説明

容器用原紙

【課題】本発明は内容物としてヨーグルトなどの食品が充填されるカップ状の紙容器に供されるためのコップ原紙に関する。
【解決手段】電子線を照射することによって殺菌してなるコップ原紙において、該電子線の加速電圧が200〜300kVであり、かつ吸収線量が5〜15kGyであることを特徴とする。本発明によれば、抗菌剤や殺菌剤などの薬剤を使用することがないので、原紙に薬剤や副生成物が残留することがない。また、電子線を照射することによって、効率的に殺菌ができ、さらにはコップ原紙としての強度劣化を引き起こすことが無い無菌レベルのコップ用原紙が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は内容物としてヨーグルトなどの食品が充填されるカップ状などの紙容器に供されるための容器用原紙に関する。
【背景技術】
【0002】
ヨーグルトなどの食品が充填される容器として、例えば紙コップなどの紙製の容器が広く使用されている。近年、食品の衛生性や安全性への関心が高まっており、食品の衛生性のみならず、容器等の包装材料へも衛生性が要求されてきている。
紙コップは一般的に胴部分と底部分に分かれており、胴部分、底部分はコップ原紙の両面、または片面にポリエチレンなどの樹脂がラミネートされている。胴部分は扇型状に抜き加工され、両端部の表面と裏面をヒートシールにて接着させ、さらに底部分と合わされて紙コップとなる。しかしながら、このようにして製造された紙コップはコップ原紙の断面が内容物と接するため、コップ原紙に存在する菌が例えば枯草菌のような特に害を為さない菌であったとしても衛生性の観点から、無菌レベルであることが要求されてきている。
食品の包装材料の菌を低減させる方法としては、従来より、殺菌(菌を殺す)、抗菌(菌の増殖を抑える)などの方法が取られ、例えば、殺菌剤、抗菌剤などの薬剤を付与する方法、エチレンオキサイド、オゾンなどのガスによって殺菌する方法、紫外線、熱、電子線などによって殺菌する方法などが挙げられる。
例えば特許文献1のように銀系抗菌剤を付与する方法、特許文献2のように貝殻を焼成してなる酸化カルシウム型焼成物もしくはその水和物を付与する方法、特許文献3のようにε―ポリリジンを付与する方法、特許文献4のように光の照射によって殺菌する方法、特許文献5のように電子線を照射することによって殺菌する方法が開示されている。
【特許文献1】特開平10−305532号公報
【特許文献2】特開平11−222796号公報
【特許文献3】特開2002−096825号公報
【特許文献4】特開2000−159210号公報
【特許文献5】特開平11−043118号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
エチレンオキサイドやオゾンによるガス殺菌方法は、紙層内部まで殺菌するのは困難であり、また無菌レベルまでの効果を求めると薬剤や副生成物が原紙に残留するおそれがあるので、食品用の紙容器に供する原紙に適用するには難点がある。
紫外線による殺菌方法では効果は得られるが、無菌に達する照射量は多大なものになり、生産性が極めて劣るため、実用化するには難点がある。
熱による殺菌方法では効果は得られるが、必要な熱が180℃以上であり、紙が黄変するし、強度劣化も引き起こすので難点がある。
また、特許文献1、2、3はいずれも抗菌剤を付与する方法であるが、いずれの方法でも原紙が無菌レベルに到達することはできない。
特許文献4ではキセノンランプから発せられる光によって殺菌する方法であるが、この方法でも原紙を無菌にすることは困難である。
さらに、特許文献5は電子線の照射によって殺菌をする方法が含まれるものであるが、この発明では容器の外面側のみを殺菌するものであり、原紙自体を無菌にするものではない。
本発明は上記実情を考慮してなされたものであって、原紙に薬剤の残留が無く、原紙の黄変といった外観上の悪化が見られず、コップ原紙としての強度劣化を引き起こすことが無い効率的に得られる無菌レベルのコップなどの容器に用いる原紙を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を達成するために、請求項1の容器用原紙の発明では電子線を照射することによって殺菌してなるコップなどの容器に用いる原紙において、該電子線の加速電圧が200〜300kVであり、かつ照射線量が5〜15kGyであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、抗菌剤や殺菌剤などの薬剤を使用することがないので、原紙に薬剤や副生成物が残留することがない。
また、電子線を照射することによって、効率的に殺菌ができ、さらにはコップ原紙としての強度劣化を引き起こすことが無い無菌レベルのコップ用原紙が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下に本発明の容器用原紙をコップ原紙に適用した場合の好適な実施形態について詳細に説明する。
本実施形態のコップ原紙は電子線を照射することによって、コップ原紙を殺菌することによって得られる。
【0007】
コップ原紙に使用する原料は針葉樹、広葉樹の機械パルプ、化学パルプ等の木材パルプや、ケナフ、タケ、バガス等の非木材パルプや、ミルクカートン古紙等の古紙パルプの原料を挙げることができ、食品衛生上問題の無い範囲で各種の原料を適宜選択できるが、高い強度が得られる針葉樹、広葉樹の化学パルプを使用することが好ましい。
【0008】
コップ原紙の原料には強度向上の目的で各種のデンプン系、ポリアクリルアミド系の紙力増強剤を使用することが好ましい。
また、耐水性を向上させるため、各種サイズ剤を添加することが好ましい。
特にコップ原紙をヨーグルトなどを充填するための容器に供する場合、容器内面側の断面からヨーグルトに含まれる乳酸が染み出すおそれがあるので、サイズ剤にはアルキルケテンダイマーサイズ剤を使用することが好ましい。
さらに、消泡剤、スライムコントロール剤、ピッチコントロール剤、pH調整剤などの抄紙用添加助剤も必要に応じて添加することも可能である。
【0009】
上記にようにして調整された原料は、公知の抄紙機、例えば、円網抄紙機、長網抄紙機、短網抄紙機、コンビネーション抄紙機などの抄紙機によって抄造される。
また、サイズプレス、ゲートロール、キャレンダー、グラビアコーター、エアナイフコーター、ブレードコーター、バーコーター、ロールコーター、コンマコーターなどの塗工機にてデンプン系やポリビニルアルコール系、ポリアクリルアミド系などの紙力増強剤、各種表面サイズ剤、カオリン、炭酸カルシウムなどの顔料等を塗工することも可能である。
上記のようにして抄造されるコップ原紙の坪量は80〜500g/mであることが多い。
【0010】
上記のようにして抄造されたコップ原紙を電子線によって殺菌することによって、無菌レベルのものが得られる。
ここで、無菌レベルとは、無菌下でコップ原紙を2×3cmに切ったものを試料とし、この試料をシャーレに入れ、標準寒天培地を5cc加え、紙全体に染み込むようにして凝固した後、孵卵器にて37℃、48時間培養し、試料の表面および断面から発生した菌集落数が皆無であることを言う。
【0011】
電子線による殺菌の原理は、電子線を照射することによって発生したフリーラジカルがDNA鎖を損傷し、その細胞分裂能を阻害することによる。
電子線は真空チャンバー内に電流を流し、その中にあるフィラメントが加熱され、熱を帯びた電子が放出し、この熱電子がチャンバー下部の陽極との間に生じる高電圧(加速電圧)により加速され、高速の電子ビームが発生する。この発生した電子線を照射することにより殺菌が可能となる。
【0012】
本実施形態で使用する電子線照射装置としては、加速電圧が300kV以下の低エネルギー量の装置を用いる。本発明で殺菌処理に用いる加速電圧は200〜300kVである。
300kVを超える中エネルギー量以上の装置ではコップ原紙は無菌レベルとなるが、殺菌するための装置が大きくなるし、紙の物性劣化が著しくなり、コップ原紙として必要な強度が得られなくなる。
また、加速電圧が200kVを下回るとコップ原紙の表面は殺菌可能であるが、紙を透過させることはできず、コップ原紙の断面から発生する菌を死滅することが困難になる。
【0013】
本発明の電子線を照射したコップ原紙の吸収線量は吸収線量を(D)とすると吸収線量(D)=装置定数(K)×全電子電流(I)/処理スピード(V)より求められるものであり、吸収線量Dは5〜15kGyである。
5kGyより少ないと殺菌が不十分であり、完全に菌が死滅せず、コップ原紙の無菌レベルが得られない。
また、15kGyを超えると照射することによりコップ原紙の無菌レベルは達成されるが、紙物性の劣化や臭気を帯びてくる。
より好ましい範囲は5〜10kGyである。
【0014】
電子線の照射は片面から照射、両面から照射のいずれの方法でも可能である。
このようしにて殺菌されたコップ原紙はコップ原紙の片面または両面にポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂あるいはポリエチレンテレフタレートなどの樹脂の押し出しラミネートを施して、コップ状の紙容器として供される。
また、必要に応じて図柄を印刷しても可能である。
さらには印刷、ラミネート後の工程において、電子線照射を行っても良い。
【0015】
ただし、電子線照射は紙容器成形後に行っても殺菌効果は認められるが、必要線量が増加し、生産性が低下してしまうことがあると共に容器内部に臭気が残存し、内容物の味や風味を損なうおそれがある。
このため、別の殺菌方法との組み合わせが必要となる場合があり、紙容器成型前に行うのが好ましい。
【0016】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で変更しうる。
なお、以下において、%は特に断ることが無い限り重量%を示す。
各試験は以下の方法に準拠して行った。
1)坪量:JIS P−8122
2)引張強度:JIS P−8113
3)細菌検査:無菌下でコップ原紙を2×3cmに切ったものを試料とし、この試料をシャーレに入れ、標準寒天培地を5cc加え、紙全体に染み込むようにして凝固した後、孵卵器にて37℃、48時間培養し、試料の断面から発生した菌集落数を算定する。
なお、測定不能は発生した菌数が多すぎるため菌数計測不能であることを示す。
4)臭気測定:コップ原紙の試料をアルミ袋に封入し、ポータブル型ニオイセンサにて臭気強度を測定した。
【実施例1】
【0017】
広葉樹晒しクラフトパルプ(LBKP)を50%、針葉樹晒しクラフトパルプ(NBKP)を50%の割合で配合し、カナダ標準ろ水度480mlに叩解したパルプに対し、固形分でアルキルケテンダイマーサイズ剤0.3%、共重合ポリアクリルアミド系乾燥紙力増強剤0.5%、湿潤紙力増強剤0.4%を添加した原料を5層抄きの円網抄紙機を用いて300g/mのコップ原紙を抄造した。
このコップ原紙を岩崎電気製の電子線照射装置を用いて原紙の片面側から加速電圧250kVで電子線を照射した。このときの吸収線量は10kGyである。
得られた結果を図1に示す。
【実施例2】
【0018】
実施例1と同様にしてコップ原紙を抄造した。
このコップ原紙を岩崎電気製の電子線照射装置を用いて原紙の片面側から加速電圧250kVで電子線を照射した。このときの吸収線量は5kGyである。
得られた結果を図1に示す。
【実施例3】
【0019】
実施例1と同様にしてコップ原紙を抄造した。
このコップ原紙を岩崎電気製の電子線照射装置を用いて原紙の片面側から加速電圧250kVで電子線を照射した。このときの吸収線量は15kGyである。
得られた結果を図1に示す。
【実施例4】
【0020】
実施例1と同様にしてコップ原紙を抄造した。
このコップ原紙を岩崎電気製の電子線照射装置を用いて原紙の片面側から加速電圧250kVで電子線を照射した。このときの吸収線量は11kGyである。
得られた結果を図1に示す。
【実施例5】
【0021】
実施例1と同様にしてコップ原紙を抄造した。
このコップ原紙を岩崎電気製の電子線照射装置を用いて原紙の片面側から加速電圧300kVで電子線を照射した。このときの吸収線量は10kGyである。
得られた結果を図1に示す。
【実施例6】
【0022】
コップ原紙の坪量を200g/mとし、加速電圧を200kVとした他は実施例1と同様に実施した。
得られた結果を図1に示す。
【実施例7】
【0023】
実施例1で得られたコップ原紙にポリエチレンラミネートの押し出しラミネートを実施したものを実施例6とし、細菌検査を実施した。
得られた結果を図1に示す。
【0024】
[比較例1]
実施例1と同様にしてコップ原紙を抄造した。
このコップ原紙には電子線を照射しなかった。
得られた結果を図1に示す。
【0025】
[比較例2]
加速電圧を100kVとした他は実施例1と同様に行った。
得られた結果を図1に示す。
【0026】
[比較例3]
加速電圧を300kVとし、吸収線量20kGyとした他は実施例1と同様に実施した。 得られた結果を図1に示す。
【0027】
[比較例4]
加速電圧を250kVとし、吸収線量2kGyとした他は実施例1と同様に実施した。
得られた結果を図1に示す。
【0028】
これにより、本実施例のコップ原紙では、無菌であると共に、原紙の黄変といった外観上の悪化が見られず、コップ原紙としての強度劣化を引き起こすことが無いことが確認された。また、臭気強度も低いことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施例および比較例の評価結果を示す一覧表である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子線を照射することによって殺菌してなるコップなどの容器に用いる原紙において、該電子線の加速電圧が200〜300kVであり、かつ吸収線量が5〜15kGyであることを特徴とする容器用原紙。

【図1】
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【公開番号】特開2007−216983(P2007−216983A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−36790(P2006−36790)
【出願日】平成18年2月14日(2006.2.14)
【出願人】(391025350)東京製紙株式会社 (9)
【Fターム(参考)】