説明

宗教用装飾金具の表面浄化方法

【課題】銅製地金の表面に銀もしくはニッケルメッキを施し、かつ、その表面に金メッキを施した宗教用有体物が多年を経過することにより、その装飾金具の表面が地金の錆である銅酸化物により汚損された場合に、金メッキの層を損傷させることなく浄化して、宗教用有体物の見栄えと宗教的価値とを回復可能にさせる。
【解決手段】銅製地金4の表面に銀もしくはニッケルメッキ5を施し、かつ、その表面に金メッキ6を施した宗教用装飾金具の表面浄化方法であって、金メッキ6の表面に露出した銅酸化物4aを、硫黄カルボン酸により還元する。銅酸化物4aの還元に先立って、金メッキ6と銅酸化物4aとの各表面に付着している有機系付着物を洗浄剤9で浄化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、宗教用有体物の多年の経過により、その装飾金具の表面に生じた銅酸化物を還元して、この宗教用有体物の外観上の見栄えや宗教的価値を回復させるようにするための宗教用装飾金具の表面浄化方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記宗教用有体物には、山車(だし:鉾を含む)、神輿(みこし)などがあり、これらに用いられる装飾金具は、下記特許文献1に示される装飾金具と同様に従来より、銅製地金の表面にニッケルメッキを施し、かつ、その表面に金メッキを施したものが多く見られる。
【0003】
そして、上記のように金メッキを施した装飾金具により、宗教用有体物の外観上の見栄えの向上や宗教的な価値の向上が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−173680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記した宗教用有体物の装飾金具における金メッキは、電子部品など工業製品に係るものではなく、見栄えや宗教的価値に重点を置いたものであることから、この金メッキの層の厚さは、上記工業製品が0.5〜5μm程度であることに比べて、0.05μm程度と極めて薄くされている。このため、通常、上記金メッキの層には多数のピンホールが生じ易くなっている。
【0006】
よって、上記宗教用有体物につき、多年が経過した場合には、大気側の雨水などの水分が上記ピンホールを通過して上記ニッケルメッキ層に繰り返し到達し、このニッケルメッキの層が徐々に水に溶け出して多数の亀裂が生じる。すると、この水分は、上記ニッケルメッキの層の亀裂を通して銅製地金にまで到達することとなり、この水分により、上記地金の表面が酸化して錆が発生する。
【0007】
また、更に多年の経過の間に、上記錆は、上記ニッケルメッキの層の亀裂と金メッキの層のピンホールとを通りこの金メッキの層の表面にまで到達して装飾金具の表面を汚損する。そして、このような汚損が生じると、上記宗教用有体物では、その見栄えが低下したり、宗教的価値が低下したりするおそれが生じて好ましくない。
【0008】
そこで、上記装飾金具の表面における錆を除去して、この装飾金具の表面を浄化することが考えられる。しかし、一般に、上記錆は装飾金具の金メッキの表面に固着しており、しかも、前記したように金メッキの層は極めて薄くて強度が低いものである。このため、装飾金具の表面から単に錆を除去して浄化しようとすると、上記金メッキの層を著しく損傷させてしまうおそれがあり、よって、装飾金具の表面の浄化は容易でない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記のような事情に注目してなされたもので、本発明の目的は、銅製地金の表面に銀もしくはニッケルメッキを施し、かつ、その表面に金メッキを施した宗教用有体物が多年を経過することにより、その装飾金具の表面が上記地金の錆である銅酸化物により汚損された場合に、上記金メッキの層を損傷させることなく浄化して、宗教用有体物の見栄えと宗教的価値とを回復可能にさせることである。
【0010】
請求項1の発明は、銅製地金4の表面に銀もしくはニッケルメッキ5を施し、かつ、その表面に金メッキ6を施した宗教用装飾金具の表面浄化方法であって、
上記金メッキ6の表面に露出した銅酸化物4aを、硫黄カルボン酸により還元することを特徴とする宗教用装飾金具の表面浄化方法である。
【0011】
請求項2の発明は、上記銅酸化物4aの還元に先立って、上記金メッキ6と銅酸化物4aとの各表面に付着している有機系付着物を洗浄剤9で浄化することを特徴とする請求項1に記載の宗教用装飾金具の表面浄化方法である。
【0012】
なお、この項において、上記各用語に付記した符号や図面番号は、本発明の技術的範囲を後述の「実施例」の項や図面の内容に限定解釈するものではない。
【発明の効果】
【0013】
本発明による効果は、次の如くである。
【0014】
請求項1の発明は、銅製地金の表面に銀もしくはニッケルメッキを施し、かつ、その表面に金メッキを施した宗教用装飾金具の表面浄化方法であって、
上記金メッキの表面に露出した銅酸化物を、硫黄カルボン酸により還元している。
【0015】
ここで、上記還元反応により生成される物質は、上記硫黄カルボン酸に比べ安定した物質であって、銅自体に再溶解など反応しないため、上記金メッキの表面から容易に離脱させることができる。
【0016】
よって、上記宗教用有体物が多年を経過することにより、その装飾金具の表面が上記地金の錆である銅酸化物により汚損された場合において、上記した表面浄化方法を用いれば、上記金メッキの層を損傷させることなく浄化して、宗教用有体物の見栄えと宗教的価値とを回復させることが容易にできる。
【0017】
請求項2の発明は、上記銅酸化物の還元に先立って、上記金メッキと銅酸化物との各表面に付着している有機系付着物を洗浄剤で浄化している。
【0018】
このため、前記硫黄カルボン酸による銅酸化物の還元作用は上記付着物に邪魔されることなく、円滑かつ高精度にできる。よって、上記装飾金具の表面の浄化が効果的にできる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】宗教用有体物の一例としての山車の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の宗教用装飾金具の表面浄化方法に関し、銅製地金の表面に銀もしくはニッケルメッキを施し、かつ、その表面に金メッキを施した宗教用有体物が多年を経過することにより、その装飾金具の表面が上記地金の錆である銅酸化物により汚損された場合に、上記金メッキの層を損傷させることなく浄化して、宗教用有体物の見栄えと宗教的価値とを回復可能にさせる、という目的を実現するため、本発明を実施するための形態は、次の如くである。
【0021】
即ち、銅製地金の表面に銀もしくはニッケルメッキを施し、かつ、その表面に金メッキを施した宗教用装飾金具の表面浄化方法であって、上記金メッキの表面に露出した銅酸化物を、硫黄カルボン酸により還元することとしている。
【実施例】
【0022】
本発明をより詳細に説明するために、その実施例を添付の図に従って説明する。
【0023】
図において、符号1は、山車で例示される宗教用有体物である。この宗教用有体物1の基体2は木製であって、この基体2の表面の各部には、宗教用装飾金具3が取り付けられている。上記宗教用有体物1は、上記山車の他、神輿、神社、仏閣、仏像、仏壇、仏具などである。
【0024】
上記装飾金具3は、銅製地金4の表面にニッケルメッキ5を施し、かつ、このニッケルメッキ5の表面に金メッキ6を施したものである。上記地金4は、銅、黄銅(真ちゅう)、およびリン青銅などである。上記ニッケルメッキ5は、これに代えて銀メッキとしてもよい。
【0025】
上記金メッキ6の層の厚さは上記ニッケルメッキ5(もしくは銀メッキ)の層の厚さよりも薄くされ、0.03〜0.1μm程度とされる。また、上記各メッキは電気メッキでもよいが、ニッケル、銀、および金の液中に上記地金4を入れて、この地金4の表面に付着させたものであってもよい。
【0026】
上記宗教用有体物1につき、多年が経過した場合には、前記従来の技術にて説明のように、通常、この宗教用有体物1の装飾金具3の表面に上記地金4の酸化による錆が到達して、上記装飾金具3の表面を汚損する。上記地金4の錆は銅酸化物4aであって、一般に、黒色の酸化銅(CuO)、緑青色をした炭酸銅、および水酸化銅の混合物である。
【0027】
上記装飾金具3の表面を汚損している銅酸化物4aを除去して、この装飾金具3の表面を浄化する装飾金具3の表面浄化方法につき説明する。
【0028】
まず、上記装飾金具3の金メッキ6と上記銅酸化物4aとの各表面に付着している有機系付着物を液状の洗浄剤9を含ませた柔軟材10でやさしく擦って拭き取り、上記各表面を浄化する。この場合、上記金メッキ6の表面に与えられる柔軟材10からの拭き取りのための外力は、できるだけ小さくさせる。次に、上記金メッキ6と銅酸化物4aの各表面をぬるま湯で濯ぎ、更に浄化する。
【0029】
上記有機系付着物は、例えば油煙などの石油系のものや、動植物油のような脂肪族系のものである.また、上記洗浄剤9は市販の中性洗剤で足りるが、ぬるま湯で薄めて、温められているものが好ましい。また、上記柔軟材10は多孔で吸液性のものであって、例えば、スポンジや、不織布などの布を重ね合わせたり、塊状にさせたりしたものである。
【0030】
次に、金メッキ6の表面に露出した銅酸化物4aを、硫黄カルボン酸の一種であるジチオカルボン酸(RC(=S)SH)により還元する。
【0031】
ここで、上記した銅酸化物(CuO)とジチオカルボン酸との化学反応式を下記する。
【0032】

【0033】
そして、上記還元反応により生成される物質である上記式中のジチオカルボキシラートは、上記ジチオカルボン酸に比べ安定した物質であって、銅自体に再溶解など反応しないため、上記金メッキ6の表面から容易に離脱させることができる。そこで、次に、この金メッキ6の表面を水洗や溶剤洗浄をして、この金メッキ6の表面から上記ジチオカルボキシラートを除去し、浄化する。
【0034】
よって、上記宗教用有体物1が多年を経過することにより、その装飾金具3の表面が上記地金4の錆である銅酸化物4aにより汚損された場合において、上記した表面浄化方法を用いれば、上記金メッキ6の層を損傷させることなく浄化して、宗教用有体物1の見栄えと宗教的価値とを回復させることができる。
【0035】
また、上記した銅酸化物4aの還元に先立って、金メッキ6と銅酸化物4aとの各表面に付着している有機系付着物を洗浄剤9で浄化している。
【0036】
このため、前記硫黄カルボン酸の一種であるジチオカルボン酸による銅酸化物4aの還元作用は上記付着物に邪魔されることなく、円滑かつ高精度にできる。よって、上記装飾金具3の表面の浄化が効果的にできる。
【0037】
なお、上記洗浄剤9はアルコールやリグロインなどの溶剤であってもよい。
【符号の説明】
【0038】
1 宗教用有体物
2 基体
3 装飾金具
4 地金
4a 銅酸化物
5 ニッケルメッキ
6 金メッキ
9 洗浄剤
10 柔軟材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅製地金の表面に銀もしくはニッケルメッキを施し、かつ、その表面に金メッキを施した宗教用装飾金具の表面浄化方法であって、
上記金メッキの表面に露出した銅酸化物を、硫黄カルボン酸により還元することを特徴とする宗教用装飾金具の表面浄化方法。
【請求項2】
上記銅酸化物の還元に先立って、上記金メッキと銅酸化物との各表面に付着している有機系付着物を洗浄剤で浄化することを特徴とする請求項1に記載の宗教用装飾金具の表面浄化方法。

【図1】
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