説明

安定なN−ブロモ−2−ピロリドン、同化合物の製造方法、および水処理における使用

【課題】 殺生物性組成物であって、安定なN-ブロモ-2-ピロリドンを含む組成物を提供する。また、次亜臭素酸と2-ピロリドンの反応物を含む組成物を提供する。また、殺生物性用途を記載する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
本発明は、水性系および/またはプロセス水を処理して、微生物の増殖を阻害する組成物および方法に関する。より具体的には、本発明は安定なN-ブロモ-2-ピロリドンに関する。工業用水および娯楽用水の系では、生物付着(汚染)を抑制するために多数の化学物質が使用されている。現在、種々の工業用水および娯楽用水の系では、生物付着を抑制するために次亜塩素酸ナトリウムおよび臭素溶液が使用されている。しかしながら、次亜塩素酸ナトリウムは不安定であるため、安定化型で提供する必要がある。当分野では、次亜塩素酸塩を安定化するためのいくつかの方法が既知である(例えば米国特許第3,328,294号および第3,767,586号(特許文献1および2)を参照のこと)。
【背景技術】
【0002】
水の処理に関しては、塩素より臭素を使用するのが好ましく、その理由は、臭素の方が揮発度が低く、高pHおよびアミン環境中で良好な性能を示すからである。しかしながら、次亜塩素酸ナトリウムと同様に、次亜臭素酸ナトリウムは典型的な保存条件下で不安定であり、したがってこれも安定化型で提供する必要がある。米国特許第6,270,722号、第5,683,654号、および第5,795,487号(特許文献3、4および5)では、スルファミン酸、水、および水酸化ナトリウムの溶液を用いて次亜臭素酸ナトリウム溶液を安定化できることが示されている。これらおよび他の参考文献では、安定化剤は、サッカリン(saccharine)、尿素(urea)、チオ尿素(thiourea)、クレアチニン(creatinine)、シアヌル酸(cyanuric acid)、アルキルヒダントイン(alkyl hydantoins)、モノおよびジエタノールアミン(mono and diethanolamine)、有機スルホンアミド(organic sulfonamides)、有機スルファメート(organic sulfamates)、メラミン(melamine)、および好ましくはスルファミン酸(sulfamic acid)から選択されうることが教示されている。
【0003】
他の参考文献では、ハロフォア(halophor)殺生物性組成物、例えば、N-アルキル置換-2-ピロリドン、例えばN-メチルピロリドンを有するブロモフォア(bromophors)および、架橋されたN-ビニルラクタム、例えばN-ビニル-2-ピロリドンポリマーを伴うヨウ素が殺生物剤用途で生産されていることが記載されている。しかしながら、これらのN-アルキル置換ピロリドンおよび、ヨウ素と複合体を形成したN-ビニルラクタムは水不溶性部分として生産される。
【0004】
他の参考文献では、ヨウ素複合体ポリマー、例えばポリビニルピロリドン-ヨード(これはプロビドン-ヨード(providone-iodine)として既知である)を含有する水溶液が利用されている。ポリビニルピロリンドン高分子中に含まれるか、あるいはこの分子と会合しているこれらのヨウ素分子は、混合物型であり、結合していない。
【特許文献1】米国特許第3,328,294号
【特許文献2】米国特許第3,767,586号
【特許文献3】米国特許第6,270,722号
【特許文献4】米国特許第5,683,654号
【特許文献5】米国特許第5,795,487号
【発明の開示】
【0005】
したがって、1つまたはそれ以上の上記欠点を克服する必要がある。
【0006】
本発明の要旨
本発明の特徴は、強力な殺生物性組成物であって、次亜臭素酸よりも極めて安定な組成物を提供することである。
【0007】
本発明の別の特徴は、数ヶ月間安定であり、微生物を阻害するための単一ライン供給による殺生物プログラムとして水性系および/またはプロセス水に添加可能な強力な殺生物性組成物を提供することである。
【0008】
本発明の別の特徴は、高い塩素要求性を有する系中、アルカリ性条件下で、高い殺生物活性を有する組成物を提供することである。
【0009】
本発明のさらに別の特徴は、有毒な塩素副産物、例えばクロロホルムを生成しない組成物を提供することであり、このクロロホルムは潜在性発癌物質である。
【0010】
本発明のさらに別の特徴は、無色透明の液状濃縮物である組成物であって、プロセス水装置または材料を染色あるいは着色しない組成物を提供することである。
【0011】
本発明の別の特徴は、生物、例えばパルプおよび紙加工品中の微生物の増殖を抑制する組成物を提供することである。
【0012】
本発明のさらに別の特徴は、再循環冷却水系の生物付着を防止する組成物を提供することである。
【0013】
本発明のさらに別の特徴は、水泳用プールまたは水源を殺菌消毒する組成物を提供することである。
【0014】
本発明のさらに別の特徴は、例えば食品加工プラント、醸造所、および病院施設の硬質表面を衛生的にし、殺菌消毒する組成物を提供することである。
【0015】
本発明の別の特徴は、飲料水用の消毒組成物を提供することである。
【0016】
本発明のさらに別の特徴は、例えば逆浸透膜または他の装置に関する生物付着を防止する組成物を提供することである。
【0017】
本発明のさらに別の特徴は、例えば農業機器用の清浄剤/殺菌消毒剤として使用することができる組成物を提供することである。
【0018】
本発明の別の特徴および利点は、以下の説明中で部分的に記載され、また部分的にはその説明から明らかであるか、あるいは本発明の実施により習得されることもある。本発明の目的および他の利点は、本明細書および特許請求の範囲で具体的に記載されている構成要素およびその組み合わせを介して理解でき、これらに到達できる。
【0019】
これらおよび他の利点を達成するために、かつ本発明の目的にしたがって、本明細書中で具体化し、広く説明している通り、本発明は水溶液中のN-ブロモ-2-ピロリドンに関するものである。本発明はまた、安定なN-ブロモ-2-ピロリドンを製造する方法であって、次亜臭素酸を2-ピロリドンと反応させることを含む方法に関する。
【0020】
本発明はまた、N-ブロモ-2-ピロリドンの使用に関する。
【0021】
前記の全般的な説明および以下の詳細な説明はともに、単なる例示かつ説明にすぎず、特許請求されている本発明に関してさらに説明を提供するためのものであることが理解されよう。
【0022】
発明の詳細な説明
本発明は、安定な殺生物性組成物およびこの殺生物性組成物を製造する方法に関する。概して本発明は、水溶液中のN-ブロモ-2-ピロリドンに関する。本発明はさらに、次亜臭素酸を2-ピロリドンと反応させることにより形成される生成物に関する。
【0023】
本発明のN-ブロモ-2-ピロリドンは、好ましくは、水溶液中で長期間安定性を保つことが可能であり、かつ、微生物を阻害または抑制するための単一ライン供給による殺生物プログラムとして、水性系および/またはプロセス水に添加することができる。少なくとも1種の微生物の増殖を「抑制」(すなわち阻止)することによって、この微生物の増殖が阻害されることが理解されよう。言い換えれば、微生物は基本的に増殖しない状態である。少なくとも1種の微生物の増殖を「抑制」または「阻害」すれば、微生物数は所望のレベルで維持され、ならびに/あるいは、微生物数は所望のレベルに(検出下限数、例えば0、にまで)減少する。したがって、本発明の一実施態様では、少なくとも1種の微生物により攻撃を受けやすい製品、材料、または媒体を、この攻撃から保護し、また、この攻撃の結果生じる損傷およびこの微生物が原因の他の有害作用から保護する。さらにまた、少なくとも1種の微生物の増殖を「抑制」または「阻害」するとは、少なくとも1種の微生物を生物静態的に(biostatically)減少させ、ならびに/あるいは、低レベルで維持し、これにより、この微生物による攻撃およびその結果生じる任意の損傷もしくは付着、または他の有害作用が軽減する、すなわちこの微生物の増殖速度またはその攻撃速度を減速させ、ならびに/あるいは、これらが排除されるようにすることをも含むことが理解されよう。
【0024】
好ましくは、本発明のN-ブロモ-2-ピロリドンは水溶液中で少なくとも1日安定である。好ましくは、本発明のN-ブロモ-2-ピロリドンは水溶液中で少なくとも1週間安定である。さらに好ましくは、本発明のN-ブロモ-2-ピロリドンは水溶液中で少なくとも1ヶ月安定である。さらにより好ましくは、本発明のN-ブロモ-2-ピロリドンは水溶液中で少なくとも6ヶ月安定である。最も好ましくは、本発明のN-ブロモ-2-ピロリドンは水溶液中で少なくとも1年間安定である。
【0025】
好ましくは、本発明のN-ブロモ-2-ピロリドンは殺生物活性を失わずに水溶液中に完全に溶解する。
【0026】
また、この水溶液中には、N-ブロモ-2-ピロリドンとともに他の組成物または材料、例えば次亜臭素酸が存在していてもよい。殺微生物の制御に慣用な他の活性成分または不活性成分を、本発明とともに、同一溶液中で、あるいは個別に添加して使用することができる。
【0027】
水溶液中で安定ではない、さらに言えば、水の不存在下で、臭素およびクロロホルムを伴う合成時の固形結晶型でしか安定でない従来のN-ブロモ-2-ピロリドンとは異なり、本発明は、水溶液中で安定で、かつ、優れた殺生物性効力を提供する安定なN-ブロモ-2-ピロリドンを提供する。本発明とは異なり、殺生物剤用途に関して、ハロフォア殺生物性組成物、例えばN-アルキル置換-2-ピロリドン、例えばN-メチルピロリドンの複合体を含有するブロモフォアおよび、架橋されたN-ビニルラクタム、例えばN-アルキルビニル-2-ピロリドンポリマーとヨウ素の複合体が生産されている。しかしながら、これらのN-アルキル置換ピロリドンおよび、ヨウ素と複合体を形成したN-ビニルラクタムは水不溶性部分として生産される。本発明においてN-ブロモ-2-ピロリドンを形成し、それをこれらのN-アルキル置換ピロリドンおよび架橋されたN-ビニルラクタムに対して適用しても、本発明においては、この反応では、いかなる殺生物性効力を有する部分も生じない。あらかじめ、次亜塩素酸ナトリウム(sodium hypochloride)および臭化ナトリウムを反応させると、不安定な次亜臭素酸ナトリウム(sodium hypobromide)溶液が生じ、この溶液は次いで、スルファミン酸、水、および水酸化ナトリウムの溶液を厳密な順序で添加することにより安定化される。さらに、安定化剤、例えばサッカリン(saccharin)、尿素(urea)、チオ尿素(thiourea)、クレアチニン(creatinine)、シアヌル酸(cyanuric acid)、アルキルヒダントイン(alkylhydantonis)、モノおよびジエタノールアミン(mono and diethanol amine)、有機スルホンアミド(organic sulfonamides)、有機スルファメート(organic sulfamates)、メラミン(melamine)、およびスルファミン酸(sulfamic acid)が使用されることもあった。しかしながら、本発明において、次亜臭素酸ナトリウム(sodium hypobromide)を安定化するための安定化剤は必要とされず、この次亜臭素酸ナトリウムはN-ブロモ-2-ピロリドンを形成するために使用するのが好ましい。さらに、他の水溶液はヨウ素複合体ポリマー、例えばポリビニルピロリドンヨード(これはプロビドンヨードとして既知である)を含有し、この場合、ヨウ素分子は、混合物として、ポリビニルピロリドン高分子中に含まれるか、あるいはこれらと会合している。対照的に本発明では、臭素は、ポリマーハライド混合物ではない2-ピロリドン分子と共有結合しているのが好ましい。
【0028】
したがって、本発明は、好ましくは、高い塩素要求性の系中、アルカリ性条件下で、非常に高い殺生物活性を提供し、好ましくは有毒な塩素副産物、例えば潜在性発癌物質であるクロロホルムを生成しない。
【0029】
N-ブロモ-2-ピロリドンの好ましい製造方法では、好ましくは水溶液中の、次亜臭素酸を2-ピロリドンと反応させ、水溶液中の安定な本発明のN-ブロモ-2-ピロリドンを形成させることによる。好ましくは、水溶液中の次亜臭素酸は、次亜塩素酸ナトリウムを臭化ナトリウムと反応させるか、あるいは他のアルカリ金属の次亜塩素酸塩および臭化物を反応させることによって形成される。
【0030】
ピロリドンの他の誘導体、例えばアルキル置換ピロリドンおよびトリピロリドン複合体を使用して、組成物、例えばN-ブロモ-アルキル置換2-ピロリドンを製造することができる。本発明の2-ピロリドンは市販されている。任意の純度の2-ピロリドンを使用することができる。好ましくは、2-ピロリドンは少なくとも約90%の純度である。好ましくは、2-ピロリドンの濃度は約90重量パーセント〜約98重量パーセントであり、さらに好ましくは、約98重量パーセント〜約99+重量パーセントである。
【0031】
次亜臭素酸は典型的には安定というわけではなく、数分以内にイオン化し得、ゆえに次亜臭素酸は必要とされる時に製造するのが好ましい。一例では、次亜臭素酸は、少なくとも1種の酸化剤を少なくとも1種の臭化物源と反応させることにより形成される。また、他の反応機構を使用して、次亜臭素酸を得ることも可能である。
【0032】
次亜臭素酸の製造に使用する出発酸化剤は、好ましくは次亜塩素酸ナトリウムであり、その理由は、次亜塩素酸ナトリウムが純粋な次亜臭素酸を生成させるからである。また、他の半金属を使用してもよい。酸化剤(例えば次亜塩素酸ナトリウム)の濃度は、約2重量%〜約30重量%の範囲であり得る。一般に、約10重量%〜約15重量%という高濃度の酸化剤が市販されている。さらに高濃度のもの(15重量%を超える)を使用することもできる;しかしながら、15重量%より高濃度である場合、次亜塩素酸ナトリウムは一般に、気密容器内に入っている。高純度の次亜塩素酸ナトリウムは必須ではない。使用するのであれば、約15〜約30重量パーセントの濃度を有する次亜塩素酸ナトリウムを使用するのが好ましい。
【0033】
次亜臭素酸の製造に使用する出発臭化物源は、任意の臭化物源、例えばBr2であり得る。好ましくは、臭化物源は臭化ナトリウムである。好ましくは、臭化物源は粗顆粒状である。任意の濃度の臭化物源を使用することができる。例えば、約20重量パーセント〜約60重量パーセントの濃度の臭化物源を使用することができる。約40重量%の臭化物源(例えば臭化ナトリウム)を使用するのが好ましく、その理由は、この濃度の臭化物源が約13重量%〜約15重量%の濃度の酸化剤と理想的に反応可能であるからである。
【0034】
好ましくは、臭化物源は水性臭化物源である。好ましくは、臭化物源を十分な水性溶媒中に溶解し、約20重量%〜約60重量%の水性臭化物源溶液を製造する。さらに好ましくは、臭化ナトリウムを十分な溶媒中に溶解し、約40重量%の水性臭化ナトリウム溶液を製造することができる。好ましくは、臭化ナトリウムは水に溶解する。好ましくは、臭化物源対水の重量比が約1:5〜約3:5で、臭化物源を水に希釈する。さらに好ましくは、水対臭化ナトリウムの重量比は約2.5:1であるが、他の比率を問題なく使用可能である。
【0035】
この酸化剤は調節物質である。したがって、酸化剤の濃度によって臭化物源の濃度が決定され、これによって今度は、生成する次亜臭素酸の濃度が決定され得るのが好ましい。好ましくは、酸化剤、例えば次亜塩素酸ナトリウムを水性溶媒、好ましくは水に希釈して、所望の濃度の酸化剤を得ることができる。好ましくは、酸化剤、例えば次亜塩素酸ナトリウム対水の比は、約1:7.5〜約1:3.5であり得る。また、他の比率を採用することもできる。
【0036】
酸化剤、臭化物源、および2-ピロリドンの希釈に使用する水性溶媒、好ましくは水のpHは、約4〜約8の範囲、さらに好ましくは約5.5〜約6.8の範囲であり得る。溶媒として使用する水は、任意の種類の水、例えば水道水またはDI水であり得る。2-ピロリドンを製造する場合には、酸性水は好ましくなく、その理由は、2-ピロリドンが塩基として作用し、塩基性の性質を有するため、酸性水が2-ピロリドンに影響を与え得るからである。
【0037】
本発明の殺生物性組成物を製造する一方法は、次亜臭素酸を2-ピロリドンと反応させることに基づく。
【0038】
次亜臭素酸と反応させる対象の2-ピロリドンを調製するために、水性溶媒、好ましくは水に2-ピロリドンを希釈するのが好ましい。好ましくは、2-ピロリドン対水の比は約1:100〜約100:1であり、さらに好ましくは、約10:1〜約1:10である。2-ピロリドンを水に希釈することに関しては、少なくとも2つの理由がある。第一に、100%の2-ピロリドンは高温の激しい反応を生じ得ることである。そこで、この2-ピロリドンを水に希釈すると、この反応の強度を減少させることができる。第二に、N-ブロモ-2-ピロリドンの濃度は次亜臭素酸の濃度に依存し、2-ピロリドンの濃度には依存しないことである。したがって、100%のピロリドンを使用しても、N-ブロモ-2-ピロリドンの濃度は向上しない。
【0039】
2-ピロリドンおよび次亜臭素酸は任意の様式で一緒に加えることができる。好ましくは、2-ピロリドンを次亜臭素酸に加え、この添加は、約20分〜約60分間、より好ましくは約10分〜約40分間、そして最も好ましくは約15分〜約20分間かけて行い、添加速度は、約100L/分〜約10L/分、好ましくは約50L/分〜であり、約15分〜約30分にわたる。好ましくは、2-ピロリドン対次亜臭素酸の比は、およそ1:1、より好ましくは約2:1である。追加量の2-ピロリドンを使用して、この反応を確実に完了させることができる。したがって、次亜臭素酸対2-ピロリドンの比は、好ましくは約1:1、より好ましくは約2:1である。これにより、全次亜臭素酸との反応に利用可能な十分な2-ピロリドンが確保される。
【0040】
次亜臭素酸および2-ピロリドン間の反応は発熱反応である。好ましくは、この反応は冷却して行う。その理由は、過剰の熱により逆反応および/または反応の阻害が生じ得るからである。好ましくは、この反応は冷却して行い、温度が約100℃を超えないようにする。さらに好ましくは、この反応は約60℃にまで冷却して行い、そして最も好ましくは、反応温度を調節して、約55℃を超えないようにする。
【0041】
次亜臭素酸および2-ピロリドン間の反応が完了しているかどうかを判定する一方法は、この溶液の色の変化に基づく。反応の性質により、この反応物の色は琥珀色/黄色から透明に変化する。次亜臭素酸および2-ピロリドン間の反応が完了しているかどうかを判定する別の方法は、この溶液のpHレベルの検査に基づく。溶液のpHが約7.5〜約9.5に、より好ましくは約8〜約9に達していれば、すべての次亜臭素酸が安定なN-ブロモ-2-ピロリドンに変換されている。
【0042】
上記のように、最終産物の収率は典型的には、反応、純度、出発物質の濃度、等に応じて約5〜約15重量%の範囲である。上記の本発明の化合物を生産する方法は、排他的または限定的であるわけではなく、単に例示的であり、安定なN-ブロモ-2-ピロリドンを製造するための他の手段も存在し得る。N-ブロモ-2-ピロリドンを製造するこのような方法の1つは、水およびジプロピレングリコールの存在下で2-ピロリドンを臭素(BR2)と反応させることに基づく。この場合、ジプロピレングリコールは触媒として作用する。
【0043】
本発明の次亜臭素酸を製造する方法の一例は、酸化剤、例えば次亜塩素酸ナトリウムを臭化物源、例えば40%水性臭化ナトリウムに添加することに基づく。次いで2-ピロリドン、好ましくは希釈した2-ピロリドンをこの次亜臭素酸に加え、最終産物のN-ブロモ-2-ピロリドンを得ることができる。
【0044】
次亜臭素酸の濃度は、初期反応剤の濃度に依存し、より具体的には、反応で使用する酸化剤の量に依存する。好ましくは、安定なN-ブロモ-2-ピロリドンのこの製造方法では、少なくとも約2%の次亜塩素酸ナトリウムを使用する。したがって、酸化剤の濃度によって使用可能な臭化物源の濃度が決まる。好ましくは、次亜塩素酸ナトリウム(sodium hypochloride)対臭化ナトリウムの比は約1:4〜約1:2である。
【0045】
次亜臭素酸の生成速度を調節することにより、反応が完全に行われて最大量の次亜臭素酸を生成させることができる。次亜臭素酸の生成速度は、酸化剤含有反応容器に添加する臭化物源の量によって調節する。好ましくは、次亜臭素酸の濃度は酸化剤の濃度によって決まり、そして好ましくは、この次亜臭素酸の生成速度は反応容器へ添加する臭化物源の量によって調節する。好ましくは、臭化物源対酸化剤の比は約2:1〜約4:1の範囲、より好ましくは約2.5:1〜約3.2:1の範囲であり得る。臭化物源を添加するとわずかに発熱性の反応が生じるため、この臭化物源は酸化剤、例えば次亜塩素酸ナトリウム含有反応容器にゆっくり加えるのが好ましい。好ましくは、酸化剤含有反応容器に、穏やかな撹拌条件下(100 rpm、ただし250 rpmを超えない)、約200L/分〜約100L/分の速度で臭化物源を添加すればよい。酸化剤含有反応容器に臭化物源をゆっくり添加することにより、次亜臭素酸の適度な生成速度が達成できる。次亜臭素酸の好ましい生成速度は、約0.0907モル/リットル/分(mol/l/min.)またはそれ以上〜約0.0226 mol/l/min.またはそれ以下の範囲、好ましくは約0.0604〜約0.0302 mol/l/min.の範囲、そして最も好ましくは約0.0453〜約0.0362mol/l/min.の範囲内である。
【0046】
酸化剤、例えば次亜塩素酸ナトリウムと臭化物源、例えば臭化ナトリウムの反応時間は、約10分〜約40分である。好ましくは、次亜塩素酸ナトリウムおよび臭化ナトリウム間の反応時間は、約20〜約25分である。
【0047】
酸化剤および臭化物源間の反応が完了しているかどうかを判定するためには、少なくとも2つの方法がある。第一に、この反応の完了は反応容器内の溶液の色が変化することによって判定することができる。さらに好ましくは、この反応の完了は溶液のpHレベルによって判定することができる。pHレベルがおよそ8.5〜9.5であれば、反応容器中に次亜臭素酸が存在することになる。あわせて水酸化ナトリウムおよび塩の形成も生じるため、反応が平衡に達するまでpHは約8.5〜9.5で流動し得る。その後、pHは8未満に低下し、さらに好ましくは、pHは中性レベルにまで低下し得る。さらに好ましくは、この酸のpHは7未満である。最も好ましくは、この酸は次亜臭素酸であり、そのpHは4より高いか、あるいは4に等しい。次亜臭素酸状態を維持するためには、pHは約4〜約8の範囲であり得る。このpHレベルでは、次亜臭素酸の解離が制限される。上記のように、その後2-ピロリドンを加えて次亜臭素酸を得ることができる。
【0048】
前記のように、本発明の化合物は、有効な殺生物性組成物であり、この組成物は次亜臭素酸よりずっと安定である。さらに具体的には、本発明の化合物は少なくとも1日安定であり得る。好ましくは、本発明の化合物は少なくとも1週間、より好ましくは少なくとも1ヶ月、または少なくとも6ヶ月、そして最も好ましくは少なくとも1年間安定である。さらに、本発明の化合物は、微生物を阻害するための単一ライン供給による殺生物プログラムとして、水性系および/またはプロセス水の処理に使用することができる。
【0049】
興味深いことに、本発明の反応プロセスをN-アルキル置換ピロリドンおよび/または架橋されたN-ビニルラクタムの形成に適用しても、この反応ではいかなる殺生物性効力を有する化合物も生じないことがわかる。本発明の化合物はまた、高い塩素要求性を有する系中、アルカリ性条件下で、高い殺生物活性を有する。さらに、本発明の殺生物性組成物は有毒な塩素副産物、例えばクロロホルムを生じず、このクロロホルムは潜在性発癌物質である。
【0050】
本発明の化合物により得られる組成物は、無色透明の液状濃縮物であって、これはパルプおよび紙加工品中の生物の増殖を制御するプロセス水装置または材料を染色または着色することはない。さらに、本発明の化合物は再循環冷却水系中の生物付着を防止することができ、水泳用プールを殺菌消毒する。
【0051】
さらに、本発明の化合物は食品加工プラント、醸造所、および病院施設に関する硬質表面を衛生的にし、殺菌消毒することができる。さらに、本発明の化合物は飲料水を殺菌消毒し、逆浸透膜および他の系に関する生物付着を防止することができる。さらにまた、本化合物は、例えば農業機器用の清浄剤および/または殺菌消毒剤として使用することができる。
【0052】
本発明は、以下の実施例によってさらに明瞭になるが、これらの実施例は本発明を例示するためのものである。
【実施例】
【0053】
(実施例1)
13重量%水性次亜塩素酸ナトリウム(NaOCl)の10ml量を取り、反応容器に入れ、約100 rpmで撹拌した。このNaOClに、40%水性臭化ナトリウム(NaBr)5 mlを約3〜5分間かけて攪拌しながら加えた。反応物NaOClおよびNaBrからHOBrが形成されるにつれて、徐々に色の変化が生じた。HOBrの形成は約10〜30分かかって完了した。反応の終了時点では、約8重量%濃度のHOBrが生成していた。次いで、HOBrは水中でpH依存的に解離し、個別の次亜ハロゲン酸(hypohalite)イオンを形成した。水で1:1希釈した2-ピロリドンを調製した。1:1(50%)濃度の2-ピロリドン2.65mlをHOBrの溶液にゆっくり加えた。この添加は、撹拌しながら10〜30分かけて行った。発熱反応が生じ、そして温度を100℃未満にとどめるよう注意を払って、水溶液中約8重量%濃度のN-ブロモ-2-ピロリドンを得た。
【0054】
(実施例2)
実施例1の濃縮物を調製した(約8重量%のN-ブロモ-2-ピロリドン)。また、以下の組成のアルカリ性増殖培地を調製した:セルロース(Cellulose)1,000 mg/l、炭酸カルシウム(calcium carbonate)1,000 mg/l、可溶性ジャガイモでんぷん(soluble potato starch)2,000 mg/l、リン酸一カリウム(monopotassium phosphate)500 mg/l、リン酸二カリウム(dipotassium phosphate)500 mg/l、硝酸アンモニウム(ammonium nitrate)1,000 mg/l、硫酸マグネシウム(magnesium sulfate)500 mg/l、および栄養ブロス(nutrient broth)500 mg/l。これにより、この補給水の固体の総量は7,000 mg/lに相当し、最終pHは7.4であった。
【0055】
Enterobacter areogenes菌を個々の培地試験管に加え、最終濃度3.2*106細胞/mlにした。24時間静置した後、個々の諸反応物および生成物をその殺生物性効力に関して試験した。活性成分用量を変化させ、30分の接触時間の後、殺生物性試験管を中和した。生存細胞を代替の固形培地で24時間増殖させ、CFU/ml単位で計数した。生存細胞数から、元の導入細胞数に関する対数減少値を算出した。以下の表中、細菌細胞の対数減少値は小さいが、これは24時間の初期に製造されたHOBrの過渡不安定性を示す。この研究では、2-ピロリドンは全く殺生物性効力を示さなかったのに対し、N-ブロモ-2-ピロリドンでは細胞数の対数値が優れた減少を示した。
【表1】

【0056】
(実施例3)
メチル置換ピロリドン、N-ビニル置換ラクタム(ピロリドン)、およびポリビニルピロリドンの混合物をHOBrと反応させることによって、いくつかの他の殺生物性部分を調製した。実施例2に記載のアルカリ性増殖培地を使用して、これらの調製物の対数減少効力を試験した。評価は実施例2と同様の手順にしたがって行った。
【0057】
以下の表は、これらの種々の置換N-ピロリドンおよびポリマーが、本発明とは異なり、殺生物性部分を得るために有効には反応しないことを示す。他のヘテロ環、例えばピロール、イミダゾール、チアゾール、ピラゾール、ピロリジン等は前記プロセスで反応を生じたが、これらの被験ヘテロ環はいずれも殺生物性効力を有する化合物を生じなかった。芳香族ヘテロ環は所望の殺生物性効力を生じず、また、唯一有効なヘテロ環部分は飽和、非置換のケト型、例えば2-ピロリドンであったことが明らかである。
【表2】

【0058】
(実施例4)
以下の表は、実施例1で調製したN-ブロモ-2-ピロリドンの安定性を示す。以下の表では、前記実施例に記載の手順と同じ殺生物性効力試験の手順を用いたところ、10 ppmにて、16週間にわたり、効力は0.4対数減少分しか失われなかったことが示されている。
【表3】

【0059】
本発明の他の実施態様は、本明細書を考察し、本明細書中に開示されている本発明を実施すれば当業者には明白である。本明細書および実施例は単に例示であると考えるものとし、本発明の真の範囲および要旨は特許請求の範囲およびそれに相当する記載によって示される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
N-ブロモ-2-ピロリドンを含む水溶液。
【請求項2】
前記水溶液中で前記N-ブロモ-2-ピロリドンが少なくとも1日安定である、請求項1に記載の水溶液。
【請求項3】
次亜臭素酸をさらに含む、請求項1に記載の水溶液。
【請求項4】
次亜臭素酸と2-ピロリドンの反応物を含む組成物。
【請求項5】
前記次亜臭素酸および前記2-ピロリドンが約1:1〜約1:2の重量比を有する、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記次亜臭素酸が、少なくとも1種の酸化剤と少なくとも1種の臭化物源の反応から形成される、請求項4に記載の組成物。
【請求項7】
前記酸化剤が次亜塩素酸ナトリウムである、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記酸化剤が、次亜塩素酸ナトリウムの重量に基づいて約2重量%〜約30重量%の濃度を有する、請求項6に記載の組成物。
【請求項9】
前記臭化物源が臭化ナトリウムである、請求項6に記載の組成物。
【請求項10】
前記臭化物源を溶解することが可能な溶媒をさらに含む、請求項6に記載の組成物。
【請求項11】
前記臭化物源が約20重量%〜約60重量%の濃度を有する、請求項6に記載の組成物。
【請求項12】
前記酸化剤および前記臭化物源が約1:4〜約1:2の重量比を有する、請求項6に記載の組成物。
【請求項13】
前記酸化剤対水の重量比が約1:7.5〜約1:3.5で、酸化剤が水に希釈されている、請求項6に記載の組成物。
【請求項14】
前記臭化物源対水の重量比が約1:5〜約3:5で、臭化物源が水に希釈されている、請求項6に記載の組成物。
【請求項15】
前記2-ピロリドン対水の重量比が約1:100〜約100:1で、2-ピロリドンが水に希釈されている、請求項3に記載の組成物。
【請求項16】
N-ブロモ-2-ピロリドンの製造方法であって、次亜臭素酸を2-ピロリドンと反応させることを含む方法。
【請求項17】
前記次亜臭素酸および前記2-ピロリドンが約1:1〜約1:2の重量比である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
少なくとも1種の酸化剤を少なくとも1種の臭化物源と反応させることによって前記次亜臭素酸を形成させる、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記酸化剤が次亜塩素酸ナトリウムである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記酸化剤が約2重量%〜約30重量%の濃度を有し、かつ臭化物源が約20重量%〜約60重量%の濃度を有する、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記臭化物源が臭化ナトリウムである、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
前記臭化物源を溶媒に溶解することをさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項23】
前記酸化剤および前記臭化物源が約1:2.5〜約1:3.2の重量比を有する、請求項18に記載の方法。
【請求項24】
前記酸化剤対水の重量比が約1:7.5〜約1:3.5で、酸化剤が水に希釈されている、請求項20に記載の方法。
【請求項25】
前記臭化物源対水の重量比が約1:5〜約3:5で、臭化物源が水に希釈されている、請求項20に記載の方法。
【請求項26】
前記2-ピロリドン対水の重量比が約10:1〜約1:10で2-ピロリドンを水に希釈することにより、2-ピロリドンが調製されている、請求項16に記載の方法。
【請求項27】
前記方法を温度100℃またはそれ未満で行う、請求項16に記載の方法。
【請求項28】
有機物要求性(organic demand)を有する水性系に対し、単一ライン供給による殺生物プログラムを提供する方法であって、請求項1に記載の組成物を前記水性系に導入することを含む方法。
【請求項29】
高い塩素要求性を有する水性系において生物の増殖を阻害する方法であって、請求項1に記載の組成物を前記水性系に導入することを含む方法。
【請求項30】
プロセス水を汚染または着色しない無色透明の液状濃縮物を提供する方法であって、請求項1に記載の組成物を前記プロセス水と接触させることを含む方法。
【請求項31】
硬質表面を衛生的にし、殺菌消毒する方法であって、請求項1に記載の組成物を前記硬質表面と接触させることを含む方法。
【請求項32】
高い塩素要求性を有する水性系において生物付着を防止する方法であって、請求項1に記載の組成物を前記水性系に導入することを含む方法。
【請求項33】
前記N-ブロモ-2-ピロリドンが少なくとも1週間安定である、請求項1に記載の水溶液。
【請求項34】
前記N-ブロモ-2-ピロリドンが少なくとも6ヶ月安定である、請求項1に記載の水溶液。
【請求項35】
前記N-ブロモ-2-ピロリドンが少なくとも1年間安定である、請求項1に記載の水溶液。

【公表番号】特表2006−503098(P2006−503098A)
【公表日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−545363(P2004−545363)
【出願日】平成15年10月15日(2003.10.15)
【国際出願番号】PCT/US2003/032788
【国際公開番号】WO2004/035483
【国際公開日】平成16年4月29日(2004.4.29)
【出願人】(590003238)バックマン・ラボラトリーズ・インターナショナル・インコーポレーテッド (18)
【氏名又は名称原語表記】BUCKMAN LABORATORIES INTERNATIONAL INCORPORATED
【Fターム(参考)】