説明

定温保管容器及び輸送方法

【課題】外気温度に左右されず、温度管理の必要な物品を長時間にわたって所定の温度に維持し、保管、輸送できる容器を提供する。
【解決手段】断熱性の箱体と、その内側に配置される2種以上の蓄冷材又は蓄熱材を備え、保冷又は保温されるべき物品に隣接して、凝固状態にある潜熱型の第1の蓄冷材又は蓄熱材(a)を配置し、前記第1の蓄冷材又は蓄熱材(a)の外側に、融解状態にある潜熱型の第2の蓄冷材又は蓄熱材(b)を配置してなり、かつ、前記第1の蓄冷材又は蓄熱材(a)の凝固・融解温度が0℃を超えることを特徴とする定温保管容器は、保冷又は保温すべき物品を、0℃を超える任意の温度範囲にて長時間にわたって維持することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外気温度に左右されず、温度管理の必要な物品を、長時間にわたって所定の温度に維持して保管、輸送できる容器に関するものであり、より詳しくは温度管理の必要な医薬品や医療機器、検体、臓器、化学物質、食品等の各種物品を、0℃を超える所定の温度に維持して保管、輸送できる容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
病院やスーパーマーケット等で取り扱われる医薬品・検体等や食品等には、輸送、運搬時に品質保持のために、有効な所定の温度範囲に保冷又は保温する必要があるものがある。従来、この種の医薬品等の物品を保冷又は保温する方法として、断熱容器内に、予め凝固又は溶融させた蓄冷材又は蓄熱材を配置して、前記物品を収容することにより、蓄冷材又は蓄熱材の融解潜熱を利用して保冷又は保温する方法が知られている。
【0003】
保冷又は保温されるべき物品(以下、「温度管理対象物品」と称する場合がある。)を、所定の温度範囲に長時間を維持するためには、大きな融解潜熱を持つ蓄冷材又は蓄熱材を用いること、断熱容器の厚さを厚くすること等が必要である。従来から使用されてきた、融解潜熱が大きく安価で安全な蓄冷材は水であるが、水の融解温度は0℃であるため、断熱容器内の温度が0℃付近まで低下する可能性があった。このため、0℃を超える温度領域での温度管理の場合には、輸送対象物と、水を主成分とする蓄熱材とを離して配置する方法や、断熱材で熱伝達を遮断する方法がとられている。しかし、それでも、外気温度の変化により断熱容器内の温度が0℃付近に低下することがあった。
【0004】
そこで、内部をほぼ常温での保存に適した温度に保つために、融点が10〜25℃の蓄熱材を用い、外気温度が蓄熱材の融点より高温の場合には蓄熱材を予め凍結させた状態、外気温度が蓄熱材の融点より低温の場合には蓄熱材を予め解凍状態にして使用する恒温ボックスが提案されている(特許文献1参照。)。この恒温ボックスによれば、0℃を超える温度領域での温度管理が可能となるが、長時間にわたって精密な温度管理を行うことはできなかった。
【0005】
これに対して、断熱性の箱体内に互いに温度の異なる複数種類の蓄熱材を収容すると共に、外部の温度が高い場合には温度の低い方の蓄熱材を温度の高い方の蓄熱材よりも外側に配置し、外部の温度が低い場合には温度の高い方の蓄熱材を温度の低い方の蓄熱材よりも外側に配置することにより、外部の温度条件に応じて内部の温度を所定範囲内に維持する恒温ボックスも提案されている(特許文献2参照。)。しかし、そのように、単に温度が異なる蓄熱材を組み合わせて用いるだけでは、長時間にわたって精密な温度管理を行うことはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−63776号公報
【特許文献2】特開平9−68376号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、従来、外気温度に左右されず、温度管理の必要な物品を長時間にわたって所定の温度に維持し、保管、輸送できる容器はなかった。特に航空輸送を行う場合には、72時間程度の温度管理時間が要求されているが、外気温度に左右されず、72時間という長時間にわたって温度管理できる定温保管容器はなかった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前述の課題解決のために、相状態を異にする潜熱型の蓄冷材又は蓄熱材を2種以上重ねて配置することで、長時間にわたって精密な温度管理を可能としたものである。
【0009】
即ち、本発明に係る定温保管容器は、断熱性の箱体と、その内側に配置される2種以上の蓄冷材又は蓄熱材を備えた定温保管容器であって、保冷又は保温されるべき物品に隣接して、凝固状態にある潜熱型の第1の蓄冷材又は蓄熱材(a)を配置し、前記第1の蓄冷材又は蓄熱材(a)の外側に、溶融状態にある潜熱型の第2の蓄冷材又は蓄熱材(b)を配置してなり、前記第1の蓄冷材又は蓄熱材(a)の凝固・融解温度が0℃を超えることを特徴とする。
【0010】
また、本発明では、前記第2の蓄冷材又は蓄熱材(b)の外側に、該第2の蓄冷材又は蓄熱材(b)よりも低温状態にある第3の蓄冷材又は蓄熱材(c)を配置して定温保管容器を構成した。
【0011】
本発明によれば、容器内管理温度A(℃)を1〜30℃の範囲で精密に温度管理が可能な定温保管容器を提供することができる。
【0012】
本発明においては、容器内管理温度をA(℃)とした場合に、前記第1の蓄冷材又は蓄熱材(a)及び前記第2の蓄冷材又は蓄熱材(b)の凝固・融解温度は、(A−3)℃〜(A+3)℃であることが好ましく、前記第3の蓄冷材又は蓄熱材(c)の凝固・融解温度は、(A−10)℃〜(A−5)℃であることが好ましい。
【0013】
さらには、前記第1の蓄冷材又は蓄熱材(a)及び前記第2の蓄冷材又は蓄熱材(b)の凝固・融解温度は、2℃〜8℃であることが好ましく、前記第3の蓄冷材又は蓄熱材(c)の凝固・融解温度は、−5〜0℃であることが好ましい。
【0014】
前記第1の蓄冷材又は蓄熱材(a)及び前記第2の蓄冷材又は蓄熱材(b)としては、ポリアルキレングリコールに対して不溶で、かつ水溶性の塩類の少なくとも1種の水溶液、及びポリアルキレングリコールを含有してなる蓄熱材組成物が好適である。また、前記第3の蓄冷材又は蓄熱材(c)としては、水を主成分とする蓄冷材が好適である。
【0015】
上記のような本発明に係る定温保管容器にあっては、保冷又は保温されるべき物品が、断熱性内箱内に収容されていてもよい。
【0016】
本発明に係る物品輸送方法は、容器の外気温度が容器内管理温度Aよりも低い状況においては、凝固状態にある潜熱型の第1の蓄冷材又は蓄熱材(a)の外側に、溶融状態にある潜熱型の第2の蓄冷材又は蓄熱材(b)を配置してなる定温保管容器に、保冷又は保温されるべき物品を収納して輸送するものであり、また、容器の外気温度が容器内管理温度Aよりも高い状況においては、さらに第3の蓄冷材又は蓄熱材(c)を配置した定温保管容器に、保冷又は保温されるべき物品を収納して輸送する。
【発明の効果】
【0017】
以上にしてなる本発明に係る定温保管容器及び輸送方法によれば、外気温度に左右されず、長時間に渡って温度管理の必要な物品を所定の温度に維持し、保管、輸送することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1実施形態の定温保管容器であって、実施例4で用いた測定用パッケージの蓄冷材又は蓄熱材の配置構成を示す模式図。
【図2】本発明の第2実施形態の定温保管容器であって、実施例1で用いた測定用パッケージの蓄冷材又は蓄熱材の配置構成を示す模式図。
【図3】本発明の第1実施形態の定温保管容器であって、実施例5で用いた測定用パッケージの蓄冷材又は蓄熱材の配置構成を示す模式図。
【図4】実施例1での、内箱5内での温度変化を示すグラフ。
【図5】実施例2での、内箱5内での温度変化を示すグラフ。
【図6】実施例3での、内箱5内での温度変化を示すグラフ。
【図7】比較例1での、内箱5内での温度変化を示すグラフ。
【図8】実施例4での、内箱5内での温度変化を示すグラフ。
【図9】実施例5での、内箱5内での温度変化を示すグラフ。
【図10】比較例2での、内箱5内での温度変化を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係る定温保管容器は、断熱性の箱体と、箱体内に配置される相状態の異なる2種以上の潜熱型の蓄冷材又は蓄熱材を備え、保冷又は保温されるべき物品に隣接して配置する第1の保冷材又は保温材として、凝固・融解温度が0℃を超える凝固状態にある保冷材又は保温材を用いることを特徴とするものであり、保冷又は保温すべき物品を、0℃を超える任意の温度範囲にて長時間にわたって維持することが可能である。
【0020】
本発明において、前記蓄冷材又は蓄熱材とは、蓄冷成分又は蓄熱成分をプラスチック製容器やフィルム製の袋などに封入したものである。また、潜熱型の蓄冷材又は蓄熱材とは、相転移に伴う熱エネルギーを利用する蓄冷材又は蓄熱材であり、蓄冷成分又は蓄熱成分の相状態が、凝固状態(固体)から溶融状態(液体)に相転移する際に吸収する熱エネルギー、又は溶融状態(液体)から凝固状態(固体)に相転移する際に放出する熱エネルギーを利用するものである。
【0021】
本発明において、蓄冷材又は蓄熱材の凝固・融解温度とは、その相状態が凝固状態(固体)から溶融状態(液体)に、もしくは溶融状態(液体)から凝固状態(固体)に変化する温度であり、例えば水においては0℃である。蓄冷材又は蓄熱材の凝固・融解温度は、例えば、示差走査熱量計DSC(セイコーインスツルメント社製、SEIKO6200)を用いて、蓄冷材成分又は蓄熱材成分28mgを測定用パンに封入し、−20℃から4℃/分にて昇温する示差走査熱量測定により測定できる。すなわち、蓄冷材又は蓄熱材の凝固・融解温度は、得られたチャートのピーク温度値として測定できる(ただし、複数のピークが存在する場合には、ピークの高さで最大値を示すピーク温度値とする。)。
【0022】
また、本発明における凝固・融解温度が0℃を超える温度である蓄冷材又は蓄熱材とは、その50重量%以上の蓄冷成分又は蓄熱成分の凝固・融解温度が0℃を超えることを意味している。従って、例えば、通常、水を50%以上含有する蓄冷材又は蓄熱材は除かれるが、水を50%以上含有しても、無機塩水和物系(例えば、硫酸ナトリウム・10水和物)など、融解時に水が50重量%以上含有される状態となるものでも、凝固・融解温度が0℃を超えるものもある。
【0023】
また、本発明における相状態とは、一般的な固体、液体、気体の状態を表すが、本発明では、容器サイズを小さくするために、固体と液体の相状態を利用する。蓄冷材又は蓄熱材の相状態とは、50重量%以上の相を指し、例えば80重量%が固体で20重量%が液体の状態の蓄冷材又は蓄熱材の相状態は固体(凝固状態)である。
【0024】
図1に、本発明に係る定温保管容器の第1実施形態を示す。この第1実施形態の定温保管容器1Aは、容器外温度が、所定の容器内管理温度よりも低い状況に適した容器である。この冷温保管容器1Aは、箱本体3と蓋体4からなる断熱性の箱体2と、箱体2内に配置される2種以上の蓄冷材又は蓄熱材を備える定温保管容器であって、保冷又は保温されるべき物品(又は内箱5)に隣接して、凝固・融解温度が0℃以上で、かつ凝固状態にある潜熱型の第1の蓄冷材又は蓄熱材(a)を配置し、その外側に、溶融状態にある潜熱型の第2の蓄冷材又は蓄熱材(b)を配置してなる。
【0025】
また、図2に示すものは、本発明に係る定温保管容器の第2実施形態である。この第2実施形態の定温保管容器1Bは、容器外温度が、所定の容器内管理温度よりも高い状況に適した容器である。この第2実施形態の定温保管容器1Bは、前記第1の蓄冷材又は蓄熱材(a)及び第2の蓄冷材又は蓄熱材(b)に加えて、さらにその外側に、第2の蓄冷材又は蓄熱材(b)よりも低温状態にある第3の蓄冷材又は蓄熱材(c)を配置してなる。
【0026】
前記箱体2の構造は特に限定されないが、断熱性を有する材料からなり底部を備えた箱本体3を有し、箱本体3には、同じく断熱性を有する材料からなる蓋体4が取付けられており、蓋体4によって、箱本体3の開口部を閉止状態及び解放状態とすることができるものが好ましい。さらに、箱本体3と蓋体4との接合面に嵌合構造を設けることで、より断熱性に優れた容器とすることができる。
【0027】
箱体2の材料や構成は特に限定されないが、好ましくは断熱性を有する材料からなり、例えば発泡合成樹脂製成形品からなり、さらに断熱性を増大させるために、発泡合成樹脂にアルミ箔や樹脂フィルムを積層したものでも良い。前記発泡合成樹脂の基材樹脂としては、ポリスチレンなどのポリスチレン系樹脂、ポリエチレン又はポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂などを使用することができる。これらの中でも、価格や強度などの点でポリスチレン系樹脂、とりわけ汎用されているポリスチレンが好適に使用される。
【0028】
また、箱体2内に収容する保冷又は保温されるべき物品は、そのままでもよいし、合成樹脂シート、フィルムなどで包んだ状態で箱体2内に収容しても良い。更に、箱体2内に、内部形状を保持し、かつ保冷又は保温されるべき物品を収納する内箱5を収容するようにしてもよい。なお、図示しないが、内箱5にも蓋体を設けて、この蓋体によって、内箱5の開口部を閉止状態及び解放状態にできるようにしてもよい。また、内箱5の蓋体は、保温又は保冷機能に影響を与えないような場合には、特に設ける必要はない。内箱5も、外箱2と同様に断熱性であれば、温度管理できる時間が長くなり、より好ましい。
【0029】
また、各蓄冷材又は蓄熱材(a)、(b)、(c)の間に、断熱性を向上させる目的で、例えば図3に示す定温保管容器1Cの如く、発泡樹脂板6などの断熱材を挿入しても良い。発泡樹脂板6の基材樹脂としては、外箱2と同様でよく、例えばポリスチレン系樹脂が用いられる。
【0030】
第1の蓄冷材又は蓄熱材(a)と、第2の蓄冷材又は蓄熱材(b)とは、第1の蓄冷材又は蓄熱材(a)が凝固状態にあり、第2の蓄冷材又は蓄熱材(b)が溶融状態にあって、互いの相状態が異なっていれば、それぞれの凝固・融解温度は同じでも異なっていても良い。本発明では、前記のように相状態が異なる、2種以上の潜熱型の蓄冷材又は蓄熱材を重ねた状態で配置することにより、長時間にわたる温度管理が可能となる。
【0031】
本発明では、外気温度が所定の温度範囲より低い状況では、図1に示すように、保冷又は保温されるべき物品(又は内箱5)に隣接する第1の蓄冷材又は蓄熱材(a)として凝固状態にあるものを配置し、第1の蓄冷材又は蓄熱材の外側に配置される第2の蓄冷材又は蓄熱材(b)として溶融状態にあるものを配置する。この場合には、外気温度により、先ず第2の蓄冷材又は蓄熱材(b)が冷却されて温度が低下し、さらに溶融状態(液体)から凝固状態(固体)へと相転移するために熱エネルギーを放出することで、第1の蓄冷材又は蓄熱材(a)が低温度の外気に曝されるのを抑制でき、かつ第1の蓄冷材又は蓄熱材(a)が過剰に冷却されることがなく、第1の蓄冷材又は蓄熱材(a)により、容器1A内を長時間にわたって0℃を超える所定の温度範囲内に維持することができる。
【0032】
一方、外気温度が所定の温度範囲より高い状況では、図2に示すように、第2の蓄冷材又は蓄熱材(b)の外側に、該第2の蓄冷材又は蓄熱材(b)よりも低温状態の第3の蓄冷材又は蓄熱材(c)をさらに重ねて配置することにより、該第3の蓄冷材又は蓄熱材(c)が外気温度により熱されて熱エネルギーを吸収する間、第2の蓄冷材又は蓄熱材(b)が高温度の外気によって熱されることを抑制でき、かつ第2の蓄冷材又は蓄熱材(b)が第3の蓄冷材又は蓄熱材(c)により冷却されて温度が低下し、さらに溶融状態(液体)から凝固状態(固体)へと相転移するために熱エネルギーを放出することで、第1の蓄冷材又は蓄熱材(a)が第3の蓄冷材又は蓄熱材(c)により過剰に冷却されることがなく、第1の蓄冷材又は蓄熱材(a)により、容器1B内を長時間にわたって0℃を超える所定の温度範囲内に維持することができる。
【0033】
本発明では、少なくとも第1の蓄冷材又は蓄熱材(a)として、凝固・融解温度が0℃を超える蓄冷材又は蓄熱材を配置することより、0℃を超える任意の温度範囲において精密な温度管理が可能となる。但し、容器管理温度としては、医薬品等や食品などの温度管理対象物品の特性上、1〜30℃が好ましく、2〜8℃がより好ましい。
【0034】
ここで、容器内管理温度とは、保冷又は保温されるべき物品に対する所定の温度範囲(必要な温度管理範囲)の下限温度と上限温度の中間温度を指し、例えば、下限温度2℃で上限温度8℃の場合には(2+8)÷2=5℃となる。
【0035】
本発明では、容器内管理温度をA(℃)とした場合に、凝固・融解温度が(A−3)℃〜(A+3)℃で凝固状態にある第1の蓄冷材又は蓄熱材(a)と、凝固・融解温度が(A−3)℃〜(A+3)℃で溶融状態にある第2の蓄冷材又は蓄熱材(b)を使用することが好ましく、さらに凝固・融解温度が、いずれもA(℃)である蓄冷材又は蓄熱材(a)、(b)を用いることが好ましい。この組み合わせの蓄冷材又は蓄熱材(a)、(b)を使用することにより、精密に温度管理できる時間が長くなり、特に外気温度が容器内管理温度A(℃)よりも低い場合に効果が大きい。
【0036】
一方、外気温度が容器内管理温度A(℃)よりも高い場合の第3の蓄冷材又は蓄熱材(c)の凝固・融解温度としては、(A−15)℃〜A(℃)であることが好ましく、(A−10)℃〜(A−5)℃であることがより好ましい。この組み合わせの蓄冷材又は蓄熱材(a)〜(c)を使用することにより、精密に温度管理できる時間が長くなり、特に外気温度が容器内管理温度A(℃)よりも高い場合に効果が大きい。
【0037】
さらに、凝固・融解温度が2〜8℃であり、凝固状態(固体)にある蓄熱材(a)と、凝固・融解温度が2〜8℃であり、溶融状態(液体)にある蓄熱材(b)とを使用することが特に好ましい。この組み合わせの蓄冷材又は蓄熱材(a)、(b)を使用することにより、温度管理が特に難しい容器内管理温度5℃±3℃で温度管理できる時間が長くなり、特に外気温度が容器内管理温度である5℃±3℃よりも低い場合には効果が大きい。
【0038】
一方、外気温度が容器内管理温度よりも高い場合には、第3の蓄冷材又は蓄熱材(c)として、水を主成分とする、凝固・融解温度が−5〜0℃である蓄冷材を使用することが、特に好ましい。この組み合わせの蓄冷材又は蓄熱材(a)〜(c)を使用することにより、温度管理の特に難しい容器内管理温度5℃±3℃で温度管理できる時間が長くなり、特に外気温度が容器内管理温度である5℃±3℃よりも高い場合に効果が大きい。
【0039】
本発明に使用される蓄熱型の第1、2の蓄冷材又は蓄熱材(a)、(b)の材料には特に限定はないが、例えば、硫酸ナトリウム・10水和物、酢酸ナトリウム・3水和物、塩化カリウム・6水和物、4級アンモニウム塩・水和物などの無機水和物塩系蓄熱材;パラフィン・ワックス、C6〜C18の炭素鎖を有する飽和脂肪酸、C6〜C18の炭素鎖を有する不飽和脂肪酸、ポリアルキレングリコールなどの有機化合物系蓄熱材量;特開2006−96898号公報に記載されている、ポリアルキレングリコールに対して不溶で、かつ水溶性の塩類の少なくとも1種の水溶液、及びポリアルキレングリコールを含有してなる蓄熱材組成物などが挙げられる。これらの内でも、特開2006−96898号公報に記載されている蓄熱材組成物が、安価・安全かつ、温度制御・温度管理時間に優れている点で好ましく、航空輸送を実施する場合には特に好ましい。
【0040】
また、第3の蓄冷材又は蓄熱材(c)の材料にも特に限定はなく、炭酸水素カリウム水溶液、塩化カリウム水溶液、塩化アンモニウム水溶液、塩化ナトリウム水溶液などの水を主成分とする蓄冷材;水及び高吸水性ポリマーを含有する蓄冷材などが挙げられる。これらの内でも、水を主成分とし、凝固・融解温度が、−5〜0℃である蓄冷材が安価かつ安全で好ましい。
【0041】
なお、図1、2、3に示す実施の形態では、箱体2内の上下のみに第1〜第3の蓄冷材又は蓄熱材(a)、(b)、(c)を重ねているが、箱体2内における、蓄冷材又は蓄熱材(a)〜(c)の配置場所には特に限定はない。即ち、蓄冷材又は蓄熱材(a)、(b)、(c)を重ねる順番さえ本発明に従って配置されていれば良い。例えば、箱体1の側面のみに蓄冷材又は蓄熱材(a)及び(b)、さらには(c)をこの順番で配置してもよいし、上下面及び側面の全ての面にこれら蓄冷材又は蓄熱材(a)、(b)さらには(c)を、この順番で重ねて配置してもよい。通常、容器内管理温度と外気温度の差が大きいほど、より多数の面に蓄冷材又は蓄熱材を配置することが好ましい。
【実施例】
【0042】
以下、実施例によって本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0043】
<実施例1>
発泡ポリスチレン製断熱容器1(外寸が620mm×420mm×470mm、内寸が500mm×300mm×350mm)の内側に、図2に示すように、下記構成の蓄冷材又は蓄熱材を配置して、内部空間のほぼ中央に、発泡ポリスチレン製内箱5(外寸430mm×297mm×165mm、内寸が390mm×255mm×125mm)を収納して、測定用パッケージとした。
【0044】
内箱5の上下面に対して、4℃環境において凝固(固体)状態にあり凝固・融解温度が5℃の第1の蓄熱材(a)[玉井化成(株)製、パッサーモP−5を、4℃環境下にて凝固させたもの]500gを上下に各4個配置し、側面にも同蓄熱材(a)を各2個配置した。前記蓄熱材(a)の上下面に、20℃前後の室温で融解(液体)状態にあり凝固・融解温度が5℃の第2の蓄熱材(b)[玉井化成(株)製、パッサーモP−5を、20℃前後の室温下にて融解させたもの]200gを各2個配置した。さらに、前記の蓄熱材(b)上下面に、0℃以下の環境で完全に凍結(固体)状態にある水を主体とした第3の蓄冷材(c)[玉井化成(株)製、コールドアイス(凝固・融解温度=0℃)を、完全に凍結させたもの]500gを各8個配置した。
【0045】
なお、500gの第1の蓄熱材(a)は、140mm×220mm×25mmのポリエチレンブロー容器に充填した物を使用した。200gの第2の蓄熱材(b)は、厚さ1mmの発泡ポリエチレンで作成した袋にポリエチレンとポリアミドをラミネートした厚さ0.9mmの袋に充填した蓄熱材を納め、サイズは230mm×290mm×7mmの物を使用した。500gの第3の蓄冷材(c)は、140mm×220mm×25mmのポリエチレンブロー容器に充填した物を使用した。
【0046】
上記のような測定用パッケージを35℃に調温した恒温槽に放置して、内箱5内の温度を、データロガー[(株)ティアンドディ製、RTR−52]を用いて、測定した。その結果を図4に示す。図4のグラフにおいて、縦軸は温度、横軸は経過時間を示す。図4のグラフで示すとおり、40時間以上にわたり、箱内5内の温度を、5℃±3℃以内に維持できた。
【0047】
<実施例2>
蓄冷材又は蓄熱材の配置構成を、実施例1と同様にして、測定用パッケージを得た。
測定用パッケージを15℃に調温した恒温槽に放置して、箱内5内の温度を、データロガーを用いて測定した。その結果を図5に示す。図5のグラフにおいて、縦軸は温度、横軸は経過時間を示す。図5のグラフで示すとおり、2℃以下に逸脱することなく96時間以上にわたり、箱内5内の温度を、5℃±3℃以内に維持できた。
【0048】
<実施例3>
蓄冷材又は蓄熱材の配置構成を、下記のように変更した以外は、実施例1と同様にして、測定パッケージを得た。
【0049】
内箱の上下面に対して、4℃の環境において凝固(固体)状態にある凝固・融解温度が5℃の蓄熱材(a)500gを上下に各4個配置し、側面に対しても同蓄熱材(a)を各2個配置した。その上下面に対して、20℃前後の室温で融解(液体)状態の凝固・融解温度が5℃の蓄熱材(b)200gを各2個配置した。更に、その上下面に、0℃以下の環境で完全に凍結(固体)状態にある、水を主体とした蓄冷材(c)500gを上12個、下8個配置した。
【0050】
上記測定用パッケージを35℃に調温した恒温槽に放置して、内箱5内の温度を、データロガーを用いて測定した。その結果を図6に示す。図6のグラフにおいて、縦軸は温度、横軸は経過時間を示す。図6のグラフで示すとおり、72時間以上にわたり、内箱5内の温度を5±3℃以内に維持できた。
【0051】
<比較例1>
蓄冷材又は蓄熱材の配置構成を、下記のように変更した以外は、実施例1と同様にして、測定用パッケージを得た。
【0052】
内箱5の上下面に、4℃環境に調温した水を主体とした蓄冷材(d、凝固・融解温度=0℃)500gを各4個配置し、側面に対しても同蓄冷材(d)を左右各2個を配置した。その上下面に対して、0℃以下の環境で完全に凍結(固体)状態にある水を主体とした蓄冷材(c、凝固・融解温度=0℃)500gを各8個配置した。
【0053】
上記測定用パッケージを35℃に調温した恒温槽に放置して、箱内5内の温度を、データロガーを用いて測定した。その結果を図7に示す。図7のグラフにおいて、縦軸は温度、横軸は経過時間を示す。図7のグラフで示すとおり、箱内5内の温度は、一旦2℃以下に低下してしまった。
【0054】
<実施例4>
蓄冷材又は蓄熱材の配置構成を、図1に示すように変更した以外は実施例1と同様にして、測定用パッケージを得た。
【0055】
内箱の上下面に、4℃環境において凝固(固体)状態にある凝固・融解温度が5℃の蓄熱材(a)500gを上下に各8個配置し、側面に対しても同蓄熱材(a)を各2個配置した。その上下面に、20℃前後の室温で融解(液体)状態の凝固・融解温度が5℃の蓄熱材(b)500gを各12個配置した。
【0056】
上記測定用パッケージを、−10℃に調温した高温槽に放置して、内箱5内の温度を、データロガーを用いて測定した。その結果を図8に示す。図8のグラフにおいて、縦軸は温度、横軸は経過時間を示す。図8のグラフで示すとおり、66時間以上にわたり、箱内5内の温度を、5±3℃以内に維持できた。
【0057】
なお、500gの蓄熱材(a)は、140mm×220mm×25mmのポリエチレンブロー容器に充填した物を使用した。500gの蓄熱材(b)は、140mm×220mm×25mmのポリエチレンブロー容器に充填した物を使用した。
【0058】
<実施例5>
蓄冷材又は蓄熱材の配置構成を、図3に示す下記構成に変更した以外は、実施例1と同様にして、測定用パッケージを得た。
【0059】
内箱5の上下面に、4℃環境において凝固(固体)状態にある凝固・融解温度が5℃の蓄熱材(a)500gを上下に各4個配置し、側面にも同蓄熱材(a)を各2個配置した。前記蓄熱材(a)の上下面に、厚さ10mmの発泡プラスチック板[発泡ポリスチレン製]6を各1枚配置した。さらに、前記発泡プラスチック板6の上下面に、20℃前後の室温で融解(液体)状態にあり凝固・融解温度が5℃の蓄熱材(b)500gを各8個配置した。
【0060】
測定用パッケージを、−10℃に調温した恒温槽に放置して、箱内5内の温度を、データロガーを用いて、測定した。その結果を図9に示す。図9のグラフにおいて、縦軸は温度、横軸は経過時間を示す。図9のグラフで示すとおり、−10℃の温度下で40時間以上にわたり、内箱5内の温度を、5℃±3℃以内に維持できた。
【0061】
<比較例2>
蓄冷材又は蓄熱材の配置構成を、下記に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして、測定用パッケージを得た。
【0062】
内箱5の上下面に、4℃の環境において凝固(固体)状態にある凝固・融解温度が5℃の蓄熱材(a)500gを上に12個、下に16個配置し、側面に対しても同蓄熱材(a)を各2個配置した。
【0063】
上記測定用パッケージを、−10℃に調温した恒温槽に放置して、内箱5内の温度を、データロガーを用いて測定した。その結果を図10に示す。図10のグラフにおいて、縦軸は温度、横軸は経過時間を示す。図10のグラフで示すとおり、30時間しか、内箱5内の温度を、5±3℃以内に維持できなかった。
【符号の説明】
【0064】
a. 4℃で凝固(固体)状態にある凝固・融解温度が5℃の第1の蓄熱材。
b. 20℃前後で融解(液体)状態にある凝固・融解温度が5℃の第2の蓄熱材。
c. 水を主体とした0℃以下の環境で完全に凍結(固体)状態にある第3の蓄冷材。
1A、1B、1C 定温保管容器
2. 発泡プラスチック断熱容器(外箱)。
3. 箱本体。
4. 蓋体。
5. 内部形状を保持するための発泡プラスチック容器(内箱)。
6. 厚さ10mmの発泡プラスチック板。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
断熱性の箱体と、その内側に配置される2種以上の蓄冷材又は蓄熱材を備えた定温保管容器であって、
保冷又は保温されるべき物品に隣接して、凝固状態にある潜熱型の第1の蓄冷材又は蓄熱材(a)を配置し、前記第1の蓄冷材又は蓄熱材(a)の外側に、溶融状態にある潜熱型の第2の蓄冷材又は蓄熱材(b)を配置してなり、前記第1の蓄冷材又は蓄熱材(a)の凝固・融解温度が0℃を超えることを特徴とする、定温保管容器。
【請求項2】
前記第2の蓄冷材又は蓄熱材(b)の外側に、該第2の蓄冷材又は蓄熱材(b)よりも低温状態にある第3の蓄冷材又は蓄熱材(c)を配置してなる請求項1に記載の定温保管容器。
【請求項3】
容器内管理温度A(℃)が1〜30℃であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の定温保管容器。
【請求項4】
容器内管理温度をA(℃)とした場合に、前記第1の蓄冷材又は蓄熱材(a)及び前記第2の蓄冷材又は蓄熱材(b)の凝固・融解温度が、(A−3)℃〜(A+3)℃である請求項1〜3のいずれかに記載の定温保管容器。
【請求項5】
容器内管理温度をA(℃)とした場合に、前記第3の蓄冷材又は蓄熱材(c)の凝固・融解温度が、(A−10)℃〜(A−5)℃である請求項2〜4のいずれかに記載の定温保管容器。
【請求項6】
前記第1の蓄冷材又は蓄熱材(a)及び前記第2の蓄冷材又は蓄熱材(b)の凝固・融解温度が2℃〜8℃である請求項1〜5のいずれかに記載の定温保管容器。
【請求項7】
前記第3の蓄冷材又は蓄熱材(c)の凝固・融解温度が−5〜0℃である請求項2〜6のいずれかに記載の定温保管容器。
【請求項8】
前記第1の蓄冷材又は蓄熱材(a)及び前記第2の蓄冷材又は蓄熱材(b)の少なくとも一つが、ポリアルキレングリコールに対して不溶で、かつ水溶性の塩類の少なくとも1種の水溶液、及びポリアルキレングリコールを含有してなる蓄熱材組成物からなることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の定温保管容器。
【請求項9】
前記第3の蓄冷材又は蓄熱材(c)が、水を主成分とする蓄冷材である、請求項2〜8のいずれかに記載の定温保管容器。
【請求項10】
保冷又は保温されるべき物品が、断熱性内箱内に収容されていることを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の定温保管容器。
【請求項11】
容器の外気温度が容器内管理温度A(℃)よりも低い状況において、請求項1、3、4、6、8、10のいずれかに記載の定温保管容器に、保冷又は保温されるべき物品を収納して輸送することを特徴とする、物品輸送方法。
【請求項12】
容器の外気温度が容器内管理温度A(℃)よりも高い状況において、請求項2〜10のいずれかに記載の定温保管容器に、保冷又は保温されるべき物品を収納して輸送することを特徴とする、物品輸送方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−51632(P2011−51632A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−203155(P2009−203155)
【出願日】平成21年9月2日(2009.9.2)
【出願人】(591244878)玉井化成株式会社 (5)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】