬送方向と直交する幅方向両端部は、回転状態にある羽根車状の矯正部材31のいずれかの羽根体31aの先端と係合する。羽根体31aの長さは搬送用ローラ13の半径より大きく、その先端は搬送用ローラの外周より外方に突出しているので、媒体11の進行方向先端部は、羽根体31aの先端と係合したとき、搬送用ローラ13の外周には達していない。媒体11の幅方向両端部と係合した羽根体31aは、前述のように柔軟性を持っていることから、羽根車状の矯正部材31の回転により、撓みながら媒体11の幅方向両端部を下方に押し下げる。媒体11の先端反り返り部11aは、その幅方向両端部が下方に押さえ込まれることにより、その全体が平坦状に矯正される。この後、媒体11の先端部は、搬送ローラ13にクランプされ、下流方向に送出される。
【0029】
このように、後段の搬送ローラ13に到達する直前に、媒体11の幅方向両端部が矯正部材31の羽根体31aにより下方に抑え込まれるため、媒体11の進行方向先端部に生じていた反り返り部11aは平坦状に矯正される。したがって、搬送ローラ13へのクランプ時、先端部の反り返り部11aによりクランプ不良が生じたりすることなく媒体搬送ジャムを予防してスムースな搬送を維持することができる。
【0030】
上記実施の形態では、矯正部材31として、先端が前記搬送用ローラの外周より外側に延出した長い羽根体31aを回転軸16の円周方向に対して45゜間隔で4本設けたものを例示したが、羽根体31aの本数及び取付け間隔はこれらに限らず種々変更しても構わない。
【0031】
また、羽根体31aとして、長さが異なるものを、回転軸16の円周方向に対して交互に配置するように構成してもよい。この場合、長い羽根体31aにより、搬送方向上流側において確実に媒体11の幅方向両端部を捉え、比較的短い羽根体31aにより捉えた幅方向両端部を下方に抑え込むことにより、媒体11の両端反り返り部11aを確実に平坦化することができる。
【0032】
ここで、搬送される媒体11は、前述のように、冊子状通帳、単票、複写用紙など、各種のものがあり、搬送方向と直交する幅方向の寸法もそれぞれ異なる。上記いずれの実施形態においても、矯正部材19または31は、搬送方向の両端部に1つずつ設けていたが、これら複数種の媒体の各幅方向両端部とそれぞれ対向するように2個以上配置してもよい。
【0033】
或いは、矯正部材19または31を、搬送方向に直交する方向に対して移動可能に構成し、使用される媒体11の種類に関する情報に応じて、図示しない移動機構により、矯正部材19または31を、対応する媒体11の両端部と対向する位置に移動させるようにしてもよい。
【0034】
このように、いずれの実施の形態においても、上流側から送られてくる媒体11の搬送方向に直交する幅方向両端部を、これに対向して配置された矯正部材19または31により、搬送ローラ13にクランプされる直前において下方に抑え込むので、媒体11の先端部に生じた反り返り部11aは確実に平坦化される。したがって、搬送ローラ13へのクランプ時にクランプ不良になったり、媒体搬送ジャムになったりすることなく、媒体11を正しく搬送することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明による媒体搬送装置の一実施の形態を搬送方向側方から見た図である。
【図2】同上一実施の形態を搬送方向上方より見た図である。
【図3】本発明の他の実施の形態を搬送方向側方から見た図である。
【図4】同上他の実施の形態を搬送方向上方より見た図である。
【符号の説明】
【0036】
11 媒体
11a 反り返り部
13 搬送用ローラ
16 搬送用ローラの回転軸
19 矯正部材
31 羽根車状の矯正部材
31a 羽根体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送路の上流側から送られてくる媒体を捕らえ、この媒体を下流側に送出する搬送用ローラを有する媒体搬送装置であって、
前記搬送用ローラの近くの搬送方向上流側において、前記媒体の搬送方向に直交する幅方向両端部との対向位置に設けられ、前記搬送用ローラと同方向に回転して、上流側から送られてくる前記媒体の両端部の反り返り部を抑える矯正部材を備えたことを特徴とする媒体搬送装置。
【請求項2】
搬送路の上流側から送られてくる媒体を捕らえ、この媒体を下流側に送出する搬送用ローラを有する媒体搬送装置であって、
前記搬送用ローラの回転軸の、前記媒体の搬送方向に直交する幅方向両端部との対向位置に、前記搬送用ローラと同心状に取付けられ、前記回転軸の半径方向に向かい、先端が前記搬送用ローラの外周より外側に延出した弾性材料よりなる羽根体を、前記回転軸の円周方向に対して間隔を保って複数個設けた矯正部材を備えたことを特徴とする媒体搬送装置。
【請求項3】
前記矯正部材は、長さの異なる羽根体を、前記回転軸の円周方向に対して交互に設けたことを特徴とする請求項2に記載の媒体搬送装置。
【請求項4】
搬送される媒体は、搬送方向と直交する幅方向の寸法が異なる複数種であり、前記矯正部材は、これら複数種の媒体の各両端部と対向する位置にそれぞれ配置されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の媒体搬送装置。
【請求項5】
搬送される媒体は、搬送方向と直交する幅方向の寸法が異なる複数種であり、前記矯正部材を、前記搬送方向と直交する方向に対して移動可能に構成し、使用される媒体の種類に関する情報に応じて、前記矯正部材を、対応する媒体の両端部との対向位置に移動させる移動機構を設けたことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の媒体搬送装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−144949(P2007−144949A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−345997(P2005−345997)
【出願日】平成17年11月30日(2005.11.30)
【出願人】(000003562)東芝テック株式会社 (5,631)
【Fターム(参考)】