説明

容器口部撥水処理方法

【課題】容器口部へのシリコーンオイルの塗布工程を簡略化し、設備の簡略化などによるコストダウンを実現すると共に、シリコーンオイルが容器内部の奧まで流れ込まないようにする。
【解決手段】容器口部外周面に塗布ベルトを接触させ最上部のR面部を含む容器口部外周面にシリコーンオイルを塗布した後、口部を加熱してシリコーンオイルを口部天面に広げると共に口部外周面及び天面に焼き付けることで、前記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器、特にガラスびんや、陶磁器びんなどのセラミックス容器の口部にシリコーンオイルを焼き付ける容器口部撥水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
焼肉のたれ、味醂などの粘性の大きな調味料や、糖分の多い果実酒、乳酸飲料などを収容する容器においては、液だれが生じやすく、また容器口部に付着した液が固化し(いわゆるシュガーセメント)、キャップを開けづらくなるという問題がある。
このため、下記特許文献1に示されるように、容器口部にシリコーンオイルを焼き付け、撥水処理を行うことで、容器口部(天面及び外周面)に内溶液が付着しないようにすることが行われている。
この撥水処理は、まず容器口部をバーナで予備加熱し、次に容器口部の天面及び外周面にシリコーンオイルを塗布し、さらに容器口部をガス炎や電気炉で加熱してシリコーンオイルを焼き付けることで行われていた。
【特許文献1】特開昭63−44445号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
図7、8は、従来の容器口部撥水処理方法において、容器口部にシリコーンオイルを塗布する方法の例を示している。
まず、図7に示すように、回転する容器口部1の上方から、シリコーンオイルを含浸させた天面塗布ベルト12を天面3に接触させ、天面3の全面にシリコーンオイルを付着させる。天面塗布ベルト12は図面の表裏方向に移動している。
次に、図8に示すように、容器を回転させながら塗布ベルト13を容器口部外周面2に接触させ、外周面2にその全周に亘ってシリコーンオイルを塗布する。
このように、従来は、シリコーンオイルの塗布を、容器口部天面の全面に塗布する工程と、外周面に塗布する工程の2工程で行っていた。
【0004】
また、従来の容器口部撥水処理方法では、シリコーンオイルを焼き付けるために口部を加熱した際に、シリコーンオイルが容器内部の奧まで流れ込み、容器内部にシリコーンオイルの被膜を形成する傾向があった。
シリコーンオイルは人体に無害であるといわれているが、撥水処理が不要な容器内部の奧までシリコーン被膜が形成されるのは好ましくない。
【0005】
本発明は、容器口部へのシリコーンオイルの塗布を1工程に簡略化し、設備の簡略化などによるコストダウンを実現すると共に、シリコーンオイルが容器内部の奧まで流れ込まないようにすることを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
〔請求項1〕
本発明は、容器口部外周面に塗布ベルトを接触させ最上部のR面部を含む容器口部外周面にシリコーンオイルを塗布するステップと、前記口部を加熱してシリコーンオイルを口部天面に広げると共に口部外周面及び天面に焼き付けるステップを有することを特徴とする容器口部撥水処理方法である。
【0007】
シリコーンオイルを塗布するステップで、最上部のR面部を含む容器口部外周面にシリコーンオイルを塗布しておけば、焼き付けるステップでシリコーンオイルが加熱されたときに流動性が増して口部天面全体に拡がり、口部天面面全体にシリコーン焼き付け層が形成される。また、容器内部に流れ込むシリコーンオイルの量がきわめて少なくなる。シリコーンオイルを容器口部天面の全面に塗布する工程がないので、設備の簡略化、及びシリコーンオイル使用量の低減によりコストダウンを実現できる。
【0008】
本発明において、シリコーンオイルは任意のものを使用できるが、例えばジメチルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン、フルオロシリコーンオイルなどを使用できる。シリコーンオイルは原液をそのまま用いることもできるが、エステル系溶剤、ケトン系溶剤、芳香族炭化水素溶剤などの適宜の溶剤で、適宜の粘度となるように希釈して用いることもできる。
【0009】
〔請求項2〕
また本発明は、前記シリコーンオイルを塗布するステップの前に、容器口部を予備加熱するステップを有する請求項1の容器口部撥水処理方法である。
【0010】
〔請求項3〕
また本発明は、前記シリコーンオイルを塗布するステップを容器口部外周面及び天面の平均温度が55〜85℃の状態で行う請求項1又は2の容器口部撥水処理方法である。
本発明は、予備加熱を行わないで実施することも可能であるが、予備加熱を行うことにより、シリコーンオイルを塗布するステップにおける口部温度を室温よりも高くしておくことで、塗布したシリコーンオイルが流動性を増し、シリコーンオイルの付着不良や付着ムラを低減させることができる。予備加熱による温度は55〜85℃が適当で、55℃に満たないと付着不良、付着ムラを低減する効果が不十分となり、85℃を越えると焼き付けの際にシリコーンが容器内部に過度に流入しやすくなる。
【0011】
〔請求項4〕
また本発明は、前記シリコーンオイルを塗布するステップを、30℃〜50℃の温度の前記塗布ベルトを容器口部外周面に接触させて行う請求項1の容器口部撥水処理方法である。
塗布ベルトの温度(容器口部外周に接触する面の平均温度)を30℃〜50℃としておくことで、前記予備加熱を行った場合と同様の効果を得ることができる。
【0012】
〔請求項5〕
また本発明は、前記シリコーンオイルを口部天面に広げると共に口部外周面及び天面に焼き付けるステップを、表面燃焼バーナで容器口部天面及び外周面を加熱して行う請求項1〜4のいずれかの容器口部撥水処理方法である。
表面燃焼バーナは、電気炉に較べて設備費が安価で、容器をコンベアで移動しながら加熱処理を行うことができ、通常のガスバーナに較べて容器口部をムラなく加熱することができる。
加熱温度は700〜1200℃、加熱時間は10〜20秒程度が適当である。
【0013】
〔請求項6〕
また本発明は、前記容器が、口焼きを行ったガラスびんである請求項1〜5のいずれかの容器口部撥水処理方法である。
口焼きとは、ガラスびん成形課程の徐冷炉の入口手前で、成形直後の熱いガラスびんの口部をバーナで700℃〜1000℃程度に加熱する処理である。口焼きを行うことで、口部天面の平滑度が増し、撥水処理後の撥水効果が向上する。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、シリコーンオイルの塗布を、塗布ベルトでR面部を含む容器口部外周面に塗布する1工程で行うので、工程及、設備の簡略化、及びシリコーンオイル使用量の低減によりコストダウンを実現できる。
また、シリコーンオイルが容器内部の奧まで流れ込み、シリコーンオイル被膜が形成されるのを防止できる。
【実施例】
【0015】
図1は、塗布ベルトによりシリコーンオイルを容器口部1のR面部4を含む外周面2に付着させた状態を示している。図において符号1は容器口部、2は外周面、3は天面、4はR面部、5は内周面、6は螺条、7はビード、8はシリコーンオイルである。
外周面2の最上部はR面部4となっており、シリコーンオイル8はR面部4の全体、すなわち内端部4aまで付着している。このように、シリコーンオイルをR面部4の全体に付着させた状態でシリコーンオイルの焼き付けを行うと、シリコーンオイルが加熱されて流動性が増し、矢印A方向に広がり、天面3全体に行き渡り、一部は内周面5に流れ込んで付着する。このように、シリコーンオイルは高温で加熱されると非常に広く拡がる性質があり、本発明はこの性質を利用している。したがって、シリコーン焼き付け層の厚みはきわめて薄く、分子膜程度である。
【0016】
シリコーンオイルの塗布範囲は、R面部4の全体に塗布されていなければならないが、図1のR面部4の内端部4aを越えて、天面3の一部まで塗布されていてもよい。
【0017】
図2に示す螺条を有しない形状のガラスびん(口焼きなし)の口部1に図2の方法でシリコーンオイルを塗布した。また、図7等に示す螺条を有する形状のガラスびん(口焼きなし)の口部1に、図3、4に示す方法でシリコーンオイルを塗布した。いずれの場合も予備加熱により、塗布時のびん口部の平均温度を60℃又は80℃とした。
シリコーンオイルは、ジメチルポリシロキサンを主成分とするもの(信越化学工業株式会社製のKF96−50cs)を原液のまま用いた。塗布ベルトのシリコーンの含浸量は、3〜8mg/cmとした。
【0018】
塗布ベルト9、10は、図6に示すように、ベルト基材9a、10aの外側に厚さ15mmの高弾性のウレタンゴム9b、10b、その外側にシリコーンオイルを含浸させるため厚さ0.3mmの布材9c、10c(合成繊維を織ったもの)を貼付したものである。また、塗布ベルト10は、その容器口部外周面と接する面に、その全長に亘って水平方向に切れ込み10dを入れ、螺条6の谷部までシリコーンオイルを塗布できるようにしている。
図3、4に示すように、ガラスびん口部外周面に螺条などの大きな凹凸がある場合、高さが異なる塗布ベルトを用い、一方の塗布ベルト9の塗布面上端は容器口部天面よりも上方に突出し、他方の塗布ベルト10の塗布面上端は容器口部天面より下になるようにするのがよい。また、高さが低い方の塗布ベルト10には切れ込み10dを入れるのが望ましい。このようにすることで、R面部4に適正量のシリコーンオイルを塗布し(多すぎるとシリコーンオイルが容器内部の奧まで流れ込んでしまい、少なすぎるとシリコーンオイルが天面全体に行き渡らずに撥水処理が不完全になる)、しかも口部外周面の螺条谷部の付着不良も解消できる。
【0019】
図2において、回転するびん口部1の片側から、塗布ベルト9を接触させて塗布を行った。シリコーンオイルがR面部全体に付着するように、塗布ベルト9が口部外周面に押圧されるようにした。塗布ベルト9の塗布面の高さh=19mmで、上部が容器天面3から5mm程度上に突出するようにした。このように、塗布ベルト9の塗布面は上部が容器天面3から4mm程度以上、上に突出するようにするのが好ましい。
【0020】
図3において、回転するびん口部1の片側から塗布ベルト9を、反対側から塗布ベルト10を接触させて塗布を行った。シリコーンオイルがR面部全体に付着するように、塗布ベルト9が口部外周面に押圧されるようにした。塗布ベルト10も口部外周面に押圧されるようにした。塗布ベルト9の塗布面の高さh=19mm、塗布ベルト10の塗布面の高さh=9mmで、塗布ベルト10は、シリコーンオイルがR面部4に過度に付着しないように、上端が容器天面3よりも低くなるようにした。
R面部4へのシリコーン塗布量が適正となるように、塗布ベルト9の容器口部外周への押圧力を調整した。押圧力を強くすると塗布ベルトと容器口部の干渉量が増加し、R面部の塗布量が多くなりすぎる。押圧力を弱くすると、R面部の塗布量は適度にできるが、口部外周の螺条の谷部等への塗布が不十分になり、当該部分の撥水処理が不完全になる。しかし、塗布ベルト10により螺条の谷部等への塗布量を補完することができる。
【0021】
図4において、回転するびん口部1の片側から塗布ベルト9を、反対側から塗布ベルト10を接触させて塗布を行った。塗布ベルト9、10の高さは、図3の場合と同じであるが、塗布ベルト9は水平面に対して80°傾斜させ、シリコーンオイルがR面部4の内端部4aを越えて天面3の一部まで塗布されるようにした。
R面部4へのシリコーン塗布量が適正となるように、塗布ベルト9の容器口部外周への押圧力、及び塗布ベルト9の傾斜を調整した。
押圧力を強く又は傾斜を大きくすると塗布ベルトとR面部の干渉量が増加し、R面部の塗布量が多くなりすぎる。押圧力を弱く、又は傾斜を小さくすると、R面部の塗布量は適度にできるが、口部外周の螺条の谷部等への塗布が不十分になり、当該部分の撥水処理が不完全になる。しかし、塗布ベルト10により螺条の谷部等への塗布量を補完することができる。
【0022】
上記のシリコーンオイルを塗布したガラスびんの口部天面及び外周面を表面燃焼バーナ(加熱温度約900℃)でびん天面及び外周面を合計16秒間加熱し、びん口部温度を約170℃にしてシリコーンオイルを口部天面全体に広げると共に焼き付けを行った。
【0023】
上記のように口部撥水処理を行ったガラスびんについて、シリコーン焼き付け層が形成されている範囲を調べた結果、全て、天面3全体及び口部外周面2にシリコーン焼き付け層11が形成されており、シリコーンオイルの塗布不良は全くなかった。
口部内周面5については、予備加熱温度が60℃の場合、ガラスびんは、全て、図5に示すように、ビード7よりも上方にシリコーン焼き付け層11が形成され、ビード7よりも下方にはシリコーンオイルが達していなかった。予備加熱温度が80℃の場合、一部のガラスびんはビード7のところまでシリコーン焼き付け層11が形成されたが、ほとんどのものは図5に示すように、ビード7よりも上方にシリコーン焼き付け層11が形成されていた。
内周面におけるシリコーン焼き付け層11の範囲がこの程度であれば、内溶液が常時シリコーン焼き付け層に接触することはない。
【0024】
次に、上記のガラスびん(各3本)の口部に、着色した水を塗布し、水滴の残り具合を観察する撥水試験を行った。その結果、全てのガラスびんにおいて、シリコーン焼き付け層11が形成された天面、外周面には水滴が全く残らず、従来方法でシリコーン焼き付け層を形成したものに較べて全く遜色ないことが分かった。
【0025】
次に、口焼きをしたガラスびんに図3の方法でシリコーンオイルを塗布し、同様に焼き付けたものを3本用意した。これらのガラスびんの口部に、着色した水を塗布し、水滴の残り具合を観察する撥水試験を行った。その結果、口焼きを行ったものの天面は水滴の弾きかたが非常に顕著で、口焼きを行わないものに較べて明らかに撥水効果が優れていた。
これにより、口焼きを行うことで、撥水効果が大きく向上することが確認された。
【0026】
本発明において、塗布ベルトで容器口部にシリコーンオイルを塗布するためには、周知の塗布装置(例えば、特公平1−59221号公報、実公平4−18704号公報など)を用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】塗布ベルトでシリコーンオイルを容器口部の外周面に付着させた状態の説明図である。
【図2】塗布ベルトでシリコーンオイルを容器口部の外周面に塗布する方法の説明図である。
【図3】塗布ベルトでシリコーンオイルを容器口部の外周面に塗布する方法の説明図である。
【図4】塗布ベルトでシリコーンオイルを容器口部の外周面に塗布する方法の説明図である。
【図5】実施例においてシリコーン焼き付け層が形成された範囲の説明図である。
【図6】塗布ベルト9、10の断面図である。
【図7】従来のシリコーンオイル塗布方法の説明図である。
【図8】従来のシリコーンオイル塗布方法の説明図である。
【符号の説明】
【0028】
1 容器口部
2 外周面
3 天面
4 R面部
5 内周面
6 螺条
7 ビード
8 シリコーンオイル
9 塗布ベルト
10 塗布ベルト
11 シリコーン焼き付け層
12 天面塗布ベルト
13 塗布ベルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器口部外周面に塗布ベルトを接触させ最上部のR面部を含む容器口部外周面にシリコーンオイルを塗布するステップと、前記口部を加熱してシリコーンオイルを口部天面に広げると共に口部外周面及び天面に焼き付けるステップを有することを特徴とする容器口部撥水処理方法。
【請求項2】
前記シリコーンオイルを塗布するステップの前に、容器口部を予備加熱するステップを有する請求項1の容器口部撥水処理方法。
【請求項3】
前記シリコーンオイルを塗布するステップを容器口部外周面及び天面の平均温度が55〜85℃の状態で行う請求項1又は2の容器口部撥水処理方法。
【請求項4】
前記シリコーンオイルを塗布するステップを、30℃〜50℃の温度の前記塗布ベルトを容器口部外周面に接触させて行う請求項1の容器口部撥水処理方法。
【請求項5】
前記シリコーンオイルを口部天面に広げると共に口部外周面及び天面に焼き付けるステップを、表面燃焼バーナで容器口部天面及び外周面を加熱して行う請求項1〜4のいずれかの容器口部撥水処理方法。
【請求項6】
前記容器が、口焼きを行ったガラスびんである請求項1〜5のいずれかの容器口部撥水処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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