説明

嫌気性処理方法及び嫌気性処理装置

【課題】グラニュール汚泥が保持された反応槽に、パルプ製造工程で排出された蒸発凝縮水を導入して嫌気性処理するに当たり、蒸発凝縮水中のメタノールによるメタン発酵反応阻害を防止すると共に反応槽からの汚泥の流出を防止して、嫌気性処理を安定かつ効率的に行う。
【解決手段】蒸発凝縮水を、処理水の一部と共に調整槽を介して反応槽に導入して嫌気性処理を行うに当たり、反応槽への導入水の溶解性CODCr濃度が1500mg/L以下となるように、蒸発凝縮水の流量を調整するとともに、反応槽への導入水の流量を、反応槽での上昇流速が2〜5m/hとなるように設定する。反応槽への導入水量を一定(所定の値)とした上で、反応槽に導入される水の溶解性CODCr濃度が所定値以下となるように、蒸発凝縮水の流量を調整することにより、メタン発酵反応阻害を防止すると共に、反応槽からの汚泥の流出も防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラニュール汚泥が保持されたメタン発酵反応槽に、パルプ製造工程で排出された蒸発凝縮水を導入して嫌気性処理を行う方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機物含有水の嫌気性処理方法として、高負荷処理が可能なUASB(Upflow Anaerobic Sludge Blanket)法、及びUASB法よりさらに高負荷処理が可能なEGSB(Expanded Granular Sludge Bed)法が知られている。
【0003】
これらUASB法、EGSB法では、嫌気性微生物が粒状化したグラニュール汚泥を用いており、反応槽内で嫌気性微生物を含む汚泥をグラニュール状に維持、増殖させる。グラニュール汚泥を用いる生物処理法は、担体に微生物を保持させる固定床や流動床と比較して、高い汚泥保持濃度が得られるため、高負荷運転が可能である。また、グラニュール汚泥は、微生物濃度が高く、沈降性に優れるため、処理水と汚泥との固液分離も容易である。さらに、すでに稼働中の反応槽内のグラニュール汚泥を余剰汚泥として抜き出して、新設する反応槽内に投入すれば、新設した反応槽を短期間で立ち上げて安定した処理を行えるなどの利点をも有するため、最も効率的な嫌気性処理方法として認識されている。
【0004】
グラニュール汚泥を用いるUASB法等において、有機物含有水を安定的かつ良好に処理する最大のポイントは、反応槽内においてグラニュール汚泥を維持、増殖させることである。反応槽内にグラニュール汚泥を維持、増殖させることができないと、処理性能は徐々に低下し、やがて処理不能に陥ることもある。
【0005】
グラニュール汚泥は、酢酸資化性のMethanosaeta属の微生物が骨格となって自己造粒形成され、水素資化性メタン菌、酢酸生成細菌、酸生成細菌等が共存する一種の生態系を構成している。これらの微生物の中でも酸生成細菌は、糖質、脂質、タンパク等を分解し、粘質物を産出することから細菌同士の結合力を強める働きをする。よって、糖基質の培養液を用いれば、最も強度の強いグラニュール汚泥が形成される。
【0006】
一般的な下水や産業排水等の有機物含有水は、糖質やその他の高分子の有機物を含有していることから、これを嫌気性処理すると酸生成細菌が増殖する。嫌気性処理の過程では、酸生成細菌以外の上記の微生物も増殖して有機酸が生成され、この有機酸は順次低分子化されて酢酸となり、さらにメタンと炭酸ガスに分解される。
【0007】
ところで、紙を製造する製紙工程は、パルプ化工程、紙化工程、塗工加工工程、及び仕上工程に大別できる。例えば、パルプ化工程では主として木材を原料とし、これを機械的方法、化学的方法、又はその両方で処理して繊維を抽出しパルプ原料を得る。紙化工程では、パルプ化工程で製造されたパルプ原料をリファイナーと呼ばれる機械で叩解し、薬品等を加えて抄紙する。塗工加工工程では、塗料を抄紙して乾燥させた紙原体に塗布し、艶出し等の仕上げを行い、これを仕上工程で断裁して製品が得られる。
【0008】
こうした製紙工程では、様々な性状の廃液が排出される。
例えば、パルプ化工程で製造されるパルプとしては、原料を化学的に処理して繊維を抽出する化学パルプが一般的であり、特に、クラフト法により製造された化学パルプ(クラフトパルプ)が製造されることが多い。クラフトパルプは、アルカリと硫化ナトリウムとを含む薬液中で木材を砕片化したチップを加熱(蒸解)して得られる。この蒸解により得られた液体(蒸解液)は、蒸留されてアルカリ分が回収される。蒸解液の蒸留に伴い、蒸発凝縮水(エバポレータ・コンデンセート又はエバポレータドレン)と呼ばれる廃液が発生する。
【0009】
パルプ製造工程における蒸発凝縮水の発生量はクラフトパルプの生産量の5〜7倍程度にも達する。また、この蒸発凝縮水の有機物濃度は3,000〜10,000mg/Lで、通常の有機物含有水と異なり、メタノールを主成分(全CODCrの70質量%以上)とする有機物含有水である。
【0010】
しかし、グラニュール汚泥中のMethanosaeta属微生物はメタノールのような低分子化合物を基質として利用できないため、通常の有機物含有水を処理していた嫌気性反応槽内のグラニュール汚泥を装置の立ち上げ時に種汚泥として投入しても、メタノールをほとんど処理することができない。そのため、メタノールを多く含む蒸発凝縮水を処理するためには、Methanosarcina属やMethanobacterium属などのメタン菌を増殖させる必要があるが、蒸発凝縮水には、主成分であるメタノールだけでなく、その他に含まれる硫黄化合物やテルペン類などによるメタン発酵阻害の問題もある。そのため、蒸発凝縮水を被処理水とする嫌気性反応槽においては、これらの成分による反応阻害のために、安定運転できない場合があった。
【0011】
従来、メタノールによるメタン発酵反応阻害を抑制するために、被処理水を前処理槽を経て嫌気性反応槽に導入すると共に、処理水を前処理槽へ返送し、この処理水の返送流量を調整して、反応槽に流入する水のメタノール濃度が500mg/Lを超えないようにする嫌気性処理方法が開発されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2008−155072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、上記の方法では、被処理水が非常に高濃度である場合、循環する処理水の流量が非常に多くなるため、嫌気反応槽内での上昇流速がグラニュール汚泥の沈降速度を上回り、反応槽から汚泥が流出する可能性があるだけでなく、反応槽でのメタノール除去率が低下した場合、処理水のメタノール濃度が増加することとなり、前処理槽での被処理水の希釈効率が低下するため、反応槽に流入するメタノール濃度を500mg/L以下とすることが難しくなるという問題がある。
【0014】
本発明は、グラニュール汚泥が保持された反応槽に、パルプ製造工程で排出された蒸発凝縮水を導入して嫌気性処理するに当たり、蒸発凝縮水中のメタノールによるメタン発酵反応阻害を防止すると共に反応槽からの汚泥の流出を防止して、嫌気性処理を安定かつ効率的に行う方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、反応槽に導入される水の溶解性CODCr濃度が所定値以下となるように、被処理水の流量を調整するとともに、被処理水と希釈水とを調整槽を介して反応槽に導入し、反応槽への導入水の流量を、反応槽での上昇流速が2〜5m/hとなるように設定することにより、メタノールによるメタン発酵反応阻害を防止すると共に、反応槽からの汚泥の流出も防止することができることを見出した。
【0016】
本発明はこのような知見に基いて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0017】
[1] グラニュール汚泥が保持された反応槽に、パルプ製造工程で排出された蒸発凝縮水を含む被処理水を導入して嫌気性処理を行う方法において、該反応槽への導入水の溶解性CODCr濃度が1500mg/L以下となるように、前記被処理水の流量を調整するとともに、
前記被処理水と希釈水とを調整槽を介して前記反応槽に導入し、前記反応槽への導入水の流量を、該反応槽での上昇流速が2〜5m/hとなるように設定することを特徴とする嫌気性処理方法。
【0018】
[2] [1]において、前記希釈水として、前記反応槽から取り出した処理水を使用することを特徴とする嫌気性処理方法。
【0019】
[3] グラニュール汚泥が保持された反応槽と、パルプ製造工程から排出された蒸発凝縮水を含む被処理水が導入される調整槽と、該調整槽内の水を前記反応槽に導入する手段と、前記反応槽から処理水を取り出す手段と、取出された前記処理水を受け入れる処理水槽と、該処理水槽内の処理水の一部を前記調整槽に循環する手段と、前記処理水槽内の処理水の他の一部を排出する、前記処理水槽に設けられた溢流手段と、前記反応槽への導入水の溶解性CODCr濃度が1500mg/L以下となるように、前記調整槽への被処理水の流入水量を調整する手段と、前記反応槽での上昇流速が2〜5m/hとなるように該反応槽への導入水量を調節する手段とを備えることを特徴とする嫌気性処理装置。
【0020】
[4] グラニュール汚泥が保持された反応槽と、パルプ製造工程から排出された蒸発凝縮水を含む被処理水が導入される調整槽と、該調整槽内の水を前記反応槽に導入する手段と、前記反応槽から処理水を取り出す手段と、取出された前記処理水を受け入れる処理水槽と、該処理水槽内の処理水の一部を前記調整槽に循環する手段と、前記処理水とは別の希釈水を前記調整槽に導入する手段と、前記処理水槽内の処理水の他の一部を排出する、前記処理水槽に設けられた溢流手段と、前記反応槽への導入水の溶解性CODCr濃度が1500mg/L以下となるように、前記調整槽への被処理水の流入水量を調整する手段と、前記反応槽での上昇流速が2〜5m/hとなるように前記希釈水の水量を調節する手段とを備えることを特徴とする嫌気性処理装置。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、パルプ製造工程から排出されたメタノール等のメタン発酵反応阻害物質を多く含む蒸発凝縮水の嫌気性処理に当たり、反応槽に導入される水の溶解性CODCr濃度が所定値以下となるように、被処理水の流量を調整するとともに被処理水と希釈水とを調整槽を介して反応槽に導入し、反応槽への導入水の流量を、反応槽での上昇流速が2〜5m/hとなるように設定することにより、メタン発酵反応阻害を防止すると共に、反応槽からの汚泥の流出をも防止して、安定かつ効率的な嫌気性処理を行うことができる。
本発明によれば、特に、すでに稼働中の他の反応槽内のグラニュール汚泥を余剰汚泥として抜き出して、蒸発凝縮水を嫌気性処理する反応槽を立ち上げる際に、反応槽内にMethanosarcina属やMethanobacterium属などのメタン菌を円滑に増殖させて安定な嫌気性処理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の嫌気性処理装置の実施の形態を示す系統図である。
【図2】実施例1における槽負荷及び被処理水流量の経時変化を示すグラフである。
【図3】実施例1における被処理水、反応槽導入水及び処理水の溶解性CODCr濃度の経時変化を示すグラフである。
【図4】比較例1における槽負荷及び被処理水流量の経時変化を示すグラフである。
【図5】比較例1における被処理水、反応槽導入水及び処理水の溶解性CODCr濃度の経時変化を示すグラフである。
【図6】比較例2における槽負荷及び被処理水流量の経時変化を示すグラフである。
【図7】比較例2における被処理水、反応槽導入水及び処理水の溶解性CODCr濃度の経時変化を示すグラフである。
【図8】実施例1および比較例2における反応槽内の汚泥界面高さの経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に図面を参照して本発明の嫌気性処理方法及び嫌気性処理装置の実施の形態を詳細に説明する。
【0024】
図1は本発明の嫌気性処理装置の実施の形態を示す系統図である。
【0025】
図1において、1は反応槽であり、反応槽1内には、グラニュール汚泥2が充填されている。また、反応槽1の上部には、気固液分離装置(GSS)3が設けられている。GSS3の頂部は、反応槽1内の液面から突出し、このGSS3には処理水取出管8を介して処理水槽9が連絡されている。処理水槽9は、下部が連通している調整槽5と連絡し、処理水の一部は調整槽5に送給される。処理水の残部は、処理水排出配管13から排出される。10は、被処理水導入配管であり、流量調整バルブ10Vを備える。被処理水導入配管10から導入された被処理水は、調整槽5と下部が連通しているpH調整槽6とを経てポンプPを備える配管11より反応槽1の下部に導入され、上向流で反応槽1内を流れる。反応槽1の上部には、ガス排出配管12が接続されている。7は、希釈水導入配管であり、流量調節バルブ7Vを備えている。
【0026】
反応槽1内において、GSS3の内側は気固液分離部分であり、その下部はグラニュール汚泥が展開する反応部となっている。反応部ではグラニュール汚泥が展開してスラッジブランケットが形成される。グラニュール汚泥は、嫌気性微生物を含む微生物が自己造粒して粒状になった汚泥であり、比較的高密度で沈降性に優れる。
【0027】
反応槽1内での被処理水の嫌気性処理により、反応槽1で生成したガス及び増殖した汚泥を含む混合液は、GSS3の内部で気固液分離され、ガスはガス排出配管12から反応槽1外に取り出されてガスホルダ4に貯留される。また、汚泥が分離され清澄化された液分のうちの一部は処理水槽9の下部連通部より調整槽5に送給され、残部は、溢流となって処理水排出配管13から反応槽1外に取り出され、系外へ排出される。この処理水は、後段に設けた好気性生物処理装置(図示せず)等によりさらに処理してもよい。
【0028】
本発明においては、このような嫌気性処理装置において、反応槽1に導入される水(以下単に「導入水」と称す場合がある。)の溶解性CODCr濃度が1500mg/L以下となるように、バルブ10Vの開度を調整することにより、調整槽5内に導入される被処理水流量を調整するとともに反応槽1に導入される水の流量(導入水流量)が一定(所定の流量)となるように、ポンプPの吐出量を設定する。このため、被処理水流量を少なくすると、処理水取出管8から処理水槽9への処理水循環量は多くなり、逆に被処理水流量を多くすると、この処理水循環量は少なくなる。
【0029】
このように、導入水の溶解性CODCr濃度が1500mg/L以下、好ましくは10〜1500mg/Lとなるように、導入水の溶解性CODCr濃度を調整することにより、被処理水中のメタノールやその他硫黄化合物やテルペン類などのメタン発酵阻害物質によるメタン発酵反応阻害を抑制し、また、反応槽内にMethanosarcina属やMethanobacterium属などのメタン菌を円滑に増殖させて反応槽での嫌気性処理を効率的に行うことが可能となる。また、仮に反応槽でのメタノール除去率が低下した場合であっても、導入水の溶解性CODCr濃度を所定値以下となるように制御するため、反応槽の負荷を安定させることができる。しかも、この溶解性CODCr濃度の調整に当たり、反応槽の導入水流量は一定(所定の値)とするため、被処理水流量が決まれば、希釈水流量は一意的に決定される。そのため、被処理水流量を調節して減少させた場合、その減少分だけ、希釈水の流量が増加する。
このように、導入水流量を一定とすることは、前記処理水循環による希釈水流量の制御を不要とするだけでなく、導入水流量が増加することによる汚泥の流出を防止することができる。
この導入水の溶解性CODCr濃度が1500mg/Lを超えると、後述の比較例1に示されるようにメタン発酵反応阻害が起こり、嫌気性処理効率が低下する。
【0030】
本発明において、導入水の溶解性CODCr濃度はTOC計からの換算により測定することができる。従って、このような測定手段を配管11又はpH調整槽6に設け、この測定結果に基いて被処理水導入配管10のバルブ10Vの開度を調整すると共に、配管11のポンプPを定流量で回転させることにより、本発明による制御を行うことができる。
なお、被処理水の流量が増減することにより、相対的に処理水の調整槽5への流入水量が減増することになるが、調整槽5と連通した処理水槽9を設置するなどして調整槽5に必要量の処理水が循環され、残部が系外へ排出されるような構成とすることにより、処理水取出管8には流量調整バルブを設ける必要はなくなる。
【0031】
本発明においては、希釈水として、主に被処理水に処理水を混合して導入水の溶解性CODCr濃度を調整するが、更に、処理水以外の市水、工水、井水、河川水、その他の処理系統の処理水等の被処理水よりも有機物濃度の低い水を希釈水として使用し、調整槽5に希釈水導入配管7から流量調節バルブ7Vを介してこの希釈水を導入するようにしてもよく、有機物濃度の安定した他の希釈水の併用で、導入水の溶解性CODCr濃度を安定に調整することができるようになる。特に、処理水の水質が悪化した場合、処理水のみを希釈水として使用すると、処理水の循環量が増大し、前述した前記反応槽での上昇流速が2〜5m/hとなるように希釈水の水量を調節することが困難になることがある。このような場合には、前記処理水と有機物濃度の安定した他の希釈水とを併用するか、または有機物濃度の安定した他の希釈水のみを使用することが好ましい。
【0032】
本発明において、反応槽への導入水流量は、反応槽での上昇流速が2〜5m/hとなるような導入水流量として一定に維持することが、汚泥の流出を防止した上でグラニュール汚泥を十分に展開させて効率的な嫌気性処理を行う上で好ましい。上昇流速が2m/hより小さいと、被処理水に対する嫌気反応槽からの処理水の循環水量の比が低下するため、導入水のCODCr1,500mg/L以下の維持が困難になり、また、負荷を下げた運転を行うと嫌気反応槽の容積が大きくなるため、現実的ではない。
一方、上昇流速が5m/hより大きくなると、上昇流速がグラニュール汚泥の沈降速度を上回るため、グラニュール汚泥が流出して、嫌気反応槽内の汚泥量が減少して処理能力が低下する。
なお、本発明において導入水流量を「一定にする」とは、ある導入水流量の値XL/hに対して±10%、即ち、0.9×XL/h〜1.1×XL/hの範囲に維持することを言う。
【0033】
本発明において、嫌気性処理のその他条件としては、通常の条件を採用することができ、例えば、反応槽に対する有機物負荷(以下、これを「槽負荷」という。)は5〜30kg−CODCr/m/d、特に8〜20kg−CODCr/m/dが好ましく、反応槽内には酸素を供給せずに嫌気的条件とし、温度は25〜40℃、特に30〜38℃とし、pHは6.0〜8.0とすることが好ましい。
【実施例】
【0034】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0035】
なお、以下の実施例及び比較例では、図1に示す嫌気性処理装置を用いた。反応槽は、内径4.5cm、高さ4.0mで、GSSが設置された部分を除く反応部の容量は6L、GSS部を含めた部分の容量は7Lのものである。この反応槽内には食品工場のUASB式の反応槽から取り出したグラニュール汚泥を3.0L充填して負荷運転を開始した。
【0036】
被処理水は、クラフトパルプ製造工程から排出された蒸発凝縮水であり、その水質は、CODCrとしての有機物濃度が7000〜8000mg/Lで変化し、そのうちの約80%がメタノールであった。
反応槽1内の温度は30〜35℃に維持し、pH7.0となるようにpH調整を行った。pH調整はpH調整槽6にpH調整剤C(酸またはアルカリ)を添加することによって行った。
【0037】
<実施例1>
図1に示す如く、調整槽への被処理水流量の調整で、導入水の溶解性CODCr濃度が500〜1500mg/Lとなるようにかつ、導入水流量は約4.8L/hで一定とし、反応槽内での上昇流速が3m/hとなるように処理水循環を行いながら通水し、反応槽内にグラニュール汚泥を展開させてスラッジブランケットを形成させた。
このときの槽負荷及び被処理水流量を図2に、被処理水、導入水及び処理水の溶解性CODCr濃度の経時変化を図3に、また反応槽内の汚泥界面高さを図8に示す。
被処理水の流量を徐々に増加させ、処理水循環量を徐々に減少させて槽負荷を上げたところ、導入水の溶解性CODCr濃度は徐々に上昇し、運転41日目には約1400mg/Lとなった。そこで、被処理水の流量を0.6L/hから0.4L/hに減少させる操作を行った。この結果、導入水の溶解性CODCr濃度の上昇傾向はなくなり、1500mg/L以下で維持させることができ、42日目以降も、安定した処理水水質での運転を継続することができた。
また、グラニュール汚泥が展開されている汚泥界面については、汚泥の流出・減少による急激な低下は認められず、処理開始時のグラニュール汚泥量以上の量を反応槽内に維持できた。
このように、本実施例では、嫌気性処理装置の立ち上げを効率的に行って、安定かつ効率的な嫌気性処理が行えることが分かる。
なお、上昇流速を4m/h、5m/hに調整した処理も行なったが、3m/hの時と同様、グラニュール汚泥が流出・減少することなく、導入水の溶解性CODCr濃度を1500mg/L以下とすることができた。
【0038】
<比較例1>
導入水の溶解性CODCr濃度を1500mg/L以下に制御することなく嫌気性処理を行った。
このときの槽負荷及び被処理水流量を図4に、被処理水、導入水及び処理水の溶解性CODCr濃度の経時変化を図5に示す。
図4,5より明らかなように、槽負荷14kg−CODCr/m/dの時点で導入水の溶解性CODCr濃度が1500mg/Lを超え、以降、処理水の溶解性CODCr濃度が増加し続け、性能の回復は認められなかった。
【0039】
<比較例2>
導入水の溶解性CODCr濃度を1,500mg/L以下となるようにかつ、導入水量は約11.2L/hで一定とし、反応槽内での上昇流速が6m/hとなるように処理水循環を行いながら通水し、反応槽内にグラニュール汚泥を展開させてスラッジブランケットを形成させた。
槽負荷及び被処理水流量を図6に、被処理水、導入水及び処理水の溶解性CODCr濃度の経時変化を図7に、また反応槽内の汚泥界面高さを図8に示す。
被処理水の流量を徐々に増加させて槽負荷を上げたところ、運転33日目から処理水の溶解性CODCr濃度が増加傾向となり、その結果、導入水の溶解性CODCr濃度も上昇傾向となり、36日目には約1400mg/Lとなった。そこで、被処理水の流量を0.4L/hから0.3L/hに減少させる操作を行うことにより、37日目には導入水の溶解性CODCr濃度は低下したが、その効果は一時的であり、処理水の溶解性CODCr濃度の上昇は再び上昇したため、46日目に導入水の溶解性CODCr濃度が約1400mg/Lまで上昇した。そこで、さらに被処理水の流量を0.3L/hから0.1L/hに減少させ、導入水の溶解性CODCr濃度は47日目には850mg/Lまで低下させることができたが、処理水の溶解性CODCr濃度の上昇傾向は改善できず、処理水循環による被処理水の希釈では、導入水の溶解性CODCr濃度は50日目には約1300mg/Lにまで上昇した。
また、グラニュール汚泥が展開されている汚泥界面は、汚泥の流出・減少によって、徐々に高さが低下した。
【符号の説明】
【0040】
1 反応槽
2 グラニュール汚泥
3 気固液分離装置
4 ガスホルダ
5 調整槽
6 pH調整槽
9 処理水槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラニュール汚泥が保持された反応槽に、パルプ製造工程で排出された蒸発凝縮水を含む被処理水を導入して嫌気性処理を行う方法において、
該反応槽への導入水の溶解性CODCr濃度が1500mg/L以下となるように、前記被処理水の流量を調整するとともに、
前記被処理水と希釈水とを調整槽を介して前記反応槽に導入し、前記反応槽への導入水の流量を、該反応槽での上昇流速が2〜5m/hとなるように設定することを特徴とする嫌気性処理方法。
【請求項2】
請求項1において、前記希釈水として、前記反応槽から取り出した処理水を使用することを特徴とする嫌気性処理方法。
【請求項3】
グラニュール汚泥が保持された反応槽と、パルプ製造工程から排出された蒸発凝縮水を含む被処理水が導入される調整槽と、該調整槽内の水を前記反応槽に導入する手段と、前記反応槽から処理水を取り出す手段と、取出された前記処理水を受け入れる処理水槽と、該処理水槽内の処理水の一部を前記調整槽に循環する手段と、前記処理水槽内の処理水の他の一部を排出する、前記処理水槽に設けられた溢流手段と、前記反応槽への導入水の溶解性CODCr濃度が1500mg/L以下となるように、前記調整槽への被処理水の流入水量を調整する手段と、前記反応槽での上昇流速が2〜5m/hとなるように該反応槽への導入水量を調節する手段とを備えることを特徴とする嫌気性処理装置。
【請求項4】
グラニュール汚泥が保持された反応槽と、パルプ製造工程から排出された蒸発凝縮水を含む被処理水が導入される調整槽と、該調整槽内の水を前記反応槽に導入する手段と、前記反応槽から処理水を取り出す手段と、取出された前記処理水を受け入れる処理水槽と、該処理水槽内の処理水の一部を前記調整槽に循環する手段と、前記処理水とは別の希釈水を前記調整槽に導入する手段と、前記処理水槽内の処理水の他の一部を排出する、前記処理水槽に設けられた溢流手段と、前記反応槽への導入水の溶解性CODCr濃度が1500mg/L以下となるように、前記調整槽への被処理水の流入水量を調整する手段と、前記反応槽での上昇流速が2〜5m/hとなるように前記希釈水の水量を調節する手段とを備えることを特徴とする嫌気性処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−557(P2012−557A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−136745(P2010−136745)
【出願日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】