説明

官能化蛍光性ナノ結晶、並びにそれらの調製及び使用方法

官能化蛍光性ナノ結晶組成物、並びにこれら組成物の作成及び使用方法が開示される。組成物は、少なくとも1つの材料でコーティングされた蛍光性ナノ結晶である。コーティング材料は、コーティングされた蛍光性ナノ結晶に、水溶液中での溶解性を付与するための、共役電子および残基を含む官能基若しくは残基を有する化合物又はリガンドを有する。コーティング材料は、水溶性、化学的安定性であり、並びに光によって励起された場合高い量子収率及び/又は発光効率を伴う光を発する官能化蛍光性ナノ結晶組成物を提供する。コーティング材料は、標的分子及び細胞に結合するための残基並びにコーティングを架橋するための残基を有する化合物又はリガンドを含んでいてよい。反応しキャッピング層を形成するために好適な試薬の存在下で、コーティング中の化合物は、蛍光性ナノ結晶上に、キャッピング層に機能的に結合したコーティング材料を有するキャッピング層を形成してもよい。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、半導体ナノ結晶及びその使用に関する。コーティング及び架橋剤が開示されている。
【背景技術】
【0002】
本出願は、2004年10月29日に出願した米国仮特許出願第60/623,425号の優先権を主張する。
【0003】
連邦政府による資金提供を受けた研究開発の記載
米国政府は、米国陸軍開発研究所からの契約番号DAAD 17-01-C-0024に従って、本願において自己の権利を所有し得る。
【0004】
関連技術の説明
蛍光分析は、科学研究、臨床診断及び多くの産業用途において強力なツールとなっている。しかし、フルオレセイン及びフィコエリスリン等の蛍光性有機分子が蛍光検出システムにおいてよく用いられているものの、これらの分子を単独で、或いは組み合わせて用いることには欠点が存在する。例えば、光退色(光源の下での発光強度の減少)は、これらの分子を用いた定量分析の精度を損なう主な問題である。加えて、個々のタイプの蛍光分子は、それぞれが比較的狭い吸収スペクトルを有しているために、他のタイプの蛍光分子が必要とするものと異なる波長を有する光子による励起を必要とする。更に、単一の光源を用いて単一の励起波長を供給する場合であっても、複数の蛍光分子の発光スペクトルが重なっている場合や、個別かつ定量的に検出するにはスペクトルの間隔が不適当である場合が往々にしてある。
【0005】
半導体ナノ結晶は、今や、従来の蛍光分子に取って代わる、同位体を用いない検出法の有望なツールであると評価されている。ナノ結晶の発光特性はサイズの関数であるため、サイズの分布が小さくなるように製造されたナノ結晶は、励起により線幅の狭い離散的なピークを有する蛍光を発する。換言すると、ナノ結晶のスペクトル特性(狭い線幅、離散的な発光波長、発光波長の異なる一連のナノ結晶を単一の波長で励起可能であること)を制御可能であることは、その使用において最も魅力的な点である。ナノ結晶の他の利点は、強力な光源の下でも、光退色に対する抵抗性を有することである。
【0006】
半導体ナノ結晶の例として、CdSe、CdS、及びCdTe(「CdX」と総称する)からなる群より選択されるコアを有するものが知られている(例えば、Norris et al., 1996, Physical Review B. 53:16338-16346;Nirmal et al., 1996, Nature 383:802-804;Empedocles et al., 1996, Physical Review Letters 77:3873-3876;Murray et al., 1996, Science 270:1355-1338;Effros et al., 1996, Physical Review B. 54:4843-4856;Sacra et al., 1996, J. Chem. Phys. 103:5236-5245;Murakoshi et al., 1998, J. Colloid Interface Sci. 203:225-228;Optical Materials and Engineering News, 1995, Vol. 5, No. 12;and Murray et al., 1993, J. Am. Chem. Soc. 115:8706-8714), and ZnS (Kho et al. 2000, Biochem. Biophys. Research Commun. 272:29-35参照)。
【0007】
当分野で知られているように、比較的単分散性の(例えば、調製物中の量子ドットにおいて、コアの直径が、約10%の幅で変動する)半導体ナノ結晶の調製には、既述されているように(Bawendi他、1993,J.Am.Chem.Soc.115:8706)、手動バッチ法を用いることができる。ナノ結晶コアの製造における進歩及び粒径分布の減少における改善、粒径の制御可能性、並びに製造の再現性は、連続フロー法により達成された(米国特許第6,179,912号明細書)。しかし、コア半導体ナノ結晶は、励起に対して低い蛍光強度しか示さず、水溶性を欠き、標的分子を結合するための表面官能基を有しておらず、更に、高いイオン強度を有する水中では、解離及び分解を起こしやすい。蛍光強度が低いのは、励起エネルギーの外部相への漏出、コアナノ結晶の蛍光特性を低下させる表面エネルギー状態の存在、あるいは、無放射緩和の中間状態に起因する。
【0008】
蛍光強度を増大させるために、表面エネルギー状態の低減又は消失を目的とする、コアナノ結晶の外表面の保護(又はキャッピング)等の努力がなされてきた。より高いバンドギャップエネルギーを有する無機材料が、保護に用いられている。すなわち、コアナノ結晶は、コアナノ結晶の表面に均一に堆積した無機コーティング(「シェル」)によって保護されている。CdXコアナノ結晶を保護するのに通常用いられているシェルは、好ましくはYZ(式中、YはCd、Hg、又はZnであり、ZはS、又はSe、又はTeである)からなる。しかし、これらの保護された半導体ナノ結晶は、蛍光強度が(量子収率に関して)あまり改善されておらず、有機溶媒にのみ溶解性を示すことが報告されている。トリn-オクチルホスフィン(TOP)及びトリn-オクチルホスフィンオキシド(TOPO)等の有機分子が、ナノ結晶のコーティングに用いられている(Murray et al., 1993, J. Am. Chem. Soc. 115:8706-8714, Hines and Guyot-Sionnest 1996, J. Phys. Chem. 100:pp 468, Dabbousi et al., 1997, J. Phys. Chem. 101:9463参照)。これらの分子を用いたコーティングを用いても、蛍光強度はあまり改善されず、コーティングされたナノ結晶は有機溶媒にのみ溶解性を有することが報告されている。更に、ナノ結晶をコーティングしている分子は、種々の溶媒により容易に置換される。
【0009】
蛍光性ナノ結晶を、生物学的応用又は水性環境を用いる検出系で有用なものにするためには、検出系で用いられる蛍光性ナノ結晶が水溶性である必要がある。本明細書では、「水溶性」という用語を、水、又は、生物学若しくは分子検出系で用いられるものを含む水を溶媒とする溶液、若しくは緩衝溶液等の水溶液中に、十分に可溶、あるいは懸濁可能であるという意味で用いる。粒子及び表面は、流体に対する加湿性という特徴も有している。流体は、水又は水溶液、及びエタノール又はメタノール等の他の液体であってもよい。半導体ナノ結晶(例えばCdXコア/YZシェルナノ結晶)に水溶性又は加湿性を付与する1つの方法は、TOP又はTOPOのオーバーコート層を、水溶性を付与するコーティング又は「キャッピング」化合物に置換することである。例えば、有機層との交換に、メルカプトカルボン酸をキャッピング化合物として用いることができる(例えば、米国特許第6,114,038号明細書を参照。また、Chan and Nie,1998,Science 281:2016-2018を参照)。モノチオールキャッピング化合物のチオール基は、Cd-S又はZn-S結合(ナノ結晶の組成による)を介して結合しており、溶液中である程度容易には置換されず、懸濁液中のナノ結晶にある程度の安定性をもたらす。
【0010】
CdXコア/YZシェルナノ結晶に水溶性又は加湿性をもたらす他の方法は、半導体ナノ結晶の周囲に、メルカプト基を有するリンカーを用いて、半導体ナノ結晶にガラスを結合させることにより、シリカのコーティングを形成することである(Bruchez,Jr.他、1998,Science 281:2013-2015;米国特許第5,990,479号明細書)。広範囲にわたって重合したポリシランシェルは、ナノ結晶材料に水溶性又は加湿性を付与すると共に、シリカの表面に更に化学修飾を行うことを可能にする。
【0011】
コーティング化合物の性質にもよるが、水溶性であることが報告されたコーティングされたナノ結晶は、特に、空気(酸素)及び/又は光にさらされた場合、水溶液中での安定性があまり高くない場合がある。例えば、酸素と光によって、ナノ結晶のキャッピング及び保護膜中のメルカプト基を有するモノチオールは、触媒的に酸化を受け、コーティングの結合を不安定化し、コア半導体の酸化に関与する場合すらあるジスルフィドを生成する(例えば、Aldana他、2001, J. Am. Chem. Soc. 123:8844-8850を参照)。このように、酸化によってキャッピング層がナノ結晶の表面から離れてしまい、それによりナノ結晶の表面が露出すると、蛍光強度の低い不溶性の会合体を形成する「不安定化ナノ結晶」を生じるおそれがある。更に、半導体ナノ結晶の保護に現在用いられている方法は、検出系において必要とされるレベル(例えば、蛍光検出系の感度を、現在利用可能な蛍光染料に比べ有意に増大させる)まで蛍光強度を増大させるには未だ不十分である。
【0012】
ナノ結晶の製造方法に関する現状から明らかなように、所望のいくつかの性質を達成するためには、ナノ結晶に、安定で保護作用を有するキャッピング層を形成することが重要である。換言すると、キャッピング層は、半導体ナノ結晶に、蛍光効率(量子収率)の改善、水溶性、水溶液中での安定性、高いイオン強度を有する溶媒中での安定性、光、酸素、及びイオンによる厳しい環境に対する耐性、並びに、リガンド、分子、種々のプローブ、及び固体担体に対する結合能を有するようにデザインされることが望ましい。更に、高強度の蛍光発光よりなるシグナルを生成し、シグナルを増幅することができ、検出対象となる標的分子の化学的性質による(例えば、核酸分子の検出にしか使えない等の)制限を受けず、種々の分子プローブ(アフィニティ分子、オリゴヌクレオチド、核酸塩基等)の結合に用いることができ、単一の励起光源を用いて励起することができ、離散的な蛍光ピークを有し、(例えば、通常の蛍光検出方法を用いて)スペクトル的に互いに区別することができる蛍光発光を生じるような非同位体分子を用いて2種類以上の標的分子の同時検出が可能な、同位体を用いない検出系に対する需要が依然として存在する。
【0013】
本発明の目的は、蛍光強度の顕著な増大、水溶性、物理的及び化学的安定性、並びに官能化等の様々な性質を備えた蛍光性ナノ結晶を提供することである。
【発明の開示】
【0014】
発明の要約
電子リッチなヘテロ芳香環構造を有するコーティング物質を含む蛍光性ナノ結晶が開示される。それらの製造方法及び使用について示す。
【0015】
発明の詳細な説明
組成物及び方法が、種々の成分又は工程を「含む(comprising)」(「含むが、それらに限定されない」という意味に解釈される)という用語を用いて記載されているが、組成物及び方法は、「本質的に」種々の成分及び工程「からなる」場合、あるいは種々の成分及び工程「からなる」場合も考えられ、このような用語は、本質的に閉じた集合を表すものであると解釈されるべきである。
【0016】
本発明の組成物及び方法について記載する前に、本発明は、これから述べる特定の分子、組成物、方法、及びプロトコルに限定されるものではなく、変更を加えうる点について理解されるべきである。本明細書で用いられる用語は、特定の変形例又は実施形態のみを説明するために用いられており、特許請求の範囲によってのみ限定される本発明の範囲を限定するものではない。
【0017】
本明細書及び特許請求の範囲で用いられる場合、単数形を表す「a」、「an」、及び「the」は、文脈から明らかに除外される場合を除き、複数のものに言及する場合を含んでいることは注目されるべきである。したがって、例えば、「細胞(a cell)」への言及は、1又は複数の細胞及び当業者に公知のその均等物等への言及である。特に定義しない限り、本明細書において用いられる全ての技術用語及び科学用語は、その技術分野における通常の知識を有する者によって通常理解されるのと同様の意味を有する。本明細書に記載の方法及び物質と同一又は均等な任意の方法及び物質を、本発明の実施形態の実施又は実験に用いることができるが、以下、好ましい方法、装置及び物質について記載する。本明細書のいかなる記載も、先行発明による開示よりも前になされたものではありえないと解釈されるべきではない。
【0018】
単数形を表す「a」、「an」、及び「the」は、文脈から明らかに除外される場合を除き、複数のものに言及する場合を含む。
【0019】
「任意の」又は「必要に応じて」とは、後述する事象又は状況が存在してもしなくてもよいことを意味しており、この記載には、事象が存在する場合、及び存在しない場合の両方が含まれる。
【0020】
本出願の明細書全体を通して、「第1に」、「第2に」、「第1の」、「第2の」等の複数の用語を用いている。これらの用語は、便宜上異なる要素を区別するための用語であり、それらの用語により、どのように異なる要素を使うことができるかを限定するものではない。
【0021】
本発明は、半導体ナノ結晶に、水溶性、分解からの保護、光自動酸化からの保護、官能化、及び蛍光強度の顕著な増大等の性質を付与する特殊な化合物を用いたナノ結晶の表面改質に関する。
【0022】
「標的分子」とは、その存在及び/又は量が試験の対象となる有機性又は無機性の分子であり、分子プローブが特異的な結合能を有していれば分子の一部(例えば、リガンド、配列、エピトープ、領域、部位、又は決定因子等)であってもよい。分子としては、特に限定されないが、核酸分子、タンパク質、糖タンパク質、真核細胞、原核細胞、リポタンパク質、ペプチド、炭水化物、脂質、リン脂質、アミノグリカン、化学伝達物質、生物学的受容体、構造成分、代謝産物、酵素、抗原、薬剤、 治療薬、毒素、無機化学製品、有機化学製品、基質等が挙げられる。標的分子は、生体内、試験管内、その場、又は生体外のいずれに位置するものであってもよい。
【0023】
「分子プローブ」とは、標的分子の一部に対する結合特異性及び結合活性を有し、又は会合する分子を示す。一般に、分子プローブは当業者に公知であり、レクチン又は結合能を保持しているその断片(又は誘導体)、モノクローナル抗体(「mAb」、キメラ抗体又は遺伝子組み換えモノクローナル抗体等で、好ましくはヒトに投与するためのものを含む)、ペプチド、アプタマー、及び核酸分子(一本鎖RNA、一本鎖DNA、又は一本鎖核酸ハイブリッド、オリゴヌクレオチド類縁体、骨格を修飾したオリゴヌクレオチド、モルホリノ骨格を有するポリマー等が含まれるがそれらに限定されない)等が含まれるがそれらに限定されない。「核酸塩基」は核酸部分を指すものとして本明細書で用いられ、特に限定されないが、ヌクレオシド(誘導体又はその機能的等価物、及び合成又は修飾ヌクレオシド、特に反応官能基(例えば、遊離アミノ酸又はカルボキシル基)を有するヌクレオシド等)、ヌクレオチド(dNTP、ddNTP、その誘導体又はその機能的等価物、特に反応官能基(例えば、遊離アミノ酸又はカルボキシル基)を有するヌクレオチド)、アシクロヌクレオシド(例えば、米国特許第5,558,991号参照)、3'(2')-アミノ-修飾ヌクレオシド、 3'(2')-アミノ-修飾ヌクレオチド、3'(2')-チオール-修飾ヌクレオシド、3'(2')- チオール-修飾ヌクレオチド(例えば、米国特許第5,679,785号参照);アルキルアミノ-ヌクレオチド(例えば、鎖末端として、米国特許第5,151,507号参照)、ヌクレオシドチオトリホスフェート(例えば、米国特許第5,187,085号参照)等が挙げられる。「モノクローナル抗体」という用語は、本明細書及び特許請求の範囲の目的に対して、mAb分子から誘導され、mAb全分子中の結合性官能基の全部又は一部を保持している免疫活性を有する断片又は誘導体を含むという意味にも用いられる。かかる免疫活性を有する断片又は誘導体としてはF(ab')2、Fab'、Fab、Fv、scFV、Fd'、及びFd断片が挙げられることが当業者に公知である。mABの種々の断片又は誘導体を製造する方法はよく知られている(例えば、Pluckthum, 1992, Immunol. Rev. 130:152-188参照、例えばペプシン消化、パパイン消化、ジスルフィド架橋の還元、及び米国特許第4,6142,334号に記載の方法を介する)。一本鎖抗体は、米国特許第4,946,778号明細書に記載の方法により製造することができる。キメラ抗体の構築は、現在では簡単な手段であり(Adair, 1992, Immunological Reviews 130:5-40)、キメラ抗体は、マウス可変領域をヒト定常領域に結合させることにより製造される。更に、「ヒト化」抗体は、マウスモノクローナル抗体の超可変領域を、1又はいくつかの公知の技術を用いてヒト免疫グロブリンの定常領域及び可変領域(軽鎖又は重鎖)に結合させることにより製造される(Adair,1992,上記参照;Singer他、1993, J. Immunol. 150:2844-2857)。非ヒト/ヒトキメラmAbを製造する一般的な方法は、米国特許第5,736,137号明細書に記載されている。アプタマーは、米国特許第5,879,157号明細書に記載の方法により製造することができる。レクチン及びその断片は市販されている。オリゴヌクレオチド類縁体、骨格を修飾したオリゴヌクレオチド、及びモルホリノ骨格を有するポリマーは、それぞれ米国特許第5,969,135号、第5,596,086号、第5,602,240号、及び第5,034,506号明細書に記載の方法により製造することができる。「分子プローブ」という用語は、本明細書において、官能化された蛍光性ナノ結晶に機能的に結合していてもよい、複数の分子プローブ分子を表すために用いられることがある。
【0024】
「機能的に結合する」及び「機能的に結合した」という用語は、本明細書に記載の検出系において、それに関する既知の標準的な条件下で使用する上で十分な安定性を有し、コーティング化合物とナノ結晶、コーティング化合物と分子プローブ、異なる分子プローブ同士、及び分子プローブと標的分子等を含むがそれらに限定されない、異なる1組の分子間に形成される融合又は結合又は会合を示す。コーティングは、1又は複数のリガンドを含んでいてもよい。当業者に知られており、以下の実施形態によってより明らかにされるように、反応性官能基を用いて2以上の分子を機能的に結合させるいくつかの方法及び組成物が存在する。反応性官能基としては、例えば、二官能試薬(例えば、ホモ二官能性又はヘテロ二官能性)、ビオチン、アビジン、遊離化学基(例えば、チオール又はカルボキシル、ヒドロキシル、アミノ、アミン、スルホ等)、及び反応性化学基(遊離化学基で反応性)が挙げられる。当業者に知られているように、結合には、共有結合、イオン結合、水素結合、ファン・デル・ワールス結合等のうち1又は複数が含まれるが、それらに限定されない。
【0025】
「イミダゾール含有化合物」とは、蛍光性ナノ結晶又はキャッピング化合物中の亜鉛、カドミウム、ガリウム等の金属、又は他の金属陽イオン、或いはこれらの陽イオンを含む基材との結合に利用可能な少なくとも1つのイミダゾール基(例えば、イミダゾール環)を有する、コーティング中のヘテロ環式若しくはヘテロ芳香族分子又はリガンドを示す。こうした観点から、好ましくは、少なくとも1つのイミダゾール残基は分子構造中の末端の部位に存在する。イミダゾールを含む化合物は非局在化した分子軌道を有するイミダゾール環を介して、蛍光性ナノ結晶に機能的に結合している。通常、イミダゾール環の窒素は、図1に示すように、配位性のリガンドとして作用し、亜鉛又はカドミウム等の金属イオンと機能的に結合する。好ましい実施形態において、イミダゾール含有化合物は、アミノ酸又は互いに結合した2以上のアミノ酸(例えば、「ペプチジル」又は「オリゴペプチド」として公知である)のような追加的反応性官能基を含み、特に限定されないが、ヒスチジン、カルノシン、アンセリン、バレイン、ホモカルノシン、ヒスチジルフェニルアラニン、サイクロ-ヒスチジルフェニルアラニン、5-アミノ-4-イミダゾールカルボキシアミド、ヒスチジルロイシン、2-メルカプトイミダゾール、boc-ヒスチジンヒドラジド、ヒスチジノール、1-メチルヒスチジン、3-メチルヒスチジン、イミダゾリシン、イミダゾール含有オルニチン(例えば5-メチルイミダゾロン)、イミダゾール含有アラニン(例えば、(β)-(2-イミダゾリル)-L(α)アラニン)、カルシニン、ヒスタミン、グリシルヒスチジンが挙げられる。これらのヒスチジン系分子又はイミダゾール含有アミノ酸は、当業者に公知の方法を用いて合成される(例えば、Stankova et al, 1999, J. Peptide Sci. 5:392-398参照)。
【0026】
「アミノ酸」とは、少なくとも1つのアミノ基及び少なくとも1つのカルボキシル基を有する化合物又はリガンドを示す。知られているように、アミノ基はカルボキシル基に隣接する位置に存在していてもよく、例えば、β及びγアミノ酸等のように、アミノ酸分子上の任意の位置に存在していてよい。少なくとも1つのイミダゾール残基以外に、アミノ酸は、1又は複数の他の反応性官能基(例えば、アミノ基、チオール基、カルボキシル基、カルボキサミド基等)を更に有していてもよい。アミノ酸は、D(dextro)体及びL(levo)体の、天然アミノ酸、合成アミノ酸、化学修飾されたアミノ酸、アミノ酸誘導体、アミノ酸前駆体のいずれであってもよい。誘導体の例としては、公知であるn-メチル化誘導体、アミド、又はエステルが挙げられるが、これらに限定されない。アミノ酸の有する官能基から予期されるとおり、アミノ酸は、蛍光性ナノ結晶に対するコーティングとして作用し、水溶性、約pH6〜約pH10のpH範囲内での十分な緩衝能、蛍光強度を増大させるコーティングとしての機能、及び少なくとも1つの分子プローブを機能的に結合させるために用いることができる1又は複数の反応性官能基を付与する。好ましい実施形態において、上述のアミノ酸のうち1つのアミノ酸を用いることができ、好ましいアミノ酸は、本発明の組成物中で、好ましいアミノ酸以外の他のアミノ酸を除いて個別に用いることができる。カルノシン(アラニルヒスチジン)は、本発明の官能化された蛍光性ナノ結晶をコーティングするために用いられる、ヒスチジンを有し、或いはイミダゾールを含む好ましい化合物である。
【0027】
本発明の実施において、イミダゾールの代わりに、他の分子又はリガンドを用いてもよい。これらのリガンド(Cotton and Wilkinson、第3版、21章に記載のもの等)は、蛍光性ナノ結晶の表面に機能的に結合させ、金属イオンに配位又はキレートし、好ましくは、ルイス塩基性及び/又は共役系を含む残基を有する。これらの分子は、それによりコーティングされた蛍光性ナノ結晶に、水中での溶解性又は加湿性を付与することができる残基を有していてもよい。分子は、標的分子及び細胞と結合するための化学残基を有していてもよく、それらを架橋するための残基を有していてもよい。これらの分子又は化合物は、ZnSO4及びNa2S等の適当な試薬の存在下で反応し、蛍光性ナノ結晶の表面に、これらの分子が機能的に結合したキャッピング層を形成することができる。分子は、ナノ結晶の表面の原子又はイオンに結合していてもよい。これらの分子又は化合物を用いることにより、増大した発光、水溶性、及び化学的安定性を有する官能化されたナノ結晶が得られる。これらの分子又は化合物は、分子構造の末端の部位に少なくとも1つのルイス塩基及び/又は共役系を含む残基を有する。通常、共役電子系又は共役系を含むヘテロ環を有する環状又は直鎖状の不飽和化合物は、配位性のリガンドとして作用し、亜鉛、水銀、又はカドミウム等の金属イオンに機能的に結合する。図1Aに示すように、リガンドは、非局在化した分子軌道を有する残基で蛍光性ナノ結晶の表面に結合する。これらの分子又は化合物は複素環又は2以上の互いに結合した複素環を含み、特に限定されないが、例えば、チアゾール、チアゾール誘導体、オキサゾール、オキサゾール誘導体、ピロール、ドープされ又はされていないポリ-ピロールオリゴマーを含むピロール誘導体、チオフェン、ドープされ又はされていないポリチオフェンを含むチオフェン誘導体、フラン、フラン誘導体、ピリジン、ピリジン誘導体、ピリミジン、ピリミジン誘導体、ピラジン、ピラジン誘導体、トリアジン、トリアジン誘導体、トリアゾール、トリアゾール誘導体、フタロシアニン、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン、ポルフィリン誘導体、及びコプロポルフィリンI二塩化水素化物が挙げられる。これらの分子は不飽和(オレフィン系)炭化水素、又はそのアミン、リン、酸素誘導体であってもよく、アセチレン、プロピン、及びアレン等が含まれるが、それらに限定されない。確実に付加体を形成し、又は半導体ナノ結晶の表面と共鳴構造を形成するために、分子が十分なp-電子密度を有していることが好ましい。コーティング過程の種々の段階におけるエネルギー変化のダイアグラムを図1Bに示す。
【0028】
「アルキルホスフィン架橋化合物」とは、Se、S等の非金属、又は他の非金属、或いはこれらの陽イオンを含む基材との結合又はキレート形成に利用可能な少なくとも1つのホスフィン基を有し、少なくとも1つの他の官能基(例えば、アミノ基、チオール基、カルボキシル基、カルボキサミド基等)を有し、単独で、或いは様々な量の他の化合物、例えばイミダゾールを有する化合物で、好ましくはグリシルヒスチジンと共に、結晶上で反応し、隣接するイミダゾールを有する化合物と結合して、結晶をコーティングする能力を有する分子又はリガンドを示す。こうした観点から、図1に示すように、好ましくは、少なくとも1つのホスフィン残基は分子構造中の末端の部位に存在する。通常、ホスフィン残基は、配位性のリガンドとして作用し、蛍光性ナノ結晶又はキャッピング化合物と、非金属又はSe若しくはS等のイオンを介して機能的に結合する。好ましい実施形態において、アルキルホスフィンを含む化合物は、1つのホスフィン基、或いは(例えば、多量体として)結合した2つ以上のホスフィン基を有しており、ヒドロキシメチルホスフィン化合物等が挙げられるが、これに限定されない。アルキルホスフィン含有化合物は、当分野で公知の方法を用いて合成してよい(例えば、Tsiavaliaris et al., 2001, Synlett. 3:391-393, Hoffman et al, 2001, Bioconjug. Chem. 12:354-363, 米国特許第5,948,386号参照)。知られているように、アルキルホスフィンを含む化合物は、1又は複数の他の官能基(例えば、ヒドロキシル基、アミノ基、チオール基、カルボキシル基、カルボキサミド基等)を更に有していてもよい。公知であり、本明細書で述べるようなコーティングとしてのアルキルホスフィンの有する機能(例えば、水溶性、約pH6〜約pH10のpH範囲内での十分な緩衝能、蛍光強度を増大させるコーティングとしての機能、及び分子プローブを機能的に結合させるために用いることができる1つ又は複数の反応性官能基の付与)に合致する誘導体の例としては、ヒドロキシメチルホスフィン誘導体、アミド、又はエステルが挙げられるが、これに限定されない。上述の誘導体のうち1つのアルキルホスフィンを、好ましい実施形態において用いることができ、好ましいアルキルホスフィンは、本発明の組成物中で、好ましいアルキルホスフィン以外の他のアミノ酸を除いて個別に用いることができる。トリス(ヒドロキシメチル)ホスフィン及びβ-[トリス(ヒドロキシ)ホスフィノ]プロピオン酸は、本発明の蛍光性ナノ結晶のコーティング、安定化、及び官能化のために特に好ましいアルキルホスフィンを含む化合物である。知られているように、架橋を有するアルキルホスフィンを含む化合物は、更に亜鉛及びカルシウム等の金属原子及び/又はイオンと結合する能力を有する。こうした観点から、官能化されたイソシアネート又はシアノアクリル酸アルキルも、本発明の実施において、架橋リガンド及び蛍光性ナノ結晶との付加体の形成に有用である。
【0029】
本発明のコーティング材料でコーティングされたナノ結晶は、コーティング材料の表面に更に別の層を有していてもよい。層を形成する残基は、有機残基でも無機残基でもよく、化学的適合性、反応性、又は液体若しくは分散媒への可溶性を付与する。例えば、アルギニン等の他のアミノ酸をコーティング材料中のイミダゾールを含む化合物と結合させてもよく、或いは短鎖ポリマーや、セリンのヒドロキシル残基が分散媒と相互作用するアルギニン-グリシン-セリン等のペプチド配列を本発明の実施に用いてもよい。アミノ酸及び他の類似の官能基は、コーティング材料中のイミダゾールを含む官能基のアミノ酸部位に親和性を有しており、標準的なカップリング反応を用いてそれらと反応させることができる。
【0030】
「蛍光性ナノ結晶」とは、ヒスチジンを含む又はイミダゾールを含む化合物及びホスホニウム化合物等が機能的に結合していてもよい半導体ナノ結晶又はドープされた金属酸化物ナノ結晶を示す。半導体ナノ結晶は量子ドットとも呼ばれ(結晶性半導体としても知られている)、少なくとも1つのII-VI族半導体材料(ZnS、HgS、及びCdSeがその具体例である)、若しくはIII-V族半導体材料(GaAsがその具体例である)、若しくはIV族半導体ナノ結晶、又はそれらの組み合わせよりなる。これらのコア半導体結晶は、コアの表面に均一に堆積した「シェル」又はキャッピング層を更に有し、それによって保護されていてもよい。キャッピング層の材料は、コアナノ結晶よりも高いバンドギャップエネルギーを有する無機材料を含んでいてもよい。CdX(X=S、Se、Te)コアナノ結晶の保護のために通常用いられる無機材料は、好ましくはYZ(式中、「Y」はCd、Hg、又はZnであり、「Z」はS、又はSe、又はTeである)からなる。YZシェルを有するコアCdXナノ結晶は、公知の方法で作成できる(例えば、Danek et al., 1996, Chem. Mater. 8:173-179;Dabbousi et al., 1997, J. Phys. Chem. B 101:9463;Rodriguez- Viejo et al., 1997, Appl. Phys. Lett. 70:2132-2134;Peng et al., 1997, J. Am. Chem. Soc. 119:7019-7029;1996, Phys. Review B. 53:16338-16346参照)。コアナノ結晶は、0〜約5.3層のキャッピング半導体材料の単分子層を含んでいてもよく、好ましくは、コアナノ結晶は約1層以下のキャッピング半導体材料の単分子層を含んでいる。当業者に知られているように、半導体ナノ結晶のコアのサイズは、発光のスペクトル域と相関する。表1に、CdSeの場合の具体例を示す。
【0031】
【表1】

【0032】
好ましい実施形態において、半導体ナノ結晶は連続フロープロセス及びシステム(米国特許第6,179,912号明細書参照)を用いて製造され、約1ナノメートル(nm)〜約20nmの範囲内の平均粒子サイズ(直径として測定される)に対して変動幅が+/-10%以下である粒子サイズを有していてもよい。本発明のいくつかの実施形態の実施に有用な半導体ナノ結晶は、ナノ結晶の大きさがそれらのバルク中での励起子直径よりも小さいので、サイズに依存する光電特性を示すという特徴を併せ持つこともできる。
【0033】
「ドープされた金属酸化物ナノ結晶」とは、金属酸化物、及び1又は複数の希土類元素等のドーパントを含むナノ結晶を示す。例えば、金属酸化物としては、特に限定されないが、例えば、酸化イットリウム(Y2O3)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化銅(CuO又はCu2O)、酸化ガドリニウム(Gd2O3)、酸化プラセオジム(Pr2O3)、酸化ランタン(La2O3)、及びこれらの合金が挙げられる。アルカリ土類金属がドープされた金属酸化物ナノ結晶としては、特に限定されないが、ユウロピウム(Eu)、セリウム(Ce)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、テルビウム(Tb)、ガドリニウム(Gd)、ホルミウム(Ho)、ツリウム(Tm)といったランタノイドから選択される元素の酸化物、及びこれらの元素を含む合金が挙げられる。当業者に知られているように、ドーパントによって、励起されたドープされた金属酸化物ナノ結晶は、特定の色の光を発することができる。したがって、希土類の性質又は希土類は、本発明のミクロスフェアの標識に用いられるドープされた金属ナノ結晶によって付与(発光)される色に応じて選択される。特定の希土類又は特定の希土類金属の組み合わせにより、ドープされた金属酸化物は特定の色を有する。ドーパントの性質及び/又はドーパントの濃度を調節することにより、ドープされた金属酸化物ナノ結晶は、全ての色の光(線幅の小さな発光ピーク)を発することができる。例えば、Y2O3-Euを含む、ドープされた金属酸化物ナノ結晶の発光色及び明るさ(例えば、発光強度)は、Euドーパントの濃度に依存し、例えば、Euの濃度の増大と共に発光色が黄色から赤にシフトする。説明のみのために、Y2O3に加える種々のドーパントによって付与される発光色を表2に示す。
【0034】
【表2】

【0035】
ドープされた金属酸化物ナノ結晶を製造する方法としては、ゾル-ゲル法(米国特許第5,637,258号明細書参照)及び有機金属反応が挙げられることが知られているが、これらに限定されない。当業者には明らかなように、ドーパント(例えば、1又は複数の希土類元素)は、十分な量がドープされた金属酸化物中に導入され、ドープされた金属酸化物ナノ結晶を蛍光検出に実際に使用することが可能になる。十分な量のドーパントが存在しない場合、ドープされた金属酸化物ナノ結晶は、検出するのに十分な蛍光を発することができず、ドーパントの量が多すぎると、濃度消光によって蛍光強度が減少する。好ましい実施形態において、ドープされた金属酸化物中のドーパントの量は、ドープされた金属酸化物ナノ結晶中のモル量の約0.1%〜約25%の範囲から選択される。ドープされた金属酸化物ナノ結晶は、単一の励起光源を用いて励起することができ、高い量子収率(例えば、単一のナノ結晶は、従来の蛍光染料1分子よりも、10倍以上の蛍光強度を有する)、及び離散的な蛍光ピークを有する検出可能な蛍光を発する。通常、ドープされた金属酸化物ナノ結晶は、200オングストローム未満のほぼ均一なサイズを有しており、好ましくは約1nm〜約5nmのほぼ均一なサイズを有する。1つの実施形態において、ドープされた金属酸化物ナノ結晶は1又は複数の希土類金属でドープされた金属酸化物を含み、希土類元素を含むドーパントは、(紫外光等によって)励起することができ、狭いスペクトルを有する蛍光発光を生じる。他の実施形態において、ドープされた金属酸化物は、(励起光源により励起された場合の)蛍光性及び磁気特性を併せ持つ。そのため、複数の蛍光性ナノ結晶(磁性材料であるドープされた金属酸化物ナノ結晶を含む)が埋め込まれ、又は標識された(実質的に非磁性である)ポリマーミクロスフェアは、磁性を有する蛍光性ミクロスフェアを形成することができる。
【0036】
「官能化蛍光性ナノ結晶」とは、コーティングされた蛍光性ナノ結晶を示す。コーティングには、カチオン、リガンド、共役系を含み親液性の残基を有する分子、及び結合基、架橋基分子、及び分子プローブが含まれるが、これらに限定されない。そのようなコーティング材料の例としては、イミダゾールを含む化合物及びアルキルホスフィン化合物が挙げられる。
【0037】
官能化蛍光性ナノ結晶は、コーティング材料に含まれるリガンドに応じて、水溶液及び他の液体に可溶である。例えば、それらは、水、水とイソプロピルアルコールとの混合物、又は表面張力が約80ダイン/cm未満、好ましくは30〜73ダイン/cmの範囲内である液体に可溶であってもよい。官能化されたナノ結晶を溶解又は懸濁するための溶媒又は溶媒混合物は、官能化ナノ結晶のコーティング材料の表面エネルギーとほぼ等しい表面エネルギーを有していてもよい。コーティングの表面エネルギーは、コーティング材料中のリガンドの分子の性質及び量に応じて変化し、好ましくは、コーティング材料の残基は、接触する液体に対し適合性を有し、可溶であり、化学的に安定である。コーティング材料の化学的に安定な残基は、官能基化蛍光性ナノ結晶の応用に必要とされる時間にわたって蛍光発光の強度を維持する。本発明の官能化されたナノ結晶(FNC)は、水、水とグリセロール(50%)、水とエタノール(10%)、水とメタノール(50%、35ダイン/cm)、水とDMSO(50%)、水とポリエチレングリコール200(50%)、及び水とイソプロピルアルコール(50%)との混合物に可溶であった。FNCは、100%のグリセロール、イソプロピルアルコール、特に他の溶媒を加えた後のイソプロピルアルコールにも可溶であった。官能化蛍光性ナノ結晶は、分子プローブ及び標的分子と機能的に結合しており、適当な励起源によって励起した場合の蛍光強度が増大していてもよく、更に約pH6.0〜約pH10.5のpH範囲にわたって化学的な安定性を示してもよい。好ましい官能化蛍光性ナノ結晶は、好ましい官能化蛍光性ナノ結晶以外の官能化蛍光性ナノ結晶を除き、本発明の方法及びシステムによって製造し、使用することができる。
【0038】
本発明の官能化蛍光性ナノ結晶を形成するための好ましい実施形態において、コアナノ結晶は、イミダゾールを含む化合物及びアルキルホスフィンを含む化合物と機能的に結合した、金属陽イオン(例えば、半導体材料を形成するための金属陽イオンで、好ましくは高いバンドギャップエネルギーを有し、知られているように、「シェル」である)を含む化合物の共沈殿によってコーティングされており、コーティングはナノ結晶コアの外表面に均一に堆積していてもよい。これは、コアナノ結晶の成長に、亜鉛-ヒスチジンを核形成中心として用いるもの(Kho他、2000,Biochem.Biophys.Res.Commun.272:29-35参照)とは、機能的にも根本的にも異なる。この好ましい実施形態の例として、II-VI群半導体コアを、II-VI群半導体シェルでキャッピングしてもよく(例えば、ZnS又はCdSeコアを、YZ(式中、YはCd、又はZnであり、ZはS、又はSeである)からなるシェルでコーティングしてもよい))、更に、アルキルホスフィンを含む化合物で架橋されたイミダゾールを含む化合物でコーティングしてもよい。好ましくは、半導体シェル及びアルキルホスフィンを含む化合物で架橋されたイミダゾールを含む化合物のコーティングの両者は、コアナノ結晶の外表面を保護しており、蛍光強度が増大している。
【0039】
他の実施形態において、コア/シェルナノ結晶(例えば、CdXコア/YZシェル)は、通常の方法を用いて製造することができ、アルキルホスフィンを含む化合物で架橋されたイミダゾールを含む化合物が機能的に結合した金属イオン(好ましくは、ZnS等の、高いバンドギャップエネルギーを有する半導体を形成できる)でコーティングされている。コーティングは、コア/シェルナノ結晶の外表面に均一に堆積している。
【0040】
他の実施形態において、蛍光性ナノ結晶は、アルキルホスフィンを含む化合物で架橋されたイミダゾールを含む化合物を含む材料でコーティングされており、本発明の官能化蛍光性ナノ結晶を形成する。官能化蛍光性ナノ結晶組成物は、光又は他の励起源で励起されると、コーティングされていない蛍光性ナノ結晶の約10倍以上の効率で発光することができる。
【0041】
更に他の実施形態において、蛍光性ナノ結晶は、イミダゾールを含む化合物及びアルキルホスフィンを含む化合物でコーティングされていてもよい。
【0042】
他の実施形態において、本発明の官能化蛍光性ナノ結晶は、イミダゾールを含む化合物及びアルキルホスフィンを含む化合物を含むコーティング材料の化学的又は物理的な架橋を更に含み、官能化蛍光性ナノ結晶のコーティングを更に安定化させる。化学的な架橋は、公知の方法及び試薬を用いて達成することができ、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、アクロレイン、1,6-ヘキサン-ビス-ビニルスルホン、プトレシン、アルキルジアミン、並びに他の有機トリアミン及びポリアミンが含まれるがこれらに限定されない。物理的な架橋及び/又は硬化も、公知の方法を用いて達成することができ、紫外線照射、マイクロ波処理、熱処理、及び放射線照射が含まれるが、これらに限定されない。
【0043】
本発明の官能化蛍光性ナノ結晶の評価に好適な励起源としては、多色性の紫外及び可視ランプ、ほぼ単色の光源、偏光、33P、125I、及び3H等を含むがこれらに限定されないβ線源等が挙げられるが、これらに限定されない。光源としては、低圧、中圧、及び高圧ランプ、並びにレーザーが挙げられる。電流及びナノ結晶への電子衝撃も、励起に用いることができる。好適な検出法としては、目視による検出、フォトダイオード、光電子増倍管、熱検出器、電荷結合素子検出器(CCD)が挙げられるが、これらに限定されず、偏光フィルターの使用を含んでいてもよい。通常、特定のナノ結晶は、中心ピークがナノ結晶の発光波長よりも30nm以上短波長であれば、任意の波長で励起することができる。例えば、700nmに発光波長を有するナノ結晶は、約650nm以下の光源によって励起することができる。本発明の結晶は、200〜700の範囲、好ましくは350〜490nmの範囲の波長で励起することができる。
【0044】
本発明の実施形態に係る方法及び材料を用いて製造された官能化蛍光性ナノ結晶は、高い発光効率又は量子収率を特徴とする。例えば、イミダゾールを含む化合物又は非局在化された電子を含むリガンドを有し、ナノ結晶に機能的に結合した蛍光性ナノ結晶は、光源によって励起することができ、蛍光からの光子数を測定し、錯体の量子収率を測定することができる。或いは、コーティングされた蛍光性ナノ結晶は、当業者に公知である陰極又は陽極と結合され、注入された電荷による発光出力は、官能化蛍光性ナノ結晶の発光効率の評価のために用いられるイミダゾールを含む化合物、ホスフィン架橋剤、架橋剤の量及びタイプ、又は他の因子を調整することにより、コーティングされた結晶の発光特性を変化させることができる。
【0045】
コーティングの有効量は、コーティング分子の立体的相互作用(サイズ、分子間結合、架橋、標的分子への操作可能な結合により決定される)及び蛍光性ナノ結晶との電子的相互作用により、官能化蛍光性ナノ結晶の、光励起による量子収率が、10%、好ましくは50%を上回るようなコーティングの量である。
【0046】
本発明の実施形態により、蛍光を用いた種々の検出系に応用が可能な官能化蛍光性ナノ結晶が提供される。例えば、検出可能なシグナルを生成し十分に増幅する3次元デンドリマー(それによって、同位体を用いない検出系の感度を大幅に増大させることができる。米国特許第6,261,779号明細書参照)が挙げられるが、これに限定されない。他の例は、本発明の蛍光性ナノ結晶を、米国特許第6,761,877号明細書に記載のリポソーム中で用いることである。他の例は、本発明の官能化蛍光性ナノ結晶を核酸塩基の標識に用いて、核酸分子鎖の合成又は核酸配列の決定に用いることである(米国特許第6,221,602号明細書参照)。他の例は、米国特許第6,548,171号明細書に記載の方法により、本発明の官能化蛍光性ナノ結晶を、ミクロスフェアに官能化蛍光性ナノ結晶を埋め込むことにより、及び/又は機能的に結合させることにより蛍光性ミクロスフェア(ビーズ等)を製造することである。他の例は、本発明の官能化蛍光性ナノ結晶を、米国特許第6,576,155号明細書、及び米国特許出願公開第2004-0203170号A1明細書に詳述された方法及び材料を用いて、基材への印刷に好適な蛍光性インクに用いることである。この例では、官能化蛍光性ナノ結晶インク組成物は、基材上の識別コードパターンに用いられ、識別、認証、保安、又は装飾のために好適に励起される。
【0047】
当業者には自明であるように、本発明の官能化蛍光性ナノ結晶は、親和性アッセイ(例えばELISAのようなイムノアッセイ)、蛍光染色(例えば、ガラススライド上の免疫蛍光染色、蛍光インシトゥハイブリダイゼーション)、フローサイトメトリ、細胞イメージング系検出アッセイ(例えば、細胞系ELISA又は「cELISA」、画像血球計算法、である標準の高密度マイクロアレイ中での細胞成長)、マイクロアレイ系検出アッセイ(例えば、オリゴヌクレオチド走査アレイ、コンビナトリアルDNAアレイ、核酸分子又はタンパク質分子のアレイを含むマイクロチップ、多チャネルマイクロチップ電気泳動など)、マイクロ流体系検出アッセイ(例えば、公知の「実験室チップ」システム)、蛍光系バイオセンサ(例えばTrends in Biotech. 16:135-140, 1999参照)、核酸配列決定、核酸ハイブリダイゼーション、核の酸性の合成又は変成、発光ダイオードの製造、端末識別検査(例えば身分証明書又はバンクカード)、蛍光ビーズ系検出アッセイ、分子ソーティング(例えば、フローサイトメトリによる細胞選別)などを含むがこれらに限定されない1又は複数の検出系に用いることができる。
【0048】
本発明の局面は、官能化蛍光性ナノ結晶組成物、及びこれらの組成物を製造する方法を提供する。組成物は、少なくとも1種類の材料でコーティングされた蛍光性ナノ結晶である。コーティング材料は、コーティングされた蛍光性ナノ結晶に、水溶液中での高い発光効率及び溶解性を付与するための、共役電子を含む官能基若しくは残基を有する化合物又はリガンドを有している。コーティング材料は、水溶性で、化学的に安定で、発光により、10%、好ましくは50%を上回る量子収率で発光する官能化蛍光性ナノ結晶組成物にもたらされる。コーティング材料は、標的分子及び細胞に結合するための残基並びにコーティングを架橋するための残基を有する化合物又はリガンドを含んでいてもよい。キャッピング層を形成するために好適な試薬の存在下で、コーティング中の化合物は、蛍光性ナノ結晶上に、機能的に結合したコーティング材料を有するキャッピング層を形成してもよい。
【0049】
本発明は、官能基化され、安定であり、同位体を用いない検出系に用いるための蛍光性ナノ結晶を含む組成物及びその製造方法を提供する。官能化蛍光性ナノ結晶は、コーティングされた蛍光性ナノ結晶に、水溶液中への溶解性を付与する官能基又は残基を有するヘテロ芳香族化合物又はリガンドでコーティングされていてもよい。コーティング材料は、水溶性で、化学的に安定で、光励起により、10%、好ましくは50%を上回る量子収率で発光する官能化蛍光性ナノ結晶組成物にもたらされる。蛍光性ナノ結晶をコーティングする材料を構成するリガンドに応じて、本発明の官能化蛍光性ナノ結晶は、例えば、水、水とイソプロピルアルコールとの混合物、又は表面張力が約80ダイン/cm未満、好ましくは30〜72ダイン/cmの範囲内である他の液体に可溶であってもよい。コーティング材料は、標的分子及び細胞に結合するための残基並びにコーティングを架橋するための残基を有するイソシアネート、シアノアクリル酸アルキル、又はアルキルホスフィン等の化合物又はリガンドを含んでいてもよい。例えば、ZnSO4及びNa2S等の、しかしこれらに限定されない適当な試薬の存在下で、コーティング中の化合物は、蛍光性ナノ結晶の表面に、化合物がキャッピング層に機能的に結合したキャッピング層を形成することができる。
【0050】
本発明の局面は、官能基化され、安定であり、同位体を用いない検出系に用いるための蛍光性ナノ結晶を含む組成物及びその製造方法を提供する。蛍光性ナノ結晶組成物は、アルキルホスフィンを含む化合物で架橋されたイミダゾールを含む化合物によってコーティングされ、無機半導体キャッピング層と錯形成(付加体の形成等)した、コア蛍光性ナノ結晶である。
【0051】
本発明のコーティング材料は、コアナノ結晶の蛍光強度を数倍に増大させる。この増大の例を、コーティング材料を有するナノ結晶の発光強度を、メルカプト基によって官能化ナノ結晶と比較した図2A及び図2Bに示す。図3A及び図3Bでは、コーティング材料を有するナノ結晶の発光強度を、FITCと比較している。更に、本発明の官能化蛍光性ナノ結晶は、種々のpH範囲内で水溶媒に非常に溶けやすく、安定である。
【0052】
本明細書に記載の官能化ナノ結晶は、他の公知の半導体ナノ結晶組成物に比べて、予想外な蛍光強度の増大を示す。イミダゾールとナノ結晶との間の単位内でのエネルギー移動が、蛍光強度の増大に主要な役割を果たしているかもしれない。他の機構も、このような蛍光強度の増大の原因となっているかもしれず、それらには、本質的に、中間帯及び中間状態の消去、保護、電荷の転位、高いバンドエネルギー濃縮及び共鳴、シェル半導体のバンドギャップの変化、又はそれらの組み合わせが含まれるが、これらに限定されない。保護の概念については、上述したとおりである。保護効果は、イミダゾールとの錯形成による表面のCd又はZn等の原子のキャッピング及びアルキルホスフィンを含む化合物との錯形成による対原子(Se又はS等)のキャッピングによる。電荷の転位に関しては、コーティング中に存在するイミダゾール及びアルキルホスフィン残基が、適当な励起源による励起を受けやすいのかもしれない。そのような励起により、イミダゾール及び/又はアルキルホスフィン残基からナノ結晶構造への電荷移動が起こり、そのような内部電荷移動がない場合に比べて蛍光強度が増大するのかもしれない(隣接するナノ結晶間のみに限定されたエネルギーの移動に対し、内部電荷移動とは、ほぼ、イミダゾール及び/又はアルキルホスフィンをその一部とする、コーティングされたナノ結晶構造の内部での移動よりなるエネルギーの移動を意味する)。エネルギー濃縮と蛍光に関しては、イミダゾール及びアルキルホスフィン残基のπ電子と、コア結晶の高いエネルギーバンドを占める励起電子とが統合して、放射性の緩和を伴う電子-ホール結合がより高レベルで起こるエネルギー濃縮効果をもたらすと考えられる。有機又は無機分子による半導体表面の化学修飾により、半導体のバンド端は、正側にも負側にも変化させることができる(JECS 142,2625(1995))。よりバンドギャップエネルギーの高い材料や、有機保護剤(TOPO等)による強力なキャッピング及び保護によって、コア半導体ナノ結晶の蛍光強度は顕著に増大しないことより、エネルギー濃縮、エネルギー移動及び中間状態及び中間バンド励起子状態の消失が、蛍光強度の増大の根底にある主要な因子であると考えられる。本発明の官能化蛍光性ナノ結晶は、官能基化されて水溶性となり、分子プローブが機能的に結合することができる1又は複数の官能基を含む。本発明の官能化蛍光性ナノ結晶の全構造は、本発明で用いられているコーティング材料が、ホールブロック層及び電子移動層としての役割を果たしている小型の発光ダイオード(LED)に非常に類似している。
【0053】
発光は、任意の物質からの光の放出であり、電子的に励起された状態から起こる。発光は、励起状態の性質により、蛍光及び燐光の2つのカテゴリーに分類される。励起された電子の基底状態への復帰がスピン許容である場合、復帰が速く、この過程は蛍光と呼ばれる(通常、10ナノ秒程度のプロセスである)。電子の基底状態への復帰がスピン禁制であり、より長い時間を要する(100nsを上回る)場合、放出される光は燐光と呼ばれる。「発光効率」とは、β線源、光、注入された電荷キャリア、及び電流等の任意のエネルギー源を用いて励起された特定の量のナノ結晶から生成することができる(例えば、カンデラ単位で表される)光の量を意味する。「量子収率」又は「効率」という用語は、この場合、ある量のエネルギーを光子として供給した場合におけるエネルギーの回収率を表しているので異なっており、一方、「発光効率」は、供給されたエネルギーとは無関係にナノ結晶(又は光源)の全能力を表しているので異なっている。本発明の実施形態の実施において、量子収率及び発光効率のいずれか一方又は双方は、本発明のコーティング材料組成物によって増大する。
【0054】
本発明の他の実施形態において、官能化蛍光性ナノ結晶のリガンドは、ナノ結晶の表面に結合することにより蛍光効率(量子収率)を増大させることができる。本発明の他の実施形態において、官能化蛍光性ナノ結晶のリガンドは、以下のメカニズム、内部エネルギー移動(アンテナ効果)、エネルギー濃縮、中間状態及び中間バンド励起子状態の消失、及び表面保護の内1又は複数のメカニズムによって、蛍光効率を増大させることができる。
【0055】
蛍光性ナノ結晶のコーティング材料は、種々の架橋剤によって架橋されていてもよい。架橋剤の1つの種類は、アルキルホスフィン化合物である。アルキルホスフィン化合物は、1つ、2つ、3つ、4つ、又はそれ以上のホスフィン基を含んでいてもよい。多価ホスフィン化合物は、分離したホスフィン基を有していてもよく、結合して多量体を形成しているホスフィン基を有していてもよい。現在好ましいアルキルホスフィン化合物は、トリス(ヒドロキシメチル)ホスフィン、及びβ-[トリス(ヒドロキシメチル)ホスフィノ]プロピオン酸である。
【0056】
蛍光性ナノ結晶は、イミダゾールを含む化合物又はイミダゾールを含まない化合物でコーティングされていてもよい。コーティング化合物は、電子リッチなヘテロ芳香族構造を含んでいてもよい。例としては、チアゾール、チアゾール誘導体、オキサゾール、オキサゾール誘導体、ピロール、ドーピングされ又はされていないポリピロールオリゴマーを含むピロール誘導体、チオフェン、ドーピングされ又はされていないポリチオフェンを含むチオフェン誘導体、フラン、フラン誘導体、ピリジン、ピリジン誘導体、ピリミジン、ピリミジン誘導体、ピラジン、ピラジン誘導体、トリアジン、トリアジン誘導体、トリアゾール、トリアゾール誘導体、フタロシアニン、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン及びポルフィリン誘導体が挙げられる。これらの化合物は、不飽和(オレフィン系)炭化水素、又はそのアミン、リン、酸素誘導体であってもよく、アセチレン、プロピン、及びアレン等が含まれるが、それらに限定されない。
【0057】
蛍光性ナノ結晶は、共役ポリマーでコーティングされていてもよい。共役ポリマーの例としては、有機半導体、ポリアニリン(PAn)、ポリ(N-ビニルカルバゾール)(PVCZ)、ポリアセチレン、及びポリピロール等の非局在化した電子を有するポリマーが挙げられる。
【0058】
官能化蛍光性ナノ結晶は、放出される光の量子収率を特徴とする。例えば、量子収率は、約10%より大きく、約20%より大きく、約30%より大きく、約40%より大きく、約50%より大きく、約60%より大きく、約70%より大きく、約80%より大きく、約90%より大きく、理想的には約100%、これらの二つの値の間の範囲であってよい。
【0059】
官能化蛍光性ナノ結晶は、1又は複数の他の材料と結合していてもよい。かかる材料の例としては、生体分子、ポリヌクレオチド、タンパク質、ペプチド、抗体、脂質、ビオチン、アビジン、ConA、レクチン、又はIgGが挙げられる。
【0060】
本発明の更なる実施形態は、上述の官能化蛍光性ナノ結晶の製造方法を目的とする。方法は、蛍光性ナノ結晶を準備し、蛍光性ナノ結晶を、電子リッチなヘテロ芳香族構造を有するコーティング材料と接触させ、官能化蛍光性ナノ結晶を製造することを含む。方法は、接触工程の後でコーティング材料を架橋することを更に含んでいてもよい。蛍光性ナノ結晶、及びコーティング材料は、上述のナノ結晶及びコーティング材料のうち任意のものであってよい。
【0061】
本発明の更なる実施形態は、標的種を検出する方法を目的とする。方法は、標的種を含むと思われるサンプルを準備し、標的種と少なくとも1種類の官能化蛍光性ナノ結晶とを接触させて錯体を形成し、錯体を励起し、錯体から放出される照射を検出することを含み、官能化蛍光性ナノ結晶は、蛍光性ナノ結晶と、電子リッチなヘテロ芳香族構造を有するコーティング材料とを含む。官能化蛍光性ナノ結晶は、上述のナノ結晶のうち任意のものであってよい。サンプルは生体サンプルであってもよく、非生体サンプルであってもよい。サンプルの例としては、水サンプル、血液、尿、唾液、組織、細胞溶解物等が挙げられる。
【0062】
本発明の更なる実施形態は、物質を分離する方法を目的とする。方法は、流体と、官能化蛍光性ナノ結晶は、ドープされた金属酸化物蛍光性ナノ結晶と電子リッチなヘテロ芳香族構造を有するコーティング材料とからなる少なくとも1種類の官能化蛍光性ナノ結晶との混合物を準備し、磁気モーメントを持つように官能化蛍光性ナノ結晶を励起し、混合物を磁場に曝露して、官能化蛍光性ナノ結晶を分離することを含む。ドープされた金属酸化物蛍光性ナノ結晶は、官能化蛍光性ナノ結晶に機能的に結合したアフィニティ分子を更に含んでいてもよい。アフィニティ分子の例としては、抗体、タンパク質、ペプチド、抗体、抗体フラグメント、及び核酸が挙げられる。
【0063】
以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態を示すために記載されている。本実施例において開示された下記の手法が、本発明の実施において有効であることが本発明者らによって発見された手法を説明するものであり、したがって、実施をする上で好ましい形態を構成すると考えられることは、当業者によって認識されるべきである。しかし、当業者は、本開示の範囲に照らして、開示された特定の実施形態には多くの変更を加えることができ、本発明の範囲を逸脱することなく、類似の或いは同様の結果を得ることができることも認識するべきである。
【0064】
実施例
実施例1:官能化蛍光性ナノ結晶を製造するための一般的方法
本実施例は、本発明の官能化蛍光性ナノ結晶を製造する方法の実施形態を説明するためのものである。本実施例及び以下の実施例において、コアナノ結晶を含む半導体ナノ結晶は、米国特許第6,179,912号明細書に記載の連続フロー法を用いて製造することができる。セレン化カドミウム(CdSe)ナノ結晶の製造には、以下の条件を用いた:10gのTOPO、18.9μlのMe2Cd(ジメチルカドミウム、2.63×10-4モルのCd)、198.9μlのTOPSe(Seの1M TOP溶液、1.989×10-4モルのSe)、4.5mlのTOP、核形成温度(Tn)300℃、成長温度(Tg)280℃、流速0.1ml/分。得られたCdSeナノ結晶は、励起波長410nmで、波長578nmに半値幅約29nmの線幅の小さな蛍光を示した。
【0065】
官能化蛍光性ナノ結晶を製造する方法は、CdSe、ZnS、又は(CdSe)ZnS等の蛍光性ナノ結晶を、リガンド又はイミダゾールを含む化合物を含む溶液と接触させ、その後、アルキルホスフィンを含む化合物等の他のリガンドを含む溶液と接触させることを含んでいてもよい。官能化蛍光性ナノ結晶の形成において、蛍光性ナノ結晶を製造する際に、Cd2+又はZn2+等の金属イオンが、溶液中又は蛍光性ナノ結晶の表面に存在すると、リガンド又はイミダゾール基を含む化合物は、金属イオンに機能的に結合し、アルキルホスフィンを含む化合物は、対となる非金属元素(例えば、S、Se等)に機能的に結合する。
【0066】
上述した様に、本方法によりコーティングされる蛍光性ナノ結晶には、コア半導体ナノ結晶、コア/シェル半導体ナノ結晶、ドープされた金属酸化物ナノ結晶、又はそれらの組み合わせが含まれる。金属陽イオンに対して、リガンド又は他のイミダゾールを含む化合物は、Zn2+、Cu2+、Fe2+、Hg2+、Ni2+、Cd2+、Co2+の1つ又は複数を含むがそれらに限定されない金属イオンと機能的に結合することが報告されている。対となる非金属陰イオンに対して、アルキルホスフィンを含む化合物は、O、S、Se、Te、Poの1つ又は複数を含むがそれらに限定されない非金属元素と機能的に結合することが報告されている。
【0067】
例えば、コア蛍光性ナノ結晶を製造し、まず、公知の方法によりZnSの無機層でコーティングして、コア/シェル型のナノ結晶を形成し、次いで、コア/シェル型のナノ結晶を、リガンド又はイミダゾールを含む化合物を含む第2のコーティング溶液、その後、アルキルホスフィンを含む化合物を含む溶液を用いてコーティングする。官能化蛍光性ナノ結晶の形成において、蛍光性ナノ結晶上へのコーティングを製造する際に、リガンド又はイミダゾールを含む化合物は、金属陽イオン(Cd2+、Zn2+等)が存在する場合には、それに機能的に結合し、アルキルホスフィンを含む化合物は、対となる非金属元素(S、Se等)に機能的に結合する。一般的な指針として、コア/シェルナノ結晶をコーティングする工程は、蛍光性ナノ結晶1ミリグラムあたり約0.25mmol〜約2.5mmolの量のリガンド又はイミダゾールを含む化合物、約0.25mmol〜約2.5mmolの量のアルキルホスフィンを含む架橋剤、及び約0mmol〜約2.5mmolの量のポリアミンを含む成分を導入する工程を含んでいてもよい。当業者には自明であるように、個々の成分の量は、使用する特定のリガンド又はイミダゾールを含む化合物、使用されるアルキルホスフィンを含む化合物、官能基化される蛍光性ナノ結晶の性質(化学的組成等)、コーティングされる蛍光性ナノ結晶の表面の性質、コーティング工程における他の成分の比率、及びコーティング工程に用いられる緩衝溶液のpH等に応じて変化しうる。
【0068】
1つの実施形態において、コーティング工程を、コーティング工程実施中の蛍光性ナノ結晶の発光によってモニターしてもよい。時間、温度、及び試薬の濃度等の反応条件は、工程実施中の励起された官能化蛍光性ナノ結晶の発光強度に基づいて調節することができる。コーティング工程における所望の状態を示すために、発光強度に閾値を設定してもよい。例えば、コーティング工程実施中の蛍光性ナノ結晶からの発光強度が、閾値の強度に達するまでコーティング工程を続行してもよい。
【0069】
実施例2:カルノシンでコーティングされた蛍光性ナノ結晶の製造
1M CAPSO緩衝溶液(3-(シクロヘキシルアミノ)-2-プロパンスルホン酸、ナトリウム塩、pH9.6)に溶解した30mMカルノシン(イミダゾールを含む化合物)を調製した。pH8.0〜pH11の範囲内で緩衝能をもたらす他の公知の緩衝溶液(炭酸ナトリウム緩衝溶液、TAPS(N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-3-アミノプロパンスルホン酸)緩衝溶液等)を、CAPSO緩衝溶液の代わりに用いることができる。10mlのカルノシン溶液に、最小量(例えば、約60μl〜約200μl)の有機溶媒(クロロホルム又はピリジン等)に懸濁させた0.5〜3mgのCdSeナノ結晶(コアナノ結晶)を加えた。混合後、室温で約1時間インキュベートし、有機層を廃棄した。その後、水層に1.2mlの60mM THPP(β-[トリス(ヒドロキシメチル)ホスフィノ]プロピオン酸、アルキルホスフィンを含む架橋剤)を加えた。コーティング工程に影響を及ぼすために、当業者に知られているように反応温度を変化させてもよい。約1時間穏やかに混合した後、100μlの1Mプトレシン(ポリアミン)を、混合物に加え、更に1時間混合した。THPP及びプトレシンを添加するサイクルを、3〜4度繰り返した。最終的に得られた溶液を、最終濃度100mMのホルムアルデヒドで約1時間処理した。その後、官能化蛍光性ナノ結晶を精製した。好適な精製法としては、サイズ排除クロマトグラフィー、透析、遠心分離、及びそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。例えば、官能化蛍光性ナノ結晶を含む溶液を、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)等の適当な緩衝溶液中で、MCO 3000KDの透析膜を用いて透析した。
【0070】
実施例3:カルノシンでコーティングされた蛍光性ナノ結晶の評価
官能化蛍光性ナノ結晶の製造方法を、個々の成分の量を変化させながら繰り返し実施した。得られた官能化蛍光性ナノ結晶は、約pH7〜約pH9の範囲内で最適な安定性を示す約pH6〜約pH10の範囲内の水溶液中での安定性、官能化蛍光性ナノ結晶の表面における、標的分子が機能的に結合できる反応性の官能基(この場合、カルボキシル基)の存在、及び蛍光強度で特徴付けられる。用いることができるものとして、2種類の安定性の尺度がある。第1の尺度は、時間の経過に伴う、蛍光強度の初期値から閾値までの減少である。最も安定な結晶は、24時間で1%の減少を、最も不安定な結晶は24時間で25%の減少を示した。第2の安定性の尺度は、物理的な安定性であり、溶解性の変化、凝集、曇化、又は層分離を生じず、遠心分離及びろ過の繰り返しに対する安定性、及び透析や電気泳動に対する安定性を示した。これらの調合の実験より、蛍光強度及び安定性について(水環境下で幅広いpH範囲にわたり)最適な性質を示す好ましい成分の割合は、1〜2mgのコア/シェルナノ結晶(CdSe/ZnS等)、0.35mmolのカルノシン、0.15mmolのTHPP、0.15mmolのプトレシン、及び1mmolのホルムアルデヒドを含むものである。
【0071】
これらの官能化蛍光性ナノ結晶は、公知の官能化蛍光性ナノ結晶(有機溶媒中でのCdX/YZ蛍光性ナノ結晶、又はメルカプト基でキャッピングされたCdX/YZ蛍光性ナノ結晶)(図2参照)に比べ、最低50倍〜最大1100倍以上という、予想外な蛍光強度の増大を示した(例えば、図2及び図2の挿入図参照)。コーティングされた蛍光性ナノ結晶に特徴的なスペクトル発光は、コーティング材料によって増大する。蛍光強度の比較は、同一の調製物からコア/シェルナノ結晶を用いて製造した等量の蛍光性ナノ結晶と、同一の励起光源(例えば、410nm)、及び同一の検出系を用いて検出することにより行った。
【0072】
実施例4:ヒスチジン(イミダゾール)でコーティングされた蛍光性ナノ結晶の製造
本実施例は、リガンド又はイミダゾールを含む化合物としてヒスチジンを用いて、蛍光性ナノ結晶をコーティングすることにより官能化蛍光性ナノ結晶を製造する方法を示す。一般的な指針として、コア/シェルナノ結晶をコーティングする工程は、蛍光性ナノ結晶1ミリグラムあたり約0.25mmol〜約2.5mmolの量のリガンド又はイミダゾールを含む化合物、約0.25mmol〜約2.5mmolの量のアルキルホスフィンを含む架橋剤、及び約0mmol〜約2.5mmolの量のポリアミンを含む成分を導入することを含んでいてもよい。当業者には自明であるように、個々の成分の量は、使用する特定のリガンド又はイミダゾールを含む化合物、使用されるアルキルホスフィンを含む化合物、官能基化される蛍光性ナノ結晶の性質(化学的組成等)、コーティングされる蛍光性ナノ結晶の表面の性質、コーティング工程における他の成分の比率、及びコーティング工程に用いられる緩衝溶液のpH等に応じて変化しうる。
【0073】
1M CAPSO緩衝溶液(3-(シクロヘキシルアミノ)-2-プロパンスルホン酸、ナトリウム塩、pH9.6)に溶解した30mMヒスチジン(イミダゾールを含む化合物)を調製した。他の公知の緩衝溶液を用いることもできる。10mlのヒスチジン溶液に、最小量(例えば、約60μl〜約200μl)の有機溶媒(クロロホルム又はピリジン等)に懸濁させた0.5〜3mgのCdSeナノ結晶(コアナノ結晶)を加えた。混合後、室温で約1時間インキュベートし、有機層を廃棄した。その後、水層に1.2mlの60mM THPP(β-[トリス(ヒドロキシメチル)ホスフィノ]プロピオン酸、アルキルホスフィンを含む化合物)を加えた。約1時間穏やかに混合した後、100μlの1Mプトレシン(ポリアミン)を、混合物に加え、更に1時間混合した。THPP及びプトレシンを添加するサイクルを、3〜4度繰り返した。最終的に得られた溶液を、最終濃度100mMのホルムアルデヒドで約1時間処理した。その後、官能化蛍光性ナノ結晶を、上述の方法により精製した。
【0074】
実施例5:ヒスチジン(イミダゾール)でコーティングされた蛍光性ナノ結晶の評価
官能化蛍光性ナノ結晶の製造方法を、個々の成分の量を変化させながら繰り返し実施した。得られた官能化蛍光性ナノ結晶は、約pH7〜約pH9の範囲内で最適な安定性を示す約pH6〜約pH10の範囲内の水溶液中での安定性、官能化蛍光性ナノ結晶の表面における、標的分子が機能的に結合できる反応性の官能基(この場合、カルボキシル基)の存在、及び蛍光強度で特徴付けられる。これらの調合の実験より、蛍光強度及び安定性について(水環境下で幅広いpH範囲にわたり)最適な性質を示す好ましい成分の割合は、1〜2mgのコア/シェルナノ結晶(CdSe/ZnS等)、0.35mmolのヒスチジン、0.15mmolのTHPP、0.15mmolのプトレシン、及び1mmolのホルムアルデヒドを含むものである。
【0075】
これらの官能化蛍光性ナノ結晶は、公知の官能化蛍光性ナノ結晶(有機溶媒中でのCdX/YZ蛍光性ナノ結晶、又はメルカプト基でキャッピングされたCdX/YZ蛍光性ナノ結晶)に比べ、最低50倍〜最大1100倍以上という、予想外な蛍光強度の増大を示した。蛍光強度の比較は、上述の方法により行った。
【0076】
実施例6:グリシルヒスチジンでコーティングされた蛍光性ナノ結晶の製造
1M Na2CO3緩衝溶液、pH10.0に溶解した、250mMのグリシルヒスチジン(イミダゾールを含む化合物)を調製した。他の適当な緩衝溶液を用いることもできる。2mlのグリシルヒスチジン溶液に、最小量(例えば、約60μl〜約200μl)の有機溶媒(クロロホルム又はピリジン等)に懸濁させた0.5〜3mgのCdSe/ZnSナノ結晶(コア/シェルナノ結晶)を加えた。混合後、室温で約1時間インキュベートし、有機層を廃棄し、4〜8mlの蒸留水を加えた。官能化蛍光性ナノ結晶を含む溶液を、蒸留水中で、分子量カットオフ(MCO)10kDの半透膜を用いて透析した。透析を70分間行うと、グリシルヒスチジンが自己集合し、過剰のグリシルヒスチジン及び緩衝物質が除去された。透析後、7〜9.5の範囲内となるようpHを調節し、最終濃度が10%(v/v)となるようグリセロールを加えた。溶液に4mMのTHP(トリス(ヒドロキシメチル)ホスフィノ、アルキルホスフィンを含む架橋剤)を加えた。15時間穏やかに混合した後、5mMのTHPを加え、更に15時間混合した。官能化蛍光性ナノ結晶は、MCOが10kDのメンブレンフィルターを用いた接線ろ過により精製した。
【0077】
得られたナノ結晶の発光及び励起スペクトルを、メルカプト基で官能基化されたナノ結晶との比較と共に図4及び図5に示す。本実施例のナノ結晶は、メルカプト基で官能基化されたナノ結晶よりも明らかに優れた効率を有していた。
【0078】
実施例7:ピロールでコーティングされた蛍光性ナノ結晶の製造
本実施例は、イミダゾールに類似する化合物の例としてピロールを含む化合物を含む、官能化蛍光性ナノ結晶組成物及びその製造方法を示す。
【0079】
1M Na2CO3緩衝溶液、pH10.0に溶解した、100mMのコプロポルフィリンI二塩酸塩(イミダゾールに類似するピロールを含む化合物)を調製した。他の適当な緩衝溶液を用いることもできる。2mlのコプロポルフィリンI二塩酸塩溶液に、最小量(例えば、約60μl〜約200μl)の有機溶媒(クロロホルム又はピリジン等)に懸濁させた0.5〜3mgのCdSe/ZnSナノ結晶(コア/シェルナノ結晶)を加えた。混合後、室温で約1時間インキュベートし、有機層を廃棄し、4〜8mlの蒸留水を加えた。得られた溶液を、蒸留水中で、分子量カットオフ(MCO)10kDの半透膜を用いて透析した。透析を70分間行うと、コプロポルフィリンI分子が自己集合し、過剰のコプロポルフィリンI分子及び他の緩衝物質が除去された。透析後、6〜8の範囲内となるようpHを調節し、最終濃度が10%(v/v)となるようグリセロールを加えた。溶液に1mMのプトレシン(ジアミン架橋剤)及び2mMのEDC(1-エチル-3[3-ジメチル-アミノプロピル]カルボジイミド)を加えた。得られた溶液を室温で30分間撹拌した。溶液に4mMのTHP(トリス(ヒドロキシメチル)ホスフィノ、アルキルホスフィンを含む架橋剤)を加えた。15時間穏やかに混合した後、5mMのTHPを加え、更に15時間混合した。官能化蛍光性ナノ結晶は、MCOが10kDのメンブレンフィルターを用いた接線ろ過により精製した。
【0080】
実施例8:混合コーティングを有する蛍光性ナノ結晶の製造
1M Na2CO3緩衝溶液、pH11.0に溶解した、200mMのヒスチジルロイシン及び100mMのグリシルヒスチジン(イミダゾールを含む化合物)を調製した。他の適当な緩衝溶液を用いることもできる。3mlのヒスチジルロイシン/グリシルヒスチジン溶液に、最小量(例えば、約60μl〜約1000μl)の有機溶媒(クロロホルム又はピリジン等)に懸濁させた0.5〜5mgのCdSe/ZnSナノ結晶(コア/シェルナノ結晶)を加えた。混合物に、13mlのクロロホルムを加えた。混合後、室温で約1時間インキュベートし、有機層を廃棄し、8〜13mlの蒸留水を加えた。得られた溶液を、蒸留水中で、分子量カットオフ(MCO)10kDの半透膜を用いて透析した。透析を70分間行うと、ヒスチジルロイシン/グリシルヒスチジンが自己集合ヒスチジルロイシン/グリシルヒスチジン及び緩衝物質が除去された。透析後、7〜9.5の範囲内となるようpHを調節し、最終濃度が10%(v/v)となるようグリセロールを加えた。溶液に1mMのTHP(トリス(ヒドロキシメチル)ホスフィノ、アルキルホスフィンを含む架橋剤)を加えた。2時間穏やかに混合した後、300μMの表面スペーサーアーム(6-アミノカプロン酸、又はNH2-PEG3400-COOH等)を加えた。2時間穏やかに混合した後、3mMのTHPを加え、15時間混合した。その後更に5mMのTHPを加え、更に15時間混合した。最終溶液に、30mMのエタノールアミンを加え、残ったTHP反応性基をクエンチし、粒子の表面に、蛍光性ナノ結晶の性能を更に改善するヒドロキシエチル基をグラフトした。官能化蛍光性ナノ結晶は、MCOが10kDのメンブレンフィルターを用いた接線ろ過により精製した。
【0081】
本明細書で開示され、特許請求の範囲に記載された全ての組成物及び/又は方法は、本開示に照らして、過度の実験を行うことなく製造し、実行することができる。本発明の組成物及び方法は、好ましい実施形態に関して説明されているが、本明細書に記載の組成物及び/又は方法並びに工程及び工程の順序には、本発明の主題及び範囲を逸脱することなく変更を加えることができることは、当業者にとって明白である。より具体的には、化学的に及び生物学的に関連するある試薬を、本明細書に記載の試薬の代わりに用いてもよく、それによって同一の或いは同様の結果が得られることは明白である。このような同様の置換及び改変は、当業者にとって明白であり、本発明の範囲及び主題に含まれるとみなされる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】図1Aは、新規なコーティング系及びその形成方法を示す概略説明図である。THPPとは(OHCH2)3PCH2CH2CO2Hであり、プトレシンとはH2N(CH2)4NH2であり、カモシンとはAla-Hisである。図1Bは、本発明のコーティング過程における、予想されるエネルギー変化のダイアグラムである。
【図2】図2Aは、本発明の官能化蛍光性ナノ結晶の発光ピークを示すグラフである。図2Bは、メルカプト基によって官能化ナノ結晶の発光ピークを示すグラフである。図2Aにおける発光ピークは、図2Bにおける発光ピークより600倍を超える強度である。
【図3】図3Aおよび図3Bは、フルオレセインイソシアネート(FITC)及び本発明の1つの実施形態に係る官能化蛍光性ナノ結晶の、紫外及び蛍光スペクトル並びに量子収率の比較である。官能化ナノ結晶の量子収率(QY)は、ホウ酸ナトリウム緩衝溶液(50mM、pH9.0)中で、下記の式を用いて、FITC(QY=0.75〜0.95)に対する相対値として求めた。QYNC=QYFITC(INC/IFITC)(AFITC/ANC)(n/n')2。式中、INC及びIFITCは、それぞれナノ結晶及びFITCの積分蛍光強度を表し、ANC及びAFITCは、それぞれナノ結晶及びFITCの励起波長における紫外吸収極大を表し、n及びn'は、溶媒(両試料共にホウ酸ナトリウム)の屈折率を表す。上記の式によると、QYNC=0.73〜1である。
【図4】Gly-His官能基又はメルカプト基を有する官能基によって官能基化された蛍光性ナノ結晶の発光スペクトルである。
【図5】Gly-His官能基又はメルカプト基を有する官能基によって官能基化された蛍光性ナノ結晶の励起スペクトルである。
【図1A】

【図1B】

【図2A】

【図2B】

【図3A】

【図3B】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光性ナノ結晶と、電子リッチなヘテロ芳香環構造を含むコーティング材料とを含む官能化蛍光性ナノ結晶。
【請求項2】
蛍光性ナノ結晶が、コア及びシェルを含む、請求項1記載の官能化蛍光性ナノ結晶。
【請求項3】
蛍光性ナノ結晶が、CdS、CdSe、又はCdTeコアを含む、請求項1記載の官能化蛍光性ナノ結晶。
【請求項4】
蛍光性ナノ結晶が、コアと、ZnS、ZnSe、CdS、又はCdSeシェルとを含む、請求項1記載の官能化蛍光性ナノ結晶。
【請求項5】
蛍光性ナノ結晶が、CdS又はCdSeコアと、ZnS又はZnSeシェルとを含む、請求項1記載の官能化蛍光性ナノ結晶。
【請求項6】
蛍光性ナノ結晶が、CdSeコアと、ZnSシェルとを含む、請求項1記載の官能化蛍光性ナノ結晶。
【請求項7】
蛍光性ナノ結晶が、ドープされた金属酸化物ナノ結晶である、請求項1記載の官能化蛍光性ナノ結晶。
【請求項8】
コーティング材料が、ヒスチジン、カルノシン、アンセリン、バレイン、ホモカルノシン、ヒスチジルフェニルアラニン、サイクロ-ヒスチジルフェニルアラニン、5-アミノ-4-イミダゾールカルボキシアミド、ヒスチジルロイシン、2-メルカプトイミダゾール、boc-ヒスチジンヒドラジド、ヒスチジノール、1-メチルヒスチジン、3-メチルヒスチジン、イミダゾリシン、イミダゾール含有オルニチン、5-メチルイミダゾロン、イミダゾール含有アラニン、β-(2-イミダゾリル)-L(α)アラニン、カルシニン、ヒスタミン、又はグリシルヒスチジンである、請求項1記載の官能化蛍光性ナノ結晶。
【請求項9】
コーティング材料が、グリシルヒスチジンである、請求項1記載の官能化蛍光性ナノ結晶。
【請求項10】
コーティング材料が、カルノシンである、請求項1記載の官能化蛍光性ナノ結晶。
【請求項11】
コーティング材料が、チアゾール、チアゾール誘導体、オキサゾール、オキサゾール誘導体、ピロール、ピロール誘導体、ドープされたポリ-ピロールオリゴマー、ドープされていないポリ-ピロールオリゴマー、チオフェン、チオフェン誘導体、ドープされたポリチオフェン、ドープされていないポリチオフェン、フラン、フラン誘導体、ピリジン、ピリジン誘導体、ピリミジン、ピリミジン誘導体、ピラジン、ピラジン誘導体、トリアジン、トリアジン誘導体、トリアゾール、トリアゾール誘導体、フタロシアニン、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン、及びポルフィリン誘導体である、請求項1記載の官能化蛍光性ナノ結晶。
【請求項12】
コーティング材料が、共役ポリマーである、請求項1記載の官能化蛍光性ナノ結晶。
【請求項13】
コーティング材料が、ポリアニリン(pAn)、ポリ(N-ビニルカルバゾール)(PVCZ)、ポリアセテート、又はポリピロールである、請求項1記載の官能化蛍光性ナノ結晶。
【請求項14】
発光による量子収率が約10%より大きいことを特徴とする、請求項1記載の官能化蛍光性ナノ結晶。
【請求項15】
発光による量子収率が約30%より大きいことを特徴とする、請求項1記載の官能化蛍光性ナノ結晶。
【請求項16】
発光による量子収率が約50%より大きいことを特徴とする、請求項1記載の官能化蛍光性ナノ結晶。
【請求項17】
発光による量子収率が約70%より大きいことを特徴とする、請求項1記載の官能化蛍光性ナノ結晶。
【請求項18】
35ダイン/cmより大きい表面エネルギーを有する液体に可溶であることを特徴とする、請求項1記載の官能化蛍光性ナノ結晶。
【請求項19】
水溶液に可溶であることを特徴とする、請求項1記載の官能化蛍光性ナノ結晶。
【請求項20】
コーティング材料に結合されたポリヌクレオチドを更に含む、請求項1記載の官能化蛍光性ナノ結晶。
【請求項21】
コーティング材料に共有結合されたポリヌクレオチドを更に含む、請求項1記載の官能化蛍光性ナノ結晶。
【請求項22】
コーティング材料に結合された生体分子を更に含み、生体分子が、ビオチン、アビジン、ConA、レクチン、又はIgGである、請求項1記載の官能化蛍光性ナノ結晶。
【請求項23】
コーティング材料に結合されたアビジンを更に含む、請求項1記載の官能化蛍光性ナノ結晶。
【請求項24】
コーティング材料が、トリス(ヒドロキシメチル)ホスフィン又はβ-(トリス(ヒドロキシメチル)ホスフィノ)プロピオン酸で架橋されている、請求項1記載の官能化蛍光性ナノ結晶。
【請求項25】
蛍光性ナノ結晶と、ピロール含有化合物を含むコーティング材料とを含む官能化蛍光性ナノ結晶。
【請求項26】
ピロール含有化合物が、ポルフィリン又はコプロポルフィリンI二塩酸塩である、請求項25記載の官能化蛍光性ナノ結晶。
【請求項27】
蛍光性ナノ結晶を提供する段階、及び
蛍光性ナノ結晶を、電子リッチなヘテロ芳香族構造を含むコーティング材料と接触させ、官能化蛍光性ナノ結晶を調製する段階、
を含む、官能化蛍光性ナノ結晶を調製する方法。
【請求項28】
蛍光性ナノ結晶が、CdSeコアと、ZnSシェルとを含む、請求項27記載の方法。
【請求項29】
蛍光性ナノ結晶が、ドープされた金属酸化物ナノ結晶である、請求項27記載の方法。
【請求項30】
標的種を検出する方法であって、
標的種を含むことが疑われる試料を提供する段階、
標的種及び少なくとも1つの官能化蛍光性ナノ結晶を接触させて錯体を形成する段階、
錯体を励起させる段階、及び
錯体から放出される照射を検出する段階
を含み、官能化蛍光性ナノ結晶が、蛍光性ナノ結晶と、電子リッチなヘテロ芳香族構造を含むコーティング材料とを含む方法。
【請求項31】
検出段階が、垂直及び平行方向において、錯体から放出される照射の強度を検出する段階を更に含む、請求項30記載の方法。
【請求項32】
流体及び少なくとも1つの官能化蛍光性ナノ結晶の混合物を提供する段階であって、官能化蛍光性ナノ結晶が、ドープされた金属酸化物蛍光ナノ結晶と、電子リッチなヘテロ芳香族構造を含むコーティング材料とを含む、段階、
官能化蛍光性ナノ結晶を、磁気モーメントを有するように励起させる段階、ならびに
混合物を磁場に曝露して官能化蛍光性ナノ結晶を分離する段階
を含む、材料を分離する方法。
【請求項33】
ドープされた金属酸化物蛍光ナノ結晶が、官能化蛍光性ナノ結晶に機能的に結合したアフィニティ分子を更に含む、請求項32記載の方法。
【請求項34】
ドープされた金属酸化物蛍光ナノ結晶が、官能化蛍光性ナノ結晶に機能的に結合したアフィニティ分子を更に含み、
アフィニティ分子が、抗体、タンパク質、ペプチド、抗体、抗体フラグメント、又は核酸である、請求項32記載の方法。

【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2008−519108(P2008−519108A)
【公表日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−539290(P2007−539290)
【出願日】平成17年10月28日(2005.10.28)
【国際出願番号】PCT/US2005/039434
【国際公開番号】WO2007/001438
【国際公開日】平成19年1月4日(2007.1.4)
【出願人】(504406829)モレキュラー プローブス, インコーポレイテッド (4)
【Fターム(参考)】