説明

安全かつ長期保存可能な米飯の製造方法

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は長期保存可能な米飯の製造方法に関するものである。更に詳しくは、製造工程および流通段階において米粒の結着、潰れが生じたりすることがなく、長期保存しても炊きたての味と香りが維持できるような米飯の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】米飯に於いても簡単な手段で短時間で調理できる多種類のレトルト米飯類や無菌製造方法により製造された米飯類が市場に出回っている。レトルト米飯類の製造方法については数多くの方法が知られている。例えば合成樹脂フィルム等の袋に熱水中で2〜10分間湯炊きした米を充填、密封した後加圧殺菌して保存用米飯を製造する方法(特公昭57−43222号公報)、できるだけ均一に含水させた洗米を袋に入れ加圧殺菌して米粒表面が滑らかでべたつきの少ないレトルト米飯を製造する方法(特開昭62−51959号公報)、炊飯後レトルトパウチ内に御飯を充填、密封し加圧殺菌する方法(特開昭56−72655号公報)等が知られている。
【0003】しかし、これらのレトルト米飯は高温加熱処理(例えば、120℃、20〜30分間加熱)を行うため、炊きたての味と香りが維持できない、製造工程および流通段階において米粒の結着、潰れが生じ、外観および食感を損ね、家庭で味わう炊きたての風味、食感を有していないなどの問題がある。
【0004】また常圧炊飯あるいは加圧炊飯した米飯を無菌設備中で脱酸素剤と共にバリヤー性の耐熱容器に充填し容器を完全密封するという従来の無菌製造法(例えば、特開平3−133348号公報、特開平3−98542号公報など)により製造された即席米飯類は、常圧炊飯の場合はレトルト米飯よりも香りや味が優れているが、保存用米飯としては食品衛生上の問題が残されており、加圧炊飯の場合は約105℃〜120℃の温度範囲で炊飯するので炊きたての味と香りが維持できない、米粒の結着、潰れが生じるなどの問題がある。
【0005】上記の常圧炊飯を行う従来の無菌製造法は、炊飯のための加熱(約100℃)以降の工程を無菌設備中で行うことにより米飯の細菌汚染を防止し、かつ脱酸素剤の封入により容器内部の酸素濃度を0.1%以下にして好気性細菌および真菌の増殖を防止することで、高温高圧のレトルト殺菌を不要にしようとするものである。しかしながら、精白米が当初よりボツリヌス菌などの嫌気性の食中毒菌に汚染されていた場合、これらの細菌は、炊飯時の加熱処理(約100℃)では完全に死滅せず、酸素濃度0.1%以下の容器内の米飯中で増殖するので、保存食品としての安全性が問題となる。ボツリヌス菌による食中毒は、食品中で食中毒菌が増殖して特定の毒素を産生したものを摂取することによって発症するもので、その症状は特異的な神経症状を示し、致命率30〜60%にも及ぶという食中毒中最も恐れられているものである。
【0006】また精白米を洗米し、更に紫外線、マイクロ波、オゾンの何れかで無菌状態になるまで殺菌し、それを無菌袋に真空で袋詰めにしたすぐ炊ける米の加工方法(特開昭61−5750号公報)が知られている。しかし実際には何れの方法でも米に汚染している菌は完全殺菌することは至難である。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】米粒の結着、潰れなどを起こすことがなく、常温で約6ケ月以上長期保存しても炊きたての味と香りが維持できるような米飯の製造方法を提供する。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明者等は、上記の問題に鑑み鋭意研究した結果、グルコノデルタラクトン、あるいはクエン酸、酒石酸、リンゴ酸、フマル酸、コハク酸、グルコン酸、乳酸、酢酸、アジピン酸、フィチン酸、アスコルビン酸などの食用有機酸あるいはその塩を含有する浸漬水や炊き水を用いて、炊飯後の米飯のpHが特定の値となるように調整して炊飯した米飯を無菌設備中で容器中に脱酸素剤と共に充填し、完全に密封することにより課題を解決することができることを見いだして本発明をなすに至った。
【0009】本発明の請求項1の発明は、精白米を洗米後、浸漬水に浸漬し、次いで浸漬水から取り出し、炊飯直前に炊き水を添加して炊飯後、無菌設備中でガスバリヤー性耐熱容器中に脱酸素剤と共に充填し、完全に密封する米飯の製造方法において、グルコノデルタラクトン、グルコン酸およびその塩あるいはこれらの混合物から選択される少なくとも一つを必須成分として含有する浸漬水および炊き水を用いて炊飯後の米飯のpHが4.0〜4.8となるように調整し、ボツリヌス菌をはじめとする食中毒菌の増殖を防止することを特徴とする安全かつ長期保存可能な米飯の製造方法。
【0010】本発明の請求項2の発明は、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、フマル酸、コハク酸、乳酸、酢酸、アジピン酸、フィチン酸、アスコルビン酸およびその塩あるいはこれらの混合物から選択される少なくとも一つの食用有機酸をさらに含有する浸漬水および/または炊き水を用いることを特徴とする請求項1に記載の安全かつ長期保存可能な米飯の製造方法である。
【0011】本発明の請求項3の発明は、該塩がカリウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩およびこれらの混合物から選択される少なくとも一つの有機酸の塩であることを特徴とする請求項1あるいは請求項2に記載の安全かつ長期保存可能な米飯の製造方法である。
【0012】本発明で用いる精白米とは、うるち米、もち米、ワイルドライス、玄米などの精白物である。また必要に応じてこれらの半調理、半加熱物などのα化米および他の穀類などを添加することもできる。
【0013】本発明において精白米は常法に従い洗米を行う。精白米を洗米後、浸漬水に浸漬する。通常、生米の水分含量は10〜18%であるので、精白米の水分含量が約20〜50%となるように水に浸漬したり、水を噴霧したりすることが知られているが、この範囲に限定されるものではない。精白米を浸漬水から取り出し、引き続き炊飯直前に米に対して例えば1.0〜1.5倍量の炊き水を添加し、常法に従いガス、電気、蒸気などの熱源を用いて常圧炊飯を行う。
【0014】このようにして炊飯した後、米飯が比較的温かい約60℃以上のうちに、無菌設備中でバリヤー性耐熱容器中に脱酸素剤と共に充填し、例えばヒートシール機で完全に密封する。例えば、米国航空宇宙局(NASA)の規格でクラス100〜クラス10000のクリーンルームやクリーンブース内等で無菌充填を行なう。無菌充填を行なう際には使用する設備・包材・容器・脱酸素剤等は充分に滅菌されたものを使用する。
【0015】好ましいガスバリヤー性耐熱容器包装体は、耐熱性合成樹脂のトレー容器か、耐熱性合成樹脂フィルム及び/又は金属箔のラミネート材からなるプラスチック袋である。例えば、トレー容器は、塩化ビニリデンフィルムを中間層とし、上下層には、ポリプロピレンを積層しこれをトレー状に成形したものとトレー容器上蓋フィルム(PET/Kナイロン/ポリエチレン系シーラント)などが使用できる。
【0016】上記のような米飯の製造方法において、本発明においては、グルコノデルタラクトンや食用有機酸あるいはその塩を含有する浸漬水および/または炊き水を用いて炊飯後の米飯のpHが4.0〜4.8となるように調整することが、長期保存しても炊きたての味と香りが維持できるような米飯を製造するために必要である。
【0017】本発明で用いるグルコノデルタラクトンは食品添加物であり、本発明において好ましく用いることができる。本発明で用いる上記の食用有機酸は食品添加物として認められている食用酸であり、例えばクエン酸、酒石酸、リンゴ酸、フマル酸、コハク酸、グルコン酸、乳酸、酢酸、アジピン酸、フィチン酸、アスコルビン酸あるいはこれらの混合物などを挙げることができるが、長期保存性と食味とを同時に満足させるためにはクエン酸、グルコン酸あるいはこれらの混合物は好ましく使用することができる。本発明で用いる上記の食用有機酸の塩としては、カリウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩およびこれらの混合物などを挙げることができる。またグルコノデルタラクトンとこれらの食用有機酸やその塩との混合物も使用することができる。
【0018】食用有機酸を使用せずに炊飯した炊飯後の米飯のpHは約6.7であり、この米飯は食味は優れているが、長期保存性に劣るので、本発明においては炊飯後の米飯のpHを4.0〜4.8となるように調整することにより食中毒菌の増殖を防止することが可能であることを究明した。pH値を低く調整するほど、食中毒菌の増殖防止効果は高まるが、食味に悪影響がでるので好ましくなく、逆にpH値を高く調整すると、長期保存性が悪化するので、長期保存食品として商品化するためには、常温で最低でも約6ケ月間は保存できる保存性が要求されることを考えて、炊飯後の米飯のpHを4.0〜4.8に制御するのが好ましいとの知見を得たものである。
【0019】本発明において、グルコノデルタラクトンや食用有機酸などを浸漬水や炊き水に添加して上記範囲内のpH値に制御された米飯を製造するための具体的方法としては、■精白米を洗米後、一定時間水に浸漬後、炊飯直前に炊き水にグルコノデルタラクトンや食用有機酸あるいはその塩を添加し、炊飯する方法、■精白米を洗米後、グルコノデルタラクトンや食用有機酸あるいはその塩を含む溶液中に一定時間浸漬し、pH値を低下させ、そのまま炊飯する方法、■精白米を洗米後、グルコノデルタラクトンや食用有機酸あるいはその塩を含む溶液中に一定時間浸漬し、pHをある程度低下させ、さらに炊飯直前に炊き水にグルコノデルタラクトンや食用有機酸あるいはその塩を添加し、炊飯する方法、があるが、最終pH値の安定度と品質の観点等より、■の方法によるのが最も現実的であり好ましい方法である。
【0020】以上のように調製された無菌充填米飯は、電子レンジあるいは加熱水浴中で再加熱を行ない食に供すことができる。
【0021】本発明において、本発明の主旨を逸脱しない範囲で米飯や水に、さらに調味料、着色料、油脂、乳化剤などを添加してもよい。
【0022】
【作用】本発明においては、グルコノデルタラクトン、あるいはクエン酸、グルコン酸などの食用有機酸やその塩を含有する浸漬水や炊き水を用いて、常圧炊飯後の米飯のpHが4.0〜4.8に制御して炊飯した米飯を無菌設備中でガスバリヤー性耐熱容器中に脱酸素剤と共に充填し、完全に密封することにより、米粒の結着、潰れを起こすことなく、好気性菌や嫌気性菌などの増殖や活動を抑えることができるので、長期保存しても炊きたての味と香りが維持できるような長期保存性に優れた米飯を提供することができる。
【0023】
【実施例】次に実施例により本発明を詳しく説明するが、本発明の主旨を逸脱しない限りこれらの実施例に限定されるものではない。
(グルコノデルタラクトン、各食用有機酸の米飯の味覚への影響)精白米をグルコノデルタラクトンや各食用有機酸を含有する水溶液中に一定時間(60〜90分間)浸漬してpHを低下させ、さらに炊飯直前に炊き水に食用有機酸を添加し、炊飯後の米飯のpHが4.5および5.5となるように、下記の(表1)に示した炊飯条件で炊飯する方法により米飯を作りグルコノデルタラクトンや各食用有機酸の米飯の味覚への影響などを調べた。pH測定は以下の方法によった。
■米飯20gに対して、50ccの蒸留水を加え、ホモゲナイザーにて処理する。
■5分間放置後、pHメーター[東亜電波工業(株)製HM−30S]にてPHを測定する。
米飯の食味は訓練された味覚審査員を用い、官能評価し、結果を表2にまとめて示した。
【0024】
【表1】


【0025】
【表2】


【0026】以上の結果より、酸味等による白飯の商品価値の低下を最小限に抑えて、本発明の長期保存可能な米飯の製造方法に使用することができる有効な添加剤としては上記の添加剤のいずれも使用できるが、グルコノデルタラクトンおよび食用有機酸としては、クエン酸、グルコン酸およびこれらの組合わせが好ましいことが判る。
【0027】(前記精白米を各種濃度のクエン酸水溶液に浸漬した時の米のpHの経時変化)前記精白米10kgを洗米後、常温で各種濃度のクエン酸水溶液(クエン酸濃度0.05重量%、0.20重量%、0.50重量%)25リットルに浸漬した時の米のpHの経時変化を調べた結果を図1にまとめて示す。
【0028】(実施例1〜5、比較例1〜5)含水率15%の上記精白米を洗米後、浸漬水として水を用いるかあるいはグルコノデルタラクトンや各種食用有機酸を添加した浸漬水溶液を用い、それに60分間浸漬して含水率32%とし、炊飯直前に炊き水として水を用いるかあるいはグルコノデルタラクトンや各種食用有機酸を添加した炊き水を用い上記の炊飯条件下で、炊飯後の米飯のpH値を制御して米飯を製造した。米飯が約60℃の状態で、クラス100のバイオクリーンルーム内で、バリヤー性耐熱容器として、PP/EVOH/PPからなるドライラミネート材を袋状に製袋し、一部ヒートシールしていない未溶着部を設けたプラスチック袋を用い、それに脱酸素剤と共に充填し、ヒートシール機でヒートシールして完全に密封した。
【0029】これを常温で約6ケ月間保存した後、電子レンジで3分間あたためて食し、米飯の食味と保存性を評価した。実施例や比較例のいずれの場合も電子レンジで3分間あたためたところふっくらとしたボリューム感のある色の白い米飯が得られ、また米粒の結着や潰れは生じなかった。結果をまとめて(表3)に示す。
【0030】
【表3】


【0031】(実施例1)浸漬水として水を用い、グルコノデルタラクトンを添加した炊き水を使用した場合である。常温で約6ケ月間保存した後、電子レンジで3分間あたためた米飯は異味異臭もなく、かすかに酸味を有しており、たきたての食感を有していた。
【0032】(実施例2)浸漬水としてグルコン酸を添加した浸漬水溶液を用い、水を炊き水として使用した場合である。常温で約6ケ月間保存した後、電子レンジで3分間あたためた米飯は異味異臭もなく、かすかに酸味を有しており、たきたての食感を有していた。
【0033】(実施例3)浸漬水としてクエン酸を添加した浸漬水溶液を用い、水を炊き水として使用した場合である。常温で約6ケ月間保存した後、電子レンジで3分間あたためた米飯は異味異臭もなく、穏やかな酸味を有しており、たきたての食感を有していた。
【0034】(実施例4)浸漬水としてクエン酸を添加した浸漬水溶液を用い、グルコン酸を添加した水溶液を炊き水として使用した場合である。常温で約6ケ月間保存した後、電子レンジで3分間あたためた米飯は異味異臭もなく、穏やかな酸味を有しており、たきたての食感を有していた。
【0035】(実施例5)浸漬水としてグルコノデルタラクトンを添加した浸漬水溶液を用い、グルコン酸を添加した水溶液を炊き水として使用した場合である。常温で約6ケ月間保存した後、電子レンジで3分間あたためた米飯は異味異臭もなく、かすかに酸味を有しており、たきたての食感を有していた。
【0036】(比較例1)浸漬水としてクエン酸を添加した浸漬水溶液を用い、グルコン酸を添加した水溶液を炊き水として使用した場合である。炊飯後のpHが本発明のpHの範囲より大きいので、保存性に問題があり(食中毒菌による毒素産生の危険性があり)、常温で約6ケ月間保存したものは、官能検査に適さない。
【0037】(比較例2)浸漬水としてグルコノデルタラクトンを添加した浸漬水溶液を用い、グルコン酸を添加した水溶液を炊き水として使用した場合である。炊飯後のpHが本発明のpHの範囲より小さいので、常温で約6ケ月間保存した後、電子レンジで3分間あたためた米飯は異味異臭はなく、保存性に優れているが、酸味が後を引き、たきたての食感はなかった。
【0038】(比較例3〜5)浸漬水としてそれぞれ乳酸(比較例3)、酢酸(比較例4)、リンゴ酸(比較例5)を添加した浸漬水溶液を用い、水を炊き水として使用した場合である。常温で約6ケ月間保存した後、電子レンジで3分間あたためた米飯は異味異臭もなく、保存性に優れているが、渋味のある酸味がある(比較例3)、刺激的な酸味がある(比較例4)、苦味のある酸味がある(比較例5)などのためにたきたての食感はなかった。
【0039】(実施例6〜8、比較例6〜7)下記のようにして、上記精白米を炊飯前にボツリヌス菌(ClostoridiumBotulinum )により汚染してから炊飯、充填、密封、保存して長期保存性を試験した(初期汚染の影響)。上記精白米を用いて実施例3の方法に準じて米飯を作る時、浸漬米1g当たりに対して104 個になるようにボツリヌス菌を接種した後、炊飯し、クラス100のクリーンルーム内で無菌的にガスバリヤー性の包材に充填した。合わせて脱酸素剤を封入し嫌気状態にして密封し、30℃の恒温槽に保存し、1,3,6,9,12ヶ月後に毒素の有無を判定した。なお、毒素の有無はマウスへの投与による下記の判定法によった。
■米飯50gに滅菌水100ccを添加・混合し、12時間放置する。
■ストマッカーにて20秒ストマッキング後、上澄液を無菌的に採取し、1時間放置後、遠心分離機にて処理(3000rpm×40分間)する。
■上澄液を無菌的に採取し、37℃湯中に10分間放置し、次いで35℃の恒温槽に40分間保管した後、室温に放置する。
■0.4ミリリットルを採取し、マウスに腹腔注射する(1検体5匹)。
■以後、常法にて飼育し、5匹中、1匹でも死亡したものを(+)、全数生存しているものを(−)とした。
結果をまとめて(表4)に示す。
【0040】
【表4】


コントロールは、グルコノデルタラクトンや食用有機酸などを使用せずに作った米飯の場合であり、この米飯は風味や食味は優れているが、長期保存性に劣ることが判る。炊飯後の米飯のpHを4.0〜4.8となるように調整することにより食中毒菌の増殖を防止することが可能であることが判る。
【0041】(実施例9〜11、比較例8〜9)上記精白米を用いて実施例3の方法に準じて米飯を作る時、下記のようにして、炊飯後の米飯を上記食中毒菌により汚染して充填、密封、保存して長期保存性を試験した(充填時の2次汚染の影響)。上記精白米を用いて実施例3の方法に準じて米飯を作る時、浸漬米を炊飯し、クラス100のクリーンルーム内で無菌的にガスバリヤー性の包材に充填し、併せて脱酸素剤を封入し嫌気状態にした後、ボツリヌス菌を米飯1g当たり103個となるように接種して、密封し、30℃の恒温槽に保存し、1,3,6,9,12ヶ月後に毒素の有無を判定した。なお毒素の有無は、マウスへの投与法によった。初期汚染の影響に関する試験と同様、検体中1匹でも死亡したものを(+)、5匹全数生存しているものを(−)とした。結果をまとめて(表5)に示す。
【0042】
【表5】


コントロールは、グルコノデルタラクトンや食用有機酸を使用せずに作った米飯の場合であり、この米飯は風味や食味は優れているが、長期保存性に劣ることが判る。炊飯後の米飯のpHを4.0〜4.8となるように調整することにより食中毒菌の増殖を防止することが可能であることが判る。
(実施例12〜14)
精白米を洗米後、炊飯米のpHの平均値が4.5、4.4および4.3となるように、グルコノデルタラクトンや食用有機酸あるいはその塩を含む表6に示すpHを有する溶液中に一定時間浸漬してpHをある程度低下させ、さらに炊飯直前にグルコノデルタラクトンや食用有機酸あるいはその塩を添加した表6に示すpHを有する炊き水を用いて炊飯した。そして下記のサンプルの炊飯米のpHを測定した。結果を表6に示す。直方体の形状を有する炊飯釜の上面部の四隅と中央部から合計5箇所、中間部の中央部から1箇所、底面部の四隅と中央部から合計5箇所サンプリングしてpH測定用サンプルとした。
(比較例10〜12)
精白米を洗米後、水道水に一定時間浸漬した後、炊飯米のpHの平均値が4.5、4.4および4.3となるように、炊飯直前にグルコノデルタラクトンや食用有機酸あるいはその塩を添加した表6に示すpHを有する炊き水を用いて炊飯した。そして実施例12〜14と同様にして炊飯米のpHを測定した。結果をまとめて表6に示す。
(比較例13〜15)
精白米を洗米後、炊飯米のpHの平均値が4.5、4.4および4.3となるように、炊飯直前にグルコノデルタラクトンや食用有機酸あるいはその塩を添加した溶液中に一定時間浸漬してpHを低下させ、水道水(炊き水)を用いて炊飯した。そして実施例12〜14と同様にして炊飯米のpHを測定した。結果をまとめて表6に示す。
【表6】


表6の結果から、実施例12〜14の場合は、炊飯米の最大値と最小値との差(pH範囲)が0.5以下であるので、pHの平均値が4.3〜4.5となるように調整すると容易に本発明の炊飯米のpH範囲4.0〜4.8とすることができる。それに対して比較例10〜12の場合は、炊飯米の最大値と最小値との差(pH範囲)が0.8以上であるので、本発明の炊飯米のpH範囲4.0〜4.8を逸脱する危険性があり、安全性に問題がある。比較例13〜15の場合は、炊飯米の最大値と最小値との差(pH範囲)が0.7以上であるので、やはり本発明の炊飯米のpH範囲4.0〜4.8を逸脱する危険性があり、安全性に問題がある。いずれの場合も攪拌を行ったり、浸漬時間を長くしたりすることによりpHのバラツキを低減することが可能であるが、米は重量があり攪拌を行うことが難しい上に、激しく攪拌を行うと米の粒子が崩れて仕上がりが悪くなる問題があり、また浸漬時間を長くすると米の澱粉質が流出し、ベタツキやコゲの原因となるなどの弊害があり、手間や時間がかかる割りには有効な手段とならない。炊飯米のpHは原料米の品質などによっても±0.1程度は変化するので、安全性の観点から実施例12〜14の方法により炊飯米のpHを調整することが好ましい。
【0043】
【発明の効果】以上述べたように、精白米を洗米後、浸漬水に浸漬し、浸漬水から取り出し、炊飯直前に炊き水を添加して炊飯後、無菌設備中でガスバリヤー性耐熱容器中に脱酸素剤と共に充填し、完全に密封する米飯を製造する時、グルコノデルタラクトンや食用有機酸あるいはその塩を含有する浸漬水や炊き水を用いて炊飯後の米飯のpHが4.0〜4.8となるように調整することにより、本発明の製造方法で製造された米飯は常温での保存で約6ケ月以上の長期保存性を有すると共に、製造工程および流通段階において米粒の結着、潰れが生じることがなく、長期保存しても異味異臭がなく、食感も優れたものとなる。さらに調理済み米飯類は、電子レンジあるいは熱水中で2〜20分間再加熱して喫食することができるため、ファーストフードチェーンやコンビニエンスストアー等においては、加熱調理設備の省力化が図れるので、産業上の利用価値は甚だ大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】 精白米を各種濃度のクエン酸水溶液に浸漬した時の米のpHの経時変化を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 精白米を洗米後、浸漬水に浸漬し、次いで浸漬水から取り出し、炊飯直前に炊き水を添加して炊飯後、無菌設備中でガスバリヤー性酎熱容器中に脱酸素剤と共に充填し、完全に密封する米飯の製造方法において、グルコノデルタラクトン、グルコン酸およびその塩あるいはこれらの混合物から選択される少なくとも一つを必須成分として含有する浸漬水および炊き水を用いて炊飯後の米飯のpHが4.0〜4.8となるように調整し、ボツリヌス菌をはじめとする食中毒菌の増殖を防止することを特徴とする安全かつ長期保存可能な米飯の製造方法。
【請求項2】 クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、フマル酸、コハク酸、乳酸、酢酸、アジピン酸、フィチン酸、アスコルビン酸およびその塩あるいはこれらの混合物から選択される少なくとも一つの食用有機酸をさらに含有する浸漬水および/または炊き水を用いることを特徴とする請求項1に記載の安全かつ長期保存可能な米飯の製造方法。
【請求項3】 該塩がカリウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩およびこれらの混合物から選択される少なくとも一つの有機酸の塩であることを特徴とする請求項1あるいは請求項2に記載の安全かつ長期保存可能な米飯の製造方法。

【図1】
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【公告番号】特公平7−89879
【公告日】平成7年(1995)10月4日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−359252
【出願日】平成3年(1991)12月27日
【公開番号】特開平5−176693
【公開日】平成5年(1993)7月20日
【審判番号】平6−12112
【出願人】(999999999)ヱスビー食品 株式会社
【参考文献】
【文献】特開平2−128663(JP,A)
【文献】特開昭59−88053(JP,A)
【文献】特開平3−87152(JP,A)
【文献】特開昭60−172262(JP,A)
【文献】特開昭53−12438(JP,A)
【文献】特開昭63−248353(JP,A)