説明

孔あけ工具

【課題】 孔あけ作業段階に合わせて最適量の油を刃先に供給することができる孔あけ工具を提供する。
【解決手段】 本発明は、被加工物に孔あけするための刃を有する孔あけ工具に関する。本発明による孔あけ工具(1)は、刃(2)を回転駆動するための刃駆動装置(6)と、刃(2)の刃先に油を供給するための電磁ポンプ(8)を有する油供給装置(10)と、刃駆動装置(6)及び油供給装置(10)を制御する制御部(12)とを有している。制御部(12)は、刃が回転していないとき、手動により電磁ポンプ(8)を第1の電圧で作動させ、且つ、刃駆動装置(6)により刃(2)が回転しているとき、刃駆動装置(6)と連動して自動で電磁ポンプ(8)を第1の電圧よりも低い第2の電圧で作動させるように構成されている。第1の電圧で作動される電磁ポンプ(8)による油の供給流量は、第2の電圧で作動される電磁ポンプ(8)による油の供給流量よりも多くなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、孔あけ工具に関し、更に詳細には、被加工物に孔あけする刃の刃先に油を供給するための油供給装置を備えた孔あけ工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、被加工物に孔あけする刃の刃先に油を供給するための油供給装置を備えた孔あけ工具が知られている。
例えば、特開平09−168908号公報に記載されているボール盤の油供給装置は、刃の刃先に油を供給するためのポンプを有し、ポンプによって油を一定流量で刃先に供給した後、油を回収し、回収した油をポンプによって刃先に再供給する。このボール盤の油供給装置では、油の供給量を孔あけ加工段階によって調整せず、常に十分な量の油を刃先に供給し、余分な油は回収する構成となっている。
また、例えば、従来の磁気固定式孔あけ工具の油供給装置においては、孔あけ工具の上部に設けられた油用のタンクと、油をタンクから孔あけ工具の下部に取付けられた刃まで供給するための管路と、管路の途中に設けられた手動コックとを有している。この油供給装置では、手動コックを開いて、タンク内の油をその自重によって管路の中を下方に導き、刃に油を供給する。また、このような磁気固定式孔あけ工具の油供給装置では、作業者が手動コックの開度を手で調整することにより、刃に供給される油の量を調整する。
【0003】
【特許文献1】特開平09−168908号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
孔あけ工具において刃先に油を供給するのは、刃と被加工物との間の摩擦を軽減し、刃の磨耗や損傷を防止するためであるが、上記の従来のボール盤の油供給装置では、常に十分な油を供給しており、刃の磨耗は防止することができるものの、回収装置を備えているため、装置が大型化し、また、装置を傾倒させると油を良好に回収できないことから、装置を直立状態に維持しておかならければならず、孔あけ作業の向きに制限がある。
また、上記の従来の磁気固定式孔あけ工具の油供給装置においては、油の供給量を作業者の調整に頼るので、油の供給量が少ない場合には、刃の磨耗を確実に防止することができず、また、必要以上の油を供給すると、タンク内の油がより早く消費されてしまい、補給に手間がかかる。
【0005】
そこで、本発明の目的は、孔あけ作業段階に合わせて最適量の油を刃先に供給することができる孔あけ工具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明による孔あけ工具は、被加工物に孔あけするための刃を回転駆動するための刃駆動装置と、刃の刃先に油を供給するための電動ポンプを有する油供給装置と、刃駆動装置及び油供給装置を制御する制御部と、を有し、制御部は、刃が回転していないとき、手動により電動ポンプを第1の電圧で作動させ、刃駆動装置により刃が回転しているとき、刃駆動装置と連動して自動で電動ポンプを第1の電圧よりも低い第2の電圧で作動させるように構成され、第1の電圧で作動される電動ポンプによる油の供給流量は、第2の電圧で作動される電動ポンプによる油の供給流量よりも多いことを特徴としている。
【0007】
このように構成された孔あけ工具では、刃が回転していない孔あけ加工前、手動により電動ポンプを第1の電圧で作動させ、比較的多い供給流量の油を刃先に供給する。それにより、刃先が被加工物に食い込み始めるときの摩擦を軽減する。次いで、孔あけ加工のために、刃駆動装置によって刃を回転させると、それに連動して、自動で電動ポンプを第2の電圧で作動させ、比較的少ない供給流量の油を刃先に供給する。それにより、刃先に適宜油が供給され、刃と被加工物との間の摩擦が軽減されると共に、余分な油の供給を防止することができる。また、孔あけ加工終了後、刃駆動装置による刃の回転を停止させると、それに連動して、電動ポンプが自動で停止する。その結果、孔あけ作業段階に合わせて最適な量の油を刃先に供給することができる。また、油の消費量に無駄がないので、タンクを小型化することができ、それによって装置全体の小型化を図ることができる。
【0008】
本発明の実施形態において、好ましくは、孔あけ工具を被加工物に対して着脱自在に固定する固定装置を有する。
このように構成された孔あけ工具では、孔あけ箇所に孔あけ工具を持っていき、傾倒状態であっても固定装置によって孔あけ工具を被加工物に固定し、孔あけ作業を行うことができる。本発明の実施形態によれば、孔あけ工具が傾倒状態であっても、孔あけ作業段階に合わせて適量の油を刃先に供給することができる。
また、このような孔あけ工具は、被加工物の組立現場等の作業現場で頻繁に使用される。このような場合、例えば、作業現場で油を余分に使用すると、油が作業現場に広がり、作業環境を悪化させる。また、刃先に油が不足すると、刃先の磨耗の進行を早めたり、現場での孔あけ作業時間を長引かせたりする。更に、孔あけ箇所によっては、油さし等で油を刃先に供給しにくいこともある。従って、着脱自在な固定装置を有する孔あけ工具において、孔あけ作業段階に合わせて適量の油を刃先に供給できることは特に有用である。
【0009】
本発明の上記実施形態において、好ましくは、制御部は、更に、前記第2の電圧を手動で調整するための電圧調整回路を有する。
このように構成された孔あけ工具では、第2の電圧を調整することにより、孔あけ加工中の油の供給流量を調整することができる。従って、孔あけすべき径の大きさや被加工物の材料等に適した量の油を刃先に供給することができる。
【0010】
本発明の実施形態において、好ましくは、制御部は、刃駆動装置により刃が回転しているとき、電動ポンプが作動される電圧を手動で第2の電圧から第1の電圧に切替えることができるように構成される。
このように構成された孔あけ工具では、孔あけ加工中、第2の電圧で作動される電動ポンプからの油の供給流量が足りないとき、手動により、電動ポンプが作動される電圧を第2の電圧から第1の電圧に切替え、油の供給流量を一時的に増大させることができる。例えば、刃駆動装置による刃の回転を止めずに、連続して複数の孔あけを行うときに有利である。詳細には、第1の孔あけとその次の第2の孔あけとの間に手動により第2の電圧を第1の電圧に切替えることにより、油の供給量を増大させ、第2の孔あけにおいて刃が被加工物に食い込み始めるときの摩擦を軽減することができる。
【0011】
上述した固定装置を有する本発明の実施形態において、好ましくは、更に、電動モータに対する刃と反対側において刃駆動装置と固定装置とにより構成される空きスペースを有し、油供給装置は、更に、油を収容するためのタンクを有し、タンクは、空きスペースに配置される。
このように構成された孔あけ工具では、刃駆動装置と固定装置とにより構成される空きスペースを利用してタンクが配置されている。その結果、孔あけ工具全体をコンパクトにすることができる。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、本発明により、孔あけ作業段階に合わせて最適量の油を刃先に供給することができる孔あけ工具を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図1及び図2を参照して、本発明による孔あけ工具の1つの実施形態を説明する。図1は、本発明の実施形態である磁気固定式孔あけ工具の正面図である。図2は、図1の磁気固定式孔あけ工具の左側面図である。本実施形態である磁気固定式孔あけ工具は、傾倒状態でも孔あけ作業が可能であるが、以下、被加工物の水平面に上方から取付ける場合を例に挙げて、磁気固定式孔あけ工具を説明する。
【0014】
図1及び図2に示すように、本発明の実施形態である磁気固定式孔あけ工具1は、被加工物Sに孔あけするための刃2と、孔あけ工具1を被加工物Sに対して着脱自在に固定する固定装置4と、刃2を回転駆動するための刃駆動装置6と、刃2の刃先に油を供給するための電動ポンプ8を有する油供給装置10と、固定装置4、刃駆動装置6及び油供給装置10を制御する制御部12と、刃駆動装置6と固定装置4との間に配置され、刃駆動装置6を固定装置4に対して摺動可能に取付けるための摺動装置13を有している。
【0015】
固定装置4は、ハウジング14と、ハウジング14内に収容され、孔あけ工具1を被加工物Sに固定するための磁力を発生させる電磁石16とを有している。ハウジング14は、孔あけ工具1を被加工物Sに固定するときに被加工物孔Sとの取付け面を構成する下面14aを有している。電磁石16は、後述するように、制御部12に接続されている。
摺動装置13は、孔あけ工具1を固定装置4によって被加工物Sに固定した後に刃2の位置を孔あけ位置に合わせるために、刃駆動装置6を固定装置4の下面14aとほぼ平行に固定装置4に対して摺動させる摺動機構(図示せず)と、刃駆動装置6を固定装置4に対して固定するためのロック機構17(図1参照)とを有している。摺動機構及びロック機構17は、本発明と直接関係がないので、その説明を省略する。
【0016】
次に、図3〜図5を参照して刃駆動装置6を詳細に説明する。図3〜図5はそれぞれ、刃が上位置にあるときの刃駆動装置の部分断面図、刃を下げたときの刃駆動装置の部分断面図、及び、刃が被加工物に食い込んでいるときの刃駆動装置の部分断面図である。
図3に示すように、刃駆動装置6は、固定装置4の上に取付けられたケーシング18と、ケーシング18内に配置された、刃2を回転させるための電動モータ20と、電動モータ20の回転を刃に伝えるための回転伝動機構22と、刃2を回転させながら被加工物Sに向かって下方に移動させるための上下移動機構24とを有している。
電動モータ20は、孔あけ工具1の高さ寸法を小さくするために、回転軸線28が下面14aとほぼ平行になるように、即ち、水平方向にケーシング18内に配置されている。電動モータ20は、回転軸線28周りに回転する出力軸30を有し、後述するように、制御部12に接続されている。
【0017】
回転伝動機構22は、モータ20の出力軸30に固定された第1のベベルギヤ32と、第1のへベルギヤ32と噛合い且つ回転軸線28と垂直な上下方向軸線34周りに回転可能な第2のベベルギヤ36と、第2のベベルギヤ36を上下方向に貫き、それと一体に且つ同心に回転するように上下2カ所でベアリング37によって支持された円筒状の外側回転軸38と、外側回転軸38内においてそれと一緒に且つ同心に回転しながら外側回転軸38に対して上下方向に摺動自在な円筒状の内側回転軸40とを有しており、内側回転軸40は、刃2が内側回転軸40と同心に且つ着脱可能に固定されている下部分40aを有している。
外側回転軸38は、上下方向に延び且つ内側回転軸40を摺動自在に受入れるための貫通孔42を有している。例えば、内側回転軸40はスプラインを有し、貫通孔42はこのスプラインに嵌合する孔である。内側回転軸40は、外側回転軸38の貫通孔42に沿って摺動自在な上部分40bを有し、上部分40bから下方に延びる下部分40aの外径は、上部分40bの外径よりも大きくなっている。
上下移動機構24は、内側回転軸40の下部分40aにベアリング44を介して取付けられたブラケット46と、ブラケット46から上方向に延び且つ内側回転軸40と一緒にケーシング18に対して上下方向に摺動自在なラック(図示せず)と、このラックと噛合い且つラックを上下方向に摺動させるために軸48を中心に回転可能なピニオン(図示せず)と、ピニオンに連結された上下レバー50(図1及び2参照)とを有している。上下移動機構24の構成要素は、本発明と直接関係がないので、その説明を省略する。
【0018】
また、内側回転軸40は、それを上下方向に貫いて延びる貫通孔52を有し、この貫通孔52は、後述する刃2の取付け部2bを受入れる内径を有し且つ下端52aから上方に第1の段部52cまで延びる下部52bと、第1の段部52cから上方に第2の段部52eまで延び且つ下部52bよりも小さい内径を有する中間部52dと、第2の段部52eから上方に上端52gまで延び且つ中間部52dよりも小さい内径を有する上部52fとを有している。
貫通孔52の中間部52d内には、後述する刃2のセンターピン62を下方に付勢するために中間部52d内を摺動自在な押し部材54と、押し部材54を下方に付勢するばね56とが挿入されている。ばね56は、第2の段部52eと押し部材54とに当接した圧縮ばねである。貫通孔52の下部52bには、円筒形の押し部材ストッパ58が第1の段部52cに隣接して支持されている。押し部材ストッパ58は、押し部材54が貫通孔52の中間部52dを越えて下方に移動することを阻止するように押し部材54に当接する座60を有している。押し部材54と座60とは、それらの間に密封性を有するような寸法及び材料で形成されるのが良い。押し部材ストッパ58の内径は、押し部材54の外径、即ち、貫通孔52の中間部52dの内径よりも小さくなっている。
【0019】
刃2は、上下方向軸線34と同心の刃先を有する円筒状の刃本体2aと、刃本体2aから上方に延び且つ内側回転軸40の貫通孔52の下部52bに嵌合して側方からネジ等によって固定される取付け部2bとを有している。刃本体2aは、その内側に、内壁2cと、天井壁2dとを有している。取付け部2bは、その中心に上下方向に延びるピン用貫通孔2eを有し、このピン用貫通孔2eには、センターピン62が上下方向に摺動自在に挿入されている。ピン用貫通孔2eの内径は、押し部材ストッパ58の内径よりも僅かに小さくなっている。
センターピン62は、ピン用貫通孔2eに嵌合し且つ刃2よりも長い上下方向長さを有する本体部62aと、本体部62aから上方に延び且つ押し部材ストッパ58に嵌合する上端部62bとを有している。
【0020】
図4に示すように、上下レバー50を軸48を中心に下方に回動させることにより刃2を図3に示す位置から下げたとき、センターピン62の先端62cが被加工物Sに当接するまでの間、刃2、内側回転軸40、押し部材54、押し部材ストッパ58及びセンターピン62の相対的な位置関係は変わらない。また、図5に示すように、更に上下レバー50を回動させることにより刃2を下げてそれを被加工物Sに食い込ませたとき、刃2、内際回転軸40及び押し部材ストッパ58に対して、押し部材54及びセンターピン62は上方に移動する。
【0021】
図1に示すように、本発明の実施形態では、回転軸線28方向の長さ寸法に関し、孔あけ工具1を被加工物Sにしっかり固定するのに必要な固定装置4の寸法、及び、被加工物Sに孔あけするのに必要な動力を発生させる刃駆動装置6内の電動モータ20の寸法が、刃駆動装置6を固定装置4に対して摺動させる摺動装置13の寸法よりも大きくなっている。そのため、電動モータ20に対して刃2と反対側において、刃駆動装置6と固定装置4との間に空きスペース64が生じている。
【0022】
次に、図1〜図3を参照して、油供給装置10を説明する。
図1に示すように、油供給装置10は、電動ポンプ8と、油を収容するためのタンク70と、タンク70から電動ポンプ8の吸込み口8aまで延びる吸込み側管路72と、電動ポンプの吐出口8bからケーシング18の上部に且つ上下方向軸線34と整列して設けられた継手74まで延びる吐出側管路76とを有している。
電動ポンプ8は、後述するように、制御部12に接続されており、本実施形態では、電磁ポンプ8である。電動ポンプとして電磁ポンプ8を採用することにより、電動ポンプが占めるスペースを小さくすることが可能になり、孔あけ工具1をコンパクトにし且つ軽量にすることができる。
タンク70は、電動モータ20に対して刃2と反対側において、刃駆動装置6と固定装置4との間の空きスペース64に配置されている。また、タンク70は、油補給口70aと、油補給口を密封するための蓋70bとを有している。
吸込み側管路72及び吐出側管路76は、中を流れる油が見えるように透明であることが好ましい。
【0023】
図3に示すように、油供給装置10は、更に、継手74と連通し且つケーシング18から内側回転軸40内にそれと同心に下方に延びる油供給管78を有している。油供給管78は、内側回転軸40の貫通孔52の上部52fに摺動自在に嵌合している。油供給管78は、内側回転軸40が刃2と一緒に下げられたとき、内側回転軸40の貫通孔52の上部52fと油供給管78との嵌合を維持するのに十分な長さを有している。貫通孔52の上部52eと油供給管78との間の密封性を維持するために、Oリング等のシール部材80が設けられている。
【0024】
次に、図1及び図2を参照して、制御部12を説明する。
図1及び図2に示すように、制御部12は、電磁石16の作動をON/OFFするための電磁石用スイッチ90と、モータ20の作動をON/OFFするためのモータ用スイッチ92と、手動により電磁ポンプ8を作動させるための押しボタンスイッチ94と、刃2が回転しているときの電磁ポンプ8にかかる電圧を調整して油の吐出量を調整するための調整つまみ96とを有している。押しボタンスイッチ94は、ノーマルオープン接点とノーマルクローズ接点を同時に作動させるように構成されている。
【0025】
次に、これらのスイッチ等を含む制御部12内の電気回路の一例を図6を参照して説明する。図6は、本発明による磁気固定式孔あけ工具の電気回路図である。
図6に示すように、概略的には、電気回路100の100Vの交流電源102に、電磁石16を作動させるための整流回路104、電動モータ20、及び電磁ポンプ8が並列に接続されている。詳細には、交流電源102、電磁石用スイッチ90及び整流回路104が直列に接続されている。また、直列に接続されたモータ用スイッチ92及び電動モータ20が、電磁石用スイッチ90と整流回路104との間のノード106から整流回路104と並列に接続されている。同様に、直列に接続された押しボタンスイッチ94のノーマルオープン接点94a及び電磁ポンプ8が、ノード106から整流回路104と並列に接続されている。また、モータ用スイッチ92と電動モータ20との間のノード108と、ノーマルオープン接点94aと電磁ポンプ8との間のノード110との間には、押しボタンスイッチ94のノーマルクローズ接点94bと電磁ポンプ8にかかる電圧を調整するための電圧調整回路112とが直列に接続されている。電圧調整回路112は、ノード108、110間の電圧を調整するための調整つまみ96を含んでいる。
【0026】
次に、本発明の実施形態である磁気固定式孔あけ工具の動作を説明する。
最初、孔あけ工具1を100Vの交流電源につなぎ、被加工物Sの上に置く。電磁石用スイッチ90をONにすると、電磁石16は磁力を発生させ、それにより、孔あけ工具1が鋼材等の被加工物Sの上に固定される。固定された孔あけ工具1の姿勢はどのような向きであっても良く、孔あけ工具1が傾倒されて固定されていも良いし、上下逆に固定されても良い。
【0027】
次いで、孔あけ工具1を被加工物Sの上に固定したまま(電磁石用スイッチ90がON)、刃2を回転させない状態で(モータ用スイッチ92がOFF)押しボタンスイッチ94を押すと、電磁ポンプ8に第1の電圧、即ち、電源電圧がかかり、電磁ポンプ8は、油をタンク70から吸込み側管路72を通して吸込み、吐出口8bから最大流量で吐出する。吐出された油は、吐出側管路76、継手74、油供給管78を通って、内側回転軸40の貫通孔52の中間部52dに達する。刃2が図3又は図4に示す位置にあるとき、押し部材54と押し部材ストッパ58とが密封的に当接しているので、油は、貫通孔52の中間部52e内に且つ押し部材54の上に溜められる。上下レバー50を軸48を中心に下方に回動させることにより、刃2を図5に示す位置に移動させると、押し部材54と押し部材ストッパ58との間に隙間ができ、油が刃先に向かって下方に供給される。詳細には、電磁ポンプ8が油を吐出することにより、貫通孔52の中間部52d内の圧力が上昇している。従って、押し部材54と押し部材ストッパ58との間に隙間ができると、貫通孔52の中間部52dに溜められていた油は、押し部材54と貫通孔52の中間部52dとの間の摺動部分の僅かな隙間、押し部材54と押し部材ストッパ58との間の隙間、及びセンターピン62と刃2のピン用貫通孔2eとの間の摺動部分の僅かな隙間を通して下方に向かって押し進められる。ピン用貫通孔2eから押し出された油は、刃2の天井壁2d及び内壁2cを伝って刃先に供給される。それにより、刃先に必要な量の油を迅速に供給することができる。上述のように押し部材54の上に油を溜めてから刃2を下げることにより油を供給しても良いし、刃を図5に示す位置に下げてから油を供給しても良い。油が刃先になじんだら、押しボタンスイッチ94を離して、電磁ポンプ8の作動を停止させる。
【0028】
次いで、モータ用スイッチ92をONにして、電動モータ20を回転させ、第1のベベルギヤ、第2のベベルギヤ、外側回転軸及び内側回転軸を介して刃を回転させる。それと同時に、電磁ポンプ110には、電源電圧(第1の電圧)よりも低い第2の電圧、即ち、電源電圧から電圧調整回路112の両端の電圧を引いた電圧がかかる。それにより、電磁ポンプ8は、最大流量よりも少ない流量、即ち、電磁ポンプ8にかかる電圧に応じた流量で油を供給する。油の供給流量は、油供給管78から油が滴下する程度が良い。そのときに電磁ポンプ8にかかる電圧は、例えば、30〜45Vであることが好ましい。
電磁ポンプ8からの供給流量を調節するときは、調整つまみ96をまわし、電圧調整回路112の両端の電圧を変化させることにより、電磁ポンプ8にかかる電圧を変化させれば良い。
また、刃2を回転させているときに刃2により多くの油を供給したい場合には、刃2を回転させたまま(モータ用スイッチ92をON)押しボタンスイッチ94を押すと、電磁ポンプ8に第1の電圧、即ち、電源電圧がかかり、電磁ポンプ8は、最大供給流量で油を供給する。
次いで、モータ用スイッチ92をOFFにして、電動モータ20の回転を停止させると、それと同時に、電磁ポンプ110に電圧がかからなくなり、油の供給を停止する。
【0029】
上述の実施形態では、刃2を連続的に回転させることにより電磁ポンプ8を連続的に作動させるときには、電磁ポンプ8に定格(電源)電圧よりも低い電圧しかかからず、しかも、最大流量を得るために電磁ポンプ8に定格(電源)電圧をかけるのは一時的に押しボタンスイッチ94を押すときだけである。その結果、小型の電磁ポンプ8を焼きつきなしに使用することが可能になる。それにより、油の消費量を抑えて、タンク内の油を長期間使用することを可能にすると共に、孔あけ工具1をコンパクトにすることができる。
また、上述の実施形態では、押し部材54と押し部材ストッパ58とが当接しているときに、油が貫通孔52の中間部52から刃2に漏れ出てこないように構成されている。更に、刃2を下げたときのセンターピン62の移動を利用して、押し部材54を移動させ、押し部材54と押し部材ストッパ58との間に隙間を形成することにより、油を刃2に供給している。このため、刃2への油の供給と停止を行う機構を刃駆動装置2内に収容することができ、孔あけ工具1をコンパクトにすることができる。
【0030】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、以上の実施の形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいまでもない。
上述の説明では、本発明を、固定装置により被加工物に着脱自在に固定される孔あけ工具の実施形態を例に挙げて説明したけれども、孔あけ作業段階に合わせて最適量の油を刃先に供給することができれば、固定装置のない据付式ボール盤等、その他の孔あけ工具であっても良い。
また、上述の実施形態では、孔あけ工具1を被加工物Sに固定するのに電磁石を利用したが、孔あけ工具1が被加工物Sにしっかり固定されれば、クランプ装置等の他の固定方法を採用しても良い。
また、上述した実施形態では、電動ポンプとして電磁ポンプ8を採用したけれども、電動ポンプの配置スペースに余裕があれば、他の電動ポンプを採用しても良い。
また、上述の実施形態では、刃駆動装置6、油供給装置10及び制御部12を一体に構成したけれども、それに限らず、それらを別々に構成し電気及び流路を後から接続しても良い。
本実施形態では、刃2が回転していない状態で押しボタンスイッチ94を押したときに電磁ポンプ8にかけられる電圧と、刃2が回転している状態で押しボタンスイッチ94を押したときに電磁ポンプ8にかけられる電圧とが同じであったが、刃先に必要な量の油を迅速な供給をすることができる電圧であれば、両者の電圧の大きさは任意である。従って、前者の電圧が後者の電圧よりも高くても良いし、その逆に、前者の電圧が後者の電圧よりも低くても良い。
また、上述の実施形態では、刃先の形状が円筒形であったが、それに限らず、中実の刃先形状であっても良い。この場合には、油が刃の外面を伝って刃先に供給されることになる。
また、上述の実施形態において示した電気回路は1つの例に過ぎず、本発明の目的である孔あけ作業段階に合わせて最適量の油を刃先に供給することができれば、その他の電気回路を使用しても良い。例えば、いったん押しボタンスイッチ94を押したら、一定時間、電磁ポンプ8が最大流量で油を供給するようにしても良いし、刃2の回転を停止してから一定時間後に電磁ポンプ8の作動が停止するようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明による磁気固定式孔あけ工具の正面図である。
【図2】図1の磁気固定式孔あけ工具の左側面図である。
【図3】刃が上位置にあるときの刃駆動装置の部分断面図である。
【図4】刃を下げたときの刃駆動装置の部分断面図である。
【図5】刃が被加工物に食い込んでいるときの刃駆動装置の部分断面図である。
【図6】本発明による磁気固定式孔あけ工具の電気回路図である。
【符号の説明】
【0032】
1 孔あけ工具
2 刃
4 固定装置
6 刃駆動装置
8 電磁ポンプ
10 油供給装置
12 制御部
64 空きスペース
70 タンク
94 押しボタンスイッチ
96 調整つまみ
112 電圧調整回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
孔あけ工具であって、
被加工物に孔あけするための刃を回転駆動するための刃駆動装置と、
前記刃の刃先に油を供給するための電動ポンプを有する油供給装置と、
前記刃駆動装置及び前記油供給装置を制御する制御部と、を有し、
前記制御部は、前記刃が回転していないとき、手動により前記電動ポンプを第1の電圧で作動させ、且つ、前記刃駆動装置により前記刃が回転しているとき、前記刃駆動装置と連動して自動で前記電動ポンプを前記第1の電圧よりも低い第2の電圧で作動させるように構成され、前記第1の電圧で作動される電動ポンプによる油の供給流量は、前記第2の電圧で作動される電動ポンプによる油の供給流量よりも多いことを特徴とする孔あけ工具。
【請求項2】
更に、孔あけ工具を被加工物に対して着脱自在に固定する固定装置を有することを特徴とする請求項1に記載の孔あけ工具。
【請求項3】
前記制御部は、更に、前記第2の電圧を手動で調整するための電圧調整回路を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の孔あけ工具。
【請求項4】
前記制御部は、前記刃駆動装置により前記刃が回転しているとき、前記電動ポンプが作動される電圧を手動で前記第2の電圧から前記第1の電圧に切替えることができるように構成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の孔あけ工具。
【請求項5】
更に、前記電動モータに対する前記刃と反対側において前記刃駆動装置と前記固定装置とにより構成される空きスペースを有し、
前記油供給装置は、更に、油を収容するためのタンクを有し、前記タンクは、前記空きスペースに配置されることを特徴とする請求項2に記載の孔あけ工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−61993(P2006−61993A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−244004(P2004−244004)
【出願日】平成16年8月24日(2004.8.24)
【出願人】(501368540)株式会社 広沢製作所 (2)
【Fターム(参考)】