説明

孔版印刷用W/O型エマルションインキ

【課題】孔版印刷用W/O型エマルションインキにおいて、植物油特有の酸化によるインキ粘度(降伏値)の上昇による目詰まり、放置後の画像立ち上がり遅延等の孔版印刷への不具合の発生を防ぐとともに、米ぬか油、あるいはその誘導体を油成分として使用することにより、従来の油成分に比較して、輸送に伴うCO排出量を大幅に減少した孔版印刷用W/O型エマルションインキを提供する。
【解決手段】孔版印刷用W/O型エマルションインキの油成分として、従来から用いられていた大豆油、あるいは大豆油誘導体に代えて、米ぬか油、あるいはその誘導体を使用することにより使用時に生じる孔版印刷の目詰まりや放置後の画像立ち上がり遅延等の不具合を大幅に改善することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米ぬか油、あるいはその誘導体を用いた孔版印刷用W/O型エマルションインキ(以降、孔版印刷用W/O型エマルションインキと称す)に関するものである。さらに詳しくは、本発明は植物油特有の酸化によるインキ粘度(降伏値)の上昇による目詰まり、放置後の画像立ち上がり遅延等の孔版印刷への不具合を発生させないだけでなく環境に優しい孔版印刷用W/O型エマルションインキに関する。
【背景技術】
【0002】
孔版印刷とは、孔版印刷用原紙を用い、この原紙に製版を施して形成された穿孔部を通して孔版印刷版の一方の側から他方の側へインキを移動させることにより紙等の被印刷物表面に印刷を行う方法である。この孔版印刷に用いるインキの油成分としては従来から鉱物油、ナフテン、パラフィン系オイル等が主として使用されてきたが、これらの油成分は揮発性有機化合物(VOC)が含まれており環境保全の面で問題があった。
これらの問題を解決するものとして、近年ではインキの油性成分として大豆油や大豆油の誘導体を用いた環境配慮型のインキが使用されるようになってきており、アメリカでは大豆協会よりソイインキとして認証された製品も普及してきている。しかしながら、大豆油、あるいはその誘導体を用いた孔版印刷用W/O型エマルションインキは、目詰まりや放置後の画像立ち上がり遅延等の不具合の発生原因にもなっている。孔版印刷においては、インキ吐出量を安定にするためにインキの経路途中に細かい目のスクリーンや原紙に製版を施して形成された細かい目の穿孔部が設けられているが、インキの粘度が上昇すると該細孔部中にインキが目詰まったり、インキの吐出が遅くなったりして印刷の立ち上がりが遅くなると言った不具合が発生する。特に、大豆油、あるいはその誘導体を用いた孔版印刷用W/O型エマルションインキは、経時によりインキの粘度が上昇するという問題がある。
【0003】
この経時によるインキの粘度の上昇が、目詰まり、放置後の画像立ち上がり遅延等の不具合の原因になると考えられるが、経時によるインキ粘度の上昇は油成分である大豆油、あるいはその誘導体が酸化して粘度が上昇することが大きく影響していると考えられる。この様な植物油の酸化による諸問題を解決するために、大豆油、あるいはその誘導体等の植物油とともに酸化防止剤を併用する方法が知られている(特許文献1〜3)。
植物油の酸化防止剤としては、ジブチルヒドロキシトルエン、没食子酸プロピル、ブチルヒドロキシアニソール等が良く知られているが、これらの酸化防止剤は酸化の防止性や安定性には優れているが、安全性およびコストの面において問題がある。
このため、これら従来のものよりさらに、安全性およびコスト面に優れた酸化防止剤の出現が望まれているが、安全性およびコストと安定性との両立が難しく、現在では、酸化防止剤は使用しないか、あるいは使用してもその量を極力少なくする方法が採用されている。また、上記の方法とは別に、水相中に金属塩(ナトリウム塩、アルミニウム塩)または金属イオン封鎖剤を添加する方法も本出願前に知られている(特許文献4)。
しかしながら、従来から知られている方法は、いずれも目詰まりや放置後の画像立ち上がり遅延等の観点から見て効果は不十分であり更なる改善が求められている。
それに、日本では大豆油や大豆油誘導体の原料のほとんどを輸入に頼っている状況であり、輸送によるCO排出量の増大という観点からも改良すべき大きな問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この発明は、日本の自給率が高い米を原料とする米ぬか油、あるいはその誘導体を孔版印刷用W/Oエマルションインキの油成分として使用するものであり、米ぬか油、あるいはその誘導体を用いることにより、目詰まり、放置後の画像立ち上がり遅延が大幅に改善された孔版印刷用W/Oエマルションインキを提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本願第1の発明によれば、油成分として米ぬか油、あるいはその誘導体を用いた孔版印刷用W/O型エマルションインキを提供する。
第2の発明によれば、凝固点が−10℃〜−1℃の米ぬか油、あるいはその誘導体を用いた上記の孔版印刷用W/O型エマルションインキを提供する。
第3の発明によれば、着色剤を油相のみに含有させた上記の孔版印刷用W/Oエマルションインキを提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明は孔版印刷用W/O型エマルションインキの油成分として、従来から用いられている大豆油、あるいは大豆油誘導体に代えて、米ぬか油、あるいはその誘導体を用いることにより、使用している際に生じる孔版印刷の目詰まりや放置後の画像立ち上がり遅延等の不具合を大幅に改善することが可能になる。しかも、米ぬか油、あるいはその誘導体は日本国内で生産されているために、輸送に伴うCO排出量の減少という観点からも大変有益である。また、米ぬか油、あるいはその誘導体を孔版印刷用W/O型エマルションインキを原料として使用することは、日本国内の米の生産を促進することにもつながるという利点もある。
【発明を実施するための形態】
【0007】
この発明は孔版印刷用W/O型エマルションインキに米ぬか油、あるいは、その誘導体(炭素数が1〜4の低級アルコールエステル等)を用いることを要旨とするものである。本発明で用いる米ぬか油の採取方法としては、他の植物と同様に、先ずヘキサン等の適当な溶剤で油分を抽出した後、溶剤を蒸留等により完全に除去する(粗油)。次に、上記粗油に水を加えガム質を分離し遠心分離機で除去し原油を得る(脱ガム)。更に最終製品にするためには以下の工程を行う。
(1)原油にリン酸を加え残存するガム質を除去した後、水酸化ナトリウムを加えて遊離している脂肪酸を除去する(脱酸)。
(2)水洗した後、活性白土等を加えて撹拌し、葉緑素等の色素を吸着させ、それをろ過(濾過)して白土を除去する(脱色)。
(3)得られた油を冷却し、必要によって析出する固体の油脂やロウ分を除去する。
(4)高温・真空下で水蒸気蒸留によって有臭成分を取り除く(脱臭)。
なお、ヨウ素価を調整するには、水素添加反応等の方法があるが、この方法は米油にニッケル等の触媒を添加し、水素圧力下において水素添加反応を行うものである。
また、凝固点の調整は析出する固体の油脂やロウ分の除去工程により調整できる。
【0008】
本発明は、従来の孔版印刷における目詰まりや放置後の画像立ち上がり遅延等を改善するために、油成分として米ぬか油、あるいはその誘導体を用いるものであるが、米ぬか油、あるいはその誘導体を用いることにより、目詰まりや放置後の画像立ち上がり遅延等が改善されるのは、米ぬか油に米ぬか油特有のγ−オリザノール(ガンマ−オリザノール)が含まれていることに起因するものであると考えられる。γ−オリザノール(ガンマ−オリザノール)については、抗酸化作用や防かび作用等が報告されているが、これは米ぬか油の酸化による粘度上昇やかびによるW/Oエマルションの劣化をγ−オリザノール(ガンマ−オリザノール)が防止しているのではないかと考えられる。
また、米ぬか油にはトコフェロール、トコトリエノールの抗酸化作用を持つ成分が含まれており、油の酸化による粘度上昇の防止、更にはインキの粘度上昇防止になっているものと考えられる。特に、トコトリエノールはビタミンEの一種で抗酸化力がトコフェロールの約50倍とも言われており、抗酸化力が高くスーパービタミンEとも呼ばれるなど米ぬか油中の脂肪酸などの酸化防止に大きく寄与しているものと考えられる。
【0009】
本発明で好適に使用される米ぬか油、あるいはその誘導体としては、ヨウ素価が90〜120ものが好ましく、特にヨウ素価が90〜110のものが好ましい。ヨウ素価が120より高いと酸化重合により乾燥が速く、孔版印刷機のインキ経路中の細かい目のスクリーンや原紙に製版を施して形成された細かい穿孔部での詰まりのみでなく、インキパック口や機上での乾燥固化の不具合の原因ともなる。また、ヨウ素価が90より低いと粘度が高過ぎ、孔版印刷用W/O型エマルションインキ用の油成分としては不適となる。また、本発明で好適に使用される米ぬか油、あるいはその誘導体の凝固点としては−10℃〜−1℃がよい。米ぬか油、あるいはその誘導体の凝固点が−10℃より低くなる場合には脱ロウ等の設備が必要となるため、コストや時間がかかる。また、凝固点が−1℃より高いと米ぬか油、あるいはその誘導体を使用した孔版印刷用W/Oエマルションインキの低温での画像立ち上がりが遅延してしまうという不具合が生じる。
【0010】
更に本発明では、着色剤を油相のみに含有させることで、より孔版印刷の目詰まり、放置後の画像立ち上がり遅延等の不具合を改善することが可能となる。その理由の詳細は不明であるが、顔料他の着色剤の分散/分散維持が水相よりも油相の方が良好であること、あるいは水相に着色剤が存在する場合に、細かい目のスクリーンや細かい穿孔部付近でインキが放置されると水分が蒸発し、水相中に分散、存在していた着色剤が油相他に接触するようになり着色剤が粒子化、あるいは粗大化してしまい油相中油成分の酸化による粘度上昇と共に細かい目のスクリーンや細かい穿孔部におけるインキ吐出を妨げてしまうためであると考えられる。また、固形分の介在で細かい目のスクリーンや細かい穿孔部において、膜状となってしまうことも考えられる。本発明のインキ油相、あるいは水相中に使用できる着色剤を例示すると、カ−ボンブラック、アゾ系顔料、ニトロソ系顔料、ニトロ系顔料、建染染料系顔料、媒染染料系顔料、塩基性染料系顔料、酸性染料系顔料及び天然染料系顔料等の顔料;ジアゾ染料、アントラキノン系染料等の油溶性染料;等が挙げられる。なお、これらの染顔料類は、単独でも2種以上混合して添加しても良い。
【0011】
本発明の孔版印刷用W/O型エマルションインキは、油相約10〜90重量%と水相約90〜10重量%によって構成されるエマルションインキであり、インキ内には上記着色剤のほか、少なくとも油、水及び乳化剤を含有させることが必要である。
そして、ここで使われる水は清浄であれば良く、具体的には水道水、イオン交換水、蒸留水等を使用することが可能である。インキ製造用の油としては、米ぬか油、あるいはその誘導体の他にも、必要に応じて公知の鉱物油や植物油等の油が併用できる。
具体的にはアイソパー(エクソン社)や日石ソルベント(日本石油(株))等の石油系溶剤、スピンドル油、流動パラフィン、軽油、灯油、マシン油、ギヤー油、潤滑油、モーター油等の鉱物油;あまに油、トール油、大豆油、とうもろこし油、オリーブ油、なたね油、ひまし油、脱水ひまし油等の植物油;等が例示される。
また、ポリイソブチレン類、水素化ポリデセン類、トリメチロールプロパンエステル類、ネオペンチルエステル類、ペンタエリスリトールエステル類、シロキサン類、シリコーン類、フロロカーボン類、アルキル置換ジフェニルエーテル類、フタル酸エステル類、リン酸エステル類等の合成油も使用可能である。
もちろん、これらの油は単独でも2種以上混合して使っても良い。
【0012】
乳化剤には非イオン界面活性剤を使うのが望ましく、具体的にはグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンフィトステロールエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンひまし油、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、ポリオキシエチレンラノリン誘導体、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルフェニルホルムアルデヒド縮合物等が例示される。
これらは、単独又は2種以上混合してインクに添加すれば良く、添加量はインク重量の1〜8重量%が好ましく、特に2〜5.5重量%が好ましい。
【0013】
以上のほか、油相にはエマルションの形成を妨害しない範囲で樹脂、着色剤の分散剤、ゲル化剤、酸化防止剤等を添加することができる。また、水相にはエマルションの形成を妨害しない範囲で着色剤、分散剤、水溶性高分子、防腐・防かび剤、水の蒸発抑制剤、凍結防止剤、pH調整剤、電解質等を添加することができる。油相に添加される樹脂としては、着色剤と被印刷物との固着、着色剤の分散及びインクの経時安定性向上等のために従来から添加されているバインダー樹脂が使用できる。従って、従来から添加されている樹脂を添加すれば良く、具体的には、重合ロジン、水素化ロジン、ロジンエステル、水素化ロジンエステル等のロジン系樹脂、ロジン変性フェノール樹脂等のロジン変性樹脂、フェノール樹脂、石油樹脂、アルキッド樹脂、ゴム誘導体、重合ひまし油、等を1種又は2種以上混合して添加すれば良い。添加量はインク重量の10重量%以下が好ましく、特に1〜7重量%が好ましい。
【0014】
カーボンブラック等の着色剤用分散剤として、前記の乳化剤用非イオン界面活性剤を使うことができる。このほか、アルキルアミン系高分子化合物、アルミニウムキレート系化合物、スチレン/無水マレイン酸共重合体、ポリアクリル酸の部分アルキルエステル、ポリアルキレンポリアミン、脂肪族多価カルボン酸、ポリエーテル、エステル型アニオン界面活性剤、高分子量ポリカルボン酸の長鎖アミン塩、ポリアミド、燐酸エステル系界面活性剤、アルキルスルホカルボン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、ジオクチルスルホコハク酸塩等も使用可能である。これらの分散剤は単独又は2種以上混合して添加すれば良く、その添加量は着色剤重量の40重量%以下が好ましく、特に2〜35重量%が好ましい。
【0015】
酸化防止剤は、ジブチルヒドロキシトルエン、没食子酸プロピル、ブチルヒドロキシアニソール、トコフェロ−ル類、亜硫酸塩類、チオ硫酸塩、アスコルビン酸、アスコルビン酸塩、アスコルビン酸誘導体等であり、これらの添加によって油相中のバインダー樹脂等の酸化を防ぎ、これによってインキの粘度の上昇等が防止される。また、その添加量はインキ中の油の2重量%以下、好ましくは0.1〜1.0重量%である。
なお、酸化防止剤は単独でも2種類以上を混合して使ってもよい。
ゲル化剤は、油相に含まれる樹脂をゲル化してインクの保存安定性、定着性、流動性等を向上させる役割を持ち、本発明のインクに添加されるゲル化剤としては油相中の樹脂と配位結合する化合物が好ましい。このような化合物を例示すると、Li、Na、K、Al、Ca、Co、Fe、Mn、Mg、Pb、Zn、Zr等の金属を含む有機酸塩、有機キレート化合物、金属石鹸オリゴマー等であり、具体的にはオクチル酸アルミニウム等のオクチル酸金属塩、ナフテン酸マンガン等のナフテン酸金属塩、ステアリン酸亜鉛等のステアリン酸塩、アルミニウムジイソプロポキシドモノエチルアセトアセテート等の有機キレート化合物等が挙げられる。これらのゲル化剤は1種又は2種以上を油相に添加すれば良く、その添加量は油相中の樹脂の15重量%以下が好ましく、更に好ましくは5〜10重量%である。
【0016】
エマルションインクの水相に添加される水溶性高分子は補湿や増粘、場合によっては着色剤分散のために添加されるものであり、具体的には下記に示すような天然又は合成高分子が添加される。デンプン、マンナン、アルギン酸ソーダ、ガラクタン、トラガントガム、アラビアガム、プルラン、デキストラン、キサンタンガム、ニカワ、ゼラチン、コラーゲン、カゼイン等の天然高分子;カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシメチルデンプン、カルボキシメチルデンプン、ジアルデヒドデンプン等の半合成高分子;ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸トリエタノールアミン等のアクリル酸樹脂誘導体;ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルメチルエーテル等の合成高分子;その他。これらの水溶性高分子は単独でも2種以上混合して添加しても良く、添加量はインキに含まれる水の量の25重量%以下が好ましく、特に0.5〜15重量%が好ましい。
【0017】
水相に添加される防腐・防かび剤は、エマルション内で細菌やかびが繁殖するのを防ぐために添加され、エマルションを長期間保存する場合は防腐・防かび剤の添加が普通である。その添加量は、インキ中に含まれる水の3重量%以下、好ましくは0.1〜1.2重量%とするのが良い。また、防腐・防かび剤としてはサリチル酸、フェノール類、p−オキシ安息香酸メチル、p−オキシ安息香酸エチル等の芳香族ヒドロキシ化合物及びその塩素化合物のほか、ソルビン酸やデヒドロ酢酸等が使用され、これらは単独でも2種以上混合して使っても良い。水の蒸発抑制剤と凍結防止剤は兼用可能であり、これらの目的で添加される薬品はエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール;メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール等の低級飽和一価アルコール;グリセリン、ソルビトール等の多価アルコール;等である。これらの薬品は1種又は2種以上を添加すれば良く、その添加量はインク中の水重量の15重量%以下、好ましくは2〜12重量%である。
【0018】
水相に添加されるpH調整剤は、トリエタノールアミン、酢酸ナトリウム、トリアミルアミン等であり、必要時にはこれらのpH調整剤を添加して水相のpHを6〜8に保つことができる。水相のpHが前記範囲からはずれると、増粘剤用水溶性高分子が添加されている場合にその効果が損なわれる等の問題がある。水相に添加される電解質は、エマルションの安定性を高めるために添加されるものである。従って、該電解質にはエマルションの安定度向上に有効な離液順列が高いイオンで構成された電解質を添加するのが良い。離液順列が高い陰イオンは、クエン酸イオン、酒石酸イオン、硫酸イオン、酢酸イオン等であり、離液順列が高い陽イオンはアルカリ金属イオンやアルカリ土類金属イオンであるから、ここで添加される電解質としては少なくとも陰イオンか陽イオンの一方が前記イオンよりなる塩が好ましい。従って、ここで添加される電解質としては、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、酢酸ナトリウム等が好ましく、その添加量は水相の0.01〜3.0重量%が好ましく、特に0.5〜2.0重量%が好ましい。
【0019】
上記のほか、本発明の孔版印刷用W/O型エマルションインキには、印刷時に印刷用紙と印刷ドラムとの分離を良くするため、或いは印刷用紙の巻き上がり防止等のために油相にワックスを添加することができる。また、水相にはトリエタノールアミンや水酸化ナトリウム等を添加して、水溶性高分子添加による高粘度化を更に増進させることができる。さらに、水相に防錆剤や消泡剤を添加して印刷の際に印刷機がインキによって錆びたりインキが泡立つことを防止することができる。これらの添加剤は、孔版印刷用W/O型エマルションインキに添加されている公知品を必要に応じて添加すれば良く、その添加量は従来品の場合と同程度で良い。本発明のエマルションインキは、油相及び水相液を調製し、この両者を公知の乳化機内で乳化させてインキとすれば良い。
すなわち、乳化剤及び必要に応じて添加される着色剤、樹脂等の添加物を良く分散させた油を常法で調製し、これに着色剤、防腐・防かび剤や水溶性高分子等が必要に応じて添加されている水溶液を徐々に添加して乳化させれば良い。
【実施例】
【0020】
本発明の好ましい態様を実施例を用いて、以下詳しく説明する。
なお、以下に記す部は重量部である。
【0021】
<実施例1>
(油相液組成)
着色剤 カ―ボンブラック 3.0部
(MA77、三菱化学社製)
油 米ぬか油 (ヨウ素価100、凝固点−8℃) 15.1部
樹脂 ロジン変性フェノール樹脂 5.0部
(ハリマ化成社製:商品名P−140)
界面活性剤 ソルビタンセスキオレエート 3.7部
(花王社製:商品名レオドールAO−15)
ソルビタンモノオレエート 2.3部
(花王社製:商品名レオドールAO−10)
(水相液組成)
水 イオン交換水 65.8部
30%ポリビニルピロリドン水溶液(固形分1.5wt%) 5.0部
防腐・防かび剤 パラオキシ安息香酸メチル 0.1部

油相液は150℃で油に樹脂を溶解させ、この液にカ−ボンブラックと界面活性剤と油とを混合し、高速ディゾルバーにて周速10m/secで30min攪拌した。
その後、ビ−ズミルにて下記条件にて分散処理を行い油相を得た。
ジルコニア製ビ−ズ径;1.5mm
周速;12m/sec
流速;0.7L/min
水相液は、防腐・防かび剤、及び30%ポリビニルピロリドン水溶液を水に良く溶解させて調製した。そして、乳化機として高速ディゾルバーを使用し、この中に油相液を仕込んで周速15m/secの速度で液を撹拌しながら、徐々に水相液を添加してエマルションインクを製造した。以下、実施例2、3及び比較例1を同様に製造した。
【0022】
<実施例2>
(油相液組成)
着色剤 カ―ボンブラック 3.0部
(MA77、三菱化学社製)
油 米ぬか油(ヨウ素価115、凝固点−8℃) 15.1部
樹脂 ロジン変性フェノール樹脂 5.0部
(ハリマ化成社製:商品名P−140)
界面活性剤 ソルビタンセスキオレエート 3.7部
(花王社製:商品名レオドールAO−15)
ソルビタンモノオレエート 2.3部
(花王社製:商品名レオドールAO−10)
(水相液組成)
水 イオン交換水 65.8部
30%ポリビニルピロリドン水溶液(固形分1.5wt%) 5.0部
防腐・防かび剤 パラオキシ安息香酸メチル 0.1部
【0023】
<実施例3>
(油相液組成)
着色剤 カ―ボンブラック 3.0部
(MA77、三菱化学社製)
油 米ぬか油(ヨウ素価100、凝固点−1℃) 15.1部
樹脂 ロジン変性フェノール樹脂 5.0部
(ハリマ化成社製:商品名P−140)
界面活性剤 ソルビタンセスキオレエート 3.7部
(花王社製:商品名レオドールAO−15)
ソルビタンモノオレエート 2.3部
(花王社製:商品名レオドールAO−10)
(水相液組成)
水 イオン交換水 65.8部
30%ポリビニルピロリドン水溶液(固形分1.5wt%) 5.0部
防腐・防かび剤 パラオキシ安息香酸メチル 0.1部
【0024】
<実施例4>
(油相液組成)
油 米ぬか油(ヨウ素価100、凝固点−8℃) 15.1部
樹脂 ロジン変性フェノール樹脂 5.0部
(ハリマ化成社製:商品名P−140)
界面活性剤 ソルビタンセスキオレエート 3.7部
(花王社製:商品名レオドールAO−15)
ソルビタンモノオレエート 2.3部
(花王社製:商品名レオドールAO−10)
(水相液組成)
着色剤 カ―ボンブラック 3.0部
(MA77、三菱化学社製)
水 イオン交換水 65.8部
30%ポリビニルピロリドン水溶液(固形分1.5wt%) 5.0部
防腐・防かび剤 パラオキシ安息香酸メチル 0.1部

油相液は、150℃で油に樹脂を溶解させ、この液に界面活性剤と油とを混合し、高速ディゾルバーにて周速10m/sec.で30min攪拌し、油相を得た。
水相液は、防腐・防かび剤、及び30%ポリビニルピロリドン水溶液を水に良く溶解させて高速ディゾルバーにて周速10m/secで攪拌しながら、カ−ボンブラックを混合した。その後、ビ−ズミルにて下記条件にて分散処理を行い水相を得た。
ジルコニア製ビ−ズ径;1.5mm
周速;12m/s
流速;0.7L/min
そして、乳化機として高速ディゾルバーを使用し、この中に油相液を仕込んで周速15m/secの速度で液を撹拌しながら、徐々に上記水相液を添加してエマルションインクを製造した。以下、比較例1および2を同様に製造した。
【0025】
<比較例1>
(油相液組成)
着色剤 カ―ボンブラック 3.0部
(MA77、三菱化学社製)
油 大豆油 15.1部
樹脂 ロジン変性フェノール樹脂 5.0部
(ハリマ化成社製:商品名P−140)
界面活性剤 ソルビタンセスキオレエート 3.7部
(花王社製:商品名レオドールAO−15)
ソルビタンモノオレエート 2.3部
(花王社製:商品名レオドールAO−10)
(水相液組成)
水 イオン交換水 65.8部
30%ポリビニルピロリドン水溶液(固形分1.5wt%) 5.0部
防腐・防かび剤 パラオキシ安息香酸メチル 0.1部
【0026】
<比較例2>
(油相液組成)
油 大豆油 15.1部
樹脂 ロジン変性フェノール樹脂 5.0部
(ハリマ化成社製:商品名P−140)
界面活性剤 ソルビタンセスキオレエート 3.7部
(花王社製:商品名レオドールAO−15)
ソルビタンモノオレエート 2.3部
(花王社製:商品名レオドールAO−10)
(水相液組成)
着色剤 カ―ボンブラック 3.0部
(MA77、三菱化学社製)
水 イオン交換水 65.8部
30%ポリビニルピロリドン水溶液(固形分1.5wt%) 5.0部
防腐・防かび剤 パラオキシ安息香酸メチル 0.1部

実施例1〜4、比較例1、2処方のインキを製造し、印刷機用ドラム放置後の目詰まり及び低温での画像立ち上がりを示したのが表1である。
なお評価用画像の印刷にはリコー社製印刷機JP5500を使用した。
【0027】
〈放置後の目詰まりと画像立ち上がり枚数〉
実施例1〜4、比較例1、2インキを使用して印刷したドラムを機上にて1ヵ月放置(常温常湿)の後に印刷を実施し、印刷画像によりドラム目詰まりの有無を評価し、目詰まりがない場合には画像が完全に立ち上がった枚数を記録する。
〈低温画像立ち上がり評価〉
5℃20%RH環境に実施例1〜4、比較例1、2インキ、及びマシンを1日慣らした後に100枚慣らし印刷後に、製版・印刷を行い、画像が完全に立ち上がるまでの枚数を画像立ち上がりとした。
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0028】
孔版印刷用W/Oエマルションインキの油成分として日本の自給率が高い米を原料とする米ぬか油、あるいはその誘導体を利用するものであり、目詰まり、放置後の画像立ち上がり遅延が改善された孔版印刷用W/Oエマルションインキを提供できるとともに、国内産の原料を使用することが可能となり温暖化の原因とされているCO量の排出量を大幅に削減することができるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0029】
【特許文献1】特開2004−315696号公報
【特許文献2】特開2003−335998号公報
【特許文献3】特許第3462472号
【特許文献4】特開2004−231903号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油成分として米ぬか油、あるいはその誘導体を用いることを特徴とする孔版印刷用W/O型エマルションインキ。
【請求項2】
凝固点が−10℃〜−1℃の米ぬか油、あるいはその誘導体を用いることを特徴とする請求項1に記載の孔版印刷用W/O型エマルションインキ。
【請求項3】
着色剤を油相のみに含有させることを特徴とする請求項1又は2に記載の孔版印刷用W/O型エマルションインキ。