説明

室温硬化性フルオロポリエーテルゴム組成物及びその硬化物

【課題】室温下、短時間で硬化し、耐溶剤性、耐薬品性、耐熱性、低温特性、低透湿性、電気特性に優れ、かつ保存安定性にも優れる室温硬化性フルオロポリエーテルゴム組成物及びその硬化物を提供する。
【解決手段】
(A)1分子中に2個以上のアルケニル基を有するポリフルオロ化合物、
(B)1分子中に1個以上のパーフルオロオキシアルキル基、パーフルオロアルキル基、パーフルオロオキシアルキレン基、又はパーフルオロアルキレン基を有し、かつ1分子中にケイ素原子に結合した水素原子(Si−H基)を2個以上有する含フッ素オルガノハイドロジェンポリシロキサン、
(C)触媒量の白金族化合物、
(D)疎水性シリカ粉末、
(E)酸化防止剤
を必須成分としてなる室温硬化性フルオロポリエーテルゴム組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、室温下、短時間で硬化し、耐溶剤性、耐薬品性、耐熱性、低温特性、低透湿性、電気特性に優れ、かつ保存安定性にも優れる硬化物を与える室温硬化性フルオロポリエーテルゴム組成物及びその硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
アルケニル基とヒドロシリル基との付加反応を利用した硬化性含フッ素エラストマー組成物は公知である。当該組成物は、短時間の加熱により硬化させることができ、得られる硬化物は、耐溶剤性、耐薬品性、耐熱性、低温特性、低透湿性、電気特性に優れているので、これらの特性が要求される各種工業分野に使用される。
【0003】
一方、電気・電子部品分野などにおいて、比較的耐熱性の低い基材やデバイスを保護する場合、保護膜形成時に加熱できない場合がある。このような場合に、前述のような付加反応を利用した硬化性含フッ素エラストマー組成物では、完全に硬化することが困難である。
【0004】
この問題を解決する手段として、ヒドロシリル化反応の触媒である白金族化合物の量を増量することで、硬化温度を下げられることが知られている。しかしながら、未硬化のエラストマー組成物中に高濃度の白金族化合物が存在する場合は、主成分であるポリフルオロ化合物のアルケニル基を含む有機基が経時での酸化劣化を受け易く、その際生じる酸化生成物によって触媒活性が低下するおそれがあり、このことが該組成物の保存安定性を悪くする原因となっている。
【0005】
また、アルコキシシリル基やヒドロキシシリル基などの縮合反応を利用した硬化性含フッ素エラストマーも提案されているが、深部まで硬化するのに数日を要するため、部品を形成してから使用に供するまで時間が掛かり、生産性が悪いという問題がある。
【0006】
このようなことから、室温下、短時間で硬化し、耐溶剤性、耐薬品性、耐熱性、低温特性、低透湿性、電気特性に優れ、かつ、保存安定性にも優れた含フッ素エラストマーの出現が求められていた。
【0007】
なお、本発明に関連する先行文献としては、下記のものが挙げられる。
【特許文献1】特開平8−225742号公報
【特許文献2】特許3748054号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、室温下、短時間で硬化し、耐溶剤性、耐薬品性、耐熱性、低温特性、低透湿性、電気特性に優れ、かつ保存安定性にも優れる室温硬化性フルオロポリエーテルゴム組成物及びその硬化物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、
(A)1分子中に2個以上のアルケニル基を有するポリフルオロ化合物、
(B)1分子中に1個以上のパーフルオロオキシアルキル基、パーフルオロアルキル基、パーフルオロオキシアルキレン基、又はパーフルオロアルキレン基を有し、かつ1分子中にケイ素原子に結合した水素原子(Si−H基)を2個以上有する含フッ素オルガノハイドロジェンポリシロキサン、
(C)触媒量の白金族化合物、
(D)疎水性シリカ粉末、
(E)酸化防止剤
を必須成分としてなる室温硬化性フルオロポリエーテルゴム組成物が、室温下、短時間で硬化し、耐溶剤性、耐薬品性、耐熱性、低温特性、低透湿性、電気特性に優れ、かつ保存安定性にも優れる硬化物を与えることを見出し、本発明をなすに至った。
【0010】
従って、本発明は、下記室温硬化性フルオロポリエーテルゴム組成物及びその硬化物を提供する。
[1](A)下記一般式(1)で示されるポリフルオロ化合物
CH2=CH−(X)a−Rf−(X’)a−CH=CH2 (1)
[式中、Xは−CH2−,−CH2O−,−CH2OCH2−又は−Y−NR−CO−(Yは−CH2−又は下記構造式(Z)
【化1】

で示されるo,m又はp−ジメチルシリルフェニレン基)で表される基、Rは水素原子、置換もしくは非置換の1価炭化水素基、X’は、−CH2−,−OCH2−,−CH2OCH2−又は−CO−NR−Y’−(Y’は、−CH2−又は下記構造式(Z’)
【化2】

で示されるo,m又はp−ジメチルシリルフェニレン基)で表される基であり、Rは上記と同じ基である。aは独立に0又は1である。Rfは2価のパーフルオロポリエーテル基であり、下記一般式(i)、(ii)で表される化合物である。
−Ct2t−[OCF2CF(CF3)]p−O−CF2(CF2rCF2−O−[CF(CF3)CF2O]q−Ct2t− (i)
(式中、p及びqは1〜150の整数であって、かつpとqの和は2〜200である。また、rは0〜6の整数、tは2又は3である。)
−Ct2t−[OCF2CF(CF3)]u−(OCF2v−OCt2t− (ii)
(式中、uは1〜200の整数、vは1〜50の整数である。また、tは上記と同じである。)]、
(B)1分子中に1個以上のパーフルオロオキシアルキル基、パーフルオロアルキル基、パーフルオロオキシアルキレン基、又はパーフルオロアルキレン基を有し、かつ1分子中にケイ素原子に結合した水素原子(Si−H基)を2個以上有する含フッ素オルガノハイドロジェンポリシロキサン、
(C)触媒量の白金族化合物、
(D)疎水性シリカ粉末、
(E)酸化防止剤
を必須成分としてなることを特徴とする室温硬化性フルオロポリエーテルゴム組成物。
[2][1]の組成物において、(A)成分、(C)成分、(D)成分及び(E)成分、並びに(A)成分、(B)成分及び(D)成分との2組成物とし、使用時に混合する使用形態をとることを特徴とする室温硬化性フルオロポリエーテルゴム組成物。
[3][1]又は[2]の組成物を加熱硬化することにより得られる硬化物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、室温下、短時間で硬化し、耐溶剤性、耐薬品性、耐熱性、低温特性、低透湿性、電気特性に優れ、かつ保存安定性にも優れる室温硬化性フルオロポリエーテルゴム組成物及びその硬化物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明につき更に詳しく説明する。
〔(A)成分〕
(A)成分は、1分子中に2個以上のアルケニル基を有するポリフルオロ化合物であり、下記一般式(1)で表されるものが好ましい。
CH2=CH−(X)a−Rf−(X’)a−CH=CH2 (1)
[式中、Xは−CH2−,−CH2O−,−CH2OCH2−又は−Y−NR−CO−(Yは−CH2−又は下記構造式(Z)
【化3】

で示されるo,m又はp−ジメチルシリルフェニレン基)で表される基、Rは水素原子、置換もしくは非置換の1価炭化水素基、X’は、−CH2−,−OCH2−,−CH2OCH2−又は−CO−NR−Y’−(Y’は、−CH2−又は下記構造式(Z’)
【化4】

で示されるo,m又はp−ジメチルシリルフェニレン基)で表される基であり、Rは上記と同じ基である。Rfは2価のパーフルオロポリエーテル基であり、aは独立に0又は1である。]
【0013】
ここで、Rとしては、水素原子以外の場合、炭素数1〜12、特に1〜10のものが好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基等や、これらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素等のハロゲン原子で置換した置換1価炭化水素基等が挙げられる。
【0014】
ここで、上記一般式(1)のRfは、2価のパーフルオロポリエーテル構造であり、下記一般式(i)、(ii)で表される化合物が好ましい。
−Ct2t−[OCF2CF(CF3)]p−O−CF2(CF2rCF2−O−[CF(CF3)CF2O]q−Ct2t− (i)
(式中、p及びqは1〜150の整数であって、かつpとqの和は2〜200である。また、rは0〜6の整数、tは2又は3である。)
−Ct2t−[OCF2CF(CF3)]u−(OCF2v−OCt2t− (ii)
(式中、uは1〜200の整数、vは1〜50の整数である。tは上記と同じである。)
【0015】
Rf基の好ましい例としては、例えば、下記の3つのものが挙げられるが、中でもより好ましくは1番目の式の構造を有する2価の基([化5])である。
【化5】

(式中、m及びnは1以上の整数、m+n=2〜200である。)
【化6】

(式中、m及びnは1以上の整数、m+n=2〜200である。)
【化7】

(式中、mは1〜200の整数、nは1〜50の整数である。)
【0016】
一般式(1)で表されるポリフルオロ化合物の具体例としては、下記式で表されるものが挙げられる。
【化8】

(式中、m及びnはそれぞれ1以上の整数、m+n=2〜200である。)
【0017】
なお、上記一般式(1)の直鎖状ポリフルオロ化合物の回転粘度計による粘度(23℃)は、5〜100,000mPa・s、特に5,000〜50,000mPa・sの範囲にあることが望ましい。
【0018】
これらのポリフルオロ化合物は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0019】
〔(B)成分〕
(B)成分は、1分子中にケイ素原子に直結した水素原子(Si−H基)を2個以上、好ましくは3個以上有する含フッ素オルガノハイドロジェンポリシロキサンであり、上記(A)成分の架橋剤ないし鎖長延長剤として機能するものである。
【0020】
また、(B)成分は、(A)成分との相溶性、分散性、硬化後の均一性等の観点から、1分子中に1個以上の1価のパーフルオロアルキル基、1価のパーフルオロオキシアルキル基、2価のパーフルオロアルキレン基又は2価のパーフルオロオキシアルキレン基等のフッ素含有基を有する。
【0021】
このフッ素含有基としては、例えば、下記一般式で表されるものを挙げることができる。
g2g+1
(式中、gは1〜20、好ましくは2〜10の整数である。)
−Cg2g
(式中、gは1〜20、好ましくは2〜10の整数である。)
F−[CF(CF3)CF2O]f−Ch2h
(式中、fは2〜200、好ましくは2〜100の整数、hは1〜3の整数である。)
−CF(CF3)−[OCF2CF(CF3)]i−O−CF2CF2−O−[CF(CF3)CF2O]j−CF(CF3)−
(式中、i及びjは1以上の整数、i+jは2〜200、好ましくは2〜100である。)
−(CF2CF2O)r−(CF2O)s−CF2
(式中、r及びsは1以上の整数であり、r+sは2〜200、好ましくは2〜100である。)
【0022】
また、これらパーフルオロアルキル基、パーフルオロオキシアルキル基、パーフルオロアルキレン基、又はパーフルオロオキシアルキレン基とケイ素原子とをつなぐ2価の連結基としては、アルキレン基、アリーレン基及びそれらの組み合わせ、或いはこれらの基にエーテル結合、アミド結合、カルボニル結合等を介在させたものであってもよく、例えば、
−CH2CH2−,
−CH2CH2CH2−,
−CH2CH2CH2OCH2−,
−CH2CH2CH2−NH−CO−,
−CH2CH2CH2−N(Ph)−CO−(但し、Phはフェニル基である。),
−CH2CH2CH2−N(CH3)−CO−,
−CH2CH2CH2−O−CO−,及び
−Ph’−N(CH3)−CO−(但し、Ph’はフェニレン基である。)
等の炭素数2〜12のものが挙げられる。
【0023】
また、この(B)成分の含フッ素オルガノハイドロジェンポリシロキサンにおける1価又は2価の含フッ素置換基、即ちパーフルオロアルキル基、パーフルオロオキシアルキル基、パーフルオロアルキレン基、又はパーフルオロオキシアルキレン基を含有する有機基以外のケイ素原子に結合した1価の置換基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、デシル基等のアルキル基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基及びこれらの基の水素原子の少なくとも一部が塩素原子、シアノ基等で置換された、例えば、クロロメチル基、クロロプロピル基、シアノエチル基等の炭素数1〜20の非置換又は置換の炭化水素基が挙げられる。
【0024】
(B)成分の含フッ素オルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、環状、鎖状、三次元網状及びそれらの組み合わせのいずれでもよい。
【0025】
この含フッ素オルガノハイドロジェンポリシロキサンのケイ素原子数は、特に制限されるものではないが、通常3〜60、好ましくは4〜30程度である。
【0026】
このような(B)成分としては、例えば下記の化合物が挙げられる。なお、これらの化合物は、1種単独でも2種以上併用して用いてもよい。なお、下記式において、Phはフェニル基を示す。
【0027】
【化9】

【0028】
【化10】

【0029】
【化11】

【0030】
【化12】

【0031】
【化13】

【0032】
上記(B)成分の配合量は、(A)成分を硬化する有効量であり、通常(A)成分中に含まれるビニル基、アリル基、シクロアルキル基等のアルケニル基の合計1モルに対し、(B)成分中のヒドロシリル基(Si−H基)が好ましくは0.5〜5.0モル、より好ましくは1.0〜2.0モルとなる量である。ヒドロシリル基が少なすぎると、架橋度合が不十分となる結果、硬化物が得られない場合があり、また、多すぎると鎖長延長が優先し硬化が不十分であったり、発泡したり、耐熱性等を悪化させる場合がある。
【0033】
また、この架橋剤は均一な硬化物を得るために(A)成分と相溶するものを使用するのが望ましい。
【0034】
〔(C)成分〕
(C)成分は、ヒドロシリル化反応触媒であり、(A)成分中のアルケニル基と(B)成分中のヒドロシリル基との付加反応を促進する触媒である。このヒドロシリル化反応触媒は、一般に貴金属の化合物であり、高価格であることから、比較的入手し易い白金又は白金化合物がよく用いられる。
【0035】
白金化合物としては、例えば、塩化白金酸又は塩化白金酸とエチレン等のオレフィンとの錯体、アルコール、ビニルシロキサンとの錯体、及びシリカ、アルミナ、カーボン等に担持された金属白金を挙げることができる。白金化合物以外の白金族金属触媒としては、ロジウム、ルテニウム、イリジウム及びパラジウム系化合物、例えば、RhCl(PPh33、RhCl(CO)(PPh32、Ru3(CO)12、IrCl(CO)(PPh32、Pd(PPh34等を例示することができる。なお、前記式中、Phはフェニル基である。
【0036】
この(C)成分の使用量は、触媒量でよいが、例えば(A)及び(B)成分の合計量100質量部に対して0.1〜500ppm(白金族金属原子換算)を配合することが好ましい。
【0037】
〔(D)成分〕
(D)成分は、疎水性シリカ粉末であり、上記組成物から得られる硬化物に適切な物理的強度を付与するものである。
【0038】
この(D)成分の疎水性シリカ粉末は、シリコーンゴム用充填材として公知のBET比表面積が50m2/g以上、特に50〜400m2/gの微粉末シリカを疎水化処理したものである。BET比表面積が50m2/g未満の場合は、得られる硬化物の物理的強度が不十分であり、また400m2/gを超えると(D)成分の分散が不均一になり配合が困難となる。
【0039】
微粉末シリカとしては、煙霧質シリカ、沈降性シリカ、コロイドシリカ等が例示されるが、これらの中では煙霧質シリカが最も好ましい。
【0040】
また、上記微粉末シリカの疎水化処理剤としては、トリメチルクロロシラン、ジメチルビニルクロロシラン、ジメチルジクロロシラン等のオルガノクロロシラン、ヘキサメチルジシラザン、1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシラザン、ヘキサメチルシクロトリシラザン等のオルガノジシラザン、トリメチルヒドロキシシラン、ジメチルヒドロキシシラン等のオルガノヒドロキシシラン等が挙げられる。これらは1種単独又は2種以上を併用して用いることができる。
【0041】
また、上記微粉末シリカの疎水化処理剤として、含フッ素オルガノシラン又は含フッ素オルガノシロキサンを挙げることができる。この場合、含フッ素オルガノシラン又は含フッ素オルガノシロキサンは、1分子中に1個以上の1価のパーフルオロオキシアルキル基、1価のパーフルオロアルキル基、2価のパーフルオロオキシアルキレン基又は2価のパーフルオロアルキレン基を有し、かつケイ素原子に直結したヒドロキシ基及び/又はアルコキシ基(好ましくは炭素数1〜6、特に1〜4のアルコキシ基)を1個以上有するオルガノシラン又はオルガノシロキサンであればよく、分子構造は特に限定されない。
【0042】
特に、含フッ素オルガノシラン又は含フッ素オルガノシロキサンを用いた疎水化処理は、上記(A)成分の直鎖状ポリフルオロ化合物に上記微粉末シリカを添加した混合物をニーダーなどの混練装置中で加熱混練する際に、含フッ素オルガノシラン又は含フッ素オルガノシロキサンを添加し、この時必要に応じて少量の水を加えて加熱処理することにより、上記微粉末シリカ表面にシラノール処理を施すことができる。
【0043】
この場合の加熱処理温度は100〜200℃の範囲で実施される。これにより(D)成分の疎水性シリカ粉末と他の成分との混和性が改良され、組成物の貯蔵時における「クレープ硬化」と呼ばれる現象を抑制することができると共に、組成物の流動性が向上する。
【0044】
(D)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対し、5〜50質量部、特に10〜30質量部の範囲であることが好ましい。配合量が5質量部未満の場合には、得られる硬化物の物理的特性が低下する場合がある。一方、50質量部を超えると得られる組成物の流動性が悪くなり、作業性や成型性が低下してしまう上に、得られる硬化物の物理的強度も低下するおそれがあり好ましくない。
【0045】
〔(E)成分〕
(E)成分は、酸化防止剤であり、(A)成分のアルケニル基を含む有機基の酸化を抑制し、(C)成分である白金族化合物の触媒活性が低下するのを防止するためのものである。本発明のように室温下、短時間で硬化することを特徴とする組成物の場合は、(C)成分である白金族化合物の添加量を多くしているため、(A)成分のアルケニル基を含む有機基が酸化劣化を受け易い。特にアルケニル基が酸化された場合は、硬化反応に供する官能基量が減少してしまうばかりでなく、酸化によって生成したハイドロパーオキサイド等が、白金族化合物の触媒活性を低下させてしまう。長期間の保存中に、このようなことが原因で硬化不良や硬化遅延が起こってしまうのを防止するために、(E)成分である酸化防止剤の添加が必須となる。
【0046】
このような酸化防止剤としては、フェノール系、アミン系、硫黄系、リン系、ワックス類、及びこれらの金属錯体、ビタミンC(L−アスコルビン酸)、ビタミンE(α−トコフェロール)、コウジ酸などの天然物由来化合物及びその誘導体等が挙げられる。これらの大部分は市販されており、通常は市販の酸化防止剤を使用すればよい。
【0047】
フェノール系の酸化防止剤の例としては、下記一般式
【化14】

(式中、Raは水素原子、又は炭素数1〜10の炭化水素基、n’は1又は2である。)
で示される1価フェノール類及び2価フェノール類、例えば、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、2,4−ジメチル−6−(1−メチルシクロヘキシル)フェノール、2,5−ジ−t−ブチル−ヒドロキノン、2,5−ジ−t−ペンチル−ヒドロキノン等や、下記式で示される多核フェノール類等が挙げられる。
【0048】
【化15】

(但し、t−Buは−C(CH33基である。)
【0049】
また、アミン系酸化防止剤の例としては、下記式等が挙げられる。
【化16】

【0050】
硫黄系、リン系、金属錯体、及び複合系の酸化防止剤の例としては、下記式で示される化合物等が挙げられる。
【化17】

(但し、t−Buは−C(CH33基である。)
【0051】
(E)成分の配合量は、上記(A)〜(E)成分からなる組成物全体に対して0.01〜10質量%であることが好ましく、さらに好ましくは0.05〜5質量%である。添加量が少なすぎると十分な効果が得られない場合があり、多すぎると硬化後のゴム物性において、強度の低下などに影響を及ぼすおそれがある。
【0052】
また、リンや硫黄原子を含む酸化防止剤においては、(C)成分である白金族化合物の付加反応触媒活性を著しく低下させる場合があるため、天然物系、フェノール系、アミン系の酸化防止剤を用いることが望ましい。
【0053】
[その他の成分]
本発明に係る室温硬化性フルオロポリエーテルゴム組成物においては、その実用性を高めるために上記(A)〜(E)成分以外にも、可塑剤、粘度調節剤、可撓性付与剤、ヒドロシリル化反応触媒の制御剤、無機質充填剤(但し、上記(D)成分は除く。)等の各種配合剤を必要に応じて添加することができる。これら添加剤の配合量は、本発明の目的を損なわない範囲、及び組成物の特性及び硬化物の物性を損なわない限りにおいて任意である。
【0054】
可塑剤、粘度調節剤、可撓性付与剤として、下記式(2)のポリフルオロモノアルケニル化合物及び/又は下記式(3)、(4)のポリフルオロ化合物を併用することができる。
Rf2−(X’)a−CH=CH2 (2)
[式中、X’及びaは上記と同じであり、Rf2は、下記一般式(iii):
F−[CF(CF3)CF2O]w−Ct2t− (iii)
(式中、tは上記と同じである。wは1〜150の整数であり、かつ、上記(A)成分の
Rf基に関するp+q及びrの和、並びにu及びvの和のいずれの和よりも小さい。)で表される基である。]
A−O−(CF2CF2CF2O)c−A (3)
(式中、Aは式:Cs2s+1−(sは1〜3)で表される基であり、cは1〜200の整数であり、かつ、前記(A)成分のRf基に関するp+q及びrの和、並びにu及びvの和のいずれの和よりも小さい。)
A−O−(CF2O)d(CF2CF2O)e−A (4)
(式中、Aは上記と同じであり、d及びeはそれぞれ1〜200の整数であり、かつ、dとeの和は、前記(A)成分のRf基に関するp+q及びrの和、並びにu及びvの和のいずれの和よりも小さい。)
【0055】
上記一般式(2)で表されるポリフルオロモノアルケニル化合物の具体例としては、例えば、下記のものが挙げられる(なお、下記式中のmは、上記要件を満足するものである)。
【化18】

【0056】
上記一般式(3)、(4)で表されるポリフルオロ化合物の具体例としては、例えば、下記のものが挙げられる。(なお、下記n又はnとmの和は、上記要件を満足するものである。)
CF3O−(CF2CF2CF2O)n−CF2CF3
CF3−[(OCF2CF2n(OCF2m]−O−CF3
(式中、m、nは整数であり、m+n=1〜200,m=1〜200,n=1〜200である。)
【0057】
上記式(2)〜(4)のポリフルオロ化合物の配合量は、(A)成分100質量部に対して1〜100質量部、特に10〜50質量部の範囲であることが好ましい。配合量が1質量部未満の場合には、配合効果が期待できず、一方、50質量部を超えると硬化物の硬さ、ゴム強度などが十分に得られないおそれがあり、これらの硬化物物性を必要とする用途の場合は好ましくない。
【0058】
また、ヒドロシリル化反応触媒の制御剤として、例えば1−エチニル−1−ヒドロキシシクロヘキサン、3−メチル−1−ブチン−3−オール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、3−メチル−1−ペンテン−3−オール、フェニルブチノールなどのアセチレンアルコールや、3−メチル−3−ペンテン−1−イン、3,5−ジメチル−3−ヘキセン−1−イン、トリアリルイソシアヌレート等、あるいはポリビニルシロキサン化合物、有機リン化合物等が挙げられ、その添加により硬化反応性と保存安定性を適度に保つことができる。
【0059】
また、無機質充填剤として、例えば炭酸カルシウム等の補強性又は準補強性充填剤、酸化チタン、酸化鉄、カーボンブラック、アルミン酸コバルト等の無機顔料、酸化チタン、酸化鉄、カーボンブラック、酸化セリウム、水酸化セリウム、炭酸亜鉛、炭酸マグネシウム、炭酸マンガン等の耐熱向上剤、アルミナ、窒化硼素、炭化ケイ素、金属粉末等の熱伝導性付与剤、カーボンブラック、銀粉末、導電性亜鉛華等の導電性付与剤、有機顔料や酸化防止剤等の有機化合物を添加することができる。なお、これらの添加剤の使用量は、本発明の効果を損なわない限り任意である。
【0060】
[組成物の製造方法と使用形態]
本発明の組成物の製造方法は特に限定されず、例えば、上記(A)〜(E)成分、及びその他の任意成分をロスミキサー、プラネタリーミキサー、ホバートミキサー、二本ロール等の混合装置により均一に混合する方法が挙げられる。
【0061】
また、使用形態として、(A)成分、(C)成分、(D)成分及び(E)成分、並びに(A)成分、(B)成分及び(D)成分との2組成物とし、使用時に混合するようにすることが、混合するまで硬化反応が始まらないため、室温下でも長期間保管することができ、保存安定性や取扱い性の面において特に好ましい。
【0062】
なお、本発明の室温硬化性フルオロポリエーテルゴム組成物を使用するに当たり、その用途、目的に応じて該組成物を適当なフッ素系溶剤(分子中にフッ素原子を含む溶剤)、例えばメタキシレンヘキサフロライド、アルキル(パーフルオロアルキル)エーテル、パーフルオロアルキルエーテル、あるいはその混合物等に所望の濃度に溶解して使用してもよい。この場合、これらのフッ素系溶剤は、塗工性などの観点から沸点が150℃以下のものを用いるのが好ましい。
【0063】
また、金属や有機樹脂など各種基材への接着が必要な場合は、プライマー等による下地処理を行って接着させることが望ましい。
【0064】
本発明の室温硬化性フルオロポリエーテルゴム組成物は、耐薬品性、耐溶剤性、低透湿性、耐熱性等に優れた硬化物を与える上、室温でも短時間で硬化し、各種基材に対し優れた密着性・粘着性を有しながら、低汚染性、低残留性を備えているため、シリコンウエハーをエッチングする際の裏面保護、液晶表示装置やPDPなどの電極防湿マスキング材、液晶用ガラスなどのガラスエッチング時の保護材、クリームハンダ塗工時のマスキング材、銅フレキシブルプリント基板エッチング時のマスキング材、自動車用電子部品の耐油性保護材など多くの用途に好適である。また、室温で硬化しゴム物性を有することから、施工時に加熱が困難な箇所への適用も容易である。具体的には、化学プラント用ゴム部品として用いられるO−リング類、パッキン類、オイルシール、ガスケット等、又は、航空機用ゴム部品として用いる航空機用エンジンオイル、ジェット燃料、ハイドローリックオイル、スカイドロール等の流体配管用O−リング、フェースシール、パッキン、ガスケット等に好適に用いられる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
[実施例1〜3、比較例1]
【0066】
下表1に示される配合量に従って、各組成物を配合した。
【表1】

【0067】
【化19】

【0068】
【化20】

【0069】
C−1:塩化白金酸のビニルシロキサン錯体のトルエン溶液(白金金属濃度0.5質量%)
D−1:Aerosil R976(Aerosil社製)
【0070】
【化21】

【0071】
[各組成物の評価]
1.硬化性の評価
実施例1〜3及び比較例1における組成Aと組成Bの組成物をよく混練し、100×150×2mmの型枠に流し込んで、室温(23℃)で1時間放置し、その硬化状態を観測した。結果を表2に示した。
2.保存安定性の評価
実施例1〜3及び比較例1における組成Aと組成Bの組成物を40℃で2週間放置した後、1.と同様の方法で硬化性の評価を行い、初期の硬化性との比較を行った。結果を表2に示した。
3.ゴム物性の評価
1.硬化性の評価で作製した硬化物のゴム物性を測定した。結果を表2に示した。
【0072】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記一般式(1)で示されるポリフルオロ化合物
CH2=CH−(X)a−Rf−(X’)a−CH=CH2 (1)
[式中、Xは−CH2−,−CH2O−,−CH2OCH2−又は−Y−NR−CO−(Yは−CH2−又は下記構造式(Z)
【化1】

で示されるo,m又はp−ジメチルシリルフェニレン基)で表される基、Rは水素原子、置換もしくは非置換の1価炭化水素基、X’は、−CH2−,−OCH2−,−CH2OCH2−又は−CO−NR−Y’−(Y’は、−CH2−又は下記構造式(Z’)
【化2】

で示されるo,m又はp−ジメチルシリルフェニレン基)で表される基であり、Rは上記と同じ基である。aは独立に0又は1である。Rfは2価のパーフルオロポリエーテル基であり、下記一般式(i)、(ii)で表される化合物である。
−Ct2t−[OCF2CF(CF3)]p−O−CF2(CF2rCF2−O−[CF(CF3)CF2O]q−Ct2t− (i)
(式中、p及びqは1〜150の整数であって、かつpとqの和は2〜200である。また、rは0〜6の整数、tは2又は3である。)
−Ct2t−[OCF2CF(CF3)]u−(OCF2v−OCt2t− (ii)
(式中、uは1〜200の整数、vは1〜50の整数である。また、tは上記と同じである。)]、
(B)1分子中に1個以上のパーフルオロオキシアルキル基、パーフルオロアルキル基、パーフルオロオキシアルキレン基、又はパーフルオロアルキレン基を有し、かつ1分子中にケイ素原子に結合した水素原子(Si−H基)を2個以上有する含フッ素オルガノハイドロジェンポリシロキサン、
(C)触媒量の白金族化合物、
(D)疎水性シリカ粉末、
(E)酸化防止剤
を必須成分としてなることを特徴とする室温硬化性フルオロポリエーテルゴム組成物。
【請求項2】
請求項1記載の組成物において、(A)成分、(C)成分、(D)成分及び(E)成分、並びに(A)成分、(B)成分及び(D)成分との2組成物とし、使用時に混合する使用形態をとることを特徴とする室温硬化性フルオロポリエーテルゴム組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載の組成物を加熱硬化することにより得られる硬化物。

【公開番号】特開2009−249568(P2009−249568A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−101583(P2008−101583)
【出願日】平成20年4月9日(2008.4.9)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】