説明

孔版印刷用水性インキおよび孔版印刷方法

【課題】 印刷後の乾燥性に優れ、かつ、印刷機が非使用状態で放置された後も印刷画像のかすれを速やかに解消することができる孔版印刷用水性インキを提供する。
【解決手段】 増粘剤として、不飽和カルボン酸である第1モノマーとビニルアミド系モノマー、ビニルエーテル系モノマー、およびヒドロキシル基含有アクリル酸エステル系モノマーからなる群から選ばれる第2モノマーとの共重合体を配合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、孔版印刷用水性インキ、特に輪転式デジタル孔版印刷機への使用に適した孔版印刷用水性インキとそれを用いた孔版印刷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
孔版印刷方式は、オフセット印刷、グラビア印刷、凸版印刷のような印刷方式に比べて、使用後に洗浄等の煩雑な作業を行う必要がない、専門のオペレーターを必要としない等の操作性の良さ、簡便性を備えている。サーマルプリンティングヘッドをデバイスとして用いる感熱製版方式を用いて以来、孔版印刷方式において画像処理のデジタル化が図られるようになり、高品位の印刷物を短時間で簡便に得られるようになったため、情報処理端末としてもますますその利便性が認められている。
孔版原紙の製版・着版・排版動作、インキの供給動作や印刷動作等が自動制御された輪転式孔版印刷機は、デジタル孔版印刷機等の名称でオフィスや学校などで広く利用されている。
【0003】
孔版印刷用インキとしては、従来から一般に油中水(W/O)型エマルションインキが使用されている。W/O型エマルションインキは、印刷機を非使用状態に放置したときに、印刷機内部のインキが大気と接触していても、インキの成分構成や物性の変化を抑制する機能を有している。すなわち、エマルションインキの内相成分である水は、外相成分である油によって覆われているため、その蒸発が抑制されている。
W/O型エマルションインキにより印刷された印刷物におけるインキの乾燥は、インキが被印刷体(印刷媒体)である印刷用紙の紙繊維の間へ浸透することと、紙繊維との接触によりエマルションが油相と水相に徐々に分離して、インキの主成分である水が大気と接触して蒸発することとにより進行すると考えられている。しかし、被印刷体に転移したインキ中の水は、印刷後の短時間のうちには大気と接触することができないため、印刷直後の乾燥性は浸透乾燥に頼ったものとなるところ、W/O型エマルションインキの粘度はある程度高く設計されているため、浸透速度は速くなく、そのため印刷直後のインキ乾燥性は充分とはいえなかった。
印刷物の乾燥を速めることは、孔版印刷にとって極めて重要な課題である。印刷物が乾燥しないと作業者はその印刷物を取り扱うことができず、孔版印刷の「短時間で高品質の印刷物を得る」利点が充分に活かされないからである。
【0004】
また、環境保全性、安全性の観点から孔版印刷用の水性インキが開発されており、印刷直後の印刷面に塩基を加えて水性インキの紙への浸透性を高める孔版印刷方法が知られている。
【特許文献1】特開2001−302955号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、水性インキにおいては、一般に、一定の初期粘度を確保する観点から増粘剤が使用されるが、一方で、インキを構成する水が直接外気にさらされていて水の蒸発が速いことから、印刷機内部の開放系でインキが放置されると、水の蒸発によりインキの粘度が高くなりすぎて、長時間経過後に印刷を再開すると印刷画像がかすれる、印刷後の機械の清浄が必要であるという不都合があった。これに対し、水の蒸発防止剤を添加する等の方法が試みられてきたが、さらなる改良が望まれていた。
そこで、本発明は、印刷後のインキの乾燥性に優れるとともに、印刷機を不使用状態で放置した後の再印刷において印刷画像のかすれを速やかに解消することができる孔版印刷用水性インキ、および、それを用いた孔版印刷方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、不飽和カルボン酸である第1モノマーとビニルアミド系モノマー、ビニルエーテル系モノマー、およびヒドロキシル基含有アクリル酸エステル系モノマーからなる群から選ばれる第2モノマーとの共重合体(以下、「共重合体A」と記す。)を含む孔版印刷用水性インキに関する。
別の本発明は、上記本発明に係る孔版印刷用水性インキを用いる孔版印刷方法に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の孔版印刷用水性インキは、増粘剤として、特定の第1モノマーと第2モノマーからなる共重合体Aを用いるようにしているので、印刷機内部の開放系で放置されたインキにおいて有機溶剤の分離(溶剤吐き)が抑制され、インキの安定性が保たれる。したがって、本発明の孔版印刷用水性インキを用いることにより、印刷機を不使用状態で放置した後の再印刷において印刷画像のかすれを速やかに解消することができるとともに、印刷後の乾燥性に優れた印刷物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明に係る孔版印刷用水性インキ(以下、孔版印刷用水性インキを単に「インキ」と記す。)は、水と水溶性有機溶剤と着色剤を含み、増粘剤として、不飽和カルボン酸である第1モノマーとビニルアミド系モノマー、ビニルエーテル系モノマー、およびヒドロキシル基含有アクリル酸エステル系モノマーからなる群から選ばれる第2モノマーとの共重合体Aを含んでいる。ここで、共重合体Aの共重合形式は、ランダム型、交互型、ブロック型、グラフト型のいずれの形態であってもよい。また、高分子鎖の構造は、直鎖型であっても分子内に架橋構造を有する架橋型であってもよい。
【0009】
第1モノマーである不飽和カルボン酸としては、水に対して高い溶解性を示し、共重合体となった場合に増粘効果が高い電解質モノマーを用いることが好ましい。
具体的には、下記一般式(1):
【化1】


(式中、R,R,Rはそれぞれ独立にH、CH、(CH)nCOOH(nは0または1の整数)を表す。)で示される不飽和カルボン酸の1種以上を好ましく用いることができる。さらに好ましくは、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、およびイタコン酸からなる群から選ばれる1種以上の不飽和カルボン酸を用いることができる。
これらの不飽和カルボン酸には、カルボキシル基が水溶性の塩の形態となっているもの、たとえば、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、トリエタノールアミン塩等が含まれる。
【0010】
第2モノマーである重合性化合物は、水溶性の非電解質モノマーであり、ビニルアミド系モノマー、ビニルエーテル系モノマー、およびヒドロキシル基含有アクリル酸エステル系モノマーからなる群から選ばれる1種以上が用いられる。
具体的には、ビニルアミド系モノマーとしては、(メタ)アクリルアミド、メチル(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド、エチル(メタ)アクリルアミド、ジエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、イソプロピル(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミドまたはその誘導体;ビニルピロリドン、イソプロペニルピロリドン等のビニルピロリドンまたはその誘導体;ビニルカプロラクタム、イソプロペニルカプロラクタム等のビニルカプロラクタムまたはその誘導体;ビニルアセトアミド等が挙げられる。なお、本明細書において、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリレート等の記載は、アクリル酸とメタクリル酸またはそれらの各誘導体を意味する。
【0011】
ビニルエーテル系モノマーとしては、メチルビニルエーテル、ヒドロキシメチルビニルエーテル等が挙げられる。
ヒドロキシル基含有アクリル酸エステル系モノマーとしては、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、エチレングリコール(メタ)アクリレート、ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、グリコシルオキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
以上のような第1モノマーと第2モノマーから構成される共重合体Aは、単独で用いられるほか、複数種のものを併用してもよい。
【0012】
さらに好ましくは、増粘剤として、アクリル酸とアクリルアミドとの共重合体、無水マレイン酸とメチルビニルエーテルとの共重合体、アクリル酸とビニルピロリドンとの共重合体、およびアクリル酸とビニルアセトアミドとの共重合体からなる群から選ばれる1種以上の共重合体(各々、塩の形態になっているものも含む)が用いられる。
【0013】
上記共重合体Aのインキ中の配合量は、粘性付与の観点から0.05重量%以上であることが好ましく、インキの紙への転移性の観点から5重量%以下であることが好ましく、0.1〜3重量%であることがより好ましい。
共重合体Aにおいて、カルボキシル基が塩の形態となっていない場合は、塩基が併用される。塩になっている場合は、塩基を添加する必要はない。塩基としては、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウムのような無機塩基や低分子量アミン、アルカノールアミン、トリエタノールアミン、低濃度アンモニア等が使用できる。
【0014】
一般に、印刷機にセットされた後の孔版印刷用のインキ、すなわちインキボトルから版胴内部に供給されたインキは、印刷機内部の開放系でそのまま放置されることになり、その間にインキ中の水が蒸発して、放置状況によっては数日以内に、インキ中に数パーセントにまで水の量が減少する(数パーセントの水は、水溶性有機溶剤に保水されてインキ中に残ることになる)。したがって、主体となる溶媒が水(水溶性有機溶剤を含んでいる)から、水溶性有機溶剤(保水分の水を含んでいる)に変化することになるため、インキの安定性が損なわれて、インキ中の有機溶剤の分離(溶剤吐き)が生じると考えられる。
本発明においては、上記の共重合体Aを用いることで、溶媒が水主体の状態でも高い増粘効果が維持され、少量の添加で所望の粘度が得られる。一方、この共重合体Aは、水が蒸発した後の水溶性有機溶剤中でも溶解状態を保つことが可能であり、したがって、放置後も溶剤吐きを防止できると考えられる。
【0015】
本発明のインキは、上記共重合体Aに加えて、他の水溶性高分子系増粘剤や粘土鉱物系増粘剤の1種以上を必要に応じて含むこともできる。
任意に配合されるその他の水溶性高分子系増粘剤としては、たとえば、アラビアガム、カラギーナン、グアガム、ローカストビーンガム、ペクチン、トラガントガム、コーンスターチ、コンニャクマンナン、寒天等の植物系天然高分子;プルラン、キサンタンガム、デキストリン等の微生物系天然高分子;ゼラチン、カゼイン、にかわ等の動物系天然高分子;エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース系半合成高分子;ヒドロキシエチルスターチ、カルボキシメチルスターチナトリウム、シクロデキストリン等のデンプン系半合成高分子;アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコール等のアルギン酸系半合成高分子;ヒアルロン酸ナトリウム;ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリクロトン酸、ポリイタコン酸、ポリマレイン酸、ポリフマル酸、アクリル酸−メタクリル酸共重合体、アクリル酸−イタコン酸共重合体、アクリル酸−マレイン酸共重合体、アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、アクリル酸−メタクリル酸エステル共重合体、アクリル酸−スルホン酸系モノマー共重合体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリN−ビニルアセトアミド、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンイミン、ポリウレタン等の合成高分子、を用いることができる。
粘土鉱物系の増粘剤としては、たとえば、モンモリロナイト、ヘクトライト、サポナイト等のスメクタイト系粘土鉱物を用いることができる。
任意に配合されるその他の増粘剤のインキ中の配合量は、好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下、一層好ましくは2重量%以下である。
【0016】
なお、増粘剤として例示した上記水溶性高分子は、その種類と量によっては、インキの増粘剤以外にも、印刷用紙への着色剤の定着剤等として用いることができる。また、着色剤として顔料を用いる場合においては、顔料の分散剤として用いることもできる。
【0017】
水は、印刷物の乾燥性を高める観点から、インキ中に50重量%以上含まれていることが好ましく、65重量%以上含まれていることがより好ましい。インキ中に含有される水は、印刷直後に大気中へ蒸発することができる。さらに、印刷時にインキが印刷用紙の繊維間に圧入されて浸透することによって、印刷用紙内部においてインキと空気との表面積が急速に拡がって水が蒸発しやすくなるため、水の量を多くすると印刷物の乾燥性がさらに向上するものと考えられる。一方、水の配合量の上限は、特に限定はなく、他の配合成分とのバランスから適宜設定されることが好ましい。
【0018】
水溶性有機溶剤としては、室温で液体であり、水に溶解可能な有機化合物が用いられる。たとえば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブタノール、2−メチル−2−プロパノール等の低級アルコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等のグリコール類;グリセリン;アセチン類(モノアセチン、ジアセチン、トリアセチン);トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル等のグリコール類の誘導体;トリエタノールアミン、β−チオジグリコール、スルホランを用いることができる。平均分子量200、300、400、600等の平均分子量が190〜630の範囲にあるポリエチレングリコール、平均分子量400等の平均分子量が200〜600の範囲にあるジオール型ポリプロピレングリコール、平均分子量300、700等の平均分子量が250〜800の範囲にあるトリオール型ポリプロピレングリコール、等の低分子量ポリアルキレングリコールを用いることもできる。これらの水溶性有機溶剤は単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0019】
上記水溶性有機溶剤のうち、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、および平均分子量190〜210のポリエチレングリコールからなる群から選ばれる1種以上の溶剤を含むことが好ましい。上記重合体Aに対しこのような水溶性有機溶剤を用いると、インキが放置された場合に、水が蒸発してインキ中の溶媒の総量が減少しても、初期状態のインキ粘度に対する放置後のインキ粘度の変化率を少なくすることができるからである。
【0020】
同様の観点から、水溶性有機溶剤として、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコールからなる群から選ばれる1種以上の第1溶剤と、ペンタエチレングリコール、β−チオジグリコール、およびポリエチレングリコールアルキルエーテル(RO(CHCHO);Rは炭素数1〜4のアルキル基、RはHまたは炭素数1〜2のアルキル基、3≦n≦5)からなる群から選ばれる1種以上の第2溶剤とを組み合わせて用いることが好ましい。ポリエチレングリコールアルキルエーテルとしては、たとえば、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールモノプロピルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテルが挙げられる。
【0021】
水溶性有機溶剤のインキ中の含有量は、5重量%以上であることが好ましく、10重量%以上であることがより好ましい。その含有量の上限に関しては、特に限定はされないが、画像の裏抜けを少なくするため、45重量%以下程度であることが好ましく、35重量%以下程度であることがより好ましい。水よりも高沸点の、より好ましくは沸点が150℃以上の水溶性有機溶剤をインキ中に5重量%以上含有させることにより、印刷中の孔版原紙の穿孔部の乾燥を有効に防止でき好ましい。
【0022】
着色剤としては、顔料または染料を用いることができ、2種以上を併用してもよい。顔料としては、たとえば、アゾ系、フタロシアニン系、染料系、縮合多環系、ニトロ系、ニトロソ系等の有機顔料(ブリリアントカーミン6B、レーキレッドC、ウォッチングレッド、ジスアゾイエロー、ハンザイエロー、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、アルカリブルー、アニリンブラック等);コバルト、鉄、クロム、銅、亜鉛、鉛、チタン、バナジウム、マンガン、ニッケル等の金属類、金属酸化物および硫化物、ならびに黄土、群青、紺青等の無機顔料、ファーネスカーボンブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック類を用いることができる。染料としては、たとえば、塩基性染料、酸性染料、直接染料、可溶性バット染料、酸性媒染染料、媒染染料、反応染料、バット染料、硫化染料等のうち水溶性の染料および還元等により水溶性になった水溶性染料を用いることができる。顔料、染料のいずれかもしくは両方を着色剤として用いてもよいが、顔料を用いることにより画像の滲みや裏抜けが少なく、耐候性にも優れたインキとすることができるため好ましい。
【0023】
インキ中の着色剤の含有量は、1〜20重量%であることが好ましく、3〜10重量%であることがより好ましい。印刷物の印刷濃度をより高めるために、5重量%以上含有させることがさらに好ましい。
【0024】
本発明のインキには、上記の成分に加え、顔料分散剤、定着剤、消泡剤、表面張力低下剤、pH調整剤、酸化防止剤、防腐剤等を適宜含有させることができる。
インキ中にアルカリ可溶性樹脂を含有させて、印刷用紙等の被印刷体への着色剤の定着剤等として用いることができる。着色剤として顔料を用いる場合は、顔料の分散剤としてアルカリ可溶性樹脂を用いることもできる。
【0025】
アルカリ可溶性樹脂としては、たとえば、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−αメチルスチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ビニルナフタレン−(メタ)アクリル酸共重合体、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合体、イソブチレン−無水マレイン酸共重合体、(メタ)アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸共重合体、アクリル酸エステル−メタクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸共重合体を用いることができ、2種以上を併用してもよい。これらのアルカリ可溶性樹脂は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、アンモニア水、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン等の任意のアルカリで中和して、水可溶性にして用いることができる。
アルカリ可溶性樹脂は、多量に含有させると印刷機の非使用後の印刷性能に支障をきたす恐れがあるため、インキ中に固形分換算で5重量%以下の範囲で含有させることが好ましく、より好ましくは3重量%以下である。
【0026】
インキに水中油(O/W)型樹脂エマルションを含有させて、印刷用紙等の被印刷体(印刷媒体)への着色剤の定着剤等として用いることができる。着色剤として顔料を用いる場合においては、この樹脂エマルションを顔料の分散剤として用いることもできる。
水中油(O/W)型樹脂エマルションとしては、たとえば、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリスチレン、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、塩化ビニリデン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリウレタン等の樹脂エマルションを用いることができる。これらの2種以上を併用してもよい。
樹脂エマルションは、多量に含有させると印刷機の非使用後の印刷性能に支障をきたす恐れがあるため、インキ中に固形分換算で5重量%以下の範囲で含有させることが好ましく、より好ましくは2重量%以下である。
【0027】
印刷物の画質を向上させるために、インキ中に体質顔料を含有させることができる。
体質顔料としては、たとえば、白土、タルク、クレー、珪藻土、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、硫酸バリウム、アルミナホワイト、シリカ、カオリン、マイカ、水酸化アルミニウムを用いることができ、これらの2種以上を併用してもよい。
体質顔料は、多量に含有させると被印刷体への着色剤の定着を阻害したり、印刷機の非使用後の印刷性能に支障をきたす恐れがあるため、5重量%以下の範囲で含有させることが好ましく、より好ましくは2重量%以下である。
【0028】
さらに、顔料分散剤、消泡剤、表面張力低下剤等として、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤、または高分子系、シリコーン系、フッ素系の界面活性剤をインキに含有させることができる。
インキの粘度やpHを調整するために、インキに電解質を配合することもできる。電解質としては、たとえば、硫酸ナトリウム、リン酸水素カリウム、クエン酸ナトリウム、酒石酸カリウム、ホウ酸ナトリウムが挙げられ、2種以上を併用してもよい。硫酸、硝酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、トリエタノールアミン等も、インキの増粘助剤やpH調整剤として用いることができる。
【0029】
酸化防止剤を配合することにより、インキ成分の酸化を防止し、インキの保存安定性を向上させることができる。酸化防止剤としては、たとえば、L−アスコルビン酸、L−アスコルビン酸ナトリウム、イソアスコルビン酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、亜二チオン酸ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウムを用いることができる。
【0030】
防腐剤を配合することにより、インキの腐敗を防止して保存安定性を向上させることができる。防腐剤としては、たとえば、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン等のイソチアゾロン系防腐剤;ヘキサヒドロ−1,3,5−トリス(2−ヒドロキシエチル)−s−トリアジン等のトリアジン系防腐剤;2−ピリジンチオールナトリウム−1−オキシド、8−オキシキノリン等のピリジン・キノリン系防腐剤;ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム等のジチオカルバメート系防腐剤;2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミド、2−ブロモ−2−ニトロ−1,3−プロパンジオール、2,2−ジブロモ−2−ニトロエタノール、1,2−ジブロモ−2,4−ジシアノブタン等の有機臭素系防腐剤;p−ヒドロキシ安息香酸メチル、p−ヒドロキシ安息香酸エチル、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、サリチル酸を用いることができる。
【0031】
本発明のインキは、水と水溶性有機溶剤と着色剤と上記共重合体Aと、必要に応じて適宜配合される上記の成分とを混合させて製造することができる。たとえば、一部の水と顔料と顔料分散剤とを混合し、ボールミル、ビーズミル等の分散手段を用いて顔料を分散させ、一方で、残りの水と増粘剤と水溶性有機溶剤とを混合し、そして、両者を混ぜ合わせるようにしてもよい。
インキの粘度は、印刷装置の印圧等によってその適性範囲は異なるが、一般に、約0.5〜約20Pa・s(20℃、せん断速度100/sにおける粘度)であり、また、(擬)塑性流動性であることが孔版印刷用として適している。
【0032】
次に、本発明に係る孔版印刷方法は、上記の本発明のインキを用いて行われる。具体的には、製版した孔版原紙を準備する工程と、製版した孔版原紙と被印刷体を圧接させることによって孔版原紙の穿孔部から本発明のインキを通過させて被印刷体にインキを転移させる工程とを含んでいる。
用いられる孔版印刷機は、特に限定はされないが、操作性に優れる点からデジタル孔版印刷機を用いることが好ましい。
【実施例】
【0033】
以下に、本発明を実施例により詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下、「重量%」を単に「%」と記す。
(実施例1)
着色剤としてカーボンブラック(三菱化学株式会社製「CF9」)5.0%、顔料分散剤としてヘキサグリセリルモノラウレート(日光ケミカルズ株式会社製「ヘキサグリン1−L」)1.0%、イオン交換水19.0%を混合し、ビーズミルで充分に分散させて顔料分散液を調製した。増粘剤としてアクリル酸ナトリウムとアクリルアミドとの共重合体(日本純薬株式会社製「レオジック835H」)1.0%をイオン交換水14.0%に溶解させ、これに先に調製した顔料分散液25.0%、水溶性有機溶剤としてジエチレングリコール25.0%、およびイオン交換水の残部(35.0%)を加えて混合して、実施例1のインキを得た。
【0034】
(実施例2〜8)
表1に示す配合とした以外は実施例1と同様にして、各実施例のインキを得た。表1において、アクリル酸−ビニルピロリドン共重合体はISP社製「アクリリドンACP−1005」、無水マレイン酸−メチルビニルエーテル共重合体はISP社製「スタビリーゼQM」であり、アクリル酸−ビニルアセトアミド共重合体は昭和電工株式会社製「GE−167」である。また、ポリエチレングリコール#200は平均分子量が200の和光純薬工業株式会社製の試薬である。
(比較例1〜4)
表2に示す配合とした以外は実施例1と同様にして、各比較例のインキを得た。表2において、ポリアクリル酸ナトリウムは日本純薬株式会社製「レオジック250H」であり、アクリル酸−メタクリル酸アルキル共重合体はBFグッドリッチ社製「カーボポールETD2020」である。
【0035】
上記実施例および比較例で作製した各インキを用いて、それぞれ孔版印刷機(RISO RP3700、理想科学工業株式会社製)にて印刷用紙(理想科学工業株式会社製「理想用紙薄口」)に印刷を行い、印刷終了後、そのままの状態で、23℃/50%RHの環境下に印刷機を15時間放置した。その後、放置後の印刷機を用いて新たに作製した版を巻きつけて印刷を再開し、得られた画像の状態を観察した。画像の立ち上がりの評価は、以下の基準で行った。○:20枚以内でかすれの無い画像が得られる、△:20枚〜100枚でかすれの無い画像が得られる、×:100印刷しても画像がかすれている。
得られた結果を、表1および表2に併せて示す。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
実施例1〜2、4〜8のインキでは、15時間の放置により水が蒸発した後も溶剤吐きがなく、かつインキの粘度上昇が抑制されるために、刷り始めから十数枚で放置前と同様の画像を得ることができた。実施例3のインキでは、水が蒸発した後の溶剤吐きはないがインキの粘度が上昇したために、刷り始めでは画像濃度の低下が観察されたが、数十枚印刷を重ねると放置前と同様の画像を得ることができた。また、実施例で得られた各印刷物の乾燥性を調べた結果、いずれの場合も印刷後10秒後に指で触れても指が汚れることはなく、インキの乾燥性も優れていた。
これに対して、比較例1〜4のインキでは、放置により水が蒸発すると溶剤吐きが生じたため、100枚印刷を行っても画像が部分的に全く形成されず、画像全体を復帰させることができなかった。これは、溶剤吐きが生じたことで、版胴内のインキにおいて固形分の濃度が極端に上昇する箇所が部分的に生じ、その箇所でインキ粘度が著しく上昇し流動性が失われたため、部分的にインキが版を通過できなかったためと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和カルボン酸である第1モノマーとビニルアミド系モノマー、ビニルエーテル系モノマー、およびヒドロキシル基含有アクリル酸エステル系モノマーからなる群から選ばれる第2モノマーとの共重合体を含む孔版印刷用水性インキ。
【請求項2】
前記第1モノマーが下記一般式(1):
【化1】


(式中、R,R,Rはそれぞれ独立にH、CH、(CH)nCOOH(nは0または1の整数)を表す。)で示される不飽和カルボン酸またはその塩を含む請求項1記載の孔版印刷用水性インキ。
【請求項3】
前記第1モノマーがアクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、およびイタコン酸からなる群から選ばれる1種以上の不飽和カルボン酸またはその塩を含む請求項2記載の孔版印刷用水性インキ。
【請求項4】
前記第2モノマーがアクリルアミド、メタクリルアミド、アルキルビニルエーテル、ビニルピロリドン、およびビニルアセトアミドからなる群から選ばれる1種以上の重合性化合物を含む請求項1〜3のいずれか1項記載の孔版印刷用水性インキ。
【請求項5】
前記共重合体として、アクリル酸とアクリルアミドとの共重合体、無水マレイン酸とメチルビニルエーテルとの共重合体、アクリル酸とビニルピロリドンとの共重合体、およびアクリル酸とビニルアセトアミドとの共重合体からなる群から選ばれる1種以上の共重合体またはその塩を含む請求項1記載の孔版印刷用水性インキ。
【請求項6】
ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、および平均分子量190〜210のポリエチレングリコールからなる群から選ばれる1種以上の水溶性有機溶剤を含む請求項1〜5のいずれか1項記載の孔版印刷用水性インキ。
【請求項7】
グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコールからなる群から選ばれる1種以上の第1溶剤と、ペンタエチレングリコール、β−チオジグリコール、および一般式RO(CHCHO)で表されるポリエチレングリコールアルキルエーテル(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基、RはHまたは炭素数1〜2のアルキル基、3≦n≦5)からなる群から選ばれる1種以上の第2溶剤とを含む請求項1〜5のいずれか1項記載の孔版印刷用水性インキ。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項記載の孔版印刷用水性インキを用いる孔版印刷方法。

【公開番号】特開2006−104358(P2006−104358A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−294173(P2004−294173)
【出願日】平成16年10月6日(2004.10.6)
【出願人】(000250502)理想科学工業株式会社 (1,191)
【Fターム(参考)】