説明

完全ヒト型抗TNF−αモノクローナル抗体、その調製方法および用途

【課題】
本発明は、バイオテクノロジー分野に関わる。詳しくは、完全ヒト型抗TNF−αモノクローナル抗体、その調製方法および用途を開示する。
【解決手段】
本発明は、大容量のファージディスプレイナイーブヒト抗体ライブラリーを構築し、その中から完全ヒト型抗TNF-抗体4H16を選別し、取得する。本発明に係る抗体は、SEQ ID NO:6に示す重鎖可変領域のアミノ酸配列を有し、SEQ ID NO:8に示す軽鎖可変領域のアミノ酸配列を有する。また、本発明は、4H16抗体の調製方法、4H16抗体をコードする塩基配列、当該抗体の核酸配列を含む発現ベクターと宿主細胞を開示する。本発明の4H16抗体は、D2E7モノクローナル抗体と比べ、より高い抗体親和性、より強いTNF-中和能力を有し、自己免疫疾患の治療薬の調製に用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオテクノロジー分野に関する。詳しくは、完全ヒト型モノクローナル抗体、その調製方法および用途を開示するものである。
【背景技術】
【0002】
TNF−αは、体内の多機能性免疫制御分子である。該分子は、細胞膜の受容体と結合することでその役割を発揮し、往々にして標的細胞の死滅(該分子の名称はこれに由来する)を引き起こしたり、エフェクター細胞を局地的に集中させる。該分子は、可溶性のホモ3量体で、分子量は17kD(Smith, et al., J. Biol. Chem. 262:6951-6954, 1987)である。また、膜貫通して結合する前駆体TNF−αの存在も確認されており、その分子量は26kD(Kriegler, et al., Cell 53:45-53, 1988)である。単核マクロファージは、エンドトキシンその他の刺激物による刺激を受けた後、TNF−αとTNF−βを分泌する。他にも、一部の細胞でTNF−αを分泌できるものもある。
【0003】
TNF−αは、関節リウマチ、細菌感染またはウイルス感染、慢性炎症、エイズ(AIDS)などの自己免疫疾患、悪性腫瘍および/もしくは神経変性疾患などの病理学的プロセスにおいて非常に重要な役割を果たす。TNF−αモノクローナル抗体は、TNF−αと中和することで、体内におけるTNF−αの活性に対し、負の調節作用を引き起こす。また、数々の研究により、TNF−αは、膿毒症ショック症候群を引き起こす主な媒質であることも判明している。膿毒症ショック症候群患者の血清中のTNF−αレベル上昇は、死亡率もしくは後遺症発症率の上昇を意味する。臨床において、TNF−α抗体もしくはその受容体を応用すれば、膿毒症ショック症候群に対し、ある程度の治療効果を有する。
【0004】
このほか、TNF−αは、HIVの無症状感染状態からAIDSへの移行を促す主要な媒質の一つである。一方、TNF−αに対するモノクローナル抗体は、TNF−αの活性を中和し、体内におけるTNF−α活性に対し負の調節を行うことで、無症状感染状態からAIDSへの移行の誘因を除去し、ある程度のAIDS治療目的を達成できる。TNF−αモノクローナル抗体を、その他のAIDS治療薬と併用すれば、TNF−α過多による副作用に対抗し、治療効果の顕著な向上を遂げることができる。
【0005】
科学者が最初に調製によって取得したのは、マウス由来の抗TNF−αモノクローナル抗体で、TNF−αの中和治療に用いられていた。しかし、研究によりマウス由来モノクローナル抗体の治療薬としての使用には、多くの欠陥が存在することが発見された。それは、マウス由来モノクローナル抗体の人体への使用には強烈な免疫原性があるため体内からの消失が早く、半減期が短いため、臨床的有効性が限られ、副作用も大きいということである。ヒト型モノクローナル抗体技術の発展に伴い、抗TNF−αマウス由来モノクローナル抗体の欠陥が克服された。その中で、ヒト/マウスキメラ型抗TNF−αモノクローナル抗体(Infliximab,Remicade社の登録商標)は、遺伝子工学における上流領域の構築技術を駆使して調製し、得られたもので、その可変領域は、依然としてマウス由来TNF−αモノクローナル抗体から取得され、腫瘍壊死因子の可溶性部分と膜貫通領域の結合による特異性と親和性(Ka = 1010 M-1)を維持している。定常領域はヒトIgG1の定常領域に置き換えられ、体内における半減期も大きく延長された。また、国外で既に発売が許可されたTNF−α阻害薬は、腫瘍壊死因子受容体-抗体融合タンパク質(Enbrel,Amgen社)および完全ヒト型抗腫瘍壊死因子αモノクローナル抗体(Humira,Abbott社)を含んでいる。
【0006】
作用の標的と作用の特異性という観点では、上記の医薬品の作用機序はほぼ全く同じである。しかし、上記の抗体もしくは融合タンパク質は、いずれも免疫原性が高い、特異性が低い、および/もしくは安定性が低いなどの問題が多かれ少なかれ存在する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
よって、本分野において、臨床応用の安全性と有効性のさらなる向上を図るべく、抗体の親和性および特異性を保持し、もしくは向上させるとともに、抗体免疫原性を弱め、もしくはほぼ除去できる抗TNF−α抗体の開発が切実に必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、大容量の自然なファージディスプレイヒト抗体ライブラリーを構築し、その中から完全ヒト型抗TNF−α抗体4H16を選別し、取得するものである。
【0009】
詳しくは、本発明は、SEQ ID NO:6に示す重鎖可変領域のアミノ酸配列を有し、SEQ ID NO:8に示す軽鎖可変領域のアミノ酸配列を有する完全ヒト型抗TNF−α抗体を提供するものである。
【0010】
また、本発明にかかる完全ヒト型抗TNF−α抗体は、SEQ ID NO:10に示す重鎖アミノ酸配列を有し、SEQ ID NO:12に示す軽鎖アミノ酸配列を有するものである。
【0011】
また、本発明は、上記完全ヒト型抗TNF−α抗体をコードする、単離されたヌクレオチドを提供する。
【0012】
本発明にかかる上記ヌクレオチドは、SEQ ID NO:5に示す完全ヒト型抗TNF−α抗体の重鎖可変領域をコードする塩基配列を有し、SEQ ID NO:7に示す完全ヒト型抗TNF−α抗体の軽鎖可変領域をコードする塩基配列を有するものである。
【0013】
本発明にかかる上記ヌクレオチドは、SEQ ID NO:9に示す完全ヒト型抗TNF−α抗体の重鎖をコードする塩基配列を有し、SEQ ID NO:11に示す完全ヒト型抗TNF−α抗体の軽鎖をコードする塩基配列を有するものである。
【0014】
また、本発明は、上記ヌクレオチドを含む発現ベクターである、pcDNA3.1/ZEO(+)又はpcDNA3.1 (+)を提供する。
【0015】
また、本発明は上記発現ベクターによって形質転換された宿主細胞であるCHO-K1 細胞を提供する。
【0016】
さらに、本発明は上記完全ヒト型抗体の調製方法を提供する。該調整方法は、ファージディスプレイヒト抗体ライブラリーからの高い親和性を有する完全ヒト型抗TNF−α単鎖抗体の選別・取得と、完全ヒト型抗TNF−α抗体の完全な分子の真核細胞発現ベクターの構築と、CHO細胞における完全ヒト型抗TNF−α抗体の完全な分子の発現と、完全ヒト型抗TNF−α抗体の完全な分子の精製とを含む。
【0017】
本発明は、自己免疫疾患の治療薬の調製における、上記完全ヒト型抗体の用途を提供する。この自己免疫疾患とは、関節リウマチ、強直性脊椎炎又は乾癬である。
【発明の効果】
【0018】
本発明において、得られた抗体を利用し、一連の実験を行った。実験の結果、D2E7(adalimumabモノクローナル抗体、Abbott社)、中国発明特許出願番号200310108440.0、出願日2003年11月6日、発明の名称『完全ヒト腫瘍壊死因子抗体およびその調製方法と医薬組成物』の中で開示された7B3と比べ、より高い抗体親和性、より強いTNF−α中和能力を有することが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】抗TNF−α抗体4H16によるTNF−αと可溶性P75受容体との結合遮断実験の結果である。
【図2】抗TNF−α抗体4H16によるTNF−αとU-937細胞表面受容体との結合遮断実験の結果である。
【図3】抗TNF−α抗体4H16によるTNF−αが介在するL929細胞の傷害性に対する対抗試験の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
下記の実施例、実験例は、本発明に対する説明にすぎず、本発明を制限するものではない。
【実施例】
【0021】
抗体の調製
(1)ヒト抗体軽鎖・重鎖定常領域をコードする遺伝子のクローニング
リンパ球分離液(鼎国生物技術発展公司の製品)を用いて健康なヒトのリンパ球を分離し、TRIzol試薬(Invitrogen社の製品)を用いて総RNAを抽出した。文献(Cell,1980,22:197-207)および文献(Nucleic Acids Research,1982,10:4071-4079)の中で報告されている配列をもとにして、それぞれプライマーを設計し、RT-PCR反応により抗体重鎖・軽鎖定常領域をコードする遺伝子を増幅させた。PCR産物は、アガロースゲル電気泳動による精製・回収を経て、pGEM-Tベクター(Promega社の製品)の中にクローニングした。その後、シーケンス解析を行って、正確なクローンの取得を確認した。SEQ ID NO:1とSEQ ID NO:2に、重鎖定常領域(CH)の塩基配列とアミノ酸配列をそれぞれ示した。SEQ ID NO:3とSEQ ID NO:4に、軽鎖定常領域(CL) の塩基配列とアミノ酸配列をそれぞれ示す。本実施例において、正確なクローンをpGEM-T/CH、pGEM-T/CLと記す。
【0022】
(2)cDNAの調製
健康なヒト50人の末梢血を各20ml集め、リンパ球分離液(医科院天津血研所により製造)を用いて単核細胞を分離した。次に、TRIzol試薬(Invitrogen社)を用いて分離されたヒトの末梢血リンパ球から細胞の総RNAを抽出した。cDNA逆転写試薬キット(上海申能博彩生物科技有限公司)を使用し、cDNAの逆転写を行った。上記のステップについて、メーカーが提供する説明書に従って行った。
【0023】
(3)プライマー設計
文献(Immunotechnology,1998,3:271-278)を参考にし、ヒト抗体重鎖可変領域(VH)および軽鎖可変領域(VL)遺伝子をクローニングするためのプライマーであるVHBack、VHFor、VLBack、VLForを設計し、合成した。VHBack、VHFor、VLBack、VLForの配列はImmunotechnology,1998,3:271-278を参照されたい。VHBackプライマーの5' 末端に制限酵素Sfi Iの認識配列を含む配列atg gcc cag ccg gcc atg gcc、VHForプライマーの5'末端に配列gcc aga acc acc gcc gcc gga gcc acc acc gcc、VLBackプライマーの5'末端に配列tcc ggc ggc ggt ggt tct ggc gga ggc gga tct、VLForプライマーの5'末端に制限酵素Not Iの認識配列を含む配列atg cgg ccg cをそれぞれ加えた。
【0024】
(4)ファージディスプレイ抗体ライブラリーの構築および選別
(2)のcDNAおよび (3)のプライマーを用い、recombinant Phage antibody system試薬キット(Amersham Biosciences社)を利用してファージディスプレイ単鎖抗体ライブラリーを構築した後、特異抗原を使い、ライブラリーに対するパニング(選別)を行った。抗体ライブラリーの構築およびパニングの方法は、recombinant Phage antibody system試薬キットの説明書を参考にした。パニングに用いる特異抗原「遺伝子組換えヒトTNF−α(rhTNF−α)」は、R&D社から購入した。数回の抗体ライブラリーのパニングを経て、抗ヒトTNF−α単鎖抗体4H16ScFvを取得し、シークエンシングを行って、その遺伝子配列を得た。SEQ ID NO:5とSEQ ID NO:6はそれぞれ4H16 ScFv重鎖可変領域VHの塩基配列とアミノ酸配列を示している。SEQ ID NO:7、SEQ ID NO:8はそれぞれ4H16 ScFv軽鎖可変領域VLの塩基配列とアミノ酸配列を示している。
【0025】
(5)完全ヒト型抗体の真核細胞における発現
4H16ScFv遺伝子及びpGEM-T/CHをテンプレートとし、PCRの繰り返すことにより完全ヒト型抗体重鎖遺伝子を合成した。反応条件は、95℃15分、94℃50秒→58℃50秒→72℃50秒(30サイクル)、72℃10分である。なお、この完全ヒト型抗体重鎖遺伝子の5'末端は制限酵素HindIIIの認識配列及びシグナルペプチド遺伝子配列を含み、3 '末端は翻訳終止コドンTAA及び制限酵素EcoRIの認識配列を含む。シグナルペプチドの遺伝子配列は、 (ATGGATTTTCAGGTGCAGATTTTCAGCTTCCTGCTAATCAGTGCCTCAGTCATAATATCCAGAGGA)である。最後に、アガロースゲル電気泳動によりPCR増幅物を分離して目的バンドを回収し、pGEM-T ベクター(Promega社の製品)の中にクローニングし、さらに陽性クローンをスクリーニングし、それらをシークエンシングした。配列が正確なクローンを選んでHindIIIおよびEcoRIで切断し、アガロースゲル電気泳動により完全ヒト型抗体重鎖断片4H16VHCHを精製・回収し、HindIIIおよびEcoRIで切断したプラスミドpcDNA3.1(+)(Invitrogen社)と連結させて、完全ヒト型重鎖真核細胞発現ベクターpcDNA3.1 (+) (4H16VHCH)を構築した。
【0026】
4H16ScFv遺伝子とpGEM-T/CLベクターをテンプレートとし、PCRの繰り返すことにより、完全ヒト型抗体軽鎖遺伝子を合成した。反応条件は、95℃15分、94℃50秒→58℃50秒→72℃50秒(30サイクル)、72℃10分である。なお、この完全ヒト型抗体軽鎖遺伝子の5'末端は制限酵素HindIIIの認識配列及びシグナルペプチド遺伝子配列、3 '末端は翻訳終止コドンTAA及び制限酵素EcoRIの認識配列を含有する。シグナルペプチドの遺伝子配列は、 (ATGGATTTTCAGGTGCAGATTTTCAGCTTCCTGCTAATCAGTGCCTCAGTCATAATATCCAGAGGA)である。配列が正確なクローンを選んでHindIIIおよびEcoRIで切断し、アガロースゲル電気泳動により完全ヒト型抗体軽鎖断片4H16VLCLを精製・回収し、HindIIIおよびEcoRIで切断したプラスミドpcDNA3.1/ZEO(+)(Invitrogen社)ベクターと連結させ、完全ヒト型軽鎖真核細胞発現ベクターpcDNA3.1/ZEO(+) (4H16VLCL)を構築した。
【0027】
3.5cm 組織培養用ディッシュに3 × 105 個のCHO-K1細胞(ATCC CRL-9618)を植え付けた。培養細胞が培養面の90%-95%に広がるまで培養させた時点で、トランスフェクションを行った。プラスミド10μg(プラスミドpcDNA3.1(+)(4H16VHCH)4μg、プラスミドpcDNA3.1/ZEO(+) (4H16VLCL)6μg)、20μl Lipofectamine2000 Reagent(Invitrogen社の製品)を用いて、Lipofectamine2000 Reagent試薬キットの説明書に従い、トランスフェクションを行った。トランスフェクションを24時間行った後、培養細胞を 600μg/ml G418 (Invitrogen社の製品)と 250μg/ml Zeocin(Invitrogen社の製品)を含むDMEM培地に移し、抵抗性クローンを選別した。細胞の培養上清を抽出し、ELISA法により高発現クローンを検出・選別した。ELISA法では、まず、ヤギ抗ヒトIgG (Fc) (KPL社)をELISAプレートにコーティングし、4℃で一晩放置した後、2%のBSA-PBSを加え、37℃、2時間でブロックした。次に、抵抗性クローンの培養上清もしくは標準品Human myeloma IgG1,κ(Sigma)を加え、37℃で2時間インキュベートした。次に、HRP−ヤギ抗ヒトIgG(κ)((Southern Biotechnology Associates社)を加えて、37℃で1時間インキュベートすることによって結合反応を行い、TMB発色液を加えて、37℃で5分間反応させ、最後にH2SO4を加えて反応を停止し、A450値を測定した。無血清培地を用いて、選別により得られた高発現クローンを増幅培養し、Protein Aアフィニティーカラム(GE社の製品)を使用して完全ヒト型抗体4H16を分離・精製した。精製された抗体に対し、PBSを用いて透析を行い、最後に紫外吸収法で定量した。SEQ ID NO:9、SEQ ID NO:10はそれぞれ完全ヒト型抗体4H16の重鎖塩基配列、アミノ酸配列を示している。SEQ ID NO:11、SEQ ID NO:12はそれぞれ完全ヒト型抗体4H16の軽鎖塩基配列、アミノ酸配列を示している。
【実験例】
【0028】
7B3は、中国の特許出願番号200310108440.0、出願日2003年11月6日、発明の名称『完全ヒト腫瘍壊死因子抗体およびその調製方法と医薬組成物』の中で開示された方法に従って調製し、得られた。
【実験例1】
【0029】
<抗TNFα抗体の親和性測定>
Biacore T100システム(Biacore AB, Uppsala, Sweden)を使用し、表面プラズモン共鳴(SPR)によりTNFα抗体の親和定数を測定する。遺伝子組換えTNFα(R&D社の製品)を、アミノカップリング(アミド
結合)により、CM5バイオセンサーチップ (Biacore)に共有結合させた。(1)完全ヒト型抗体4H16、(2)完全ヒト型抗体adalimumab(Humira,D2E7,市販品)、(3)陽性対照として完全ヒト型抗TNFα抗体7B3、(4)陰性対照として抗体Trastuzumabのそれぞれを、洗浄剤としての0.05% PBS TWEEN-20(ICI Americas)を処方して、異なる濃度(2倍希釈)の溶解液に調製し、50μl/minの流速でチップを通過させた。その後、50mM塩酸水溶液5μlを用いて、3μl/minの流速でそれぞれのチップを洗浄し、残留する抗体を固定化リガンドから溶出させた。BIAevalutionソフトウェア(T100 evalution 2.0バージョン、Biacore)を用い、非線形回帰法を使って結合曲線を分析した。分析結果を、表1に示す。実験の結果、完全ヒト型抗体4H16のKD値は、完全ヒト型抗体adalimumabと完全ヒト型TNFα抗体7B3よりも著しく低く、完全ヒト型抗体4H16のTNFαに対する親和性が、adalimumabと完全ヒト型抗体TNFα抗体7B3よりも高いことが判明した。
親和性実験の結果
【0030】
【表1】

【実験例2】
【0031】
<抗TNF−α抗体4H16によるTNF−αと可溶性P75受容体との結合遮断実験>
10μg/mlのP75受容体-Fc融合タンパク質(中国の特許出願番号01132074.5、出願日2001年10月31日、発明の名称『腫瘍壊死因子受容体の可溶性がある部分の組換遺伝子およびその融合遺伝子と産物』の中で開示された方法に従って調製し、得られた)をマイクロタイタープレートにコートし、37℃で2時間反応させ、3%のBSA−PBSによりウェルプレートをブロッキングし、4℃で一晩反応させた。PBSにより、ビオチン標識のTNF−α(R&D社の製品210-TA-050,Pierce社のEZ-Link Sulfo-NHS-Biotinylation Kit 21425標識を使用し、得られた)を10ng/mlになるまで稀釈し、該稀釈液を用いて、完全ヒト型抗TNF−αモノクローナル抗体4H16(本発明の抗体)、D2E7(adalimumabモノクローナル抗体,Abbott社)、7B3、陰性対照として抗体Trastuzumab(Genentech)を10μg/mlになるまで稀釈し、かつ連続で2倍稀釈する。稀釈されたサンプルと対照物質を洗浄済のマイクロタイタープレートに、1ウェルあたり100μl加え、37℃で1時間反応させた。マイクロタイタープレートを洗浄した後、PBSにより、1:1000でHRP-avidin(Zymed)を稀釈し、マイクロタイタープレートに該希釈液を1ウェルあたり100μl加え、37℃で1時間反応させた。マイクロタイタープレートを洗浄し、HRPサブストレートTMBのA液とB液(晶美生物)を等しい体積で混合した後、マイクロタイタープレートに該混合液を1ウェルあたり100μl加え、暗条件下、室温で10分間反応させた。各ウェル毎に濃度を0.5Mとする硫酸を100μl加え、反応を停止させ、マイクロプレートリーダーにより490nmの光吸収量を測定した。測定結果を、表2および図1のグラフに示す。図1のグラフにおいて、サンプルの濃度を横軸、光吸収量を縦軸に示す。
【0032】
【表2】

【0033】
実験の結果、完全ヒト型抗TNF−αモノクローナル抗体4H16のIC50の値が最も小さく、このことは、完全ヒト型抗TNF−αモノクローナル抗体4H16はTNF−αとP75受容体との結合を遮断することを示し、よって、該抗体とTNF−αの親和性が最も高いことが判明した。
【実験例3】
【0034】
<抗TNF−α抗体4H16によるTNF−αとU-937細胞表面受容体の結合遮断実験>
U937細胞(ATCC番号 CRL1593)を、10%のウシ胎児血清(JRH)を含むRPMI-1640培養液(GIBCO)において培養した。これにより、細胞表面にTNF−α受容体が発現した。対数増殖期の細胞数を数えた後、遠心力200gで5分間遠心分離した。上清を捨て、細胞沈殿物を1%のウシ胎児血清を含むPBSを用いて再懸濁し、細胞密度が1×106個/mlになるように調整した。細胞をフローサイトメトリー用チューブに、1チューブあたり100μl毎に分けた。PBSにより、フルオレセインイソチオシアネート(FITC,Amresco)標識のTNF−α(R&D社の製品210-TA-050、透析法標識を使用し、得られた)を100ng/mlになるまで稀釈し、該稀釈液を用いて、完全ヒト型抗TNF−αモノクローナル抗体4H16(本発明の抗体)、D2E7(adalimumabモノクローナル抗体,Abbott社)、7B3、陰性対照として抗体Trastuzumab(Genentech)を100μg/mlになるまで稀釈し、かつ連続で2倍希釈した。稀釈されたサンプルおよび対照物質を上記フローサイトメトリー用チューブに、1チューブあたり100μl毎加え、暗条件下、4℃で1時間反応させた。1%のウシ胎児血清を含むPBSにより、細胞を2回洗浄し、毎回、遠心力200gで5分遠心分離した。上清を捨て、細胞沈殿物を300μlの1%のウシ胎児血清を含むPBSに再懸濁し、フローサイトメーターで各チューブ毎に蛍光強度を測定した。測定結果を、表3および図2のグラフに示す。図2のグラフにおいて、サンプルの濃度を横軸、光吸収量を縦軸に示す。
【0035】
【表3】

【0036】
実験の結果、完全ヒト型抗TNF−αモノクローナル抗体4H16のIC50の値が最も小さく、このことは、完全ヒト型抗TNF−αモノクローナル抗体4H16は、TNF−αとU937細胞表面受容体との結合を遮断することを示し、よって該抗体とTNF−αの親和性が最も高いことが判明した。
【実験例4】
【0037】
<抗TNF−α抗体4H16のTNF−αが介在するL929細胞の傷害性に対する抵抗実験>
L929細胞(ATCC番号 CCL-1)を、10%のウシ胎児血清(JRH)を含むRPMI-1640培養液(GIBCO)において培養した。対数増殖期の細胞数を数えた後、遠心力200gで5分遠心分離した。上清を捨て、細胞沈殿物を前記の培養液を用いて再懸濁させ、細胞密度を1×105個/mlになるように調整した後、細胞を96ウェルの培養プレートに1ウェルあたり100μl毎加え、37℃で、5%のCO2インキュベータにおいて一晩培養した。翌日、培養液を取り出し、ダクチノマイシンD(華美生物)を濃度が20μg/mlになるまで加え、TNF−α(R&D社の製品210-TA-050)を濃度が4ng/mlになるまで加えた。ダクチノマイシンDとTNF−αを含む培養液を用いて、完全ヒト型抗TNF−αモノクローナル抗体4H16(本発明の抗体)、D2E7(adalimumabモノクローナル抗体、Abbott社)、7B3、陰性対照抗体Trastuzumab(Genentech)を1μg/mlになるまで稀釈し、かつ連続で2倍希釈した。稀釈されたサンプルおよび対照物質をL929細胞を培養した96ウェルの培養プレートに1ウェルあたり100μl毎加え、マルチウェルを設置し、37℃で5%のCO2インキュベータにおいて20時間培養した。新しく調製した非同位体の細胞増殖能力測定試剤(Promega)である、MTSとPMSとを20:1の比率で混ぜ合わせた混合液を、1ウェルあたり20μl毎96ウェルの培養プレートに加え、インキュベータの中で引き続き3時間培養した。マイクロプレートリーダーを用いて、630nmの参照波長で、490nmの吸光度を測定した。測定結果を、表4および図3のグラフに示す。図3のグラフにおいて、サンプルの濃度を横軸、光吸収量を縦軸に示す。
【0038】
【表4】

【0039】
実験の結果、完全ヒト型抗TNF−αモノクローナル抗体4H16のIC50の値が最も小さく、このことは、完全ヒト型抗TNF−αモノクローナル抗体4H16のTNF−αが介在するL929細胞の傷害性に対抗することを示し、よって、そのTNF−αとの親和性が最も高く、TNF−αを中和する能力が最も強いことが判明した。
【実験例5】
【0040】
<抗TNF−α抗体4H16によるマウスのTNF−α誘導死に対する抵抗実験>
D-ガラクトサミンアレルギーを起こすマウスへの遺伝子組換えヒトTNF−α注射により、マウスを死亡に導くことができる。1μgの遺伝子組換えヒトTNF−α(R&D社の製品210-TA-050)および20mg のD-ガラクトサミン(Amresco)を腹腔内注射すると、80-90%のC57BL6マウス(北京維通利華実験動物技術有限公司)を死亡に導くことができる。本実験例において、まず一定量の各種抗体を腹腔内注射し、30分後、再び1μgの遺伝子組換えヒトTNF−αおよび20mg D-ガラクトサミンを腹腔内注射し、各種抗体の保護効果を観察する。各グループの注射量および結果を下表5に示す。
【0041】
【表5】

【0042】
実験の結果、完全ヒト型抗TNF−αモノクローナル抗体4H16のTNF−αによるマウス死亡誘導に対する抵抗性が最も優れており、よって該抗体がマウス体内においてTNF−αを中和する能力は最も高いことが判明した。
【実験例6】
【0043】
<抗TNF−α抗体4H16によるイエウサギのTNF−α誘導発熱反応に対する抑制実験>
遺伝子組換えヒトTNF−αをニュージーランドホワイトウサギに静脈注射することにより、発熱反応を誘導することができる。5μg/kgの遺伝子組換えヒトTNF−αが誘導するイエウサギの発熱反応は約0.5℃である。本実験例において、ニュージーランドホワイトウサギに体重1kgあたり5μgの遺伝子組換えヒトTNF−αとそれぞれ異なる量の各種抗体とを混ぜた物質を静脈注射し、注射前および注射後60分の被実験動物の体温を監視し、遺伝子組換えヒトTNF−αの生物学的影響に対する各種抗体の中和能力を評価した。各グループの注射量および結果を下表6に示す。
【0044】
【表6】

【0045】
実験の結果、完全ヒト型抗TNF−αモノクローナル抗体4H16のTNF−αが誘導するイエウサギの発熱反応を抑制する効果が最も優れており、よって該抗体がイエウサギの体内においてTNF−αを中和する能力が最も優れていることが判明した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SEQ ID NO:6に示す重鎖可変領域のアミノ酸配列と、SEQ ID NO:8に示す軽鎖可変領域のアミノ酸を有する完全ヒト型抗TNF−αモノクローナル抗体。
【請求項2】
SEQ ID NO:10に示す重鎖アミノ酸配列と、SEQ ID NO:12に示す軽鎖アミノ酸配列を有する請求項1に記載の完全ヒト型抗TNF−αモノクローナル抗体。
【請求項3】
請求項1に記載の完全ヒト型抗TNF−αモノクローナル抗体をコードするヌクレオチドであって、SEQ ID NO:5に示す重鎖可変領域の塩基配列と、SEQ ID NO:7に示す軽鎖可変領域の塩基配列を有することを特徴とする前記ヌクレオチド。
【請求項4】
SEQ ID NO:9に示す重鎖塩基配列と、SEQ ID NO:11に示す軽鎖塩基配列を有する請求項3に記載のヌクレオチド。
【請求項5】
pcDNA3.1/ZEO(+)又はpcDNA3.1 (+)であり、請求項3又は4に記載のヌクレオチドを含む発現ベクター。
【請求項6】
CHO-K1細胞であり、請求項5に記載の発現ベクターを含む宿主細胞。
【請求項7】
請求項1に記載の完全ヒト型抗TNF−αモノクローナル抗体の調製方法であって、
ファージディスプレイヒト抗体ライブラリーからの高親和性完全ヒト型抗TNF−α単鎖抗体の選別・取得と、完全ヒト型抗TNF−α抗体の完全な分子の真核細胞発現ベクターの構築と、完全ヒト型抗TNF−α抗体の完全な分子のCHO細胞における発現と、完全ヒト型抗TNF−α抗体の完全な分子の精製の4つのステップを含むことを特徴とする調整方法。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の完全ヒト型抗TNF−αモノクローナル抗体の自己免疫疾患の治療薬の調製における用途。
【請求項9】
前記自己免疫疾患は、関節リウマチ、強直性脊椎炎又は乾癬である請求項8に記載の用途。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2013−520181(P2013−520181A)
【公表日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−554186(P2012−554186)
【出願日】平成22年4月16日(2010.4.16)
【国際出願番号】PCT/CN2010/000512
【国際公開番号】WO2011/103701
【国際公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(512221175)上海百▲邁▼博制▲薬▼有限公司 (3)
【Fターム(参考)】