説明

孔あけ加工用あて板の製造方法

【課題】アルミニウム製基板の少なくとも片面に水溶性潤滑層が形成された孔あけ加工用あて板の製造方法において、孔あけ位置精度を向上させうるあて板を安価に製造することができる孔あけ加工用あて板の製造方法を提供する。
【解決手段】あて板1の製造方法は、水溶性樹脂からなる水溶性潤滑層3を押出コート法により基板2の片面に形成する潤滑層形成工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばプリント配線板用素板にスルーホール等の孔を形成する際に用いられる孔あけ加工用あて板の製造方法及びあて板に関する。
【0002】
なお、本明細書及び特許請求の範囲において、「アルミニウム」の語は、特に示さない限り純アルミニウム及びアルミニウム合金の双方を含む意味で用いる。さらに、「板」という語は、箔をも含む意味で用いる。
【背景技術】
【0003】
絶縁体に銅等の金属箔が積層された積層プリント配線板用素板に、スルーホール(貫通孔)をドリルにより形成する際に、素板の片面又は両面にあて板として水溶性潤滑剤含有シートを配置して、孔あけ加工を行う方法が米国特許第4781495号明細書(特許文献1)及び4929370号明細書(特許文献2)に開示されている。このスルーホール形成方法で使用される潤滑剤含有シートは、固形の水溶性潤滑剤であるジエチレングリコール及びジプロピレングリコール等のグリコール類と、脂肪酸等の合成ワックス及び非イオン系界面活性剤の混合物とを、紙などの多孔質シート材料に含有させたものである。
【0004】
また、特開平4−92488号公報(特許文献3)は、あて板として、ポリエチレングリコールを多孔質シートに塗布して形成した水溶性滑剤シートを開示しており、特開平4−92494号公報(特許文献4)は、あて板として、ポリエチレングリコールと水溶性滑剤(ポリオキシエチレンのモノエーテルやそのエステル等)とを混合して形成した水溶性滑剤シートを開示している。
【0005】
その他のあて板に関する文献として、特開平5−261699号公報、特開2004−230470号公報、特開2004−9193号公報、特表2004−516149号公報、特開平8−155896号公報、特開2002−292599号公報等がある。
【0006】
また、あて板の具体的な製造方法として、特許第4106518号公報(特許文献5)、特開2002−66996号公報(特許文献6)及び特許第4010142号公報(特許文献7)は、所定の樹脂を溶解した溶液にジメチルベンジルアミンを混合してワニスを製造し、該ワニスをアルミニウム箔の片面に塗布して加熱することにより、あて板を製造する方法(この方法を「第1方法」という)、及び、押出機にて製作された樹脂シートを加熱ロールによりアルミニウム箔に接着することにより、あて板を製造する方法(この方法を「第2方法」という)を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第4781495号明細書
【特許文献2】米国特許第4929370号明細書
【特許文献3】特開平4−92488号公報
【特許文献4】特開平4−92494号公報
【特許文献5】特許第4106518号公報
【特許文献6】特開2002−66996号公報
【特許文献7】特許第4010142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記第1方法では、樹脂の溶解工程、ワニスの塗布工程及び乾燥工程を順次行う必要があり、上記第2方法では、樹脂をシート状に形成する工程と樹脂シートの接着工程を順次行う必要があるため、あて板を製造するための工程数が多くなり、その結果、あて板の製造コストが高く付くという欠点があった。
【0009】
本発明は、上述した技術背景に鑑みてなされたもので、その目的は、孔あけ位置精度を向上させうるあて板を安価に製造することができる孔あけ加工用あて板の製造方法及び孔あけ加工用あて板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は以下の手段を提供する。
【0011】
[1] アルミニウム製基板の少なくとも片面に水溶性潤滑層が形成された孔あけ加工用あて板の製造方法において、
水溶性樹脂からなる水溶性潤滑層を押出コート法により基板の片面に形成する潤滑層形成工程を含むことを特徴とする孔あけ加工用あて板の製造方法。
【0012】
[2] 前記押出コート法は、
Tダイを有する押出機、加圧ロール及び冷却ロールを備えた押出コート装置を用い、前記加圧ロールと前記冷却ロールとの間に通された基板をその長さ方向に送りながら、前記押出機のTダイから連続して押し出された溶融した水溶性樹脂膜を、基板の片面における前記両ロールのニップ位置から上流側にずれた位置に接触供給することにより、前記両ロール間で基板と前記水溶性樹脂膜を挟圧し、これにより、基板の片面に前記水溶性樹脂からなる潤滑層を形成する方法である前項1記載の孔あけ加工用あて板の製造方法。
【0013】
[3] 押出温度80〜200℃及び冷却ロール温度10〜40℃の押出コート条件で押出コート法により潤滑層を形成する前項1又は2記載の孔あけ加工用あて板の製造方法。
【0014】
[4] 前記水溶性樹脂膜を、基板の片面における前記両ロールのニップ位置から上流側に1〜10mmずれた位置に接触供給する前項2記載の孔あけ加工用あて板の製造方法。
【0015】
[5] 試験温度125℃及び試験荷重21.18Nで測定された前記水溶性樹脂のメルトフローレートが0.1〜100g/10minに設定されている前項1〜4のいずれかに記載の孔あけ加工用あて板の製造方法。
【0016】
[6] 前記水溶性樹脂は、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、ポリエーテルエステル、ポリエチレンポリプロピレングリコールトリレンジイソシアネートコポリマーからなる群から選択された1種又は2種以上を含有している前項1〜5のいずれかに記載の孔あけ加工用あて板の製造方法。
【0017】
[7] アルミニウム製基板の少なくとも片面に水溶性潤滑層が形成された孔あけ加工用あて板において、
前記潤滑層は水溶性樹脂からなり且つ押出コート法により形成されたものであることを特徴とする孔あけ加工用あて板。
【0018】
[8] アルミニウム製基板の少なくとも片面に水溶性潤滑層が形成された孔あけ加工用あて板において、
前項1〜6のいずれかに記載の孔あけ加工用あて板の製造方法により製造されたものであることを特徴とする孔あけ加工用あて板。
【0019】
[9] 前記潤滑層の厚さが0.01〜1.0mmである前項7又は8記載の孔あけ加工用あて板。
【発明の効果】
【0020】
本発明は以下の効果を奏する。
【0021】
[1]の発明では、水溶性潤滑層を押出コート法により形成することにより、あて板の製造工程数を従来の工程数よりも減らすことができ、これにより、あて板の製造コストを引き下げることができる。さらに、押出温度、押出速度、基板送り速度等の制御によって潤滑層の厚さを容易に変更することができ、そのため、潤滑層を容易に薄く形成することができる。その上、押出コート時に潤滑層形成用の溶融した水溶性樹脂膜の温度を高くすることで、基板と潤滑層との接合強度を容易に高くすることができる。
【0022】
さらに、押出コート時において、溶融した水溶性樹脂膜(以下、これを「溶融樹脂膜」と略記する)が冷却ロールに接触されて冷却されるので、この溶融樹脂膜は急速に冷却される。その結果、均一且つ微細に結晶化された潤滑層が基板の表面に形成される。このように潤滑層が均一且つ微細に結晶化していると、孔あけ加工時の熱による潤滑層の溶融が均一になってドリルに対する抵抗が安定する上、更に、潤滑層の表面が平滑になるため、孔あけ位置の精度を向上させることができる。
【0023】
[2]の発明では、上記[1]の発明の効果を奏し得る潤滑層を確実に形成することができる。
【0024】
[3]の発明では、押出コート条件として、押出温度及び冷却ロール温度をそれぞれ所定範囲内に設定することにより、溶融樹脂膜を確実に冷却することができ、これにより、押出コート時において、潤滑層が冷却ロールに融着したり巻取りロールに巻き取られた基板の裏面に潤滑層が融着したりする不具合を確実に防止できる。更に、冷却ロールにおける結露の発生を防止できる。
【0025】
[4]の発明では、上記[1]の発明の効果を奏し得る潤滑層を更に確実に形成することができる。
【0026】
[5]の発明では、水溶性樹脂のメルトフローレートを所定範囲内に設定することにより、押出コート装置の押出機のTダイから押し出された溶融樹脂膜がTダイの先端で切れたり、溶融樹脂膜の厚さが不均一になったり、溶融樹脂膜にネックインが大きく発生したりする不具合を確実に防止することができる。これにより、厚さが均一な潤滑層を安定して形成することができる。
【0027】
[6]の発明では、水溶性樹脂として所定の樹脂を用いることにより、優れた潤滑性を有する潤滑層を確実に形成することができる。
【0028】
[7]の発明では、潤滑層が押出コート法により形成されたものであるから、上記[1]の発明の効果と同様の効果を奏する。
【0029】
[8]の発明では、上記[1]〜[6]のいずれかの発明の効果と同様の効果を奏する。
【0030】
[9]の発明では、潤滑層の厚さが所定範囲内であることにより、潤滑層の潤滑性能が確実に発揮されるし、孔あけ加工時において潤滑層3が厚すぎることにより生じることがある潤滑層のドリルへの巻付きによって孔あけ位置の精度が低下する不具合を確実に防止できるし、あて板の製造コストを確実に低く抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る孔あけ加工用あて板を、孔あけ加工時の配置状態で示す概略断面図である。
【図2】図2は、同あて板を製造する際に用いられる押出コート装置の概略図である。
【図3】図3は、図2に示した押出コート装置における加圧ロールと冷却ロールとのニップ部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
次に、本発明の一実施形態について図面を参照して以下に説明する。
【0033】
図1において、1は、本実施形態に係る孔あけ加工用あて板である。このあて板1は、アルミニウム製基板2の片面にその略全面に亘って水溶性潤滑層3が形成されたものである。
【0034】
基板2は、公知のものであれば特に限定されるものではないが、例えば軟質アルミニウム板、半硬質アルミニウム板、硬質アルミニウム板等が挙げられる。
【0035】
基板2の厚さは、50〜500μmの範囲内に設定されるのが望ましい。基板2の厚さが50μm以上であることにより、孔あけ加工後に基板2からバリが発生する不具合を防止することができ、500μm以下であることにより、孔あけ加工時に発生する切粉を確実に排出させることができる。
【0036】
基板2における潤滑層3が形成される表面は、潤滑層3との密着性を高めるための下地処理を施すことが望ましい。下地処理としては、下地剤のコート処理、酸処理、アルカリ処理、コロナ処理等を適用可能であり、特に、下地剤のコート処理を適用することが望ましい。下地剤としては、エポキシ系コート剤、ウレタン系コート剤、ポリビニルアルコール系コート剤、塩化ビニル/酢酸ビニルコート剤等の市販のコート剤が使用可能である。
【0037】
潤滑層3は、水溶性樹脂の押出コート層である。
【0038】
本発明では、水溶性樹脂としては、特に限定されるものではなく様々な水溶性樹脂を用いることができる。例えば、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、ポリエーテルエステル、ポリエチレンポリプロピレングリコールトリレンジイソシアネートコポリマーからなる群から選択された1種を単独で又は2種類以上を混合して用いるのが望ましく、特に、後述するように、ポリエチレングリコールと、ポリオキシプロピレンポリオール類(ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシプロピレントリオール及びポリオキシプロピレンヘキサオール)との混合樹脂を用いるのが望ましい。
【0039】
本実施形態では、潤滑層3は、水溶性混合樹脂からなるものであり、具体的に示すと、ポリエチレングリコールを80〜99.9質量%と、ポリオキシプロピレンポリオール類として、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシプロピレントリオール及びポリオキシプロピレンヘキサオールからなる群から選択された1種又は2種以上を0.1〜20質量%と、を含有するものである。詳述すると、潤滑層3は、ポリエチレングリコールを80〜99.9質量%と、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシプロピレントリオール及びポリオキシプロピレンヘキサオールからなる群から選択された1種又は2種以上を0.1〜20質量%と、から実質的になるものであり、更に詳述すると、潤滑層3は、これらの樹脂と、不可避不純物と、必要に応じて添加される添加剤としての水溶性界面活性剤及び酸化防止剤等と、からなるものである。また、潤滑層3の粘度は、後述するように所定の範囲内に設定されている。
【0040】
潤滑層3の厚さは、0.01〜1.0mm(即ち10〜1000μm)であることが望ましい。厚さが0.01mm以上であることにより、潤滑層3の潤滑性能を確実に発揮させることができる。厚さが1.0mm以下であることにより、孔あけ加工時において潤滑層3が厚すぎることにより生じることがある潤滑層3のドリル6への巻付きによって孔あけ位置の精度が低下する不具合を確実に防止できるし、あて板1の製造コストを確実に低く抑えることができる。更に望ましい潤滑層3の厚さは、0.02〜0.3mmであり、特に0.05〜0.15mmの範囲が望ましい。
【0041】
この潤滑層3は、図2に示した押出コート装置10を用いた押出コート法により水溶性樹脂が基板2の片面の表面に薄く積層されて形成されたものである。
【0042】
押出コート装置10は、押出機11、加圧ロール13、冷却ロール14等を具備している。押出機11の押出先端部にはTダイ12が設けられている。Tダイ12からは、潤滑層3を形成する溶融樹脂膜15が押し出される。図2及び3において、17は、加圧ロール13と冷却ロール14とのニップ位置である。
【0043】
この押出コート装置10を用いた押出コート法では、加圧ロール13と冷却ロール14との間に通された基板2をその長さ方向に送りつつ、押出機11のTダイ12から押し出された溶融した混合樹脂膜、即ち溶融樹脂膜15を加圧ロール13と冷却ロール14との間で挟んで押圧することにより、基板2の表面に混合樹脂からなる潤滑層3が形成されてコートされる[潤滑層形成工程]。詳述すると、加圧ロール13と冷却ロール14との間に通された帯状の基板2をその長さ方向に送りながら、押出機11のTダイ12から連続して押し出された溶融樹脂膜15を、基板2の片面における両ロール13、14のニップ位置17から上流側にずれ量Sで僅かにずれた位置に接触供給することにより、両ロール13、14間で基板2と溶融樹脂膜15を挟圧し、これにより、基板2の片面に溶融樹脂からなる潤滑層3が積層状態に形成される。こうして基板2の表面に潤滑層3が形成されたあて板1は、巻取りロール(図示せず)により巻き取られる。この押出コート法において、ずれ量Sは1〜10mm、特に4〜8mmであることが望ましい。ずれ量Sをこのような範囲内に設定することにより、潤滑層3を確実に均一且つ微細に結晶化することができるし、潤滑層3の表面を確実に平滑にすることができ、これにより、孔あけ位置の精度を確実に向上させることができる。巻取りロールにより巻き取られたあて板1は、その後、製品の長さに切断されて使用される。
【0044】
この押出コート法によれば、潤滑層3を基板2の表面に連続してコート・形成及び冷却することができるので、あて板1の製造工程数を従来の工程数よりも減らすことができ、これにより、あて板1の製造コストを引き下げることができる。押出コート法により潤滑層3を形成する詳細な利点は、後述する。
【0045】
この押出コートにおける押出コート条件としての押出温度は80〜200℃(特に好ましくは130〜180℃)程度であることが望ましい。押出機11としては、単軸又は2軸のものが好適に用いられる。また、押出を窒素ガス雰囲気下やアルゴンガス雰囲気下で行うことが望ましく、これにより混合樹脂の酸化、即ち溶融樹脂膜15の酸化を防止することができ、もって潤滑層3の品質の安定化を図ることができる。コート速度、即ち潤滑層3の形成速度は、5〜200m/min、特に10〜50m/minが好ましい。
【0046】
また、冷却ロール14の温度は40℃以下であることが望ましい。その理由は次のとおりである。すなわち、一般に水溶性樹脂(即ち潤滑層3)の融点は60℃付近であることから、冷却ロール14の温度が40℃以下であることにより、溶融樹脂膜15を確実に冷却することができ、これにより、押出コート時において、潤滑層3が冷却ロール14に融着したり巻取りロールに巻き取られた基板2の裏面に潤滑層3が融着したりするのを確実に防止することができる。なお、冷却ロール14の温度の下限値は、特に限定されるものではないが10℃程度であることが望ましく、これにより冷却ロールにおける結露の発生を防止できるとともに、潤滑層3の吸湿を防止できる。
【0047】
ポリエチレングリコール(PEG)は、一般的に、分子量の大きさによって名称が異なる。すなわち、分子量が10万以下である場合には「ポリエチレングリコール」と呼ばれ、分子量が10万を超える場合には「ポリエチレンオキサイド」と呼ばれる。ポリエチレングリコールとポリエチレンオキサイドの分子式は互いに同じである。ここで本発明では、説明の便宜上、分子量の大きさに拘わらず両者を区別しないで「ポリエチレングリコール」と呼ぶ。このポリエチレングリコールは常温で固体である。
【0048】
ポリオキシプロピレンポリオール類としての、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシプロピレントリオール及びポリオキシプロピレンヘキサオールは、プロピレングリコール鎖の長さによって分子量が異なるものがあるが、いずれも常温で液体である。本発明では、これらを単独で又はこれらの中から2種以上を混合して使用される。
【0049】
さらに、ポリオキシプロピレンポリオール類(即ち、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシプロピレントリオール、ポリオキシプロピレンヘキサオール)は、潤滑層3の潤滑性を増加させるために潤滑層3に含有される。すなわち、ポリエチレングリコール単独の潤滑層では、潤滑性が不足し、ドリルによる孔あけ加工時に生じる発熱を抑えることが不十分となる。これに対して、ポリオキシプロピレンポリオール類をポリエチレングリコールの潤滑層3に含有させることにより、ドリルによる孔あけ加工時において略全ての孔あけ加工条件で潤滑性を十分に発揮させることができる。
【0050】
さらに、ポリオキシプロピレンポリオール類はポリエチレングリコールとの相溶性が高いので、ポリオキシプロピレンポリオール類とポリエチレングリコールとが良好に混合する。
【0051】
潤滑層3において、上述したように、ポリエチレングリコールの含有量は80〜99.9質量%の範囲内であり、ポリオキシプロピレンポリオール類の含有量は0.1〜20質量%の範囲内であることが望ましい。さらに、必要に応じて、添加剤として水溶性界面活性剤及び酸化防止剤等を潤滑層3に添加含有させても良い。水溶性界面活性剤としては、具体的に例示すると、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレンのエステル類、ポリオキシエチレンのエーテル類、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリグリセリンモノステアレート、ポリエチレンプロピレングリコール共重合体から選択される1種又は2種以上が用いられる。酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系、ヒンダードアミン系、リン系、イオウ系等の酸化防止剤が用いられる。
【0052】
ポリエチレングリコールの含有量が80質量%未満の場合には、潤滑層3がべたついてしまい、そのため、あて板1同士を重ねたときにあて板1同士がくっつくという不具合が発生する傾向がある。
【0053】
ポリエチレングリコールの含有量が99.9質量%を超える場合には、上述したように、潤滑性が不足し、ドリルによる孔あけ加工時に生じる発熱を抑えることが不十分となる。もし潤滑性が十分に発揮できないと、孔あけ位置の精度が低下するし、更には、ドリルの直径が非常に小さい場合にドリルが折損することもある。
【0054】
ポリオキシプロピレンポリオール類の含有量が0.1質量%未満の場合には、ポリエチレングリコールの含有量が99.9質量%を超える場合と同様の難点がある。
【0055】
ポリオキシプロピレンポリオール類の含有量が20質量%を超える場合には、ポリエチレングリコールの含有量が80質量%未満の場合と同様の難点がある。
【0056】
したがって、ポリエチレングリコールの含有量は80〜99.9質量%の範囲内であることが望ましく、ポリオキシプロピレンポリオール類の含有量は0.1〜20質量%の範囲内であることが望ましい。この場合には、潤滑層3のべたつきを確実に防止することができ、もってあて板1同士を重ねたときにあて板1同士がくっつくのを確実に防止することができるし、更に、潤滑層3が潤滑性を十分に発揮し得て孔あけ位置の精度を確実に向上させることができるし、非常に小径のドリルの折損を確実に防止できる。
【0057】
押出コートの際には、ポリエチレングリコールとポリオキシプロピレンポリオール類と必要に応じて添加される添加剤(水溶性界面活性剤及び酸化防止剤等)とは、溶融させて互いに混合される。ポリエチレングリコールの融点が60℃付近であることから、混合は70〜160℃の範囲内で行うことが望ましい。混合が70℃以上であることにより、良好に混合及び押出を行うことができる。混合温度が160℃以下であることにより、熱によるポリエチレングリコールの分解を防止することができ、これにより、潤滑層3中にポリエチレングリコールの分解ガスによる気泡が発生したり潤滑層3が変色や酸化したり潤滑層3が堅くもろくなったりする不具合を防止することができる。特に好ましい混合温度は80〜140℃である。また、溶融及び混合は、酸化を防止するために窒素ガスやアルゴンガス等の雰囲気下で行うことが望ましい。
【0058】
混合は、加熱手段を有する撹拌機(例:通常の撹拌機、ニーダー、押出機、遊星撹拌機)により行われるのが望ましい。混合が不十分であると、押出コート時に溶融樹脂膜15が切れたり割れたりし易く、また潤滑層3の厚さが不均一になり潤滑性能のバラツキが大きくなることから、混合は十分に行うことが望ましい。
【0059】
潤滑層3(即ち水溶性樹脂)の粘度は、100℃で1000〜10000Pa・sの範囲内、且つ、150℃で800〜4000Pa・sの範囲内に設定されるのが望ましい。なおこの粘度は、潤滑層3がまだ基板2の表面にコートされる前の水溶性樹脂について、即ち潤滑層3がまだ基板2の表面にコートされる前の状態である、潤滑層3を形成する水溶性樹脂について、パラレルプレート型レオメータにより測定した粘度である。
【0060】
この潤滑層3(水溶性樹脂)の粘度の測定は、パラレルプレート型レオメータにより、直径25mmプレート、プレート間1mm、回転周速40mm/sという測定条件で、温度100℃と150℃についてそれぞれ行った。
【0061】
粘度が100℃で1000Pa・s未満又は150℃で800Pa・s未満の場合には、潤滑層3がベたついてしまい、そのため、あて板1同士を重ねたときにあて板1同士がくっついて離れなくなるという問題が発生する傾向があるし、更に、孔あけ加工時にドリル保持能力が低下して孔あけ位置の精度が悪くなるという問題も発生する傾向がある。
【0062】
粘度が100℃で10000Pa・sを超え又は150℃で4000Pa・sを超えた場合には、押出コート工程におけるローラによる押圧時に潤滑層3の表面を平坦に形成し難く、潤滑層3の厚さが不均一になり、その結果、潤滑層3の外観不良が発生する傾向があるし、孔あけ位置の精度が低下する傾向がある。
【0063】
したがって、潤滑層3の粘度が、100℃で1000〜10000Pa・sの範囲内、且つ、150℃で800〜4000Pa・sの範囲内に設定されるのが望ましい。この場合には、潤滑層3のべたつきをより一層確実に防止することができ、もってあて板1同士を重ねたときにあて板1同士がくっつくのをより一層確実に防止することができるし、孔あけ位置の精度をより一層確実に向上させることができ、更に、潤滑層3の外観不良をより一層確実に防止することができる。
【0064】
特に好ましい潤滑層3の粘度は、100℃で3000〜6000Pa・sの範囲内、且つ、150℃で1000〜2500Pa・sの範囲内である。
【0065】
ポリエチレングリコールは、分子量が例えば300〜100万のものが広く市販されており、本発明では、これらの範囲の分子量のポリエチレングリコールを単独で又は混合して使用されるのが望ましい。
【0066】
ポリエチレングリコールの好ましい数平均分子量(Mn)は、1万〜10万の範囲内である。ポリエチレングリコールの数平均分子量が1万以上であることにより、溶融時の混合樹脂の粘度の低下と混合樹脂の融点の低下とを確実に防止することができ、これにより潤滑層3のべたつきを更に確実に防止することができ、もってあて板1同士を重ねたときにあて板1同士がくっつくのを更に確実に防止することができる。一方、ポリエチレングリコールの数平均分子量が10万以下であることにより、潤滑層3が過度に硬くなるのを確実に防止することができ、これによりあて板1が曲がったときに潤滑層3が割れる不具合を防止することができる。本実施形態では、ポリエチレングリコールの数平均分子量の測定は、例えばゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により行われる。
【0067】
また、試験温度125℃及び試験荷重21.18N(2.16kgf)で測定された水溶性樹脂(即ち潤滑層3)のメルトフローレート(MFR)は、0.1〜100g/10minであることが望ましい。その理由は次のとおりである。メルトフローレートが0.1g/10min以上であることにより、押出コート装置10の押出機11のTダイ12から押し出された溶融樹脂膜15がTダイ12の先端で切れたり、溶融樹脂膜15の厚さが不均一になったりする不具合を確実に防止することができる。メルトフローレートが100g/10min以下であることにより、溶融樹脂膜にネックインが大きく発生したりする不具合を防止することができる。したがって、メルトフローレートを0.1〜100g/minに設定することにより、これらの不具合を防止することができ、これにより、厚さが均一な潤滑層を安定して形成することができる。特に望ましいメルトフローレートは1.0〜50g/10minである。
【0068】
なお、メルトフローレートは、JIS K7210に準拠して測定される。
【0069】
以上の実施形態では、水溶性樹脂として、ポリエチレングリコールと、ポリオキシプロピレンポリオール類として、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシプロピレントリオール及びポリオキシプロピレンヘキサオールとの混合樹脂を用いる場合について詳細に説明したが、上記混合樹脂以外に、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、ポリエーテルエステル、ポリエチレンポリプロピレングリコールトリレンジイソシアネートコポリマーからなる群から選択された1種又は2種類以上を用いても良い。
【0070】
本実施形態では、潤滑層3が押出コート法により形成されたもの、即ち押出コート層であるから、次の利点がある。
【0071】
押出コート法では、上述したように、あて板1の製造工程数を従来の工程数よりも減らすことができ、これにより、あて板1の製造コストを引き下げることができる。
【0072】
さらに、押出温度、押出速度、基板送り速度等の制御によって潤滑層3の厚さを容易に変更することができ、そのため、潤滑層3を容易に薄く形成することができる。
【0073】
押出コート時に溶融樹脂膜15の温度を高くすることで、基板2と潤滑層3との接合強度を容易に高くすることができる。
【0074】
押出コート時において、溶融樹脂膜15が押出コート装置10の冷却ロール14に接触されて冷却されるので、この溶融樹脂膜15は急速に冷却される。その結果、均一且つ微細に結晶化された潤滑層3が基板2の表面に形成される。このように潤滑層3が均一且つ微細に結晶化していると、孔あけ加工時の熱による潤滑層3の融解が均一になってドリル6に対する抵抗が安定するし、更に、潤滑層の表面が平滑になるため、孔あけ位置の精度を向上させることができる。
【0075】
一方、潤滑層を基板の表面に形成するその他の方法として、グラビアコート法が挙げられる。しかるに、グラビアコート法により潤滑層を形成する場合には次の欠点がある。
【0076】
グラビアコート法では、水又は水と有機溶媒との混合物を溶剤とし、これに水溶性樹脂を溶解させているので、溶剤を気化させるために乾燥をする必要がある。この乾燥時に突沸現象やガス抜け跡が生じることがあり、表面が平滑な潤滑層3を形成するのが非常に難しい。特に、潤滑層が厚い場合には突沸現象やガス抜け跡が非常に生じ易い。突沸現象やガス抜け穴が生じると、潤滑層の表面が平滑ではなくなり、孔あけ位置の精度が低下する。
【0077】
さらに、グラビアコート法では、溶剤の乾燥に時間がかかるし、その乾燥時間を短縮するために乾燥温度を高くすると突沸現象が生じ、潤滑層の表面にガス抜け跡が生じるという難点がある。また、水溶性樹脂の溶液が基板2の表面との濡れ性が低いものである場合、溶液が基板2の表面ではじかれてしまい、均一な厚さの潤滑層を形成することができない。また、潤滑層の厚さを変更する場合には、彫刻ロールの取り替え、水溶性樹脂溶液の濃度の変更などが必要であるため、潤滑層の厚さを容易に変更することができない。
【0078】
潤滑層を基板の表面に形成するもう一つの他の方法として、水溶性樹脂をフィルム化した後、該樹脂フィルムを基板に加熱貼合(融着)したり基板に接着剤により貼着したりすることにより、基板の表面に潤滑層を形成する方法が挙げられる。しかるに、このような樹脂フィルム加熱貼合方法及び樹脂フィルム接着貼合方法には次の欠点がある。
【0079】
樹脂フィルム加熱貼合方法では、樹脂フィルムを基板の表面に加熱貼合した後の冷却時に、溶融ムラ、冷却ムラが生じ易く、樹脂フィルムについて結晶化を均一にすることが難しい。このような溶融ムラ、冷却ムラが生じると、潤滑層の表面が平滑ではなくなり、孔あけ位置の精度が低下する。
【0080】
樹脂フィルム接着貼合方法では、接着剤の存在によって孔あけ位置の精度が低下する。
【0081】
さらに、樹脂フィルム加熱貼合方法及び樹脂フィルム接着貼合方法では、いずれも、樹脂フィルムを薄くすることが非常に困難であるし、薄い樹脂フィルムは貼合工程で破れ易い。その上、潤滑層が脆いし、基板と潤滑層との接合強度が低い。
【0082】
以上で説明したように、潤滑層3の形成方法としての押出コート法は、他の方法(グラビアコート法、樹脂フィルム加熱貼合方法、樹脂フィルム接着貼合方法など)よりも優れている。
【0083】
次に、本実施形態のあて板1を用いてプリント配線板用素板5にスルーホール等の孔をあける方法を以下に説明する。
【0084】
図1に示すように、まず、プリント配線板用素板5上にあて板1をその潤滑層3を上にして重ね合せ状に配置する。そしてこの状態で、回転しているドリル6を潤滑層3側からあて板1と素板5に厚さ方向に順次貫通させることにより、あて板1と素板5に小径の孔をあける。
【0085】
この孔あけ加工方法では、本実施形態のあて板1を用いて孔あけ加工を行うものであるから、直径が小径のドリル6であってもドリル6の折損を防止できるし、孔あけ位置の精度も向上させることができる。
【0086】
以上で本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に示したものであることに限定されるものではなく、様々に変更可能である。
【0087】
また本発明では、潤滑層は、基板の片面ではなく両面にそれぞれ形成されていても良い。
【0088】
また本発明では、あて板を用いて孔あけ加工が施される板は、プリント配線板用素板であることが特に望ましいが、必ずしもこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0089】
次に、本発明の具体的な実施例及び比較例について説明する。ただし本発明はこれら実施例のものであることに限定されるものではない。
【0090】
<実施例1〜7>
あて板を製造するに当たり、以下の基板、ポリエチレングリコール及びポリオキシプロピレンポリオール類(ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシプロピレントリオール、ポリオキシプロピレンヘキサオール)を準備した。
【0091】
[基板]
基板の厚さは100μm(0.1mm)である。基板の材質はJIS(日本工業規格)に準拠したアルミニウム合金番号A1050−H18である。なお、基板における潤滑層が形成される表面は、ポリビニルアルコール系コート剤で予め下地処理されている。
【0092】
[ポリエチレングリコール]
ポリエチレングリコールとしては、数平均分子量(Mn)が10000、20000、100000及び250000の4種のものを用いた。Mn10000のポリエチレングリコールは三洋化成工業社製(商品名:PEG10000)である。Mn20000のポリエチレングリコールは同じく三洋化成工業社製(商品名:PEG20000)である。Mn100000のポリエチレングリコールは明成化学工業社製(商品名:アルコックスR150)である。Mn250000のポリエチレングリコールは同じく明成化学工業社製(商品名:R400アルコックス)である。また、以下の各実施例及び各比較例において、用いたポリエチレングリコールの数平均分子量(Mn)を算出した。
【0093】
[ポリオキシプロピレンポリオール類]
ポリオキシプロピレングリコールは三洋化成工業社製(商品名:サンニックスPP1000)である。ポリオキシプロピレントリオールは同じく三洋化成工業社製(商品名:サンニックスGP1000)である。ポリオキシプロピレンヘキサオールは同じく三洋化成工業社製(商品名:サンニックスSP750)である。
【0094】
【表1】

【0095】
実施例1〜6では、上記実施形態のあて板の製造方法に従って、基板の片面に、ポリエチレングリコールとポリオキシプロピレンポリオール類の含有量を様々に変えて潤滑層(厚さ:50μm)を押出コートにより形成し、あて板を製造した。実施例7は、ポリエチレングリコール単独にて潤滑層を形成した。また、各実施例において、潤滑層を形成するポリエチレングリコールとポリオキシプロピレンポリオール類の含有量は表1のとおりである。また、押出コートの押出コート条件は以下のとおりである。
【0096】
[押出コート条件]
押出温度:160℃
冷却ロールの温度:20℃
基板送り速度:20m/min
加圧ロールの加圧力:0.2MPa
ずれ量S:6mm。
【0097】
なお、ずれ量Sとは、図3に示すように、加圧ロール13と冷却ロール14とのニップ位置17に対する、溶融樹脂膜15の基板2との接触位置の上流側へのずれ量を意味している。
【0098】
こうして製造されたあて板において、潤滑層の厚さ均一性及びべたつきを調べた。また、潤滑層の表面粗さとして、算術平均粗さRaと最大高さRzをJIS B0601(2001)に準拠して測定した。また、潤滑層の粘度としては、潤滑層がまだ基板の表面にコートされる前の混合樹脂の粘度、すなわち押出コート時に用いた水溶性樹脂の粘度を測定した。さらに、水溶性樹脂のメルトフローレート(表1では「MFR」と略記されている)をJIS K7210に準拠して試験温度125℃及び試験荷重21.18N(2.16kgf)で測定した。また、孔あけ試験機を用いて孔あけ位置の精度を評価した。
【0099】
潤滑層の厚さ均一性及びべたつきは目視観察及び指触により調べた。そして、べたつきが小さい場合には「○」、べたつきが大きい場合には「×」とした。
【0100】
粘度の測定方法は以下のとおりである。
【0101】
[粘度の測定方法]
粘度の測定は、パラレルプレート型レオメータにより、直径25mmプレート、プレート間1mm、回転周速40mm/sという測定条件で、温度100℃と150℃についてそれぞれ行った。
【0102】
孔あけ位置の精度の評価方法は以下のとおりである。
【0103】
[孔あけ位置の精度の評価方法]
互いに重ねた3枚のプリント配線板用素板の上にあて板をその潤滑層を上にして重ね合せ状に配置した。そしてこの状態で、所定の直径及び所定の刃長のドリルで潤滑層の上側からあて板及び3枚の素板に2000個の貫通孔をあけた。素板の厚さは0.8mmである。実施例1〜6では直径0.2mm及び刃長3.5mmのドリルを用いた。実施例7では直径0.3mm及び刃長5mmのドリルを用いた。次いで、3枚の素板のうち上から3枚目の素板にあけられた各孔について孔位置計測器により孔位置を測定し、基準位置からの孔位置のずれの平均値及び最大値を調べた。
【0104】
以上の評価結果を表1に示した。
【0105】
表1に示すように、実施例1〜7では、潤滑層の厚さは均一であり、また潤滑層のべたつきがなかった。さらに、孔あけ位置の精度が高かった。特に実施例1〜6では、孔あけ位置の精度が非常に高かった。
【0106】
<実施例8>
ポリエーテルエステル(第一工業製薬社製、商品名:PP15)97.0質量部、ポリオキシプロピレングリコール(三洋化成工業社製、商品名:サンニックスPP1000)1.5質量部及びポリオキシプロピレントリオール(三洋化成工業社製、商品名:サンニックスGP1000)1.5質量部を、予めヘンシェルミキサーで混合し、次いで2軸押出機により100℃で溶融混練することで、樹脂ペレットを製作した。この樹脂ペレットのメルトフローレート(MFR)は3.5g/10minであった。なお、メルトフローレートの測定は、試験温度125℃及び試験荷重21.18Nの試験条件でJIS K7210に準拠して行った。後述する実施例9〜13でも同じくメルトフローレートの測定は、試験温度125℃及び試験荷重21.18Nの条件でJIS K7210に準拠して行っている。
【0107】
次いで、基板の片面に押出コート法により潤滑層を形成するため、この樹脂ペレットを押出コート装置の押出機のホッパー内に投入した。そして、押出温度160℃の押出コート条件で、Tダイから溶融樹脂膜を押し出すことにより、基板の片面に厚さ0.08mm(80μm)の潤滑層を形成した。この押出コート法において、図3に示したずれ量Sは6mm、基板送り速度(即ち、潤滑層の形成速度)は20m/min、冷却ロールの温度は20℃、加圧ロールの加圧力は0.2MPaである。基板の厚さは100μm(0.1mm)である。基板の材質はJISに準拠したアルミニウム合金番号A1050−H18である。なお、基板における潤滑層が形成される表面は予め下地処理されている。
【0108】
こうして製造されたあて板において、潤滑層の厚さ均一性及びべたつきを調べた。その結果、潤滑層は均一であり、またべたつきはなかった。
【0109】
さらに、潤滑層の表面粗さとしてRaとRzを測定した。その結果、Raは1.0μm、Rzは8μmであった。
【0110】
さらに、孔あけ試験機を用いて孔あけ位置の精度を評価した。その評価方法は上記実施例1〜7で適用した方法と同じであり、孔あけ加工に用いたドリルの直径は0.2mm、その刃長は3.5mmである。その結果、基準位置からの孔位置のずれの平均値は27μm、最大値は44μmであった。したがって、孔あけ位置の精度が高かった。
【0111】
<実施例9>
ポリエーテルエステル(第一工業製薬社製、商品名:PP15)58.5質量部、Mn10000のポリエチレングリコール(三洋化成工業社製、商品名:PEG10000)23.0質量部、Mn20000のポリエチレングリコール(三洋化成工業社製、商品名:PEG20000)15.5質量部、ポリオキシプロピレングリコール(三洋化成工業社製、商品名:サンニックスPP1000)1.5質量部及びポリオキシプロピレントリオール(三洋化成工業社製、商品名:サンニックスGP1000)1.5質量部を、予めヘンシェルミキサーで混合し、次いで2軸押出機により100℃で溶融混練することで、樹脂ペレットを製作した。この樹脂ペレットのメルトフローレート(MFR)は20g/10minであった。
【0112】
この樹脂ペレットを用いて、上記実施例8と同じ押出コート条件で厚さ0.08mm(80μm)の潤滑層を基板の片面に形成した。なお、基板は実施例8で用いた基板と同じ構成である。
【0113】
こうして製造されたあて板において、潤滑層の厚さ均一性及びべたつきを調べた。その結果、潤滑層は均一であり、またべたつきはなかった。
【0114】
さらに、潤滑層の表面粗さとしてRaとRzを測定した。その結果、Raは1.1μm、Rzは8μmであった。
【0115】
さらに、孔あけ試験機を用いて孔あけ位置の精度を評価した。その評価方法は上記実施例1〜10で適用した方法と同じであり、ドリルの直径は0.2mm、その刃長は3.5mmである。その結果、基準位置からの孔位置のずれの平均値は25μm、最大値は43μmであった。したがって、孔あけ位置の精度が高かった。
【0116】
<実施例10>
ポリエチレンポリプロピレングリコールトリレンジイソシアネートコポリマー(三洋化成工業社製、商品名:メルポールF−220)99.0質量部及びポリオキシプロピレングリコール(三洋化成工業社製、商品名:サンニックスPP1000)1.0質量部を、予めヘンシェルミキサーで混合し、次いで2軸押出機により100℃で溶融混練することで、樹脂ペレットを製作した。この樹脂ペレットのメルトフローレート(MFR)は3.2g/10minであった。
【0117】
次いで、基板の片面に押出コート法により潤滑層を形成するため、この樹脂ペレットを押出コート装置の押出機のホッパー内に投入した。そして、押出温度170℃の押出コート条件で、Tダイから溶融樹脂膜を押し出すことにより、基板の片面に厚さ0.08mm(80μm)の潤滑層を形成した。この押出コート法において、図3に示したずれ量Sは6mm、基板送り速度(即ち、潤滑層の形成速度)は20m/min、冷却ロールの温度は30℃、加圧ロールの加圧力は0.2MPaである。なお、基板は実施例8で用いた基板と同じ構成である。
【0118】
こうして製造されたあて板において、潤滑層の厚さ均一性及びべたつきを調べた。その結果、潤滑層は均一であり、またべたつきはなかった。
【0119】
さらに、潤滑層の表面粗さとしてRaとRzを測定した。その結果、Raは0.9μm、Rzは8μmであった。
【0120】
さらに、孔あけ試験機を用いて孔あけ位置の精度を評価した。その評価方法は上記実施例1〜10で適用した方法と同じであり、孔あけ加工に用いたドリルの直径は0.2mm、その刃長は3.5mmである。その結果、基準位置からの孔位置のずれの平均値は27μm、最大値は45μmであった。したがって、孔あけ位置の精度が高かった。
【0121】
<実施例11>
ポリエチレンポリプロピレングリコールトリレンジイソシアネートコポリマー(三洋化成工業社製、商品名:メルポールF−220)70質量部、Mn10000のポリエチレングリコール(三洋化成工業社製、商品名:PEG10000)15質量部、Mn20000のポリエチレングリコール(三洋化成工業社製、商品名:PEG20000)14質量部及びポリオキシプロピレングリコール(三洋化成工業社製、商品名:サンニックスPP1000)1.0質量部を、予めヘンシェルミキサーで混合し、次いで2軸押出機により100℃で溶融混練することで、樹脂ペレットを製作した。この樹脂ペレットのメルトフローレート(MFR)は15g/10minであった。
【0122】
この樹脂ペレットを用いて、上記実施例10と同じ押出コート条件で厚さ0.08mm(80μm)の潤滑層を基板の片面に形成した。なお、基板は実施例8で用いた基板と同じ構成である。
【0123】
こうして製造されたあて板において、潤滑層の厚さ均一性及びべたつきを調べた。その結果、潤滑層は均一であり、またべたつきはなかった。
【0124】
さらに、潤滑層の表面粗さとしてRaとRzを測定した。その結果、Raは1.0μm、Rzは9μmであった。
【0125】
さらに、孔あけ試験機を用いて孔あけ位置の精度を評価した。その評価方法は上記実施例1〜10で適用した方法と同じであり、孔あけ加工に用いたドリルの直径は0.2mm、その刃長は3.5mmである。その結果、基準位置からの孔位置のずれの平均値は25μm、最大値は45μmであった。したがって、孔あけ位置の精度が高かった。
【0126】
<実施例12>
実施例10と同じ樹脂ペレットを製作した。
【0127】
次いで、基板の片面に押出コート法により潤滑層を形成するため、この樹脂ペレットを押出コート装置の押出機のホッパー内に投入した。そして、押出温度170℃の押出コート条件で、Tダイから溶融樹脂膜を押し出すことにより、基板の片面に厚さ0.025mm(25μm)の潤滑層を形成した。この押出コート法において、図3に示したずれ量Sは6mm、基板送り速度(即ち、潤滑層の形成速度)は20m/min、冷却ロールの温度は30℃、加圧ロールの加圧力は0.2MPaである。基板の厚さは70μm(0.07mm)である。基板のその他の構成は実施例8で用いた基板と同じである。
【0128】
こうして製造されたあて板において、潤滑層の厚さ均一性及びべたつきを調べた。その結果、潤滑層は均一であり、またべたつきはなかった。
【0129】
さらに、潤滑層の表面粗さとしてRaとRzを測定した。その結果、Raは0.9μm、Rzは9μmであった。
【0130】
さらに、孔あけ試験機を用いて孔あけ位置の精度を評価した。その評価方法は次のとおりである。
【0131】
互いに重ねた3枚のプリント配線板用素板の上にあて板をその潤滑層を上にして重ね合せ状に配置した。そしてこの状態で、直径0.12mm及び刃長2mmのドリルで潤滑層の上側からあて板及び3枚の素板に2000個の貫通孔をあけた。素板の厚さは0.1mmである。そして、3枚の素板のうち上から3枚目の素板にあけられた各孔について孔位置計測器により孔位置を測定し、基準位置からの孔位置のずれの平均値及び最大値を調べた。
【0132】
こうして孔あけ位置の精度を評価した結果、基準位置からの孔位置のずれの平均値は15μm、最大値は30μmであった。したがって、孔あけ位置の精度が高かった。なお、平均値及び最大値が実施例1〜11に比べて小さい理由は、使用したドリルの直径が小さいからである。
【0133】
<実施例13>
実施例9と同じ樹脂ペレットを製作した。
【0134】
次いで、基板の片面に押出コート法により潤滑層を形成するため、この樹脂ペレットを押出コート装置の押出機のホッパー内に投入した。そして、押出温度170℃の押出コート条件で、Tダイから溶融樹脂膜を押し出すことにより、基板の片面に厚さ0.15mm(150μm)の潤滑層を形成した。この押出コート法において、図3に示したずれ量Sは6mm、基板送り速度(即ち、潤滑層の形成速度)は20m/min、冷却ロールの温度は30℃、加圧ロールの加圧力は0.2MPaである。なお、基板は実施例8で用いた基板と同じで構成である。
【0135】
こうして製造されたあて板において、潤滑層の厚さ均一性及びべたつきを調べた。その結果、潤滑層は均一であり、またべたつきはなかった。
【0136】
さらに、潤滑層の表面粗さとしてRaとRzを測定した。その結果、Raは1.0μm、Rzは10μmであった。
【0137】
さらに、孔あけ試験機を用いて孔あけ位置の精度を評価した。その評価方法は次のとおりである。
【0138】
互いに重ねた3枚のプリント配線板用素板の上にあて板をその潤滑層を上にして重ね合せ状に配置した。そしてこの状態で、直径0.3mm及び刃長5mmのドリルで潤滑層の上側からあて板及び3枚の素板に2000個の貫通孔をあけた。素板の厚さは0.8mmである。そして、3枚の素板のうち上から3枚目の素板にあけられた各孔について孔位置計測器により孔位置を測定し、基準位置からの孔位置のずれの平均値及び最大値を調べた。
【0139】
こうして孔あけ位置の精度を評価した結果、基準位置からの孔位置のずれの平均値は35μm、最大値は60μmであった。したがって、孔あけ位置の精度が高かった。
【0140】
以上の実施例8〜13について押出コート条件及び評価結果を表2にまとめて示す。
【0141】
【表2】

【0142】
なお、表2中の「潤滑層のべたつき」欄において、「○」はべたつきが小さい、「×」はべたつきが大きいことを意味している。
【産業上の利用可能性】
【0143】
本発明は、例えばプリント配線板用素板にスルーホール等の孔を形成する際に用いられる孔あけ加工用あて板の製造方法及びあて板に利用可能である。
【符号の説明】
【0144】
1:あて板
2:基板
3:潤滑層
5:プリント配線板用素板
6:ドリル
10:押出コート装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム製基板の少なくとも片面に水溶性潤滑層が形成された孔あけ加工用あて板の製造方法において、
水溶性樹脂からなる水溶性潤滑層を押出コート法により基板の片面に形成する潤滑層形成工程を含むことを特徴とする孔あけ加工用あて板の製造方法。
【請求項2】
前記押出コート法は、
Tダイを有する押出機、加圧ロール及び冷却ロールを備えた押出コート装置を用い、前記加圧ロールと前記冷却ロールとの間に通された基板をその長さ方向に送りながら、前記押出機のTダイから連続して押し出された溶融した水溶性樹脂膜を、基板の片面における前記両ロールのニップ位置から上流側にずれた位置に接触供給することにより、前記両ロール間で基板と前記水溶性樹脂膜を挟圧し、これにより、基板の片面に前記水溶性樹脂からなる潤滑層を形成する方法である請求項1記載の孔あけ加工用あて板の製造方法。
【請求項3】
押出温度80〜200℃及び冷却ロール温度10〜40℃の押出コート条件で押出コート法により潤滑層を形成する請求項1又は2記載の孔あけ加工用あて板の製造方法。
【請求項4】
前記水溶性樹脂膜を、基板の片面における前記両ロールのニップ位置から上流側に1〜10mmずれた位置に接触供給する請求項2記載の孔あけ加工用あて板の製造方法。
【請求項5】
試験温度125℃及び試験荷重21.18Nで測定された前記水溶性樹脂のメルトフローレートが0.1〜100g/10minに設定されている請求項1〜4のいずれかに記載の孔あけ加工用あて板の製造方法。
【請求項6】
前記水溶性樹脂は、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、ポリエーテルエステル、ポリエチレンポリプロピレングリコールトリレンジイソシアネートコポリマーからなる群から選択された1種又は2種以上を含有している請求項1〜6のいずれかに記載の孔あけ加工用あて板の製造方法。
【請求項7】
アルミニウム製基板の少なくとも片面に水溶性潤滑層が形成された孔あけ加工用あて板において、
前記潤滑層は水溶性樹脂からなり且つ押出コート法により形成されたものであることを特徴とする孔あけ加工用あて板。
【請求項8】
アルミニウム製基板の少なくとも片面に水溶性潤滑層が形成された孔あけ加工用あて板において、
請求項1〜6のいずれかに記載の孔あけ加工用あて板の製造方法により製造されたものであることを特徴とする孔あけ加工用あて板。
【請求項9】
前記潤滑層の厚さが0.01〜1.0mmである請求項7又は8記載の孔あけ加工用あて板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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