説明

媒体送り装置、記録装置

【課題】送り経路によって送られる媒体の送り精度を安定させることを考慮した媒体送り装置を提供すること。
【解決手段】媒体送り装置は、被送り媒体が送られる送り経路と、前記送り経路における被送り媒体を送り方向へ送る送り手段と、該送り手段を駆動させるモーターと、を備え、該モーターに対する入力に補正値Kを加えて該モーターを駆動させる構成の媒体送り装置であって、該媒体送り装置は、前記送り手段を駆動させた際の前記モーターの電流値I(電流値I−所定の基準値I1)を検出し、該電流値I(電流値I−所定の基準値I1)に応じて前記補正値K(K1)を設定する構成であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被送り媒体が送られる送り経路と、前記送り経路における被送り媒体を送り方向へ送る送り手段と、該送り手段を駆動させるモーターと、を備えた媒体送り装置および該媒体送り装置を備えた記録装置に関する。
本願において、記録装置には、インクジェットプリンター、ワイヤドットプリンター、レーザープリンター、ラインプリンター、複写機、ファクシミリ等の種類が含まれるものとする。
【背景技術】
【0002】
従来では、特許文献1に示す如く、記録装置の一例であるプリンターは、媒体送り装置と、記録部と、を有していた。そして、該媒体送り装置は、送り経路と、送り手段と、モーターと、を備えていた。このうち、前記送り経路は、側視湾曲した区間を有する第1経路と、側視真っ直ぐな第2経路とを有していた。前記第1経路では、被記録媒体(被送り媒体)の一例である普通紙等の撓みやすい媒体が送られるように構成されていた。一方、前記第2経路では、被記録媒体の一例であるCD−Rトレイ等の剛体または殆ど撓まない媒体が送られるように構成されていた。
【0003】
また、前記記録部は、記録ヘッドと有しており媒体に対して記録することができるように設けられていた。またさらに、前記送り手段は、媒体を前記記録部へ送ることができるように設けられていた。また、前記モーターは、前記送り手段を駆動させるように設けられていた。従って、前記撓みやすい媒体が前記第1経路によって案内されながら送られた場合、前記記録部によって記録を実行することができた。同様に、前記剛体または殆ど撓まない媒体が前記第2経路によって案内されながら送られた場合、前記記録部によって記録を実行することができた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−125766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、前記送り手段とは別の前記第1経路に設けられた専用のローラーによっては送ることができない撓みにくい媒体があった。該撓みにくい媒体は、前記第2経路に設けられた前記送り手段によって送られるように構成することが考えられる。
ところが、前記第2経路によって媒体を送る場合、媒体が前記プリンターの後方から突出するため、媒体がプリンターの後方周辺にある壁等の障害物と接触する虞がある。係る場合、記録が中断する虞や、該プリンターの後方周辺の空間を確保するためにユーザーが該プリンターの設置場所を変更する手間が生じる。即ち、該プリンターを移動させる手間が生じる。
【0006】
そこで、前記撓みにくい媒体のために、前記第1経路および第2経路とは別に湾曲した区間を有した第3経路を有する構成が考えられる。
【0007】
しかしながら、前記第3経路を用いると前記撓みにくい媒体と該第3経路との間に比較的大きな摩擦抵抗が生じる。即ち、前記第3経路によって送られる媒体が前記撓みにくい媒体であるために、前記第1経路によって前記撓みやすい媒体を送る場合と比較して、摩擦抵抗が著しく大きくなる。これにより、前記送り手段による前記撓みにくい媒体の送り量の誤差がその分著しく大きくなる。
【0008】
ここで、「送り量の誤差」とは、理論上の送り量と実際の送り量との差をいう。
そして、前記送り量の誤差は、媒体の種類によっても大きく異なる。これに対する対策として大まかな誤差の水準を予測してモーターの入力に加える補正値を予め設定しておくことが考えられるが、実際に媒体を送ってみないと誤差の大きさを正確に把握することはできない。そのため、前記予測して前記補正値を予め設定しておく構成では、十分な送り精度を得ることができない。
【0009】
本発明は、このような状況に鑑み成されたものであり、その課題は、送り経路によって送られる媒体の送り精度を安定させることを考慮した媒体送り装置および該媒体送り装置を備えた記録装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を達成するため、本発明の第1の態様の媒体送り装置は、被送り媒体が送られる送り経路と、前記送り経路における被送り媒体を送り方向へ送る送り手段と、該送り手段を駆動させるモーターと、を備え、該モーターに対する入力に補正値を加えて該モーターを駆動させる構成の媒体送り装置であって、該媒体送り装置は、前記送り手段を駆動させた際の前記モーターの電流値を検出し、該電流値に応じて前記補正値を設定する構成であることを特徴とする。
ここで、「モーターに対する入力」とは、入力電流や入力パルス数、信号等のモーターを駆動させるための情報等のものであって、補正値を加える前のものをいう。具体的には、被送り媒体(被記録媒体)の大きさ、種類に拘わらず被送り媒体(被記録媒体)を送るための値であって、補正値を加える前の基準となる値である。
【0011】
本発明の第1の態様によれば、前記送り手段を駆動させた際の前記モーターの電流値に応じて前記補正値を設定する構成である。即ち、被送り媒体の種類と前記補正値とを対応させる構成ではなく、前記駆動させた際の前記モーターの電流値と前記補正値とを対応させる構成である。
ここで、前記モーターの電流値の大きさは、前記送り手段が被送り媒体を送る負荷の大きさと相関関係を有していることを前提とする。
【0012】
「モーター」は、DCモーターを用いることが望ましい。電流値の変化を検出しやすいからである。ここで、「DCモーター」とは、直流電源を使用し、所謂、「ブラシ付きDCモーター」や「ブラシレスモーター」をいい、入力パルス数に比例して駆動する「ステッピングモーター」は含まれない。
前記負荷は、被送り媒体と前記送り経路との間において生じる摩擦抵抗や被送り媒体自体の自重等によって決まる。
【0013】
そこで、前記モーターの電流値の大きさに応じて、前記補正値の大きさを変えて設定することにより、送り量の誤差を限りなく小さくすることができる。即ち、送り精度を安定させることができる。
また、被送り媒体を送っている最中において前記モーターの電流値の大きさが変動する場合、該電流値の大きさの変動に応じて前記補正値の大きさも変動するように設定することができる。即ち、被送り媒体を送っている最中においても送り精度を安定させることができる。
さらに言い換えると、被送り媒体の種類毎に補正値の水準を大まかに一律に定める従来技術の構成と比較して、より精度良く補正値を設定することができる。その結果、送り精度をより向上させることができる。
【0014】
本発明の第2の態様の記録装置は、被記録媒体を送り方向へ送る媒体送り手段と、該媒体送り手段によって送られた被記録媒体に対して記録ヘッドにより記録する記録部と、を備えた記録装置であって、前記媒体送り手段は、上記第1の態様の前記媒体送り装置を備え、前記被記録媒体は、前記被送り媒体であることを特徴とする。
本発明の第2の態様によれば、前記媒体送り手段は、上記第1の態様の前記媒体送り装置を備えている。従って、前記記録装置において、上記第1の態様と同様の作用効果を得ることができる。その結果、記録精度をもより向上させることができる。
【0015】
本発明の第3の態様は、第2の態様において、前記送り経路は側視湾曲した区間を有しており、前記記録部による記録を開始する前において、前記送り手段によって被記録媒体の少なくとも一部を前記送り経路の湾曲した区間に送り、この際の前記モーターの電流値に応じて前記補正値を設定する構成であることを特徴とする。
本発明の第3の態様によれば、第2の態様と同様の作用効果に加え、前記送り経路において被記録媒体を実際に送って負荷を測定するのでより精度を向上させることができる。
また、前記側視湾曲した区間を有する場合、被記録媒体の位置によって前記負荷が変動する。係る構成である場合に特に有効である。
【0016】
本発明の第4の態様は、第2または第3の態様において、前記送り手段は、被記録媒体を記録時の送り方向上流側へ送った後に記録時の送り方向下流側へ送ることにより前記記録部へ送る構成であることを特徴とする。
本発明の第4の態様によれば、第2または第3の態様と同様の作用効果に加え、記録実行前の段階において一度、被記録媒体を記録時の送り方向上流側へ送った後に下流側へ送る構成である。即ち、記録実行する際の送り経路に予め被記録媒体を送って、被送り媒体と前記送り経路との摩擦抵抗等の負荷の大きさを把握する構成である。従って、前記負荷の水準を精度良く把握することができ、これに基づいて前記補正値の大きさについて精度良く設定することができる。
【0017】
さらに、前記送り経路における被記録媒体の位置に応じた前記負荷の大きさの変動をも精度良く把握することができる。そして、該負荷の大きさの変動に応じて前記補正値の大きさをも精度良く変動させることができる。
その結果、前記送り手段が被記録媒体を送る距離である送り量を安定させることができる。特に前記送り経路が前記側視湾曲した区間を有し、前記負荷が変動する場合に有効である。
【0018】
本発明の第5の態様は、第4の態様において、前記送り手段は、前記モーターの動力によって駆動する送り駆動ローラーと、該送り駆動ローラーに従って回転する送り従動ローラーと、を有する送りローラー対であり、該送りローラー対は、前記送り駆動ローラーおよび前記送り従動ローラーが互いに接近した第1状態と、互いに離間した第2状態とを切り換え可能に設けられており、被記録媒体が載置される際、前記送りローラー対が前記第2状態であり、記録実行指示により前記送りローラー対が前記第1状態に切り換えられて被記録媒体を挟持し、前記送りローラー対が被記録媒体を挟持した状態のまま記録時の送り方向上流側へ送った後に記録時の送り方向下流側へ送ることにより前記記録部へ送り、前記記録部が前記送りローラー対によって挟持された状態の被記録媒体に対して記録を実行する構成であることを特徴とする。
本発明の第5の態様によれば、第4の態様と同様の作用効果に加え、記録実行前の段階から記録完了までの間、前記送りローラー対によって挟持される構成である場合に特に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係るプリンターの全体を示す斜視図(第2カバー部材閉)。
【図2】本発明に係るプリンターの全体を示す斜視図(第2カバー部材開)。
【図3】本発明のプリンターの可動案内部材が閉じた状態を示す後方斜視図。
【図4】本発明のプリンターの可動案内部材が開いた状態を示す後方斜視図。
【図5】本発明のプリンターの内部を示す概略側面図(第1類の媒体搬送のとき)。
【図6】本発明のプリンターの内部を示す概略側面図(第2類の媒体搬送のとき)。
【図7】本発明のプリンターの内部を示す概略側面図(第3類の媒体搬送のとき)。
【図8】可動案内部材が移動する構成を示す概略側面図(閉じた状態)。
【図9】可動案内部材が移動する構成を示す概略側面図(開いた状態)。
【図10】開いた状態の可動案内部材と第1案内部との接続を示す要部拡大斜視図。
【図11】本発明に係る誤セット判定の仕方を示す図。
【図12】本発明に係る補正値の決定の仕方を示す図。
【図13】補正値の決定におけるセンサー等の位置関係を示す概略側面図。
【図14】媒体の厚み、サイズや材質等の種類別にモーターの電流値を示す図。
【図15】媒体の後端の位置と送り量の誤差との関係を示す図。
【図16】モーターの電流値の増加分と必要な補正値の大きさとの関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1に示すのは、「記録装置」或いは「液体噴射装置」の一例としてのインクジェットプリンター(以下「プリンター」と言う)1の後述する第2カバー部材(第1トレイ)が閉じた状態を示す斜視図である。また、図2に示すのは、プリンターの第2カバー部材(第1トレイ)がプリンターの前方へ開いた状態であって、後述する第2トレイが前方へ突出している状態を示す斜視図である。
【0021】
ここで、液体噴射装置とは、液体噴射ヘッドとしての記録ヘッドから記録紙等の被記録材へインクを噴射して被記録材への記録を実行するインクジェット式記録装置、複写機及びファクシミリ等の記録装置に限らず、インクに代えて特定の用途に対応する液体を前述した記録ヘッドに相当する液体噴射ヘッドから、被記録材に相当する被噴射材に噴射して、液体を被噴射材に付着させる装置を含む意味で用いる。
【0022】
またさらに、液体噴射ヘッドとしては、前述した記録ヘッド以外に、液晶ディスプレイ等のカラーフィルター製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイや面発光ディスプレイ(FED)等の電極形成に用いられる電極材(導電ペースト)噴射ヘッド、バイオチップ製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド、精密ピペットとしての試料を噴射する試料噴射ヘッド等が挙げられる。
【0023】
図1および図2に示す如く、プリンター1は筐体2を有している。また、筐体2の内部に後述する媒体送り装置42(図5〜図7参照)を有している。そして、プリンター1における鉛直方向上方には、第1カバー部材4が設けられている。図1および図2に示す第1カバー部材4は閉じた状態であるが、上方へ開くことにより、ユーザーが後述する第1載置部22(図5〜図7参照)としてのホッパー23に第1類の媒体の一例である普通紙P1をセットすることができるように設けられている。
【0024】
ここで、「第1類の媒体」とは、後述するように第1送り手段26(図5〜図7参照)である給送ローラー27によって第1送り経路上(R1(図5参照))を送ることができる媒体をいう。具体的には、可撓性を有し第1所定弾性値より低い媒体であって、後述する第2送り手段35(図5〜図7参照)より小さい送り力を媒体に付与する第1送り手段26(図5〜図7参照)によって送られる媒体であり、第1載置部22(図5〜図7参照)に積層された状態から一枚ずつ送られる媒体をいう。また、「普通紙」とは、およそ重さ60〜90g/平方mの普通に用いられる用紙をいう。この範囲外であってもよいのは勿論である。
「第1所定弾性値」は、第1送り手段26(図5〜図7参照)によって第1送り経路上(R1)で媒体(P1)を送ることができる限界値である。即ち、該送ることができる弾性値のうち最も高い値である。
【0025】
また、プリンター1の前方にはボタン等を有する操作部3が設けられている。ユーザーが操作部3を操作することにより、記録条件や用紙等の媒体の条件等を設定することができるように構成されている。さらに、操作することにより記録実行開始の信号が制御部(図示せず)へ送られるように構成されている。
またさらに、プリンター1の前方には第2カバー部材5が設けられている。図1に示すのは第2カバー部材5が閉じた状態である。
【0026】
一方、図2に示すのは第2カバー部材5が開いた状態である。第2カバー部材5を開いて、第2カバー部材5の内部を引き出すようにスライドさせて伸ばした状態にすることにより、普通紙P1が排出される第1排出部6としての第1トレイ7の役割をする。
また、第2カバー部材5を開くと、内部の第2トレイ10がプリンター1の前方へ突出可能となる。第2トレイ10が突出した状態では、第2トレイ10は後述するように厚みのある媒体である第2類の媒体の一例であるボード紙、CD−RトレイP2および第3類の媒体の一例である専用紙P3を載置することができる第2載置部8の役割をする。
【0027】
ここで、「第2類の媒体」とは、後述するように第1送り手段26によって第1送り経路上(R1)を送ることができない媒体をいう。具体的には、可撓性を有さない剛性の高い媒体や、可撓性を有していても第2所定弾性値以上の弾力が強い媒体をいう。また、「ボード紙」とは、パネル(ボード)がメディアと一体になったものをいう。
「第2所定弾性値」は、前記第1所定弾性値より高い値であって、第2送り手段35(図5〜図7参照)によって第3送り経路上(R3)で媒体(P2)を送ることができない限界値である。即ち、該送ることができない弾性値のうち最も低い値である。
【0028】
また、「第3類の媒体」とは、「第2類の媒体」と同様に第1送り手段26によって第1送り経路上(R1)を送ることができない媒体であって、可撓性の有しており「第2類の媒体」と比較して弾力が弱い媒体をいう。より具体的には、前記第1所定弾性値以上であり前記第2所定弾性値未満の媒体をいう。また、「専用紙」とは、普通紙P1とは異なり写真等の特定の目的に使用するための用紙であって普通紙P1と比較して所謂、コシが強いものをいう。「コシ」とは、弾力をいう。
尚、第2トレイ10には、幅方向Xにおいて、セットされた「第2類の媒体」および「第3類の媒体」の位置を決める第2エッジガイド11が設けられている。
【0029】
さらに、第2トレイ10は記録完了後のボード紙、CD−RトレイP2および専用紙P3が排出される第2排出部9としての役割をもする。
またさらに、プリンター1の後方には可動案内部材25が設けられている。図2に示すのは可動案内部材25が後方へ開いた状態である。より具体的には、可動案内部材25を開いて、可動案内部材25の内部を引き出すようにスライドさせて上方へ伸ばした状態である。詳しくは後述するように可動案内部材25は、専用紙P3を記録する際に開いた状態にすることにより媒体の送り経路(R3)を側視曲がった構成とするように設けられている(図7参照)。
【0030】
図3に示すのは、本発明のプリンターの可動案内部材が閉じた状態を示す後方斜視図である。また、図4に示すのは、本発明のプリンターの可動案内部材が開いた状態を示す後方斜視図である。
図3および図4に示す如く、可動案内部材25は、プリンター1の後方へ開閉可能に設けられている。そして、可動案内部材25が閉じた状態では、筐体2における後側の面と同一面となるように構成されている。言い換えると、可動案内部材25を使用しない場合は、可動案内部材25の外側の面が筐体2の後側の面と同一面となるように収納される。
【0031】
一方、可動案内部材25が開いた状態では、前述したように可動案内部材25の内部を引き出すようにスライドさせて上方へ伸ばした状態とすることができる。そして、後述するように送り経路(R3)を側視湾曲した区間S2を有する構成とすることができる。
尚、可動案内部材25の開閉動作は、ユーザーが手動で開閉してもよいが、モーターの動力によって自動で開閉するように構成してもよいのは勿論である。自動で開閉する構成とする場合、プリンター1が設定された記録条件や用紙等の媒体の条件等から判断して開閉するように構成することができる。
[普通紙(第1類の媒体)の場合]
【0032】
続いて、プリンター1の内部について説明する。
図5に示すのは、普通紙(第1類の媒体)を搬送し記録するときにおけるプリンターの内部を示す概略側面図である。
図5に示す如く、プリンター1は、媒体を送る媒体送り装置42と、記録部30と、を備えている。また、媒体送り装置42は、第1載置部22と、第1送り手段26と、分離手段28と、第2送り手段35と、記録部30と、第3送り手段38と、第1排出部6と、を備えている。このうち、第1載置部22は、普通紙P1を載置することができるように設けられている。具体的には、第1載置部22は、ホッパー23と、第1エッジガイド24と、を有している。
【0033】
そして、ホッパー23は、載置された普通紙P1と一体となって、後述する給送ローラー27に対して接離移動することができるように設けられている。また、第1エッジガイド24は、ホッパー23と一体に給送ローラー27に対して接離移動し、普通紙P1の幅方向両側において該幅方向Xにホッパー上を移動することができるように一対設けられている。
【0034】
従って、ホッパー上に載置された普通紙P1の両側側端をきれいに揃えることができる。また、ホッパー上において、幅方向Xにおける普通紙P1の位置を精度良く決めることができる。
また、第1送り手段26は、ホッパー上の普通紙P1を送り方向下流側へ送ることができるように設けられている。具体的には、第1送り手段26は、図示しない第1モーターによって駆動する給送ローラー27を有している。
【0035】
そして、ホッパー上の給送ローラー27に対して最上位の普通紙P1と接触したときの摩擦力により、最上位の普通紙P1を送り方向下流側へ送ることができるように設けられている。
尚、本実施形態では、第1載置部22であるホッパー23が給送ローラー27に対して接離移動する構成としたが、これに限られるものではない。ホッパー23と給送ローラー27とが相対的に接離移動する構成であればよい。言い換えると、給送ローラー27がホッパー23に対して接離移動する構成でもよいのは勿論である。
【0036】
またさらに、分離手段28は、第1送り手段26によって送られる普通紙P1が複数枚重なっている場合に余分な次位以降の普通紙P1を最上位の普通紙P1から分離することができるように設けられている。具体的には、分離手段28は、一例として公知技術である所定の負荷を伴って回転するローラーである所謂、リタードローラー29を有している。
尚、分離手段28は、摩擦係数が高い素材で形成されたパッドでもよいのは勿論である。
【0037】
そして、最上位の普通紙P1の先端は、第1案内部43より記録時の送り方向下流側(Y軸の矢印方向)に設けられた第2案内部44によって第2送り手段35へ案内されるように構成されている。
ここで、第1案内部43は、後述するように専用紙P3、ボード紙、CD−Rトレイ等P2の媒体である場合に該媒体を案内するように構成されている。
【0038】
また、第2送り手段35は、普通紙P1の場合は第1送り手段26によって送られてきた普通紙P1をさらに送り方向下流側の記録部30へ送ることができるように構成されている。
尚、詳しくは後述するが専用紙P3、ボード紙、CD−Rトレイ等P2の媒体である場合は、これらの媒体を記録時の送り方向上流側および下流側へ送ることができるように構成されている。
【0039】
具体的には、第2送り手段35は、第1ローラー対36を有している。第1ローラー対36は、例えば、DCモーターである第2モーター41の動力によって駆動する第1駆動ローラー36aと、従動回転する第1従動ローラー36bとによって構成されている。
ここで、「DCモーター」とは、直流電源を使用し、所謂、「ブラシ付きDCモーター」や「ブラシレスモーター」をいい、入力パルス数に比例して駆動する「ステッピングモーター」は含まれない。
【0040】
さらに、第2送り手段35は、詳しくは後述するが第1接離移動手段37によって第1駆動ローラー36aと第1従動ローラー36bとが相対的に接離移動することができるように構成されている。即ち、接近した状態と、離間した状態とを切り換え可能に構成されている。本実施形態では、第1従動ローラー36bが第1駆動ローラー36aに対して接離移動することができるように設けられている。
【0041】
尚、第1駆動ローラー36aが第1従動ローラー36bに対して接離移動する構成でもよいのは勿論である。本実施形態において第1従動ローラー36bが第1駆動ローラー36aに対して接離移動する構成とした理由は、第1駆動ローラー36aへの動力伝達機構を考慮すると駆動する側が移動可能な構成と比較して従動回転する側が移動可能な構成とする方が容易だからである。
また、接離移動させる手段である第1接離移動手段37としては、カム機構やギア機構によって動力を伝達する機構を挙げることができる。
【0042】
また、第1送り手段26から第2送り手段35へ普通紙P1が送られる際、送り方向に対する普通紙P1の姿勢を正すための動作である所謂、スキュー取り動作を実行するように構成されている。
スキュー取り動作は、所謂、「食い付き吐き出し方式」でも「突き当て方式」でもよい。
ここで、「食い付き吐き出し方式」とは、第2送り手段35である第1ローラー対36が普通紙P1の先端を一度挟持し、第1ローラー対36を逆転させて普通紙P1の先端側を送り方向上流側へ逆送りする。そして、第1送り手段26である給送ローラー27と第2送り手段35である第1ローラー対36との間において、普通紙P1を撓ませて普通紙P1の先端を第1ローラー対36のニップラインに押し付けることにより、先端の姿勢をニップラインに倣わせる方式をいう。
【0043】
即ち、第1ローラー対36に普通紙P1の先端を一度食い付かせた後、送り方向上流側へ普通紙P1の先端側を吐き出すことにより普通紙P1を撓ませて先端の姿勢をニップラインに倣わせる方式をいう。
ここで、「ニップライン」とは、第1ローラー対36の外接する箇所が成す線をいう。即ち、第1ローラー対36における挟圧する箇所が成す線である。
【0044】
一方、「突き当て方式」とは、給送ローラー27によって普通紙P1を送り方向下流側へ送り普通紙P1の先端を、停止している状態または逆転駆動している状態の第1ローラー対36のニップラインに押し付けることにより、先端の姿勢をニップラインに倣わせる方式をいう。即ち、第1ローラー対36に普通紙P1の先端を突き当てることにより先端の姿勢をニップラインに倣わせる方式をいう。尚、給送ローラー27と第1ローラー対36との間において、普通紙P1を撓ませて先端の姿勢をニップラインに倣わせてもよいし、撓ませずに先端の姿勢をニップラインに倣わせてもよい。
【0045】
従って、普通紙P1の場合は、送り方向に対する普通紙P1の姿勢が傾いていたときであっても普通紙P1の姿勢を正してから記録部30へ送ることができる。
また、記録部30は、送られてきた普通紙等の媒体(P1〜P3)に対して記録を実行することができるように構成されている。具体的には、記録部30は、記録ヘッド31と、媒体支持部34と、を有している。
【0046】
このうち、記録ヘッド31は、ノズル列32よりインク滴を吐出することにより記録を実行することができるように設けられている。また、媒体支持部34は、記録ヘッド31と対向する位置に設けられている。そして、普通紙等の媒体(P1〜P3)を鉛直方向下方から支持することにより、記録ヘッド31と普通紙等の媒体(P1〜P3)との間を所定の間隔を保つことができるように設けられている。
【0047】
尚、記録部30において、送られる媒体(P1〜P3)の材質、厚み等の種類に応じて記録ヘッド31と、媒体支持部34との間のZ軸方向における間隔を調整することができるように構成されているものとする。言い換えると、記録ヘッド31と、媒体支持部34とが相対的に変位することができるように構成されているものとする。この変位は、手動でも自動でもよい。
ここで、Z軸の方向は、記録ヘッド31と媒体(P1〜P3)とが対向する方向である。
【0048】
記録ヘッド31が媒体支持部34に対して変位する構成でもよいし、逆に媒体支持部34が記録ヘッド31に対して変位する構成でもよい。これは、送られる媒体(P1〜P3)と記録ヘッド31との接触を防止するためである。これにより、記録ヘッド31が破損すること、汚れること、媒体(P1〜P3)が破損することや汚れることを防止することができる。
【0049】
またさらに、第3送り手段38は、記録部30より記録時の送り方向下流側に設けられ、記録された媒体(P1〜P3)を送り方向下流側へさらに送ることができるように設けられている。具体的に、第3送り手段38は、前述した第2送り手段35と同様に第2ローラー対39を有している。第2ローラー対39は、第2モーター41の動力によって駆動する第2駆動ローラー39aと、従動回転する第2従動ローラー39bとによって構成されている。
【0050】
さらに、第3送り手段38は、詳しくは後述するが第2接離移動手段40によって第2駆動ローラー39aと第2従動ローラー39bとが相対的に接離移動することができるように構成されている。即ち、接近した状態と、離間した状態とを切り換え可能に構成されている。本実施形態では、第2従動ローラー39bが第2駆動ローラー39aに対して接離移動することができるように設けられている。
【0051】
また、第1排出部6は、記録部30において記録された普通紙P1が第3送り手段38によって送り方向下流側へ送られて排出される際、該普通紙P1を受け止めて積層することができるように設けられている。具体的に、第1排出部6は、第3送り手段38より記録時の送り方向下流側であって鉛直方向下方に設けられた第1トレイ7を有している。従って、連続して排出された普通紙P1を積層することができる。
【0052】
以上、説明したように、媒体が普通紙P1の場合は、第1載置部22から第1排出部6までの経路である第1送り経路R1に案内されるように構成されている。
尚、図5において、理解を容易にするために第2排出部9の図示は省略してある。第2排出部9である第2トレイ10は、普通紙P1を第1トレイ上に排出する妨げとならない位置に位置しているものとする。
[ボード紙、CD−Rトレイ等(第2類の媒体)の場合]
【0053】
次に、媒体がボード紙、CD−Rトレイ等(第2類の媒体)の場合について説明する。
図6に示すのは、ボード紙、CD−Rトレイ等を搬送し記録するときにおけるプリンターの内部を示す概略側面図である。
図6に示す如く、可動案内部材25が閉じた状態では、第2トレイ10の上面、媒体支持部34の上面、第2案内部44の上面および第1案内部43の上面によって側視一直線上となるように構成されている。
【0054】
そして、第2トレイ10の上面、媒体支持部34の上面、第2案内部44の上面および第1案内部43の上面によってボード紙、CD−Rトレイ等P2が送られる送り経路である第2送り経路R2が構成される。即ち、第2送り経路R2は、側視一直線上に構成されている。この理由は、媒体がボード紙、CD−Rトレイ等P2の場合、媒体が剛体であるためまたは弾力が強いため側視湾曲した第1送り経路上(R1)を送ることができない。そのために側視一直線上に構成された第2送り経路R2を第1送り経路R1とは別に設ける必要があるからである。
尚、後述する第3類の媒体(P3)の場合も第2類の媒体(P2)と同様に第2送り経路上(R2)を送ることができることは言うまでもない。
【0055】
具体的には、媒体がボード紙、CD−Rトレイ等P2の場合、ユーザーは、ボード紙、CD−Rトレイ等P2をプリンター1の前方の第2載置部8である第2トレイ10に載置する。この際、操作部3で媒体の種類を設定することにより、第1ローラー対36は、第1接離移動手段37によって前記離間した状態となる。同様に、第2ローラー対39は、第2接離移動手段40によって前記離間した状態となる。そして、ユーザーは、第2トレイ上において媒体の種類に応じて該媒体を所定の位置に合わせる。
ここで、「所定の位置」とは、媒体(P2、P3)の一部が第1ローラー対36の第1駆動ローラー36aと第1従動ローラー36bとの間に位置する位置をいう。
【0056】
その後、ユーザーは操作部3を操作することにより記録実行開始の信号が制御部へ送られる。これにより、第1ローラー対36は前記接近した状態に切り換えられる。従って、媒体(P2、P3)が第1ローラー対36によって挟持された状態となる。
ここで、第1ローラー対36と記録ヘッド31との間において、媒体(P2、P3)の有無を検出することができる第1センサー33が設けられている。従って、プリンター1は、媒体(P2、P3)がセットされたと判断することができる。この判断に基づいて、制御部が第1ローラー対36を前記接近した状態に切り換える。仮に媒体(P2、P3)がセットされていないと判断した場合は、エラー表示をしてもよい。
【0057】
尚、第2ローラー対39は前記離間した状態のままである。これは、第1ローラー対36によって媒体(P2、P3)を送る精度を出すように構成されているからである。第2ローラー対39を第1ローラー対36と同様に前記接近した状態に切り換えてもよいのは勿論である。係る場合、前記「所定の位置」は、媒体(P2、P3)の一部が第2ローラー対39の第2駆動ローラー39aと第2従動ローラー39bとの間に位置する位置であればよい。
【0058】
そして、第1ローラー対36に挟持された媒体(P2、P3)は、第1センサー33が媒体(P2、P3)を検出しなくなるまで、記録時の送り方向上流側へ送られる。この際、媒体(P2、P3)は、第2トレイ10、媒体支持部34、第2案内部44および第1案内部43によって案内されながら第2送り経路上(R2)における記録時の送り方向上流側へ移動する。
ここで、媒体(P2、P3)の長さが長い場合、媒体(P2、P3)における記録時の送り方向上流側は、第1案内部43に案内されながら、筐体2の外側へ突出することができるように構成されている。即ち、プリンター1の後方へ突出することができるように構成されている。
【0059】
そして、プリンター1は、第1センサー33が媒体(P2、P3)を検出しなくなったタイミングによって、媒体(P2、P3)における記録時の送り方向下流端の位置を把握することができる。即ち、記録時における媒体(P2、P3)の先端の位置を把握することができる。これに基づいて第1ローラー対36を駆動させることにより、記録時における媒体(P2、P3)の先端の位置を記録開始時の基準位置に合わせることができる。所謂、頭出しである。
尚、このとき、媒体(P2、P3)は第1ローラー対36に挟持されたままの状態である。
【0060】
その後、媒体(P2、P3)は第1ローラー対36によって記録時の送り方向下流側へ送られ、記録部30によって記録されるように構成されている。記録が完了すると、第1ローラー対36によって媒体(P2、P3)は記録時の送り方向下流側へさらに送られ、第2トレイ10に排出される。即ち、ユーザーが媒体(P2、P3)をセットした位置と略同じ位置に排出される。
【0061】
尚、操作部3で媒体(P2、P3)の種類を設定することにより、第2トレイ10が第3送り手段38より記録時の送り方向下流側であって鉛直方向Zにおいて同じ高さとなる位置へ移動するように構成してもよい。第2トレイ10の移動は、図示しないモーターの動力によって移動する構成でもよいし、手動で位置を切り換える構成でもよい。
また、普通紙P1の場合の排出を妨げない場合であって、第2トレイ10の上面が媒体支持部34の上面と鉛直方向Zにおいて同じ高さであれば、普通紙P1の場合と同じ位置であってもよい。係る場合、第2カバー部材5を前方に開く動作と連動して第2トレイ10の位置が図6に示す位置まで移動する構成としてもよい。
【0062】
また、制御部は、図示しない第2センサーを用いて可動案内部材25が図6に示す閉じた状態か否かを判定するように構成されているものとする。ボード紙、CD−Rトレイ等P2が送られる送り経路である第2送り経路R2が、プリンター1の後方において開放された状態か否かを判断するためである。
そして、開いている場合はユーザーに対して注意をして閉じた状態とするように促すように構成されている。例えば、操作部3に設けた液晶パネル等の表示部にその旨を表示したり、警告音を発したりすることにより促すことができる。
[専用紙(第3類の媒体)の場合]
【0063】
続いて、媒体が専用紙(第3類の媒体)の場合について説明する。
図7に示すのは、専用紙を搬送し記録するときにおけるプリンターの内部を示す概略側面図である。
図7に示す如く、可動案内部材25が開いた状態では、第2トレイ10の上面、媒体支持部34の上面、第2案内部44の上面および第1案内部43の上面により第1直線区間S1が構成される。さらに、第1案内部43の上面における記録時の送り方向上流側および可動案内部材25の揺動支点側によって側視湾曲した区間S2が構成される。またさらに、可動案内部材25の自由端側によって第2直線区間S3が構成される。
【0064】
そして、第1直線区間S1、側視湾曲した区間S2および第2直線区間S3によって専用紙P3が送られる送り経路である第3送り経路R3が構成される。即ち、第3送り経路R3は、プリンター1の後方において側視湾曲した区間S2を有するように構成されている。この理由は、可撓性のある媒体である専用紙P3が、ボード紙、CD−Rトレイ等P2と同様に第2載置部8に載置され、記録実行前の段階において記録時の送り方向上流側へ送られた際、専用紙P3における記録時の送り方向上流側の姿勢を曲げるためである。
【0065】
これにより、プリンター1の後方へ媒体(P3)が突出する距離を、第2送り経路R2を用いた場合と比較して短くすることができる。従って、プリンター1の後方近傍に部屋の壁等の障害物があった場合であっても、記録実行前の段階においてプリンター1の後方へ突出した媒体(P3)が障害物と接触する虞を殆ど無にすることができる。その結果、専用紙P3の場合、第2送り経路R2ではなく第3送り経路R3を使用することにより、プリンター1の後方において第2送り経路R2の使用時に必要であった十分に広い空間を確保する必要がない。
【0066】
即ち、専用紙P3の場合においてはプリンター1の後方に十分な広い空間を確保するためにプリンター1を前方へ移動させるユーザーの手間を無くすことができる。
尚、専用紙P3は普通紙P1と比較して弾力が強く、送り経路との間で生じる摩擦抵抗等が大きい。そのため、給送ローラー27では十分な送り力を専用紙P3に対して付与することが困難であり、第1送り経路R1で普通紙P1と同様には送ることができない。
【0067】
このような理由により、専用紙P3は、ボード紙、CD−Rトレイ等P2と同様に第2載置部8に載置され、第1ローラー対36に挟持されて記録時の送り方向上流側および下流側へ送られるように構成されている。
ここで、第1ローラー対36は、媒体(P3)をしっかりと挟持する構成であることにより、給送ローラー27と比較して、媒体(P3)に対して大きい送り力を付与することができるものとする。
【0068】
そして、専用紙P3は、第1送り経路R1で普通紙P1と同様には送ることはできないが、ボード紙、CD−Rトレイ等P2と比べて、可撓性を有しており、弾力が弱い媒体であるものとする。
その後、前述したボード紙、CD−Rトレイ等P2の場合と同様に、第1ローラー対36に挟持された専用紙P3は、第1センサー33が専用紙P3を検出しなくなるまで、記録時の送り方向上流側へ送られる。この際、専用紙P3は、第2トレイ10、媒体支持部34、第2案内部44、第1案内部43および可動案内部材25によって案内されながら第3送り経路上(R3)における記録時の送り方向上流側へ移動する。
【0069】
そして、プリンター1は、第1センサー33が専用紙P3を検出しなくなったタイミングによって、専用紙P3における記録時の送り方向下流端の位置を把握することができる。即ち、記録時における専用紙P3の先端の位置を把握することができる。これに基づいて第1ローラー対36を駆動させることにより、記録時における専用紙P3の先端の位置を記録開始時の基準位置に合わせることができる。所謂、頭出しである。
尚、このとき、専用紙P3は第1ローラー対36に挟持されたままの状態である。
【0070】
その後、専用紙P3は第1ローラー対36によって記録時の送り方向下流側へ送られ、記録部30によって記録されるように構成されている。そして、記録が完了すると、第1ローラー対36によって専用紙P3は記録時の送り方向下流側へさらに送られ、第2トレイ10に排出される。即ち、ユーザーが専用紙P3をセットした位置と略同じ位置に排出される。
【0071】
続いて、可動案内部材25の開閉機構についてより詳しく説明する。
図8に示すのは、可動案内部材が閉じた状態における開閉機構を示す概略側面図である。また、図9に示すのは、可動案内部材が開いた状態における開閉機構を示す概略側面図である。またさらに、図10に示すのは、可動案内部材が開いた状態における第1案内部と可動案内部材との接続箇所を示す拡大斜視図である。
【0072】
図8および図9に示す如く、可動案内部材25の開閉機構12は、第1溝部17と、第2溝部18と、第1突部14と、第2突部15と、付勢手段の一例であるばね20と、を有している。このうち、第1溝部17は、プリンター1の基体部45における可動案内部材25の幅方向両側に一対設けられている。具体的には、Z軸方向に延設されている。また、第2溝部18は、第1溝部17と同様にプリンター1の基体部45における可動案内部材25の幅方向両側に一対設けられている。
【0073】
さらに、第2溝部18は、第1部分18aおよび第2部分18bを有している。具体的には、図8および図9に示す如く、Z軸方向上方の第1部分18aが第1溝部17の延設された方向(Z軸方向)に対して略直交するように設けられている。また、その第1部分18aよりZ軸方向下方の第2部分18bはZ軸方向と交差する方向へ延設されている。即ち、第2溝部18は、側視屈曲した形状に構成されている。
【0074】
またさらに、第1突部14は、可動案内部材25における幅方向両側に一対設けられており、第1溝部17と係合するように構成されている。即ち、第1突部14と第1溝部17とが溝カムを構成するように設けられている。
また、第2突部15は、第1突部14と同様に可動案内部材25における幅方向両側に一対設けられており、第2溝部18と係合するように構成されている。即ち、第2突部15と第2溝部18とが溝カムを構成するように設けられている。
【0075】
またさらに、ばね20は、可動案内部材25を該可動案内部材25の開いた状態に位置および閉じた状態の位置へ付勢するように設けられている。可動案内部材25を二つに位置に安定させる所謂、二位置安定機構である。具体的には、ばね20の一端側が基体部45と係合しており、他端側が可動案内部材25の第2突部15と係合している。そして、ばね20が常に第2突部15を第2溝部内の移動方向における両側端部に向かって付勢するように構成されている。従って、可動案内部材25が開いた状態と閉じた状態との間の中途半端な状態となる虞がない。
【0076】
また、第2溝部18の近傍には第2溝部18が延設された方向に沿ってラック部19が形成されている。またさらに、第2突部15には、ラック部19と噛み合うピニオン部16が回動自在に設けられている。ラック部19とピニオン部16とがラックアンドピニオン機構を構成し、可動案内部材25の開いた状態および閉じた状態の切り換えを滑らかに行うことができるように構成されている。言い換えると、ピニオン部16は、第2突部15と第2溝部18との間において生じる摩擦抵抗を低減させるローラーの役割を果たすことができる。
【0077】
図8に示す閉じた状態から図9に示す開いた状態に切り換える際、ユーザーは、図8における可動案内部材25の上方をプリンター1の後方(図8における右側)へ移動させる。このとき、第2突部15は第2溝部18の第1部分18aを移動し、可動案内部材25は第1溝部17と係合する第1突部14を支点に揺動する。
尚、可動案内部材25の上方には、ユーザーが指を引っかけやすくするための切欠き部が形成されているものとする。
【0078】
その後、ユーザーは、可動案内部材25の上方をさらに開く方向(図8における右側)へ揺動させようとすると、第1突部14が第1溝部17に沿って移動しようとするため、可動案内部材25が下方へ移動しようとする力成分が生じる。これにより、第1突部14は第1溝部17に案内されて下方へ移動し、第2突部15は第2溝部18の第2部分18bに案内されて下方へ移動する。
【0079】
即ち、可動案内部材25は、第1突部14および第2突部15より図8における左側を支点に揺動するように移動する。これにより、第1突部14および第2突部15の一方のみを支点として揺動する構成と比較して、第1案内部43と可動案内部材25とを繋いで前述した第3送り経路R3を構成するために必要な可動案内部材25の上方の揺動する距離を短くすることができる。即ち、プリンター1の後方への揺動距離を短くすることができる。
【0080】
従って、第1突部14および第2突部15の一方のみを支点として揺動する構成におけるプリンター1の後方への可動案内部材25の開閉動作に必要な空間の大きさと比較して、開閉動作に必要な空間の大きさを小さくすることができる。即ち、狭い空間であっても可動案内部材25を開閉することができる。
尚、この際の可動案内部材25の移動は、必ずしも一点を支点とした揺動でなくてもよい。移動の途中において支点の位置が変化する構成でも同様の作用効果を得ることができるからである。
【0081】
そして、第1突部14が第1溝部17の下端に度当たること、および第2突部15が第2溝部18の下端に度当たることの少なくとも一方により、可動案内部材25の移動が停止し、図9に示す可動案内部材25が開いた状態となる。このとき、可動案内部材25の下端と、第1案内部43とが噛み合うように構成されている(図10参照)。前述した第3類の媒体P3を記録時の送り方向上流側へ送る際、第3類の媒体P3の上流端が第1直線区間S1から湾曲した区間S2にさしかかったときに第3類の媒体P3の上流端が、可動案内部材25の下端と、第1案内部43との繋ぎ目(連結箇所F)に引っ掛からないようにするためである。
【0082】
また、図9に示す開いた状態から図8に示す閉じた状態に切り換える際について説明する。ユーザーは、可動案内部材25の上方を閉じる方向(図9における左側)へ揺動させようとすると、第1突部14が第1溝部17に沿って移動しようとするため、可動案内部材25が上方へ移動しようとする力成分が生じる。これにより、第1突部14は第1溝部17に案内されて上方へ移動し、第2突部15は第2溝部18の第2部分18bに案内されて上方へ移動する。
【0083】
その後、ユーザーは、図9における可動案内部材25の上方をプリンター1の前方(図9における左側)へ移動させる。このとき、第2突部15は第2溝部18の第1部分18aを移動し、可動案内部材25は第1溝部17と係合する第1突部14を支点に揺動する。そして、可動案内部材25が図8に示す閉じた状態となる。
尚、前述したラックアンドピニオン機構(16、19)によって図示しないモーターの動力を可動案内部材25へ伝達し、可動案内部材25が自動へ開閉する構成としてもよいのは勿論である。
【0084】
図10に示すのは、可動案内部材の下端と、第1案内部との繋ぎ目を示す要部拡大斜視図である。
図10に示す如く、可動案内部における記録時の送り方向下流側には、第1リブ13が形成されている。一方、第1案内部43には、第2リブ21が形成されている。そして、可動案内部材25が開いた状態では、第1リブ13と第2リブ21とが櫛歯状に噛み合うように構成されている。これにより、前述した第3類の媒体P3を記録時の送り方向上流側へ送る際、第3類の媒体P3の上流端が第1直線区間S1から湾曲した区間S2にさしかかったときに第3類の媒体P3の上流端が、可動案内部材25の下端と、第1案内部43との繋ぎ目(連結箇所F)に引っ掛からないようにすることができる。
【0085】
また、第1リブ13および第2リブ21によって、該第1リブ13および第2リブ21を有しない構成と比較して、第3送り経路R3と第3類の媒体P3との摩擦抵抗を低減することができる。その結果、第2送り手段35の負荷を低減することができる。
尚、第2送り経路R2および第3送り経路R3を切り換え可能な構成では、可動案内部材25が第1リブ13を有していればよく、必ずしも第1案内部43の第2リブ21を有していることを要しない。第2リブ21がない構成であっても、第3類の媒体P3を記録時の送り方向上流側へ送る際、第3類の媒体P3の上流端を第1直線区間S1から湾曲した区間S2へ滑らかに案内することができるからである。
【0086】
続いて、誤セット判定方法について説明する。
ここで、「誤セット」とは、前述したように可動案内部材25を開いて第3送り経路R3を構成する状態において、第2類の媒体P2が第2トレイ10にセットされることをいう。即ち、第2類の媒体P2は第3送り経路R3で送るべきではなく、第2送り経路R2で送るべきである。それにも拘わらず、何らかの原因によって可動案内部材25が開いて第3送り経路R3に切り換えられており、第2類の媒体P2が第3送り経路R3で送られる虞がある。
【0087】
係る場合、第2類の媒体P2が記録時の送り方向上流側へ送られ第2類の媒体P2の全体が側視湾曲した区間S2に進入すると、第2類の媒体P2およびプリンター1が破損する虞がある。
また、第3送り経路R3で送ることができない媒体であるにも拘わらず、第3送り経路R3で送ることができると誤認して第3送り経路R3に切り換えられている状態で、第2類の媒体P2が第2トレイ10にセットされる虞がある。係る場合も同様の虞がある。
そこで、本実施形態のプリンター1は、誤セット判定を実行するように構成されている。
【0088】
図11に示すのは、本発明に係る誤セット判定の仕方(シーケンス)を示す図である。
図11に示す如く、ステップS1では、媒体の後端(記録時の送り方向上流端)を所定の位置に合わせて該媒体を第2トレイ10にセットする。
ここで、可動案内部材25は開いた状態であり、第3送り経路R3に切り換えられた状態であるものとする。
また、第2トレイ10には、媒体の先端等をどの位置に合わせればよいかを示す印が設けられているものとする。
【0089】
従って、ユーザーは、媒体のサイズや材質等の種類に応じて媒体を容易に第2トレイ上にセットすることができる。そして、ユーザーが「媒体セットOK」ボタンを押したか否かを制御部が判定する。これが記録実行開始を指令となるからである。そして、前記ボタンが押されたと制御部が判定した場合、媒体を記録時の送り方向上流側へ送る動作に入るためにステップS2へ進む。一方、前記ボタンが押されていないと制御部が判定した場合、記録実行開始の指令を待つために、ステップS1に戻る。
【0090】
ステップS2では、第1センサー33が媒体を検出している状態か否かを制御部が判定する。第1ローラー対36が媒体を挟持することができる位置に媒体がセットされているかを確認するためである。
尚、この際、第1ローラー対36および第2ローラー対39は、前述したように離間した状態である。
【0091】
第1センサー33が媒体を検出している状態である場合、制御部は媒体が正常な所定の位置にセットされており、第1ローラー対36が媒体を挟持することができると判断する。そして、媒体を記録時の送り方向上流側へ送る動作に入るためにステップS3へ進む。
一方、第1センサー33が媒体を検出していない状態である場合、制御部は媒体が正常な所定の位置にセットされていないため、第1ローラー対36が媒体を挟持することができないと判断する。そして、媒体が正しくセットされているか否かをユーザーに確認してもらうためにステップS8へ進む。
【0092】
ステップS3では、先ず、第1ローラー対36を前記接近した状態に切り換える。これは、第1ローラー対36が媒体を挟持するためである。次に、第2モーター41を逆転駆動させることにより第1ローラー対36を逆転駆動させ、媒体を記録時の送り方向上流側へ送る。この際、第1センサー33が媒体を検出した状態から検出していない状態に切り替わる。
【0093】
そして、制御部は、第1センサー33の状態が前記検出していない状態に切り替わったときから第1の所定の量(ステップ数)だけ第2モーター41をさらに逆転駆動させる。これは、媒体の位置を把握するためである。
ここで、「第1の所定の量(ステップ数)」は、第1センサー33の状態が前記検出していない状態に切り替わったときの媒体の位置から媒体における記録時の送り方向下流端である先端が第1ローラー対36に到達するまで距離に相当する量より小さい量である。即ち、第1センサーと第1ローラー対36との間の距離に相当する量より小さい量である。
【0094】
ステップS4では、前述したステップS3において第2モーター41を逆転駆動させた際の第2モーター41の電流値Iを制御部が取得する。これは、取得した電流値Iと後述するステップS5において所定の基準値I1との差を求めるためである。
ここで、「所定の基準値I1」は、後述するように前記接近した状態の第1ローラー対36が媒体を挟持していない状態で第2モーター41を逆転駆動させ、第1ローラー対36を逆転駆動させたときの電流値である。これは、媒体を挟持して送り方向上流および下流へ送る際にどれだけ負荷が増加したかを判断するために基準となる値である。
尚、取得した電流値Iに基づいて第3類の媒体P3の後端の位置が、第3送り経路R3のどの区間内(S1〜S3)にあるかを判断することも可能である。
そして、ステップS5へ進む。
【0095】
ステップS5では、制御部が前述したステップS4で取得した第2モーター41の電流値Iと、前述した所定の基準値I1との差を求める。そして、該差が第2の所定の値(閾値)以上であるか否かを制御部が判定する。これは、前述した第3送り経路R3に切り換えられた状態で誤って前述した第2類の媒体P2がセットされたことを検出するためである。即ち、第2送り経路内に第2類の媒体P2が誤って進入したことを検出するためである。
ここで、「第2の所定の値(閾値)」は、第2類の媒体P2が第3送り経路R3の湾曲した区間S2に進入した際に増加した負荷により増加する電流値の増加分より小さい値である。さらに、第3類の媒体P3が第3送り経路R3の湾曲した区間S2に進入した際に増加した負荷により増加する電流値の増加分より大きい値である(図14参照)。
【0096】
具体的には、前述した第3送り経路R3に切り換えられた状態において、前記差が第2の所定の値(閾値)以上である場合について考える。係る場合、誤って前述した第2類の媒体P2がセットされ、第2類の媒体P2が第3送り経路R3の湾曲した区間S2に進入したと制御部は判断することができる。そして、第2類の媒体P2を第3送り経路R3の湾曲した区間S2から退出させるためにステップS9へ進む。
【0097】
一方、前記差が第2の所定の値未満であると判定した場合、媒体が正常にセットされたと制御部は判断することができる。
具体的には、第3送り経路R3が選択された状態において、第3類の媒体P3が正常にセットされたと判断することができる。係る場合、媒体を記録実行開始位置へ移動させるためにステップS6へ進む。
【0098】
尚、第2モーター41の電流値Iが所定の閾値に達したか否か制御部が判定するように構成してもよい。即ち、第2モーター41の電流値Iと、前述した所定の基準値I1との差を求めずに、電流値Iと前記所定の閾値とを直接比較して判定するように構成してもよい。係る場合も同様の作用効果を得ることができるからである。
また、第2送り経路R2が選択された状態では、第2類の媒体P2または第3類の媒体P3が正常にセットされたと判断することができる。
【0099】
ステップS6では、第2モーター41を正転駆動させることにより第1ローラー対36を正転駆動させ、媒体を記録時の送り方向下流側へ送る。この際、第1センサー33が媒体を検出していない状態から検出した状態に切り替わる。そして、制御部は、第1センサー33の状態が前記検出した状態に切り替わったときから第3の所定の量(ステップ数)だけ第2モーター41をさらに正転駆動させる。
【0100】
これは、媒体における記録時の送り方向下流端である先端の位置を記録実行開始位置まで移動させるためである。所謂、頭出し動作である。
ここで、「第3の所定の量(ステップ数)」は、第1センサー33が媒体を検出したときの媒体の位置から記録実行開始位置までの移動に必要な第2モーター41の駆動量である。記録実行開始位置に応じて適宜決められる量である。
【0101】
尚、前述したステップS3で逆転駆動させた際に記録実行開始位置で停止させずに、ステップS6で正転駆動させた際に記録実行開始位置で停止させるのは、ギア等の動力伝達機構のギアが滑らかに噛み合うための所謂、あそびであるバックラッシュの影響を無くすためである。即ち、記録開始時には正転駆動させるため、同じ駆動方向で駆動させた状態から停止させることにより、駆動方向を切り換えた際のバックラッシュの影響を除去することができるからである。
【0102】
ステップS7では、前述したステップS6で第1センサー33が第3類の媒体P3を検出したときから正転駆動させたことにより第3類の媒体P3を移動させた前記第3の所定の量に基づいて制御部が第3類の媒体P3の先端の位置を取得する。即ち、制御部は、第3類の媒体P3の先端が記録実行開始位置に位置していることを把握する。
尚、第2送り経路R2が選択されている場合は、第2類の媒体P2または第3類の媒体P3の先端の位置を取得することができる。
そして、誤セット判定のシーケンスを終了し、記録実行開始する。
【0103】
ステップS8では、第1センサー33が媒体(P2、P3)を検出していない状態であることから、制御部は、媒体(P2、P3)が正常にセットされていないと判断する。そして、制御部は、操作部等に「媒体がセットされていない」旨、「規格外の媒体がセットされている」旨等の警告を表示する。これにより、ユーザーに対してセットされた媒体の種類や位置の確認をすることを促すことができる。そして、ステップS1へ戻って媒体がセットされ、ユーザーが「媒体セットOK」ボタンを押したか否かを制御部が判定する。
【0104】
ステップS9では、前述したステップS5において第3送り経路R3に切り換えられた状態で誤って第2類の媒体P2がセットされたと判断したことから、制御部は第2モーター41を正転駆動させる。これは、第3送り経路R3の湾曲した区間S2に進入した第2類の媒体P2を、第1ローラー対36を正転駆動させることにより退出させるためである。従って、第2類の媒体P2を記録時の送り方向下流側へ送り、湾曲した区間S2から退出させることができる。そして、第2トレイ上に排出することができる。その後、エラーとして処理し、誤セット判定のシーケンスを終了する。この際、操作部等に「媒体が対応するものではない」旨、「規格外の媒体がセットされている」旨等の警告を表示することは言うまでもない。
【0105】
その結果、第3送り経路R3に切り換えられた状態で誤って第2類の媒体P2がセットされた場合であっても、第2類の媒体P2が破損する虞がない。また、第3送り経路R3が破損する虞もない。さらに、第1ローラー対36や第2モーター41が破損する虞もない。
尚、第3送り経路R3に切り換えられた状態で誤って第2類の媒体P2がセットされたか否かをより精度よく判断するために、前述したステップS1〜ステップS5およびステップS9を複数回繰り返した後にエラーとして処理してもよいのは勿論である。
【0106】
続いて、第3送り経路R3を選択した場合における第2モーター41を駆動させる際の補正値を決定する仕方について説明する。
補正値を決定するのは、第2送り経路上(R2)を送った場合と、第3送り経路上(R3)を送った場合とでは、経路の形状が異なることにより第3類の媒体P3を送る際の負荷も異なるからである。また、第3送り経路R3では第3類の媒体P3の後端の位置がどの区間にあるかによって負荷が変動するからである。
尚、本実施形態では、記録時において第2モーター41を駆動させるとき、第2モーター41に対する入力に補正値を加えて第2モーター41を駆動させることを前提とする。
【0107】
図12に示すのは、第3類の媒体を送る際の補正値を決定する仕方(シーケンス)を示す図である。また、図13に示すのは、補正値の決定におけるセンサー等の位置関係を示す概略側面図である。
図12および図13に示す如く(特に図13参照)、第3類の媒体P3の長さをLとする。また、第3類の媒体P3における記録時の送り方向下流端から第1センサー33までの距離をL1とする。またさらに、第1センサー33から湾曲した区間S2における変曲点Eまでの距離をMとする。
【0108】
ここで、「変曲点」とは、第2トレイ10にセットされた第3類の媒体P3が第3送り経路R3における第1直線区間S1から湾曲した区間S2に進む際に第1直線区間S1と湾曲した区間S2との連結箇所Fを通過し、湾曲した区間S2によって第3類の媒体P3が湾曲し始める地点をいう。「変曲点」と前記連結箇所Fとが一致しないのは、第3送り経路R3における第3類の媒体P3の厚み方向において、第3類の媒体P3と第3送り経路R3との間に僅かな隙間があるからである。
【0109】
また、前記連結箇所Fから変曲点Eまでの間を補間領域aとする。またさらに、補正値をKとする。また、後述するA、B、C、Dは任意の定数である。またさらに、補正値Kを加えた後の送り量をN’とする。また、補正値Kを加える前の理論上の基準となる送り量をNとする。またさらに、第3類の媒体P3を送る際の補正値の基準値をUとする。Uは、例えば、第2送り経路(R2)によって第2類の媒体P2を送る場合等に通常用いられる所定の補正値である。これらを前提として補正値Kの決定の仕方を以下に説明する。
【0110】
ステップS11では、記録実行開始における第3類の媒体P3の後端の位置を特定する。具体的には、第3類の媒体P3の後端が、変曲点Eより記録時の送り方向下流側に位置するか、変曲点Eより上流側に位置するかを判断する。前述したステップS6(図11参照)において第1センサー33の状態が第3類の媒体P3を検出した状態に切り替わってから現在の第3類の媒体P3の位置まで送られた際の第2モーター41の駆動量(ステップ数)に基づいて、第1センサー33の位置から第3類の媒体P3の先端まで距離L1を算出する。
【0111】
そして、距離L1が、第3類の媒体P3の長さLと、第1センサー33から変曲点Eまでの距離Mとの差より長いか否かを判定する。
ここで、該長いと判定した場合、第3類の媒体P3の後端の位置は変曲点Eより記録時の送り方向下流側であると制御部は判断することができる。係る場合、第3類の媒体P3は殆ど撓んでいないと判断することができ、ステップS14へ進む。
一方、否と判定した場合、第3類の媒体P3の後端の位置は変曲点Eより記録時の送り方向上流側であると制御部は判断することができる。係る場合、第3類の媒体P3は撓んだ状態であると判断することができ、ステップS12へ進む。
【0112】
ステップS12では、制御部は、補正値KをK1に設定する。ここで、補正値K1は以下の数式に基づいて定めることができる。

補正値K1=A×(電流値I−所定の基準値I1)^2+B×(電流値I−所定の基準値I1)+C

ここで、「(電流値I−所定の基準値I1)^2」は、(電流値I−所定の基準値I1)の二乗である。
【0113】
また、「電流値」は、第2モーター41の電流値Iである。また、「所定の基準値」は、前述したように前記接近した状態の第1ローラー対36が媒体を挟持していない状態で第2モーター41を逆転駆動させ、第1ローラー対36を逆転駆動させたときの電流値である。尚、前記接近した状態の第1ローラー対36が媒体を挟持していない状態で第2モーター41を正転駆動させ、第1ローラー対36を正転駆動させたときの電流値でもよい。略同じ水準の値を得ることができるからである。
また、A、BおよびCは前述したように任意の定数である。またさらに、BおよびCの値は正負のいずれの場合も生じうる。
【0114】
尚、補正値K1についての上記の式は、第3類の媒体P3のうち変曲点Eより上流側(湾曲した区間(補間領域a除く)および第2直線区間S3)にある部分の摩擦抵抗、第3類の媒体P3のうち湾曲した区間S2の補間領域aにある部分の摩擦抵抗および第1直線区間内(S1)にある部分の摩擦抵抗に基づいて導き出されるものである。
ここで、第3類の媒体P3の後端が変曲点Eより上流側であっても、第2直線区間内(S3)にある場合は、第3類の媒体P3の後端の位置が移動しても摩擦抵抗は殆ど変化せず、電流値Iも殆ど変化しないと考えることができる。
【0115】
これは、湾曲した区間S2における第3類の媒体P3の撓み量が変化しないからである。従って、第3類の媒体P3の後端が第2直線区間内(S)にある場合は、媒体の材質等に応じて補正値K1を一定の値としてもよい。
そして、設定した補正値K(K1)を加えて第2モーター41を駆動させるためにステップS13へ進む。
【0116】
ステップS13では、第3類の媒体P3の後端の位置に応じて設定した補正値K(ステップS12、ステップS15およびステップS16参照)を加えて次のパスの送り量N’を設定する。
ここで、「パス」とは、記録ヘッド31がインクを吐出しながら幅方向Xへ一回移動することをいう。また、「パスの送り量」とは、記録ヘッド31がインクを吐出しながら幅方向Xへ一回移動してから次に再度吐出しながら幅方向Xへ移動するまでの間に、第1ローラー対36が記録時の送り方向下流側へ媒体を送る量(距離)をいう。
【0117】
具体的には、送り量N’は以下の数式に基づいて定めることができる。

送り量N’=N+K/U

ここで、Nは前述したように理論上の基準となる送り量である。また、補正値KはステップS12、ステップS15およびステップS16において算出された値(K1〜K3)である。またさらに、Uは前述したように第3類の媒体P3を送る際の補正値の基準値である。
そして、補正値Kを決定するシーケンスを終了し、決定した補正値Kを加えた送り量N’に基づいて第2モーター41を駆動させながら、記録を実行する。
【0118】
ステップS14では、記録実行開始における第3類の媒体P3の後端の位置をより細かく特定する。具体的には、第3類の媒体P3の後端の位置が、第1直線区間S1と湾曲した区間S2との繋ぎ目である連結箇所Fと変曲点Eとの間にあるか否かを判断する。言い換えると、連結箇所Fより下流側か否かを判断する。先ず、前記ステップS11で算出した第1センサー33の位置から第3類の媒体P3の先端まで距離L1を用いる。
【0119】
そして、距離L1が、第3類の媒体P3の長さLと第1センサー33から変曲点Eまでの距離Mとの差に補間距離aを加えた値より長いか否かを判定する。
ここで、該長いと判定した場合、第3類の媒体P3の後端の位置は前記連結箇所Fより記録時の送り方向下流側であると制御部は判断することができる。即ち、第3類の媒体P3の後端の位置は第1直線区間内(S1)にあると判断することができる。係る場合、第3類の媒体P3は全く撓んでいないと判断することができ、ステップS16へ進む。
【0120】
一方、否と判定した場合、第3類の媒体P3の後端の位置は 前記連結箇所Fより記録時の送り方向上流側であると制御部は判断することができる。即ち、第3類の媒体P3の後端の位置が第1直線区間S1と湾曲した区間S2との連結箇所Fと変曲点Eとの間である補間領域内(a)にあると判断することができる。係る場合、第3類の媒体P3は極僅かに撓んだ状態または撓んでいない状態ではあるが、第3類の媒体P3と第3送り経路R3との間で生じる摩擦抵抗の大きさが大きいと判断することができる。より詳しく説明すると、撓んでいない状態ではあるが、前述した第3類の媒体P3の後端の位置が第1直線区間内(S1)にある場合と比較して、摩擦抵抗の大きさが大きいと判断することができる。係る場合、ステップS15へ進む。
【0121】
ステップS15では、制御部は、補正値KをK2に設定する。ここで、補正値K2は以下の数式に基づいて定めることができる。

補正値K2=K1−(K1−K3)/a×{L1−(L−M)}

ここで、K1は前述したステップS12において算出した値である。また、K3は後述するステップS16において算出する値である。またさらに値aは前述したように補間領域aの長さである。また、値Lは前述したように第3類の媒体P3の長さである。
【0122】
またさらに、値L1は前述したように第3類の媒体P3における記録時の送り方向下流端から第1センサー33までの距離である。また、値Mは前述したように第1センサー33から湾曲した区間S2における変曲点Eまでの距離である。
尚、補正値K2についての上記の式は、第3類の媒体P3のうち湾曲した区間S2の補間領域aにある部分の摩擦抵抗および第1直線区間内(S1)にある部分の摩擦抵抗に基づいて導き出されるものである。
そして、設定した補正値K(K2)を加えて第2モーター41を駆動させるためにステップS13へ進む。
【0123】
ステップS16では、制御部は、補正値KをK3に設定する。ここで、補正値K3は以下の数式に基づいて定めることができる。

補正値K3=D

ここで、値Dは前述したように任意の定数である。
尚、補正値K3が一定の値であるのは、第3類の媒体P3が第1直線区間内(S1)にあるため、第3類の媒体P3を記録時の送り方向下流側へ送る際の第2モーター41の負荷が殆ど変動しないからである。また、Dの値は正負のいずれの場合も生じうる。
【0124】
またさらに、負荷が殆ど変動しない場合であっても、補正値K1と同様に電流値に基づいて補正値を算出する構成としてもよいのは勿論である。電流値も殆ど変動しないため、同様の作用効果を得ることができる。即ち、第3類の媒体P3の後端がどの区間(S1〜S3)に位置する場合であっても電流値に基づいて補正値を算出する構成としてもよい。
そして、設定した補正値K(K3)を加えて第2モーター41を駆動させるためにステップS13へ進む。
【0125】
以上、説明したように、第3送り経路R3が選択された状態で第3類の媒体P3が送られる際、第3類の媒体P3の後端の位置に応じて補正値K(K1〜K3)を設定することにより、送り精度を向上させることができる。その結果、記録精度をも向上させることができる。
また、第2送り経路R2が選択された状態で第2類の媒体P2および第3類の媒体P3が送られる際については、所定の水準の補正値(U)を加えて第2モーター41を駆動させる。即ち、第2送り経路R2が選択された状態では、媒体の後端の位置に拘わらず、媒体の種類に応じて所定の水準の補正値(U)を加えて第2モーター41を駆動させるように構成されている。ここで、「媒体の種類に応じて」とした理由は、媒体の種類に応じて第2送り経路R2との間で生じる摩擦抵抗の大きさが異なるからである。即ち、媒体の種類に応じて、補正値(U)の水準を変更するように構成されている。
【0126】
図14に示すのは、第3送り経路が選択された状態で第2モーターを駆動させ第1ローラー対によって媒体を送った場合の第2モーターの電流値を示す図である。具体的には、媒体の厚み、サイズ、材質や配合等の種類別に第2モーターの電流値を示す図である。このうち、縦軸は電流値を示す。一方、横軸は媒体の種類を示す。
図14に示す如く、横軸の左側から順に説明すると、第1ローラー対36が媒体を挟持していない状態では、第2モーター41の負荷は比較的小さく、第2モーター41を駆動させるための電流値はI1である。これが前述したステップS5(図11参照)およびステップS12(図12参照)における所定の基準値I1となる。
【0127】
また、第3類の媒体P3の例として用紙A〜用紙Fがある。このうち、用紙Aは厚みが0.5mm、サイズがA3である。尚、用紙A〜用紙Fはそれぞれ紙種(材質や配合等)が異なるものとする。また、用紙Bは厚みが0.5mm、サイズがA3である。またさらに、用紙Cは厚みが0.52mm、サイズがA3である。また、用紙Dは厚みが0.52mm、サイズがA3である。
【0128】
またさらに、用紙Eは厚みが0.7mm、サイズがA3である。また、用紙Fは厚みが0.8mm、サイズがA3である。
これらの用紙A〜用紙Fを第1ローラー対36が挟持して送った際の第2モーター41の電流値Iは、所定の基準値I1より僅かに大きい値となる。ここで、用紙A〜用紙Fのうち最も電流値が大きかった用紙Fのときの値をI2とする。
【0129】
またさらに、第2類の媒体P2の例として用紙Gおよび用紙Hがある。このうち、用紙Gは厚みが1.3mm、サイズがA3である。尚、用紙Gおよび用紙Hはそれぞれ紙種(材質や配合等)が異なるものとする。また、用紙Hは厚みが1.3mm、サイズがA3である。
これらの用紙Gおよび用紙Hを第1ローラー対36が挟持して送った際の第2モーター41の電流値は、所定の基準値I1および第3類の媒体P3を送ったときの電流値のうち最も大きい値I2より著しく大きい値I3以上となる。尚、第2類の媒体P2を送ったときの電流値のうち最も小さい値である用紙Hを送った際の第2モーター41の電流値をI3とする。
【0130】
また、第3類の媒体P3の例として用紙Aおよび用紙C〜用紙Eとそれぞれサイズのみが異なる用紙A’および用紙C’〜用紙E’がある。このうち、用紙A’は厚みが0.5mm、サイズが所謂、レターサイズである。また、用紙C’は厚みが0.52mm、サイズがA4である。またさらに、用紙D’は厚みが0.52mm、サイズがA4である。また、用紙E’は厚みが0.7mm、サイズがA4である。
これらの用紙A’および用紙C’〜用紙E’を第1ローラー対36が挟持して送った際の第2モーター41の電流値Iは、所定の基準値I1より僅かに大きい値であって用紙Fを送ったときの電流値I2より小さい値となる。
【0131】
以上の例より、媒体の厚みが電流値Iの大きさに影響を及ぼしていることがわかる。
そこで、第3類の媒体P3を送ったときの最大値I2と、第2類の媒体P2を送ったときの最小値I3との間に閾値I4を設けて、前述したステップS5において判定することができる。即ち、閾値I4と所定の基準値I1との差を前記第2の所定の値(ステップS5における閾値)として判定することができる。
その結果、前述した誤セット判定(図11参照)を精度良く行うことができる。
尚、媒体の厚みが電流値Iに大きく影響する例について説明したが、媒体のサイズ、材質や配合等が電流値Iに大きく影響する場合もある。係る場合、影響の度合いを考慮して前記第2の所定の値を決めることは言うまでもない。
【0132】
図15に示すのは、第3送り経路が選択された状態であって第3類の媒体が送られる際の第3類の媒体の後端の位置と送り量の誤差との関係を示す図である。このうち、縦軸は第2モーターの駆動に対して補正値を加えなかった場合における送り量の理論値を基準としたときの理論値に対する実際の送り量の誤差の量を示す。縦軸の上側である正側は理論値より実際の送り量が大きい(多い)ことを示し、下側である負側が理論値より実際の送り量が小さい(少ない)ことを示す。一方、横軸は第3類の媒体の後端の位置を示す。横軸の左側が記録時の送り方向上流側であり、右側が下流側である。
【0133】
図15に示す如く、第3送り経路R3が選択された状態であって第3類の媒体P3が送られる際、第2モーター41の駆動に対して前述した補正値K(図12参照)を加えなかった場合、前記連結箇所Fの前後で送り量の水準が大きく異なる。具体的には、第3類の媒体P3の後端が第2直線区間内(S3)に位置する場合、第3類の媒体P3が大きく撓んで第3類の媒体P3と第3送り経路R3との間において生じる摩擦抵抗が比較的大きくなる。これにより、第1ローラー対36が第3類の媒体P3を実際に送る送り量が、理論値に対して大きく下回る。即ち、実際の送り量の水準が基準値の水準よりかなり低くなる。
【0134】
また、第3類の媒体P3が記録時の送り方向下流側へ送られる際、第3類の媒体P3の後端が湾曲した区間内(S2)における変曲点Eより記録時の送り方向上流側に位置する場合、後端が下流側に位置するに従い第3類の媒体P3の撓み量が徐々に小さくなる。これに伴って第3類の媒体P3と第3送り経路R3との間において生じる摩擦抵抗が徐々に小さくなる。これにより、第1ローラー対36が第3類の媒体P3を実際に送る送り量が、理論値に対して近くなる。
【0135】
そして、第3類の媒体P3が記録時の送り方向下流側へ送られる際における第3類の媒体P3の後端が変曲点Eを通過して前記連結箇所Fに到達するまでの間、第3類の媒体P3の撓み量が殆ど無になる。即ち、第3類の媒体P3の後端が補間領域内(a)にあるとき、第3類の媒体P3の撓み量は殆ど無となる。この際、撓み量は殆ど無になるが、第3類の媒体P3は第3送り経路R3に押し付けられている。従って、第3類の媒体P3と第3送り経路R3との間において生じる摩擦抵抗が減少するが、後述する第3類の媒体P3の後端が連結箇所Fを通過した後の状態と比較して摩擦抵抗が大きい状態となる。
【0136】
その後、第3類の媒体P3の後端の位置が前記連結箇所Fを通過して第1直線区間S1に入る。すると、第3類の媒体P3は撓んでいない状態となる。そして、第3類の媒体P3は第3送り経路R3に押し付けられていない状態となる。従って、第3類の媒体P3と第3送り経路R3との間において生じる摩擦抵抗の大きさが、第3類の媒体P3の後端が補間領域内(a)にある状態と比較して小さくなる。さらに、摩擦抵抗の大きさは略一定となる。即ち、理論値の水準に近い水準となる。
【0137】
以上、説明したように第3類の媒体P3の後端の位置によって実際の送り量が変化する。即ち、第3類の媒体P3の後端の位置によって理論値と実際の送り量との差である送り量の誤差が変化する。さらに言い換えると、第3類の媒体P3の位置によって摩擦抵抗の大きさが変化する。これらから、摩擦抵抗の大きさと第2モーター41の電流値Iの大きさとの間で相関関係を有していることがわかる。これにより、第2モーター41の電流値Iの増加分と、電流値Iが増加した際に第2モーター41の駆動に対して必要な補正量との関係を求めることができる。
【0138】
図16に示すのは、第2モーターの電流値の増加分と第2モーターの駆動に対して必要な補正値の大きさとの関係を示す図である。尚、縦軸が必要な補正値の大きさを示す。一方、横軸は電流値の増加分を示す。
図16に示す如く、第2モーター41の電流値Iの増加分と、電流値Iが増加した際に第2モーター41の駆動に対して必要な補正量との関係を示すことができる。
尚、点線は実測値を結んだ線である。また、実線は実測値より導いた数式である。
ここで、電流値の増加分は前述した「(電流値I−所定の基準値I1)」である。そして、必要な補正値の大きさは前述した「補正値K1」である。
【0139】
従って、前記関係を数式で示すと、以下のようになる。

補正値K1=A×(電流値I−所定の基準値I1)^2+B×(電流値I−所定の基準値I1)+C

即ち、前述したステップS12(図12参照)の数式となる。
この式に基づいて、前述したステップS12において補正値K1を決定すればよい。
【0140】
そして、第3類の媒体P3の後端の位置に応じて第2モーター41の駆動に対して補正値K1を加えて第1ローラー対36のよって第3類の媒体P3を記録時の送り方向下流側へ送るように構成する。従って、第3送り経路R3が選択された状態において第3類の媒体P3を送る際の送り精度を、補正値K1を加えない場合と比較して、向上させることができる。その結果、記録精度をも向上させることができる。
【0141】
また、前述したように第2モーター41の電流値I(電流値I−所定の基準値I1)と、必要な補正値K(K1)との間において、上記数式の関係を得ることができる(図16参照)。従って、第3類の媒体P3の後端がどの区間(S1〜S3)に位置する場合であっても第2モーター41の電流値I(電流値I−所定の基準値I1)に応じて第2モーター41に加える補正値K(K1)を算出する構成としてもよい。即ち、第3類の媒体P3の後端の位置に拘わらず、第2モーター41の電流値I(電流値I−所定の基準値I1)に応じて第2モーター41に加える補正値K(K1)を設定する構成としてもよい。
【0142】
具体的には、実際に記録する対象である第3類の媒体P3の少なくとも一部を、記録実行する前の段階において実際に記録するときの第3送り経路R3の湾曲した区間S2に送る。この際の第2モーター41の電流値Iを検出することにより、実際に記録するときの第2モーター41の負荷の大きさを判断することができる。そして、電流値I(電流値I−所定の基準値I1)に応じて補正値K(K1)を設定することにより、実際に記録するときの送り精度を向上させることができる。
【0143】
特に、記録実行する前の段階において第3類の媒体P3を記録時の送り方向上流側(Y軸の矢印と逆方向)の湾曲した区間S2へ一度送って、その後、記録時の送り方向下流側(Y軸の矢印方向)へ送ることにより記録部30へ送る所謂、スイッチバック方式の送り方を実行する構成である場合に有効である。媒体の種類によって負荷の水準が異なるだけでなく、送っている最中に負荷の大きさが変動するからである。
【0144】
さらに、第2送り経路R2において第2類の媒体P2および第3類の媒体P3が送られる場合も同様に、第2モーター41の電流値I(電流値I−所定の基準値I1)に応じて第2モーター41に加える補正値K(K1)を設定する構成としてもよい。この理由は、湾曲した区間S2を含む第3送り経路R3が選択された場合に限らず、湾曲した区間S2を含まない第2送り経路R2が選択された場合も同様の作用効果を得ることができるからである。即ち、それぞれの媒体と第2送り経路R2との間において生じる摩擦抵抗の水準のバラツキに対応することができ、送り量を安定させることができる。
また、第1送り経路上(R1)で第1類の媒体P1が送られる際、第2モーター41の電流値I(電流値I−所定の基準値I1)に応じて補正値K(K1)を設定してもよいのは勿論である。
【0145】
尚、第2送り経路R2が選択された状態であって、第2類の媒体P2および第3類の媒体P3を記録時の送り方向上流側へ送る際において、第2モーター41の電流値Iの増加分が第2の所定の値(閾値)以上か否かを判定するように構成してもよい。係る構成である場合、第2の所定の値(閾値)以上であると判定したとき、第2類の媒体P2または第3類の媒体P3における記録時の送り方向上流側がプリンター1の後方にある壁等の障害物に接触したと判断することができる。そして、ユーザーに対して障害物の除去や、プリンター1の設置位置の変更を促す表示をすることができる。一方、否と判定したとき、中断することなく記録実行することができる。
【0146】
また、上記実施例では、第3送り経路が選択された状態で第2類の媒体が第2トレイにセットされ、第3送り経路に進入したか否かの誤セット判定について説明したがこれに限られるものではない。例えば、ホッパー23に第2類の媒体P2が誤ってセットされたことを想定して、給送ローラー27を駆動させる第1モーター(図示せず)の電流値を取得して第1送り経路R1に第2類の媒体P2が進入したか否かの誤セット判定を行う構成であってもよい。係る場合も同様の作用効果を得ることができるからである。
【0147】
またさらに、上記実施例では可動案内部材25を変位させることにより、第2送り経路R2と第3送り経路R3とを切り換える構成としたが、切り換える構成はこれに限られるものではない。所謂、フラップを設けて、該フラップを変位させることにより、第2送り経路R2と第3送り経路R3とを切り換える構成としてもよい。即ち、可動案内部材25自体が変位しない構成でもよい。
また、上記実施例では第2モーターをDCモーターとして説明したが、ステッピングモーターでもよい。ステッピングモーターを用いると、駆動精度がよいからである。上記実施例において、DCモーターを用いた理由は、負荷の変動に伴う電流値の変化を検出しやすいからである。
【0148】
またさらに、上記実施例では、第2類の媒体P2および第3類の媒体P3の場合、記録時の送り方向下流側(Y軸の矢印方向)の第2載置部8にセットし、一度上流側へ送ってから下流側へ送ることによって記録部30へ送る構成としたがこれに限られるものではない。言い換えると、所謂、スイッチバック方式により送る方向を逆向きにして記録部30へ送る構成としたがこれに限られるものではない。
【0149】
例えば、第1類の媒体P1を第1載置部22にセットしたように、湾曲した区間S2の上流側に媒体(P3)をセットし、下流側の湾曲した区間S2に一度送って、第2モーター41の電流値I(電流値I−所定の基準値I1)を検出する。そして、上流側に戻してから補正値K(K1)を加えて第2モーター41を駆動させ、媒体を下流側に送る構成としてもよい。上記実施例では湾曲した区間S2を有する第3送り経路R3でのスイッチバック方式における第2モーター41の電流値I(電流値I−所定の基準値I1)に基づいて第2モーター41に加える補正値K(K1)を設定する構成について説明した。この理由は、係る構成である場合に特に有効だからである。
【0150】
また、湾曲した区間S2の上流側に媒体(P3)をセットし、下流側へ送る際、第2モーター41の電流値I(電流値I−所定の基準値I1)を検出しながら負荷を判断し、補正値K(K1)を加えてモーターを駆動させ、媒体(P3)を下流側へ送る構成としてもよい。即ち、媒体(P3)を送るとき、第2モーター41の電流値I(電流値I−所定の基準値I1)に基づいて負荷を判断しながら該電流値I(電流値I−所定の基準値I1)に応じて第2モーター41に加える補正値K(K1)を設定する構成でもよい。
尚、実際に記録する対象である第3類の媒体P3の少なくとも一部を、記録実行する前の段階において実際に記録するときの第3送り経路R3の湾曲した区間S2に送る構成とした。この理由は、記録実行する前の段階において補正値K(K1)を設定する方が第2モーター41の駆動制御が容易だからである。
【0151】
本実施形態の媒体送り装置42は、被送り媒体の一例である第3類の媒体P3が送られる送り経路としての第3送り経路R3と、第3送り経路R3における第3類の媒体P3を送り方向へ送る送り手段としての第2送り手段35と、第2送り手段35を駆動させるモーターである第2モーター41と、を備え、第2モーター41に対する入力に補正値K(U)を加えて第2モーター41を駆動させる構成の媒体送り装置42であって、媒体送り装置42は、第2送り手段35を駆動させた際の第2モーター41の電流値I(電流値I−所定の基準値I1)を検出し、該電流値I(電流値I−所定の基準値I1)に応じて前記補正値K(K1)を設定する構成であることを特徴とする。
【0152】
本実施形態の記録装置の一例であるプリンター1は、被記録媒体の一例である第3類の媒体P3を送り方向へ送る媒体送り手段としての媒体送り装置42と、媒体送り装置42によって送られた第3類の媒体P3に対して記録ヘッド31により記録する記録部30と、を備えていることを特徴とする。
また、本実施形態において、第3送り経路R3は側視湾曲した区間S2を有しており、記録部30による記録を開始する前において、第2送り手段35によって第3類の媒体P3の少なくとも一部を第3送り経路R3の湾曲した区間S2に送り、この際の第2モーター41の電流値I(電流値I−所定の基準値I1)に応じて前記補正値K(K1)を設定する構成であることを特徴とする。
またさらに、本実施形態において、第2送り手段35は、第3類の媒体P3を記録時の送り方向上流側(Y軸の矢印と逆方向)へ送った後に記録時の送り方向下流側(Y軸の矢印方向)へ送ることにより記録部30へ送る構成であることを特徴とする。
【0153】
また、本実施形態において、第2送り手段35は、第2モーター41の動力によって駆動する送り駆動ローラーとしての第1駆動ローラー36aと、第1駆動ローラー36aに従って回転する送り従動ローラーとしての第1従動ローラー36bと、を有する送りローラー対としての第1ローラー対36であり、第1ローラー対36は、第1駆動ローラー36aおよび第1従動ローラー36bが互いに接近した第1状態と、互いに離間した第2状態とを切り換え可能に設けられており、第3類の媒体P3が載置される際、第1ローラー対36が前記第2状態であり、記録実行指示により第1ローラー対36が前記第1状態に切り換えられて第3類の媒体P3を挟持し、第1ローラー対36が第3類の媒体P3を挟持した状態のまま記録時の送り方向上流側(Y軸の矢印と逆方向)へ送った後に記録時の送り方向下流側(Y軸の矢印方向)へ送ることにより記録部30へ送り、記録部30が第1ローラー対36によって挟持された状態の第3類の媒体P3に対して記録を実行する構成であることを特徴とする。
【0154】
尚、本実施形態では、第3送り経路R3において側視湾曲した区間S2および第2直線区間S3を区別して構成したが、区別しない構成でもよい。例えば、湾曲した区間S2を長く構成し第2直線区間S3を有さない構成でもよい。また、湾曲した区間S2を短く構成し第2直線区間S3を長く構成してもよい。係る場合、湾曲した区間S2を、屈曲点としてもよい。この場合も前述した誤挿入判定や補正値Kの決定を行うことにより、同様の作用効果を得ることができるからである。
また、本発明は上記実施例に限定されることなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で、種々の変形が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれるものであることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0155】
1 プリンター、2 筐体、3 操作部、4 第1カバー部材、5 第2カバー部材、
6 第1排出部、7 第1トレイ、8 第2載置部、9 第2排出部、
10 第2トレイ、11 第2エッジガイド、12 開閉機構、13 第1リブ、
14 第1突部、15 第2突部、16 ピニオン部、17 第1溝部、
18 第2溝部、18a 第1部分、18b 第2部分、19 ラック部、20 ばね、
21 第2リブ、22 第1載置部、23 ホッパー、24 第1エッジガイド、
25 可動案内部材、26 第1送り手段、27 給送ローラー、28 分離手段、
29 リタードローラー、30 記録部、31 記録ヘッド、32 ノズル列、
33 第1センサー、34 媒体支持部、35 第2送り手段、36 第1ローラー対、
36a 第1駆動ローラー、36b 第1従動ローラー、37 第1接離移動手段、
38 第3送り手段、39 第2ローラー対、39a 第2駆動ローラー、
39b 第2従動ローラー、40 第2接離移動手段、41 第2モーター、
42 媒体送り装置、43 第1案内部、44 第2案内部、45 基体部、
A 任意の定数、a 補間領域、B〜D 任意の定数、E 変曲点、F 連結箇所、
I 電流値、I1 (電流の)所定の基準値、
I2 第3送り経路で第3類の媒体を送る際の最大電流値、
I3 第3送り経路で第2類の媒体を送る際の最小電流値、K 補正値、
K1〜K3 (第3類の媒体の後端の位置に応じた)補正値、L 第3類の媒体の長さ、
L1 第3類の媒体の先端から第1センサーまでの距離、
M 第1センサーから変曲点までの距離、N 理論上の基準となる送り量、
N’ 補正値を加えた後の送り量、P1 普通紙(第1類の媒体)、
P2 ボード紙またはCD−Rトレイ(第2類の媒体)、P3 専用紙(第3類の媒体)、
R1 第1送り経路、R2 第2送り経路、R3 第3送り経路、S1 第1直線区間、
S2 湾曲した区間、S3 第2直線区間、U 補正値の基準値、X 幅方向、
Y 記録時の送り方向、Z 記録ヘッドと媒体とが対向する方向(鉛直方向)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被送り媒体が送られる送り経路と、
前記送り経路における被送り媒体を送り方向へ送る送り手段と、
該送り手段を駆動させるモーターと、を備え、
該モーターに対する入力に補正値を加えて該モーターを駆動させる構成の媒体送り装置であって、
該媒体送り装置は、前記送り手段を駆動させた際の前記モーターの電流値を検出し、該電流値に応じて前記補正値を設定する構成である媒体送り装置。
【請求項2】
被記録媒体を送り方向へ送る媒体送り手段と、
該媒体送り手段によって送られた被記録媒体に対して記録ヘッドにより記録する記録部と、を備えた記録装置であって、
前記媒体送り手段は、請求項1に記載された前記媒体送り装置を備え、前記被記録媒体は、前記被送り媒体である記録装置。
【請求項3】
請求項2に記載の記録装置において、前記送り経路は側視湾曲した区間を有しており、
前記記録部による記録を開始する前において、前記送り手段によって被記録媒体の少なくとも一部を前記送り経路の湾曲した区間に送り、この際の前記モーターの電流値に応じて前記補正値を設定する構成である記録装置。
【請求項4】
請求項2または3に記載の記録装置において、前記送り手段は、被記録媒体を記録時の送り方向上流側へ送った後に記録時の送り方向下流側へ送ることにより前記記録部へ送る構成である記録装置。
【請求項5】
請求項4に記載の記録装置において、前記送り手段は、前記モーターの動力によって駆動する送り駆動ローラーと、
該送り駆動ローラーに従って回転する送り従動ローラーと、を有する送りローラー対であり、
該送りローラー対は、前記送り駆動ローラーおよび前記送り従動ローラーが互いに接近した第1状態と、互いに離間した第2状態とを切り換え可能に設けられており、
被記録媒体が載置される際、前記送りローラー対が前記第2状態であり、記録実行指示により前記送りローラー対が前記第1状態に切り換えられて被記録媒体を挟持し、
前記送りローラー対が被記録媒体を挟持した状態のまま記録時の送り方向上流側へ送った後に記録時の送り方向下流側へ送ることにより前記記録部へ送り、
前記記録部が前記送りローラー対によって挟持された状態の被記録媒体に対して記録を実行する構成である記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−110883(P2011−110883A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−271232(P2009−271232)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】