説明

容器に植えた植物の地下部環境制御装置及び地下部環境制御方法

【課題】地中の植物の根が存在する部分の水分含有量及び土壌内温度を一定の範囲内に制御することによる植物の地下部である根の生育環境に適した環境制御装置及び植物の地下部である根の環境制御方法の提供。
【解決手段】水供給槽1の水は植物植込槽2の多孔質な外壁4を通して内部の土壌7に供給され、それらの水分は植物の地下部である土壌中の根に供給され、土壌中の一部の水分は植物植込槽2の土壌面から蒸発し、この時点で、気化熱を土壌中から取り出すと共に、植物植込槽2の外壁4が水中にあることにより土壌中の温度の急変を防止する。又、外部の最低気温が生育適温以下となった条件下では土壌温度を生育適温に維持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器に植えた植物の地下部環境制御装置及び地下部環境制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
植物の地下部を形成する根は、植物の生育を促す水や養分を取り入れるための重要な器官であり、植物全体を支えて地中に固定するための重要な役割を果たしている。鉢などの容器内で栽培される植物の給水方法には、大きく分けて手潅水による頭上潅水法と容器の底から給水する底面給水法の二つがある。
頭上潅水法は潅水に労力を必要とし、水や肥料の利用効率もよくない。そして植物の根に対して水量の供給が適切に行われないので根腐れもおきやすい。
底面給水法は前記の頭上潅水法に比較して潅水労力が大幅に軽減できる。
この方法にはプールベンチ内に植物を植えた容器を置き、プールベンチに給水と排水を繰り返して容器の底に開いた排水口を通して給・排水するエブアンドフロー法、ベンチ上に給水用マットを敷き、其の上に容器を置いて給水マットに水を吸収させ容器内の植物栽培用培地へ毛管現象を利用して給水するマット給水法、容器の底から給水用の紐をたらして、その下端に水を入れた桶に浸し、毛管現象を利用して給水する紐給水などが知られている。エブアンドフロー法は装置が高コストであるが、水と肥料の利用効率は比較的高い。マット給水法は装置が低廉であるが、水と肥料の利用効率は比較的高い。紐給水法は装置が低廉で、水と肥料の利用効率は比較的に高いが、給水用桶の上面にしか容器を配置できないという構造上の問題点がある。底面給水法には、其の方式によっても一長一端がある。このようなことを背景にして給水法には各種の検討が行われてきた。
これらの方式そのものは一方向の水分供給により鉢内の水分率が均一になりにくいこと、又、纏めて水をやるために余分に水分が保持され(重力水)、気相率が低下することが問題点として挙げられている。
【0003】
鉢の上部と鉢の底部出口に土壌水分センサー及び過剰水センサーを設置し、両方のセンサーが乾燥したとき漏水検知器が作動し潅水装置を開にし、潅水を行う。どちらか一方のセンサーが水分を検知したとき、再び漏水検知器が作動し潅水が止められる。この動作を繰り返すことにより、鉢土の適湿を保つフィードバック制御による潅水の自動制御を行う装置(特許文献1 特開平8−140508号公報)、底面給水方式で給水する鉢植え栽培における給水制御のための、好適な土壌水分量検出方法、給水制御方法及び給水制御システムであり、土壌の水分量平均値を検出する土壌水センサを鉢培養土の中層部に略水平方向に穿刺して、土壌水分量を検出し、栽培ベッドに載置された複数ないし多数の鉢植え植物に対して底面給水方式において、この検出値に基づいて給水の開始と終了を管理する。より好ましくは、土壌水分量の検出値を処理するデータ処理装置及び該データ処理装置の指示によって作動する自動給水装置により、全自動で制御するシステム(特許文献2 特開2003−265056号公報)が知られている。
前記特許文献1の方法は、鉢の上部にセンサーを設置するため、土壌水分量の最適な検
出値を必ずしも与えない。更に、ピンポイントで検出された土壌水分量は、その検出箇所によってバラツキがあり、土壌水分量の正確な検出値を必ずしも与えないことなどが指摘され、エブアンドフロー法への適用することが難しいとされている。
また、特許文献2の方法は、鉢培養土に供給された水分量は、鉢培養土表面からの水分
蒸散や鉢植え植物による水分蒸散作用等により経時的に低減して行くため、その低減度合いは環境の気温や湿度により大きく変化する。即ち、急激に気温が上昇すればこれらの原因による水分蒸散が増大するし、曇天や高湿度時等には水分蒸散が減少する。これに対してタイマーによる一定時間毎の間欠給水を行うと、鉢培養土が水分量の不足や過剰に陥り易く、その結果、水分量不足による鉢植え植物の萎れや、水分量過剰による鉢植え植物の根腐れ等を誘起する恐れがあることを指摘し、鉢植え栽培における給水制御は、タイマー制御方式ではなく、土壌水センサ等を用いて実際に検出した鉢培養土の土壌水分量に基づいて行うことを好ましいとする。
この場合には給水制御を行うことを述べるものの、給水制御を行うと判断したときには既に鉢植えの環境は既に植物に好ましくない環境になっているのであるから、地中環境の温度変化に対しての対応は遅れる結果となり、この点で適切ではないことがわかる。
【0004】
この他に水を供給する場合に、土壌層中には多孔質管が埋設され、この多孔質管内を貯水部からの水で飽和させ、多孔質管に接する土壌水の負圧と多孔質管内の負圧との差異により、多孔質管内の水を土壌中に毛管浸出させるように構成された負圧差灌水システム(特許文献3 2000−106771号公報、特許文献4 特開2003−125660号公報など)が知られているが、偏りなく給水を行うことや地中環境の温度変化などの対応が十分にとられているということはできない。
連続気孔を有するスラグガラス系発泡焼結体の植栽板、この植栽板と係合した貯水トレーと、植栽板の下面とトレーの底面との間に介在された毛細管現象を有するスペーサとを備えた植栽ユニット(特許文献5 特開2002−171837号公報)、観賞用植物が植えつけられる用土を保持する為の植栽容器であって、閉空間を形成する為の囲繞壁部と、該囲繞壁部の一部に形成され、前記用土を収容する少なくとも一部が多孔質材料から成る用土収容部とを備えており、土収容部は、前記用土に供給される水の内、該用土に含みきれない過剰分の水を前記閉空間内に排出する為の貫通穴を有しており、繞壁部の表面には、前記閉空間内の水蒸気が該囲繞壁部を介して外部へ蒸散するのを防止する為の非透水性の被覆層が形成されている植栽容器(特許文献6 特開2003−325051号公報)などは知られているが、いずれも水分の供給方法については十分に検討が進められているが、偏りなく給水を行うことや地中環境の温度変化などの対応が十分にとられているということはできない。
植物を植えるための鉢部材と栽培用液体が収容される容器部材から構成され、鉢部材は、植物を栽培する栽培用土が収容される収容凹部を有する鉢本体部と鉢本体部から下方に延びる液吸上げ部を備え、鉢部材が前記容器部材に載置され、前記鉢部材の前記液吸上げ部は前記容器部材内に収容された栽培用液体に浸漬され、前記容器部材内の栽培用液体が前記鉢部材の前記液吸上げ部を通して前記鉢本体部に吸い上げられ、吸い上げられた栽培用液体が前記収容凹部内の栽培土に供給されるとともに、前記鉢本体部の表面から大気中に蒸発されること植物栽培用鉢(特許文献7 特開2008−11850号公報)では、鉢部材の液吸上げ部を通して鉢本体部に栽培用液体が供給され、鉢本体部の収容凹部に植えられた植物に所要の通りに水を供給することができること、鉢本体部に吸い上げられた栽培用液体は、鉢本体部の表面から大気中に蒸発するので、蒸発の際の気化熱の発散によって鉢部材が冷却され、例えば2〜8℃程度の冷却効果が得られ、鉢部材及び容器部材に収容された栽培用液体も冷却され、また吸い上げられた栽培用液体が容器本体内に戻ることもない。その結果、植物の根に必要な水分以上の水分は大気中に蒸発するので、植えた植物が根腐れを起こしたり、容器部材内の栽培用液体が腐ったりすることがないことが述べられている。これは専ら観賞用の花の保存を対象とするものであり、植物の生育方法を考慮して均一に、かつ十分に水を制御して供給するということを対象としていないから、植物の地中環境を適切に保持し、根の発育を十分に促進しようとするものではない。
【0005】
容器内に土壌を入れて植物栽培を行う際に、植物の根に適切に給水を行うと供に、ベンチに電熱線や温湯パイプを設置し鉢底を加温するだけで鉢全体を暖めること、また冷却については検討されていないために、鉢内の温度を効率的に制御できていない。このような現状にあって、容器を用いた栽培方法では給水を十分に行うと供に、容器内の土壌内に温度管理を適切におこなうことは植物の根の環境を適切に行うことは極めて重要であり、そのためにどのような手段を採用したらよいかといことが検討されたこともない。
【特許文献1】特開平8−140508号公報
【特許文献2】特開2003−265056号公報
【特許文献3】特開2000−106771号公報
【特許文献4】特開2003−125660号公報
【特許文献5】特開2002−171837号公報
【特許文献6】特開2003−325051号公報
【特許文献7】特開2008−11850号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、植物の地下部である根の地中環境に関し、地中の植物の根が存在する部分の水分含有量及び土壌内温度を一定の範囲内に制御することにより、植物の地下部である根の生育環境に適した環境制御装置及び植物の地下部である根の環境制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(ア) 本発明者は前記課題について鋭意研究を進め、以下のことを見出し、本発明を完成させた。
・ 植物植込槽を土壌の重力水が通過する孔隙より小さく、土壌の毛管孔隙に水分を供給可能な孔隙を有する多孔質の外壁により構成され、外壁を通して水分を供給した結果、植物植込槽内部の土壌水分は主に毛管水により構成され、土壌の水分と空気が適切なバランスに保たれ、植物の根は毛管水を吸収し、かつ十分な呼吸が可能となる。
・ 土壌表面からの水分の蒸発による気化熱および植物植込槽の外壁が水中にあるため、植物植込槽内の土壌温度が急変することなく、安定的に保たれる。
・ 上記のように土壌中の一部の水分は植物植込槽の土壌面から蒸発し、この時気化熱を土壌中から取り出し、植物植込槽の外壁が水中にあるため、土壌中の温度の急変を防止できることを前提とし、外部の最低気温が生育適温以下となった条件下では土壌温度を生育適温に維持することにより、外部の最低気温が生育適温以下の条件化でも生育させることができ、このように土壌の温度管理することは省エネルギー対策になる。
・ 植物植込槽内に温度センサーを設置し、水供給槽の水温を任意の温度に冷却または加温することにより、植物植込槽内の土壌温度を一定に保つことができ、植物の生育を制御できる。
・上記のことが実際に可能となる地下部である根の環境制御装置及び植物の地下部である根の環境制御方法を、本発明者らは発明した。
(イ) 水面から水の蒸発を防ぐために外部と遮断する材料により水面が閉じられていると共に、貯水量を変化させて貯水できる水供給槽、及び多孔質の外壁により構成され、その外壁は土壌の重力水が通過する孔隙より小さく、土壌の毛管孔隙に水分を供給可能な孔隙を有しており、前記水供給槽内部に設置されている植物植込槽により構成されており、水供給槽の水は植物植込槽の多孔質な外壁を通して内部の土壌に供給され、それらの水分は植物の地下部である土壌中の根に供給され、土壌中の一部の水分は植物植込槽の土壌面から蒸発し、この時点で、気化熱を土壌中から取り出すと共に、植物植込槽の外壁が水中にあることにより土壌中の温度の急変を防止することを特徴とする地下部である根の環境制御装置。
(ウ) 水面から水の蒸発を防ぐために外部と遮断する材料により水面が閉じられていると共に、貯水量を変化させて貯水できる水供給槽、及び多孔質の外壁により構成され、その外壁は土壌の重力水が通過する孔隙より小さく、土壌の毛管孔隙に水分を供給可能な孔隙を有しており、前記水供給槽内部に設置されている植物植込槽により構成されており、水供給槽の水は植物植込槽の多孔質な外壁を通して内部の土壌に供給され、それらの水分は植物の地下部である土壌中の根に供給され、土壌中の一部の水分は植物植込槽の土壌面から蒸発し、この時点で、気化熱を土壌中から取り出すと共に、植物植込槽の外壁が水中にあることにより土壌中の温度の急変を防止し、外部の最低気温が生育適温以下となった条件下では土壌温度を生育適温に維持することを特徴とする地下部である根の環境制御装置。
(エ) 前記内部の土壌は、圃場容水量における液相率は土壌孔隙の大きさにより規定され、重力水が保持される孔隙が多いと少なく、毛管水が保持される孔隙が多いと多くなる関係にあり、液相率と気相率は反比例するので、土壌の種類を変えることにより、液相率と気相率の調節が可能であり、液相の水分は植物の地下部である土壌中の根に供給され、土壌中の一部の水分は植物植込槽の土壌面から蒸発し、この時点で気化熱を土壌中から取り出すと共に、植物植込槽の外壁が水中にあるため、土壌中の温度の急変を防止することを(イ)又は(ウ)記載の根の環境制御装置。
(オ) 前記多孔質の外壁は、焼成された粘土、プラスチック、ゴム、金属、紙、木材、繊維、ガラス、ビニール、発泡スチロール等で作成されることを特徴とする(イ)から(エ)いずれか記載の地下部である根の環境制御装置。
(カ) 前記植物植込槽の底部には植物植込槽と水供給槽の間には水を通過させる連絡口が設置されていないことを特徴とする(イ)から(オ)いずれか記載の植物の地下部である根の環境制御装置。
(キ) 前記多孔質の外壁は外壁の外側にある貯水槽内の水を一定量ずつ透過させて植物植込槽中に取り込むことを特徴とする(イ)から(キ)いずれか記載の植物の地下部である根の環境制御装置。
(ク) 前記水供給槽中には、外気に開放されている外気温に合わせて水供給槽内の温度を変化させる加熱又は冷却手段を介して水が供給されることを特徴とする(イ)から(キ)いずれか記載の植物の地下部環境制御装置。
(ケ) 水面から水の蒸発を防ぐために外部と遮断する材料により水面が閉じられていると共に、貯水量を変化させて貯水できる水供給槽、及び多孔質の外壁により構成され、その外壁は土壌の重力水が通過する孔隙より小さく、土壌の毛管孔隙に水分を供給可能な孔隙を有しており、前記水供給槽内部に設置されている植物植込槽により構成されており、水供給槽の水は植物植込槽の多孔質な外壁を通して内部の土壌に供給され、それらの水分は植物の地下部である土壌中の根に供給され、土壌中の一部の水分は植物植込槽の土壌面から蒸発し、この時点で、気化熱を土壌中から取り出すと共に、植物植込槽の外壁が水中にあることにより土壌中の温度の急変を防止することを特徴とする地下部である根の部分の水量及び土壌温度の環境制御方法。
(コ) 水面から水の蒸発を防ぐために外部と遮断する材料により水面が閉じられていると共に、貯水量を変化させて貯水できる水供給槽、及び多孔質の外壁により構成され、その外壁は土壌の重力水が通過する孔隙より小さく、土壌の毛管孔隙に水分を供給可能な孔隙を有しており、前記水供給槽内部に設置されている植物植込槽により構成されており、水供給槽の水は植物植込槽の多孔質な外壁を通して内部の土壌に供給され、それらの水分は植物の地下部である土壌中の根に供給され、土壌中の一部の水分は植物植込槽の土壌面から蒸発し、この時点で、気化熱を土壌中から取り出すと共に、植物植込槽の外壁が水中にあることにより土壌中の温度の急変を防止し、外部の最低気温が生育適温以下となった条件下では土壌温度を生育適温に維持することを特徴とする地下部である根の部分の水量及び土壌温度の環境制御方法。
(サ) 前記内部の土壌は、圃場容水量における土壌の液相率は土壌孔隙の大きさにより規定され、重力水が保持される孔隙が多いと少なく、毛管水が保持される孔隙が多いと多くなる関係にあり、液相率と気相率は反比例するので、土壌の種類を変えることにより、液相率と気相率の調節が可能であり、液相の水分は植物の地下部である土壌中の根に供給され、土壌中の一部の水分は植物植込槽の土壌面から蒸発し、この時点で気化熱を土壌中から取り出すと共に、植物植込槽の外壁が水中にあるため、土壌中の温度の急変を防止することを特徴とする(ケ)又は(コ)記載の地下部である根の部分の水量及び土壌温度の環境制御方法。
(シ) 前記焼成した多孔質の外壁を通して、外壁の外側にある貯水槽内から取り込まれた水は、予め、加熱又は冷却手段により温度を調整していることを特徴とする(ケ)から(サ)いずれか記載の植物の地下部である根の部分の水量及び土壌温度の環境制御方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、植物の地下部の地中環境に関し、地中に存在する水分含有量及び地中温度を適切に制御して植物の地下部である根の生育環境を最適に制御することができる。従来水を植物に与える際に植物が必要とする水分量を自動的に調節できるだけではなく、植物の根腐れなどの防止と生育促進に有効であり、又地中温度を適切に制御して植物の地下部の地中環境を最適な状態に保ち、植物の生育を調節することができる。また、土壌中の一部の水分は植物植込槽の土壌面から蒸発し、この時気化熱を土壌中から取り出し、植物植込槽の外壁が水中にあるため、土壌中の温度の急変を防止できることを前提とし、外部の最低気温が生育適温以下となった条件下では土壌温度を生育適温に維持することにより、外部の最低気温が生育適温以下の条件化でも生育させることができ、このように土壌の温度管理することは省エネルギー対策になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の植物の地下部である根の環境制御装置について図1により説明する。
植物の地下部である根の環境制御装置は、水供給槽1及び植物植込槽2により構成されている。
植物の地下部である根の環境制御装置は、貯水量を変化させて水を供給できる水供給槽1中に植物植込槽2に配置している。
植物植込槽はその内部には土壌7が取り込まれており、又土壌に囲まれて植物の地下部である根12が植え込まれている。
植物植込槽の外壁4は多孔質材料により形成されている。
植物植込槽内に植物の根が必要とする水分の供給は、植物植込槽の外壁4が多孔質材料により構成されており、この外壁の多孔質の孔を通して行われる。
水供給槽中の水は前記植物植込槽の外壁4の多孔質材料を通して植物植込槽内部に供給され、土壌を介して、植物5の地下部である根を通り、植物内部11に供給される。この結果、植物の地下部の根に対して必要とする水分が過不足なく供給される。
一方、その他の水は土壌中を通りぬけ、植物植込槽の土壌面8から蒸発し、このときの蒸発に伴う気化熱を土壌中から奪い取ることにより、土壌中の温度の急変を防止することができて一定の温度範囲に保たれる。
具体的には、容器内温度を積極的に調節しない場合でも、従来の頭上潅水法及び底面給水法に比べて、容器内の温度は気温よりも昼間は低く、夜間は高くなり植物の地下部の温度環境は適切に維持される。また、容器内の植物栽培用土壌の水分率と気相率の変動も小さく、それらの割合を栽培植物に好適な範囲に調節できる。
【0010】
水供給槽1は貯水量を変化させて貯水できる。水供給槽1には、水供給手段3を介して水が供給される。水供給手段3は、水を供給できる方法であれば、適宜採用できる。
具体的には人が水を容器から注入するなどの方法であっても差しつかえない。図に示している具体例は給水装置から送られてくる供給管3の場合を示している。供給されている水の水位を測定し、必要量を供給するようにすることができるし、予め必要量の水量を計算し、計算結果に基づいて水を供給することもできる。水位を変更することにより水の供給量を調節することができる。
頂部からの水の蒸発を防ぐために外部と遮断する材料(ポリスチレン樹脂などのプラスチック製の材料を用いる。場合によっては紙製や木材製であって差し支えない)により作られた蓋10により水供給層1の頂部を閉じることができる。蓋をしない場合には、水がこの部分からも蒸散するので、必要量を供給することができないことがある。
水の消費量が多い場合には供給量を多くすることもできる。
前記水供給槽中には、外気に開放されている外気温に合わせて水供給槽内の温度を変化させる加熱又は冷却手段を介して水が供給されるようにすることも可能である。
【0011】
以上の記載をまとめると以下の通りの発明となる。
水面から水の蒸発を防ぐために外部と遮断する材料により水面が閉じられていると共に、貯水量を変化させて貯水できる水供給槽、及び多孔質の外壁により構成され、その外壁は土壌の重力水が通過する孔隙より小さく、土壌の毛管孔隙に水分を供給可能な孔隙を有しており、前記水供給槽内部に設置されている植物植込槽により構成されており、水供給槽の水は植物植込槽の多孔質な外壁を通して内部の土壌に供給され、それらの水分は植物の地下部である土壌中の根に供給され、土壌中の一部の水分は植物植込槽の土壌面から蒸発し、この時点で、気化熱を土壌中から取り出すと共に、植物植込槽の外壁が水中にあることにより土壌中の温度の急変を防止する地下部である根の環境制御装置。
【0012】
また、前記の地下部である根の環境制御装置において、外部の最低気温が生育適温以下となった条件下では、根を加温することが必要となる。これをどの程度に加温するかということはについて以下に述べる実施例4の結果から好ましい条件を定めた。実験結果によると以下のように処理することが有効であることを確かめた。
「外部の最低気温が生育適温以下となった条件下では土壌温度を生育適温に維持すること」そして、この条件により処理すると最も省エネルギーとなる経済的に良好であることがわかった。
【0013】
地下部である根の環境制御装置に取り込むと以下の通りである。
水面から水の蒸発を防ぐために外部と遮断する材料により水面が閉じられていると共に、貯水量を変化させて貯水できる水供給槽、及び多孔質の外壁により構成され、その外壁は土壌の重力水が通過する孔隙より小さく、土壌の毛管孔隙に水分を供給可能な孔隙を有しており、前記水供給槽内部に設置されている植物植込槽により構成されており、水供給槽の水は植物植込槽の多孔質な外壁を通して内部の土壌に供給され、それらの水分は植物の地下部である土壌中の根に供給され、土壌中の一部の水分は植物植込槽の土壌面から蒸発し、この時点で、気化熱を土壌中から取り出すと共に、植物植込槽の外壁が水中にあることにより土壌中の温度の急変を防止し、外部の最低気温が生育適温以下となった条件下では土壌温度を生育適温に維持する地下部である根の環境制御装置。
【0014】
内部の土壌の液相率は土壌孔隙の大きさにより規定され、重力水が保持される孔隙が多いと少なく、毛管水が保持される孔隙が多いと多くなる関係にあり、土壌の種類を変えることにより、土壌孔隙が小さいと気相率は土壌の種類を変更することにより調節が可能であり、それらの水分は植物の地下部である土壌中の根に供給され、土壌中の一部の水分は植物植込槽の土壌面から蒸発し、この時気化熱を土壌中から取り出すと共に、植物植込槽の外壁が水中にあるため、土壌中の温度の急変を防止することができる。
【0015】
地下部である根の環境制御装置の内部の土壌は、圃場容水量における液相率は土壌孔隙の大きさにより規定され、重力水が保持される孔隙が多いと少なく、毛管水が保持される孔隙が多いと多くなる関係にあり、液相率と気相率は反比例するので、土壌の種類を変えることにより、液相率と気相率の調節が可能であり、液相の水分は植物の地下部である土壌中の根に供給され、土壌中の一部の水分は植物植込槽の土壌面から蒸発し、この時点で気化熱を土壌中から取り出すと共に、植物植込槽の外壁が水中にあるため、土壌中の温度の急変を防止することが可能となる。
【0016】
植物植込槽2は多孔質の外壁4により形成されている。植物植込槽2は、植物植込槽に取り付けられた支え9により、蓋部10に固定されている。多孔質の外壁は土壌の重力水が通過する孔隙より小さく、土壌の毛管孔隙に水分を供給可能な孔隙を有している。
【0017】
前記多孔質材料により外壁は、焼成された粘土、プラスチック、発泡プラスチック、ビニール、ゴム、金属、紙、木材、繊維、又はガラスから選ばれる。
焼成された粘土については、粘土を素焼きした容器である。通常の植木鉢で見ることができる。
焼成された粘土は、粘土を焼成して得られる鉢などである。
各種プラスチック、各種発泡プラスチック、各種ビニール、ゴム、金属、紙、木材、繊維、又はガラスかなどについて多孔質材料とすることにより製造する。
【0018】
植物植込槽2の底部には水の浸入や排出がないようにするために、通常の鉢で見られる底部に孔は設けていないものを用いる。底部の孔は供給する水を一定化するという観点からすると好ましくない。
焼成した多孔質の粘土の外壁4とすることにより、外壁の外側にある貯水槽内の水を一定量ずつ透過させて植物植込槽中に取り込むことができる。取り込まれる水が植物に対して必要以上に多量の場合には、水が土壌中に不必要に蓄積することが好ましくない。この場合には根腐れの原因にもなりやすい。
従来の灌水方法では、一方向の水分供給によっては鉢内の水分率が均一になりにくい。また、まとめて給水すると、余分に水分が保持され(重力水)、気相率が一時的に低下するなどの供給する水の変動要因となる。
植物にとっての理想的な灌水方法では、土壌水分と気相のバランスを保つことが必要であり、そのためには、植物植込槽の外壁は土壌の重力水が通過する孔隙より小さく、土壌の毛管孔隙に水分を供給可能な孔隙を有し、かつ全面から水を供給される壁面であることが最も過不足がなく、有効であると考えられる。
【0019】
植物に取り込まれる水は土粒7の間隙を通り、植物5中に根を通して取り込まれ、植物体内を通る水11となり、植物体内で利用される。植物の根に必要な水分量の補給は十分に行われることとなり、水に関するかぎり根の環境制御装置は良好に保たれているということができる。
【0020】
植物に利用されない水は大気中に開放されている部分8を通り、空気中に排出される。水分は気化するときには多大の気化熱を必要とすることから、必要される熱量は周囲の環境より奪い去ることにより気化熱として利用される。
結果として周囲の温度は低下することとなる。
このようにして、土粒により構成される土壌中の温度は、大気中の温度が高い場合には水の蒸散が促進されることになり、低い温度に保たれることとなり、温度変化の急変が抑制されてある一定の範囲内に抑えることが可能となる。具体的には、大気中の温度に比べて低い範囲に抑制することができる。
温度に関するかぎり根の環境制御装置は良好に保たれているということができる。
【0021】
また、以上の結果によれば、土壌水分は主に毛管孔隙に保持されることになることから、重力水が保持される孔隙は空気で満たされることになり、土壌には根が必要とする空気が外気などから十分に供給されているので、空気量に関するかぎり根の環境制御装置は良好に保たれているということができる。
【0022】
前記したところにしたがって、一定量の植物にとって好ましい状態で必要量の水量が供給され、急激な温度変化を抑制し、必要な酸素量を供給することによる地下部である根の部分の水量及び土壌温度の環境制御方法は以下の通りである。
【0023】
本発明の一定量の植物にとって好ましい状態で必要量の水量が供給され、急激な温度変化を抑制し、必要な酸素量を供給することによる地下部である根の部分の水量及び土壌温度の環境制御方法について図1により説明する。
植物の地下部である根の部分の水量及び土壌温度の環境制御方法は、貯水量を変化させて水を供給できる水供給槽1中に植物植込槽2を用いて行われる。
植物植込槽はその内部には土壌7が取り込まれており、又土壌に囲まれて植物の地下部である根12が植え込まれている。
植物植込槽の外壁4は多孔質材料により形成されている。
植物植込槽内に植物の根が必要とする水分の供給は、植物植込槽の外壁4が多孔質材料により構成されており、この外壁の多孔質の孔を通して行われる。
水供給槽中の水は前記植物植込槽の外壁4の多孔質材料を通して植物植込槽内部に供給され、土壌を介して、植物5の地下部である根を通り、植物内部11に供給される。この結果、植物の地下部の根に対して必要とする水分が過不足なく供給される。
一方、その他の水は土壌中を通りぬけ、植物植込槽の土壌面8から蒸発し、このときの蒸発に伴う気化熱を土壌中から奪い取ることにより、土壌中の温度の急変を防止することができて一定の温度範囲に保たれる。
具体的には、容器内温度を積極的に調節しない場合でも、従来の頭上潅水法及び底面給水法に比べて、容器内の温度は気温よりも昼間は低く、夜間は高くなり植物の地下部の温度環境は適切に維持される。また、容器内の植物栽培用土壌の水分率と気相率の変動も小さく、それらの割合を栽培植物に好適な範囲に調節できる。
【0024】
水供給槽1は貯水量を変化させて貯水できる。水供給槽1には、水供給手段3を介して水が供給される。水供給手段3は、水を供給できる方法であれば、適宜採用できる。
具体的には人が水を容器から注入するなどの方法であっても差しつかえない。図に示している具体例は給水装置から送られてくる供給管3の場合を示している。供給されている水の水位を測定し、必要量を供給するようにすることができるし、予め必要量の水量を計算し、計算結果に基づいて水を供給することもできる。水位を変更することにより水の供給量を調節することができる。
頂部からの水の蒸発を防ぐために外部と遮断する材料(ポリスチレン樹脂などのプラスチック製の材料を用いる。場合によっては紙製や木材製であって差し支えない)により作られた蓋10により水供給層1の頂部を閉じることができる。蓋をしない場合には、水がこの部分からも蒸散するので、必要量を供給することができないことがある。
水の消費量が多い場合には供給量を多くすることもできる。
前記水供給槽中には、外気に開放されている外気温に合わせて水供給槽内の温度を変化させる加熱又は冷却手段を介して水が供給されるようにすることも可能である。
【0025】
焼成した多孔質の粘土の外壁4を通して、外壁の外側にある貯水槽内から取り込まれた水は、必要量が時間に応じて外壁内部に取り込まれる。水量に関しては必要量が時間に応じて過不足なく供給される。
その後、水は土粒7間を通って水は植物の根に到達することになる。土粒の間隔は全くない程度に狭いと水が吸収されなくなるし、広すぎると水は毛細管現象などによっては供給されなくなるので、適度の土粒の間隔又は間隙を有するように土の層を形成することが有効である。外壁4を通じて取り込まれた水が渋滞なく、運ばれるようにするのでれば、毛管孔隙より大きく、重力水が通過する孔隙より小さい孔隙を持つような状態に土粒を積み重ねることが有効となる。
土壌を構成する土粒については予め大きさを定めた粒とし植物が植え込まれている状態で、経験的に定められた力で押し付けて好ましい状態を形成する。このようにして水が通りやすい状態とすることが必要である。
植物が必要とする肥料については予め土粒に施しておくことができる。場合によっては必要に応じて外部より液状で供給することができる。
【0026】
前記水供給槽中には、外気に開放されている外気温に合わせて水供給槽内の温度を変化させて加熱又は冷却手段により温度を変化させた後に水を供給することができる。
【0027】
地下部である根の部分の水量及び土壌温度の環境制御方法は以下の通りである。
水面から水の蒸発を防ぐために外部と遮断する材料により水面が閉じられていると共に、貯水量を変化させて貯水できる水供給槽、及び多孔質の外壁により構成され、その外壁は土壌の重力水が通過する孔隙より小さく、土壌の毛管孔隙に水分を供給可能な孔隙を有しており、前記水供給槽内部に設置されている植物植込槽により構成されており、水供給槽の水は植物植込槽の多孔質な外壁を通して内部の土壌に供給され、それらの水分は植物の地下部である土壌中の根に供給され、土壌中の一部の水分は植物植込槽の土壌面から蒸発し、この時点で、気化熱を土壌中から取り出すと共に、植物植込槽の外壁が水中にあることにより土壌中の温度の急変を防止する地下部である根の部分の水量及び土壌温度の環境制御方法。
【0028】
水面から水の蒸発を防ぐために外部と遮断する材料により水面が閉じられていると共に、貯水量を変化させて貯水できる水供給槽、及び多孔質の外壁により構成され、その外壁は土壌の重力水が通過する孔隙より小さく、土壌の毛管孔隙に水分を供給可能な孔隙を有しており、前記水供給槽内部に設置されている植物植込槽により構成されており、水供給槽の水は植物植込槽の多孔質な外壁を通して内部の土壌に供給され、それらの水分は植物の地下部である土壌中の根に供給され、土壌中の一部の水分は植物植込槽の土壌面から蒸発し、この時点で、気化熱を土壌中から取り出すと共に、植物植込槽の外壁が水中にあることにより土壌中の温度の急変を防止し、外部の最低気温が生育適温以下となった条件下では土壌温度を生育適温に維持する地下部である根の部分の水量及び土壌温度の環境制御方法。
【0029】
地下部である根の部分の水量及び土壌温度の環境制御方法の内部の土壌は、圃場容水量における土壌の液相率は土壌孔隙の大きさにより規定され、重力水が保持される孔隙が多いと少なく、毛管水が保持される孔隙が多いと多くなる関係にあり、液相率と気相率は反比例するので、土壌の種類を変えることにより、液相率と気相率の調節が可能であり、液相の水分は植物の地下部である土壌中の根に供給され、土壌中の一部の水分は植物植込槽の土壌面から蒸発し、この時点で気化熱を土壌中から取り出すと共に、植物植込槽の外壁が水中にあるため、土壌中の温度の急変を防止することができる。
【0030】
植物の地下部である根の部分の水量及び土壌温度の環境制御方法では、焼成した多孔質の外壁を通して、外壁の外側にある貯水槽内から取り込まれた水は、予め、加熱又は冷却手段により温度を調整することができる。
【0031】
植物の地下部である根の環境制御装置及び植物の地下部である根の部分の水量及び土壌温度の環境制御方法では、1ユニットとして利用することが可能であるが、並列状態にして多数のユニットとして利用することができる。
【0032】
以下に具体的な実施例により本発明の内容を説明する。本発明の内容は実施例により限定されるものではない。
【実施例1】
【0033】
(1) 実験の内容
植物植込槽内の土壌への水分供給速度と土壌の三相分布を調べる。
実験区:植物植込槽内に入れる土壌の種類を鹿沼土、赤玉土、砂の3種類。
これらの土壌を多孔質な植物植込槽(3号の無穴素焼鉢)に入れ、これを水供給槽内に設置した。植物植込槽の重量を毎日測定し、吸水量を算出すると共に、実験開始9日後に土壌の三相分布(固相、液相、気相)を測定した。
(2) 実験の結果
図7に植物植込槽内の土壌水分量の推移を示す。
植物植込槽内の土壌水分量はいずれの土壌においても給水開始から3日までは急激に増
加したが、その後はほとんど増加しなかった(図1)。また、土壌の種類によって吸水量は大きく異なり、鹿沼土が最も多く、次いで赤玉土となり、砂は最も少なかった。
表1に実験開始9日後の植物植込槽内の土壌の三相分布について示す。
実験開始9日後の各土壌の固相率は赤玉土で20.5%、砂で53.5%、鹿沼土で12.6%であった。液相率はそれぞれ48.1%、20.6%、49.8%となり、赤玉土と鹿沼土では水分が多く保持されていた。また、気相率はそれぞれ31.4%、25.9%、37.6%となった。土壌の気相率は30%前後確保されていることが、植物生育にとって望ましいとされている。このため、多孔質な植物植込槽を使用することにより内部の土壌の液相と気相がバランスよく保持されていることが明らかとなった。
【0034】
【表1】

【実施例2】
【0035】
地下部環境制御装置がパンジーとデージーの生育・開花に及ぼす影響を調べる。
実験区:多孔質鉢区、マット給水区、頭上潅水区の3区
多孔質鉢区は3号の無穴素焼鉢(本発明の場合)、マット給水区、頭上潅水区は3号の黒ビニールポットを使用した。
植物材料:パンジー‘ディープブルーウィズブロッチ’、デージー‘タッソー’を供試した。
多孔質鉢区はプランターに水を入れ、鉢の直径と同じ大きさに切り抜いた発泡スチロールに、植物を定植した無穴素焼鉢を入れて、鉢を水に浮かせた。水は外壁及び底部より供給される。
頭上潅水区は土壌水分率が36%になったときに、130ml/鉢潅水した。
マット給水区は頭上潅水区と同じ土壌水分率となったときにマットに30秒間ポンプで給水した。開花率が8割になったときに半数をサンプリングした。
(2) 実験の結果
(ア) 鉢内土壌水分含有率と温度の推移
デージーの実験例を例に土壌水分率の変化と土壌温度の変化を図2及び3に示す。
(a) 土壌水分率は本発明の場合(多孔質鉢区の場合)は約45%で、ほぼ一定となるのに対して、マット給水区と頭上潅水区では最も乾燥した時点で約37%、潅水直後には50%以上に急上昇を示した。
以上より、本発明の場合には水分供給量は比較的に安定に推移した結果を示しており、本発明の場合には安定した水供給が行われていることを確認した。他の場合には変動が見られ、本発明の場合は良好な結果であることを確信した。
(b) 土壌温度の変化は以下の通りである(図3)。
本発明の場合(多孔質鉢区の場合)は昼/夜の変化は、20.13/12.5℃となる。
マット給水区で昼/夜の変化は、23.8/12.2℃となる。
頭上潅水区で昼/夜の変化は、27.7/11.5℃となる。
前記の結果によれば、本発明の場合は日較差が最も小さい。
以上の結果から、生育に関する条件では、本発明の場合(多孔質鉢区の場合)は、給水は一定化して行われていること、温度変化も比較的に安定化しており、激しい夜昼の変化にもかかわらず安定した変化を示しており、温度変化も一定の範囲に抑えることができることを確認することができた。
【0036】
パンジーの生育状況は表2及び図4に示した。
本発明の場合(多孔質鉢区の場合)、葉数、葉面積、花数、地上部乾物重、根の乾物重は従来のマット給水と手潅水に比べて明らかに優れていることが分かった。また、本発明の場合(多孔質鉢区の場合)、根の張りも従来法に比べて促進されている。
【0037】
【表2】

異なるアルファベット間には統計的に5%の危険率で有意差がある。
【0038】
デージーの生育状況は表3及び図5に示した。
本発明の場合(多孔質鉢区の場合)、葉数、葉面積、花数、地上部乾物重、根の乾物重は従来法よりも明らかに優れることが分かった。特に根の生育は本発明の場合(多孔質鉢の場合)、他の区に比べて著しく促進された。
【0039】
【表3】

異なるアルファベット間には統計的に5%の危険率で有意差がある。
【0040】
パンジー及びデージーの栽培試験から、多孔質鉢区(本発明の場合)の生育がもっとも良好であり、地下部環境制御装置の有効性が確かめられた。このような結果となった要因として、他の区に比べて土壌水分含有率の変化が小さく、さらに土壌水分と気相が豊富に保たれた結果、根の生育が旺盛となり、地上部の生育を促進させたと考えられる。さらに多孔質鉢区では土壌温度の日変化が従来法に比較して明らかに小さく、土壌温度も根の生育に影響していた可能性が高い。このことから、多孔質鉢は新しい給水方法として実際の栽培にも利用できる可能性が示された。
【実施例3】
【0041】
イチゴなどの土耕栽培では冬季の地中加温により生育が促進される。したがって、鉢物栽培でも地下部温度の調節により生育制御が可能と思われるが、従来法では地下部温度を効率的に調節することは構造上困難である。本発明の地下部温度の調節が可能で、かつ水と肥料の利用率が高い底面給水法(多孔質鉢を利用した底面給水法)がシクラメンの生育に及ぼす影響についての実施例を以下に示す。
(1) 実験の内容
地下部環境制御装置の植物植込槽に温度センサーを設置し、土壌の温度が指示温度になるように、水供給槽内の水をヒーターとクーラーを用いて温度調節した。土壌温度は15℃、20℃、25℃の3水準、気温は夜温15℃、昼温25℃とした。供試植物はシクラメン‘リブレット’のセル整形苗を用い、これを土壌を入れた植物植込槽に定植し、実験を行った。
(2) 実験の結果
シクラメンの生育・開花に及ぼす地下部温度の影響を表4及び図6に示す。
葉数には処理間に有意差は無かったが、葉面積は15℃では明らかに減少し、葉柄長も短くなった。また、15℃では株の直径が小さくなった。花数と花柄長には有意差はなかった。これらのことから、地下部の温度を15℃に調節することにより、開花を抑制することなくシクラメンの草姿がコンパクトになり、実用上有効な結果が得られた。
【0042】
【表4】


異なるアルファベット間には統計的に5%の危険率で有意差がある。
(3) 結論
本発明を用いて地下部の温度環境を調節することにより、植物の成長を制御できることが明らかとなった.
【実施例4】
【0043】
春に出荷され、生育適温が15℃〜20℃のゼラニウムを使用し、水の供給に関しては前記同様に行い、冬季の育成期間中における地下部加温の生育促進効果と従来法に対する省エネルギー性について検討した。
(1) 実験の内容
実験区は最低気温を8℃、土壌温度は13℃と18℃の2水準および対照区として最低気温を13℃とし、土壌温度を無加温とした合計3区を設定した.地下部環境制御装置の植物植込槽に温度センサーを設置し、土壌温度が指示温度になるように、水供給槽内の水をヒーター(500w)を用いて温度調節した.最低気温は電気温風器(1000w)にて調節した.供試植物はゼラニウム‘マルチブルーム ピンク’のセル成型苗を用い、土壌を入れた植物植込槽に定植し、実験を行った.
(2) 実験の結果
最低気温を13℃、土壌温度を無加温とした場合、生育初期から生育が停滞し、ほとんどの株が枯死した(表4).一方、最低気温が8℃であっても土壌温度を13℃または18℃に加温することにより、十分に成育し、特に土壌温度18℃では13℃に比べて生育が促進され、開花率も大幅に向上した(表4、5).したがって、最低気温を生育適温よりも大きく低下させても、土壌温度を18℃以上に確保することにより、ゼラニウムの生育と開花が促進される.試験期間中の電気温風器と土壌温度調節用ヒーターの消費電力の合計は、多くの株が枯死した13℃/無加温で765kwhと最も多く、生育と開花が促進された8℃/18℃では537kwhであり、土壌の加温は従来法よりも大幅に消費電力を削減できることが示された(表5)。
【0044】
【表5】

【0045】
【表6】


(3) 結論
本発明を用いて土壌を加温することにより、従来よりも最低気温を低下させても植物の成長が損なわれることなく、全体的な暖房コストを削減できる.
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明を示す図である。
【図2】デージーの実験例を例に土壌水分率の変化を各方法について示した結果を示す図である。
【図3】デージーの実験例を例に4日間の土壌温度の変化を示した結果を示す図である。
【図4】パンジーの生育状況を示す図。
【図5】デージーの生育状況を示す図。
【図6】シクラメンの生育・開花に及ぼす地下部温度の影響を示す図。
【図7】多孔質植物植込槽内の土壌の吸水量の変化を示す図。
【図8】ゼラニウムの生育と開花に対する根域加温の影響。
【符号の説明】
【0047】
1:水供給槽
2:植物植込槽
3:水供給手段
4:外壁
5:植物
6:気体となって蒸散する水
7:土壌
8:植物植込槽の外気に開放されている部分
9:植物植込槽に取り付けられた支え
10:蓋
11:植物に取り込まれた水
12:根

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水面から水の蒸発を防ぐために外部と遮断する材料により水面が閉じられていると共に、貯水量を変化させて貯水できる水供給槽、及び多孔質の外壁により構成され、その外壁は土壌の重力水が通過する孔隙より小さく、土壌の毛管孔隙に水分を供給可能な孔隙を有しており、前記水供給槽内部に設置されている植物植込槽により構成されており、水供給槽の水は植物植込槽の多孔質な外壁を通して内部の土壌に供給され、それらの水分は植物の地下部である土壌中の根に供給され、土壌中の一部の水分は植物植込槽の土壌面から蒸発し、この時点で、気化熱を土壌中から取り出すと共に、植物植込槽の外壁が水中にあることにより土壌中の温度の急変を防止することを特徴とする地下部である根の環境制御装置。
【請求項2】
水面から水の蒸発を防ぐために外部と遮断する材料により水面が閉じられていると共に、貯水量を変化させて貯水できる水供給槽、及び多孔質の外壁により構成され、その外壁は土壌の重力水が通過する孔隙より小さく、土壌の毛管孔隙に水分を供給可能な孔隙を有しており、前記水供給槽内部に設置されている植物植込槽により構成されており、水供給槽の水は植物植込槽の多孔質な外壁を通して内部の土壌に供給され、それらの水分は植物の地下部である土壌中の根に供給され、土壌中の一部の水分は植物植込槽の土壌面から蒸発し、この時点で、気化熱を土壌中から取り出すと共に、植物植込槽の外壁が水中にあることにより土壌中の温度の急変を防止し、外部の最低気温が生育適温以下となった条件下では土壌温度を生育適温に維持することを特徴とする地下部である根の環境制御装置。
【請求項3】
前記内部の土壌は、圃場容水量における液相率は土壌孔隙の大きさにより規定され、重力水が保持される孔隙が多いと少なく、毛管水が保持される孔隙が多いと多くなる関係にあり、液相率と気相率は反比例するので、土壌の種類を変えることにより、液相率と気相率の調節が可能であり、液相の水分は植物の地下部である土壌中の根に供給され、土壌中の一部の水分は植物植込槽の土壌面から蒸発し、この時点で気化熱を土壌中から取り出すと共に、植物植込槽の外壁が水中にあるため、土壌中の温度の急変を防止することを特徴とする請求項1又は2記載の地下部である根の環境制御装置。
【請求項4】
前記多孔質の外壁は、焼成された粘土、プラスチック、ゴム、金属、紙、木材、繊維、ガラス、ビニール、発泡スチロール等で作成されることを特徴とする請求項1から3いずれか記載の地下部である根の環境制御装置。
【請求項5】
前記植物植込槽の底部には植物植込槽と水供給槽の間には水を通過させる連絡口が設置されていないことを特徴とする請求項1から4いずれか記載の植物の地下部である根の環境制御装置。
【請求項6】
前記多孔質の外壁は外壁の外側にある貯水槽内の水を一定量ずつ透過させて植物植込槽中に取り込むことを特徴とする請求項1から5いずれか記載の植物の地下部である根の環境制御装置。
【請求項7】
前記水供給槽中には、外気に開放されている外気温に合わせて水供給槽内の温度を変化させる加熱又は冷却手段を介して水が供給されることを特徴とする請求項1から6いずれか記載の植物の地下部環境制御装置。
【請求項8】
水面から水の蒸発を防ぐために外部と遮断する材料により水面が閉じられていると共に、貯水量を変化させて貯水できる水供給槽、及び多孔質の外壁により構成され、その外壁は土壌の重力水が通過する孔隙より小さく、土壌の毛管孔隙に水分を供給可能な孔隙を有しており、前記水供給槽内部に設置されている植物植込槽により構成されており、水供給槽の水は植物植込槽の多孔質な外壁を通して内部の土壌に供給され、それらの水分は植物の地下部である土壌中の根に供給され、土壌中の一部の水分は植物植込槽の土壌面から蒸発し、この時点で、気化熱を土壌中から取り出すと共に、植物植込槽の外壁が水中にあることにより土壌中の温度の急変を防止することを特徴とする地下部である根の部分の水量及び土壌温度の環境制御方法。
【請求項9】
水面から水の蒸発を防ぐために外部と遮断する材料により水面が閉じられていると共に、貯水量を変化させて貯水できる水供給槽、及び多孔質の外壁により構成され、その外壁は土壌の重力水が通過する孔隙より小さく、土壌の毛管孔隙に水分を供給可能な孔隙を有しており、前記水供給槽内部に設置されている植物植込槽により構成されており、水供給槽の水は植物植込槽の多孔質な外壁を通して内部の土壌に供給され、それらの水分は植物の地下部である土壌中の根に供給され、土壌中の一部の水分は植物植込槽の土壌面から蒸発し、この時点で、気化熱を土壌中から取り出すと共に、植物植込槽の外壁が水中にあることにより土壌中の温度の急変を防止し、外部の最低気温が生育適温以下となった条件下では土壌温度を生育適温に維持することを特徴とする地下部である根の部分の水量及び土壌温度の環境制御方法。
【請求項10】
前記内部の土壌は、圃場容水量における土壌の液相率は土壌孔隙の大きさにより規定され、重力水が保持される孔隙が多いと少なく、毛管水が保持される孔隙が多いと多くなる関係にあり、液相率と気相率は反比例するので、土壌の種類を変えることにより、液相率と気相率の調節が可能であり、液相の水分は植物の地下部である土壌中の根に供給され、土壌中の一部の水分は植物植込槽の土壌面から蒸発し、この時点で気化熱を土壌中から取り出すと共に、植物植込槽の外壁が水中にあるため、土壌中の温度の急変を防止することを特徴とする請求項9記載の地下部である根の部分の水量及び土壌温度の環境制御方法。
【請求項11】
前記焼成した多孔質の外壁を通して、外壁の外側にある貯水槽内から取り込まれた水は、予め、加熱又は冷却手段により温度を調整していることを特徴とする請求項8から10記載の植物の地下部である根の部分の水量及び土壌温度の環境制御方法。

【図1】
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【図3】
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【図7】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−99062(P2010−99062A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−220513(P2009−220513)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】