説明

定着装置のクリーニングシート

【課題】長期間使用しても定着ロールの表面を損傷することがなく、薄くて強度が高く、かつ加熱された定着ロールなどに用いるような場合に、熱およびその雰囲気温度でも収縮しにくく、安定して清掃することがで、さらにその清掃能力を高める目的で、クリーニングシートにオイルを含有させることがあるが、そのオイルが染み出すことがなく、シート内に保持することができるクリーニングシートを提供すること。
【解決手段】不織布からなる定着装置のクリーニングシートであって、該不織布が、連続繊維から構成され、かつ下記要件を全て満足することを特徴とする定着装置のクリーニングシートとする。
(a)不織布を構成する連続繊維の平均繊維直径が0.1〜10μm
(b)不織布の目付が5〜100g/m、厚みが5〜200μm
(c)不織布の空隙率が30〜90%
(d)不織布を構成する連続繊維の融点もしくは熱分解温度が300℃以上
(e)不織布の200℃での乾熱収縮率が2%以下

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トナーを使用したコピー機、プリンター、ファクシミリ等のトナー画像成形機器の定着装置を損傷することなく清掃に好適で、拭き取り性、耐熱性に優れたクリーニングシートに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、トナーを使用したコピー機、プリンター、ファクシミリ等のトナー画像成形機器においては、定着ロールと加圧ロールとの間に、未定着トナー像を担持した紙やフィルム等の複写シートを供給し、加熱及び加圧によって複写シートの表面にトナーを定着する手段が一般的に用いられている。
【0003】
かかる構造を有するトナー画像成形機器においては、ロールに付着した不要化したトナーを除去する必要があり、そのために繊維布帛が清掃用のクリーニングシートとして用いられている。定着ロールの設置箇所周辺は、180〜200℃にもなる高温環境であり、その部位で用いる部材は高い耐熱性が要求される。
【0004】
従来、ポリテトラフルオロエチレン繊維、ポリアミド系繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、ビニロン系繊維、アクリル系繊維、ポリイミド繊維、アラミド繊維など、融点が250度以上または無融点で耐熱性を有する有機繊維を、通常のポリエステル系繊維と混綿したニードルパンチ不織布やスパンレース不織布がクリーニングシートとして主流であった(特許文献1、2、および3参照)。しかし、特許文献2や3に開示される技術では、耐熱性に劣るポリエステル系繊維を混綿しているため、クリーニングシートの熱安定性・クリーニング特性低下が著しく、ポリエステル繊維が溶融フィルム化し、トナー除去性能が低下するという問題点を有していた。
さらに近年は、トナーの平均粒子直径が5〜8μmと小径化し、ロールを損傷することなくさらなるクリーニング特性の向上が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3095108号公報
【特許文献2】特開平5−35143号公報
【特許文献3】特開2001−312172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記、従来技術の背景になされたもので、長期間使用しても定着ロールの表面を損傷することがなく、薄くて強度が高く、かつ加熱された定着ロールなどに用いるような場合に、熱およびその雰囲気温度でも収縮しにくく、安定して清掃することができるクリーニングシートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、特定の構造、機械物性、耐熱性を有する不織布を使用することで、上記課題を解決することができるクリーニングシートが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0008】
本発明のクリーニングシートは、用いる不織布を構成する連続繊維の平均繊維直径が小さく、細かなトナー粒子を清掃、保持しやすく、高い拭き取り・清掃能力を有し、さらにその清掃能力を高める目的で、クリーニングシートにオイルを含有させることがあるが、そのオイルが染み出すことがなく、シート内に保持することができる。また、高温においても溶融する成分を含まず、熱およびその雰囲気温度で収縮しにくく、安定してクリーニングできるようになる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の定着装置のクリーニングシート(以下、単にクリーニングシートと称することがある)は、不織布からなるクリーニングシートであって、該不織布が、連続繊維から構成され、かつ下記要件を全て満足することを特徴とする。
(a)不織布を構成する連続繊維の平均繊維直径が0.1〜10μm
(b)不織布の目付が5〜100g/m、厚みが5〜200μm
(c)不織布の空隙率が30〜90%
(d)不織布を構成する連続繊維の融点もしくは熱分解温度が300℃以上
(e)不織布の200℃での乾熱収縮率が2%以下
【0010】
本発明のクリーニングシートは、通常、後述する不織布を、必要に応じて全面的に熱圧着することで得られ、これにより、均一かつ緻密で繊維の自由度が低く収縮しにくい構造にすることができ、トナーを使用したコピー機、プリンター、ファクシミリ等のトナー画像成形機器の定着ロールのような、ロール表面およびロール設置箇所周辺の高い温度域でも安定して清掃することができる、寸法安定性の優れたクリーニングシートとなる。
【0011】
本発明のクリーニングシートとして使用される不織布を構成する連続繊維の平均繊維直径は0.1〜10μmである。平均繊維直径が10μmより大きいと、不織布中の繊維構成本数が減少して拭き取り性を低下させるばかりでなく、不織布中に含まれる空間が大きくなり、小径化傾向にあるトナー粒子を拭き取ってもクリーニングシートに保持することができず、トナーが脱落してしまう。一方、平均繊維直径が0.1μmより小さいと、クリーニング時に定着ロールとの摩擦で破断し易く、繊維によっては生産性も低くなり、好ましくない。平均繊維直径は、好ましくは0.5〜8μm、より好ましくは1〜6μm、さらに好ましくは1.5〜6μmである。
【0012】
本発明のクリーニングシートとして使用される不織布の目付は5〜100g/m、厚みは5〜200μmである。目付が100g/mより大きい場合、厚みが5μmより小さくすると、熱圧着を過多に施す必要があり、繊維を損傷したり、不織布に含まれる空間を潰してしまい、以下に記述する所望の機械物性や空隙率が発現しにくくなったりする。一方、目付が5g/mより小さい場合、厚みを200μmより大きくすると、熱圧着を施すことが難しく、不織布を構成する繊維同士の接着が弱かったり、不織布に含まれる空間が大きすぎ、以下に記述する所望の機械物性や空隙率が発現しにくくなったりする。より好ましくは、不織布の目付は10〜75g/m、厚みは10〜150μm、より好ましくは、不織布の目付は15〜50g/m、厚みは20〜100μmである。
【0013】
本発明のクリーニングシートとして使用される不織布の空隙率は30〜90%である。本発明のクリーニングシートは定着部材に対して押圧することにより、トナー等を払拭、清掃できるものであるが、トナー等の払拭、清掃性を高めるために、オイルを含有していても良い。この際、不織布の空隙率が30%より小さいと、十分にオイルを含有せず、期待する効果が得られない。一方、不織布の空隙率が90%より大きいと、十分にオイルを含有するが、押圧した際に、シートからオイルが漏洩し、装置の故障を引き起こすことがある。不織布の空隙率は、好ましくは40〜85%、より好ましくは50〜80%である。
【0014】
本発明のクリーニングシートとして使用される不織布を構成する連続繊維の融点または熱分解温度は300℃以上である。これは、定着ロールの設置箇所周辺は、200〜250℃にもなる高温環境であり、その部位で用いられる部材は高い耐熱性が要求される。不織布を構成する連続繊維の融点または熱分解温度が300℃以上であれば、高温で高摩擦を受ける過酷な使用環境においても、繊維屑や溶融劣化物等異物の発生が極めて少なく、機械の故障防止、印刷不良低減、部品交換周期の延長等、有用なクリーニングシートとなりえる。また、単一の耐熱性不織布のみでクリーニングシートを構成することができるため、他成分との偏在がない、均一な不織布となって、払拭性、清掃性が安定するという利点も有する。不織布を構成する連続繊維の融点または熱分解温度は、好ましくは350℃以上、より好ましくは400℃以上である。
なお、本発明における「融点または熱分解温度」とはJIS K 7121に規定されている示差熱分析により得られる示差熱分析曲線(DTA曲線)から得られる温度をいう。
【0015】
本発明のクリーニングシートとして使用される不織布の200℃での乾熱収縮率は2%以下である。これは、乾熱収縮率が2%より大きいと、高温で使用される環境下においてもシワの発生が起こり易く、クリーニングシートとして用いた場合、クリーニング性を低下させるばかりか、発生したシートのシワが、定着ロールの表面を傷つけたり、装置の故障を引き起こしたりすることがある。不織布の200℃での乾熱収縮率は、好ましくは1.75%以下、より好ましくは1.5%以下である。
【0016】
本発明のクリーニングシートとして使用される不織布を構成する連続繊維は、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維等の無機繊維、アラミド繊維、ビニロン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ポリアリレート繊維、ポリベンズオキサゾール(PBO)繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、全芳香族ポリエステル繊維、アクリル繊維、塩化ビニル繊維、ポリケトン繊維、セルロース繊維、パルプ繊維等の有機繊維等を挙げることができ、これらの一種を、又は二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0017】
なかでも、アラミド繊維、具体的には、メタ型アラミド繊維であるポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維や、パラ型アラミド繊維であるポリパラフェニレンテレフタラミドやコポリパラフェニレン・3,4’オキシジフェニレン・テレフタラミド等が、高強力で高い耐熱性を有する点で好ましい。
また、連続繊維が、アラミド繊維の場合、結晶化度を55%以下、あるいは結晶サイズを30Å以下とした場合、特に取り扱い性、保液性に優れた不織布とすることができ、より好ましい。
【0018】
本発明のクリーニングシートとして使用される不織布の製造方法について次に述べる。該不織布は、例えば、有機ポリマーからなる有機繊維を用いる場合、その有機ポリマーを溶剤で溶解した有機ポリマー溶液の紡糸によって得ることができる。その好適な製造方法としては、有機ポリマー溶液をバーストさせ細繊化する爆裂紡糸技術(WO02/052070記載)や、一般に溶融性ポリマーで行われているメルトブロー技術を改良し、効果的に細繊化する技術(US6013223)や、特開2005−200779号公報のエレクトロスピニング法などが挙げられる。
【0019】
上記紡糸方法において紡糸条件の中から適切な範囲を選択することにより、前記(a)〜(e)を満足する不織布を得ることができるが、特にUS6013223の方法が好ましい。この方法では、上記不織布が得やすいだけでなく、前記の結晶化度や結晶サイズを容易に実現することができる。
【0020】
上記のUS6013223による紡糸方法においては、ダイによって適切な温度に温調されたキャビティーに付属した紡糸ノズルにポリマー溶液を供給し、該ノズルの内管を通ったポリマー溶液は、ポリマー吐出孔の外側に設置されたガス吐出口から噴出したガスによって、効果的に加速され、細化される。
【0021】
さらに、ポリマー溶液は、ポリマー吐出孔から吐出後、大気と接触するとともに、その下に凝固液供給ノズルを設け、該凝固液供給ノズルから供給された凝固液と接触させることによって固化し、極細の繊維となる。
【0022】
なお、上記方法は、ガスが、爆裂紡糸法のようにラバル管と呼ばれる、断面積が先細りになった後、下部で広がる形状を有する管を通して加速されるものではないため、エア等のガス使用量が、ラバル管使用時に比べて少なくてすむという利点がある。また、強力な気流の加速によってポリマー溶液をバーストさせるものではないため、繊維の連続性が保たれやすい。
【0023】
アラミド繊維の場合を例に取ると、例えば、固形分濃度が10〜30重量%のポリマー溶液を、ギアポンプを使って、US6013223の紡糸装置に供給し、紡糸温度30〜40℃とし、2〜200m/minで圧空を供給して紡糸を行うことができる。また、上記の紡糸装置では、吐出孔径、すなわちノズル内管(キャピラリ)の内径が0.1〜1.0mmである複数のノズル孔を有するものを用い、例えば、1ノズル孔当たりのポリマー溶液吐出量を0.1〜1g/分/ホールとてポリマーを吐出することができる。凝固液として水を使用し、吐出後のポリマー溶液に、ノズル孔から下方向に10〜100cmの位置に配置されたスプレーノズルから、1〜20L/minの水量で吹き付け、ポリマー溶液を固化させて連続繊維を得ることができる。また、ノズルスプレーの下方10〜100cmに捕集ベルトを設置して、これを搬送速度0.1〜10m/minで搬送し、連続繊維を捕集ベルト上に積層しながら捕集し、連続的に不織布を成形することができる。
【0024】
上記不織布には、後述するようにカレンダー加工を行うことができるが、例えば、得られた不織布をカレンダーロールにて温度200〜300℃、設定線圧10〜100kg/cm、上下ロール間のクリアランスを5〜200μmとして熱処理することができる。
【0025】
本発明において、平均繊維径を前記範囲とするのは、ポリマー溶液吐出量、吐出孔径、圧空の供給量、を上記で変更することによって可能である。
また、不織布の目付け、厚み、空隙率は、ポリマー溶液吐出量、捕集ベルトの搬送速度、カレンダーロールの線圧、上下ロール間のクリアランスを調整することによって容易に調整することができる。
【0026】
本発明のクリーニングシートとして使用される不織布は、単一素材による単層構造でも、2種以上の素材からなる多層構造であっても良いが、多層構造の場合は、層間の結着力が強固でないと剥離することがあるため、単一素材による単層構造の方が好ましい。
【0027】
このようにして本発明のクリーニングシートを製造できるが、厚さのバラツキがある場合や、引張り強さが所望範囲内にない場合がある。そのような場合には、クリーニングシートとして使用される不織布を構成する連続繊維が有機繊維の場合では、その軟化温度よりも低い温度(好ましくは20℃以上低い温度)でカレンダー処理(カレンダー工程)を行って、前記問題点を解決するのが好ましい。なお、カレンダー工程における圧力は、厚さのバラツキの程度、所望の見掛密度、所望の引張り強さ、所望の引裂強度等によって異なるため特に限定するものではない。この圧力は、実験を繰り返すことによって、適宜設定することができる。
【0028】
なお、オイルを含有するクリーニングシートは、上述のような方法で製造した不織布をオイル中に浸漬したり、不織布にオイルをスプレー又はコーティングして製造することができる。このオイルとしては、例えば、メチルシリコーンオイル、ジメチルシリコーンオイル、エチルシリコーンオイル、フェニルシリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイル、メルカプト変性シリコーンオイル、3,3,3−トリフロロプロピルシリコーンオイルなどのシリコーンオイルを単独で、又は混合して含んでいることができる。なお、オイルの付着量はクリーニングシートの厚さなどによって異なるが、100g/m以下であるのが好ましい。また、オイルの粘度は定着部材表面におけるオイルの拡散性に優れているように、10〜30,000センチストークスであるのが好ましい。
【実施例】
【0029】
以下実施例により、本発明を具体的に説明する。しかしながら本発明はこれによって限定されるものではない。なお以下の実施例などの評価および特性値は、以下の測定法により求めた。
【0030】
(1)平均繊維径(μm)
得られた不織布を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、繊維20本を任意に選出して測長し、平均繊維径を算出した。なお、観察は、1000倍で行った。
【0031】
(2)目付(g/m
JIS L 1906の単位面積当りの重量試験方法に準じて測定を行った。
【0032】
(3)厚さ(mm)
小野測器 デジタルリニアゲージDG−925(測定端子部の直径1cm)を用い、任意に選択した20箇所において厚さを測定し、平均値を求めた。
【0033】
(4)引張強度(N/cm)
JIS L 1906に準じて、テンシロン機を用いてチャック間距離10cm、ヘッドスピード10cm/minで評価した。
【0034】
(5)空隙率(%)
不織布の目付および厚みから不織布の密度を求め、「{1−(不織布の密度/不織布を構成する繊維自体の密度)}×100(%)」で不織布の空隙率を求めた。
【0035】
(6)融点(℃)
JIS K 7121に準じて、示差熱分析により得られる示差熱分析曲線から得た。
【0036】
(7)熱収縮率(%)
JIS L 1906に準じて、無緊張の状態で、200℃×15分熱処理後の不織布の乾熱収縮率を求めた。
【0037】
(8)液体吸い上げ高さの評価
JIS L 1907に規定される吸水速度測定法(バイレック法)に準じて、メチルシリコーンオイルの1分後の吸上げ高さの測定を行い、その高さが10mm以上なら液体吸い上げ性が良好とした。
【0038】
(9)払拭性の評価
カラー製複写機(リコー製、imagio Neo 352)を用意し、このカラー複写機のクリーニング装置を取り外した状態で、全面黒色画像の複写を連続して30枚行った。続いて、実施・比較例のクリーニングシートの一端からシャフトに巻回されたクリーニングシート供給体を備えたクリーニング装置(発泡シリコーンゴムからなる円柱状の棒状体と定着ロールとの挟み幅:3mm)を前記のモノクロ複写機に設置した。その後、全面白色画像の複写を連続して3枚行い、3枚目の複写紙表面におけるトナーによる汚れを観察した。
【0039】
(10)観察結果
○:トナーによる汚れが全くなく、良好。
△:トナーによる汚れ少し見られる。
×:トナーによる汚れ多く見られる。
【0040】
(11)結晶化度、結晶化サイズの測定
X線回折装置(D8 DISCOVER with GADDS Super Speed、Bruker AXS社製)を用い、2θ=10〜40°の範囲の測定を行った。なおこの際、試料の全方向のプロファイルを測定した。Hindelehら(A.M.Hideleh and D.J.Johnson,Polymer,19,27(1978))の方法に従い、市販のメタアラミドの全方位回折曲線を基にピーク分離し、分離後の最も強度の大きいピーク(ポリメタフェニレンイソフタルアミドの場合、2θ=23.5°付近)の半値幅から、下記に示すScherrerの式により、結晶サイズ(単位:Å)を算出した。
結晶サイズ=Kλ/(β×cosθ)
ここで、Kは定数で0.94、λは使用X線の波長で1.54Å(CuKα線)、βは反射プロフィールのラジアン単位の半価幅で実測値をβ、装置定数をβとしてβ=β−βから求めた。θは回折線のブラッグ角である。
また結晶化度は、上記分離後の結晶性ピーク強度の、全ピーク強度に対する割合から求めた。なお、結晶性ピークは、高度に結晶化されている市販のアラミド繊維の回折強度曲線のピーク位置を基準とした。
【0041】
[実施例1]
特公昭47−10863号公報記載の方法に準じた界面重合法により製造した固有粘度(IV)=1.35のポリメタフェニレンイソフタルアミド粉末(帝人テクノプロダクツ製)20重量部を、0℃に冷却したジメチルアセトアミド(DMAc)80重量部中に投入し、スラリー状にした後、45℃まで昇温して溶解させ、ポリマー溶液を得た。
上記のポリマー溶液を、ギアポンプを使って、US6013223の紡糸装置に120g/minで供給し、紡糸温度35℃とし、10m/minで圧空を供給して紡糸を行った。また、上記の紡糸装置には、吐出孔径、すなわちノズル内管(キャピラリ)の内径が0.4mmであるノズル孔が100×5列の配列で500本、5mmピッチで等間隔となるように配置されたものを使用し、1ノズル孔当たりのポリマー溶液吐出量を0.24g/分/ホールとした。凝固液として水を使用し、吐出後のポリマー溶液に、ノズル孔から下方向に40cmの位置に配置されたスプレーノズルから、9L/minの水量で吹き付け、ポリマー溶液を固化させて連続繊維を得た。また、紡糸装置の下方50cmに捕集ベルトを設置し、連続繊維を積層しながら該捕集ベルトの搬送速度を0.5m/minとし、表1記載の繊維構成、目付の不織布を得た。
得られた不織布を金属製カレンダーロールにて温度250℃、設定線圧50kg/cmで熱処理し、その際、上下ロール間のクリアランスを50μmとすることによって、表1記載の厚みのクリーニングシートを得た。次いで、引張強力、破断伸度、繊維の融点、200℃での乾熱収縮率、液体吸上げ高さ、および払拭性評価し、評価結果を表1にまとめた。また、連続繊維の結晶化度は52.1%、結晶化サイズは19.2Åであった。
【0042】
[実施例2、3]
圧空量を200m/minとし、捕集ベルト搬送速度を実施例2は0.1m/min、実施例3は2m/min、上下ロール間のクリアランスを実施例2は5μm、実施例3は200μmとすること以外は実施例1と同様にして、クリーニングシートを作製し、引張強力、破断伸度、繊維の融点、200℃での乾熱収縮率、液体吸上げ高さ、および払拭性評価し、評価結果を表1にまとめた。実施例2、3の連続繊維はいずれも、結晶化度は54.1%、結晶化サイズは28.3Åであった。
【0043】
[実施例4、5]
圧空量を2m/minとし、捕集ベルト搬送速度を実施例4は0.1m/min、実施例5は2m/min、上下ロール間のクリアランスを実施例4は5μm、実施例5は200μmとすること以外は実施例1と同様にして、クリーニングシートを作製し、引張強力、破断伸度、繊維の融点、200℃での乾熱収縮率、液体吸上げ高さ、および払拭性評価し、評価結果を表1にまとめた。実施例4、5の連続繊維はいずれも、連続繊維の結晶化度は49.2%、結晶化サイズは18.8Åであった。
【0044】
[比較例1、2]
圧空量を比較例1は1.7m/min、比較例2は250m/minとすること以外は実施例1と同様にして、クリーニングシートを作製し、引張強力、破断伸度、繊維の融点、200℃での乾熱収縮率、液体吸上げ高さ、および払拭性評価し、評価結果を表1にまとめた。比較例1の連続繊維の結晶化度は49.0%、結晶化サイズは18.7Å、比較例2の連続繊維の結晶化度は56.2%、結晶化サイズは30.3Åであった。
【0045】
[比較例3、4]
捕集ベルト搬送速度を比較例3は3.3m/min、比較例4は0.09m/min、上下ロール間のクリアランスを比較例3は220μm、比較例4は4μmとすること以外は実施例1と同様にして、クリーニングシートを作製し、引張強力、破断伸度、繊維の融点、200℃での乾熱収縮率、液体吸上げ高さ、および払拭性評価し、評価結果を表1にまとめた。比較例3、4の連続繊維はいずれも、連続繊維の結晶化度は52.1%、結晶化サイズは19.2Åであった。
【0046】
[比較例5]
平均繊維径、目付、厚み、空隙率が表1記載のものであるポリエステル不織布(東洋紡製)を用意し、引張強力、破断伸度、繊維の融点、200℃での乾熱収縮率、液体吸上げ高さ、および払拭性評価し、評価結果を表1にまとめた。
【0047】
[比較例6]
平均繊維径、目付、厚み、空隙率が表1記載のものであるポリプロピレン不織布(トレミクロン、東レ製)を用意し、引張強力、破断伸度、繊維の融点、200℃での乾熱収縮率、液体吸上げ高さ、および払拭性評価し、評価結果を表1にまとめた。
【0048】
【表1】

【0049】
本発明のクリーニングシートは、薄くて強度が高く、かつ加熱された定着ロールなどに用いるような場合に、熱およびその雰囲気温度でも収縮しにくく、安定して清掃することができ、さらにその清掃能力を高める目的で、クリーニングシートにオイルを含有させることがあるが、そのオイルが染み出すことがなく、シート内に保持することができることが認められた。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明のクリーニングシートは、定着ロール清掃用として用いられるのが好適であるが、かかる用途に限らず、耐熱性を要する部材の清掃や保護材として用いることもできる。繊維として、メタ型アラミド繊維を用いる場合には、耐薬品性も兼ね備えているため、酸性、アルカリ条件下でも使用することができ、その工業的価値は極めて大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不織布からなる定着装置のクリーニングシートであって、該不織布が、連続繊維から構成され、かつ下記要件を全て満足することを特徴とする定着装置のクリーニングシート。
(a)不織布を構成する連続繊維の平均繊維直径が0.1〜10μm
(b)不織布の目付が5〜100g/m、厚みが5〜200μm
(c)不織布の空隙率が30〜90%
(d)不織布を構成する連続繊維の融点もしくは熱分解温度が300℃以上
(e)不織布の200℃での乾熱収縮率が2%以下
【請求項2】
不織布を構成する連続繊維がアラミド繊維である請求項1記載の定着装置のクリーニングシート。
【請求項3】
アラミド繊維がポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維、ポリパラフェニレンテレフタラアミド繊維、またはコポリパラフェニレン3,4’−オキシジフェニレンテレフタラアミド繊維である請求項2記載の定着装置のクリーニングシート。
【請求項4】
アラミド繊維の結晶化度が55%以下もしくは結晶サイズが30Å以下である請求項2記載の定着装置のクリーニングシート。
【請求項5】
不織布が、有機ポリマーからなり、かつ該有機ポリマーを溶剤により溶解したポリマー溶液を、ダイからキャビティーに付属した紡糸ノズルに供給し、該ノズルの内管を通し、ポリマー吐出孔の外側に設置されたガス吐出口から噴出したガスによって加速し細化して、ポリマー吐出孔から吐出し、大気と接触させるとともに、その下に設けた凝固液供給ノズルから供給された凝固液と接触させることによって固化した連続繊維からなる不織布である請求項1記載の定着装置のクリーニングシート。

【公開番号】特開2012−193470(P2012−193470A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−58357(P2011−58357)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】