説明

官能化重合体

【課題】タイヤトレッドの転動時のヒステリシス及び発熱性の低減のための官能性重合体を提供する。
【解決手段】官能化重合体は、重合体鎖と、一つ以上のウレタン基を含有する官能性を介して該重合体鎖に結合した末端基とを含む。上記官能化重合体は、求核試薬を末端イソ(チオ)シアネート官能性を有する重合体と反応させることによって提供でき、該末端イソ(チオ)シアネート官能性を有する重合体は、順に、活性末端重合体をポリイソ(チオ)シアネートで反応させる。かなりの量のスチレン単量体単位を含有する重合体でさえも、上述の方法に用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
タイヤトレッド等のゴム製品は、例えば、粒状カーボンブラック及びシリカ等の一種以上の補強材を含有するエラストマー組成物から作製されることが多い。例えば、「バンダービルトラバーハンドブック(The Vanderbilt Rubber Handbook)」第13版、1990年、pp.603-04を参照されたい。
【0002】
タイヤトレッドにおいては、優れた牽引力及び耐摩耗性が第一の考慮すべき事項であるが、自動車の燃料効率の関係は、タイヤ転動時のヒステリシス及び発熱性の低減と相関する転がり抵抗の最小化について主張する。それらの考慮すべき事項は、非常に競合し、いくらか相反しており、優れた路上牽引力を与えるために設計された組成物から作製されるトレッドは、通常、増大した転がり抵抗を示し、またその逆の場合も同様である。
【0003】
典型的には、それらの特性の許容できる妥協又はバランスを提供するため、一つ又は複数の充填剤、一つ又は複数の重合体及び複数の添加剤が選択される。一つ又は複数のエラストマー材料中に亘って、一つ又は複数の補強充填剤を上手く分散させることを確保することは、加工性を高め、そして、物理的特性を改良するために作用する。充填剤の分散は、一つ又は複数のエラストマーと充填剤の相互作用を増大させることにより、改善することができる。このタイプの試みの例としては、選択的反応性促進剤の存在下での高温混合、配合材料の表面酸化、表面グラフト化、及び重合体、典型的にはその末端への化学修飾が挙げられる。
【0004】
種々のエラストマー材料は、例えば、タイヤ部品等の加硫ゴムの製造にしばしば使用される。天然ゴムに加えて、最も一般的に使用されるものの中には、しばしば触媒を用いる方法により作製される高シスポリブタジエンや、しばしばアニオン開始剤を用いる方法により作製される実質的にランダムなスチレン/ブタジエン共重合体が含まれる。高シスポリブタジエンに組み込むことができる官能性は、しばしば、アニオンで開始したスチレン/ブタジエン共重合体に組み込むことができず、またその逆の場合も同様である。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0005】
一の態様においては、一般式:π−Q−Jm[式中、πは重合体鎖(典型的にはジエン単量体単位が含まれる)であり、Jは少なくとも一つのヘテロ原子を含む官能基であり、mは1〜3を含む整数であり、Qは一般式:−C(Z)NH−R−[NHC(Z)]m−(式中、各Zは独立して酸素原子又は硫黄原子であり、Rは置換又は非置換の芳香族ヒドロカルビレン基又はC1〜C40脂肪族ヒドロカルビレン基(例えば、アルキレン、アリーレン等)である)の結合基である]を有する官能化重合体を提供することにある。
【0006】
別の態様においては、重合体鎖と、一般式:−C(Z)NH−R−[NHC(Z)R']m[式中、Z、m及びRは上記のように定義され、R'はO、S、N及びSiから選択される少なくとも一つのヘテロ原子を含む求核試薬のラジカルである]を有する末端官能性とを含む官能化重合体を提供することにある。この重合体は、末端イソ(チオ)シアネート官能性を含むリビング重合体又は擬似リビング重合体と、O、S、N及びSiから選択される一つのヘテロ原子、好ましくは二つ以上のヘテロ原子を含む求核試薬との反応生成物とすることができる。
【0007】
他の態様においては、更に一種若しくは複数種の重合体が少なくとも部分的に溶解できる一種以上の有機液体(溶媒)及び/又は一種若しくは複数種の粒状充填剤を含む組成物中の上記官能化化合物と、かかる重合体及び一種若しくは複数種の粒状充填剤を含む組成物から提供される加硫ゴムと、上記重合体の製造方法と、かかる重合体及び一種若しくは複数種の粒状充填剤を含む加硫ゴムの製造方法とを提供することにある。
【0008】
上記重合体は、ポリエン単量体単位を含むことが好ましい。特定の実施態様において、該ポリエンは共役ジエンとすることができ、得られる共役ジエン単量体単位を重合体鎖に沿って実質的にランダムに組み込むことができる。或いは又は加えて、上記重合体は、実質的に線状とすることができる。
【0009】
特有の特性にかかわらず、上記官能化重合体は、例えば、カーボンブラック及びシリカ等の粒状充填剤と相互作用することができる。
【0010】
本発明の他の態様は、下記に示す詳細な説明から当業者に明らかとなる。様々な実施態様の説明の理解を助けるため、確かな定義(周囲の文章が反対の意図を明確に示さない限り、明細書中に亘って適用するように意図される)を以下に提供する。
「重合体」は、一つ以上の単量体の重合生成物を意味し、単独重合体、二元共重合体、三元共重合体、四元共重合体等を含むものである。
「単量体単位」は、単一の反応分子から誘導される重合体の部分を意味する(例えば、エチレンの単量体単位は一般式-CH2CH2-を有する)。
「二元共重合体」は、二つの反応物質、典型的には単量体から誘導される単量体単位を含む重合体を意味し、ランダム、ブロック、セグメント化、グラフト等の二元共重合体を含むものである。
「共重合体」は、少なくとも二つの反応物質、典型的には単量体から誘導される単量体単位を含む重合体を意味し、二元共重合体、三元共重合体、四元共重合体等を含むものである。
「置換」は、対象となる基の本来の目的の妨げとならないヘテロ原子又は官能性(例えば、ヒドロカルビル基)を含有するものを意味する。
「直接結合」は、原子又は基を介在しないで、共有結合したことを意味する。
「ポリエン」は、分子の最も長い部分又は鎖に位置した少なくとも二つの二重結合を有する分子を意味し、特にジエン、トリエン等を含むものである。
「高スチレンSBR」は、結合スチレンの重量百分率が少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、又は少なくとも37%であって、約45%にまで及ぶことができるスチレン/ブタジエン共重合体を意味する。
「ランタニド化合物」は、La、Nd、Ce、Pr、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu及びジジム(モナズ砂から得ることができる希土類元素の混合物)のうち少なくとも一つの原子を含む化合物を意味する。
「有機アルミニウム化合物」は、少なくとも一つのAl−C結合を含有する化合物を意味する。
「有機マグネシウム化合物」は、少なくとも一つのMg−C結合を含有する化合物を意味する。
「ラジカル」は、反応の結果としていずれかの原子を得るか失うかにかかわらず、別の分子と反応した後に残存する分子の部分を意味する。
「ドロップ温度」は、充填剤入りゴム組成物(加硫ゴム)を混合装置(例えば、バンバリーミキサー)からシートに加工するためのミルへ排出するのに規定された上限温度である。
「イソ(チオ)シアネート」は、一般式−N=C=O若しくは−N=C=Sの基又はかかる基を含む化合物を意味する。
「ポリイソ(チオ)シアネート」は、二つ以上のイソ(チオ)シアネート基を有する化合物を意味し、具体的には、ジイソ(チオ)シアネート、トリイソ(チオ)シアネート及びテトライソ(チオ)シアネートを含むものである。
「ウレタン」は、一般式−C(Z)NH−[式中、Zは酸素原子又は硫黄原子である]を有する基を意味する。
「末端」は、重合体鎖の末端を意味する。
「末端部分」は、末端に位置した基又は官能性を意味する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
上記の概要部分から明らかなように、上記官能化重合体は、ウレタン結合を介して重合体鎖に結合した官能性、典型的には末端官能性を含む。
【0012】
上記組成物の重合体の一種以上は、エラストマーとすることができ、ポリエン、特にジエン及びトリエン(例えば、ミルセン)に由来するもの等の不飽和を含む単量体単位を含むことができる。実例となるポリエンには、C4〜C12ジエン、特に限定されるものではないが、1,3-ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ヘキサジエン等の共役ジエンが含まれる。
【0013】
その用途に応じて、一種以上の重合体鎖がペンダント芳香族基を含むことができ、例えば、ビニル芳香族化合物、特に、例えばスチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ビニルトルエン類、ビニルナフタレン類等のC8〜C20ビニル芳香族化合物に由来する単量体単位の組込みによって、ペンダント芳香族基を提供することができる。一種以上のポリエンと併せて使用する場合、ペンダント芳香族性を有する単量体単位は、重合体鎖の約1〜約60%、約10〜約55%又は約20〜約50%を構成することができる。かかる共重合体のミクロ構造は、ランダムとすることができ、即ち、構成単量体のそれぞれのタイプに由来する単量体単位が、ブロックを形成せず、代わりに繰り返しがなく、実質的に同時に組み込まれる。ランダムのミクロ構造は、例えば、タイヤトレッドの製造に用いるゴム組成物等の一部の最終用途に特別な利点を与えることができる。
【0014】
例示的なエラストマーには、例えば、SBRとしても知られるポリ(スチレン-co-ブタジエン)等の一種以上のポリエンとスチレンとの共重合体が含まれる。
【0015】
ポリエンは、二種以上の方法で重合体鎖中に組み込むことができる。特にタイヤトレッドの用途では、この組込み方法を制御することが望ましいことがある。ポリエン単量体単位の全モルに対する数百分率として与えられる、全体の1,2-ミクロ構造が約10〜80%、任意に約25〜約65%である重合体鎖は、特定の最終用途に望ましいことがある。全体の1,2-ミクロ構造が、ポリエン単量体単位の合計に対して約50%以下、好ましくは約45%以下、より好ましくは約40%以下、更に好ましくは約35%以下、最も好ましくは約30%以下の重合体は「実質的に線状」であるとみなされる。しかしながら、特定の最終用途では、1,2-結合の含有量をさらに低く−例えば、約7%未満、約5%未満、約2%未満又は約1%未満に−しておくことが望ましいことがある。
【0016】
上記重合体の数平均分子量(Mn)は、失活した試料が約2〜約150、より一般には約2.5〜約125、更に一般には約5〜約100、最も一般には約10〜約75のゴムムーニー粘度(ML4/100℃)を示すようなものが典型的である。例示的なMn値は、約5000〜約200,000、一般には約25,000〜約150,000、典型的には約50,000〜約125,000の範囲に及ぶ。
【0017】
このような重合体は、乳化重合又は溶液重合により作ることができ、後者は、ランダム性、ミクロ構造等の特性に関して高度な制御を与える。溶液重合は、20世紀半ば頃から実施されており、その一般的な態様が当業者に知られているが、参照の便宜上、特定の態様をここに提供する。
【0018】
所望の重合体の性質によって、溶液重合の特定の条件を大きく変えることができる。以下の記載において、まずリビング重合について説明し、次いで擬似リビング重合について説明する。それらの説明の後に、そのようにして作られた重合体の官能化と加工について述べる。
【0019】
溶液重合は、一般に開始剤を必要とする。例示的な開始剤としては、有機リチウム化合物、特にアルキルリチウム化合物が挙げられる。有機リチウム開始剤の例としては、N-リチオ-ヘキサメチレンイミン;n-ブチルリチウム;トリブチルスズリチウム;ジメチルアミノリチウム、ジエチルアミノリチウム、ジプロピルアミノリチウム、ジブチルアミノリチウム等のジアルキルアミノリチウム化合物;ジエチルアミノプロピルリチウム等のジアルキルアミノアルキルリチウム化合物;及びC1〜C12アルキル基、好ましくはC1〜C4アルキル基を含むそれらのトリアルキルスタニルリチウム化合物が挙げられる。
【0020】
また、多官能開始剤、即ち二つ以上のリビング末端を有する重合体を形成可能な開始剤を用いることもできる。多官能開始剤の例としては、限定されるものではないが、1,4-ジリチオブタン、1,10-ジリチオデカン、1,20-ジリチオエイコサン、1,4-ジリチオベンゼン、1,4-ジリチオナフタレン、1,10-ジリチオアントラセン、1,2-ジリチオ-1,2-ジフェニルエタン、1,3,5-トリリチオペンタン、1,5,15-トリリチオエイコサン、1,3,5-トリリチオシクロヘキサン、1,3,5,8-テトラリチオデカン、1,5,10,20-テトラリチオエイコサン、1,2,4,6-テトラリチオシクロヘキサン及び4,4'-ジリチオビフェニルが挙げられる。
【0021】
また、有機リチウム開始剤に加えて、いわゆる官能化開始剤が有用であることがある。それは、重合体鎖に組み込まれることになり、それによって、鎖の開始末端に官能基を付与する。かかる物質の例としては、リチウム化アリールチオアセタール(例えば、米国特許第7,153,919号参照)、及び有機リチウム化合物と、任意にはジイソプロペニルベンゼン等の化合物と予備反応した、例えば、置換したアルジミン、ケチミン、第二級アミン等のN-含有有機化合物との反応生成物(例えば、米国特許第5,153,159号及び第5,567,815号参照)が挙げられる。
【0022】
有用なアニオン重合溶媒には、種々のC5〜C12環式及び非環式アルカン及びそれらのアルキル化誘導体、特定の液状芳香族化合物、並びにそれらの混合物が含まれる。当業者は、他の有用な溶媒の選択肢や組み合わせを知っている。
【0023】
溶液重合では、重合成分中に調整剤、通常では極性化合物を含むことにより、ランダム化及びビニル含有量(即ち、1,2-ミクロ構造)の両方を増大させることができる。開始剤の当量に対して90当量まで又はそれ以上の当量の調整剤を使用することができ、その量は、例えば、所望のビニル含有量、使用される非ポリエン単量体のレベル、反応温度及び使用される特定の調整剤の性質によって決まる。調整剤として有用な化合物には、非結合電子対を有するヘテロ原子(例えば、O又はN)を含む有機化合物が含まれる。例としては、モノ及びオリゴアルキレングリコールのジアルキルエーテル;クラウンエーテル;テトラメチルエチレンジアミン等の第三級アミン;THF;THFオリゴマー;2,2'-ジ(テトラヒドロフリル)プロパン、ジ-ピペリジルエタン、ヘキサメチルホスホラミド、N,N'-ジメチルピペラジン、ジアザビシクロオクタン、ジエチルエーテル、トリブチルアミン等の線状及び環式のオリゴメリックオキソラニルアルカン(例えば、米国特許第4,429,091号参照)が挙げられる。
【0024】
当業者は、溶液重合に典型的に使用される条件を理解するが、読者の利便性のために代表的な記載を与える。下記に示すものは、バッチ法に基づくものであるが、この記載を、例えば、半バッチ法又は連続法にまで拡張することは、当業者の能力の範囲内である。
【0025】
溶液重合は、典型的には、適当な反応容器に一種又は複数種の単量体と溶媒とのブレンドを投入することで開始し、次いで、溶液又はブレンドの一環として加えられることが多い調整剤(使用する場合)や開始剤を添加するが、代わりに、一種又は複数種の単量体と調整剤とを開始剤に加えることもできる。その手順は、典型的に無水の嫌気的条件下で行われる。反応物質を約150℃までの温度に加熱して、攪拌することができる。望ましい程度の転化率に達した後、熱源を(使用する場合は)取り除くことができ、また、反応容器が重合のためだけに用意されたものである場合には、その反応混合物を官能化及び/又は失活用の重合後の容器へ移動させる。
【0026】
特定の最終用途は、アニオン重合又はリビング重合を経由して達成することが困難又は非効率的となり得る特性を有する重合体を求める。例えば、一部の用途では、高いシス-1,4-結合含有量を有する共役ジエン重合体が望ましい場合がある。かかるポリジエンは、ランタニド系触媒を用いる方法によって調製でき、擬似リビング特性を見せることがある。
【0027】
擬似リビング触媒組成物は、ランタニド化合物、アルキル化剤、及び不安定なハロゲン原子を含む化合物を含むことができる。ランタニド化合物及び/又はアルキル化剤が不安定なハロゲン原子を含む場合、触媒は別のハロゲン源を含む必要がなく、即ち、その触媒は、単にハロゲン化ランタニド化合物とアルキル化剤とを含んでいればよい。一部の実施態様では、アルキル化剤は、アルミノキサン及びアルキルアルミニウム化合物の両方を含むことができる。他の実施態様では、非配位性アニオン又は非配位性アニオン先駆体をハロゲン源の代わりに用いてもよい。アルキル化剤がヒドリド化合物を含む場合、ハロゲン源としては、米国特許第7,008,899号に開示のハロゲン化スズを挙げることができる。また、それらの実施態様又は他の実施態様においては、他の有機金属化合物(例えば、米国特許第6,699,813号に開示のニッケル含有化合物)又はルイス塩基を用いてもよい。
【0028】
各種ランタニド化合物又はそれらの混合物を用いることができる。それらの化合物は、リビング重合に関して先に述べたような炭化水素溶媒に溶解できたり、重合媒質中で懸濁して触媒活性種を形成することができる。
【0029】
ランタニド化合物中のランタニド原子は、様々な酸化状態、例えば0、+2、+3、+4の酸化状態で存在することができる。例示的なランタニド化合物には、ランタニドカルボン酸塩、ランタニド有機リン酸塩、ランタニド有機ホスホン酸塩、ランタニド有機ホスフィン酸塩、ランタニドカルバミン酸塩、ランタニドジチオカルバミン酸塩、ランタニドキサントゲン酸塩、ランタニドβ-ジケトナート、ランタニドアルコキシド又はランタニドアリールオキシド、ランタニドハロゲン化物、ランタニド擬似ハロゲン化物、ランタニドオキシハライド、及び有機ランタニド化合物が含まれる。例示的なランタニド化合物としては、ネオジム蟻酸塩、ネオジム酢酸塩、ネオジム酢酸塩、ネオジム(メタ)アクリル酸塩、ネオジム吉草酸塩等のネオジムカルボン酸塩に限定されず、各種ネオジムジアルキルリン酸塩、ネオジムジオレイルリン酸塩、ネオジムジフェニルリン酸塩等のネオジム有機リン酸塩;各種ネオジムアルキルホスホン酸塩、ネオジムオレイルホスホン酸塩、ネオジムフェニルホスホン酸塩等のネオジム有機ホスホン酸塩;各種ネオジム(ジ)アルキルホスフィン酸塩、ネオジム(ジ)フェニルホスフィン酸塩、ネオジム(p-ノニルフェニル)ホスフィン酸塩、ネオジムビス(p-ノニルフェニル)ホスフィン酸塩等のネオジム有機ホスフィン酸塩;各種ネオジムジアルキルカルバミン酸塩、ネオジムジベンジルカルバミン酸塩等のネオジムカルバミン酸塩;各種ネオジムジアルキルジチオカルバミン酸塩、ネオジムジベンジルジチオカルバミン酸塩等のネオジムジチオカルバミン酸塩;各種ネオジムアルキルキサントゲン酸塩、ネオジムベンジルキサントゲン酸塩等のネオジムキサントゲン酸塩;ネオジムアセチルアセトナート、ネオジムトリフルオロアセチルアセトナート、ネオジムヘキサフルオロアセチルアセトナート、ネオジムベンゾイルアセトナート、ネオジム2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオナート等のネオジムβ-ジケトナート;各種ネオジムアルコキシド、ネオジムフェノキシド、ネオジムノニルフェノキシド、ネオジムナフトキシド等のネオジムアルコキシド又はネオジムアリールオキシド;NdF3、NdCl3、NdBr3、NdI3等のネオジムハロゲン化物;Nd(CN)3、Nd(OCN)3、ネオジムチオシアン酸塩、ネオジムアジド、ネオジムフェロシアン酸塩等のネオジム擬似ハロゲン化物;及びNdOF、NdOCl、NdOBr等のネオジムオキシハライドが挙げられる。(上述のリストは、簡潔さのため、Nd化合物に限定されているが、当業者によれば、他のランタノイド金属を用いる類似の化合物を確認し選択するため、この広範なリストを容易に使用することができる。)
【0030】
各種アルキル化剤又はそれらの混合物を使用することができる。アルキル化剤には、ヒドロカルビル基を他の金属に転移できる有機金属化合物が含まれる。典型的に、その試薬には、1族、2族、3族(IA族、IIA族、IIIA族)の金属等の陽性金属の有機金属化合物が含まれる。一般的なアルキル化剤には、有機アルミニウム化合物及び有機マグネシウム化合物が含まれ、それらの中には、上述の種類の炭化水素溶媒中に溶解できるものもある。アルキル化剤が不安定なハロゲン原子を含む場合、該アルキル化剤は、ハロゲン含有化合物としても機能することができる。
【0031】
有機アルミニウム化合物には、式AlRn3-n[式中、各Rは独立してC原子を介してAl原子に結合する一価の有機基であり、各Xは独立してH原子、ハロゲン原子、カルボキシレート基、アルコキシド基又はアリールオキシド基であり、nは1〜3の整数である]によって表されるものが含まれる。各Rは、限定されないが、(シクロ)アルキル基、置換(シクロ)アルキル基、(シクロ)アルケニル基、置換(シクロ)アルケニル基、アリール基、置換アリール基、アラルキル基、アルカリール基、アリル基、アルキニル基等のヒドロカルビル基(N、O、B、Si、S、P等のヘテロ原子を含有できる)とすることができる。
【0032】
有機アルミニウム化合物には、各種トリアルキルアルミニウム、トリス(1-メチルシクロペンチル)アルミニウム、トリフェニルアルミニウム、トリ-p-トリルアルミニウム、トリス(2,6-ジメチルフェニル)アルミニウム、トリベンジルアルミニウム、各種ジアルキルフェニルアルミニウム、各種ジアルキルベンジルアルミニウム、各種アルキルジベンジルアルミニウム等のトリヒドロカルビルアルミニウム化合物;各種ジアルキルアルミニウムヒドリド、ジフェニルアルミニウムヒドリド、ジ-p-トリルアルミニウムヒドリド、ジベンジルアルミニウムヒドリド、各種フェニルアルキルアルミニウムヒドリド、各種フェニル-n-アルキルアルミニウムヒドリド、各種フェニルイソアルキルアルミニウムヒドリド、各種p-トリルアルキルアルミニウムヒドリド、各種ベンジルアルキルアルミニウムヒドリド等のジヒドロカルビルアルミニウムヒドリド;各種アルキルアルミニウムジヒドリド等のヒドロカルビルアルミニウムジヒドリド;各種ジアルキルアルミニウムクロリド、ジフェニルアルミニウムクロリド、ジ-p-トリルアルミニウムクロリド、ジベンジルアルミニウムクロリド、各種フェニルアルキルアルミニウムクロリド、各種p-トリルアルキルアルミニウムクロリド、各種ベンジルアルキルアルミニウムクロリド等のジヒドロカルビルアルミニウムクロリド化合物;及び各種アルキルアルミニウムジクロリド等のヒドロカルビルアルミニウムジクロリドが含まれる。他の有機アルミニウム化合物には、各種ジアルキルアルミニウムアルカノアート、各種アルキルアルミニウムビスアルカノアート、各種ジアルキルアルミニウムアルコキシド及び各種ジアルキルアルミニウムフェノキシド、各種アルキルアルミニウムジアルコキシド及び各種アルキルアルミニウムジフェノキシド等が含まれる。
【0033】
また、それぞれの一般式:
【化1】

[式中、xは1〜約100又は約10〜約50の整数とすることができ、yは2〜約100又は約3〜約20の整数としてもよく、各R1は独立してC原子を介してAl原子に結合する一価の有機基としてもよい]によって表されるオリゴメリック線状アルミノキサン類及びオリゴメリック環状アルミノキサン類を含むアルミノキサン類が有用である。各R1は、限定されないが、アルキル基、シクロアルキル基、置換シクロアルキル基、アルケニル基、シクロアルケニル基、置換シクロアルケニル基、アリール基、置換アリール基、アラルキル基、アルカリール基、アリル基、アルキニル基等のヒドロカルビル基とすることができ、それらのヒドロカルビル基は、上述したようなヘテロ原子を含有してもよい。(本願で使用するアルミノキサンのモル数は、オリゴメリックアルミノキサン分子のモル数というよりもアルミニウム原子のモル数を指す。)
【0034】
アルミノキサン類は、トリヒドロカルビルアルミニウム化合物を水と反応させることで調製できる。この反応は、例えば、(1)トリヒドロカルビルアルミニウム化合物を有機溶媒中に溶解し、その後に水と接触させる方法、(2)トリヒドロカルビルアルミニウム化合物を、例えば金属塩中に含まれる結晶水又は無機化合物若しくは有機化合物に吸着した水と反応させる方法、(3)トリヒドロカルビルアルミニウム化合物を、重合させる単量体又は単量体溶液の存在下、水と反応させる方法によって実施できる。
【0035】
潜在的に有用なアルミノキサン化合物には、一種以上のメチルアルミノキサン(MAO)、変性メチルアルミノキサン(MMAO、MAOのメチル基の約20〜80%をC2〜C12ヒドロカルビル基、好ましくはイソブチル基で置換することによって形成できる)、各種アルキルアルミノキサン類(特にイソブチルアルミノキサン)のいずれか、各種シクロアルキルアルミノキサン類のいずれか、フェニルアルミノキサン、各種アルキル置換フェニルアルミノキサン等が含まれる。
【0036】
有用な有機マグネシウム化合物の一の分類は、式R2zMgX2-z[式中、各R2は独立してC原子を介してMg原子に結合する一価の有機基であり、Zは1〜2を含む整数であり、Xは水素原子、ハロゲン原子、カルボキシレート基、アルコキシド基又はアリールオキシド基である]によって表すことができる。各Rは、限定されないが、アルキル基、シクロアルキル基、置換シクロアルキル基、アルケニル基、シクロアルケニル基、置換シクロアルケニル基、アリール基、アリル基、置換アリール基、アラルキル基、アルカリール基、アルキニル基等のヒドロカルビル基とすることができ、それらのヒドロカルビル基は、先に記載したようなヘテロ原子を含有してもよい。上述のものの例としては、各種ジアルキルマグネシウム(特にジブチルマグネシウム)、ジフェニルマグネシウム、ジベンジルマグネシウム及びそれらの混合物等のジヒドロカルビルマグネシウム化合物;各種アルキルマグネシウムヒドリド、ハロゲン化物、カルボキシレート、アルコキシド、アリールオキシド及びそれらの混合物;並びに各種アリールマグネシウムヒドリド、ハロゲン化物、カルボキシレート、アルコキシド、アリールオキシド及びそれらの混合物が挙げられる。
【0037】
一つ以上の不安定なハロゲン原子を含有する各種化合物又はそれらの混合物をハロゲン源として使用することができる。それらの化合物を、単にハロゲン含有化合物と称してもよい。また、二種以上のハロゲン原子の組み合わせを利用することができる。特定のハロゲン含有化合物は炭化水素溶媒中に溶解できるが、他のものはオリゴマー化媒質中で懸濁し、触媒活性種を形成することができる。(ネオジムハロゲン化物、オキシハライド又は不安定なハロゲン原子を含有する他の化合物を用いた場合、Nd含有化合物は、ランタニド化合物及びハロゲン含有化合物として機能することができ、この分類のネオジム化合物を不活性有機溶媒中に可溶化させるための助剤として、THF等のルイス塩基を用いてもよい。)
【0038】
ハロゲン含有化合物の種類には、限定されないが、元素のハロゲン、混合ハロゲン(例えば、ICl、IBr、ICl5及びIF5)、ハロゲン化水素(例えば、HF、HCl、HBr等)、各種アルキルハロゲン化物、各種アリルハロゲン化物、各種ベンジルハロゲン化物、各種ハロ-ジ-フェニルアルカン、各種トリフェニルアルキルハロゲン化物、各種ベンジリデンハロゲン化物、各種アルキルトリクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、各種ジアルキルジクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン、各種トリアルキルクロロシラン、ベンゾイルハロゲン化物、プロピオニルハロゲン化物、メチルハロホルマート等の有機ハロゲン化物;PCl3、PBr3、PCl5、POCl3、POBr3、BF3、BCl3、BBr3、SiF4、SiCl4、SiBr4、SiI4、AsCl3、AsBr3、AsI3、SeCl4、SeBr4、TeCl4、TeBr4、TeI4等の無機ハロゲン化物;SnCl4、SnBr4、AlCl3、AlBr3、SbCl3、SbCl5、SbBr3、AlI3、AlF3、GaCl3、GaBr3、GaI3、GaF3、InCl3、InBr3、InI3、InF3、TiCl4、TiBr4、TiI4、ZnCl2、ZnBr2、ZnI2、ZnF2等の金属ハロゲン化物;各種ジアルキルアルミニウムハロゲン化物、各種アルキルアルミニウムジハライド、各種アルキルアルミニウムセスキハライド、各種アルキルマグネシウムハロゲン化物、各種フェニルマグネシウムハロゲン化物、各種ベンジルマグネシウムハロゲン化物、各種トリアルキルスズハロゲン化物、各種ジアルキルスズジハライド、各種トリアルキルスズハロゲン化物等の有機金属ハロゲン化物;及びそれらの混合物が含まれる。
【0039】
非配位性アニオンは、例えば、立体障害のために触媒系の活性中心と配位結合を形成しない嵩高いアニオンを含む。非配位性アニオンには、テトラアリールボラートアニオン(任意にフッ素化できる)が含まれる。非配位性アニオンを含有するイオン化合物は当該技術分野で知られており、また、カルボニウムカチオン(例えば、トリアリールカルボニウムカチオン)、アンモニウムカチオン又はホスホニウムカチオン等の対カチオンも含む。例示的な物質は、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラートである。
【0040】
非配位性アニオン先駆体には、反応条件下で非配位性アニオンを形成できる物質が含まれる。非配位性アニオン先駆体には、トリハロアルキルボロン化合物が含まれる。
【0041】
上述の触媒組成物は、広範囲の触媒濃度及び触媒成分比に亘って共役ジエンを立体特異性のポリジエンに重合するための高い触媒活性を有することができる。触媒成分は相互作用して触媒活性種を形成することができ、また、いずれか一つの成分についての最適濃度は、他の成分の濃度よって決めることができる。
【0042】
アルキル化剤のランタニド化合物に対するモル比(アルキル化剤/Ln)は、約1:1〜約1000:1、約2:1〜約500:1又は約5:1〜約200:1の範囲とすることができる。アルキルアルミニウム化合物とアルミノキサンの両方をアルキル化剤として使用する場合、アルキルアルミニウムのランタノイド化合物に対するモル比(Al/Ln)は、約1:1〜約200:1、約2:1〜約150:1又は約5:1〜約100:1の範囲とすることができ、また、アルミノキサンのランタニド化合物に対するモル比(アルミノキサン/Ln)は、約5:1〜約1000:1、約10:1〜約700:1又は約20:1〜約500:1の範囲とすることができる。ハロゲン含有化合物のランタニド化合物に対するモル比(ハロゲン原子/Ln)は、約1:2〜約20:1、約1:1〜約10:1又は約2:1〜約6:1の範囲とすることができる。
【0043】
非配位性アニオン又は非配位性アニオン先駆体のランタニド化合物に対するモル比(An/Ln)は、約1:2〜約20:1、約3:4〜約10:1又は約1:1〜約6:1の範囲とすることができる。
【0044】
各種成分又は要素間での相互作用又は反応の程度は容易に決定されない。従って、「触媒組成物」という用語は、成分の単なる混合物、物理的又は化学的な引力により生じる各種成分の複合体、成分の化学反応生成物、又は上述のものの組み合わせを包含するように意図されている。触媒組成物は、種々の方法によって形成されることができる。
【0045】
触媒組成物は、インサイチューで触媒成分を単量体及び溶媒を含有する溶液又は単なるバルク単量体に、段階的に又は同時に加えることによって形成できる。例えば、最初にアルキル化剤を加え、次いでランタニド化合物を加え、その後、ハロゲン含有化合物、又は使用する場合には、非配位性アニオン若しくは非配位性アニオン先駆体を加えることができる。
【0046】
或いは、重合系の外側で約-20℃〜約80℃の温度にて触媒成分を混合することができ、得られた触媒組成物を、任意には数日までの間熟成させた後、重合容器に加える。
【0047】
また、少なくとも一種の共役ジエン単量体の存在下で触媒組成物を形成してもよい。即ち、少量の共役ジエン単量体の存在下、約-20℃〜約80℃の温度にて触媒成分を予備混合してもよい。使用できる共役ジエン単量体の量は、ランタニド化合物1モルに対して約1〜約500モル、約5〜約250モル又は約10〜約100モルの範囲とすることができる。得られる触媒組成物を残りの共役ジエン単量体へ加える前に数分から数日の間熟成させることができる。
【0048】
或いは、多段階手段を用いることで触媒組成物を形成してもよい。第一段階は、共役ジエン単量体の不在下で又は少量の共役ジエン単量体の存在下で約-20℃〜約80℃の温度にてアルキル化剤をランタニド化合物と組み合わせることを含むことができる。上述の反応混合物と、ハロゲン含有化合物、非配位性アニオン又は非配位性アニオン先駆体とを段階的に又は同時に残りの共役ジエン単量体へ投入することができる。
【0049】
触媒組成物又は一種以上の触媒成分の溶液を重合系の外部で調製する場合、有機溶媒又はキャリヤーを使用してもよい。有機溶媒は、触媒組成物又は成分を溶解するために機能してもよいし、或いは該溶媒が、単に触媒組成物又は成分を懸濁し得るキャリヤーとして機能してもよい。有機溶媒は、触媒組成物に対し不活性とすることができる。有用な溶媒には、上述したものが含まれる。
【0050】
重合体の製造は、触媒的に効果的な量の上記触媒組成物の存在下、一種又は複数種の共役ジエンを重合させることにより達成できる。重合の大部分で用いる全触媒濃度は、成分の純度、重合温度、所望の重合速度及び転化率、所望の分子量等の様々な要因の相互作用によって決定することができる。従って、それぞれの触媒成分を触媒的に効果的な量使用できるということを除いて、具体的な全触媒濃度を明確に説明することができない。使用するランタニド化合物の量は、共役ジエン100gに対し約0.01〜約2mmol、約0.02〜約1mmol又は約0.05〜約0.5mmolの範囲で変えることができる。
【0051】
重合は、希釈剤としての有機溶媒中で行うことができる。重合させる単量体と形成される重合体の両方が重合媒質中に溶解できる。或いは、形成される重合体が不溶である溶媒を選択することによって、沈殿重合系を使用してもよい。いずれの場合でも、重合させる単量体は凝縮相に存在し得る。また、触媒成分を有機溶媒に可溶化又は懸濁させてもよく、ここで他の実施態様としては、触媒成分又は要素を触媒担体に担持させないか、又は含浸させない。他の実施態様においては、触媒成分又は要素を担持させてもよい。
【0052】
それらの重合を行うには、触媒組成物の調製に使用し得る有機溶媒の量に加えて、一定量の有機溶媒を重合系に加えてもよい。追加の有機溶媒は、触媒組成物の調製に用いた有機溶媒と同じであっても異なっていてもよい。重合を触媒するために用いる触媒組成物に対して不活性な有機溶媒を選択してもよい。例示的な炭化水素溶媒は、先に説明されている。溶媒を用いる場合、重合させる単量体の濃度は特定の範囲に限定されなくてもよい。しかしながら、一以上の実施態様において、重合初期に重合媒質中に存在する単量体の濃度は、約3〜約80%、約5〜約50%又は約10〜約30%(全て重量)の範囲とすることができる。
【0053】
また、共役ジエンの重合は、凝縮した液相又は気相中で、実質的に溶媒を使用しない重合環境を指す塊状重合によって行ってもよい。更に、共役ジエンの重合は、回分法、連続法又は半連続法として行ってもよい。
【0054】
ランタニド系触媒組成物を用いることにより調製される重合体は、重合を停止又は失活する前に反応性の鎖末端を含むことができる。
【0055】
いずれの種類の重合方法を用いるかにかかわらず、可溶化した重合体は、重合体の比較的高い濃度や非常に高い粘度のため、通常「重合体セメント」と称される。失活する前に、重合体セメント中の重合体鎖は、末端官能性を与えられるため、更なる反応を受けることができる。
【0056】
所望の官能化を達成する方法の一つは、一種以上のポリイソ(チオ)シアネートをリビング重合体鎖又は擬似リビング重合体鎖と反応させることによって開始する。理論上、1モルの活性重合体鎖が、1当量のポリ(チオ)シアネート中のイソ(チオ)シアネート基を一つのみ消耗することができるが、残存する一つ、二つ又は三つのイソ(チオ)シアネート基は、求核試薬との更なる反応に利用可能な状態で残っている。この一対一の反応の種類は、炭化水素に高溶解性のポリイソ(チオ)シアネートを低濃度で使用する場合、特に重合体セメントが比較的低い反応性を有するカルバニオン、例えば高スチレンSBRを含む場合に促進できる。
【0057】
潜在的に有用なポリイソ(チオ)シアネートには、一般式R−(N=C=Z)n[式中、nは2〜4を含む整数であり、各Zは独立してO又はSであり、Rは置換又は非置換の芳香族ヒドロカルビレン基又はC1〜C40脂肪族ヒドロカルビレン基(例えば、アルキレン、アリーレン等)である]を有するものが含まれる。例示的なポリイソ(チオ)シアネートとしては、限定されないが、1,6-ジイソシアナトへキサン(HDI)、トリメチル-1,6-ジイソシアナトへキサン(TMDIH)、4,4'-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)(H-MDI)、4,4'-メチレンビス(フェニルイソシアネート)(MDI)、p-フェニレンジイソチオシアネート、トリレン-2,4-ジイソシアネート、トリレン-2,5-ジイソシアネート、トリレン-2,6-ジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、1,6-ジイソシアナトへキサン、イソホロンジイソシアネート、トリメチル-1,6-ジイソシアナト-へキサン(2,2,4-異性体及び2,4,4-異性体の混合物)、ベンゼン-1,2,4-トリイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリス(イソシアネートフェニル)チオホスフェイト、ナフタレン-1,3,7-トリイソシアネート、ナフタレン-1,2,5,7-テトライソシアネート等が挙げられる。
【0058】
上述のポリイソ(チオ)シアネートの多くは、上記の重合に使用されるタイプの溶媒中に容易に溶解でき、従って、重合容器又は重合体セメントが移される重合後の反応容器に直接加えることができる。不溶性であるか又は十分な溶解性を欠いたジイソ(チオ)シアネートについては、当業者は、代替の移送手段をよく知っている。ポリイソ(チオ)シアネートはリビング重合体鎖又は擬似リビング重合体鎖と十分に反応し、特定の温度及び/又は圧力の条件が必要でないと思われ、この反応は、比較的温和な条件(例えば、約25℃〜約75℃、大気圧又はわずかに上昇した圧力、無水及び嫌気性)によって素早く(例えば、約5〜60分)行うことができる。商業的な方法に通常使用される種類の混合であれば、化学量論に近い反応を達成するのに十分である。
【0059】
ポリイソ(チオ)シアネートの使用は、重合体セメントが高スチレンSBRを含む場合に特定の利点を提供する。単なるブタジエンと比較して、スチレン単量体単位は、ハロゲン含有活性種との停止/反応の影響をほとんど受けない。例えば、メチルトリエトキシシランの添加によって、典型的には、カルボアニオンスチレン/ブタジエン共重合体と即時反応し停止することになるが、高スチレンSBRの場合、この反応は、高温時(例えば、65℃にて60分)でさえ、終了には向かわない。反対に、種々のポリイソ(チオ)シアネートのいずれかは、中程度の温度(例えば、約20℃〜50℃)でさえ、高スチレンSBRと容易に反応することが分かった。
【0060】
この開始反応の後、重合体鎖の大部分又は全部は、一般式−C(Z)NH−R−(N=C=Z)m[式中、Z、m及びRは上記のように定義した通りである]の末端官能性を含む。残存する一つ又は複数のイソ(チオ)シアナート基の一部又は全部は、一般式π−Q−Jm[式中、πは重合体鎖であり、Jは少なくとも一つのヘテロ原子を含む官能基であり、Qは一般式−C(Z)NH−R−[NHC(Z)]m−(ここで、Z、m及びRは上記のように定義される)の結合基である]を有する官能化重合体を提供するために更に反応することができる。このことは、各種求核試薬のいずれかと、特にアルコール、チオール、アミン、カルボン酸等の活性水素含有基と反応することによって達成できる。
【0061】
求核試薬が更なる反応物質である場合には、この第二反応が完了した時点で、重合体鎖には、一般式−C(Z)NH−R−[NHC(Z)R']m[式中、R'は求核反応物質のラジカルである]の末端官能性が含まれる。求核試薬のラジカルは、典型的にO、S、N及びSiから選択される少なくとも一つのヘテロ原子を含み、特定の実施態様においては、かかるヘテロ原子を少なくとも二つ含むことができる。潜在的に有用な多ヘテロ原子含有求核試薬の例としては、HOR''NH2、HSR''NH2、HOR''SH、H2NR''NH2、HSR''Si(OR3)3、H2NR''Si(OR3)3等が挙げられ、ここで、R''は置換若しくは非置換の二価の脂肪族基及び芳香族基又はヘテロ原子(例えば、O、S、N、P等)を含む基を表し、R3は水素原子又は置換若しくは非置換のアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アリール基、アリル基、アラルキル基、アルカリール基若しくはアルキニル基を表す。上述のもののうち、少なくとも一つのSi原子を含むものは、重合体がシリカを含む粒状充填剤と配合される場合に特に有用であると思われる。また、2,4,6-トリアミノ-1,3,5-トリアジン(メラミン)、1,2-ジアミノシクロヘキサン(CHDA)等が潜在的に有用である。
【0062】
前述の反応と同様に、この反応を比較的温和な条件(例えば、約25℃〜75℃、大気圧又はわずかに上昇した圧力)によって素早く(例えば、約15〜60分)完了することを確実にするのに、特定の温度及び/又は圧力の条件は必要でないと思われる。商業的な方法に通常使用される種類の混合であれば、化学量論に近い反応を確実にするのに十分である。粒状充填剤との最大相互作用を促進するため、重合体鎖に対して化学量論的量を超える一種又は複数種の求核試薬を(例えば、約1:1〜約3:1で)反応容器に加えることができる。
【0063】
分離した失活工程を必要としないが、必要に応じてそれを行うことができる。重合体及び活性水素含有化合物(例えば、アルコール又は水)を約30℃〜約150℃の温度にて約120分までの間攪拌することができる。
【0064】
ドラム乾燥、押出機乾燥、真空乾燥等の通常の技術によって、失活した重合体セメントから溶媒を除去することができ、水、アルコール又は蒸気、熱脱溶媒和等での凝固と組み合わせてもよい。凝固を行う場合、オーブン乾燥が望ましいことがある。
【0065】
加工に先立ち、貯蔵合成ゴムは(例えば、スラブ、ウィッグワッグ等の形態にかかわらず)流れに抵抗することが好ましく、即ち、良好な常温流れ抵抗を示す。しかしながら、高温での配合(以下、詳細に記載する)中、他の配合剤とブレンドし又は混練する場合、流れに対する抵抗はもはや必要でないことが望ましく、即ち、流れに対する過度の抵抗は、加工性を損なうか又は阻害することがある。それらの特性のバランスが良好な合成ゴムが望ましい。
【0066】
官能化重合体は、トレッドストック配合物に利用することができ、或いは、天然ゴム及び/又は、例えば、ポリエン由来の単量体単位のみを含む一種以上の単独重合体及び共重合体(例えば、ポリ(ブタジエン)、ポリ(イソプレン)、及びブタジエン、イソプレン等を組み込む二元共重合体)、SBR、ブチルゴム、ネオプレン、エチレン/プロピレンゴム(EPR)、エチレン/プロピレン/ジエンゴム(EPDM)、アクリロニトリル/ブタジエンゴム(NBR)、シリコーンゴム、フルオロエラストマー、エチレン/アクリルゴム、エチレン/酢酸ビニル共重合体(EVA)、エピクロロヒドリンゴム、塩素化ポリエチレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、水素化ニトリルゴム、テトラフルオロエチレン/プロピレンゴム等の非官能化合成ゴムを含む、通常使用されるトレッドストックゴムのいずれともブレンドすることができる。一種又は複数種の官能化重合体を一種又は複数種の通常のゴムとブレンドする場合、その量は、ゴム全体の約5〜約99%の範囲で変えることができ、一種又は複数種の通常のゴムは、ゴム全体のバランスを補っている。最小限の量は、所望のヒステリシス低減の程度に大きく依存する。
【0067】
非晶質シリカ(SiO2)を充填剤として利用することができる。シリカは、水中での化学反応によって作られ、超微細球状粒子として沈殿させることから、一般に湿式法ケイ酸として分類される。これらの一次粒子は、強く会合して凝集体になり、該凝集体は、順にそれほど強くなく結合し凝集塊になる。「高分散性シリカ」は、解凝集し且つエラストマーマトリックスに分散するのに非常に十分な能力を有するシリカであり、薄片鏡検法により観測できる。
【0068】
表面積は、異なるシリカの補強特性について信頼できる測度を与え、ブルナウアー(Brunauer)、エメット(Emmet)及びテラー(Teller)(「BET」)法(J. Am. Chem. Soc., vol.60, p.309以下に記載)が表面積を決定するのに認められた方法である。シリカのBET表面積は、一般に450m2/g未満であり、表面の有用な範囲としては、約32〜約400m2/g、約100〜約250m2/g及び約150〜約220m2/gが挙げられる。
【0069】
シリカ充填剤のpHは、一般に約5〜約7であるか、又はわずかに超えており、好ましくは約5.5〜約6.8である。
【0070】
使用することができる市販のシリカの一部としては、Hi−SilTM215、Hi−SilTM233及びHi−SilTM190(PPGインダストリーズ社、ピッツバーグ、ペンシルバニア州)が挙げられる。市販のシリカの他の供給者としては、グレースダビソン社(ボルティモア、メリーランド州)、デグサ社(パーシッパニー、ニュージャージー州)、ロディアシリカシステムズ社(クランバリー、ニュージャージー州)、J.M.フーバー社(エジソン、ニュージャージー州)が挙げられる。
【0071】
シリカを、重合体100部当たり(phr)約1〜約100重量部(pbw)の量で用いることができ、約5〜約80phrの量であることが好ましい。有用な範囲の上限は、かかる充填剤によって付与され得る高い粘度によって制限される。
【0072】
他の有用な充填剤には、限定されないが、ファーネスブラック、チャンネルブラック及びランプブラックを含めた、全ての形態のカーボンブラックが含まれる。より具体的には、カーボンブラックの例として、超耐摩性ファーネスブラック、高耐摩性ファーネスブラック、高速押出性ファーネスブラック、微粒子ファーネスブラック、準超耐摩性ファーネスブラック、半補強性ファーネスブラック、中級作業性チャンネルブラック、難作業性チャンネルブラック、導電性チャンネルブラック及びアセチレンブラックが挙げられ、それらの内の二種以上の混合物を用いることもできる。少なくとも20m2/g、好ましくは少なくとも約35m2/gの表面積(EMSA)を有するカーボンブラックが好適であり、表面積の値は、ASTM D-1765によりセチルトリメチル-アンモニウムブロミド(CTAB)技術を用いて決定することができる。カーボンブラックは、ペレット化した形態でもよいし、ペレット化されていない綿状の塊でもよいが、ペレット化されていないカーボンブラックは特定のミキサーで用いるのに好ましいことがある。
【0073】
カーボンブラックの量は、約50phrまでとすることができ、約5〜約40phrが典型的である。カーボンブラックをシリカと共に使用する場合、シリカの量を約1phrぐらいまで低く低減することができ、シリカの量が減少するにつれて、少量の加工助剤や、場合によってはさらにシランを使用することができる。
【0074】
エラストマー配合物は、典型的にある体積分率まで充填されており、該体積分率は、エラストマーストックの全体積で除した一種又は複数種の添加した充填剤の全体積であって、約25%である。従って、補強充填剤、即ち、シリカ及びカーボンブラックの典型的な(総合)量は、約30〜約100phrである。
【0075】
シリカを補強充填剤として使用する場合、一種又は複数種のエラストマー中での優れた混合及び該エラストマーとの優れた相互作用を確保するために、シラン等のカップリング剤の添加が通例である。一般に、加えられるシランの量は、エラストマー配合物中に存在するシリカ充填剤の重量に対して、約4〜約20%の範囲である。
【0076】
カップリング剤は、A−T−G[式中、Aはシリカ充填剤の表面上の基(例えば、表面シラノール基)と物理的及び/又は化学的に結合可能な官能基を表し、Tは炭化水素基の結合を表し、Gは(例えば、硫黄含有結合を介し)エラストマーと結合可能な官能基を表す]の一般式を有することができる。かかるカップリング剤には、オルガノシラン、特に多硫化アルコキシシラン(例えば、米国特許第3,873,489号、第3,978,103号、第3,997,581号、第4,002,594号、第5,580,919号、第5,583,245号、第5,663,396号、第5,684,171号、第5,684,172号、第5,696,197号等を参照)又は上述のG及びAの官能性を持つポリオルガノシロキサンが含まれる。例示的なカップリング剤の一つは、ビス[3-(トリエトキシシリル)プロピル]テトラスルフィドである。
【0077】
加工助剤の添加により、使用するシランの量を低減することができる。加工助剤として使用される糖の脂肪酸エステルの記載については、例えば、米国特許第6,525,118号を参照されたい。加工助剤として有用な追加の充填剤には、限定されないが、クレー(含水ケイ酸アルミニウム)、タルク(含水ケイ酸マグネシウム)及びマイカ等の無機充填剤、並びに尿素及び硫酸ナトリウム等の非無機充填剤が含まれる。好ましいマイカは、他の変異体も有用であるが、主としてアルミナ、シリカ及びカリを含む。追加の充填剤を、約40phrまでの量で、好ましくは約20phrまでの量で利用することができる。
【0078】
また、他の通常のゴム添加剤を加えることもできる。例えば、プロセスオイル、可塑剤、酸化防止剤及びオゾン亀裂防止剤等の劣化防止剤、硬化剤等が挙げられる。
【0079】
全ての配合剤を、例えばバンバリーミキサー又はブラベンダーミキサー等の標準的な装置を用いて混合することができる。典型的に、混合は二以上の段階で行われる。第一段階(しばしばマスターバッチ段階と称される)中、混合は典型的に約120℃〜約130℃の温度で開始され、いわゆるドロップ温度、典型的には約165℃に達するまで上昇させる。
【0080】
配合処方にシリカが含まれる場合、一種又は複数種のシラン成分を分けて加えるため、しばしば分かれたレミル段階を採用する。この段階は、しばしば、マスターバッチ段階において用いた温度と同様の温度で、わずかに低い場合も多いが、行われ、即ち、約90℃から約150℃のドロップ温度に上昇させる。
【0081】
補強されたゴム配合物は、通常、例えば、硫黄又は過酸化物系硬化システム等の既知の加硫剤の一種以上を約0.2〜約5phr用いて硬化される。適した加硫剤の一般的な開示について関心がある読者には、カーク・オスマー,Encyclopedia of Chem. Tech.,第3版,(ワイリーインターサイエンス、ニューヨーク州、1982年),20巻,pp.365-468に載せられた概説等を教示する。加硫剤、促進剤等を最終混合段階で加える。望ましくないスコーチ及び/又は加硫の早期開始の機会を低減するため、この混合工程は、しばしば低温にて行われており、例えば、約60℃〜約65℃にて開始して約105℃〜約110℃より高くはならない。
【0082】
その後、配合された混合物を、各種部品のいずれかの形にする前に、シートに加工し(例えば、圧延し)、次いで加硫し、該加硫は、混合段階中に用いられた最高温度より約5℃〜約15℃高い温度で行われ、通常、約170℃である。
【0083】
下記に示す非限定的な実施例は、読者に本発明の実施に有用となり得る詳細な条件及び材料を提供する。明細書全体を通して百分率で与えられる全ての値は、周囲の文章が反対の意図を明確に示さない限り、重量百分率である。
【実施例】
【0084】
例では、陽性N2のパージを受け、抽出したセプタムライナー及び有孔クラウンキャップで前もって密封した乾燥ガラス容器を、全ての調製に使用した。ブタジエン(ヘキサン中20.2%)、スチレン(ヘキサン中33%)、ヘキサン、n-ブチルリチウム(ヘキサン中1.60M)、2,2-ビス(2'-テトラヒドロフリル)プロパン溶液(ヘキサン中1.6M,CaH2で貯蔵)、カリウムt-アミレート(KTA)(ヘキサン中1.0M)、3-[N,N-ジ(トリメチルシラン)アミノプロピル](ジエトキシ)メチルシラン(ヘキサン中1.0M)及びブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)溶液(へキサン溶液)を使用した。
【0085】
市販の試薬及び出発物質には、以下のものが挙げられ、その全てをシグマ−アルドリッチ社(セントルイス、ミズーリ州)から入手し、(括弧で示す純度の)特別な例において特に断りのない限り、更に精製することなく用いた。TMDIH(99%)、HDI(98%)、H-MDI(異性体の混合物、90%)、MDI(98%)、p-フェニレンジイソチオシアネート(98%)、(±)トランス-1,2-ジアミノシクロヘキサン(CHDA)(99%)、1,6-ヘキサンジアミン(99%)、(3-アミノプロピル)トリエトキシシラン(APTEOS)(99%)、3-[2-(2-アミノエチルアミノ)エチルアミノ]プロピル-トリメトキシシラン(工業銘柄)、N-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン(97%)。
【0086】
表1aに示す二つの段階(単独タイプの充填剤としてカーボンブラック)の配合処方と、表1bに示すシリカのみの配合処方とに従って調製された加硫性配合物について、試験を行った。ここで、N-フェニル-N'-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミンは酸化防止剤として作用し、N-(t-ブチル)-2-ベンゾシアゾールスルフェンアミド、2,2'-ジチオビス(ベンゾチアゾール)及びN,N'-ジフェニルグアニジンは促進剤として作用し、低アロマチックプロセスオイルは、相対的に概して少量の芳香族化合物(典型的には約20重量%未満)と相対的に特に少量の多環式芳香族化合物(典型的には約3重量%未満)とを有するエキステンダー油であった。
【0087】
【表1a】

【0088】
【表1b】

【0089】
「50℃ダイナスタットtanδ」に対応するデータは、1Hz、静的質量2kg及び動荷重1.25kg、円筒型(直径9.5mm×高さ16mm)加硫ゴムサンプル及び50℃の条件で、DynastatTM質量分析計(ダイナスタティクス インスツルメンツ社、アルバニー,ニューヨーク州)を用いて行った試験から得られた。
【0090】
「分散指数」に対応するデータは、方程式:
DI = 100 − exp[A×log10(F2H)+B]
[式中、Fは粗さピークの数/cmであり、Hは平均粗さピーク高さであり、A及びBはASTM−D 2663−89のB法からの定数である]を用いて算出された。F及びHの曲線データは、SurfanalyzerTM表面形状測定装置(マールフェデラル社、プロビデンス、ロードアイランド州)を用い、C法(ASTM−D 2663−89)に記載の手順によって、切断試料(約3.5×2×0.2cm)を分析することにより得られた。
【0091】
「バウンドラバー」に対応するデータは、J.J.ブレナンら,Rubber Chem. and Tech.,40,817(1967)により記載された手順を用いて決定された。
【0092】
例1〜3:アニオンで開始した、対照及び比較の重合体
攪拌機を備え、N2でパージした反応装置に、ヘキサン1.38kg、スチレン溶液0.41kg及びブタジエン溶液2.69kgを加えた。その反応装置にn-ブチルリチウム3.27mLを投入し、次いで2,2-ビス(2'-テトラヒドロフリル)プロパン溶液1.10mLを投入した。反応装置のジャケットを50℃に加熱し、約38分後、バッチ温度が約59℃でピークに達した。更に約30分後、重合体セメントを反応装置から乾燥ガラス容器に移した。
【0093】
対照(試料1)がイソプロパノールで停止される一方、比較(試料2)は1-メチル-2-ピロリジノン(トルエン中1.0M)約0.45mL(3×)と反応させた。両方の容器を50℃の浴槽中に約30分間置いておいた。その後、それぞれを、BHTを含有するイソプロパノール中で凝固し、ドラム乾燥させた。
【0094】
例3〜8:ジイソシアネート及び官能化剤と反応させた重合体
例1〜2において利用した添加順序を繰り返した。反応装置のジャケットを50℃に加熱し、約38分後、バッチ温度が約58℃でピークに達した。
【0095】
更に約30分後、重合体セメントに、ヘキサン40mLで希釈したTMDIH(ヘキサン中1.0M)5.2mLを加えて、別に約20分間50℃にて攪拌した。
【0096】
次に、重合体セメントを反応装置から乾燥ガラス容器に移した。各種容器には、それぞれ以下のものが加えられた。
試料3:脱イオン水0.4mL(2×)
試料4:CHDA(ヘキサン中1.0M)0.44mL(2×)
試料5:1,6-ヘキサンジアミン(ヘキサン中1.0M)0.44mL(2×)
試料6:APTEOS(ヘキサン中1.0M)0.44mL(2×)
試料7:N-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン(ヘキサン中1.0M)0.44mL(2×)
試料8:3-[2-(2-アミノエチルアミノ)エチルアミノ]プロピル-トリメトキシシラン(ヘキサン中1.0M)0.44mL(2×)
各容器を50℃の浴槽中に約30分間置いておいた。その後、それぞれを、BHTを含有するイソプロパノール中で凝固し、ドラム乾燥させた。
【0097】
表1aに示すカーボンブラックの配合処方に従って調製された加硫性配合物について、追加の試験を行った。それら配合物の物理試験の結果を、下記の表2に示す。(ムーニー粘度の測定値を100℃で取った。)
【0098】
【表2】

【0099】
表2のデータから、とりわけ、本発明に従う官能化重合体から作製した充填剤入り組成物(例3〜8)が、対照重合体から作製した充填剤入り組成物(例1)と比較して、tanδを(温度掃引、歪み掃引、及び30℃と60℃でのダイナスタットのそれぞれで)大幅に低減することが示され、その全てが低減されたヒステリシス、並びにバウンドラバー含有量の増加、引張強さの増大及びΔG'(ペイン効果)の大幅な低減を示す。更に、それらの改善は、最も重要な官能化剤として認められている1-メチル-2-ピロリジノンを用いて達成できるものに匹敵する。
【0100】
例9〜13:ジイソシアナート及び官能化剤で反応した高スチレンSBR
攪拌機を備え、N2でパージした反応装置に、ヘキサン1.75kg、スチレン溶液0.76kg及びブタジエン溶液1.98kgを加えた。その反応装置にn-ブチルリチウム3.2mLとKTA0.32mLとを投入し、次いで2,2-ビス(2'-テトラヒドロフリル)プロパン溶液0.17mLを投入した。反応装置のジャケットを約82℃に加熱し、約22分後、バッチ温度が約91℃でピークに達した。50℃にて更に約30分後、重合体セメント(色はピンクであった)を反応装置から乾燥ガラス容器に移した。
【0101】
対照(試料9)をイソプロパノールで停止した後、その容器を65℃の浴槽中に約60分間置いておいた。その後、重合体セメントを、BHTを含有するイソプロパノール中で凝固し、ドラム乾燥させた。
【0102】
上述の手順を実質的に繰り返した。反応装置のジャケットを約82℃に加熱し、約20分間保った後、バッチ温度が約90℃でピークに達した。50℃にて更に約30分後、重合体セメントに、ヘキサン40mLで希釈したTMDIH(ヘキサン中1.0M)5.2mLを加えて、50℃にて更に約20分間攪拌した。次に、重合体セメントを反応装置から乾燥ガラス容器に移した。各種容器には、それぞれ以下のものが加えられた。
試料10:脱イオン水0.4mL(3×)
試料11:N-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン(ヘキサン中1.0M)0.45(4×)mL
試料12:3-[2-(2-アミノエチルアミノ)エチルアミノ]プロピル-トリメトキシシラン(ヘキサン中1.0M)0.45(4×)
各容器を50℃の浴槽中に約40分間置いておいた。その後、それぞれを、BHTを含有するイソプロパノール中で凝固し、ドラム乾燥させた。
【0103】
表1bに示すシリカの配合処方に従って調製された加硫性配合物について、追加の試験を行った。それら配合物の物理試験の結果を、下記の表3に示す。(ムーニー粘度の測定値を100℃で取った。)
【0104】
【表3】

【0105】
表4のデータから、とりわけ、本発明に従う官能化重合体から作製した充填剤入り組成物(例11〜12)が、対照重合体から作製した充填剤入り組成物(例9)及び比較重合体から作製したもの(例10)と比較して、60℃でのtanδを(温度掃引、歪み掃引、及びダイナスタットのそれぞれで)大幅に低減することが示され、その全てが、低減されたヒステリシス及び改良された湿潤牽引力(0℃でのtanδの増加、温度掃引及びダイナスタットの両方)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式:π−Q−Jm[式中、πはジエン単量体単位を含む重合体鎖であり、Jは少なくとも一つのヘテロ原子を含む官能基であり、mは1〜3を含む整数であり、Qは一般式:
−C(Z)NH−R−[NHC(Z)]m
(式中、各Zは独立して酸素原子又は硫黄原子であり、Rは置換又は非置換の芳香族ヒドロカルビレン基又はC1〜C40脂肪族ヒドロカルビレン基である)の結合基である]を有する官能化重合体。
【請求項2】
Jが、O、S、N及びSiから選択される少なくとも一つのヘテロ原子を含む求核試薬のラジカルであることを特徴とする請求項1に記載の官能化重合体。
【請求項3】
πが更にペンダント芳香族基を含み、任意には、前記芳香族基が前記重合体に沿って実質的にランダムに分布していることを特徴とする請求項1に記載の官能化重合体。
【請求項4】
任意に実質的に線状である官能化重合体の製造方法であって、
a)末端イソ(チオ)シアネート官能性を有する重合体を提供するため、活性末端重合体をポリイソ(チオ)シアネートと反応させることと、
b)前記官能化重合体を提供するため、前記末端イソ(チオ)シアネート官能性を有する重合体を、O、S、N及びSiから選択される少なくとも二つのヘテロ原子を含む求核試薬と反応させることと
を含むことを特徴とする方法。
【請求項5】
前記活性末端重合体がスチレン単量体単位を含み、結合スチレンの重量百分率が少なくとも20%であることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
更に、加硫ゴムを提供するため、前記官能化重合体と一種以上の粒状充填剤とをブレンドすることを含むことを特徴とする請求項4に記載の方法。

【公開番号】特開2009−114441(P2009−114441A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−272019(P2008−272019)
【出願日】平成20年10月22日(2008.10.22)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】