説明

容器詰め殺菌液全卵およびその製造方法

【課題】卵スープの製造に用いた場合、卵スープの透明度が高いうえに、厚みに比して表面積が大きい膜状のヒダを有する凝固卵を含有する卵スープを得ることができる容器詰め殺菌液全卵の製造方法、ならびに当該容器詰め殺菌液全卵を提供する。
【解決手段】容器詰め殺菌液全卵の製造方法は、液全卵を目開き10〜100μmの細かいストレーナーでろ過するろ過工程、およびろ過した前記液全卵を品温59〜63℃にて殺菌する殺菌工程を含み、前記殺菌工程により加熱変性させ殺菌液全卵の粘度(20℃)を100〜2000mPa・sに高める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器詰め殺菌液全卵およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
割卵して卵殻から分離された全卵は、各種卵加工食品の製造に広く用いられている。一般に、割卵して卵殻から分離された生の液全卵は、保存性を高めること等を目的として殺菌処理が施されている。しかしながら、殺菌処理が施された従来の全卵(殺菌液全卵)では通常、生の液全卵が本来有している「つながり」が損なわれている。この生の液全卵が有する「つながり」は、卵白中の蛋白質のからまりに由来するものであり、生の液全卵に殺菌処理を施すと、殺菌処理中のろ過や撹拌によって蛋白質のからまりが切断されたり、加熱によって蛋白質が熱変性したりして、蛋白質のからまりの強度が弱まる。このため、従来の殺菌液全卵では通常、生の液全卵が有するつながりが損なわれている。
【0003】
殺菌液全卵の特性を改良する技術として、特許文献1、特許文献2、および特許文献3が挙げられる。
【0004】
特許文献1には、加工液卵中に特定量のキサンタンガムを加えて特定の粘度を有する卵含有食品を調製する方法が記載されている。
【0005】
また、本出願人は、生全卵が本来有する「つながり」を保持している殺菌加工全卵を得るために、目の大きさが1〜10mmのストレーナーでろ過されて殺菌処理されてなる加工全卵であって、目の大きさが74μm、内径200mmのストレーナーに品温20℃の加工全卵を1kg流し入れて、10分間放置した後、ストレーナー内に残っている加工全卵の量が、流し入れた加工全卵の量の70重量%以上であり、かつ、蛋白質の未変性部分が塩可溶性蛋白量比で生全卵の93%以上である加工全卵を提案している(特許文献2)。
【0006】
さらに、特許文献3は、割卵直後の全卵の物理的形状をできるだけ保持しつつ、殺菌により保存性を向上せしめることを目的とする加熱殺菌液全卵およびその製造方法について言及している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−9925号公報
【特許文献2】特許第3657078号
【特許文献3】特開2005−304359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
全卵を利用した各種卵加工食品の一つとして、卵スープが挙げられる。卵スープは、加熱凝固卵を含有するスープである。一般に、卵スープに含まれる加熱凝固卵のヒダは、ある程度厚みに比して表面積が大きく存在感のある膜状であって、かつ、卵スープは透明感があるのが外観上好ましいとされる。
【0009】
家庭で生の液全卵を使用してハンドメイドの卵スープを調製した場合、得られる卵スープは透明であるものの、卵スープに含まれる凝固卵は通常、厚みに対する表面積が小さく存在感のない膜状のヒダとなることが多い。
【0010】
一方、卵スープを工業的に調製する場合、衛生面を考慮して、殺菌液全卵を使用することが要望されている。しかしながら、特許文献1に記載される卵含有食品を卵スープに用いた場合、該卵含有食品に含まれるキサンタンガムによって卵につながりが付与されるものの、該キサンタンガムによって該卵含有食品にべたつきが生じる。また、特許文献2に記載される加工全卵および特許文献3に記載される加熱殺菌液全卵は、ある程度の卵のつながりを有するものの十分ではなく、これらの全卵を用いて得られた卵スープには濁りが生じる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述のように、従来の殺菌液全卵の製造は、生液全卵が有する「つながり」を切断しないように、液全卵をろ過するろ過工程においては、極力ダメージがないよう粗いストレーナーを用いて優しくろ過を行い、また液全卵を殺菌する殺菌工程においては、蛋白質が加熱変性しないように、極力低温にて殺菌するなどの手段を講じていた。
【0012】
これに対し、本発明者は、
ろ過工程において、敢えて目の細かいストレーナーを用いて液全卵の「つながり」を一度切断し、低粘度の液全卵とする工程と、
次いで殺菌工程において、通常の殺菌温度よりも敢えて高温にて殺菌し、加熱変性させることで、一度失われた液全卵の「つながり」を再形成し、生液全卵を超えた「つながり」を有する高粘度の殺菌液全卵を調製する工程を含むことにより、
卵スープに特化して優れた容器詰め殺菌液全卵の製造方法、ならびに当該容器詰め殺菌液全卵を提供できることを見出し、本発明を完成するに至った。
より具体的には、卵スープの製造に用いた場合、卵スープの透明度が高いうえに、厚みに比して表面積が大きい膜状のヒダを有する凝固卵を含有する卵スープを得ることができる容器詰め殺菌液全卵の製造方法、ならびに当該容器詰め殺菌液全卵を提供できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
1.本発明の一態様に係る容器詰め殺菌液全卵の製造方法は、
液全卵を目開き10〜100μmの細かいストレーナーでろ過するろ過工程、および
ろ過した前記液全卵を品温59〜63℃にて殺菌する殺菌工程
を含み、前記殺菌工程により加熱変性させ殺菌液全卵の粘度(20℃)を100〜2000mPa・sに高める。
本発明において「殺菌液全卵」とは、殺菌処理が施された液状全卵のことをいう。
2.上記容器詰め殺菌液全卵の製造方法において、前記殺菌工程は、前記液全卵を容器に密封した状態で行うことができる。
3.上記容器詰め殺菌液全卵の製造方法において、容器詰め殺菌液全卵は、卵スープに用いることができる。
4.本発明の別の一態様に係る容器詰め殺菌液全卵は、粘度(20℃)が100〜2,000mPa・sである容器詰め殺菌液全卵であって、
下記ストレーナー1または2の上に、品温5℃の前記殺菌液全卵を500g流し入れて、3分間放置し自然落下させた際に、流し入れた前記殺菌液全卵に対して前記ストレーナーを通過した前記殺菌液全卵の割合(%)がそれぞれ下記に規定される値であることができる。
目開き1.7mm、内径200mmのストレーナー1を用いた場合の前記割合(割合Aとする)が80%以上。
目開き0.5mm、内径200mmのストレーナー2を用いた場合の前記割合(割合Bとする)が10%以下。
5.上記容器詰め殺菌液全卵において、前記割合Aが80%〜95%であり、かつ、前記割合Bが1.5〜10%であることができる。
6.上記容器詰め殺菌液全卵において、蛋白質の未変性部分が塩可溶性蛋白量比で生全卵の85〜95%であることができる。
【発明の効果】
【0014】
上記容器詰め殺菌液全卵の製造方法によれば、卵スープの製造に用いた場合、卵スープの透明度が高いうえに、厚さに比して表面積が大きい膜状のヒダを有する凝固卵を含有する卵スープを得ることができる。また、上記容器詰め殺菌液全卵によれば、卵スープの製造に用いた場合、卵スープの透明度が高いうえに、厚さに比して表面積が大きい膜状のヒダを有する凝固卵を含有する卵スープを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施形態に係る容器詰め殺菌液全卵およびその製造方法について、以下に詳細に説明する。また、特にことわりのない限り、「部」は質量部を意味し、「%」は質量%を意味する。
【0016】
1.容器詰め殺菌液全卵の製造方法
本発明の一実施形態に係る容器詰め殺菌液全卵の製造方法は、液全卵を目開き10〜100μmの細かいストレーナーでろ過するろ過工程(以下、単に「ろ過工程」ともいう。)、およびろ過した前記液全卵を品温59〜63℃にて殺菌する殺菌工程(以下、単に「殺菌工程」ともいう。)を含み、前記殺菌工程により加熱変性させ殺菌液全卵の粘度(20℃)を100〜2000mPa・sに高める。
【0017】
1.1.ろ過工程
ろ過工程において使用する液全卵は、鶏卵、うずらの卵、あひるの卵などの鳥類一般の卵を割卵して、卵殻を除いて得た卵内溶液をいうが、卵白液と卵黄液との混合の比率が前記卵内溶液の比率に近い限り、若干異なっていてもさしつかえない。液全卵の態様としては、例えば、割卵したままのもの、卵白液と卵黄液を混合したものなどをあげることができる。
【0018】
ろ過工程において用いる目開き10〜100μmのストレーナーは、目の大きさ10〜100μmのものである。内径は特に限定するものではないが、一般的に流通されるものを用いればよい。ここで、使用するストレーナーの目開きが10μm未満である場合、卵が通過するのに多大な時間がかかるため生産効率の低下をもたらすことがあり、得られた殺菌液全卵を用いて卵スープを調製すると、膜状のヒダを有する凝固卵が得られず、卵が細かく分散した卵スープとなる場合がある。一方、目開きが100μmを超えると、得られる殺菌液全卵を卵スープに使用した場合に卵スープ中に凝固卵の塊が生じることがある。好ましくは、ストレーナーは目開き30〜80μmのものを使用する。なお、ろ過工程における液全卵の品温は常温(18〜25℃)である。
【0019】
1.2.殺菌工程
殺菌工程により、液全卵の殺菌を行う。殺菌工程において、品温が59℃未満の殺菌であると、卵に含まれる蛋白質の変性が不十分であるせいか、得られた殺菌液全卵を用いて卵スープを調製すると、膜状のヒダを有する凝固卵が得られず、卵が細かく分散した卵スープとなる場合があり、一方、品温が63℃を超える殺菌であると、卵に含まれる蛋白質の変性度合が大きくなりすぎ、得られた殺菌液全卵を用いて卵スープを調製すると、凝固卵の大きな塊が卵スープ中に生じることがある。厚みに比して表面積が大きい膜状のヒダを有する凝固卵をより確実に生じさせる観点で、殺菌温度は品温が59〜63℃となるよう加熱するのがより好ましく、品温61〜63℃であるのがさらに好ましい。
【0020】
上記品温での殺菌時間は5〜30分間とする。これは、上記殺菌時間が5分間未満であると殺菌が不十分になりやすく、また、30分間を越えても殺菌効果はそれ以上向上せず、作業効率上適さないからである。
【0021】
なお、殺菌時に前記液全卵中に生じる乱流を抑制できる観点で、殺菌工程は、チューブラー式熱交換器を用いる方法や、液全卵を容器に密封した状態で行うことが挙げられるが、中でも液全卵を容器に密封した状態で行うことが好ましい。液全卵を容器に密封した状態で殺菌を行う場合、より具体的には、ろ過工程によってろ過された液全卵を容器に袋詰めして密封した状態で殺菌を行う。このように、液全卵を容器に密封した状態で殺菌を行うことにより、殺菌時における液全卵の乱流が抑制された状態で卵が加熱されるため、卵スープを調製した際に、厚みに比して表面積が大きい膜状のヒダを有する凝固卵が得られる殺菌液全卵を得られやすい。
【0022】
また、密封する工程の後に殺菌工程を行う場合、ろ過した前記液全卵を密封するのに使用する容器の材質は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、塩化ビニル、ナイロンポリ等からなる袋が挙げられる。また、殺菌工程の後に密封する工程を行う場合も、殺菌した液全卵を上記材質からなる容器に密封することができる。
【0023】
なお、殺菌工程において形成された卵のつながりを切断しないように、殺菌工程の後にろ過を行わないことが好ましい。
【0024】
2.容器詰め殺菌液全卵
本発明の一実施形態に係る容器詰め殺菌液全卵は、粘度(20℃)が100〜2,000mPa・sである容器詰め殺菌液全卵であって、下記ストレーナー1または2の上に、品温5℃の前記殺菌液全卵を500g流し入れて、3分間放置して自然落下させた際に、流し入れた前記殺菌液全卵に対してストレーナーを通過した前記殺菌液全卵の割合(%)がそれぞれ下記に規定される値である。
目開き1.7mm、内径200mmのストレーナー1を用いた場合の前記割合(割合Aとする)が80%以上。
目開き0.5mm、内径200mmのストレーナー2を用いた場合の前記割合(割合Bとする)が10%以下。
【0025】
また、本実施形態に係る容器詰め殺菌液全卵では、この殺菌液全卵を使用して卵スープを調製した場合、卵スープ内に凝固卵の塊が生じることおよび卵スープ中に凝固卵が細かく散ることをより確実に抑制できる観点で、割合Aが80%〜95%であり、かつ、割合Bが1.5〜10%であることが好ましい。
【0026】
ここで、「粘度」は、BH型粘度計を用い、回転数:10rpm、ローター:No.2、品温:20℃の測定条件で、2回転後の示度から換算した値であり、「割合A」、「割合B」、および「蛋白質の未変性部分の塩可溶性蛋白量比(対生全卵)」は、以下の方法により測定及び算出された値である。
【0027】
「割合A(またはB)(%)」は以下の要領で算出される。
品温5℃の殺菌液全卵500gをストレーナー1(または2)の上に静かに流し入れて、殺菌液全卵が略均一にストレーナー全体にいきわたるように、ストレーナーをゆっくりと多方向に傾けた後、3分間放置して自然落下させた際に、前記ストレーナーを通過した殺菌液全卵の質量を測定し、以下の式に入れて算出する。
式:[割合A(またはB)(%)]=[ストレーナー1(または2)を通過した殺菌液全卵の質量(g)]/[流し入れた殺菌液全卵の質量(g)]×100
【0028】
「蛋白質の未変性部分の塩可溶性蛋白量比(対生全卵)」は以下の要領で算出される。
殺菌液全卵0.25gを0.3MNaCl溶液に希釈溶解して100mlの希釈溶液を製する。その希釈溶液を15,000rpmで60分間遠心分離し、その上澄みの蛋白濃度をフェノール試薬法(Lowry.らの方法)で測定して、塩可溶性蛋白量を算出する。
次いで、未殺菌液全卵(生全卵)の塩可溶性蛋白量を100%として、殺菌液全卵の塩可溶性蛋白量の割合を算出し、「蛋白質の未変性部分の塩可溶性蛋白量比(対生全卵)」を得る。
【0029】
割合Aが80%未満であると、本実施形態に係る容器詰め殺菌液全卵を使用して卵スープを調製した場合、卵スープ中の凝固卵のヒダが分厚くなりすぎて塊状になることがある。また、割合Bが10%を超えると、本実施形態に係る容器詰め殺菌液全卵を使用して卵スープを調製した場合、卵スープ中に含まれる凝固卵のヒダが厚みに比して表面積が小さいものになり、場合によっては凝固卵のヒダが形成されず卵スープ中に卵が細かく分散する結果、卵スープが濁ることがある。また、本実施形態に係る容器詰め殺菌液全卵は、粘度(20℃)が100〜2,000mPa・s(好ましくは110〜1,800mPa・s)であることにより、本実施形態に係る容器詰め殺菌液全卵を使用して卵スープを調製した場合、卵スープ中に、厚みに比して表面積が大きい膜状のヒダを有する凝固卵が得られ、かつ、透明性が高い卵スープを得ることができる。
【0030】
また、本実施形態に係る容器詰め殺菌液全卵を用いて卵スープを調製した場合に、卵スープ内に凝固卵の塊が生じることおよび卵スープ中に卵が細かく散ることをより確実に抑制できる観点で、容器詰め殺菌液全卵の蛋白質の未変性部分は、塩可溶性蛋白量比で生全卵の85〜95%(好ましくは85〜93%、より好ましくは85〜92.5%)であることが好ましい。
【0031】
本実施形態に係る容器詰め殺菌液全卵はガム質を含有しないのが好ましい。本発明において「ガム質を含有しない」ことは、容器詰殺菌液全卵におけるガム質の含有割合が0.1%未満であることをいう。この場合、ガム質は、容器詰め殺菌液全卵に意図的に配合しない。
【0032】
本実施形態に係る容器詰め殺菌液全卵は、上述の「1.殺菌液全卵の製造方法」の欄に記載された製造方法によって得ることができる。また、本実施形態に係る容器詰め殺菌液全卵は、上述の「1.殺菌液全卵の製造方法」の欄で例示された容器に収容されることができる。
【0033】
なお、本実施形態に係る容器詰め殺菌液全卵は冷凍してもさしつかえない。本実施形態に係る容器詰め殺菌液全卵は、卵スープに好適に使用することができる。本実施形態に係る容器詰め殺菌液全卵を用いた卵スープの調製方法の一例を以下に示す。
150mlのビーカーに100mlのスープを用意し、95℃に温度調整した。このスープをマグネットスターラーでゆっくりと撹拌しながら、殺菌液全卵10mlを5秒間かけて添加し、3分間加熱して卵スープを調製する。
【0034】
また、本実施形態に係る容器詰め殺菌液全卵を、卵スープ以外の通常卵を用いる食品(例えば、厚焼き卵、オムレツ、スクランブルエッグ、とき卵、天ぷらや空揚げなどのバッター液、茶碗蒸し、プリン、スポンジケーキ)に使用してもよい。
【0035】
3.特徴
従来の殺菌液全卵は概して、生液全卵の性質に近づけることが長年の目標とされている。このため、今まで、殺菌液全卵を調製する際に殺菌液全卵に加わるダメージを極力小さくすることにより、得られる殺菌液全卵を生液全卵にできるだけ近い性質を有する殺菌液全卵の開発が行われてきた。
【0036】
例えば、上述の特許文献1の請求項1では、加工液卵と共に加工液卵の重量に基づいて0.7〜2.0重量%のキサンタンガムを含有し且つ25℃における粘度が2500〜9000cpsである加工液卵混合液を、25℃における粘度が1000cpsである調味液中で加熱凝固させることを特徴とする卵含有食品の製造方法が提案され、かかる方法により、卵につながりがある玉子丼用の卵含有食品が得られることが、同段落[0036]に記載されている。
【0037】
また、上述の特許文献2の段落[0012]には、「本発明の目的を損なわないために、卵の『つながり』を壊すような工程はできるだけ避けることが肝要である。」との記載がある。
【0038】
さらに、上述の特許文献3の段落[0005]には、「本発明は、生卵に近い物理的性状をできるだけ保ちつつ、〜(中略)〜袋詰め液全卵を提供することを課題とする。」との記載がある。
【0039】
このように、特許文献1ないし3ではいずれも、得られる液卵の物性を生卵にできるだけ近づけることを意図していると理解できる。
【0040】
これに対して、本実施形態に係る容器詰め殺菌液全卵の製造方法は、卵スープに特化して、生卵を超える物性を得るという特有の作用効果を得ることを目標とするものである。該特有の作用効果は、液全卵にダメージを敢えて与える処理(目開き10〜100μmの細かいストレーナーを用いた濾過処理ならびに品温59〜63℃での殺菌処理)をすることにより達成される。
【0041】
すなわち、本実施形態に係る容器詰め殺菌液全卵を用いて卵スープを調製した場合、卵スープの透明性が高く、かつ、厚みに比して表面積が大きい膜状のヒダを有する凝固卵を含有する卵スープを得ることができ、これは生卵、又は生卵と同等の物性を目標とした従来の殺菌液全卵を用いた場合では得られない卵スープである。
【0042】
4.実施例
以下、本発明を、実施例を用いて具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されない。
【0043】
4.1.実施例1
常法により殻付卵を割卵しタンクに充填した後、目開き60μmのストレーナーで濾過した。次いで、濾過した液全卵をナイロンポリ袋に5kgずつ充填し、品温63℃で15分間殺菌し、実施例1の容器詰め殺菌液全卵を得た。また、この実施例1の容器詰め殺菌液全卵を用いて、以下の方法にて卵スープを調製した。
150mlのビーカーに100mlのスープを用意し、95℃に温度調整した。このスープをマグネットスターラーでゆっくりと撹拌しながら、殺菌液全卵10mlを5秒間かけて添加し、3分間加熱して卵スープを調製した。
【0044】
4.2.実施例2〜4および比較例1〜7
使用するストレーナーの目開きの大きさや殺菌温度等の調製条件を表1に示すものに変更した以外は上記実施例1と同様の条件にて、実施例2〜4および比較例1〜7の容器詰め殺菌液全卵を得た。その結果を表1に示す。なお、表1に示される目開きのストレーナーはそれぞれ、目開き2mmのストレーナー、目開き200μmのストレーナー、目開き100μmのストレーナーである。
【0045】
【表1】

【0046】
なお、比較例3では、液全卵をストレーナーに通過させる代わりに、変圧器に接続した家庭用ミキサーを用いて60V(ボルト)で1分間撹拌を行った。また、比較例6では、液全卵をストレーナーに通過させる代わりに、菜箸を用いて20回撹拌を行った。そして、比較例7では、液全卵をストレーナーへの通過および殺菌工程は行わず、0.2%のキサンタンガムを添加した。
【0047】
なお、表1において、「卵スープの評価」における「凝固卵の外観」、および「スープ」の各評価は以下の通りである。
(凝固卵の外観)
A:厚みに比して表面積が大きい膜状のヒダである。
B:分厚い塊であり、膜状のヒダではない。
C:厚みに比して表面積が小さい膜状である。又は細かく分散して、凝固卵のヒダが形成されない。
(スープ)
A:透明である(目視)。
B:濁っている(目視)。
【0048】
なお、表1において、「粘度」はBH型粘度計を用いて測定された値であり、「(1)の割合A」、「(2)の割合B」、および「蛋白質の未変性部分の塩可溶性蛋白量比(対生全卵)」は、上述の実施形態で記載された方法により測定及び算出された値である。
【0049】
4.3.考察
実施例1の殺菌液全卵を用いて調製された卵スープでは、生全卵を用いて調製されたものと比較して、厚みに対する表面積が大きく存在感のある膜状のヒダの凝固卵が得られた。一方、比較例1の殺菌液全卵を用いて調製された卵スープは、卵スープ中に分厚い凝固卵の塊が生じていた。
【0050】
表1に示されるように、実施例1〜4の殺菌液全卵によれば、卵スープの製造に用いた場合、卵スープの透明度が高いうえ、厚みに比して表面積が大きい膜状のヒダを有する凝固卵を含有する卵スープを得られることが理解できる。一方、比較例1〜7の殺菌液全卵では、卵スープの製造に用いた場合、スープの透明性の高さと、厚みに比して表面積が厚い膜状のヒダを有する卵を含有する卵スープが得られることとを両立できないことが理解できる。
【0051】
比較例7は、キサンタンガムを添加する。比較例7の液全卵を用いて卵スープを調製した場合、得られた卵スープ中の凝固卵を食したところ、食感が悪かった。このことから、比較例7の液全卵は、ガム質特有の粘ちょう性が卵本来の食感を損ねていると推察される。また、比較例7の液全卵を用いて調製された卵スープは分厚い凝固卵の塊が生じてしまいヒダが得られなかった。
【0052】
また、比較例1では、目の大きさが1〜10mmの粗いストレーナーによって濾過を行い、次いで殺菌した後に袋詰めした。比較例1の殺菌液全卵を用いて卵スープを調製した場合、卵スープ中に分厚い塊の凝固卵が生じた。
【0053】
以上、本発明を、実施例を用いて説明してきたが、これまでの各実施例で説明した構成はあくまで一例であり、本発明は、技術思想を逸脱しない範囲内で適宜変更が可能である。また、それぞれの実施例で説明した構成は、互いに矛盾しない限り、組み合わせて用いてもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液全卵を目開き10〜100μmの細かいストレーナーでろ過するろ過工程、および
ろ過した前記液全卵を品温59〜63℃にて殺菌する殺菌工程
を含み、前記殺菌工程により加熱変性させ殺菌液全卵の粘度(20℃)を100〜2000mPa・sに高めることを特徴とする容器詰め殺菌液全卵の製造方法。
【請求項2】
前記殺菌工程は、前記液全卵を容器に密封した状態で行う、請求項1に記載の容器詰め殺菌液全卵の製造方法。
【請求項3】
容器詰め殺菌液全卵が、卵スープ用である請求項1又は2に記載の容器詰め殺菌液全卵の製造方法。
【請求項4】
粘度(20℃)が100〜2,000mPa・sである容器詰め殺菌液全卵であって、
下記ストレーナー1または2の上に、品温5℃の前記殺菌液全卵を500g流し入れて、3分間放置して自然落下させた際に、流し入れた前記殺菌液全卵に対して前記ストレーナーを通過した前記殺菌液全卵の割合(%)がそれぞれ下記に規定される値である、容器詰め殺菌液全卵。
目開き1.7mm、内径200mmのストレーナー1を用いた場合の前記割合(割合Aとする)が80%以上。
目開き0.5mm、内径200mmのストレーナー2を用いた場合の前記割合(割合Bとする)が10%以下。
【請求項5】
前記割合Aが80%〜95%であり、かつ、前記割合Bが1.5〜10%である、請求項4に記載の容器詰め殺菌液全卵。
【請求項6】
蛋白質の未変性部分が塩可溶性蛋白量比で生全卵の85〜95%である、請求項4又は5に記載の容器詰め殺菌液全卵。