説明

嫌気性菌培養キット、嫌気性菌検査装置および嫌気性菌検査方法

【課題】嫌気性菌を容易かつ正確に検出することができる嫌気性菌培養キット、嫌気性菌検査装置および嫌気性菌検査方法を提供する。
【解決手段】透明袋12が、嫌気性菌検査用の試料を入れた培地を収納して密封可能である。培養ケース11が、透明袋12を収納する収納部24を有する。収納部24は、所定の間隔をあけて互いに対向するよう配置された1対の透明な側壁板22,23を有し、透明袋12を入れるための開口24aを有している。透明袋12に嫌気性菌検査用の試料を入れた培地を注入し、その透明袋12を培養ケース11の収納部24に収納した後、密封し、嫌気性菌を所定の培養温度で保つ。側壁板22,23、透明袋12および培地を透過する光を照射し、透過した光によるコロニーの投影像を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、嫌気性菌培養キット、嫌気性菌検査装置および嫌気性菌検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の嫌気性菌の検査では、試料を添加した寒天培地を、嫌気チャンバーや脱酸素剤とともに嫌気ジャーに入れて培養し、培養により分裂増殖した嫌気性菌を確認することにより、嫌気性菌が試料中に存在しているかどうかを判定している(例えば、特許文献1、2または3参照)。細菌の検出に関し、寒天培地を透過する光による投影像に基づいて、細菌を正確かつ迅速に検出することができる投影検出法が本発明者等により提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−274934号公報
【特許文献2】特開平7−155171号公報
【特許文献3】特許第3075569号公報
【特許文献4】特開2003−85533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1、2または3に記載の方法では、嫌気性菌を培養するための設備が大型となり、操作も煩雑であるという課題があった。また、嫌気性菌の成長検出を確認するたびに、各寒天培地を嫌気チャンバーや嫌気ジャーから取り出さなければならず、手間がかかり煩雑であるという課題もあった。
【0005】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、嫌気性菌を容易かつ正確に検出することができる嫌気性菌培養キット、嫌気性菌検査装置および嫌気性菌検査方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る嫌気性菌培養キットは、培地を収納して密封される透明袋と、前記透明袋の収納部を有する培養ケースとを有し、前記収納部は、前記透明袋を保持して収納するよう所定の間隔をあけて互いに対向する1対の透明な側壁板の間に形成され、前記透明袋を入れるための開口を有することを、特徴とする。
【0007】
本発明に係る嫌気性菌培養キットは、試料の中に嫌気性菌が存在するかどうかを調べるために使用される。透明袋を密封するときは、酸素および空気が入らないようにすることが好ましい。透明袋は、酸素および空気を通さない気密性の袋から成ることが好ましい。なお、側壁板および透明袋は、全体が透明のほか、一部のみが透明であってもよい。
【0008】
本発明に係る嫌気性菌培養キットは、培養ケースの収納部の各側壁板の間に、培地を入れた透明袋を配置することにより、培地を、各側壁板の所定の間隔と同じ厚みにすることができる。この状態で、培養ケースごとインキュベータなどの培養装置に入れることができる。透明な側壁板を通して培地を観察し、嫌気性菌が試料中に存在しているかどうかを容易かつ正確に確認することができる。
【0009】
培地を収納した透明袋は、各側壁板の間に保持して収納されるため、位置が固定され、経時的に培地の同じ位置を観察することができる。透明袋は、両側の側壁板に密着して保持されることが好ましい。透明袋は、側壁板に密着しやすい合成樹脂の袋から成ることが好ましい。一方の側壁板の側から光を当てることにより、側壁板および透明袋を透過した光による投影像に基づいて、嫌気性菌を正確かつ迅速に検出することができる。
【0010】
本発明に係る嫌気性菌培養キットによれば、嫌気チャンバーや嫌気ジャーなどの大型の設備が不要となり、簡単な構成で、嫌気性菌の培養および検出を容易に行うことができる。なお、培地には、透明袋に入れるときに流動性がある寒天培地が好ましい。また、培地には、嫌気性菌の培養に適した培地が好ましく、圧力検出を優先させるときは微生物の利用する糖分配合などを工夫してガスを発生し易くした培地が好ましい。各側壁板の所定の間隔は、各側壁板の間の培地を観察しやすい間隔が好ましく、例えば、シャーレの培地の厚みと同じ程度の間隔が好ましい。
【0011】
前記収納部は、例えば、各側壁板の間に、各側壁板に沿った方向の三方を塞ぐ壁材を有し、各側壁板に沿った方向の残りの一方が前記開口を成し、各側壁板に沿った方向の奥行きおよび幅よりも各側壁板の間隔を狭く形成した簡単な構成でよい。
【0012】
前記培養ケースは、前記収納部を複数有し、各収納部は各側壁板に沿った方向に並んで配置されていることが好ましい。この場合、複数の試料を同時に検査することができる。
本発明に係る嫌気性菌培養キットは、各側壁板を挟む位置に前記側壁板にかかる応力を光弾性効果により検出する1対の偏光板を有していてもよい。この場合、偏光板、側壁板、透明袋および培地を透過した光による投影像から、側壁板にかかる応力を光弾性効果により検出することによって、嫌気性菌を検出することができる。各偏光板は、各側壁板の外面に貼り付けられていてもよい。
【0013】
本発明に係る嫌気性菌検査装置は、本発明に係る嫌気性菌培養キットと、各側壁板に向けて光を透過させるよう設けられた光源と、前記光源からの前記側壁板、前記透明袋および前記培地を透過した光による投影像を取得可能に設けられた画像取得手段とを、有することを特徴とする。
【0014】
本発明に係る嫌気性菌検査装置は、光源により一方の側壁板に向けて光を照射すると、画像取得手段が側壁板、透明袋および培地を透過した光による投影像を取得する。これにより、培地のコロニーの投影像に基づいて、嫌気性菌を正確かつ迅速に検出することができる。
【0015】
本発明に係る嫌気性菌検査装置は、本発明に係る嫌気性菌培養キットと、各側壁板を挟む位置に設けられ、前記側壁板にかかる応力を光弾性効果により検出する1対の偏光板と、各偏光板および各側壁板に向けて光を透過させるよう設けられた光源と、前記光源からの前記偏光板、前記側壁板、前記透明袋および前記培地を透過した光による投影像を取得可能に設けられた画像取得手段とを、有するものであってもよい。
【0016】
この場合、1対の偏光板を透過した光による投影像を画像取得手段で取得することにより、側壁板にかかる応力を光弾性効果により検出することができる。培地の試料が嫌気性菌を含んでいると、培養された菌が増殖してガスを発生し、透明袋がそのガスで膨らんで各側壁板を外側に向かって押す。このときの側壁板にかかる応力を検出することにより、嫌気性菌の存在を検出することができる。このため、コロニーの検出が難しい場合にも、嫌気性菌の検出が容易である。
【0017】
本発明に係る嫌気性菌検査方法は、本発明に係る嫌気性菌培養キットの前記収納部に、嫌気性菌検査用の試料を入れた培地を収納し密封した前記透明袋を配置して嫌気性菌の所定の培養温度で保ち、前記側壁板、前記透明袋および前記培地を透過する光を照射し、透過した光によるコロニーの投影像を検出することを、特徴とする。
【0018】
本発明に係る嫌気性菌検査方法は、本発明に係る嫌気性菌培養キットを使用するため、嫌気チャンバーや嫌気ジャーなどの大型の設備が不要となり、簡単な構成で、嫌気性菌の培養および検出を容易に行うことができる。また、均一な厚みの培地を観察することができ、嫌気性菌を容易かつ正確に検出することができる。培地のコロニーの投影像に基づいて、嫌気性菌を正確かつ迅速に検出することができる。
【0019】
他の、本発明に係る嫌気性菌検査方法は、本発明に係る嫌気性菌培養キットの前記収納部に、嫌気性菌検査用の試料を入れた培地を収納し密封した前記透明袋を配置して嫌気性菌の所定の培養温度で保ち、各側壁板を挟む位置に1対の偏光板を設け、前記偏光板、前記側壁板、前記透明袋および前記培地を透過する光を照射し、透過した光による投影像から、前記側壁板にかかる応力を光弾性効果により検出することを、特徴とする。
【0020】
他の本発明に係る嫌気性菌検査方法では、培地の試料が嫌気性菌を含んでいると、培養された菌が増殖してガスを発生し、透明袋がそのガスで膨らんで各側壁板を外側に向かって押す。このときの側壁板にかかる応力を検出することにより、嫌気性菌の存在を検出することができる。このため、培地がくずれたりしてコロニーの検出が難しい場合にも、嫌気性菌の検出が容易である。なお、所定の培養温度としては、至適培養温度が好ましい。
【0021】
本発明に係る嫌気性菌検査方法では、透明袋に培地を入れ、透明袋を収納部に収納した後、透明袋を密封しても、透明袋に培地を入れ、透明袋を密封した後、透明袋を収納部に収納しても、いずれでもよい。また、透明袋を収納部に収納してから培地を注入しても、透明袋に培地を注入してから収納部に収納しても、いずれでもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、嫌気性菌を容易かつ正確に検出することができる嫌気性菌培養キット、嫌気性菌検査装置および嫌気性菌検査方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態の嫌気性菌培養キットの(a)培養ケースを示す平面図、(b)培養ケースを示す正面図、(c)透明袋を示す正面図である。
【図2】本発明の実施の形態の嫌気性菌検査装置を示す側面図である。
【図3】本発明の実施の形態の嫌気性菌検査装置の偏光板を有する変形例を示す側面図である。
【図4】図3に示す嫌気性菌検査装置による培養状態を示す(a)側面図、(b)平面図である。
【図5】本発明の実施の形態の嫌気性菌培養キット、嫌気性菌検査装置および嫌気性菌検査方法による、サーモアナエロバクター・サーモハイドロスルフリカス(Thermoanaerobacter thermohydrosulfuricus;ATCC35045)を含む培地の、60℃、24時間培養後の観察結果を示す顕微鏡写真である。
【図6】本発明の実施の形態の嫌気性菌培養キット、嫌気性菌検査装置および嫌気性菌検査方法による、サーモアナエロバクター・マスラニ(Thermoanaerobacter mathranii;DSM11426)を含む培地の、60℃、30時間培養後の観察結果を示す顕微鏡写真である。
【図7】本発明の実施の形態の嫌気性菌培養キット、嫌気性菌検査装置および嫌気性菌検査方法による、モーレラ・サーモアセティカ(Moorella thermoacetica)を含む培地の、55℃、72時間培養後の観察結果を示す顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面に基づき本発明の実施の形態について説明する。
図1乃至図7は、本発明の実施の形態の嫌気性菌培養キット、嫌気性菌検査装置および嫌気性菌検査方法を示している。
図1に示すように、嫌気性菌培養キット10は、培養ケース11と透明袋12とを有している。
【0025】
図1(a)および(b)に示すように、培養ケース11は、基板21と1対の側壁板22,23とを有している。基板21は、外形が矩形状の薄い不透明の板から成っている。基板21は、一方の側縁21aから他方の側縁21bに向かって矩形状に切り込んで形成された5つの凹部21cを有している。各凹部21cは、基板21の一方の側縁21aに沿って並んで形成されている。基板21は、各凹部21cの間に細長く残された4つの隔壁部21dを有している。また、基板21は、表面21eが平坦で、裏面21fが両端部21gより中央部21hが窪んだ形状を成している。基板21は、両端部21gが厚く、各凹部21cおよび各隔壁部21dを含む中央部21hが両端部21gよりも薄く形成されている。基板21は、中央部21hが、シャーレで培養する場合の培地の厚みと同じ程度の厚みを有している。
【0026】
各側壁板22,23は、透明な矩形状の板から成り、それぞれ基板21の裏面21fおよび表面21eに取り付けられている。基板21の裏面21fの側壁板22は、基板21の幅と同じ幅を有し、基板21の裏面21fの中央部21hと同じ長さを有している。また、側壁板22は、基板21の裏面21fの両端部21gと中央部21hとの厚みの差と同じ厚みを有している。側壁板22は、基板21の裏面21fの中央部21hに嵌め込んで固定されている。これにより、培養ケース11は、基板21の裏面21fの側が、基板21の両端部21gと側壁板22とにより、平坦になっている。
側壁板23は、基板21の裏面21fの側壁板22の幅および長さと同じ幅および長さを有し、側壁板22よりも薄く形成されている。側壁板23は、側壁板22と対応する位置で、側壁板22と平行になるよう基板21の表面21eに固定されている。
【0027】
培養ケース11は、基板21の各凹部21cと、透明な各側壁板22,23とで囲まれた5つの収納部24を有している。各側壁板22,23は、シャーレで培養する場合の培地の厚みと同じ程度の間隔をあけて、互いに対向するよう配置されている。各側壁板22,23の間の各隔壁部21d、基板21の両端部21gおよび基板21の他方の側縁21bは、各側壁板22,23に沿った方向の三方を塞ぐ壁材を成している。各収納部24は、各側壁板22,23に沿った方向の残りの一方、すなわち基板21の一方の側縁21aの側に開口24aを有している。各収納部24は、各側壁板22,23に沿った方向の奥行きおよび幅よりも各側壁板22,23の間隔が狭く形成されている。各収納部24は、各側壁板22,23および基板21の一方の側縁21aに沿った方向に並んで配置されている。
【0028】
図1(c)に示すように、透明袋12は、酸素および空気を通さない気密性の透明な合成樹脂の袋から成っている。透明袋12は、矩形状を成し、周囲の三辺が閉じられて、残りの一辺が開口12aを成している。透明袋12は、培養ケース11の収納部24の奥行きおよび幅と同じ長さおよび幅を有している。透明袋12には、開口12aから嫌気性菌を検査するための培地を収納可能である。また、透明袋12は、培養ケース11の収納部24の開口24aから収納部24の内部に収納可能になっている。
【0029】
嫌気性菌培養キット10は、試料の中に嫌気性菌が存在するかどうかを調べるため、本発明の実施の形態の嫌気性菌検査方法で好適に使用される。まず、嫌気性菌を検査するための複数の試料を、それぞれ別の培地に添加して、混合する。培地は、大腸菌や硫酸塩還元細菌などの嫌気性菌を培養可能な寒天培地から成り、透明袋12に入れるとき流動性を有している。各培地をそれぞれ別の透明袋12に注入し、各透明袋12を培養ケース11の各収納部24に開口24aから収納する。このとき、透明袋12が、収納部24の奥行きおよび幅と同じ長さおよび幅を有しているため、収納部24への透明袋12の収納が容易である。
【0030】
透明袋12を収納部24に収納したならば、空気が入らないように透明袋12をヒートシール加工で密封する。このとき、空気が入らないようにするため、培地をシール部12bから若干はみ出すようにして、ヒートシール加工してもよい。こうして、透明袋12の中に酸素が入らないようにし、嫌気性菌の培養に適した条件にすることができる。培養ケース11の収納部24の各側壁板22,23の間に、培地を入れた透明袋12を収納し、培地を各側壁板22,23の間隔と同じ厚みで、均一の厚みにすることができる。培地は固まる前には透明袋12の内部で比較的自由に流動できるため、各側壁板22,23の間隔で均一の厚みに調整しやすい。培地は、透明袋12の中で次第に固まる。透明袋12は、両側の側壁板22,23に密着して保持される。
【0031】
透明袋12は、各側壁板22,23の間に保持して収納されるため、位置が固定され、経時的に培地の同じ位置を観察することができる。透明袋12の開口12aを上に向けて培地の注入および透明袋12の密封を行うことにより、重力で培地が下方に下がり、各側壁板22,23に向かって押す力が働くため、培地を収納した透明袋12と各側壁板22,23の内側面との間に働く摩擦力を高めることができる。このため、透明袋12は、各側壁板22,23の間で位置がずれにくくなっている。
【0032】
密封した透明袋12を収納部24に収納した状態で、培養ケース11ごとインキュベータなどに入れ、嫌気性菌の所定の培養温度で保つ。所定の培養温度としては、至適培養温度が好ましい。所定時間ごとに、透明な各側壁板22,23を通して培地を観察する。これにより、嫌気性菌が試料中に存在しているかどうかを容易かつ正確に確認することができる。また、複数の試料を同時に検査することができる。嫌気性菌培養キット10により、嫌気チャンバーや嫌気ジャーなどの大型の設備が不要となり、簡単な構成で、嫌気性菌の培養および検出を容易に行うことができる。
【0033】
なお、透明袋12を収納部24に収納した後、培地を透明袋12へ注入してもよい。また、透明袋12の内部に嫌気性菌検査用の培地を入れて透明袋12を密封した後、透明袋12を開口24aから培養ケース11の収納部24に収納し、所定の培養温度で保ってもよい。この場合、透明袋12への培地の密封および透明袋12の収納部24への収納の各操作が独立しており、容易である。
【0034】
図2に示すように、嫌気性菌が試料中に存在しているかどうかを確認するのに、本発明の実施の形態の嫌気性菌検査装置を使用することができる。嫌気性菌検査装置50は、光源51と画像取得手段52とを有している。光源51は、嫌気性菌培養キット10の一方の側壁板22の外側に設置され、側壁板22,23および収納部24の透明袋12に向けて光を照射し、光を透過させるようになっている。画像取得手段52は、スキャナー装置またはデジタルカメラから成り、他方の側壁板23の外側に設置されている。画像取得手段52は、光源51からの側壁板22,23、透明袋12および培地を透過した光による投影像を取得するよう設けられている。嫌気性菌検査装置50を用いて、画像取得手段52により取得した培地のコロニーの投影像に基づき、嫌気性菌を正確かつ迅速に検出することができる。なお、嫌気性菌検査装置は、培養ケース11を嫌気性菌の至適培養温度に保つインキュベータを備えていることが好ましい。
【0035】
図3に示すように、嫌気性菌検査装置50は、各側壁板22,23の外側に、各側壁板22,23を挟む位置に設けられた1対の偏光板53,54を有していてもよい。この場合、1対の偏光板53,54を通した投影像を、画像取得手段52で取得することにより、各側壁板22,23にかかる応力を光弾性効果により検出することができる。1対の偏光板53,54は、各側壁板22,23を挟むよう各側壁板22,23の外側に取り付けられていてもよい。
【0036】
図4に示すように、培地の試料が嫌気性菌を含んでいると、培養された菌が増殖してガスを発生し、透明袋12がそのガスで膨らんで側壁板22,23が外側に向かって押される。これにより、側壁板22,23の屈折率が変化するため、1対の偏光板53,54を通した投影像に、側壁板22,23の歪みに応じた干渉縞ができる。この干渉縞に基づいて、側壁板22,23にかかる応力を検出することができる。このため、ガスにより菌を直接観察できない場合であっても、菌によるガスの発生を検出することができ、嫌気性菌の存在を検出することができる。
【0037】
なお、初期段階から投影像に干渉縞が認められても、初期画像との比較によりキャンセルし、培養によって発生したガスによる変化だけを画像の変化として捉えることができる。寒天培地がくずれたりしてコロニーの検出が難しい場合にも、ガスを利用して検出することにより、嫌気性菌を検出することができる。なお、実験によれば、菌の培養によるガスの発生は、MRS寒天培地で最も多く、TGC寒天培地、GAM寒天培地、標準寒天培地(SPC)の順に少なくなっている。
【実施例1】
【0038】
嫌気性菌培養キット10および本発明の実施の形態の嫌気性菌の培養方法(以下、「パウチ法」)により、3種類の菌株を使用して培養および観察を行った。培養および観察は、嫌気性菌検査装置50であるデジタル顕微鏡方式細菌検出装置(Digital Microscope Culturing System;製品名「Biomatic(登録商標) DMCS
FA-100(マイクロバイオ株式会社製)」)で行った。使用菌株は、サーモアナエロバクター・サーモハイドロスルフリカス(Thermoanaerobacter thermohydrosulfuricus;ATCC35045)、サーモアナエロバクター・マスラニ(Thermoanaerobacter mathranii;DSM11426)、モーレラ・サーモアセティカ(Moorella
thermoacetica)である。使用した培地は、クロストリジア寒天培地(CLO)である。培養温度は、60℃または55℃である。
【0039】
また、比較のために、寒天の平板培地を用いた一般的な寒天平板培地法(iPPM)により、同じ菌株を使用して培養および観察を行った。使用した培地は、標準寒天培地(SPC)、GAM寒天培地(GAM)、変法TGC寒天培地(mTGC)、クロストリジア寒天培地(CLO)である。使用装置、使用菌株および培養条件は、パウチ法と同じである。
【0040】
パウチ法による各菌株の培養後の観察結果を、図5乃至図7に示す。また、パウチ法および寒天平板培地法(iPPM)による培養後の観察結果をまとめ、表1に示す。培養後のコロニー数は、培地を透過した光による投影像に基づいて、自動的にカウントしている。
【0041】
【表1】

【0042】
表1に示すように、パウチ法は、寒天平板培地法(iPPM)のどの培地のものよりも、菌の検出速度が速いことが確認された。これは、寒天平板培地法(iPPM)に比べ、大気への暴露時間が短いためであると考えられる。また、パウチ法のクロストリジア培地(CLO)に比べ、寒天平板培地法(iPPM)のクロストリジア培地(CLO)では、細菌が産生する硫化水素が空間へ拡散するため、コロニーが黒色化しにくく、検出が遅れるということも考えられる。なお、パウチ法は、寒天平板培地法(iPPM)よりも操作が容易であることが確認できた。
【符号の説明】
【0043】
10 嫌気性菌培養キット
11 培養ケース
12 透明袋
12a 開口
12b シール部
21 基板
21a 一方の側縁
21b 他方の側縁
21c 凹部
21d 隔壁部
21e 表面
21f 裏面
21g 端部
21h 中央部
22,23 側壁板
24 収納部
24a 開口
50 嫌気性菌検査装置
51 光源
52 画像取得手段
53,54 偏光板


【特許請求の範囲】
【請求項1】
培地を収納して密封される透明袋と、
前記透明袋の収納部を有する培養ケースとを有し、
前記収納部は、前記透明袋を保持して収納するよう所定の間隔をあけて互いに対向する1対の透明な側壁板の間に形成され、前記透明袋を入れるための開口を有することを、
特徴とする嫌気性菌培養キット。
【請求項2】
各側壁板を挟む位置に前記側壁板にかかる応力を光弾性効果により検出する1対の偏光板を有することを特徴とする請求項1記載の嫌気性菌培養キット。
【請求項3】
請求項1または2記載の嫌気性菌培養キットと、
各側壁板に向けて光を透過させるよう設けられた光源と、
前記光源からの前記側壁板、前記透明袋および前記培地を透過した光による投影像を取得可能に設けられた画像取得手段とを、
有することを特徴とする嫌気性菌検査装置。
【請求項4】
請求項1記載の嫌気性菌培養キットと、
各側壁板を挟む位置に設けられ、前記側壁板にかかる応力を光弾性効果により検出する1対の偏光板と、
各偏光板および各側壁板に向けて光を透過させるよう設けられた光源と、
前記光源からの前記偏光板、前記側壁板、前記透明袋および前記培地を透過した光による投影像を取得可能に設けられた画像取得手段とを、
有することを特徴とする嫌気性菌検査装置。
【請求項5】
請求項1または2記載の嫌気性菌培養キットの前記収納部に、嫌気性菌検査用の試料を入れた培地を収納し密封した前記透明袋を配置して嫌気性菌の所定の培養温度で保ち、前記側壁板、前記透明袋および前記培地を透過する光を照射し、透過した光によるコロニーの投影像を検出することを、特徴とする嫌気性菌検査方法。
【請求項6】
請求項1記載の嫌気性菌培養キットの前記収納部に、嫌気性菌検査用の試料を入れた培地を収納し密封した前記透明袋を配置して嫌気性菌の所定の培養温度で保ち、各側壁板を挟む位置に1対の偏光板を設け、前記偏光板、前記側壁板、前記透明袋および前記培地を透過する光を照射し、透過した光による投影像から、前記側壁板にかかる応力を光弾性効果により検出することを、特徴とする嫌気性菌検査方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−101624(P2011−101624A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−258137(P2009−258137)
【出願日】平成21年11月11日(2009.11.11)
【出願人】(501354912)マイクロバイオ株式会社 (13)
【Fターム(参考)】