説明

孔加工用工具

【課題】孔加工機に組み付けたままの状態で、加工部の外径を拡縮する作業を行える孔加工用工具を実現する。
【解決手段】
工具本体19aの軸方向中間部に設けた大径側テーパ部36と、スリーブ32に形成され径方向に関する拡縮が可能な大径加工部42の内周面とを、軸方向に関する相対変位を可能な状態でテーパ嵌合する。そして、前記工具本体19aの雄ねじ部53と螺合した調整ナット48の軸方向に関する変位を、前記スリーブ32に伝達可能な状態に組み付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、各種機械装置の部品等に形成する円孔の内面(内径面、内周面)を仕上げる為の工作機械に組み付けられる孔加工用工具に関する。例えば、この孔加工用工具を、加工すべき円孔の内側で1往復させる、所謂ワンパスでの精密孔仕上加工に用いるワンパスホーニング盤等の工作機械に組み付けられる孔加工用工具の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
ホーン或はリーマ等の孔加工用工具(回転工具)を利用して、各種機械装置の部品等に形成する円孔の内径面を、所望の寸法及び性状(特に表面粗さ)に仕上げる為の工作機械として、孔加工機が従来から各種知られている。
【0003】
図4〜6は、特許文献1に記載された孔加工機の構造を示している。この孔加工機1は、主軸2と、主軸頭3と、回転工具把持具であるコレットチャック4と、工具用マガジン5と、マガジン移動手段6とを備える。
この様な孔加工機1は、前記工具用マガジン5に設けた複数の保持切り欠き7、7に、それぞれ孔加工用工具8、8を保持している。又、前記コレットチャック4を構成している内筒9を、前記主軸2により回転駆動自在としている。尚、この構造の場合、この内筒9を前記主軸2の先端部(図4、5の下端部)に一体に形成している。
又、前記マガジン移動手段6により前記何れか1個所の保持切り欠き7を前記コレットチャック4の直下位置に前進させると共に前記主軸頭3を下降させた状態で、前記工具用マガジン5の上面に設けた係止凸部10と、前記コレットチャック4を構成する外筒11の下端部外周面に形成した係止凹部12とを係合させて、この外筒11の回転を阻止している。この状態で前記主軸2を回転させれば、前記コレットチャック4を構成する把持筒13の内径が拡縮する。この様にして、このコレットチャック4の内径の拡縮を自動的に行い、前記各孔加工用工具8、8の交換を無人で行える構造を実現している。
【0004】
又、図7は、特許文献2に記載された、前述した様な孔加工機1に組み付けられる従来構造の孔加工用工具8aを示している。この孔加工用工具8aは、図8に示す様なワーク14に形成された、大径孔15と小径孔16とが段部17を介して連続している、所謂段付き孔18の内径面を、所望の寸法及び性状に仕上げる為に使用する。
【0005】
前記孔加工用工具8aは、中空状部材である工具本体19と、この工具本体19の内側に設けられた大径側拡縮部材20及び小径側拡縮部材21とから成る。このうちの工具本体19の軸方向中間部の先端寄り(図7の下側)部分には、円周方向複数個所に軸方向に長いスリット22が形成された大径加工部23が設けられている。又、この大径加工部23よりも前記工具本体19の先端寄り(図7の下側)部分には、円周方向複数個所に軸方向に長いスリット24が形成された小径加工部25が設けられている。又、これら大径、小径加工部23、25は、後述する様に、前記各スリット22、24の存在に基づき径方向に関する拡縮が可能とされている。
【0006】
前記孔加工用工具8aの大径加工部23を拡張(縮小)させる場合、前記工具本体19の内径側に設けられた前記大径側拡縮部材20を、前記工具本体19の基端側開口部から挿入した六角レンチ等の工具(図示省略)により所定の方向に回転させる。すると、前記工具本体19の基端側の内周面に形成された雌ねじ部26と、前記大径側拡縮部材20の基端部の外周面に形成された雄ねじ部27との螺合に基づいて、この大径側拡縮部材20の先端部外周面に形成されたテーパ部28が軸方向に変位する。その結果、この大径側拡縮部材20のテーパ部28と、前記大径加工部23の内周面とが軸方向に関して相対変位し、前記スリット22の円周方向に関する幅が広がり(縮小の場合は狭まり)、この大径加工部20の外径が拡張(縮小)する。
【0007】
一方、前記小径加工部25を拡張(縮小)させる場合、前記工具本体19の内径側に設けられた前記小径側拡縮部材21を、前記工具本体19の先端側開口部から挿入した六角レンチ等の工具により所定の方向に回転させる。すると、前記工具本体19の先端側の内周面に形成された雌ねじ部29と、前記小径側拡縮部材21の基端部外周面に形成された雄ねじ部30との螺合により、この小径側拡縮部材21が軸方向に変位する。その結果、この小径側拡縮部材21の先端部外周面に形成されたテーパ部31と、前記小径加工部22とが軸方向に関して相対変位し、前記スリット21の円周方向に関する幅が広がり(縮小の場合は狭まり)、この小径加工部22の外径が拡張(縮小)する。
【0008】
この様な孔加工用工具8aの場合、この孔加工用工具8aの大径加工部20、又は小径加工部22が摩耗しても、この大径加工部20、又は小径加工部22の外径を拡張(場合によっては縮小)して適切な外径に調整する事ができる。この為、これら両加工部20、22に設けた摩擦材等が、十分な厚さを有している場合には、前記孔加工用工具8aを継続して使用する事ができる。その結果、孔加工用工具の交換サイクルを長くでき、加工コストの低減を図れる。
【0009】
但し、前記大径加工部20を拡張(縮小)する作業は、前記孔加用工具8aを孔加工機のコレットチャックから取り外した状態で行わなければならない。即ち、前記孔加用工具8aがこのコレットチャックに組み付けられた状態では、前記工具本体19の基端側開口部が、前記孔加工機のコレットチャックにより覆われている為、前記大径側拡縮部材20を回転する事ができない。この為、前記大径加工部20を拡張(縮小)する作業は工数が嵩み、仕上加工の作業効率が低下してしまう事が考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−116644号公報
【特許文献2】特開2000−719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、大径加工部と小径加工部とを備えた孔加工用工具に関して、孔加工機の主軸に組み付けたままの状態で、大径加工部更には小径加工部の外径を拡縮する事ができる構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の孔加工用工具は、大径加工部と、小径加工部とを備え、工具本体と、この工具本体に外嵌されたスリーブとから成る。
このうちの工具本体は、略円柱状で、軸方向基端部に孔加工機の主軸に固定した工具用把持具に把持される被把持部を有する。又、軸方向中間部に、外径が軸方向に関して漸次変化する大径側テーパ部を有する。更に、軸方向先端部に、その外周面に、例えばダイヤモンド等の摩擦材を電着等の接着手段により接着した、前記小径加工部を有する。
又、前記スリーブは、径方向に関する拡縮が可能で、その外周面に、例えばダイヤモンド等の摩擦材を電着等の接着手段により接着した、前記大径加工部を有する。又、前記工具本体の中間部に、この工具本体に対する軸方向の相対変位可能、且つ相対回転不能な状態で外嵌されている。
又、前記大径加工部の、円周方向に関して1乃至複数個所には軸方向に長いスリットを形成している。又、その内周面を、前記大径側テーパ部と軸方向に関して反対方向に傾斜したテーパ形状としており、前記大径側テーパ部にテーパ嵌合している。そして、前記スリーブをこの工具本体に対して軸方向に変位させる事で、前記大径加工部の内周面とこの大径側テーパ部とを軸方向に関して相対変位させて、前記大径加工部の外径を拡縮させる。
【0013】
上述の様な本発明の孔加工用工具を実施する場合に、具体的には、請求項2に記載した発明の様に、前記被把持部を前記工具用把持具に組み付けた状態で、前記スリーブを、前記工具本体に対して軸方向に相対変位させる事が可能な調整ナットを設ける。
又、この調整ナットは、内周面に形成された雌ねじ部と、前記工具本体の外周面に形成された雄ねじ部とを螺合した状態で、この工具本体に対して軸方向に関する相対変位を可能に組み付ける。そして、この螺合に基づく前記調整ナットの軸方向の変位を前記スリーブに伝達する。
【0014】
又、上述の様な本発明の孔加工用工具を実施する場合に、具体的には、請求項3に記載した発明の様に、前記小径加工部を、径方向に関する拡縮が可能な中空状とする。又、円周方向に関して1乃至複数個所に軸方向に長いスリットを形成する。更に、内周面の内径が軸方向に関して漸次変化したテーパ形状とする。
又、前記小径加工部の内側に、この小径加工部と軸方向に関する相対変位を可能な状態でテーパコーンを配置する。
又、このテーパコーンは、外周面に前記小径加工部の内周面と軸方向に関して反対方向に傾斜した小径側テーパ部を有する。又、この小径側テーパ部と前記小径加工部の内周面とをテーパ嵌合する。そして、前記小径加工部の内周面とこのテーパコーンとを軸方向に関して相対変位させて前記小径加工部の外径を拡縮させる。
【0015】
又、請求項3に記載した孔加工用工具を実施する場合に、具体的には、請求項4に記載した発明の様に、
前記被把持部を前記工具用把持具に組み付けた状態で、前記テーパコーンを、前記小径加工部に対して、軸方向に相対変位させる事が可能な押し引きロッドを設ける。
又、この押し引きロッドは、その一端を前記テーパコーンに連続させている。又、他端にこの押し引きロッドを回転させる為の係止部(例えば工具の先端部と係合可能な係合孔)を有する。更に、他端部外周面に雄ねじ部を有する。そして、この雄ねじ部と前記工具本体の先端部内周面に形成された雌ねじ部とを螺合した状態で組み付ける。
【発明の効果】
【0016】
上述の様な本発明の孔加工用工具の場合、大径加工部更には小径加工部が摩耗しても、この孔加工用工具を孔加工機の主軸に組み付けたままの状態で、前記各加工部の外径を拡縮する作業を行う事ができる。この為、これら各加工部を拡縮する作業の工数を少なくできて、仕上加工の加工効率の向上を図る事ができる。
又、前記大径加工部を前記工具本体の中間部に外嵌したスリーブにより構成している。この為、この大径加工部の磨耗が進み継続して使用できない様な場合に、孔加工用工具全体を交換する事なく、スリーブのみを交換すれば良い。その結果、工具に掛かるコストの低減及び省資源化を図る事ができる。又、スリーブを交換する事で、大径加工部の外径や面粗度等を容易に変更する事もできる。
又、前記工具本体の外周面のうち、前記スリーブと整合する位置に、例えば、目盛り等を設けておけば、このスリーブの軸方向に関する移動量を目視で確認でき、大径加工部の拡縮量を把握し易い。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を、孔加工用工具を孔加工機に組み付けた状態で示す、部分断面図。
【図2】同じく、図1の下方から見た図。
【図3】同じく、孔加工用工具の断面図。
【図4】従来構造の孔加工機の1例を、一部を省略した状態で示す部分断面図。
【図5】同じく、図4のX部拡大図。
【図6】同じく、図4のA矢視図。
【図7】拡縮可能な大径加工部及び小径加工部を備えた、孔加工用工具の従来構造の1例を示す断面図。
【図8】大径加工部及び小径加工部を有する孔加工用工具により加工する事ができる、段付き孔の形状の1例を示すワークの断面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1〜3は、本発明の実施の形態の1例を示している。尚、本発明の特徴は、大径加工部及び小径加工部を有する孔加工用工具を孔加工機に組み付けたままの状態で、これら両加工部の外径を拡張或いは必要に応じて縮小できる構造を設けた点にある。尚、本例の孔加工用工具を組み付ける孔加工機の構造及びこの孔加工機に、この孔加工用工具を組み付ける方法は、前記特許文献1に記載された前記孔加工機1の構造と基本的に同じである。又、本例の孔加工用工具は、前記特許文献1に記載された孔加工機1の様に、孔加工用工具の交換を無人で行う機能を備えていない孔加工機の構造にも適用できる。以下、本発明の特徴部分を中心に説明する。
【0019】
本例の孔加工用工具8bは、図8に示す様な、ワーク14に形成した段付き孔18の内側で、一往復させる事で、大径孔15及び小径孔16の内面を同時に所望の寸法及び性状に仕上げる為に使用するものであり、工具本体19aと、スリーブ32と、大径側拡縮手段33と、小径側拡縮手段34とを備える。
このうちの工具本体19aは、略円柱状で、軸方向基端部(図1、3の上側)に被把持部35を有する。又、軸方向中間部に、大径側テーパ部36を形成している。更に、軸方向先端部には、小径加工部37を設けている。
【0020】
このうちの被把持部35は、孔加工機1bの主軸2aに固定されたコレットチャック4aに把持されている。
【0021】
又、前記大径側テーパ部36は、軸方向一方(図1、3の上方)に進む程、外径が小さくなるテーパ形状(例えば、テーパ率1/50程度)である。
【0022】
又、前記小径加工部37は、中空筒状で、その外周面にダイヤモンド等の摩擦材を電着等の接着手段により接着している。又、この小径加工部37の円周方向等間隔複数個所(本例の場合6個所)には、軸方向に長いスリット38、38を形成している。又、この小径加工部37の内周面は、軸方向一方(図1、3の上方)に進む程外径が小さくなるテーパ形状(例えば、テーパ率1/50)である。更に、前記工具本体19aの先端部(小径加工部37よりも軸方向先端側に外れた部分の内周面)には、雌ねじ部39を形成している。この様な小径加工部37は、前記各スリット38、38の円周方向の幅を変化させる事で、径方向に関する拡縮が可能である。
【0023】
又、前記スリーブ32は、鍔つき円筒状で、円筒部40と、鍔部41とを有する。
このうちの円筒部40は、軸方向中間部から他方寄り(図1、3の下方)部分に、大径加工部42を有する。又、この大径加工部42の内周面は、軸方向一方(図1、3の上方)に進む程内径が小さくなるテーパ形状(テーパ率1/50程度)である。更に、前記大径加工部42の円周方向等間隔複数個所(本例の場合6個所)には、軸方向に長いスリット43、43を形成している。この様な前記大径加工部42は、前記各スリット43、43の円周方向の幅を変化させる事で、径方向に関する拡縮が可能である。又、前記大径加工部42の外周面にも、ダイヤモンド等の摩擦材を電着等の摩擦手段により接着している。
【0024】
又、前記円筒部40の前記大径加工部42よりも軸方向一方(図1、3の上側)寄り部分の、径方向に関する反対位置に、軸方向に長い長円形状の1対の回り止め通孔44、44を形成している。これら両回り止め通孔44、44の円周方向に関する幅は、後述する回り止めピン46の外径とほぼ同じである。
【0025】
又、前記鍔部41は、前記円筒部40の軸方向一端部外周面から径方向外方に突出した状態で設けられている。又、この鍔部41の、円周方向等間隔複数個所(本例の場合4個所)には、この鍔部41を径方向に貫通するねじ孔47、47を形成している。
【0026】
この様なスリーブ32は、前記大径加工部42の内周面と、前記大径側テーパ部36とをテーパ嵌合した状態で、前記工具本体19aの軸方向中間部に、この工具本体19aに対する相対回転不能、且つ軸方向に関する相対変位可能な状態で外嵌している。
この相対回転に関する規制は、前記両回り止め通孔44、44の内側面と、前記工具本体19aの軸方向中間部に直径方向に貫通する状態で形成された通孔45に挿入した回り止めピン46の両端部外周面との係合により図っている。
又、前記軸方向に関する相対変位量は、前記両回り止め通孔44、44の軸方向に関する長さの範囲内に規制している。
【0027】
又、前記大径側拡縮手段33は、調整ナット48と、ロックナット49と、連結部材50とを備える。
このうちの調整ナット48は、段付円筒状であり、内周面に雌ねじ部51を形成している。又、外周面の他端(図3の下方)寄り部分に、係合溝52を全周に亙り形成している。
この様な調整ナット48は、前記雌ねじ部51と、前記工具本体19aの軸方向中間部(被把持部35と大径側テーパ部36との間部分)に形成した雄ねじ部53とを螺合した状態でこの工具本体19aに組み付けている。即ち、この調整ナット48は、前記工具本体19aに対して相対回転する事で、この工具本体19aに対して軸方向に相対変位する事ができる。
【0028】
又、前記ロックナット49は、前記調整ナット48の軸方向一方側に、このロックナット49の内周面に形成した雌ねじ部(図示省略)と、前記工具本体19aの雄ねじ部53とを螺合した状態で組み付けている。この様にして前記調整ナット48が緩む事の防止を図っている。
【0029】
又、前記連結部材50は、円筒を2分割した如き形状を有し、1対の連結素子54、54により構成している。これら両連結素子54、54は、半円筒部55と、1対のフランジ部56a、56bとを有する。
このうちの半円筒部55は、それぞれ円周方向複数個所(本例の場合2個所)に通孔57、57を形成している。尚、これら各通孔57、57は、ねじ孔でも良い。
又、前記両フランジ部56a、56bは、前記半円筒部55の内周面の軸方向両端から、径方向内方に突出している。
【0030】
この様な1対の連結素子54、54は、それぞれ一方(図3の上方)のフランジ部56aを、前記調整ナット48の係合溝52に係合させた状態で、それぞれ他方(図3の下方)のフランジ部56bの軸方向一側面を、前記スリーブ32の鍔部41の他側面に係合させている。更に、前記両連結素子50、50と、このスリーブ32とを、これら両連結素子50、50の各通孔57、57と、前記鍔部41のねじ孔47、47とを整合させた状態で、ねじ58、58により固定している。
この様な構成により、前記調整ナット48の回転に伴う軸方向に関する変位を、直接又は前記連結部材50を介して、前記スリーブ32に伝える事ができる。即ち、前記調整ナット48を、図1、3の下方に変位させる(大径加工部42を拡張する)場合には、この調整ナット48の軸方向他端面により前記スリーブ32の軸方向一端面を直接下方に押し付け、反対に、前記調整ナット48を、図1、3の上方に変位させる(大径加工部42を縮小する)場合には、前記連結部材50を介して、前記スリーブ32を上方に引き上げる様にしている。
【0031】
又、前記小径側拡縮手段34は、テーパコーン59と押し引きロッド60とを備える。
このうちのテーパコーン59は、外周面に、前記小径加工部37の内周面と軸方向に関して逆方向に傾斜した小径側テーパ部61を有する。この様なテーパコーン59は、この小径側テーパ部61と、前記小径加工部37の内周面とをテーパ嵌合した状態で、この小径加工部37の内側に、この小径加工部37に対して軸方向に関する相対変位可能な状態で配置している。
【0032】
又、前記押し引きロッド60は、その一端を前記テーパコーン59の基端部に一体的に結合している。又、外周面の軸方向他端寄り部分に雄ねじ部62を形成している。又、この押し引きロッド60の軸方向他端面には、軸方向他方に開口した六角孔形状等の係止孔63を形成している。この様な押し引きロッド60は、前記雄ねじ部62と、前記工具本体19aの雌ねじ部39とを螺合した状態で、この工具本体19aの先端部の内側に配置している。従って、前記押し引きロッド60は、前記雄ねじ部62と雌ねじ部39との螺合に基づいて、前記工具本体19a(小径加工部37)に対して軸方向に関する相対変位が可能である。
この様な構成により、前記押し引きロッド60の回転に伴う軸方向に関する変位を前記テーパコーン59に伝える事ができる。
【0033】
前述した様な構成を有する孔加工用工具8bの小径加工部37の外径を拡張(縮小)する場合、前記図1に示す様にこの孔加工用工具8bを前記孔加工機1bに組み付けたままの状態で、前記押し引きロッド60の係止孔63に、六角レンチ等の工具を係合し、この押し引きロッド60を所定の方向に回転させる。すると、この押し引きロッド60の雄ねじ部62と、前記雌ねじ部39との螺合に基いて、この押し引きロッド60とこの押し引きロッド60に結合固定された前記テーパコーン59とが軸方向に関して変位する。その結果、前記小径加工部37の各スリット38、38の円周方向に関する幅が広がり(縮小の場合は狭まり)、この小径加工部37の外径が拡張(縮小)する。尚、この様な拡縮作業を行う際には、前記孔加工機1bの運転を中止した状態で行う為、この孔加工機1bを構成する主軸2aが、拡縮作業に伴って回転する事はない。
【0034】
尚、前記押し引きロッド60の回転量と、前記小径加工部37の拡張(縮小)量との関係は、例えば、18度回転する毎に1μm拡張(縮小)する様に、前記押し引きロッド60の送り量と前記テーパコーン59の小径側テーパ部61及び前記小径加工部37の内周面のテーパ量(傾斜角度)等を設定しておく。この様な関係は、孔加工用工具の種類、又は加工条件等より適宜設定されるものである。
【0035】
一方、前記大径加工部42の外径を拡張(縮小)する場合、前記図1に示す様に前記孔加工用工具8bを前記孔加工機1bに組み付けたままの状態で、前記調整ナット48を、スパナ等の工具により所定の方向に回転させる。すると、この調整ナット48の雌ねじ部51と、前記工具本体19aの雄ねじ部53との螺合に基いて、この調整ナット48が軸方向に関して変位する。更に、この調整ナット48の軸方向に関する変位は、直接又は前記連結部材50を介して、前記大径加工部42が設けられたスリーブ32へと伝達される。すると、この大径加工部42が、前記大径側テーパ部36に対して軸方向に関して相対変位する。その結果、前記大径加工部42の各スリット43、43の円周方向の幅が広がり(縮小の場合は狭まり)、この大径加工部42の外径が拡張(縮小)する。
【0036】
尚、前記調整ナット48の回転量と、前記大径加工部42の拡張(縮小)量との関係は、例えば、18度回転する毎に1μm拡張(縮小)する様に、前記調整ナット48の送り量と前記大径側テーパ部36及び前記大径加工部42の内周面のテーパ量(傾斜角度)等を設定しておく。この様な関係は、孔加工用工具の種類、又は加工条件等より適宜設定されるものである。
【0037】
この様な本例の孔加工用工具8bの場合、前述した様にこの孔加工用工具8bを前記孔加工機1bに組み付けたままの状態で、前記大径加工部42及び小径加工部37の外径の拡縮作業を行う事ができる。この為、これら各加工部42、37の拡縮作業の工数を少なくでき、仕上加工の作業効率の向上を図る事ができる。
又、前記大径加工部42を、前記工具本体19aの中間部に外嵌したスリーブ32により構成している。この為、前記大径加工部42(の外周面に設けた摩擦材)の磨耗が進み継続して使用できなくなった場合、孔加工用工具全体を交換(加工部の修理、廃棄等)する事なく、予め用意しておいた別のスリーブ32に取り換える事で、加工を継続できる。その結果、工具に掛かるコストの低減及び省資源化を図る事ができる。
又、前記工具本体19aの外周面のうち、前記スリーブ32と整合する位置に、例えば、目盛り等を設けておけば、前記工具本体19aとこのスリーブ32との軸方向に関する相対変位量を目視で確認でき、読み取った目盛りに基づいて前記大径加工部42の外径の拡縮量を把握し易い。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の孔加工用工具を構成する小径加工部の構造は、前記実施例の構造に限定されるものではなく、この小径加工部の外径を拡縮する機能を備えていない構造でも良い。
又、小径加工部の構造は、前記大径加工部42の構造の様に、工具本体の先端部に設けた小径側テーパ部と、スリーブとで構成する事もできる。この場合、スリーブの外周面に径方向に関する拡縮が可能な構造を有する小径加工部を設け、内周面に前記小径側テーパ部とテーパ嵌合可能なテーパ面を形成する。そして、前記小径側テーパ部と前記スリーブの内周面とをテーパ嵌合した状態で組み付ける。更に。このスリーブと前記小径側テーパ部とを、軸方向に関して相対変位できる小径側拡縮手段を設ける。
【符号の説明】
【0039】
1、1a、1b 孔加工機
2、2a 主軸
3、3a 主軸頭
4、4a コレットチャック
5 工具用マガジン
6 マガジン移動手段
7 保持切り欠き
8、8a、8b 孔加工用工具
9 内筒
10 係止突部
11 外筒
12 係止凹部
13 把持筒
14 ワーク
15 大径孔
16 小径孔
17 段部
18 段付き孔
19、19a 工具本体
20 大径側拡縮部材
21 小径側拡縮部材
22 スリット
23 大径加工部
24 スリット
25 小径加工部
26 雌ねじ部
27 雄ねじ部
28 テーパ部
29 雌ねじ部
30 雄ねじ部
31 テーパ部
32 スリーブ
33 大径側拡縮手段
34 小径側拡縮手段
35 被把持部
36 大径側テーパ部
37 小径加工部
38 スリット
39 雌ねじ部
40 円筒部
41 鍔部
42 大径加工部
43 スリット
44 回り止め通孔
45 通孔
46 回り止めピン
47 ねじ孔
48 調整ナット
49 ロックナット
50 連結部材
51 雌ねじ部
52 係合溝
53 雄ねじ部
54 連結素子
55 半円筒部
56a、56b フランジ部
57 通孔
58 ねじ
59 テーパコーン
60 押し引きロッド
61 小径側テーパ部
62 雄ねじ部
63 係止孔


【特許請求の範囲】
【請求項1】
大径加工部と小径加工部とを備えた孔加工用工具であって、
工具本体と、この工具本体に外嵌されたスリーブとから成り、
このうちの工具本体は、略円柱状で、
軸方向基端部に孔加工機の主軸に固定した工具用把持具に把持される被把持部を有し、
軸方向中間部に、外径が軸方向に関して漸次変化する大径側テーパ部を有し、
軸方向先端部に、前記小径加工部を有するものであり、
前記スリーブは、径方向に関する拡縮が可能な前記大径加工部を有し、前記工具本体の中間部に、この工具本体に対する軸方向の相対変位可能、且つ相対回転不能な状態で外嵌されており、
前記大径加工部は、円周方向に関して1乃至複数個所に軸方向に長いスリットが形成されており、その内周面が、前記大径側テーパ部と軸方向に関して反対方向に傾斜したテーパ形状で、この大径側テーパ部にテーパ嵌合しており、
前記スリーブを前記工具本体に対して軸方向に変位させる事で、前記大径加工部の内周面と前記大径側テーパ部とを軸方向に関して相対変位させて、前記大径加工部の外径を拡縮させる事を特徴とする孔加工用工具。
【請求項2】
前記被把持部を前記工具用把持具に組み付けた状態で、前記スリーブを、前記工具本体に対して軸方向に相対変位させる事が可能な調整ナットを備え、
この調整ナットは、内周面に形成された雌ねじ部と、前記工具本体の外周面に形成された雄ねじ部とを螺合した状態で、この工具本体に対して軸方向に関する相対変位を可能に組み付けられており、この螺合に基づく軸方向の変位を前記スリーブに伝達する、請求項1に記載した孔加工用工具。
【請求項3】
前記小径加工部は、径方向に関する拡縮が可能な中空状であり、円周方向に関して1乃至複数個所に軸方向に長いスリットが形成されており、内周面の内径が軸方向に関して漸次変化したテーパ形状であり、
この小径加工部の内側に、テーパコーンが配置されており、
このテーパコーンは、外周面に前記小径加工部の内周面と軸方向に関して反対方向に傾斜した小径側テーパ部を有し、この小径側テーパ部と前記小径加工部の内周面とがテーパ嵌合しており、
前記小径加工部の内周面と前記テーパコーンとが軸方向に関して相対変位すると前記小径加工部の外径が拡縮する、請求項1〜2の何れか1項に記載した孔加工用工具。
【請求項4】
前記被把持部を前記工具用把持具に組み付けた状態で、前記テーパコーンを、前記小径加工部に対して、軸方向に相対変位させる事が可能な押し引きロッドを有し、
この押し引きロッドは、その一端を前記テーパコーンに連続させおり、他端にこの押し引きロッドを回転させる為の係止部を有し、他端部外周面に雄ねじ部を有し、この雄ねじ部と前記工具本体の先端部内周面に形成された雌ねじ部とを螺合した状態で、前記小径加工部の内側に組み付けられている、請求項3に記載した孔加工用工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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