説明

学習能向上剤

【課題】学習能向上剤及び学習能向上用飲食品又は飼料の提供。
【解決手段】スフィンゴミエリンを有効成分として含有する学習能向上剤、スフィンゴミエリンを有効成分として含有する学習能向上用飲食品又は飼料。スフィンゴミエリンには学習能を向上させる作用がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン脂質の一種であるスフィンゴミエリンを有効成分とする学習能向上剤、あるいはスフィンゴミエリンを配合した学習能向上用飲食品又は飼料に関する。
【背景技術】
【0002】
人の学習能力に対する関心は近年増加してきており、脳年齢などの指標が一般化されるにつれ、その維持向上への要望は非常に高まっている。それに伴い、学習能力や記憶力などの脳機能を高める物質の探索研究が活発に行われている。また、これらの脳機能を高める物質には常用可能な医薬品としての開発と同時に、継続的な学習能の向上を目的として、食品への添加が可能で日々の食生活を通して摂取することができる安全性の高い剤の開発が望まれている。
【0003】
スフィンゴミエリンはリン脂質の一種で、卵黄や乳中に多く分布しており、細胞膜や血清リポタンパク質の構成成分として分布している。そして、生体内でのスフィンゴミエリンは、情報伝達系を介して細胞の増殖や分化に影響を及ぼしていることが知られている。また、スフィンゴミエリンには、老化によるプロテインキナーゼC活性の低下を抑制する効果があり、アルツハイマー型記憶障害の予防や治療に有効であることも示唆されている(特許文献1)が、一般的な意味での学習能力を向上させる効果についてはなんら知られていない。
【特許文献1】特開2003−146883公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、日常的に摂取することが可能であり、学習能の向上作用を持つ薬剤及び飲食品、飼料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行ったところ、スフィンゴミエリンを経口摂取することによって学習能が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明はスフィンゴミエリンを有効成分として含有する学習能向上剤、あるいはスフィンゴミエリンを有効成分として含有する学習能向上用飲食品又は飼料に関する。
【0006】
本発明において用いることができるスフィンゴミエリンは、特に限定されず、化学的に合成されたものや、天然由来のもの、例えば、牛乳やヤギ乳等の乳由来のものの他、鶏卵等の卵黄由来のものが挙げられるが、乳由来のものがより好ましい。乳の中でも牛乳由来のスフィンゴミエリン素材は、スフィンゴミエリンの含量が25%以上と高濃度であり、安価なものも上市されているので、特に好ましい。
【0007】
本発明においては、精製して純度を高めたスフィンゴミエリンを使用してもよいし、スフィンゴミエリンを含有するリン脂質の形態で使用してもよい。なお、スフィンゴミエリンやスフィンゴミエリン含有リン脂質については、次のような方法により調製することができる。例えば、乳やホエータンパク質濃縮物(WPC)等の乳製品をエーテルやアセトンで抽出する方法(特開平3−47192号公報)により得られる乳由来のスフィンゴミエリン含有リン脂質(リン脂質中スフィンゴミエリン約28%含有)を使用することができ、また、バターを加温融解することで得られるバターカードやバターセーラムを含む水性画分をスフィンゴミエリン含有リン脂質(リン脂質中スフィンゴミエリン約9%含有)として使用することができ、さらにバターミルクやバターセーラム中に含まれる乳脂肪球皮膜画分をスフィンゴミエリン含有リン脂質(リン脂質中スフィンゴミエリン約9%含有)として使用することができる。また、動物の脳やスフィンゴミエリン産生能を持つ微生物の培養液も、スフィンゴミエリン含有リン脂質として使用することができる。そして、これらのスフィンゴミエリン含有リン脂質を透析、硫安分画、ゲル濾過、等電点沈殿、イオン交換クロマトグラフィー、溶媒分画等の手法により精製することにより純度を高めたスフィンゴミエリンを使用しても良い。また、これらのスフィンゴミエリンやスフィンゴミエリン含有リン脂質は、液体の状態で使用しても良いし、粉末の状態で使用しても良い。
【発明の効果】
【0008】
本発明のスフィンゴミエリンを有効成分として含有する学習能向上剤及び/または学習能向上用飲食品又は飼料はヒトまたは動物が経口摂取することにより、学習能を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明はスフィンゴミエリンを有効成分として含有する学習能向上剤である。この学習能向上剤の剤型としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、粉剤、シロップ剤等の製剤を例示することができる。また、これらの剤型は従来知られている方法で製造することができ、例えば、製剤製造上許容されている担体や賦形剤等として混合すればよい。
【0010】
また、本発明は、スフィンゴミエリンを有効成分として含有する学習能向上用飲食品又は飼料である。この学習能向上用飲食品や飼料は、スフィンゴミエリンを牛乳、乳飲料、ヨーグルト、チーズ、コーヒー飲料、ジュース、ゼリー、ウエハース、ビスケット、パン、麺類、ソーセージ等の飲食品や栄養食、さらには必須脂肪酸や脂溶性ビタミンの補給を目的とした栄養組成物などに配合すればよいし、飼料の種類も特に限定されるものではない。
【0011】
なお、本発明で、学習能の向上作用を発揮させるためには、スフィンゴミエリンとして1日当たり0.1〜100mg程度以上摂取できるように配合量等を調整すればよい。
【0012】
以下に、実施例及び試験例を示し、本発明についてより詳細に説明するが、これらは単に例示するのみであり、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。また、実施例および試験例における「%」は断らない限り「重量%」を意味するものとする。
【実施例1】
【0013】
ホエータンパク質濃縮物(WPC)の10%水溶液にプロテアーゼを作用させて得られた反応液をクロロホルム−メタノール(2:1)溶液で抽出した後、濃縮し、さらにアセトン抽出して複合脂質画分を得た。次にこの複合脂質画分をフロリジルカラムクロマトグラフィー処理し、クロロホルム−メタノール溶液で段階抽出してリン脂質画分を得た。そして、このリン脂質画分をシリカゲルカラムクロマトグラフィー処理し、クロロホルム−メタノール溶液で段階抽出してスフィンゴミエリン素材を得た。得られたスフィンゴミエリン素材については、このままの状態で学習能向上剤とすることができる。なお、このスフィンゴミエリン素材を薄層クロマトグラフィー処理した後、ディットマー試薬で発色し、デンシトメトリー法で測定したところ、スフィンゴミエリン含量は95.2%であった。
【0014】
[試験例1]
(学習能向上作用の確認)
実施例1で得られたスフィンゴミエリン素材を使用し、スフィンゴミエリンの経口摂取による学習行動に及ぼす影響を調べる目的で水迷路実験を行った。なお、実験は特開平9−301874公報の「試験例2」に記載の方法に従った。まず、8週齢のSD系雄ラット(日本チャールズリバ−社)を標準食(AIN−93G)で7日間予備飼育した後、1群6匹からなる3群に分け、表1に示した組成の飼料をそれぞれの群に10日間摂食させた。なお、ラットの飼育は室温24℃、湿度60%、light-darkコントロール12時間の条件下で行い、脱イオン水を自由摂取させた。
【0015】
【表1】

【0016】
そして、縦横各120cm、深さ40cmの水槽にT字型迷路を組み合わせ、11ヶ所の盲路を配置した“water filled multiple T-maze”を作成し、石崎の方法(Ishizaki, Exp. Anim., vol.27, pp.9-12 1978)により、水温23〜24℃で水迷路実験を行った。まず、試験の前日に直線水路で5回試行してラットを馴化した。次にその翌日から水迷路で、4日間連続してラット1匹につき3回ずつ試行を繰り返し、水迷路の出発点から目標点に達するまでの所要時間を測定した。その結果を表2に示す。
【0017】
【表2】

【0018】
水迷路実験開始1日目〜3日目において、出発点から目標点に達するまでの所要時間は、本発明群(実施例1で得られたスフィンゴミエリン素材を2%含有する飼料摂取群)で対照群や大豆レシチン群(大豆レシチン約95%である日清オイリオ社のベイシスLP20を2%含有する飼料摂取群)に比べ、有意に短かった。この結果から、スフィンゴミエリンは学習能を向上させる作用を有することが明らかとなった。
【実施例2】
【0019】
表3に示す配合で原料を混合後、常法により1gに成型、打錠して本発明の学習能向上剤を錠剤として製造した。この学習能向上剤1g中には、スフィンゴミエリンが10mg含まれていた。
【0020】
【表3】

【実施例3】
【0021】
スフィンゴミエリン含量25%のスフィンゴミエリン素材(リン脂質700、Fonterra社)50gを4950gの脱イオン水に溶解し、50℃まで加熱後、TKホモミクサー(TK ROBO MICS;特殊機化工業社)にて、6000rpmで30分間撹拌混合してスフィンゴミエリン含量250mg/100gのスフィンゴミエリン溶液を得た。このスフィンゴミエリン溶液4.0kgに、カゼイン5.0kg、大豆タンパク質5.0kg、魚油1.0kg、シソ油3.0kg、デキストリン18.0kg、ミネラル混合物6.0kg、ビタミン混合物1.95kg、乳化剤2.0kg、安定剤4.0kg、香料0.05kgを配合し、200mlのレトルトパウチに充填し、レトルト殺菌機(第1種圧力容器、TYPE:RCS−4CRTGN、日阪製作所社)で121℃、20分間殺菌して、本発明の学習能向上用液状栄養組成物50kgを製造した。なお、この学習能向上用液状栄養組成物には、100gあたり、スフィンゴミエリンが20mg含まれていた。
【実施例4】
【0022】
スフィンゴミエリン含量10%のスフィンゴミエリン素材(リン脂質500、Fonterra社製)10gを700gの脱イオン水に溶解し、50℃まで加熱後、ウルトラディスパーサー(ULTRA−TURRAX T−25;IKAジャパン社)にて、9500rpmで30分間撹拌混合した。この溶液に、ソルビトール40g、酸味料2g、香料2g、ペクチン5g、乳清タンパク質濃縮物5g、乳酸カルシウム1g、脱イオン水235gを添加して、撹拌混合した後、200mlのチアパックに充填し、85℃、20分間殺菌後、密栓し、本発明の学習能向上用ゲル状食品5袋(200g入り)を調製した。このようにして得られた学習能向上用ゲル状食品は、すべて沈殿等は認められず、風味に異常は感じられなかった。なお、この学習能向上用ゲル状食品には、100gあたり、スフィンゴミエリンが100mg含まれていた。
【実施例5】
【0023】
酸味料2gを700gの脱イオン水に溶解した後、スフィンゴミエリン含量25%のスフィンゴミエリン素材(リン脂質700、Fonterra社製)10gを溶解し、50℃まで加熱後、ウルトラディスパーサー(ULTRA−TURRAX T−25;IKAジャパン社)にて、9500rpmで30分間撹拌混合した。マルチトール100g、還元水飴20g、香料2g、脱イオン水166gを添加した後、100mlのガラス瓶に充填し、90℃、15分間殺菌後、密栓し、学習能向上用飲料10本(100ml入り)を調製した。このようにして得られた学習能向上用飲料は、すべて沈殿は認められず、風味に異常は感じられなかった。なお、この学習能向上用飲料には、100gあたり、スフィンゴミエリンが250mg含まれていた。
【実施例6】
【0024】
スフィンゴミエリン含量4%のスフィンゴミエリン素材(SM−4、Corman社)2kgを98kgの脱イオン水に溶解し、50℃まで加熱後、TKホモミクサー(MARKII 160型;特殊機化工業社)にて、3600rpmで40分間撹拌混合してスフィンゴミエリン含量80mg/100gのスフィンゴミエリン溶液を得た。このスフィンゴミエリン溶液10kgに大豆粕12kg、脱脂粉乳14kg、大豆油4kg、コーン油2kg、パーム油23.2kg、トウモロコシ澱粉14kg、小麦粉9kg、ふすま2kg、ビタミン混合物5kg、セルロース2.8kg、ミネラル混合物2kgを配合し、120℃、4分間殺菌して、本発明の学習能向上用イヌ飼育飼料100kgを製造した。なお、この学習能向上用イヌ飼育飼料には、100gあたり、スフィンゴミエリンが8mg含まれていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スフィンゴミエリンを有効成分として含有する学習能向上剤。
【請求項2】
スフィンゴミエリンを有効成分として含有する学習能向上用飲食品又は飼料。



【公開番号】特開2007−246404(P2007−246404A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−68501(P2006−68501)
【出願日】平成18年3月14日(2006.3.14)
【出願人】(000006699)雪印乳業株式会社 (155)
【Fターム(参考)】