説明

容器兼用注射器

【課題】注射前の薬液の状態を良く観察することができる共に、薬液が注射針から突出するのを確実に防止できて、安心して人体に薬液を注射できるようにする。
【解決手段】容器兼用注射器1は、バイパス路2aが形成されたシリンダ2と、バイパス路2aの後側の後室2cに嵌入され、後室2cに充填された薬液mを液密に封止する前、後部ストッパー5a,5bと、ルアー先3aを有しシリンダ2の前端に嵌着された筒先3と、シリンダ2の後端に嵌着されたフィンガーグリップ4と、後部ストッパー5bに連結されたプランジャーロッド6とを備え、バイパス路2aの長さLが前部ストッパー5aより長く、前室2bの長さL2が後室2cでの前、後部ストッパー5a,5bの相互間距離L3より長く設定され、ルアー先3の通孔3f内に、前室2bからルアー先3の先端側への薬液mの流れを緩和して通過させる薬液誘導部材9を装着した構成とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダの先端に嵌着された筒先のルアーの内部に薬液誘導部材を設けてなる容器兼用注射器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、シリンダと、該シリンダ内の前後端側に嵌入され、シリンダ内に充填された薬液を液密に封止する前部ストッパーおよび後部ストッパーと、前記シリンダの先端に嵌着され、前部ストッパーが入り込むバイパスチャンバーおよびその先端の注射針を取り付けるためのルアー先が設けられた筒先と、前記シリンダの後端に嵌着されたフィンガーグリップと、前記シリンダの後端部からシリンダ内に挿入されて前記後部ストッパーに連結されたプランジャーロッドとを備え、使用時にプランジャーロッドによって後部ストッパーを押して薬液と共に前部ストッパーを前方へ押し進めると、該前部ストッパーがシリンダから押し出されて前記筒先のバイパスチャンバー内に入り込むことによって、前後部ストッパー間に密封されていた薬液が、先端側の密封を解除されてシリンダ内からバイパスチャンバー内に流出し、前部ストッパーとバイパスチャンバーとの隙間を流れ、該バイパスチャンバーの内壁に設けられたバイパス溝に沿ってルアー先の内面に誘導されて注射針へと導入されるようにした容器兼用注射器が知られている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【特許文献1】特公昭62−58745号公報
【特許文献2】特開平8−141081号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、前記容器兼用注射器においては、密封を解除された薬液はシリンダ内から前記バイパスチャンバー内に流入し、先にバイパスチャンバー内に入った前部ストッパーの外周面と前記バイパス溝との間の狭い隙間を通って注射針に誘導されるため、人体に注射される薬液の注射直前の状態を気泡も含めて良く見ることができないという問題があった。
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、注射前の薬液の状態を良く観察することができる共に、薬液が注射針から突出するのを確実に防止することができて、安心して人体に薬液を注射することができる容器兼用注射器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、前記課題を解決するために、以下の点を特徴としている。
すなわち、請求項1に係る容器兼用注射器は、透明な材料からなり、軸方向の中間部にシリンダ壁を外側に膨出してなるバイパス路が形成されたシリンダと、前記バイパス路の後側におけるシリンダの後室内にその軸方向に間隔をあけて嵌入され、後室内に充填された薬液を相互間で液密に封止する前部ストッパーおよび後部ストッパーと、先端に注射針を取り付けるルアー先が設けられ、基端部を前記シリンダの前端外周部に嵌着された筒先と、前記シリンダの後端外周部に設けられたフィンガーグリップと、前記シリンダの後端部からシリンダ内に挿入されて前記後部ストッパーに連結されたプランジャーロッドとを備えた容器兼用注射器であって、前記シリンダのバイパス路の長さが前記前部ストッパーの軸長より長く設定されると共に、前記バイパス路の前側におけるシリンダの前室の長さが前記シリンダの後室内で薬液で隔てられている前記前部ストッパーと後部ストッパーの相互間距離より長く設定され、また、前記筒先のルアー先に形成されてシリンダに連通する通孔には、シリンダ側に位置して、シリンダ内から前記通孔に導入される薬液を通孔の軸線に交差する方向から軸線に沿う方向へ屈折させて通過させる薬液誘導路を設けた薬液誘導部材が装着されていることを特徴としている。
【0006】
また、請求項2に係る容器兼用注射器は、請求項1に記載の容器兼用注射器において、前記筒先のシリンダが嵌入される嵌着穴の底部には、前記通孔に連通しそれより大径の凹部が形成され、前記薬液誘導部材は、前記通孔に嵌合される軸部と、該軸部のシリンダ側の基端部に設けられて前記凹部に没入され、前記通孔より大径で前記凹部の外径より小径に形成され、前記凹部との間に環状間隙を形成するフランジと、該フランジの前記凹部の底面側に通孔の半径方向に向けて設けた導入溝および前記軸部の外周に軸方向に沿って形成され、一端を前記導入溝に連絡され他端を前記軸部の先端に開口させた流通溝で構成される薬液誘導路とを備えていることを特徴としている。
【0007】
また、請求項3に係る容器兼用注射器は、請求項2に記載の容器兼用注射器において、
前記ルアー先の通孔は、前記嵌着穴側を大径としルアー先の先端側を小径としたテーパ孔に形成され、その嵌着穴側寄りの位置に周方向に沿って環状溝が設けられ、前記薬液誘導部材の軸部の外周には、前記通孔のテーパ孔に整合するテーパが設けられると共に、前記通孔の環状溝に嵌合する環状の突条が周方向に沿って設けられていることを特徴としている。
【0008】
また、請求項4に係る容器兼用注射器は、請求項2または3に記載の容器兼用注射器において、前記凹部とフランジとの間の環状間隙におけるシリンダ側の端部には、薬液中の不溶物の環状間隙への侵入を阻止するフィルターが設けられていることを特徴としている。
【0009】
また、請求項5に係る容器兼用注射器は、請求項4に記載の容器兼用注射器において、前記フランジにおけるシリンダ側の端部には、前記シリンダ内を前記環状間隙に連通させる複数の小孔を周方向に間隔をあけて配設したフランジ板が、その外周部を前記嵌着穴の底部に密着させるように設けられ、前記フィルターが前記小孔を覆うようにしてフランジ板に装着されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、以下の優れた効果を奏する。
請求項1に係る容器兼用注射器によれば、シリンダのバイパス路の位置に前部ストッパーが押し込まれることにより前側の密封を解除された薬液が、バイパス路より後方のシリンダの後室から前記バイパス路を通ってバイパス路の前側のシリンダの前室内に全量入り込むので、該シリンダの前室内において、従来の容器兼用注射器の筒先では見えにくかった注射前の薬液の状態を、気泡も含めて透明なシリンダの外側から良く観察することができ、一般の注射器と同じように前室内に残る気泡を注射針を通して完全に外部に排出してから、安心して薬液を人体に注射することができる。
また、前記のようにシリンダのバイパス路の位置に前部ストッパーが押し込まれることにより、前側の密封を解除された薬液がバイパス路を通って前室内に入り込む際、バイパス路の狭い通路を通過した薬液が前室内から一気にルアー先の通孔内に流れ込もうとするが、前記通孔内で薬液の流れを薬液誘導部材の薬液誘導路が効果的に緩和するので、注射針の先端から薬液が突出する水鉄砲現象を確実に防止することができる。
【0011】
また、請求項2に係る容器兼用注射器によれば、導入溝と流通溝とにより屈折した薬液誘導溝を薬液誘導部材に容易に形成することができると共に、ルアー先の通孔内の薬液の流れを的確に緩和することができる。
【0012】
また、請求項3に係る容器兼用注射器によれば、薬液誘導部材をルアー先の通孔に軸部を容易に挿入させて組み付けることができると共に、前記軸部の環状の突条と前記通孔の環状溝との嵌合により、前記薬液誘導部材を前記通孔内にしっかりと保持させることができる。
【0013】
また、請求項4に係る容器兼用注射器によれば、二室式容器兼用注射器において凍結乾燥製剤を溶解液に液状に溶解させて注射する場合に、万一、シリンダ内の薬液中に乾燥製剤の不溶物が発生しても、該不溶物は薬液がシリンダ内から前記ルアー先の通孔に入る際にフィルターによって濾過されるので、前記不溶物が前記通孔を通って注射針から人体に注入されるのを確実に防止することができる。
【0014】
また、請求項5に係る容器兼用注射器によれば、シリンダ内からルアー先の通孔内に薬液が入り込む入口部に、フランジ板によってフィルターをしっかりと安定した状態で容易に設置することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の一実施の形態に係る容器兼用注射器について、添付図面を参照して説明する。
図1において、1は本発明の一実施の形態に係る容器兼用注射器を示す。この容器兼用注射器1は、シリンダ2と、該シリンダ2の前端(図1で左端)の外周部に嵌着された筒先3と、前記シリンダ2の後端(図1右端)の外周部に嵌着された合成樹脂製のフィンガーグリップ4と、前記シリンダ2内にその軸方向に間隔をあけて嵌入されて往復動可能に設けられ、シリンダ2内に充填された薬液mを相互間で封止する前部ストッパー5aおよび後部ストッパー5bと、前記シリンダ2内にその後端から挿入されて先端部を前記後部ストッパー5bに連結され、該後部ストッパー5bをシリンダ2の軸方向に往復動させるプランジャーロッド6と、前記筒先3の先端に設けたルアー先3aに装着された注射針7と、該注射針7を覆うプロテクター8とを備えている。
【0016】
前記シリンダ2は、透明なガラス製円筒からなり、その軸方向の中央よりやや前方に寄った中間部におけるシリンダ壁の一部を外側に膨出して形成された1つのバイパス路2aが設けられ、該バイパス路2aの前側(図1で左側)が前室2bとされ、バイパス路2aより後側(図1で右側)が後室2cとされ、共に内径は同一となっている。前記バイパス路2aのシリンダ2の軸方向における通路2a1の長さLは、前記前部ストッパー5aの軸長(厚さ)L1より長く、例えば、前部ストッパー5aの軸長の1.3倍〜1.7倍に設定されている。
【0017】
そして、前記前、後部ストッパー5a,5bは、それぞれ前記シリンダ2の内径より僅かに大きな外径とされ、医療用医薬品用のゴム等の材質からなる弾力性を有する材料で形成され、前部ストッパー5aが前記後室2cにおけるバイパス路2aの後端より少し後寄りに位置し、また、後部ストッパー5bが前部ストッパー5aから後方へ離間してそれらの間でシリンダ2の後室2c内に所定容量の薬液mを丁度充填し得る位置に位置してそれぞれ前記後室2cに嵌入され、該後室2c内に充填された薬液mを密封するようになっている。
なお、前記シリンダ2の前室2bの容積は、前記後室2cにおける前、後部ストッパー5a,5b間に充填された薬液mの容積をやや超える容積とされ、それに対応して、前室2bの軸長(長さ)L2が、前記後室2c内で薬液mで隔てられている前、後部ストッパー5a,5bの相互間距離L3より長く設定されている。
【0018】
前記筒先3は、透明な合成樹脂材料で成型して構成され、前側を閉鎖された円筒状の基端部3bと、該基端部3bの前端に結合された前記ルアー先3aと、該ルアー先3aの外側に間隔をあけて前記基端部3bの前端に結合されたルアーロック部3cとを備え、前記基端部3bの内側に形成された嵌着穴3dに、その底部3eに前端が当接するまで前記シリンダ2を嵌入させることにより、前記筒先3が前記シリンダ2の前端部に液密に嵌着されている。前記ルアー先3aには、その軸線上に前後に貫通して内端側を前記嵌着穴3dの底部3eに開口して前記シリンダ2の前室2bに連絡する通孔3fが設けられている。
なお、前記ルアーロック部3cには、前記注射針7の針もとを係止するロックネジ3gと前記プロテクター8を係止する環状溝3hとが設けられている。前記筒先3はルアーロック部3cを設けない筒先として形成したものであってもよい。
【0019】
そして、前記ルアー先3aの通孔3fは、前記嵌着穴3d側が大径とされルアー先3aの先端側を小径とされた緩やかな傾斜のテーパ孔に形成されると共に、嵌着穴3d側に寄った位置に周方向に沿って横断面が円弧状の環状溝3jが設けられており、また、前記嵌着穴3dの底部3eには、前記通孔3fより大径でありシリンダ2の内径より小径の円形の凹部3kが形成されている。そして、前記通孔3fには、その中央より前記嵌着穴3d側に寄った位置に(シリンダ2側に位置して)、前記シリンダ2の前室2bからルアー先3aの先端側への薬液mの流れを緩和して通過させる薬液誘導部材9が装着されている。
【0020】
前記薬液誘導部材9は、図2〜図5に示すように、外周部に前記通孔3fのテーパ孔に整合するテーパが設けられて通孔3fに嵌合される軸部10と、該軸部10のシリンダ2側の基端部に一体に設けられ、前記通孔3fより大径で前記筒先3の凹部3kの外径より小径に形成されたフランジ11とを備えている。
前記軸部10の外周には、軸部10の軸方向に沿って形成されて先端(他端)を軸部10の先端に開口された流通溝10aが、軸部10の周方向に間隔をあけて複数個(図示の例では4個)設けられると共に、前記軸方向の中央よりやや前記フランジ11側に寄った位置に、前記通孔3fの環状溝3jに嵌合する環状の突条10bが周方向に沿って設けられている。
【0021】
前記フランジ11は、大径の外側フランジ部11aと小径の内側フランジ部11bとからなり、前記内側フランジ部11bが前記軸部10の基端部に一体に結合されており、前記内側フランジ部11bには、前記軸部10(通孔3f)の半径方向に向けて形成され、前記流通溝10aの基端(一端)に連絡された複数個(図示の例では4個)の導入溝11cが、前記内側フランジ部11bの周方向に間隔をあけて設けられている。
そして、前記軸部10が前記筒先3の通孔3fに装着された際に、軸部10の突条10bが通孔3fの環状溝3jに嵌合され、前記フランジ11が、その内側フランジ11bの端面を前記凹部3kの底面に当接させて該凹部3kに没入され、該凹部3kの内周壁との間に環状間隙eが形成されると共に、該環状溝eが、前記凹部3kの底面側にある前記内側フランジ部11bの前記導入溝11cを通して前記軸部10の流通溝10aに連絡されている。前記流通溝10aと導入溝11cとは、薬液mを前記シリンダ2内から環状間隙eを経て、前記通孔3fの軸線に直角に交差する方向からその軸線に沿う方向へ屈折させて通過させる薬液誘導路9aを構成している。
【0022】
なお、前記シリンダ2の前端の外周部にはリング状の突起2dが設けられて、該突起2dが前記筒先3の嵌着穴3dの前端部に形成されたリング状溝3iに嵌合されることにより、筒先3がシリンダ2の前端部に気密、液密的に嵌着され、同様に、前記シリンダ2の後端の外周部にリング状の突起2eが設けられて、該突起2eが前記フィンガーグリップ4の円筒穴部4aに形成されたリング状溝4bに嵌合してしっかりとシリンダ2の後端の外周部に嵌着されている。前記フィンガーグリップ4は、シリンダ2に嵌着して設ける代わりに、シリンダ2と一体に形成して設けてもよい。
【0023】
次に、本発明の一実施の形態に係る容器兼用注射器1の作用について図6を参照しながら説明する。
前記構成の容器兼用注射器1においては、使用時には、先ず、容器兼用注射器1を図1に示す状態から、図6(a)に示すように、プランジャーロッド6をゆっくりと押して後部ストッパー5bを介して、後室2c内の薬液mをシリンダ2の前側へ少し送って前部ストッパー5aを前記シリンダ2のバイパス路2aの位置に押し込む。このとき、前部ストッパー5aによる薬液mの前側の封止が解かれるので、該薬液mは前記バイパス路2aの内側の通路2a1を通って前部ストッパー5aの前側の前室2bに流れ込むこととなる。バイパス路2aの位置に移動した前部ストッパー5aは、シリンダ2の内壁との間の摩擦抵抗によって、薬液mの流動圧力では前進することなく前記バイパス路2aの位置に止められている。
【0024】
さらに、図6(b)に示すように、前記プランジャーロッド6を押すことによって後部ストッパー5bの前側にある薬液mが順次前記バイパス路2aの通路2a1を通って前部ストッパー5aの前方へ流れて、バイパス路2aの前側の前室2b内へ移動する。ここで、前記後部ストッパー5bが前部ストッパー5aの後端面に当接して、薬液mが前記前室2b内に全て移動する。該前室2bに移動した薬液mを、使用者はシリンダ2の前室2bの外周側から十分に観察し、気泡も含めて薬液mにおける異常の有無を確認する。
【0025】
なお、前記のようにシリンダ2のバイパス路2aの位置に前部ストッパー5bが押し込まれることにより、前側の密封を解除された薬液mがバイパス路2aを通って前室2b内に入り込む際、バイパス路2aの狭い通路2a1を通過した薬液mが前室2b内から一気にルアー先3aの通孔3f内に流れ込もうとするが、該通孔3fの入口側に前記薬液誘導部材9が装着されており、前記導入溝11cと流通溝10aからなる屈曲した薬液誘導路9aが、通孔3f内で薬液mの流れを効果的に緩和するので、注射針7の先端から薬液mが突出する水鉄砲現象が確実に防止される。
【0026】
この後、図6(c)に示すように、注射針7に被せてあるプロテクター8を前記筒先3から取り外し、薬液mの上部に残留する気泡があれば、前記プランジャーロッド6を適宜操作することにより、前記気泡をルアー先3aの通孔3fから注射針7を通して排出する。前記シリンダ2内から気泡を完全に除去してから、図6(d)に示すように、プランジャーロッド6を更に押して前部ストッパー5aを後部ストッパー5bを介して前室2bの前端(筒先3の嵌着穴3dの底部3e)まで前進させることにより注射を行う。
【0027】
前記のように、容器兼用注射器1においては、前記シリンダ2の後室2c内の薬液mが、シリンダ2のバイパス路2aの通路2a1を通してシリンダ2の前室2bに移動する時、前記バイパス路2aの狭い通路2a1を通って前室2bに勢い飛び込み、注射針7の先端から突出する水鉄砲現象を防止しながら、前記前室2b内において、注射の直前に、薬液mの気泡も含めて異常の有無を、透明なシリンダ2の外周側からしっかりと観察することができ、薬液mに異常のないことを確認してから安心して注射を行うことができる。
【0028】
以上説明したように、前記実施の形態に係る容器兼用注射器1は、透明な材料からなり、軸方向の中間部にシリンダ壁を外側に膨出してなるバイパス路2aが形成されたシリンダ2と、前記バイパス路2aの後側におけるシリンダ2の後室2c内にその軸方向に間隔をあけて嵌入され、前記後室2c内に充填された薬液mを相互間で液密に封止する前部ストッパー5aおよび後部ストッパー5bと、先端に注射針7を取り付けるルアー先3aが設けられ、基端部3bを前記シリンダ2の前端外周部に嵌着穴3dを介して嵌着された筒先3と、前記シリンダ2の後端外周部に嵌着して設けられたフィンガーグリップ4と、前記シリンダ2の後端部からシリンダ2内に挿入されて前記後部ストッパー5bに連結されたプランジャーロッド6とを備え、前記シリンダ2のバイパス路2aの長さLが前記前部ストッパー5aの軸長L1より長く設定されると共に、前記バイパス路2aの前側におけるシリンダ2の前室2bの長さL2が、前記シリンダ2の後室2c内で薬液で隔てられている前記前部ストッパー5aと後部ストッパー5bの相互間距離L3より長く設定され、また、前記筒先3のルアー先3aに形成されてシリンダ2の前室2b内に連通する通孔3fの内部に、シリンダ2側に位置して、シリンダ2から前記通孔3fに導入される薬液mを通孔3fの軸線に交差する方向から軸線に沿う方向へ屈折させて通過させる薬液誘導路9aを設けた薬液誘導部材9が装着された構成とされている。
【0029】
したがって、前記実施の形態に係る容器兼用注射器1によれば、シリンダ2のバイパス路2aの位置に前部ストッパー5aが押し込まれることにより、前側の密封を解除された薬液mが、バイパス路2aより後方のシリンダ2の後室2cから前記バイパス路2aを通ってバイパス路2aの前側のシリンダ2の前室2b内に全量入り込むので、該シリンダ2の前室2b内において、従来の容器兼用注射器の筒先では見えにくかった注射前の薬液の状態を、気泡も含めて透明なシリンダ2の前室2bの外側から良く観察することができ、安心して薬液を人体に注射することができる。
【0030】
しかも、シリンダ2の前端部に嵌着された筒先3には、従来の容器兼用注射器の筒先のように、バイパス溝を有するバイパスチャンバーが設けられておらず、シリンダ2の中間部にバイパス路2aが設けてあり、薬液mが後室2cから通路2a1を通って前室2bへ移動するようになっている。そのため、プランジャーロッド6を押すことによって後部ストッパー5bの前側にある薬液mが前記バイパス路2aの通路2a1を通って勢い良くルアー先3aの通孔3f内に流れ込もうとするが、前記通孔3f内で薬液mの流れを前記薬液誘導部材9の薬液誘導路9aが効果的に緩和するので、注射針7の先端から薬液mが突出する水鉄砲現象を確実に防止することができる。
【0031】
また、前記実施の形態に係る容器兼用注射器1によれば、前記筒先3のシリンダ2が嵌入される嵌着穴3dの底部3eには、前記通孔3fに連通しそれより大径の凹部3kが形成され、前記薬液誘導部材9が、前記通孔3fに嵌合される軸部10と、該軸部10のシリンダ2側の基端部に設けられて前記凹部3kに没入され、前記通孔3fより大径で前記凹部3kの外径より小径に形成され、前記凹部3kとの間に環状間隙eを形成するフランジ11と、該フランジ11の前記凹部3kの底面側に通孔3fの半径方向に向けて設けた導入溝11cおよび前記軸部10の外周に軸方向に沿って形成され、一端を前記導入溝11cに連絡され他端を前記軸部10の先端に開口させた流通溝10aで構成される薬液誘導路9aとを備えた構成とされているので、前記導入溝11cと流通溝10aとにより屈折した薬液誘導路9aを薬液誘導部材9に容易に形成することができると共に、ルアー先3aの通孔3f内の薬液の流れを的確に緩和することができる。
【0032】
また、前記実施の形態に係る容器兼用注射器1によれば、前記ルアー先3aの通孔3fが、前記嵌着穴3d側を大径としルアー先3aの先端側を小径としたテーパ孔に形成され、その嵌着穴3d側寄りの位置に周方向に沿って環状溝3jが設けられ、前記薬液誘導部材9の軸部10の外周に、前記通孔3fのテーパ孔に整合するテーパが設けられると共に、前記通孔3fの環状溝3jに嵌合する環状の突条10bが周方向に沿って設けられた構成とされているので、前記薬液誘導部材9をルアー先3aの通孔3fに軸部10を容易に挿入させて組み付けることができると共に、前記軸部10の環状の突条10bと前記通孔3fの環状溝3jとの嵌合により、前記薬液誘導部材9を前記通孔3f内にしっかりと保持させることができる。
【0033】
なお、前記実施の形態に係る容器兼用注射器1においては、前記薬液誘導部材9にその周方向に間隔をあけて4個の薬液誘導路9aを設けたが、該薬液誘導路9aの個数は、これに限らず1個または4個以外の複数個設けてもよい。また、前記薬液誘導路9aを薬液誘導部材9の軸部10の外周と内側フランジ部11bに設けた流通溝10aと導入溝11cとにより、薬液誘導部材9(通孔3f)の軸線に垂直に交差させて構成したが、これに限らず、前記軸部10中にその軸線方向に向けてあけた流通孔と、この流通孔に直交して連絡するように前記フランジ11に設けた導入孔とで構成してもよい。さらに、前記導入溝11cと導入孔は、それぞれ薬液誘導部材9(通孔3f)の軸線に垂直に交差させる必要はなく、傾斜して交差させるようにしてもよい。また、前記筒先3の通孔3fと前記薬液誘導部材9の軸部10をそれぞれテーパ孔、テーパ軸に形成したので、組立時に通孔3fに軸部10を容易に挿入して嵌合させることができて好ましいが、前記通孔3fと軸部10をそれぞれ平行孔、平行軸として形成してもよい。
【0034】
なお、前記実施の形態に係る容器兼用注射器1においては、本発明を一室式容器兼用注射器に適用した例を示したが、本発明はこれに限らず、二室式容器兼用注射器にも適用することができる。この場合は、前記バイパス路2aより前側のシリンダ2内の容積がシリンダ内の二室の薬剤の容積の合計容積以上に相当するものとする必要があるので、容器兼用注射器の全長が多少長くなる。
また、この場合には、図7〜図10に示すように、前記薬液誘導部材9は、前記フランジ11の外側フランジ部11aにおける外端部(シリンダ2側の端部)に、前記凹部3kの内径より大径の円形のフランジ板11dが一体に設けられると共に、該フランジ板11dには、前記シリンダ2内を前記環状間隙eに連通させる複数の小孔11eをフランジ板11dの周方向に間隔をあけて配設されている。そして、前記フランジ板11dは、その内側(凹部3k側)面に環状に形成された網目状のフィルター12が前記小孔11eを覆うようにして接着されて装着され、その外周部が前記嵌着穴3dの底部3eに前記フィルター12を介して密着されるように設けられている。
なお、前記フランジ板11dの内面側は、前記装着穴3dの底部3eの傾斜面に整合する傾斜面に形成されている。
【0035】
この構成によれば、二室式容器兼用注射器において、凍結乾燥製剤を溶解液に液状に溶解させて注射する場合に、万一、シリンダ2内の薬液m中に乾燥製剤の不溶物が発生しても、該不溶物は、薬液mがシリンダ2内から前記ルアー先3aの通孔3fに入る際に、前記フィルター12によって濾過されることによって前記環状間隙eへの侵入を阻止されるるので、前記不溶物が前記ルアー先3aの通孔3fを通って注射針7から人体に注入されるのを確実に防止することができる。
また、前記フィルター12を前記フランジ板11dの内側面に装着したが、フランジ板11dの外面側に装着してもよく、このようにフランジ板11dにフィルター12を装着すると、シリンダ2内からルアー先3aの通孔3f内に薬液mが入り込む入口部に、フィルター12をしっかりと安定した状態で容易に設置することができる。しかし、これに限らず、前記フィルター12は、前記外側フランジ11aの外端面と装着穴3dの底部3eとに直接に接着等により設けて前記環状間隙eを覆うようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一実施の形態に係る容器兼用注射器を示す縦断面図である。
【図2】同じく容器兼用注射器の筒先の縦断面図である。
【図3】同じく筒先内に設ける薬液誘導部材を示す斜視図である。
【図4】同じく薬液誘導部材の側面図である。
【図5】図4のイ矢視図である。
【図6】本発明の一実施の形態に係る容器兼用注射器の作用を示す縦断面図である。
【図7】本発明の他の実施の形態に係る容器兼用注射器における筒先を示す縦断面図である。
【図8】同じく筒先内に設ける薬液誘導部材を示す斜視図である。
【図9】同じく薬液誘導部材の側面図である。
【図10】図9のロ矢視図である。
【符号の説明】
【0037】
1 容器兼用注射器
2 シリンダ
2a バイパス路
2b 前室
2c 後室
3 筒先
3a ルアー先
3b 基端部
3d 嵌着穴
3f 通孔
3j 環状溝
4 フィンガーグリップ
5a,5b 前、後部ストッパー
6 プランジャーロッド
7 注射針
8 プロテクター
9 薬液誘導部材
9a 薬液誘導路
10 軸部
10a 流通溝
10b 突条
11 フランジ
11c 導入溝
11d フランジ板
12 フィルター
L バイパス路の長さ
L1 前部ストッパーの長さ(軸長)
L2 前室の長さ
L3 前、後部ストッパーの相互間距離
m 薬液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明な材料からなり、軸方向の中間部にシリンダ壁を外側に膨出してなるバイパス路が形成されたシリンダと、前記バイパス路の後側におけるシリンダの後室内にその軸方向に間隔をあけて嵌入され、後室内に充填された薬液を相互間で液密に封止する前部ストッパーおよび後部ストッパーと、先端に注射針を取り付けるルアー先が設けられ、基端部を前記シリンダの前端外周部に嵌着された筒先と、前記シリンダの後端外周部に設けられたフィンガーグリップと、前記シリンダの後端部からシリンダ内に挿入されて前記後部ストッパーに連結されたプランジャーロッドとを備えた容器兼用注射器であって、
前記シリンダのバイパス路の長さが前記前部ストッパーの軸長より長く設定されると共に、前記バイパス路の前側におけるシリンダの前室の長さが前記シリンダの後室内で薬液で隔てられている前記前部ストッパーと後部ストッパーの相互間距離より長く設定され、また、前記筒先のルアー先に形成されてシリンダに連通する通孔には、シリンダ側に位置して、シリンダ内から前記通孔に導入される薬液を通孔の軸線に交差する方向から軸線に沿う方向へ屈折させて通過させる薬液誘導路を設けた薬液誘導部材が装着されていることを特徴とする容器兼用注射器。
【請求項2】
前記筒先のシリンダが嵌入される嵌着穴の底部には、前記通孔に連通しそれより大径の凹部が形成され、前記薬液誘導部材は、前記通孔に嵌合される軸部と、該軸部のシリンダ側の基端部に設けられて前記凹部に没入され、前記通孔より大径で前記凹部の外径より小径に形成され、前記凹部との間に環状間隙を形成するフランジと、該フランジの前記凹部の底面側に通孔の半径方向に向けて設けた導入溝および前記軸部の外周に軸方向に沿って形成され、一端を前記導入溝に連絡され他端を前記軸部の先端に開口させた流通溝で構成される薬液誘導路とを備えていることを特徴とする請求項1に記載の容器兼用注射器。
【請求項3】
前記ルアー先の通孔は、前記嵌着穴側を大径としルアー先の先端側を小径としたテーパ孔に形成され、その嵌着穴側寄りの位置に周方向に沿って環状溝が設けられ、前記薬液誘導部材の軸部の外周には、前記通孔のテーパ孔に整合するテーパが設けられると共に、前記通孔の環状溝に嵌合する環状の突条が周方向に沿って設けられていることを特徴とする請求項2に記載の容器兼用注射器。
【請求項4】
前記凹部とフランジとの間の環状間隙におけるシリンダ側の端部には、薬液中の不溶物の環状間隙への侵入を阻止するフィルターが設けられていることを特徴とする請求項2または3に記載の容器兼用注射器。
【請求項5】
前記フランジにおけるシリンダ側の端部には、前記シリンダ内を前記環状間隙に連通させる複数の小孔を周方向に間隔をあけて配設したフランジ板が、その外周部を前記嵌着穴の底部に密着されるように設けられ、前記フィルターが前記小孔を覆うようにしてフランジ板に装着されていることを特徴とする請求項4に記載の容器兼用注射器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−104623(P2008−104623A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−289730(P2006−289730)
【出願日】平成18年10月25日(2006.10.25)
【出願人】(000122184)株式会社アルテ (28)
【Fターム(参考)】