説明

害虫防除具

【課題】植物の生育に悪影響を及ぼすことがなく、しかも設置作業が迅速に行えるとともに対象となる全ての植物に対して害虫防除のための光を均一に照射することができる害虫防除具を提供する。
【解決手段】太陽電池4と、蓄電池と、蓄電池からの電力供給により緑色の光を照射する複数の発光ダイオード6とを備え、縦長状に構成された基板9に発光ダイオード6を少なくとも上下方向に間隔を置いて配置して光照射部11を構成し、光照射部11の上端に太陽電池4を配置し、光照射部11に自立可能な手段12を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、野菜や果樹等の園芸作物を摂食する害虫からの被害を防止するための害虫防除具に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、野菜や果樹等の園芸作物では、夜間に害虫が実の汁を吸ったり、葉に卵を産んで、その後孵化した幼虫が葉、花、果実を摂食する被害が大きい。これらの被害をもたらす夜行性の害虫類の代表的なものは、オオタバコガ、ハスモンヨトウ、ヨトウガ(ヨトウムシ)などで、キャベツ、ブロッコリー、トマト等での被害が大きい。
【0003】
上記の夜行性の害虫類に対する防虫対策として、夜間に畑を照らすという方法は古くからあり、黄色蛍光灯により畑を照らすのが有名である。
【0004】
そして、上記黄色蛍光灯を備えた害虫防除システムが既に提案されている。このシステムは、環状に構成された黄色蛍光灯と、その黄色蛍光灯の背面側に配置した反射板と、反射板を支持する脚体とを備えている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−46018号公報(段落0023、図2参照)
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「細胞工学別冊 植物細胞工学シリーズ16 植物の光線センシング」2001年10月1日発行、秀潤社、和田正三他、p10〜p55参照
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記黄色蛍光灯からの黄色の光は、植物の花芽形成に及ぼす影響が大きく、植物の生育に悪影響を及ぼす可能性があり、採用し難いものである(例えば、非特許文献1参照)。
【0008】
また、上記特許文献1の害虫防除システムでは、蛍光灯であるため、蛍光灯を点灯するために必要となる電源を必要とするだけでなく、この電源を蛍光灯に電線を介して接続するための接続作業が必要となり、設置作業が手間のかかる煩わしいものになるだけでなく、蛍光灯が環状の大きなものであるため、例えば畝と畝との間の狭いスペースに配置することができない。このため、温室内の植物の外周縁に蛍光灯を配置することになるが、この場合には、蛍光灯から植物までの距離が温室内の中央に位置する植物ほど遠くなってしまうため、温室内の全ての植物に均一な光を当てることが難しいものであった。
【0009】
本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、植物の生育に悪影響を及ぼすことがなく、しかも設置作業が迅速に行えるとともに対象となる全ての植物に対して害虫防除のための光を均一に照射することができる害虫防除具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の害虫防除具は、前述の課題解決のために、太陽光により発電する太陽電池と、該太陽電池が発電した電力を蓄電する蓄電池と、該蓄電池からの電力供給により緑色の光を照射する複数の発光ダイオードとを備え、縦長状に構成された基板に前記発光ダイオードを少なくとも上下方向に間隔を置いて配置して光照射部を構成し、該光照射部の上端に前記太陽電池を配置し、前記光照射部に自立可能な手段を備えたことを特徴としている。
【0011】
上記のように緑色の光を照射する複数の発光ダイオードを備えさせることによって、植物の生育に悪影響を及ぼすことがなく、しかも蛍光灯に比べて長寿命で低消費電力である。しかも、太陽電池により発光ダイオードを発光させる構成であるため、蛍光灯のように電源と蛍光灯とを電線により接続するといった接続作業が不要になり、その分設置作業を容易迅速に行える。また、光照射部に自立可能な手段を備えているから、光照射部を自立させるための特別な工事などが不要になり、更に設置作業を容易迅速に行える。さらに、縦長状に構成された基板に前記発光ダイオードを少なくとも上下方向に間隔を置いて配置して光照射部を構成しているから、例えば畝と畝との間の狭いスペースにも光照射部を配置することができ、全ての植物に均一に光を照射することが可能になる。
【0012】
また、本発明の害虫防除具は、前記基板が透明又は半透明な筒状部材に挿入され、前記手段が、前記筒状部材の下端に取り付けられ、下端側ほど先細りとなる先細部から構成されていてもよい。
【0013】
上記のように透明又は半透明な筒状部材に基板を挿入しておけば、特に屋外での使用時において雨水などが基板にかかることを筒状部材により阻止することができる。また、筒状部材の下端に取り付けられた先細部を畑などの地面に差し込むことで害虫防除具の設置作業が完了し、また不要時には先細部を地面から抜くことで害虫防除具を回収できる。
【0014】
また、本発明の害虫防除具は、前記太陽電池が角度調整自在に備えられていてもよい。
【0015】
上記のように太陽電池を角度調整自在に備えておけば、太陽電池を角度調整することによって、太陽光に対して最適となる向きに太陽電池を変更できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の害虫防除具にあっては、緑色の光を照射する複数の発光ダイオードを用いることで、植物の生育に悪影響を及ぼすことがなく、しかも電源との接続作業を不要にできるから、設置作業が迅速に行えるとともに、小型化を図れるように縦長状に構成された基板に発光ダイオードを少なくとも上下方向に間隔を置いて配置して光照射部を構成することで、植物の間、つまり畝と畝との間の狭いスペースに配置することができるから、対象となる全ての植物に対して均一に光照射が行える害虫防除具を提供することができる。また、発光ダイオードを用いることで、蛍光灯に比べて長寿命で低消費電力になり、ランニングコストにおいて有利になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】畝と畝との間に配置した本発明の害虫防除具を示す側面図である。
【図2】本発明の害虫防除具の内部構造を示す縦断正面図である。
【図3】(a)は本発明の害虫防除具の太陽電池が収容された分割ケースの平面図、(b)は(a)におけるA−A線断面図、(c)は(a)におけるB−B線断面図、(d)は(b)の分割ケースの角度を変更した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1に、夜行性の害虫からの被害を抑制するための本発明の害虫防除具1を示している。この害虫防除具1は、図に示すように、植物2が植えられている2つの畝3,3間に位置する低くて狭い溝3Mに配設される。
【0019】
前記害虫防除具1は、図1〜図3に示すように、太陽光により発電する太陽電池4と、太陽電池4が発電した電力を蓄電する蓄電池5(図3(c)では3個であるが、何個でもよい)と、蓄電池5からの電力供給により緑色の光を照射する複数の発光ダイオード6とを備えている。前記発光ダイオード6は、植物の花芽形成に及ぼす影響が無く、植物の生育に悪影響を及ぼす可能性が無く、且つ害虫防除効果の高い緑色の波長である470nmから560nmの範囲の任意の波長の光線を発するものである。
【0020】
前記蓄電池5は、電気二重層コンデンサ又は鉛蓄電池あるいはニッカド電池などからなり、図3(c)では3個の電気二重層コンデンサを示している。そして、前記蓄電池5及び太陽電池4が、上下一対の分割ケース7A,7B内に収納されている。これら分割ケース7A,7Bのうちの少なくとも上側の分割ケース7Aは、光を透過可能な透明なポリカーボネート樹脂(PC)などの合成樹脂製(又はガラス製でもよい)のケースで構成されている。このため、太陽の光が上側の分割ケース7Aを透過して太陽電池4へ確実に到達できるようになっている。尚、下側の分割ケース7Bも、上側の分割ケース7Aと同様に、透明なポリカーボネート樹脂(PC)などの合成樹脂製(又はガラス製)のケースで構成してもよいが、他の材料、例えば金属製や木製などから構成してもよい。また、前記上下一対の分割ケース7A,7Bは、複数のビス8,8を介して着脱自在に一体化されている。
【0021】
前記発光ダイオード6は、図2に示すように、縦長状に構成された4枚の基板9A,9B,9C,9Dのそれぞれに備えられ、それら4枚の基板9A,9B,9C,9Dを上下方向に連結し、その連結状態において上下方向で隣り合う発光ダイオード6,6の間隔が一定間隔になるように各基板9A又は9B又は9C又は9Dに配置されている。発光ダイオード6,6を一定間隔に配置することにより、発光ダイオード6,6を発光させた際に、被照射部において照度を均一にすることができる。
【0022】
前記一番下側に位置する第1基板9Aは、それの長手方向に等間隔で多数(図では20個)の孔が形成され、それら多数の孔のうちの下から12番目と18番目の孔に発光ダイオード6を取り付けている。また、下から2番目に位置する第2基板9Bは、第1基板9Aと同様に、等間隔で多数(図では20個)の孔が形成され、下から4番目と10番目の16番目の孔に発光ダイオード6を取り付けている。また、下から3番目に位置する第3基板9Cは、第1基板9Aと同様に、等間隔で多数(図では20個)の孔が形成され、下から2番目と8番目と14番目の孔に発光ダイオード6を取り付けている。また、下から4番目の基板9Dは、予備の基板であり、第1基板9Aのほぼ1/3倍の長さに構成され、多数(図では7個)の孔が形成され、発光ダイオード6を追加して取り付けることができるようにしている。前記のように発光ダイオード6を配置することによって、上下方向で隣り合う発光ダイオード6,6の間の孔の個数が5個になり、発光ダイオードが上下方向に等間隔で配置されている。尚、第1基板9Aの第1番目の発光ダイオード6の取付位置を下から12番目の孔にしているのは、害虫防除具1を畝3よりも低い溝3Mに配置することから、第1番目の発光ダイオード6の光が植物2の根元付近を照らすことができるように考慮したものである。上記それぞれの基板9A,9B,9C,9Dにおいて、その長手方向に等間隔で多数の孔を形成することにより、発光ダイオード6を取付けるピッチを変更するのが容易となる。
【0023】
そして、前記と同様の発光ダイオード6が取付けられた4枚の基板9A,9B,9C,9Dで構成された上下方向に長尺な基板9をもう一枚作製し、図1に示すように、これら一対の基板9,9を透明な円筒状部材10に挿入して、光照射部11を構成している。前記基板9,9は、それらが互いに平行となる状態で前後(又は左右)方向に間隔を置いて配置されている。これにより、前後(又は左右)方向に発光ダイオード6からの光を照射できるため、害虫防除具1を設置したその前後(又は左右)方向に位置する植物に対して、効果的に害虫を防除することができ好ましい。また、発光ダイオード6からの光が円筒状部材10を通して外部に放出されるように基板9,9を配置している。前記円筒状部材10は、透明なポリカーボネート樹脂(PC)などの合成樹脂が好ましいが、ガラスなどで構成することもできる。また、半透明な合成樹脂などで円筒状部材10を構成することによって光の拡散効果を高めることもできるし、場合によっては、発光ダイオード6が外部へ照射することができるように光透過用の孔を円筒状部材10に形成すれば、円筒状部材10を金属や木など(合成樹脂でもよい)の非透明な材料により構成することができる。
【0024】
前記光照射部11の上端に、前記太陽電池4などが収納された分割ケース7A,7Bを上下方向において該光照射部11と重なり合うように配置することによって、前記のように畝3,3間の狭い溝3Mに邪魔になることなく、害虫防除具1を配置することができる。
【0025】
前記光照射部11には、自立可能な手段12を備えている。
この自立可能な手段12が、図2に示すように、前記円筒状部材10の下端に取り付けられ、下端側ほど先細りとなる先細部から構成されている。前記先細部12は、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合合成樹脂(ABS)などからなり、円錐状の先端部12Aと、該先端部12Aの上端から上方に伸びて前記円筒状部材10に内嵌固定される延出部12Bとを備えている。従って、円筒状部材10を持って先細部12を溝3Mに押し込むことで害虫防除具1を迅速に自立させることができる(図1参照)。
【0026】
また、前記太陽電池4に太陽光を効率よく取り込むことができるように、太陽電池4を角度調整自在に構成しており、その構成について説明する。
図3(b),(c),(d)に示すように、太陽電池4などが収納された上下一対の分割ケース7A,7Bの下側の分割ケース7Bの下端中心部に下方に延びるブラケット部7Cを備え、このブラケット部7Cを受け止める受止部材13を前記円筒状部材10の上端に外嵌するとともにボルト14により抜けないように固定している。
【0027】
前記受止部材13は、ポリカーボネート樹脂(PC)などの合成樹脂からなり、円筒状部材10の上端に外嵌する横断面形状が円筒状のキャップ部13Aと、キャップ部13Aの上板部13aから上方に延びる左右一対の突出片13B,13Bとを備えている。そして、突出片13B,13Bには、ボルト14を貫通可能な貫通孔13b,13bが形成され、また、前記突出片13B,13B間に形成される隙間に挿入される前記ブラケット部7Cにも、ボルト14を貫通可能な貫通孔7cを備えている。従って、突出片13B,13Bの貫通孔13b,13bとブラケット部7Cの貫通孔7cとが合致するように、突出片13B,13B間にブラケット部7Cを挿入してから、貫通孔13b,7c,13bにボルト14を貫通させて突出したボルト14の先端に、ナット15を螺合させることにより突出片13B,13B間にブラケット部7Cを固定することができる。そして、ボルト14を緩めることにより、ブラケット部7Cをボルト14の軸芯X回りで回動させることで、太陽電池4の角度調整が行えるようにしている。尚、角度調整が完了すると再度ボルト14をナット15に締め付けることによって、その角度位置に太陽電池4を固定することができる。
【0028】
前記のように構成された害虫防除具1は、日中において太陽光を受けて太陽電池4が電力を発電し、発電した電力を蓄電池5に蓄電する。日中に蓄電された電力を夜間において発光ダイオード6に出力することで発光ダイオード5が植物2に緑色の光を照射して、特に夜行性の害虫の行動を抑制することができる。
【0029】
前記発光ダイオード6の光照射により例えば、オオタバコガの交尾に及ぼす影響に関する実験結果を表1に示している。尚、オオタバコガの成虫を発光ダイオード6の波長525nmの緑色光を照射する区域(処理区)と、全く照明しない無照明とした区域(処理区)とに分けて所定時間放置して実験を行った。区域(処理区)とは、35m2、高さ2.5mのビニールハウスである。
【0030】
【表1】

【0031】
表1に示すように、オオタバコガの交尾雌率は、緑色光を照射する処理区で16.7%、無照明とした処理区で100%の結果になった。この結果から、緑色を発することによって、オオタバコガの活動を阻害する可能性が得られた。
【0032】
また、表2では、オオタバコガと同様、野菜類の代表的な害虫類であるハスモンヨトウとヨトウガの交尾雌率を、波長525nmの緑色光を連続照明する処理区と照明時間を80%削減した処理区と無照明とした処理区の3つの処理区での実験を行った。
【0033】
【表2】

【0034】
表2では、ハスモンヨトウの交尾雌率が、照明時間を80%削減した場合でも、連続照明した場合と同様に低く抑えることができた。また、ヨトウガでも、無照明の場合に比べてにおいても、無照明の場合に比べて80%削減した場合でも、効果的な交尾阻止率が得られた。
【0035】
尚、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0036】
前記実施形態では、先細部12を溝3Mに押し込むことで害虫防除具1を自立させるように構成したが、先細部12に代えて溝3M上に接地して自立可能な複数の脚部を備えさせてもよい。
【0037】
また、前記実施形態では、害虫防除具1に8個の発光ダイオード6を備えたが、発光ダイオード6の個数は、自由に変更できる。また、害虫防除具1に備える発光ダイオード6の全てを連続点灯させる、又は点滅させる、あるいは一部の発光ダイオード6を連続点灯又は点滅させる構成であってもよい。
【符号の説明】
【0038】
1…害虫防除具、2…植物、3…畝、3M…溝、4…太陽電池、5…蓄電池、6…発光ダイオード、7A,7B…分割ケース、7B…分割ケース、7C…ブラケット部、7c…貫通孔、8…ビス、9…基板、9A,9B,9C,9D…基板、10…円筒状部材、11…光照射部、12…自立可能な手段(先細部)、12A…先端部、12B…延出部、13…受止部材、13A…キャップ部、13B,13B…突出片、13a…上板部、13b,7c…貫通孔、14…ボルト、15…ナット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽光により発電する太陽電池と、該太陽電池が発電した電力を蓄電する蓄電池と、該蓄電池からの電力供給により緑色の光を照射する複数の発光ダイオードとを備え、
縦長状に構成された基板に前記発光ダイオードを少なくとも上下方向に間隔を置いて配置して光照射部を構成し、該光照射部の上端に前記太陽電池を配置し、前記光照射部に自立可能な手段を備えたことを特徴とする害虫防除具。
【請求項2】
前記基板が透明又は半透明な筒状部材に挿入され、前記手段が、前記筒状部材の下端に取り付けられ、下端側ほど先細りとなる先細部から構成されていることを特徴とする請求項1記載の害虫防除具。
【請求項3】
前記太陽電池が角度調整自在に備えられていることを特徴とする請求項1又は2記載の害虫防除具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−284129(P2010−284129A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−142013(P2009−142013)
【出願日】平成21年6月15日(2009.6.15)
【出願人】(591040236)石川県 (70)
【出願人】(000002462)積水樹脂株式会社 (781)
【Fターム(参考)】