説明

定着部材、それを用いた定着装置および画像形成装置

【課題】カラー化に対応した高画像を得るのに十分な弾性を維持したまま、最表面の耐久性と離型性を大幅に向上させた定着部材を提供する。
【解決手段】記録媒体上のトナー像を加熱して、当該記録媒体に定着させるプロセスに用いられる定着部材であって、定着部材の表面は弾性層202からなり、弾性層はフッ素樹脂を含有しており、かつ、弾性層は3ないし4つの酸素原子と結合した珪素原子を有するポリオルガノシロキサン層を、表面層として有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機、プリンタ、ファクシミリ等の電子写真方式の画像形成装置に備える定着装置、該定着装置に備える高離型性定着部材の発明に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子写真方式を採用した装置、例えば、複写機、プリンタ、ファクシミリなどの画像形成装置においては、通常、回転する感光体ドラムを有し、この感光体ドラムの感光層を一様に帯電させた後でレーザ走査ユニットからのレーザビームによって露光して静電潜像を形成する。さらに、静電潜像をトナーによって現像した後、記録材としての転写紙上に転写し、さらに、その転写紙を熱定着装置を通過させ、熱定着させる機構が設けられている。
しかしながら、カラー画像に適した定着性を得るための十分弾性を保有する定着部材は、耐摩耗性、滑り性に著しく劣るという課題を持っている。
【0003】
一般に、定着方式としては定着ローラ又は定着ベルトと、これに圧接する加圧ローラとの間に記録シートを通過させることによって記録シート上に付着しているトナーを熱により軟化させつつ加圧することにより、記録シート上にトナー像を定着させる定着方式が採用されている。
この定着方式では、用紙に融着したトナー像が定着部材に接触するので、離型性のよい材料(たとえばフッ素系樹脂)が表面に15〜30μmの膜厚にて形成される。しかし、たとえばフッ素樹脂を用いた場合、樹脂であるがゆえに材料硬度が高いという短所がある。硬度が高いと、静電的に形成されたトナー画像を熱と圧力により定着させる際に、紙繊維の凹凸に対する追従性が低く、高画質な画像が得られない。特に近年は前述のようにカラー化により複数種のカラートナーを包み込むようにして溶融状態にする必要があるため、その影響は顕著である。
【0004】
この課題を解決すべく、弾性体(たとえばシリコーンゴムやフッ素ゴム)を定着部材の表面に形成する方法がとられている。
定着部材に弾性体を用いることにより前述の追従性が改善されるが、上記フッ素樹脂ほどの耐久性が確保できないため、転写紙の摩擦や転写紙を分離するための分離爪などによる傷が発生すると、定着部材に傷を付け、定着工程で傷が転写され異常画像を発生させる。また、従来技術として、耐摩耗性向上のために、弾性層にシリコーンゴム組成物に多量のシリカ微粉末やアルミナ微粉末を配合する技術が公知であるが、このようなシリコーンゴムはゴム硬度が高くなり、前述の高画質を得るための十分な弾性が得られない。
【0005】
また、シリコーンゴムと相溶性のない、フッ素樹脂を添加した場合、ゴム硬度の変化は少なくなるが、その非相溶性に起因して、脱落や強度低下などが発生する課題がある(特許文献1参照)
特許文献2にはフッ素ゴムに脱フッ素処理されたフッ素樹脂粉末を充填することが記載されているが、そもそもフッ素ゴムは硬い傾向があり、上述のカラー定着に求められる柔軟性を付与することが難しい上に、さらに脱フッ素化されたフッ素樹脂の添加により、実使用上問題がある硬度の上昇が避けられない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記課題を解決するためのものであり、カラー化に対応した高画像を得るのに十分な弾性を維持したまま、最表面の耐久性と離型性を大幅に向上させた定着部材を実現する。結果として高画質化と高信頼を両立し、長時間安定した定着を実現できる定着装置、および電子写真式の画像形成装置を提供する。以下詳細を説明する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)記録媒体上のトナー像を加熱して当該記録媒体に定着させるプロセスに用いられる定着部材であって、定着部材の表面は弾性層からなり、該前記弾性層はフッ素樹脂を含有しており、かつ、前記弾性層は3ないし4つの酸素原子と結合した珪素原子を有するポリオルガノシロキサン層を表面層として有していることを特徴とする定着部材。
(2)前記フッ素樹脂が、繊維状フッ素樹脂であることを特徴とする(1)に記載の定着部材。
(3)前記フッ素樹脂が、ポリテトラフルオロエチレンであることを特徴とする(1)又は(2)に記載の定着部材。
(4)前記表面層において、深さ方向に酸素濃度の極大値を持つことを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の定着部材。
(5)前記表面層がシロキサン結合を主鎖とする弾性ゴムであることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の定着部材。
(6)前記弾性ゴムがフロオロシリコーンゴムであることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の定着部材定着部材。
(7)(1)〜(6)のいずれかに記載の定着部材を有する定着装置。
(8)前記定着部材が定着ローラ及び、該定着ローラに対抗配置されている加圧ローラの少なくとも一方として用いられていることを特徴とする(7)に記載の定着装置。
(9)前記定着部材が、定着ベルト及び該定着ベルトに対向配置されている加圧ベルトの少なくとも一方として用いられていることを特徴とする(7)に記載の定着装置。
(10)(7)〜(9)のいずれかに記載の定着装置を用いたことを特徴とする電子写真方式の画像形成装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明の定着部材は耐久摩耗性を向上しているため摩耗に起因する画像不良が長期にわたり発生することがなく、カラー化に対応した高画像を得るのに十分な弾性を維持したまま、最表面の耐久性と離型性を大幅に向上させた定着部材を実現することができ、結果として高画質化と高信頼を両立し、長時間安定した定着を実現できる定着装置、および電子写真式の画像形成装置を提供することができる。
という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】画像形成装置の概略を示す図である。
【図2】ベルト方式の定着装置の概略を示す図である。
【図3】定着部材の構成の概略を示す図である。
【図4】定着部材表面のC60 Depth Profileの測定結果を示す図である
【図5】定着部材表面のC60 Depth Profileの測定結果を示す図である
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の定着部材について詳述する。
まず、本発明の定着部材が使用される画像形成装置の概要について説明する。
図1は複写装置の感光体とその作像系及び定着装置の構成を概念的に示したものである。この電子写真方式の画像形成装置における画像作成プロセスは、回転する感光体ドラム101の感光層を帯電ローラ102を用いて一様に帯電させた後、図示しないレーザ走査ユニットからのレーザービーム103によって露光し、それによって感光体ドラム101上の静電潜像をトナーによって現像してトナー像とし、そのトナー像を記録シート上に転写し、さらにその記録シートを定着装置に通してトナー像を加熱、加圧して記録シートに定着させるように構成してある。
なお図中104は現像ローラ、105はパワーパック(電源)、106は転写ローラ、108はクリーニング装置、109は表面電位計である。このような定着装置においては、例えばアルミニウム等の中空円筒体からなる芯金の外周面にトナーの粘着を防止するためのフッ素樹脂層等からなる粘着防止層を設けた加熱定着ローラ110を使用している。このような加熱定着ローラ110は、芯金の中空部に回転中心線に沿ってハロゲンランプ等のヒータを配置し、その輻射熱によって加熱定着ローラ110を内側から加熱するようになっている。
加熱定着ローラ110と平行に、これに圧接する加圧ローラ111を設け、加圧ローラ111と加熱定着ローラ110との間に記録シートを通過させることにより、記録シート上に付着しているトナーを加熱定着ローラ110の熱により軟化させつつ、加圧ローラ111と加熱定着ローラ110との間に挟むことによって加圧することにより、記録シート上にトナー像を定着させている。
【0011】
本発明の定着部材はベルト方式の定着部材としても良い。
図2は定着部材をベルト方式とした定着装置を示すものである。
図中113は定着ベルト、114は定着ローラ、115は加圧ローラ、116は加熱ローラであり、発熱部材としての定着ベルト113は定着ローラ114と加熱ローラ116とに張架・支持されている。ここで、フルカラーの複写機やレーザプリンタでは、マゼンタ、シアン、イエロー、ブラックの4色のカラートナーが用いられるが、カラー画像の定着時には、これらのカラートナーを溶融状態で混合する必要があり、トナーを低融点化して溶融しやすくするとともに、定着ベルト113の表面で、複数種のカラートナーを包み込むようにして溶融状態で、均一に混合させることが必要になる。(以降文中では定着ローラ、定着ベルトを総称して定着部材と表記することがある。)
また、図3は定着部材の構成を示す概略図であり、定着部材は基材201と弾性層202から構成されている。
【0012】
定着部材の基材201は、耐熱材料からなり、例えば、ポリイミド、ポリアミドイミド、PEEK、PES、PPS、フッ素樹脂等の樹脂材料を用いることができる。樹脂材料に、磁性導電性粒子を分散したものを用いることもできる。その場合、樹脂材料に対して磁性導電性粒子を20〜90重量%の範囲内で添加する。具体的には、ワニス状態の樹脂材料中に、ロールミル、サンドミル、遠心脱泡装置等の分散装置を用いて磁性導電性粒子を分散する。これを溶剤により適当な粘度に調整して、金型により所望の層厚に成形する。また、金属でも形成可能であり、具体的には、ニッケル、鉄、クロムの合金であって、それ自体が発熱しても良い。基材の層厚は、熱容量及び強度の点から、30〜500μmに形成されている。
【0013】
金属材料の場合はベルトの撓みを考慮して、100μm以下の膜厚であることが望ましい。金属材料の場合は、各材料の添加量と加工条件とを調整することで所望のキューリー点を得ることができ、キューリー点が定着ベルトの定着温度近傍となる磁性導電性材料にて発熱層を形成することで、発熱層は電磁誘導によって過昇温されることなく加熱できる。また、弾性体でも形成でき、例えば、天然ゴム、SBR、ブチルゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フロロシリコーンゴム、ふっ素ゴム、液状フッ素エラストマーなどが上げられるが、特に耐熱性の点からシリコーンゴム、フロロシリコーンゴム、ふっ素ゴム、フルオロカーボンシロキサンゴム、液状フッ素エラストマーなどが好ましい。
【0014】
また前記基材上に形成される弾性層202は耐熱性のある弾性体、好ましくは耐熱性ゴムが用いられ、例えば、天然ゴム、SBR、ブチルゴム、クロロプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、ニトリルゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フロロシリコーンゴム、ふっ素ゴム、液状フッ素エラストマーなどが上げられるが、特に耐熱性の点からシリコーンゴム、フロロシリコーンゴム、ふっ素ゴム、フルオロカーボンシロキサンゴム、液状フッ素エラストマーなどが好ましい。特に耐熱性・離型剤濡れ性の点から、シリコーンゴム、フロロシリコーンゴムが好ましい。
【0015】
本発明においてはこれらの耐熱性ゴムにフッ素樹脂粉末を添加し、強いせん断力をかける。せん断力をかける方法としては、一般的な二本ロール間での混練、バンバリーミキサーでの混練、一軸または二軸押し出し成型機での混練、ヘンシェルミキサーでの混練、ブレードでの高速混練などがあり、これら混練方法を単一でも複合で使用してもよい。フッ素樹脂粉末は圧縮、せん断力を受けると、繊維状(フィブリル)になりやすい性質がある。一般的には(CF−CF)nの構造をもつフッ素樹脂では分子間凝集が極めて小さく、分子鎖同士の界面が剥がれてフィブリル化するといわれている。これにより効果的にフッ素樹脂粉末を脱落しにくいように変形させることができ、耐久離型性を向上させることができ、充填剤の脱落を防止し、脱落痕に起因した画像オフセットの発生しない定着部材を提供できる。
【0016】
さらに耐熱性の高いシロキサン結合を主鎖に持つフッ素元素を構造中に含有する主剤(弾性ゴム)を用いることにより、フッ素元素の低表面エネルギー状態に起因して定着部材の表面エネルギーを低下させることができ、結果として溶融トナーの付着力低減や転写紙の巻きつきに起因するジャムを低減し、長期にわたり安定した定着を実現する。
【0017】
かかるフィブリル化をおこすフッ素樹脂重合体としては、テトラフルオロエチレンモノマーの乳化重合によって得られるいわゆるファインパウダーが好ましい。フィブリル化の程度は少なく、効果も小さくなるが、懸濁重合(いわゆるモールディングパウダー)においても可能である。フッ素樹脂はポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、ポリ三フッ化塩化エチレン、ポリフッ化ビニリデンなどの粉末が用いられ、このうち好ましくはポリテトラフルオロエチレン粉末である。
【0018】
樹脂粉末の粒径は通常0.1〜20μmのものが用いられる。平均粒径が0.1μm未満のものは取り扱いが難しく加工性に課題がある。20μmを超えるものは表面平滑性、均一性を低下させ、出力画像を乱す課題がある。好ましくは平均粒径1〜3μmである。フッ素樹脂の充填量は耐熱性ゴムに対して、5wt%〜50wt%の範囲であることが好ましい。5wt%未満では耐久性向上の効果が得られず、50wt%を超える場合は耐熱性ゴムの柔軟性を損なう場合がある。さらに好ましくは10wt%〜30wt%である。
【0019】
これらフッ素樹脂を添加した弾性体に表面改質処理をおこなう。
表面改質処理としてはプラズマ処理や電子線架橋、UVオゾン処理などが可能である。プラズマ発生装置としては平行平板型、容量結合型、誘導結合型のほか、コロナ放電処理や大気圧プラズマ装置でも可能である。耐久性の観点から減圧プラズマ処理が好ましい。反応圧力は0.05〜100Paとし、望ましくは1〜20Paである。反応ガスとしては不活性ガス、希ガス、酸素などのガスが有効であるが、効果の持続性においてアルゴンが好ましい。照射電力量は(出力×照射時間)により規定されるが、5〜200Whで設定され、特に5〜50Whが好ましい。
【0020】
従来技術として、プラズマやUV処理などにより励起・酸化させることで活性基を形成し、層間接着力を高めることが提案されているが、層間への適用に限定され、最表面への適用はむしろ離型性を低下させるため好ましくないことがわかっている。また、従来技術においては反応を酸素存在下で行い、効果的に反応活性基(水酸基)を導入しており、本発明と本質が異なる。本発明は酸素が少なく減圧された反応環境によるプラズマ処理のため、表面近傍の再架橋・結合を促し、「結合エネルギーの高いSi−O結合の増加」すなわち、「3ないし4つの酸素原子と結合した珪素原子の増加」に起因して耐久性が向上し、さらに「架橋密度向上による緻密化」に起因して離型性向上がすると思われる。
【0021】
以上の方法で作成した定着部材をXPSにて最表層から内部に向かって深さ分析を実施した。XPSとは、光電子効果により飛び出す電子を捕捉することにより、測定物原子の存在濃度比や結合状態を知ることができる装置である。
【0022】
本発明で弾性層として用いることができるシリコーンゴムはシロキサン結合のため主成分をSi、O、Cとして、ワイドスキャンスペクトルを測定し、各元素の相対ピーク強度比から表層から内部に存在する各原子の深さ方向の存在濃度比(atomic%)を求めた。結果を図4(a)に示す。横軸は表面から内部方向への分析深さであり、縦軸は存在濃度比である。
さらに、シリコーンゴムの場合、Siの2p軌道の電子が飛び出すエネルギーを測定することにより、珪素に結合している元素及び結合状態を知ることができる。図4(b)にSiの結合状態を示すSi2p軌道におけるナロースキャンスペクトルからピーク分離を行い、化学結合状態を求めた。横軸は結合エネルギーで縦軸は強度比である。また、下から上に向かっては深さ方向での測定スペクトルを示している。
測定条件を表1に示す。一般にピークシフトの量は結合状態に依存することが知られており、本件に関するシリコーンゴムの場合、Si2p軌道において高エネルギー側にピークがシフトするということが、Siに結合している酸素の数が増えていることを示す。
【0023】
また、未処理のシリコーンゴムについて同様の分析をした結果を図5(a)、(b)に示す。
これによれば、上記表面処理をおこなうと、最表層から内部に向かって酸素が多くなり極大値を持ち、また炭素が減少し極小値をもつ。さらに深さ方向に分析をすすめると酸素が減少して炭素が増加し、ほぼ未処理のシリコーンゴムと同等の原子存在濃度となる。さらに図4(a)のαで検出された酸素の極大値は、Si2p結合エネルギーシフトが高エネルギー側にシフトすることと一致(図4(b)のα)しており、酸素増加がSiに結合した酸素の数に起因することが示されている。
【0024】
図5(a)には、図4にみられたような酸素の極大値、炭素の極小値は見られない。さらにSi2p結合エネルギーシフトが高エネルギー側にシフトする様子もみられないことから、Siに結合した酸素の数も変化していないことが確認された。
【0025】
本発明では以上のように、最表面に形成された弾性層の表面に3ないし4つの酸素原子と結合した珪素原子を有するポリオルガノシロキサンを含有する表層を設けることを特徴とする。
改質層の厚みは0.01〜5μmであり、5μmを超えると、紙やトナーの凹凸に追従できなくなる。また、0.01μm未満では耐久向上効果が得られない。好ましくは0.01〜1.0μmである。
【0026】
さらに、本発明の構成を備えた弾性層の最表面は各種材料にて適宜修飾可能であり、たとえばカップリング材や各種モノマー、光感応型官能基、疎水性・親水性官能基の形成など機能付与の点でができる。たとえば、フッ素系高分子を構成することが可能であり、たとえば水酸基、シラノール基、カルボキシル基及び加水分解可能な基から選ばれる少なくとも1つの官能基を有する非晶質樹脂で構成され、そして、該最表層の非晶質樹脂と弾性層の耐熱性ゴムとが酸素を介した結合を有する。前記非晶質樹脂は、例えば、主鎖にパーフルオロポリエーテルを有する樹脂である。前記加水分解可能な基は、例えば、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、及び、メトキシシラン基、エトキシシラン基等のアルコキシシラン基などを持つカップリング剤である。カップリング剤としては金属アルコキシド又は金属アルコキシドを含む溶液が用いられ、金属アルコキシドとして一般式(1)で示されるシリコーンアルコキシド系モノマーや、重合度2〜10程度のそれらの部分加水分解重縮合物またはそれらの混合物及び/又はそれと有機溶媒を含む溶液が用いられる。
(4−n) Si(OR ・・・一般式(1)
(R およびRは、炭素数1〜10の直鎖状または分枝状のアルキル基、アルキルポリエーテル鎖、またはアリール基およびその誘導体、nは2〜4の整数)
【0027】
上記化学式によって表現される化合物の具体例としては、例えば、ジメチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン等がある。耐久性の面から特に好ましいのはテトラエトキシシランである。また、R1としてフルオロアルキル基でも形成可能であり、さらに酸素を介して結合したフルオロアルキルアクリレートやエーテルパーフルオロポリエーテルでも形成可能である。柔軟性、耐久性の点で特に好ましいのはパーフルオロポリエーテル基である。
【0028】
さらに、ビニルトリス(βメトキシエトキシ)シラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等のビニルシラン類、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のアクリルシラン類、β−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等のエポキシシラン類、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン類等が挙げられる。また、金属原子として、Si以外に、Ti、Sn、Al、Zrであるものを単独または2種以上を混合して用いることも可能である。
【0029】
本発明では以上のように、定着部材の表面は弾性層からなり、該前記弾性層はフッ素樹脂を含有しており、かつ、前記弾性層は3ないし4つの酸素原子と結合した珪素原子を有するポリオルガノシロキサン層を表面層として有している。
本構成をとることにより、極端な硬度上昇がない弾性体が得られ、最表面は柔軟性があって垂直方向に可動であり、トナーの段差や転写紙の凹凸に追従し、カラー化に対応した高画像を得るのに十分な弾性を維持できる。表面への摩耗負荷に対しては、フッ素樹脂が脱落することなく、最表面の耐久摩耗性を大幅に向上させた定着部材を実現でき、さらにはフッ素樹脂の脱落した部位へのトナー固着が低減されることにより、耐久離型性を得ることができる。
結果として高画質化と高信頼を両立し、長時間安定した定着を実現できる定着装置、および電子写真式の画像形成装置を提供することができる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例に基づいて本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
円筒状の長さ320mm厚み50μmの基材(ポリイミド)上にシリコーン用プライマー層を下地として乾燥後、その上にフッ素樹脂(株式会社喜多村:KTL−8F)20質量部とフロロシリコーンゴム(信越化学工業:X36−420U)80質量部とを配合したものを、プライミクス社製:T.K.ハイビスミックス:2P−03型にて減圧脱泡しながらせん断を30min加えて得たコンパウンドを200μmの厚みで形成し、150℃で10min加熱した。
その上に以下の条件でプラズマ処理をおこなった。
装置 : ヤマト科学製:PR−500
出力 : 100W
処理時間 : 4分
反応ガス : アルゴン99.999%
反応圧力 : 10Pa
さらにこの上にフッ素系炭素化合物であるオプツールDSX(ダイキン工業株式会社製)0.1%希釈溶液を引き上げ速度10mm/minのディッピング工法にて塗布し、その後、湿度90%温度60℃の環境で30分以上保持後、150℃10分の乾燥を実施し乾燥したものを定着部材として用いた。
以上の様にして製作した定着部材を(株)リコー製複写機:imagio MPC3000の定着装置に装着させ、トナーベタ画像200000枚の通紙試験を行った。試験紙としてはアスクル:マルチペーパー スーパーホワイトを使用した。評価は表1に示す基準で判定した。
【0031】
[実施例2]
実施例1におけるフロロシリコーンゴムの代わりにシリコーンゴム(DY35−2083:東レ製)を用い、150℃、30minで加熱後、200℃4hで二次加硫したものを用いた以外は実施例1と同様にして定着部材を作製し、実施例1と同様に評価をおこなった。
【0032】
[実施例3]
実施例2におけるオプツールDSXの代わりにオルトケイ酸テトラエチル(和光純薬工業(株)製)をディッピング塗布した以外は実施例2と同様にして定着部材を作製し、実施例1と同様に評価をおこなった。
【0033】
[実施例4]
実施例1におけるプラズマ反応ガスをアルゴンの代わりに窒素を用いた以外は実施例1と同様にして定着部材を作製し、実施例1と同様に評価をおこなった。
【0034】
[実施例5]
実施例1におけるプラズマ反応ガスをアルゴンの代わりに酸素を用いた以外は実施例1と同様にして定着部材を作製し、実施例1と同様に評価をおこなった。
【0035】
[実施例6]
実施例1におけるプラズマ処理をおこなった直後のものを定着部材として用い、実施例1と同様に評価をおこなった。
【0036】
[実施例7]
実施例1におけるオプツールDSXの代わりにオルトケイ酸テトラエチル(和光純薬工業製)をディッピング塗布し、フロロシリコーンゴムの代わりにアクリルゴム(Nipol AR51:日本ゼオン製)を用いた以外は実施例1と同様にして定着部材を作製し、実施例1と同様に評価をおこなった。
【0037】
[実施例8]
実施例7におけるアクリルゴムの代わりにブチルゴム(BR51:JSR(株)製)を用いた以外は実施例7と同様にして定着部材を作製し、実施例1と同様に評価をおこなった。
【0038】
[実施例9]
実施例7におけるアクリルゴムの代わりにエチレンプロピレンゴム(EP11:JSR(株)製)を用いた以外は実施例7と同様にして定着部材を作製し、実施例1と同様に評価をおこなった。
【0039】
[実施例10]
実施例1におけるオプツールDSXの代わりに 、イソプロポキシドチタン(高純度化学製)50%エタノール溶液をディッピング塗布した以外は実施例1と同様にして定着部材を作製し、実施例1と同様に評価をおこなった。
【0040】
[実施例11]
実施例1において、プラズマ処理及びディッピング処理を行なわなかったことを除いては実施例1と同様にして定着部材を作成し、この定着部材について実施例1と同様の評価を行った。
【0041】
[実施例12]
実施例11において、フッ素樹脂とフロロシリコーンゴムとのコンパウンドを用いることに代えてシリコーンゴム(DY35−2083:東レ製)を用いたことを除いては実施例11と同様にして定着部材を作成し、この定着部材について実施例11と同様の評価を行った。
表2は実施例および比較例の評価判定結果である。
【0042】
[比較例1]
円筒状の長さ320mm厚み50μmの基材(ポリイミド)上にシリコーン用プライマー層を下地として乾燥後、その上にフロロシリコーンゴム(信越化学工業製:X36−420U)を200μmの厚みで形成し、150℃で10min加熱したものを定着部材として作製し、実施例1と同様の評価をおこなった。
【0043】
[比較例2]
比較例1におけるフロロシリコーンゴムの代わりにシリコーンゴム(DY35−2083:東レ製)を200μm塗装し、150℃、30minで加熱後、200℃4hで二次加硫したものを用いた以外は実施例1と同様にして定着部材を作製し、実施例1と同様に評価をおこなった。
表2は実施例および比較例の評価判定結果である。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【符号の説明】
【0046】
101 感光体ドラム
102 帯電ローラ
103 露光
104 現像ローラ
105 パワーパック
106 転写ローラ
107 記録シート
108 クリーニング装置
109 表面電位計
110 加熱定着ローラ
111 加圧ローラ
112 ベルト方式定着器
113 定着ベルト
114 定着ローラ
115 加圧ローラ
116 加熱ローラ
201 基材
202 弾性層
【先行技術文献】
【特許文献】
【0047】
【特許文献1】特許第2905048号公報
【特許文献2】特開2005−157174号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体上のトナー像を加熱して当該記録媒体に定着させるプロセスに用いられる定着部材であって、
定着部材の表面は弾性層からなり、該前記弾性層はフッ素樹脂を含有しており、かつ、前記弾性層は3ないし4つの酸素原子と結合した珪素原子を有するポリオルガノシロキサン層を表面層として有していることを特徴とする定着部材。
【請求項2】
前記フッ素樹脂が、繊維状フッ素樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の定着部材。
【請求項3】
前記フッ素樹脂が、ポリテトラフルオロエチレンであることを特徴とする請求項1又は2に記載の定着部材。
【請求項4】
前記表面層において、深さ方向に酸素濃度の極大値を持つことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の定着部材。
【請求項5】
前記表面層がシロキサン結合を主鎖とする弾性ゴムであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の定着部材。
【請求項6】
前記弾性ゴムがフロオロシリコーンゴムであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の定着部材定着部材。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の定着部材を有する定着装置。
【請求項8】
前記定着部材が定着ローラ及び、該定着ローラに対抗配置されている加圧ローラの少なくとも一方として用いられていることを特徴とする請求項7に記載の定着装置。
【請求項9】
前記定着部材が、定着ベルト及び該定着ベルトに対向配置されている加圧ベルトの少なくとも一方として用いられていることを特徴とする請求項7に記載の定着装置。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれかに記載の定着装置を用いたことを特徴とする電子写真方式の画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−68790(P2013−68790A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−207103(P2011−207103)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】