説明

媒質の温度を非侵襲的にかつ光学的に特定するための方法

媒質、好ましくは水を含む媒質の温度を非侵襲的にかつ光学的に特定するための方法であって、分析すべき媒質が吸収線の領域で赤外光および/または可視光により照射され、前記吸収線の位置が媒質の温度に依存しており、光の吸収が吸収線の領域で測定され、この測定から較正データとの比較により温度が算出して求められる。
この方法は、前記媒質が少なくとも二つの不連続の光波長(λ,λ)でもって照射され、これらの光波長が吸収線(B)の領域内で吸収最大値の異なる側にあること、これら両方の算出された吸収値の比から、互いに温度に依存した少なくとも一つの測定値が特定されること、および予め記録された較正データと比較することによりこの測定値から温度が特定されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、媒質、好ましくは水を含む媒質の温度を非侵襲的にかつ光学的に特定するための方法であって、分析すべき媒質が吸収線の領域で赤外光および/または可視光により照射され、前記吸収線の位置が媒質の温度に依存しており、光の吸収が吸収線の領域で測定され、この測定から較正データとの比較により温度が算出して求められる方法に関する。媒質は本発明の範囲では、特に水を含む媒質、例えば生体組織と特に人体内部の(流れる)血液を意味している。吸収は本発明の範囲では、一方においては、例えば伝達の際に測定される吸収挙動を意味するが、他方では吸収に依存した後方散乱挙動を意味する。
【背景技術】
【0002】
例えば人体の温度の特定は、医学において様々な領域で、例えば集中治療患者の温度監視時に重要な役割を果たす。その際実際に、耳式体温計を用いた体温の非侵襲的測定が頻繁に使用され、この測定の様式は非連続使用、すなわち一定の時間間隔をあけた測定に限定されている。連続した温度監視に関しては、実際のところ今日まで、侵襲性の測定方法が使用され、この方法において、プローブまたはカテーテルがセンサと一体化されて体内に挿入されるかあるいは取付けられる。
【0003】
さらに、血液成分の濃度の非侵襲的測定との関連において、特に流れているかあるいは脈動している血液内のグルコース濃度の測定との関連において、“適所における”温度の特定の必要がある。なぜなら、較正曲線を使用したこのような測定が、一般的に温度に依存しているからである(特許文献1および特許文献2参照)。それによれば、近赤外分光法(NIR)の様々な光学法が知られており、この近赤外分光法により、近赤外の光波長領域での光の吸収変化による非侵襲的方法で、血液成分の濃度の測定、例えばグルコース濃度の測定が可能になる。生体組織が電磁気放射に関して赤および赤外線の範囲ではほぼ透明であるという事実が重要であり、したがってこの“生物学的窓の内側で数mmから数cmの深さで生体組織内を覗き込むことが可能である。例えば超音波の放射により、目標の組織は突きとめることができ、したがって突き止められる組織内の光学式吸収測定は、体の比較的かなりの深さで実施できる(特許文献1および特許文献2参照)。
【0004】
その際、このようないわゆる生物学的窓の領域内には“不連続な”水吸収帯があり、この水吸収帯は上述の血液成分の濃度の測定の際には通常回避されることには留意するべきである。しかしながら、この吸収最大値の位置(従って光波長)および吸収線(従って吸収の大きさまたは度合い)も、媒質、例えば水の温度に依存していることが知られている。この理由から、水を含む媒質の温度を特定するために、この水吸収帯の領域内での吸収の温度依存性を利用することがすでに提案されてきた。この理由で、吸収線の移動を分光器で記録することが提案されている(非特許文献1)。しかしながら、この公知の方法は、かなり複雑である。なぜなら、常に完全なスペクトルを記録せねばならず、従って“光波長の走査”が行なわれる。それ以外にも吸収線の移動が比較的小さいので、極めて高い分光計の分解能が要求される。
【0005】
似た方法が特許文献3から知られている。そこでは、水吸収線の温度依存は約1450nmの光波長において温度を特定するために使用される。さらにこの公知の方法においては、完全なスペクトルは比較的広い光波長領域にわたって記録される。すなわち吸収線の完全な測定と適合する較正データとの比較が行なわれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】独国特許第102006036920号明細書
【特許文献2】独国特許第10311408号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開2005/0083992号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】米国MD20705 Beltsville、 K.H.ノリス著「Possible medical application of NIR」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
公知の従来技術から出発して、本発明の根底をなす課題は、媒質、好ましくは水を含む媒質の温度を非侵襲的にかつ光学的に特定するための、単純でかつ非侵襲的な方法で、媒質の温度を正確に特定することを可能にする方法を提供することである。この方法は特に体内の温度を測定するのに、例えば体内の組織あるいは流れる血液の温度を測定するのに適している。さらに、この方法は有利なやり方で、血液成分の濃度を非侵襲的に特定するための、例えば脈動する血液中のグルコース濃度を測定するための公知の方法と組合せることができるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題は、冒頭に記載された様式の、媒質、好ましくは水を含む媒質の温度を非侵襲的にかつ光学的に特定するための、本発明に類するような方法にあっては、
前記媒質が(少なくとも)二つの不連続な光波長でもって照射され、これらの光波長が吸収線の領域内で最大吸収値の異なる側にあること、
これら両方の算出された吸収値の比あるいは機能に関する関係から、互いに温度に依存した少なくとも一つの測定値もしくは温度に依存した少なくとも一つの測定機能が特定されること、および
予め記録された較正データと比較することによりこの測定値あるいはこの測定機能から温度が特定されることにより解決される。
両方の算出値の比とは、二つの測定値に適用されるべき所定の関係として理解すべきである。ここでは最大値の両側にある両吸収値の差を作ることを意味するのが特に好ましい。
【0010】
この場合、本発明は、まず最初は、生物学的窓の領域内に多数の水の吸収線があり、この吸収線の高さおよび特に位置(あるいは光波長)も水を含む媒質の温度に依存しており影響されやすいという(公知の)認識を出発点としている。しかしながら本発明の範囲において、吸収線を完全に測定し、および/または吸収最大値の位置を正確に特定することは必要ではない。もっと正確に言えば本発明の範囲において、単純なやり方で、測定は少なくとも二つの、好ましくはたった二つの、各々吸収最大値の異なる側にある不連続な光波長でもって行なわれる。というのは、本発明は、温度の変化に際し、吸収最大値の移動により吸収最大値の両側の吸収値が極めて様々なやり方で敏感に変化し、従って例えばこれら両方の値の差が算定されると、この差が特に媒質の温度に依存しており影響され易いことが認められる。言い換えると、評価中では、二つの不動に設定された波長の二つの吸収点の間を通り抜けることができ、測定値として例えばこの直線の勾配が算定され、この勾配ではこれら二つの吸収値の差が考慮されている。これらの直線の勾配と特にこの勾配の符号は、高感度の状態で温度に依存しており、従って正確な温度の特定は最大の移動を正確に特定しなくても可能である。必要であるのは、二つの不動に設定された波長に関する吸収値を測定し、かつこれら二つの測定値を記載したやり方で評価することだけにすぎない。さらにこのことはこれから以下に図の説明のところで明らかにする。温度の特定の最中では、吸収値および吸収値から得られる測定値を算定した後あるいは算定した際、記録された較正データとの比較が行なわれることは自明である。このようにして、相当する測定が実験室内で公知の温度で実施することができ、公知の差の値もしくは勾配は較正データとして記憶することができ、従ってこの較正データは測定時には自動的に考慮できる。しかしながら、接続直線の勾配の差あるいは特定の記載された形態は、吸収最大値の両側にある二つの吸収値を考慮した評価の好ましい実施形態であることに言及しておく。本発明は別の関係を含んでおり、この別の関係では吸収最大値の両側にある二つあるいはさらに多くの測定値が考慮されている。
【0011】
本発明による測定は600nmと2500nmの間の、好ましくは800nm〜1600nmの波長を備えた赤外光および/または可視光でもって行なわれるのが好ましい。実験から、970nm周辺の水の吸収帯の領域での、赤外光を用いた温度測定により傑出した結果が得られることがわかった。この場合、例えば950nmと970nmの間の少なくとも一つの波長が使用され、かつ例え975nmと1000nmの間の少なくとも一つの波長が使用される。しかしながら、生物学的窓の内側の、例えば1450nm周辺の水の吸収帯の領域内の、別の水の吸収帯を用いて作業することも可能である。基本的にどの吸収線も考慮に値し、吸収線の位置(最大値の波長)は温度に依存している。測定のための最適領域、すなわち二つの最適な使用すべき波長は、実際のところは実験で見つけることができる。常に一つの波長は吸収最大値よりも下の値で、一つの波長は吸収最大値よりも上の値で各々選択しなければならない。その際、最大値からの間隔は十分大きいことを考慮しなければならず、従って事実、吸収値は温度変化の際に逆の符号を伴って変化し、言い換えれば、最大値の一方の側では大きくなり、他方の側では小さくなる。温度が上昇する際、吸収は波長の一方においては常に増大し、波長の他方においては常に減少する。温度が降下する際は、逆の挙動が生じるはずである。しかしながら、選択される波長の間隔は最大吸収値から遠すぎてはならない。なぜなら他の吸収線あるいは効果を伴う重畳の危険が存在するからである。まず特定の温度領域、例えば30℃〜43℃を確定し、次いで中間の(典型的な)温度(例えば37℃)を確定し、そこで吸収最大値の波長を特定するのが有効であることがわかる。ついで測定のための選択された波長λ,λは、例えば約5nm〜30nm、好ましくは5nm〜15nmだけ、この吸収最大値の波長λの上方あるいは下方にある。これは特に970nmにおける吸収線の領域にも当てはまる。1450nm周辺の吸収線の場合、場合によっては、最大値に対して大きな間隔をもって測定することができる。
【0012】
本発明による方法によりまず第一に、液体の温度測定を規定された場所で、例えばそこで憂慮すべき効果を生じさせることなく、実験室内であるいは体外で行うことができる。しかしながら、本発明による方法が、特に生体上であるいは生体内で適所で測定するために適している事実は特に重要である。特に測定は深くにある領域においても測定は上手くいく。例えば流れる血液の温度は体内の血路において測定できる。このために、本発明は温度測定が適切な手段で目的に合致して行われるべき場所をマーキングすることを提案する。このことは例えば特許文献1および特許文献2に記載されているように、例えば超音波を使用して行うことができる。調査すべき組織あるいは血路は、(断続的に)超音波照射を適所あるいは血路へ集束することにより超音波照射でマーキングすることができる。温度測定のために光の吸収(もしくは後方散乱)を測定している間は、超音波照射に一時的に関係する、検出器に入射する光の部分だけが考慮され、従って全体が適切な状態で、光学測定、従って温度の特定が体内の深くにある領域で行うことができる。
【0013】
例えば超音波照射によりマーキングされた光の部分が、監視される場所の温度だけではなく、体表面と監視されるべき場所の間の温度にも依存することを考慮するために、本発明は好ましい他の形態において、温度の測定が体表面で行われることを勧める。この参照測定は、同様に本発明によるやり方で行うことができ、ここでも超音波集束を用いたマーキングが有効である。しかしながら、体表面では例えば温度センサ使用して従来の温度測定を行うことができる。体表面において、体表面からの後方散乱した光の強度は、体表面の温度だけに依存しているにすぎない。というのも、光はそれより先の中間位置を全く通過する必要が無いからである。これによりまず体表面の温度は明確に特定されている。引続いて、体内の温度測定が行われ、その際体の表面での温度に対する温度差あるいは温度勾配が算定される。したがって、体の表面の領域での測定は、引続く体内での測定の際の温度勾配の不慮の依存性をなくすために参照測定となる。
【0014】
その他の点において、様々な要因、例えば肌の色、肌の潤い、中間組織部分の厚さと構造、(人により異なりえる)ヘマトクリット値、および血中で時間単位で変化する血中の脂肪レベルによる、生体組織での分光計測定の影響を考慮することは役に立つ。この理由から、記載された吸収測定、場合によっては参照測定に加えて、体表面で較正測定を行うことは有効である。この較正測定により、記載された効果、特に中間位置での散乱効果はなくすことができる。この目的で、いわゆる等吸収波長を有する光を体内、例えば組織内に照射し、かつ吸収あるいは後方散乱を測定することは効果的である。このような等吸収波長は、吸収あるいは後方散乱が中間位置における異なる散乱効果にだけ依存しており、媒質、例えば水の吸収挙動には依存していないことを特徴としている。従って、このような等吸収波長での測定により、吸収には依存していない散乱効果は、補正あるいは濾光することができ、従って全体として特に正確な測定は、体の深くにある層内にもうまくいく。水を含む媒質の場合、例えば約808nmの等吸収波長を使用できる。
【0015】
全体として、本発明による方法により、単純なやり方で媒質の温度を特別に正確に(例えば±0.01℃の精度で)特定することができる。体表面の温度、あるいは特に好ましくは体内の温度をしかも非侵襲的にかつ光学的に特定することができる。これらの手段により、例えば血液成分の濃度、特に血中のグルコース濃度を正確に特定することができる。というのも、公知の濃度測定の最中に(同時に)、温度の非侵襲的測定が、しかも濃度が特定されるまさにその場所で行なわれるからである。しかしながら本発明による方法は、例えば集中治療患者の体温監視の際に、および低温治療と医学的がん治療中の体温監視の際に、他の場所で使用できるので有利である。さらに新生児の体温監視あるいは熱に曝される環境の中で働く人達の体温監視を行なうこともできる。それ以外の適用例は、透析中の睡眠診断の分野での体温監視、あるいは運動選手の体温監視である。さらに工業上の応用面における温度測定、例えば服飾業界での熱分布の特定は発展の可能性がある応用分野である。
【0016】
以下に本発明をただ一つの実施例を表す図を用いて詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明による方法を実施するための試験セットアップを示す図である。
【図2】約660nmから2400nmの光波長での水の吸収スペクトルを概略的に表した図である。
【図3】二つの異なる温度における970nmに関する水の吸収帯域での水の吸収を表した図である。
【図4】図3による測定に関する較正データを示す図である。
【図5】体内温度を特定するための方法を概略的に表した図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0018】
図1には光学的手段で水を含む媒質の温度Tを特定するための試験セットアップが示してある。このセットアップにより、水を含む媒質Mの光学的な吸収スペクトルを調べることができる。水を含む媒質Mはこの研究所のセットアップでは容器1に配置されている。同調可能な赤外線レーザ2により、所望の光波長のレーザ光はカプラー3を経由して入力光ファイバ4を媒質M内に放射される。容器1の対向した側に出た光は、出力光ファイバ5を経由して分離され、検出器6に送られる。検出器6はコンピュータおよび/またはオシロスコープを備えた評価ユニット7と接続している。コンピュータには、以下に詳しく取上げた書かれた評価アルゴリズムが保管されている。さらにコンピュータには場合によっては、同様に評価に当たって導入できる前もって算出された較正データが記憶されている。このことの後で立ち入る。オシロスコープのトリガー入力にはTTL周波数発生器8が接続されている。さらに一方ではコンピュータ7と、他方ではカプラー3と同様に接続しているパワーメータ9が設けられている。本発明による方法の機能を証明するために、例えば較正データを記録するためにも、図1には温度計10が概略的に示してあり、この温度計は、水を含む媒質の実際の温度を正確に測定し、従って本発明による方法で得られる測定データが立証できる。この場合は、まず第一に本発明による方法の機能性の立証に役立つ研究所のセットアップを概略的に示唆したものであることを指摘しておく。実際、温度Tの光学的特定は、類似の方法でレーザ光が物体内に入射されることにより行なわれる。しかしながら、研究所でのように、透過の際に測定するためにだけでなく、後方散乱された光を測定するためにも有効である。その際さらに、後方散乱された部分は、媒質の吸収挙動を知らせる。本発明は、どの場合でも透過の際の測定ならびに後方散乱方向での測定を含んでいる。
【0019】
本発明による方法の物理的関係と機能性を図2〜4に基づいて説明する。
【0020】
図2には約700nm〜2400nmの光波長範囲の水の一般的な吸収スペクトルがまず一度概略的に模範的にかつ単に図式的に示してある。λ≒970nmの光波長範囲の水吸収帯域Bが認められる。説明したように、位置λも吸収線Bの高さAも水の温度Tに左右される。従って、λは特定の温度における吸収最大値の光波長を意味している。すなわちλは温度に依存している。そのために、例として異なる温度T=33℃とT=43℃に関するこの吸収線Bの領域での吸収Aを示す図3を参照するようにする。これにより、吸収線Bは高温では短い光波長に向かって移動することがわかる。本発明の範囲において、吸収は吸収線Bの領域内で測定される。それも吸収最大値(A,λ)の異なる側にある二つの予め設定された光波長λとλに関してのみ測定される。これらの光波長は図3において同様に描かれている。その際、最大の位置、従ってλはそれ自体温度依存していることに注意する必要がある。光波長λとλは選択された温度範囲を考慮すると、これらの光波長がこれらの温度範囲全体に関して常に(移動する)最大の異なる側にあるように選択すべきである。図3から、光波長λの領域では高い温度Tに関する吸収は温度Tに関する吸収に比べて明らかに大きいことが認められる。吸収最大値λの他方の側ではこれとは異なっている。そこでは高い温度Tに関する吸収は温度Tに関する吸収に比べて小さい。この効果は温度Tでの二つの測定点を通る直線Gを描くことにより明らかにすることができる。図3にはこれらの直線Gの勾配ΔA/Δλが媒質の温度Tに依存しており影響され易いことが示してある。このことは同様に両光波長λとλに関する特定の温度TあるいはTにおける吸収値の間の差ΔAにも当てはまる。なぜならこの差ΔA=A(λ)−A(λ)は、描かれた直線Gの勾配を特定するからである。従って本発明の範囲において、特定の温度において赤外光を照射する。しかも吸収最大値λの異なる側各々に配置された二つの別々の光波長の赤外光を照射する。測定された吸収値は例えば実施例で互いに引き算したように関係付けられ、この場合形成された差は温度に影響され易い算出された測定値となる。実施例において吸収値の差あるいは両測定点を通る描かれた直線Gの勾配を表すこれらの測定値は、前もって記録された較正データと比較される。これら較正データを複数の温度に関して図4に示してある。そこには各々光波長λとλにおける様々な温度に関する吸収値が記入されている。さらに図を用いて具体的に説明するために、同じく直線を各々対で割当てられた点で結んである。図4から測定値の差、従って勾配が温度に影響され易いことが特に明確になる。というのも温度の増減により特に兆候(sign)が変化するからである。従って温度が未知である場合、両光波長λとλにおいて図2による測定が行なわれ、次いで吸収値の差が形成されるかあるいは外挿法で推定した直線Gの勾配が算定され、このようにして図4による較正データと比較することにより吸収線Bの最大値の移動を測定する必要もなく温度Tを正確に知ることができる。
【0021】
図1〜4から本発明による方法の基本的な機能性が明らかになり、かつこれらの図は実験室での実行を具体的に説明している。これは光学的でかつ非侵襲性な測定方法であるので、比較可能な方法で体内の温度測定も、組織、例えば生体K内部の血の温度の算定も成功する。
【0022】
この目的で、超音波放射により測定の目標領域にマーキングを付すことも有効である。このような方法は別の関係で特許文献2に記載されている。そこに記載された体内の領域のマーキングは、相応した方法で温度測定時に領域をマーキングするために行なうことができる。このために例えば図5を参照する。レーザ2の赤外光は、(光波長λとλに関する)記載された方法で体内Kに放射され、吸収を象徴する後方散乱した光子は、検出器6で測定される。検出器6は血管11の領域内に後方散乱した光子だけでなく、他の領域内に後方散乱した多数の別の光子も検知する。マーキングもしくは選択は、図5に示した超音波源12を用いて超音波13を放射することにより達せられる。超音波は目標領域、すなわち血管11に焦点が合わせられる。この際、例えば血が流れている場合に、特許文献2に記載されているように、例えばドップラー効果を利用することができる。超音波源12は一定のパルスと一定の繰返し時間を備えたパルス化された超音波を発生させる。評価ユニットを介して、パルス挙動を考慮すると、光の部分は実際上、超音波の収束の大きさ(Volumen)に役立つ検出器6から取出すことができる。詳細は特許文献2および特許文献1に記載されているが、これらの特許文献は温度の特定ではなく血液成分濃度の非侵襲的測定に関わる。血液成分濃度のこのような非侵襲的測定と、本発明による方法は、その他の点では組合せることができる。従って、血液成分濃度の非侵襲的測定、例えば砂糖の非侵襲的測定はでき、同時に温度の特定も行われる。超音波によりマーキングされた光部分は実際のところ場合によっては観察される箇所の温度に依存するだけでなく、ある程度は表面と観察されるべき箇所の温度の勾配に依存しているので、前もって参照測定を測定体の表面で、たとえば皮膚で行うのが目的にかなっている。その際、超音波収束を用いたマーキングも役にたつ。そこで行なわれた測定は、単にそこの温度に依存しているだけであり、可能な中間位置の温度あるいは温度勾配には依存しておらず、従ってそれに引続き、体の所望の深さにおける温度測定が行なわれ、その際同時に温度差測定も行われる。
【0023】
最後に、較正を付加えると、等吸収点光波長による較正測定を行なうことが役に立つ。これに関して詳細は図示していない。このような等吸収点光波長は、後方散乱した光量子フラックスが、散乱によってのみ、中間位置でならびに観察される位置で影響を受け、かつ水の(光学的)吸収能力には全く依存していないことを特徴としている。したがって、散乱挙動は行なわれた測定から補正できる。実際、これらの参照測定と較正測定は、実施される温度測定との直接の(時間的)関連で行なわれ、かつ評価において即座に使用される。したがって、本発明による方法を実施するための装置は、ほぼ自己較正で行なわれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒質、好ましくは水を含む媒質の温度を非侵襲的にかつ光学的に特定するための方法であって、分析すべき媒質が吸収線の領域で赤外光および/または可視光により照射され、前記吸収線の位置が媒質の温度に依存しており、光の吸収が吸収線の領域で測定され、この測定から較正データとの比較により温度が算出して求められる方法において、
前記媒質が少なくとも二つの不連続の光波長λ,λでもって照射され、これらの光波長が吸収線の領域内で吸収最大値の異なる側にあること、
これら両方の算出された吸収値A(λ),A(λ)の比あるいは機能に関する関係から、互いに温度(T)に依存した少なくとも一つの測定値もしくは温度に依存した少なくとも一つの測定機能が特定されること、および
予め記録された較正データと比較することによりこの測定値あるいはこの測定機能から温度が特定されることを特徴とする方法。
【請求項2】
最大値の両側にある両吸収値の差を作ることにより、もしくは測定点を通って延びる直線の勾配を特定することにより測定値が特定されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
600nmと2500nmの間の、好ましくは800nm〜1600nmの光波長λ1,λ2を備えた赤外光および/または可視光により媒質が照射されることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
水吸収線の領域での測定が970nmの周辺で行なわれ、好ましくは一方では950nmと970nmの間の第一波長λ1の光が使用され、他方では975nmと1000nmの間の第二波長λ2の光が使用されることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
水吸収線の領域での測定が1450nmの周辺で行なわれることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項6】
体表面での媒質の温度、例えば皮膚の温度が特定されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載の方法。
【請求項7】
体内の組織、例えば流れる血液の温度が特定されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載の方法。
【請求項8】
体内の温度を測定するために、測定の場所、例えば血路が断続的な超音波照射によりマーキングされることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
体内の温度を測定するために、温度の少なくとも一つの参照測定が体の表面で行なわれ、次いで温度の測定が体内の適所で行なわれることを特徴とする請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
体内の温度を測定するために、較正測定が一つもしくはそれより多くの等吸収波長でもって行なわれ、媒質あるいは体が等吸収波長を有する光で照射され、後方散乱した光部分が単に体内の散乱効果だけに依存しており、媒質、例えば水の吸収挙動には依存していないことを特徴とする請求項7〜9のいずれか一つに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2011−510312(P2011−510312A)
【公表日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−543437(P2010−543437)
【出願日】平成21年1月23日(2009.1.23)
【国際出願番号】PCT/EP2009/000440
【国際公開番号】WO2009/092603
【国際公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【出願人】(508018510)ニルラス・エンジニアリング・アクチエンゲゼルシャフト (3)
【Fターム(参考)】