説明

官能基転移核酸を用いる迅速なRNA修飾方法

【課題】RNAを、配列特異的、かつ部位特異的に、迅速に修飾するための、新規な化合物の提供。
【解決手段】下記一般式で示される化合物。


上記の化合物と、6-チオグアノシンを含むオリゴヌクレオチドとを反応させて官能基転移核酸を製造し、得られた官能基転移核酸とRNAとを反応させ、機能分子の導入されたRNAを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RNAの化学修飾に関する。本発明により、RNAに、部位特異的にビオチンや各種蛍光団等の機能分子を導入することができる。本発明は、RNAの構造研究及び機能研究、特異性の高い遺伝子操作、一分子イメージング等の分野で有用である。
【従来技術】
【0002】
非天然型の蛍光性物質などを共有結合により導入する化学修飾RNAは、RNAの構造研究及び機能研究、特異性の高い遺伝子操作、一分子イメージングなどに重要な役割を果たしている。一般的にRNAの修飾体は、化学合成若しくは酵素、又はあそれらの組み合わせにより調製されるが、このような方法は、大きなRNAや生体から単離したRNAそのものの化学修飾には利用できないのが欠点である。
【0003】
化学合成した修飾RNAを用いてより大きなRNAを修飾する方法として、DNAを鋳型として別のRNAとT4 DNA リガーゼを用いて結合させるライゲーション法(非特許文献1)や5-vinyl-2’-deoxyuridineとの光ライゲーションを行なう方法(非特許文献2)が報告されている。また、RNAの配列内部の修飾法としてはライゲーション能のあるDNA触媒を用い、修飾したRNA鎖を付加する方法が報告されている(非特許文献3)。これらの方法は、光照射の必要性や、大きな分子であるDNA触媒を用いる点、又は配列の制限があるなど、適用範囲や条件が限られている。
【0004】
人工的に設計された塩基対を用いてRNAポリメラーゼを用いてRNAに導入する方法も立案されているが、天然RNAの特定の箇所に人工塩基を特異的に導入するのは困難である(非特許文献4)。様々な手法が検討されてきたが、任意の構造の化合物を迅速かつ簡便に任意のRNA箇所に特異的に導入する方法はない。
【0005】
我々は、化学合成の容易なオリゴヌクレオチドに化学反応性分子を組み込み、配列特異的な化学反応を起こすことによって部位特異的にRNAを修飾する方法に着目して新しい手法の開発を行なってきた(非特許文献5)。基本戦略ではオリゴヌクレオチドと相補的な配列の標的RNAとの複合体形成によって反応基と塩基(N)を接近させ、その間の転移反応を容易にするというものである(図1)。基礎検討の結果、転移に相応しい構造として2-ビニリデン-1,3-ジケトン体を決定した(一般構造式(1))(非特許文献6)。中性条件下ではDNA-RNA鎖間転移反応はRNA中のシトシン-2-アミノ基に特異的に起こる(一般反応式2))(非特許文献7)。一方、同じ転移反応をpH9.6のアルカリ性条件下で行なうと、グアニン塩基に対する転移反応が選択的に大きく加速され、選択性が変化した(一般反応式3)(非特許文献8及び9)。この方法ではプローブとしての官能基転移核酸と標的RNAを混合するだけで迅速なRNAの部位及び塩基特異的化学修飾が実施できるものであり、従来報告されていない方法である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Moore, M.J., Query, C.C. (2000) Methods Enzymol. 317 109-123
【非特許文献2】Yoshimura, Y., Noguchi, Y., Fujimoto, K. (2007) Org. Biomol. Chem. 5, 139-142
【非特許文献3】Baum, D. A., and Silverman, S. K. (2007) Angew. Chem. Int. Ed. 46, 3502 -3504
【非特許文献4】Mitsui, T., Kimoto, M., Harada, Y., Yokoyama, S., Hirao I. (2005) J. Am. Chem. Soc., 127, 8652-8658
【非特許文献5】Sasaki, S., and Nagatsugi, F. (2006) Curr. Opin. Chem. Biol. 10, 615-621
【非特許文献6】Onizuka K., Taniguchi Y., Sasaki S. (2007) Nucleic Acids Symp. Ser., 51, 5-6
【非特許文献7】Onizuka K, Taniguchi Y., Sasaki S., (2009) Bioconjugate Chem. 20, 799-803
【非特許文献8】Onizuka K, Taniguchi Y., Sasaki S. (2010) Nucleic Acids Res.38, 1760-1766
【非特許文献9】Onizuka K, Taniguchi Y., Sasaki S., (2010) Bioconjugate Chem.21, 1508-1512.
【発明の開示】
【0007】
本発明では、このような複合体内の官能基転移反応を基盤とし、迅速なRNA修飾を実現するため、従来合成されていないメチリデンジケトン体を合成した。さらに、これらの化合物で修飾した6-チオグアノシンを含む反応性オリゴヌクレオチドをプローブとして用いることによって、標的RNA配列特異的に、かつシトシン-4-アミノ基又はグアニン-2-アミノ基特異的に、ジケトン体を転移させることによって、迅速なRNA修飾が達成できることを見出した。さらに、アセチレン基を有する化合物で修飾したRNAを、アジド基を含む化合物とHuisgen環化反応を行なうことで、自由に基を選択してRNAを修飾できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
本発明は、以下を提供する:
[1] 下式により表される化合物
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、Xは、Br、Cl又はIであり;lは1〜7の整数であり;mは0〜4の整数であり;nは1〜4の整数である。)。
[2] 下記のいずれかの構造を有する、[1]に記載の化合物。
【0011】
【化2】

【0012】
【化3】

【0013】
[3] 下式で表される、化合物
【0014】
【化4】

【0015】
(式中、R1は、R1は、H、C1〜6アルキル、又はC1〜6アリールであり;Xは、Br、Cl又はIである。)。
[4] 下記の構造を有する、[3]に記載の化合物。
【0016】
【化5】

【0017】
[5] 下式により表される化合物
【0018】
【化6】

【0019】
(式中、R3は標識基であり、lは1〜7の整数であり;mは0〜4の整数であり;nは1〜4の整数である。)。
[6] 式中、R3CO-が下記の何れか一の構造であり;
【0020】
【化7】

【0021】
lが5であり、mが0又は2であり、nが2である、[5]に記載の化合物。
[7] [3]又は[4]と、[5]又は[6]の化合物とを反応させて、ヒュスゲン(Huisgen)環化により1,2,3-トリアゾール誘導体を生成させる工程を含む、1,2,3-トリアゾール誘導体の製造方法。
[8] [1]又は[2]に記載の化合物と、6-チオグアノシンを含むオリゴヌクレオチドとを反応させる工程を含む、官能基転移核酸の製造方法。
[9] [3]又は[4]に記載の化合物、と6-チオグアノシンを含むオリゴヌクレオチドとを反応させる工程を含む、官能基転移核酸の製造方法。
[10] [7]に記載の製造方法で得られた1,2,3-トリアゾール誘導体と、6-チオグアノシンを含むオリゴヌクレオチドとを反応させる工程を含む、官能基転移核酸の製造方法。
[11] [8]〜[10]のいずれか1項に記載の製造方法で得られた官能基転移核酸、及びRNAとを反応させる工程を含む、機能分子の導入されたRNAの製造方法。
[12] [9]に記載の方法で得られた官能基転移核酸と、RNAとを反応させて機能分子の導入されたRNAを得て;そして
機能分子の導入されたRNAと、請求項5又は6に記載の化合物とを反応させ、Huisgen環化により1,2,3-トリアゾール誘導体を生成させる工程を含む、標識されたRNAの製造方法。
【発明を実施するための態様】
【0022】
本発明者らの、基本戦略ではオリゴヌクレオチドと相補的な配列の標的RNAとの複合体形成によって、反応基と塩基(N)を接近させ、その間の転移反応を容易にするというものである。
【0023】
【化8】

【0024】
本発明者らは、基礎検討の結果、転移に相応しい構造として2-ビニリデン-1,3-ジケトン体構造
【0025】
【化9】

【0026】
を決定している(前掲非特許文献6)。
本発明の一態様においては、上記のジケトン体構造を含む式Iで表される化合物を使用する。
【0027】
【化10】

【0028】
式中、Xは、Br、Cl又はIであり、好ましくはIである。Xがいずれの場合においても、n、m及びlは、それぞれ独立に任意の整数であるが、特に好ましい態様では、lが5であり、mが0又は2であり、nが2である。これらは、これまで合成されていなかった新規化合物である。
【0029】
式Iで表わされる化合物の製造スキームを示す:
【0030】
【化11】

【0031】
本発明の別の一態様においては、上記のジケトン体構造を含む、式IIで表される化合物を使用する。
【0032】
【化12】

【0033】
式中、X1はBr、Cl又はIであり、好ましくはX は Clである。X1がいずれの場合においても、R1は、H、低級アルキル(C1〜6アルキル)又は低級アリール(C1〜6アリール)であり、好ましくはC1〜3アルキルであり、より好ましくはメチルである。いずれの場合においても、アセチレン基はベンゼン環の任意の位置の結合体であり、好ましくは3位置の結合体である。これらは、これまで合成されていなかった新規化合物である。
【0034】
式IIで表わされる化合物の製造スキームを以下に示す:
【0035】
【化13】

【0036】
本発明の別の一態様においては、上記のジケトン体構造を含む、式IIIで表される化合物を使用する。
【0037】
【化14】

【0038】
式中、R1は、式IIにおいて定義したとおりである。R1がいずれの場合においても、X2は、Br、Cl又はIであり、好ましくはIである。いずれの場合においても、R4は、次に述べる式IVで表わされる化合物から誘導される基である。これらは、これまで合成されていなかった新規化合物である。
【0039】
式IIIで表わされる化合物は、上述の式IIで表わされるアセチレン化合物と、下記の式IVで表わされるアジド化合物とを反応させて、Huisgen環化によって製造することができる。
【0040】
【化15】

【0041】
式中、R3は、標識基である。R3がいずれの場合においても、n、m及びlは、それぞれ独立に任意の整数であるが、特に好ましい態様では、lが5であり、mが0又は2であり、nが2である。いずれの場合においても、標識基は、蛍光基、ジゴキシゲニン、ジニトロフェニル基、放射性同位体を含む基、MRI造影剤、酵素(例えば、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、グルコースオキシダーゼ)、ビオチン、化学ルミネセンス基(化学反応中に光の放出により検出可能な標識)、抗体とすることができる。
【0042】
本発明で「蛍光基」というときは、特別な場合を除き、ある波長の電磁照射(光、X線等)を吸収し、吸収されたエネルギーをより長波長な放射線として再放射することができる基をいう。蛍光基には、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、テキサスレッド(TR;スルホローダミン)、ダンシル(Dns;(5-ジメチルアミノ)ナフタレン-1-スルホニル)、カルボシアニン(Cy3、Cy5、PE-Cy5)、DOXYL(N-オキシ-4,4-ジメチルオキサゾリジン)、PROXYL(N-オキシル-2,2,5,5-テトラメチルピロリジン)、TEMPO(N-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン)、ウンベリフェロン、ジニトロフェニル、アクリジン、クマリン、エリトロシン、ローダミン、テトラメチルローダミン、若しくは7-ニトロベンゾ-2-オキサ-1-ジアゾール (NBD)、又はそれから誘導される基が含まれる。
【0043】
標識基R3を含むR3CO-の特に好ましい例は、下記のいずれか一である。
【0044】
【化16】

【0045】
式IVで表わされる化合物の製造スキームを以下に示す:
【0046】
【化17】

【0047】
本発明においては、式I〜IIIのいずれか一で表される化合物を用い、これらの化合物を標的RNA配列と相補的な配列を含む6−チオグアノシンを含むオリゴヌクレオチドと反応させて官能基転移オリゴヌクレオチドを合成する。
【0048】
【化18】

【0049】
本発明では、この官能基転移オリゴヌクレオチドを標的RNAに反応させることによって、規定された構造式を有する官能基によって化学修飾されたRNAを得ることができる。
修飾反応は、中性条件下(pH6.5〜7.5、好ましくはpH6.6〜7.2、より好ましくはpH6.7〜6.9)ではシトシン−4−アミノ基修飾体を選択的に得る。
【0050】
【化19】

【0051】
一方、アルカリ性条件下(pH8.0〜12、好ましくはpH9.0〜11、より好ましくはpH9.4〜9.8)ではグアニン−2−アミノ基の修飾体を選択的に得る。
【0052】
【化20】

【0053】
式Iで示された化合物によって修飾されたシトシン−4−アミノ基修飾RNA及びグアニン−2−アミノ基の修飾RNAは、各種のビオチン融合タンパク質の基質となり、既存の検出法を適用することができる。
【0054】
式IIを用いて中性条件下(pH6.5〜7.5、好ましくはpH6.6〜7.2、より好ましくはpH6.7〜6.9)で得られたシトシン−4−アミノ基修飾RNA、及びアルカリ条件下(pH8.0〜12、好ましくはpH9.0〜11、より好ましくはpH9.4〜9.8)で得られたグアニン修飾RNAと、ビオチンや各種蛍光基を含む式IVで示されるアジド体とを反応させ、Huisgen環化を行なうことで、オチンや各種蛍光基でRNAを修飾することができる。
【0055】
【化21】

【0056】
【化22】

【0057】
「Huisgen環化(反応)」とは、アルキン類と有機アジド化合物との[3+2]型の付加環化反応をいい、1,2,3-トリアゾール誘導体を与える反応である。Huisgen環化反応は、きわめて高収率かつ高い官能基選択性で進行し、他の官能基の存在に関わらず、ほぼアルキンとアジドのみが反応し、反応は不可逆的である。溶媒を選ばず、水中でも反応は進行する。このための反応条件は、必要な触媒も含めて、当業者であれば、適宜決定することができる。
【0058】
なお、本発明により、アルキン類でRNAを修飾してから環化する態様と、環化して得られた基によりRNA修飾する態様とが提供されるが、前者は、最初の修飾反応が迅速に進行する点では好ましいが、その後の環化で銅イオンを必要とするため、銅イオンの残存が問題となる場合には適さない。後者は、導入する置換基の大きさによって転移反応が遅くなる可能性があるが、修飾後の反応を要さず、得られた修飾RNAを直ちに利用できる点で好ましい。
【0059】
本発明を官能基転移核酸を使った迅速なRNA修飾に用いるために、標的RNA配列と相補的な配列を含む6−チオグアノシンを含むオリゴヌクレオチド
【0060】
【化23】

【0061】
を用いる(式中、ODNはオリゴヌクレオチド残基である。)。
用いるオリゴヌクレオチドの配列は、標的RNAのヌクレオチド配列に相補的なものであり、その長さは、RNAとの間で形成される2本鎖が安定であれば、任意とすることができる。例えば、8〜30塩基長とすることができ、好ましくは10〜25塩基長であり、さらに好ましくは16〜20塩基長である。また、用いるオリゴヌクレオチドは、標的RNAにおいて修飾したい塩基に対して、相補する位置が6-チオグアノシンとなるように設計するが、6-チオグアノシンの位置は、16〜20塩基長のオリゴヌクレオチド鎖の3'末端又は5'末端は好ましくなく、それらの末端から5番目くらいより内側が好ましい。
【0062】
本発明においては、標的RNAは、種々の配列、長さ、由来のものであり得る。標的RNAは検出のため5'-末端にFAM基を導入してもよい。
高分子のRNA(例えば、アポリポタンパク質BのRNA)を修飾しようとする場合、アルカリ性条件での長時間の修飾反応は、RNA鎖の切断を生じさせる可能性があることに留意するとよい。切断の確率は低いとしても、鎖切断は、修飾RNAの利用の障害になる可能性がある。したがって、修飾反応は、中性で行なうことが好ましい場合がある。当業者は、NiCl2を共存させた中性条件での修飾反応についての報告(前掲非特許文献9)等を参照することができる。
【0063】
要約すると、本発明の方法は従来の方法と比較し次のような多くの優位点がある。
(i) 官能基転移核酸の合成は極めて容易で、迅速であること、
(ii) 転移させる官能基は蛍光性物質やアビジンなど融通がきくこと、
(iii)官能基転移核酸と標的RNAを混ぜるだけで高収率にRNA修飾が可能なこと、
(iv)原理的に任意のRNA配列を標的にできること、とりわけ従来法では問題のあった長いRNAの標識も可能であること、
(v) 中性及び弱酸性条件において部位特異的にシトシン塩基選択的に修飾できること、
(vi)アルカリ性条件において部位特異的にグアニン塩基選択的に修飾できること、
(vii) とりわけアルカリ性条件におけるグアニン塩基修飾反応は非常に迅速に進行すること、
(viii)ビオチン修飾RNAは市販のストレプトアビジン結合タンパク質の活用が可能なこと、とりわけアルカリフォスファターゼ結合アビジンの利用では検出感度が飛躍的に向上できること。
【0064】
本発明により提供される最終生成物である修飾RNAには、修飾後に、蛍光タンパク質、発光タンパク質、所望の低分子化合物等を、適宜導入できるという共通の特徴がある。
【実施例】
【0065】
[実施例1-1:式Iで表される化合物の製造例]
ビオチン(101 mg, 0.413 mmol)のDMF溶液(5 mL)にN-hydroxysuccinimide (51 mg, 0.443 mmol)とEDC (1-ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide, 92 mg, 0.48 mmol)を加えて室温で24時間攪拌した。DMFを減圧留去し、得られた残渣をMeOHで洗浄し白色固体を得る。これをDMF(3 mL)に溶解し、6-(ethylenedioxy)-l-hexylamine (Gary F. Musso, Gerard R. Scarlato, Soumitra S. Ghosh, (1992) Bioconjugate Chem., 3, 88-90) (189 mg, 0.452 mmol)の DMF 溶液(1mL)に加え21時間攪拌した。DMFを減圧留去し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、白色固体を得た(122 mg, 77%)。この化合物(225 mg, 0.584 mmol)をAcOH-H2O (2.5 mL-2.5 mL) に溶解し、室温で5時間反応させた。水10 mLで希釈後、凍結乾燥し白色固体を得た。この固体にBoc2O (1.91 g, 8.75 mmol)のCH2Cl2溶液(7.5 mL)を滴下し、さらにDMAP (N,N-dimethylaminopyridine) (535 mg, 4.38 mmol)及びTEA (triethylamine)(1.2 mL, 8.61 mol)を加え、24時間反応させた。反応液に飽和NH4Cl水溶液(20 mL)を加えAcOEt (20 mL x 3)で抽出し、有機層をNa2SO4で乾燥、エバポレーションして得られる粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、オレンジ色油状物質を得た(175 mg)。この物質をCH2Cl2 (2 mL)に溶解し、MgI2 (494 mg, 1.61 mmol)を加えて5分間攪拌した。この溶液を0℃に冷却し、1-phenylpropynone (19.3 mg)のCH2Cl2溶液(6 mL)を15分かけて滴下し、この温度で1時間攪拌した。反応液に5% NaHCO3 水溶液 (20 mL)を加え CH2Cl2 (15 ml×3)で抽出した。合わせた有機層をNa2SO4 で乾燥、エバポレーションして得られる粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、黄色油状物質を得た(118 mg)。この化合物をCH2Cl2溶液(5 mL)に溶解し、DMP (Dess-Martin Periodinane, 188 mg, 0.443 mmol)を加え、3時間攪拌した。反応液に20% Na2S2O3 水溶液 (20 mL)を加え CHCl3 (15 ml×3)で抽出した。合わせた有機層を5% NaHCO3 水溶液、飽和食塩水で洗浄し、Na2SO4 で乾燥、エバポレーションして得られる粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、黄色油状物質を得た(115 mg)。この物質のCH2Cl2 (2.25 mL)溶液にTFA (trifluoroacetic acid)(0.25 mL)を滴下し、1.5時間反応させた。反応液に5% NaHCO3 水溶液 (10 mL)を加え CH2Cl2 (15 ml×3)で抽出した。合わせた有機層をNa2SO4 で乾燥、エバポレーションして得られる粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、(16)を黄色油状物質として得た(22.4 mg, 5段階で6.4%)。
【0066】
【数1】

【0067】
【化24】

【0068】
[実施例2-2:式Iで表される化合物の製造例]
N-Fmoc-[2-(2-aminoethoxy)ethoxy]acetic acid (346 mg, 0.90 mmol) のDMF (N,N-dimethylformamide, 3 mL) 溶液に6-(ethylenedioxy)-l-hexylamine (Gary F. Musso, Gerard R. Scarlato, Soumitra S. Ghosh, (1992) Bioconjugate Chem., 3, 88-90) (140 mg, 0.82 mmol)、DIPEA (N,N-diisopropylethylamine, 430 μl , 2.47 mmol) 、TBTU (O-(benzotriazol-1-yl)-N,N,N',N'-tetramethyluronium tetrafluoroborate, 288 mg, 0.90 mmol)を加え、反応液を室温で20分攪拌した。反応液に5% NaHCO3水溶液(30 mL)を加え、AcOEt (60 mL)で抽出した。有機層をNa2SO4で乾燥、エバポレーションして得られる粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、無色透明油状物を得た(306 mg, 71%)。
【0069】
【数2】

【0070】
Ar気流下、室温にて上記物質 (200 mg, 0.380 mmol)のDMF溶液(2 mL)に、1-octanethiol (660 μl, 3.80 mmol ) , TBAF・3H2O (tetrabutylammomium fluoride, 240 mg, 0.761 mmol)を加え攪拌した。5 min後、この反応溶液にbis(1-methyl-1H-tetrazole-5-yl)disulfide (524 mg, 2.28 mmol)を加え、3分攪拌した。その後、DIPEA (240 μl, 1.38 mmol)、N-Fmoc-[2-(2-aminoethoxy)ethoxy]acetic acid (176 mg, 0.46 mmol)及びTBTU (146 mg, 0.455 mmol)を加え、15分攪拌した。反応液に5% NaHCO3 水溶液 (20 mL)を加え AcOEt (15 ml×3)で抽出した。合わせた有機層をNa2SO4 で乾燥、エバポレーションして得られる粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、化合物(17)を得た(190 mg, 74%)。
【0071】
【数3】

【0072】
【化25】

【0073】
Ar気流下、室温にて上記生成物(17) (200 mg, 0.380 mmol)の DMF溶液(1 mL)に、1-octanethiol (205 μl, 1.18 mmol ) , TBAF・3H2O (75 mg, 0.248 mmol)を加え攪拌した。5 min後、この反応溶液にbis(1-methyl-1H-tetrazole-5-yl)disulfide (164 mg, 0.71 mmol)を加え、3分攪拌した。その後、DIPEA (75 μl, 0.43 mmol)、biotin (35 mg, 0.14 mmol)及びTBTU (46 mg, 0.143 mmol)を加え、30分攪拌した。反応液に5% NaHCO3 水溶液 (20 mL)を加え CH2Cl2 (15 ml×5)で抽出した。合わせた有機層をNa2SO4 で乾燥、エバポレーションして得られる粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、化合物(18)を得た(62 mg, 77%)。
【0074】
【数4】

【0075】
【化26】

【0076】
上記化合物(18)(20 mg, 0.0296 mmol)のAcOH-H2O 溶液(0.8 mM-0.2 mL)を37℃で11時間攪拌した。反応液に5% NaHCO3 水溶液 (10 mL)を加え CH2Cl2 (10 ml×3)で抽出した。合わせた有機層を飽和NH4Cl水溶液 (15 mL)で洗浄、Na2SO4 で乾燥、エバポレーションして得られる粗生成物を得た(21.4 mg)。これはそのまま次の反応に用いた。
【0077】
上記生成物をCH3CNで共沸後、 CH2Cl2(1 mL)に溶解した。Ar気流下0℃にてこの溶液にMgI2 (82.3 mg, 0.296 mmol)と1-phenylpropynone (19.3 mg)を加え、さらに室温で10分攪拌した。その後、さらに1-phenylpropynone (19.3 mg)を追加し室温にて1時間攪拌した。反応液に5% NaHCO3 水溶液 (10 mL)を加え CH2Cl2 (10 ml×4)で抽出した。合わせた有機層をNa2SO4 で乾燥、エバポレーションして得られる粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、黄色油状物質を得た(10.7mg)。この化合物(2 mg, 0.00225 mmol)の CH2Cl2溶液(0.5 mL)にDMP (Dess-Martin Periodinane, 2.9 mg, 0.00684 mmol)を加え、1時間攪拌した。反応液に5% NaHCO3 水溶液 (8 mL)を加え CH2Cl2 (10 ml×4)で抽出した。合わせた有機層をNa2SO4 で乾燥、エバポレーションして得られる粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、化合物(19)を淡黄色油状物質として得た(0.4 mg)。
【0078】
【数5】

【0079】
【化27】

【0080】
[実施例2:式IIで表される化合物の製造例]
Ar気流下、室温にて3-ethynylphenylmethanol (Q. Zhang and J. M. Takacs, (2008) Org. Lett.,10, 545-548) (61 mg, 0.462 mmol)の CH2Cl2溶液(1 mL)にDMP (Dess-Martin Periodinane, 392 mg, 0.924 mmol)を加え、1時間攪拌した。反応液に20% Na2S2O3水溶液 (15 ml)と5%NaHCO3水溶液 (15 ml)を加えAcOEt (20 ml×3)で抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄、Na2SO4 で乾燥、エバポレーションして得られる粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、黄色油状物質を得た(58mg, 96%)。
【0081】
上記化合物 (41 mg, 0.315 mmol), dimethyl sulfide (2.3 μl, 0.031 mmol), 3-butyn-2-one (74 μl, 0.946 mmol) のCH2Cl2溶液 (230 μL)にAr気流下、0oCにてTiCl4の CH2Cl2溶液 (1M, 315 μl, 0.315 mmol)をゆっくり加え2.5時間攪拌した。反応液に5%NaHCO3水溶液 (0.5 mL)を加え、析出物をセライトろ過にて取り除いた。ろ液はNa2SO4 で乾燥、エバポレーションして得られる粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、赤褐色油状物質を得た(56.5 mg, 76 %)
上記化合物(28 mg, 0.119 mmol)の CH2Cl2溶液(1.5 mL)にDMP (Dess-Martin Periodinane, 101 mg, 0.238 mmol)を加え、4時間攪拌した。反応液に20% Na2S2O3水溶液を加え AcOEt (10 ml×3)で抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄、Na2SO4 で乾燥、エバポレーションして得られる粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、化合物(20)を白色固体として得た(26.4 mg, 95%)。
【0082】
【数6】

【0083】
【化28】

【0084】
[実施例3:式IIIで表される化合物の製造例]
化合物(20)のDMSO/H2O混合溶液(180 ・L-20 ・L)に構造式(5)で規定される化合物(22)(5.7 mg, 0.012 mmol)、アスコルビン酸ナトリウム(0.4 mg, 0.0020 mmol )、TBTA (1.1 mg, 0.0021 mmol)、CuSO4・5H2O (0.3 mg, 0.0012 mmol)を順に加え、45分間攪拌した。反応液にAcOEt/Et2O (1:1, 10 mL)を加え希釈し、5% HCl aq (10 mL)を加えた。水層をAcOEt (10 ml×2)で抽出し、合わせた有機層を飽和食塩水洗浄、Na2SO4 で乾燥、エバポレーションして得られる粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、化合物(21)を黄色固体として得た (6.4 mg, 90 %)。
【0085】
【数7】

【0086】
【化29】

【0087】
[実施例4-1:式IVで表される化合物の製造例]
N-Fmoc-[2-(2-aminoethoxy)ethoxy]acetic acid (510 mg, 1.32 mmol) のDMF (5 mL) 溶液に3-azidopropylamine (0.58 M in DMF, 3.4 mL)、DIPEA (690 μL , 2.47 mmol) 、TBTU (509 mg, 1.59 mmol)を加え、反応液を室温で30分攪拌した。反応液に5% NaHCO3水溶液(50 mL)を加え、Et2O (30 mL x 3)で抽出した。有機層をNa2SO4で乾燥、エバポレーションして得られる粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、化合物(22)を無色透明油状物質として得た(359 mg, 58%)。
【0088】
【数8】

【0089】
【化30】

【0090】
[実施例4-2:式IVで表される化合物の製造例]
Ar気流下、室温にて5-carboxyfluorescein (28 mg, 0.074 mmol) のDMF溶液( 0.6 mL)に3-azidopropylamine (0.58 M in DMF, 190 μL, 0.11 mmol ), DIPEA (40 μL, 0.23 mmol、TBTU (36 mg, 0.11 mmol)を加え、2時間攪拌した。反応液をAcOEt/Et2O (1 : 1, 10 ml)で希釈し、10% HCl aq (5 ml)が加え、AcOEt/Et2O (1 : 1, 10 ml×2)で抽出した。合わせた有機層を飽和食塩水で洗浄し、Na2SO4 で乾燥し、エバポレーションで得た組成生物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、化合物 (23)を得た(17 mg, 50%)。
【0091】
【数9】

【0092】
【化31】

【0093】
[実施例4-3:式IVで表される化合物の製造例]
1-Pyrenebutyric acid N-hydroxysuccinimide (100 mg, 0.259 mmol)と3-azidopropylamine(0.58 M in DMF, 670 μL, 0.390 mmol)のDMF溶液(0.67 mL)室温で24時間攪拌した。反応液にEt2O (15 ml)を加え希釈し、10% NaOH aq (15 mL)を加え、水層をEt2O (15 ml×2)で抽出し、有機層を飽和食塩水で洗浄、Na2SO4 乾燥、エバポレーションにより得た組成生物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、(24)を淡黄色固体として得た(95.7 mg, 99%)。
【0094】
【数10】

【0095】
【化32】

【0096】
[実施例4-4:式IVで表される化合物の製造例]
(23)の合成と同様に行い、橙色固体(25)を83%で得た。
【0097】
【数11】

【0098】
【化33】

【0099】
[実施例4-5:式IVで表される化合物の製造例]
Ar気流下、室温にて(22)(44 mg, 0.0941 mmol)の DMF溶液(1 mL)に、1-octanethiol (160 μl, 0.922 mmol)、TBAF・3H2O(59 mg, 0.187 mmol)を加え5分間攪拌した。反応溶液にbis(1-methyl-1H-tetrazole-5-yl)disulfide (130 mg, 0.565 mmol)を加え加え、3分間攪拌し、その後、DIPEA (60 μl, 0.344 mmol)、biotin (28 mg, 0.115 mmol), TBTU (36 mg, 0.112 mmol)を順に加え、30分間攪拌した。反応液に5% NaHCO3 水溶液(15 ml)を加え、CH2Cl2 (10 ml×4)で抽出した。合わせた有機層をNa2SO4乾燥、エバポレーションして得られる組成生物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して、(26)を白色固体として得た(26.4 mg, 60%)。
【0100】
【数12】

【0101】
【化34】

【0102】
[実施例4-6:式IVで表される化合物の製造例]
(26)の合成と同様に行い(27)を白色固体として得た(83%)。
【0103】
【数13】

【0104】
【化35】

【0105】
[実施例4-7:式IVで表される化合物の製造例]
(26)の合成と同様に行い(28)を黄色油状物質として得た(15%)。
【0106】
【数14】

【0107】
【化36】

【0108】
[実施例5:式Iで表される化合物を用いたRNAの修飾]
〔1〕官能基転移人工核酸の合成
【0109】
【化37】

【0110】
文献(Onizuka K, Taniguchi Y., Sasaki S., Nucleos Nucleot Nucl.(2009) 28, 752-760)に従って合成した6−チオグアノシンを含むオリゴヌクレオチド(6) (配列は5’-d(CTTT-X-TTCTCCTTTCT, Xは6−チオグアノシン)(630 pmol水溶液、1.0μL)を炭酸緩衝液(125 mM, 0.84μL)に加え、さらに(19)のDMSO溶液(5 nmol/μL, 0.63μL)、MilliQ水1.73・μLを加えたあと、室温で10分静置した。この反応液の各濃度は、(6)が150 μM、(19)が750 μM、炭酸カリウム25 mMであった。
【0111】
〔2〕アルカリ性条件下でのRNAへの官能基転移反応
【0112】
【化38】

【0113】
前記〔1〕で得られた反応液を、各5’- FAM-r(agaaaggagaaYaaag, Yはグアニン、シトシン、アデニン又はウラシル)(300 pmol/μL, 0.7μL)を100 mM NaClを含む炭酸緩衝液溶液に加え、MilliQ水 15.4μLを加え、炭酸カリウム水溶液で反応液をpH9.6に調整した。各成分の濃度は官能基転移核酸(15 μM)、RNA基質(10 μM)、炭酸カリウム(50 mM)、NaCl (100 mM)であった。反応は25℃で行なった。
【0114】
〔3〕反応の進行の追跡
反応の進行をHPLCで追跡した(HPLCの条件:カラム: SHISEIDO C18, 4.6 x 250 mm;溶出液: A: 0.1 M TEAA 緩衝液, B: CH3CN, B: 10% to 30% /20 min, リニアグラジェント; 流速: 1.0 ml/min; 検出:UV 254 nm)。
【0115】
【化39】

【0116】
上図〔1〕の反応後10分後のHPLCチャートは、未修飾の6−チオグアノシン体(6)がほぼ消失し、官能基転移人工核酸(7)が生成したことを示した。収率は95%以上であった。(7)の構造異性体のピークが見られるが、反応に影響がないためこのまま次の反応に用いた。上図〔2〕の反応後90分後のHPLCチャートは、標的RNA(11)のピークがほぼ消失し、修飾RNA(12)が生成したことを示した。修飾収率は約93%であった。
【0117】
MALDI-TOF/MS (m/e): (19)の転移反応で得られた官能基転移人工核酸(7)理論値 5527.40 [M-H]-;実測値5527.65. グアニン修飾RNA(11):理論値 6057.13 [M-H]-;実測値 6057.34.
〔4〕中性条件下でのRNAへの官能基転移反応
【0118】
【化40】

【0119】
前記〔1〕で得られた(19)を含む転移反応液に酢酸を加えてpHを6.4に調整する以外は〔2〕と同様にして、相補的な配列のRNAに官能基を転移させた。得られたシトシン修飾RNAのMALDI-TOF/MS (m/e):理論値 6017.1 [M-H]-;実測値 6016.9.
〔5〕塩基特異性
下図に、pH6.4において〔4〕に示すRNA修飾反応を行ない、〔3〕に示すようにHPLCによる反応の追跡によって得られた収率の時間経過を示した。標的RNA, 5’-FAM-r(agaaaggagaaYaaag)の反応位置(Y)にある塩基がシトシン、グアニン、アデニン又はウラシルであるRNAを用いて転移反応収率を比較した。この条件では、シトシン塩基への特異的な修飾反応が起こった。
【0120】
【化41】

【0121】
さらに下図に、pH9.6において〔1〕に示すRNA修飾反応を行ない、〔3〕に示すようにHPLCによる反応の追跡によって得られた収率の時間経過を示した。標的RNA, 5’-FAM-r(agaaaggagaaYaaag)の反応位置(Y)にある塩基にシトシン、グアニン、アデニンあるいはウラシルを含むRNAを用いて転移反応収率を比較した。この条件では反応は極めて速く、約20分でほぼ終了しておりグアニン塩基特異的な修飾反応が起こった。
【0122】
【化42】

【0123】
[実施例6:式IIで表される化合物を用いたRNAの修飾]
【0124】
【化43】

【0125】
実施例5と同じ反応操作で行なった。(7)を合成する反応液の各濃度は、(6)が150 μM、(20)が380 μM、炭酸カリウム25 mMとした。転移反応によって(14)を合成する反応の溶液はpH9.6で、各成分の濃度は官能基転移核酸(1.5 μM)、RNA基質(1.0 μM)、炭酸カリウム(50 mM)、NaCl (100 mM)とした。HPLCの分析条件も実施例5と同じであるが、励起光494 nmによるFAM518 nmの蛍光を検出した。
【0126】
官能基転移核酸の合成は10分以内に終了し、収率は95%以上であった。
標的RNAとしては、5’-FAM-r(agaaaggagaaYaaag)の反応位置(Y)にある塩基に、シトシン、グアニン、アデニン又はウラシルを含むRNAを用いた。
【0127】
下図に、グアニン塩基への転移反応収率の時間経過と30分後の各塩基への転移収率を比較した。この条件では反応は極めて速く、約10分以内にグアニン塩基への修飾反応は終了した。30分後の反応収率を比較すると他の塩基への転移反応はほとんど進行しておらず、極めて高いグアニン塩基選択性が示された。
【0128】
【化44】

【0129】
[実施例7:式IIIで表される化合物を用いたRNAの修飾]
【0130】
【化45】

【0131】
【化46】

【0132】
(21)を用いた官能基転移人工核酸の合成と、それを用いて実施例5と同様のアルカリ性条件下で行ったRNA修飾反応を行った。
標的RNAとして5’-FAM-r(agaaaggagaaYaaag)の反応位置(Y)にある塩基にシトシン、グアニン、アデニン又はウラシルを含むRNAを用いた反応における各塩基への転移反応収率の時間経過を下図に比較した。グアニンへの官能基転移核酸の合成は60分以内に終了し、収率は65%以上であった。他の塩基への転移反応はほとんど進行しておらず、極めて高いグアニン塩基選択性が示された。
【0133】
【化47】

【0134】
[実施例8:式IIIで表される化合物で修飾されたRNAと式VIで表されるアジド化合物によるHuisgen環化反応によるRNA修飾]
〔1〕官能基転移人工核酸、修飾RNA
実施例5と同じ反応操作で行なった。(20)を用いて10分間反応を行い、官能基転移人工核酸を合成した。反応液の各濃度は、(6)が150 μM、(20)が375 μM、炭酸カリウム25 mMとした。さらにRNA基質を加えて10分間転移反応を行い、(14)を合成した。反応の溶液はpH9.6で、各成分の濃度は官能基転移核酸(30 μM)、RNA基質(20 μM)、炭酸カリウム(50 mM)、NaCl (100 mM)とした。
【0135】
〔2〕Huisgen環化反応によるRNA修飾
【0136】
【化48】

【0137】
【化49】

【0138】
前記〔1〕の反応混合物に、各成分及びMilli Q水を濃度が次のようになるように加えた。RNA基質(10 μM)アジド体(27)のDMSO溶液(750 μM)、アスコルビン酸ナトリウム水溶液(300 μM)、TBTAのDMSO溶液(300 μM)、 DMSO (30 %)。最後にCuSO4 水溶液(150 μM)を加えHuisgen環化反応を開始し、10分間反応させた。HPLCの分析条件は実施例5と同じであるが、励起光494 nmによるFAM518 nmの蛍光を検出した。
【0139】
下図は反応を追跡したHPLCチャートで反応開始前(0 min)と反応後10分(10 min)を比較したものである。10分後の収率は約90%で、50分後は99%以上の収率であった。この修飾反応はRNA修飾反応の混合物を用いるため、官能基転移核酸(7)も反応し、次に示す構造式の化合物を生成した。
【0140】
【化50】

【0141】
【化51】

【0142】
[実施例9:Huisgen環化反応によるRNA修飾]
【0143】
【化52】

【0144】
上記の、式IVで表されるアジド化合物の一つを用い、実施例8と同様のHuisgen環化反応によるRNAの修飾を行った。反応は実施例8と同様に進行し、10分後69%、50分後に99%以上の収率でRNA修飾が進行した。
【0145】
[実施例10:官能基転移反応により導入されたビオチンの評価]
実施例5と同様にして、ビオチンを含む転移官能基(16)及び(19)それぞれを、5’-d(CTTT-X-TTCTCCTTTCT) (Xは6−チオグアノシン)に導入した。引き続き5’ r(AGAGAGAAGGAGAAGAAAGACGGCUGCGA)(下線Gが修飾塩基)に官能基転移反応を行ない、2分後及び60分後にloading bufferを加えて反応を停止した。
【0146】
各反応液の5 μLを15% 変性ポリアクリルアミドゲルにロードして分析した(TBE緩衝液、100v 1.5時間)。その後、positively-charged nylon膜にブロットし、UV 254 nm を10分間照射して固定化した。乾燥膜をブロッキングし、アルカリフォスファターゼ結合ストレプトアビジンの1000倍希釈液あるいはFITC結合ストレプトアビジンで30分間震盪し、TBST緩衝液で洗浄した。FITC結合ストレプトアビジンを用いた場合は蛍光を検出し、アルカリフォスファターゼ結合ストレプトアビジンを用いた場合はCDP-star溶液(塩素置換1,2-dioxetane 化学発光基質)を加えて3分後に発光を検出した。
【0147】
結果を下図に示した。いずれの方法でも修飾を確認できたが、アルカリフォスファターゼ結合アビジンを用いた場合、酵素反応による感度増強のため、フェムトモル量の修飾RNAが高感度に検出されている。また、この検出により2分間の反応でも十分なRNA修飾が実現していることが確認されている。さらにこの実験からビオチンのアジド誘導体はn = 0よりもn = 2 のエチレンオキシスペーサーを持つものがより効果的にRNAを修飾していることも示されている。
【0148】
【化53】

【0149】
【化54】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式で表される、化合物
【化1】

(式中、R1は、R1は、H、C1〜6アルキル、又はC1〜6アリールであり;Xは、Br、Cl又はIである。)。
【請求項2】
下記の構造を有する、請求項3に記載の化合物。
【化2】

【請求項3】
請求項1又は2と、下式により表される化合物
【化3】

(式中、R3は標識基であり、lは1〜7の整数であり;mは0〜4の整数であり;nは1〜4の整数である。)とを反応させて、ヒュスゲン(Huisgen)環化により1,2,3-トリアゾール誘導体を生成させる工程を含む、1,2,3-トリアゾール誘導体の製造方法。
【請求項4】
式中、R3CO-が下記の何れか一の構造であり;
【化4】

lが5であり、mが0又は2であり、nが2である、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
下式により表される化合物
【化5】

(式中、R3は標識基であり、lは1〜7の整数であり;mは0〜4の整数であり;nは1〜4の整数である。)。
【請求項6】
式中、R3CO-が下記の何れか一の構造であり;
【化6】

lが5であり、mが0又は2であり、nが2である、請求項5に記載の化合物。
【請求項7】
下式により表される化合物
【化7】

(式中、Xは、Br、Cl又はIであり;lは1〜7の整数であり;mは0〜4の整数であり;nは1〜4の整数である。)。
【請求項8】
下記のいずれかの構造を有する、請求項7に記載の化合物。
【化8】

【化9】

【請求項9】
請求項1又は2に記載の化合物と、6-チオグアノシンを含むオリゴヌクレオチドとを反応させる工程を含む、官能基転移核酸の製造方法。
【請求項10】
請求項3又は4に定義された工程により、1,2,3-トリアゾール誘導体を得る工程;及び
得られた1,2,3-トリアゾール誘導体と、6-チオグアノシンを含むオリゴヌクレオチドとを反応させる工程を含む、官能基転移核酸の製造方法。
【請求項11】
請求項5又は6に記載の1,2,3-トリアゾール誘導体と、6-チオグアノシンを含むオリゴヌクレオチドとを反応させる工程を含む、官能基転移核酸の製造方法。
【請求項12】
請求項7又は8に記載の化合物と、6-チオグアノシンを含むオリゴヌクレオチドとを反応させる工程を含む、官能基転移核酸の製造方法。
【請求項13】
請求項9〜12のいずれか1項に記載の製造方法で得られた官能基転移核酸と、RNAとを反応させる工程を含む、機能分子の導入されたRNAの製造方法。
【請求項14】
請求項9に記載の製造方法で得られた官能基転移核酸と、RNAとを反応させて機能分子の導入されたRNAを得て;そして
機能分子の導入されたRNAと、請求項5又は6に記載の化合物とを反応させ、Huisgen環化により1,2,3-トリアゾール誘導体を生成させる工程を含む、標識されたRNAの製造方法。

【公開番号】特開2012−56895(P2012−56895A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−202349(P2010−202349)
【出願日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 1.平成22年7月27日 第12回日本RNA学会年会事務局発行の「第12回日本RNA学会年会(12th RNA Meeting in Tokyo)要旨集」にて発表 2.平成22年7月27日 日本RNA学会主催の「第12回日本RNA学会年会」にてポスターによって発表
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】