嫌気性処理方法及び装置
【課題】酸発酵菌を固定化した酸発酵槽を用い効率的な酸発酵が行える嫌気性処理方法とその装置を提供することである。
【解決手段】装置本体側壁と邪魔板により形成されるガス・液・固分離部を多段に有する上向流嫌気性汚泥床処理装置による酸発酵菌を固定化した酸発酵槽を用い、酸発酵工程及びメタン発酵工程からなる二相式嫌気性処理で有機性廃水又は有機性廃棄物を処理する嫌気性処理方法とその装置。
【解決手段】装置本体側壁と邪魔板により形成されるガス・液・固分離部を多段に有する上向流嫌気性汚泥床処理装置による酸発酵菌を固定化した酸発酵槽を用い、酸発酵工程及びメタン発酵工程からなる二相式嫌気性処理で有機性廃水又は有機性廃棄物を処理する嫌気性処理方法とその装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種工場等より排出される有機性の廃水又は有機性の廃棄物等を対象とし、これを無害化する嫌気性汚泥床処理方法及び装置に関し、更に詳しくは酸発酵工程とメタン発酵工程からなる二相式嫌気性処理方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機性の廃水あるいは有機性の廃棄物等は、嫌気性処理によって分解処理されることがある。こうした分解処理方法として、例えば上向流嫌気性汚泥床法(以後、UASBとも記す)がある。これは近年普及してきた方法で、メタン菌等の嫌気性菌をグラニュール状に造粒化することにより、リアクター内のメタン菌の濃度を高濃度に維持できるという特徴があり、その結果、廃水中の有機物の濃度が相当高い場合でも効率よく処理できる。例えば、この方法を具体化した装置では、重クロム酸カリウムを酸化剤として測定したCODcr(以後CODと記す)の容積負荷が10〜15kg/m3/dの廃水、廃棄物でも効率よく運転できるという特徴がある。
【0003】
嫌気微生物による処理法は一般に酸発酵工程とメタン発酵工程に分けられる。メタン発酵では主に酢酸などの有機酸を基質として処理が行われるため、廃水中の有機物を有機酸に転換する酸発酵工程が重要となる。このときのメタン発酵工程には嫌気微生物を浮遊状態で保持する嫌気性消化法や嫌気微生物を固定床充填材の表面に生物膜として保持する嫌気性ろ床法、嫌気微生物を砂等の流動性担体表面に保持する嫌気性流動床法、前記UASB法が用いられることが多い。
【0004】
嫌気微生物を用いた処理装置の従来例を図2に示す。図2の(a)では原水1を直接メタン発酵処理している。このような処理方式は原水中の有機物が有機酸あるいは比較的低分子の有機物廃水である場合に適している。高分子の有機物を含む原水を図2の(a)の処理方式で処理する場合、高分子の有機物の酸発酵過程が律速条件となるためメタン発酵槽4で滞留時間を長くとるため、設備が過大となりとなり、効率の良い処理が行われない。高分子の有機物を含む原水を対象とする場合には、図2の(b)に示すようにメタン発酵槽4の前段に酸発酵槽2を設け、酸発酵槽2で高分子の有機物を有機酸あるいは比較的低分子な有機酸へ転換させる場合が多い。これによって、メタン発酵槽4の滞留時間が短くなり、図2の(a)に比べて効率の良い処理が実現できる。
比較的高分子の有機物としては、タンパク質や脂質等が例として挙げられる。また、マルチトールやキシリトール等の糖アルコール等の難発酵成分も高分子の有機物と同様に酸発酵過程が律速となる場合が多い。
【0005】
図2の(b)の処理方式の酸発酵は、酸発酵菌を浮遊状態で保持する浮遊式の処理装置であるため、微生物の高濃度化が難しく、大容量の設備となる場合がある。このような問題点を解決する試みとして、酸発酵槽2に微生物を固定化する充填材を酸発酵槽2に充填した嫌気性流動床型や嫌気性ろ床型の酸発酵槽2が提案されている。
例えば、「非特許文献1」では、同一形状の酸発酵槽2とメタン発酵槽4の二相式処理方式により、両槽ともに担体として0.1〜0.3mmの砂を使用し、線流速(以下、通水速度とも記す)8〜20m/hで運転している嫌気性流動床の例が紹介されている。「特許文献1」は、酸発酵槽内に酸発酵菌が付着する担体を充填した嫌気性ろ床であり、微生物の増殖により、充填層が閉塞しやすいという問題点をメタンガスで適宜曝気洗浄することで閉塞の不具合を起こさない処理方法である。また、「特許文献2」は、槽中央部に無機担体を充填した固定床を設け、槽下部を酸発酵部、槽上部をメタン発酵部とし、槽中央部の固定床を定期的に洗浄する処理方式である。
【特許文献1】特開平5−123693号公報
【特許文献2】特開平5−169086号公報
【非特許文献1】J.J.Heijnenら,‘ANAEROBIC TREATMENT A GROWN−UP TECHNOLOGY AQUATECH’86,p.159−173(1986)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、酸発酵菌を固定化した酸発酵槽を用いた二相式処理方式には以下に示すような問題点がある。
(イ)嫌気性流動床型酸発酵槽では担体の流動化に多大なエネルギーを要する。
(ロ)嫌気性流動床型酸発酵槽では担体に過剰に生物が付着した場合、酸発酵槽内の生物付着担体を引き抜き、付着生物と担体を分離した後、担体を酸発酵槽内へ戻す付着生物剥離設備が必要となる。あるいは、酸発酵槽内の生物付着担体を引き抜き、これを処分し、新たに担体を供給する必要がある。
【0007】
(ハ)嫌気性固定床型酸発酵では洗浄を行うことで、固定床の閉塞を回避できるが、常時、流入廃水と生物との接触を良好に保つことが難しく、また、短絡流が生じる可能性もある。
(ニ)嫌気性流動床型酸発酵槽及び嫌気性固定床型酸発酵槽では浮遊式の酸発酵槽と異なり、pHの調整が難しく、pH調整の不具合により効率的な処理が行えない場合がある。
こうしたことから、本発明は、酸発酵菌を固定化した酸発酵槽を用い効率的な酸発酵が行える嫌気性処理方法とその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、下記の手段により前記の課題を解決した。
(1)有機性廃水又は有機性廃棄物を酸発酵工程及びメタン発酵工程からなる二相式嫌気性処理する方法において、該酸発酵工程にグラニュール汚泥を用いた上向流嫌気性汚泥床処理法を用いることを特徴とする有機性廃水又は有機性廃棄物の嫌気性処理方法。
(2)前記メタン発酵工程がグラニュール汚泥を用いた上向流嫌気性汚泥床処理法を用いることを特徴とする前記(1)に記載の有機性廃水又は有機性廃棄物の嫌気性処理方法。
(3)前記酸発酵工程のpHが5〜6.5、前記メタン発酵工程のpHが6.5〜8.5であることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の有機性廃水又は有機性廃棄物の嫌気性処理方法。
【0009】
(4)前記メタン発酵工程の流出水又はメタン発酵工程の槽内液を前記酸発酵工程を構成する上向流嫌気性汚泥床装置内の二箇所以上に分配し、供給することを特徴とする前記(1)乃至(3)のいずれか1項に記載の有機性廃水又は有機性廃棄物の嫌気性処理方法。
(5)酸発酵工程を構成する上向流嫌気性汚泥床装置内へメタン発酵工程を構成する上向流嫌気性汚泥床装置内のグラニュール汚泥を供給することを特徴とする前記(1)乃至(4)のいずれか1項に記載の有機性廃水又は有機性廃棄物の嫌気性処理方法。
(6)酸発酵工程流入水の有機物濃度、pH、アルカリ度、酸発酵工程の流出水又は酸発酵工程の槽内液のpH、アルカリ度、メタン発酵工程流出水のアルカリ度のうち、一つ以上の項目を基に、原水及び/又は酸発酵工程でのアルカリ剤供給量を制御することを特徴とする前記(1)乃至(5)のいずれか1項に記載の有機性廃水又は有機性廃棄物の嫌気性処理方法。
【0010】
(7)酸発酵槽及びメタン発酵槽により有機性廃水又は有機性廃棄物を処理する装置において、該酸発酵槽がグラニュール汚泥を用いた上向流嫌気性汚泥床を有する酸発酵槽であることを特徴とする有機性廃水又は有機性廃棄物の処理装置。
(8)前記メタン発酵槽がグラニュール汚泥を用いた上向流嫌気性汚泥床処理装置を用いることを特徴とする前記(7)に記載の有機性廃水又は有機性廃棄物の嫌気性処理装置。
(9)前記メタン発酵槽内の槽内液又は前記メタン発酵槽の処理水を前記酸発酵槽へ返送する返送配管を設けたことを特徴とする前記(7)又は(8)に記載の有機性廃水又は有機性廃棄物の処理装置。
【0011】
(10)前記返送配管が2箇所以上で分岐していることを特徴とする前記(7)乃至(9)のいずれか1項に記載の有機性廃水又は有機性廃棄物の処理装置。
(11)前記酸醗酵槽からメタン醗酵槽への導入配管内の酸醗酵処理液又は前記酸発酵槽内の酸発酵液を前記酸発酵槽の下方に返送する返送管と、前記メタン醗酵槽からのメタン醗酵処理水を送る配管内又は前記メタン発酵槽内の槽内液又はメタン醗酵処理水を前記メタン発酵槽の下方に返送する配管とを設けたことを特徴とする前記(7)乃至(10)のいずれか1項に記載の有機性廃水又は有機性廃棄物の処理装置。
(12)前記酸発酵槽及び/又は前記メタン発酵槽は、装置本体側壁と邪魔板により形成されるガス・液・固分離部を多段に有する上向流嫌気性汚泥床処理装置を用いることを特徴とする前記(7)乃至(11)のいずれか1項に記載の有機性廃水又は有機性廃棄物の処理装置。
【0012】
本発明の骨子は、有機性廃水又は有機性廃棄物、特に、比較的高分子の有機物や難発酵成分を含み、酸発酵過程が律速となる有機性廃水又は有機性廃棄物を対象として酸発酵処理を行う酸発酵工程において、微生物付着担体として酸発酵菌の固定化能力に優れたグラニュール汚泥を用いた上向流嫌気性汚泥床処理法を適用することにある。酸発酵菌の固定化担体として酸発酵菌の固定能力に優れたグラニュール汚泥を用いることで、酸発酵槽内の酸発酵菌の保持量が増え、さらに、砂等の担体よりも比重の小さいグラニュール汚泥により構成される汚泥層の流動が良好な状態、即ち、汚泥と基質の良好な接触を妨げず、汚泥層全体を処理に対して有効に使うことで、高い負荷においても安定した処理を行うことにある。また、メタン発酵工程においてもグラニュール汚泥を保持した上向流嫌気性汚泥床処理法を適用する場合には、酸発酵槽とメタン発酵槽内の汚泥はともにグラニュール汚泥であるため、メタン発酵槽内のグラニュール汚泥を酸発酵槽に新規担体として供給することが容易となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、有機性廃水又は有機性廃棄物、特に、比較的高分子の有機物や難発酵成分を含み、酸発酵過程が律速となる有機性廃水又は有機性廃棄物を対象として酸発酵処理を行う酸発酵工程の微生物付着担体として酸発酵菌の固定能力に優れたグラニュール汚泥を用いることで、酸発酵槽内の酸発酵菌の保持量が増え、さらに、砂等の担体よりも比重の小さいグラニュール汚泥により構成される汚泥層の流動が良好な状態、即ち、汚泥と基質の良好な接触を妨げず、汚泥層全体を処理に対して有効に使うことで、高い負荷においても安定した処理を行うことができる。また、メタン発酵工程においてもグラニュール汚泥を保持した上向流嫌気性汚泥床処理法を適用する場合には、酸発酵槽とメタン発酵槽内の汚泥はともにグラニュール汚泥であるため、メタン発酵槽内のグラニュール汚泥を酸発酵槽に新規担体として供給することが容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明を実施するための最良の形態を説明するが、本発明はこれに限定されない。図1は、嫌気性処理方法を実施するのに好ましい本発明の上向流嫌気性処理装置により構成される二相式処理方式での一形態の概要を例示した図である。
酸発酵槽2及びUASB4(メタン発酵槽)は、嫌気性菌からなるグラニュール汚泥を投入して使用する。本発明の対象となる嫌気性処理は、30℃〜35℃を至適温度とした中温メタン発酵処理、50℃〜55℃を至適温度とした高温メタン発酵処理など全ての温度範囲の嫌気性処理を対象とする。嫌気性菌からなるグラニュール汚泥を投入し、有機性廃水などを含んだ原水1を酸発酵槽2へ上向流で導入し、酸発酵槽2からの酸発酵処理水3をUASB4へ上向流で導入する。
【0015】
酸発酵槽2からUASB4への送水は、ポンプ圧送による送水でも良いし、酸発酵槽2の水位をUASB4の水位よりも高くすることによる水頭差による送水でも良い。原水1をUASB4から出るUASB処理水5の循環液9や系外から供給する希釈水等により必要に応じて適宜希釈を行う、あるいは、酸発酵槽2では酸発酵処理水3の循環を、UASB4ではUASB処理水5の循環を行うことで、酸発酵槽2及びUASB4内部での通水速度が0.1〜2m/hとなるように調節する。後述の気液固分離装置を多段に配置したリアクター14ではリアクター内の通水速度を0.1〜10m/hとなるように調節する。酸発酵槽2では酸発酵処理水3の循環を、UASB4ではUASB処理水5の循環を行うことで酸発酵槽2及びUASB4において、各々適切な通水速度に調節することが可能となる。
【0016】
酸発酵槽2、UASB4は各々1槽でもよいし、各々複数槽から構成されても良い。酸発酵槽2を複数槽とする場合には、前段の酸発酵槽で比較的酸発酵及び低分子化が容易な成分の反応が進行し、後段の酸発酵槽で、比較的酸発酵しにくい成分の酸発酵が進行する。この場合、前段の酸発酵槽と後段の酸発酵槽ではそれぞれの処理に適した菌相が形成される。
酸発酵菌を含む嫌気性菌から形成されるグラニュール汚泥は、その表面に酸発酵菌を固定化するのに適した生物担体であり、固定化された酸発酵菌の付着力は砂や活性炭等の担体への酸発酵菌の付着力よりも強く、安定している。また、グラニュール汚泥中にも酸発酵菌が含まれているため、嫌気性流動床や嫌気性固定床に比べ、酸発酵菌の菌体保持量が増加する。
グラニュール汚泥の比重は1.05程度であり、砂や活性炭等の担体の比重に比べて小さいため、少ないエネルギーで良好な流動状態が得やすい。
【0017】
酸発酵及びメタン発酵の至適pHの観点から、酸発酵槽内のpHが5〜8、UASB槽内のpHを6.5〜8.5に設定されることが多い。酸発酵槽内でもメタン発酵が、メタン発酵槽であるUASB槽内でも酸発酵が起こるが、酸発酵槽2及びUASB槽4の機能がより効果的に発揮できるように、酸発酵槽4のpHを5.5〜6.5に設定する。つまり、比較的高分子の有機物や難発酵成分を含み、酸発酵過程が律速となる有機性廃水又は有機性廃棄物を対象として酸発酵処理を行う酸発酵工程ではメタン発酵が起こりにくいpH6.5以下とし、酸発酵処理を積極的に進行させることで、UASB内で良好なメタン発酵処理が行え、効率的な嫌気性処理が達成できることになる。UASB4ではメタン発酵の進行によりアルカリ度を生成し、pHが上昇するため、酸発酵槽2のpHを5.5〜6.5に設定することで、UASB槽内のpHは6.5〜8.5に保たれる。
【0018】
酸発酵槽内で増殖した酸発酵菌を表面に付着したグラニュール汚泥(以下、酸発酵菌付着汚泥と称す)を適宜引き抜き、処理処分を行う。酸発酵菌付着汚泥を酸発酵槽2に多量に保有していると、酸発酵槽2から一度に大量に流出した酸発酵菌付着汚泥が、UASB4に流入することで、UASB4の処理性能の低下を招く恐れがあるため、酸発酵槽2の酸発酵菌付着汚泥を適宜引き抜く必要がある。この酸発酵菌付着汚泥は有機汚泥であるため、活性汚泥処理設備の余剰汚泥などと共に汚泥処理することが可能である。増殖した酸発酵菌付着汚泥を適宜引き抜くため、新たに酸発酵菌付着担体としてグラニュール汚泥を供給する必要がある。このグラニュール汚泥としてUASB内で増殖したグラニュール汚泥を用いることができる。UASB内のグラニュール汚泥をそのまま酸発酵槽内へ移送しても良いし(返送汚泥8)、UASB4で増殖した余剰グラニュールを別途保管しておき、この余剰グラニュール汚泥を酸発酵槽内へ移送しても良い。
【0019】
また、UASB処理水5を酸発酵槽2へ循環する場合には、UASB処理水5中に含まれるUASB4からの流出グラニュール汚泥が酸発酵槽2へ供給され、このグラニュール汚泥が新たな酸発酵菌付着担体となる。UASB処理水循環水から酸発酵槽2に供給されるグラニュール汚泥量は、UASB処理水中のグラニュール汚泥濃度とUASB処理水循環水量により決まる。酸発酵槽2への1日当たりの流入グラニュール量を酸発酵槽内汚泥量の0.01%以上とすることで、別途、新規担体としてグラニュール汚泥を供給せずに運転が可能である。また、酸発酵槽2への1日当たりの流入グラニュール量を酸発酵槽内汚泥量が多くなると酸発酵処理に影響はないが、酸発酵槽2からの余剰酸発酵菌付着汚泥の引き抜き頻度が増える。
【0020】
酸発酵槽2の発生ガス量は、UASB槽4の発生ガス量に比べ、1/20〜1/5と少ないため、UASB4を流出し、酸発酵槽2へ流入するグラニュール汚泥は、酸発酵槽内に留まりやすく、酸発酵菌付着担体として機能できる。また、酸発酵槽2での発生ガス量を抑えるためにも、酸発酵槽2のpHを6.5以下に設定し、酸発酵槽内でのメタン発酵を抑制することは効果的である。
【0021】
酸発酵槽2での過負荷による生物付着量の増大やpH制御の不具合等の理由により、担体であるグラニュール汚泥の粒状化凝集体の維持が困難となり、担体としての機能を失う場合がある。このような場合には、UASB内のグラニュール汚泥あるいはUASBで増殖した余剰グラニュール汚泥を新たに酸発酵菌付着担体として酸発酵槽内へ移送することで、速やかに酸発酵槽での処理性能を回復することが可能となる。
UASB処理水5を酸発酵槽2へ循環する場合、その循環先を酸発酵槽流入部あるいは酸発酵槽内部とする。酸発酵槽2ではアルカリ度を消費する酸発酵処理が進行し、またUASB4ではアルカリ度を生成するメタン発酵が進行するため、アルカリ度の高いメタン発酵処理水であるUASB処理水9を酸発酵槽2へ循環することにより、UASB4で生成したアルカリ度を有効に利用できる。UASB内のグラニュール汚泥を酸発酵槽2に返送する場合も、UASB4で生成したアルカリ度を酸発酵で利用する効果は得られる。
【0022】
酸発酵槽2として上向流嫌気性ろ床法や上向流嫌気性流動床法、上向流嫌気性汚泥床法を用いる場合、槽下部で有機物濃度が高いため、酸発酵の進行及びアルカリ度の消費の度合いが大きくなり、酸発酵槽内部でpH勾配やアルカリ度の勾配及びが形成され易く、アルカリ度の不足やpH調整の困難さ等の理由により、効率的な酸発酵が行われない場合がある。この傾向は上向流嫌気性ろ床法で顕著である。酸発酵槽2内部でのpH勾配やアルカリ度の勾配を解消する手段としては、アルカリ度の高いUASB処理水5の循環位置を酸発酵槽の高さが異なる位置に分注することが有効である。UASB処理水循環9の分注位置においてアルカリ度が供給されるため、酸発酵が促進される。UASB処理水5の分注比は、酸発酵槽2の有機物負荷や分注位置などを考慮して決定する。
【0023】
酸発酵槽2で安定した酸発酵処理を行うために、必要に応じてアルカリ剤7を添加する。アルカリ剤7としてはNaOH、Ca(OH)2、Mg(OH)2等があるが、pH制御の容易さ及び取り扱いの容易さを考慮して、NaOHを用いることが多い。酸発酵処理水のpHの値により、酸発酵槽流入部やUASB処理水循環配管へのアルカリ剤注入量を制御する。また、原水中の有機物濃度から必要アルカリ剤量を算出し、アルカリ剤注入量を制御することが可能である。
【0024】
この場合、UASB処理水循環水由来のアルカリ度+供給アルカリ剤由来のアルカリ度で供給されるアルカリ度が、原水(中和処理後)のTOC1kg当たりのM−アルカリ度として0.3〜1.5kg、好ましくは0.6〜1.0kgとなるようにアルカリ剤7を注入し、さらに、UASB処理水のアルカリ度、UASB処理水循環流量、原水TOCを連続的に測定することで、アルカリ剤注入量を制御することができる。原水中の有機物濃度によりアルカリ剤注入量を制御する場合でも、前述の酸発酵処理水pH値によるアルカリ剤注入量の注入制御を行うことが好ましい。アルカリ剤注入時には酸発酵槽内での局所的なpHの上昇による処理性能の低下を避けるために、アルカリ剤注入後の酸発酵槽流入箇所でのpHが9.5以下になるようにすることが好ましい。また、原水が高pHや低pHの廃水である場合は酸またはアルカリを注入し、事前に中和を行うことが好ましい。
【0025】
酸発酵槽2で発生するバイオガスと、UASB4で発生するバイオガスと共に捕集されてバイオガス6が得られるが、そのバイオガス6にはカロリーの高いメタン、水素が含まれているので、回収して有効利用を図ることが好ましく、また、可燃性ガスに対する保安面からも望ましい。酸発酵槽2での有機物負荷が低い場合には酸発酵槽内でメタン発酵が進行し、メタンガスの発生割合が高くなるが、この場合でも本発明の機能を損ねることはない。
【0026】
酸発酵槽2、UASB4とともに、発生バイオガスと処理水、グラニュール汚泥を分離回収する気液固分離装置(以下、「GSS」と記す)が槽上部に設置されている。このGSSを多段に配置することで、酸発酵菌付着汚泥及びグラニュール汚泥の保持性能、つまり、リアクター(酸発酵槽2及びUASB4をいう)内の菌体の保持量が高まり、酸発酵槽2及びUASB4の処理性能が高まる。GSS17を多段に配置した装置を図3に示す。GSS17を多段に配置することで発生するバイオガス6を槽内で回収できるため、槽単位断面積当たりの発生ガス量が少なくなり、特に処理水15を流出させる処理水配管に最も近い所ではリアクター14の単位断面積当たりのガス量が小さくなる。そのため、グラニュール汚泥の系外流出量を非常に少なくすることができる。
【0027】
槽内部の左右両側壁には、それぞれに一方の端部を固定し、他方の端部を反対側の側壁方向に向かって下降しながら延ばしている邪魔板16を設けてある。邪魔板16は、上下方向に3箇所左右交互に設けてある。装置本体側壁と邪魔板16のなす角度θを35度以下の鋭角とすることで、邪魔板上でのグラニュール汚泥の堆積による槽内のデッドスペースの形成を防ぐことが可能となり、より好ましい形態になる。なお、邪魔板16の占有面積が槽断面積の1/2以下であると、上昇する発生ガス6の捕捉が不十分となり、気液固分離に不具合が生じる。つまり、槽中心部より発生ガス6が上方へ抜けてしまいGSS部17で十分に発生ガス6を捕集できなくなる。各GSS部の気相部のガス圧は異なるので、その差圧は水封槽19で調整するとよい。原水送液側に近い順に水封圧は高く保つ必要がある。
【0028】
発泡性の原水の場合には、GSS内及び発生ガス回収配管が閉塞し、発生ガスの回収が困難となる。このような場合、リアクター流入水12に予め消泡剤13を加えることで、GSS17内での発泡を抑えることができる(図3)。この場合の消泡剤13の注入箇所は酸発酵槽2流入箇所のみでも良いし、酸発酵槽2流入箇所及びUASB流入箇所としても良い。リアクター流入水12に予め消泡剤13を加える方法は、GSS17内に消泡剤13を滴下、噴霧する方法に比べ、本手法は密閉空間での消泡に効果的である。消泡剤13は原水性状に応じた消泡効果を有し、発酵液の消泡に適した、中温(30〜35℃)あるいは高温(50〜55℃)において消泡効果をなくすことのない消泡剤を使用する。消泡剤13の種類としてはシリコーン系消泡剤、アルコール系消泡剤の何れも適用が可能である。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0030】
実施例1
図4〜図6に実験に用いた装置の概要を示す。図4に示すA系列は浮遊式の酸発酵槽2の後段でUASB処理を行う系列(従来法)である。図5に示すB系列は酸発酵槽2に生物付着担体としてグラニュール汚泥を投入し、上向流嫌気性汚泥床処理を行った後、UASB処理を行う系列(本発明に基づく案)である。図6に示すC系列はB系列の酸発酵槽容量を1/2とした系列(本発明に基づく案)である。
【0031】
A系列の酸発酵槽2の容量は1.5m3である。各系列のUASB4及びB系列の酸発酵槽2はGSS10を槽上部に備えた同一の構造であり、容量は1.5m3(0.5m×0.5m×6m)である。C系列の酸発酵槽2はGSSを槽上部に備えた構造であり、容量は0.74m3(0.35m×0.35m×6m)である。各系列ともに処理水の循環は行わず、一過性の処理とした。各槽の温度は35℃になるように制御した。原水にはタンパク質やマルチトールを含んだ食品製造廃水(CODcr10000mg/L)の中和処理水を使用した。原水には窒素、リン等を栄養剤として加えた。消泡剤は予め原水に加えた。酸発酵槽流出部でのpHが5.5〜6.5になるように酸発酵槽流入部にNaOHを注入した。
【0032】
処理成績を第1表に示す。各槽のCODcr負荷は原水の流量及びCODCr濃度を基に算出した(以下、同様)。各条件とも、1ヶ月間運転を行った。
B系列では、原水流量0.75〜1.5m3/d、UASBのCODcr負荷5〜10kg/m3/dでCODcr除去率90%の良好な処理であった。C系列では、原水流量0.75〜1.5m3/d、UASBのCODcr負荷5〜10kg/m3/dでCODCr除去率90%の良好な処理であった。一方、A系列では原水流量0.75m3/d、CODCr負荷5kg/m3/dでCODCr除去率80%、原水流量1.5m3/d、CODCr負荷10kg/m3/dでCODCr除去率70%の処理であった。
【0033】
【表1】
【0034】
従来法であるA系列に比べ、酸発酵槽に生物付着担体としてグラニュール汚泥を投入し、酸発酵菌の保持量を高めた本発明法であるB系列及びC系列では、高い有機物除去性能が得られた。また、酸発酵菌の保持量を高めた結果、従来の酸発酵槽容量を従来法の1/2とし、酸発酵槽のCODCr負荷を高めたC系列においても、高い有機物除去性能が得られた。
【0035】
実施例2
実験に用いた装置は、C系列と図7に示すD系列の装置である。C系列は実施例1のC系列と同様である。D系列は、酸発酵槽2の生物付着担体として平均粒径0.3mmの粒状活性炭を充填し、嫌気性流動床処理を行った後、UASB処理を行う系列である。両系列の酸発酵槽2及びUASB4はGSS17を槽上部に備えた構造であり、容量は酸発酵槽2が0.74m3(0.35m×0.35m×6m)、UASB2が1.5m3(0.5m×0.5m×6m)である。C系列では処理水5の循環を行わず一過性の処理とした。D系列では、酸発酵槽内部の担体の流動化を促すために、酸発酵処理水3を酸発酵槽流入部へ循環し、酸発酵槽2の通水速度が6m/hとなるように調整した。C系列のUASB4では処理水5の循環は行わなかった。
【0036】
両系列の酸発酵槽2では、酸発酵菌の増殖により生物付着担体が酸発酵槽容量の1/3以上になった段階で担体の引き抜きを行い、新規担体としてC系列ではUASB内のグラニュール汚泥を移送し、D系列では粒径0.3mmの粒状活性炭を供給した。1回当たりの担体引き抜き量は酸発酵槽容量の10%とし、1回当たりの担体補充量は酸発酵槽容量の5%とした。各槽の温度は35℃になるように制御した。酸発酵槽流出部でのpHが5.5〜6.5になるように酸発酵槽流入部にNaOHを注入した。原水1は実施例1と同様の廃水であり、栄養剤と消泡剤を添加した。
処理成績を第2表に示す。各条件とも、1ヶ月間運転を行った。
【0037】
【表2】
【0038】
C系列では、原水流量1.5m3/d、UASB2のCODcr負荷10kg/m3/dでCODcr除去率90%であり、また原水流量2.25m3/d、UASB2のCODcr負荷15kg/m3/dでCODcr除去率83%の処理であった。D系列では原水流量1.5m3/d、UASB2のCODcr負荷10kg/m3/dでCODcr除去率88%であり、原水流量2.25m3/d、UASB2のCODcr負荷15kg/m3/dでCODcr除去率70%の処理であった。
UASB4のCODcr負荷10kg/m3/dではC系列、D系列ともにCODcr除去率88〜90%の良好な処理であったが、UASB4のCODcr負荷15kg/m3/dではD系列のCODcr除去率は70%に低下した。酸発酵槽2の酸発酵菌保持量の多いC系列では、高負荷処理が達成できた。
【0039】
酸発酵槽2の通水速度は、C系列で0.51〜0.77m/h、D系列では6m/hであり、酸発酵槽2の生物付着担体として平均粒径0.3mmの粒状活性炭を充填したD系列では、担体を流動させるエネルギーがより多く必要となる。
酸発酵槽2の生物付着担体の引き抜きはC系列では1回/月、D系列では1回/3ヶ月であった。酸発酵菌の保持量の多いC系列では、D系列に比べ、生物付着担体の引き抜き頻度が高くなったが、補充担体をUASB4の余剰グラニュールとしたため、補充担体のコストはかからなかった。C系列ではUASB4でのグラニュール汚泥増殖量>酸発酵槽へのグラニュール汚泥供給量であるため、UASB処理に影響を及ぼすことは無かった。
【0040】
実施例3
実験に用いた装置は、C系列と、図8に示すE系列と、図9に示すF系列の装置である。C系列は実施例1のC系列と同様である。E系列及びF系列の酸発酵槽2及びUASB4の装置仕様は実施例1のC系列と同様であり、酸発酵槽2の生物付着担体としてグラニュール汚泥を使用した。
各系列の酸発酵槽では、酸発酵菌の増殖により生物付着担体が酸発酵槽容量の1/3以上になった段階で担体の引き抜きを行った。1回当たりの担体引き抜き量は酸発酵槽容量の10%とした。C系列では新規担体としてUASB内のグラニュール汚泥を移送し、1回当たりの担体補充量を酸発酵槽の5%とした。E系列及びF系列ではUASB2からのグラニュール汚泥の移送は行わなかった。C系列及びF系列では処理水の循環を行わず一過性の処理とした。E系列では、UASB処理水を酸発酵槽流入部へ循環し、酸発酵槽2の通水速度が1m/hとなるように調整した。各槽の温度は35℃になるように制御した。酸発酵槽流出部でのpHが5.5〜6.5になるように酸発酵槽流入部にNaOHを注入した。原水は実施例1と同様の廃水であり、栄養剤と消泡剤を添加した。
処理成績を第3表に示す。各条件共に10ヶ月運転を行った。
【0041】
【表3】
【0042】
C系列では、原水流量2.25m3/d、UASBのCODcr負荷15kg/m3/dでCODcr除去率90%であった。E系列では原水流量2.25m3/d、UASB処理水循環流量0.69m3/d、UASBのCODcr負荷15kg/m3/dでCODcr除去率90%の処理であった。F系列では原水流量2.25m3/d、UASBのCODcr負荷15kg/m3/dでCODcr除去率70%の処理であった。
運転期間後半の3ヶ月では、酸発酵槽内の汚泥濃度はC系列が6〜7%、E系列が5〜6%、F系列は3〜4%であった。各系列の酸発酵菌付着汚泥の引き抜き頻度は1回/1〜2月であった。この期間での各系列の酸発酵槽4のCOD汚泥負荷はC系列:1.3〜1.5kg−COD/kg−SS/d、E系列:1.5〜1.8kg−COD/kg−SS/d、F系列:2.3〜3kg−COD/kg−SS/dであった。
【0043】
酸発酵菌付着汚泥の引き抜きを行った後、生物付着担体としてのグラニュール汚泥の新規投入が無かったF系列では、酸発酵槽内で酸発酵菌が増殖しても、汚泥濃度は3〜4%であり、C系列及びE系列の汚泥濃度よりも低く、酸発酵槽2でのCOD汚泥負荷が高くなったため、酸発酵の進行が不十分であり、CODCr除去率が低下した。
UASB4よりグラニュール汚泥を移送したC系列及びUASB4からの流出グラニュール汚泥がUASB処理水循環液とともに酸発酵槽2へ流入するE系列では、生物付着担体としてのグラニュール汚泥が供給されていたため、安定した処理が可能であった。
安定した処理を行うためには、UASB4から酸発酵槽2へのグラニュールの移送やUASB処理水循環による酸発酵槽2へのグラニュール汚泥の供給が有効であった。
【0044】
実施例4
実験に用いた装置は、図10に示すG系列の装置である。G系列は実施例3のE系列にNaOH7注入制御を行った系列である。G系列の原水1は実施例1の原水と同様であるが、CODcrが6000mg/L〜15000mg/Lで変動した。原水の流量は1.5m3/d、UASBのCODcr負荷は6〜15kg/m3/dであった。
NaOH7の注入量制御は以下の方法で行った。原水1の流量を流量計20で、原水1のTOC濃度をTOC計21で、UASB処理水のM−アルカリ度をアルカリ度計22で、UASB処理水循環流量を流量計20で連続的に測定し、NaOH注入量の制御を行った。UASB処理水循環水由来のM−アルカリ度+供給NaOH由来のM−アルカリ度で供給されるアルカリ度が、原水1のTOC1kg当たりのM−アルカリ度として0.8kgとなるようにアルカリ剤7を注入した。
【0045】
この結果、原水CODcrが6000mg/L〜15000mg/L、CODcr負荷が6〜15kg/m3/dで変動した場合でも、酸発酵槽流出水のpHは5.5〜6.5の範囲で維持され、CODcr除去率は約90%の安定した処理が継続できた。
UASB処理水のアルカリ度、UASB処理水循環流量、原水TOC、原水流量を連続的に測定し、NaOH注入量を制御することで流入有機物負荷変動による酸発酵槽2でのアルカリ度不足による処理性能の低下を回避することが可能であった.
【0046】
実施例5
実験に用いた装置はE系列の装置と、図11に示すH系列の装置である。E系列は実施例3のE系列と同様である。H系列は酸発酵槽2及びUASB4に邪魔板を3ヶ取り付け、装置側壁と邪魔板との角度を30度としたGSSを多段に配置した系列である。H系列の容量は酸発酵槽2が0.74m3(0.35m×0.35m×6m)、UASBが1.5m3(0.5m×0.5m×6m)である。H系列では、UASB処理水を酸発酵槽流入部へ循環し、酸発酵槽2の通水速度が3m/hとなるように調整した。各槽の温度は35℃になるように制御した。酸発酵槽流出部でのpHが5.5〜6.5になるように酸発酵槽流入部にNaOH7を注入した。原水は実施例1と同様の廃水であり、栄養剤と消泡剤を添加した。処理成績を第4表に示す。
【0047】
【表4】
【0048】
E系列では、原水流量2.7m3/d、UASBのCODCr負荷18kg/m3/dでCODcr除去率85%であった。H系列では原水流量4.5m3/d、UASB処理水循環流量4.5m3/d、UASBのCODCr負荷30kg/m3/dでCODcr除去率90%の処理であった。
H系列ではGSSを多段に配置したことで気液固分離性能が向上し、汚泥保持量が増加したことにより、高負荷処理が達成できた。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の有機性廃水又は有機性廃棄物の嫌気性処理方法とその装置は、高い負荷においても安定した処理を行うことができるので、廃水処理場で本発明のシステムが実用化される可能性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】嫌気性処理方法を実施するのに好ましい本発明の上向流嫌気性処理装置により構成される二相式処理方式での一形態の概要を例示した図である。
【図2】従来の嫌気性処理装置の概略図である。
【図3】本発明の気液固分離装置(GSS)が槽上部に設置された酸発酵槽及びUASB槽の概略図である。
【図4】実施例1で用いた従来法のA系列の処理装置の概要を示す。
【図5】本発明の嫌気性処理に用いたB系列の処理装置の概要を示す。
【図6】本発明の嫌気性処理に用いたC系列の処理装置の概要を示す。
【図7】本発明の嫌気性処理に用いたD系列の処理装置の概要を示す。
【図8】本発明の嫌気性処理に用いたE系列の処理装置の概要を示す。
【図9】本発明の嫌気性処理に用いたF系列の処理装置の概要を示す。
【図10】本発明の嫌気性処理に用いたG系列の処理装置の概要を示す。
【図11】本発明の嫌気性処理に用いたH系列の処理装置の概要を示す。
【符号の説明】
【0051】
1 原水
2 酸発酵槽
3 酸発酵処理水
4 メタン発酵槽(UASB)
5 メタン発酵処理水(UASB処理水)
6 バイオガス(メタンガス)
7 アルカリ剤(NaOH)
8 返送汚泥
9 UASB処理水循環
10 酸醗酵処理水(内部循環)
11 UASB処理水(内部循環)
12 流入水
13 泡消剤
14 リアクター
15 処理水
16 邪魔板
17 GSS
18 発生ガス
19 水封槽
20 流量計
21 TOC計
22 アルカリ度計
A 導入配管
B 導入配管
C 流出配管
D 返送配管
E 循環配管
F 循環配管
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種工場等より排出される有機性の廃水又は有機性の廃棄物等を対象とし、これを無害化する嫌気性汚泥床処理方法及び装置に関し、更に詳しくは酸発酵工程とメタン発酵工程からなる二相式嫌気性処理方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機性の廃水あるいは有機性の廃棄物等は、嫌気性処理によって分解処理されることがある。こうした分解処理方法として、例えば上向流嫌気性汚泥床法(以後、UASBとも記す)がある。これは近年普及してきた方法で、メタン菌等の嫌気性菌をグラニュール状に造粒化することにより、リアクター内のメタン菌の濃度を高濃度に維持できるという特徴があり、その結果、廃水中の有機物の濃度が相当高い場合でも効率よく処理できる。例えば、この方法を具体化した装置では、重クロム酸カリウムを酸化剤として測定したCODcr(以後CODと記す)の容積負荷が10〜15kg/m3/dの廃水、廃棄物でも効率よく運転できるという特徴がある。
【0003】
嫌気微生物による処理法は一般に酸発酵工程とメタン発酵工程に分けられる。メタン発酵では主に酢酸などの有機酸を基質として処理が行われるため、廃水中の有機物を有機酸に転換する酸発酵工程が重要となる。このときのメタン発酵工程には嫌気微生物を浮遊状態で保持する嫌気性消化法や嫌気微生物を固定床充填材の表面に生物膜として保持する嫌気性ろ床法、嫌気微生物を砂等の流動性担体表面に保持する嫌気性流動床法、前記UASB法が用いられることが多い。
【0004】
嫌気微生物を用いた処理装置の従来例を図2に示す。図2の(a)では原水1を直接メタン発酵処理している。このような処理方式は原水中の有機物が有機酸あるいは比較的低分子の有機物廃水である場合に適している。高分子の有機物を含む原水を図2の(a)の処理方式で処理する場合、高分子の有機物の酸発酵過程が律速条件となるためメタン発酵槽4で滞留時間を長くとるため、設備が過大となりとなり、効率の良い処理が行われない。高分子の有機物を含む原水を対象とする場合には、図2の(b)に示すようにメタン発酵槽4の前段に酸発酵槽2を設け、酸発酵槽2で高分子の有機物を有機酸あるいは比較的低分子な有機酸へ転換させる場合が多い。これによって、メタン発酵槽4の滞留時間が短くなり、図2の(a)に比べて効率の良い処理が実現できる。
比較的高分子の有機物としては、タンパク質や脂質等が例として挙げられる。また、マルチトールやキシリトール等の糖アルコール等の難発酵成分も高分子の有機物と同様に酸発酵過程が律速となる場合が多い。
【0005】
図2の(b)の処理方式の酸発酵は、酸発酵菌を浮遊状態で保持する浮遊式の処理装置であるため、微生物の高濃度化が難しく、大容量の設備となる場合がある。このような問題点を解決する試みとして、酸発酵槽2に微生物を固定化する充填材を酸発酵槽2に充填した嫌気性流動床型や嫌気性ろ床型の酸発酵槽2が提案されている。
例えば、「非特許文献1」では、同一形状の酸発酵槽2とメタン発酵槽4の二相式処理方式により、両槽ともに担体として0.1〜0.3mmの砂を使用し、線流速(以下、通水速度とも記す)8〜20m/hで運転している嫌気性流動床の例が紹介されている。「特許文献1」は、酸発酵槽内に酸発酵菌が付着する担体を充填した嫌気性ろ床であり、微生物の増殖により、充填層が閉塞しやすいという問題点をメタンガスで適宜曝気洗浄することで閉塞の不具合を起こさない処理方法である。また、「特許文献2」は、槽中央部に無機担体を充填した固定床を設け、槽下部を酸発酵部、槽上部をメタン発酵部とし、槽中央部の固定床を定期的に洗浄する処理方式である。
【特許文献1】特開平5−123693号公報
【特許文献2】特開平5−169086号公報
【非特許文献1】J.J.Heijnenら,‘ANAEROBIC TREATMENT A GROWN−UP TECHNOLOGY AQUATECH’86,p.159−173(1986)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、酸発酵菌を固定化した酸発酵槽を用いた二相式処理方式には以下に示すような問題点がある。
(イ)嫌気性流動床型酸発酵槽では担体の流動化に多大なエネルギーを要する。
(ロ)嫌気性流動床型酸発酵槽では担体に過剰に生物が付着した場合、酸発酵槽内の生物付着担体を引き抜き、付着生物と担体を分離した後、担体を酸発酵槽内へ戻す付着生物剥離設備が必要となる。あるいは、酸発酵槽内の生物付着担体を引き抜き、これを処分し、新たに担体を供給する必要がある。
【0007】
(ハ)嫌気性固定床型酸発酵では洗浄を行うことで、固定床の閉塞を回避できるが、常時、流入廃水と生物との接触を良好に保つことが難しく、また、短絡流が生じる可能性もある。
(ニ)嫌気性流動床型酸発酵槽及び嫌気性固定床型酸発酵槽では浮遊式の酸発酵槽と異なり、pHの調整が難しく、pH調整の不具合により効率的な処理が行えない場合がある。
こうしたことから、本発明は、酸発酵菌を固定化した酸発酵槽を用い効率的な酸発酵が行える嫌気性処理方法とその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、下記の手段により前記の課題を解決した。
(1)有機性廃水又は有機性廃棄物を酸発酵工程及びメタン発酵工程からなる二相式嫌気性処理する方法において、該酸発酵工程にグラニュール汚泥を用いた上向流嫌気性汚泥床処理法を用いることを特徴とする有機性廃水又は有機性廃棄物の嫌気性処理方法。
(2)前記メタン発酵工程がグラニュール汚泥を用いた上向流嫌気性汚泥床処理法を用いることを特徴とする前記(1)に記載の有機性廃水又は有機性廃棄物の嫌気性処理方法。
(3)前記酸発酵工程のpHが5〜6.5、前記メタン発酵工程のpHが6.5〜8.5であることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の有機性廃水又は有機性廃棄物の嫌気性処理方法。
【0009】
(4)前記メタン発酵工程の流出水又はメタン発酵工程の槽内液を前記酸発酵工程を構成する上向流嫌気性汚泥床装置内の二箇所以上に分配し、供給することを特徴とする前記(1)乃至(3)のいずれか1項に記載の有機性廃水又は有機性廃棄物の嫌気性処理方法。
(5)酸発酵工程を構成する上向流嫌気性汚泥床装置内へメタン発酵工程を構成する上向流嫌気性汚泥床装置内のグラニュール汚泥を供給することを特徴とする前記(1)乃至(4)のいずれか1項に記載の有機性廃水又は有機性廃棄物の嫌気性処理方法。
(6)酸発酵工程流入水の有機物濃度、pH、アルカリ度、酸発酵工程の流出水又は酸発酵工程の槽内液のpH、アルカリ度、メタン発酵工程流出水のアルカリ度のうち、一つ以上の項目を基に、原水及び/又は酸発酵工程でのアルカリ剤供給量を制御することを特徴とする前記(1)乃至(5)のいずれか1項に記載の有機性廃水又は有機性廃棄物の嫌気性処理方法。
【0010】
(7)酸発酵槽及びメタン発酵槽により有機性廃水又は有機性廃棄物を処理する装置において、該酸発酵槽がグラニュール汚泥を用いた上向流嫌気性汚泥床を有する酸発酵槽であることを特徴とする有機性廃水又は有機性廃棄物の処理装置。
(8)前記メタン発酵槽がグラニュール汚泥を用いた上向流嫌気性汚泥床処理装置を用いることを特徴とする前記(7)に記載の有機性廃水又は有機性廃棄物の嫌気性処理装置。
(9)前記メタン発酵槽内の槽内液又は前記メタン発酵槽の処理水を前記酸発酵槽へ返送する返送配管を設けたことを特徴とする前記(7)又は(8)に記載の有機性廃水又は有機性廃棄物の処理装置。
【0011】
(10)前記返送配管が2箇所以上で分岐していることを特徴とする前記(7)乃至(9)のいずれか1項に記載の有機性廃水又は有機性廃棄物の処理装置。
(11)前記酸醗酵槽からメタン醗酵槽への導入配管内の酸醗酵処理液又は前記酸発酵槽内の酸発酵液を前記酸発酵槽の下方に返送する返送管と、前記メタン醗酵槽からのメタン醗酵処理水を送る配管内又は前記メタン発酵槽内の槽内液又はメタン醗酵処理水を前記メタン発酵槽の下方に返送する配管とを設けたことを特徴とする前記(7)乃至(10)のいずれか1項に記載の有機性廃水又は有機性廃棄物の処理装置。
(12)前記酸発酵槽及び/又は前記メタン発酵槽は、装置本体側壁と邪魔板により形成されるガス・液・固分離部を多段に有する上向流嫌気性汚泥床処理装置を用いることを特徴とする前記(7)乃至(11)のいずれか1項に記載の有機性廃水又は有機性廃棄物の処理装置。
【0012】
本発明の骨子は、有機性廃水又は有機性廃棄物、特に、比較的高分子の有機物や難発酵成分を含み、酸発酵過程が律速となる有機性廃水又は有機性廃棄物を対象として酸発酵処理を行う酸発酵工程において、微生物付着担体として酸発酵菌の固定化能力に優れたグラニュール汚泥を用いた上向流嫌気性汚泥床処理法を適用することにある。酸発酵菌の固定化担体として酸発酵菌の固定能力に優れたグラニュール汚泥を用いることで、酸発酵槽内の酸発酵菌の保持量が増え、さらに、砂等の担体よりも比重の小さいグラニュール汚泥により構成される汚泥層の流動が良好な状態、即ち、汚泥と基質の良好な接触を妨げず、汚泥層全体を処理に対して有効に使うことで、高い負荷においても安定した処理を行うことにある。また、メタン発酵工程においてもグラニュール汚泥を保持した上向流嫌気性汚泥床処理法を適用する場合には、酸発酵槽とメタン発酵槽内の汚泥はともにグラニュール汚泥であるため、メタン発酵槽内のグラニュール汚泥を酸発酵槽に新規担体として供給することが容易となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、有機性廃水又は有機性廃棄物、特に、比較的高分子の有機物や難発酵成分を含み、酸発酵過程が律速となる有機性廃水又は有機性廃棄物を対象として酸発酵処理を行う酸発酵工程の微生物付着担体として酸発酵菌の固定能力に優れたグラニュール汚泥を用いることで、酸発酵槽内の酸発酵菌の保持量が増え、さらに、砂等の担体よりも比重の小さいグラニュール汚泥により構成される汚泥層の流動が良好な状態、即ち、汚泥と基質の良好な接触を妨げず、汚泥層全体を処理に対して有効に使うことで、高い負荷においても安定した処理を行うことができる。また、メタン発酵工程においてもグラニュール汚泥を保持した上向流嫌気性汚泥床処理法を適用する場合には、酸発酵槽とメタン発酵槽内の汚泥はともにグラニュール汚泥であるため、メタン発酵槽内のグラニュール汚泥を酸発酵槽に新規担体として供給することが容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明を実施するための最良の形態を説明するが、本発明はこれに限定されない。図1は、嫌気性処理方法を実施するのに好ましい本発明の上向流嫌気性処理装置により構成される二相式処理方式での一形態の概要を例示した図である。
酸発酵槽2及びUASB4(メタン発酵槽)は、嫌気性菌からなるグラニュール汚泥を投入して使用する。本発明の対象となる嫌気性処理は、30℃〜35℃を至適温度とした中温メタン発酵処理、50℃〜55℃を至適温度とした高温メタン発酵処理など全ての温度範囲の嫌気性処理を対象とする。嫌気性菌からなるグラニュール汚泥を投入し、有機性廃水などを含んだ原水1を酸発酵槽2へ上向流で導入し、酸発酵槽2からの酸発酵処理水3をUASB4へ上向流で導入する。
【0015】
酸発酵槽2からUASB4への送水は、ポンプ圧送による送水でも良いし、酸発酵槽2の水位をUASB4の水位よりも高くすることによる水頭差による送水でも良い。原水1をUASB4から出るUASB処理水5の循環液9や系外から供給する希釈水等により必要に応じて適宜希釈を行う、あるいは、酸発酵槽2では酸発酵処理水3の循環を、UASB4ではUASB処理水5の循環を行うことで、酸発酵槽2及びUASB4内部での通水速度が0.1〜2m/hとなるように調節する。後述の気液固分離装置を多段に配置したリアクター14ではリアクター内の通水速度を0.1〜10m/hとなるように調節する。酸発酵槽2では酸発酵処理水3の循環を、UASB4ではUASB処理水5の循環を行うことで酸発酵槽2及びUASB4において、各々適切な通水速度に調節することが可能となる。
【0016】
酸発酵槽2、UASB4は各々1槽でもよいし、各々複数槽から構成されても良い。酸発酵槽2を複数槽とする場合には、前段の酸発酵槽で比較的酸発酵及び低分子化が容易な成分の反応が進行し、後段の酸発酵槽で、比較的酸発酵しにくい成分の酸発酵が進行する。この場合、前段の酸発酵槽と後段の酸発酵槽ではそれぞれの処理に適した菌相が形成される。
酸発酵菌を含む嫌気性菌から形成されるグラニュール汚泥は、その表面に酸発酵菌を固定化するのに適した生物担体であり、固定化された酸発酵菌の付着力は砂や活性炭等の担体への酸発酵菌の付着力よりも強く、安定している。また、グラニュール汚泥中にも酸発酵菌が含まれているため、嫌気性流動床や嫌気性固定床に比べ、酸発酵菌の菌体保持量が増加する。
グラニュール汚泥の比重は1.05程度であり、砂や活性炭等の担体の比重に比べて小さいため、少ないエネルギーで良好な流動状態が得やすい。
【0017】
酸発酵及びメタン発酵の至適pHの観点から、酸発酵槽内のpHが5〜8、UASB槽内のpHを6.5〜8.5に設定されることが多い。酸発酵槽内でもメタン発酵が、メタン発酵槽であるUASB槽内でも酸発酵が起こるが、酸発酵槽2及びUASB槽4の機能がより効果的に発揮できるように、酸発酵槽4のpHを5.5〜6.5に設定する。つまり、比較的高分子の有機物や難発酵成分を含み、酸発酵過程が律速となる有機性廃水又は有機性廃棄物を対象として酸発酵処理を行う酸発酵工程ではメタン発酵が起こりにくいpH6.5以下とし、酸発酵処理を積極的に進行させることで、UASB内で良好なメタン発酵処理が行え、効率的な嫌気性処理が達成できることになる。UASB4ではメタン発酵の進行によりアルカリ度を生成し、pHが上昇するため、酸発酵槽2のpHを5.5〜6.5に設定することで、UASB槽内のpHは6.5〜8.5に保たれる。
【0018】
酸発酵槽内で増殖した酸発酵菌を表面に付着したグラニュール汚泥(以下、酸発酵菌付着汚泥と称す)を適宜引き抜き、処理処分を行う。酸発酵菌付着汚泥を酸発酵槽2に多量に保有していると、酸発酵槽2から一度に大量に流出した酸発酵菌付着汚泥が、UASB4に流入することで、UASB4の処理性能の低下を招く恐れがあるため、酸発酵槽2の酸発酵菌付着汚泥を適宜引き抜く必要がある。この酸発酵菌付着汚泥は有機汚泥であるため、活性汚泥処理設備の余剰汚泥などと共に汚泥処理することが可能である。増殖した酸発酵菌付着汚泥を適宜引き抜くため、新たに酸発酵菌付着担体としてグラニュール汚泥を供給する必要がある。このグラニュール汚泥としてUASB内で増殖したグラニュール汚泥を用いることができる。UASB内のグラニュール汚泥をそのまま酸発酵槽内へ移送しても良いし(返送汚泥8)、UASB4で増殖した余剰グラニュールを別途保管しておき、この余剰グラニュール汚泥を酸発酵槽内へ移送しても良い。
【0019】
また、UASB処理水5を酸発酵槽2へ循環する場合には、UASB処理水5中に含まれるUASB4からの流出グラニュール汚泥が酸発酵槽2へ供給され、このグラニュール汚泥が新たな酸発酵菌付着担体となる。UASB処理水循環水から酸発酵槽2に供給されるグラニュール汚泥量は、UASB処理水中のグラニュール汚泥濃度とUASB処理水循環水量により決まる。酸発酵槽2への1日当たりの流入グラニュール量を酸発酵槽内汚泥量の0.01%以上とすることで、別途、新規担体としてグラニュール汚泥を供給せずに運転が可能である。また、酸発酵槽2への1日当たりの流入グラニュール量を酸発酵槽内汚泥量が多くなると酸発酵処理に影響はないが、酸発酵槽2からの余剰酸発酵菌付着汚泥の引き抜き頻度が増える。
【0020】
酸発酵槽2の発生ガス量は、UASB槽4の発生ガス量に比べ、1/20〜1/5と少ないため、UASB4を流出し、酸発酵槽2へ流入するグラニュール汚泥は、酸発酵槽内に留まりやすく、酸発酵菌付着担体として機能できる。また、酸発酵槽2での発生ガス量を抑えるためにも、酸発酵槽2のpHを6.5以下に設定し、酸発酵槽内でのメタン発酵を抑制することは効果的である。
【0021】
酸発酵槽2での過負荷による生物付着量の増大やpH制御の不具合等の理由により、担体であるグラニュール汚泥の粒状化凝集体の維持が困難となり、担体としての機能を失う場合がある。このような場合には、UASB内のグラニュール汚泥あるいはUASBで増殖した余剰グラニュール汚泥を新たに酸発酵菌付着担体として酸発酵槽内へ移送することで、速やかに酸発酵槽での処理性能を回復することが可能となる。
UASB処理水5を酸発酵槽2へ循環する場合、その循環先を酸発酵槽流入部あるいは酸発酵槽内部とする。酸発酵槽2ではアルカリ度を消費する酸発酵処理が進行し、またUASB4ではアルカリ度を生成するメタン発酵が進行するため、アルカリ度の高いメタン発酵処理水であるUASB処理水9を酸発酵槽2へ循環することにより、UASB4で生成したアルカリ度を有効に利用できる。UASB内のグラニュール汚泥を酸発酵槽2に返送する場合も、UASB4で生成したアルカリ度を酸発酵で利用する効果は得られる。
【0022】
酸発酵槽2として上向流嫌気性ろ床法や上向流嫌気性流動床法、上向流嫌気性汚泥床法を用いる場合、槽下部で有機物濃度が高いため、酸発酵の進行及びアルカリ度の消費の度合いが大きくなり、酸発酵槽内部でpH勾配やアルカリ度の勾配及びが形成され易く、アルカリ度の不足やpH調整の困難さ等の理由により、効率的な酸発酵が行われない場合がある。この傾向は上向流嫌気性ろ床法で顕著である。酸発酵槽2内部でのpH勾配やアルカリ度の勾配を解消する手段としては、アルカリ度の高いUASB処理水5の循環位置を酸発酵槽の高さが異なる位置に分注することが有効である。UASB処理水循環9の分注位置においてアルカリ度が供給されるため、酸発酵が促進される。UASB処理水5の分注比は、酸発酵槽2の有機物負荷や分注位置などを考慮して決定する。
【0023】
酸発酵槽2で安定した酸発酵処理を行うために、必要に応じてアルカリ剤7を添加する。アルカリ剤7としてはNaOH、Ca(OH)2、Mg(OH)2等があるが、pH制御の容易さ及び取り扱いの容易さを考慮して、NaOHを用いることが多い。酸発酵処理水のpHの値により、酸発酵槽流入部やUASB処理水循環配管へのアルカリ剤注入量を制御する。また、原水中の有機物濃度から必要アルカリ剤量を算出し、アルカリ剤注入量を制御することが可能である。
【0024】
この場合、UASB処理水循環水由来のアルカリ度+供給アルカリ剤由来のアルカリ度で供給されるアルカリ度が、原水(中和処理後)のTOC1kg当たりのM−アルカリ度として0.3〜1.5kg、好ましくは0.6〜1.0kgとなるようにアルカリ剤7を注入し、さらに、UASB処理水のアルカリ度、UASB処理水循環流量、原水TOCを連続的に測定することで、アルカリ剤注入量を制御することができる。原水中の有機物濃度によりアルカリ剤注入量を制御する場合でも、前述の酸発酵処理水pH値によるアルカリ剤注入量の注入制御を行うことが好ましい。アルカリ剤注入時には酸発酵槽内での局所的なpHの上昇による処理性能の低下を避けるために、アルカリ剤注入後の酸発酵槽流入箇所でのpHが9.5以下になるようにすることが好ましい。また、原水が高pHや低pHの廃水である場合は酸またはアルカリを注入し、事前に中和を行うことが好ましい。
【0025】
酸発酵槽2で発生するバイオガスと、UASB4で発生するバイオガスと共に捕集されてバイオガス6が得られるが、そのバイオガス6にはカロリーの高いメタン、水素が含まれているので、回収して有効利用を図ることが好ましく、また、可燃性ガスに対する保安面からも望ましい。酸発酵槽2での有機物負荷が低い場合には酸発酵槽内でメタン発酵が進行し、メタンガスの発生割合が高くなるが、この場合でも本発明の機能を損ねることはない。
【0026】
酸発酵槽2、UASB4とともに、発生バイオガスと処理水、グラニュール汚泥を分離回収する気液固分離装置(以下、「GSS」と記す)が槽上部に設置されている。このGSSを多段に配置することで、酸発酵菌付着汚泥及びグラニュール汚泥の保持性能、つまり、リアクター(酸発酵槽2及びUASB4をいう)内の菌体の保持量が高まり、酸発酵槽2及びUASB4の処理性能が高まる。GSS17を多段に配置した装置を図3に示す。GSS17を多段に配置することで発生するバイオガス6を槽内で回収できるため、槽単位断面積当たりの発生ガス量が少なくなり、特に処理水15を流出させる処理水配管に最も近い所ではリアクター14の単位断面積当たりのガス量が小さくなる。そのため、グラニュール汚泥の系外流出量を非常に少なくすることができる。
【0027】
槽内部の左右両側壁には、それぞれに一方の端部を固定し、他方の端部を反対側の側壁方向に向かって下降しながら延ばしている邪魔板16を設けてある。邪魔板16は、上下方向に3箇所左右交互に設けてある。装置本体側壁と邪魔板16のなす角度θを35度以下の鋭角とすることで、邪魔板上でのグラニュール汚泥の堆積による槽内のデッドスペースの形成を防ぐことが可能となり、より好ましい形態になる。なお、邪魔板16の占有面積が槽断面積の1/2以下であると、上昇する発生ガス6の捕捉が不十分となり、気液固分離に不具合が生じる。つまり、槽中心部より発生ガス6が上方へ抜けてしまいGSS部17で十分に発生ガス6を捕集できなくなる。各GSS部の気相部のガス圧は異なるので、その差圧は水封槽19で調整するとよい。原水送液側に近い順に水封圧は高く保つ必要がある。
【0028】
発泡性の原水の場合には、GSS内及び発生ガス回収配管が閉塞し、発生ガスの回収が困難となる。このような場合、リアクター流入水12に予め消泡剤13を加えることで、GSS17内での発泡を抑えることができる(図3)。この場合の消泡剤13の注入箇所は酸発酵槽2流入箇所のみでも良いし、酸発酵槽2流入箇所及びUASB流入箇所としても良い。リアクター流入水12に予め消泡剤13を加える方法は、GSS17内に消泡剤13を滴下、噴霧する方法に比べ、本手法は密閉空間での消泡に効果的である。消泡剤13は原水性状に応じた消泡効果を有し、発酵液の消泡に適した、中温(30〜35℃)あるいは高温(50〜55℃)において消泡効果をなくすことのない消泡剤を使用する。消泡剤13の種類としてはシリコーン系消泡剤、アルコール系消泡剤の何れも適用が可能である。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0030】
実施例1
図4〜図6に実験に用いた装置の概要を示す。図4に示すA系列は浮遊式の酸発酵槽2の後段でUASB処理を行う系列(従来法)である。図5に示すB系列は酸発酵槽2に生物付着担体としてグラニュール汚泥を投入し、上向流嫌気性汚泥床処理を行った後、UASB処理を行う系列(本発明に基づく案)である。図6に示すC系列はB系列の酸発酵槽容量を1/2とした系列(本発明に基づく案)である。
【0031】
A系列の酸発酵槽2の容量は1.5m3である。各系列のUASB4及びB系列の酸発酵槽2はGSS10を槽上部に備えた同一の構造であり、容量は1.5m3(0.5m×0.5m×6m)である。C系列の酸発酵槽2はGSSを槽上部に備えた構造であり、容量は0.74m3(0.35m×0.35m×6m)である。各系列ともに処理水の循環は行わず、一過性の処理とした。各槽の温度は35℃になるように制御した。原水にはタンパク質やマルチトールを含んだ食品製造廃水(CODcr10000mg/L)の中和処理水を使用した。原水には窒素、リン等を栄養剤として加えた。消泡剤は予め原水に加えた。酸発酵槽流出部でのpHが5.5〜6.5になるように酸発酵槽流入部にNaOHを注入した。
【0032】
処理成績を第1表に示す。各槽のCODcr負荷は原水の流量及びCODCr濃度を基に算出した(以下、同様)。各条件とも、1ヶ月間運転を行った。
B系列では、原水流量0.75〜1.5m3/d、UASBのCODcr負荷5〜10kg/m3/dでCODcr除去率90%の良好な処理であった。C系列では、原水流量0.75〜1.5m3/d、UASBのCODcr負荷5〜10kg/m3/dでCODCr除去率90%の良好な処理であった。一方、A系列では原水流量0.75m3/d、CODCr負荷5kg/m3/dでCODCr除去率80%、原水流量1.5m3/d、CODCr負荷10kg/m3/dでCODCr除去率70%の処理であった。
【0033】
【表1】
【0034】
従来法であるA系列に比べ、酸発酵槽に生物付着担体としてグラニュール汚泥を投入し、酸発酵菌の保持量を高めた本発明法であるB系列及びC系列では、高い有機物除去性能が得られた。また、酸発酵菌の保持量を高めた結果、従来の酸発酵槽容量を従来法の1/2とし、酸発酵槽のCODCr負荷を高めたC系列においても、高い有機物除去性能が得られた。
【0035】
実施例2
実験に用いた装置は、C系列と図7に示すD系列の装置である。C系列は実施例1のC系列と同様である。D系列は、酸発酵槽2の生物付着担体として平均粒径0.3mmの粒状活性炭を充填し、嫌気性流動床処理を行った後、UASB処理を行う系列である。両系列の酸発酵槽2及びUASB4はGSS17を槽上部に備えた構造であり、容量は酸発酵槽2が0.74m3(0.35m×0.35m×6m)、UASB2が1.5m3(0.5m×0.5m×6m)である。C系列では処理水5の循環を行わず一過性の処理とした。D系列では、酸発酵槽内部の担体の流動化を促すために、酸発酵処理水3を酸発酵槽流入部へ循環し、酸発酵槽2の通水速度が6m/hとなるように調整した。C系列のUASB4では処理水5の循環は行わなかった。
【0036】
両系列の酸発酵槽2では、酸発酵菌の増殖により生物付着担体が酸発酵槽容量の1/3以上になった段階で担体の引き抜きを行い、新規担体としてC系列ではUASB内のグラニュール汚泥を移送し、D系列では粒径0.3mmの粒状活性炭を供給した。1回当たりの担体引き抜き量は酸発酵槽容量の10%とし、1回当たりの担体補充量は酸発酵槽容量の5%とした。各槽の温度は35℃になるように制御した。酸発酵槽流出部でのpHが5.5〜6.5になるように酸発酵槽流入部にNaOHを注入した。原水1は実施例1と同様の廃水であり、栄養剤と消泡剤を添加した。
処理成績を第2表に示す。各条件とも、1ヶ月間運転を行った。
【0037】
【表2】
【0038】
C系列では、原水流量1.5m3/d、UASB2のCODcr負荷10kg/m3/dでCODcr除去率90%であり、また原水流量2.25m3/d、UASB2のCODcr負荷15kg/m3/dでCODcr除去率83%の処理であった。D系列では原水流量1.5m3/d、UASB2のCODcr負荷10kg/m3/dでCODcr除去率88%であり、原水流量2.25m3/d、UASB2のCODcr負荷15kg/m3/dでCODcr除去率70%の処理であった。
UASB4のCODcr負荷10kg/m3/dではC系列、D系列ともにCODcr除去率88〜90%の良好な処理であったが、UASB4のCODcr負荷15kg/m3/dではD系列のCODcr除去率は70%に低下した。酸発酵槽2の酸発酵菌保持量の多いC系列では、高負荷処理が達成できた。
【0039】
酸発酵槽2の通水速度は、C系列で0.51〜0.77m/h、D系列では6m/hであり、酸発酵槽2の生物付着担体として平均粒径0.3mmの粒状活性炭を充填したD系列では、担体を流動させるエネルギーがより多く必要となる。
酸発酵槽2の生物付着担体の引き抜きはC系列では1回/月、D系列では1回/3ヶ月であった。酸発酵菌の保持量の多いC系列では、D系列に比べ、生物付着担体の引き抜き頻度が高くなったが、補充担体をUASB4の余剰グラニュールとしたため、補充担体のコストはかからなかった。C系列ではUASB4でのグラニュール汚泥増殖量>酸発酵槽へのグラニュール汚泥供給量であるため、UASB処理に影響を及ぼすことは無かった。
【0040】
実施例3
実験に用いた装置は、C系列と、図8に示すE系列と、図9に示すF系列の装置である。C系列は実施例1のC系列と同様である。E系列及びF系列の酸発酵槽2及びUASB4の装置仕様は実施例1のC系列と同様であり、酸発酵槽2の生物付着担体としてグラニュール汚泥を使用した。
各系列の酸発酵槽では、酸発酵菌の増殖により生物付着担体が酸発酵槽容量の1/3以上になった段階で担体の引き抜きを行った。1回当たりの担体引き抜き量は酸発酵槽容量の10%とした。C系列では新規担体としてUASB内のグラニュール汚泥を移送し、1回当たりの担体補充量を酸発酵槽の5%とした。E系列及びF系列ではUASB2からのグラニュール汚泥の移送は行わなかった。C系列及びF系列では処理水の循環を行わず一過性の処理とした。E系列では、UASB処理水を酸発酵槽流入部へ循環し、酸発酵槽2の通水速度が1m/hとなるように調整した。各槽の温度は35℃になるように制御した。酸発酵槽流出部でのpHが5.5〜6.5になるように酸発酵槽流入部にNaOHを注入した。原水は実施例1と同様の廃水であり、栄養剤と消泡剤を添加した。
処理成績を第3表に示す。各条件共に10ヶ月運転を行った。
【0041】
【表3】
【0042】
C系列では、原水流量2.25m3/d、UASBのCODcr負荷15kg/m3/dでCODcr除去率90%であった。E系列では原水流量2.25m3/d、UASB処理水循環流量0.69m3/d、UASBのCODcr負荷15kg/m3/dでCODcr除去率90%の処理であった。F系列では原水流量2.25m3/d、UASBのCODcr負荷15kg/m3/dでCODcr除去率70%の処理であった。
運転期間後半の3ヶ月では、酸発酵槽内の汚泥濃度はC系列が6〜7%、E系列が5〜6%、F系列は3〜4%であった。各系列の酸発酵菌付着汚泥の引き抜き頻度は1回/1〜2月であった。この期間での各系列の酸発酵槽4のCOD汚泥負荷はC系列:1.3〜1.5kg−COD/kg−SS/d、E系列:1.5〜1.8kg−COD/kg−SS/d、F系列:2.3〜3kg−COD/kg−SS/dであった。
【0043】
酸発酵菌付着汚泥の引き抜きを行った後、生物付着担体としてのグラニュール汚泥の新規投入が無かったF系列では、酸発酵槽内で酸発酵菌が増殖しても、汚泥濃度は3〜4%であり、C系列及びE系列の汚泥濃度よりも低く、酸発酵槽2でのCOD汚泥負荷が高くなったため、酸発酵の進行が不十分であり、CODCr除去率が低下した。
UASB4よりグラニュール汚泥を移送したC系列及びUASB4からの流出グラニュール汚泥がUASB処理水循環液とともに酸発酵槽2へ流入するE系列では、生物付着担体としてのグラニュール汚泥が供給されていたため、安定した処理が可能であった。
安定した処理を行うためには、UASB4から酸発酵槽2へのグラニュールの移送やUASB処理水循環による酸発酵槽2へのグラニュール汚泥の供給が有効であった。
【0044】
実施例4
実験に用いた装置は、図10に示すG系列の装置である。G系列は実施例3のE系列にNaOH7注入制御を行った系列である。G系列の原水1は実施例1の原水と同様であるが、CODcrが6000mg/L〜15000mg/Lで変動した。原水の流量は1.5m3/d、UASBのCODcr負荷は6〜15kg/m3/dであった。
NaOH7の注入量制御は以下の方法で行った。原水1の流量を流量計20で、原水1のTOC濃度をTOC計21で、UASB処理水のM−アルカリ度をアルカリ度計22で、UASB処理水循環流量を流量計20で連続的に測定し、NaOH注入量の制御を行った。UASB処理水循環水由来のM−アルカリ度+供給NaOH由来のM−アルカリ度で供給されるアルカリ度が、原水1のTOC1kg当たりのM−アルカリ度として0.8kgとなるようにアルカリ剤7を注入した。
【0045】
この結果、原水CODcrが6000mg/L〜15000mg/L、CODcr負荷が6〜15kg/m3/dで変動した場合でも、酸発酵槽流出水のpHは5.5〜6.5の範囲で維持され、CODcr除去率は約90%の安定した処理が継続できた。
UASB処理水のアルカリ度、UASB処理水循環流量、原水TOC、原水流量を連続的に測定し、NaOH注入量を制御することで流入有機物負荷変動による酸発酵槽2でのアルカリ度不足による処理性能の低下を回避することが可能であった.
【0046】
実施例5
実験に用いた装置はE系列の装置と、図11に示すH系列の装置である。E系列は実施例3のE系列と同様である。H系列は酸発酵槽2及びUASB4に邪魔板を3ヶ取り付け、装置側壁と邪魔板との角度を30度としたGSSを多段に配置した系列である。H系列の容量は酸発酵槽2が0.74m3(0.35m×0.35m×6m)、UASBが1.5m3(0.5m×0.5m×6m)である。H系列では、UASB処理水を酸発酵槽流入部へ循環し、酸発酵槽2の通水速度が3m/hとなるように調整した。各槽の温度は35℃になるように制御した。酸発酵槽流出部でのpHが5.5〜6.5になるように酸発酵槽流入部にNaOH7を注入した。原水は実施例1と同様の廃水であり、栄養剤と消泡剤を添加した。処理成績を第4表に示す。
【0047】
【表4】
【0048】
E系列では、原水流量2.7m3/d、UASBのCODCr負荷18kg/m3/dでCODcr除去率85%であった。H系列では原水流量4.5m3/d、UASB処理水循環流量4.5m3/d、UASBのCODCr負荷30kg/m3/dでCODcr除去率90%の処理であった。
H系列ではGSSを多段に配置したことで気液固分離性能が向上し、汚泥保持量が増加したことにより、高負荷処理が達成できた。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の有機性廃水又は有機性廃棄物の嫌気性処理方法とその装置は、高い負荷においても安定した処理を行うことができるので、廃水処理場で本発明のシステムが実用化される可能性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】嫌気性処理方法を実施するのに好ましい本発明の上向流嫌気性処理装置により構成される二相式処理方式での一形態の概要を例示した図である。
【図2】従来の嫌気性処理装置の概略図である。
【図3】本発明の気液固分離装置(GSS)が槽上部に設置された酸発酵槽及びUASB槽の概略図である。
【図4】実施例1で用いた従来法のA系列の処理装置の概要を示す。
【図5】本発明の嫌気性処理に用いたB系列の処理装置の概要を示す。
【図6】本発明の嫌気性処理に用いたC系列の処理装置の概要を示す。
【図7】本発明の嫌気性処理に用いたD系列の処理装置の概要を示す。
【図8】本発明の嫌気性処理に用いたE系列の処理装置の概要を示す。
【図9】本発明の嫌気性処理に用いたF系列の処理装置の概要を示す。
【図10】本発明の嫌気性処理に用いたG系列の処理装置の概要を示す。
【図11】本発明の嫌気性処理に用いたH系列の処理装置の概要を示す。
【符号の説明】
【0051】
1 原水
2 酸発酵槽
3 酸発酵処理水
4 メタン発酵槽(UASB)
5 メタン発酵処理水(UASB処理水)
6 バイオガス(メタンガス)
7 アルカリ剤(NaOH)
8 返送汚泥
9 UASB処理水循環
10 酸醗酵処理水(内部循環)
11 UASB処理水(内部循環)
12 流入水
13 泡消剤
14 リアクター
15 処理水
16 邪魔板
17 GSS
18 発生ガス
19 水封槽
20 流量計
21 TOC計
22 アルカリ度計
A 導入配管
B 導入配管
C 流出配管
D 返送配管
E 循環配管
F 循環配管
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機性廃水又は有機性廃棄物を酸発酵工程及びメタン発酵工程からなる二相式嫌気性処理する方法において、該酸発酵工程にグラニュール汚泥を用いた上向流嫌気性汚泥床処理法を用いることを特徴とする有機性廃水又は有機性廃棄物の嫌気性処理方法。
【請求項2】
前記メタン発酵工程がグラニュール汚泥を用いた上向流嫌気性汚泥床処理法を用いることを特徴とする請求項1に記載の有機性廃水又は有機性廃棄物の嫌気性処理方法。
【請求項3】
前記酸発酵工程のpHが5〜6.5、前記メタン発酵工程のpHが6.5〜8.5であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の有機性廃水又は有機性廃棄物の嫌気性処理方法。
【請求項4】
前記メタン発酵工程の流出水又はメタン発酵工程の槽内液を前記酸発酵工程を構成する上向流嫌気性汚泥床装置内の二箇所以上に分配し、供給することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の有機性廃水又は有機性廃棄物の嫌気性処理方法。
【請求項5】
酸発酵工程を構成する上向流嫌気性汚泥床装置内へメタン発酵工程を構成する上向流嫌気性汚泥床装置内のグラニュール汚泥を供給することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の有機性廃水又は有機性廃棄物の嫌気性処理方法。
【請求項6】
酸発酵工程流入水の有機物濃度、pH、アルカリ度、酸発酵工程の流出水又は酸発酵工程の槽内液のpH、アルカリ度、メタン発酵工程流出水のアルカリ度のうち、一つ以上の項目を基に、原水及び/又は酸発酵工程でのアルカリ剤供給量を制御することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の有機性廃水又は有機性廃棄物の嫌気性処理方法。
【請求項7】
酸発酵槽及びメタン発酵槽により有機性廃水又は有機性廃棄物を処理する装置において、該酸発酵槽がグラニュール汚泥を用いた上向流嫌気性汚泥床を有する酸発酵槽であることを特徴とする有機性廃水又は有機性廃棄物の処理装置。
【請求項8】
前記メタン発酵槽がグラニュール汚泥を用いた上向流嫌気性汚泥床処理装置を用いることを特徴とする請求項7に記載の有機性廃水又は有機性廃棄物の嫌気性処理装置。
【請求項9】
前記メタン発酵槽内の槽内液又は前記メタン発酵槽の処理水を前記酸発酵槽へ返送する返送配管を設けたことを特徴とする請求項7又は請求項8に記載の有機性廃水又は有機性廃棄物の処理装置。
【請求項10】
前記返送配管が2箇所以上で分岐していることを特徴とする請求項7乃至9のいずれか1項に記載の有機性廃水又は有機性廃棄物の処理装置。
【請求項11】
前記酸醗酵槽からメタン醗酵槽への導入配管内の酸醗酵処理液又は前記酸発酵槽内の酸発酵液を前記酸発酵槽の下方に返送する返送管と、前記メタン醗酵槽からのメタン醗酵処理水を送る配管内又は前記メタン発酵槽内の槽内液又はメタン醗酵処理水を前記メタン発酵槽の下方に返送する配管とを設けたことを特徴とする請求項7乃至10のいずれか1項に記載の有機性廃水又は有機性廃棄物の処理装置。
【請求項12】
前記酸発酵槽及び/又は前記メタン発酵槽は、装置本体側壁と邪魔板により形成されるガス・液・固分離部を多段に有する上向流嫌気性汚泥床処理装置を用いることを特徴とする請求項7乃至11のいずれか1項に記載の有機性廃水又は有機性廃棄物の処理装置。
【請求項1】
有機性廃水又は有機性廃棄物を酸発酵工程及びメタン発酵工程からなる二相式嫌気性処理する方法において、該酸発酵工程にグラニュール汚泥を用いた上向流嫌気性汚泥床処理法を用いることを特徴とする有機性廃水又は有機性廃棄物の嫌気性処理方法。
【請求項2】
前記メタン発酵工程がグラニュール汚泥を用いた上向流嫌気性汚泥床処理法を用いることを特徴とする請求項1に記載の有機性廃水又は有機性廃棄物の嫌気性処理方法。
【請求項3】
前記酸発酵工程のpHが5〜6.5、前記メタン発酵工程のpHが6.5〜8.5であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の有機性廃水又は有機性廃棄物の嫌気性処理方法。
【請求項4】
前記メタン発酵工程の流出水又はメタン発酵工程の槽内液を前記酸発酵工程を構成する上向流嫌気性汚泥床装置内の二箇所以上に分配し、供給することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の有機性廃水又は有機性廃棄物の嫌気性処理方法。
【請求項5】
酸発酵工程を構成する上向流嫌気性汚泥床装置内へメタン発酵工程を構成する上向流嫌気性汚泥床装置内のグラニュール汚泥を供給することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の有機性廃水又は有機性廃棄物の嫌気性処理方法。
【請求項6】
酸発酵工程流入水の有機物濃度、pH、アルカリ度、酸発酵工程の流出水又は酸発酵工程の槽内液のpH、アルカリ度、メタン発酵工程流出水のアルカリ度のうち、一つ以上の項目を基に、原水及び/又は酸発酵工程でのアルカリ剤供給量を制御することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の有機性廃水又は有機性廃棄物の嫌気性処理方法。
【請求項7】
酸発酵槽及びメタン発酵槽により有機性廃水又は有機性廃棄物を処理する装置において、該酸発酵槽がグラニュール汚泥を用いた上向流嫌気性汚泥床を有する酸発酵槽であることを特徴とする有機性廃水又は有機性廃棄物の処理装置。
【請求項8】
前記メタン発酵槽がグラニュール汚泥を用いた上向流嫌気性汚泥床処理装置を用いることを特徴とする請求項7に記載の有機性廃水又は有機性廃棄物の嫌気性処理装置。
【請求項9】
前記メタン発酵槽内の槽内液又は前記メタン発酵槽の処理水を前記酸発酵槽へ返送する返送配管を設けたことを特徴とする請求項7又は請求項8に記載の有機性廃水又は有機性廃棄物の処理装置。
【請求項10】
前記返送配管が2箇所以上で分岐していることを特徴とする請求項7乃至9のいずれか1項に記載の有機性廃水又は有機性廃棄物の処理装置。
【請求項11】
前記酸醗酵槽からメタン醗酵槽への導入配管内の酸醗酵処理液又は前記酸発酵槽内の酸発酵液を前記酸発酵槽の下方に返送する返送管と、前記メタン醗酵槽からのメタン醗酵処理水を送る配管内又は前記メタン発酵槽内の槽内液又はメタン醗酵処理水を前記メタン発酵槽の下方に返送する配管とを設けたことを特徴とする請求項7乃至10のいずれか1項に記載の有機性廃水又は有機性廃棄物の処理装置。
【請求項12】
前記酸発酵槽及び/又は前記メタン発酵槽は、装置本体側壁と邪魔板により形成されるガス・液・固分離部を多段に有する上向流嫌気性汚泥床処理装置を用いることを特徴とする請求項7乃至11のいずれか1項に記載の有機性廃水又は有機性廃棄物の処理装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
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【図11】
【公開番号】特開2009−148705(P2009−148705A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−328785(P2007−328785)
【出願日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】
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