説明

家庭用定置式燃料電池システム

【課題】耐CO被毒性、耐久性に優れ、より安価に製造しうる家庭用定置式燃料電池システムを提供する。
【解決手段】本発明のある態様の家庭用定置式燃料電池システムは、4族元素または5族元素からなる群より選ばれる1種以上の元素の炭窒化物の部分酸化物をアノード触媒に含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用の白金代替アノード触媒に関し、またその触媒として用いることのできる、4族元素、5族元素の群から選ばれる1種以上の元素の炭窒化物の部分酸化物をアノード触媒に含む家庭用定置式燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、水素(燃料)と酸素とを電気化学的に反応させることにより発電させる装置である。この反応による生成物は原理的に水であることから環境への負荷が少なく、燃料電池は、家庭用コジェネレーションシステム用途として期待され開発が進められている。
一般に、燃料電池の燃料の水素ガスとしては、圧縮水素や液体水素タンクからの高純度水素を使用するほかに、都市ガス等の炭化水素系燃料を改質して得られる改質ガスが使用されている。
【0003】
固体高分子形燃料電池の電極触媒として用いられる触媒成分としては、一般的に、PtまたはPt合金が用いられる。しかしながら、約80℃で作動する固体高分子形燃料電池では、Ptをアノード用触媒として用いる場合には、都市ガス等の炭化水素系燃料を改質して得られる改質ガス中のCOによりPt触媒表面が被毒することがある。被毒により、触媒の活性が損なわれ、アノード過電圧が大きくなり、これにより発電効率の低下を招いていた。また、改質ガス中のCOは、燃料電池システムの起動直後(シフト触媒やCO選択酸化触媒の活性が安定しないとき)や、CO選択酸化反応器への反応空気の流入量が不足したときに高濃度になる傾向にあるため、迅速な発電開始や安定的な発電のために、COによる被毒を低減した触媒成分の開発が求められている。
【0004】
COによる被毒を低減するためには、アノード触媒にPtRuが一般的に使われているが、十分な効果は得られず、水素製造装置(FPS)でのCO除去工程が必要となる。また、Pt触媒やPt−Ru触媒は安定性に乏しく、Ptの溶出(非特許文献1)や、Ruの溶出による性能低下が問題となっている(非特許文献2)。
【0005】
さらに、Ptは、非常に高価であり、資源的にも稀少な金属であるため、今後燃料電池の本格普及期を迎える際には、コストや資源の枯渇の観点から制約を受けることが危惧されている。
【0006】
これらの観点で、非Pt系電極触媒の開発が求められている。非Pt系カソード触媒としては、酸素欠陥を有するTaなどが検討され(特許文献1)、また、非Pt系アノード触媒としては、MoCを用いた触媒(非特許文献3)、MCxNyOz(特許文献2)などが検討されているが、家庭用定置式燃料電池システムへの適用化の実現には未だ至っていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Journal of The Electrochemical Society, 152 _11_ A2256-A2271 _2005
【非特許文献2】PEFC共通的基盤研究NEDO平成19年度成果報告2008.6.25<http://www.nedo.go.jp/informations/events/200623/25_8.pdf>
【非特許文献3】Electrochemical and Solid-State Letters、 9 _3_ A160-A162 _2006
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第06/019128号パンフレット
【特許文献2】特開2009−226311号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、COを含有する水素ガス(改質ガス)を燃料として用いた場合でも、発電効率、耐久性に優れた、より安価に製造しうる家庭用定置式燃料電池システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の家庭用定置式燃料電池システムは、原燃料を水蒸気改質して改質ガスを生成する改質器と、前記改質ガスのCO濃度を低減するシフト反応器とを有する水素製造装置と、4族元素または5族元素からなる群より選ばれる1種以上の元素の炭窒化物の部分酸化物を含むアノード触媒層を有し、前記水素製造装置で生成された改質ガスが前記アノード触媒層に供給される燃料電池発電セルと、を備える。
【0011】
上記態様の家庭用定置式燃料電池システムにおいて、前記シフト反応器と前期燃料電池発電セルとの間に、COを選択的に除去するCO選択酸化反応器を更にを設けてもよい。炭窒化物の部分酸化物がTa、Zrのいずれか一方もしくは両方を含んでもい。アノード触媒層は、プロトン伝導性イオノマーをさらに有してもよい。また、前記アノード触媒層は、導電性カーボンをさらに有してもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一形態によれば、耐CO被毒性、耐久性に優れ、より安価に製造しうる燃料電池システムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施の形態に係る燃料電池発電セルの構成を示す分解斜視図である。
【図2】実施の形態に係る燃料電池システムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について詳しく説明する。
【0015】
(触媒の調製方法)
以下の説明において、4族元素または5族元素からなる群より選ばれる1種以上の元素の炭窒化物の部分酸化物を、MCNOと表す。Mは4族元素または5族元素からなる群より選ばれる1種以上の元素を表し、Cは炭素、Nは窒素、Oは酸素を表す。
【0016】
前記Mの酸化物を窒素雰囲気中で熱処理し、Mの炭窒化物(MCNと表す)の粉末を形成させる。次に、このMCNの粉末を、酸素が含まれる不活性ガス雰囲気中で熱処理することで、MCNO粉末を形成させることができる。このMCNO粉末にカーボン等の固体導電性材料を乳鉢やボールミルなどの混合機で物理的に混合して用いることにより、電極反応に好適な電子導電性が確保され、また、燃料ガスまたは酸化剤ガスなどの反応ガスを好適に拡散させるための空孔を確保することができる。したがって、得られる触媒活性の更なる向上が図られる。
【0017】
前記固体導電性材料は、適度な粒子径と比表面積をもつ多孔体であることが好ましい。この観点から主にカーボンを主成分とするものが好ましく用いられるが、触媒を所望の分散状態で担持できるものであれば、その材料は特に限定はされない。また、導電性のほか、ある程度のプロトン伝導性を持つか、または、プロトンを伝導する媒体を保持できるとさらに好ましい。この観点から、カーボンブラックなどの多孔性カーボン担体が好ましく用いられる。
【0018】
前記導電性材料として、カーボンを主成分とするものとしては、具体的には、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、バルカン、ブラックパール、黒鉛化アセチレンブラック、黒鉛化バルカン、黒鉛化ケッチェンブラック、黒鉛化ブラックパール、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、カーボンフィブリル等からなる群より選択される1種または2種以上の混合物が好ましく用いられる。
【0019】
前記導電性材料のBET比表面積は、Ta系アノード触媒を高分散に混合させる観点から好ましくは80m2/g以上とするのがよい。
【0020】
また、前記導電性材料の大きさは、特に限定されないが、担持の容易さおよび触媒利用率を適切な範囲で制御するなどの観点からは、平均直径を5〜200nm、好ましくは10〜100nm程度とするのがよい。なお、導電性材料の平均直径は、TEM観察によって測定、算出する。
【0021】
導電性材料を混合する際には、導電性材料の量は、MCNOと導電性材料の合計量に対して、好ましくは5〜90質量%とするのがよい。前記含有量が90質量%以下であると、触媒成分の導電性材料との混合状態を良好にすることが容易であり、TaCNOの増加よる発電性能向上効果を好適に得ることができる。また、前記担持量が5質量%以上であると、単位質量あたりの触媒活性が好適であり、所望の触媒活性を得るために多量の電極触媒が必要となることを容易に防止できる。
【0022】
また、本発明により得られるMCNOは、従来固体高分子形燃料電池に用いられている電極触媒、例えば導電性材料に貴金属粒子および/または貴金属合金粒子を担持させた電極触媒に混合して、燃料電池用電極触媒として用いることができる。
【0023】
また、貴金属とMCNOとを含む電極触媒の製造に用いる、導電性材料に貴金属粒子および/または貴金属合金粒子を担持させた触媒としては、燃料電池において従来一般的に用いられているもの(たとえばPt/C、Pt−Ru/C等。ここでCはカーボンを表わす)であれば特に制限されずに用いることができる。
【0024】
本発明により製造されるMCNOの用途は、上記では固体高分子形燃料電池における電極触媒を例に挙げて説明したがこれに限定されず、アルカリ型燃料電池、リン酸型燃料電池、に代表される酸型電解質の燃料電池、ダイレクトメタノール燃料電池、マイクロ燃料電池などの各種燃料電池におけるアノード触媒として用いることができる。また、燃料電池用アノード触媒に限定されることもなく、他の用途にも適宜用いることができる。
【0025】
(発電セル)
次に、実施の形態に係る燃料電池発電セルの構成について、図1を参照しつつ説明する。
【0026】
(基本セル構成)
上記MCNOを用いた燃料電池の一種である固体高分子形燃料電池の基本セル50は、図1に示すように、膜−電極接合体(MEA)40、ガスシール材3、9、およびセパレータ2、10を含む。上記MEA(Membrane Electrode Assembly)は、水素イオン伝導性を有する固体高分子電解質膜6の一方の面に、水素燃料が供給される電極触媒層(アノード触媒層5)を介してGDL(Gas Diffusion Layer)4を積層し、固体高分子電解質膜6の他方の面に、酸素が供給される電極触媒層(カソード触媒層7)を介してGDL8を積層して構成される。その電極触媒層は、電極反応を促進させる触媒成分、導電性成分、およびイオン伝導性を有する固体高分子電解質との混合物により形成された多孔性のものである。
【0027】
ガスシール材3は、気体と液体をシールするためGDL4およびアノード触媒層5の周囲に配置されている。同様に、ガスシール材9は、気体と液体をシールするためGDL8およびカソード触媒層7の周囲に配置されている。そして、上記MEA40を一対のセパレータ2、10で挟むことにより、上記基本セル50が構成される。この基本セルの両端に、導電性の高い素材でできた集電板1、11をそれぞれ配し、ボルト及びナット等で締め付けることにより、発電セルが構成される。
【0028】
なお、本発明により調製されるTaは、上記発電セル中の、アノード触媒層5及び/またはカソード触媒層7において、電極触媒の少なくとも1成分として用いられる。
【0029】
(セパレータ)
上記一対のセパレータ2、10は、燃料(還元剤)であるアノードガス(例えば水素)と酸化剤であるカソードガス(例えば酸素)とを区画する。セパレータ2にはアノードガスをアノードに導入するための流路がGDL側の面に形成されている。一方、セパレータ10にはカソードガスをカソードに導入するための流路がGDL側の面に形成されている。
【0030】
(電極触媒層、GDL)
MEA中、電極触媒層のうち、水素ガス等のアノードガスの流路が形成された側のアノード触媒層5(燃料極)には、燃料の酸化を促進させるための触媒層が設けられている。この触媒層で燃料の水素含有ガスを酸化して水素イオンに変える水素の酸化反応が起きる。一方、空気(酸素ガス)等のカソードガスの流路が形成された側のカソード触媒層7(酸素極)には、酸化剤の還元を促進させるための触媒層が設けられている。この触媒層で酸化剤ガスに含まれる酸素が還元され、つまり固体高分子電解質膜を通ってきた水素イオンと結びつき、水となる酸素の還元反応が起こる。この化学反応により得られた反応エネルギーから電気エネルギーを直接得て、発電する。
【0031】
上記アノード及びカソードの電極触媒層は、それぞれ導電性及びガス拡散性機能を持つGDLに支持される。GDL4、8には例えば炭素繊維から成るカーボンペーパーが用いられる。GDL4、8の素材としてはカーボンクロスなどもある。GDL4とアノード触媒層5との間、GDL8とカソード触媒層7との間には、ガス拡散性を向上させるために撥水処理を施してもよい。
【0032】
(セルスタック)
基本セル50を多数重ね合わせ、積層方向に押圧力を与えて挟持して燃料電池本体(燃料電池スタック)が構成される。燃料電池スタックの側辺部分には、水素ガス(カソードガス)、酸素ガス(アノードガス)及び冷却媒体の供給用及び排出用の複数のマニホールドが貫設形成され、各マニホールドと、セパレータに形成されたアノードガス流路およびカソードガス流路とが連通するよう構成される。更に、隣接するセル同士のセパレータ間には冷却媒体(水、エチレングリコール等)の流路が形成され、この流路と冷却媒体の供給用および排出用のマニホールドが連通するよう構成される。
【0033】
(ガスケット)
MEA40とセパレータ2、10との間、セパレータ2、10同士の間は、上記ガスや冷媒の外部への漏出を防止するために、各周辺部やマニホールド用透孔周りに配されたガスケット等のシール部材(ガスシール材3および9、ならびに冷却媒体用のシール部材)によりシールされる。これらのシール部材としては、使用温度域の使用に耐える材料が適宜用いられる。
【0034】
[燃料電池システムの構成]
次に実施の形態に係る燃料電池システムの構成について説明する。
【0035】
(システム概要)
図2は、実施の形態に係る燃料電池システムの概略図である。燃料電池システム100は、おもに、灯油や液化石油ガス(LPG)、都市ガスなどの原燃料から水素を製造する水素製造装置(FPS)60および燃料電池スタック70を備える。
【0036】
(FPS、原燃料)
FPS60は、おもに脱硫器22、改質器23、シフト反応器24、および、CO選択酸化除去器25で構成される。原燃料21としては灯油、LPG、都市ガスなどを用いることができる。本実施の形態では、原燃料21として灯油が脱硫器22に供給され、脱硫された後、改質器23にて水蒸気改質により改質される。改質器23から得られる改質ガスは熱交換器28で燃料電池スタック70のアノードオフガスにより冷却された後、シフト反応器24に供給される。
【0037】
シフト反応器24でCO濃度が低減された改質ガスは、CO選択酸化除去器25にてさらにCO濃度が低減された後、燃料電池スタック70の各アノード72に供給される。なお、本実施の形態においては、CO選択酸化除去器25と燃料電池スタック70との間に加湿器26を設けたが、CO選択酸化除去器25の後段であって燃料電池スタック70の前段において改質ガスが十分に加湿されている場合は省略してもよい。
【0038】
燃料電池スタック70のアノード触媒としてMCNOを用いる場合には、通常の白金触媒をアノードに使用した場合に比べて,改質ガス中のCO濃度が高くても,セルの電圧低下が少ない状態で発電できることが期待される。そのため、例えばCO選択酸化除去器への空気流入量が変動した際等に、燃料電池スタックのアノード72へ供給されるガス中のCO濃度が一時的に高くなっても、運転可能である。さらに、本発明に用いられるアノード触媒のCO被毒耐性が十分に高い場合には,CO選択酸化除去器を搭載せず、シフト反応器から排出される改質ガスを燃料電池スタックに直に供給しても、許容範囲内のセル電圧低下幅にて発電継続できる可能性がある。すなわち、燃料電池システムの信頼性向上に寄与し、より安価に燃料電池システムを製造することができる。
【0039】
(ガス導入経路、オフガス燃焼)
アノード72から排出されるアノードオフガスは、熱交換器28で改質ガスとの熱交換により加熱され、改質器に備わるバーナ29に燃焼用燃料として供給され、ここで燃焼された後、系外に排気される。また、燃料電池スタック70のカソード74には酸化剤として空気が供給され、カソード74から排出されるカソードオフガス(不図示)は、必要に応じて熱回収された後、系外に排出される。
【0040】
以上説明した家庭用定置式燃料電池システムによれば、耐CO被毒性の高い4族元素または5族元素からなる群より選ばれる1種以上の元素の炭窒化物の部分酸化物をアノード触媒に用いることにより、耐CO被毒性、耐久性の向上や、製造コストの低減を図ることができる。また、炭窒化物の部分酸化物を適宜選択することにより、FPSにCO選択酸化除去器を搭載せず、シフト反応器の出口ガスを直接燃料電池に導入する単純なシステム構成も適用可能になる。このため、より信頼性が高く、より安価に製造しうる、家庭用定置式燃料電池システムが得られる。
【実施例】
【0041】
以下に実施例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0042】
(実施例1)
本実施例では、MがTaの場合の説明をする。まずTaCNOの調製方法を説明する。
【0043】
Ta粉末1gと炭素粉末1gをるつぼ内で均一に混合した後、得られた混合物を焼成用ボートに入れ、N雰囲気中、1800℃で5時間反応させ、TaCN粉末を得た。得られたTaCNを乳鉢で粉砕した後、再度焼成用ボートに載せ、Oが0.05%含まれるN雰囲気中、1000℃で10時間焼成し、TaCNO粉末を得た。その後、生成したTaCNO粉末を、室温まで冷却した。この生成物のBET比表面積は、2.5m2/gであった。
【0044】
次に前記TaCNOをアノードに用いた燃料電池発電セルの作製について述べる。本実施例に係る燃料電池発電セルを、図1を参照しつつ説明する。
【0045】
まず、アノード触媒層5の作製方法を説明する。ケッチェンブラック粉末1gと、前記TaCNO1gをイソプロパノールに分散させた溶液に、パーフルオロカーボンスルホン酸の粉末1gをエチルアルコールに分散したディスパージョン溶液を混合し、アノード触媒ペーストを作製した。一方、GDL4用に、厚み300μmの撥水処理済みカーボンペーパーをA4サイズにカットした。この撥水処理済みカーボンペーパーの一方の面に、上述したアノード触媒ペーストを、バー塗布機を用いて塗布することで、カーボンペーパーの片面にTaCNOを用いたアノード触媒層5を形成した。
【0046】
このとき、アノード触媒層5の一部は、カーボンペーパーの中に埋め込まれた状態となる。なお、前記バー塗布機によるペースト状触媒の塗布量は、塗布後のアノード触媒層5の厚みが25μmになるよう調整している。
【0047】
次に、外寸が8cm×8cmの固体高分子電解質膜6の一方の面にアノード触媒層5が接し、固体高分子電解質膜6の他方の面にカソード触媒層7が接するように、一対の反応電極(GDLと電極触媒層とが一体化されたもの)をホットプレスで接合して、MEA40を作製した。
【0048】
このとき、アノード側には上述のように製造した反応電極を用いた。
【0049】
カソード触媒層7としては、Pt/C中のPt量が0.5mg/cm2、パーフルオロカーボンスルホン酸の量が1mg/cm2となるように調整した触媒層を用いた。カソード触媒層も、アノード触媒層5と同様に、撥水処理済みカーボンペーパーの一方の面に、バー塗布機を用いて触媒ペースト塗布することで形成する。なお、GDL8には、GDL4と同様のものを用いた。
【0050】
このとき、カソード触媒層7の一部は、アノード触媒層5と同様に、カーボンペーパーの中に埋め込まれた状態となる。なお、前記バー塗布機によるペースト状触媒の塗布量は、塗布後のカソード触媒層7の厚みが30μmになるよう調整している。
【0051】
本実施例では、固体高分子電解質膜6として、膜厚50μmのパーフルオロスルフォン酸系電解質膜(DuPont社製。商品名:Nafion CS−212)を用いた。また、ホットプレスでは、150℃にて、10MPaの圧力を120秒かけた。
【0052】
上記MEA40を一対のセパレータ2、10で挟み、基本セル50を構成した。上記基本セル50の両端に、金メッキされた銅からなる集電板1、11をそれぞれ配し、ボルト及びナット等で2N・m締め付け、本実施例に係る燃料電池発電セルを構成した。
【0053】
前記基本セル50を50枚重ね、両端に、金メッキされた銅からなる集電板(エンドプレート)1、11を配し、ボルト及びナット等で締め付け、燃料電池スタック70を構成した。
【0054】
前記TaCNOをアノード触媒に用いた燃料電池発電セルを評価した。燃料として水素ガス(0.3NLM、露点80℃)をアノードに供給し、酸化剤として酸素(0.3NLM、露点80℃)をカソードに供給した。得られた開放起電力は約0.95Vであり、セル電圧0.8Vで50mA/cmの電流密度が得られた。
【0055】
本発明を適用して用いる燃料電池システムのFPS出口ガス組成を連続ガス分析計によりモニターしたところ,一般的な燃料電池システムと同じく,CO選択酸化除去器の出口におけるCO濃度はドライ体積組成として定常時の平均で3ppmであったが,改質系の圧力変動等により30〜50ppmまで瞬時的に上昇するパルス状の変動を生じていることがわかった。
【0056】
このガス組成変動(COの瞬時的上昇)に応じて、一般のPtRu/C触媒をアノードに使用した燃料電池システムでは、単セル当たり−30mVの電圧変動が起きたが、本例のシステムにおいては、単セルあたり−10mV以下の変動幅で収まっていることが確認され,より安定的に運転を継続することができた。また、運転中の触媒成分の溶出や凝集も観測されなかった。
【0057】
(実施例2)
本実施例では、MがZrの場合の説明をする。まずZrCNOの調製方法を説明する。
【0058】
ZrO粉末1gと炭素粉末1gを、るつぼ内で均一に混合した後、得られた混合物を焼成用ボートに入れ、N雰囲気中、1800℃で5時間反応させ、ZrCN粉末を得た。得られた粉末を乳鉢で粉砕した後、再度焼成用ボートに載せ、Oが0.05%含まれるN雰囲気中、1100℃で5時間焼成し、ZrCNO粉末を得た。その後、生成したZrCNO粉末を、室温まで冷却した。この生成物のBET比表面積は、3.5m2/gであった。
【0059】
カソード触媒層7は、実施例1と同様のものを用いて同様の手順で作製した。
【0060】
前記ZrCNOをアノード触媒に用いた燃料電池発電セルの作製は、実施例1で用いた燃料電池発電セルの作製と同じ手順で実施した。
【0061】
前記ZrCNOをアノード触媒に用いた燃料電池スタックは、実施例1で用いた燃料電池発電スタックの作製と同じ手順で構成した。
【0062】
前記ZrCNOをアノード触媒に用いた燃料電池システムにおける発電性能評価は、TaCNOをアノード触媒に用いた燃料電池システムと同じ構成を用いて、同じ手順で実施した。
【0063】
前記ZrCNOをアノード触媒に用いた燃料電池発電セルを評価した。燃料として水素ガス(0.3NLM、露点80℃)をアノードに供給し、酸化剤として酸素(0.3NLM、露点80℃)をカソードに供給した。得られた開放起電力は約0.97Vであり、セル電圧0.8Vで45mA/cmの電流密度が得られた。
【0064】
実施例1で用いたFPSを接続しての発電試験において,改質ガス組成変動に伴うセル当たりの電圧変動幅は−12mVであり,安定して発電運転継続できることを確認した。また、運転中の触媒成分の溶出や凝集も観測されなかった。
【0065】
上述した製法により製造されるTaCNOまたはZrCNOをアノード触媒として用いることにより、燃料電池がより安価に製造することができ、また、耐久性の高い燃料電池を製造することができる。さらに、アノード側の電極触媒に用いることで、燃料電池システムにおけるCO濃度の制約を緩和することができ、燃料電池システムの信頼性向上に寄与し、より安価に燃料電池システムを製造することができる。
【符号の説明】
【0066】
1 集電板、2 セパレータ、3 ガスシール材、4 GDL、5 アノード触媒層、6 固体高分子電解質膜、7 カソード触媒層、8 GDL、9 ガスシール材、10 セパレータ、11 集電板、22 脱硫器、23 改質器、24 シフト反応器、25 CO選択酸化除去器、26 加湿器、28 熱交換器、29 バーナ、40 MEA、50 基本セル、70 燃料電池スタック、72 アノード、74 カソード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原燃料を改質して改質ガスを生成する改質器と、前記改質ガスのCO濃度を低減するシフト反応器とを有する水素製造装置と、
4族元素または5族元素からなる群より選ばれる1種以上の元素の炭窒化物の部分酸化物を含むアノード触媒層を有し、前記水素製造装置で生成された改質ガスが前記アノード触媒層に供給される燃料電池発電セルと、
を備えることを特徴とする家庭用定置式燃料電池システム。
【請求項2】
前記シフト反応器と前記燃料電池発電セルとの間に、COを選択的に除去するCO選択酸化除去器を更に有する請求項1に記載の家庭用定置式燃料電池システム。
【請求項3】
前記炭窒化物の部分酸化物がTa、Zrのいずれか一方もしくは両方を含む、請求項1または2に記載の家庭用定置式燃料電池システム。
【請求項4】
前記アノード触媒層は、プロトン伝導性イオノマーをさらに有する請求項1乃至3のいずれか1項に家庭用定置式燃料電池システム。
【請求項5】
前記アノード触媒層は、導電性カーボンをさらに有する請求項1乃至4のいずれか1項に家庭用定置式燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−210636(P2011−210636A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−78754(P2010−78754)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【出願人】(504182255)国立大学法人横浜国立大学 (429)
【Fターム(参考)】